タイトル: | 公開特許公報(A)_心臓病及び心不全の治療のためのホスホランバン活性の阻害方法 |
出願番号: | 2007204986 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A61K 48/00,A61P 9/04,A61P 43/00,A61K 35/76,C12N 15/09,C07K 14/47 |
チエン、 ケネス ディルマン、 ウオルフガング ミナミサワ、 スザンヌ ヘー、 フアピン ホシジマ、 マサヒコ メイヤー、 マーカス スコット、 クリストファー ワン、 イビン シルヴァーマン、 グレッグ ジェイ. JP 2008037870 公開特許公報(A) 20080221 2007204986 20070807 心臓病及び心不全の治療のためのホスホランバン活性の阻害方法 ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア 500445295 三好 秀和 100083806 チエン、 ケネス ディルマン、 ウオルフガング ミナミサワ、 スザンヌ ヘー、 フアピン ホシジマ、 マサヒコ メイヤー、 マーカス スコット、 クリストファー ワン、 イビン シルヴァーマン、 グレッグ ジェイ. US 60/106,718 19981102 US 60/145,883 19990727 A61K 48/00 20060101AFI20080125BHJP A61P 9/04 20060101ALI20080125BHJP A61P 43/00 20060101ALI20080125BHJP A61K 35/76 20060101ALI20080125BHJP C12N 15/09 20060101ALN20080125BHJP C07K 14/47 20060101ALN20080125BHJP JPA61K48/00A61P9/04A61P43/00 111A61K35/76C12N15/00 AC07K14/47 4 1 2000579244 19991102 OL 62 4B024 4C084 4C087 4H045 4B024AA01 4B024BA01 4B024CA01 4B024DA02 4B024EA02 4B024FA02 4B024GA11 4C084AA13 4C084MA01 4C084NA13 4C084NA14 4C084ZA372 4C084ZC412 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC83 4C087CA12 4C087MA01 4C087NA14 4C087ZA37 4C087ZC41 4H045AA30 4H045CA40 4H045DA30 4H045EA23 4H045FA74 本出願は、1998年11月2日出願の米国特許仮出願通し番号第60/106,718号及び1999年7月27日出願の米国特許仮出願通し番号第60/145,883号の優先権を主張するものであり、これら2つの出願はその全体が参照してここに組み込まれる。 (技術分野) 本発明は、一般に心不全の治療のための方法、より特定すると心筋機能不全の治療のためのホスホランバン(PLB)活性の阻害に関する。 心不全は米国や他の先進国における罹病率と死亡率とを合わせた主要原因である。うっ血性心不全は心臓の収縮低下と弛緩の遅延を特徴とするが、心うっ血の病態生理学的経路を促進する基礎的な分子機序は大部分が不明である。心臓病の現在の治療は主として緩和的であり、心筋機能不全の発症と進行を導くと考えられる基礎的な生物学的経路を標的としていない。 心筋不全は複雑で統合的な多因子性疾患であり、この疾患においては、感受性を与える遺伝的経路が、心損傷、圧及び容積過負荷を伴う生体力学的ストレスの環境刺激、ならびに細胞骨格成分の遺伝的欠損と織り合わせられている。この生体力学的ストレスに応答して、一連の平行する収束性シグナル伝達経路が活性化され、心代償性肥大という適応反応を導く。その後、生存可能な筋細胞の喪失、収縮要素の減少、筋フィラメントの配列の乱れ及び間質性線維症に結びつく心室拡張と心力不全への移行が起こりうる。 最近、プログラムされた細胞死の開始の引き金となるシグナル伝達経路の活性化が心不全への病的移行を促進すること、ならびにgp130依存性筋細胞生存経路がプロアポトーシス経路の作用を遮断し、心不全や心筋症の早期発症を防ぎうることが示唆された。筋細胞適応のためのこれらの外因性ストレス関連経路に加えて、心臓の興奮収縮(EC)連関の損傷及び心不全表現型の進行の臨床的証明である心収縮力の付随する重大な欠損を導く内因性シグナル伝達経路も存在するはずである。 筋小胞体(SR)は、心臓組織全体にわたって細胞質ゾルCa2+の運動のコーディネーションにおいて欠くことのできない役割を果たす。Mercadierら(J.Clin.Invest.,1990;85:305‐309)、Araiら(Clin.Res.,1993;72:463‐469)、de la Bastieら(Circ.Res.,1990;66:554‐564)、及びFeldmanら(Circ.Res.,1993;73:184‐192)による別々の試験において、ヒトの不全心臓及び心不全の動物モデルに関する研究から、SRによる細胞質ゾルCa2+の取込みの低下がが拡張期弛緩延長の原因であり、SRに貯蔵されたCa2+が細胞質ゾル中に放出されて心筋の収縮を活性化し、その後弛緩を実現するために再び蓄積されることが示唆された。心臓のSR Ca2+ATPアーゼ(SERCA2a)の活性はSRへのCa2+の再取込みの速度決定因子であり、SERCA2a活性自体は、52アミノ酸の筋特異的SRリン蛋白質であるホスホランバンによって調節される。 ホスホランバン(PLB)は、Tadaら(J.Biol.Chem.1974;249:6174‐6180)による研究においてSR膜における主要なリン酸化標的として初めて同定され、その非リン酸化形態ではSERCA2a活性の強力な阻害因子であると思われた。SERCA2aへのPLBの阻害作用は、細胞内カルシウムの増加によって、あるいはβ‐アデレナリン作動性刺激に応答したPLBのリン酸化によって低下する。PLBは主として五量体の形態で存在し、高温に供すると、5個の等しいモノマーに解離する。 モノマーPLBのアミノ酸は3つの物理的及び機能的ドメインに分けられる。Ia及びIIドメインはα‐らせんに富み、より構造化されていないIbドメインに接続している。Iaドメインはアミノ酸1‐20から成り、その大部分がα‐らせんコンフォメーションであって、実効正電荷を持つ。Ibドメインはアミノ酸残基21‐30から成り、モノマーの細胞質セクターを構成する。IIドメインのアミノ酸31‐52は膜貫通セクターであり、五量体構造を安定化させる役割を担う非荷電残基だけでできている。 PLBはcAMPカスケードを通してのカテコールアミンによる心筋機能調節におけるメディエイターである。IaドメインのSer(16)とThr(17)は、それぞれcAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)及びCa/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼの結合部位であり、PLBのホスホエステルリン酸化を触媒するように機能し、それが今度はSERCA2a活性へのその阻害を軽減することが確認されている。Ser(16)とThr(17)はキナーゼによってリン酸化されうるので、アミノ酸の実効電荷は正から中性へ、さらには負へと移動しうる。SERCA2aの荷電残基と共に、PLBのIaドメインにおける電荷の移動はPLB‐SERCA2a系の蛋白質‐蛋白質相互作用の大きな変化をもたらしうる。IIドメインはまた、IIドメインのらせんの1つの面のアミノ酸がSERCA2aの膜貫通ドメインと結合しているという点で、PLBの機能的発現のための鍵となるいくつかのアミノ酸も含んでいる。 