生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_可溶性架橋ヒアルロン酸含有眼用組成物
出願番号:2007100561
年次:2008
IPC分類:A61K 31/728,A61P 27/02


特許情報キャッシュ

上田 修 松井 良幹 小原 健男 石田 雅美 JP 2008255061 公開特許公報(A) 20081023 2007100561 20070406 可溶性架橋ヒアルロン酸含有眼用組成物 株式会社資生堂 000001959 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 上田 修 松井 良幹 小原 健男 石田 雅美 A61K 31/728 20060101AFI20080926BHJP A61P 27/02 20060101ALI20080926BHJP JPA61K31/728A61P27/02 7 2 OL 11 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA25 4C086MA01 4C086MA04 4C086MA16 4C086NA14 4C086ZA33 本発明は、可溶性架橋ヒアルロン酸を含有する眼用組成物、特に角膜保護剤に関する。 高齢化社会の到来、更にはテレビやワープロ、パソコンなどのOA機器の普及に伴う眼の酷使により、眼の乾き、即ちドライアイの症状を示す患者あるいは擬似患者が益々増加するものと予想される。ドライアイとは、涙液の減少やその成分の質的変化が原因で眼の表面が乾き、傷等の障害が生じる疾患であり、目が痛くなったり、疲れたり、まばたきがふえたり、白目が充血したりする症状が伴う。また、傷から細菌が入り込んで感染したり、傷が深くなって視力が低下するおそれもある。ドライアイの原因は、眼の酷使の他に、シェーグレン症候群、スティーブンスジョンソン症候群、目の熱傷および外傷、血圧降下剤、精神安定剤、緑内症治療用点眼剤などの薬による副作用等、様々である。ドライアイの治療には点眼剤の点眼が有効であり、現在ヒアルロン酸を主成分とするドライアイ治療用眼薬が注目され、よく使用されている。 ヒアルロン酸は生体由来の高分子物質であり、高い増粘性、粘弾性、曳糸性等の特異的な物性、及び極めて高い保水性を有し、各種皮膚外用剤等に保湿剤として用いられている。現在ヒアルロン酸を主成分とする点眼剤も注目され、よく使用されている。例えば、特開昭62−64802号公報(特許文献1)はヒアルロン酸の誘導体、詳しくはカルボキシル基の部分エステル化されたヒアルロン酸を開示し、それが眼薬中の薬剤の担体として有効である旨示唆している。しかしながら、このようなカルボキシル基部分エステル化ヒアルロン酸誘導体を担体として含有する眼薬が、長期間の保水効果維持を要するドライアイ用眼用組成物に有効であるかは確認されていない。特開平1−238530号公報(特許文献2)はヒアルロン酸を含有する角膜上皮層障害治療剤を開示する。しかしながら、ヒアルロン酸の角膜上での滞留時間は比較的短いため、患者は頻回に点眼を要するため負担が大きい。 従って、長期間効果を持続し、その結果点眼回数も減らせ、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を向上させることのできる眼用組成物が望まれる。特に、全身が乾燥するといった症状を示すシェーグレン症候群におけるドライアイの場合、軽度な症状にはこのヒアルロン酸含有点眼剤の点眼のみで有効であるが、症状が重篤な場合、ヒアルロン酸点眼剤の点眼では十分な効果があげられず、涙点プラグ等による涙道閉鎖といった治療を併用する場合がある。特開昭62−64802号公報特開平1−238530号公報 本発明は、従来のヒアルロン酸点眼薬よりも角膜上皮層保護効果及びその持続性(主薬の涙液内滞留性)に優れた有用性の高い眼用組成物の提供を課題とする。 