タイトル: | 公表特許公報(A)_皮膚障害のボツリヌス毒素処置 |
出願番号: | 2006543997 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A61K 35/74,A61P 17/00,A61P 17/02 |
エリック・アール・ファースト JP 2007513964 公表特許公報(A) 20070531 2006543997 20041208 皮膚障害のボツリヌス毒素処置 アラーガン、インコーポレイテッド 591018268 ALLERGAN,INCORPORATED 青山 葆 100062144 田村 恭生 100068526 柴田 康夫 100083356 品川 永敏 100126778 エリック・アール・ファースト US 10/731,973 20031209 A61K 35/74 20060101AFI20070427BHJP A61P 17/00 20060101ALI20070427BHJP A61P 17/02 20060101ALI20070427BHJP JPA61K35/74 DA61P17/00A61P17/02 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW US2004041327 20041208 WO2005056050 20050623 26 20060808 4C087 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA03 4C087BC68 4C087CA10 4C087CA11 4C087CA16 4C087MA01 4C087NA14 4C087ZA89 本発明は、皮膚障害を処置する方法に関する。本発明はとりわけ、患者にクロストリジウム神経毒を投与することによって皮膚障害を処置する方法に関する。 皮膚(skin; cutisと同義)は、身体を覆う保護膜で、表皮および角質層を含む複数の層から成る。皮膚障害は異常な皮膚増殖であり、患者の手、足または顔のようなあらゆる皮膚部分に起こりうる。いくつかの皮膚障害は、圧力、摩擦力または体重のかかる部分(例えば足)に多く見られる。皮膚障害は、疣贅、バニオン、胼胝、鶏眼、潰瘍、神経腫、槌趾、皮膚線維腫、ケロイド、アザ(例えば尋常母斑または異形成母斑)、肉芽腫(例えば化膿性肉芽腫)および角化症(例えば脂漏性角化症)でありうる。 バニオンは、足の第一中足指節関節の内側または背側面の限局性腫脹で、滑液包炎によって起こりうる。滑液包は摩擦を受ける部分に生じうる閉じた液嚢である。バニオンは、親指の端が足の外側にずれる外反母趾によって起こりうる。外反母趾によって、第一中足骨および親指が異常な左方向の角度を形成しうる。そうすると、この角度をなす部分で、きつい靴からの圧力によってバニオンが生じうる。 胼胝は、皮膚摩擦の反復によってその部分に生じる肥厚した皮膚上層からなる保護皮膚パッドである。鶏眼は胼胝の小さいもので、圧力または靴もしくは他の指との摩擦によって足指の先に生じる。鶏眼はまた、槌趾状態によっても生じうる。槌趾状態は、足指の関節の1つ、または足指が他の足部分とつながる関節が部分的または全体的に位置変化するために、足指が異常に収縮または屈曲するものである。足指が変形すると靴に当たり得、その結果としての刺激が、その皮膚部分での保護反応として、更なる厚い皮膚(鶏眼)の形成を引き起こしうる。 潰瘍は治癒に時間のかかる皮膚創傷である。第1期の潰瘍は、骨部分の上の皮膚の発赤を特徴とする。この皮膚発赤は圧力を取り除いても解消されない。第2期潰瘍は、皮膚の水疱、剥離またはひび割れを特徴とする。皮膚の上部2層が関わる部分的な皮膚層損失が見られる。第3期潰瘍では、皮膚が破れ、しばしば血液を含む排出物が見られる。皮下組織が関わる全層皮膚損失が見られる。最後に第4期潰瘍は、皮膚、筋肉、腱および骨が関わる皮膚の破壊を特徴とし、骨感染(骨髄炎)がしばしば伴う。潰瘍は衰弱および痛みをもたらしうる。 疣贅は、乳頭腫ウイルスが皮膚の上層に感染することによって起こる非癌性皮膚増殖である。疣贅は通例、肌色で、触るとざらついた感じがありうるが、濃色の場合や、平らで滑らかな場合もありうる。いくつかの異なる種類の疣贅があり、これには尋常性疣贅、足底疣贅および扁平疣贅が含まれる。足底疣贅は胼胝に似た皮膚小病変で、足または足指の底部に見られる。 神経腫は、2本の足指につながってそれらに感覚を与える小神経の腫脹または瘢痕である。神経腫の症状は痛みおよびしびれを含み得、通例、第三および第四の足指を冒す。神経腫はしばしば、母指球のしびれまたは痛みに始まる。 現在の皮膚障害処置は、様々な局所的および全身的医薬の使用、および/または障害切除手術を包含する。医薬は通例、望ましくない副作用を有し、術後には皮膚障害の著しい再発(再増殖)が不都合にも起こり得、感染の危険性もある。 ボツリヌス毒素 クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。 A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体;100単位バイアルとして、BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50(すなわち1単位)である。1単位のBOTOX(登録商標)は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含む。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。 7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、"Therapy With Botulinum Toxin"(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。低親和性受容体を介して、また食作用および飲作用によってもさらに取り込みが起こりうる。 血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。 第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。 ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1型ボツリヌス毒素ははじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25を開裂することがわかった。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は同じ結合を開裂する。これら開裂はそれぞれ、小胞−膜ドッキングの過程を遮断し、それによって小胞内容物のエキソサイトーシスを阻害する。 ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋(すなわち運動障害)によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。その後、A型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置および眉間しわの処置のためにもFDAによって承認され、B型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置のために承認された。非A型ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素と比較して、効力が小さく、および/または活性持続が短いようである。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均約3ヶ月であり得るが、顕著により長い処置活性期間も報告されている。 すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。