生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防のためのクラリスロマイシンまたはその塩
出願番号:2006540062
年次:2008
IPC分類:A61K 31/7048,C07H 17/08,A61P 11/00,A61P 43/00


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高山 喜好 JP 4045301 特許公報(B2) 20071122 2006540062 20060621 肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防のためのクラリスロマイシンまたはその塩 大正製薬株式会社 000002819 高木 千嘉 100091731 結田 純次 100127926 三輪 昭次 100105290 高山 喜好 US 11/165,201 20050624 20080213 A61K 31/7048 20060101AFI20080124BHJP C07H 17/08 20060101ALI20080124BHJP A61P 11/00 20060101ALI20080124BHJP A61P 43/00 20060101ALI20080124BHJP JPA61K31/7048C07H17/08 BA61P11/00A61P43/00 105 A61K 31/00-31/80 A61P 1/00-43/00 C07H 1/00-99/00 BIOSIS(STN) EMBASE(STN) MEDLINE(STN) JMEDPlus(JDream2) JSTPlus(JDream2) 中田 紘一郎,マクロライド療法20年の歩み,第44回日本呼吸器学会学術講演会プログラム,p.80 (2004) 臼杵 二郎,マクロライド療法とは,感染と抗菌薬,8(2),pp.198-203 (2005) 神野 悟,慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫),medicina,32(12),pp.289-293 (1995) 高山 喜好,クラリスロマイシン肺気腫治療への応用の可能性,第46回日本呼吸器学会学術講演会プログラム,p.105 (2006) 4 JP2006312385 20060621 WO2006137423 20061228 7 20061219 荒木 英則 本発明は、肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防のためにクラリスロマイシンまたはその塩を使用することに関する。さらに詳しくは、本発明はそのような治療または予防のためのクラリスロマイシンまたはその塩を有効成分として含有してなる、治療または予防剤、クラリスロマイシンまたはその塩を含有する医薬組成物、クラリスロマイシンまたはその塩を哺乳動物に投与する方法、および医薬品製造におけるクラリスロマイシンまたはその塩の使用等に関する。 肺は気管支より分枝し、次第に細かくなり最終的に肺胞という袋状の構造を形成する。肺胞は、肺胞上皮細胞や血管細胞等と、肺胞壁を構成する細胞外基質(例えば、エラスチンやコラーゲン)から構成されている。肺胞は、体内のガス交換を行う重要な部位である。 肺気腫は、肺胞壁が破壊され、肺胞の微細構造が空洞化する症状である。肺気腫はガス交換効率と肺全体の弾性収縮力を低下させ、最終的に肺機能を低下させる。 肺気腫には、喫煙や大気汚染、有害ガス等により活性化した、あるいは肺中に新たに浸潤してきた炎症細胞(例えば、肺胞マクロファージや好中球)が強く関与していることが知られている(Barnes PJ.ら Nature Reviews/ Drug Discovery, Vol. 1, 437-446 (2002))。マクロファージや好中球は、タバコ煙、あるいは大気汚染の中の有害化合物により、詳細は不明であるが活性化され、炎症を亢進する物質、例えばサイトカイン、プロテアーゼを放出して肺胞壁破壊に関わることが報告されている(Barnes PJ.ら Pharmacol Rev. 2004 Dec;56(4):515-48)。 肺気腫の治療薬として、現在、気流制限を改善する気道拡張薬、例えば抗コリン薬、β2受容体刺激剤などが広く使われているが、それ自身肺胞の破壊を軽減し肺気腫の進行そのものを遅らせるにはいたっていない。また、ステロイド剤に代表される抗炎症剤についても、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪期(感染を伴い、肺機能が低下する症例)での使用は推奨されているけれども、肺気腫そのものに対しては効果を示さないことが報告されている。関連技術として、15員環を有するアジスロマイシンが非感染性炎症性疾患に対して有効性を示すことが報告されている(特表2004-531539号公報;WO2002/087596)。しかしながら、14員環マクロライド化合物は、15員環マクロライド化合物とは抗炎症作用を含めた薬理作用において、相違することも指摘されている(同上)。 本発明は、肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防薬を提供することを目的とする。 本発明者らは鋭意検討を行った結果、クラリスロマイシンが、ヒトの肺気腫を模倣したタバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおいて、炎症反応を低下させ、肺気腫症状を改善することを見出し、肺胞破壊によって生じる肺疾患(特に、肺気腫)の治療または予防薬として有用であることを見出して本発明の完成に至った。 すなわち、本発明によれば、そのような治療または予防を必要とする哺乳動物(主にヒト)に有効量のクラリスロマイシンまたはその塩を投与することからなる、肺胞破壊によって生じる肺疾患を予防または治療する方法が提供される。 また、本発明によれば、クラリスロマイシンまたはその塩の有効量および製剤上許容しうる担体を含有する、肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防のための医薬組成物が提供される。 