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タイトル:特許公報(B2)_医薬組成物、製剤および組み合わせ製剤
出願番号:2006545095
年次:2012
IPC分類:A61K 9/127,A61K 47/34


特許情報キャッシュ

吉野 敬亮 磯崎 正史 森本 克己 清水 美雪 JP 5110880 特許公報(B2) 20121019 2006545095 20051116 医薬組成物、製剤および組み合わせ製剤 テルモ株式会社 000109543 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 吉野 敬亮 磯崎 正史 森本 克己 清水 美雪 JP 2004335040 20041118 20121226 A61K 9/127 20060101AFI20121206BHJP A61K 47/34 20060101ALI20121206BHJP JPA61K9/127A61K47/34 A61K 9/127 A61K 47/34 特開平07−324029(JP,A) 特開平07−309740(JP,A) 特開平04−244017(JP,A) 特表平11−508871(JP,A) 特表2000−510836(JP,A) 特開平02−117920(JP,A) 特開2004−010481(JP,A) 特開2004−292419(JP,A) 5 JP2005021024 20051116 WO2006054589 20060526 30 20081017 淺野 美奈 本発明は、ドラッグデリバリーシステムに有用な医薬組成物、製剤および組み合わせ製剤に関する。 近年、薬物を安全にかつ効率よく目的病巣部位に送達・分布させるドラッグデリバリーシステム(DDS)が盛んに研究されている。その方法のひとつとして、リポソーム、エマルジョン、リピッドマイクロスフェア、ナノパーテイクルなどの閉鎖小胞を薬物の運搬体(担体)として利用することが検討されている。しかしながら閉鎖小胞を用いるDDSの実用化に際しては克服すべき様々な課題があり、中でも、生体側の異物認識機構からの回避および体内動態の制御は重要である。つまり、閉鎖小胞を標的部位に高い選択性で送達させるためには、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織(RES)での捕捉を回避し、血液中のオプソニン蛋白質や血漿蛋白質などとの相互作用(吸着)による凝集を防止して血中安定性を高める必要がある。 この課題を解決する方法として、親水性高分子による閉鎖小胞の膜修飾が知られている。親水性高分子で修飾された閉鎖小胞、特にリポソームは、血中滞留性に優れる。これにより、当該リポソームは腫瘍組織や炎症部位などの血管透過性が亢進した組織への受動的な集積が可能となり、実用化が進められている(特許文献1〜3および非特許文献1〜3参照)。中でも、親水性高分子としてポリエチレングリコール(以下、「PEG」ということがある。)を用い、PEGで修飾されたリポソームについて、製剤化が実現している。 PEGは、−(CH2CH2O)n−の繰り返し構造を有する、直鎖状の高分子である。PEGは、水にも有機溶媒にも可溶な両親媒性の特性(amphipathic property)を有する高分子であり、かつ、毒性が低いことから医薬品の安定化、体内動態の改善として広く応用されている。 このような特性を有するポリエチレングリコールをリポソームの表面修飾剤として利用する場合、一般的に、PEGとリン脂質またはコレステロール等の脂質とを結合させたポリエチレングリコール誘導体が好適に用いられる。このようなポリエチレングリコール誘導体の中で、商業的に入手可能で汎用なものとしては、例えば、ジアシルフォスファチジルエタノールアミンを結合させたポリエチレングリコール誘導体(PEG−PE)が挙げられる。 このように毒性の低いことが知られているPEGで修飾されている担体(例えばリポソーム)中に薬物を担持する薬物担体は、安全で、かつ、血中滞留性を向上させることが可能であると考えられてきた。 また、PEGが医薬品の安定化を達成した実例としては、例えば、蛋白質製剤が挙げられる。1970年頃、大腸菌より単離したL−アスパラギナーゼは白血病の治療剤として著効を呈し注目された。しかし、一般的な蛋白質製剤は、体内での安定性、抗原性に問題があり、頻回投与が不可能であり、L−アスパラギナーゼもその例外ではなかった。そこで、L−アスパラギナーゼの抗原性を消失させる手段としてPEGによる修飾化の研究が進められた。その結果、PEGで修飾されたL−アスパラギナーゼは、抗原性の消失化に成功し、患者への頻回投与が可能となり、現在米国でリンパ性白血病の治療薬となっている。 また、PEGは、タンパク質を使った医薬品が肝臓に取り込まれるのを防ぐことが知られている。例えば、タンパク質製剤の1つであるインターフェロン(肝炎治療に使用される)に対して、臨床上の有用性を向上させる目的でPEG分子を結合する試みが行われている。このような試みの一例であるペグインターフェロン−α−2a製剤(ペガシス皮下注90μg、ペガシス皮下注180μg)が非特許文献4に記載されている。その結果、PEGで修飾されたインターフェロンは、血中濃度の持続時間を飛躍的に向上させることに成功し、従来週3回投与であった治療を週1回の治療にすることが可能となったことなど、タンパク質を使った医薬品の投与回数を減らすことが可能となっている。最近では、遺伝子組換え技術との融合により、活性領域をPEGで修飾し、in vivo活性を向上させ、血小板減少症治療薬などへの開発が行われている。特表平5−505173号公報特公平7−20857号公報特許第2667051号公報D.D. Lasic著「LIPOSOMES from Physics to Applications」,Elsevier,1993Martin C.Woodle, Gerrit Storm編「Long Circulating Liposomes:Old Drugs,New Therapeutics」,Springer,1997D.D.Lasic、D.Papahadjopoulos編「Medical Applications of LIPOSOMES」,Elsevier,1998医薬品インタビューフォーム、2003年12月(改定第3版)、中外製薬株式会社発行、医薬標準商品分類番号:876399、「ペグインターフェロン−α−2a製剤 ペガシス皮下注90μg ペガシス皮下注180μg」 しかし、このようなPEG化製剤が、生体の異物認識機構を完全に回避出来ているわけではない。例えば、PEG化された薬物担体を投与後、採血して担体表面を調べると、様々なタンパク質が担体表面に結合していることが知られている。また、ラットにおいてPEG化製剤を投与した後に一定の期間を経た後再投与すると、抗原抗体反応が関与した補体系の活性化が起こる。そしてこれと同時に、急速にPEG化製剤が血中よりクリアランスされる(ABC現象:Accelerated Blood Clearance)ことが報告されている。さらに、イヌではPEG化製剤の再投与時にアナフィラキシー様反応が確認されている。ブタではPEG化製剤の初回投与時にイヌと同様の反応が確認されている。市販されているPEG化リポソーム製剤においては、ヒトに投与した際に比較的高い頻度でアナフィラキシー様反応が起こることも報告されており、この反応に対して補体系の活性化が関与する可能性が報告されている。 このようにPEG化製剤の使用には、上記のような補体系の活性化を伴う様々な問題が存在することが明らかになり、この問題の解決が急がれている。例えば、PEG自体の構造を改変して補体系の活性化を抑制する試みが行われているが、同時に血中滞留性が損なわれてしまい、このアプローチによる問題の解決には至っていない。 現状としては、DDS製剤としての医薬品開発において担体のPEG結合という方法は一般的であり、PEGを担体に結合させることで、DDS製剤の血中滞留性を飛躍的に向上させることができることは事実であり、PEG化製剤でないと望ましい血中滞留性を得ることができない。PEG化製剤抜きにして、充分な治療効果を得ることは現在のところ困難である。 元来、補体は、脊椎動物の感染防御に重要な役割を果たす血清タンパクである。補体系は、古典的経路または第二経路により活性化される。古典的経路においては、まず、抗原抗体複合体が形成され、その抗体のFc部分へ補体第一成分(C1q)が結合・活性化し、この活性化を起点として補体系の活性化反応が進行する。第二経路においては、細菌などの多糖類により加水分解を受けたC3分子が、B、D因子と反応して活性化され、補体系の活性化反応が進行する。 上記のいずれの経路においても、C3/C5転換酵素の活性化を経て、補体フラグメントであるC3aやC5aが生成される。これらはアナフィラトキシンと呼ばれ、肥満細胞や好中球などに作用し、ヒスタミンなどの炎症性メディエータを遊離させることにより、血管透過性の亢進、平滑筋の収縮を引き起こす。また、C5aは、好中球の走化性因子としても作用する。さらに、C3aの片割れであるC3bは、細菌、ウイルスに結合すると、好中球やマクロファージの貪食作用を促進するオプソニン作用を誘導する。したがって補体系の生物活性は、主として(1)膜侵襲複合体による溶菌、溶血反応、細胞傷害反応の誘導、(2)補体フラグメントによる炎症性メディエータの誘導、(3)補体レセプターを介してのオプソニン効果の誘導の役割を担っている。 このようなことから考えると、PEG化製剤による補体系の活性化には、何らかの補体活性化物質(抗体、レクチン等)がPEG化製剤に結合することが引き金となって、補体の分解反応が進み、その際に形成されるアナフィラトキシン(C3aおよびC5a)が一連のアナフィラキシー様反応を引き起こすと推察される。 従って、本発明の目的は、補体系の活性化を抑制することが可能な医薬組成物の提供にある。 従来知られている、アナフィラキシー様反応を起こしうる製剤としては、例えば、デキストラン製剤が挙げられる。当該デキストラン製剤は、通常、血漿増量剤、血流促進剤、抗血栓剤として人に投与される。デキストラン由来のアナフィラキシー様反応(Dextran−induced anaphylactoid/anaphylactic reactions(DIAR))は、比較的軽度な症状から致死的な症状まで示す抗原抗体反応の一種として広く知られており、全症状を含めたこの反応の発生確率は0.03〜4.7%となっている。 このDIARを抑える方法として、例えば、低分子量デキストラン製剤のプレ投与が挙げられる。具体的には、例えば、デキストラン製剤(分子量40000(Rheomacrodex)または、分子量70000(Macrodex))を投与する直前に、分子量1000のデキストラン(Promit)を20mL投与するという方法である。 DIARは、高分子のデキストランにIgGが結合して免疫複合体を形成することに関与した反応であることが知られている。このようなDIARに対し、低分子デキストランをプレ投与し、デキストラン製剤に対するIgGの認識部位を低分子量デキストランであらかじめ塞ぐ。低分子量デキストランのプレ投与は、IgGがデキストラン製剤に結合するのを競合的に阻害し、結果的にDIARを抑えることができることが明らかとなっている(Joint WHO/IABS Symposium on the Standardization of Albumin, Plasma Substitutes and Plasmapheresis, Geneva 1980, Develop.biol. Standard.48,pp,179−189(S.Karger, Basel 1981)参照)。 