PLBがCa2+‐ATPアーゼ活性を調節する方法は2つあると考えられる:1)PLBのリン酸化とカルシウムポンプ活性の抑制を含む速効性の短期的機序、及び2)遺伝子発現の制御によってもたらされるCa2+‐ATPアーゼに対するPLBの分子比の変化を含む、遅効性であるが長期的なプロセス。生理的条件下で、PKAによるSer(16)のリン酸化は、SRへのCa2+取込み速度の比例的上昇を導き、心室弛緩を促進する主要事象である。SERCA2aに対するPLBの相対的比率の上昇は、実験的及びヒトでの心不全の両方においてSR機能不全の重要な決定因子である。さらに、PKAによるPLBリン酸化の低下は、弛緩機能の損傷、及びβ‐アドレナリン作動性レセプタ‐cAMP系が交感神経緊張の上昇によって大きく下方調節される、不全心臓における延長されたCa2+一過性貯留の原因であると考えられる。 Toyofukuら(J.Biol.Chem.1994;269:3088‐3094)による詳細な突然変異誘発研究は、PLBの細胞質ドメインのいくつかのアミノ酸がその阻害機能にとって重要であることを明らかにした。この研究は、一部のアミノ酸を異なる電荷のアミノ酸に変異させたとき、PLB突然変異体はHEK293細胞においてコトランスフェクションしたSERCA2aへの阻害作用を喪失することを示した。しかし、これらの突然変異体を担うPLBが内因性の野生型PLBに優勢な負の作用を及ぼし、その結果として心筋細胞において内因性SERCA2aを刺激しうるのかどうかはまだ不明である。さらに、これらのPLBの点突然変異の心筋細胞への移動機序が、内因性SERCA2a活性を生じさせるためにどのようにして細胞質膜関門を越えるのかは不明である。 Arberら(Cell,88:393‐403;1997)による拡張型心筋症の遺伝に基づくマウスモデルは、心室拡張と心不全の進行が心筋小胞体における特異的なCa2+循環欠損に依存することの証拠を提供する。マウスモデルでは、ホスホランバン(PLB)の遮断は、心不全に類似した構造的、機能的及び分子表現型のスペクトルを回復した。さらに、PLB点突然変異のインビボでの強制過剰発現を通してのホスホランバン‐SERCA2a相互作用の解除は、主として心室筋細胞の収縮能を活性化した。従って、PLB‐SERCA2a相互作用に干渉することは、心不全を予防するための新しい治療アプローチを提供する可能性がある。 PLB‐SERCA2a相互作用に干渉することは心不全の治療のための潜在的治療標的になりうるという理解が存在するが、生存筋細胞による心筋収縮能を高めるための外因性分子のインターナリゼーションはまだ解決されていない問題である。治療薬を心筋細胞の細胞質と核に直接供給送達するための手段が提供されねばならない。トランスロケーション特性を備えたペプチドのクラスであるペネトラチンは、形質膜を横切って親水性化合物を運搬する能力を持つ。Schwarzeら(Science 285:1569‐1572;1999)による研究は、変性HIV TAT蛋白質(Genebankアクセス番号AF033819)からのNH2末端の11アミノ酸蛋白質形質導入ドメインを含むペネトラチンベースの融合蛋白質を用いた蛋白質形質導入へのアプローチを明らかにした。この非細胞型特異的移入系を使用すると、オリゴペプチド及びオリゴヌクレオチドを細胞質と核とに直接標的化することが可能になる。最もよく特徴づけられているトランスロケーションペプチドのひとつが、アンテナペディアの残基43〜58に対応するペプチド、ショウジョウバエ(Drosophila)転写因子である。トランスロケーションペプチドは細胞膜の外側で荷電リン脂質と相互作用すると考えられている。二重層の不安定化は、細胞膜を横切り、場合によって細胞質側に開口するペプチドを含む逆ミセルの形成をもたらす。カーゴ分子を細胞内に移動させる輸送ペプチドの使用は新規ではないが、輸送ペプチドが心筋細胞において良好に働くことは明らかにされていなかった。 それ故、心筋細胞におけるPLB/SERCA2a相互作用を操作するために、PLBの突然変異体または小分子阻害因子の使用を通してPLBを阻害する方法、ならびに心臓病や心不全の治療のために、PLBのこれらの突然変異体又は小分子阻害因子を、筋小胞体膜関門を横切って心筋細胞の細胞質内に輸送する手段が求められている。本発明はこれらの必要を満たし、それに伴う利益も提供する。 (発明の概要) 心組織におけるCa2+取込みへのホスホランバンの作用を阻害することによって心不全の治療のための方法を提供することが本発明の利点である。 心筋細胞内でのホスホランバンと筋小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA2a)の相互作用を阻害することにより、不全心臓における収縮能を高め、高血圧症を有する個人において血圧を低下させるように機能する、小ペプチド複合体と組換え蛋白質の両方を提供することが本発明のもうひとつの利点である。 野生型、突然変異体、又はトランケートされたPLBに共有結合した輸送ペプチドから成る化合物のファミリーを提供することが本発明のさらにもうひとつの利点である。 本発明の最初の実施態様では、PLBとSERCA2aの正常な抑制相互作用を選択的に中断し、主として心筋収縮能を活性化させる能力を持つ野生型又は突然変異形態のPLBの発現を促進する組換えアデノウイルスを構築する。 本発明の第二の実施態様では、PLBの組換えアデノウイルス突然変異体(K3E/R14E)であるコントラクチリンをホスホランバンに結合して、リン酸化を模倣させる。これは筋小胞体のカルシウムポンプの活性化を導き、従って心筋収縮能を上昇させる。 本発明の3番目の実施態様では、1)16残基の輸送ペプチドと2)トランケートされたホスホランバン蛋白質又は同様のペプチドの融合から成る化合物を、レセプタ非依存的に細胞膜を横切って輸送する。ひとたび心筋細胞の細胞質内に入ると、トランケートされたホスホランバン又は同様のペプチドは内因性ホスホランバンのSERCA2aとの相互作用の競合的阻害因子として働く。 (好ましい実施形態の詳細な説明) Ca2+サイクルの欠陥が心不全への移行(transition)に果たす役割を直接的に評価するために、筋肉特異的LIMタンパク質(MLP)欠損マウスの心筋症を、PLBをコードする遺伝子を除去することにより逆転できる。MLPの無くなったマウスは、多くのヒト拡張型心筋症の表現型特性を、分子、細胞、および生理学的レベルで示す。末期拡張型心筋症の均一な特性は、心臓壁応力の顕著な増加であり、これに伴って心房心室壁が薄くなり、心収縮性および弛緩の低下も伴う。カルシウムサイクルは、心弛緩および収縮性の両方に重要であり、筋小胞体からのカルシウムの取込みおよび放出を制御する経路の欠陥は、心不全の進行を駆動する主要な候補である。 MLPの欠損に加えて、PLBの欠損したマウスの創製は、MLP単一ノックアウト(MLPKO)マウスに通常見られる、全てのヒト心不全の表現型特徴からの回復を示す。MLPKOマウスにおけるPLB切除に関連した機能的利点は、特に、PLBとSERCA2aの間の直接的相互作用の欠失を反映するかを決定するために、本発明の出願人は、PLBとSERCA2aの間の機能的阻害相互作用を妨害する、PLB遺伝子の点変異を操作した。PLBに点変異をコードする組換えアデノウイルスの創製により、心不全における興奮−収縮共役の進行的欠陥は、PLBによるSERCA2aの阻害の増強に関連し、心肥大症トランスジェニックモデルの設定への、ホスホランバン欠損症の導入により、心機能は回復されることが示される。これらの結果は、SERCA2aの心特異的過剰発現を指示する導入遺伝子を有するMLP欠損マウスも、心筋症表現型の回復を示すという事実により独立的に支持される。