タイトル: | 特許公報(B2)_希少糖D−アロースを利用した細胞・組織・臓器保存液及び該液を用いる保存方法 |
出願番号: | 2006513952 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A01N 1/02,C12N 1/04 |
徳田 雅明 植木 正明 田岡 利宜也 筧 善行 何森 健 JP 5470597 特許公報(B2) 20140214 2006513952 20050526 希少糖D−アロースを利用した細胞・組織・臓器保存液及び該液を用いる保存方法 国立大学法人 香川大学 304028346 松谷化学工業株式会社 000188227 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 徳田 雅明 植木 正明 田岡 利宜也 筧 善行 何森 健 JP 2004155901 20040526 20140416 A01N 1/02 20060101AFI20140327BHJP C12N 1/04 20060101ALI20140327BHJP JPA01N1/02C12N1/04 A01N 1/02 特開平08−217601(JP,A) 特開2004−002418(JP,A) 特表2002−520290(JP,A) 国際公開第02/19820(WO,A1) 特開2000−344602(JP,A) 特開2000−159601(JP,A) 徳田雅明他「D−アロースの活性酸素産生抑制作用に基づく臓器虚血保護作用」生化学、2002年8月25日、第74巻、第8号、第1063頁左欄中段 何森健、徳田雅明「希少糖の生産計画と製品化の可能性」食品と開発、2003年、VOL.38、NO.1、66〜69頁 JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING 2003年、Vol.96、No.1、p.89−91 8 JP2005009691 20050526 WO2005115141 20051208 20 20080516 2012022075 20121107 吉野 公夫 藤本 義仁 黒瀬 雅一 本発明は、希少糖D-アロースによる動物またはヒト臓器、動植物の組織または細胞を低温保存で延長保存することを可能にする、商業的に実施可能で有効な保存液、及び、該液を用いる保存方法に関する。 人間の肺臓、心臓、肝臓、腎臓、膵臓等の臓器の臨床移植治療は、既に実用化され、日常化されているが、年々増加する移植待機患者に対するドナー不足の問題が深刻化し、手術迄の待機時間が延長している。また、臓器移植のドナーが出現しても、血液のように長期間の保存や供給体制の整備が十分なされていないのが現状である。 特に、移植臓器にあっては、低温保存が主流であり、約4〜24時間が保存限界であるため、早急な保存、蘇生技術の確立が要望されている。実際には、University of Wisconsin Solution(UW液)を使用したラット、うさぎ、ひひの摘出心臓の低温保存および蘇生にあっても、6〜18時間が限度である。また、このUW液とパーフルオロカーボン媒体とを組合せて用い、ラットの心臓を保存し、移植に成功したのは、24時間(5匹全部)から48時間(5匹中4匹)である。この理由は、摘出心臓が4℃の低温や虚血傷害に曝されると、細胞膜に損害が与えられるため、組織細胞が蘇生できないことによる。 傷病者における臓器の障害が甚だ大きく、通常の治療による回復が見込めない場合には、提供者の臓器を被提供者に移植して治療する臓器移植が行なわれる。提供者は生者の場合と死者の場合があり、死者の提供者には、心臓死による死者と脳死者がある。現行法(平成9年10月16日に施行の「臓器の移植に関する法律」)のもとでは、いずれの場合であっても、臓器の摘出は提供者本人の意思表示を必要とするところ、仏教思想に根ざす死生観の我国にあっては、心臓死の場合であっても、生前に臓器提供の意思表示をする提供者が甚だ少なく、提供者の数が被提供者に比べて圧倒的に少ない状況にある。 臓器は、生体から摘出されたり、提供者が死亡すると、急速に生存能力を失う。生存能力に劣る臓器を移植すると、たとえ、組織適合性のよい臓器であっても、被提供者の体内で所期の機能を発揮することなく死滅することとなる。したがって、組織適合性の問題を別にすれば、臓器移植が成功するかどうかは、臓器の摘出から移植するまでの時間をいかに短縮できるかに掛かっていると言っても過言ではない。提供者そのものが甚だ少ない現状においては、提供者が被提供者に近接して居住するケースは希有である。それ故に、臓器移植の現場においては、提供者に関する情報を日頃から緊密に交換し合うとか、摘出した臓器をヘリコプターやジェット機で空輸することにより、臓器の摘出から移植するまでの時間を極力短縮する努力がなされている。しかしながら、輸送時間に依存するこのような方法に限界があることは全く明らかであり、その限界を克服すべく、これまで、臓器を低温保存するための多種多様の保存剤が考案されてきた。 実用化されている臓器保存剤としては、グルコースと諸種の電解質を含んでなるユーロコリンズ液と、不浸透成分、膠質浸透圧成分、エネルギー代謝促進成分及びホルモンをそれぞれ含んでなるウィスコンシン液がよく知られている。しかしながら、ユーロコリンズ液は生存能力の高い腎臓には有効であるが、腎臓以外の臓器に対しては、組織・細胞に対する保護効果が充分でないと言われており、また、UW液は製剤として不安定であり、調製後は低温保存しなければならない欠点があると言われている。 斯かる欠点のない臓器保存剤として、特許文献1においては、トレハロース、ヒドロキシエチル澱粉及び諸種の電解質を含んでなる臓器保存剤が提案され、また、特許文献2〜4においては、合成物質であるL−アスコルビン酸 DL−α−トコフェロール燐酸ジエステルカリウム(以下、「EPC−K」と略記する。)を含んでなる臓器保存剤が提案されている。しかしながら、前者の臓器保存剤は、合成物質であるヒドロキシエチル澱粉の分子量と置換度をごく限られた範囲に調整しなければならないので、製剤の調製と恒常性の維持が難しいという問題がある。また、後者の臓器保存剤で用いられるEPC−Kは、水に対する溶解度が低いうえに、諸種の薬理作用も具備するので、被提供者の事情によっては、EPC−Kの配合量を下げたり、場合によっては、使用そのものを見合わせざるを得ない場合がある。