本発明者は、上記目的を達成すべく上記理論に基づき検討したところ、特定の親水性高分子で修飾された製剤と、特定の親水性高分子とを含有する医薬組成物を投与すれば、従来の方法では困難であった補体系の活性化を抑えることができるという知見を得た。今までこのような方法で補体の活性化を抑制し、医薬品としての優れた安全性を有する医薬組成物は報告されていない。したがって本発明は、上記課題を解決するものとして、以下の(1)〜(18)を提供する。(1)第1の親水性高分子で修飾された製剤と、第2の親水性高分子とを含有する医薬組成物。(2)前記製剤が、前記第1の親水性高分子で修飾された担体中に薬物を担持する薬物担体である上記(1)に記載の医薬組成物。(3)前記製剤が、前記第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質である上記(1)に記載の医薬組成物。(4)前記製剤と前記第2の親水性高分子とが、水または生理食塩水中に分散されている上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬組成物。(5)前記担体が、閉鎖小胞体である上記(2)に記載の医薬組成物。(6)前記閉鎖小胞体が、リポソームである上記(5)に記載の医薬組成物。(7)前記第1の親水性高分子と前記第2の親水性高分子とが、同一または類似のユニット構造を少なくとも1個有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。(8)前記同一または類似のユニット構造が、−(CH2CH2O)n−、−(CH2CH2CH2O)n−、−〔CH2CH(OH)CH2O〕n−および−〔CH2CH(CH2OH)O〕n−からなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(7)に記載の医薬組成物。ただし、nは1以上の整数である。(9)前記第1の親水性高分子と前記第2の親水性高分子とが、同一または類似のホモポリマーであって、前記ホモポリマーが、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体およびポリグリセリン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。(10)前記第1の親水性高分子および前記第2の親水性高分子が、ポリエチレングリコールである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。(11)第1の親水性高分子で修飾された製剤による免疫反応を抑制する第2の親水性高分子を有効成分とする製剤。(12)前記第2の親水性高分子が、水または生理食塩水中に分散されている上記(11)に記載の製剤。(13)上記(11)または(12)に記載の製剤と、第1の親水性高分子で修飾された製剤との組み合わせ製剤。(14)第1の親水性高分子で修飾された製剤と、第2の親水性高分子とを含有する医薬組成物を投与して補体系の活性化を抑える方法。(15)前記投与が静脈内投与である上記(14)に記載の方法。(16)補体系の活性化抑制剤の製造のための、第1の親水性高分子で修飾された製剤と、第2の親水性高分子とを含有する医薬組成物の用途。(17)第1の親水性高分子で修飾された製剤による免疫反応を、第2の親水性高分子で抑制する方法。(18)補体活性化物質による第1の親水性高分子の認識を、第2の親水性高分子で競合的に阻害して、補体系の活性化を抑える方法。 本発明の医薬組成物、製剤および組み合わせ製剤は、補体系の活性化を抑制することができる。 以下、本発明をより詳細に説明する。 本発明の医薬組成物は、第1の親水性高分子で修飾された製剤と、第2の親水性高分子とを含有する医薬組成物である。 本発明において、修飾とは、親水性高分子以外のものが親水性高分子と化学的または物理的に結合している状態をいう。 また、第1の親水性高分子と第2の親水性高分子とは、同一でも異なっていてもよい。第1の親水性高分子は製剤を修飾している。そして、第2の親水性高分子は製剤からフリー、つまり遊離している。 第2の親水性高分子が遊離している具体的な状態は、第1の親水性高分子で修飾された製剤および第2の親水性高分子が希釈剤中に分散・溶解されているような例が挙げられる。このような場合、投与経路は主として静脈内注射が好適に挙げられる。 以下に、本発明の医薬組成物に使用される製剤について説明する。 製剤は、第1の親水性高分子で修飾された製剤である。 第1の親水性高分子で修飾される製剤としては、特に制限されないが、例えば、薬物担体、生理活性物質が挙げられる。 第1の親水性高分子で修飾された製剤としては、例えば、第1の親水性高分子で修飾された薬物担体、第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質が好ましく挙げられる。 まず、第1の親水性高分子で修飾された薬物担体は、第1の親水性高分子で修飾された担体中に薬物を担持する薬物担体をいう。 なお、本発明において「担持」とは、薬物が担体の閉鎖空間内に薬物が封入された状態;薬物の一部または全てが担体の膜を構成する脂質層内に含まれている状態;薬物が担体の外表面に付着した状態であることを意味する。 使用される担体は、第1の親水性高分子で修飾されている担体である。 担体は、特に制限されない。担体の中で、最も例が多いものとしては例えば粒子状担体が挙げられる。粒子状担体には、例えば、W(水相)/O(油相)型とW/O/W型とが存在する。代表的なW/O型担体としては、例えば、ミセル、マイクロスフェア等が挙げられる。また、代表的なW/O/W型担体としては、例えば、閉鎖小胞体が挙げられる。中でも、閉鎖小胞体が好ましい。 閉鎖小胞体は、薬剤を内封することのできる構造を有するものであれば、特に限定されない。また、使用される閉鎖小胞体は、様々な形態をとることができる。閉鎖小胞体としては、例えば、閉鎖小胞体の内部に薬剤を高濃度封入することのできる潜在的機能を有する、リポソーム、マイクロカプセル、リピッドマイクロスフェア、ナノパーテイクル等を挙げることができる。 担体は、球状またはそれに近い形態をとることができる。その粒子径(粒子外径の直径)は、通常0.01〜500μmであり、好ましくは0.03〜0.4μmであり、より好ましくは0.05〜0.2μmである。 また、リポソームの粒子径は、通常、0.02〜1μmであり、0.05〜0.2μmが好ましい。 マイクロカプセルの粒子径は、通常、1〜500μmであり、1〜150μmが好ましい。 リピッドマイクロスフェアの粒子径は、通常、1〜500μmであり、1〜300μmが好ましい。 ナノパーテイクルの粒子径は、通常、0.01〜1μmであり、0.01〜0.2μmが好ましい。 なお、粒子外径の直径は、動的光散乱法により測定されるリポソーム製剤全粒子の直径の平均値である。本発明において粒子外径の直径は、Zetasizer(Malvern Instruments.3000HS)を用いて測定した。 これらのなかで特に好ましい形態例はリポソームである。以下、使用される担体がリポソームである態様を例にとって説明する。 第1の親水性高分子で修飾されたリポソームとしては、例えば、リポソームの外側の表面に第1の親水性高分子が化学的または物理的に結合しているものが挙げられる。もちろん、当該リポソームは、リポソームの内側に第1の親水性高分子を結合させることができる。具体的なリポソームしては、例えば、第1の親水性高分子が膜の内側および外側双方に結合しているリポソーム、第1の親水性高分子が膜の外側にのみ結合しているリポソームが挙げられる。中でも、脂質二重膜の外側のみが第1の親水性高分子で選択的に表面修飾されているリポソームが好ましい。なぜなら、このようなリポソームである場合、第1の親水性高分子は、内水相のpHが低い場合でも膜の安定性を確保することが可能であり、リポソームの血中滞留性を優れたものとするからである。 リポソームは、一般的に、リン脂質二重膜からなる閉鎖小胞体である。さらに詳しくは、リポソームは、疎水性基と親水性基とを含有するリン脂質が両方の極性に基づいて膜を生じ、当該膜が内部に外界から隔てられた空間を形成する構造を有するものである。そして、当該空間内は水相(内水相)である。リポソームは、膜構成成分として、リン脂質以外の脂質を含むことができる。 また、第1の親水性高分子は、リポソームのいずれの膜構成成分にも結合することができる。 リポソームは、リン脂質を主膜材として含む脂質二重膜で形成されるのが好ましい。 リン脂質は、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基とリン酸基より構成される親水性基とを持つ両親媒性物質である。リン脂質としては、例えば、フォスファチジルコリン(=レシチン)、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジン酸、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトールのようなグリセロリン脂質;スフィンゴミエリン(Sphingomyelin,SM)のようなスフィンゴリン脂質;カルジオリピンのような天然または合成のジフォスファチジル系リン脂質およびこれらの誘導体;これらを常法に従って水素添加したもの(例えば、水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC))等を挙げることができる。以下、これらのリン脂質を「リン脂質類」と称することもある。 これらのうちでも、水素添加大豆フォスファチジルコリン等の水素添加されたリン脂質、スフィンゴミエリン等が好ましい。 また、リポソームは、主膜材として相転移点が生体内温度(35〜37℃)より高いリン脂質を用いることが好適である。なぜなら、このようなリン脂質を用いることにより、保存時に、または、血液などの生体中で、リポソーム内に封入された薬剤がリポソームから外部へ容易に漏出しないようにすることが可能となるからである。また、リポソームは、製造中に生体温度より高い温度に晒される場合がある。すなわち、リポソームは、例えば、50〜70℃程度、より具体的には60℃前後の温度条件下で製造されることがある。このような生体温度より高い温度は、リポソームの形成に対し大きな影響を及ぼす。従って、リポソームの主膜材の相転移点は、これらの製造温度以上であるのが好ましく、製造温度を超える温度であるのが好ましい。具体的には、主膜材の相転移点は、50℃以上であるのが好ましい態様の1つである。 リポソームは、主膜材として単一種のリン脂質を、または、複数種のリン脂質を含むことができる。 第1の親水性高分子でリポソームを修飾する方法は、従来公知の方法に従えばよい。例えば、リン脂質と第1の親水性高分子の脂質誘導体とを予め均一に混合してリポソームを形成させる方法(先導入法);脂質二重膜のリポソームを形成した後に、第1の親水性高分子の脂質誘導体を添加し、当該リポソームの膜表面を外部から第1の親水性高分子の脂質誘導体で修飾する方法(後導入法);反応活性な官能基を持つリン脂質等の膜構成脂質を含有するリポソームを常法にて製造した後、リポソーム分散液に片末端が活性化された第1の親水性高分子を添加して官能基を持つリン脂質等の膜構成脂質と結合させることにより、第1の親水性高分子で修飾されたリポソームを製造する方法が挙げられる。 中でも、後導入法が好ましい態様の一つである。なぜなら、このような場合、脂質二重膜の外側のみが第1の親水性高分子で選択的に表面修飾されたリポソームが得られるからである。