合わせて考慮すると、これらの結果により、筋小胞体カルシウムサイクルは、心不全の進行に重要であり、心不全の進行において、PLBがSERCA2a活性の阻害において重要な調節的役割を示す明白な証拠が提供される。よって、これはPLBが、鍵となる治療標的である可能性を指摘する。 MLP−PLBノックアウト(DKO)マウスのさらなる研究により、心筋症変異の設定でPLB欠損を誘導することにより、最大の心収縮能の刺激が得られ得る。基底レベルでのDKO心臓の収縮性は、最大β−アドレナリン作用性刺激後に、野生型心臓の収縮性と同程度であった。この結果により、SRカルシムポンプ機能のPLBによる持続性阻害を取り除いた後、心筋症心臓の心収縮機能に関して、本質的に「この上ない回復」が得られることが示唆される。PLBは、サイクリックAMP依存性プロテインキナーゼAおよびカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼの両方によるリン酸化の直接的な基質であるので、cAMP依存性刺激による心収縮性の調節は、PLBのリン酸化を介して起こり得、次いでこれは、SERCA2aとの阻害性相互作用を防ぐ。 PLBのリン酸化の背景にある理論によると、心筋症MLP欠損マウスの、PLB欠損の設定での極めて普通のレベルへの「この上ない回復」は、心収縮性の持続性阻害における律速段階の除去を単に反映し得る。この理論に一致して、Rockman等(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:7000〜7005:1998)による研究は、MLP欠損マウスにおけるβ−アドレナリン作用性脱感作の軽減もまた、拡張型心筋症表現型をかなり回復し得ることを実証した。PLBは少なくとも3つの調節成分(cAMP依存性プロテインキナーゼ、カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ、およびプロテインホスファターゼ)と相互作用するSRタンパク質であるので、心収縮能向上に対するPLB欠如の主な効果は、PLBとSERCA2aの慢性的相互作用を反映するのか、或いは、この救済効果は、PLBと他の既知または新規な心タンパク質との相互作用に関連するのかを決定すべきである。 野生型および変異形のPLBの発現を強制する組換えアデノウイルスを使用して、本発明は、PLBとSERCA2aの間の正常な阻害性相互作用を選択的に妨害でき、カテコールアミンの非存在下で心室筋細胞の心収縮性を主に活性化できる、PLBの点変異体を提供する。図1は、DKOマウスで観察された回復効果に関与する機序の概略を示す。PLBおよびMLPの両方が、筋肉特異的タンパク質であり、従って、筋細胞生存経路を促進または抑制する外因性応力シグナルではなく、表現型の進行および回復に必要な筋肉細胞自律経路が存在するに違いない。PLBとMLPは、タンパク質レベルで直接的に相互作用しないので、回復の基礎としてのPLBとMLPの間の直接的相互作用は排除されるので、PLB調節経路を、拡張型心筋症の発症に連関させる、生化学的調節経路ではなく、生理学的調節経路が存在するに違いない。図1に示したように、正常な心臓では、SR−カルシウム貯蔵は、SERCA2aの活性を通じて維持され、これにより、カルシウムがSRに取り込まれ、その結果、正常な心臓弛緩が維持され、壁応力が減少する。続いて、カルシウム放出チャネルを介する、SRのカルシウム放出により、正常な素量的なカルシウム放出が起こり、その結果、心筋フィラメントが活性化され、心筋収縮に至る。従って、SRにCa2+含量が増強されることにより、Ca2+の放出が増強され、これに対応して心筋収縮性が増加する。 SERCA2aの活性は、PLBとSERCA2aの直接的相互作用の阻害効果により調節され、これは、β−アドレナリン作動性刺激の送達後に、PLBのcAMP依存性リン酸化により軽減され得る。心不全の設定において、鈍いβ−アドレナリン作動性応答により生じるPLBの阻害性効果のために、SERCA2aの機能は相対的に減少している。結果として、PLBのリン酸化度は減少し、PLBとの慢性的な相互作用を介して、SERCA2aは構成的に阻害され、正常レベルに比べて、SRカルシウム含量は相対的に減少する。このカルシウム貯蔵の減少は、カルシウム放出チャネルを介した、カルシウムの量的放出の減少を引き起こし、その結果、単一細胞カルシウム過渡応答およびインビボでの心収縮性は減少する。DKOマウスでは、PLBの阻害効果は、図1に示されるように除去されており、よって、SRカルシウムポンプに対するPLBの下流阻害効果から系は解放され、その結果、SRカルシウム取込みは維持され、正常レベルへと壁応力は減少する。同時に、このSRカルシウム含量の増加により、正常なカルシウム素量的放出は維持され、これにより、正常な収縮性および弛緩が維持される。筋肉特異的LIMタンパク質ノックアウトおよび二重ノックアウトマウス 本発明の試験は、2つの独立的な筋肉特異的遺伝子のホモ接合型切除を有する、二重ノックアウト(DKO)マウスモデルを使用して実施した。この戦略のために、PLBノックアウト(PLBKO)マウスを、拡張型心筋症の複雑なインビボでの心不全表現型の、分子的、構造的および生理学的特性を有する、MLPノックアウト(MLPKO)マウスと交配する。これらのマウスのF3世代を、実際の実験に使用して、PLBKOまたはMLPKO系の、観察されたDKO系の心表現型に対する全てのあり得るバックグラウンド効果を排除する。 MLPKOマウス(6.34±0.22mg/g、n=8)は、年齢および性の一致した野生型マウス(4.60±0.21mg/g、n=7;p<0.001)と比べて、心臓/体重比の顕著な増加を示す。DKOマウス(5.13±0.19mg/g、n=9)での心臓/体重比は、MLPKOマウスよりも有意に小さく(p<0.01)、野生型と統計学的差異はない。DKOマウスの心臓重量減少が、MLPKOマウスで観察された破壊された細胞骨格表現型の回復に関連しているかを評価するために、電子顕微鏡解析を、MLPKOおよびDKO同腹仔の心臓で実施する。MLP−/−の背景におけるPLBの切除は、筋原繊維錯綜配列および塊状の繊維化巣を含む、MLP欠損心臓に元来観察された、広範囲の非構造的欠陥を回復する。これらのデータにより、PLBの切除は、全心臓塊の増加を防ぐだけでなく、MLPKO心筋症マウスの心筋細胞再構築の組織破壊および繊維症を防ぐことが示唆される。 インビボの全体的な心機能に観察された顕著な低下が、DKOマウスで回復されるかを評価するために、心エコー図法を、年齢の一致した同腹仔を用いて実施する。表1に記述したように、心室拡張予防が、DKOマウスで確認される。MLPKOマウスは、肥大した心房心室を有し、これは、左心室拡張終末期径(LVEDD)および収縮終末期径(LVESD)の増加により判明し、一方、DKOマウスは、正常範囲のLVEDDを有する。短縮率の比率(FS%)および外周繊維短縮平均速度(平均Vct)(収縮期心機能の指標である)は、表1に示したように、年齢の一致したDKO同腹仔で向上する。対照として同腹仔ではない野生型マウスと比較すると、DKOマウスの大半の心エコー図データは、野生型マウスと類似しているが、FS%は、DKOマウスでは僅かに減少している。さらに、DKOマウスの心機能は、6ヶ月令を超えても正常な範囲に維持されている(n=2)。心房心室拡張の減少にも関わらず、DKO心臓にはいくらかの肥大があるようである。LVEDDとLV後壁の厚さの比は、DKOマウスでは顕著に減少し、こは、DKOマウスの壁応力が、MLKPOまたは野生型マウスに比較して減少していることを示す。これらの結果は、DKOマウスの全体的な心機能が、対照心臓のパラメータと同程度の範囲で保存されていることを示す。PLB欠損についてヘテロ接合型であるマウスは、MLKPOおよびDKOマウスに比べて、中間の機能的回復レベルを示し、これは、PLBの部分的切除により、MLPKOマウスにおいて、心不全表現型がかなり機能的に改善され得ることを示唆する。 