タイトル: | 特許公報(B2)_新規な伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、及び当該ウイルスを含有するワクチン |
出願番号: | 2006512238 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 7/00,C12N 7/08,C07K 14/08,C12N 15/09,A61K 39/12,A61P 31/14 |
山崎 憲一 高瀬 公三 太田 秀幸 坂口 正士 JP 4684223 特許公報(B2) 20110218 2006512238 20040907 新規な伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、及び当該ウイルスを含有するワクチン 一般財団法人化学及血清療法研究所 000173555 田村 恭生 100068526 鮫島 睦 100100158 品川 永敏 100126778 森本 靖 100150500 山中 伸一郎 100156111 山崎 憲一 高瀬 公三 太田 秀幸 坂口 正士 JP 2004106922 20040331 20110518 C12N 7/00 20060101AFI20110421BHJP C12N 7/08 20060101ALI20110421BHJP C07K 14/08 20060101ALI20110421BHJP C12N 15/09 20060101ALI20110421BHJP A61K 39/12 20060101ALI20110421BHJP A61P 31/14 20060101ALI20110421BHJP JPC12N7/00C12N7/08C07K14/08C12N15/00 AA61K39/12A61P31/14 C12N 7/00 A61K 39/12 A61P 31/14 C07K 14/08 C12N 7/08 C12N 15/09 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq SwissProt/PIR/GeneSeq PubMed Science Direct 特開2002−045175(JP,A) 特開2001−086983(JP,A) 特開平05−194597(JP,A) 17 JP2004012977 20040907 WO2005100554 20051027 15 20070425 冨永 みどり 本発明は新規な鳥類伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス株に関する。さらに詳細には当該新規ウイルス株を利用した伝染性ファブリキウス嚢病のワクチン及びワクチン組成物に関する。 伝染性ファブリキウス嚢病(Infectious Bursal Disease;以下、「IBD」という)は、IBDウイルスに起因する鶏や七面鳥等の家禽に発症する急性伝染病である。IBDウイルスはビルナウイルスに属する二本鎖のRNAウイルスである。血清型はタイプ1とタイプ2の2型に分けられ、タイプ1は鶏由来であり鶏に対して病原性をもつが、タイプ2は七面鳥から多く分離される病原性のきわめて弱いウイルスである。IBDウイルスの遺伝子は、長さ約3.3kbの分節Aと約2.8kbの分節Bを有する。分節Aは110kDの蛋白(NH2−VP2−VP4−VP3−COOH)をコードし、このうち構造蛋白であるVP2は主要な宿主防御抗原である。さらに、VP2内の超可変領域(VP2中の206〜350番目のアミノ酸に対応する領域)の変化によってIBDウイルスの抗原性あるいは病原性が変化する。一方、分節Bは90kDの多機能蛋白(ポリメラーゼ)であるVP1をコードする。 ファブリキウス嚢(以下、「F嚢」という)は鳥類の主要リンパ組織の一つで、鶏では生後約10週齢で最大となり性成熟とともに退縮する。IBDウイルスはF嚢のB前駆細胞に強い親和性を示し、感染することにより免疫抑制を起こし、日和見感染やワクチン免疫の不成立の原因となる。生後3〜12週齢の雛で感受性が高く、IBD発症例では元気消失、羽毛逆立て、沈鬱、下痢等の症状を示し重症例では死亡する。病理学的にはF嚢の腫大又は萎縮、水腫、黄色化、出血等を認め、また、胸腺の萎縮、骨格筋の出血、脾臓の腫大、白色斑点形成、肝臓の腫大、退色、腎臓の腫大、退色、尿細管の拡張等がみられる。死亡に至らない例でも、他の感染症を併発し、経済的に大きな被害が出る場合がある。 IBDは1950年代後半にアメリカ、デラウェア州のガンボロ地方で初めて発生した。日本では1960年代前半に初めて報告され、現在では全国的に発生をみる。また、1990年の夏以降、各地で従来型IBDウイルス感染鶏群に比較して非常に高い死亡率(数%から約60%)で特徴づけられる高度病原性IBDが大発生し、甚大な被害をもたらした。 