生命科学関連特許情報

タイトル:公表特許公報(A)_骨格筋由来細胞およびそれに関する方法
出願番号:2006539963
年次:2008
IPC分類:C12N 5/06,A61L 27/00


特許情報キャッシュ

イーガー, ピーター シー. スチュワート, ジェフリー ディー. ウェントワース, ブルース エム. JP 2008502310 公表特許公報(A) 20080131 2006539963 20041115 骨格筋由来細胞およびそれに関する方法 ジェンザイム・コーポレーション 500579888 山本 秀策 100078282 安村 高明 100062409 森下 夏樹 100113413 イーガー, ピーター シー. スチュワート, ジェフリー ディー. ウェントワース, ブルース エム. US 60/520,762 20031117 C12N 5/06 20060101AFI20080104BHJP A61L 27/00 20060101ALI20080104BHJP JPC12N5/00 EA61L27/00 ZA61L27/00 U AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LU,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW US2004038059 20041115 WO2005049810 20050602 49 20060619 4B065 4C081 4B065AA93X 4B065AC20 4B065BB40 4B065CA44 4C081AB11 4C081AB17 4C081BA12 4C081CD34 4C081EA11 本出願は、米国出願番号第60/502,762号(2003年11月17日出願)に対する優先権を主張し、米国出願番号第60/502,762号は、本明細書においてその全体が参考として援用される。 (発明の分野) 本発明は、骨格筋由来細胞、および特に損傷した心臓組織への移植を意図する細胞を増殖させる方法に関連する。本発明はさらに、TGF−βを含む細胞培養培地組成物に関連する。 (発明の背景) ほとんどが心筋の機能不全のためである心不全は、医学的および外科的進歩にも関わらず、よくある、そして生命を脅かす状態である。心筋梗塞によって起こる心機能の悪化を軽減するための、自己由来ヒト骨格筋細胞(HuSkMC)の治療的適用が、いくつかの前臨床および臨床研究において有望であった(例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12を参照のこと)。これらの研究において、骨格筋生検から得られた骨格筋細胞(SkMC)を、インビトロで増殖させ、そして続いて損傷した心臓組織に注入する。より多い数の注入されたSkMC(7×105から7×106細胞)および改善した心機能の間の相関が、ラット梗塞モデルにおいて確立された(非特許文献13)。ラットおよびヒト心臓の相対的重量に基づいて、109程度の数のHuSkMCが、ヒト患者における治療的有効性のために必要であり得る。このために、生検から入手可能な細胞の数は一般的に限られているので、HuSkMCを、いくつかの継代の間増殖させる必要があり得る。難題は、多数の細胞を一貫して産生することだけでなく、培養中の細胞のアイデンティティーおよび分化状態を信頼性高く特徴づけすることでもある。 骨格筋は衛星細胞を含み、それは成熟筋線維の基底膜および筋線維鞘の間に存在する、休止した筋芽細胞前駆体である(非特許文献14)。成長している、または損傷した筋肉において、衛星細胞は活性化されて増殖する筋芽細胞となり、それは最終的に成熟筋線維へと分化をうける(非特許文献15)。細胞培養において、衛星細胞の活性化およびその筋芽細胞としての増殖を、骨格筋における細胞の酵素的解離およびマイトジェンリッチな培地における培養によって達成し得る(非特許文献14、前出)。 非筋芽細胞系統の細胞、主に線維芽細胞も、酵素的解離時の筋肉組織から放出される。線維芽細胞は、筋芽細胞と同時増殖し、そして潜在的に培養の優位を占め得る。筋芽細胞の成熟筋細胞への分化は、その増殖の中止を伴い(非特許文献16)、それが今度は連続的に増殖させたHuSkMC培養物において線維芽細胞の過剰増殖を可能にする。データは、損傷した心臓組織への移植後に心収縮に寄与するのは骨格筋由来培養物の筋芽細胞であることを示唆するので(例えば、非特許文献17を参照のこと)、HuSkMCの増殖における1つの目標は、線維芽細胞の存在を最小限にすることである。 筋芽細胞の分化は、典型的には培地中の血清および他のマイトジェンの抑制によって誘導される(非特許文献14、前出)が、マイトジェンリッチな培養においてさえも、特に高い細胞密度において、自然発生的な分化がいくらか起こる。従って、HuSkMCの増殖における別の目的は、筋芽細胞を増殖状態に維持しながら分化を抑制することである。 正常および形質転換した組織において見出される増殖因子である、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)は、研究下にある生物学的システムに依存して、筋芽細胞の分化を抑制または誘導することが報告されている。例えば、TGF−βは、多くのシステムにおいて、主に確立されたクローン細胞系統または胚由来の筋芽細胞に対して行われた研究において、筋芽細胞の分化を抑制することが報告された(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;および非特許文献22)。これらの発見と対照的に、他の研究者は、低い細胞密度の条件下で(非特許文献23)、血清を含まない培地において(非特許文献24)、およびL6E9筋芽細胞系統を培養するために使用したマイトジェンリッチな培地において(非特許文献25)、TGF−βは筋芽細胞の分化を刺激することを報告した。 TGF−βの3つの哺乳動物アイソフォーム(TGF−β1、−β2、および−β3)は、一般的にインビトロにおいて細胞に対して同様の効果を有するが、インビボにおいては区別できる生物学的役割を有しているようである(非特許文献26)。発達している、および再生している筋肉におけるTGF−βアイソフォームの時間的および空間的分布は、他の証拠と共に、インビボにおいて筋芽細胞の融合を媒介することによる、筋芽細胞分化におけるTGF−β2を意味づける(非特許文献26、前出)。Atkinsら「Heart Lung Transplant.」、1999年、第18巻:1173−1180Hutchesonら「Cell Transplant.」、2000年、第9巻:359−368Pouzetら「Circulation」、2001年、第102巻:210−215Scorsinら「J.Thorac.Cardiovasc.」、2000年、第119巻:1169−1175Jainら「Circulation」、2001年、第103巻:1920−1927Ghostineら「Circulation」、2002年、第106巻(補遺):I−131−I−136Thompsonら「Circulation」、2003年、第108巻(補遺):II−264−II−271Menascheら「Lancet」、2001年、第357巻:279−280Menasche「Cardiovasc.Res.」、2003年、第58巻:351−357Menascheら「J.Am.Coll.Cardiol.」、2003年、第41巻:1078−1083Hagegeら「Lancet」、2003年、第361巻:491−492Paganiら「J.Am.Coll.Cardiol.」、2003年、第41巻:879−888Pouzetら「Circulation」、2001年、第104巻:1223−1228Allenら「Meth.Cell Biol.」、1997年、第52巻:155−176Campion「Int.Rev.Cytol.」、1984年、第87巻:225−251Nadal−Ginardら「Cell」、1978年、第15巻:855−864Pouzetら「Circulation」、2001年、第102巻:210−215Floriniら「J.Biol.Chem.」、1986年、第261巻:16509−16513Massagueら「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、1986年、第83巻:8206−8210Rousseら「J.Biol.Chem.」、2001年、第276巻:46961−46967Liuら「Genes Dev.」、2001年、第15巻:2950−2966Olsonら「J.Biol.Chem.」、1986年、第103巻:1799−1805De Angelisら「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、1998年、第95巻:12358−12363Schofieldら「Exp.Cell Res.」、1990年、第191巻:144−148Zentellaら「Proc.Natl.Acad.Sci.USA」、1992年、第89巻:5176−5180McLennanら「Int.J.Dev.Biol.」、2002年、第46巻:559−567 従って、当該分野において、筋芽細胞の分化におけるTGF−βの役割をより理解する、およびHuSkMCを増殖させる臨床的に適当な方法を開発する必要性が存在する。 (発明の要旨) 本発明は、骨格筋細胞(SkMC)培養物の増殖中に、筋芽細胞の増殖を維持しながら、筋芽細胞の筋細胞への分化を可逆的に抑制する方法を提供する。 本発明はさらに、SkMC培養物において、構成的な細胞のアイデンティティーおよび/または細胞の分化状態を決定する方法を提供する。 本発明はまたさらに、抑制されたレベルの筋細胞分化マーカーを発現する、分化コンピテントな筋芽細胞でSkMC培養物を濃縮する方法を提供する。本発明は、そのような濃縮SkMC培養物およびこれら培養物を利用する治療方法を提供する。 本発明のさらなる局面および利点を、以下の説明において部分的に述べ、そして部分的に説明から理解する、または本発明の実施によって学び得る。 (発明の詳細な説明) 本発明をより容易に理解し得るために、特定の用語を最初に定義する。さらなる定義を、詳細な説明中で述べる。 「CD56陽性」という用語は、細胞を説明するために使用された場合、検出可能なレベルのCD56を発現している細胞を指す。同様に、「デスミン陽性」という用語は、検出可能なレベルのデスミンを発現している細胞を指す。当該分野において公知の方法を用いて、および/または実施例で記載されるように、発現をタンパク質またはRNAレベルで検出し得る。 「マイトジェンリッチな培地」という用語は、少なくとも5%の血清または様々な血清の組み合わせを含む培地を指す。 「TGF−β」という用語は、他に特に示されなければ、TGF−βのいずれか1つの、またはそれ以上のアイソフォームを指す。現在、5つの公知のTGF−βのアイソフォーム(TGF−β1−β5)が存在し、それらは全て実質的にお互い相同的であり(60−80%の同一性)、ホモダイマーを形成し、そして共通のTGF−β受容体(TβR−I、TβR−II、TβR−IIB、およびTβR−III)に対して作用する。TGF−βは、種間で高度に保存されている。例えば、ブタ、サル、およびヒトの成熟TGF−β1(112アミノ酸)は同一であり、そしてマウスおよびラットTGF−β1は、ヒトからわずかに1アミノ酸異なるだけである。TGF−βの構造的および機能的局面は、当該分野において周知である(例えば、Oppenheimら(編)Cytokine Reference、Academic Press、San Diego、CA、2001、719−746頁を参照のこと)。TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3のみが哺乳動物において見出される。3つのアイソフォームのタンパク質登録番号の部分的なリストを、表1で提供する。 他に示されなければ、述べられるTGF−βの量は、培地に加えられた活性TGF−βの量を指し、そしてその量が血清供給源に依存して異なり得る、血清中に自然に存在するTGF−βを含まない。最も優勢なTGF−βの形式であるTGF−β1の報告された血清濃度は、1から33ng/mlの間で異なる(Kyrtsonisら(1998)Med.Oncol.、15:124−128)。製造会社によると、実施例で利用したDefined Fetal Bovine SerumにおけるTGF−β1の量は、平均21ng/mlである(Wight(2000)Art to Scienece、第19巻(3):1−3)。しかし、様々な血清中に自然に存在するほとんどのTGF−βは、不活性な形式であり、すなわち、増殖因子の成熟形式に非共有結合的に結合したプロペプチドと共にある。 TGF−βは多様な生物活性を示すので、TGF−βの量および/または活性を検出および定量するために、様々なアッセイを使用し得る。TGF−β活性に関する、より頻繁に使用されるインビトロバイオアッセイのいくつかの例は、以下のものを含む: (1)EGF存在下で軟寒天におけるNRK細胞のコロニー形成の誘導(Robertsら(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78:5339−5343); (2)原始的な間葉系の細胞が軟骨の表現形を発現する分化の誘導(Seyedinら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82:2267−2271); (3)Mv1Luミンク肺上皮細胞(Danielpourら(1989)J.Cell.Physiol.、138:79−86)およびBBC−1サル腎臓細胞(Holleyら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:5989−5992)の増殖の阻害; (4)C3H/HeJマウス胸腺細胞の有糸分裂誘発の阻害(Wrannら(1987)EMBO J.、6:1633−1636); (5)ラットL6筋芽細胞の分化の阻害(Floriniら(1986)J.Biol.Chem.、261:16509−16513); (6)フィブロネクチン産生の測定(Wranaら(1992)Cell、71:1003−1014); (7)ルシフェラーゼリポーター遺伝子に融合したプラスミノーゲン活性化因子阻害薬1(PAI−1)プロモーターの誘導(Abeら(1994)Anal.Biochem.、216:276−284);および (8)サンドイッチ型酵素結合免疫吸着検定法(Danielpourら(1989)Growth Factors、2:61−71)。 「初代培養」および「初代細胞」という用語は、そのままの、または解離した組織または臓器断片から得られた細胞を指す。培養物は、それが継代される(または継代培養される)まで初代と判断され、その後は「細胞系統」または「細胞株」と呼ばれる。「細胞系統」という用語は、均質性または培養が特徴付けされた程度を意味しない。細胞系統は、もしそれが培養細胞の集団中の単一細胞から得られたなら、「クローン細胞系統」または「クローン」と呼ばれる。他に示されなければ、「骨格筋細胞(SkMC)」および「SkMC培養物」という用語は、初代および継代された骨格筋細胞の両方を指す。「SkMC」および「SkMC培養物」という用語は、骨格筋から単離された細胞、および精製筋芽細胞を含む(しかしそれに限らない)、それから精製、分離、および/または継代された非クローン細胞を指す。「高密度」という用語は、50,000細胞/cm2または50%コンフルエント(confluence)より高い細胞密度を指す。 「継代」という用語およびその同種のものは、細胞を新しい培養容器に移し、細胞集団を増殖させる、または同型培養を設定する過程を指す。文脈に依存して、「継代」という用語はまた、継代された培養物中の細胞、および/または連続する継代間の期間も指し得る。他に示されなければ、「第1継代」は初代培養を指す;「第2継代」は初代培養から継代された細胞を指す;「第3継代」は第2継代培養物から継代された細胞を指す、等である。 本発明は、部分的には、TGF−β2は、高密度の培養においてさえも、成人HuSkMCの連続的に増殖させた培養物において、筋芽細胞の分化を可逆的に抑制するという発見および実証に基づく。