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タイトル:特許公報(B2)_水溶性エラスチンとその製造方法及びそれを含む食品と医薬
出願番号:2006543232
年次:2008
IPC分類:C07K 14/78,C07K 1/14,A61K 38/17,A61P 9/10,A61P 3/06,A61P 7/02


特許情報キャッシュ

岡元 孝二 山田 宏 前田 衣織 JP 4078431 特許公報(B2) 20080215 2006543232 20051027 水溶性エラスチンとその製造方法及びそれを含む食品と医薬 国立大学法人九州工業大学 504174135 前田 純博 100077263 岡元 孝二 山田 宏 前田 衣織 JP 2004316584 20041029 20080423 C07K 14/78 20060101AFI20080403BHJP C07K 1/14 20060101ALI20080403BHJP A61K 38/17 20060101ALI20080403BHJP A61P 9/10 20060101ALI20080403BHJP A61P 3/06 20060101ALI20080403BHJP A61P 7/02 20060101ALI20080403BHJP JPC07K14/78C07K1/14A61K37/12A61P9/10A61P3/06A61P7/02 C07K 14/78 A61K 38/17 C07K 1/14 CA(STN) BIOSIS(STN) MEDLINE(STN) EMBASE(STN) BIOTECHABS(STN) WPIDS(STN) 特開平06−112783(JP,A) 国際公開第02/096978(WO,A1) 仏国特許出願公開第02498452(FR,A1) Biochimica et Biophysica Acta, General Subjects (1984), 797(3), 348-53 Thrombosis Research (1988), 52(1), 61-4 社団法人日本生化学会編、「新生化学実験講座1 タンパク質I−分離・精製・性質−」、第1版第1刷、1990年、株式会社東京化学同人発行、第143−152頁 16 JP2005019751 20051027 WO2006046626 20060504 25 20070418 内藤 伸一 本発明は、水溶性エラスチンから得られる高純度の低分子量水溶性エラスチンと高分子量水溶性エラスチン、及びそれらの製造方法、並びに低分子量水溶性エラスチンの食品と医薬用途に関するものである。 エラスチンは、動物、特に哺乳動物の皮膚の真皮、靭帯、腱、血管壁等の結合組織の中に、コラーゲンと共に存在するタンパク質である。エラスチンは、通常、生体内においては、3次元の網目構造の不溶性のタンパク質として存在している。かかるエラスチンを、酸又はアルカリで加水分解したり、酵素で処理することによって、水溶性エラスチンが得られることは広く知られている。そして、水溶性エラスチンは、水分を豊富に保持する能力を有することから、化粧品、特に保湿剤として利用されている他(例えば、特許文献1〜3)、皮膚に弾力を与える等の美容効果があるとして、コラーゲン等と共に健康食品としても利用されている(例えば、特許文献4〜6)。更に、水溶性エラスチンは、人工血管等の再生医療分野においてもその利用が期待されている(例えば、特許文献7〜10)。特開昭60−258107号公報特開昭60−181005号公報特開2002−205913号公報特開平6−7092号公報特開2005−13123号公報特開2005−13124号公報特公平6−30616号公報特開平8−33661号公報特開平9−173361号公報国際公開第2002/96978号パンフレット 水溶性エラスチンを得る方法・手段は色々と提案されているが、適度の分子量を有する高純度の水溶性エラスチンを得る方法は未だ十分なものではない。エラスチンは動物の生体組織から抽出されるが、この場合、通常、不要部分の除去や脱脂操作等の前処理を施した動物性生体組織が用いられる。そして、前処理された組織を、蟻酸やシュウ酸を含む所定温度の酸性液に溶解したり、或いは、酵素で処理することによって、動物性生体組織に含まれている不溶性エラスチンを断片化し、水溶性エラスチンを溶解した可溶化液が得られる。しかしながら、かかる方法では、水溶性エラスチンが溶解した可溶化液中に、動物性生体組織に含まれるエラスチン以外のコラーゲンやその他のタンパク質も溶解し、最終的に得られる水溶性エラスチンの純度が低下するという問題があった。しかも、可溶化液に溶解した水溶性エラスチンは、可溶化液の濃度が高かったり、また可溶化液に長時間溶解していることによって、水溶性エラスチン分子が更に低分子量のポリペプチドへと細断化されてしまい、低温度帯(例えば35〜40℃)でのコアセルベーション能を失ってしまう。そして、コアセルベーション能を失ったエラスチンは、医用材料分野等の用途には適さなくなるという問題もあった。 精製した不溶性エラスチンを、熱シュウ酸を用いて抽出処理することによって、水溶性のα−エラスチンとβ−エラスチンが得られることが報告されている(非特許文献1)。しかし、非特許文献1で報告されているα−エラスチンの分子量は70,000で、β−エラスチンの分子量は10,000以下であり、以下に述べる本発明の高純度の水溶性エラスチンとは異なっている。前記特許文献1には、不溶性エラスチンをタンパク分解酵素によって分解し、分子量15,000〜300,000の可溶性エラスチンを得たことが開示されている。しかし、このエラスチンは、分子量の範囲が非常にブロードで、酵素分解の断片等を含み純度の高いものとは考えられない。前記特許文献7にも、不溶性エラスチンをペプシン分解し、分子量が8,300〜640,000の水溶性エラスチンを得たことが報告されているが、このもののアミノ酸組成(特にプロリン、グリシン、アラニン、バリン)から判断する限り、純度の高いものとは考えられない。また、前記特許文献10にも、不溶性エラスチンを熱シュウ酸で処理し、水溶性エラスチンを得たことが報告されており、アミノ酸組成から判断すると高純度のものであることが推定されるが、この文献では、生体適合性機能性材料を得るために、得られた水溶性エラスチンを架橋させている。なお、精製した不溶性エラスチンのアミノ酸組成は、本発明の高純度の水溶性エラスチンのそれと一部重複しており、80〜83%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンであり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸であり、0.7〜1.0%がリジン、ヒスチジン、アルギニンであり、0.3〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなると報告されている(例えば、非特許文献2)。Biochimica et Biophysica Acta, 310 (1973) 481-486Analytical Biochemistry, 64 (1975) 255-259 本発明の課題は、機能性食品や医薬品として利用できる低分子量で純度の高い水溶性エラスチン、及び化粧品や医療材料として利用できる高分子量で純度の高い水溶性エラスチンを提供することにある。また、本発明のもう一つの課題は、純度の高い水溶性エラスチンを工業的に製造する方法を提供することにある。本発明のうち請求項1記載の発明は、動物性生体組織から得られた不溶性エラスチンを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液に溶解して得られるエラスチン溶解可溶化液から精製されたエラスチンであって、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンである。なお、本発明においてアスパラギン酸の含量にはアスパラギンも含み、グルタミン酸の含量にはグルタミンも含むものである。請求項2記載の発明は、動物性生体組織から水溶性エラスチンを製造する方法において、(1)動物性生体組織をコラーゲン除去処理することによって不溶性エラスチンを得る工程、(2)該不溶性エラスチンを可溶化液に溶解しエラスチン溶解可溶化液を得る工程、(3)該エラスチン溶解可溶化液を30〜50℃に調節することによって2層に分離させ、上層から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層から高分子量水溶性エラスチンを回収する工程からなる水溶性エラスチンの製造方法である。請求項6記載の発明は、本発明の水溶性エラスチンを製造するための別な方法に関するものである。