さらに、本発明によれば、クラリスロマイシンまたはその塩を有効成分として含有してなる、肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防剤が提供される。 くわえて、本発明によれば、哺乳動物での肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防のための医薬品製造における、クラリスロマイシンまたはその塩の使用が提供される。 上記治療・予防方法、および治療・予防医薬組成物等において、肺疾患が肺気腫または肺気腫症状であるとき、クラリスロマイシンまたはその塩の効能が優れている。 さらに、上記治療・予防方法、および治療・予防医薬組成物等において、肺気腫症状が慢性閉塞性肺疾患であるとき、クラリスロマイシンまたはその塩の効能が特に優れている。 また、本発明によれば、哺乳動物においてマクロファージおよび/または好中球の細胞数を減少させるインビボ方法であって、前記細胞数を減少させるに十分な量のクラリスロマイシンまたはその塩を前記哺乳動物に投与することからなる方法も提供される。 本発明によれば、クラリスロマイシンまたはその塩が肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防薬として有用であることが実証された。 本明細書で使用する、「肺胞破壊によって生じる肺疾患」とは、喫煙や大気汚染、有害ガス等、あるいは加齢により肺胞の細胞が壊れることによって引き起こされる肺疾患を指す。特に、顕著なものは肺胞破壊によって、肺胞膜が崩れて隣接する肺胞どうしが合わさっていき、気腔を形成する、「肺気腫(症状)」である。さらに、肺気腫症状では、末梢気道の肺胞が破壊されて気流の閉塞性障害が起こり、この症状は「慢性閉塞性肺疾患」として分類される。これらの肺胞破壊で特徴づけられる症状を呈する疾患を、総称して「肺胞破壊によって生じる肺疾患」と呼ぶ。なお、この肺疾患は、細菌等による感染症を併発している場合もある。 本発明で用いられるクラリスロマイシンは、公知の物質であり、その詳細な説明(製造方法、抗菌活性等)については、例えば特公昭61−52839号に開示されている。したがって、その開示内容はすべて本明細書に組み込まれるものとする。本明細書で使用する、「クラリスロマイシンの塩」とは、医薬用として許容しうるクラリスロマイシンの塩を指す。例えば、酒石酸、クエン酸、ステアリン酸、コハク酸等の有機酸との塩;メタンスルホン酸との塩;アミノエタンスルホン酸との塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸との塩が挙げられる。また、本発明でクラリスロマイシンの代わりに、クラリスロマイシンの医薬用として許容しうる誘導体を使用してもよい。この誘導体は、クラリスロマイシンの基本骨格を有し、誘導体化されたものであり、クラリスロマイシンと同一の薬理作用を示すものを指す。特に有用な誘導体は、クラリスロマイシンのエステル類であって、生体内で加水分解を受け、クラリスロマイシンを遊離するものである。このような誘導体は、プロドラッグとも呼ばれ、特定のエステル類が当業者によく知られている。 クラリスロマイシンを本発明に使用するときは、一般的な医薬製剤として調製される。例えば、クラリスロマイシンまたはその塩を製剤上許容しうる担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、矯味剤、乳化剤、希釈剤、溶解補助剤など)と混合して医薬組成物とする。この医薬組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、座剤、吸入剤、経皮吸収剤などの製剤として経口または非経口に適した形態で哺乳動物に投与される。 これら製剤を製造するには溶剤、可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定化剤などを添加することができる。 溶剤としては、例えば水、生理食塩水などが、可溶化剤としては、例えばエタノール、ポリソルベート類、クレモルファ等が、賦形剤としては、例えば乳糖、デンプン、結晶セルロース、マンニトール、マルトース、リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム等が、結合剤としては、例えばデンプン、ポリビニルピロリド、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム等が、崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油等が、安定化剤としては、例えば乳糖、マンニトール、マルトース、ポリソルベート類、マクロゴール類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。 また、必要に応じて、グリセリン、ジメチルアセトアミド、70%乳酸ナトリウム、界面活性剤、塩基性物質(例えば、水酸化ナトリウム、エチレンジアミン、エタノールアミン、炭酸ナトリウム、アルギニン、メグルミン、トリスアミノメタン)を製剤に添加してもよい。 本明細書で使用する、「有効量」とは、クラリスロマイシンまたはその塩を好ましくは医薬組成物として、治療または予防を必要とする哺乳動物に投与するとき、所望の薬理効果をもたらす十分な量または組成物量を指す。治療用としてクラリスロマイシンまたはその塩を使用する場合、所望の薬理効果とは既往症状を示す哺乳動物において治癒またはその症状を軽減できることを意味する。予防用としてクラリスロマイシンまたはその塩等を使用する場合、所望の薬理効果とは哺乳動物において発症を抑制することを意味する。この場合、発症が疑われるか、または発症のリスクの高い哺乳動物に対して発症前に予防的に投与する。 クラリスロマイシンまたはその塩の投与量は、動物実験の結果および種々の状況を勘案して、単回および反復投与したときに総投与量が一定量を超えないように定められる。