筋芽細胞の分化の抑制は、筋芽細胞分化の確立されたマーカーであるクレアチンキナーゼの発現の抑制によって確認された。これらの結果は、TGF−βを使用して、臨床的に使用するためのHuSkMCの大規模産生の間に、筋芽細胞の分化を抑制し得ることを示す。SkMCの連続的な増殖の間に筋芽細胞の分化を阻害することによって、TGF−βは筋芽細胞集団を増殖性の、分化コンピテントな状態に維持する。SkMCの培養物が高密度になった後でさえも筋芽細胞の分化を抑制するTGF−βの能力は、SkMCの連続的な増殖の間に、より頻繁でない継代、および/またはより小さい組織培養表面領域を可能にする。未分化の細胞は、移植の最初の段階で増強された増殖および運動性を示すと考えられるので、TGF−β中のSkMCの増殖はまた、一旦損傷した心臓組織に注入されたら、筋芽細胞の移植を促進し得る。 よって、本発明の1つの局面は、培養物中でSkMCを増殖させる方法である。ある実施形態において、SkMCは成人哺乳動物から得られた初代または継代細胞、例えばHuSkMCである。本発明の関連する局面は、抑制されたレベルの筋細胞分化マーカーを発現する、分化コンピテントな筋芽細胞でSkMC培養物を濃縮する方法である。その方法は、筋芽細胞の分化を可逆的に抑制するのに有効な量のTGF−βを添加したマイトジェンリッチな細胞培養培地でSkMCを培養することを含む。様々な実施形態において、SkMCはTGF−βを添加した培地で、例えば少なくとも12、24、36、48、72、96、120、144、168時間またはそれ以上、第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、および/または続く継代で培養された、初代または継代細胞である。さらなる実施形態において、1つまたはそれ以上の継代において、継代および/または回収の前に、細胞によって占められる培養表面のパーセンテージによって測定される、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%またはそれより高いコンフルエント以上、または0.1、0.25、0.5、0.75、1、1.25、1.5、1.75、2、2.1、2.3、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75、4、5×105細胞/cm2またはそれ以上の密度以上まで、細胞を増殖させる。説明の実施形態において、細胞を、TGF−βの存在下で、第2継代で1、2、または5日間増殖させる。 様々な実施形態において、TGF−βはTGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3の1つまたはそのあらゆる組み合わせ、またはそのヘテロダイマーである。TGF−β4およびTGF−β5も使用し得る。培地に添加するTGF−βの量は、筋芽細胞の分化を抑制するために有効である。いくつかの実施形態において、有効な量は0.01、0.05、0.1、0.5、1、1.5、2、3、4、5、10、20、または40ng/mlである、または0.01から200、0.01から100、0.01から50、0.01から20、0.2から50、0.2から20、0.2から10、0.2から5、0.2から2、0.5から5、および0.5から2ng/mlの範囲から選択される。説明の実施形態において、培地に1ng/mlのTGF−β2を添加する。 本発明はさらに、部分的には、CD56陽性筋芽細胞によるデスミン発現の抑制は、TGF−βによる筋芽細胞分化の抑制と関連し、一方CD56の発現はTGF−βによって影響されないという発見および実証に基づく。 培養物における骨格筋細胞のクローン増殖および分化は、最初にKonigsberg(1963)Science、140:1273によって報告された。分化の間に、筋芽細胞は有糸分裂後のG0期に入り、そしてプレーティング後48時間以内に筋芽細胞の融合(融合バースト(fusion−burst))が明らかになる。融合バーストの頃に、筋肉特異的遺伝子(例えばクレアチンキナーゼ)の転写がアップレギュレートされる(Patersonら(1972)Cell、17:771;Delvinら(1978)Nature、270:725)。ATPの再産生によって筋肉収縮のためのエネルギーを供給する、クレアチンキナーゼ活性は、筋芽細胞分化の長く確立した定量可能なマーカーであり、筋芽細胞の融合と関連する(Shainbergら(1971)Dev.Biol.、25:1−29)。 中間径フィラメントタンパク質デスミンは、増殖中の骨格筋芽細胞に発現し(Kaufmanら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:9606−9610;Lawson−Smithら(1998)J.Anat.、192:161−171)、そして骨格筋の成熟筋細胞において優勢である(Lazaridesら(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、73:4344−4348)。デスミンのアップレギュレーションは、筋芽細胞分化のシグナルである。対照的に、CD56(NCAMまたは抗原Leu−19とも呼ばれる)は、増殖中の筋芽細胞に構成的に発現する(Illaら(1992)Ann.Neurol.、31:46−52;およびBelles−Islesら(1993)Eur.J.Histochem.、37:375−380)が、成熟筋肉には存在しない(Schubertら(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86:307−311)。あるリンパ球およびニューロンを含む他の細胞もCD56を発現するが、線維芽細胞は発現しない。デスミンおよびCD56はどちらも、骨格筋から培養された細胞における、筋芽細胞の信頼性の高いマーカーと考えられる。 本発明は、部分的には、骨格筋培養物のうちほとんど全ての細胞を、2つの集団:(1)CD56+、デスミン+、TE7−細胞、および(2)CD56−、デスミン−、TE7+細胞が説明するという発見および実証に基づく。これらの2つの集団は、それぞれ筋芽細胞および線維芽細胞である。デスミンおよびCD56は、増殖中の骨格筋芽細胞の2つのマーカーである。TE7は、骨髄(Cattorettiら(1993)Blood、81:225−251)および胸腺組織切片(Haynesら(1984)J.Exp.Med.、159:1149−1168)の線維芽細胞ストローマ細胞に結合するモノクローナル抗体である。TE7抗原は、インビトロにおいて線維芽細胞のマーカーである(Rosendalら(1994)J.Cell Sci.、102:29−37)。 本発明はさらに、部分的には、CD56陽性(CD56+)筋芽細胞によるデスミン発現の抑制は、TGF−βによる筋芽細胞分化の抑制と関連し、一方CD56の発現はTGF−βによって影響をうけないという発見および実証に基づく。一般的に受け入れられた筋芽細胞のマーカーであるデスミンの喪失にも関わらず、TGF−β2は、予測され得たように、別の細胞型への分化転換による筋芽細胞表現型の喪失を引き起こさない(例えば、Katagiriら(1994)J.Cell Biol.、127:1755−1766を参照のこと)。 よって、本発明の別の局面は、SkMC培養物において、筋芽細胞の分化状態を評価する方法である。その方法は、SkMC培養物においてCD56陽性細胞の集団によって発現されるデスミンの量を決定することを含み、ここで閾値レベル以下のデスミンの量は、SkMC培養物における未分化の筋芽細胞の存在を示す。 さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって、TGF−βを添加した培地で増殖させたSkMCを提供する。SkMCを、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウシ、ブタ、サル、およびヒト)および非哺乳動物(例えば鳥類)を含む脊椎動物種の骨格筋から得ることができる。SkMCに関して「成人」という用語は、これらの細胞を胎児性のSkMCと区別するために、出生後の動物(例えばヒト)から得たSkMCに関して使用される。 本発明の組成物は、正常レベルのCD56および抑制されたレベルのデスミンを発現する、分化コンピテントな筋芽細胞で濃縮された培養SkMCを含む。ある実施形態において、CD56陽性筋芽細胞によるデスミン発現は、(a)TGF−βの添加無しに増殖させたコントロール培養物および/または(b)初代細胞と比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。ある実施形態において、TGF−β中で増殖させたCD56陽性筋芽細胞によるデスミン発現は、TGF−βの添加前の同じ培養物におけるCD56陽性細胞と比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。 本発明の組成物はさらに、抑制された量のクレアチンキナーゼを発現する培養SkMCを含む。ある実施形態において、SkMCによるクレアチンキナーゼ発現は、TGF−βの添加無しに増殖させたコントロール培養物と比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。ある実施形態において、TGF−β中で増殖させたSkMCによるクレアチンキナーゼ発現は、TGF−βの添加前の培養物における同じSkMCと比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。発現レベルは、関連する細胞集団の細胞数あたりで言及される。 CD56、デスミンおよびクレアチンキナーゼのレベルを、RNAまたはタンパク質レベルで測定し得る。RNAレベルを、例えば定量的リアルタイムPCR(RT−PCR)、ノーザンブロッティング、または例えばSambrookら(編)Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989において記載されたような、RNAレベルを決定する別の方法によって決定し得る。CD56、デスミン、およびクレアチンキナーゼの発現レベルを、フローサイトメトリー(蛍光標示式細胞分取(FACS))、ウェスタンブロッティング、ELISA、免疫組織化学、酵素活性アッセイ(例えばクレアチンキナーゼアッセイ)または例えばCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら(編)New York:John Wiley and Sons、1988)または実施例において記載されたような、タンパク質レベルを決定する別の方法を用いてタンパク質レベルで測定し得る。 SkMCの単離および培養の方法を含む、細胞の単離および培養方法は、当該分野で公知であり、そして例えばDavis(編)Basic Cell Culture、第2版、Oxford University Press Inc.、New York、2002、244−247頁、または実施例において記載されたように実施し得る。一般的に、必須栄養素、ビタミン、細胞機能を支えるために必要な補助因子を提供する培地中で、細胞を維持する。ほとんどの哺乳動物細胞に関して最適な培養条件は、典型的には7.2−7.5のpH、280−320nOsmol/kgの容量オスモル濃度、2−5%のCO2、および32−37℃の温度を含む。典型的には、骨格筋培養物を、5−20、7−15、または10%の血清を含むマイトジェンリッチな培地中で増殖させる。血清を、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、または他の供給源から得ることができる。血清および血清バッチの選択は、部分的には使用者の経験的な評価に基づく。±20%以内の細胞収量におけるバッチからバッチの変動は、通常十分であると判断される。 当業者はまた、本発明の方法において使用される培地を、様々な公知の培地、例えばイーグルの培地(Eagle(1955)Science、122:501)、ダルベッコの最少必須培地(Dulbeccoら(1959)Virology、8:396)、Hamの培地(Ham(1963)Exp.Cell Res.、29:515)、L−15培地(Leibvitz(1963)Amer.J.Hyg.、78:173)、McCoy 5A培地(McCoyら(1959)Proc.Exp.Biol.Med.、100:115)、RPMI培地(Mooreら(1967)J.A.M.A.、199:519)、ウィリアムスの培地(Williams(1971)Exp.Cell Res.、69:106−112)、NCTC 135培地(Evansら(1968)Exp.Cell Res.、36:439)、Waymouthの培地MB752/1(Waymouth(1959)Natl.Cancer Inst.、22:1003)等から調製し得ることを認識する。これらの培地を単独で、または適当な割合で混合物として使用して、細胞培養培地を調製し得る。あるいは、培地を個々の化学物質から、および/または他の培地および例えば表2で特定されたような増殖添加物から調製し得る。本発明は、いかなる特定の濃度の培地に限らず、そして液体から半固体組成物までの範囲の培地の使用を含む。本発明の方法は、単層、多層、固体支持体上、懸濁液中、および3D培養を含む(しかしそれに限らない)、様々な条件下の培養中で増殖する細胞に適当である。 さらに別の局面において、本発明は、本発明の方法によって増殖させた自己由来または同種SkMCの移植(例えばヒトにおいて)によって心筋梗塞を治療する方法を含む(しかしこれに限らない)、SkMCを利用する治療的方法を提供する。TGF−β中で増殖させた細胞は、移植の最初の段階で増強された増殖および運動性を示し、そして心機能の改善を引き起こすことが期待される。 以下の実施例は、本発明の説明的な実施形態を提供する。当業者は、本発明の意図または範囲を変えることなく行い得る多くの修飾およびバリエーションを認識する。そのような修飾およびバリエーションは、本発明の範囲内に含まれる。実施例は、いかなる方法においても本発明を制限しない。 (実施例1:HuSkMC株の由来) HuSkMCを、25歳男性死体の大腿四頭筋(株A)、77歳女性で切断手術を受けた人の大腿直筋(株B)、36歳女性死体の大腿四頭筋(株C)、または45歳男性死体の外側(laterus)広筋(株D)から得た。National Disease Research Institute(NDRI、Philadelphia、PA)によって提供された死体組織を、死後8から19時間で入手した。骨格筋を輸送および0−4℃で2−4日間、University of Wisconsin’s SolutionまたはIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)中で維持した。筋肉から明らかな結合組織および脂肪を切り取り、そしてリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中ですすいだ。少なくとも4グラムの湿潤重量を有する、切り取った筋肉を、約1mm3の破片に切り刻んだ。切り刻んだ筋肉を、470U/mlのII型コラゲナーゼ(Worthington、Lakewood、NJ)中で、筋肉1グラムあたり15−30mlの消化溶液を用いて、断続的に攪拌しながら37℃で1時間消化した。細胞および不完全に消化された組織を、450gで7分間遠心することによって回収し、そしてペレットを0.25%のトリプシン、1mMのEDTA(Invitrogen、Carlsbad、CA)で、37℃で20分間消化した。胎児ウシ血清(FBS)で消化を止め、そして細胞懸濁液を100μmのフィルターでろ過して不完全に消化された組織を除去した。細胞ろ液をペレット化し、そして培地に再懸濁した(実施例2を参照のこと)。第1継代における増殖のために、9−11mgの切り取った筋肉それぞれからの収量を、BioCoatTMコラーゲン−Iでコートした組織培養フラスコ(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)の1cm2あたりにまいた。