即ち、動物性生体組織から水溶性エラスチンを製造する方法において、(1)動物性生体組織を前処理する工程、(2)前処理された動物性生体組織を、アルカリ性溶液中に浸漬し、動物性生体組織から抽出されるコラーゲンやその他の不要タンパク質を含む溶液を除去するアルカリ抽出工程、(3)前記(2)の操作を繰り返した後に、動物性生体組織残渣を溶解することにより、遊離した水溶性エラスチンを含む溶液を回収するアルカリ溶解工程、(4)該アルカリ溶解工程で回収された水溶性エラスチンを含有する溶液を30〜50℃に調節することによって2層に分離させ、上層から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層から高分子量水溶性エラスチンを回収する工程からなる水溶性エラスチンの製造方法である。請求項10記載の発明は、動物性生体組織から得られた不溶性エラスチンを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液に溶解して得られるエラスチン溶解可溶化液から精製されたエラスチンであって、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを含む機能性食品である。そして、請求項12記載の発明は、動物性生体組織から得られた不溶性エラスチンを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液に溶解して得られるエラスチン溶解可溶化液から精製されたエラスチンであって、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを有効成分とする医薬である。請求項12の医薬の特定の用途に関する発明として、請求項14記載の発明は動脈硬化抑制剤、請求項15記載の発明は脂質代謝異常改善剤、請求項16記載の発明は血栓形成抑制剤である。 本発明によると、分子量が約1〜3万の低分子量で純度の高い水溶性エラスチンと、分子量が約3〜30万の高分子量で純度の高い水溶性エラスチンが提供される。そして、本発明の低分子量の水溶性エラスチンは、消化吸収性が高いので、機能性食品や医薬品として利用できる。また、高分子量の水溶性エラスチンは、化粧品や医療材料として利用できる。また、本発明によると、上記水溶性エラスチンの工業的に有利な製造方法が提供される。請求項2に記載された方法では、先ず、不溶性エラスチンを、動物性生体組織からコラーゲンを除去するコラーゲン除去処理を行って高純度の状態で生成させる。即ち、先ず、動物性生体組織中に含まれるコラーゲンの除去に重点を置いた処理を行うことによって、残りの動物性生体組織の成分の大部分を、水溶性エラスチン精製時に夾雑物となるコラーゲンを含まない、高純度不溶性エラスチンとすることができる。従って、その後の工程で、残りの動物性生体組織を可溶化液に浸漬しても、不溶性エラスチンが断片化して水溶性エラスチンとなり可溶化液に遊離し溶解する一方で、コラーゲンが溶出することは無いので、夾雑物が少なく純度の高い水溶性エラスチンを製造することができる。可溶化液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液を用いるのが好ましい。また、もう一つの製造方法である請求項6に記載された方法では、動物性生体組織をアルカリ性溶液中に浸漬処理するアルカリ抽出工程とアルカリ溶解工程は、コラーゲン除去処理と、コラーゲン以外の不要タンパク質の除去処理と、不溶性エラスチンの断片化・可溶化処理とを一括して行うものであり、動物性生体組織中の不溶性エラスチンを精製することなく、純度の高い水溶性エラスチンを回収することで、処理時間の短縮を図ることができる。水溶性エラスチンの製造方法(請求項3の発明)を示したフロー図である。水溶性エラスチンの製造方法(請求項8の発明)を示したフロー図である。血清中の総コレステロールの変化を示す図である。LDL−コレステロールの変化を示す図である。HDL−コレステロールの変化を示す図である。トリグリセリドの変化を示す図である。過酸化脂質の変化を示す図である。血管の弾性係数の変化を示す図である。血管の血流側の内膜表面の状態を示す図である。血小板凝集抑制作用を示す図である。血液中の粘性を示す図である。 本発明の水溶性エラスチンは、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンと、分子量が約3〜30万の高分子量水溶性エラスチンである。精製した不溶性エラスチンのアミノ酸組成は、80〜83%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンであり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸であり、0.7〜1.0%がリジン、ヒスチジン、アルギニンであり、0.3〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンであるとされており、本発明の水溶性エラスチンのアミノ酸組成も殆どこれに近いものであるから、高純度のものであると言える。但し、エラスチンのアミノ酸分析を行うとき、通常、6N塩酸で48時間以上加水分解するが、そのためAsnはAspに変換し、GlnはGluに変換するので、Aspの値はAsp+Asnの合計として、また、Gluの値はGlu+Glnの合計として表される。本発明のアミノ酸組成においても、アスパラギン酸の含量には元々のアスパラギンも含み、グルタミン酸の含量には元々のグルタミンも含むものとして定義されている。本発明の高純度の水溶性エラスチンは、以下の二つの方法で製造することができる。第1の方法は、請求項2に記載された方法である。即ち、動物性生体組織から水溶性エラスチンを製造する方法において、(1)動物性生体組織をコラーゲン除去処理することによって不溶性エラスチンを得る工程、(2)該不溶性エラスチンを可溶化液に溶解しエラスチン溶解可溶化液を得る工程、(3)該エラスチン溶解可溶化液を30〜50℃に調節することによって2層に分離し、上層から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層から高分子量水溶性エラスチンを回収する工程からなる方法であり、好ましくは、可溶化液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液を用いる方法である。 動物性生体組織としては、特に制限はないが、エラスチンの含量が多い点で、豚、馬、牛、羊などの哺乳動物から得られた項靱帯や大動脈血管を使用することが好ましい。動物性生体組織は、先ず、ホモジナイザーを用いてホモジナイズするのが良い。ホモジナイズはミキサー、ミートチョッパーなど動物性生体組織を細断できれば良く、好ましくは3ミリメートル角以下、さらに好ましくはペースト状に細断できる器具を用いると良い。細断した動物性生体組織の粒が小さいほど、コラーゲンやその他の不要なタンパク質の除去効率を上げることができるので好ましい。ホモジナイズした動物性生体組織は、例えば、熱水又は熱希薄アルカリ水溶液で煮沸するか、もしくは有機溶媒で処理することによって脱脂処理を行っても良い。前記第1の方法の工程(1)に係る、動物性生体組織からコラーゲンを除去処理し不溶性エラスチンを得る方法としては、アルカリ性溶液でコラーゲンを除去処理するのが好ましい。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3mol、更に好ましくは0.05〜0.15mol含有するアルカリ性溶液中に、動物性生体組織を90〜105℃、好ましくは95〜100℃で10〜20分間浸漬して行う処理方法が好ましい。 不溶性エラスチンは酸性溶液の他にアルカリ性溶液によっても断片化され、遊離し、溶解可能な水溶性エラスチンとなるが、上記コラーゲン除去処理操作でのアルカリ性溶液の濃度、温度、処理時間の各条件は、不溶性エラスチンが断片化して水溶性エラスチンとなり遊離して溶解するよりも、コラーゲンが先行して溶出する条件である。従って、前記条件下での処理によって、動物性生体組織中のコラーゲンをアルカリ性溶液中に効率よく溶出し除去することができ、その結果として、純度の高い不溶性エラスチンを得ることができる。なお、コラーゲン除去処理における本アルカリ性溶液は、コラーゲンの抽出除去と共に、コラーゲン以外の不要なタンパク質を除去する効果もある。 かかるコラーゲン除去処理は、前記アルカリ性溶液から不溶性エラスチンを濾別した濾液中に溶出したタンパク質濃度が、所定の値以下となるまで、複数回繰り返し行っても良い。前記条件下の処理であれば、溶出するタンパク質濃度(すなわち溶出したコラーゲン等の濃度)が所定濃度になるまでコラーゲン除去処理を繰り返し行っても、不溶性エラスチンに対する断片化は生じにくい。従って、繰り返しコラーゲンの除去処理を行うことで、コラーゲン除去処理を1回だけ行った場合よりも更に精製度の高い水溶性エラスチンを製造することができる。 