タイトル: | 公開特許公報(A)_5−oxo−ETE受容体を活性化するペプチドとその誘導体 |
出願番号: | 2007126063 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C07K 7/06,A61K 38/00,A61P 43/00,A61P 11/06,A61P 37/08 |
武田 茂樹 片貝 良一 山田 圭一 和泉 孝志 大日方 英 JP 2008280293 公開特許公報(A) 20081120 2007126063 20070510 5−oxo−ETE受容体を活性化するペプチドとその誘導体 国立大学法人群馬大学 504145364 西澤 利夫 100093230 武田 茂樹 片貝 良一 山田 圭一 和泉 孝志 大日方 英 C07K 7/06 20060101AFI20081024BHJP A61K 38/00 20060101ALI20081024BHJP A61P 43/00 20060101ALI20081024BHJP A61P 11/06 20060101ALI20081024BHJP A61P 37/08 20060101ALI20081024BHJP JPC07K7/06A61K37/02A61P43/00 111A61P11/06A61P37/08 1 1 OL 15 (出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究「研究成果実用化検討(FS)課題 新規アレルギー・喘息治療薬の開発」、産業活力特別措置法第30条の適用を受ける特許出願 4C084 4H045 4C084AA02 4C084AA07 4C084BA01 4C084BA08 4C084BA17 4C084BA23 4C084CA59 4C084NA14 4C084ZA592 4C084ZB132 4C084ZC422 4H045AA10 4H045AA30 4H045BA14 4H045EA20 4H045EA50 4H045FA30 4H045FA33 本発明は、5-oxo-ETE受容体を活性化する新規なペプチドとその誘導体に関するものである。 Gタンパク質共役受容体(GPCR:G-protein coupled receptor)は、光、匂い、味の受容体であると同時に、ホルモンや神経伝達物質の受容体でもあり、酵母からヒトまで、生体(細胞)の主要なセンサーとして働いている。また、現在使用されている臨床薬のうち30〜60%はGPCRを標的とするリガンドであるとも言われており、実用的見地からも重要なものである。 GPCRは細胞膜にある糖タンパク質で、細胞膜貫通セグメントを7個もつという構造的な特徴を有していることが既に解明されている。細胞外からの刺激物質(アゴニスト)を結合したGPCRは、細胞内にある3量体型Gタンパク質αGDPβγに作用して、GDPの遊離を引き起こす。次いでGTPが結合し、αGDPとβγに解離する。そして、αGDPとβγが直接Ca2+チャネルやK+チャネルに作用して神経の興奮性に影響を与えるが、その分子機構も明らかになってきている。 本発明者らは、2000年に明らかにされたヒトゲノム塩基配列から新規のGPCR遺伝子を検索した(特許文献1、非特許文献1参照)。ここで適用した検索法では、GPCRが7回膜を貫通するという共通構造をもつことと、多くのGPCRがイントロンをもたないという事実から、イントロンをもたないGPCRだけを対象とし、エキソン、イントロンの境界とは無関係に、ゲノム情報をそのままアミノ酸配列に変換し、そこから200〜1500残基からなるオープンリーディングフレーム(ORF)を抽出した。 そして、これらのアミノ酸配列を、膜貫通領域を予想するプログラムSOSUIで解析して膜貫通領域の数を調べ、6〜8個の膜貫通領域を含むORFを抽出し、得られたORFの中から既知のGPCR遺伝子とホモロジーを有する遺伝子を検索した。その結果、内在性リガンドの受容体と思われる新規のGタンパク質共役受容体50種を同定した。 さらに、これらのGPCRの内在性リガンドの同定を目指し、GPCRとGタンパク質αサブユニットの融合タンパク質(非特許文献2〜4、特許文献3参照)を用いた[35S]-GTPγS結合活性の測定によりオーファンGPCRのリガンド検索を行ったところ、上記GPCRの1つであるhGPCR48について、融合タンパク質hGPCR48-Gi1αが5-oxo-ETE(5-oxo-6,8,11,14-eicosatetraenoic acid)の用量に依存して[35S]-GTPγSの結合を増加させ、5-oxo-ETEが数nMでアゴニストとして働くことが見い出され、5-oxo-ETE受容体として同定された(特許文献2、非特許文献5参照)。 