タイトル: | 公開特許公報(A)_NMDA受容体阻害剤 |
出願番号: | 2007138453 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A61K 31/085,A61P 25/00,A61P 29/00,A61P 25/02,A61P 43/00,A61P 9/10,A61P 25/28,A61P 25/16,A61P 21/04,A61P 25/14,A61P 25/22,A61P 13/10,A61P 25/08,A61P 25/18,A61P 25/24,A61P 9/00,A61P 39/02,A23L 1/30 |
米田 幸雄 中道 範隆 宝田 剛志 松島 伸行 森口 展明 柴田 仁 JP 2008143884 公開特許公報(A) 20080626 2007138453 20070524 NMDA受容体阻害剤 国立大学法人金沢大学 504160781 大幸薬品株式会社 391003392 北村 修一郎 100107308 米田 幸雄 中道 範隆 宝田 剛志 松島 伸行 森口 展明 柴田 仁 JP 2006309534 20061115 A61K 31/085 20060101AFI20080530BHJP A61P 25/00 20060101ALI20080530BHJP A61P 29/00 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/02 20060101ALI20080530BHJP A61P 43/00 20060101ALI20080530BHJP A61P 9/10 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/28 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/16 20060101ALI20080530BHJP A61P 21/04 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/14 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/22 20060101ALI20080530BHJP A61P 13/10 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/08 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/18 20060101ALI20080530BHJP A61P 25/24 20060101ALI20080530BHJP A61P 9/00 20060101ALI20080530BHJP A61P 39/02 20060101ALI20080530BHJP A23L 1/30 20060101ALI20080530BHJP JPA61K31/085A61P25/00A61P29/00A61P25/02 101A61P43/00 111A61P9/10A61P25/28A61P43/00A61P25/16A61P21/04A61P25/14A61P25/22A61P13/10A61P25/08A61P25/18A61P25/24A61P9/00A61P39/02A23L1/30 Z 4 OL 18 4B018 4C206 4B018MD07 4B018ME14 4C206AA01 4C206AA02 4C206CA27 4C206MA01 4C206MA04 4C206NA06 4C206NA07 4C206NA14 4C206ZA01 4C206ZA02 4C206ZA05 4C206ZA06 4C206ZA08 4C206ZA18 4C206ZA21 4C206ZA22 4C206ZA36 4C206ZA81 4C206ZA94 4C206ZB21 4C206ZC37 4C206ZC42 本発明は、NMDA(N-methy1-D-aspartate)受容体(NメチルDアスパラギン酸レセプター)阻害剤に関する。また、脳疾患もしくは神経疾患の治療もしくは予防、または、脳機能もしくはその他の神経機能の改善のための製剤、または健康機能性食品(保健機能食品)に関する。ここで、健康機能性食品(保健機能食品)は、健康維持や健康増進の機能を有する飲食物であり、栄養改善法による特定保健用食品、及び、財団法人 日本健康・栄養食品協会の認定による健康補助食品を含む。 興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸に対応するグルタミン酸受容体には、イオンチャネル内蔵型と代謝調節型がある。