また、第1の方法においては、前記コラーゲン除去処理前に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上の塩を、溶液1L当たり0.1〜2mol、好ましくは0.8〜1.2mol含有する塩溶液中に、動物性生体組織を2〜10℃で12〜48時間、好ましくは20〜30時間浸漬する浸漬処理を行つても良い(請求項5)。かかる塩溶液の処理は複数回行っても良く、この処理によって、コラーゲン以外の不要なタンパク質を予め除去することができる。 第1の方法の工程(2)に係る、前記工程(1)で得られた不溶性エラスチンを可溶化液に溶解しエラスチン溶解可溶化液を得る方法に関しては、可溶液として、酸性溶液を用いる場合とアルカリ性溶液を用いる場合がある。 酸性溶液として好ましいのは、シュウ酸、蟻酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ベタイン、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、スルファミン酸、過塩素酸及びトリクロロ酢酸からなる群から選ばれた1又は2以上の酸化合物を、溶液1L当たり0.1〜0.5mol、好ましくは0.2〜0.3mol含み、且つ、液温が90〜105℃、好ましくは95〜100℃での酸性溶液である(請求項6)。かかる条件は、不溶性エラスチンから水溶性エラスチンを製造するのに適当な条件である一方、可溶化液に遊離・溶解した水溶性エラスチン分子を細断化しない適切な条件でもあるので、十分な分子量を持った水溶性エラスチンを製造することができる。可溶化のための処理時間は20〜120分間、好ましくは40〜80分間である。不溶性エラスチンが残存していれば、新たに酸性溶液に不溶性エラスチンを再度浸漬させて、不溶性エラスチンが完全に溶解するまでこの酸性溶液による処理を繰り返す。 アルカリ性溶液として好ましいのは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3mol含み、且つ、液温が90〜105℃、好ましくは95〜100℃のアルカリ性溶液である。かかる条件は、不溶性エラスチンから水溶性エラスチンを製造するのに適当な条件である一方、可溶化液に遊離・溶解した水溶性エラスチン分子を細断化しない適切な条件でもあるので、十分な分子量を持った水溶性エラスチンを製造することができる。可溶化のための処理時間は20〜120分間、好ましくは40〜80分間である。不溶性エラスチンが残存していれば、新たにアルカリ性溶液に不溶性エラスチンを再度浸漬させて、不溶性エラスチンが完全に溶解するまでこのアルカリ性溶液による処理を繰り返す。アルカリ性溶液を可溶化液とする場合は、コラーゲン除去処理で用いたアルカリ性溶液を引き続いて可溶化液として用いることもでき、その場合には製造コストの低減を図ることができる。第1の方法の工程(3)に係る、前記工程(2)で得られたエラスチン溶解可溶化液を30〜50℃に調節することによって2層に分離させ、分離した2層をそれぞれ回収する方法において、分離した上層からは低分子量の水溶性エラスチンが回収され、分離した下層からは高分子量の水溶性エラスチンが回収される。得られる水溶性エラスチンの性状については、後で詳しく説明する。 第1の方法によって水溶性エラスチンを製造する場合のフロー図を、図1に示した。以下図1に従って、説明する。なお、図1における処理条件等は、本発明の一例である。 動物性生体組織として牛の項靱帯を用い、付着している脂肪や筋肉などエラスチン含量の低い部分を刃物などを用いて削ぎ落とし(ステップS1)、動物性生体組織をホモジナイザーを用いてホモジナイズする(ステップS2)。ホモジナイズはミキサー、ミートチョッパーなど動物性生体組織を細断できれば良く、好ましくは3ミリメートル角以下、更に好ましくはペースト状に細断できる器具を用いると良い。細断した動物性生体組織の粒が小さいほど、不要なタンパク質の除去効率を上げることができる。 ホモジナイズした動物性生体組織を、動物性生体組織重量の2倍容量(重量1g当たり2mL)以上、好ましくは2〜20倍容量の沸騰水中(90℃〜105℃、好ましくは95〜100℃)に入れて30〜120分間、好ましくは60〜120分間脱脂のための煮沸を行い(ステップS3)、水切りを行う(ステップS4)。なお、ここで言う水切りは、具体的に水のみを意図したものではなく、動物性生体組織に付着した液体を切る意味である。本脱脂時間は、30分未満であれば十分に脱脂できず、120分以上脱脂を行っても更なる脱脂効果を期待することができない。また、脱脂は沸騰水1Lに対しての総量が0.01mol〜0.1molとなるように、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの少なくともいずれか1つを添加することで、さらに脱脂効率を高めることができ、脱脂時間も10〜60分間に短縮することができる。また、沸騰水による方法に限らず、アセトン、エーテル類、ヘキサン、ブタノール、クロロホルム、メタノールなど一般に脂質抽出を目的として使用される有機溶媒やこれらの混合液を用いて脱脂操作としても良い。 また、水切りは動物性生体組織が流失しなければ、目の細かい網目を備えたざるのようなもので水切りを行っても良く、遠心力による水切りを行っても良い。さらに、水切りした動物性生体組織をアセトンやエタノールなどに浸漬して回収し、動物性生体組織に浸透したアセトンやエタノールなどを蒸発させることで、動物性生体組織の水分を脱水できると共に、更なる脱脂を行うこともできる。 次に、容器に水切りした動物性生体組織を入れ、動物性生体組織重量に対して2倍容量以上、好ましくは2〜20倍容量の塩溶液(0.1〜2M、好ましくは0.8〜1.2M塩化ナトリウム水溶液)を加えて2〜10℃条件下で12〜48時間、好ましくは20〜30時間攪拌することで浸漬処理を行う(ステップS5)。かかる浸漬処理によって、コラーゲン以外の不要なタンパク質が予め除去できる。 ここで、塩溶液の量は動物性生体組織重量の2倍容量を下回ると、不要タンパク質の抽出効率が悪く、20倍容量を超えると取り扱いにくいので、動物性生体組織重量の2〜20倍容量で浸漬処理を行うことが望ましい。また、浸漬処理温度は、2℃を下回ると氷結する恐れがあり、10℃を超えると微生物の繁殖が見られる。1回の浸漬処理時間は、12時間以下では不要タンパク質の抽出が不十分で、48時間を越えることは不必要である。 また、浸漬処理に用いる塩溶液は、図1では塩化ナトリウム水溶液を用いているが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウムの少なくともいずれか一つを含む塩溶液であって、この塩溶液中に添加した塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウムの総量を1L当たり0.1〜2mol、好ましくは0.8〜1.2molで2〜10℃とした塩溶液を用いることが望ましい。 動物性生体組織重量に対して、例えば、10倍容量の1M塩化ナトリウム水溶液を4℃で浸漬処理を24時間行った後に、動物性生体組織と塩溶液とを分離し、分離した塩溶液を例えばビューレット法にて総タンパク質の定量を行う(ステップS6)。塩溶液中に含まれる総タンパク重量が0.1mg/mLを超えていれば、動物性生体組織中には更に除去可能な不要タンパク質が存在すると判断して浸漬処理を再度行い、塩溶液中に含まれる総タンパク重量が0.1mg/mL以下であれば、不要タンパク質は除かれたと判断して次のステップS7に操作を移す。なお、かかる浸漬処理は、行っても行わなくても良く、あるいは複数回行ってもよいが、一般的に、回数多いほど不要なタンパク質を除去することができ、不溶性エラスチン含量の高い動物性生体組織を得ることができる。 次に、浸漬処理を経た動物性生体組織を組織重量に対して2倍容量以上、好ましくは2〜20倍容量のアルカリ性溶液(0.05〜0.5M、好ましくは0.05〜0.3M、更に好ましくは0.05〜0.15M水酸化ナトリウム水溶液)に入れ、90〜105℃、好ましくは95〜100℃で10〜20分間攪拌しコラーゲン除去処理を行う(ステップS7)。ここで、アルカリ性溶液の量は動物性生体組織重量の2倍容量を下回ると、コラーゲンの抽出効率が悪くなり、20倍容量を超えると取り扱いにくいので、動物性生体組織重量の2〜20倍容量でコラーゲン除去処理を行うことが望ましい。コラーゲン除去処理の時間は、10分未満ではコラーゲンの除去効率が悪く、また20分を超えるとエラスチンが分解を受けるので10〜20分間で行うことが望ましい。 アルカリ性溶液としては、図1では水酸化ナトリウム水溶液を用いているが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの少なくともいずれか一つを含むアルカリ性溶液であって、このアルカリ性溶液中に添加した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの総量を1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3mol、更に好ましくは0.05〜0.15molとしたアルカリ性溶液を用いても良い。 