アラキドン酸代謝産物である5-oxo-ETEは、好中球や好酸球の遊走活性因子と知られており、炎症やアレルギーに関与していると考えられている。一方、hGPCR48は、好中球や好酸球を含む顆粒画分にも存在することが明らかにされている。培養細胞や好中球・好酸球を用いた実験から、hGPCR48は、走化性に関与する受容体であることが証明された(非特許文献6)。 この5-oxo-ETE受容体は、白血球の遊走に関与することから、そのリガンドはアレルギーや喘息の治療薬として利用できると考えられる。 このような背景にあって、研究用試薬、あるいは医薬とその開発への利用を目的とした5-oxo-ETE受容体の新規なリガンドが望まれている。 従来、この5-oxo-ETE受容体に対するリガンドとしては、5-oxo-ETEと、その類縁脂質、たとえば5-HPETE、5-HETE、アラキドン酸などがアゴニストとして知られている(特許文献2参照)。特開2002−112793号公報特開2004−049004号公報国際公開WO/2002/016548号パンフレットS. Takeda, S. Kadowaki, T. Haga, H. Takaesu, S. Mitaku: Identification of G protein-coupled receptor genes from the human genome sequence. FEBS Lett., 520, 97-101 (2002)Z-D. Guo, H. Suga, M. Okamura, S. Takeda, T. Haga: Receptor-Gα fusion proteins as a tool for ligand screening. Life Sci., 68, 2319-2327 (2001)S. Takeda, T. Okada, M. Okamura, T. Haga, J. Tanaka, N. Minamino: The receptor-Gα fusion protein as a tool for ligand screening; a model study using a nociceptin receptor-Gi2α fusion protein. J. Biochem. (Tokyo), 135, 597-604 (2004)S. Takeda, A. Yamamoto, T. Okada, E. Matsumura, E. Nose,K. Kogure, S. Kojima, T. Haga: Identification of surrogate ligands for orphan G protein-coupled receptors. Life Sciences, 74, 367-377 (2003)S. Takeda, A. Yamamoto, T. Haga: Identification of a G protein-coupled receptor coupled for 5-oxo-eicosatetraenoic acid. Biomed. Res., 23, 101-108 (2002)D. Koike, H. Obinata, A. Yamamoto, S. Takeda, H. Komori, F. Nara, T. Izumi, T. 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Science, 266, 2019-2022 (1994) しかしながら、これらのリガンドは脂質であるため酸化、変質が起こり易い。そのため、医薬等を目的とした研究への利用のためにはより安定なリガンドが望まれている。また、このような安定なリガンドを得ることができれば、アレルギーや喘息の治療薬として利用できる可能性がある。受容体に対するリガンド探索法としては、合成ペプチドによるコンビナトリアルライブラリを利用した方法などが知られているが(非特許文献7〜10参照)、5-oxo-ETE受容体の人工的なリガンドは得られていないのが現状である。 そこで本発明は、このような従来技術の問題点を解消し、研究用の試薬、アレルギーや喘息の治療薬のリード化合物等として利用できる、5-oxo-ETE受容体に対する新規なリガンドを提供することを課題としている。 本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。 <1> 以下のいずれかのアミノ酸配列:His Met Trp Leu Tyr Phe(配列番号1)His Met Gln Leu Tyr Phe(配列番号2)からなる、5-oxo-ETE受容体を活性化するペプチドまたはその誘導体。 上記のとおりの本発明によれば、研究用の試薬、アレルギーや喘息の治療薬のリード化合物等として利用できる、5-oxo-ETE受容体に対する新規なリガンドが提供される。 本明細書において、ペプチド中のアミノ酸を表記するために用いられるアルファベット(3文字)は、それぞれ次に示すアミノ酸を意味する。Gly:グリシン、Ala:アラニン、Val:バリン、Leu:ロイシン、Ile:イソロイシン、Ser:セリン、Thr:スレオニン、Asp:アスパラギン酸、Glu:グルタミン酸、Asn:アスパラギン、Gln:グルタミン、Lys:リジン、Arg:アルギニン、Cys:システイン、Met:メチオニン、Phe:フェニルアラニン、Tyr:チロシン、Trp:トリプトファン、His:ヒスチジン、Pro:プロリン。 本明細書において、「アゴニスト」とは、相補性の生物学的に活性な受容体に結合し、これを活性化して、受容体に生物学的な応答を引き起こすか、あるいは受容体の以前から存在する生物学的な活性を増強する生物学的に活性なリガンドを意味する。 以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の化合物は、配列番号1および配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するペプチドまたはその誘導体である。誘導体の具体例としては、N末端アミノ基とC末端カルボキシル基を保護基で置換したものを挙げることができる。具体的には、N末端アミノ酸のアミノ基がアセチル基などによりアシル化され、C末端アミノ酸のカルボキシル基がアミド化されているもの等が例示される。 本発明のペプチド化合物は、5-oxo-ETE受容体の生理的リガンド結合部位に結合して活性を示し、アゴニストとして機能する。すなわち、5-oxo-ETE受容体は、本発明のペプチド化合物と結合することで、細胞内にある3量体型Gタンパク質αGDPβγに作用してGDPの遊離を引き起こす。次いでGTPが結合し、αGDPとβγに解離することで、後続する生理作用を誘起する。また、細胞内のカルシウム濃度を上昇させ、細胞の遊走を引き起こす。 本発明のペプチド化合物は、固相法、液相法など常法により合成することができる。 本発明のペプチド化合物により活性化される5-oxo-ETE受容体は、そのアミノ酸配列が既に同定されており、配列情報を入手することができる。また、既に報告されている5-oxo-ETE受容体のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるもの等であっても、GPCRとしての活性作用を同様に示すものであれば、それらも本明細書における5-oxo-ETE受容体に包含される。 5-oxo-ETE受容体は、そのDNA配列情報等に基づき公知の方法で調製することができる。たとえば、ヒト由来の5-oxo-ETE受容体タンパク質遺伝子は、ヒト遺伝子ライブラリーやヒトcDNAライブラリーなどから公知の方法により調製することができ、これを用いて5-oxo-ETE受容体を得ることができる。 5-oxo-ETE受容体活性は、5-oxo-ETE受容体とGタンパク質αサブユニットの融合タンパク質を用いたリガンド検索系により測定することができる。この方法は、GPCRのリガンド検索法として既に確立されているものであり(特開2004-049004号公報、Biomed. Res., 23, 101-108, 2002等)、GDPと[35S]-GTPγSの存在下で融合タンパク質の受容体部分に被検化合物を作用させ、融合タンパク質に結合した[35S]-GTPγSの量を指標として、5-oxo-ETEに対するアゴニストのスクリーニングを行うことができる。 具体的には、最初に5-oxo-ETE受容体の遺伝子とGα遺伝子との融合タンパク質遺伝子を構築する。この融合タンパク質遺伝子は、たとえば以下のようにして構築することができる。既に報告されている5-oxo-ETE受容体タンパク質の遺伝子情報に基づいて、受容体遺伝子cDNAの5'末端側および3'末端側の塩基配列をもとに、PCR用プライマーを設計・合成する。このとき、3'末端側のプライマーは、融合タンパク質遺伝子作製のため、終止コドンを除いておく。これらのプライマーを用いて、発現組織のcDNAまたはゲノムDNAを鋳型として、PCRにより遺伝子増幅を行い、受容体遺伝子の全長cDNAを得る。 