タイトル: | 公開特許公報(A)_有機電子材料の蒸着膜形成方法及び有機電子材料の取り扱い方法 |
出願番号: | 2007068758 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | H05B 33/10,H01L 51/50,C23C 14/24,C09K 11/06,C07C 15/14 |
星 作太郎 竹内 万善 井上 敏樹 川澄 一仁 吉野 公彦 山本 克哉 JP 2008234862 公開特許公報(A) 20081002 2007068758 20070316 有機電子材料の蒸着膜形成方法及び有機電子材料の取り扱い方法 株式会社豊田自動織機 000003218 恩田 博宣 100068755 恩田 誠 100105957 星 作太郎 竹内 万善 井上 敏樹 川澄 一仁 吉野 公彦 山本 克哉 H05B 33/10 20060101AFI20080905BHJP H01L 51/50 20060101ALI20080905BHJP C23C 14/24 20060101ALI20080905BHJP C09K 11/06 20060101ALI20080905BHJP C07C 15/14 20060101ALN20080905BHJP JPH05B33/10H05B33/14 AC23C14/24 EC09K11/06 690C07C15/14 4 2 OL 11 3K107 4H006 4K029 3K107AA01 3K107BB01 3K107BB02 3K107CC42 3K107CC45 3K107DD64 3K107DD74 3K107DD78 3K107GG04 3K107GG26 3K107GG28 4H006AA03 4H006AB91 4K029AA09 4K029BA62 4K029BB02 4K029BC07 4K029CA01 4K029DB06 4K029DB14 4K029FA00 本発明は、有機電子材料の蒸着膜形成方法及び有機電子材料の取り扱い方法に係り、詳しくは、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層を構成する有機エレクトロルミネッセンス材料のように蒸着膜の状態で使用されるとともに異性体が存在する有機電子材料の蒸着膜形成方法及び有機電子材料の取り扱い方法に関する。 有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、適宜エレクトロルミネッセンスをELと表記する。)は、面発光素子として、例えば、ディスプレイや照明装置等の分野で用いられている。基本的な有機EL素子の構造は、ガラス基板等の透明基板上に、透明陽極層、有機EL層及び陰極層が順に積層された構造である。また、有機EL層の構造には、透明陽極層と有機発光層との間に正孔輸送層(正孔注入輸送層)が設けられた構造や、陰極層と有機発光層との間に電子輸送層(電子注入輸送層)が設けられた構造等もある。 有機EL素子の製造に際して有機EL層を形成するには、真空蒸着を用いてナノメートルレベルの有機薄膜を成膜する必要がある。量産においては生産効率を向上させるため、可能な限り大きな基板に均質に積層し、あとでこれを切り分けて製品とするのが一般的である。大きな基板に対して、均質に蒸着するには、蒸着面積の大きな蒸着源(坩堝)を用いることとなる。 また、有機薄膜は水分や酸素に弱く、且つ大気開放と真空運転状態を成膜室で交互に繰り返すと生産効率が悪くなる(時間がかかる)ので、成膜室はなるべく真空状態を保持し、投入される基板を長時間、連続的に蒸着できるよう、容量及び開口面積が可能な限り大きな坩堝を備えることとなる。 蒸着では坩堝の状態(主に材料の消費)によって蒸着レートが変動し易いので、蒸発状態を水晶振動子で検出して坩堝加熱状態をフィードバック制御するのが一般的である。 有機EL素子(有機発光素子)では、有機薄膜の厚さや密度あるいは膜質(結晶状態)によって特性が変化するので、最適化された素子構造を繰り返し再現できるよう、安定した蒸着状態で成膜できることが重要となる。このため、成膜を行う場合は、予備加熱→本加熱→レート(蒸着レート)出し→成膜となり、成膜を行う前に、適正な蒸着レートに調整するレート調整を行うとともに、蒸着レートが十分に安定した状態で成膜を行う必要がある。 有機EL層の材料となる有機物質(有機材料)には構造異性体が存在するものがある。例えば、発光層や電子輸送層の材料として使用されるトリス(8−キノリノール)アルミニウム(以下、適宜Alq3と表記する。)は、次の式(I)に示すメリジオナル(meridional)構造を有する異性体と、式(II)に示すフェイシャル(facial)構造を有する異性体とが存在することが知られている(例えば、特許文献1参照)。