一般的に、イオンチャネル内蔵型受容体には、ニコチン性アセチルコリン受容体、GABA(γ−aminobutyric acid)A受容体、グリシン受容体、NMDA受容体などがある。 グルタミン酸は哺乳類脳内での最も重要な興奮性神経伝達物質である。一方、特殊な環境下ではグルタミン酸には神経細胞死を誘発する毒性があって、種々の神経変性疾患の病因物質として深く関与していると考えられている。グルタミン酸作動性神経は脳全体に分布しており、脳の機能に幅広く関わっていると推察されているが、特に記憶の形成に重要な海馬における働きが明らかにされている。 NMDA受容体阻害剤ないし拮抗剤が有用である疾病としては、脳虚血、アルツハイマー病などの慢性神経変性疾患、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)関連神経損傷、外傷性脳または脊髄損傷、疼痛(例えば、外傷後または術後)、および慢性的疼痛症状、例えば神経因性疼痛または癌関連疼痛などが挙げられている(特許文献1)。また、学習・記憶や動機づけなどの知能の向上、恐怖などに対する不安の解消、蓄尿機能や排出機能などの排尿機能改善、てんかん、精神分裂病やそううつ病などの気分障害、脳血管障害などの治療および症状改善が挙げられる他、海藻などに含まれるカイニン酸、ムラサキ貝に含まれるドモイック酸、イタチササゲに含まれるβ−N−オキシルアミノ−L−アラニンやシカスアーシナリスLに含まれるβ−N−メチルアミノ−L−アラニンなどのグルタミン酸受容体に作用する神経毒などの解毒作用もあると考えられている(特許文献2)。 そのため、NMDA受容体阻害剤ないし拮抗剤として、各種アミン化合物など、種々の物質が検討されている(特許文献1〜4)。国際公開WO 2000/0000197特開2004−189626特表2004−512324特表2003−505512 NMDA受容体阻害剤として上記特許文献1〜2に記載されたものは、NMDA受容体阻害作用が不充分であるか、または、日常的に服用するための安全性が充分に確かめられていない等のいずれかの問題があった。 本発明は、上記に鑑みなされたものであり、充分なNMDA受容体阻害作用が得られるとともに、日常的な摂取に際しても安全性の危惧のないものを提供しようとする。 本発明のNMDA受容体阻害剤は、下記の一般式(I−1〜I−4)で示される化合物あるいはその塩を含有してなることを特徴とする。 但し、上記一般式(I−1〜I−4)におけるR1はメチル基またはエチル基、R2は水素原子または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基であって、R1とR2は同一であっても異なっていてもよい。 充分なNMDA受容体阻害作用が得られるとともに、日常的な摂取に際しても安全性の危惧がほとんどない。 上記一般式(I(I−1〜I−4))の化合物について、以下に具体例を挙げるが、この例示でいう「ブチル」は、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチルを総称したものであり、また「プロピル」は、n−プロピル、イソプロピルを総称したものである。すなわち、2−メトキシフェノール(グアヤコール)、2−メトキシ−3−メチルフェノール、2−メトキシ−3−エチルフェノール、2−メトキシ−3−プロピルフェノール、2−メトキシ−3−ブチルフェノール、2−メトキシ−4−メチルフェノール、2−メトキシ−4−エチルフェノール、2−メトキシ−4−プロピルフェノール、2−メトキシ−4−ブチルフェノール、2−メトキシ−5−メチルフェノール、2−メトキシ−5−エチルフェノール、2−メトキシ−5−プロピルフェノール、2−メトキシ−5−ブチルフェノール、2−エトキシフェノール、2−エトキシ−3−メチルフェノール、2−エトキシ−3−エチルフェノール、2−エトキシ−3−プロピルフェノール、2−エトキシ−3−ブチルフェノール、2−エトキシ−4−メチルフェノール、2−エトキシ−4−エチルフェノール、2−エトキシ−4−プロピルフェノール、2−エトキシ−4−ブチルフェノール、2−エトキシ−5−メチルフェノール、2−エトキシ−5−エチルフェノール、2−エトキシ−5−プロピルフェノール、2−エトキシ−5−ブチルフェノールなどが挙げられる。 上記一般式(I)の化合物の中でも、R2が炭素数1〜3であることが、NMDA受容体阻害作用に優れているという点で好ましく、メチル基あるいはエチル基であることがさらに好ましい。 