次に、Gαサブユニットの遺伝子情報より、5'末端側および3'末端側の塩基配列に基づいて設計・合成したPCR用プライマーを用いて、GαサブユニットのcDNAを組み込んだプラスミドを鋳型に、PCRにより遺伝子増幅を行い、Gα遺伝子の全長cDNAを得る。このとき、融合タンパク質遺伝子の作製のために、5'末端側のプライマーに、その上流に終止コドンを除いた受容体遺伝子cDNAの3'末端側の塩基配列を付け加えておくことが好ましい。また、受容体遺伝子とGα遺伝子の間に制限酵素認識配列などの塩基配列を追加してもよい。 そして、得られたPCR産物、すなわち受容体遺伝子cDNAとGα遺伝子cDNAの共存下でPCRを行い、融合タンパク質遺伝子を作製し、これを鋳型として、受容体遺伝子の5'末端側プライマーとGα遺伝子の3'末端側のプライマーを用いてPCRにより遺伝子増幅を行うことにより、5-oxo-ETE受容体タンパク質の遺伝子とGα遺伝子との融合タンパク質遺伝子を構築することができる。 次に、得られた融合タンパク質を昆虫細胞等に発現させる。たとえば、融合遺伝子をバキュロウイルスベクターに組み込み、この融合遺伝子を有するウイルスを昆虫細胞Sf9に感染させ、5-oxo-ETE受容体-Gi1α融合タンパク質を発現させることができる。発現ベクターを含む形質転換細胞の培養条件、たとえば温度、培地のpHおよび培養時間は、当業者であれば適宜に選択することができ、目的のペプチドが大量に生産されるように適宜に選択される。 この融合タンパク質を含む膜画分にアゴニストを加えると、受容体につづいてGタンパク質αサブユニット部分が活性化されるが、GαにはGTPase活性があるので、活性化に際してGαサブユニットからのGDPの解離が促進されGTPが結合する。そこでこのリガンド検索系では、GTPの代わりに[35S]-GTPγS(GTPγSは、GTPのγ位のOがSに置換されたGTPアナログである。)を用い、この取り込まれた[35S]-GTPγSの量をシンチレーションカウンターで測定し、定量化する。 すなわち、5-oxo-ETE受容体-Gα融合タンパク質を発現した細胞膜の懸濁液と、被検化合物と、[35S]-GTPγSを反応させた後、遊離の[35S]-GTPγSを除去し、融合タンパク質に結合した[35S]-GTPγSをシンチレーションカウンターによって測定し、被検化合物の濃度増加に対する[35S]GTPγSの結合増加を指標としてリガンド活性を測定することができる。 上記した一連の過程はキット化されており、リガンドスクリーニングに96ウェルプレート等を用いて簡便に行うことができる。 そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例示によって発明が限定されることはない。<実施例1>(1)Ac- His Met Trp Leu Tyr Phe -NH2(配列番号1)の合成 Rink Amide AM Resin(樹脂への導入率0.63 mmol/g 200 mg/バイアル)を用いてC末端をアミドとし、Fmoc基を保護基とした手動固相合成法でペプチド合成を行った。 樹脂Fmoc基の除去は次の方法で行った。各バイアル(計19本)に樹脂を200 mg入れて、20 % piperidine/DMF(2 mL)を加え20分振とうした。振とう終了後、樹脂をDMF(2 mL)で3回洗浄した。 アミノ酸の樹脂への導入は次の方法で行った。アミノ酸のFmoc誘導体(0.63 mmol 5eq)とHBTU(239 mg 0.63 mmol 5 eq)を2 mL程度のDMFに溶解し、HOBt(96 mg 0.63 mmol 5 eq)とDIEA(214 μL 1.26 mmol 10 eq)を加えて室温で5分間ほど撹拌した。この溶液をバイアルに加えて約1時間振とうさせた。振とう終了後、バイアルから溶液を吸引除去しDMF(2 mL)で3回洗浄した。 縮合反応の進行はニンヒドリンによる未反応アミノ基の検出により確認した(Sarin et al., 1981)。反応後の樹脂を数十粒採り、ニンヒドリン/EtOH溶液(500 mg/10 mL)、Phenol/EtOH溶液(80 mg/20 mL)、KCN/Pyridine溶液(1mM KCN aq./pyridine(0.5 mL/25 mL))を各3滴ずつ加えて沸騰水中で約5分間加熱した。加熱後の呈色を観察し縮合反応の進み具合を確認した。試験結果が陽性(未反応のアミノ基有)の場合には、再度縮合反応を行った。 合成操作の例を表1に示す。 N末端のアセチル化は次の方法で行った。第六アミノ酸まで導入した樹脂に20 % piperidine/DMF(2 mL)を加え20分振とうし、Fmocを除去した。振とう終了後、樹脂をDMF(2 mL)で3回洗浄した。