動物性生体組織重量に対して、例えば、10倍容量の0.1M水酸化ナトリウム水溶液を100℃としてコラーゲン除去処理を15分間行った後に、動物性生体組織とアルカリ性溶液とを分離し、分離したアルカリ性溶液を、例えば、ビューレット法にて総タンパク質の定量を行う(ステップS8)。アルカリ性溶液中に含まれる総タンパク質量が、例えば0.1mg/mLを超えていれば、動物性生体組織中には更に除去可能なコラーゲンが存在すると判断してコラーゲン除去処理を再度行い、アルカリ性溶液中に含まれる総タンパク質量が0.1mg/mL以下であれば、コラーゲンは除かれたと判断してコラーゲン除去処理を終了し、高純度の不溶性エラスチンを得る。 次に、不溶性エラスチンに、重量に対して2倍容量以上、好ましくは2〜20倍容量の可溶化液を加えて、90〜105℃、好ましくは95〜100℃で20〜120分間、望ましくは40〜80分間攪拌することで不溶性エラスチンを断片化し、可溶化液に水溶性エラスチンとして遊離させて溶解する(ステップS9)。ここで用いる可溶化液は、図1ではシュウ酸を用いているが、他の酸性溶液であっても良く、また、アルカリ性溶液であっても良い。 酸性溶液としては、例えば、シュウ酸、蟻酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ベタイン、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、スルファミン酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸の少なくともいずれか一つを含み、かつ、これらの酸の総量を1L当たり0.1〜0.5mol、好ましくは0.2〜0.3molとした酸性溶液を用いることができる。 また、アルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの少なくともいずれか一つを含むアルカリ性溶液であって、このアルカリ性溶液中に添加した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの総量を1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3molとしたアルカリ性溶液を用いることができる。 動物性生体組織重量に対して、例えば、10倍容量の0.25Mシュウ酸水溶液を100℃とした可溶化液に60分間浸漬させた後に、不溶性エラスチンと可溶化液とを分離し(ステップS10)、分離した可溶化液を放置冷却や水冷却等によって25℃以下、好ましくは氷冷等によって10℃以下とする(ステップS11)。即ち、分離した可溶化液を25℃以下、好ましくは氷冷等によって10℃以下とすることで、可溶化液の反応性を低下させ、可溶化液中に遊離して溶解した水溶性エラスチンの細断化を防ぐことができる。また、前記分離の際に不溶性エラスチンが残存していれば、新たな可溶化液に不溶性エラスチンを再度浸漬させて、不溶性エラスチンの可溶化を行う(ステップS12)。この可溶化液による処理の繰返しは、不溶性エラスチンがほぼ完全に溶解するまで行う。 次に、水溶性エラスチンが溶解している可溶化液のpHを5〜7、好ましくはpH6〜7に調整して可溶化液の透析を行う(ステップS13)。水溶性エラスチンが遊離して溶解した可溶化液を、半透膜で形成した袋体に入れて密封した後に、4〜10℃の条件下で水に対して透析を行うことによって、水溶性エラスチンは袋体内に留めておきながら、可溶化液に含まれている成分を半透膜外部に溶出させて、水溶性エラスチンの精製を行う。なお、透析を行うにあたっては、半透膜を用いる方法に限らず、水溶性エラスチン分子が回収可能な状態で、可溶化液中の他の成分やpH調整時に生成した塩を除去できる方法であれば、どの様な方法であっても良い。24時間経過後、透析に用いた水を捨て、新たな水に対して4〜10℃で再度24時間透析を行い、これを4回以上繰り返すのが好ましい。 透析した水溶性エラスチンは、水溶液の温度を30〜50℃とすることによって、相分離を行い(ステップS14)、低分子量水溶液エラスチンを含有する上層(平衡液相)と高分子量水溶性エラスチンを含有する下層(コアセルベート相)に分離する(ステップS15)。特に、得られた水溶性エラスチンを再生医療用の組織培養基材として利用する場合は、前記組織培養は約37℃で行うことが多いため、37℃以下でコアセルベーションを起こす高分子量水溶性エラスチンを効率よく回収することが望ましい。なお、コアセルベート相は、エラスチン分子同士が分子間で疎水的に会合して分子集合することによって生じるものであることから高分子ほどコアセルベート相に凝集される。そのため高分子量水溶性エラスチンが効率よくコアセルベート相から回収できる。また、相分離は、エラスチンが水溶性の状態であれば行うことができるが、望ましくは前記透析後のpHをpH3〜pH7に調整後、さらに望ましくは、pHを水溶性エラスチンの等電点付近のpH4〜pH6に調整後に行うことで、効率よく高分子量の水溶性エラスチンを得ることができる。 上記コアセルベート相からは、本発明の高分子量の水溶性エラスチンが回収され、それと分離した上層(平衡液相)からは、本発明の低分子量の水溶性エラスチンが回収される。 本発明の高純度の水溶性エラスチンを製造するための第2の方法は、請求項8に記載された方法である。即ち、動物性生体組織から水溶性エラスチンを製造する方法において、(1)動物性生体組織を前処理する工程、(2)前処理された動物性生体組織を、アルカリ性溶液中に浸漬し、動物性生体組織から抽出されるコラーゲンやその他の不要タンパク質を含む溶液を除去するアルカリ抽出工程、(3)前記(2)の操作を繰り返した後に、動物性生体組織残渣を溶解することにより、遊離した水溶性エラスチンを含む溶液を回収するアルカリ溶解工程、(4)該アルカリ溶解工程で回収された水溶性エラスチンを含有する溶液を相分離操作によって2層に分離し、上層から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層から高分子量水溶性エラスチンを回収する工程からなる水溶性エラスチンの製造方法である。 前記第2の方法の工程(1)に係る、動物性生体組織を前処理する方法としては、動物性生体組織の不要部分の除去処理、動物性生体組織の細断処理、動物性生体組織の脱脂処理があり、これらの処理のうち少なくとも一つを行う必要がある(請求項11)。 前記第2の方法の工程(2)に係るアルカリ抽出工程では、前処理された動物性生体組織を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3mol、更に好ましくは0.05〜0.15mol含有するアルカリ性溶液中に、90〜105℃、好ましくは95〜100℃で10〜20分間浸漬するのが好ましい(請求項9)。そして、動物性生体組織から抽出される溶液は除去する。かかる処理によって、コラーゲンやその他の不要タンパク質が除去される。 次いで、前記第2の方法の工程(3)に係るアルカリ溶解工程では、前記工程(2)の操作を繰り返した後に、残存する動物性生体組織残渣を溶解し、その溶解液を回収する。この工程(3)では、残存する動物性生体組織残渣を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3mol含有するアルカリ性溶液(前記工程(2)で用いる濃度より高濃度のアルカリ性溶液)中に、90〜105℃、好ましくは95〜100℃で20〜240分間、好ましくは40〜120分間(前記工程(2)で処理する時間よりも長い処理時間)浸漬させて溶解する(請求項10)。動物性生体組織残渣が残存していれば、新たにアルカリ性溶液に動物性生体組織残渣を再度浸漬させて、動物性生体組織残渣が完全に溶解するまでこのアルカリ性溶液による処理を繰り返す。 前記条件下でのアルカリ性溶液によるコラーゲンやその他の不要タンパク質の溶出は、不溶性エラスチンの断片化に先んじて行われることから、前記第2の方法の(2)のアルカリ抽出工程では、動物性生体組織からの抽出を繰り返す毎にコラーゲンを含む不要なタンパク質の溶出量が減り、コラーゲン等のタンパク質濃度が指数関数的に漸次希薄な溶液となる。次いで、(3)のアルカリ溶解工程では、残存する動物性生体組織残渣を溶解することにより、水溶性エラスチンがアルカリ性溶液中に遊離して溶解してくる。この工程(2)及び(3)の方法では、アルカリ性溶液の濃度と処理時間を変えることにより、コラーゲンを含む不要なタンパク質の除去から水溶性エラスチンを回収するまでの間を、断続的かつ一連の作業とすることができるので、短時間で水溶性エラスチンを製造することができる。 