IBDは効果的な治療法がないため、ワクチン接種による予防が重要な対処法となっている。一般的なワクチネーション法としては、種鶏に対して不活化ワクチンを投与し雛の移行抗体を高め、さらに、生後約2〜4週齢の雛に対して生ワクチンを投与し抗体価を高める方法がある。 IBDワクチンとしては現在までに種々のものが報告されている。例えば、IBDウイルス構造蛋白であるVP2、VP3、VP4蛋白を含むワクチン(特許文献1)、IBDウイルスのIQ株及び91−6株の不活化ワクチン(特許文献2)、IBDウイルスのYH−91−CLC株を利用したワクチン(特許文献3)等が報告されている。 また、高度病原性IBDウイルスより弱毒化及び培養細胞馴化された株の超可変領域のアミノ酸に関しては、279番目のアミノ酸ではアスパラギン酸がアスパラギンへ、284番目のアミノ酸ではアラニンがスレオニンへ変異することが予測されるとの報告がある(非特許文献1)。 現在実用化されている生ワクチンは、高度病原性IBDに対しても有効であるが、近年日本国内ではこれらの生ワクチンを投与しているにもかかわらずIBDの発生がみられる事例が報告されている。特開平5−194597号公報特開平7−67634号公報特開2001−86983号公報Yamaguchi, T. et al., Virology, 223, pp.219-223 (1996) 野外では従来のワクチンでは防御できない新しい性状を有する変異ウイルス株が出現するため、そのウイルス株に適した新規な株を使用したワクチンの開発が必要とされている。 本発明者らは、この様な状況から鋭意研究を進めた結果、従来型ワクチンとの抗原性において交差反応性が低いIBDウイルスTY2株を野外から分離し、その性状を確認するとともに、TY2株を発育鶏卵の漿尿膜(Chorioallantoic membrane;以下、「CAM」という)、及び/又は鶏胚で継代することで、雛に対して病原性が低い株、及びその鶏胚線維芽細胞(Chicken embryo fibroblast;以下、「CEF」という)に馴化した株の作出に成功した。 すなわち本発明は、(1)新規なIBDウイルスTY2株、(2)該ウイルス株の継代株、(3)IBDウイルスTY2株又は該ウイルス株の継代株を有効成分とするIBDワクチン、(4)IBDウイルスTY2株又は該ウイルス株の継代株を有効成分とし、薬理学的に許容される担体を含むIBDワクチン組成物、(5)配列番号1に示したアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、(6)配列番号1に示したアミノ酸配列を含むペプチド、(7)配列番号3に示したアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、(8)配列番号3に示したアミノ酸配列を含むペプチド、(9)配列番号4又は配列番号5に示したアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子、(10)配列番号4又は配列番号5に示したアミノ酸配列を含むペプチドに関するものである。 IBDウイルスTY2株又は当該ウイルスの継代株によって、従来のワクチンでは防御できない新しい性状を有するIBD変異ウイルス株に対して有効なワクチンを得ることができる。IBDウイルス分離のための試験スケジュールの概要を示した図。分離された各IBDウイルス及び既知のIBDウイルス株におけるTaqIによる遺伝子切断パターンに関する電気泳動の結果を示した写真。A〜Cは切断パターンを示す。分離された各IBDウイルス及び既知のIBDウイルス株におけるSspIによる遺伝子切断パターンに関する電気泳動の結果を示した写真。D〜Eは切断パターンを示す。分離された各IBDウイルス及び既知のIBDウイルス株におけるMvaIによる遺伝子切断パターンに関する電気泳動の結果を示した写真。F〜Gは切断パターンを示す。IBDウイルスTY2株の卵内接種によるIBDウイルスK株に対する中和抗体価(幾何平均値)の推移を示した図。IBDウイルスTY2株及び他のIBDワクチン株とのアミノ酸配列の比較を示した図。 従来のワクチンでは防御できない新規なIBDウイルスTY2株は、実施例1に記載した方法に準じて野外より分離することが可能である。一般に、農場で飼われている鶏は、IBD生ワクチンが接種されているため、接種された生ワクチンと異なる抗原域を有する新規な野外株の感染を受けた場合、当該鶏体内では、新規なウイルスのみならず、生ワクチン接種によるワクチンウイルス株(従来の抗原域を有するウイルス)が混在して増殖する場合があるため、新規なウイルスのみを選択的に分離することは困難である。また、いかなるIBDワクチンによっても免疫されてない非免疫SPF鶏を農場に同居させても、従来型ウイルスと新規なウイルスが同時に感染しうるため、上記と同様、新規なウイルスを分離することは困難である。 