MLPKOマウスは、β−アドレナリン作動性応答の顕著な鈍化およびアデニル酸シクラーゼ活性の減少を示した。マウスにおける相同的組換えによるPLBの切除により、心収縮能は、正常心臓の最大β−アドレナリン作動性刺激によるレベルと同等なレベルまで増大し得る。PLBの切除は、拡張型心筋症に関連した、血行動態欠陥および顕著なβ−アドレナリン受容体脱感作を逆転し得ることを確認するために、麻酔したマウスに心カテーテルを適用し、評価する。 数個の独立的な血行動態パラメータが、DKOマウスにおける、循環鬱血を伴う重度の心機能不全の、正常なレベルへの回復を実証する。基線でのLV収縮性(LVdP/dtmaxにより評価)およびLV弛緩(LVdP/dtminにより評価)は、図2aおよび2bに示したように、野生型マウスよりも高いようであり、PLBKOマウスと同等である。PLBの切除により、図2cに見られるように、MLPKO心筋症マウスに観察された顕著に上昇したLV拡張終末期圧は逆転する。 図2dの解析は、Tau(LV弛緩および収縮機能の指標である)もまた、DKOマウスで基準化され、これは壁応力の向上と一致する。これらのデータにより、PLBの切除は、心筋症MLPKOマウスにおける、収縮期および拡張期の両方の機能不全を回復できることが示唆される。β−アドレナリン作動性刺激に対するLVdP/dtmaxおよびLVdP/dtminの鈍い応答が、図2eおよび2fに示されるように、MLPKOマウスで観察され、MLPKOマウスに重篤なβ−アドレナリン脱感作が存在することを示す。DKOマウスでは、ドブタミンにより、心収縮性(LVdP/dtmax)および弛緩(LVdP/dtmin)は全く刺激されず、これは図2eおよび2fに再度示されている。これらのパラメータは、DKO心臓において基底条件下で、その最大レベルにまですでに刺激されている。 ドブタミンによる野生型心臓の最大刺激後に、LVdP/dtmaxおよびLVdP/dtminは、任意のカテコールアミン刺激の非存在下で、DKOマウスにおけるこれらのパラメータと識別不可能である。この証拠は、PLBとSERCA2aの相互作用は、正常および心筋症心臓の両方において心収縮性を抑制し、よって、この相互作用を阻害すれば、任意のカテコールアミン刺激の非存在下で心機能を最大化する上で主な効果を奏効し得ることを確認する。図2hは、ドブタミンに対する変時性応答は、DKOマウスおよびMLPKOマウスの両方において保存され、よって、ペースメーカー細胞型に対する心筋細胞へのβ−アドレナリン性応答の特異性が実証される。 DKOマウスにおけるインビボでの心機能の回復に関与する機序を決定するために、Ca2+シグナル伝達の数個の独立的なパラメータを評価する。DKOマウスにおける変化したCa2+ホメオスタシスが、血行動態変化、細胞内Ca2+過渡応答およびSRのCa2+サイクルに関連したタンパク質の発現をもたらすことは明らかである。MLPKO筋細胞は、図3a〜cに示されるように、正常レベルの拡張期Ca2+濃度を有し、振幅の減弱されたCa2+過渡応答を示す。崩壊速度は、MLPKOマウスにおいて僅かに加速され、これにより代償機序が、MLPKOマウスのCa2+取込みの終了中に作動する。PLBの切除は、Ca2+過渡応答の期間が短いこと、崩壊が速いこと、および振幅が保存されていることに関連する。図3dは、SRのCa2+含量は、野生型マウスと比べて、MLPKOマウスで有意に減少し、DKOマウスで増加していることを示す。図3eに示した定量的イムノブロットにより、MLP欠損は、SERCA2a、PLBおよびカルセケストリンのタンパク質レベルの有意な変化に関連しないことが判明し、これは、MLPKOマウスのCa2+サイクルの欠陥は、SERCA2aまたはホスホランバンのタンパク質レベルの減少を単に反映するのではなく、ECカップリングの機能的障害に基づくものであることが示唆される。 心不全の特徴的特性の1つは、胚遺伝子プログラムの再活性化であり、これは、血行動態負荷の増加に対する代償性応答に寄与し得る。DKOマウスでの血行動態の改善が、転写レベルでの変化の回復を伴うかを確認するために、ANF、α−骨格アクチン、およびβ−MHCmRNA(心不全の十分に確立された胚マーカーである)の発現を調べる。図4aおよび4bに示されるように、MLPKOマウスの心室は、26倍のANFの増加、13倍のα−骨格アクチンの増加、および8倍のβ−MHC mRNAの増強を示す。DKOマウスは、僅か1.9倍のANFの増加を示し、α−骨格アクチンまたはβ−MHC mRNAは有意に増加しない。従って、PLBの切除は、主に、MLPKOマウスの胚遺伝子プログラムの誘導を抑制する。 前記の研究により、PLBの切除は、心収縮性における心不全および関連した欠陥の独立的パラメータを回復する。回復効果の機序を規定するために、PLBとSERCA2aの慢性的相互作用が、事実、正常および心筋症心臓の両方において心収縮性に律速であるかを評価することが必要である。DKOマウスの基底心機能の、最大カテコールアミン刺激後の野生型マウスのものと同等のレベルへの「この上ない回復」により、この相互作用の阻害は、任意のカテコールアミン刺激の非存在下で、心機能を最大化する上で主な効果を奏効し得ることが示唆される。 PLBの組換えアデノウイルス導入遺伝子変異体 PLBの特定のアミノ酸残基が、SERCA2aに対するその阻害効果を維持するのに必要であるという知識を使用して、PLBの数個の単一の点変異、V49A(配列番号2)、E2A(配列番号3)、R14E(配列番号4)、S16N(配列番号5)、PLBの二重点変異、K3E/R14E(配列番号6)およびセンスおよびアンチセンスPLB(配列番号1)導入遺伝子を、SERCA2aに対するPLBの阻害効果を破壊するために操作できる。インビボでのネズミ心遺伝子導入のための組換えアデノウイルスを使用すると、PLBの単一点変異の1つである、V49Aを過剰発現する筋細胞は、収縮性の増加を示すが、野生型PLBを過剰発現する筋細胞は、非感染筋細胞に比べて、収縮性の減少を示し、これは図5に実証されている。SERCA2aとPLBの間の相互作用の妨害の実行可能性および有用性は、明確に実証されていると結論づけることができる。PLB−SERCA2aの相互作用は、インビボでの基底心収縮性および弛緩の設定値を確立するための律速段階のようであり、よってこの相互作用の崩壊は、β−アドレナリン性経路を短絡化し得る。 モノクローナルPLB抗体(アフィニティーバイオリージェンツ)に対する、センスPLB(sPLB)、アンチセンスPLB(asPLB)、E2A、R14E、S16N、およびK3E/R14Eを発現しているアデノウイルス導入遺伝子を含む筋細胞の追加的なウェスタンブロット解析を、図6aに示す。添加のばらつきのためにα−アクチンに基準化し、導入遺伝子を欠くアデノウイルス/SR対照と比較した、PLBタンパク質含量の定量化により、sPLB、E2A、およびR14E変異体は、PLBタンパク質レベルを、150%(PLB5+PLB1)、72%および57%それぞれ増加することが示される。これに対し、asPLBおよびS16Nは、筋細胞内のPLBタンパク質含量を54%および33%減少させる。K3E/R14E導入遺伝子により関連された筋細胞の導入により、異なるパターンの五量体PLBが形成される。PLB5(五量体)に加えて、複数のPLBバンドが出現する。これは、対照と比較して、量の少ないPLB5を伴う。 ウェスタンブロットバンドパターンの性質をさらに、心筋細胞の代わりに、PLB欠損Sol8細胞に置換することにより評価する。Sol8細胞を、導入遺伝子sPLBまたはK3E/R14E単独または組合せを発現している、組換えアデノウイルスで感染させる。図6bに見られるように、ウェスタンブロットにより、モノクローナルPLB抗体は、sPLBにより感染された細胞中のPLBは検出するが、K3E/R14Eは検出できないことが示される。