ある場合には、1時間のプレプレーティング工程を使用し、それは線維芽細胞のより迅速な接着を利用することによって筋芽細胞を濃縮すると言われている。1日後、接着していない細胞および組織小片を含む培地を、新しい培地と交換した。 (実施例2:HuSkMCの増殖) すべての培養物を、コラーゲンIでコートしたフラスコを用いて、37℃、5%CO2、加湿雰囲気で増殖させた。増殖のための培地は、GLUTAMAXTM(Invitrogen、Carlsbad、CA)、50μg/mlのゲンタマイシン、1μg/mlのアムホテリシンB、15−20%のFBS(カタログ番号SH30071;Hyclone、Logan、UT)、および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;R&D Systems、Minneapolis、MN)を含むHam’s F−12から成っていた。株Dの増殖全体および初代継代後の株Aの増殖に20ng/mlのbFGFを使用した以外は、bFGFの濃度は5ng/mlであった。初代継代後の播種密度は、5×103細胞/cm2であった。TGF−β2(Genzyme、Cambridge、MA)を、他の実施例で示したように加えた。培養物に、2−4日ごとに新しい培地を与えた。70−100%コンフルエント、8×104から1.5×105細胞/cm2の範囲の密度の時に、細胞を0.05%のトリプシン、0.5mMのEDTAで剥離し、そして細胞懸濁液を継代培養、または下記で記載するように分析した。ある場合には、細胞を継代の間に、10%のジメチルスルホキシド、40%のFBS、50%の培地中で低温保存した。研究を第2または第3継代において行った。各継代の期間は、4から7日間の範囲であった。 別の研究において、1ロットの10%FBS中の活性TGF−β1および−β2の量を、ELISAに基づくQuantikineTMキット(カタログ番号DB100およびDB250、R&D Systems、Minneapolis、MN)を用いて定量した。活性化形式のTGF−β1およびTGF−β2は、31pg/ml(0.031ng/ml)より少ない検出レベル以下であったが、TGF−βの酸性化後に測定した全TGF−β1およびTGF−β2の量は、それぞれ1.1ng/mlおよび0.18ng/mlであった。 (実施例3:フローサイトメトリーのための免疫標識手順) デスミンまたはTE7を検出するために、間接的蛍光免疫標識を行った。HuSkMC懸濁液を、PBS中4%のパラホルムアルデヒドで、20−25℃で20分間固定した。固定した細胞を洗浄し、そしてPBS中0.1%のサポニン、10%のFBS(サポニン透過処理緩衝液(SPB))中2.5−5.0μg/mlのマウス抗デスミン抗体(クローンD33;Dako Corp、Carpenteria、CA)と、またはSPB中2.2から4.0μg/mlのマウス「抗線維芽細胞」抗体(クローンTE7;Research Diagnostics、Flanders、NJ)と、20−25℃で30分間インキュベートした。次いで細胞を洗浄し、そしてSPB中14μg/mlのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−結合ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson Immunoresearch、West Grove、PA)と、4℃で30分間インキュベートした。 CD56を検出するために、直接的蛍光免疫標識を行った。HuSkMC懸濁液を、PBS中1.25μg/mlのフィコエリトリン(PE)−結合マウス抗CD56抗体(クローンNCAM16.2、BD BioSciences、San Jose、CA)と、4℃で30分間インキュベートした。 デスミンおよびCD56の同時発現を検出するために、二重蛍光免疫標識を行った。HuSkMCをPE結合抗CD56抗体で標識した後、細胞を上記のようにパラホルムアルデヒドで固定し、そしてPBS中で洗浄した。次いで、固定した細胞をSPB中2.5μg/mlのFITC結合マウス抗デスミン抗体(クローンD33、Dako Corp、Carpenteria、CA)と、4℃で30分間インキュベートした。 すべてのインキュベーションを、連続的に振とうしながら細胞懸濁液に対して行った。全ての洗浄のためにPBSを使用し、そして免疫標識した細胞を、フローサイトメトリーのためにPBS中4℃で保存した。 (実施例4:フローサイトメトリー) FACStar PlusTMフローサイトメーター(Becton Dickenson、San Jose、CA)を用いて細胞を分析した。試料あたり10,000イベントのデータ取得を、ゲーティング(gating)無しで行った。CellQuestTMソフトウェア(Becton Dickinson、San Jose、CA)を用いてデータを分析した。アイソタイプがマッチしたネガティブコントロール抗体で免疫標識したHuSkMCを、CD56に関する参照として分析した。HuSkMC株の低温保存した細胞バンクを、デスミンおよびTE7免疫標識およびフローサイトメトリー分析のための参照基準として調製した。報告された各研究のために、参照バンクからの細胞試料を解凍し、免疫標識し、そしてフローサイトメトリーによって分析した。21の独立したアッセイにおいて試験した参照基準は、平均して52.7%デスミン陽性(変動計数=6.2%)および46.1%TE7陽性(変動計数=6.2%)であった。 蛍光対前方散乱光の密度プロットにおいて、陽性集団を、陰性および陽性集団を最も良く分ける直線が1つの片の境界となった多角形の領域内で定量した。柱状グラフにおいて、陽性集団を、陰性および陽性ピークの間の最下点で始まり、そして蛍光強度目盛りの上部端まで伸びる領域マーカーを設定することによって定量した。 (実施例5:筋管の可視化) 細胞をコラーゲンコーティングがないスライドフラスコ(slideflask)(Nunc、Denmark)に播種したことを除いて、HuSkMCを上記のように増殖させた。培養がコンフルエントになった時、それを上記で記載した基本培地および抗生物質を含む1%FBS中で2週間維持した。次いで接着した細胞単層を固定し、そしてインキュベーション期間を50%増加させ、そしてインキュベーション間にPBSでより徹底的な洗浄を行った以外は、細胞懸濁液に関して上記で記載したように、デスミンの検出のために間接的蛍光免疫標識をした。スライドフラスコの顕微鏡スライドをはずし、そして4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI:Vector Labs、Burlingame、CA)を含む固定培地(mounting medium)を用いてカバーガラスをした。台に乗せた細胞を、蛍光顕微鏡を用いて100×の倍率で写真を撮り、そしてFITC(デスミン)およびDAPI(核)の画像を重ねた。 (実施例6:クレアチンキナーゼアッセイ) 血清を豊富に含む培地(上記で記載した)で増殖させた、または分化後のHuSkMCに対してアッセイを行った。標準的な組織培養フラスコに8×104細胞/cm2の密度で播種し、そして増殖培地中で1日間、次いで2%FBS中で示した期間培養することによって分化を誘導した。 PBS(pH8.0)中75μlの0.2%TritonX−100TM中に、20−25℃で10分間懸濁することによって、約2×106細胞のペレットを溶解した。細胞レベル下の小片を、4℃で、16,000gで20分間遠心することによって除去し、そして上清をPBS、pH8.0中20mMのグリシンと1:1で混合した。試料をアリコートに分け、そしてクレアチンキナーゼ活性および全タンパク質の定量のために−80℃で保存した。 クレアチンキナーゼ活性の決定のための試薬混合物を、動力学アッセイにおいて、製造会社の指示によって使用した(手順#47−UV、Sigma、St.Louis、MO)。この方法によって、細胞抽出物中のクレアチンキナーゼを、基質および酵素の試薬混合物と組み合わせて一連の酵素反応を開始し、それは最終的にNADHを産生し、それが340nmにおける吸光度を増加させた。abs340/時間の相関係数が0.99より大きかった場合にのみ、データを考慮のために受け入れた。各細胞抽出物を、96穴マイクロタイタープレートの3組のウェルで試験した。クレアチンキナーゼ活性を、Bradfordアッセイにおいてウシ血清アルブミン標準曲線に対して測定した、全タンパク質に対して標準化した。両方のアッセイの吸光度読み取りを、SpectramaxTM Plus384分光光度計(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて、直接マイクロタイタープレートのウェルにおいて行った。 上記のアッセイの参照標準、分化したHuSkMC培養物からの抽出物を、上記のように調製し、アリコートに分け、そして−80℃で保存した。参照標準を、4ヶ月以上の期間に渡って、46の独立したアッセイにおいて試験した。全てのクレアチンキナーゼアッセイに含まれた参照標準のアッセイ結果は、平均して0.724クレアチンキナーゼユニット/mgタンパク質であり、変動係数は7.8%、そして保存中に活性の損失は示さなかった。 (実施例7:ノーザン分析) HuSkMC懸濁液をペレット化し、RNAlaterTM(Ambion、Austin、TX)中で急速冷凍(snap frozen)し、そして−80℃で保存した。QiaShredderTM(Qiagen、Valencia、CA)およびRNeasyTM(Qiagen、Valencia、CA)キットに含まれるプロトコールを用いてRNAを単離し、そして280nmの吸光度を測定することによって定量した。ウェルあたり8μgを負荷した後、1%のアガロース、5%のホルムアルデヒドゲル中で電気泳動によってRNAを分離した。RNAをゲルからナイロン膜に移し、そしてヒトデスミンcDNAの32P標識780ヌクレオチド断片でプローブ探査した。デスミンmRNAを、BAS−1500ホスホイメージャー(phosphoimager)(Fugifilm、Stanford、CT)およびImageGuageTMV3.46ソフトウェア(Fugifilm)を用いて定量した。 (実施例8:HuSkMC培養物は、筋芽細胞および線維芽細胞の混合集団である) HuSkMCを、HuSkMCの増殖に関して記載されたように、コラーゲンでコートしたフラスコで培養した。第3継代において、筋芽細胞マーカーデスミンおよびCD56に関する二重蛍光免疫標識を行った(Kaufmanら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:9606−9610;およびBelles−Islesら(1993)Eur.J.Histochem.、37:375−380)。20人以上のドナーからのHuSkMC培養物を、フローサイトメトリーによって分析した。その結果は、培養物は典型的には2つの主要な細胞の集団:デスミンおよびCD56マーカーの両方を発現するもの(すなわち筋芽細胞)およびどちらのマーカーも発現しないものから成ることを明らかにした。代表的な培養物(株A)のフローサイトメトリー分析の結果を、図1に示す。 増殖したHuSkMC培養物における分化コンピテントな筋芽細胞の存在を確認するために、細胞を、筋芽細胞の分化を増強する条件においた、すなわち低血清で培養した。具体的には、HuSkMCの増殖に関して記載したように、HuSkMCをコラーゲンでコートしたフラスコにおいて第1継代で培養した。次いで細胞を、コラーゲンコーティング無しの培養フラスコに、低密度で播種し、第2継代でコンフルエントな密度まで増殖させ、次いで細胞を1%の血清中で2週間維持して筋管の形成を促進した。分化した細胞を培養フラスコに接着している間に固定した。デスミンを蛍光免疫標識によって検出し、そして核をDAPIで染色した。多核性の筋管が観察され、培養物中の筋芽細胞が分化したことを示した。 増殖したHuSkMC培養物における分化コンピテントな筋芽細胞の存在をさらに確認するために、第2継代のHuSkMCを、コートしていないフラスコに80,000細胞/cm2でまき、示した期間2%血清中で分化を誘導し、そしてクレアチンキナーゼ活性に関して評価した。クレアチンキナーゼ活性は、時間とともに増加し、培養物中の筋芽細胞が分化したことを示した。代表的な研究(株D)の結果を、表3に示す。 HuSkMCの非筋芽細胞集団を特徴付けるために、低および高純度の筋芽細胞のHuSkMC株(それぞれ株BおよびC)を、低温保存したバンクから解凍し、そして独立に、または約同等の割合で2つの株を混合した後(株B+C)、第2継代まで増殖させた。低(株B)、中程度(株B+C)および高(株C)純度の筋芽細胞の第2継代培養物を、TE7抗原またはデスミンを発現する細胞の定量のために、フローサイトメトリー分析にかけた。各培養物において、筋芽細胞純度に関係なく、デスミン陽性およびTE7陽性細胞の画分は、総計約100%であった。細胞サイズの尺度である。フローサイトメトリーによる前方散乱光のパターンは、デスミン陰性およびTE7陽性集団の間で同様であった。合わせると、そのデータは、デスミンおよびTE7抗原の発現は、相互に両立しないことを示す。適当な細胞をポジティブコントロールとして使用した、アセチル化LDL取り込みアッセイ(Voytaら(1984)J.Cell Biol.、99(6):2034−2040)およびオイルレッドOアッセイ(Kuri−Harcuchら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、75(12):6107−6109)を用いて、HuSkMC培養物において、内皮または脂肪細胞は検出されなかった。そのデータは、増殖したHuSkMCは、ほとんど全部が2つの主要な細胞集団、すなわち分化コンピテントな筋芽細胞および線維芽細胞から成っていたことを示す。 (実施例9:HuSkMC増殖中のTGF−βの効果) HuSkMCの細胞増殖および分化に対するTGF−βの効果を決定するために、株Aの細胞を、第2継代において増殖させ、そしてそれぞれ5日間の培養期間の終わりまで延長する、異なる間隔の間、1ng/mlのTGF−β2に接触させた。次いで細胞を免疫標識し、そして上記で記載したように、デスミンおよびCD56発現の定量的検出のために、フローサイトメトリーによって分析した。デスミン陰性ピークの蛍光強度のパターンはTGF−β2によって影響されなかったが、デスミン陽性ピークの蛍光強度は、TGF−β2への接触の時間が増加するにつれて、連続的な減少を示した。この変化は、筋芽細胞集団におけるデスミン発現の減少を反映していた。 フローサイトメトリー結果の定量(図2)は、TGF−β2に5日間接触させたHuSkMCの筋芽細胞集団の平均蛍光強度は、未処理細胞のものの48%であったことを示した。デスミン発現における減少の約半分は、TGF−β2への接触の1日後に起こった。TGF−β2に反応した、観察されたデスミン発現における減少は、1ng/mlのTGF−β2の存在下または非存在下のいずれかで、2組で4日間増殖させた同じ株由来の細胞の、ノーザン分析の結果によってさらに支持された。デスミンmRNAを検出するノーザンブロットを、上記で記載したように調製および定量した。TGF−β2に接触させた培養物由来のデスミンRNAに対応するノーザンブロットのバンドからのシグナルの平均強度は、TGF−β2非存在下で増殖させた培養物由来の平均シグナルの53%であった(それぞれ146および194ピクセル対310および327ピクセル)。 対照的に、TGF−β2処理は、CD56陽性集団の蛍光強度を変化させず、デスミンおよびCD56はお互い独立に調節されていることを示した。さらに、CD56陽性細胞によって代表される培養物の画分は、TGF−β2の非存在下および存在下で増殖させたHuSkMCの間で同様であった(それぞれ65%および63%)。別の研究において、線維芽細胞マーカーTE7の発現も、TGF−β2によって影響を受けなかった。そのデータは、TGF−β2は、培養物中の、線維芽細胞および筋芽細胞の全数の比は変化させないことを示す。 (実施例10:デスミンのTGF−β誘導ダウンレギュレーションの可逆性) TGF−β2が誘導したデスミンの発現における減少が可逆的であるかどうかを決定するために、株CのHuSkMCを、1ng/mlのTGF−β2培地の非存在下または存在下で、第2継代において5日間増殖させ、次いでデスミンの検出のために、蛍光免疫標識およびフローサイトメトリー分析のために回収した。