一方、現在使用されているIBD不活化ワクチンで免疫したSPF鶏を野外の農場におとり鶏として同居させると、不活化ワクチン株の抗原域と重複する抗原域を有する野外株(従来のワクチンで防御できていた株)は当該おとり鶏体内に侵入しても増殖することはできないが、ワクチン株と抗原域が異なる野外株であれば、鶏体内で増殖させることができる。また、当該おとり鶏は不活化ワクチンを用いて免疫を獲得させていることにより、生ワクチン接種鶏とは異なり、鶏体内でのワクチンウイルス株の増殖も起こらないので、抗原域の異なる野外ウイルス株を分離するのに適している。従って、このような手法を用いることにより従来のワクチンでは防御できない新規なIBDウイルス株を入手することができる。 本発明により得られたIBDウイルスTY2株の遺伝子型を、TaqI、SspI及びMvaIの3種類の制限酵素を用いた制限酵素断片長多型(RFLP)により既知のIBDウイルス株と比較したところ、TY2株は、TaqI及びSspIにより切断されず、MvaIにより約52bp及び約422bpに切断され、既知のIBDウイルス株とは異なる切断パターンを示した(実施例1)。従って、本発明により得られたIBDウイルスTY2株は、既知のIBDウイルス株と明らかに異なる遺伝子型を有することが判明した。 IBDウイルスTY2株の主要な宿主防御抗原部位であるVP2内の超可変領域(206〜350番目のアミノ酸に対応する配列)のアミノ酸配列を配列番号3に示す。また、当該TY2株のVP2のアミノ酸配列及び当該アミノ酸配列をコードする塩基配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。 本発明により得られたIBDウイルスTY2株のVP2内の超可変領域のアミノ酸配列について既知のIBDウイルス株[K株(配列番号6)、228E株(配列番号7)、2512株(配列番号8)、Bursine2(ルカートBP)株(配列番号9)、D78株(配列番号10)及びV877株(配列番号11)]とのホモロジー解析を行ったところ、既知のIBDウイルス株との相同性は最大で92.4%、最も低いものでは89.7%であった。 本発明により得られたIBDウイルスTY2株の病原性を調べたところ、実施例2に記載のように、臨床症状観察において異常は認められず致死病原性は低かった。しかしながら、TY2株投与後の剖検による経時的肉眼病変観察において、投与後3日目よりF嚢の萎縮が認められ、投与後4日目以降ではF嚢対体重比が0.2%以下となり重度であったこと、また投与後3〜5日目までにF嚢の膠様化が認められたことなどから、F嚢に対する病原性は強いことが判明した(実施例2)。 本発明により得られたIBDウイルスTY2株の他のIBDウイルス株との交差反応性については、少なくともK株との交差反応性の低いことがわかった(実施例3)。 本発明により得られたIBDウイルスTY2株は、SPF発育鶏卵に卵内接種したときに既知のIBDウイルス株に対する中和抗体価の上昇を示し、高度病原性IBDウイルスに対する優れた防御能が確認された(実施例4)。 また、当該TY2株を継代培養することにより弱毒化された継代株が得られた。当該継代株は、SPF鶏に投与すると、F嚢の傷害は認められず、F嚢に対する病原性が軽減されていることがわかった(実施例8)。当該継代株はまた、VP2のアミノ酸配列において、284番目のアミノ酸(アラニン)がスレオニンに置換されていることを特徴とする。さらに、当該継代株は、IBDウイルスK株に対する抗体産生性が確認されており、交差性の低いと考えられる従来型のIBDウイルスに対しても免疫原性を有していることが明らかになった(実施例9)。 当該継代株の一例として、CEFに馴化させたIBDウイルスTY2−CEF1株及びTY2−CEF2株を挙げるが、これらTY2−CEF株のVP2内の超可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号4及び配列番号5に示す。 本発明に係るIBDウイルスTY2株等の遺伝子配列の解析は、通常行われる公知の方法で実施可能である。例えばMolecular Cloning;A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York (2001)等に記載の方法に従って行うことができる。 本発明におけるワクチンとは、IBDウイルスTY2株、あるいはTY2株と同等の抗原性を有するIBDウイルス株を培養後不活化して得られる不活化ワクチン、又は、弱毒化した生ウイルスそのものを利用する生ワクチンを意味する。