また、R2は3または4の位置に結合していることが、NMDA受容体阻害作用に優れているという点で好ましく、4の位置に結合していることがさらに好ましく、中でも、神経細胞の死滅を防ぐ能力に優れているという点で、2−メトキシフェノール(グアヤコール)、2−メトキシ−4−メチルフェノール(以下、単に「2M4MP」ともいう)、2−メトキシ−4−エチルフェノール(以下、単に「2M4EP」ともいう)、2−エトキシ−4−メチルフェノール(以下、単に「2E4MP」ともいう)、2−エトキシ−4−エチルフェノール(以下、単に「2E4EP」ともいう)が好ましく、その中でもグアヤコール、2M4MP、及び2M4EPが最も好ましい。なお、上記一般式(I)で示される化合物は1種類を単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。 これらグアヤコール、2M4MP、2M4EPはいずれも、木クレオソートの構成成分である(Ogata N.,Baba T.Analysis of beechwood creosote by gas chromatography-mass spectrometry and high-performance liquid chromatography.Res Commun Chem Pathol Pharmacol 66,411-423(1989),ブナ木クレオソートのガスクロマトグラフィー・質量分析法および高速液体クロマトグラフィー法による分析)。緒方規男(N. Ogata)他著ファーマコロジー(Pharmacology)、46巻、(1993)、第173頁には、クレオソートが腸管運動抑制に基づく止瀉作用を有する旨記載されている。また、医薬品製造指針(日本公定書協会編)1988年版第240頁の胃腸薬製造承認基準において、V欄の止瀉薬の区分中1項の殺菌剤として収載されている。また、伊藤宏著「薬理学」((株)蛍光堂、1983年1月5日改訂第6版発行)第416頁にも、木クレオソートは腸内防腐に用いるほか、吸入適応により去痰作用を示す旨記載され、日本薬局方でも、去痰、腸内異常醗酵、食中毒などに用いる旨記載されている。ザ・ユナイテッド・ステーツ・ディスペンサトリー(The United States Dispensatory)、27th ed.(1973)、第355頁にも、木クレオソートは、外用として殺菌剤、内用として去痰剤として使用される旨記載されている。<塩の形態> また、本発明のNMDA受容体阻害剤は、塩基を用いた塩の形態とすることも可能である。用いる塩としては、薬学的に(薬剤学的に)許容し得る塩であれば特に限定するものではなく、例えば、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、リチウムなどの金属塩、アミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン)との塩あるいはアンモニウム塩などが挙げられる。<使用量> 本発明のNMDA受容体阻害剤の投与量(使用量)については、対象となる動物の種類あるいは性別、年齢、症状の程度によって変わるので一概にはいえないが、ヒトにおける経口投与あるいは直腸内投与(坐剤)の場合は、およそのところ1日当たり成人体重1kgに対して0.1〜10mgであり、0.5〜5mgであることが好ましく、また注射剤としての投与の場合には、1日当たり成人体重1kgに対して0.05〜5mgであり、0.25〜2.5mgであることが好ましい。これらの1日量を1回でまたは分2〜分4、あるいはそれ以上の回数に分けて投与することができる。<剤型・摂取形態> 本発明のNMDA受容体阻害剤は、医療用薬剤における一般的な形態で以て使用される。一般的な形態としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、顆粒剤、トローチ剤、チュアブル剤、内服液剤や、注射剤(血管内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与など)、あるいは坐剤などが挙げられる。錠剤、顆粒剤、散剤の形態に調製する際には、従来公知の担体を広く使用でき、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、澱粉、結晶セルロース等の賦形剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等の結合剤、例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等の崩壊剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸などの滑沢剤が使用できる。錠剤には、必要に応じて、通常の剤皮を施すこともでき、例えば、糖衣錠、フィルムコーティング錠等とすることができ、さらに二層錠、多層錠としてもよい。また、顆粒剤や散剤も通常の剤皮を施すことができる。 