明らかに、ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞種に見られる。例えばBiochem, J 1;339(pt 1): 159-65: 1999およびMov Disord, 10(3):376:1995(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)参照。 ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。 インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされる。 例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。 A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。 切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。 ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×107U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×107LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。 ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);Metabiologics(マディソン、ウィスコンシン);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。純粋なボツリヌス毒素を医薬組成物の製造に使用することもできる。 酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。 市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。 減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997。 A型ボツリヌス毒素は下記のように臨床的に使用されている:(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:(a)深指屈筋:7.5U〜30U(b)浅指屈筋:7.5U〜30U(c)尺側手根屈筋:10U〜40U(d)橈側手根屈筋:15U〜60U(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。 (7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。 ボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(腺の処置、例えば多汗症の処置に用いられる場合)。例えば、Bushara K., Botulinum toxin and rhinorrhea, Otolaryngol Head Neck Surg 1996; 114(3):507、およびThe Laryngoscope 109: 1344-1346: 1999参照。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。 種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。商業的に入手可能な2つのヒト用ボツリヌス毒素A型調製物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan, Inc.から市販されている)およびDysport(登録商標)(イギリス、ポートン・ダウンのBeaufour Ipsenから市販されている)である。B型ボツリヌス毒素の調製物(MyoBloc、登録商標)は、カリフォルニア、サンフランシスコのElan Pharmaceuticalsから市販されている。 末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165]、およびHabermann[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56]の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されうる。 米国特許第5989545号は、特定の標的化成分に化学的に結合させるかまたは組換え的に融合させた改質クロストリジウム属神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療できることを開示している。 ボツリヌス毒素は、次のような状態の処置にも提案され、または使用されている:中耳炎(米国特許第5766605号)、内耳障害(米国特許第6265379号、第6358926号)、緊張頭痛(米国特許第6458365号)、片頭痛(米国特許第5714468号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6464986号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6299893号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5670484号)、損傷筋肉(米国特許第6423319号)、種々の癌(米国特許第6139845号)、平滑筋疾患(米国特許第5437291号)、および神経性炎症(米国特許第6063768号)。制御放出毒素インプラント(例えば米国特許第6306423号および第6312708号参照)、また経皮ボツリヌス毒素投与(米国特許出願第10/194805号)が知られている。 さらに、ボツリヌス毒素は、ラットホルマリンモデルにおいて誘発した炎症性痛覚を軽減するよう作用しうる。Aoki K.ら、Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing, Cephalalgia 2003 Sep; 23(7): 649。さらに、ボツリヌス毒素の神経遮断は、表皮厚さの減少を起こしうることが報告されている。Li Y.ら、Sensory and motor denervation influences epidermal thickness in rat foot glabrous skin, Exp Neurol 1997; 147: 452-462(第459頁参照)。最後に、次のような処置のために脚にボツリヌス毒素を投与することが知られている:脚の過剰発汗を処置する(Katsambas A.ら、Cutaneous diseases of the foot: Unapproved treatments, Clin Dermatol 2002 Nov-Dec; 20(6): 689-699; Sevim, S.ら、Botulinum toxin-A therapy for palmar and plantar hyperhidrosis, Acta Neurol Belg 2002 Dec; 102(4): 167-70)、足指痙攣を処置する(Suputtitada, A., Local botulinum toxin type A injections in the treatment of spastic toes, Am J Phys Med Rehabil 2002 Oct; 81(10): 770-5)、特発性尖足を処置する(Tacks, L.ら、Idiopathic toe walking: Treatment with botulinum toxin A injection, Dev Med Child Neurol 2002; 44(Suppl 91: 6)、および脚ジストニーを処置する(Rogers J.ら、Injections of botulinum toxin A in foot dystonia, Neurology 1993 Apr; 43 (4 Suppl 2))。 