特開平6−40801号公報特開平6−166624号公報特開平7−215801号公報特開平7−330501号公報 腎臓、肝臓、心臓、肺、すい臓、及び腸の臓器移植が現在利用できる。修復時に、移植器官はその脈管構造を通して保存溶液で洗い流される。この溶液は器官の温度の整復を容易にし、細胞の膨張を防ぎ、酸素遊離基を除去し、pHを制御し、虚血性損傷を減らし、安全な時間を拡大するようにデザインされているので、器官を体外に出したままで保存でき、器官の修復を再潅流で促進することができる。重要な保存溶液は、1967年にベルザー、1969年にコリンズにより導入され、その後ユーロ−コリンズ(EC)、マーシャル(1976)、ブレットシュナイダー(1998年のイズマーら参照)により改良された。 全ての溶液中、最も成功したウィスコンシン大学溶液(UW液)はベルザーとその同僚たちにより1988年に導入された。しかし、高品質の移植が直ちに機能を改善し、機能的移植寿命をより長くすることは明らかであり、該保存溶液の改良の必要性は未だ残っているといえる。 一方で現在、挙児を希望する夫婦の10%〜15%が不妊であり、最近の補助生殖技術( Assisted Reproductive Technology : ART )の導入は、従来絶対不妊と考えられていた夫婦にも挙児をもたらし、患者のQOL向上の一助となっている。その中でも生殖年齢にある男子が抗癌化学療法、精巣除去術を受ける場合、将来の挙児希望に備えての長期の精子凍結保存が施行されるケースが増加しており、更なる保存液の改良が求められている。同様にまだ受精していない卵子を回収してこれを凍結保存することも行われている。何らかの事情でタイミングよく精子との間に受精を起こせない場合や、放射線療法や化学療法のような治療により卵巣組織にも影響が及び卵子数が減少することが考えられ時に行われている。また受精卵の凍結保存も行われている。 非常に多くの研究者たちが改良された溶液の開発、及び特に多数の添加物を含む比較的簡易な溶液の開発に向かっている。異なる器官には非常に広範な異なる条件があるので、単一の万能な保存溶液を得ることを目的とすること合理的でないことは明らかであるが、本発明者は、特定の器官(腎臓)に適する保存溶液の基礎となる必須成分を探索すること、並びに、該保存溶液が単一の万能な保存溶液になり得ることを実験的に裏付けようとするものである。 具体的には、本発明は、(1)D-アロースを用いてUW液を特定の器官(腎臓)に適する保存溶液として改良することができることを実験的に裏付けようとするものである。また、(2)動物またはヒト臓器、動植物の組織または細胞を低温保存(−5乃至20℃)で延長保存することを可能にする、商業的に実施可能で有効な保存溶液、(3)動物またはヒト臓器、動植物の組織または細胞を低温保存(凍結が始まる温度から−196℃)で延長保存することを可能にする、商業的に実施可能で有効な保存溶液を提供することを目的とする。 さらに、(4)最近、精子または卵子の機能異常にOxidative stressが原因であるとする報告が散見されるところ、本発明は、希少糖(特に、希少糖のうち抗酸化作用を有するD-アロース)を用いて精子および/または卵子および/または受精卵の低温保存液または凍結保存液の改良を行うことを目的とする。本発明は、以下の(1)〜(4)の動物またはヒト臓器、および、動植物の細胞の低温保存のための保存液を要旨とする。(1)動物またはヒト臓器の−5乃至20℃の間の、および、動植物の細胞の凍結が始まる温度から−196℃までの間の低温保存のための保存液であって、前記液が0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含有する保存液。(2)動物またはヒト臓器が、ヒト腎臓である上記(1)の保存液。(3)動植物の細胞が、動物またはヒト由来の細胞である上記(1)の保存液。(4)動物またはヒト由来の細胞が、ヒトまたは動物精子および/または卵子および/または受精卵である上記(3)の保存液。本発明は、以下の(5)〜(8)の動物またはヒト臓器、および、動植物の細胞の低温保存方法を要旨とする。(5)低温での動物またはヒト臓器、および、動植物の細胞の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロース含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液を該臓器に灌流すること、もしくは該保存液に該臓器を浸漬すること、または該保存液に該細胞を混合すること、および(b)次いで、−5乃至20℃の間の低温に該臓器を冷やすこと、または凍結が始まる温度から−196℃までの温度の間の低温で該細胞を凍結すること、を具備する方法。(6)低温での動物またはヒト臓器の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液を該臓器に灌流すること、もしくは該保存液に該臓器を浸漬すること、または該保存液に該細胞を混合すること、および(b)次いで、−5乃至20℃の間の低温に該臓器を冷やすこと、を具備する方法。(7)低温で動物またはヒト細胞の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液と該細胞を混合すること、(b)次いで、凍結が始まる温度から−196℃までの温度の間の低温で該細胞を凍結すること、を具備する方法。(8)低温でヒトまたは動物精子および/または卵子および/または受精卵の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液と該精子および/または卵子および/または受精卵を混合すること、(b)次いで、凍結が始まる温度から−196℃までの温度の間の低で該精子および/または卵子および/または受精卵を凍結すること、を具備する方法。 1)D-アロースによるUW液を腎臓に適する保存液として改良することができる。 2)動物またはヒト臓器、および、動植物の組織または細胞を低温保存(−5乃至20℃)で延長保存することを可能にする、商業的に実施可能で有効な保存溶液を提供することができる。 