この際、得られるリポソームは、第1の親水性高分子部分が脂質二重膜の外方に向かって突出した状態であり、かつ、疎水性部分である脂質部分がリポソームの脂質二重膜中に入り込み安定して保持されたものとなる。 上記の第1の親水性高分子の脂質誘導体は、第1の親水性高分子と脂質とからなる誘導体である。 第1の親水性高分子について以下に説明する。 第1の親水性高分子は、特に制限されない。従来公知の親水性高分子を使用することができる。 中でも第1の親水性高分子が、ユニット構造として、−CH2CH2O−、−CH2CH2CH2O−、−〔CH2CH(OH)CH2O〕n−、−CH2CH(CH2OH)O−からなる群から選ばれる少なくとも1個を有するのが好ましい。 なお、本発明においてユニット構造とは、第1の親水性高分子または第2の親水性高分子の主鎖を構成する最小単位をいう。同じユニット構造が2個以上結合し第1の親水性高分子または第2の親水性高分子の主鎖を構成している場合、当該ユニット構造は、一般的に言うところの繰り返し単位に相当する。 また、前記ユニット構造は、−(CH2CH2O)n−、−(CH2CH2CH2O)n−、−〔CH2CH(OH)CH2O〕n−、−〔CH2CH(CH2OH)O〕n−からなる群から選ばれる少なくとも1つを有するのが好ましい。ただし、nは1以上の整数であり、1〜1,000であるのが好ましい。 第1の親水性高分子としては、例えば、1種類のユニット構造からなるホモポリマー、2種類以上のユニット構造から形成されるコポリマー、ターポリマー、ブロックコポリマーが挙げられる。中でも、ホモポリマーが好ましい。なぜなら、本発明においては、補体活性化物質による第1の親水性高分子の認識を第2の親水性高分子が競合的に阻害することが特徴とされるので、第1の親水性高分子の構造は、補体活性化物質が単純に理解できる構造であるのが望ましいからである。 第1の親水性高分子の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール類、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアスパルトアミド、合成ポリアミノ酸等が挙げられる。 これらの中でも、製剤の血中滞留性を優れたものにする効果があることから、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール類が好ましく、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)がより好ましい。なお、このような第1の親水性高分子は、脂質に結合していない側の末端がアルコキシ化(例えば、メトキシ化、エトキシ化、プロポキシ化)されているものが好ましい。なぜなら、保存安定性に優れるからである。 なお、本発明において、「血中滞留性」とは、例えば薬物担体が投与された宿主において、薬剤が薬物担体に内封された状態で血液中に存在する性質を意味する。薬剤は、薬物担体から放出されると速やかに血中から消失し、暴露する。血中滞留性が良いと、より少ない量で薬剤を投与することが可能である。 また、本発明において、「暴露」とは、薬物担体の外部へ放出された薬物が外部環境に対し作用を及ぼすことを意味する。具体的には、放出された薬物は標的部位に近接し、接触することによりその作用(例えば、抗腫瘍効果)を発揮する。薬物が標的部位に作用することにより、標的部位のDNA合成が行われている細胞周期にある細胞に局所的に作用し、期待された効果を示す。このような効果を示すために、薬物担体からの薬物の放出率と薬物担体の血中滞留性との均衡を保つ必要がある。放出率については後述する。 PEGの分子量は、特に限定されない。PEGの分子量は、通常、500〜10,000ダルトンであり、好ましくは1,000〜7,000ダルトン、より好ましくは2,000〜5,000ダルトンである。 PGの分子量は、特に限定されない。PGの分子量は、通常100〜10000ダルトンであり、好ましくは200〜7000ダルトン、より好ましくは400〜5000ダルトンである。 PPGの分子量は、特に限定されない。PPGの分子量は、通常100〜10,000ダルトンであり、好ましくは200〜7,000ダルトン、より好ましくは1,000〜5,000ダルトンである。 第1の親水性高分子と結合するために使用される脂質について以下に説明する。 当該脂質は、特に限定されない。例えば、疎水性の領域を有する化合物(疎水性化合物)を挙げることができる。疎水性化合物としては、例えば、後述する混合脂質を構成するリン脂質や、ステロール等の他の脂質類、あるいは、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、リン脂質が好ましい態様の一つである。 上記リン脂質に含まれるアシル鎖は、飽和脂肪酸であることが望ましい。アシル鎖の鎖長は、C14−C20が望ましく、さらにはC16−C18であることが望ましい。アシル鎖としては、例えば、ジパルミトイル、ジステアロイル、パルミトイルステアロイルが挙げられる。 リン脂質は、特に制限されない。リン脂質としては、例えば、上記の第1の親水性高分子と反応可能な官能基を有するものを使用することができる。このような第1の親水性高分子と反応可能な官能基を有するリン脂質の具体例としては、アミノ基を有するフォスファチジルエタノールアミン、ヒドロキシ基を有するフォスファチジルグリセロール、カルボキシ基を有するフォスファチジルセリンが挙げられる。上記のフォスファチジルエタノールアミンを使用するのが好適な態様の1つである。 第1の親水性高分子の脂質誘導体は、上記の第1の親水性高分子と上記の脂質とからなる。上記の第1の親水性高分子と上記の脂質との組み合わせは、特に限定されない。目的に応じて適宜組み合わせたものを使用することができる。例えば、リン脂質、ステロール等の他の脂質類、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステルの中から選ばれる少なくとも1つと、PEG、PG、PPGの中から選ばれる少なくとも1つとが結合した第1の親水性高分子の誘導体が挙げられる。第1の親水性高分子がポリエチレングリコール(PEG)である場合、脂質としてリン脂質、コレステロールを選択するのが好適な態様の1つである。このような組み合わせによるPEGの脂質誘導体としては、例えば、PEGのリン脂質誘導体またはPEGのコレステロール誘導体が挙げられる。 これらの中でも、PEGのリン脂質誘導体が好ましい態様の一つとして挙げられる。PEGのリン脂質誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコール−ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)が挙げられる。PEG-DSPEは、汎用の化合物であり入手容易であることから好ましい。 上記の第1の親水性高分子は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。 このような第1の親水性高分子の脂質誘導体は、従来公知の方法によって製造することができる。第1の親水性高分子の脂質誘導体の一例であるPEGのリン脂質誘導体を合成する方法としては、例えば、PEGに対し反応可能な官能基を有するリン脂質と、PEGとを、触媒を用いて反応させる方法が挙げられる。当該触媒としては、例えば、塩化シアヌル、カルボジイミド、酸無水物、グルタルアルデヒドが挙げられる。このような反応により、前記官能基とPEGとを共有結合させてPEGのリン脂質誘導体を得ることができる。 このような第1の親水性高分子の脂質誘導体を用いて表面修飾されたリポソームは、血漿中のオプソニンタンパク質等が当該リポソームの表面へ吸着するのを防止して当該リポソームの血中安定性を高め、RESでの捕捉を回避することが可能となり、薬物の送達目的とする組織や細胞への送達性を高めることができる。 リポソームは、上記リン脂質、第1の親水性高分子の脂質誘導体の他に、他の膜構成成分を含むことができる。他の膜構成成分としては、例えば、リン脂質以外の脂質およびその誘導体(以下、これらを「他の脂質類」と称することもある。)が挙げられる。リポソームは、主膜材として上記のリン脂質および第1の親水性高分子の脂質誘導体とともに、他の脂質類を含む混合脂質による膜で形成されるのが好ましい。 リン脂質以外の脂質は、分子内に長鎖アルキル基等より構成される疎水性基を有し、リン酸基を分子内に含まない脂質をいう。当該脂質は特に限定されない。例えば、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロールのようなステロール類、およびこれらの水素添加物などの誘導体を挙げることができる。ステロール類は、シクロペンタノヒドロフェナントレン環を有するものであれば特に限定されない。例えば、コレステロールが挙げられる。 リポソームは、上記のような他の膜構成成分をそれぞれ単一種でまたは複数種含むことができる。 また、リポソームは、上記のような膜構成成分の他に、他の膜成分を本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。他の膜成分は、膜構造を保持しうるものであって、リポソームが含むことができるものであれば特に制限されない。このような他の膜成分としては、例えば、表面修飾剤が挙げられる。表面装飾剤は、脂質の物性を変化させ、担体の膜成分に所望の特性を付与するものである。表面修飾剤は、特に限定されない。例えば、荷電物質、水溶性多糖類およびその誘導体等が挙げられる。 荷電物質は、特に限定されない。例えば、アミノ基、アミジノ基、グアジニノ基のような塩基性官能基を有する化合物;酸性官能基を有する化合物等が挙げられる。 塩基性化合物としては、例えば、特開昭61−161246号公報に記載されたDOTMA、特表平5−508626号公報に記載されたDOTAP、特開平2−292246号公報に記載されたトランスフェクタム(Transfectam)、特開平4−108391号公報に開示されたTMAG、国際公開第97/42166号パンフレットに記載された3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩、DOSPA、DOTAP、TfxTM−50、DDAB、DC−CHOL、DMRIE等が挙げられる。 このような塩基性官能基を有する化合物と脂質とが結合してなる脂質誘導体は、カチオン化脂質と称される。脂質としては、特に制限されない。例えば、疎水性の領域を有する化合物(疎水性化合物)を挙げることができる。当該疎水性化合物としては、例えば、上述した混合脂質を構成するリン脂質や、ステロール等の他の脂質類、あるいは、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、リン脂質が好ましい態様の一つである。リポソームが表面修飾剤としてカチオン化脂質を含有する場合、カチオン化脂質は、その脂質部分がリポソームの脂質二重膜の中に安定化され、かつ、塩基性官能基部分を脂質二重膜の膜表面上(少なくとも外膜表面上、あるいは内膜表面上にも)に存在させることができる。カチオン化脂質で膜を修飾することにより、リポソーム膜と細胞との接着性等を高めることができる。 