次いで、前記第2の方法の工程(4)においては、前記アルカリ溶解工程(3)で回収されたエラスチンを含有する溶液を相分離し、分離した上層からは低分子量の水溶性エラスチンが回収される。また、分離した下層からは高分子量の水溶性エラスチンが回収される。かかる回収工程は、前記第1の方法の場合と同様に行うことができる。 第2の方法によって水溶性エラスチンを製造する場合のフロー図を、図2に示した。以下図2に従って、説明する。この方法に従うと、動物性生体組織から水溶性エラスチンを短時間で製造することができる。なお、図2における処理条件等は、本発明の一例である。 前処理工程として、動物性生体組織は牛の項靱帯を用い、付着している脂肪や筋肉などエラスチン含量の低い部分を、刃物などを用いて削ぎ落とすことで不要部分の除去処理を行い(ステップT1)、第1の方法の場合と同様に、動物性生体組織をホモジナイザーを用いてホモジナイズすることで細断処理を行う(ステップT2)。かかる前処理工程は前記第1の方法の場合と同様に行うことができる。 次に、動物性生体組織を、組織重量に対して2倍容量以上、好ましくは2〜20倍容量のアルカリ性溶液(0.05〜0.5M、好ましくは0.05〜0.3M、更に好ましくは0.05〜0.15M水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬して、90〜105℃、好ましくは95〜100℃で10〜20分間攪拌してアルカリ抽出工程を行う(ステップT3)。その後、動物性生体組織残渣とアルカリ性溶液とを分離し、分離したアルカリ性溶液を、例えばビューレット法にて総タンパク質の定量を行う(ステップT4)。アルカリ性溶液中に含まれる総タンパク質量が、例えば0.1mg/mLを超えていれば、動物性生体組織中には更に除去可能なコラーゲンやその他の不要タンパク質が存在すると判断してコラーゲンなどの除去処理を再度行い、アルカリ性溶液中に含まれる総タンパク質量が0.1mg/mL以下であれば、コラーゲンやその他の不要タンパク質は除かれたと判断してコラーゲンなどの除去処理を終了する。 ここで、アルカリ性溶液の量は動物性生体組織重量の2倍容量を下回ると、コラーゲンや不要なタンパク質の抽出効率が悪くなり、20倍容量を超えると取り扱いにくいので、動物性生体組織重量の2〜20倍容量が望ましい。浸漬時間は、10分未満ではコラーゲンやその他の不要タンパク質の除去効率が悪く、また20分を超えるとエラスチンまで分解を受けて抽出されてしまうので10〜20分間で行うことが望ましい。 アルカリ性溶液としては、図2では水酸化ナトリウム水溶液を用いているが、他のアルカリ性溶液を用いても良い。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの1又は2以上を、総量を1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3mol、更に好ましくは0.05〜0.15molとしたアルカリ性溶液を用いることが望ましい。アルカリ抽出工程は、動物性生体組織から脱脂する効果も有する。従って、図2では、前処理工程での脱脂処理を省略しているが、図1のごとく脱脂操作を行うことによって、更に不要な脂質を除去しても良い。 次に、アルカリ抽出工程を経た動物性生体組織残渣を組織重量に対して、2倍容量以上、好ましくは2〜20倍容量のアルカリ性溶液(0.05〜0.5M、好ましくは0.05〜0.3M水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬し、90〜105℃、好ましくは95〜100℃で20〜240分間、好ましくは40〜120分間撹拌することで動物性生体組織残渣を溶解することにより水溶性エラスチンを遊離させる(ステップT5)。アルカリ性溶液としては、図2では水酸化ナトリウム水溶液を用いているが、他のアルカリ性溶液を用いても良い。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムの1又は2以上を、総量を溶液1L当たり0.05〜0.5mol、好ましくは0.05〜0.3molとしたアルカリ性溶液を用いることが望ましい。動物性生体組織残渣が残存する場合、水溶性エラスチンを含むアルカリ性溶液と溶解しなかった動物性生体組織残渣との分離操作を行い(ステップT6)、残存の動物性生体組織残渣をアルカリ溶解工程に再度供する(ステップT7)。 次に、分離されたアルカリ性溶液中に含まれるタンパク質の多くは水溶性エラスチンであるため、温度を放置冷却や水冷却等によって25℃以下、好ましくは氷冷等によって10℃以下に下げて(ステップT8)、中性付近のpHに調整(ステップT9)して透析(ステップT10)する。透析の手段・方法は第1の方法の場合と同様に行うことができる。 その後も、第1の方法の場合と同様に、透析した調整液は、水溶液の温度を30〜50℃とすることによって、相分離を行い(ステップT11)、低分子量水溶液エラスチンを含有する上層(平衡液相)と高分子量水溶性エラスチンを含有する下層(コアセルベート相)に分離する(ステップT12)。かかる低分子量水溶液エラスチン及び高分子量水溶性エラスチンの回収工程は前記第1の方法の場合と同様に行うことができる。 本発明においては、例えば、コラーゲン除去処理後のアルカリ性溶液中のタンパク質含量は、ビューレット法などのタンパク質定量法を用いて、コラーゲン除去処理毎に測定することで、操作の終了点を決定することができる。ビューレット法では、アルカリ溶液中に溶出した不要なタンパク質やコラーゲン等によって赤紫色を呈するため、望ましくは分光光度計にて、例えば、540nm付近の波長で測定して定量し、溶液中のタンパク質濃度が所定値以下となったところで終了点とすれば良い。あるいは、簡易的には、肉眼で赤紫色を確認できない程度に処理が行われていれば、浸漬処理の終了点としても良い。 なお、ここで所定値は、所望する水溶性エラスチンの純度によって決めることができる。動物性生体組織重量に対して、例えば、10倍容量のアルカリ性溶液を添加した場合において、比較的高純度の水溶性エラスチンを得る場合の所定値は、例えば0.1mg/mLとし、もっと高純度の水溶性エラスチンを得る場合の所定値は、例えば、0.1mg/mL以下とすることができる。また、本発明でいう「所定値以下となったところで終了」とは、所定値以下となった時点から更に処理を繰り返して処理を終了する場合も含むものである。 また、可溶化液が酸性またはアルカリ性のどちらであっても、不溶性エラスチンの可溶化を、不溶性エラスチンが溶解して無くなるまで断続的に繰り返して行うことで、可溶化液中に溶解した水溶性エラスチンの細断化を防ぐことができる。即ち、可溶化液に浸漬して20〜120分間、好ましくは40〜80分間経過した後に一旦可溶化を中断し、不溶性エラスチンと分離して得た可溶化液は、連続して90〜105℃、好ましくは95〜100℃の高温条件下に曝さずに、放置冷却または水冷却等により温度を25℃以下、好ましくは氷冷等により10℃以下に温度を下げることで、可溶化液の反応性を弱めることができ、水溶性エラスチンの細断化を防止することができる。 また、可溶化液に溶解した水溶性エラスチンは、相分離操作を行って2層に分離することにより、上層(平衡液相)の低分子量水溶性エラスチン画分及び下層(コアセルベート相)の高分子量水溶性エラスチン画分に分画することができる。高分子量の水溶性エラスチンのみが分子間で疎水的に会合して分子集合することによりコアセルベート相を形成するので、コアセルベート相を得ることにより、高分子量の水溶性エラスチンを効率よく回収することができる。更に相分離に際して、水溶性エラスチンのpHを3〜7、好ましくはpH4〜6に調整することで、エラスチンの等電点付近となることから、よりコアセルベート相を形成しやすくなり、高分子量水溶性エラスチンの回収量を増やすことができる。 前記第1の方法では、不溶性エラスチンを反応系から実際に取出すので、取出した不溶性エラスチンのアミノ酸組成等を解析し、その純度を検証できるというメリットがある。また、不溶性エラスチンは安定であり長期間の保存が可能であるし、可溶化方法は酸処理でもアルカリ処理でも選択できるという利点がある。一方、第2の方法は、不溶性エラスチンを取出すことがないので、工程が簡便で、アルカリ性溶液の濃度と反応時間を調節するだけで、高純度の水溶性エラスチンを得ることができる。そのため、後者の方が高収率で水溶性エラスチンが得られるという特徴がある。 前記のごとく第1又は第2の方法で得られた水溶性エラスチンは、次いで、それを相分離によって低分子量(分子量約1〜3万)水溶性エラスチンと高分子量(分子量約3〜30万)水溶性エラスチンに分画する操作を行なう。即ち、水溶性エラスチンを30〜50℃に加熱すると相分離して白濁し、そのまま放置すると2層に分離する。