3)動物またはヒト臓器、および、動植物の組織または細胞を低温保存(凍結が始まる温度から−196℃)で延長保存することを可能にする、商業的に実施可能で有効な保存溶液を提供することができる。 4)最近、精子または卵子の機能異常にOxidative stressが原因であるとする報告が散見されるところ、本発明は、希少糖のうち抗酸化作用を有する希少糖(特に、D-アロース)を用いて精子および/または卵子および/または受精卵の生存率、精子の運動率を向上する低温保存液または凍結保存液、並びに、それらの液を用いた保存方法を提供することができる。 次に、本発明で用いた希少糖、好ましくはD-アロースについて説明する。「希少糖」とは、自然界に微量にしか存在しない単糖と定義づけることができる。自然界に多量に存在する単糖は、D-グルコース、D-フラクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの7種類あり、それ以外の単糖は、自然界における存在量が少なく希少糖に分類することができる。また、糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD-ソルビトールおよびD-マンニトールが比較的多いが、それ以外のものは量的には少ないので、これらも本発明に従う希少糖と定義される。これらの希少糖は、これまで入手が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。 以下、これらの単糖の関係を一層容易に理解するために提案されたイズモリング(Izumoring、登録商標、以下省略)に基づき説明を加える(WO 03/097820参照)。 図17で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図17から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。 炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図18の下段および図19に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できることは、本発明者らの研究を含めた研究で知られている。 しかしながら、これまでの研究では上のグループ、真ん中のグループ、下のグループは酵素反応でつながっていなかった。つまり、上のグループに属しているD-グルコース(ブドウ糖)やD-フラクトースは自然界に多量に存在する糖であり安価であるが、これらから希少糖を合成することができなかった。ところが、本発明者らの研究の過程で、これを結ぶ酵素が発見された。それはガラクチトールからD-タガトースを合成する酵素を持つ菌の培養液中に、全く予期しなかったD-ソルボースが発見されたことに端を発する。その原因を調べた結果、この菌がD-タガトース3エピメラーゼ(DTE)という酵素を産生していることを発見した。 図18の下段および図19に示すように、このDTEはこれまで切れていたD-タガトースとD-ソルボースの間をつなぐ酵素であることがわかる。そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD-フラクトースとD-プシコース、L-ソルボースとL-タガトース、D-タガトースとD-ソルボース、L-プシコースとL-フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有するユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。 この図19をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D-グルコースとL-グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D-グルコースを出発点としてL-グルコースを生産しようと思えば、D-グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL-グルコースが作れることを示している。 炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D-グルコース、D-フラクトース、D-マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD-ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D-グルコースからD-フラクトース、D-プシコースを製造し、さらにD-アロース、アリトール、D-タリトールを製造することができるようになった。 炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。 次に、D-アロースについて説明する。D-アロースは、希少糖研究の中で特に各種生理活性を有することが判明してきた希少糖である。D-アロース(D-アロヘキソース)は、アルドース(アルドヘキソース)に分類されるアロースのD体であり、融点が178℃の六炭糖(C6H12O6)である。このD-アロースの製法としては、D-アロン酸ラクトンをナトリウムアマルガムで還元する方法による製法や、また、シェイクワット・ホセイン・プイヤン等による「ジャーナル・オブ・ファンメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング」第85巻、539ないし541頁(1993年)において記載されている、L-ラムノース・イソメラーゼを用いてD-プシコースから合成する製法がある。さらに近年では、特開2002-17392号公報に記載されている。D-プシコースを含有する溶液にD-キシロース・イソメラーゼを作用させて、D-プシコースからD-アロースを生成する製法が発明されている。特開2002-17392号公報に記載されている製法によれば、D-アロースを生成する場合には、未反応のD-プシコースと共に、新たに生成したD-アロースを含有している酵素反応液として得られる。 D-アロースに変換可能な基質を酵素反応でD-アロースに変換する際に用いる酵素の種類は限定されないが、D-プシコースからD-アロースを生産することができる酵素「L-ラムノースイソメラーゼ」を好ましいものとして例示される。