酸性官能基を有する化合物としては、例えば、フォスファチジン酸、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルグリセロール、カルジオリピンのような酸性リン脂質;オレイン酸、ステアリン酸のような飽和あるいは不飽和脂肪酸;ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM3のようなシアル酸を有するガングリオシド類;N−アシル−L−グルタミンのような酸性アミノ酸系界面活性剤等が挙げられる。 水溶性多糖類としては、特に限定されない。例えば、グルクロン酸、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンが挙げられる。水溶性多糖類の誘導体としては、例えば、糖脂質が挙げられる。 表面修飾剤が水溶性多糖を含む場合、水溶性多糖が結合する脂質としては、例えば、疎水性の領域を有する化合物(疎水性化合物)を挙げることができる。疎水性化合物としては、例えば、上述した混合した混合脂質を構成するリン脂質や、ステロール等の他の脂質類、あるいは、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、リン脂質が好ましい態様の一つである。 このような表面修飾剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。 第1の親水性高分子で修飾されたリポソームにおいて、第1の親水性高分子による脂質膜(総脂質)の修飾率は、リポソームの膜脂質に対して、通常0.1〜20mol%であり、好ましくは0.1〜5mol%であり、より好ましくは0.2〜10mol%である。 また、第1の親水性高分子がPEGである場合、PEGで修飾されたリポソームにおいて、PEGによる脂質膜(総脂質)の修飾率は、リポソームの膜脂質に対して、通常0.1〜20mol%であり、好ましくは0.1〜10mol%であり、より好ましくは0.2〜10mol%である。 なお、本発明において、総脂質とは、第1の親水性高分子の脂質誘導体を含むリポソームの膜を構成するすべての脂質の総量である。当該脂質には、例えば、リン脂質、第1の親水性高分子の脂質誘導体の脂質、他の脂質類、表面修飾剤に含有される脂質が含まれる。 また、第1の親水性高分子で修飾されたリポソームにおいて、主要構成成分であるリン脂質の量は、膜脂質全体中、通常、20〜100mol%であり、好ましくは40〜100mol%である。 また、第1の親水性高分子で修飾されたリポソームにおいて、リン脂質以外の他の脂質類の量は、膜脂質全体中、通常、0〜80mol%であり、好ましくは0〜60mol%である。 本発明に使用されるリポソームの製造方法は、特に限定されない。従来公知の方法に従って当該リポソームを製造することができる。上記の各構成成分を用いて、例えば、エタノール注入法、薄膜法、逆相蒸発法、凍結融解法、超音波法、後述する高圧吐出法、エクストリュージョン法、超臨界法等の従来公知の方法によりリポソームを製造することができる。前記高圧吐出法は、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させることによりリポソームを得ることができる。この方法は、「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田、吉村ら;シュプリンガー・フェアラーク東京(1992))に具体的に記載されており、この記載を引用して本明細書の記載されているものとする。 また、リポソームを所望のサイズにサイジングする方法としては、従来公知の技術が利用可能である(例えば、G.Gregoriadis編「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques」2nd edition,Vol.I-III、CRC Press)。この記載を引用して本明細書の記載されているものとする。 リポソームの脂質二重膜構造については、ユニラメラ小胞(Small Unilamellar Vesicle,SUV、Large Unilamellar Vesicle,LUV)および複数枚からなる多重ラメラ小胞(Multilamellar Vesicle,MLV)などの膜構造が知られている。本発明においては、リポソームは、いずれの膜構造も用いることができる。中でも、ユニラメラ小胞のリポソームが好ましく、リポソームの安定性よりLUVリポソームが好ましい。 ユニラメラ小胞のリポソームは、従来公知の方法に従って調製することができる。例えば、リポソームを無水エタノールのような溶媒に分散させて、主に多層構造のマルチラメラリポソームで構成されているリポソームからなるリポソーム分散液とし、次で、このリポソーム分散液を、エクストルーダーを用いて、フィルターを複数回強制通過させることによりユニラメラ化されたリポソームを得ることができる。通常、フィルターは、所望径より大径の孔径をもつもの、最後に所望径の得られるものの孔径の異なるものを2種以上使用する。このようにエクストルーダーを用いて孔径の異なるフィルターの通過回数を多くするほどユニラメラ化率が高くなり、実質的にユニラメラ小胞のリポソームとみなせるようになる。実質的にユニラメラ小胞とは、具体的には、リポソーム製剤を構成する全担体(小胞)中、ユニラメラ小胞が占める割合が、存在比で全体の50%以上であればよく、80%以上であることが好ましい。 担体中に担持される薬物としては、治療および/または診断のための薬物がある。 担体中に担持される治療のための薬物としては、具体的には、例えば、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、抗癌剤、抗生物質、酵素剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメデイエーターの遊離阻害剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、一酸化窒素合成阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤、光化学療法に用いられる薬剤、中性子捕捉療法に用いられる薬剤、音響化学治療に用いられる薬剤、温熱療法に用いられる薬剤、ラジカルスカベンチャー、タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および多糖およびそれらの誘導体等が挙げられる。 中でも、塩酸ドパミン、メシル酸ガベキサート、ノルエピネフリン、塩酸ブロムヘキシン、メトクロプラミド、エピネフリン、ビタミンB1、ビタミンB6、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、塩酸ドキソルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ゲムシタビン、塩酸イリノテカン、塩酸トポテカン、酒石酸ビノレビン、硫酸ビンクリスチンが好ましい。 担体中に担持される診断のための薬物としては、薬物担体の形成を損ねない限り特に限定されるものではない。具体的には、例えば、X線造影剤、超音波診断剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬などの体内診断薬が挙げられる。 薬物を担体に担持させる方法は、従来公知の方法を用いることができる。 薬物担体を製造するための後処理については、特に制限されない。例えば、得られた処理液から内封されなかった薬剤を除去するための段階を経るのが好ましい態様の一つである。従って、得られた薬物担体の内部と外部との間には、脂質二重層を介して薬物の濃度勾配が生じ得る。薬物担体は、脂質二重層の内部に内封されず、調製後脂質二重層の外部に残留した薬剤を有さないのが好ましい。 このようにして得られた薬物担体は、生体に投与されると薬物を内封した状態で標的部位まで到達し、その結果内封する薬剤を標的部位まで送達する。そして、薬物担体は、内封する薬物を外部環境へ放出する。薬物の標的部位への送達は、薬物担体に担持された薬物を標的部位へ取りこませることであってもよいし、標的部位に取りこまれずとも薬物の影響を標的部位またはその近傍へ及ぼすことであってもよい。 なお、本発明において「放出」とは、薬物担体に内封された薬物が、担体を構成する脂質膜を通過することにより、または、脂質膜の一部の構造が変わることにより担体の外部へ出てくることをいう。 また、「放出率」とは、投与された薬物担体に担持される薬物全量に対する、投与からある一定の期間内に薬物担体から担体の外部へ出てきた薬物の量の比率(%)をいう。「放出率が低い」とは単位時間あたりの担体の外部へ出てくる薬剤量が少ないことを意味する。 次に、第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質について説明する。 生理活性物質を修飾するための第1の親水性高分子は、上記の第1の親水性高分子と同様である。 生理活性物質は、特に制限されない。タンパク質、クロロフィル、クロロフィドのようなポルフィリン錯体、へミンのようなポルフィリン錯体のハロゲン化物、ビタミン、抗生物質、神経伝達物質、抗癌剤、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、酵素剤、補酵素、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメデイエーターの遊離阻害剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、一酸化窒素合成阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤、ラジカルスカベンチャー、ペプチド、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および多糖およびそれらの誘導体等が挙げられる。 抗癌剤としては、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、塩酸ドキソルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ゲムシタビン、塩酸イリノテカン、塩酸トポテカン、酒石酸ビノレビン、硫酸ビンクリスチン、カンプトテシン、パクリタキセル、ドセタキセルが挙げられる。 免疫抑制剤としては、例えば、ラパマイシン、タクロリムスが挙げられる。 上記タンパク質としては、例えば、インターフェロン(IFN)、L−アスパラギナーゼ、カタラーゼ、ウリカーゼ、グルコセレブロシターゼ、アデノシンデアミナーゼ、ヘモグロビン、インターロイキン2、インターロイキン10、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、スーパーオキサイドディスムターゼ、ウロキナーゼ、tPA(組織型プラスミノゲンアクチベータ−)、エリスロポエチン、加水分解酵素、酸化還元酵素、抗体等が挙げられる。 第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質は、上述の第1の親水性高分子と生理活性物質とからなる物質である。上述の第1の親水性高分子と生理活性物質との組み合わせは特に制限されない。第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質は、上述の第1の親水性高分子と生理活性物質とを目的に応じて適宜組み合わせたものを使用することができる。第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質としては、例えば、ポリエチレングリコールで修飾されたインターフェロン製剤が挙げられる。