破傷風毒素ならびにその誘導体(すなわち非天然ターゲティング部分を持つもの)、断片、ハイブリッドおよびキメラも、治療有効性を持ちうる。破傷風毒素はボツリヌス毒素との類似点を数多く持っている。例えば、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、クロストリジウム属の近縁種(それぞれ破傷風菌(Clostridium tenani)およびボツリヌス菌(Clostridium botulinum))によって産生されるポリペプチドである。また、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、1つのジスルフィド結合によって重鎖(分子量約100kD)に共有結合している軽鎖(分子量約50kD)から構成される二本鎖タンパク質である。したがって、破傷風毒素の分子量と、7つの各ボツリヌス毒素(非複合体型)の分子量は、約150kDである。さらに、破傷風毒素でもボツリヌス毒素でも、軽鎖は細胞内生物活性(プロテアーゼ活性)を示すドメインを持ち、重鎖は受容体結合(免疫原)ドメインと細胞膜移行ドメインとを持っている。 さらに、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、シナプス前コリン作動性ニューロンの表面にあるガングリオシド受容体に対して高い特異的親和性を示す。末梢コリン作動性ニューロンによる破傷風毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻害および痙性麻痺をもたらす。これに対して、末梢コリン作動性ニューロンによるボツリヌス毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性輸送、中毒した末梢運動ニューロンからのアセチルコリンエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性麻痺をもたらすことがなく、たとえあったとしても、ごくわずかである。 最後に、破傷風毒素とボツリヌス毒素は、その生合成および分子構造が互いに似ている。例えば、破傷風毒素とA型ボツリヌス毒素のタンパク質配列には全体で34%の一致度があり、いくつかの機能ドメインについては62%もの配列一致度がある。Binz T. ら、The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990。 アセチルコリン 複数の神経調節物質が同一ニューロンから放出されうることを示唆する証拠があるが、典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、筋紡錘線維のbag 1線維によって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。 自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。 アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。 アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。 神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。 皮膚障害を効果的に処置する方法が必要とされている。 本発明はこの必要を満たし、皮膚障害をクロストリジウム神経毒の局所投与により効果的に処置する方法を提供する。 皮膚障害を処置するための本発明の方法は、患者の皮膚障害部分、例えば顔、手または足にクロストリジウム神経毒を局所投与するステップを有しうる。局所投与とは、皮膚障害部分へ直接に、またはその中へ、またはその近傍へ、注射などによりクロストリジウム神経毒を投与することを意味する。 神経毒は、約10-3単位/kg患者体重〜約35単位/kg患者体重の量で局所投与しうる。好ましくは、神経毒を約10-2U/kg患者体重〜約25U/kg患者体重の量で局所投与する。より好ましくは、神経毒を約10-1U/kg〜約15U/kgの量で投与する。特に好ましい本発明方法においては、神経毒を約1U/kg〜約10U/kgの量で局所投与する。臨床的には、皮膚障害を効果的に処置するために、1〜3000Uの神経毒、例えばA型またはB型ボツリヌス毒素を皮膚障害部分に局所適用または皮下投与により注射することが有利でありうる。 本発明の実施に使用する好適な神経毒はクロストリジウム属細菌、例えばClostridium botulinum、Clostridium butyricumまたはClostridium berattiから産生されるものであることができる。神経毒は修飾神経毒、すなわち天然神経毒と比較してそのアミノ酸の少なくとも1つが欠失、修飾または置換されている神経毒であることができる。さらに、神経毒は、組換え生産された神経毒またはその誘導体もしくは断片であることができる。神経毒は、ボツリヌス毒素、例えばA型、B型、C1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素の1つであることができる。本発明の実施に使用する好ましいボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素である。 本発明の方法は、皮膚障害患者または皮膚障害を起こし易い患者へのクロストリジウム毒素の投与によって実施することができる。使用するクロストリジウム毒素は、好ましくは、A、B、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素(複合体または純粋物[すなわち約150kDa分子])である。クロストリジウム毒素の投与は、経皮投与経路によって(すなわちクリーム剤、貼付剤またはローション賦形剤中のクロストリジウム毒素を適用することによって)、皮下投与経路(すなわち皮下または筋肉内)によって、または皮内投与経路によって行なうことができる。 本発明で使用されるクロストリジウム毒素の用量は、筋肉を麻痺させるために使用される毒素の量より少ない。なぜなら、本発明による方法が意図するのは、筋肉を麻痺させることではなく、皮膚障害を処置することだからである。 本明細書では以下の定義が適用される。 「約」とは、「およそ」または「ほぼ」を意味し、本明細書に記載する数値または範囲については、記載した数値または範囲の±10%を意味する。 「軽減」とは皮膚障害症状の発生の減少を意味する。したがって軽減には、皮膚障害症状の多少の減少、顕著な減少、ほぼ完全な減少、および完全な減少が含まれる。軽減効果は、患者へのクロストリジウム神経毒の投与後、1〜7日間は、臨床的に現れないこともありうる。 「ボツリヌス毒素」とは、純粋な毒素(すなわち分子量約150kDa)または複合体(すなわち、神経毒分子および1つまたはそれ以上の関連非毒素分子を含む約300〜900kDaの複合体)としてのボツリヌス神経毒を意味し、細胞傷害性ボツリヌス毒素C2およびC3などの神経毒でないボツリヌス毒素は除外されるが、組換え産生、ハイブリッド、修飾およびキメラボツリヌス毒素は含まれる。 「局所投与」とは、患者の皮膚または皮下部分へのまたはその近傍への、医薬剤の投与(例えば、皮下経路、筋肉内経路、皮膚下経路または経皮経路によるもの)を意味する。 「皮膚障害」とは、限局性皮膚異常を意味し、皮膚増殖、例えば疣贅、鶏眼、胼胝またはアザでありうる。 「処置する」とは、皮膚障害の少なくとも1つの症状を一時的または永続的に軽減(または解消)することを意味する。 クロストリジウム神経毒は、皮膚障害症状が軽減されるように、処置有効量で投与される。好適なクロストリジウム神経毒として、細菌によって産生される神経毒を挙げることができる。例えば、神経毒はClostridium botulinum、Clostridium butyricumまたはClostridium berattiから産生されるものであることができる。