この上層画分の平衡液相から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層画分のコアセルベート相から高分子量水溶性エラスチンを回収する。それらの分子量測定の結果と、アミノ酸組成の測定結果から、本発明の低分子量水溶性エラスチンと高分子量水溶性エラスチンはいずれも高純度であることが評価できる。 また、低分子量水溶性エラスチンと高分子量水溶性エラスチンのコアセルベーション特性即ち、温度上昇で濁度が上昇し、温度降下で濁度がもとに戻る可逆的な性質の検討の結果、高分子量水溶性エラスチンは加熱すると白濁することが確認でき、その濁度曲線が可逆的であるので、高分子量水溶性エラスチンは、化粧品や医用材料に応用できることが期待される。一方、低分子量水溶性エラスチンは、加熱しても白濁しないので化粧品や医用材料に用いるのは困難である。しかしながら、低分子量水溶性エラスチンは、分子量サイズが小さいので消化吸収の面で利点になるので、食品素材や医薬品に適していると考えられる。 コラーゲンの溶液は加熱すると白濁するが、温度を下げても白濁したままで、元の透明な状態には戻らない(非可逆性)。しかし、水溶性エラスチンの溶液は、加熱すると白濁し、温度を下げると元の透明な状態に戻る(可逆性)という違いがある。またコラーゲンは加熱温度を極度に上げると変性してコラーゲンとは性質の異なるゼラチンに変化するが、エラスチンは加熱温度を極度に上げても、エラスチンのままであるという違いもある。かかる特性を利用して、コラーゲンとエラスチンをそれぞれ適当な医用材料に応用することができる。また、製造された水溶性エラスチンの濁度曲線が、可逆的であるかどうかによって、コラーゲンの混入の有無を検証するのにも利用できる。 本発明の、水溶性エラスチンのうち、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンは、消化吸収性に優れているので、機能性食品として利用できる。現在、健康食品市場が急拡大しているが、高コレステロール、高中性脂肪あるいは高血圧などの症状に個別的に対応する機能性食品はあっても、動脈硬化を総合的に予防し、抑制する万能対応型機能性食品はこれまで皆無である。血管を構成する主成分はエラスチン(約30%)で、次いでコラーゲン(約18%)であるが、コラーゲンは美肌効果を有する食品素材として広く普及してきたものの、エラスチンを素材とした動脈硬化予防・抑制対応型機能性食品は未だ開発されていない。 なお、食品産業センター技術研究報告書No.27, 2001, 21-26頁には、エラスターゼ活性を持つ酵素処理によって製造した水溶性エラスチン(分子量は不明)を、高脂肪食負荷ラット及び健常者に投与したところ、血中の総コレステロール、中性脂肪等が低下し、血中脂質代謝異常が改善されたことが報告されている。しかし、この報告で用いた水溶性エラスチンは、これまで高純度と評価されている水溶性エラスチンとはアミノ酸組成がかなり異なっている(プロリン、グリシン、アラニン、バリンが68%に過ぎない)ばかりでなく、エラスチンに特有のアミノ酸であるデスモシン及びイソデスモシンも検出されていないことから、極度に低純度のもの、あるいはエラスチンとは異なるものではないかと推定される。 本発明の低分子量水溶性エラスチンは、後述のごとく、コレステロールの上昇抑制、中性脂肪の上昇抑制、LDL−コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇抑制、HDL−コレステロール(善玉コレステロール)の低下抑制、過酸化脂質の上昇抑制などの血中脂質代謝異常の改善作用、及び血管内腔表面の硬化病変抑制作用や、血管弾性機能の低下抑制作用を持つことが証明できたので、動脈硬化予防・抑制万能対応型機能性食品として開発されることが期待できる。 また、本発明の低分子量水溶性エラスチンは、後述のごとく、コレステロールの上昇抑制、中性脂肪の上昇抑制、LDL−コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇抑制、HDL−コレステロール(善玉コレステロール)の低下抑制、過酸化脂質の上昇抑制、酸化LDLの上昇抑制などの血中脂質代謝異常の改善作用、血栓形成の抑制作用、及び血管内腔表面の硬化病変(硬化プラーク)抑制作用や血管弾性機能の低下抑制作用等の生理作用を有する。従って、本発明の低分子量水溶性エラスチンは、それを有効成分とする色々な治療又は予防用医薬、例えば、動脈硬化抑制剤、脂質代謝異常改善剤、血栓形成抑制剤等の医薬としても開発が期待できる。 本発明の低分子量水溶性エラスチンを食品又は医薬として用いる場合には、それを有効成分として含むものであれば良く、生体に有用な金属、例えば、マグネシウム、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウム、亜鉛などのアルカリ土類金属や遷移金属を併用しても良い。用いる金属によっては、相乗的に効果が得られる。 本発明において機能性食品は、その形態は特に限定されるものではなく、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンをそのまま飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。また、食品とは、健康食品、健康補助食品、特定保健用食品等を広く含む意味で用いられる。そして、本発明の機能性食品は、血中脂質代謝異常の改善や血管内腔表面の硬化抑制効果、血管弾性機能の低下抑制効果が期待できるので、動脈硬化予防・抑制万能対応型の機能性食品として提供することができる。 本発明において医薬は、有効成分である分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンと、薬学上許容される添加物とを混合することにより製造できる。本発明の医薬は、経口投与または非経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤や点滴剤が挙げられる。これらの製剤は、製剤分野で通常行われている手段・方法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。 本発明の機能性食品の摂取量は、成人1人1日当たり、エラスチン換算で30〜6,000mg、好ましくは60〜3,000mgが適当である。また、医薬として投与する場合は、被投与者の年齢、体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存するが、例えば、本発明の有効成分を医薬として経口投与する場合は、成人1人当たり0.5〜100mg/kg体重、好ましくは1〜50mg/kg体重である。[水溶性エラスチンの製造] 動物性生体組織として牛の項靱帯を用い、付着している脂肪や筋肉などエラスチン含量の低い部分を刃物などを用いて削ぎ落とし、動物性生体組織をホモジナイザーを用いてホモジナイズした。ホモジナイズした動物性生体組織を、沸騰水中で1時間、脱脂のための煮沸を行い、その後水切りした。なお、この脱脂工程は複数回行っても良く、また脱脂効率を良くするためには、希薄アルカリ溶液処理あるいは有機溶媒処理を行っても良い。 容器にホモジナイズして脱脂した動物性生体組織を入れ、その動物性生体組織の重量に対して10倍容量(重量1g当たり10mL)の1M塩化ナトリウム水溶液を加えて浸漬し、4℃で24時間攪拌した。そして、動物性生体組織と塩溶液とを分離し、分離した塩溶液を、ビューレット法にて総タンパク質の定量を行い、塩溶液中に含まれる総タンパク質量が0.1mg/mL以下であれば、不要タンパク質は除かれたと判断した。不要タンパク質が除かれていない場合はこの操作を複数回行えば良い。なお、この不要なタンパク質を除去するための浸漬処理は、必ずしも必要ではなく、また、必要によっては複数回行っても良い。 浸漬処理を経た動物性生体組織を10倍容量の0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液に入れ、100℃で15分間攪拌し、コラーゲン除去処理を行った。次いで、動物性生体組織とアルカリ性溶液とを分離し、純粋な不溶性エラスチンを得た。なお、分離したアルカリ性溶液を、例えば、ビューレット法にて総タンパク質の定量を行い、アルカリ性溶液中に含まれる総タンパク質量が0.1mg/mL以下であれば、コラーゲンは除かれたと判断した。コラーゲンが除かれていない場合は、この操作を複数回行なえば良い。 次に、不溶性エラスチンの重量に対して10倍容量の0.25Mのシュウ酸(可溶化液)を加え、100℃で60分間攪拌することで不溶性エラスチンを断片化し、可溶化液に水溶性エラスチンを遊離・溶解させた。その後、不溶性エラスチンと可溶化液とを分離し、分離した可溶化液を25℃以下に冷却した。かかる操作によって、可溶化液の反応性を低下させ、可溶化液中に遊離して溶解した水溶性エラスチンの細断化を防ぐことができる。