具体的な投与量は、投与方法、患者または被処置動物の状況、例えば10mg−1000mgの範囲内で、年齢、体重、性別、感受性、食事(食餌)、投与時間、併用する薬剤、またはその症状の程度に応じて変化することはいうまでもなく、一定の条件のもとにおける適量と投与回数は、上記指針をもととして専門医の適量決定試験によって決定されなければならない。 以下に、製剤例、試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。製剤例1クラリスロマイシン 50mg乳糖 40mgコーンスターチ 49.75mg結晶セルロース 17mgカルメロースカルシウム 17mgヒドロキシプロピルセルロース 5.25mgステアリン酸マグネシウム 1mg合計 180mg クラリスロマイシン、乳糖、コーンスターチ、結晶セルロース、カルメロースカルシウムを均一に混合し、これに10%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を添加し、混練後、乾燥し、その顆粒を30M篩で篩過し、均一の顆粒として、ステアリン酸マグネシウムを添加し、打錠して錠剤とした。 次に、クラリスロマイシンの薬理作用(肺気腫症状の改善)を試験例により説明する。 試験例1:タバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおける薬理効果 ヒトの肺気腫を模倣したタバコ煙誘発肺気腫モデルマウスは、Hautamaki, R.D.ら,Science 1997, 277:2002-2004、またはShapiro, S.D.ら,Am. J. Pathol (2003) 163:2329-2335に記載の方法に従い作製した。すなわち、C57black/6メスマウス12週令を毎日2本研究用タバコ煙に6日間、6ヶ月間暴露させた。 クラリスロマイシンは25、50、100mg/体重kgの割合で、一日朝晩2回経口にてタバコ煙暴露期間中投与した。50mg/kgをマウスに単回投与した際の血漿中濃度推移AUC0〜∞は2.677μg.hr/mlであり、健常人にクラリスロマイシン200mgを単回投与した際の血漿中濃度推移AUC0〜∞の8.98μg.hr/mlよりも充分低い濃度であり臨床使用上妥当な濃度であった。 肺気腫症状の改善の指標としては、Hautamaki, R.D.ら(上掲)またはShapiro, S.D.ら(上掲)の文献に記載の方法に従った。 モデルマウスのヘマトキシン−エオシン病理標本を作製し、顕微鏡下で無作為に選ばれた10視野の肺胞平均サイズを測定した。肺胞平均サイズが増大することが肺胞破壊すなわち肺気腫状態の指標となる。 表1に、クラリスロマイシンのタバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおける肺気腫改善度を示す。6ヶ月の喫煙(タバコ煙暴露)により肺気腫率が、非喫煙(対照)群と比較して20%増加した。この肺気腫がクラリスロマイシン25mg/kg投与群では47%、50mg/kg投与群で最大85%まで改善された。この結果は、クラリスロマイシンが肺気腫(肺気腫症状)に対して有効であることを示す。 さらに、タバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおける炎症状態の指標として、6ヶ月暴露後の肺胞洗浄液中の炎症細胞(マクロファージ、好中球)の細胞数を測定した。その結果を図1Aおよび図1Bに示す。 肺気腫進行に伴い、マクロファージおよび好中球の細胞数は増加した。これらの細胞からは肺気腫にかかわるプロテアーゼが産生される。この細胞の増加がさらに肺気腫を増悪化する。クラリスロマイシン投与により用量依存的にマクロファージ、好中球の細胞数が減少した。この結果は、クラリスロマイシンが肺気腫に伴う炎症反応を抑制し、肺胞破壊の進行を抑制するのに有効であることを示す。 また肺気腫進行に伴い、肺機能が悪化することが報告されている。タバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおいて、肺機能の指標である肺コンプライアンスが増加することも知られている。そこで、タバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおける6ヶ月暴露後の肺コンプライアンスを測定した。その結果を図2に示す。 肺気腫進行に伴い、タバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおいて、肺機能の指標である肺コンプライアンスが増大していたが、クラリスロマイシン投与により肺コンプライアンスが回復した。この結果は、上記の肺気腫率の改善、炎症細胞数の低下とも一致し、クラリスロマイシンの投与は、肺気腫(肺気腫症状)の治療に有用であることを示す。 本発明によれば、クラリスロマイシンまたはその塩が肺胞破壊によって生じる肺疾患の治療または予防薬として有用である。図1A及び図1Bはタバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおける、6ヶ月暴露後の肺洗浄液中の炎症細胞(マクロファージ、好中球)の数を表す。図1Aは、マクロファージの細胞数を表し、図1Bは、好中球の細胞数を表す。図2はタバコ煙誘発肺気腫モデルマウスにおいて、6ヶ月暴露後の肺コンプライアンスを測定した結果を示す。 クラリスロマイシンまたはその塩の有効量および製剤上許容しうる担体を含有する、肺胞破壊によって生じる肺疾患の進行抑制のための医薬組成物。 肺疾患が肺気腫または肺気腫症状であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。 クラリスロマイシンまたはその塩を有効成分として含有してなる、肺胞破壊によって生じる肺疾患の進行抑制剤。 哺乳動物での肺胞破壊によって生じる肺疾患の進行抑制のための医薬品製造における、クラリスロマイシンまたはその塩の使用。


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