ポリエチレングリコールで修飾されたインターフェロン製剤は、具体的には、母化合物である遺伝子組替えインターフェロンα-2aを分子量40,000ダルトンの分岐型ポリエチレングリコール(PEG)1分子で化学修飾した化合物である。 生理活性物質の修飾に用いられる第1の親水性高分子がPEGの場合、PEGの分子量は、一般的にリポソームを修飾するために用いられるPEGの分子量より大きく、5000〜50000ダルトンである。また、生理活性物質がタンパク質の場合、タンパク質の機能を阻害せず、血中滞留性を向上させるため、PEG分子量、PEG導入数、および、タンパク質中でPEGが導入される部位が決まっていることが一般的である。 第1の親水性高分子で修飾された生理活性物質は、従来公知の方法で製造することができる。 次に、第2の親水性高分子について説明する。 第2の親水性高分子は、親水性高分子として従来公知のものを使用することができる。具体的な第2の親水性高分子としては、例えば、上記の第1の親水性高分子と同様のものが挙げられる。 本発明においては、第2の親水性高分子の選択が特に重要である。使用される第2の親水性高分子は、例えば、第1の親水性高分子で修飾された製剤がリポソームである場合、当該リポソームが補体活性化物質(例えば、免疫細胞)により認識される現象を競合的に阻害することができる構造を有することが好ましい。また、製剤が第1の親水性高分子で修飾されたタンパク質の場合も考え方は同様であり、第2の親水性高分子は、タンパク質に結合した第1の親水性高分子が補体活性化物質により認識される現象を競合的に阻害することができる構造を有することが好ましい。 具体的には、第1の親水性高分子と第2の親水性高分子とは、同一または類似のユニット構造を少なくとも1個有するのが好ましく、同一のユニット構造を少なくとも1個有するのがより好ましい。 なお、第1の親水性高分子と第2の親水性高分子とのユニット構造が類似であるとは、両者のユニット構造がそれぞれ独立に親水基を有し、かつ、第2の親水性高分子のユニット構造の炭素数が、第1の親水性高分子のユニット構造の炭素数の±3の範囲(ただし、第2の親水性高分子のユニット構造の炭素数は1以上である)であることをいう。なお、第2の親水性高分子のユニット構造の炭素数については、例えば、第1の親水性高分子のユニット構造が−CH2CH2O−である場合、第1の親水性高分子のユニット構造の炭素数は2である。従って、第2の親水性高分子が有するユニット構造の炭素数の範囲は1〜5の整数となる。また、ユニット構造の末端基が、メトキシ基等のアルコキシ基である場合も類似構造と考えることができる。 親水基としては、例えば、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド結合、エーテル結合が挙げられる。中でも、ヒドロキシ基、エーテル結合が好ましい。 また、第2の親水性高分子のユニット構造の好ましい炭素数は、第1の親水性高分子のユニット構造の炭素数の±1の範囲である。 また、前記同一または類似のユニット構造としては、例えば、−(CH2CH2O)n−、−(CH2CH2CH2O)n−、−〔CH2CH(OH)CH2O〕n−、−〔CH2CH(CH2OH)O〕n−からなる群から選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。ただし、nは1以上の整数である。 中でも、nは、1〜1,000の整数であるのが好ましい。 なお、第1の親水性高分子のユニット構造のnと、第2の親水性高分子のユニット構造のnとは、それぞれ独立して設定されるが、同一であってもよい。 担体がリポソームの場合、使用される第1の親水性高分子として最も汎用なのはPEGである。従って、この場合、第2の親水性高分子としてはPEGを選択することが最も好ましい。また、第1の親水性高分子として、例えば、ポリプロピレングリコール(PPG)またはポリグリセリン(PG)が使用される場合は、第2の親水性高分子として第1の親水性高分子と同じ種類の親水性高分子を添加することが最も好ましい。 本発明において、第2の親水性高分子の分子量および添加量は特には限定されない。例えば希釈剤中に第2の親水性高分子を添加する場合を考えると、第2の親水性高分子の分子量が少ないほうが、溶解度が高く望ましい。より具体的には、第2の親水性高分子は、分子量50000ダルトン以下であるのが望ましい。また、分子量1000ダルトン以下の場合、第2の親水性高分子は液体であることが多いため使用しやすい。 本発明において特に注意するべき点としては、第1の親水性高分子および第2の親水性高分子のUnit mol数が挙げられる。本発明においてはUnit mol数の考え方が非常に重要となる。 Unit mol数とは、親水性高分子の分子量とユニット構造の分子量と親水性高分子のモル数とによって表され、下記式(1)によって求められる。 Unit mol数=(親水性高分子の分子量)÷(ユニット構造の分子量)×(親水性高分子のmol数) ・・・(1) このようにUnit mol数は、第1の親水性高分子または第2の親水性高分子の分子量とmol数とに依存して決定される。 例えば、リポソーム表面を修飾する第1の親水性高分子として分子量400ダルトンのPEGを5モル使用する場合、PEGのユニット構造(−CH2CH2O−)1個の分子量は44であるので、このようなPEGのUnit mol数は、式(1)から400÷44×5=45.45と求められる。 リポソームがPEGで修飾されている場合、当該PEGの分子量は、通常、2000〜5000ダルトンである。中でも、PEG化製剤の血中滞留性を考えると、分子量2000ダルトンのPEGより分子量5000ダルトンのPEGは少ないmol数で好ましい血中滞留性を得ることができる。 また、第2の親水性高分子については、第2の親水性高分子の分子量が大きくなればそのUnit mol数が多くなり、必要となる第2の親水性高分子のmol数は少なくなる。また、第2の親水性高分子の分子量が小さくなればそのUnit mol数が少なくなり必要となる第2の親水性高分子のmol数は多くなる。 また、本発明において、第1の親水性高分子のUnit mol数と第2の親水性高分子のUnit mol数の比(第1の親水性高分子のUnit mol数:第2の親水性高分子のUnit mol数)を、Unit mol比という。 Unit mol比は、1:0.1〜1:1000が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:100であり、さらに好ましくは1:0.75〜1:50であり、更には、第2の親水性高分子の投与量が、Unit mol比において、第1の親水性高分子と等量以上となる1:1〜1:50であることが最も好ましい。 あるいは、Unit mol比は、リポソームの体内動態特性によっては、1:0.1〜1:10000が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:1000であり、さらに好ましくは1:0.75〜1:200である。 なお、「Unit mol比が高い」とは、第1の親水性高分子に対する第2の親水性高分子のUnit mol数が多いことを指す。 第1の親水性高分子としてPEGを選択した場合、どのような分子量のPEGを使用するかはUnit mol数を算出し判断する必要があることに注意する。なぜなら、第1の親水性高分子および第2の親水性高分子のUnit mol数が同じ場合、担体またはタンパク質に結合する第1の親水性高分子のUnit mol数を減らことができれば、Unit mol比を上げることができ望ましいからである。第2の親水性高分子のUnit mol数より、担体またはタンパク質に結合する第1の親水性高分子のUnit mol数は少なければ少ないほど良い。但し、担体がリポソームのような閉鎖小胞体の場合、リポソームが第1の親水性高分子を表面に結合していないと血中滞留性が低下するため好ましくない。 このような良好な血中滞留性を得るために必要な第1の親水性高分子の量は、脂質膜構成成分中の0.2〜10mol%である。従って、第2の親水性高分子は、このような量の第1の親水性高分子に含まれるUnit mol数よりも多いUnit mol数を有することが好ましい。 Unit mol比の調製方法としては、例えば、第2の親水性高分子の量・分子量を増減する方法、第1の親水性高分子の量・分子量を増減する方法が挙げられる。本発明においては、第1の親水性高分子および第2の親水性高分子のそれぞれの分子量やmol数を判断の基準とするのではなく、それぞれの総Unit mol数を基準に判断しなければならない。 また、本発明は競合阻害の考え方を利用しているため、第1の親水性高分子に対する第2の親水性高分子のUnit mol数は等量よりも多いことが望ましい。この点からは、Unit mol比は高ければ高いほど良いが、現実的には前述の範囲が妥当である。 上述した通り、本発明においては、Unit mol比が重要であるが、これは競合阻害の効果を狙った場合の概念である。即ち、第2の親水性高分子の量が、生体内における製剤の安定性を確保し得る十分量存在する場合、言い換えれば、第2の親水性高分子により第1の親水性高分子で修飾された製剤の生体の異物認識機構を完全にマスクしてしまう場合は、第1の親水性高分子の量をもはや考慮する必要はない。 第2の親水性高分子の投与量は、特に限定されないが、Unit mol比で、担体に結合した第1の親水性高分子と当量以上であるのが好ましい。 本発明の医薬組成物は、投与経路次第で医薬的に許容される希釈剤をさらに含むことができる。このような希釈剤の例として、例えば、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、PBS、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤または生体内で許容し得る生理的pHの緩衝液が挙げられる。使用される希釈剤は、剤型に応じて上記の中から適宜選択されるが、これらに限定されるものではない。中でも、水、生理食塩水が好ましい。このような希釈剤は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。 希釈剤の量は、医薬組成物中、0.001〜10質量%含有されるのが好ましい。 第1の親水性高分子で修飾された製剤と、第2の親水性高分子とは、上記の希釈剤(好ましくは水または生理食塩水)中に分散されていることが好ましい。第1の親水性高分子で修飾された製剤と第2の親水性高分子とが希釈剤中に分散されている場合、第2の親水性高分子は、第1の親水性高分子で修飾された製剤から遊離している状態、または、第1の親水性高分子で修飾された製剤と接触している状態である。 本発明の医薬組成物は、投与経路次第で医薬的に許容される安定化剤および/または酸化防止剤をさらに含むことができる。安定化剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、またはシュクロースのような糖類が挙げられる。 酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸、尿酸、トコフェロール同族体(例えば、ビタミンE)が挙げられる。なお、トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが本発明においてはいずれも使用できる。使用される安定化剤および/または酸化防止剤は、剤型に応じて上記の中から適宜選択されるが、これらに限定されるものではない。