不溶性エラスチンが残存している場合には、この操作を繰り返すことによって、不溶性エラスチンの可溶化を行うことができる。[高分子量エラスチンと低分子量エラスチンの製造] 次に、水溶性エラスチンが溶解している可溶化液のpHを6〜7に調整して、4〜10℃で96時間(24時間ごとに透析膜外の水を入れ替えて)以上水に対して透析を行い、水溶性エラスチンの精製を行った。その後、透析した水溶性エラスチンは、水溶液の温度を30〜50℃とすることによって、相分離を行い、2層に分離した。上層画分からは低分子量(分子量約1〜3万)水溶性エラスチンを回収し、下層画分からは高分子量(分子量約3〜30万)水溶性エラスチンを回収した。水溶液の温度を30〜40℃に設定すれば、低分子量水溶性エラスチンの回収率を高めることができ、水溶液の温度を40〜50℃に設定すれば、高分子量水溶性エラスチンの回収率を高めることができる。また、水溶性エラスチンの等電点付近のpHであるpH3〜pH7、望ましくは、pH4〜pH6に調整して行えば、高分子量の水溶性エラスチンの回収率を高めることができる。かかる相分離の操作で、水溶性エラスチンを基準として、低分子量画分が20〜50%、高分子量画分が10〜30%回収できる。そして、牛の項靱帯を基準にすると、低分子量水溶性エラスチンの収率は2〜4%で、高分子量水溶性エラスチンの収率は1〜2%である。 相分離後の上層画分と下層画分は非還元条件下でSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を行い、泳動後のゲルを染色して、その染色バンドから、上層画分は分子量約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンであることが確認され、下層画分は分子量約3〜30万の高分子量水溶性エラスチンであることが確認された。 低分子量水溶性エラスチンと高分子量水溶性エラスチンのアミノ酸組成は、表1に示した通りであった。表1のアミノ酸組成は、総アミノ酸数を1,000としたときのアミノ酸組成を示す。また、低分子量とは、分子量約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを、高分子量とは、分子量約3〜30万の高分子量水溶性エラスチンを示す。なお、ヒスチジンの含量は、本発明では、アミノ酸1,000残基当たり0.4〜0.5程度であるが、表1では四捨五入により0とされている。[水溶性エラスチンの製造] 前処理工程として、動物性生体組織は牛の項靱帯を用い、付着している脂肪や筋肉などエラスチン含量の低い部分を、刃物などを用いて削ぎ落とすことで不要部分の除去処理を行い、次いで、動物性生体組織をホモジナイザーを用いてホモジナイズすることで細断処理を行った。ホモジナイズした動物性生体組織を、沸騰水中で1時間、脱脂のための煮沸を行い、その後水切りした。なお脱脂が不十分である場合は、この脱脂工程は複数回行ってもよく、また脱脂効率を良くするために希薄アルカリ溶液処理あるいは有機溶媒処理を行ってもよい。次のアルカリ抽出工程でコラーゲンや不要タンパク質の除去と共に脂肪も除去されるなら、ここでの脱脂処理は省略してもよい。 ホモジナイズして脱脂した動物性生体組織の重量に対して10倍容量(重量1g当たり10mL)の0.1M水酸化ナトリウム水溶液を加え、100℃で15分間攪拌し、エラスチン以外のコラーゲンや不要タンパク質を抽出し、除去する工程(アルカリ抽出工程)を行った。そして、動物性生体組織残渣とアルカリ性溶液とを分離した。分離したアルカリ性溶液を、例えば、ビューレット法にて総タンパク質の定量を行い、アルカリ性溶液中に含まれる総タンパク質量が0.1mg/mL以下であれば、コラーゲン及び不要タンパク質は除かれたと判断した。コラーゲン及び不要タンパク質が除かれていない場合はこの操作を複数回行えば良い。 次いで、上記で得られた動物性生体組織残渣を組織重量に対して10倍容量の0.1M水酸化ナトリウム水溶液(可溶化液)を加え、100℃で60分間アルカリ溶解工程を行った。その後、動物性生体組織残渣とアルカリ性溶液との分離操作を行い、分離した水溶性エラスチンを含むアルカリ性溶液を25℃以下に冷却した。この際、動物性生体組織が残存している場合には、このアルカリ溶解工程は複数回行っても良い。[高分子量エラスチンと低分子量エラスチンの製造] 次に、水溶性エラスチンを含むアルカリ性溶液を、中性付近のpH6〜7に調整し、4〜10℃の温度で96時間(24時間ごとに透析膜外の水を入れ替えて)以上水に対して透析した。その後、透析して得られた液は、水溶液の温度を30〜50℃とすることによって、相分離を行い、2層に分離した。上層画分からは低分子量(分子量1〜3万)水溶性エラスチンを回収し、下層画分からは高分子量(分子量3〜30万)水溶性エラスチンを回収した(水溶性エラスチン回収工程)。水溶液の温度を30〜40℃に設定すれば、低分子量水溶性エラスチンの回収率を高めることができ、水溶液の温度を40〜50℃に設定すれば、高分子量水溶性エラスチンの回収率を高めることができる。また、水溶性エラスチンの等電点付近のpHであるpH3〜pH7、望ましくは、pH4〜pH6に調整して行えば、高分子量の水溶性エラスチンの回収率を高めることができる。かかる相分離の操作で、水溶性エラスチンを基準にして、低分子量画分が50〜70%、高分子量画分が20〜30%回収できる。これは、牛の項靱帯を基準にすると、低分子量水溶性エラスチンの収率は4〜12%で、高分子量水溶性エラスチンの収率は2〜5%である。得られた水溶性エラスチンを、再生医療用の組織培養基材として利用する場合は、組織培養は約37℃で行うことが多いため、37℃以下でコアセルベーションを起こす高分子量水溶性エラスチンを効率良く回収することが望ましい。 相分離後の上層画分と下層画分は非還元条件下でSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を行い、泳動後のゲルを染色して、その染色バンドから、上層画分は分子量約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンであることが確認され、下層画分は分子量約3〜30万の高分子量水溶性エラスチンであることが確認された。 低分子量水溶性エラスチンと高分子量水溶性エラスチンのアミノ酸組成は、表2に示した通りであった。表2のアミノ酸組成は、総アミノ酸数を1,000としたときのアミノ酸組成を示す。また、低分子量とは、分子量約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを、高分子量とは、分子量約3〜30万の高分子量水溶性エラスチンを示す。なお、ヒスチジンの含量は、本発明では、アミノ酸1,000残基当たり0.4〜0.5程度であるが、表2では四捨五入により0とされている。[比較例] 特開昭60−258107の製造例に記載された方法に従って水溶性エラスチンを製造した。即ち、牛項靭帯を塩化ナトリウム処理、トリクロロ酢酸処理、次いで120℃の熱水処理し精製エラスチンを得た。これに乳酸溶液を加え加圧滅菌し、冷却後、蛋白分解酵素のペプシンで分解して、平均分子量が約50,000の水溶性エラスチンを製造した。 得られた水溶性エラスチンのアミノ酸組成は、プロリン、グリシン、アラニン、バリンの合計が77%、アスパラギン酸とグルタミン酸の合計が3.4%、リジン、ヒスチジン、アルギニンの合計が1.5%であり、いずれも本発明の水溶性エラスチンの組成とは異なっていた。特に、ヒドロキシプロリンが15%と、本発明の実施例1又は2のものが7%だったのに対し非常に多いことは、比較例の水溶性エラスチンは、コラーゲンが混入していることを推定させる。 また、比較例で得られた水溶性エラスチンの濁度測定(コアセルベーション)を行ったところ、濁度開始温度が、実施例1又は2のものよりも約10℃高かった。このことは、比較例のものは、分子量が低いこと及び純度が低いことを示唆しているもと思われる。また、水溶性エラスチンとしての収率も、実施例2のものが、脱脂組織を基準として11%であったのに対し、比較例のものは3%に過ぎなかった。 本実施例では、実施例1及び2で得られた低分子量水溶性エラスチンの生理作用について説明する。[血中脂質代謝異常の改善作用] 0.5%コレステロールを負荷して実験的に動脈硬化モデル家兎を作成し、これに低分子量水溶性エラスチンを経口投与して、動脈硬化抑制効果と血中脂質代謝異常の改善効果を検証した。ニュージーランドホワイト雄性家兎(体重約2kg)12羽を、4羽ずつコントロール群、コレステロール群、コレステロール群+エラスチン併用群の3群に分け、コントロール群には普通食(ORC4:オリエンタル酵母社製)を90g/日与え、コレステロール群にはコレステロール食(ORC4+0.5%コレステロール)を90g/日与え、コレステロール群+エラスチン併用群にはコレステロール+エラスチン併用食(ORC4+0.5%コレステロール+0.1〜0.5%エラスチン)を90g/日与えた。