L-ラムノースイソメラーゼは、「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」第85巻、539乃至541頁(1998年)で発表された公知酵素である。L-ラムノースからL-ラムニュロースへの異性化反応ならびにL-ラムニュロースからL-ラムノースへの異性化を触媒する酵素である。L-ラムノースイソメラーゼは、D-アロースとD-プシコースの間の異性化にも作用するので、D-プシコースからD-アロースを生産することができる酵素である。 本発明の保存液は、希少糖D-アロース単独の形態であっても、希少糖D-アロースとそれ以外の、例えば、グルコース、マルトース、シュークロース、ラクトース、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、ヒドロキシエチル澱粉、プルランなどの糖質、グルコン酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、β−ヒドロキシ酪酸、クエン酸などの有機酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二ナトリウム、燐酸水素二カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの電解質、L−アスコルビン酸、ビタミンEなどのビタミン、グリシン、グルタミン酸、リジンなどのアミノ酸、抗利尿ホルモン、インスリンなどのホルモン、クエン酸、クエン酸塩、ヘパリン、エデト酸ナトリウムなどの抗凝固剤、カルシウム拮抗剤、アドレナリンβ受容体拮抗剤、アンギオテンシン変換酵素阻害剤などの降圧剤、アデノシン酸燐酸などの核酸塩基、凍結防止蛋白質(以下、「AFP」と言う。)などの凍結防止剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、抗生物質、抗血小板因子、肝障害抑制剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、粘性剤、再吸収促進剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、防腐剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整剤などの、臓器保存剤に通常一般に配合される成分の1又は複数との組成物としての形態であってもよい。 本発明の保存液は、通常、液剤の形態に調製されるが、必要に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤などの固形剤に調製し、使用に際して、例えば、精製水、注射用蒸留水、滅菌精製水、生理食塩水又はこれらのいずれかと親水性有機溶剤の混液などの水性媒体に溶解、懸濁又は乳化して用いることもできる。また、本発明の保存液に用いているD-アロースを、例えば、ユーロコリンズ液やUW液などの公知の臓器保存液に配合して用いるときには、それらの臓器保存能を改善することができる。用途と製剤としての形態にもよるが、本発明の保存液における希少糖D-アロースの配合量としては、通常、0.0001%(w/w)以上、望ましくは、0.001%(w/w)以上とする。 本発明による保存液の使用方法について説明する。 本発明の保存液は従来公知の動物またはヒト臓器、および、動植物の組織または細胞の保存液と同様にして用いることができる。臓器保存液として用いる場合は、公知の臓器保存容器や潅流装置と組合せることによって、いわゆる、「単純冷却保存法」及び「低温持続潅流保存法」を適用することができ、例えば、摘出直後の臓器の初期潅流液、初期潅流後の浸漬保存液及び潅流保存液、さらには、血液を再潅流させる前のリンス液として用いることができる。臓器を浸漬又は潅流するときの浸透圧は250乃至500mOsm/l、望ましくは、300乃至450mOsm/lの範囲に、また、pHは3乃至10、望ましくは、6.5乃至8.0の範囲にそれぞれ設定すればよい。使用時における希少糖D-アロースの濃度は、通常、0.01mM以上、望ましくは、0.1乃至200mMの範囲とする。したがって、臓器保存液の形態によっては、使用に先立って、斯かる濃度になるように適宜溶解・希釈する。また、臓器を浸漬又は浸漬して保存する温度は、臓器の種類、摘出時の状態及び保存時間にもよるが、通常、体温を下回る温度、望ましくは、−5乃至20℃、さらに望ましくは、−3乃至15℃に設定する。 ヒト精子の場合には3〜5日間禁欲後、用手採取する。採取された精液は、無菌的に精子を分離後本保存液と混合し、速やかに液体窒素中で保存する。卵子の場合には、卵巣から採取したものに対して本保存液と混合し、速やかに液体窒素中で保存する。 本発明の動物またはヒト臓器、および、動植物の組織または細胞としては、ヒト、動物の、例えば、皮膚組織、粘膜組織などの生体の外部の組織、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、肺、腸管や胃などの消化器官、膀胱などの泌尿器、子宮や精巣などの生殖器官などの腹部や胸部の内臓組織、頭頸部の組織、骨、関節、靱帯、筋、血管、神経などの組織が挙げられ、これらは臓器移植用などのように生体外にある状態である。本発明は移植を前提とする臓器一般の保存を目的とするものであり、したがって、本発明でいう臓器は、例えば、腎臓、肝臓、膵臓、肺臓及び心臓などの狭義の臓器に限定されるべきではなく、それ以外の、例えば、骨髄、眼球、角膜、骨、皮膚、血管、心臓弁及び上皮小体などの組織をも包含する。また、細胞としては、動物細胞および植物細胞を問わず、また株化された培養細胞も包含する。細胞の例としては、血液細胞、精子、卵子、各種幹細胞をはじめ、市販されている研究用培養細胞などを広く包含する。また、本発明の臓器の保存液は、臓器移植の遺伝学的分類や解剖学的分類を問うものでなく、移植が遺伝学的に自己移植、異種移植及び同種移植のいずれであっても、解剖学的に同所性移植及び異所性移植のいずれであっても構わない。 細胞とはウイルスを除くすべての生物体の機能的な構成単位である。