このような医薬品としての剤型のみならず、本発明のNMDA受容体阻害剤は一般の飲食物として摂取することもできる。すなわち、菓子類(クッキー、ビスケット、ケーキ、饅頭、スナック菓子、ガム、キャンデーなど)や飲料水(栄養ドリンク、炭酸飲料水、乳酸飲料水、清涼飲料水など)、インスタント食品(即席麺、即席カレーやシチューなど)、練り食品(ハム、ソーセージ、かまぼこなど)、油脂加工品(バター、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシングなど)、調味料(ソース、しょう油、塩、コショウなど)、乳製品(ヨーグルト、加工乳など)に含ませて本発明のNMDA受容体阻害作用の摂取を図ることもできる。<培養ディッシュの準備> (1) 培養ディッシュ(NUNC社製マルチディッシュ6well、Φ35mm)の各穴(well)に75μg/mL ポリリジン(Poly-L-lysine)水溶液(各well 2mLずつ、以下同様)を加え、インキュべーター(SANYO社,MCO−17AIC型:37℃、5% CO2/95% air)内で少なくとも2時間静置した。 (2) ポリリジンコーティング後、液を取り除き、洗浄液として特定のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco's Phosphate-Buffered Saline without Ca2+・Mg2+;33mM glucose,100U/mL ペニシリンおよび100μg/mL ストレプトマイシンを含む(PBS special))を用いて、1回洗浄した。 (3) 洗浄液をよく取り除き、培養メディウムとして33mM グルコース(glucose)、2mM グルタミン(glutamine)、100U/mL ペニシリン(penicillin)、100μg/mL ストレプトマイシン(streptomycin)、5mM HEPES (2-[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazinyl] ethane sulfonic acid)、0.11% 重炭酸ナトリウム(sodium bicarbonate)、および、10%のウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM/F−12等量混合液(Dulbecco's Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F−12(1:1))を加え、細胞の培養に備えた。<神経細胞の採取から播種まで(図1)> (1)妊娠18日目のWistar系雌性ラット(三協ラボ)から子宮を全摘出し、クリーンべンチ内に移動した。子宮から胎児を取り出し(平均12匹/雌親ラット)、胎児の頭部を背側から頚部で切断し、全脳を摘出した。摘出した全脳から、実体顕微鏡下(対物×10倍)海馬を切り出した。胎児から切り取った各組織はあらかじめ培養メディウムで満たしたペトリ皿に回収し、細胞分散までインキュべーター内に静置した。 (2) 取り出した海馬を、フタ付き遠心管中のベルセン(Versene)液に12分間、室温にて浸漬した。このようにして、細胞間の結合をゆるめた。なお、ベルセン液は、リン酸緩衝液(PBS)中にエチレンジアミン4酢酸(EDTA)を0.2重量%含むものであり、細胞間の接着に必要なカルシウムをキレートすることで、細胞を分散しやすくする。 (3)先端を加熱して細くしたパスツールピペットを用いて、ベルセン液を除去し、上記の培養メディウムに置き換え、また、当該培養メディウム中に海馬細胞を分散した。 (4)分散した細胞液中に、分散不可能な小片が見えないかどうか目視で確かめたのち、フタをしてから、1,000×g(重力加速度の1,000倍の遠心力)にて4分間遠心分離操作を行った。 (5)上澄みを捨て、遠心管の底に得られた沈査を、適量の上記培養メディウムで再懸濁した。 (6)Typan blue 染色によって生細胞の割合を計算し、上記のように準備した培養ディッシュに、3.13×105cells/cm2の細胞密度になるように細胞を播いた。<神経細胞の培養(図2)> (1) 上記の培養ディッシュをよく攪拌した後、インキュべーター内に静置し、5%炭酸ガス含有条件下、37℃に保った。 (2)細胞を播いた時点を0日(DIV; day in vitro)とし、培養2〜3日(播種時から48〜72hrの期間)には、培養液に10μMとなるようにシトシンアラビノシド(Ara-C;cytosine arabinoside)を添加し、この条件で24時間処置した。このシトシンアラビノシドによる処理により、グリア細胞の増殖を抑制する。 (3)3日経過以降は、上記培養メディウムからウシ胎児血清(FBS)を省き、ホルモンミックスを添加した培養液にて培養を行った。ホルモンミックス:0.5μg/mlインスリン、50μg/mlトランスフェリン、20μg/mlプロゲステロン、1pM β−エストラジオール、3μMトリヨードチロニン、100μMプトレッシン、8ng/mlセレン2ナトリウム。 すなわち、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)に以下のものを添加した液を用いた。33mM glucose、100U/mL penicillin、100μg/mL streptomycin、2mM glutamine、1.125mg/mL sodium bicarbonate、5mM HEPESおよびHormone mix (5μg/mL insulin、0.5mg/mL apo-transferrin、0.2μM progesterone、0.01nM β-estradiol、0.03mM 3,3',5-triiodo-L-thyronine、1mM putrescineおよび0.08mg/mL sodium selenite.なお、培養6日経過後に、培養液を、同一組成の新しいものに置き換えた。 (3) 培養9日目を経過した上記の細胞培地でもって、NMDAによる細胞死とその抑制の評価、及び、NMDAによるカルシウムイオン流入の抑制の評価に用いた。<NMDAによる神経細胞死とその抑制についての評価> 上記のように9日間培養した海馬由来神経細胞の培地をレコーディングメディウム(−Mg2+)に置き換え、NMDAを100μMとなるように各ウェルに添加した。また、同時に、各ウェルに、2−メトキシフェノール(グアヤコール)、2−メトキシ−4−メチルフェノール(2M4MP)、及び2−メトキシ−4−エチルフェノール(2M4EP)のいずれかを、100μM、及び1mM(1000μM)のいずれかの濃度となるように添加した。ここで、各フェノール化合物には、東京化成工業(株)の一級試薬を用いた。そして、添加後6時間の経過後に、下記のMTTアッセイにより細胞生存率を評価した(図3〜4)。なお、各条件でのn数(同一条件のウェルの数)は4〜6とした。 一方、比較のため、木クレオソート系のフェノール化合物、及びNMDAのいずれも添加しなかったものを100%とする細胞生存率を求めておいた(図3〜4左端)。<細胞生存率の評価(MTTアッセイ)> 上記のようにして神経細胞死を誘起させた後、培養液を、0.5mg/mlの3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromaide(MTT)を含むリン酸緩衝液(PBS)に置換し、37℃の上記炭酸ガスインキュベーターにて1時間、呈色反応を行わせた。続いて、0.04N HClを含むイソプロパノール(isopropanol)を加えて、細胞を溶解させた。この後、マイクロプレートリーダーを用いて550〜570nmの吸光度を測定することにより、MTTの還元反応の活性を求めた。<NMDAによるカルシウムイオン流入の抑制の評価> 上記のような培養9日目を経過した細胞培地を、下記のような、細胞中のカルシウムイオン濃度測定用媒体に置き換えて、5分後に、上記3種のフェノール化合物(グアヤコール、2M4MPおよび2M4EP)をそれぞれ1000μMの濃度で添加した。次いでこの5分後に100μMとなるようにNMDAを添加した。そして、下記のような方法で、細胞中へのカルシウムイオン流入の程度を調べた。方法の詳細は下記のとおりである。<力ルシウムイメージング> (1)レコーディングメディウム(+Mg2+)(129mM NaCl、4mM KCl、1mM MgCl2、2mM CaCl2、4.2mM glucose、10mM HEPES、pH7.4)で1回洗浄後、細胞膜透過性蛍光Ca2+指示薬であるfluo−3AM (3μM)および30nM Pluronic F−127を含むレコーディングメディウム(+Mg2+)1ml/wellで37℃、50分間インキュべートした。細胞をレコーディングメディウム(+Mg2+)で2回洗浄したのち、レコーディングメディウム(+Mg2+)2ml/well中で、少なくとも1時間測定場所で静置して、Ca2+測定実験に備えた。 (2)刺激5分前に、上記レコーディングメディウム(+Mg2+)を、Mg2+を添加していないレコーディングメディウム(−Mg2+)に置き換えた。蛍光色素を負荷した細胞を、アルゴンレーザーを用いて488nmの光で励起させた。共焦点レーザー顕微鏡による観察は、細胞の染色終了後、1−5時間以内に行った。 (3)レコーディングメディウム(−Mg2+)中に置き換えられた神経細胞をただちに顕微鏡下へと移し、メディウム交換1分後および5分後の蛍光画像を取得した後、各フェノール系化合物を最終濃度1000μMとなるように添加した。