特開2001−35665号公報 大容量で大きな蒸発面積を持つ坩堝は、坩堝の熱容量が大きく、また坩堝内の温度分布の差も大きいため、温度制御が難しい。そして、正確な膜厚制御が得られるように安定した蒸発状態にするためには、レート調整に長時間を要し、高価な有機材料をレート調整のために費やす必要がある。複数の有機層からなる多層膜の場合、前工程のレート安定時間が後工程に影響するので、更に多くの有機材料が消費される。 また、短時間にできるだけ多く成膜する場合は、蒸着レートを増やすため、坩堝を可能な限り高温にするが、高温状態ではより温度制御が難しく、更にレート調整に時間が必要となる。 一方、蒸着される有機材料は長時間高温に晒されることで、真空中であっても分解あるいは酸化劣化せずとも、変質が起こる場合がある。この変質は主に材料の固体での結晶状態の違いによるもので、結晶状態が変化すると場合によっては蒸着レートが変化する。 このような坩堝中の材料変化は、温度と時間に比例して進行していくので、材料の経時的な変質に伴って蒸着レートが変動しつづけることになり、坩堝の温度制御が更に難しくなる。また、坩堝に有機材料の追加充填を行う場合、充填毎に坩堝の状態が大きく変化するので、さらに蒸着レートを安定させることが難しくなり、多くの材料を無駄にするとともに、設備の実質的な稼働時間が短くなる。 このように有機材料の結晶状態(構造)によって蒸着速度が変動するのは、固体が液体にならず固体から直接気化する昇華性の場合に顕在化する。つまり、気化に必要な単位時間あたりの熱エネルギーが、固体の結晶構造に強く依存するために生じると考えられる。 そして、蒸着に使用する有機材料が複数の異性体の混合物の場合、材料のロットにより異性体の比が変動することと相俟って、蒸着レートを安定させることがより難しくなる。 また、有機EL素子を構成する有機発光層に限らず、複数の構造異性体が存在するとともに昇華性の有機材料(有機電子材料)で蒸着により成膜を行う場合には同様の問題がある。 本発明の第1の目的は、複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料から蒸着膜を形成する場合に、蒸着速度の変動要因を低減して蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことができる有機電子材料の蒸着膜形成方法を提供することにある。また、第2の目的は、複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料から蒸着膜を形成する場合に、蒸着速度の変動要因を低減して蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことができる有機電子材料の取り扱い方法を提供することにある。 前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数の構造異性体が存在するとともに昇華により膜形成が可能な有機電子材料を、複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体より不安定な構造異性体を高温で安定な他の構造異性体に転化させる安定化処理を行った後、蒸着により膜形成を行う。ここで、「有機電子材料」とは、有機EL素子、有機トランジスタ、有機ダイオード等のように、有機材料を使用して構成されるとともに電気で動作する素子に使用される有機材料を意味する。 電子有機材料から素子の構成要素となる蒸着膜を形成する場合、その膜厚が素子の性能に大きな影響を与えるため、成膜の前工程として有機電子材料が安定した速度で蒸着する条件を設定するレート調整を行う必要がある。有機電子材料が複数の構造異性体が存在するものの場合、材料のロットにより構造異性体の比が異なること、調整中に構造異性体の比が変化する等の要因でレート調整に時間がかかる。また、坩堝に有機材料の追加充填を行う場合、充填毎に坩堝の状態が大きく変化するので、さらにレート調整に時間がかかる。しかし、この発明では、複数の構造異性体が存在する有機電子材料を、複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体より不安定な構造異性体を高温で安定な他の構造異性体に転化させる安定化処理を行った後、蒸着により膜形成を行う。すなわち、レート調整を行う際に有機電子材料が加熱されても他の異性体に転化することは抑制され、構造異性体の比がほぼ一定となるため、調整が容易になる。したがって、複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料から蒸着膜を形成する場合に、蒸着速度の変動要因を低減して蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことができる。 