Sol8細胞を、アデノウイルス導入遺伝子の組合せで感染させると、複数のPLBバンドが形成される。さらに、PLB五量体は、上のバンドが出現すると同時に量が減少する。PLBは、非阻害性五量体との平衡で存在する、単量体として、SERCA2aと相互作用しそれを主に阻害することは十分に確立されている。この知識に基づき、K3E/R14Eおよび野生型PLBのヘテロ五量体は、野生型PLBのホモ五量体よりも安定であろう。それ故、ヘテロ五量体の単量体への解離(これによりSERCA2aは阻害される)は、好ましくない。K3E/R14Eは、内因性PLBと相互作用し、かかる複合体を形成し、ホモ五量体形成の減少を伴う。同じように、単量体K3E/R14Eは、SERCA2a−PLB相互作用部位を遮断することにより、内因性野生型PLBの非阻害性競合物質として作用し得る。 変異体およびアンチセンスPLBの、SERCA2aに対する効果はさらに、SRカルシウム取込み活性の決定により評価する。様々なCa2+濃度で測定したSRによるCa2+取込みの初期速度は、SERCA2aの活性を反映する。図7に示したように、組換えアデノウイルス導入遺伝子K3E/R14EおよびasPLBで感染させた新生仔ラット筋細胞は、導入遺伝子を含まない対照と比較して、同じ活性のために、SERCA2aにより必要とされるCa2+濃度の減少を示し、これは、SERCA2a活性の刺激を示す。取込み活性が最大の半分である、Ca2+濃度のEC50は、(μmol/L)、導入遺伝子を含まない対照(SR−)については、0.20±0.02であり、K3E/R14Eについては0.11±0.01であり、asPLBについては0.13±0.01である。K2E/R14EおよびasPLBのSERCA2aに対する効果も、成体ラット筋細胞で調べる。アデノウイルス導入遺伝子K3E/R14Eは、EC50を有意(36%)に減少させるが、asPLB感染の結果としての変化は、統計的有意性の範囲内ではない。新生仔と成体心筋細胞の間の効果のこの見かけの矛盾はおそらく、異なる発達段階での筋細胞におけるPLBの量の違いに関連するのだろう。PLBは、成体において、新生仔心筋のほぼ2倍である。 K3E/R14EおよびasPLBのSERCA2aに対する効果をさらに調べるために、新生仔筋細胞での細胞内Ca2+過渡応答を、indo1蛍光指示薬を使用して測定する。各実験条件から得られたindo1比率計量的データを、それぞれ最大および最小の各収縮性Ca2+過渡応答に基準化し、次いで整列させ平均化する。図8に示したように、K3E/R14EおよびasPLBの崩壊曲線を、LacZ対照の左に配置する。さらに、ほとんどの拡張期時点で、K3E/R14Eは、LacZとは有意に異なり、一方、数個の拡張期時点で、asPLBもまたLacZとは有意に異なる。LacZ、K3E/R14E、およびasPLBの崩壊の半減期(RT50)は、0.28秒(100%)、0.20秒(73%)、および0.22秒(79%)とそれぞれ決定される。K3E/R14E(73%)およびasPLB(79%)の数値は、ウイルス発現LacZから得られた数値とは有意に異なる(p<0.05)。 様々なPLBの点変異、またはPLBのセンスまたはアンチセンス配列を使用して、アデノウイルス導入遺伝子を作成するのに加えて、PLBペプチドに対して産生れ、従ってRNAとして発現された抗体も、アデノウイルスベクターに挿入できる。ポリクローナルPLB抗体(「コントラクチリン」、すなわち機能亢進領域をもつニワトリ抗体ペプチド)を産生するために、ニワトリを、細胞質ドメインのアミノ酸3〜19を示すPLBペプチドを用いて繰返し免疫化する。15、42および54日目に投与した、3回のブースター免疫化後、全IgYを、市販で入手できる精製システム(EGGstractIgY精製システム−プロメガ)を使用して、卵黄から精製する。陽性免疫応答が確認されると、脾臓および骨髄からリンパ球を収集する。抗体の軽鎖および重鎖の両方からの超可変領域の形のRNAが、これらの細胞から得られ、RT−PCRにより増幅し、その方法は公知である。 次いで、増幅され精製された超可変領域RNAを、単一cDNA(配列番号9)に融合させ、続いて、ファージ表面タンパク質をコードする、プラスミドベクターにフレーム内にクローン化する。標準的なプラークディスプレイ技術を使用して、ニワトリの免疫ライブラリーを発現するファージを、PLBペプチドに対する陽性応答により選択する。PLBに特異的に結合するファージの一連の濃厚化の後、20のクローンをELISA用に選択する。次いで、得られた5つの最善の結合物質を、放射性Ca2+輸送アッセイを使用して解析する。2つの最善のSRCa2+輸送の活性化物質をさらに解析する。両方のクローンが、Ca2+のSRへの輸送速度を劇的に刺激することが判明する。 コントラクチリン(PLB抗体)より生成された組換え体タンパク質が、生細胞内でも機能できることを示すために、コントラクチリンを発現しているアデノウイルスベクターを構築した。アデノウイルス導入遺伝子を感染させた新生児および成体ラット心筋細胞のウエスタンブロット解析によって、コントラクチリンが心臓細胞で発現されうることが示されている。放射活性Ca2+輸送解析により、変異体およびアンチセンスPLBの場合、コントラクチリンが細胞質Ca2+除去を加速することが示されている。 相補的アプローチにおいては、アデノウイルストランスフェクションよりもプラスミドトランスフェクションを遺伝子デリバリーのために使用した。一緒にトランスフェクトした緑色蛍光タンパク質によってモニタしたように、K3E/R14E−およびasPLB−トランスフェクト筋細胞は、アデノウイルスベクターをトランスフェクトした細胞と比較して、それぞれRT50の43%(p<0.05)および9%(p<0.1)の減少を示した。したがってアデノウイルスまたは共トランスフェクション技術のどちらかによる心筋細胞へのK3E/R14EおよびasPLBの導入は、拡張期Ca2+過渡応答の持続時間を減少させる。これらの結果は、Ca2+過渡応答の変化が、PLBの除去がCa2+過渡応答期間の短縮、よりはやい減衰、および振幅の保持に関連することを確かにするDKOマウス対MLPKOマウスの発見を反映していると考えられた。一緒に考えると、これらのデータは、K3E/R14EおよびasPLBはSERCA2a活性を刺激し、結果として筋細胞でのよりはやいCa2+過渡応答となることを確かにする。 PLB変異体の結果としてのSERCA2a活性の増強およびCa2+過渡応答の加速が収縮期動作の変化をもたらすかどうかを決定するために、エッジ検出を使用し、筋細胞収縮性を解析した。成体ウサギ筋細胞にLacZ、K3E/R14EまたはasPLBのアデノウイルス導入遺伝子を感染させた。3日間のインキュベーション期間の後、異なる群間で自発的収縮細胞の数には有意な違いがある(LacZ<<asPLB<K3E/R14E)。表2は筋細胞収縮性におけるK3E/R14EおよびasPLBの効果を提供する。表に示したように、LacZ対照と比較すると、K3E/R14Eは74%まで分別短縮を増加させ、RT50での25%減少および+dL/dtでの115%増加も同時に起こる。asPLB感染の後に筋細胞収縮性を試験した場合、筋細胞の分別短縮は57%まで有意に増加する一方、RT50および+dL/dtの変化は有意でないことが明らかになっている。 得られたデータは、SERCA2a活性の増加が、筋細胞の弛緩の加速に転換されることを示している。K3E/R14E感染筋細胞は分別短縮の上昇を示し、このことはSERCA2a活性の増強によるCa2+のSR負荷における増加を示している。さらにK3E/R14E感染はCa2+のSR負荷の増加による振動Ca2+量の増加にほとんど関連していると考えられる減少である、自発的収縮筋細胞の数を増加させる。