無水酢酸(12 μL 126 μmol)、DIEA(1 μL 4.8 μmol)、DMF(2 mL)を加えて約2時間振とうさせた。振とう終了後、バイアルから溶液を吸引除去しDMF(2 mL)で3回洗浄した。反応の進行はニンヒドリン試験で確認した。 次いで、樹脂からペプチドを単離し側鎖保護基を除去した。TFA(660 μL 88%)、Phenol(38 μL 5%)、H2O(38 μL 5%)、TIS(15 μL 2%)溶液を樹脂に加えて約2時間振とうさせた。振とう終了後、樹脂をフィルターでろ過し、少量のTFAで洗浄した。このろ液をエーテルの入った試験管で受け取り、沈殿を析出させた。8,000 rpm、4 ℃で5分間遠心分離し、TFAの臭いが無くなるまでデカントを繰り返し、沈殿を減圧乾燥した。 以上のようにして得られた粗ペプチドを、セップパックC18カラムで粗精製した。C18カラムを10 % CH3CN with 0.1 % TFA(1 mL)で平衡化した。粗ペプチドを10 % CH3CN with 0.1 % TFA(1 mL)に溶かし、平衡化したカラムに充填した。そのカラムを10 % CH3CN with 0.1 % TFA(1 mL)で2回洗浄し、80 % CH3CN with 0.1 % TFA(1 mL)で2回溶出させた。溶出液を減圧乾燥し、ペプチドライブラリーサンプルとした。 ペプチドの精製は次の方法で行った。JASCO HPLC system(pump:PU-2089plus, UV detector:UV-2075plus, control software:JASCO-BROWIN Chromatography software ver 1.50)にて測定を行い、カラムはYMC-pack, ODS, R&D(6.0×250 mm)を用い、0.1% TFA(v/v)を含むH2O - CH3CN系溶媒にてグラジエント溶出した。 得られたペプチドは、質量分析により構造を同定した。質量分析はPerkin Elmer Sciex API-100 Electrospray ionization mass spectorometry(ESI-MS)を用いて行った。サンプル濃度は10〜100 μMで、陽イオンモードにて測定した。(2)GTPγS結合促進活性の測定(2-1)5-oxo-ETE受容体の発現 75 cm2ディッシュに3×106 cells/mL以上に培養したSf9細胞を3 mL、培地9 mLを加え27 ℃で約1時間インキュベートした。ディッシュに細胞が張り付いたら上清を捨て、新しい培地12 mLを加え、5-oxo-ETE受容体-Gα融合遺伝子をもった組み換え体バキュロウイルス液2 mLを加えて27 ℃で48 時間インキュベートした。インキュベート後、滅菌済みのピペットでピペッティングをし、ディッシュに張り付いた細胞をはがした。その培養液をファルコンチューブに移し、3,000 rpm、4 ℃、15分間遠心した。デカンテーションで上清を捨て、沈殿を−80 ℃で保存した。(2-2)膜画分の調製 −80 ℃で保存しておいた上記の受容体発現細胞を取り出し、homogenizing bufferを30 mLほど加え沈殿をはがした。それを50 mLのポッター型ホモジナイザーに移し、ホモジナイズを10回以上行った。ホモジナイズした細胞を40 mL遠心管に移し、20,000 rpm、4 ℃、2時間超遠心した。超遠心後、上清を捨て、沈殿にhomogenizing bufferを10 mL加えた。スパチュラなどで沈殿を浮き上がらせ、ポッター型ホモジナイザーで5回ほどホモジナイズした。得られた膜画分を1 mLずつ1.5 mLチューブに分注して−80 ℃で保存した。 上記のようにしてSf9細胞で発現させた、GPCRのC末端側とGαサブユニットのN末端側を融合させた融合タンパク質は、αサブユニットに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、GPCRとαサブユニットの発現を同時に確認した。(2-3)[35S]GTPγS binding assay [35S]GTPγS binding assayはGPCR-Gα融合タンパク質へのアゴニスト依存性の[35S]GTPγS結合促進活性を測定し定量化することでリガンド活性を調べる方法である。GPCRにアゴニストが結合すると、GPCRの活性化に続き、三量体Gタンパク質のαサブユニットが活性化される。通常αサブユニットにはGDPが結合しているが、活性化状態となった受容体との結合により、GTPとの交換反応が起こる。