請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記有機電子材料はトリス(8−キノリノール)アルミニウムである。Alq3は有機EL素子の発光層や電子輸送層の材料として使用される。Alq3は、一般にメリディアナル構造を有する異性体(以下、mer体と表記する。)と、フェイシャル構造を有する異性体(以下、fac体と表記する。)との混合物として市販されている。fac体はmer体に比較して高温で安定である。したがって、この発明では、例えば、有機EL素子を製造する場合、真空蒸着により有機薄膜を成膜する際、生産効率を向上させることができる。 請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記安定化処理は、前記複数の構造異性体が存在する有機電子材料を不活性雰囲気で加熱することにより行われる。ここで、「不活性雰囲気」とは、加熱される材料と反応(化学変化)可能な物質である活性種が存在しない雰囲気を意味し、真空状態のほか、材料が酸化する物質の場合は、例えば、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトン、窒素雰囲気となる。安定化処理方法としては加熱処理が容易である。加熱処理が構造異性体と反応可能な物質が存在する状態で行われると支障が生じる。しかし、この発明では、加熱処理が不活性雰囲気で行われるため、加熱処理中に構造異性体が変質する虞が小さい。 前記第2の目的を達成するため、請求項4に記載の発明は、複数の構造異性体が存在するとともに昇華により膜形成が可能な有機電子材料の取り扱い方法であって、前記複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体より不安定な構造異性体を高温で安定な他の構造異性体に転化させる安定化処理を行った後、保管する。この発明では、複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料であっても、蒸着膜を形成する際に、加熱により他の構造異性体に転化することは抑制され、構造異性体の比がほぼ一定となる。したがって、複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料から蒸着膜を形成する場合に、蒸着速度の変動要因を低減して蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことができる。 本発明によれば、複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料から蒸着膜を形成する場合に、蒸着速度の変動要因を低減して蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことができる。 以下、本発明を有機EL素子の製造方法に具体化した一実施形態を、図面を用いて説明する。 図1に示すように、有機EL素子11は、基板としてのガラス基板12上に、第1電極13、有機発光層としての有機EL層14及び第2電極15が順に積層されている。有機EL層14は、第1電極13側から順に正孔輸送層14a、発光層14b及び電子輸送層14cが積層されて構成されている。有機EL素子11は、有機EL層14が水分(水蒸気)及び酸素の悪影響を受けないように、封止膜(保護膜)16で封止されている。 なお、図1は、ガラス基板12、第1電極13、有機EL層14、第2電極15、封止膜16等の構成を模式的に示したものであり、図示の都合上、一部の寸法を誇張して分かり易くしているために、それぞれの部分の長さ、厚さ等の寸法の比は実際の比と異なっている。 この実施形態では、第1電極13が陽極を構成し、第2電極15が陰極を構成する。第1電極13は、透明な材料で形成されている。ここで、「透明」とは、少なくとも可視光を透過可能なことを意味する。有機EL素子11は、有機EL層14からの光がガラス基板12側から取り出される(出射される)所謂ボトムエミッションタイプに構成されている。 第1電極13、有機EL層14、第2電極15の材料にはそれぞれ、公知の有機EL素子で使用されている材料が使用され、例えば、第1電極13は透明電極として用いられるITO(インジウム錫酸化物)により形成され、第2電極15は金属(例えば、アルミニウム)で形成されている。また、正孔輸送層14aはTPTE(トリフェニルアミンの4量体)で形成され、発光層14bは発光層を構成するAlq3をホストとしキナクリドンをドーパントとしたキナクリドン/Alq3層で形成され、電子輸送層14cはAlq3で形成されている。封止膜16は例えば窒化ケイ素で形成されている。 次に有機EL素子の製造方法の一工程を構成する有機EL層形成工程のうちの電子輸送層14cの薄膜を形成する工程について説明する。 