このような安定化剤および酸化防止剤は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。また、酸化防止の観点からは、上記分散体は窒素充填包装とすることが望ましい。 本発明の医薬組成物は、従来公知の方法で製造することができる。また、本発明の医薬組成物は、通常の方法、例えば0〜8℃での冷蔵または1〜30℃の室温で保存することができる。 本発明の医薬組成物について特筆すべき点は、製剤の血中滞留性を損なうこと無く、免疫反応だけを抑えることができる点にある。より具体的には、免疫細胞が製剤を修飾している第1の親水性高分子を認識するのを防ぐのではなく、第2の親水性高分子の存在によって、何らかの補体活性化物質が第1の親水性高分子を認識することを競合的に阻害し、さらに認識した後の反応(例えば、補体系の活性化、ABC現象、アナフィラキシー様反応等)を抑える点にある。 次に、本発明の製剤について説明する。 本発明の製剤は、第2の親水性高分子を有効成分とする製剤である。この用途は、第1の親水性高分子で修飾された製剤による免疫反応を抑制するために用いる。 本発明の製剤に使用される第2の親水性高分子は、上記の本発明の医薬組成物に含有される第2の親水性高分子と同様である。 本発明の製剤は、有効成分である第2の親水性高分子の他に、投与経路次第で医薬的に許容される希釈剤を含有するのが好ましい。このような希釈剤は、上記の本発明の医薬組成物で使用可能な希釈剤と同様であり、中でも水、生理食塩水が好ましい。第2の親水性高分子の量は、製剤中、0.001〜20質量%であるのが好ましい。 本発明の製剤は、投与経路次第で医薬的に許容される安定化剤および/または酸化防止剤をさらに含むことができる。具体的な安定化剤、酸化防止剤は、上記と同様である。 本発明の製剤は、親水性高分子で修飾された製剤で市販のもの、または、上記の第1の親水性高分子で修飾された製剤(以下、これらを併せて「修飾化製剤」という)を使用するとき、起こりうる免疫反応を防ぐために用いられる。このような場合、本発明の製剤を、修飾化製剤と同時に、修飾化製剤の投与前に、または、連続的に投与することができる。中でも、本発明の製剤を、修飾化製剤と同時に、または、修飾化製剤の投与前に投与されるのが好ましい。 次に、本発明の組み合わせ製剤について説明する。 本発明の組み合わせ製剤は、第2の親水性高分子を有効成分とする製剤と、第1の親水性高分子で修飾された製剤との組み合わせ製剤である。第2の親水性高分子は、第1の親水性高分子で修飾された製剤による免疫反応を抑制するために用いられる。 第2の親水性高分子を有効成分とする製剤は、上記の本発明の製剤と同様である。 また、第1の親水性高分子で修飾された製剤は、上記の本発明の医薬組成物に含有される第1の親水性高分子で修飾された製剤と同様である。 第1の親水性高分子で修飾された製剤は、希釈剤、安定化剤、酸化防止剤を含有することができる。また、第1の親水性高分子で修飾された製剤は、乾燥粉末または凍結乾燥の形態をとることができる。 本発明の組み合わせ製剤において、第1の親水性高分子のUnit mol数と第2の親水性高分子のUnit mol数の比は、1:0.1〜1:1000が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:100であり、さらに好ましくは1:0.75〜1:50である。 あるいは、Unit mol比は、リポソームの体内動態特性によっては、1:0.1〜1:10000が好ましく、より好ましくは1:0.5〜1:1000であり、さらに好ましくは1:0.75〜1:200である。 本発明においては、Unit mol比が重要であるが、これは競合阻害の効果を狙った場合の概念である。即ち、第2の親水性高分子の量が、生体内における製剤の安定性を確保し得る十分量存在する場合、言い換えれば、第2の親水性高分子により第1の親水性高分子で修飾された製剤の生体の異物認識機構を完全にマスクしてしまう場合は、第1の親水性高分子の量をもはや考慮する必要はない。 本発明の組み合わせ製剤は、第2の親水性高分子を有効成分として含有する製剤と、第1の親水性高分子で修飾された製剤との組み合わせ製剤、つまり、セット品である。 本発明の組み合わせ製剤は、第2の親水性高分子が第1の親水性高分子で修飾された製剤による免疫反応を抑制することができる。従って、本発明の組み合わせ製剤は、例えば、第2の親水性高分子を有効成分とする製剤を、第1の親水性高分子で修飾された製剤と同時に;第1の親水性高分子で修飾された製剤の投与前に;連続的に投与することができる。中でも、第2の親水性高分子を有効成分とする製剤を、第1の親水性高分子で修飾された製剤と同時に、または、第1の親水性高分子で修飾された製剤の投与前に投与するのが好ましい。 本発明の医薬組成物、本発明の製剤および本発明の組み合わせ製剤のそれぞれ(以下、「本発明の医薬組成物等」ということがある。)は、例えば、粉末、ゲル、溶液、乳液または分散液として存在することができる。また、計算された量の製剤をいずれか所望の製薬賦形剤と一緒に含有する非経口製剤として製造するのが特に有利かつ簡単である。本発明の組み合わせ製剤を含有する非経口(静脈内、皮下、筋肉内)注射等による投与が可能である。 以上のように、本発明の医薬組成物等は、第2の親水性高分子によって、第1の親水性高分子が補体活性化物質により認識される現象を競合的に阻害することができる。つまり、従来の方法では困難であった補体系の活性化を抑えることができ、医薬品としての安全性を優れたものにすることが可能である。従って、本発明の医薬組成物等は、標的部位に長時間高濃度で暴露するために、宿主(患者)に対して、非経口的に、全身に、または局所的に投与することができる。投与対象の宿主としては、例えば、哺乳動物、好ましくはヒト、サル、ネズミ、家畜等が挙げられる。 本発明の医薬組成物等の非経口的投与の経路としては、例えば、点滴等の静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射が挙げられ、適宜選択することができる。また、患者の年齢、症状により投与方法を適宜選択することができる。 本発明の医薬組成物等に含有される薬物は、病気に既に悩まされる患者に、疾患の症状を治癒するか、または少なくとも部分的に阻止するために十分な量で投与される。例えば、担体に封入される薬物の有効投与量は、一日につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。しかしながら、本発明の医薬組成物等に含有される薬物はこれらの投与量に制限されるものではない。 また、本発明の医薬組成物等に使用される第2の親水性高分子は、第1の親水性高分子が補体活性化物質によって認識されて引き起こされる免疫反応を抑制するために十分な量で投与される。つまり、第2の親水性高分子のUnit mol数が、第1の親水性高分子のUnit mol数と等量以上となるように投与される。 本発明においては、Unit mol比が重要であるが、これは競合阻害の効果を狙った場合の概念である。即ち、第2の親水性高分子の量が、生体内における製剤の安定性を確保し得る十分量存在する場合、言い換えれば、第2の親水性高分子により第1の親水性高分子で修飾された製剤の生体の異物認識機構を完全にマスクしてしまう場合は、第1の親水性高分子の量をもはや考慮する必要はない。しかしながら、本発明の医薬組成物等はこれらの投与量に制限されるものではない。 また、本発明の医薬組成物等の投与時期は、疾患が生じてから投与してもよいし、または疾患の発症が予測される時に発症時の症状緩和のために予防的に投与してもよい。また、投与期間は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。 本発明の医薬組成物等の具体的な投与方法としては、例えば、シリンジ、点滴を用いて投与する方法;カテーテルを患者または宿主の体内(例えば管腔内、血管内)に挿入して、その先端を標的部位付近に導き、当該カテーテルを通して、所望の標的部位もしくはその近傍または標的部位への血流が期待される部位から投与する方法が挙げられる。 次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例、試験例に限定されるものではない。 各例で調製された薬剤封入リポソームの各濃度および粒子径は、以下のように求めた。・リン脂質濃度(mg/mL):リン脂質定量キット(リン脂質Cテストワコー、和光純薬工業株式会社製)を用いて定量されるリポソーム分散液中でのリン脂質(HSPC)濃度。・総脂質濃度(mol/L):上記リン脂質濃度から算出される表面修飾剤を含む膜構成成分の合計モル濃度(mM)。・粒子径(nm):リポソーム分散液20μLを生理食塩水で3mLに希釈し、Zetasizer3000HS (Malvern Instruments.製)で測定した平均粒子径である。・PEG修飾化リポソーム投与後の血漿の調製 本発明においては、下記試験例1〜4の各試験の試験対象として、イヌの血漿にPEG修飾化リポソームを投与した後の血漿(免疫反応が増強されたイヌの血漿)を用いて実験を行った。これまで、生体(例えばイヌ)に対してPEG修飾化リポソームを複数回投与した場合、補体活性化を伴うアナフィラキシー様反応を示すことが報告されている。従って、一度PEG修飾化リポソームを投与された生体の血漿は、PEG修飾化リポソームに対する免疫が増強されていることが考えられる。このようなことから、PEG修飾化リポソームが免疫系から逃れる手段を模索する目的で行うため、試験対象としてPEG修飾化リポソーム投与後の血漿(イヌ由来)を用いた。 PEG修飾化リポソーム投与後の血漿は以下のようにして得られた。まず、イヌに下記の調整例1で得られたPEG修飾化リポソーム(総脂質量として6μmol/kg)を投与し、7日後に採血を行い、血液を得た。当該血液を遠心分離し、血漿を得た。以下、このように調製された血漿を、「リポソーム処理血漿」という。 以下に、使用した各成分の略称および分子量を示す。・HSPC:水素添加大豆フォスファチジルコリン(分子量790、リポイド(Lipoid)社製SPC3)・Chol:コレステロール(分子量386.65、ソルベイ(Solvay)社製)・PEG5000-PE:ポリエチレングリコール(分子量5000)−フォスファチジルエタノールアミン(分子量5938、Genzyme社製)・DOX:塩酸ドキソルビシン(分子量:579.99)・PEG400:ポリエチレングリコール(分子量:400)・PEG4000:ポリエチレングリコール(分子量:4000)・PEG20000:ポリエチレングリコール(分子量:20000)・PPG425:ポリプロピレングリコール(分子量:425)・PBS:生理食塩水−リン酸緩衝液(pH7.2)調製例1(1)リポソームの作製 水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)0.706gおよびコレステロール(Chol)0.294gを、60℃で加温した無水エタノール(和光純薬社製、1mL)−PBS(pH7.2、9mL)溶液に加えて充分膨潤させ、ボルテックスミキサーにて撹拌し、68℃でエクストルーダー(The Extruder T.100,Lipex biomembranes Inc.製)に取り付けたフィルター(孔径0.2μm×5回、0.1μm×10回、Whatman社製)に順次通し、リポソーム分散液を調製した。