同時培養を、TGF−β2中で増殖させ、次いで回収前にTGF−β2の非存在下でさらに2日間培養した。その結果を表4にまとめる。 表4に示すように、TGF−β2処理培養物由来のデスミン陽性集団の平均蛍光は、未処理培養物由来のものの約50%であった。しかし、TGF−β2除去の2日後、培養物は、TGF−β2に接触しなかった細胞のものと同様のデスミン発現プロファイルを獲得した。デスミン陽性集団に対応する蛍光強度を有する細胞の画分は、3つの培養物の間で同様であった。そのデータは、TGF−β2への持続的な接触が、筋芽細胞マーカーデスミンの抑制に必要であり、そしてTGF−β2の除去によって2日以内に正常な筋芽細胞表現型を再び確立し得ることを示す。 (実施例11:クレアチンキナーゼ活性に対するTGF−βの効果) TGF−β2の添加および除去によるデスミンの調節は、TGF−βを使用して、HuSkMCの増殖中に、筋芽細胞の分化状態をコントロールし得ることを示す。これを更に評価するために、TGF−β2のクレアチンキナーゼ活性に対する効果を調査した。クレアチンキナーゼレベルを、図3において示されたフローサイトメトリー分析によってデスミンのダウンレギュレーションを調査するのに使用した、同じ株A培養物から取った試料から、直接定量した。TGF−β2は、デスミンに関して観察されたものと同様の割合でクレアチンキナーゼ活性を抑制し、抑制の約半分は、TGF−β2処理の1日後に起こった(図3と図2を比較のこと)。 別の研究において、クレアチンキナーゼのTGF−β2誘導ダウンレギュレーションの可逆性を評価した。株AのHuSkMCを、1ng/mlのTGF−β2の非存在下(培養物1)または存在下(培養物2、3および4)で5日間増殖させた。TGF−β2処理培養物の1つを、TGF−β2中でさらに2日間増殖させ(培養物3)、そして1つをその非存在下でさらに2日間培養した(培養物4)。各培養期間の終わりに、細胞をクレアチンキナーゼ分析のために溶解した。TGF−β2の存在下で5日間培養した株AのHuSkMC(表5、培養物2)は、その非存在下で培養した細胞における活性(表5、培養物1)の15%であるクレアチンキナーゼ活性を有していた。これらの細胞をTGF−β2無しでさらに2日間増殖させた場合(表5、培養物4)、クレアチンキナーゼ活性は、TGF−β2除去後に15倍増加し(培養物2および4を比較のこと)、TGF−β2はこの筋肉分化マーカーの発現を永久的に阻害するわけではないことを示した。筋芽細胞はコンフルエントな場合に分化する傾向があるので、培養物4におけるTGF−β2除去後の活性の大きな増加は、部分的には、培養期間の終わりに達成された2.1×105細胞/cm2の高い細胞密度のためであり得る。しかし、TGF−β2処理細胞をTGF−β2の存在下でさらに2日間、増殖因子に持続的に接触して全部で7日間培養した場合(表5、培養物3)、これらの細胞も培養物4と同様の高い密度(2.3×105細胞/cm2)に達したが、クレアチンキナーゼ活性は低いままであった。このデータは、デスミン発現のフローサイトメトリー分析からのデータとあわせて、TGF−β2は、高密度のHuSkMC培養物においてさえ、筋芽細胞の分化を抑制することを示す。さらに、そのあわせたデータは、TGF−β2のこの効果は完全に可逆性であることを示し、そしてTGF−β2中で増殖させたHuSkMCは、その分化する能力を保持していることを示唆する。 (実施例12:梗塞心筋への骨格筋細胞の移植) この研究は、ヒトにおける梗塞後心機能のモデルとして意図された非ヒト動物(例えばLewisラット)において、TGF−βの存在下または非存在下で、インビトロで増殖させた後移植した骨格筋細胞(SkMC)の臨床効果を比較する。この研究で使用する細胞は、移植の前に培養および低温保存細胞バンクとして保存する。任意で、SkMCの供給源として骨格筋を採取する2から3日前に、0.5mlのマーカインTM(0.5%ブピバカインクロロハイドレート(bupivicaine chlorohydrate))を、麻酔ラットの各後脚の前脛骨に注射し得る。この手順は、衛星細胞を活性化し、そしてそれによって続くインビトロ培養物からの基礎筋芽細胞収量を高める。 同系レシピエントへ移植されたドナー細胞の生存を評価する研究を、パイロット研究において任意で行い得る。簡単には、蛍光生体色素を用いてSkMCを標識する。2グループの非梗塞ラットに標識細胞を移植し、そして1週間後、動物を屠殺し、そしてその心臓をパラホルムアルデヒド固定し、そして組織像によってSkMC細胞の生存または炎症性浸潤物の証拠に関して分析する。細胞の蛍光標識を以下のように行う。凍結細胞アンプルを解凍し、そして3mlの80%IMDM、20%のFBSで希釈した後、上記で記載したように160−200gで5分間遠心することによって細胞を濃縮する。細胞のペレットを、HBSS(Ca+/Mg+フリー)中で調製された1μMのジオクタデシルオキサカルボシアニンペルクロレート(DiO)(Molecular Probes;Eugene、OR)から成る10mlの標識培地中に懸濁する。10mlの細胞懸濁液を37℃で5分間、暗所でインキュベートし、続いて4℃で15分間インキュベートする。 主要な研究において、手術の前日(−1日)に、ラットを2グループ:対照または梗塞のうち1つに割り当てる。対照動物を、2DガイドMモード心エコー検査で心機能に関して評価する。手術日(0日)に、動物を麻酔し、そして前外側開胸術により心臓を露出させる。梗塞グループに割り当てられた動物においてのみ、縫合結紮をLADの周囲に確保し、そして締めて虚血性の障害を作成する。対照グループに割り当てられた動物は、開胸術は完了するが、梗塞はさせずコントロールグループとなる。次いで梗塞グループを、縫合を用いて冠動脈を60分間結紮することによって甚大な心筋虚血(梗塞)にし、続いて再灌流させる。梗塞の6日後、全ての動物の体重を測定し、そしてトレッドミルにおいて運動耐性を評価する。梗塞の7日後、全ての動物を、心エコー検査を用いて駆出率に関して評価する。梗塞の8日後、全ての動物を、最初の手術と同じ順番で再び手術して、心臓を再露出させる。梗塞させた動物を、それらが受けた移植によって3つのサブグループのうち1つに割り当てる:(1)細胞を含まない細胞懸濁液培地のプラセボ注射;(2)本発明の方法によってTGF−β(例えばTGF−β1、−β2、および/または−β3)の存在下で培養したSkMC;および(3)TGF−β無しで培養したSkMC。対照グループに2回目の開胸術を行うが、いかなる注射も与えない。SkMCグループの各ラットは、30ゲージのハミルトン針を用いて、梗塞および梗塞周囲領域に直接、約1−2mm離して、全量100μlのIMDM/0.5%BSAに含まれる、細胞懸濁液の6−10回の注射を受ける(全部で3×106細胞/心臓)。 処置後、胸腔を閉じ、そして動物を回復させる。動物を毎日調査し、そして心不全の徴候(無気力、浅い呼吸、チアノーゼ)および死亡率を記録する。各動物の体重を毎週、およびあらゆる分析手順の直前に記録する。研究中のあらゆる動物の死を記録し、そして死体解剖を行って可能性のある死因を決定する。 移植の8週間後、動物を、トレッドミルを用いて運動能力に関して評価する。最大運動能力を、変更したげっ歯類トレッドミル(Columbus Instruments;Columbus、OH)で消耗するまでの走行距離として測定する。消耗を、少しの電気ショックにもかかわらず、連続して15秒間走ることができないことと定義する。最初のトレッドミルの速度を15°勾配において15メートル/分に設定し、そしてその後毎分1メートル/分の増加で増加させる 心機能を、2DガイドMモード心エコー検査で調査して左心室駆出率を決定する。インビボにおける心機能の心エコー検査評価を、15MHzプローブを備えたAcuson SequoiaTM C−256心エコー機械(Siemens、Malvern、PA)を用いて、麻酔ラットにおいて行う。げっ歯類ノーズコーンを用いて、5%のイソフルラン(isoflorane)の吸入によって動物を麻酔し、適切な麻酔を保証するために心エコー検査の間中2.5%のイソフルランで維持する。イソフルランは、迅速でスムーズな麻酔の導入および迅速な回復を可能にし、循環器の血行動態(心室負荷、血圧、心拍数等)をほとんど変化させない。一旦麻酔すると、動物の胸部を市販の電気バリカンで剃る。心臓を2次元胸骨傍短軸の観点から画像化し、そしてMモードの測定値を心筋梗塞のレベルで心室中央で記録する。心拍数、前方/後方壁の厚さ、および拡張期末/収縮期末の腔の寸法を、市販で入手可能な分析ソフトウェア(Acuson Sequoia)を用いて、Mモード画像から測定する。分画の短縮を、拡張期末寸法マイナス拡張期末寸法に対して基準化した収縮期末寸法として定義し、そして心収縮性機能の指標として使用する。局所的な前方および後方壁の肥厚も、それぞれの領域の拡張期および収縮期の壁寸法の比較によって評価する。初期/後期LV血液流入(E/A比)および血液流入の速度を含む、拡張期機能および心室の充満のパラメーターを、僧帽弁を横切る血液速度のドップラー測定によって測定する。(より大きな動物における局所の心筋区域における心機能を、磁気共鳴画像法(MRI)を用いて評価し得る。) 次いで動物を麻酔し、そしてその心臓を摘出し、続いて培養した等容性に拍動する(バルーン−イン−LV(balloon−in−LV))心臓においてLangendorff灌流システムを用いて、発達した圧の心臓の能力を分析する。簡単には、培養心臓を、40%のヘマトクリットで修飾Krebs−Henseleit緩衝液中に懸濁したウシ赤血球から成る灌流液で逆に灌流する。Statham P23DbTM圧変換器(Statham Instrument、Hato Rey、Puerto Rico)に接続した液体を充満させたラップのバルーンを、左心室に置き、心室圧をモニターする。冠動脈灌流圧を80mmHgに設定し、そして次いで活性な圧−容積の関係を作る。バルーンの容積0から、バルーンに0.05mlの増加で充満させ、そして続くピーク収縮期および拡張期末圧を記録する。次いで収縮期および拡張期圧−容積の関係を得る。続いて、心臓を塩化カリウムによって、拡張期状態で、そして5mmHgの最終拡張圧で停止させ、そして4%のパラホルムアルデヒドの逆灌流によって固定する。 固定後、心臓を、心房組織を切り取り、重量を計り、そして4つの等しい部分へ横断的に切断する(「ブレッド−ローフ(bread−loaved)」)。心臓の部分を、パラフィンに埋包し、そしてMassonの三色組織化学および面積測定による瘢痕領域の決定のために、5μmの薄さの切片に切断する。骨格筋組織を、骨格筋線維細胞へ分化することが期待される、移植混合物に存在する骨格筋芽細胞に基づいて同定する。骨格筋細胞の同定を、心筋を染色しない、骨格筋反応性抗ミオシン重鎖抗体を用いて免疫組織化学的に行う(例えば、Havenithら(1990)Histochemistry 93:497−499において記載されたMY−32抗体(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO))。 TGF−β中で培養したSkMCで処理したラットにおける心機能は、コントロールグループおよび/またはTGF−β無しで培養した同様の細胞と比較して、同等またはより良い(少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、500%またはそれ以上)ことが予期される。さらに、TGF−β中で増殖させた細胞は、移植の最初の段階で、増強された増殖および運動性を示すことが予期される。 本明細書は、本明細書中で引用された参考文献の教えに照らして、最も完全に理解される。本明細書中の実施形態は、本発明の実施形態の説明を提供し、そして本発明の範囲を制限すると解釈されるべきでない。当業者は、多くの他の実施形態が本発明によって含まれることを容易に認識する。本開示において引用された全ての出版物および特許および配列は、その全体として参考文献に組み込まれる。参考によって組み込まれる資料の範囲が本明細書に矛盾するか、または一致しない場合、本明細書があらゆるそのような資料に取って代わる。本明細書中におけるあらゆる参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明の従来の技術であることの容認ではない。 他に示されなければ、請求を含む本明細書中で使用される、成分の量、細胞培養物、処理条件等を表す全ての数字は、「約」という用語によって全ての場合において修飾されることが理解される。よって、他にそうでないと示されなければ、数字のパラメーターは近似であり、そして本発明によって得ようとする望ましい性質によって変わり得る。他に示されなければ、一連の要素の前にある「少なくとも」という用語は、その一連の用語の全てを指すことが理解される。当業者は、日常的な実験のみを用いて、本明細書中で記載された本発明の特定の実施形態の多くの同等物を認識する、または確かめることができる。そのような同等物は、以下の請求によって含まれることが意図される。図1は、株Aの第3継代HuSkMCに対して行った、デスミンおよびCD56の二重蛍光免疫標識の結果を示す。フローサイトメトリー分析は、2つの主な集団、両方の筋芽細胞マーカーを発現するもの(Des+およびCD56+)、およびどちらのマーカーも発現しないもの(Des−およびCD56−)を明らかにする。図2は、TGF−β2中の時間の関数として、筋芽細胞マーカーに対するTGF−β2の効果を説明する。株AのHuSkMCを、第2継代において0、0.17、1、2、または5日間増殖させ、次いで筋芽細胞マーカーデスミンおよびCD56を検出するために、剥離および蛍光免疫標識した。デスミン陽性(実線)およびCD56陽性(破線)筋芽細胞集団の平均蛍光。結果は、2組の培養物から平均した。エラーバーは、値の範囲を同定する。Des+およびCD56+細胞のパーセンテージおよびCD56の発現レベルは、実質的にTGF−βによって影響されなかったが、デスミンの発現は徐々に減少した。図3は、クレアチンキナーゼ活性に対するTGF−β2の効果を説明する。同じ株A培養物からの細胞の試料を、それらをフローサイトメトリー分析(図2)のために回収したのと同時に溶解し、次いでクレアチンキナーゼ活性に関して分析した。これらの細胞を、示したように、培養の最終0、0.17、1、2、または5日間、1ng/mlのTGF−β2の存在下で5日間増殖させた。結果を、2組の培養物から平均した。エラーバーは値の範囲を同定する。クレアチンキナーゼ活性(図3)およびデスミン発現(図2)の減少における類似に注意すること。成人の哺乳動物骨格筋細胞を増殖させる方法であって、該方法は、 筋芽細胞分化を可逆的に抑制するのに有効な量のTGF−βが補充されたマイトジェンリッチな細胞培養培地において、該細胞を培養する工程を包含する、方法。前記骨格筋細胞が、ヒトである、請求項1に記載の方法。前記細胞培養培地が、少なくとも5%の血清を含む、請求項1に記載の方法。TGF−βが、TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3、もしくはこれらのヘテロダイマーのうちの1つであるか、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。前記有効な量のTGF−βが、0.01ng/ml〜200ng/mlである、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、初代細胞である、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、継代されている、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、TGF−βの存在下において少なくとも12時間培養される、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、継代または収集の前に30%コンフルエントを超えるまで増殖する、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、0.1×105細胞/cm2を超える細胞密度まで増殖する、請求項1に記載の方法。