αサブユニットは自身のGTPase活性によりGTPを加水分解し、αGDPとなると遊離していたβγサブユニットと結合し不活性型となる。 活性測定の際にGTPの代わりに[35S]GTPγSを用いることで、GTPase活性によるGDPへの加水分解が起こらずにαサブユニットに結合したままの状態になる。こうして取り込まれた[35S]GTPγSの量をシンチレーションカウンターで測定し、定量化することでリガンドの活性がわかる。 表2に示す反応液等を用いて次の操作を行いリガンド活性を測定した。 96 ウェルプレートに反応液を順に加え、全て加え終わった後に蓋をしてプレートの端を軽くたたいて混合した。次いで30 ℃で30分インキュベートした。 ハーベスターにフィルター(GF/B filter)をセットし、20 mM KPBで1回洗浄してから受容体に結合した[35S]GTPγSをGF/B filterに回収した。その後20 mM KPBで3回洗浄した。 フィルターを60 ℃で15分乾燥させてバイアルに入れ、バイアルにカクテル(DPO 12 g, POPOP 0.3 g for 3 Lトルエン)1 mLを加えた。GF/B filterに残存している[35S]GTPγSを液体シンチレーションカウンターで測定した。 測定結果を図1に示す。なお、リガンドとして5-oxo-ETEを用いた測定結果を合わせて示した。同図に示されるように、このペプチド誘導体は50 μMのEC50を示した。(3)遊走活性測定(3-1)リガンド溶液の調製 培地(serum free,0.1 % BSA)に上記(1)で合成したペプチド誘導体を溶解、希釈した。ボイディングチャンバーと調製した34 μL/wellリガンド溶液を37 ℃で保温した。(3-2)フィブロネクチン溶液の調製 15 mLのPBSに150 μLのフィブロネクチン(1 mg/mL(×100濃度))を混合し、フィブロネクチン溶液(10 μg/mL)を調製した。(3-3)ポリカーボネイトフィルターの前処理 hybridyzation bagにポリカーボネイトフィルターと15 mLのフィブロネクチン溶液(10 μg/mL)を入れ、空気が入らないように口を塞ぎ、室温で30分インキュベートした。(3-3)細胞の調製 5-oxo-ETE受容体を発現させたハムスター由来のCHO細胞を培養したものを用意し、ディッシュに接着した細胞をPBSで洗浄した。PBS(1 mM EDTA)をΦ10 cm ディッシュ1枚当たり5 mL添加し、CO2インキュベーターで10分インキュベートした。 セルスクレーパーで細胞を剥がし、細胞懸濁液を15 mLチューブへ移して2000 rpm、20 ℃で5分間遠心分離した。上清を除去し、タッピングでpptをほぐした。さらに、10 mLの培地(serum free、0.1 % BSA)を添加し、2000 rpm、20 ℃で5分間遠心し、上清を除去し、タッピングでpptをほぐす操作を2回繰り返した。 次いで、適量の培地(serum free、0.1 % BSA)を添加し、セルカウンターで細胞数を計測して8×104 cells/well/200μLとなるように希釈し、細胞懸濁液を調製した。(3-4)遊走活性測定 ボトムチャンバーに34 μL/wellでリガンドサンプルの分注を行い、トップチャンバーにポリカーボネイトフィルターをセットした。トップチャンバーをボトムチャンバーにセットし、ネジで固定した。 次いで、細胞懸濁液を200μl(8×104 cells/well)ずつ各ウェルに添加し、CO2インキュベーターで4時間インキュベートした。その後、トップチャンバーに分注された細胞懸濁液を除去(デカンテーション)し、ネジを外してポリカーボネイトフィルターを取り出した。 ポリカーボネイトフィルターを、リガンド面(ボトムチャンバー側)が上を向くようにトレイに置き、細胞固定液を添加して2分放置した。次いでポリカーボネイトフィルターを所定の染色液の入った別のトレイに移し、2分放置した後、さらにポリカーボネイトフィルターを所定の染色液の入った別のトレイに移し、2分放置した。 ポリカーボネイトフィルターを蒸留水で2回洗浄した後、ポリカーボネイトフィルターの細胞面(トップチャンバー)側を拭き取り風乾した。 次いで、プレートリーダーでABS(585 nm)を計測した。ペプチドを100 mMで作用させた時の結果を図2に示す。なお、リガンドとして100 nMの5-oxo-ETEを用いた測定結果を合わせて示した。この試験では、585 nmの吸収増加は、5-oxo-ETE受容体を発現した細胞がリガンドに向かって遊走したことを示している。同図に示すように、このペプチド誘導体は遊走活性を示した。