さらに5分の後、NMDAを最終濃度100μMとなるように添加した。続いて、最終濃度10μMとなるように力ルシウムイオノフォアであるA23187を添加し、その5分後、蛍光画像を得た。試薬を添加した後の蛍光画像は1分おきに取得した。また、本実験で用いた各試薬は、使用する直前にレコーディングメディウム(−Mg2+)を用いて調製した。 (4)得られた各蛍光画像はScion Image 4.03を用いて数値化した。値は、メディウム交換後5分目の値をバックグラウンドとみなし0とし、A23187を添加した後5分後の蛍光強度を100としてグラフ化した。<NMDAによる細胞死に対するフェノール系化合物の抑制効果> 図3〜4の棒グラフに、各フェノール系化合物による細胞死抑制効果について示す。図3から知られるように、用いた3種のフェノール系化合物のいずれによっても、1mM(1000μM)の濃度条件にて、NMDAによる細胞死に対する顕著な抑制効果が見られた。図3中に示すように、99%以上の確率で有意な効果が得られた。また、細胞死抑制効果は、2−メトキシフェノール(グアヤコール)、2−メトキシ−4−メチルフェノール(2M4MP)、及び、2−メトキシ−4−エチルフェノール(2M4EP)の間で、有意な差は見られなかった。 図4の棒グラフには、図3中に示した結果とともに、各条件ごとに採用したコントロールとして、3種のフェノール系化合物単独の効果についても示している。 <力ルシウム流入に対するフェノール系化合物の抑制効果> 図5は、上記の力ルシウムイメージングにより得られたグラフである。図5から知られるように、用いた3種のフェノール系化合物のいずれによっても、1mM(1000μM)の濃度条件にて、NMDAによるカルシウムイオン流入に対し、抑制効果が見られた。特には、2−メトキシ−4−エチルフェノール(2M4EP)を用いた場合に顕著な効果が見られた。2−メトキシ−4−エチルフェノールを用いた場合、NMDAを添加する以前の段階で、カルシウムイオン流入量に与える影響も最も小さかった。 図6は、図5の15分後の状態に対応する蛍光画像である。白黒の状態で示すため、カルシウム濃度の大きいところが白く見えており、カルシウムイオン流入に対する抑制効果が、2−メトキシフェノール(グアヤコール)、2−メトキシ−4−メチルフェノール(2M4MP)、及び、2−メトキシ−4−エチルフェノール(2M4EP)の順で、大きくなっていることが、図6の蛍光画像からも知ることができる。 <in vivo における脳梗塞巣抑制効果試験> 6週齢のWistar系雄性ラット(体重150−200g、三協ラボサービス)に、1日1回carboxymethyl cellulose(CMC)およびCMCに懸濁したフェノール系化合物(2M4MP,2M4EP)を170mg/kgの用量で経口投与した。7日目の投与後に、中大脳動脈結紮術(MCAO)を行ってから、2時間経過後に血流を再開通した(図7)。血流変動はレーザードップラー血流計を用いて測定した。これらフェノール系化合物の経口投与は、いずれの場合でも動物の体重には著明な変動を与えないことが確認された(図8)。血流再開通24時間経過後に動物から全脳を摘出して、phosphate buffered saline (PBS)で洗浄後、ブレインスライサーを用いてブレグマを中心として2mmごとに新鮮脳冠状切片を作成した。この新鮮脳冠状切片を0.8% 2,3,5-triphenyl-tetrazolium chloride(TTC)により染色したのち、切片を実体顕微鏡で検鏡し、デジタルカメラを用いて写真撮影を行ってから梗塞巣の面積を算出した。その結果、CMCを連続投与した対照群動物の脳では、60%程度の梗塞巣が観察されたが、2M4MPを1日1回投与した動物群では梗塞巣が20%以下にまで有意に回復することが判明した(図9)。 次いで、神経細胞のマーカータンパク質であるmicrotubule-associated protein-2(MAP2)と、アストログリア細胞のマーカータンパク質であるglial fibrillary acidic protein(GFAP)の発現をウエスタンブロッティング法により検討したところ、MCAO負荷に伴い神経細胞マーカーのMAP2発現量は反対側の約20%にまで低下したのに対して、2M4MPを一週間連続投与した動物では、反対側の80%程度にまでMAP2発現量が回復し、2M4EPでは40%程度まで回復した(図10)。アストログリアマーカーのGFAP発現量は脳梗塞負荷に伴う有意な変化を示さないだけでなく、2M4MP、および2M4EPのいずれの投与でも有意な影響を受けなかった。