驚くべきことに本発明者は、架橋化させたヒアルロン酸を眼用組成物として用いると、その可溶性架橋ヒアルロン酸はヒアルロン酸やアセチル化ヒアルロン酸誘導体に比べ優れた角膜保護効果を示し、またその点眼後の滞留性にも優れることがわかった。 従って、本発明は、可溶性架橋ヒアルロン酸と医薬的に許容される担体とを含有する眼用組成物、特に角膜保護剤を提供する。好ましくは可溶性架橋ヒアルロン酸は、平均分子量5,000以上、100,000未満のヒアルロン酸を原料とし、原料ヒアルロン酸の構成二糖単位に対し架橋剤を0.01〜3.0当量使用することで架橋したものであるか、又は平均分子量100,000以上、3,000,000以下のヒアルロン酸を原料とし、原料ヒアルロン酸の構成二糖単位に対し架橋剤を0.01以上、0.5未満当量使用することで架橋したものである。好適な態様において、かかる眼用組成物はドライアイの治療又は予防に利用され、より好適な態様においては、それはドライアイ用点眼剤である。 可溶性架橋ヒアルロン酸を使用することで、ヒアルロン酸含有のものと比べ、角膜保護効果に優れ、またより長期間にわたり角膜上に留まって保護効果を発揮する眼用組成物の提供が可能となる。 本発明に係る可溶性架橋ヒアルロン酸はヒアルロン酸、その誘導体又はその塩を架橋剤で架橋することで調製することができる。本発明でいう「ヒアルロン酸」とは、その遊離形態のみならず、その塩、例えばナトリウムイオン、カリウムイオンなどといった陽イオンとで形成される塩、あるいはその誘導体、例えばアセチル化ヒアルロン酸などをも包含する。使用する架橋剤は特に制限されるものではないが、ヒアルロン酸分子を架橋させる作用を有し、洗浄工程によって十分に除去可能なものであれば特に制限されず、例えば、エーテル、エステルもしくはアミド結合を生じる二官能性又は多官能性の従来公知の架橋剤を用いることが可能である。架橋剤として、本発明において好ましくは、ジ−又はポリ官能基エポキシドが用いられる。ジ−又はポリ官能基エポキシドとして、具体的には、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルなどが挙げられ、特にその安全性の面から1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルが好ましく用いられる。 本発明に係る架橋ヒアルロン酸は水性媒体において「可溶性」であることを条件に角膜保護効果を発揮するものと考えられる。即ち、架橋ヒアルロン酸の可溶性が低く、それを水性媒体に溶解・分散させたときに沈殿物を顕著に形成するような場合、十分な角膜保護効果は期待できないと考えられる。従って、架橋ヒアルロン酸の可溶性に及ぼす架橋剤と原料ヒアルロン酸分子量との関係は、原料分子量が大きいほど、架橋剤の量を少なくする、即ち架橋率を低く設定するのが好ましい。例えば、原料ヒアルロン酸の平均分子量が約100,000〜3,000,000といった比較的高めの分子量の場合、原料ヒアルロン酸の構成二糖単位に対し架橋剤の使用量を0.01〜0.50モル当量程度、好ましくは0.01〜0.10モル当量程度の範囲にすることで、架橋ヒアルロン酸の沈殿の生成を抑えることができ、優れた角膜保護効果が期待できる。また、原料ヒアルロン酸の平均分子量が約5,000〜100,000といった比較的低めの分子量の場合、原料ヒアルロン酸の構成二糖単位に対し架橋剤の使用量を0.01〜3.00モル当量、好ましくは0.01〜0.50モル当量程度の範囲にすることで、架橋ヒアルロン酸の沈殿の生成を抑えることができ、優れた角膜保護効果が期待できる。 図1には架橋ヒアルロン酸の可溶性に及ぼす架橋剤量と原料ヒアルロン酸分子量との関係を示す。図の座表中の架橋剤モル当量=616×(MW)-0.639の式で表される直線よりも下方の領域に属する条件を架橋剤量及び原料ヒアルロン酸(HA)の分子量(MW)が満たす場合(可溶性架橋HA領域)、得られる架橋ヒアルロン酸は可溶性である。