細胞は、外界と一枚の膜 (細胞膜) でさえぎられた構造をもち、分裂によって増殖する。一個の細胞からなる単細胞生物と複数個の細胞からなる多細胞生物に分類される。人間は、およそ70兆個の細胞からなる多細胞生物である。細胞の内部には、核、ミトコンドリア、ゴルジ体、中心体などが含まれている。植物細胞は、さらに葉緑体、発達した液胞を含み、動物細胞とは異なる構造をしているが、基本的には動物細胞と似ている。多細胞生物においては、細胞が集まり組織をなし、複数の組織が集まり器官あるいは臓器をなし、さらに複数の器官あるいは臓器の集合体が動植物の個体となる。従って、細胞をよく保存するものは、組織や器官・臓器をよく保存するポテンシャルを有すると考えてよい。 本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。 培養細胞を用いて、その冷凍保存に対する希少糖の効果を解析した。細胞の生存率、生存した細胞の増殖率などについて検討した。[方法]1.使用した細胞:Hela (ヒト子宮頸癌)、OVCAR-3(ヒト卵巣癌)、HuH-7(ヒト肝臓癌)、HaCaT(ヒト皮膚角化細胞)、HFB(ヒト繊維芽細胞)、NIH3T3(マウス繊維芽細胞)である。2.凍結保存 培地、Cell Bunker(市販保存液)、DMSOの上で各細胞にD-アロースなど糖類を25,50mMの濃度で添加し用いた。単糖類として用いたのは、自然に多量に存在するD-グルコース、D-フラクトース、D-マンノース、D-ガラクトースと、希少糖としてD-アロース、D-プシコース、D-アルトロース、アリトール、D-タリトール、L-ソルボースを使用した。また二糖類であるトレハロース(Trehalose)も用いた。細胞は-80℃凍結で24時間保存した。3.測定1)細胞生存率:一日後、細胞を解凍し、トリパンブルー染色法で生存率を判定した。2)細胞増殖:一日後、細胞を解凍し、細胞を0.25 x 104/well/0.1ml - 2 x 104/well/0.1mlとなるように96wellプレートにいた。一定の時間後で、MTT assayにより、細胞増殖を測定した。[結果]1)培養液単独での細胞解凍後の生存率については、より多くのHFB細胞が、希少糖添加により生き残ることを明らかにした(図1)。一般的に自然に多量に存在するD-グルコース、D-フラクトース、D-マンノース、D-ガラクトースに比べ、希少糖類を添加したものにおいて生存率が高かった。2)冷凍細胞の機能を見る実験として、細胞解凍後の増殖を調べたところ、D-アロースなどの希少糖を添加により保存したHFB細胞では、そうでないものに比べて増殖速度が速く、機能的にも傷害を受けていないことが判った(図2)。文献的にもよく使用されているトレハロースと比較したが、ほぼ同様の効果が得られた。NIH3T3細胞を用いて同様の実験を行ったが、同じ結果が得られた。3)次に細胞の冷凍保存に汎用されているCell Bankerに希少糖を添加し、保存能力に対する効果を比較検討した。Cell Bankerに希少糖を加えた保存液で凍結保存したHFB細胞およびNIH3T3細胞は、Cell Bankerのみに比べて、より強い増殖力があることが認められた(図3、NIH3T3の場合)。トレハロースと比較したが、ほぼ同様の効果が得られた。4)DMSO(dimethyl-sulfoxide)も通常10%を培養液に添加して冷凍保存に用いられているのでDMSOの系においても希少糖の作用を検討した。10%のDMSOを用いた系では、希少糖の効果の差がでにくいので、DMSOの濃度を1%に落としsub-optimalな条件での細胞保存効果を比較検討した。細胞としてはNIH3T3、OVCAR-3、HaCaT、HFB細胞などを用いた。DMSOによる保存効果が、D-アロースの添加により改善することが認められた(図4、NIH3T3細胞の場合、図5、OVCAR-3細胞の場合)。[考察]1)D-アロースなどの希少糖は、D-グルコースなどの天然型単糖に比べて生存率の向上において細胞保存効果が強い傾向が認められた。またその後の細胞の増殖を調べたところ、希少糖(D-アロース)存在下で保存したものは、そうでないものに比べて高かった。2)上記効果は、細胞保存効果があるとの報告(Biol Reprod. 2003 Oct;69 (4):1245-50. Epub 2003 Jun 11.など)があるトレハロースとの比較検討で、少なくとも同程度の効果があることが判明した。3)D-アロースなど希少糖を添加した細胞の冷凍保存効果があることから、D-アロースは細胞や臓器を長時間保存する有効な保存液を開発することが可能となるであろう。4)今後は、これまでの研究を継続し、通常用いている冷凍保存液に各種糖を添加した保存液を作製し、マイナス80度冷凍庫または液体窒素中に保存し、細胞の生存率および機能に対する影響を検討する。5)糖類の種類、濃度、希少糖の組み合わせ、保存期間をさまざまに変えて有効率を検討し、最良の条件を明らかにしていく。 培養細胞を用いて、その冷凍保存に対する希少糖の効果を解析した。細胞の生存率、生存した細胞の増殖率などについて検討した。実施例1は50mM程度の薄い濃度で調べたが、本発明者らは、もっと高い濃度でより有効であることを見出し、本実施例でそれを裏付けた。 [方法]1. 使用した細胞:Hela (ヒト子宮頸癌)、OVCAR-3(ヒト卵巣癌)、HaCaT(ヒト皮膚角化細胞)、HFB(ヒト繊維芽細胞)、NIH3T3 (マウス繊維芽細胞) である。2. 凍結保存 培地、Cell Banker(市販保存液)、DMSOの上で各細胞にD-alloseなど糖類を0.2, 0.4, 0.6,0.8, 1Mの濃度で添加し用いた。単糖類として用いたのは、自然に多量に存在するD-glucose,D-fructose, D-mannose, D-galactoseと、希少糖としてD-allose, D-altrose, D-psicose, L-psicose, D-sorbose, L-sorbose, D-tagatose, L-tagatos, L-fructoseを使用した。また二糖類であるtrehaloseも用いた。D-allose冷凍の細胞は-80℃及び液体窒素で24時間、1週間、4週間で凍結保存した。3. 測定1) 細胞生存率:細胞を解凍し、トリパンブルー染色法で生存率を判定した。