本発明の一定の実施形態では、ボツリヌス毒素の患者皮膚への適用(局所)または皮内への適用(皮内または経皮)によって皮膚障害が処置される。ボツリヌス毒素は、A型、B型、C1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素であることができる。ボツリヌス毒素の皮膚障害軽減効果は、約2週間(例えば短期間作用するボツリヌス毒素、例えばE型ボツリヌス毒素を投与した場合)ないし約5年間(例えば制御放出ボツリヌス毒素インプラントを移植した場合)にわたって持続しうる。ボツリヌス神経毒は、組換え生産されたボツリヌス神経毒、例えば大腸菌によって産生されたボツリヌス毒素であることができる。これに加えて、またはこれに代えて、ボツリヌス神経毒は修飾神経毒、すなわち天然物と比較してそのアミノ酸の少なくとも1つが欠失、修飾または置換されているボツリヌス神経毒であることができ、あるいは修飾ボツリヌス神経毒は、組換え生産されたボツリヌス神経毒またはその誘導体もしくは断片であることができる。 本発明に従って皮膚障害を処置する方法は、皮膚障害患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその皮膚障害を軽減するステップを含むことができる。ボツリヌス毒素は、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択することができる。A型ボツリヌス毒素は好ましいボツリヌス毒素である。 本発明の詳細な態様は、約1単位〜約3000単位のボツリヌス毒素(例えば約1〜50単位のA型ボツリヌス毒素、または約50〜3000単位のB型ボツリヌス毒素)を皮膚障害の患者に局所投与し、それによって皮膚障害を約2週間〜約5年間軽減することによる、皮膚障害の処置方法を含みうる。 本発明は、ボツリヌス毒素(例えば処置セッション当たり1単位〜3000単位の量のA型、B型、C型、D型、E型、F型またはG型のボツリヌス毒素)を、皮膚障害を起こす傾向のある患者に局所投与し、それによって患者が皮膚障害を起こすのを防止することによる、皮膚障害の処置方法をも包含する。皮膚障害を起こす傾向のある患者とは、過去12箇月以内に少なくとも1回皮膚障害を起こしたヒトである。局所投与は、皮膚障害の位置する患者の皮膚上または皮膚内の部分にボツリヌス毒素を皮下または局所投与することによって行いうる。皮膚障害の大きさを約20〜100%縮小することができる。 本発明は、処置有効量のクロストリジウム神経毒、例えばボツリヌス神経毒の局所投与によって皮膚障害を処置することができるという発見に基づく。ボツリヌス神経毒(例えばボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FまたはG)を、患者の皮膚障害中もしくはその近傍に注射するか、または皮膚障害上もしくはその近傍に局所適用しうる。あるいは、ボツリヌス毒素を皮内または皮下のニューロンに投与し、それによってニューロンが仲介または影響する皮膚障害をダウンレギュレート、抑制または抑止することができる。 理論による束縛を意図するものではないが、クロストリジウム神経毒を用いて皮膚障害を処置する本発明の効果に対し、ある生理学的メカニズムを提起することができる。本質的に、皮膚障害を神経支配または皮膚障害に影響する1つまたはそれ以上の皮膚神経または構造による、アセチルコリンおよび/または他の神経伝達物質もしくは神経ペプチドの放出を、ボツリヌス毒素の使用によって抑制することができ、それによって皮膚障害の有効な処置が可能になるという仮説が設けられる。あるいは、投与されたクロストリジウム神経毒が皮膚障害に直接作用しうる。有効な処置とは、皮膚障害の痛みが軽減し、皮膚障害の炎症が軽減し、および/または皮膚障害が退行する(例えばサイズが小さくなる(例えば薄くなる)か、または完全に消失する)ことを意味する。 本書に記載される皮膚障害処置のためのクロストリジウム神経毒の使用についての提案される生理学的メカニズムに関して、ヒトケラチノサイトがアセチルコリンに応答しうることが知られている。アセチルコリンがケラチノサイトによって放出され、表皮において局所ホルモンとして機能すると考えられる。Grando S.ら, Human keratinocytes synthesize, secrete, and degrade acetylcholine, J Invest Dermatol. 1993 Jul; 101(1): 32-6。ヒト表皮ケラチノサイトは、アセチルコリンを合成および分解するコリン酵素を有し、その細胞表面にニコチン性およびムスカリン性の両方の種類のコリン受容体を発現する。このような表皮ケラチノサイト細胞表面受容体はアセチルコリンと結合し、様々な細胞応答を開始させる。重要なことに、ケラチノサイト中に機能的コリン系が存在するということは、ケラチノサイト機能の、全部ではないとしても多くの面にアセチルコリンが関与することを示唆する。アセチルコリンはケラチノサイトに対して作用するのに、メディエーターとしてカルシウムを利用する。そして、カルシウム濃度の変化は、ケラチノサイトのコリン酵素およびコリン受容体の発現および機能に影響を及ぼしうる。ケラチノサイトはその分化の様々な段階で、コリン酵素およびコリン受容体種の独特な組み合わせを示す。Grando S., Biological functions of keratinocyte cholinergic receptors, J Investig Dermatol Symp Proc. 1997 Aug; 2(1): 41-8。 重要なことに、皮膚神経支配は、ケラチノサイトの増殖、および表皮の厚さに影響を及ぼす。Huangら, Influence of cutaneous nerves on keratinocyte proliferation and epidermal thickness in mice. Neuroscience. 1999; 94 (3): 965-73。複数系列の証拠が、皮膚に終末を持つ神経がその標的である表皮に大きな影響を及ぼすことを示唆している。例えば下記文献を参照されたい:Grando S., Biological functions of keratinocyte cholinergic receptors, J Investig Dermatol Symp Proc. 1997 Aug; 2 (1): 41-8; Grando S.ら, Activation of keratinocyte nicotinic cholinergic receptors stimulates calcium influx and enhances cell differentiation. Invest Dermatol. 1996 Sep; 107 (3): 412-8; Ndoye A.ら, Identification and mapping of keratinocyte muscarinic acetylcholine receptor subtypes in human epidermis, J Invest Dermatol. 1998 Sep; 111 (3): 410-6; Palacios J.ら, Cholinergic neuropharmacology: an update, Acta Psychiatr Scand Suppl. 1991; 366: 27-33; Whitehouse P.ら, Nicotinic and muscarinic cholinergic receptors in Alzheimer's disease and related disorders, J Neural Transm Suppl. 1987; 24: 175-82; Arredondo J.ら, Central role of alpha7 nicotinic receptor in differentiation of the stratified squamous epithelium, J Cell Biol. 2002 Oct 28; 159 (2): 325-36; Andreadis S.