共に考えると、これらのデータは、K3E/R14Eは、SERCA2aのその抑制を有意に減少させる方法にて内因性野生型PLBに影響を与え、したがって野生型PLB上の顕著な抑制効果を持つことを示している。 PLB活性の抑制に対するペプチドに基づいた治療 さらにまた、本発明は、PLB機能が変異体PLB分子で内因性PLBを圧倒することによるドミナントネガティブ様式で抑制されることができ、この抑制は心不全での機能の改善を導くという発見に基づいて、ホスホランバン活性の抑制に関するペプチドに基づいた治療およびそのような治療に関するデリバリー方法を提供する。 標的細胞系に影響を与えるためのPLB−SERCA2a相互作用の抑制剤のような治療薬剤に関して、細胞膜を介した細胞室内への内在化の方法を持たなければならない。前記抑制剤のデリバリーの方法は、PLBペプチドに基づいた輸送または浸潤のどちらかの方法であってよく、またはアデノウイルスまたは脂質小胞に基づいた輸送を含んでもよい。この目的のために、輸送ペプチドおよびPLBタンパク質分子の融合体からなる化合物を構築した。輸送ペプチドはアンテナペディアに対する配列からの16残基、ショウジョウバエ転写因子タンパク質を含む。前記複合体の第二のペプチドは、PLBタンパク質の切断配列であり得る。さらなる治療利益は、天然のPLBタンパク質およびPLBタンパク質の変異体または切断型に相当するペプチドを用いて行い得る。 輸送ペプチド−PLB複合体の1つの有益な機能は、心筋細胞内でのPLBとSERCA2aとの間の相互作用の抑制であり、結果として疾患心臓における収縮性を増大する。本発明はまた、結果として血管拡張および血圧の低下となるであろう循環系の動脈/細動脈を取り巻く平滑筋層内でのPLBのSERCA2aとの相互作用も抑制する可能性がある。したがって、心疾患の治療において二重の利点があり、第一は心不全での心臓収縮性の増強であり、他は高血圧の個人における血圧の低下である。また、神経組織でのSERCA1−PLB相互作用のような、他の細胞型のSERCAタンパク質とのPLB相互作用の阻害も予想される。 前記分子の心臓に流れ込む血流中への導入は、冠動脈に局在させたカテーテルを用いて行うのがもっともよい。前記分子が心筋細胞を囲む細胞外環境中にある場合、すばやく心筋内に入り、PLBのSERCA2aとの結合を抑制する。トランスロケーション機能は、細胞膜を通してレセプター非依存的様式でそれ自身および付着した「カーゴ」ペプチドを素早くトランスロケーションさせる能力を示す輸送ペプチドに帰する。いったん心筋細胞の細胞室内に入ると、PLB断片は、SERCA2aとの内因性PLB相互作用の競合阻害剤として働く可能性がある。 結合によるPLB阻害がない場合、SERCA2aはより効率的にSR内へCa2+をそそぎ込み、それによって心筋細胞のより強くはやく収縮する能力を増加させる。より強い心筋細胞の収縮性は、より強力な心臓収縮性に変換する。インビボにおいて、本発明は、心不全の治療として機能でき、最も簡単に投与でき、心臓が左心補助装置(LVAD)を必要とし、またはすでに移植されている患者においてもっとも効果的である。 アンテナペディアの残基43〜58はよく特性化されたトランスロケーションペプチドであり、本発明においてうまく働く一方、本発明はこの方法の輸送に限定されない。他の可能性のある輸送の方法には、輸送ペプチドおよびカーゴペプチドに連結する8−分岐ポリリジン骨格の使用が含まれるが、この多分岐構造に限定はされない。1つの長いペプチドとして1つのPLBペプチドに接着した1つの標的ペプチドからなる化合物もまた調査されてきた。さらにまた、細菌内でヘキサヒスチジン(H6)タグ化ペネトラチンおよびペネトラチン−PLB組換え体タンパク質を産出するために多くのDNA構築体も考慮されてきた。ペネトラチンペプチドは、タンパク質のアミノ末端またはカルボキシ末端どちらかで存在するように作製した。 PLBの細胞質断片が、全PLB分子のようにSERCA2aの細胞質部分に対する結合親和性を強く持つことが示されてきた。したがって、いったん輸送−PLB分子が心筋細胞の細胞室内にあると、PLB断片は、SERCA2aとの内因性PLBの相互作用の競合抑制剤として働くと予想される。 治療の本型は、医学治療に対して難治性の心臓ポンプ機能の重度の減少を患っており、心臓移植を待っている間に機械的補助装置を必要とする患者に対して好適である。さらに、PLB変異体のドミナントネガティブ機能に対する明示した分子機構を、阻害小分子に対する高処理スクリーニングの設計および履行で使用できる。 以下の実施例は本発明を制限することなしに、例示することを意図している。実施例1 超音波心臓検査のためのノックアウトマウス系統の作製 拡張性心筋症の心不全表現系のインビボでの複合体の構造的、生理学的特徴を解析するために、いくつかのノックアウトマウスの系統を、2つの独立した筋肉特異的遺伝子の同型接合体切断を内含する二重ノックアウト(DKO)マウスモデルを使用して作製し、実施した。この戦略のために、PLB−/−(ホスホランバン欠損)同型接合体マウスをMLP−/−(筋肉特異的LIMタンパク質)同型接合体マウスと配合した。F1子孫をMLP−/−×PLB−/−同型接合体交配より作製し、ついで交配してMLP+/−、PLB+/−二重異型接合体遺伝子型を作製した。F2子孫をMLP+/−/PLB+/−二重異型接合体交配より作製し、これによって変異体MLP対立遺伝子に関して同型接合体であり、変異体PLB対立遺伝子に対して異型接合体であるマウス、またはMLP野生型であり、変異体PLB対立遺伝子に対して異型接合体であるマウスを作製した。F3子孫をMLP−/−/PLB+/−配合によって作製し、MLP−/−/PLB−/−(DKO)、MLP−/−/PLB+/+(MLPKO)およびMLP+/+/PLB−/−(MLPKO/PLBhet)同胞子を作製し、またはMLP+/+/PLB+/−交配からMLP+/+/PLB−/−(PLBKO)、MLP+/+/PLB+/+(野生型)およびMLP+/+/PLB+/−(PLBhet)同胞子を作製した。遺伝を標的とした交配の遺伝子型をPCRまたは尾生検から単離したゲノムDNAによって決定した。 さまざまなノックアウトマウス系統の血流力学的特性を評価するために、心臓にカテーテルを通し、超音波心臓検査を、アベルチン(2.5%、20μl/kg体重)またはキシラジン(0.005mg/g)と塩酸ケタミン(0.1mg/g)のいずれかで麻酔した対象上において行った。経胸壁Mモード超音波心臓図検査トレーシングにより、MLPKOマウスが壁運動の減少を伴う室拡張をしていることが示唆され、このことは心機能の抑制および壁ストレスの増加を示し、一方で、DKOマウスでは室サイズおよび心機能は正常である。野生型(WT)、n=7、MLPKO、n=8、DKO、n=9およびPLBKO、n=5に関する基準線パラメータは図2a−dで示す。データは平均±SEMとして表した。MLPKO対他の群、*p<0.5、**p<0.001、WT対DKO、#p<0.01。図2e−hにおいて、血流力学的査定は、ドブタミンの連続的注射に対するβ−アドレナリン性応答で行い、WT(□)、n=7、MLPKO(●)、n=8、およびDKO(○)、n=9マウスである。MLPKO対WTまたはDKO、#p<0.05、+p<0.01、*p<0.001、WT対DKO、∋p<0.01。実施例2 カルシウム過渡応答(transient)解析 SRカルシウム含量およびカルシウム過渡応答におけるPLB阻害の効果を評価するために、筋細胞を野生型またはノックアウトマウスの左心室壁より単離した。細胞内カルシウムの変化をモニタするために、前記単離した筋細胞をカルシウム感受性色素、フルオ−3−AM(1μg/ml)と共に室温にて30分間インキュベートした。次いでこの筋細胞を反転顕微鏡のステージ上の組織チャンバーに移し、1Hzの速度にて連続的に刺激し、一定量のSRカルシウム負荷を保持した。細胞内蛍光を測定するために、この筋細胞を480nmの励起波長にて発光させた。