要するに、以下の式を満たす場合、得られる架橋ヒアルロン酸は可溶性である。 架橋剤モル当量≦616×(MW)-0.639 尚、原料ヒアルロン酸の分子量MWは極限粘度測定法により算出することができる。 架橋ヒアルロン酸の調製方法は当業者に周知であり、特に限定されるものではないが、例えば下記のとおりにして行うことができる。まず原料ヒアルロン酸を塩基性水溶液に溶解し、次いで架橋剤を添加し、適当な時間攪拌を行う。架橋反応条件は原料ヒアルロン酸の分子量や使用する架橋剤に量に依存するが、例えば25℃で1〜5日、好ましくは2、3日間かけて行う。生成された架橋ヒアルロン酸を取り出し、生理食塩水などに溶解し、必要であればpHを6〜8程度に調整する。生成された架橋ヒアルロン酸がゲル状になっている場合、生理食塩水などで洗浄し、ゲルを膨潤させ、必要であればpHを6〜8程度に調整する。ゲル状の架橋ヒアルロン酸をテフロン(登録商標)ホモジナイザーなどを用いて破砕し、溶液状にすることができる。この場合、ゲルをホモジナイザー容器に投入し、冷水中にて例えば3,000rpm、20分間処理することにより可溶性架橋ヒアルロン酸を得ることができる。 架橋ヒアルロン酸の溶解性の確認は、例えば各濃度の架橋ヒアルロン酸の生理食塩水溶液もしくは架橋剤配合量の各条件にて調製した架橋ヒアルロン酸の生理食塩水溶液について、アルシアンブルー水溶液を加えよく振り混ぜた後、遠心分離し、分離後の沈殿の有無を確認することで行うことができる。 本発明の可溶性架橋ヒアルロン酸は角膜の上を覆い、角膜の乾燥による障害を予防することで角膜保護効果を発揮するものと考えられる。本発明の眼用組成物は角膜上皮障害、例えば乾燥などが原因となる角膜炎、特にドライアイの治療・予防、細菌性角膜感染症、角膜真菌証、アメーバ角膜炎、ヘルペス角膜といった角膜感染症の治療・予防、角膜ヘルペス、白内障手術、角膜移植術、脳外科での外科的侵襲および糖尿病等に伴う遷延化した角膜欠損の治療などに有効である。本発明の眼用組成物は、点眼剤、眼洗浄剤、眼軟膏剤等の剤型として使用される。 本発明の眼用組成物中の架橋ヒアルロン酸の含量は、当該保護剤の総容積(又は総質量)を基準に、0.001〜10質量/容積(質量)%、好ましく0.01〜5質量/容積(質量)%、より好ましくは0.03〜1質量/容積(質量)%である。なお、架橋ヒアルロン酸濃度は、液状の点眼剤及び眼洗浄剤の場合には質量/容積(w/v)%を意味し、固状の眼軟膏剤の場合には質量/質量(w/w)%を意味する。 本発明の眼用組成物のpHは中性付近が好ましく、通常pH6.5〜7.5とする。浸透圧は、生理食塩水に対して0.5〜4.0圧比程度に調整するのが好ましく、1.0〜1.5圧比がより好ましい。pHや浸透圧の調節には点眼剤に慣用されている手段が利用される。 本発明の眼用組成物は、その剤形に依存して慣用の医薬的に許容される担体を併用することができる。点眼剤及び眼洗浄剤の担体としては慣用の点眼剤及び眼洗浄剤に使用されるものであればよく、精製水が好ましい。 本発明の眼用組成物には、任意的に、架橋ヒアルロン酸以外の糖質、電解質、アミノ酸、ビタミン、脂質、医薬品添加物、医薬品等の各種成分が配合されていてよい。そのような成分の例には、例えば、糖類、例えばグルコース、マルトース等、オリゴ糖、マンニトール、糖アルコール類、例えばソルビトール等;電解質、例えば塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等;アミノ酸、例えばグリシン、アラニン等;ビタミン類、例えば塩酸チアミン、リン酸リボフラビンナトリウム、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸アミド、葉酸、ビオチン、ビタミンA、L−アスコルビン酸、α−グリコシルアスコルビン酸等及びそれらの誘導体が挙げられ、必要に応じてこれらを適宜組合せて配合してよい。 