ら, Keratinocyte growth factor induces hyperproliferation and delays differentiation in a skin equivalent model system, FASEB J. 2001 Apr; 15 (6): 898-906; Krnjevic K., Central cholinergic mechanismsm and function. Prog Brain Res. 1993; 98: 285-92; Epidermal expression of the full-length extracellular calcium-sensing receptor is required for normal Keratinocyte differentiation, J Cell Physiol. 2002 Jul; 192 (1): 45-54; Grando S.ら, Human keratinocytes synthesize, secrete, and degrade acetylcholine J Invest Dermatol. 1993 Jul; 101 (1): 32-6; Zia S.ら, Receptor-mediated inhibition of keratinocyte migration by nicotine involves modulations of calcium influx and intracellular concentration, J Pharmacol Exp Ther. 2000 Jun; 293 (3): 973-81; Nguyen V.ら, Keratinocyte acetylcholine receptors regulate cell adhesion Life Sci. 2003 Mar 28; 72 (18-19): 2081-5; Nguyen V.ら, Programmed cell death of keratinocytes culminates in apoptotic secretion of a humectant upon secretagogue action of acetylcholine J Cell Sci. 2001 Mar; 114 (Pt6): 1189-204; Grando S.ら, Keratinocyte muscarinic acetylcholine receptors: immunolocalization and partial characterization, J Invest Dermatol. 1995 Jan; 104 (1): 95-100; Lin Y.ら, (2001) Cutaneous nerve terminal degeneration in painful mononeuropathy, Experimental Neurology. 170 (2): 290-6; Pan C.ら, (2001) Degeneration of nociceptive nerve terminals in human peripheral neuropathy, Neuroreport. 12 (4): 787-92; Hsiung-F.ら, (2001) Quantitative pathology of cutaneous nerve terminal degeneration in the human skin, Acta Neuropathologica 102: 455-461; Ko M.ら, Cutaneous nerve degeneration induced by acrylamide in mice, Neuroscience Letters. 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In: Waxman S., et al., The Axon. New York: Oxford University Press, 1995: 375-390. したがって、ボツリヌス毒素を使用して、脱神経を誘導し、それによって皮膚を支配する神経によって放出される様々な神経ペプチドの放出を抑制(すなわちダウンレギュレート)することにより、皮膚障害を処置することができると考えることができる。そのような神経ペプチドには、タキキニン、サブスタンスPおよびニューロキニンA、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、血管作動性腸ペプチド(VIP)およびソマトスタチンがあり、それらはいずれも、細胞増殖のような皮膚細胞機能を調節すると報告されている。前記のように、多くの神経伝達物質および関連神経ペプチドをボツリヌス毒素で抑制することができる。例えば下記文献を参照されたい:Hokfelt T., Neuropeptides in perspective: The last ten years, Neuron 1991; 7: 867-879; Xu Z-QDら, Galanin/GMAP- and NPY-like immunoreactivities in locus coeruleus and noradrenergic nerve terminals in the hippocampal formation and cortex with notes on the galanin-R1 and-R2 receptors, J. Comp. Neurol. 1998; 392: 227-252; Xu Z-QDら, Galanin-5-hydroxytryptamine interactions : Electrophysiological, immunohistochemical and in situ hybridization studies on rat dorsal raphe neurons with a note on galanin R1 and R2 receptors. 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113(4): 579-86; Hsieh S.ら, Epidermal denervation and its effects on keratinocytes and Langerhans cells, J Neurocytol. 1996 Sep; 25(9): 513-24); Chiangら, Regional difference in epidermal thinning after skin denervation, Exp Neurol 1998 Nov; 154(1): 137-45; Li Y.ら, Sensory and motor denervation influence epidermal thickness in rat foot glabrous skin, Exp Neurol. 1997 Oct; 147(2): 452-62 (ボツリヌス毒素遮断により、ラット足裏の中央部において表皮厚さが著しく小さくなった). 本発明は皮膚増殖を処置する方法を含む。皮膚増殖は、皮膚増殖部分での痛みおよび/または炎症をもたらしうる。例えば糖尿病患者に手術するなど、患者が侵襲的療法の候補でない場合にも、その患者にも皮膚増殖は起こりうることに注目すべきである。すなわち、本発明は、ボツリヌス毒素を使用して、皮膚増殖を退行させる(小さくする)ことによって皮膚増殖を処置し、および/または皮膚障害(例えばバニオン、胼胝、神経腫、潰瘍、涙贅、鶏眼または槌趾)に伴いうる痛みおよび炎症を軽減することを含む。 本発明の方法によって投与されるクロストリジウム毒素の量は、処置される皮膚障害の特定の性質(その重症度を包含する)および他のさまざまな患者変数(大きさ、体重、年齢および治療に対する応答性を含む)に応じて変動しうる。