2) 細胞増殖:D-allose、trehaloseの最適濃度で細胞を24時間冷凍保存し、解凍後、細胞を0.5−1 x 104/well/0.1mlとなるように96 well プレートにまいた。 一定の時間後で、MTTassay により、細胞増殖を測定した。 [結果]1)培養液単独の上でD-allose添加した時の解凍後の細胞の生存効果については、各細胞でのD-allose の最適濃度は0.4M-0.6Mである。その際の細胞生存率は約40-70%であることが判った(図6)。2)解凍後の細胞生存率についてほかの希少糖及び一般的に自然に多量に存在する糖(0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1M)との比較対照は現在進行中ではあるが、D-alloseを添加したものにおいてはほかの希少糖と比べると生存率が一番高い傾向がある。3)D-allose含有medium、Cell Banker細胞保存液、mediumのみ、trehalose含有mediumで保存した細胞のトリパンブルー染色を行った。白く見える細胞が生細胞であり、黒く見える細胞がトリパンブルーを取り込んだ死細胞である。Mediumのみと比べるとD-allose含有mediumで保存した場合に生き残った細胞が多く、これは文献的にもよく使用されているtrehalose含有保存液と程度のものであった(図7)。4)冷凍細胞の機能を見る実験として、D-alloseを添加し保存した細胞は、そうでないものに比べて増殖速度が速く、機能的にも通常用いている市販のCell Banker細胞保存液と比べて障害をあまり受けていないことが判った。trehaloseとも比較したが、ほぼ同様の効果が得られた(図8)。5)細胞の冷凍保存に汎用されている10%DMSO(dimethyl-sulfoxide)及びCell BankerにD-alloseを添加し、保存能力に対する効果を比較検討した。DMSO とCell Bankerのみに比べて、D-alloseの濃度が高いほど細胞の生存率が下がった。6)DMSOの濃度を1、2, 3%に落としsub-optimalな条件での細胞保存効果を比較検討した。細胞としてはOVCAR-3、HaCaT、HDF細胞を用いた。DMSOによる保存効果が、D-alloseの添加により1, 2% DMSO使用しても生存率は約70%以上になることが認められた (図9)。7)冷凍保存の時間が1ヶ月ほど伸びても細胞の生存率はあまり変わらなかった。8)冷凍保存の温度については液体窒素よりー80℃での生存率が、ずっとよかった。 [考察]1)今までの研究において、D-alloseの使用濃度は50mMであったが、余り大幅な改善効果が得られなかった。D-alloseの保存剤としての有効性を高めるためにはD-alloseの使用濃度は0.4―0.6Mが最適だった。2)D-alloseは細胞保存効果が強い傾向が認められた。また、解凍後の細胞の増殖能力について、D-allose存在下で保存したものは、そうでないものに比べて高かった。3)上記効果は、細胞保存効果があるとの報告(Biol Reprod. 2003 Oct;69 (4):1245-50. Epub 2003 Jun 11.など)があるtrehaloseとの比較検討でも、同様の効果があることが判明した。4)D-alloseは細胞に傷害性がある冷凍保存液DMSOの使用量を減少することができると思われる。5)D-allose冷凍保存剤としての保存温度は、−80℃で保存するのが最適である。6)D-alloseなど希少糖を添加した細胞には冷凍保存効果があることから、D-alloseは細胞や臓器を長時間保存するのに有効な保存液を開発することが可能となるであろう。7)今後は、これまでの研究を継続し、希少糖の種類、濃度、冷凍保存液の組み合わせなど変えて細胞の生存率および機能に対する影響を検討し、最良の条件を明らかにしていく。実験課題:D-アロースを用いたUW液の改良 [はじめに] 腎移植後の腎の生着率はUW液の開発とともに、飛躍的に改善した。しかし、移植腎の虚血は移植腎の急性拒絶反応や機能低下を引き起こし、生着率に大きく関与している。 腎虚血時、血管内皮ではATPが枯渇し、カルシウムや活性酸素(reactive oxygen species:ROS)が産生され、好中球活性化とICAM-1などの接着因子が発現する。また血球系ではマクロファージが活性化し、TNF(Tumor necrosis factor)やROSが放出され、その結果、好中球が活性化され、発現した接着因子により集積し、血管内皮から組織中に入り込み、エラスターゼなどの組織融解酵素を放出し、組織障害へと進展する。腎移植後の移植腎の機能障害および拒絶反応の予防には、各種の抗サイトカイン製剤、ICAM-1などの接着因子の阻害などが試みられている。 一方、虚血性腎不全からの尿細管細胞の再生にはEpidermal Growth Factor(EGF)、Hepatocyte Growth Factor(HGF)等の成長因子が関与している。これらの成長因子を虚血後に投与することで、腎障害を抑制し、腎の回復を促進するといわれている。 今まで以上に、保存液中の腎の障害性因子の産生を抑え、再生因子の産生を維持し、または増加させる働きのある腎保存液を改良することで、腎の保存時間の延長や移植腎の拒絶反応や機能障害を軽減することが可能となり、移植腎の生着が飛躍的に改善されることが期待される。 腎移植時には、(1)保存液中の腎の障害性因子の産生を抑え、再生因子の産生を維持または増加させる作用のもつ腎保存液への改良、および(2)移植後に組織障害の原因となる好中球の活性化および集積を抑制、の2点が腎の保存時間の延長や移植腎の拒絶反応や機能障害を軽減することが可能となり、移植腎の生着が飛躍的に改善されることが期待される。そこで、本実施例では、 1.D-アロースのUW保存液への添加による腎での白血球接着因子であるICAM-1と再生因子であるEGFに及ぼす影響、2.D-アロースの腎虚血再灌流後の白血球の活性化因子であるCINC-1および白血球の集積(MPO)に及ぼす影響を検討した。[方 法]1.対象: 200g〜280g、雄 ラット 実験準備:実験12時間前に絶食。