更に、通常の点眼剤および眼洗浄剤に使用される添加剤、例えば保存剤、例えばパラオキシ安息香酸メチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム等;安定化剤、例えばエデト酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等;緩衝剤、例えば硼砂、硼酸、炭酸水素ナトリウム等;増粘剤、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、ポリビニルアルコール、プルラン等;溶解補助剤、例えばポリソルべート80等;を配合してよい。 本発明の眼用組成物が眼軟膏剤である場合、慣用の医薬的に許容される軟膏担体を使用でき、具体的には、眼用白色ワセリン、プラスチベース等を例示できる。添加剤としては、流動パラフィン等を使用してよい。さらに、本発明の眼用組成物には、必要に応じて、メチルプレドニゾロン等のステロイドホルモン、テトラサイクリン等の抗炎症剤、ペニシリンG等の抗生物質、サイクロスポリン等の免疫抑制剤、免疫調節剤、鎮痛剤、自己血清、ヒアルロン酸等の医薬品を適宜組合せて配合してもよい。 本発明の眼用組成物の用法・用量は、患者の症状により適宜調整することができる。点眼剤の場合には、通常、1回数滴、例えば1〜3、4滴程度を、1日1回〜数回、例えば1〜6回、好ましくは1〜3回程度点眼すればよい。眼洗浄剤の場合には、眼洗浄専用容器や洗瓶などを使用して適用で1日1回〜数回、例えば1〜6回、好ましくは1〜3回程度洗浄すればよい。眼軟膏剤の場合には1日1〜3回程度適量を結膜嚢内に塗布して使用すればよい。 以下に本発明の限定でない実施例を提供する。 架橋ヒアルロン酸の調製 精製水10.875mlに2Nの水酸化ナトリウム溶液0.625mlを加えて塩基性水溶液を調製し、それにヒアルロン酸1gを添加して溶解した。ヒアルロン酸としては、分子量約0.8万、分子量約3万及び約86万のもの3種類を使用した。このヒアルロン酸溶液に架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)を添加し、約1時間攪拌した。架橋剤の添加量は、原料ヒアルロン酸1モルに対し、0.01、0.03、0.1、0.3、0.5、1.0モル当量とした。この溶液を25℃で72時間架橋反応させた後、生理食塩水で洗浄することにより架橋ヒアルロン酸を調製した。 ゲル状となった架橋ヒアルロン酸はテフロン(登録商標)ホモジナイザー(DIGITAL HOMOGENIZER,HOM型,井内盛栄堂製)を用いて破砕した。ゲルをホモジナイザー容器に投入し、冷水中にて3000 rpm,20分間処理することにより架橋ヒアルロン酸破砕ゲルを得た。架橋ヒアルロン酸の溶解性の確認 各濃度の架橋ヒアルロン酸の生理食塩水溶液、もしくは架橋剤配合量の各条件にて調製した架橋ヒアルロン酸を0.3%含有した生理食塩水溶液について,それぞれ10gに対して0.1%アルシアンブルー水溶液を200μL加えよく振り混ぜた後,4000rpmで2分間遠心分離し,分離後の沈殿の有無を確認した. その結果を以下の表に示す。 この表から明らかなとおり、原料ヒアルロン酸分子量が大きいほど(約86万)、架橋率を変えることで可溶性の受ける影響は大きいことがわかる。 図1には架橋ヒアルロン酸の可溶性に及ぼす架橋剤量と原料ヒアルロン酸分子量との関係を示す。図の座表中の架橋剤モル当量=616×(MW)-0.639の式で表される直線よりも下方の領域に属する条件を架橋剤量及び原料ヒアルロン酸(HA)の分子量(MW)が満たす場合(可溶性架橋HA領域)、得られる架橋ヒアルロン酸は可溶性である。要するに、以下の式を満たす場合、得られる架橋ヒアルロン酸は可溶性である。 架橋剤モル当量≦616×(MW)-0.639 尚、原料ヒアルロン酸の分子量MWは極限粘度測定法により算出することができる。