骨格筋細胞によるクレアチンキナーゼの発現が、TGF−βの補充なしで増殖させたコントロール培養物と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。CD56陽性筋芽細胞によるデスミンの発現が、TGF−βの補充なしで増殖させたCD56陽性筋芽細胞と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。骨格筋細胞によるクレアチンキナーゼの発現が、TGF−βを添加する前の同じ骨格筋細胞の培養物と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。CD56陽性筋芽細胞によるデスミンの発現が、TGF−βを添加する前の同じ骨格筋細胞の培養物におけるCD56陽性の筋芽細胞と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法によって作製される、細胞。心筋梗塞を処置する方法であって、該方法は、 請求項15に記載の細胞を梗塞性心筋層に移植する工程を包含する、方法。前記細胞が、自己由来または同種異系である、請求項16に記載の方法。正常レベルのCD56および低下したレベルのデスミンを発現する培養骨格筋細胞であって、ここでデスミン発現は、初代培養物におけるよりも少なくとも20%低い、培養骨格筋細胞。正常レベルのCD56および低下したレベルのデスミンを発現する培養骨格筋細胞であって、ここでデスミン発現は、TGF−βなしで増殖させたコントロール培養物におけるよりも少なくとも20%低い、培養骨格筋細胞。正常レベルのCD56および低下した発現レベルのデスミンを発現する培養骨格筋細胞であって、ここでデスミン発現は、TGF−βを添加する前の培養物におけるよりも少なくとも20%低い、培養骨格筋細胞。心筋梗塞を処置する方法であって、該方法は、 請求項18〜21のいずれか1項に記載の細胞を梗塞性心筋層に移植する工程を包含する、方法。前記細胞が、自己由来または同種異系である、請求項16に記載の方法。骨格筋細胞培養物において筋芽細胞の分化状態を評価するための方法であって、該方法は、 該骨格筋細胞培養物中のCD56陽性細胞の集団によって発現されるデスミンの量を決定する工程を包含し、該デスミンの閾値レベルより低い量は、該SkMC培養物中の未分化筋芽細胞の存在を示す、方法。前記デスミンの量が、蛍光活性化細胞分離を用いて決定される、請求項23に記載の方法。 本開示は、正常レベルのCD56および抑制されたレベルのデスミンを発現する、分化コンピテントな筋芽細胞が豊富な骨格筋細胞(SkMC)を増殖させる方法を提供する。本方法は、TGF−βを添加したマイトジェンリッチな細胞培養培地でSkMCを培養する工程を包含する。本開示はまた、TGF−β中で増殖させたSkMCを利用する治療方法、例えば自己由来または同種SkMCの移植によって心筋梗塞を処置する方法を提供する。本発明は、骨格筋細胞(SkMC)培養物の増殖中に、筋芽細胞の増殖を維持しながら、筋芽細胞の筋細胞への分化を可逆的に抑制する方法を提供する。 20061204A16333全文3成人の哺乳動物骨格筋細胞を増殖させる方法であって、該方法は、 筋芽細胞分化を可逆的に抑制するのに有効な量のTGF−βが補充されたマイトジェンリッチな細胞培養培地において、該細胞を培養する工程を包含する、方法。前記骨格筋細胞が、ヒトである、請求項1に記載の方法。前記細胞培養培地が、少なくとも5%の血清を含む、請求項1に記載の方法。TGF−βが、TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3、もしくはこれらのヘテロダイマーのうちの1つであるか、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。前記有効な量のTGF−βが、0.01ng/ml〜200ng/mlである、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、初代細胞である、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、継代されている、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、TGF−βの存在下において少なくとも12時間培養される、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、継代または収集の前に30%コンフルエントを超えるまで増殖する、請求項1に記載の方法。前記骨格筋細胞が、0.1×105細胞/cm2を超える細胞密度まで増殖する、請求項1に記載の方法。骨格筋細胞によるクレアチンキナーゼの発現が、TGF−βの補充なしで増殖させたコントロール培養物と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。CD56陽性筋芽細胞によるデスミンの発現が、TGF−βの補充なしで増殖させたCD56陽性筋芽細胞と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。骨格筋細胞によるクレアチンキナーゼの発現が、TGF−βを添加する前の同じ骨格筋細胞の培養物と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。CD56陽性筋芽細胞によるデスミンの発現が、TGF−βを添加する前の同じ骨格筋細胞の培養物におけるCD56陽性の筋芽細胞と比較して少なくとも20%まで減少する、請求項1に記載の方法。請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法によって作製される、細胞。心筋梗塞を処置するための組成物であって、該組成物は、 請求項15に記載の細胞を含み、ここで該組成物は、梗塞性心筋層への移植が意図される、組成物。前記細胞が、自己由来または同種異系である、請求項16に記載の組成物。正常レベルのCD56および低下したレベルのデスミンを発現する培養骨格筋細胞であって、ここでデスミン発現は、初代培養物におけるよりも少なくとも20%低い、培養骨格筋細胞。正常レベルのCD56および低下したレベルのデスミンを発現する培養骨格筋細胞であって、ここでデスミン発現は、TGF−βなしで増殖させたコントロール培養物におけるよりも少なくとも20%低い、培養骨格筋細胞。正常レベルのCD56および低下した発現レベルのデスミンを発現する培養骨格筋細胞であって、ここでデスミン発現は、TGF−βを添加する前の培養物におけるよりも少なくとも20%低い、培養骨格筋細胞。心筋梗塞を処置するための組成物であって、該組成物は、 請求項18〜21のいずれか1項に記載の細胞を含み、ここで該組成物は、梗塞性心筋層への移植が意図される、組成物。前記細胞が、自己由来または同種異系である、請求項16に記載の組成物。骨格筋細胞培養物において筋芽細胞の分化状態を評価するための方法であって、該方法は、 該骨格筋細胞培養物中のCD56陽性細胞の集団によって発現されるデスミンの量を決定する工程を包含し、該デスミンの閾値レベルより低い量は、該SkMC培養物中の未分化筋芽細胞の存在を示す、方法。前記デスミンの量が、蛍光活性化細胞分離を用いて決定される、請求項23に記載の方法。A16330全文3 本出願は、米国出願番号第60/502,762号(2003年11月17日出願)に対する優先権を主張し、米国出願番号第60/502,762号は、本明細書においてその全体が参考として援用される。 (発明の分野) 本発明は、骨格筋由来細胞、および特に損傷した心臓組織への移植を意図する細胞を増殖させる方法に関連する。本発明はさらに、TGF−βを含む細胞培養培地組成物に関連する。 (発明の背景) ほとんどが心筋の機能不全のためである心不全は、医学的および外科的進歩にも関わらず、よくある、そして生命を脅かす状態である。心筋梗塞によって起こ る心機能の悪化を軽減するための、自己由来ヒト骨格筋細胞(HuSkMC)の治療的適用が、いくつかの前臨床および臨床研究において有望であった(例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献 10;非特許文献11;非特許文献12を参照のこと)。これらの研究において、骨格筋生検から得られた骨格筋細胞(SkMC)を、インビトロで増殖させ、そして続いて損傷した心臓組織に注入する。より多い数の注入されたSkMC(7×105から7×106細胞)および改善した心機能の間の相関が、ラット梗塞モデルにおいて確立された(非特許文献13)。ラットおよびヒト心臓の相対的重量に基づいて、109程度の数のHuSkMCが、ヒト患者における治療的有効性のために必要であり得る。このために、生検から入手可能な細胞の数は一般的に限られているので、 HuSkMCを、いくつかの継代の間増殖させる必要があり得る。難題は、多数の細胞を一貫して産生することだけでなく、培養中の細胞のアイデンティティーおよび分化状態を信頼性高く特徴づけすることでもある。 骨格筋は衛星細胞を含み、それは成熟筋線維の基底膜および筋線維鞘の間に存在する、休止した筋芽細胞前駆体である(非特許文献14)。成長している、ま たは損傷した筋肉において、衛星細胞は活性化されて増殖する筋芽細胞となり、それは最終的に成熟筋線維へと分化をうける(非特許文献15)。細胞培養において、衛星細胞の活性化およびその筋芽細胞としての増殖を、骨格筋における細胞の酵素的解離およびマイトジェンリッチな培地における培養によって達成し得 る(非特許文献14、前出)。 非筋芽細胞系統の細胞、主に線維芽細胞も、酵素的解離時の筋肉組織から放出される。線維芽細胞は、筋芽細胞と同時増殖し、そして潜在的に培養の優位を占 め得る。筋芽細胞の成熟筋細胞への分化は、その増殖の中止を伴い(非特許文献16)、それが今度は連続的に増殖させたHuSkMC培養物において線維芽細胞の過剰増殖を可能にする。データは、損傷した心臓組織への移植後に心収縮に寄与するのは骨格筋由来培養物の筋芽細胞であることを示唆するので(例えば、 非特許文献17を参照のこと)、HuSkMCの増殖における1つの目標は、線維芽細胞の存在を最小限にすることである。 筋芽細胞の分化は、典型的には培地中の血清および他のマイトジェンの抑制によって誘導される(非特許文献14、前出)が、マイトジェンリッチな培養にお いてさえも、特に高い細胞密度において、自然発生的な分化がいくらか起こる。従って、HuSkMCの増殖における別の目的は、筋芽細胞を増殖状態に維持しながら分化を抑制することである。 正常および形質転換した組織において見出される増殖因子である、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)は、研究下にある生物学的システムに 依存して、筋芽細胞の分化を抑制または誘導することが報告されている。例えば、TGF−βは、多くのシステムにおいて、主に確立されたクローン細胞系統または胚由来の筋芽細胞に対して行われた研究において、筋芽細胞の分化を抑制することが報告された(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特 許文献21;および非特許文献22)。これらの発見と対照的に、他の研究者は、低い細胞密度の条件下で(非特許文献23)、血清を含まない培地において(非特許文献24)、およびL6E9筋芽細胞系統を培養するために使用したマイトジェンリッチな培地において(非特許文献25)、TGF−βは筋芽細胞の分化を刺激することを報告した。 TGF−βの3つの哺乳動物アイソフォーム(TGF−β1、−β2、および−β3)は、一般的にインビトロにおいて細胞に対して同様の効果を有するが、 インビボにおいては区別できる生物学的役割を有しているようである(非特許文献26)。発達している、および再生している筋肉におけるTGF−βアイソフォームの時間的および空間的分布は、他の証拠と共に、インビボにおいて筋芽細胞の融合を媒介することによる、筋芽細胞分化におけるTGF−β2を意味づ ける(非特許文献26、前出)。Atkinsら「Heart Lung Transplant.」、1999年、第18巻:1173−1180Hutchesonら「Cell 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−βのアイソフォーム(TGF−β1−β5)が存在し、それらは全て実質的にお互い相同的であり(60−80%の同一性)、ホモダイマーを形成し、そして共通のTGF−β受容体(TβR−I、TβR−II、TβR−IIB、およびTβR−III)に対して作用する。TGF−βは、種間で高度に保存されてい る。例えば、ブタ、サル、およびヒトの成熟TGF−β1(112アミノ酸)は同一であり、そしてマウスおよびラットTGF−β1は、ヒトからわずかに1アミノ酸異なるだけである。TGF−βの構造的および機能的局面は、当該分野において周知である(例えば、Oppenheimら(編)Cytokine Reference、Academic Press、San Diego、CA、2001、719−746頁を参照のこと)。TGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3のみが哺乳動物において見出される。3つのアイソフォームのタンパク質登録番号の部分的なリストを、表1で提供する。 他に示されなければ、述べられるTGF−βの量は、培地に加えられた活性TGF−βの量を指し、そしてその量が血清供給源に依存して異なり得る、血清中 に自然に存在するTGF−βを含まない。最も優勢なTGF−βの形式であるTGF−β1の報告された血清濃度は、1から33ng/mlの間で異なる(Kyrtsonisら(1998)Med.Oncol.、15:124−128)。製造会社によると、実施例で利用したDefined Fetal Bovine SerumにおけるTGF−β1の量は、平均21ng/mlである(Wight(2000)Art to Scienece、第19巻(3):1−3)。しかし、様々な血清中に自然に存在するほとんどのTGF−βは、不活性な形式であり、すなわち、増殖因子の成熟形式に非共有結合的に結 合したプロペプチドと共にある。 TGF−βは多様な生物活性を示すので、TGF−βの量および/または活性を検出および定量するために、様々なアッセイを使用し得る。TGF−β活性に関する、より頻繁に使用されるインビトロバイオアッセイのいくつかの例は、以下のものを含む: (1)EGF存在下で軟寒天におけるNRK細胞のコロニー形成の誘導(Robertsら(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78:5339−5343); (2)原始的な間葉系の細胞が軟骨の表現形を発現する分化の誘導(Seyedinら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82:2267−2271); (3)Mv1Luミンク肺上皮細胞(Danielpourら(1989)J.Cell.Physiol.、138:79−86)およびBBC−1サル腎 臓細胞(Holleyら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:5989−5992)の増殖の阻害; (4)C3H/HeJマウス胸腺細胞の有糸分裂誘発の阻害(Wrannら(1987)EMBO J.、6:1633−1636); (5)ラットL6筋芽細胞の分化の阻害(Floriniら(1986)J.Biol.Chem.、261:16509−16513); (6)フィブロネクチン産生の測定(Wranaら(1992)Cell、71:1003−1014); (7)ルシフェラーゼリポーター遺伝子に融合したプラスミノーゲン活性化因子阻害薬1(PAI−1)プロモーターの誘導(Abeら(1994)Anal.Biochem.、216:276−284);および (8)サンドイッチ型酵素結合免疫吸着検定法(Danielpourら(1989)Growth Factors、2:61−71)。 「初代培養」および「初代細胞」という用語は、そのままの、または解離した組織または臓器断片に由来する細胞を指す。