電子輸送層14cの薄膜に限らず、有機EL層14を構成する薄膜(有機膜)を真空蒸着で形成(成膜)する場合は、蒸着レートが十分に安定した適正な蒸着レートで成膜を行う必要がある。そのため、成膜を行う前に、適正な蒸着レートに調整するレート出しを行う必要がある。詳述すると、図2に示すように、予備加熱(ステップS1)、本加熱(ステップS2)、レート調整(ステップS3)を行った後、膜厚が適正膜厚か否かの判断(ステップS4)を行う。ステップS4で膜厚が適正でない場合はステップS3に進み、再度レート調整を行う。ステップS4で膜厚が適正であればステップS5に進みレート調整を終了する。そして、電子輸送層14cの成膜が行われる。 なお、電子輸送層14cの成膜が繰り返し行われて、蒸着装置の坩堝内のAlq3の量が、追加充填を必要とする量まで減少すると、Alq3が追加充填されて、再びレート調整、膜厚確認が行われる。 電子輸送層14cの材料であるAlq3は、複数の構造異性体であるmer体及びfac体が存在し、市販のAlq3は両者の混合物(mer体:fac体=9:1)である。mer体が作る結晶構造にはαとβが、fac体が作る結晶構造にはγとδがあることが確かめられており、概ねmer体が緑(510nm前後)、fac体が青緑(470nm)のフォトルミネッセンス発光反応(光励起発光反応)を示す。そして、Alq3を構造異性体の混合物のままで電子輸送層14cの材料に使用すると、レート調整により時間がかかり、高価な有機材料がより多く消費される。なぜならば、mer体及びfac体の混合物の状態でレート調整を行うと、レート調整作業のために材料を坩堝中で加熱している間にmer体が高温で安定なfac体に転化して、mer体とfac体との比が変化するため、坩堝温度を一定に保持しても材料の蒸発速度が変化するためである。市販のAlq3中のmer体とfac体との比は正確に9:1ではなく、材料のロットによりその比が変動する。また、坩堝にAlq3が残っている状態でAlq3の追加充填を行う場合、充填毎に坩堝の状態が大きく変化するので、さらにレート調整に時間がかかる。 本願発明者は、電子輸送層14cの成膜の際、蒸着装置の坩堝内に材料としてmer体を入れた状態から電子輸送層14cの成膜を行って形成した有機EL素子11と、蒸着装置の坩堝内に材料としてfac体を入れた状態から電子輸送層14cの成膜を行って形成した有機EL素子11とに素子特性の差が殆ど無いことを確認した。また、市販のmer体とfac体との混合物を蒸着装置の坩堝内に材料として入れた状態から電子輸送層14cの成膜を行って形成した有機EL素子11も素子特性の差が殆ど無いことを確認した。即ち、Alq3を材料とした場合、mer体及びfac体の混合比はレート調整には影響を与えるが、蒸着により成膜された電子輸送層14cの性能に実質的に影響しないことが確認された。 そこで、レート調整を容易にするため、この実施形態では、Alq3を構造異性体の混合物のままで使用せずに、安定化処理を行った後、蒸着により膜形成、即ち電子輸送層14cの成膜を行う。安定化処理は、構造異性体であるmer体及びfac体のうち、fac体より高温で不安定なmer体を高温で安定なfac体に転化させる処理である。 この実施形態では安定化処理は、Alq3を不活性雰囲気で加熱することにより行われる。不活性雰囲気としては、真空状態の他、Alq3と反応しない、即ちAlq3に対して活性でないガスであるヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトン、窒素等の不活性ガス雰囲気がある。しかし、真空状態ではmer体をfac体に転化させる処理を行うのに適した温度に加熱する途中で材料が気化してしまうため、不活性ガス雰囲気が好ましい。 市販のAlq3は、mer体及びfac体の比がほぼ9:1である。そして、Alq3中のほぼ全部のmer体をfac体に転化させるには、加熱処理の温度により必要な時間が異なる。ほぼ全部とは100%に限らず、mer体が残っていてもその量(割合)が、Alq3を材料として真空蒸着で成膜を行っている間に坩堝中のmer体とfac体との比が蒸発速度に影響を与えるほど変化せず、蒸発速度が安定する量であることを意味する。 市販のAlq3を、0.01kg用いて、不活性ガス(アルゴン)雰囲気中400℃で加熱処理を行った場合、処理時間が30分程度でAlq3中のほぼ全部のmer体がfac体に転化した。加熱温度が295℃の場合は、1週間(170時間)程度の処理時間でほぼ全部のmer体がfac体に転化した。 そして、電子輸送層14cの材料であるAlq3として、市販のmer体及びfac体の混合物を予め加熱処理による安定化処理を行ってfac体リッチの状態としたAlq3が保管されて、電子輸送層14cの材料として使用される。