架橋ヒアルロン酸の角膜上皮層保護効果の実験方法<実験1:ヒアルロン酸、アセチル化ヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸の比較試験方法> 検体として、実験当日に食肉用として屠殺された雑種ブタ摘出眼球を東京芝浦臓器株式会社より購入した。被験液は生理食塩水、0.3%ヒアルロン酸(HA)液(分子量約86万)、0.3%アセチル化ヒアルロン酸(AcHA)液(分子量約3万)及び0.3%架橋ヒアルロン酸(架橋HA)(原料ヒアルロン酸:分子量約86万、架橋0.1モル当量)を使用し、それぞれ被験群とした。また、投与液を点眼せず、室内で乾燥のみさせる風乾群を設定した。なお、試験は恒温・恒湿室(25℃、相対湿度50%)で実施した。 摘出眼球には被験液50μLを60分間毎に計4回点眼し、最終点眼からさらに60分風乾した。これに0.1%メチレンブルー液を点眼して乾燥により障害を受けた細胞を染色し、さらに生理食塩水で眼球を洗浄した。次に眼球から角膜を採取し、飽和硫酸ナトリウム/アセトン(3:7)溶液500μLを加えて12時間浸漬することにより色素を抽出し、この抽出液の吸光度(660nm)を測定した。 その結果を図2に示す。この図から明らかなとおり、架橋ヒアルロン酸は未架橋のヒアルロン酸やアセチル化ヒアルロン酸に比べ、乾燥による細胞障害を強く抑制し、よって優れた角膜保護効果を示すことがわかる。<実験2:濃度依存性試験> 被験液として架橋ヒアルロン酸(原料ヒアルロン酸分子量約86万;架橋率0.1モル当量)を濃度0.03%、0.1%及び0.3%にて用い、実験1と同様にして角膜保護効果を調べた。 その結果を図3に示す。この図から明らかなとおり、架橋ヒアルロン酸の角膜保護効果は調べた濃度範囲では濃度依存的に高まることがわかる。<実験3:架橋率の影響> 被験液として、架橋率が0.01、0.03、0.1、0.3、1.0モル当量の各種架橋ヒアルロン酸(原料ヒアルロン酸分子量約86万)を使用し、実験1と同様にして角膜保護効果を調べた。 その結果を図4に示す。この図から明らかなとおり、原料ヒアルロン酸分子量が約86万と高分子量である架橋ヒアルロン酸の場合、架橋率が高まるにつれ、角膜保護効果が低下することがわかる。架橋率が高くなると架橋ヒアルロン酸の可溶性は低下することから、架橋ヒアルロン酸の角膜保護効果はその可溶性に依存することが示唆された。<実験5:原料ヒアルロン酸分子量の影響> 被験液として、原料ヒアルロン酸分子量約3万及び約86万の2種類の架橋ヒアルロン酸類(架橋率:0.1及び0.5モル当量)を使用し、実験1と同様にして角膜保護効果を調べた。 その結果を図5に示す。この図から明らかなとおり、架橋率が高いほど、その角膜保護効果は失われる方向に進むものと考えられる。また、原料ヒアルロン酸分子量が大きいほど(約86万)、架橋率を変えることで受ける影響は大きいことがわかる。<実験6:ウサギにおけるヒアルロン酸及び架橋ヒアルロン酸点眼後の滞留性評価> JW系ウサギ(雄性、2.5kg;北山ラベス株式会社)に0.3%の未架橋ヒアルロン酸又は架橋ヒアルロン酸(原料ヒアルロン酸分子量:86万、架橋率0.1モル当量)液50μLを点眼し、15分後に生理食塩液1mLで結膜嚢を洗浄した。洗液中の被験物質量はヒアルロン酸測定用ELISAキット(Hyaluronan Assay Kit)で測定し、涙液内のヒアルロン酸又は架橋ヒアルロン酸の量を算出した。 その結果を図6に示す。その結果から明らかなとおり、架橋ヒアルロン酸は未架橋ヒアルロン酸に比べ、滞留性に優れる。<実験7:角膜上皮障害の治癒効力試験> 雄性SDラットを用い、Fujiharaらの方法(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci 42(1):96-100 (2001))に準じ、ドライアイモデルを作製した。ドライアイモデル作製後、宮田らの方法(眼科臨床医報 48(2):183-188 (1994))に修飾を加えた手法で、角膜上皮障害の改善効果を求めた。