医師の参考として述べると、典型的には、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき(例えば注射する各皮膚障害部分に対し)、約1単位以上約50単位以下のA型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標)など)が投与される。DYSPORT(登録商標)などのA型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または1注射部位につき、約2単位以上約200単位以下のA型ボツリヌス毒素が投与される。MYOBLOC(登録商標)などのB型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1投与または1注射部位につき、約40単位以上約2500単位以下のB型ボツリヌス毒素が投与される。約1、2または40単位未満の量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、望ましい治療効果を達成できない可能性があり、一方、約50、200または2500単位を超える量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、臨床的に観察可能な望ましくない筋緊張低下、筋脱力および/または筋麻痺をもたらす可能性がある。 より好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約2単位以上約20単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約4単位以上約100単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約80単位以上約1000単位以下を投与する。 最も好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約5単位以上約15単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約20単位以上約75単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約200単位以上約750単位以下を投与する。各患者治療セッションについて複数の注射部位(すなわちある注射パターン)が存在しうることに注意することが重要である。 投与経路および投与量の例を挙げるが、適切な投与経路および投与量は、一般に、担当医によって症例ごとに決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的作業である(例えば Anthony Fauci ら編「Harrison's Principles of Internal Medicine」(1998)第14版、McGraw Hill 刊を参照されたい)。例えば、本発明によるクロストリジウム神経毒の投与経路および投与量は、選択した神経毒の溶解特性ならびに皮膚障害の程度および範囲などの基準に基づいて選択することができる。 本発明は、クロストリジウム毒素の局所投与が、皮膚障害の、有意で長時間持続する緩和をもたらすことができるという発見に基づいている。本明細書中に開示される本発明に従って使用されるクロストリジウム毒素は、皮膚障害の発生に関与する選択されたニューロン群の間の化学的シグナルまたは電気シグナルの伝達を阻害しうる。クロストリジウム毒素は、好ましくは、クロストリジウム毒素にさらされる細胞に対して細胞傷害性でない。クロストリジウム毒素は、クロストリジウム毒素にさらされたニューロンからの神経伝達物質のエキソサイトーシスを低下させるか、またはそのようなエキソサイトーシスを防止することによって神経伝達を阻害することができる。あるいは、適用されたクロストリジウム毒素は、該毒素にさらされたニューロンの活動電位の生成を阻害することによって神経伝達を低下させることができる。クロストリジウム毒素によってもたらされる皮膚障害軽減効果は、比較的長期間にわたって、例えば、2ヶ月以上にわたって、また、潜在的には数年間にわたって持続しうる。 本発明の範囲に含まれるクロストリジウム毒素の例には、Clostridium botulinum、Clostridium butyricumおよびClostridium berattiが産生する神経毒が含まれる。さらに、本発明の方法において使用されるボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素、B型ボツリヌス毒素、C型ボツリヌス毒素、D型ボツリヌス毒素、E型ボツリヌス毒素、F型ボツリヌス毒素およびG型ボツリヌス毒素からなる群から選択されるボツリヌス毒素であり得る。本発明の1つの実施形態において、患者に投与されるボツリヌス神経毒はA型ボツリヌス毒素である。A型ボツリヌス毒素は、ヒトにおけるその効力が大きく、容易に得ることができ、また、筋肉内注射による局所投与による骨格筋障害および平滑筋障害の処置についての使用が知られているために望ましい。 本発明にはまた、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または再構成によって得られるか、もしくはそれらによって処理されるクロストリジウム神経毒;および/または(b)修飾もしくは組換えされた神経毒、すなわち、1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸配列が、知られている化学的/生化学的なアミノ酸修飾手順により、もしくは、知られている宿主細胞/組換えベクターの組換え技術の使用により意図的に欠失もしくは修飾もしくは置換されている神経毒、そして同様にそのようにして得られた神経毒の誘導体またはフラグメント、の使用が含まれる。これらの神経毒変化体は、ニューロン間の神経伝達を阻害する能力を保持し、これらの変化体のいくつかは、天然の神経毒と比較して、増大した阻害作用持続時間をもたらすことができ、または、神経毒にさらされるニューロンに対する高まった結合特異性をもたらすことができる。これらの神経毒変化体は、従来のアッセイを使用して変化体をスクリーニングして、神経伝達を阻害する所望される生理学的作用を有する神経毒を同定することによって選択することができる。 本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、真空下での容器における凍結乾燥、真空乾燥形態で、または安定な液体として保存することができる。凍結乾燥前に、ボツリヌス毒素は、医薬的に許容され得る賦形剤、安定剤および/または担体(例えば、アルブミンなど)と組み合わせることができる。凍結乾燥物は、患者に投与するボツリヌス毒素を含有する溶液または組成物を調製するために、生理的食塩水または水で再構成することができる。 組成物は、神経伝達を抑制するための主成分として、1つのタイプの神経毒(例えば、A型ボツリヌス毒素など)を単に含有し得るだけであるが、他の処置用組成物は、皮膚障害の増強された処置効果をもたらし得る2つ以上のタイプの神経毒を含むことができる。例えば、患者に投与される組成物はA型ボツリヌス毒素およびB型ボツリヌス毒素を含むことができる。2つの異なる神経毒を含有する単一組成物を投与することにより、神経毒のそれぞれの効果的な濃度を、所望される処置効果を依然として達成しながら、1つの神経毒が患者に投与された場合よりも低くすることが可能になり得る。患者に投与される組成物はまた、他の医薬的に活性な成分、例えば、タンパク質受容体またはイオンチャンネルの調節因子などを、神経毒(1つまたは複数)と組み合わせて含有することができる。これらの調節因子は、様々なニューロンの間での神経伝達の低下に寄与し得る。 例えば、組成物は、GABAA受容体により媒介される抑制作用を高めるγ-アミノ酪酸(GABA)A型受容体調節因子を含有することができる。GABAA受容体は、細胞膜を横断する電流の流れを効果的にそらすことによってニューロン活性を阻害する。