蛍光のすべての変化をマイクロフルオロメーター(FM−1000、Solamere Technologies)を使用して510nmでモニタし、以後のCellsoft(D.Bergman、カルガリー大学)ソフトウェアを用いた解析のためにデジタルで記録した。蛍光値を式:[Ca2+]i=KD(F−Fmin)/(Fmax−F) (1)KDは864nMと仮定し、式中Fは実験に基づいて得られた蛍光値、を用いて換算した。Fmaxは灌流溶液へ10μMのイオノマイシンを添加することで決定し、Fminはそれぞれの筋細胞について灌流溶液に4mMのMnCl2を添加することで決定した。 単離した筋細胞のSRカルシウム含量を標準カフェインパルスプロトコールを用いて評価した。カルシウム過渡応答の安定した記録にしたがって、10mMカフェインの20秒パルスを筋細胞に与えた。このプロトコールは結果として、ゆっくりと基準値に減衰して戻る急速カフェイン誘導過渡応答となる。SRカルシウム含量は、このカフェイン誘導カルシウム過渡応答の積分面積として定義した。図3aはWT、MLPKOおよびDKO筋細胞での応答性細胞内カルシウム過渡応答を例証している。MLPKO筋細胞は通常のレベルの拡張期カルシウム濃度でのカルシウム過渡応答の振幅の減衰を示した。DKO筋細胞は、持続期間が短く、より速く減衰し、振幅が保持されたカルシウム過渡応答を示した。図3bに示すように、カルシウム過渡応答の振幅はMLPKO筋細胞内で有意に弱くなり、DKO筋細胞では回復した。図3cは、細胞内拡張期カルシウム濃度が、3つの異なる群の筋細胞間で異ならなかったことを示している。図3dにおいて、WTマウスと比較したときに、SRカルシウム含量がMLPKOマウスにて有意に減少し、DKOマウスでは増加した。図3eでは、代表的な定量的免疫ブロッティングによって、MLP欠失が、SERCA2a、PLBおよびカルセケストリンのタンパク質レベルの有意な変化と関連しないことが明らかになった。実施例3 変異体PLBアデノウイルスの構築および遺伝子移送 ヒトPLBをコードしているI.M.A.G.E.共同cDNAクローンはGenome System,Inc.を通して入手可能であった。PLBの全コード配列を含むDNA断片を、公知の大腸菌(E.coli)クローニングベクター(ATCC受け入れ番号87047)であるpBluescriptII KSベクター内にサブクローン化した。センス変異(Val49Ala)を、Stratageneより商業的に入手可能なPCRに基づいた変異導入系を用いて導入した。野生型および変異体ヒトPLBを発現している組換え体アデノウイルスを、プラスミドpJM17とRSVプロモーターおよびSV40ポリA配列を含むシャトルプラスミドとの間の相同組換えによって作製した。濃縮したウイルス調製品を標準のプロトコールを使用して滴定した。効率よいインビボでの心臓遺伝子移送を、1日齢新生児マウスの心臓にアデノウイルスベクターを注入することで行った。筋細胞をマウス心臓内への注射の後4週間で単離し、細胞短縮を測定した。変異体導入遺伝子を含む筋細胞を、マーカーとしてGFPを発現しているアデノウイルスベクターを共にトランスフェクトすることで同定した。実施例4 PLB阻害剤−輸送ペプチド複合体の構築 PLB阻害分子を、輸送ペプチドとPLBタンパク質を直接ポリリシン骨格に付着させて作製した。あるいはPLB分子はまた繰り返しカーゴペプチド配列に接着した輸送配列からなる単一長ペプチドとして作製できた。輸送ペプチドはアンテナペディアの残基43〜58(Seq.ID.No.7)、ショウジョウバエ転写因子タンパク質で構成された。カーゴペプチドは、PLBの最初の16残基(Seq.ID.No.8)を使用して誘導した。このカーゴ配列はまた、野生型PLBまたは変異体PLBの任意の区画から由来可能であることに注意することが重要である。 PLB阻害分子を、4輸送ペプチドをPLBの最初の16残基とマッチしている4ペプチドに結合することで構築した。骨格リンカーは8−分岐リシンであり、一般的に多重抗原性ペプチド(MAP)合成で使用されたものである。MAP樹脂の最初の4分岐を、アンテナペディアペプチドを合成するのに使用した。次いで、次の4分岐を脱保護し、PLBカーゴペプチドの合成の開始点として使用した。したがって、初期の特性化のために使用したこの特定のPLB阻害剤はアンテナペディアペプチドの4分岐およびPLBカーゴペプチドの4分岐を持った。あるいは、PLB阻害剤は互いに単一ペプチド結合によって接着したカーゴおよび輸送ペプチド、または互いにジスルフィド結合によって接着したカーゴおよび輸送ペプチドを持つ単一ペプチドとして構築できた。PLB阻害分子を単離した新生児ラット心筋細胞内に効果的にトランスロケーションし、図5aおよびbで見ることのできる結果である、結果としての細胞の収縮性の増加が示された。非感染筋細胞と比較した場合、V49A PLB点変異を過剰発現している筋細胞は収縮性の増加を示し、一方、野生型PLBを過剰発現した筋細胞は収縮性の減少を示した。実施例5 ペネトラチンペプチドTATおよびANT 細胞レベル研究をおこない、2つのペネトラチンに基づくペプチド、2つの変異体PLB−ペネトラチンペプチドおよび2つの多重抗原ペプチド(MAP)の、単離したマウス心筋細胞の収縮サイクルを強化する能力を評価した。2つのペネトラチンに基づいたペプチドには、それぞれANT(Seq.ID.No.14)の5’末端またはTAT(Seq.ID.No.15)の3’末端のどちらかに接着するPLB配列の20残基部分を持つ、PLB−ANT(Seq.ID.No.10)およびTAT−PLB(Seq.ID.No.11)が含まれる。2つの変異体PLBペプチド、変異体PLB−ANT(Seq.ID.No.12)およびTAT−変異体PLB(Seq.ID.No.13)は、PLB配列の20残基のS16E変異を示す。多重抗原ペプチドには8ペネトラチン領域をもつMAP(ANT)および4ペネトラチン領域および4PLB領域を持つMAPが含まれる。 それぞれのペネトラチン−PLBペプチドを、単離したマウス心筋細胞の収縮サイクルを強化するその能力を測定して評価した。理想はペネトラチンPLBペプチドがPLB−SERCA2a相互作用のドミナントネガティブ阻害剤として働くことである。単離した心筋細胞上でのTAT−PLBペプチドの結果を表3に示す。このデータに関しては、試験をいくつかの心筋細胞の組で繰り返し行い、TAT−PLBペプチドあり(試料1−7)、およびペプチドなし(対照1−8)での収縮サイクルを通した相対的長さの変化を決定した。それぞれの試料には10μMのTAT−PLBペプチドの濃度を添加し、一方対照にはペプチドを添加しなかった。測定は毎20ミリ秒毎に行い、長さの単位は任意であるが、しかし一般的に1完全細胞長のオーダーに基づいた。パーセント収縮は(最大長−最小長)を最大長で割ったものとして計算した。時間対長さのプロットは、そこから最も直線の部分を選択したU型曲線となり、「U」の左側は収縮を表し、右側は弛緩を表している。r2棒は、どれくらいデータが曲線にフィットしているかを示し、1.0が完全フィットを示す。 筋細胞においてより大きく、より速い収縮への傾向があるように見られた一方で、T検定解析では、データの大きな変動のためになんの統計学的な差も同定されなかった。実施例6 ヘキサヒスチジンタグ化ペネトラチン 多くのDNA構造を、細菌内でヘキサヒスチジン(H6)タグ化ペネトラチンおよびペネトラチン−PLB組換え体タンパク質を産出するために作製した。商業的に入手可能である発現ベクターpRSET(Invirogen)を使用し、組換え体タンパク質H6−ANT(Seq.ID.No.16)を作製した。この組換え体タンパク質はPLBに接着していない一方で、心臓に入ったときにこのタンパク質を検出するのに使用するエピトープタグを持つように作製した。