(2)PEG5000−PEの導入 上記リポソーム分散液に、第1の親水性高分子の脂質誘導体としてのPEG5000(これが第1の親水性高分子に当たる)−フォスファチジルエタノールアミン(以下、これを「PEG5000−PE」と記載することがある)を蒸留水で希釈した水溶液(36.74mg/mL)2.0mL(混合脂質の総脂質量の0.75mol%に相当)を加え、60℃で30分加温し撹拌した。このようにして、リポソームにPEG5000−PEを導入し、PEG5000で修飾されたリポソーム(以下、これを「PEG5000修飾化リポソーム」ということがある)の分散液を得た。(3)精製工程 PEG5000修飾化リポソームの分散液を、PBS(pH7.2)にて置換したゲルカラムにて精製を行った。ゲルろ過後のサンプルは氷冷した。次いで、高速液体クロマトグラフを用いて、PEG5000修飾化リポソームに含有されるHSPC、CholおよびPEG5000−PEの各膜組成および脂質濃度を定量した。結果を第1表に示す。 リポソームにおけるPEGのUnit mol数(Unit mol/mL)を、以下の式(1)により算出した。PEG5000(第1の親水性高分子)−PEの分子量を6075、PEG50001モルあたりに含まれるUnit数を113.6とした。PEGのUnit mol数(Unit mol/mL)=(使用されたPEG5000−PEの脂質濃度、mg/mL)÷1000÷6075×113.6 ・・・(1) 得られたPEG5000修飾化リポソームは、リポソームを修飾しているPEG5000のUnit mol数濃度(Unit mol/mL)が、35.0×10-6であった。また、得られたPEG5000修飾化リポソームの粒子径は、95.3nmであった。調製例2 調製例1で作製されたPEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームの分散液10mL中に、第2表に示される各第2の親水性高分子を加え、製剤を調製した。使用された各第2の親水性高分子について第2表に示す。なお、第2表中の、各第2の親水性高分子添加量は、後述する試験例1〜3により得られた結果を基に算出した。また、Unit mol比は、調製例1で得られたPEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームに結合している第1の親水性高分子(PEG5000)のUnit mol数に対する、各第2の親水性高分子のUnit mol数の比である。 第2表中の10mL中における第1の親水性高分子(PEG)のUnit mol数を、下記の式(2)に従って算出した。第1表の結果から、使用されたPEG5000−PEの脂質濃度1.87mg/mL、PEG5000(第1の親水性高分子)−PEの分子量を6075、PEG50001モルあたりに含まれるUnit数を113.6として計算した。10mL中における第1の親水性高分子(PEG)のUnit mol数=1.87(mg/mL)÷1000×10(mL)÷6075×113.6 ・・・(2) 第2表中の10mL中における第2の親水性高分子(PEG)のUnit mol数は、下記の式(3)に従って算出した。10mL中における第2の親水性高分子(PEG)のUnit mol数=[式(2)で得られた値]×3.2(Unit mol比)・・・(3) Unit mol比は、試験例1〜3に使用された第2の親水性高分子の濃度が100μg/mLであることから算出した。試験例1 補体活性化の評価 まず、上記のリポソーム処理血漿400μLに対して、第2の親水性高分子としてPEG(分子量400、4000および20000:最終濃度100μg/mL)2μLを加えた後、37℃で10分間保温した。次に、このようにPEGで前処置された各血漿150μLに生理食塩水またはPEG修飾化リポソームを3μL加え、37℃で30分間保温し、反応させた。・補体価(CH50)の測定 上記の3種類のPEGで前処置された各血漿を150μLずつ2つの容器に分けた。そして各種の血漿の2つの容器に、それぞれ生理食塩水またはPEG5000修飾化リポソームを3μL加えて反応させた。反応後、各反応溶液中の補体価(CH50)を市販の測定キットを用いて行った。市販の測定キットは、補体の測定方法としてMayerらにより確立された50%溶血法に基づき補体価を求めるものである。この方法における補体の1単位とは、至適濃度の溶血素で感作されたヒツジ赤血球5×108個の50%を7.5mLの反応容量の中で37℃、60分間で溶血させるのに必要な量のことである。・補体活性化率 上記のようにして測定された補体価(CH50)を下記の式(4)にあてはめて、補体活性化率を求めた。結果を、図1に示す。補体活性化率(%)=〔1−(PEG修飾化リポソーム添加時のCH50)÷(生理食塩水添加時のCH50)〕×100 ・・・(4) なお、図1中の「対照(PEG未処置)」のデータは、リポソーム処理血漿400μLについて第2の親水性高分子としてのPEGではなく生理食塩水2μLを加えて前処置し、次いで、この生理食塩水で前処置された血漿を150μLずつ2つの容器に分け、各容器それぞれに生理食塩水またはPEG5000修飾化リポソームを3μL加え、37℃で30分間保温して反応させた。反応後、各反応溶液中の補体価(CH50)を上記と同様に市販の測定キットを用いて測定した。そして、得られた補体価(CH50)を式(4)にあてはめて補体活性化率を求めた。 図1において、棒グラフの値が低いほど、補体活性化が弱く、補体活性化物質(抗体、レクチンなど)によるPEG5000修飾化リポソームの認識が抑制され、アナフィラキシー様反応が起こる危険性が低いことを示す。図1から明らかように、PEG前処置によりPEG5000修飾化リポソームによる補体系の活性化が抑制されることがあきらかになった。また、特に分子量400〜4000のPEGで最も強い抑制作用が認められた。この濃度(100μg/mL)はPEG400の静注実績から考えても1/5量であり、ヒトに投与しても何ら問題ではない。一方、PEG4000は静注実績の約2.5倍量であり、安全性等のデータを再度取得する必要がある。以上の結果より、PEG化製剤による補体系の活性化および、それに引き続くアナフィラキシー様反応の危険性を低く抑えるために、PEGをプレ投与することが有効であることが示唆された。すなわち、PEGをプレ投与することにより、PEG化製剤による補体活性化およびアナフィラキシー様反応を抑制できることが考えられた。試験例2 親水性高分子による補体活性化抑制の評価 第1の親水性高分子で修飾されたリポソームによる補体活性化を抑制するための第2の親水性高分子としてPEG400の他に分子量が異なるPEG、分子量がほぼ同等で構造の異なるPPGを用いて、補体活性化抑制効果を以下のように比較検討した。 まず、リポソーム処理血漿400μLに対して、第2の親水性高分子としてPEG400、PEG4000、PEG20000またはPPGを各2μL加えた後(最終濃度10〜100μg/mL)、37℃で10分間保温した。この際、対照(第2の親水性高分子未処置)として生理食塩水2μLで前処置したものを用意した。次に、上記のように第2の親水性高分子で前処置された各血漿を150μLずつ2つの容器に分け、各血漿の2つの容器おのおのに生理食塩水またはPEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームを3μL加え、37℃で30分間保温し、反応させた。次に、上記と同様に各反応溶液の補体価(CH50)を測定して、これをもとに上記式(4)により各反応溶液の補体活性化率を求めた。そして、各種第2の親水性高分子の前処置によるPEG5000修飾化リポソームの補体活性化に対する抑制率を下記の式(5)により求めた。結果を図2に示す。補体活性化抑制率(%)=(各第2の親水性高分子前処理時の補体活性化率)÷(生理食塩水前処理時の補体活性化率)×100 ・・・(5) 図2から明らかなように、主鎖を構成するユニット構造の炭素数がPEGより1つ多いPPGでも補体活性化の抑制効果が濃度依存的に確認された。以上の結果より、構造的にPEGがより好ましいことが示唆された。この理由は、リポソームを修飾している第1の親水性高分子であるPEGと、第2の親水性高分子としてのPEGとのユニット構造が同一であることから、第2の親水性高分子としてのPEGが、補体活性化物質がPEG修飾化リポソームに結合するのを競合的により阻害したため、補体系の活性化がより抑制されたと考えられる。試験例3 試験例2の結果から、リポソーム処理血漿に対して、第2の親水性高分子であるPEG400を前処置することにより、補体系の活性化を抑制できることが明らかになったが、この第2の親水性高分子は前処置である必要があるのかどうかを検証するため、第2の親水性高分子(PEG400)の前処置および同時添加による作用の違いについて検討した。 すなわち、前処置では、リポソーム処理血漿に対して最終濃度が10〜100μg/mLとなるように第2の親水性高分子(PEG400)を加えて37℃で10分間保温した。次に、当該第2の親水性高分子(PEG400)前処置血漿とPEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームとを50:1の割合で混合して37℃で30分間保温し、反応させた。そして上記と同様に反応後のCH50を測定し、これを式(5)にあてはめて補体活性化抑制率を求めた。 一方、同時添加では、リポソーム処理血漿を37℃で10分間保温した後、その血漿に第2の親水性高分子としてPEG400と、PEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームとを添加し、混合し、37℃で30分間保温し、反応させた。このとき、リポソーム処理血漿に対して最終濃度が10〜100μg/mLとなるように第2の親水性高分子(PEG400)を加えた。また、第2の親水性高分子(PEG400)前処置血漿とPEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームとを50:1の割合で添加した。反応後、上記と同様にCH50を測定し、これを式(5)にあてはめて補体活性化抑制率を求めた。結果を図3に示す。 図3から明らかなように、第2の親水性高分子(PEG400)の前処置および同時添加による補体活性化の抑制効果に違いは無く、PEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームによる補体系の活性化に対する第2の親水性高分子(PEG400)の抑制効果は、前処置であろうと、同時添加であろうと同等の効果が期待できることが明らかになった。 従って、補体活性化抑制用の第2の親水性高分子は、プレ投与により補体系の活性が抑制できるのはもちろん、第1の親水性高分子で修飾された製剤に添加されることによっても、補体活性化およびアナフィラキシー様反応を抑制することができることが明らかになった。試験例4 リポソーム処理血漿と、調製例2で調製された製剤〔PEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームと第2の親水性高分子(PEG400またはPPG425)との混合液〕とを、1:50の割合で混合し、37℃で30分間保温し、反応させた。そして、上記と同様に反応液の補体価(CH50)を測定し、得られた補体価を式(4)にあてはめて補体活性化率を求めた。 図4から明らかなように、前処置に検討した結果と同様、第2の親水性高分子(PEG400またはPPG425)をPEG5000(第1の親水性高分子)修飾化リポソームと同時添加した場合も、補体系の活性化が抑制された。 試験例3および試験例4の結果から明らかなように、第2の親水性高分子は、第1の親水性高分子で修飾された製剤と、別々に使用することも、同時に使用することもできる。