(4)細胞内カルシウム濃度測定 5-oxo-ETE受容体を発現させたハムスター由来のCHO細胞の細胞内カルシウム濃度測定用の懸濁液を調製した。ローディングバッファーは表3の組成のものを使用した。 Φ10cmnディッシュ1枚分(1〜5×106/mL/10mL)程度の細胞を用意し、トリプシン(0.25%)で細胞を剥がし、10 % serum入りの培地10 mLを加えて懸濁した。これを15 mLチューブへ移し、1000 rpm、25 ℃で5分間遠心し、アスピレーターで上清を除去した。 次いでHTBを10 mL加えて懸濁し、1000 rpm、25 ℃で5分間遠心し、アスピレーターで上清を除去した。これにローディングバッファー 5 mLを加えて懸濁し、5 % CO2、37 ℃で1時間インキュベートした。 その後、1000 rpm、25 ℃で5分間遠心し、アスピレーターで上清を除去した。これにHTB 10 mLを加えて懸濁し、1000 rpm、25 ℃で5分間遠心し、アスピレーターで上清を除去した。これにHTB 2 mLを加えて懸濁し、細胞懸濁液を調製した。 キュベットへこの細胞懸濁液600μLを加えて測定器へセットし、F340/F380として510nmの蛍光強度比の測定を開始した。上記(1)で合成したペプチド誘導体のリガンド溶液(×100濃度)6 μLをシリンジに入れ、キュベットへ打ち込んだ。その後、適宜にATPなどのポジティブコントロールを連続注入し、蛍光測定を行った。 ペプチドを100 mMの濃度で作用させた測定結果を図3に示す。なお、リガンドとして100 nMの5-oxo-ETEを用いた測定結果を図4に示した。図3に示されるように、このペプチド誘導体により受容体とGタンパク質が活性化されて細胞内のカルシウム濃度変化が起こった。<実施例2> 実施例1の(1)に示した操作によってAc- His Met Gln Leu Tyr Phe -NH2(配列番号2)の合成を行い、このペプチド誘導体について(2)GTPγS結合促進活性の測定、(3)遊走活性測定、(4)細胞内カルシウム濃度測定を行った。 図1に示されるように、このペプチド誘導体は146 μMのEC50を示した。また、図2に示されるように、このペプチド誘導体は遊走活性を示した。また、図3に示されるように、このペプチド誘導体により受容体とGタンパク質が活性化されて細胞内のカルシウム濃度変化が起こった。<比較例1> 実施例1の(1)に示した操作によってAc- His Met Gln Leu Asp Phe -NH2の合成を行い、このペプチド誘導体について(2)GTPγS結合促進活性の測定、(3)遊走活性測定、(4)細胞内カルシウム濃度測定を行った。 図1に示されるように、このペプチド誘導体はGTPγS結合促進活性を示さず、図2,図3に示されるように、100 mMの濃度では遊走活性を示さず細胞内のカルシウム濃度変化も起こらなかった。 また、実施例1の(1)に示した操作によって、表4に示すNo.1〜16、19〜31、33〜41のペプチド誘導体(アミノ酸配列は1文字表記で示している。)の合成を行い、これらのペプチド誘導体について実施例1と同様に(2)のGTPγS結合促進活性の測定を行ったが、いずれのペプチド誘導体も10 mMの濃度でも活性を示さなかった。GTPγS結合促進活性の測定結果を示すグラフである。遊走活性の測定結果を示すグラフである。3種類のペプチドはそれぞれ100 mMの濃度を用い、5-oxo-ETEは100 nMの濃度を用いた。細胞内カルシウム濃度の測定結果を示すグラフである。3種類のペプチドはそれぞれ100 mMの濃度を用い、矢印の時間に作用させた。5-oxo-ETEをリガンドとした場合における細胞内カルシウム濃度の測定結果を示すグラフである。5-oxo-ETEは100 nMの濃度を用いて矢印の時間に作用させた。 以下のいずれかのアミノ酸配列:His Met Trp Leu Tyr Phe(配列番号1)His Met Gln Leu Tyr Phe(配列番号2)からなる、5-oxo-ETE受容体を活性化するペプチドまたはその誘導体。 【課題】研究用の試薬、アレルギーや喘息の治療薬のリード化合物等として利用できる、5-oxo-ETE受容体に対する新規なリガンドを提供する。【解決手段】以下のいずれかのアミノ酸配列:His Met Trp Leu Tyr Phe、またはHis Met Gln Leu Tyr Pheからなる、5-oxo-ETE受容体を活性化するペプチドまたはその誘導体。これらのペプチド化合物は、固相法、液相法など常法により合成することができ、5-oxo-ETE受容体の生理的リガンド結合部位に結合して活性を示し、アゴニストとして機能する。【選択図】図1配列表