培養物は、それが継代される(または継代培養される)まで初代と判断され、その後は「細胞系統」または「細胞株」と呼ばれる。「細胞系統」という用語は、均質性または培養が特徴付けされた程度を意味しない。細胞系統は、もしそれが培養細胞の集団中の単一細胞に由来する場合、「クローン細胞系統」または「クローン」と呼ばれる。他に示されなければ、「骨格筋細胞(SkMC)」および「SkMC培養物」という用語は、初代および継代された骨格筋細胞の両方を指す。「SkMC」および「SkMC培養物」という用語は、骨格筋から単離された細胞、および精製筋芽細胞を含む(しかしそれに限らない)、それから精製、分離、および/または継代された非クローン細胞を指す。「高密度」という用語は、50,000細胞/cm2または50%コンフルエント(confluence)より高い細胞密度を指す。 「継代」という用語およびその同種のものは、細胞を新しい培養容器に移し、細胞集団を増殖させる、または同型培養を設定する過程を指す。文脈に依存し て、「継代」という用語はまた、継代された培養物中の細胞、および/または連続する継代間の期間も指し得る。他に示されなければ、「第1継代」は初代培養を指す;「第2継代」は初代培養から継代された細胞を指す;「第3継代」は第2継代培養物から継代された細胞を指す、等である。 本発明は、部分的には、TGF−β2は、高密度の培養においてさえも、成人HuSkMCの連続的に増殖させた培養物において、筋芽細胞の分化を可逆的に 抑制するという発見および実証に基づく。筋芽細胞の分化の抑制は、筋芽細胞分化の確立されたマーカーであるクレアチンキナーゼの発現の抑制によって確認された。これらの結果は、TGF−βを使用して、臨床的に使用するためのHuSkMCの大規模産生の間に、筋芽細胞の分化を抑制し得ることを示す。SkMC の連続的な増殖の間に筋芽細胞の分化を阻害することによって、TGF−βは筋芽細胞集団を増殖性の、分化コンピテントな状態に維持する。SkMCの培養物が高密度になった後でさえも筋芽細胞の分化を抑制するTGF−βの能力は、SkMCの連続的な増殖の間に、より頻繁でない継代、および/またはより小さい 組織培養表面領域を可能にする。未分化の細胞は、移植の最初の段階で増強された増殖および運動性を示すと考えられるので、TGF−β中のSkMCの増殖はまた、一旦損傷した心臓組織に注入されたら、筋芽細胞の移植を促進し得る。 よって、本発明の1つの局面は、培養物中でSkMCを増殖させる方法である。ある実施形態において、SkMCは成人哺乳動物から得られた初代または継代 細胞、例えばHuSkMCである。本発明の関連する局面は、抑制されたレベルの筋細胞分化マーカーを発現する、分化コンピテントな筋芽細胞でSkMC培養物を濃縮する方法である。その方法は、筋芽細胞の分化を可逆的に抑制するのに有効な量のTGF−βを添加したマイトジェンリッチな細胞培養培地でSkMC を培養することを含む。様々な実施形態において、SkMCはTGF−βを添加した培地で、例えば少なくとも12、24、36、48、72、96、120、144、168時間またはそれ以上、第1、第2、第3、第4、第5、第6、第7、および/または続く継代で培養された、初代または継代細胞である。さらな る実施形態において、1つまたはそれ以上の継代において、継代および/または回収の前に、細胞によって占められる培養表面のパーセンテージによって測定される、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%またはそれより高いコンフルエント以上、または0.1、 0.25、0.5、0.75、1、1.25、1.5、1.75、2、2.1、2.3、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75、4、5×105細胞/cm2またはそれ以上の密度以上まで、細胞を増殖させる。説明の実施形態において、細胞を、TGF−βの存在下で、第2継代で1、2、または5日間増殖させる。 様々な実施形態において、TGF−βはTGF−β1、TGF−β2、およびTGF−β3の1つまたはそのあらゆる組み合わせ、またはそのヘテロダイマー である。TGF−β4およびTGF−β5も使用し得る。培地に添加するTGF−βの量は、筋芽細胞の分化を抑制するために有効である。いくつかの実施形態において、有効な量は0.01、0.05、0.1、0.5、1、1.5、2、3、4、5、10、20、または40ng/mlである、または0.01から 200、0.01から100、0.01から50、0.01から20、0.2から50、0.2から20、0.2から10、0.2から5、0.2から2、0.5から5、および0.5から2ng/mlの範囲から選択される。説明の実施形態において、培地に1ng/mlのTGF−β2を添加する。 本発明はさらに、部分的には、CD56陽性筋芽細胞によるデスミン発現の抑制は、TGF−βによる筋芽細胞分化の抑制と関連し、一方CD56の発現はTGF−βによって影響されないという発見および実証に基づく。 培養物における骨格筋細胞のクローン増殖および分化は、最初にKonigsberg(1963)Science、140:1273によって報告された。分化の間に、筋芽細胞は有糸分裂後のG0期に入り、そしてプレーティング後48時間以内に筋芽細胞の融合(融合バースト(fusion−burst))が明らかになる。融合バーストの頃に、筋肉特 異的遺伝子(例えばクレアチンキナーゼ)の転写がアップレギュレートされる(Patersonら(1972)Cell、17:771;Delvinら(1978)Nature、270:725)。ATPの再産生によって筋肉収縮のためのエネルギーを供給する、クレアチンキナーゼ活性は、筋芽細胞分化の 長く確立した定量可能なマーカーであり、筋芽細胞の融合と関連する(Shainbergら(1971)Dev.Biol.、25:1−29)。 中間径フィラメントタンパク質デスミンは、増殖中の骨格筋芽細胞に発現し(Kaufmanら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci. USA、85:9606−9610;Lawson−Smithら(1998)J.Anat.、192:161−171)、そして骨格筋の成熟筋細胞において優勢である(Lazaridesら(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、73:4344−4348)。デスミンのアップレギュレーションは、筋芽細胞分化のシグナルである。対照的に、CD56(NCAMまたは抗原Leu−19とも呼ばれる)は、増殖中の 筋芽細胞に構成的に発現する(Illaら(1992)Ann.Neurol.、31:46−52;およびBelles−Islesら(1993)Eur.J.Histochem.、37:375−380)が、成熟筋肉には存在しない(Schubertら(1989)Proc.Natl.Acad.Sci. USA、86:307−311)。あるリンパ球およびニューロンを含む他の細胞もCD56を発現するが、線維芽細胞は発現しない。デスミンおよびCD56はどちらも、骨格筋から培養された細胞における、筋芽細胞の信頼性の高いマーカーと考えられる。 本発明は、部分的には、骨格筋培養物のうちほとんど全ての細胞を、2つの集団:(1)CD56+、デスミン+、TE7−細胞、および(2)CD56−、デスミン−、TE7+細胞が説明するという発見および実証に基づく。これらの2つの集団は、それぞれ筋芽細胞および線維芽細胞である。デスミンおよびCD56は、増殖中の骨格筋 芽細胞の2つのマーカーである。TE7は、骨髄(Cattorettiら(1993)Blood、81:225−251)および胸腺組織切片(Haynesら(1984)J.Exp.Med.、159:1149−1168)の線維芽細胞ストローマ細胞に結合するモノクローナル抗体である。 TE7抗原は、インビトロにおいて線維芽細胞のマーカーである(Rosendalら(1994)J.Cell Sci.、102:29−37)。 本発明はさらに、部分的には、CD56陽性(CD56+)筋芽細胞によるデスミン発現の抑制は、TGF−βによる筋芽細胞分化の抑制と関連し、一方 CD56の発現はTGF−βによって影響をうけないという発見および実証に基づく。一般的に受け入れられた筋芽細胞のマーカーであるデスミンの喪失にも関わらず、TGF−β2は、予測され得たように、別の細胞型への分化転換による筋芽細胞表現型の喪失を引き起こさない(例えば、Katagiriら (1994)J.Cell Biol.、127:1755−1766を参照のこと)。 よって、本発明の別の局面は、SkMC培養物において、筋芽細胞の分化状態を評価する方法である。その方法は、SkMC培養物においてCD56陽性細胞 の集団によって発現されるデスミンの量を決定することを含み、ここで閾値レベル以下のデスミンの量は、SkMC培養物における未分化の筋芽細胞の存在を示す。 さらなる局面において、本発明は、本発明の方法によって、TGF−βを添加した培地で増殖させたSkMCを提供する。SkMCを、哺乳動物(例えばラット、マウス、ウシ、ブタ、サル、およびヒト)および非哺乳動物(例えば鳥類)を含む脊椎動物種の骨格筋から得ることができる。SkMCに関して「成人」という用語は、これらの細胞を胎児性のSkMCと区別するために、出生後の動物(例えばヒト)に由来するSkMCに関して使用される。 本発明の組成物は、正常レベルのCD56および抑制されたレベルのデスミンを発現する、分化コンピテントな筋芽細胞で濃縮された培養SkMCを含む。あ る実施形態において、CD56陽性筋芽細胞によるデスミン発現は、(a)TGF−βの添加無しに増殖させたコントロール培養物および/または(b)初代細胞と比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。ある実施形態において、TGF−β中で増殖させたCD56陽性 筋芽細胞によるデスミン発現は、TGF−βの添加前の同じ培養物におけるCD56陽性細胞と比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。 本発明の組成物はさらに、抑制された量のクレアチンキナーゼを発現する培養SkMCを含む。ある実施形態において、SkMCによるクレアチンキナーゼ発現は、TGF−βの添加無しに増殖させたコントロール培養物と比較して、少なくとも 20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。ある実施形態において、TGF−β中で増殖させたSkMCによるクレアチンキナーゼ発現は、TGF−βの添加前の培養物における同じSkMCと比較して、少なくとも20、30、40、50、60、70%またはそれ以上抑制される。発現レベル は、関連する細胞集団の細胞数あたりで言及される。 CD56、デスミンおよびクレアチンキナーゼのレベルを、RNAまたはタンパク質レベルで測定し得る。RNAレベルを、例えば定量的リアルタイムPCR(RT−PCR)、ノーザンブロッティング、または例えばSambrookら(編)Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989において記載された ような、RNAレベルを決定する別の方法によって決定し得る。CD56、デスミン、およびクレアチンキナーゼの発現レベルを、フローサイトメトリー(蛍光標示式細胞分取(FACS))、ウェスタンブロッティング、ELISA、免疫組織化学、酵素活性アッセイ(例えばクレアチンキナーゼアッセイ)または例え ばCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら(編)New York:John Wiley and Sons、1988)または実施例において記載されたような、タンパク質レベルを決定する別の方法を用いてタンパク質レベルで測定し得る。 SkMCの単離および培養の方法を含む、細胞の単離および培養方法は、当該分野で公知であり、そして例えばDavis(編)Basic Cell Culture、第2版、Oxford University Press Inc.、New York、2002、244−247頁、または実施例において記載されたように実施し得る。一般的に、必須栄養素、ビタミン、細胞機能を支えるために必要な補助因子を提供する培地中で、細胞を維持する。ほとんど の哺乳動物細胞に関して最適な培養条件は、典型的には7.2−7.5のpH、280−320nOsmol/kgの容量オスモル濃度、2−5%のCO2、および32−37℃の温度を含む。典型的には、骨格筋培養物を、5−20、7−15、または10%の血清を含むマイトジェンリッチな培地中で増殖させる。 血清を、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、または他の供給源から得ることができる。血清および血清バッチの選択は、部分的には使用者の経験的な評価に基づく。±20%以内の細胞収量におけるバッチからバッチの変動は、通常十分であると判断される。 当業者はまた、本発明の方法において使用される培地を、様々な公知の培地、例えばイーグルの培地(Eagle(1955)Science、122: 501)、ダルベッコの最少必須培地(Dulbeccoら(1959)Virology、8:396)、Hamの培地(Ham(1963)Exp.Cell Res.、29:515)、L−15培地(Leibvitz(1963)Amer.J.Hyg.、78:173)、McCoy 5A培地 (McCoyら(1959)Proc.Exp.Biol.Med.、100:115)、RPMI培地(Mooreら(1967)J.A.M.A.、199:519)、ウィリアムスの培地(Williams(1971)Exp.Cell Res.、69:106−112)、NCTC 135培地 (Evansら(1968)Exp.Cell Res.、36:439)、Waymouthの培地MB752/1(Waymouth(1959)Natl.Cancer Inst.、22:1003)等から調製し得ることを認識する。これらの培地を単独で、または適当な割合で混合物として使用し て、細胞培養培地を調製し得る。あるいは、培地を個々の化学物質から、および/または他の培地および例えば表2で特定されたような増殖添加物から調製し得る。本発明は、いかなる特定の濃度の培地に限らず、そして液体から半固体組成物までの範囲の培地の使用を含む。本発明の方法は、単層、多層、固体支持体 上、懸濁液中、および3D培養を含む(しかしそれに限らない)、様々な条件下の培養中で増殖する細胞に適当である。 さらに別の局面において、本発明は、本発明の方法によって増殖させた自己由来または同種SkMCの移植(例えばヒトにおいて)によって心筋梗塞を処置する方法を含む(しかしこれに限らない)、SkMCを利用する治療的方法を提供する。TGF−β中で増殖させた細胞は、移植の最初の段階で増強された増殖および運動性を示し、そして心機能の改善を引き起こすことが期待される。 以下の実施例は、本発明の説明的な実施形態を提供する。当業者は、本発明の意図または範囲を変えることなく行い得る多くの修飾およびバリエーションを認 識する。そのような修飾およびバリエーションは、本発明の範囲内に含まれる。実施例は、いかなる方法においても本発明を制限しない。 (実施例1:HuSkMC株の由来) HuSkMCを、25歳男性死体の大腿四頭筋(株A)、77歳女性で切断手術を受けた人の大腿直筋(株B)、36歳女性死体の大腿四頭筋(株C)、または45歳男性死体の外側(laterus)広筋(株D)に由来した。National Disease Research Institute(NDRI、Philadelphia、PA)によって提供された死体組織を、死後8から19時間で入手した。骨格筋を輸送および0−4℃で2−4日間、University of Wisconsin’s SolutionまたはIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)中で維持した。