試験例5:製剤加速安定性試験(薬物放出率) 下記の調製例3で調製された各製剤を3mLバイアルに1mLずつ分注した。分注した各バイアルを用いて40℃にて0〜4週間加温し、リポソームの粒子径変化および薬物放出率の経時的変化についての検討を行った。1週間ごとに各製剤150μLを遠心にて沈降させ、超遠心前に存在する薬物の量と、超遠心後の上清に存在する薬物の量とを分光蛍光光度計RF−5000(島津製作所社製)を用いて測定した。薬物放出率は、下記式(6)に従って計算して得た。結果を図5のグラフに示す。なお、図5中のUnit mol比は、(第2の親水性高分子であるPEG400のUnit mol数)÷(第1の親水性高分子であるPEG5000のUnit mol数)である。 薬物放出率(%)=(超遠心後の上清に存在する薬物の量−超遠心前に存在する薬物の量)÷(使用された薬物担体に担持されている全薬物の質量)×100 ・・・(6) 図5から明らかなように、いずれの製剤も安定で低い薬物放出率を示した。また、製剤中に第2の親水性高分子(PEG400)が存在する場合もしない場合も薬物の放出性に変化はなかった。さらに、第2の親水性高分子(PEG400)の濃度によっても薬物の放出性に違いはなかった。このように第2の親水性高分子(PEG400)が存在することによって第1の親水性高分子で修飾されたリポソームの不安定化や、製剤の安定性の低下は認められなかった。試験例6:製剤加速安定性試験(粒子径) 下記の調製例3で調製された各製剤を40℃にて0〜4週間加温し、第1の親水性高分子で修飾されたリポソームの粒子径の変化についての検討を行った。第1の親水性高分子で修飾されたリポソームの分散液20μLを生理食塩水で3mLに希釈し、この希釈液を、一週間ごとにZetasizer3000HS (Malvern Instruments.製)で用いて分析し、リポソームの粒子径(平均粒子径)を測定した。結果を図6のグラフに示す。なお、図6中のUnit mol比は、(第2の親水性高分子であるPEG400のUnit mol数)÷(第1の親水性高分子であるPEG5000のUnit mol数)である。 図6から明らかなように、希釈剤中に第2の親水性高分子(PEG400)が存在する場合もしない場合も、第1の親水性高分子で修飾されたリポソームの粒子径に変化はなかった。また、第2の親水性高分子(PEG400)の濃度によっても当該粒子径に違いはなかった。このように第2の親水性高分子(PEG400)が存在することによって、第1の親水性高分子で修飾されたリポソームの不安定化や、製剤の安定性の低下は認められなかった。調製例3:後導入法(1)リポソームの作製 水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)0.706gおよびコレステロール(Chol)0.294gを、60℃で加温した250mMの硫酸アンモニウム−無水エタノール(和光純薬、1mL)溶液9mLに加えて充分膨潤させ、ボルテックスミキサーにて撹拌し、68℃でエクストルーダー(The Extruder T.10,Lipex biomembranes Inc.製)に取り付けたフィルター(孔径0.2μm×5回、0.1μm×10回、Whatman社製)に順次通し、リポソーム分散液を調製した。(2)PEG5000-PEの導入 上記リポソーム分散液に、ポリエチレングリコールの脂質誘導体としてポリエチレングリコール5000(第1の親水性高分子)−フォスファチジルエタノールアミン(PEG5000−PE)の蒸留水溶液(36.74mg/mL)を2.0mL(混合脂質の総脂質量の0.75mol%に相当)加え、60℃で30分加温した。このようにして、リポソームにポリエチレングリコール(第1の親水性高分子)の脂質誘導体を導入することにより、PEG5000で修飾されたリポソームが得られた。(3)外液置換 上記のようにして得られたリポソームを、10mM Tris/10%シュクロース(Sucrose)溶液(pH9.0)で置換したゲルカラムにかけて外水相置換を行った。 外水相置換後、得られたリポソームに関し、リン脂質定量キッドを用いて、HSPC濃度を定量した。HSPC濃度から総脂質量mMを求めた。(4)薬剤の封入 10mg/mL濃度の塩酸ドキソルビシン(DOX)−10mM Tris/10%シュクロース(Sucrose)溶液(pH9.0)を調製した。 この塩酸ドキソルビシン溶液を、総脂質量に対し、DOX/総脂質=0.2(mol/mol)となる量のPEG5000で修飾されたリポソームの分散液に加え、60℃で60分撹拌を行い、塩酸ドキソルビシンを導入した。導入後のサンプルは氷冷した。塩酸ドキソルビシン封入後のリポソーム分散液を、10mMのヒスチジン(Histidine)−10%シュクロース(Sucrose)溶液(pH6.5)にて置換したゲルカラムにかけてゲルろ過を行い、未封入薬剤の除去を行った。 次に、上記で得られたDOX製剤を10mMのヒスチジン−10%シュクロース溶液(pH6.5)で希釈し、総脂質濃度が15mMに成るように調製した。 次に、DOX製剤5mLにおいて結合したPEG5000(第1の親水性高分子)のUnit mol数を算出し、第2の親水性高分子としてのPEG400のUnit mol数÷DOX製剤に結合した第1の親水性高分子としてのPEG400のUnit mol数=0、0.1、1.0、10となるように、第2の親水性高分子としてPEG400を加えた。総脂質量15mM製剤5mL中における第1の親水性高分子のUnit mol数を、下記の式(7)に従って算出した。組成および粒子径を第3表に示す。総脂質量15mM製剤5mL中における第1の親水性高分子のUnit mol数=15÷1000÷1000×5×0.75÷100.75×113.6=63×10-6(Unit mol) ・・・(7)試験例7 イヌ(Beagle、オス、18〜19ヶ月齢、体重:10.8〜15.0kg)に対して、調製例1で作製されたPEG修飾化リポソーム(総脂質量6μmol/kg)を反復投与した際に起こる補体活性化およびアナフィラキシー様症状に対するPEG400(40mg/kg)の効果を検討した。この際、PEG修飾化リポソームは調製した原液を、PEG400は生理食塩水にて希釈したものを橈側皮静脈より静脈内投与した。すなわち、PEG修飾化リポソームを6μmol/0.17mL/kgで反復投与(1週間間隔)する際に、PEG修飾化リポソーム投与3分前にPEG400を40mg/0.5mL/kgで前投与する群(対照)と生理食塩水0.5mL/kgで投与する群による補体活性化およびアナフィラキシー様症状を比較検討した。なお、このときのUnit mol比は、(第2の親水性高分子であるPEG400のUnit mol数)÷(第1の親水性高分子であるPEG5000のUnit mol数)=178である。補体活性化については、PEG修飾化リポソーム投与前および投与10分後に採血を行った後、血漿中の補体価(CH50)を測定して、下記の式(8)により補体活性化率を求めた。結果を図7に示す。図7は、調製例1で調製されたリポソームをイヌに反復投与する際に、PEG400を前投与したときの補体活性化率の結果を示すグラフである。補体活性化率(%)=[1−(PEG修飾化リポソーム投与前のCH50)÷(PEG修飾化リポソーム投与後のCH50)]×100 (8) 図7に示す結果から明らかなように、イヌのPEG修飾化リポソーム初回投与時には、生理食塩水およびPEG400前投与群とも補体活性化は認められなかった。2回目投与時には生理食塩水前投与群では68.5%の補体活性化が認められたのに対して、PEG400投与群では36.0%であった。したがって、PEG40040mg/kgの前投与によりPEG修飾化リポソーム反復投与の補体活性化が約50%抑制されることが明らかになった。 次に、アナフィラキシー様症状についての結果を第4表に示す。 第4表に示す結果から明らかなように、アナフィラキシー様症状についても、PEG修飾化リポソーム初回投与時には生理食塩水およびPEG400前投与とも症状の発現は認められなかった。2回目投与時には生理食塩水前投与群では、発赤、失禁、脱糞、虚脱、起立困難等のアナフィラキシー様症状が認められたのに対して、PEG400前投与群では発赤が認められたのみであった。 以上の結果より、PEG化製剤による補体系の活性化、および、それに引き続くアナフィラキシー様反応の危険性を低く抑えるために、低分子PEGを前処理することが有効であることが示唆された。調製例1で調製されたリポソームで処理された血漿における、第1の親水性高分子(PEG5000)で修飾されたリポソームによる誘発補体活性化に対する第2の親水性高分子(PEG:分子量400、4000および20000)の抑制効果を示すグラフである。調製例1で調製されたリポソームで処理された血漿における、第1の親水性高分子(PEG5000)で修飾されたリポソームによる誘発補体活性化に対する第2の親水性高分子(PEG、PPG)の抑制作用の比較を示すグラフである。調製例1で調製されたリポソームで処理された血漿における、第1の親水性高分子(PEG5000)で修飾されたリポソームによる誘発補体活性化に対する第2の親水性高分子(PEG)の前処置および同時処置の抑制効果の比較を示すグラフである。調製例1で調製されたリポソームで処理された血漿を用いて、調製例2で調製した各種製剤の補体活性化作用の比較を示すグラフである。調製例3で調製されたDox製剤の40℃での製剤加速安定性試験の結果(放出率)を示すグラフである。調製例3で調製されたDox製剤の40℃での製剤加速安定性試験の結果(粒子径)を示すグラフである。調製例1で調製されたリポソームをイヌに反復投与する際に、PEG400を前投与したときの補体活性化率の結果を示すグラフである。 医薬的に許容される希釈剤に、 第1の親水性高分子で修飾されたリポソームまたは生理活性物質と、遊離の第2の親水性高分子とが分散されてなり、 前記第1の親水性高分子および前記第2の親水性高分子は、それぞれ独立にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリグリセリンからなる群より選択され、前記第1の親水性高分子のユニットモル数と前記第2の親水性高分子のユニットモル数の比が、1:1〜1:50である:ここで、ユニットモル(Unit mol)数=(親水性高分子の分子量)÷(ユニット構造の分子量)×(親水性高分子のmol数) ・・・(1)、ただし、ユニット構造は前記親水性高分子の主鎖の繰り返し単位であり、 第1の親水性高分子による補体系の活性化を遊離の第2の親水性高分子によって抑制する医薬組成物。 前記医薬組成物が、前記第1の親水性高分子で修飾されたリポソーム中に薬物を担持する薬物担体である請求項1に記載の医薬組成物。 前記医薬的に許容される希釈剤が、水または生理食塩水である請求項1または2に記載の医薬組成物。 前記第1の親水性高分子および前記第2の親水性高分子が、ポリエチレングリコールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。 前記第1の親水性高分子で修飾されたリポソームまたは生理活性物質と、前記遊離の第2の親水性高分子とがそれぞれ別個の医薬的に許容される希釈剤に分散されてなる別個の医薬組成物で、これらの組合せ製剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。


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