(実験方法) 雄性SDラット(日本チャールスリバー株式会社)にペントバルビタールを投与して麻酔を施した。ついで眼窩外涙腺を摘出し、12週間かけて角膜上皮障害を誘発させた。 つぎに、生理食塩水、0.3%の未架橋ヒアルロン酸又は架橋ヒアルロン酸(原料ヒアルロン酸分子量:86万、架橋率0.1モル当量)液を20μLづつ、1日6回、1.5時間間隔で点眼した。 点眼開始前、点眼開始1、2、3週間後、角膜上皮の障害部分をフルオレセインにて染色した。角膜上皮の上部、中間部および下部のそれぞれについて、フルオレセインによる染色の程度を下記の基準に従ってスコア判定し、上記各部のスコアの合計値を算出した。コントロールとして生理食塩水を用い、上記と同じ操作を行った。さらに、角膜上皮障害を起こさせていない正常眼(非処置)及び点眼を行っていないもの(無点眼)についても上記各部のスコアの合計の平均値を求めた。(判定基準)0:染色されていない。1:染色が疎であり、各点状の染色部分は離れている。2:染色が中程度であり、点状の染色部分の一部が隣接している。3:染色が密であり、各点状の染色部分は隣接している。(結果) 各群における上記各部のスコアの合計値を図7に示す。なお、スコアの平均値は各10例の平均である。架橋ヒアルロン酸点眼群は無点眼群、生理食塩液点眼群またはヒアルロン酸点眼群と比較して有意にスコアが低く、架橋ヒアルロンの点眼による角膜上皮障害の治癒は顕著であることがわかる。処方例架橋ヒアルロン酸 0.3g(原料ヒアルロン酸分子量約86万;架橋率0.1モル当量)パラオキシ安息香酸メチル 0.002g等張リン酸緩衝液 適量総容量 100 mL架橋ヒアルロン酸の可溶性に及ぼす架橋剤量と原料ヒアルロン酸分子量との関係を示す。ヒアルロン酸、アセチル化ヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸の角膜上皮層保護効果の比較試験結果を示す。架橋ヒアルロン酸の濃度と、角膜保護効果との関係を示す。架橋ヒアルロン酸の架橋率と、角膜保護効果との関係を示す。架橋ヒアルロン酸の原料ヒアルロン酸の分子量と、角膜保護効果との関係を示す。ウサギにおけるヒアルロン酸及び架橋ヒアルロン酸点眼後の滞留性評価結果を示す。架橋ヒアルロン酸による角膜上皮障害の治癒効果を示す。 可溶性架橋ヒアルロン酸と医薬的に許容される担体とを含有する、眼用組成物。 前記可溶性架橋ヒアルロン酸が平均分子量5,000以上、100,000未満のヒアルロン酸を原料とし、原料ヒアルロン酸の構成二糖単位に対し架橋剤を0.01〜3.0当量使用することで架橋したものである、請求項1記載の眼用組成物。 前記可溶性架橋ヒアルロン酸が平均分子量100,000以上、3,000,000以下のヒアルロン酸を原料とし、原料ヒアルロン酸の構成二糖単位に対し架橋剤を0.01以上、0.5未満当量使用することで架橋したものである、請求項1記載の眼用組成物。 前記可溶性架橋ヒアルロン酸が架橋剤としてジ−又はポリ官能基エオキシドを用い、架橋されたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の眼用組成物。 前記架橋剤が、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル及びグリセロールトリグリシジルエーテルから成る群から選ばれる、請求項4記載の眼用組成物。 ドライアイの治療又は予防に利用される、請求項1〜5のいずれか1項記載の眼用組成物。 ドライアイ点眼剤である、請求項6記載の眼用組成物。 【課題】従来のヒアルロン酸点眼薬よりも角膜上皮層保護効果及びその持続性(主薬の涙液内滞留性)に優れた有用性の高い眼用組成物の提供。【解決手段】可溶性架橋ヒアルロン酸と医薬的に許容される担体とを含有する、眼用組成物。【選択図】図2


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