以上の結果から、止瀉薬成分である2M4MPなどのフェノール系化合物を事前に経口投与すると、その後の中大脳動脈結紮による脳梗塞巣の出現が、著明に軽減されることが明らかとなった。この軽減作用は、マーカータンパク質の発現変化から推察して、アストログリア細胞よりはむしろ神経細胞に選択的に出現するものと思われる。 したがって、2M4MPなどのフェノール系化合物を含む食品や医薬品等は、各種虚血性脳疾患に伴う神経細胞変性の予防薬あるいは治療薬として有効であると考えられる。<剤型の例> 下記に、各剤型による製剤例を示す。・製剤例1(丸剤) (処方1) グアヤコール、2M4MPまたは2M4EP 5mg カンゾウ 25mg グリセリン 10mg 常水 50mg 上記処方の各成分を練合し、その丸剤塊を切丸機で分割し、製丸機で成丸し、1丸中に本発明の神経細胞の細胞死抑制剤5mgを含有する丸剤を調製した。・製剤例2(硬カプセル剤) (処方2) グアヤコール、2M4MPまたは2M4EP 10mg デンプン 250mg グアヤコール、2M4MPまたは2M4EPとデンプンを混合して混合末とし、硬カプセルに充填して1カプセル中に本発明の神経細胞の細胞死抑制剤10mgを含有する硬カプセル剤を調製した。・製剤例3(軟カプセル剤) (処方3) グアヤコール、2M4MPまたは2M4EP 10mg オリーブ油 200mg グアヤコール、2M4MPまたは2M4EPとオリーブ油に溶解して溶液を得、ソフトカプセルに充填して、1カプセル中に本発明の神経細胞の細胞死抑制剤10mgを含有する軟カプセル剤を調製した。・製剤例4(錠剤) (処方4) グアヤコール、2M4MPまたは2M4EP 20mg 乳糖 250mg メチルセルロース 3mg ステアリン酸マグネシウム 2mg カルボキシメチルセルロース 10mg 上記処方のステアリン酸マグネシウム以外の各成分を混合し、これを水と混練して顆粒とし、この顆粒を乾燥後、ステアリン酸マグネシウムと混合して圧縮成型するか、あるいは上記処方の各成分を混合して直接圧縮成型し、1錠285mgの錠剤を調製した。神経細胞の採取から播種までの手順を示した略示説明図である。神経細胞を培養し、細胞死を誘起する手順を示した略示説明図である。NMDAにより誘起される細胞死に対する各フェノール系化合物の抑制効果を示す棒グラフ図である。NMDAにより誘起される細胞死に対する各フェノール系化合物の抑制効果を示す棒グラフ図である。NMDAにより誘起されるカルシウムイオン流入に対する各フェノール系化合物の抑制効果について、経時的なイオン濃度変化により示すグラフ図である。図5の結果に対応する一連の蛍光画像の写真である。in vivo における脳梗塞巣抑制効果試験の手順を示した略示説明図である。フェノール系化合物の経口投与が動物の体重に変動を与えないことを示したグラフ図である。aは梗塞巣の面積を算出すべく、デジタルカメラを用いた図面代用写真であり、bはフェノール系化合物を経口投与することによる梗塞巣の回復度を示したグラフ図である。ウエスタンブロッティング法により判断したMAP2とGFAPの発現量を示したグラフ図である(尚、図中の縦軸の値(%)は、未処理の梗塞巣体積(contralateral)に対する処理を施した梗塞巣体積(ipsilateral)の割合を示す)。 下記の一般式(I)で示される化合物あるいはその塩を含有してなることを特徴とするNMDA受容体阻害剤。 但し、上記一般式(I)におけるR1はメチル基またはエチル基、R2は水素原子または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基であって、R1とR2は同一であっても異なっていてもよい。 前記化合物が、2−メトキシフェノール、2−メトキシ−4−メチルフェノール、及び2−メトキシ−4−エチルフェノールからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のNMDA受容体阻害剤。 脳疾患もしくは神経疾患の治療もしくは予防または疼痛の緩和ための製剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のNMDA受容体阻害剤。 請求項1または2に記載のNMDA受容体阻害剤を含有することを特徴とする健康機能性食品。 【課題】日常的な摂取に際しても安全性が高いNMDA受容体阻害剤を提供する。また、これを含有する、脳疾患もしくは神経疾患の治療もしくは予防等のための製剤または健康機能性食品を提供する。【解決手段】木クレオソートの主要成分であり、長年使用されたクレオソート製剤に含まれる、2−メトキシフェノール、2−メトキシ−4−メチルフェノール、及び2−メトキシ−4−エチルフェノールのいずれか、またはこれらの組み合わせを用いる。【選択図】なし