筋肉から明らかな結合組織および脂肪を切り取り、そしてリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中ですすいだ。少なくとも4グラムの湿潤重量を有する、切り取った筋肉を、約1mm3の破片に切り刻んだ。切り刻んだ筋肉を、470U/mlのII型コラゲナーゼ(Worthington、Lakewood、NJ)中で、筋肉1グラムあたり15−30mlの消化溶液を用いて、断続的に攪拌しながら37℃で1時間消化した。細胞および不完全に消化された組織を、450gで7分間遠心することによって回収し、そしてペレットを0.25%のトリプシン、1mMのEDTA(Invitrogen、Carlsbad、CA)で、37℃で20分間消化した。胎児ウシ血清(FBS)で消化を止め、そして細胞懸濁液を100μmのフィルターでろ過して不完全に消化された組織を除去した。細胞ろ液をペレット化し、そして培地に再懸濁した(実施例2を参照のこと)。第1継代における増殖のために、9−11mgの切り取った筋肉それぞれからの収量を、BioCoatTMコラーゲン−Iでコートした組織培養フラスコ(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)の1cm2あたりにまいた。ある場合には、1時間のプレプレーティング工程を使用し、それは線維芽細胞のより迅速な接着を利用することによって筋芽細胞を濃縮すると言われている。1日後、接着していない細胞および組織小片を含む培地を、新しい培地と交換した。 (実施例2:HuSkMCの増殖) すべての培養物を、コラーゲンIでコートしたフラスコを用いて、37℃、5%CO2、加湿雰囲気で増殖させた。増殖のための培地は、GLUTAMAXTM(Invitrogen、Carlsbad、CA)、50μg/mlのゲンタマイシン、1μg/mlのアムホテリシンB、15−20%のFBS(カタログ番号SH30071; Hyclone、Logan、UT)、および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;R&D Systems、Minneapolis、MN)を含むHam’s F−12から成っていた。株Dの増殖全体および初代継代後の株Aの増殖に20ng/mlのbFGFを使用した以外は、bFGFの濃度は 5ng/mlであった。初代継代後の播種密度は、5×103細胞/cm2であった。TGF−β2(Genzyme、Cambridge、MA)を、他の実施例で示したように加えた。培養物に、2−4日ごとに新しい培地を与えた。70−100%コンフルエント、8×104から1.5×105細胞/cm2の範囲の密度の時に、細胞を0.05%のトリプシン、0.5mMのEDTAで剥離し、そして細胞懸濁液を継代培養、または下記で記載するように分析した。あ る場合には、細胞を継代の間に、10%のジメチルスルホキシド、40%のFBS、50%の培地中で低温保存した。研究を第2または第3継代において行った。各継代の期間は、4から7日間の範囲であった。 別の研究において、1ロットの10%FBS中の活性TGF−β1および−β2の量を、ELISAに基づくQuantikineTMキッ ト(カタログ番号DB100およびDB250、R&D Systems、Minneapolis、MN)を用いて定量した。活性化形式のTGF−β1およびTGF−β2は、31pg/ml(0.031ng/ml)より少ない検出レベル以下であったが、TGF−βの酸性化後に測定した全TGF−β1および TGF−β2の量は、それぞれ1.1ng/mlおよび0.18ng/mlであった。 (実施例3:フローサイトメトリーのための免疫標識手順) デスミンまたはTE7を検出するために、間接的蛍光免疫標識を行った。HuSkMC懸濁液を、PBS中4%のパラホルムアルデヒドで、20−25℃で 20分間固定した。固定した細胞を洗浄し、そしてPBS中0.1%のサポニン、10%のFBS(サポニン透過処理緩衝液(SPB))中2.5−5.0μg/mlのマウス抗デスミン抗体(クローンD33;Dako Corp、Carpenteria、CA)と、またはSPB中2.2から4.0μg/mlのマウス「抗線維芽細胞」抗体(クローンTE7;Research Diagnostics、Flanders、NJ)と、 20−25℃で30分間インキュベートした。次いで細胞を洗浄し、そしてSPB中14μg/mlのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−結合ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson Immunoresearch、West Grove、PA)と、4℃で30分間インキュベートした。 CD56を検出するために、直接的蛍光免疫標識を行った。HuSkMC懸濁液を、PBS中1.25μg/mlのフィコエリトリン(PE)−結合マウス抗 CD56抗体(クローンNCAM16.2、BD BioSciences、San Jose、CA)と、4℃で30分間インキュベートした。 デスミンおよびCD56の同時発現を検出するために、二重蛍光免疫標識を行った。HuSkMCをPE結合抗CD56抗体で標識した後、細胞を上記のよう にパラホルムアルデヒドで固定し、そしてPBS中で洗浄した。次いで、固定した細胞をSPB中2.5μg/mlのFITC結合マウス抗デスミン抗体(クローンD33、Dako Corp、Carpenteria、CA)と、4℃で30分間インキュベートした。 すべてのインキュベーションを、連続的に振とうしながら細胞懸濁液に対して行った。全ての洗浄のためにPBSを使用し、そして免疫標識した細胞を、フローサイトメトリーのためにPBS中4℃で保存した。 (実施例4:フローサイトメトリー) FACStar PlusTMフローサイトメーター(Becton Dickenson、San Jose、CA)を用いて細胞を分析した。試料あたり10,000イベントのデータ取得を、ゲーティング(gating)無しで行った。CellQuestTMソフトウェア(Becton Dickinson、San Jose、CA)を用いてデータを分析した。アイソタイプがマッチしたネガティブコントロール抗 体で免疫標識したHuSkMCを、CD56に関する参照として分析した。HuSkMC株の低温保存した細胞バンクを、デスミンおよびTE7免疫標識およびフローサイトメトリー分析のための参照基準として調製した。報告された各研究のために、参照バンクからの細胞試料を解凍し、免疫標識し、そしてフローサイ トメトリーによって分析した。21の独立したアッセイにおいて試験した参照基準は、平均して52.7%デスミン陽性(変動計数=6.2%)および46.1%TE7陽性(変動計数=6.2%)であった。 蛍光対前方散乱光の密度プロットにおいて、陽性集団を、陰性および陽性集団を最も良く分ける直線が1つの片の境界となった多角形の領域内で定量した。柱 状グラフにおいて、陽性集団を、陰性および陽性ピークの間の最下点で始まり、そして蛍光強度目盛りの上部端まで伸びる領域マーカーを設定することによって定量した。 (実施例5:筋管の可視化) 細胞をコラーゲンコーティングがないスライドフラスコ(slideflask)(Nunc、Denmark)に播種したことを除いて、HuSkMCを上 記のように増殖させた。培養がコンフルエントになった時、それを上記で記載した基本培地および抗生物質を含む1%FBS中で2週間維持した。次いで接着した細胞単層を固定し、そしてインキュベーション期間を50%増加させ、そしてインキュベーション間にPBSでより徹底的な洗浄を行った以外は、細胞懸濁液 に関して上記で記載したように、デスミンの検出のために間接的蛍光免疫標識をした。スライドフラスコの顕微鏡スライドをはずし、そして4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI:Vector Labs、Burlingame、CA)を含む固定培地(mounting medium)を用いてカバーガラスをした。台に乗せた細胞を、蛍光顕微鏡を用いて100×の倍率で写真を撮り、そしてFITC(デスミン)およびDAPI(核)の画像を重ねた。 (実施例6:クレアチンキナーゼアッセイ) 血清を豊富に含む培地(上記で記載した)で増殖させた、または分化後のHuSkMCに対してアッセイを行った。標準的な組織培養フラスコに8×104細胞/cm2の密度で播種し、そして増殖培地中で1日間、次いで2%FBS中で示した期間培養することによって分化を誘導した。 PBS(pH8.0)中75μlの0.2%TritonX−100TM中に、20−25℃で10分間懸濁することによって、約2×106細胞のペレットを溶解した。細胞レベル下の小片を、4℃で、16,000gで20分間遠心することによって除去し、そして上清をPBS、pH8.0中 20mMのグリシンと1:1で混合した。試料をアリコートに分け、そしてクレアチンキナーゼ活性および全タンパク質の定量のために−80℃で保存した。 クレアチンキナーゼ活性の決定のための試薬混合物を、動力学アッセイにおいて、製造会社の指示によって使用した(手順#47−UV、Sigma、St. Louis、MO)。この方法によって、細胞抽出物中のクレアチンキナーゼを、基質および酵素の試薬混合物と組み合わせて一連の酵素反応を開始し、それは最終的にNADHを産生し、それが340nmにおける吸光度を増加させた。abs340/ 時間の相関係数が0.99より大きかった場合にのみ、データを考慮のために受け入れた。各細胞抽出物を、96穴マイクロタイタープレートの3組のウェルで試験した。クレアチンキナーゼ活性を、Bradfordアッセイにおいてウシ血清アルブミン標準曲線に対して測定した、全タンパク質に対して標準化した。 両方のアッセイの吸光度読み取りを、SpectramaxTM Plus384分光光度計(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて、直接マイクロタイタープレートのウェルにおいて行った。 上記のアッセイの参照標準、分化したHuSkMC培養物からの抽出物を、上記のように調製し、アリコートに分け、そして−80℃で保存した。参照標準 を、4ヶ月以上の期間に渡って、46の独立したアッセイにおいて試験した。全てのクレアチンキナーゼアッセイに含まれた参照標準のアッセイ結果は、平均して0.724クレアチンキナーゼユニット/mgタンパク質であり、変動係数は7.8%、そして保存中に活性の損失は示さなかった。 (実施例7:ノーザン分析) HuSkMC懸濁液をペレット化し、RNAlaterTM(Ambion、Austin、TX)中で急速冷凍(snap frozen)し、そして−80℃で保存した。QiaShredderTM(Qiagen、Valencia、CA)およびRNeasyTM(Qiagen、Valencia、CA)キットに含まれるプロトコールを用いてRNAを単離し、そして280nmの吸光度を測定することによって定量した。ウェルあたり 8μgを負荷した後、1%のアガロース、5%のホルムアルデヒドゲル中で電気泳動によってRNAを分離した。RNAをゲルからナイロン膜に移し、そしてヒトデスミンcDNAの32P標識780ヌクレオチド断片でプローブ探査した。デスミンmRNAを、BAS−1500ホスホイメージャー(phosphoimager)(Fugifilm、Stanford、CT)およびImageGuageTMV3.46ソフトウェア(Fugifilm)を用いて定量した。 (実施例8:HuSkMC培養物は、筋芽細胞および線維芽細胞の混合集団である) HuSkMCを、HuSkMCの増殖に関して記載されたように、コラーゲンでコートしたフラスコで培養した。第3継代において、筋芽細胞マーカーデスミンおよびCD56に関する二重蛍光免疫標識を行った(Kaufmanら(1988) Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:9606−9610;およびBelles−Islesら(1993)Eur.J.Histochem.、37:375−380)。20人以上のドナーからのHuSkMC培養物を、フローサイトメトリーによって分析した。その結果は、培 養物は典型的には2つの主要な細胞の集団:デスミンおよびCD56マーカーの両方を発現するもの(すなわち筋芽細胞)およびどちらのマーカーも発現しないものから成ることを明らかにした。代表的な培養物(株A)のフローサイトメトリー分析の結果を、図1に示す。 増殖したHuSkMC培養物における分化コンピテントな筋芽細胞の存在を確認するために、細胞を、筋芽細胞の分化を増強する条件においた、すなわち低血 清で培養した。具体的には、HuSkMCの増殖に関して記載したように、HuSkMCをコラーゲンでコートしたフラスコにおいて第1継代で培養した。次いで細胞を、コラーゲンコーティング無しの培養フラスコに、低密度で播種し、第2継代でコンフルエントな密度まで増殖させ、次いで細胞を1%の血清中で2週 間維持して筋管の形成を促進した。分化した細胞を培養フラスコに接着している間に固定した。デスミンを蛍光免疫標識によって検出し、そして核をDAPIで染色した。多核性の筋管が観察され、培養物中の筋芽細胞が分化したことを示した。 増殖したHuSkMC培養物における分化コンピテントな筋芽細胞の存在をさらに確認するために、第2継代のHuSkMCを、コートしていないフラスコに80,000細胞/cm2でまき、示した期間2%血清中で分化を誘導し、そしてクレアチンキナーゼ活性に関して評価した。クレアチンキナーゼ活性は、時間とともに増加し、培養物中の筋芽細胞が分化したことを示した。代表的な研究(株D)の結果を、表3に示す。 HuSkMCの非筋芽細胞集団を特徴付けるために、低および高純度の筋芽細胞のHuSkMC株(それぞれ株BおよびC)を、低温保存したバンクから解凍し、そして独立に、または約同等の割合で2つの株を混合した後(株B+C)、第2継代まで増殖させた。低(株B)、中程度(株B+C)および高(株C)純度の筋芽細胞の第2継代培養物を、TE7抗原またはデスミンを発現する細胞の定量のために、フローサイトメトリー分析にかけた。各培養物において、筋芽細胞純度に関係なく、デスミン陽性およびTE7陽性細胞の画分は、総計約100%であった。細胞サイズの尺度である、フローサイトメトリーによる前方散乱光のパターンは、デスミン陰性およびTE7陽性集団の間で同様であった。合わせると、そのデータは、デスミンおよびTE7抗原の発現は、相互に両立しないことを示す。適当な細胞をポジティブコントロールとして使用した、アセチル化LDL取り込みアッセイ(Voytaら(1984)J.Cell Biol.、99(6):2034−2040)およびオイルレッドOアッセイ(Kuri−Harcuchら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、75(12):6107−6109)を用いて、HuSkMC培養物において、内皮または脂肪細胞は検出されなかった。そのデータは、増殖したHuSkMCは、ほとんど全部が2つの主要な細胞集団、すなわち分化コンピテントな筋芽細胞および線維芽細胞から成っていたことを示す。 (実施例9:HuSkMC増殖中のTGF−βの効果) HuSkMCの細胞増殖および分化に対するTGF−βの効果を決定するために、株Aの細胞を、第2継代において増殖させ、そしてそれぞれ5日間の培養期 間の終わりまで延長する、異なる間隔の間、1ng/mlのTGF−β2に接触させた。次いで細胞を免疫標識し、そして上記で記載したように、デスミンおよびCD56発現の定量的検出のために、フローサイトメトリーによって分析した。デスミン陰性ピークの蛍光強度のパターンはTGF−β2によって影響されな かったが、デスミン陽性ピークの蛍光強度は、TGF−β2への接触の時間が増加するにつれて、連続的な減少を示した。この変化は、筋芽細胞集団におけるデスミン発現の減少を反映していた。 フローサイトメトリー結果の定量(図2)は、TGF−β2に5日間接触させたHuSkMCの筋芽細胞集団の平均蛍光強度は、未処理細胞のものの48%で あったことを示した。デスミン発現における減少の約半分は、TGF−β2への接触の1日後に起こった。TGF−β2に反応した、観察されたデスミン発現における減少は、1ng/mlのTGF−β2の存在下または非存在下のいずれかで、2組で4日間増殖させた同じ株由来の細胞の、ノーザン分析の結果によって さらに支持された。