GABAA受容体調節因子はGABAA受容体の抑制作用を高めることができ、また、ニューロンからの電気シグナルまたは化学的シグナルの伝達を低下させることができる。GABAA受容体調節因子の例には、ベンゾジアゼピン系薬剤、例えば、ジアゼパム、オキサキセパム、ロラゼパム、プラゼパム、アルプラゾラム、ハラゼアパム、クロルジアゼポキシドおよびクロルアゼペートなどが含まれる。 組成物はまた、グルタメート受容体により媒介される興奮作用を低下させるグルタメート受容体調節因子を含有することができる。グルタメート受容体調節因子の例には、AMPA型、NMDA型および/またはカイネート型のグルタメート受容体を介する電流の流れを阻害する薬剤が含まれる。組成物はまた、ドーパミン受容体を調節する薬剤(例えば、抗精神病薬など)、ノルエピネフリン受容体を調節する薬剤、および/またはセロトニン受容体を調節する薬剤を含むことができる。組成物はまた、電位依存性のカルシウムチャンネル、カリウムチャンネルおよび/またはナトリウムチャンネルを介するイオン流に影響を及ぼす薬剤を含むことができる。従って、皮膚障害を処置するために使用される組成物は、1つまたは複数の神経毒(例えば、ボツリヌス毒素など)に加えて、神経伝達を低下させ得るイオンチャンネル受容体調節因子を含むことができる。 神経毒は、主治医により決定されるように、任意の好適な方法によって投与することができる。そのような投与方法により、神経毒を、選択した標的組織に局所的に投与することが可能になる。投与方法には、上記で記載されたように神経毒を含有する溶液または組成物の注入が含まれ、また、標的組織に神経毒を調節的に放出する制御された放出システムの埋め込みが含まれる。そのような制御された放出システムにより、反復した注入の必要性が低下させられる。組織内におけるボツリヌス毒素の生物学的活性の拡散は用量に相関するようであり、段階的であり得る。Jankovic J.他、Therapy With Botulinum Toxin、Marcel Dekker, Inc. (1994)、150頁。従って、ボツリヌス毒素の拡散を、患者の認知能力に影響を及ぼし得る潜在的に望ましくない副作用を低下させるために制御することができる。例えば、神経毒を、神経毒が、皮膚障害の発生に関与すると考えられる神経系に主に作用し、かつ、他の神経系に対しては負の有害な作用を有しないように投与することができる。 ポリ無水物ポリマーのGliadel(登録商標)(Stolle R & D, Inc.、Cincinnati、OH)(これは20:80の比率でのポリカルボキシフェノキシプロパンとセバシン酸との共重合体である)が、インプラントを作製するために使用されており、また、悪性神経膠腫を処置するために頭蓋内に埋め込まれている。ポリマーおよびBCNUを、塩化メチレンに同時に溶解し、マイクロスフェアにスプレー乾燥することができる。その後、マイクロスフェアは、直径が1.4cmで、厚さが1.0mmのディスクに圧縮成形によって圧縮され、窒素雰囲気下でアルミニウムホイルポーチに包装され、2.2メガラッドのγ線によって滅菌され得る。このポリマーは2週間〜3週間の期間にわたってカルムスチンの放出を可能にする。だが、ポリマーの大部分が分解するためには1年以上を要し得る。Brem, H.他、再発性神経膠腫に対する化学療法の生分解性ポリマーによる術中制御送達の安全性および効力のプラセボ対照試験、Lancet、345;1008-1012:1995。 本明細書中に開示される方法を実施する際に有用なインプラントを調製するために、所望する量の安定化された神経毒(例えば、再構成されていないBOTOX(登録商標)など)を、塩化メチレンに溶解された好適なポリマーの溶液に混合することができる。溶液は室温で調製することができる。その後、溶液をペトリ皿に移して、塩化メチレンを真空デシケーター内で蒸発させることができる。所望されるインプラントサイズに従って、そしてそれ故神経毒の配合量に依存して、乾燥された神経毒配合インプラントの好適な量を、約8000p.s.i.で5秒間または3000p.s.i.で17秒間、鋳型で圧縮成形して、神経毒を含むインプラントディスクを形成する。例えば、Fung L.K.他、サル脳における生分解性ポリマーインプラントからのカルムスチン4-ヒドロペルオキシシクロホスファミドおよびパクリタキセルの間質送達の薬物動態学、Cancer Research、58;672-684:1998。 ボツリヌス毒素などのクロストリジウム毒素の局所投与は毒素の大きい局所的処置レベルをもたらすことができる。標的皮膚障害部分へのクロストリジウム毒素の長期間の局所的送達が可能である制御放出ポリマーは、標的組織への効果的な投薬を可能にする。好適なインプラントは、米国特許第6,306,423号(発明の名称:神経毒インプラント)に示されるようなものであり、制御放出ポリマーによる標的組織に対する化学療法剤の直接的な導入を可能にする。使用するインプラントポリマーは、好ましくは、毒素が標的組織環境内に放出されるまで、ポリマーに配合された神経毒が、水により誘導される分解から保護されるように、疎水性である。 標的組織への注入またはインプラントによる、本発明に従ったボツリヌス毒素の局所投与は、皮膚障害を軽減するために、患者への医薬品の全身的投与に優る代替法を提供する。 本発明に従った標的組織への局所投与のために選択されるクロストリジウム毒素の量は、処置される皮膚障害の重篤度、選ばれた神経毒毒素の溶解性特性、ならびに、患者の年齢、性別、体重および健康状態などの判断基準に基づいて変化し得る。例えば、影響を受ける皮膚領域の大きさは、注入された神経毒の体積に比例し、一方で、皮膚障害抑制効果の大きさは、ほとんどの用量範囲について、投与されたクロストリジウム毒素の濃度に比例すると考えられる。適切な投与経路および投薬量を決定するための方法が、一般には、主治医によって場合毎に決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998)(Anthony Fauci他編、第14版、発行:McGraw Hill)を参照のこと)。 重要なことに、本発明の方法では、改善された患者機能を提供することができる。「改善された患者機能」は、痛みの軽減、ベッドで過ごす時間の減少、歩行の増大、より健康的な態度、より多様な生活スタイル、および/または、正常な筋緊張により認められる回復などの要因によって測定される改善として定義することができる。改善された患者機能は、改善された生活の質(QOL)と同義的である。QOLは、例えば、知られているSF-12またはSF-36の健康調査スコア化法を使用して評価することができる。SF-36では、身体的機能性、身体的問題による役割制限、社会的機能性、体の痛み、全体的な精神的健康状態、情緒的問題による役割制限、活力、および全体的な健康状態認識の8分野において患者の身体的および精神的な健康状態が評価される。得られたスコアは、様々な一般集団および患者集団について得ることができる発表された値と比較することができる。 実施例 以下の非制限的実施例は、本発明の範囲に包含される処置方法の好ましい具体例を当業者に示すものであって、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例では、例えば局所適用(クリームまたは経皮パッチ)、皮下注射による投与、または徐放性植込剤の植込による投与など、クロストリジウム神経毒のさまざまな非全身的投与様式を実行することができる。 骨棘を処置するためのボツリヌス毒素の使用 61歳の女性糖尿病患者が、かかとの裏に痛みが生じており、それが悪化しつつあるとして受診する。患者には、その原因となる傷害を負った覚えはない。患者は、左かかと中央に痛みを伴う骨棘があると診断される。患者は、ほとんど常時、鈍痛があり、朝最初に床を離れる時、または日中しばらく座っていた後で立ち上がる際には、かかとの痛みはほとんど耐え難く、素足で岩の上に落ちてかかとを打撲したかのような感じだが、それよりもひどいと訴える。局所リドカイン、NSAIDなどを含むいくつかの治療法を試すが、ほとんど軽減されない。患者は下肢の血液循環が不良である故に、手術を選択することは考えられない。