H6−PLB(S16E変異体)−ANTタンパク質およびH6 PLB (V49A変異体)ANTタンパク質(それぞれSeq.ID.No.18および19)に加えて、H6−wtPLB−ANT(Seq.ID.No.17)のH6−ANTの変形体もまた、PLB配列を含んで発現させた。H6−ベータ−ガラクトシダーゼ−ANT、H6−TATおよびH6−ベータ−ガラクトシダーゼ−TATはまた低レベルで発現した(配列は記載していない)。TrpがPheに変異された残基68および67での2つの変異を持つ非機能的ANT−ペネトラチンを、他の3つのペネトラチン−PLBタンパク質に対する陰性対照として作製した。 これらの組換え体ペネトラチンに基づいたタンパク質の心臓収縮における効果を測定するために、1匹のマウスに腹腔内に2mgのH6−ANTペプチドを注射した。第二のマウスには腹腔内に2mgのH6−ANT変異体タンパク質を注射した。3時間のインキュベーション期間の後、マウスを犠牲死し、心臓を解析のために取り除いた。心臓内の血液を大動脈弓を通して流体を後方へ押すことで取り除いた。それぞれの心臓を心房組織、左心室組織および右心室組織に切り裂いた。すべての組織を、大量の生理学的平衡化PBS溶液内で洗浄し、液体窒素内で瞬間冷凍した。次いでこの組織を8M尿素、2% トリトン−X100内で、10分間で溶解し、同量の上清を15%PAGE上で電気泳動した。バンドをPVDF膜に写した。この膜を溶解物がエピトープタグ化タンパク質を含んだかどうかを同定するために坑His抗体で標識した。 本明細書で開示された本発明は、心筋細胞内でのホスホランバンと筋小胞体 Ca2+−ATPase間の相互作用を抑制するかまたは変更することを介した心不全の治療のさまざまな方法を提供する。本発明は、以上で提供された実施例に関して記述してきたが、さまざまな変更が、本発明の意図を逸脱せずに行われうることを理解すべきである。したがって、本発明は以下の請求項によってのみ制限される。図1は、心不全の進行におけるPLB−SERCA2a相互作用の役割についての作動モデルを図示する図である。図2は、DKOマウスにおけるインビボでの心臓機能不全の回復についての血行動態解析(a〜d)およびドブタミンの連続注入に対するβ−アドレナリン作動性応答の血行動態評価(e〜h)を示し、図2aは、LV圧の最大一次導関数、LVdP/dtmaxのプロットを示す。図2bは、LV圧の最小一次導関数、LVdP/dtminのプロットを示す。図2cは、LV拡張終末期圧のプロットを示す。図2dは、Tauのプロットを示す。図2eは、LV圧の最大一次導関数、LVdP/dmaxのグラフを示す。図2fは、LV圧の最小一次導関数LVdP/dtminのグラフを示す。図2gは、LV拡張終末期圧のグラフを示す。図2hは、心拍数のグラフを示す。図3は、DKO筋細胞における生理学的カルシウムシグナル伝達欠陥の回復についての解析からの、プロットデータを示し、図3aは、WT、MLPKOおよびDKO筋細胞における、一連の代表的な細胞内Ca2+過渡応答のグラフである。図3bは、Ca2+過渡応答の振幅の棒グラフである。図3cは、細胞内拡張期Ca2+濃度の棒グラフである。図3dは、SRのCa2+含量の棒グラフである。図3eは、MLP欠損のイムノブロットである。図4aは、DKOマウスにおける心不全表現型の胚遺伝子マーカーの回復についてのドットブロット解析を示す。図4bは、野生型、MLPKO、およびDKO筋細胞のmRNAの相対誘導を比較した棒グラフである。図5は、PLBとSERCA2aの間の相互作用の阻害を示し、図5aは、筋細胞の長さの変化をプロットした一連のグラフである。図5bは、細胞の長さの変化のデータの要約である。図6aは、モノクローナルPLBに対する、センスPLB(sPLB)、アンチセンスPLB(asPLB)、E2A、R14E、S16N、およびK3E/R14Eを発現しているアデノウイルス導入遺伝子を含む筋細胞のウェスタンブロット解析である。図6bは、PLB、sPLBおよびK3E/R14Eによる細胞の感染力の結果を示すウェスタンブロットである。図6cは、SolB細胞のPLB感染力のウェスタンブロット解析を示す。図7は、示した遺伝子を発現しているアデノウイルスで感染させた、新生仔ラット心筋細胞のホモジネートにおける、SRのCa2+取込みのプロットである。図8は、indo1蛍光により促進された筋細胞のCa2+過渡応答から得られたデータのプロットを示す。 ホスホランバン欠乏を誘導することを含む、心不全の治療のための方法。 外因性ホスホランバン蛋白質がホスホランバン欠乏を誘導する、請求項1に記載の心不全の治療のための方法。 外因性ホスホランバン蛋白質が、PLBの突然変異体、センスPLB、アンチセンスPLB、トランケートされたPLB、天然PLB、及びPLBに対する抗体から成る群から選択される、請求項2に記載の心不全の治療のための方法。 PLBの突然変異体がPLBの点突然変異体を含む、請求項3に記載の心不全の治療のための方法。 PLBに対する抗体がコントラクチリンを含む、請求項3に記載の心不全の治療のための方法。 複合体として第一ペプチドと第二ペプチドから成り、第一ペプチドが輸送ペプチドを含み、第二ペプチドがカーゴペプチドを含む、ホスホランバン活性を阻害するためのペプチドベースの治療薬。 輸送ペプチドが、ペネトラチン、アデノウイルス、細菌及び脂質小胞ベースの輸送ペプチドから成る群から選択される、請求項6に記載のペプチドベースの治療薬。 カーゴペプチドが、PLBの突然変異体、センスPLB、アンチセンスPLB、トランケートされたPLB、及び天然PLB蛋白質から成る群から選択される、請求項6に記載のペプチドベースの治療薬。 第一ペプチドが細胞膜を横断して第二ペプチドを輸送する、請求項6に記載のペプチドベースの治療薬。 第一ペプチドと第二ペプチドが共有結合によって結合している、請求項6に記載のペプチドベースの治療薬。 共有結合が分枝ポリリシン骨格、単ペプチド結合、又はジスルフィド結合から成る、請求項10に記載のペプチドベースの治療薬。 PLB‐SERCA2a相互作用の阻害によって心筋収縮能を高めることを含む、心不全の治療のための方法。 心筋小胞体のCa2+ATPアーゼへのPLBの作用を阻害することによって心筋収縮能が高められる、請求項12に記載の方法。 外因性ホスホランバン蛋白質を使用してホスホランバン欠乏を抑制する、請求項12に記載の方法。 外因性ホスホランバン蛋白質が、PLBの突然変異体、センスPLB、アンチセンスPLB、トランケートされたPLB、天然PLB、及びPLBに対する抗体から成る群から選択される、請求項14に記載の方法。 PLBの突然変異体がPLBの点突然変異体を含む、請求項15に記載の方法。 PLBに対する抗体がコントラクチリンを含む、請求項15に記載の心不全の治療のための方法。 【課題】新規な心不全の治療のための方法の提供。【解決手段】心筋細胞内でのホスホランバンと筋小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA2a)の相互作用を阻害することにより、不全心臓における収縮能を高め、高血圧症を有する個人において血圧を低下させるように機能する小ペプチド複合体と組換え蛋白質の使用を通して、心不全の治療のための方法を提供する。さらに、そのような治療薬を心筋細胞の細胞質及び核内に輸送するための手段を提供する。【選択図】図1配列表20070807A16333全文3 心臓において機能するプロモーターに連結されるコード配列を提供する、心筋細胞で用いるための発現ベクターを含む医薬組成物であって、前記コード配列がS16Eからなる点突然変異を有するホスホランバンポリペプチドをコードする、医薬組成物。 前記発現ベクターがウイルスベクターである、請求項1に記載の医薬組成物。 前記ウイルスベクターがDNAベクターである、請求項2に記載の医薬組成物。 前記DNAベクターがアデノ関連ウイルスベクターである、請求項3に記載の医薬組成物。配列表