デスミンmRNAを検出するノーザンブロットを、上記で記載したように調製および定量した。TGF−β2に接触させた培養物由来のデスミンRNAに対応するノーザンブロットのバンドからのシグナルの平均強度は、TGF−β2非存在下で増殖させた培養物由来の平均シグナルの53%であった (それぞれ146および194ピクセル対310および327ピクセル)。 対照的に、TGF−β2処理は、CD56陽性集団の蛍光強度を変化させず、デスミンおよびCD56はお互い独立に調節されていることを示した。さらに、 CD56陽性細胞によって代表される培養物の画分は、TGF−β2の非存在下および存在下で増殖させたHuSkMCの間で同様であった(それぞれ65%および63%)。別の研究において、線維芽細胞マーカーTE7の発現も、TGF−β2によって影響を受けなかった。そのデータは、TGF−β2は、培養物中 の、線維芽細胞および筋芽細胞の全数の比は変化させないことを示す。 (実施例10:デスミンのTGF−β誘導ダウンレギュレーションの可逆性) TGF−β2が誘導したデスミンの発現における減少が可逆的であるかどうかを決定するために、株CのHuSkMCを、1ng/mlのTGF−β2培地の 非存在下または存在下で、第2継代において5日間増殖させ、次いでデスミンの検出のために、蛍光免疫標識およびフローサイトメトリー分析のために回収した。同時培養を、TGF−β2中で増殖させ、次いで回収前にTGF−β2の非存在下でさらに2日間培養した。その結果を表4にまとめる。 表4に示すように、TGF−β2処理培養物由来のデスミン陽性集団の平均蛍光は、未処理培養物由来のものの約50%であった。しかし、TGF−β2除去 の2日後、培養物は、TGF−β2に接触しなかった細胞のものと同様のデスミン発現プロファイルを獲得した。デスミン陽性集団に対応する蛍光強度を有する細胞の画分は、3つの培養物の間で同様であった。そのデータは、TGF−β2への持続的な接触が、筋芽細胞マーカーデスミンの抑制に必要であり、そして TGF−β2の除去によって2日以内に正常な筋芽細胞表現型を再び確立し得ることを示す。 (実施例11:クレアチンキナーゼ活性に対するTGF−βの効果) TGF−β2の添加および除去によるデスミンの調節は、TGF−βを使用して、HuSkMCの増殖中に、筋芽細胞の分化状態をコントロールし得ることを 示す。これを更に評価するために、TGF−β2のクレアチンキナーゼ活性に対する効果を調査した。クレアチンキナーゼレベルを、図3において示されたフローサイトメトリー分析によってデスミンのダウンレギュレーションを調査するのに使用した、同じ株A培養物から取った試料から、直接定量した。TGF− β2は、デスミンに関して観察されたものと同様の割合でクレアチンキナーゼ活性を抑制し、抑制の約半分は、TGF−β2処理の1日後に起こった(図3と図2を比較のこと)。 別の研究において、クレアチンキナーゼのTGF−β2誘導ダウンレギュレーションの可逆性を評価した。株AのHuSkMCを、1ng/mlのTGF− β2の非存在下(培養物1)または存在下(培養物2、3および4)で5日間増殖させた。TGF−β2処理培養物の1つを、TGF−β2中でさらに2日間増殖させ(培養物3)、そして1つをその非存在下でさらに2日間培養した(培養物4)。各培養期間の終わりに、細胞をクレアチンキナーゼ分析のために溶解し た。TGF−β2の存在下で5日間培養した株AのHuSkMC(表5、培養物2)は、その非存在下で培養した細胞における活性(表5、培養物1)の15%であるクレアチンキナーゼ活性を有していた。これらの細胞をTGF−β2無しでさらに2日間増殖させた場合(表5、培養物4)、クレアチンキナーゼ活性 は、TGF−β2除去後に15倍増加し(培養物2および4を比較のこと)、TGF−β2はこの筋肉分化マーカーの発現を永久的に阻害するわけではないことを示した。筋芽細胞はコンフルエントな場合に分化する傾向があるので、培養物4におけるTGF−β2除去後の活性の大きな増加は、部分的には、培養期間の 終わりに達成された2.1×105細胞/cm2の高い細胞密度のためであり得る。しかし、TGF−β2処理細胞をTGF−β2の存在下でさらに2日間、増殖因子に持続的に接触して全部で7日間培養した場合(表5、培養物3)、これらの細胞も培養物4と同様の高い密度(2.3×105細胞/cm2)に達したが、クレアチンキナーゼ活性は低いままであった。このデータは、デスミン発現のフローサイトメトリー分析からのデータとあわせて、TGF−β2は、高密度のHuSkMC培養物においてさえ、筋芽細胞の分化を抑制することを示す。さらに、そのあわせたデータは、TGF−β2のこの効果は完全に可逆性であることを示し、そしてTGF−β2中で増殖させたHuSkMCは、その分化する能力を保持していることを示唆する。 (実施例12:梗塞心筋への骨格筋細胞の移植) この研究は、ヒトにおける梗塞後心機能のモデルとして意図された非ヒト動物(例えばLewisラット)において、TGF−βの存在下または非存在下で、 インビトロで増殖させた後移植した骨格筋細胞(SkMC)の臨床効果を比較する。この研究で使用する細胞は、移植の前に培養および低温保存細胞バンクとして保存する。任意で、SkMCの供給源として骨格筋を採取する2から3日前に、0.5mlのマーカインTM(0.5%ブピバカインクロロハイドレート(bupivicaine chlorohydrate))を、麻酔ラットの各後脚の前脛骨に注射し得る。この手順は、衛星細胞を活性化し、そしてそれによって続くインビトロ培養物からの基礎筋芽細胞収量を高める。 同系レシピエントへ移植されたドナー細胞の生存を評価する研究を、パイロット研究において任意で行い得る。簡単には、蛍光生体色素を用いてSkMCを標 識する。2グループの非梗塞ラットに標識細胞を移植し、そして1週間後、動物を屠殺し、そしてその心臓をパラホルムアルデヒド固定し、そして組織像によってSkMC細胞の生存または炎症性浸潤物の証拠に関して分析する。細胞の蛍光標識を以下のように行う。凍結細胞アンプルを解凍し、そして3mlの80% IMDM、20%のFBSで希釈した後、上記で記載したように160−200gで5分間遠心することによって細胞を濃縮する。細胞のペレットを、HBSS(Ca+/Mg+フ リー)中で調製された1μMのジオクタデシルオキサカルボシアニンペルクロレート(DiO)(Molecular Probes;Eugene、OR)から成る10mlの標識培地中に懸濁する。10mlの細胞懸濁液を37℃で5分間、暗所でインキュベートし、続いて4℃で15分間インキュベートする。 主要な研究において、手術の前日(−1日)に、ラットを2グループ:対照または梗塞のうち1つに割り当てる。対照動物を、2DガイドMモード心エコー検 査で心機能に関して評価する。手術日(0日)に、動物を麻酔し、そして前外側開胸術により心臓を露出させる。梗塞グループに割り当てられた動物においてのみ、縫合結紮をLADの周囲に確保し、そして締めて虚血性の障害を作成する。対照グループに割り当てられた動物は、開胸術は完了するが、梗塞はさせずコン トロールグループとなる。次いで梗塞グループを、縫合を用いて冠動脈を60分間結紮することによって甚大な心筋虚血(梗塞)にし、続いて再灌流させる。梗塞の6日後、全ての動物の体重を測定し、そしてトレッドミルにおいて運動耐性を評価する。梗塞の7日後、全ての動物を、心エコー検査を用いて駆出率に関し て評価する。梗塞の8日後、全ての動物を、最初の手術と同じ順番で再び手術して、心臓を再露出させる。梗塞させた動物を、それらが受けた移植によって3つのサブグループのうち1つに割り当てる:(1)細胞を含まない細胞懸濁液培地のプラセボ注射;(2)本発明の方法によってTGF−β(例えばTGF− β1、−β2、および/または−β3)の存在下で培養したSkMC;および(3)TGF−β無しで培養したSkMC。対照グループに2回目の開胸術を行うが、いかなる注射も与えない。SkMCグループの各ラットは、30ゲージのハミルトン針を用いて、梗塞および梗塞周囲領域に直接、約1−2mm離して、全量100μlのIMDM/0.5%BSAに含まれる、細胞懸濁液の6−10回の注射を受ける(全部で3×106細胞/心臓)。 処置後、胸腔を閉じ、そして動物を回復させる。動物を毎日調査し、そして心不全の徴候(嗜眠、浅い呼吸、チアノーゼ)および死亡率を記録する。各動物の体重を毎週、およびあらゆる分析手順の直前に記録する。研究中のあらゆる動物の死を記録し、そして死体解剖を行って可能性のある死因を決定する。 移植の8週間後、動物を、トレッドミルを用いて運動能力に関して評価する。最大運動能力を、変更したげっ歯類トレッドミル(Columbus Instruments;Columbus、OH)で消耗するまでの走行距離として測定する。消耗を、少しの電気ショックにもかかわらず、連続して15秒間走ることができないことと定義する。最初のトレッドミルの速度を15°勾配において15メートル/分に設定し、そしてその後毎分1メートル/分の増加で 増加させる。 心機能を、2DガイドMモード心エコー検査で調査して左心室駆出率を決定する。インビボにおける心機能の心エコー検査評価を、15MHzプローブを備えたAcuson SequoiaTM C−256心エコー機械(Siemens、Malvern、PA)を用いて、麻酔ラットにおいて行う。げっ歯類ノーズコーンを用いて、5%のイソフルラン (isoflorane)の吸入によって動物を麻酔し、適切な麻酔を保証するために心エコー検査の間中2.5%のイソフルランで維持する。イソフルランは、迅速でスムーズな麻酔の導入および迅速な回復を可能にし、循環器の血行動態(心室負荷、血圧、心拍数等)をほとんど変化させない。一旦麻酔すると、動 物の胸部を市販の電気バリカンで剃る。心臓を2次元胸骨傍短軸の観点から画像化し、そしてMモードの測定値を心筋梗塞のレベルで心室中央で記録する。心拍数、前方/後方壁の厚さ、および拡張期末/収縮期末の腔の寸法を、市販で入手可能な分析ソフトウェア(Acuson Sequoia)を用いて、Mモード 画像から測定する。分画の短縮を、拡張期末寸法マイナス拡張期末寸法に対して基準化した収縮期末寸法として定義し、そして心収縮性機能の指標として使用する。局所的な前方および後方壁の肥厚も、それぞれの領域の拡張期および収縮期の壁寸法の比較によって評価する。初期/後期LV血液流入(E/A比)および 血液流入の速度を含む、拡張期機能および心室の充満のパラメーターを、僧帽弁を横切る血液速度のドップラー測定によって測定する。(より大きな動物における局所の心筋区域における心機能を、磁気共鳴画像法(MRI)を用いて評価し得る。) 次いで動物を麻酔し、そしてその心臓を摘出し、続いて培養した等容性に拍動する(バルーン−イン−LV(balloon−in−LV))心臓において Langendorff灌流システムを用いて、発達した圧の心臓の能力を分析する。簡単には、培養心臓を、40%のヘマトクリットで修飾Krebs−Henseleit緩衝液中に懸濁したウシ赤血球から成る灌流液で逆に灌流する。Statham P23DbTM圧 変換器(Statham Instrument、Hato Rey、Puerto Rico)に接続した液体を充満させたラップのバルーンを、左心室に置き、心室圧をモニターする。冠動脈灌流圧を80mmHgに設定し、そして次いで活性な圧−容積の関係を作る。バルーンの容積0から、バルーンに0. 05mlの増加で充満させ、そして続くピーク収縮期および拡張期末圧を記録する。次いで収縮期および拡張期圧−容積の関係を得る。続いて、心臓を塩化カリウムによって、拡張期状態で、そして5mmHgの最終拡張圧で停止させ、そして4%のパラホルムアルデヒドの逆灌流によって固定する。 固定後、心臓を、心房組織を切り取り、重量を計り、そして4つの等しい部分へ横断的に切断する(「ブレッド−ローフ(bread−loaved)」)。 心臓の部分を、パラフィンに埋包し、そしてMassonの三色組織化学および面積測定による瘢痕領域の決定のために、5μmの薄さの切片に切断する。骨格筋組織を、骨格筋線維細胞へ分化することが期待される、移植混合物に存在する骨格筋芽細胞に基づいて同定する。骨格筋細胞の同定を、心筋を染色しない、骨格筋反応性抗ミオシン重鎖抗体を用 いて免疫組織化学的に行う(例えば、Havenithら(1990)Histochemistry 93:497−499において記載されたMY−32抗体(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO))。 TGF−β中で培養したSkMCで処理したラットにおける心機能は、コントロールグループおよび/またはTGF−β無しで培養した同様の細胞と比較し て、同等またはより良い(少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、500%またはそれ以上)ことが予期される。さらに、TGF−β中で増殖させた細胞は、移植の最初の段階で、増強された増殖および運動性を示すことが予期される。 本明細書は、本明細書中で引用された参考文献の教えに照らして、最も完全に理解される。本明細書中の実施形態は、本発明の実施形態の説明を提供し、そして本発明の範囲を制限すると解釈されるべきでない。当業者は、多くの他の実施形態が本発明によって含まれることを容易に認識する。本開示において引用された全ての出版物および特許および配列は、その全体として参考として援用される。参考として援用される資料の範囲が本明細書に矛盾するか、または一致しない場合、本明細書があらゆるそのような資料に取って代わる。本明細書中におけるあらゆる参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明の従来の技術であることの容認ではない。 他に示されなければ、特許請求の範囲を含む本明細書中で使用される、成分の量、細胞培養物、処理条件等を表す全ての数字は、「約」という用語によって全ての場合において修飾されることが理解される。よって、他にそうでないと示されなければ、数字のパラメーターは近似であり、そして本発明によって得ようとする望ましい性質によって変わり得る。他に示されなければ、一連の要素の前にある「少なくとも」という用語は、その一連の用語の全てを指すことが理解される。当業者は、日常的な実験のみを用いて、本明細書中で記載された本発明の特定の実施形態の多くの同等物を認識する、または確かめることができる。そのような同等物は、以下の特許請求の範囲によって含まれることが意図される。図1は、株Aの第3継代HuSkMCに対して行った、デスミンおよびCD56の二重蛍光免疫標識の結果を示す。フローサイトメトリー分析は、 2つの主な集団、両方の筋芽細胞マーカーを発現するもの(Des+およびCD56+)、およびどちらのマーカーも発現しないもの(Des−およびCD56−)を明らかにする。図2は、TGF−β2中の時間の関数として、筋芽細胞マーカーに対するTGF−β2の効果を説明する。株AのHuSkMCを、第2継代におい て0、0.17、1、2、または5日間増殖させ、次いで筋芽細胞マーカーデスミンおよびCD56を検出するために、剥離および蛍光免疫標識した。デスミン陽性(実線)およびCD56陽性(破線)筋芽細胞集団の平均蛍光。結果は、2組の培養物から平均した。エラーバーは、値の範囲を同定する。Des+および CD56+細胞のパーセンテージおよびCD56の発現レベルは、実質的にTGF−βによって影響されなかったが、デスミンの発現は徐々に減少した。図3は、クレアチンキナーゼ活性に対するTGF−β2の効果を説明する。同じ株A培養物からの細胞の試料を、それらをフローサイトメトリー分 析(図2)のために回収したのと同時に溶解し、次いでクレアチンキナーゼ活性に関して分析した。これらの細胞を、示したように、培養の最終0、0.17、1、2、または5日間、1ng/mlのTGF−β2の存在下で5日間増殖させた。結果を、2組の培養物から平均した。エラーバーは値の範囲を同定する。ク レアチンキナーゼ活性(図3)およびデスミン発現(図2)の減少における類似に注意すること。


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