そこで、局所麻酔の後、痛みのある部分にわたって均等に分布した3つの位置でA型ボツリヌス毒素10U/位置の皮下注射を行って、合計30単位のA型ボツリヌス毒素を適用することができる。2週間後のフォローアップでは、患者は顕著な痛み軽減を報告することができ、歩行に耐えることができる。4週間後には、患者は痛みの消失を報告することができ、2週間前よりも長距離の歩行に耐えることができる。 鶏眼およびバニオンを処置するためのボツリヌス毒素の使用 3日間にわたり広い遊園地を孫と歩き回った54歳の男性が、親指の近位右側と、同じ足の足裏の足底側に激しい痛みを訴える。痛みは悪化し得、回復し難くなりうる。患者には、薬物療法および矯正療法にもかかわらず再発する、痛みを伴う鶏眼およびバニオンの既往が両足にあった。診察したところ、鶏眼と一致する6cm2の増殖、およびバニオンと一致する足裏側の8cm2の円形炎症域が認められる。A型ボツリヌス毒素による処置を、鶏眼に50Uの毒素(2箇所に25Uずつ)、バニオンに30Uの毒素を皮内注射することによって開始しうる。14日後、患者はいずれの患部においても顕著な軽減のあることを報告することができる。2箇月後、患者は鶏眼の大きさが50%以上縮小し、バニオンの大きさが60%以上縮小し、痛みはないことを報告することができる。患者は正常な歩行行動を回復することができ、長距離の歩行にも耐えることができる。 性器疣贅を処置するためのボツリヌス毒素の使用 性器疣贅の既往のある48歳の女性が受診する。患者を診察すると、様々な大きさ(0.05〜2cm2)の肉色の隆起物または小さいカリフラワー様丘疹状疣贅が6個認められる。患者は、いくつかの異なる治療法(ブレオマイシン、アセチルケイ酸の直接適用)を受けていたが、ほとんどまたは全く軽減されなかった。患者は、レーザーまたは他の種類の侵襲的治療法を拒否している。A型ボツリヌス毒素を5U/cm2、全部で30Uの有効量(この量に限定されない)で疣贅部分に皮内注射により直接適用する。4週間後のフォローアップまでには、小さい方の疣贅3個が完全に消失し得、2箇月後には患者は残りの疣贅の消失を報告することができる。 足底疣贅を処置するためのボツリヌス毒素の使用 54歳男性が痛みを伴う足底疣贅の既往を持ち、右足の底部の疣贅増殖の悪化により改めて受診する。診察すると、大きさの異なる3個の疣贅があり(1cm2、2.5cm2および4.4cm2)、3個のうちの2個の周囲が輪状に赤くなっており、炎症を示している。患者はブレオマイシンを試みたがあまり改善は見られず、注射後に顕著な痛みが生じた。そこで、代替としてボツリヌス神経毒が考えられ、全部で45Uを5U/cm2の量で、局所製剤として疣贅に直接適用することができる。2箇月後のフォローアップで、患者は完全な痛みの消失を報告することができ、診察すると炎症の徴候は無く(赤い輪状部が存在しない)、3個の疣贅のうち2個が完全に消失しており、4.4cm2の疣贅が約1cm2になったものだけが観察された。 各実施例において、使用するA型ボツリヌス毒素の代わりに、B型、C型、D型、E型、F型またはG型のボツリヌス毒素、例えば250単位のB型ボツリヌス毒素を使用することができる。ボツリヌス毒素(例えばBOTOX(登録商標))の投与量は、医師の判断で考慮される様々なファクターに応じて決定し、各実施例において顕著な量のボツリヌス毒素は全身的には現れず、顕著な副作用は起こらない。 本発明による皮膚障害の処置方法には、下記の点を含む多くの利益および利点がある:1.皮膚障害の症状を劇的に減少または軽減させることができる。2.皮膚障害の症状を、1回の神経毒注射で少なくとも約2週間〜約6ヶ月間にわたって、また徐放性神経毒植込剤を使用すれば約1年〜約5年間にわたって、減少または軽減させることができる。3.注射されたクロストリジウム神経毒または植込まれたクロストリジウム神経毒は、筋肉内(または皮内もしくは皮下)注射または植込部位から拡散するまたは輸送される傾向をほとんどまたは全く示さない。4.クロストリジウム神経毒の筋肉内(または皮内もしくは皮下)注射または植込みからは、望ましくない副作用はほとんどまたは全く起こらない。5.本発明の方法は、患者の可動性の向上、より積極的な態度、および生活の質の改善という望ましい副作用をもたらしうる。 本発明を一定の好ましい方法に関して詳細に説明したが、本発明の範囲内で他の実施形態、変形および変更も可能である。例えば、本発明の方法では、多種多様な神経毒を有効に使用することができる。また、本発明は、皮膚障害を軽減するために、2以上の神経毒、例えば2以上のボツリヌス毒素を同時にまたは逐次的に投与する局所投与法も包含する。例えば、臨床応答の低下が起こるか、中和抗体が発生するまでは、A型ボツリヌス毒素を投与し、その後はB型ボツリヌス毒素を投与することができる。あるいは、所望の処置結果の開始および持続期間を調節するために、ボツリヌス毒素血清型A〜Gの2つまたはそれ以上の組み合わせを局所投与することができる。さらに、補助的効果、例えば脱神経の強化またはより迅速な脱神経の開始(ボツリヌス毒素などの神経毒が、その処置効果を発揮しはじめる前に)が得られるように、神経毒の投与に先立って、または神経毒の投与と同時に、または神経毒の投与後に、非神経毒化合物を投与することもできる。 ボツリヌス毒素は、単独で、または1つもしくはそれ以上の他のボツリヌス毒素血清型と組み合わせて投与しうる。ボツリヌス毒素は、組換え産生されたボツリヌス毒素またはハイブリッドボツリヌス毒素でありうる。 本発明は、神経毒の局所投与による皮膚障害の処置を行なうための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素などの神経毒の使用も、その範囲に包含する。 上述した参考文献、論文、特許、出願および刊行物はすべて、参照により、そのまま本明細書に組み込まれる。 したがって、本願請求項の精神および範囲は、上述した好ましい実施形態の説明に制限されるべきでない。図1に、ボツリヌス毒素(図1中では「Btx」)の作用メカニズムを示す。ボツリヌス毒素は、皮膚感覚神経からのcGRP、SPおよびグルタメートの放出を抑制することができ、また、皮膚ケラチノサイト、内皮細胞およびメラノサイトからのそれらメディエーターの直接放出を抑制することができる。皮膚を神経支配し、表皮および真皮細胞と接触する感覚神経により放出される神経ペプチドは、ケラチノサイト、ランゲルハンス細胞(LC)、肥満細胞、皮膚微小血管内皮細胞および浸潤免疫細胞の機能を直接調節しうることが知られている。符号の説明 NO:一酸化二窒素、cGRP:カルシトニン遺伝子関連ペプチド、Ach:アセチルコリン、cGRP-R:cGRP分子の受容体、v-dil:血管拡張、SP:サブスタンスP。 皮膚障害を処置する医薬を製造するためのボツリヌス毒素の使用。 ボツリヌス毒素が、A、B、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の使用。 ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の使用。 ボツリヌス毒素を約1単位〜約3000単位の量で投与する請求項1に記載の使用。 ボツリヌス毒素の局所投与または皮下投与により投与を行う請求項1に記載の使用。 ボツリヌス毒素1単位〜3000単位を患者の皮膚障害に局所投与することにより皮膚障害を処置する医薬を製造するためのボツリヌス毒素の使用。 皮膚障害が、疣贅、鶏眼、胼胝またはバニオンである請求項6に記載の使用。 皮膚障害に伴う痛みを軽減することによって皮膚障害を処置する請求項6に記載の使用。 皮膚障害に伴う炎症を軽減することによって皮膚障害を処置する請求項6に記載の使用。 皮膚障害の大きさを縮小することによって皮膚障害を処置する請求項6に記載の使用。 ボツリヌス毒素を有効量で疣贅に投与することにより疣贅を処置する医薬を製造するためのボツリヌス毒素の使用。 皮膚障害、例えば疣贅、鶏眼、胼胝またはバニオンの患者に、クロストリジウム毒素、例えばボツリヌス毒素を局所投与することによって皮膚障害を処置する方法。