そのため、レート調整を行う際にAlq3が加熱されても他の異性体に転化することは抑制され、構造異性体の比がほぼ一定となるため、成膜の前工程で行われるレート調整のために要する作業時間が短縮される。 また、坩堝内にAlq3が残っている状態でAlq3を追加充填した場合、従来と異なり、坩堝内に残っているAlq3と、追加するAlq3とはmer体とfac体との比がほぼ同じため、再度のレート調整のために要する作業時間が従来に比較して短縮される。 この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。 (1)複数の構造異性体であるmer体及びfac体が存在するとともに昇華により膜形成が可能な有機電子材料であるAlq3を、複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体(fac体)より不安定な構造異性体(mer体)を高温で安定なfac体に転化させる安定化処理を行った後、蒸着により膜形成を行う。したがって、蒸着速度の変動要因を低減して蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことができる。また、蒸着レート制御の繰り返し再現性が高くなり、レート調整の回数が低減される。そして、材料の歩留まりが向上するとともに、蒸着装置の有効稼動時間が増える。 (2)複数の構造異性体であるmer体及びfac体が存在するとともに昇華により膜形成が可能な有機電子材料であるAlq3を、複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体(fac体)より不安定な構造異性体(mer体)を高温で安定なfac体に転化させる安定化処理を行った後、保管する。そして、必要な時に使用する。したがって、安定化処理前のAlq3を成膜時の前工程のレート調整に先立って、蒸着装置で加熱処理を行い、引き続きレート調整に移行する場合に比較して、Alq3の追加時におけるレート調整を短時間で行うことができる。 (3)Alq3は有機EL素子11の電子輸送層14cの材料として使用されており、電子輸送層14cは坩堝内のAlq3がmer体から製造された有機EL素子11と、坩堝内のAlq3がfac体から製造された有機EL素子11とは、素子特性の差が殆ど無いことが確認された。したがって、Alq3を膜の構成材料とする有機EL素子11の製造方法に有効に利用することができる。 (4)安定化処理は、複数の構造異性体が存在する有機電子材料を不活性雰囲気で加熱することにより行われる。安定化処理方法としては加熱処理が容易である。加熱処理が構造異性体と反応可能な物質が存在する状態で行われると支障が生じる。しかし、加熱処理が不活性雰囲気で行われるため、加熱処理中に構造異性体が変質する虞が小さい。 (5)安定化処理は、複数の構造異性体が存在する有機電子材料を不活性ガス雰囲気で加熱処理することにより行われる。加熱処理を真空状態で行っても不活性雰囲気で処理が行われるが、真空状態では転化させるべき構造異性体を高温で安定な他の構造異性体に転化させる処理を行うのに適した温度に加熱する途中で材料が気化してしまうため、不活性ガス雰囲気が好ましい。 実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。 ○ 不活性ガス雰囲気中でAlq3に対して行う加熱処理温度は、400℃や295℃に限らず、適宜変更してもよい。処理時間は温度により変化する。 ○ 安定化処理を不活性ガス雰囲気で行う場合、大気圧より高圧の加圧状態で行っても良い。加熱処理を加圧状態で行うことにより、材料を昇華させずに加熱処理が可能な温度を高くすることができるため、加熱処理時間を短縮することができる。 ○ 材料を加熱処理する装置は専用の加熱炉に限らず、汎用オーブンやホットプレートを不活性雰囲気の状態にして使用したり、真空炉を使用したり、材料をアンプルに封入した状態で加熱したりしてもよい。 ○ 蒸着装置に材料を投入する前、即ち坩堝に入れる前に、予め材料の安定化処理を行って保管していた材料を使用して成膜を行う方法にかぎらず、蒸着装置に材料を投入してから、不活性ガス雰囲気で大気圧中あるいは加圧状態で、装置内での昇温プロセスで安定化処理(加熱処理)を行ってもよい。 ○ 不活性雰囲気は、不活性ガスが流れる状態であっても、不活性ガスが封入された状態であってもあるいは真空中であってもよい。 ○ Alq3は有機EL素子11の電子輸送層14cの材料に限らず発光層14bの材料に使用してもよい。 ○ Alq3に限らず、中心金属であるアルミニウムの周りに配位した配位子のキノリノールの4位がメチル基で置換された錯体や、配位子のキノリノールのγに芳香環が結合した錯体や配位子のキノリノールの5位がフェニル基で置換された錯体、即ち他のアルミキノリノール錯体においてもmer体及びfac体の構造異性体が存在する。