所定期間後に採血し各種の検査を行った。エラスチンは本発明の低分子量水溶性エラスチンを用いた。 血清中の総コレステロールの変化を図3に、LDL−コレステロールの変化を図4に、HDL−コレステロールの変化を図5に、トリグリセレドの変化を図6に、過酸化脂質の変化を図7に示した。これらの結果から、コレステロール群で認められる血中脂質代謝異常は、コレステロール群+エラスチン併用群では改善されていることが分かる。即ち、本発明の低分子量水溶性エラスチンは、血中の総コレステロールを減少させる効果があるが、その内容をみると、いわゆる悪玉のLDL−コレステロールは減少させる一方、いわゆる善玉のHDL−コレステロールは増加させていることが分かる。また、トリグリセリドや過酸化脂質も減少させる効果があることが分かる。 この結果、本発明の低分子量水溶性エラスチンは、血中脂質代謝異常の改善作用、ひいては、動脈硬化抑制作用のある機能性食品素材として、また血中脂質代謝異常の改善、ひいては、動脈硬化抑制作用のある医薬としての可能性があることが分かる。[動脈硬化あるいは血管弾性機能低下の改善] 実験に用いた家兎の大動脈の近位部(心臓側)を5mmの幅で切断し、その試験片の両端を挟んで一定速度V=0.01mm/sで伸展させ、ひずみ0から0.1の範囲での平均の縦弾性係数を求め、それをElastic Modulusとして、普通食を投与したコントロール群、コレステロール食を投与したコレステロール群、コレステロール食と同時に水溶性エラスチンを投与したコレステロール+エラスチン併用群で比較検討した。その結果は図8に示した通りであり、水溶性エラスチンの投与により血管の弾性機能の低下が回復していることが分かる。[アテローム性プラークの血管病変の抑制作用] 図9には、血管の血流側の内膜表面の写真を示した。コレステロール食を投与したコレステロール群ではアテローム性プラーク(血管内膜が肥厚し脂質(コレステロールなど)が沈着して粥状物を生じ、線維性の被膜で内膜表面が覆われた隆起状態。この状態が進行すると増々大きな隆起状態になって血液の流れが妨げられるようになり、冠動脈などの非常に細い血管では血管の閉塞がみられ、心筋梗塞を発症する)が内膜表面全体(隆起して白くみえる)に認められる。コレステロール食と同時に水溶性エラスチンを投与したコレステロール+エラスチン併用群ではアテローム性プラークが内膜表面にまばらにわずかに認められる。即ち、水溶性エラスチンを投与するとアテローム性プラーク等の血管病変が抑制されることがこの3枚の写真から分かる。[血栓形成抑制作用] 血中では血小板が凝集すると血栓が形成される。そこで試験管内で、水溶性エラスチンによる血小板凝集阻害実験を行った。低分子量水溶性エラスチンはADP(アデノシン-5´-ニリン酸)、トロンビン、コラーゲンによる血小板凝集を阻害したが、なかでもコラーゲンによる血小板凝集を最も強く阻害した。結果は図10に示した。[血液の粘性] 血液中でコレステロール等の脂質濃度が高くなったり、血小板が粘着・凝集したりすると、血液粘性が増し、ドロドロになるので、血液中の粘性(Viscosity)を測定した。結果は図11に示した。コレステロールの投与で上昇する血液粘性が水溶性エラスチン投与により改善していることが分かる。 本発明によると、低分子量で純度の高い水溶性エラスチンと、高分子量で純度の高い水溶性エラスチンが得られる。そして、本発明の低分子量の水溶性エラスチンは、消化吸収性が高いので、機能性食品や各種医薬品として利用できる。また、高分子量のエラスチンは、再生医療のための組織工学用足場への応用や、高分子量水溶性エラスチンのコアセルベートは60〜70%の水分を含むので、保湿性のための化粧品基材への応用が考えられる。 動物性生体組織から得られた不溶性エラスチンを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液に溶解して得られるエラスチン溶解可溶化液から精製されたエラスチンであって、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチン。 動物性生体組織から水溶性エラスチンを製造する方法において、(1)動物性生体組織をコラーゲン除去処理することによって不溶性エラスチンを得る工程、(2)該不溶性エラスチンを可溶化液に溶解しエラスチン溶解可溶化液を得る工程、(3)該エラスチン溶解可溶化液を30〜50℃に調節することによって2層に分離させ、上層から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層から高分子量水溶性エラスチンを回収する工程からなる水溶性エラスチンの製造方法。 コラーゲン除去処理が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol含有するアルカリ性溶液中に、動物性生体組織を90〜105℃で10〜20分間浸漬して行う処理である請求項2記載の水溶性エラスチンの製造方法。 コラーゲン除去処理前に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上の塩を、溶液1L当たり0.1〜2mol含有する塩溶液中に、動物性生体組織を2〜10℃で12〜48時間浸漬する浸漬処理を行うことからなる請求項2又は3記載の水溶性エラスチンの製造方法。 可溶化液が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol含み、且つ、液温が90〜105℃のアルカリ性溶液である請求項2〜4のいずれか1項記載の水溶性エラスチンの製造方法。 動物性生体組織から水溶性エラスチンを製造する方法において、(1)動物性生体組織を前処理する工程、(2)前処理された動物性生体組織を、アルカリ性溶液中に浸漬し、動物性生体組織から抽出されるコラーゲンやその他の不要タンパク質を含む溶液を除去するアルカリ抽出工程、(3)前記(2)の操作を繰り返した後に、動物性生体組織残渣を溶解することにより、遊離した水溶性エラスチンを含む溶液を回収するアルカリ溶解工程、(4)該アルカリ溶解工程で回収された水溶性エラスチンを含有する溶液を30〜50℃に調節することによって2層に分離させ、上層から低分子量水溶性エラスチンを回収し、下層から高分子量水溶性エラスチンを回収する工程からなる水溶性エラスチンの製造方法。 アルカリ抽出工程が、前処理された動物性生体組織を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol含有するアルカリ性溶液中に、90〜105℃で10〜20分間浸漬することからなる請求項6記載の水溶性エラスチンの製造方法。 アルカリ溶解工程が、アルカリ抽出工程処理された動物性生体組織残渣を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物を、溶液1L当たり0.05〜0.5mol含有するアルカリ性溶液中に、90〜105℃で20〜240分間浸漬することからなる請求項6又は7記載の水溶性エラスチンの製造方法。 前処理工程が、動物性生体組織の不要部分の除去処理、動物性生体組織の細断処理、動物性生体組織の脱脂処理の少なくともいずれか一つを含むものである請求項6〜8のいずれか1項記載の水溶性エラスチンの製造方法。 動物性生体組織から得られた不溶性エラスチンを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液に溶解して得られるエラスチン溶解可溶化液から精製されたエラスチンであって、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを含む機能性食品。 低分子量水溶性エラスチンの他に、生体に有用な金属を含む請求項10記載の機能性食品。 動物性生体組織から得られた不溶性エラスチンを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムからなる群から選ばれた1又は2以上のアルカリ化合物の水溶液に溶解して得られるエラスチン溶解可溶化液から精製されたエラスチンであって、エラスチンを構成するアミノ酸の79〜84%がプロリン、グリシン、アラニン、バリンからなり、2〜3%がアスパラギン酸とグルタミン酸からなり、0.7〜1.3%がリジン、ヒスチジン、アルギニンからなり、0.2〜0.4%がデスモシンとイソデスモシンからなる、分子量が約1〜3万の低分子量水溶性エラスチンを有効成分とする医薬。 低分子量水溶性エラスチンの他に、生体に有用な金属を含む請求項12記載の医薬。 動脈硬化抑制剤である請求項12又は13記載の医薬。 脂質代謝異常改善剤である請求項12又は13記載の医薬。 血栓形成抑制剤である請求項12又は13記載の医薬。


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