ラットをネンブタールの腹腔内投与で麻酔後、腹を電気カミソリで剃毛し、エーテルで拭き、開腹する。腎動脈上の腹部大動脈をクランプする。腎動脈下の腹部大動脈からUW液を灌流できるようにする。グループ分け:対照群 :UW液のみ、D-アロース群:UW液にD-アロースを5mg/mlの濃度になるよう添加する。実験方法:対照群、D-アロース群はそれぞれのUW液で灌流後に腎臓を取り出し、対照群、D-アロース群それぞれのUW液に入れ、pre、12、24、48、72時間、4℃で保存する。評価:障害因子ICAM-1および、再生因子EGFの mRNAの発現をノーザンブロットにて検討した。2.対象:体重200〜250g前後の雄性ラット実験方法:ラットをネンブタールで麻酔後に腎虚血モデルを作製。腎虚血モデル:右腎摘出後、左腎血管を45分間クランプD-アロース群は腎虚血30分前に400mg/kgを静脈内投与する。対照は生食投与とする。評価:虚血再灌流後のCINC-1蛋白量, 白血球の集積の指標であるMPOの経時変化[結 果]1.アロース添加UW液によるICAM-1mRNA発現に及ぼす影響を図10に示す。 腎保存中のICAM-1mRNAの発現は、対照群では徐々に増加し24時間後に最高となっている。一方D-アロース群では、その発現は軽減している。特に12時間、24時間で明らかである。アロース添加UW液によるEGFmRNA発現に及ぼす影響を図11に示す。 対照群のEGF mRNAの発現は保存時間とともに低下しており再生因子の減少を示しているが、D-アロース群では48時間、72時間でも発現が維持されている。2.虚血再灌流後のCINC-1蛋白量は2時間をピークとなり以後減少するが、アロースの前投与で有意に減少させることができた。(図12) 白血球の集積の指標であるMPOは再灌流6時間後にピークとなるが、アロースにより抑制された。(図13) [考 察] 上記の結果から、D-アロースをUW液に添加すること腎移植後の移植腎の機能障害の原因となる接着因子であるICAM-1の発現を抑制し、腎の再生に作用するEGFの発現を保持している可能性が示唆された。さらに移植後と同じ状態である虚血再灌流後のCINC-1を産生を抑制し、MPOの抑制から腎への白血球の集積を減少することできる可能性が示唆された。 D-アロースには、抗酸化作用があることが証明されている(Murata et al. J. Bioengineering and Bioscience, 2003)。この作用は培養細胞の保存や、精子などの保存に有効であるという成績も得られている。こうした作用が移植腎の機能障害に対する保護作用につながることは十分に考えられたが、それに加えて上記作用が確認されたわけであり、より有効な保存液として使用できる可能性がある。 今後は、D-アロースの添加量の検討、ICAM-1やEGFの蛋白レベルでの有効性の確認と移植後の腎機能をBUN、Crなどで評価する必要がある。すでに、本発明者らはD-アロースの前投与でラット腎虚血再灌流後に好中球の活性化、遊走が阻害され、腎機能障害が軽減されることを証明している(WO 03/097820)。 これらの結果とともに、最終的には腎移植時の保存液の改良のみならず、移植腎を取り出す前から、D-アロースを投与し、その後腎臓を取り出し、D-アロース添加保存液で腎臓を保存することが考えられる。さらに移植後もD-アロースを継続投与することで、移植後の腎機能障害および拒絶反応を予防できる可能性が示唆された。このようなD-アロースによる新しい腎移植システムの確立を目指していく。 腎臓で観察されたこのD-アロースの効果は、他の臓器(肝臓、心臓、肺臓など)においても同様に有効であることが想定される。 現在、挙児を希望する夫婦の10%〜15%が不妊であり、最近の補助生殖技術(Assisted Reproductive Technology:ART)の導入は、従来絶対不妊と考えられていた夫婦にも挙児をもたらし、患者のQOL向上の一助となっている。その中でも生殖年齢にある男子が抗癌化学療法、精巣除去術を受ける場合、将来の挙児希望に備えての長期の精子凍結保存が施行されるケースが増加しており、更なる保存液の改良が求められている。 最近、Oxidative stressが精子の生存率、運動率に影響を与えるとする報告が散見され、注目されている。 本実施例では、本発明者らは、希少糖のうち抗酸化作用を有するD-アロースを用いて精子凍結保存液の改良を行い、その効果を検討した。[方法] 正常精液所見を示す24〜44歳(mean:29.9)の健常男子10名の精液を対象とした。すべての被検者から承諾を得るとともに、精子採取法の均一化を図った。 精液は3〜5日間の禁欲後に用手的に採取し、室温で液化させた後、80%Percoll液攪拌密度勾配法で洗浄濃縮した。得られた精子混濁液(0.2ml)と凍結保存液を等量混合して凍結用チューブ(住友ベークライト、セラムチューブ)に充填し、液体窒素蒸気凍結法にて凍結した後、液体窒素タンク内で保存した。凍結保存液(図14参照)はKS-II精子保存液内の糖モル数は変化させずにD-アロースとD-グルコースとの添加配分を変化させ(A群=1:0 B群=3:1 C群=1:1 D群=1:3 E群=0:1)使用した。1ヵ月後、凍結精子の融解は微温湯中(30℃)で振盪して行い、更に凍結保存液の除去および再濃縮の目的で密度勾配遠心法を行い作製した精子浮遊液を検討に供した。 検討法として、精子運動率はMakler Counting Chamberによる目視法とC-IMAGING SYSTEMSとで計測し、生存率は0.5%Eosin Y染色により算定した。 図15に精子凍結法を示した。まず液状化精子を80%パーコール液を用いて攪拌密度勾配法を施行し洗浄濃縮精子を得る。次に精子保存液と混合、液体窒素蒸気凍結法にて保存精子を凍結した後、液体窒素タンク内にて1ヶ月保存した。解凍後すぐにハンクス液で希釈、80%パーコール液を用いて攪拌密度勾配法による保存液除去と再濃縮を行った。[結果]1)C-IMAGING SYSTEMSによる計測は精子の密度、不純物、温度等の影響をうけ、再現性を欠いたため、今回は目視法による結果を供覧した。2)10検体の内、1検体はセラムチューブの破損により結果を得られなかった。3)D-アロースのみ用いた凍結保存液は、グルコースのみ用いた既存KS-II保存液と比べ、9例中8例で融解精子運動率が高かった。