したがって、同様の安定化処理を行うことで、同様の効果を得ることができる。 ○ 安定化処理は加熱処理に限らず、液化、気化、溶液化した後、温度、析出速度を適宜調整しながら高温安定体を析出させてもよい。具体的には、高温基板への真空蒸着や有機溶液からの溶質の析出などが考えられる。例えば、Alq3は、溶液に溶解させた状態で−20℃より低温にして析出させることにより、fac体が析出される。 ○ 有機EL層14の材料として使用される有機材料で、複数の構造異性体が存在する他の有機材料に適用してもよい。例えば、トリス(2−フェニルピリジル)イリジウム(Ir(ppy)3)のようなキレート型有機配位子(フェニルピリジン誘導体等)を有するイリジウム錯体に適用してもよい。 ○ 異性体がない物質でも結晶構造が異なる場合、蒸着速度が変わる場合がある。そして、材料の結晶状態によって蒸着速度が変わるのは、固体が液体にならず(液体になっている範囲が狭く)固体から直接気化する昇華性の場合に顕在化する。つまり、気化に必要な単位時間あたりの熱エネルギーが、固体の結晶構造に強く依存するために生じると考えられる。したがって、昇華性が高い有機材料を予め一定の結晶構造の状態にする安定化処理を行うことにより、安定な蒸着レートを確保することができる。有機EL材料で昇華性が高い材料としては、Alq3やIr(ppy)3の他に4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニール(CBP)や銅フタロシアニン(CuPC)等がある。蒸着では高真空、高温になる程、どのような材料であっても昇華性は強くなるので、結晶構造が複数ある蒸着材料であれば、予め安定化処理を行うことにより、レート調整を短時間で行うことが可能になる。 ○ 有機EL層14を構成する有機薄膜に限らず、有機EL素子11以外の有機素子(例えば、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池等)を構成する有機薄膜の有機電子材料に適用してもよい。 ○ 有機EL層14の形成は、真空蒸着法に限らず、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法、CVD法等の方法を用いても良い。 以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。 (1)請求項1に記載の発明において、前記有機電子材料はアルミニウムキノリノール錯体である。 (2)請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記有機電子材料は有機EL素子の有機EL層の材料である。 (3)請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明の有機電子材料の蒸着膜形成方法を有機EL層の形成工程に使用する有機EL素子の製造方法。有機EL素子の模式断面図。安定した蒸着速度条件を設定する手順を示すフローチャート。符号の説明 11…有機EL素子、14…有機EL層。 複数の構造異性体が存在するとともに昇華により膜形成が可能な有機電子材料を、複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体より不安定な構造異性体を高温で安定な他の構造異性体に転化させる安定化処理を行った後、蒸着により膜形成を行うことを特徴とする有機電子材料の蒸着膜形成方法。 前記有機電子材料はトリス(8−キノリノール)アルミニウムである請求項1に記載の有機電子材料の蒸着膜形成方法。 前記安定化処理は、前記複数の構造異性体が存在する有機電子材料を不活性雰囲気で加熱することにより行われる請求項1又は請求項2に記載の有機電子材料の蒸着膜形成方法。 複数の構造異性体が存在するとともに昇華により膜形成が可能な有機電子材料の取り扱い方法であって、前記複数の構造異性体のうち高温で他の構造異性体より不安定な構造異性体を高温で安定な他の構造異性体に転化させる安定化処理を行った後、保管することを特徴とする有機電子材料の取り扱い方法。 【課題】複数の構造異性体が存在する昇華性の有機電子材料から蒸着膜を形成する場合に、蒸着速度が安定した状態で蒸着を行うことが可能で、坩堝に有機電子材料を追加した場合に蒸着レートの調整を従来に比較して短時間で行うことを可能にする。【解決手段】複数の構造異性体であるmer体及びfac体のうち、高温で他の構造異性体(fac体)より不安定な構造異性体(mer体)を高温で安定な他の構造異性体(fac体)に転化させる安定化処理を行った有機電子材料(Alq3)を用いて蒸着膜を形成する。安定化処理は、複数の構造異性体が存在する有機電子材料を不活性雰囲気(例えば、アルゴンガス雰囲気)で加熱することにより行われる。【選択図】図2