(P=0.0469、Mann-Whitney U-test、図16参照)4)D-アロースを用いた凍結保存液は、生存率においては、はっきりとした効果を示さなかった。(図17参照)[考察]1)D-アロースの持つ生理活性が融解精子の運動率の向上に有益に働いている可能性が高い。2)D-アロースが持つ生理活性と精子に対する作用機序を今後検討していく必要がある。3)まず、D-アロースを用いた精子培養液を用いて、精子運動率の経時的変化を観察する実験系を確立、施行していく。4)卵子についても同様の実験を検討する。5)動物の精子、卵子、受精卵を用いて保存実験を行う。6)実施例2で認められたように、D-アロースの高濃度領域において、細胞冷凍保存効果が高いことが検証されている。精子の保存においても、高濃度のD-アロースを用いた解析が必要である。 腎臓は、生体において最も酸化的ストレスの高い臓器の一つである。急性腎不全、薬剤惹起性腎障害、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、腎移植など各種腎疾患の成立、進展機序に活性酸素、フリーラジカルが関与したラジカル傷害の重要性が古くより指摘されてきた。しかしながら、これまで腎疾患に対する抗酸化剤の効果はいまだ十分には解明されておらず、各種腎疾患の予防および治療ならびに臓器保存において、腎疾患の治療、予防上あるいは臓器保存剤として有用な化合物が求められている。一方、希少糖には活性酸素産生抑制作用および活性酸素消去作用があり、細胞や臓器を虚血状態で長期保存した時に発生する活性酸素対策に有効であると思われる。この性質を利用すれば、細胞の有効な保存液の開発の可能性があり、また、D-アロースによる新しい腎移植システムが確立される可能性がある。 また本発明者らはすでに虚血障害保護作用を、肝臓、心臓、皮膚など他の臓器においても観察している。腎臓のみならず多くの臓器の保存剤へのD-アロースの応用が期待できる。 現在挙児を希望する夫婦の10%〜15%が不妊であり、最近の補助生殖技術(Assisted Reproductive Technology:ART)の導入は、従来絶対不妊と考えられていた夫婦にも挙児をもたらし、患者のQOL向上の一助となっている。この治療において、精子あるいは卵子の凍結保存は不可欠であり、よりよく機能を保持したままで長期間凍結保存できる方法の開発は、これらの治療に大きなメリットを及ぼすと考えられる。また動物では、特に牛などの家畜や魚類において精子、卵子、受精卵の凍結保存は一般に広く行われているので、この分野においても重要な方法となり得る。 さらに精子のみならず、卵子あるいは受精卵の冷凍保存も重要になってきている。これらの対象に対しても有効な保存液の開発の可能性がある。HFB cells解凍後生存率の比較を示す図面である。HFB cells解凍後の増殖能の比較を示す図面である。NIH 3T3 cells解凍後の増殖能の比較を示す図面である。HFB cells解凍後の増殖能の比較を示す図面である。OVCAR-3 cells解凍後の増殖能の比較を示す図面である。D-allose濃度と細胞生存率との関係を示す図面である。トリパンブルー染色法で細胞生存の判定を示す図面である。細胞解凍後の増殖能の比較を示す図面である。D-alloseと低い濃度DMSOの組み合わせの細胞生存率の検討を示す図面である。アロース添加UW液によるICAM-1mRNA発現に及ぼす影響を示す図面である。アロース添加UW液によるEGFmRNA発現に及ぼす影響を示す図面である。アロース添加UW液によるCINC-1発現量に及ぼす影響を示す図面である。アロース添加UW液による腎への白血球集積に及ぼす影響を示す図面である。KS−II精子保存液の組成(D-グルコースをD-アロースに置換した)を示す図面である。。精子凍結法を示した図面であるD-アロースを用いた凍結保存液による凍結融解精子運動率を示す図面である。D-アロースを用いた凍結保存液による凍結融解精子生存率を示す図面である。図19の下段のイズモリングC6の説明図である。イズモリング(Izumoring)連携図である。動物またはヒト臓器の−5乃至20℃の間の、および、動植物の細胞の凍結が始まる温度から−196℃までの間の低温保存のための保存液であって、前記液が0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含有する保存液。動物またはヒト臓器が、ヒト腎臓である請求項1の保存液。動植物の細胞が、動物またはヒト由来の細胞である請求項1の保存液。動物またはヒト由来の細胞が、ヒトまたは動物精子および/または卵子および/または受精卵である請求項3の保存液。低温での動物またはヒト臓器、および、動植物の細胞の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液を該臓器に灌流することもしくは該保存液に該臓器を浸漬すること、または該保存液に該細胞を混合すること、および(b)次いで、−5乃至20℃の間の低温に該臓器を冷やすこと、または凍結が始まる温度から−196℃までの温度の間の低温で該細胞を凍結すること、を具備する方法。低温での動物またはヒト臓器の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液を該臓器に灌流すること、もしくは該保存液に該臓器を浸漬すること、および(b)次いで、−5乃至20℃の間の低温に該臓器を冷やすこと、を具備する方法。低温で動物またはヒト細胞の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液と該細胞を混合すること、(b)次いで、凍結が始まる温度から−196℃までの温度の間の低温で該細胞を凍結すること、を具備する方法。低温でヒトまたは動物精子および/または卵子および/または受精卵の低温保存方法であって、0.025M−0.6Mの濃度領域の希少糖D-アロースを含む低温保存のための保存液を用いて、(a)まず、該保存液と該精子および/または卵子および/または受精卵を混合すること、(b)次いで、凍結が始まる温度から−196℃までの温度の間の低で該精子および/または卵子および/または受精卵を凍結すること、を具備する方法。