生ワクチンウイルス株は、継代培養等公知の方法(Lukert, P.D., et al. Disease of Poultry, 9th ed., Iowa State Univ. Press, 690-699, 1991)で作出可能であり、例えば発育鶏卵を用いたCAM継代やCEFで継代することで弱毒化し、さらにプラッククローニング等の方法で、生ワクチンウイルス株を得ることができる。生ワクチンはこの株を発育鶏卵又はCEF等の培養細胞を用いて培養したものである。不活化ワクチンは加熱、紫外線照射等の物理的処理、ホルマリン、ベータプロピオラクトン等による化学的処理等公知の方法により不活化したものである。さらにまた、TY2株又は継代株のVP2シークエンスを用いることによりDNAワクチン又はベクターワクチンを構築することも可能である(Tsukamoto. K, et al., Virology, 257, 352-362, 1999 及びSonoda. K, et al., J. of Virology, 74(7), 3217-26, 2000)。 本発明に係るワクチンの投与経路としては、経口、点眼、点鼻、筋肉内、静脈内、皮下又は卵内が挙げられる。また、不活化ワクチンとして投与する場合には筋肉内、腹腔内又は皮下への投与が好ましい。この際、ゴマ油、菜種油等の植物油、軽質流動パラフィン等の鉱物オイル、水酸化アルミニウムゲル、リン酸アルミニウムゲル等の公知のアジュバントとともに投与して効果を高めることができる。 本発明に係るIBDワクチンを適用する対象動物は、鶏、七面鳥、鶉、家鴨等の家禽である。投与する時期は任意で限定されないが、例えばブロイラー等の肉用鶏の場合には、移行抗体が消失する生後2〜4週齢の雛に生ワクチンを投与することが好ましい。また、採卵鶏あるいは種鶏であれば生ワクチンを生後2〜4週齢、生又は不活化ワクチンを70日前後に投与する。さらに、不活化ワクチンのオイルアジュバント製剤であれば生後80日前後に1回、オイル以外の例えば水酸化アルミニウムゲル製剤であれば生後約80日及び約110日の2回投与することが好ましい。 本発明に係るIBDウイルスTY2株、及び/又は継代株の培養方法は、特に限定されず公知の方法を用いればよい。その一例を以下に示す。IBDウイルスTY2株継代株を規定量(例えば104.0TCID50/mL)になるように維持用培地、あるいはPBSを用いて調製したウイルス液を、常法によりあらかじめ37℃、5%CO2存在下で24〜48時間培養したCEF(面積:25cm2の細胞培養ボトル)に1.0mL接種する。その後37℃、5%CO2存在下で24〜96時間培養し、この培養物上清をすべて回収し、4℃で3000rpm、20分間遠心分離後、上清を回収する。 なお、本発明に係るIBDウイルスTY2株及び該ウイルスの継代株は、−80℃以下で長期間保存可能であって、財団法人化学及血清療法研究所に保管されており、頒布可能な状態にある。 以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。《実施例1:コマーシャルブロイラー農場からのIBDウイルスの分離》 実験室内において特定病原体除去(Specific pathogen free;以下、「SPF」という)鶏の1及び3週齢時に従来型IBDウイルス株を用いたIBD不活化ワクチン(日生研IBD不活化ワクチン、日生研株式会社)で免疫して得られた4週齢の高度免疫SPF鶏(免疫SPF鶏)及び4週齢の無処置SPF鶏を、コマーシャルブロイラー農場の2週齢ブロイラーと5週間同居させた。ブロイラー農場ではブロイラーの2、3及び4週齢時に市販のIBD弱毒生ワクチン(IBD生ワクチン“化血研”、財団法人化学及血清療法研究所)を飲水投与した(図1)。 免疫SPF鶏、無処置SPF鶏及びブロイラー鶏を同居後毎週5羽ずつ実験室内に持ち帰り剖検後F嚢を採材した。採材したF嚢を群ごとにプールして10%F嚢乳剤を作製し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅後、TaqI、SspI及びMvaIの3種類の制限酵素を用いたRFLPにより遺伝子型を調べた。ウイルス核酸の抽出はQIAamp Viral RNA Mini Kit(キアゲン株式会社)を用いて行った。採取したF嚢乳剤140μLから60μLのRNA抽出液を作製した。このウイルスRNA抽出液を鋳型としてOneStep RT-PCR Kit(キアゲン株式会社)を利用し、配列番号12及び13に示すプライマー(P2.3(5’-CCCAGAGTCTACACCATA-3’)及びRP5.3(5’-TCCTGTTGCCACTCTTTC-3’))を用いてVP2の超可変領域に対してRT−PCRを実施した。 表1に示す逆転写反応液を調製し、50℃30分で逆転写反応を行い、次に94℃4分間の加熱により逆転写酵素を失活させた後、94℃1分間の熱変性、52℃1分間のアニーリング、72℃2分間の伸長反応を25サイクル実施し、さらに72℃10分間の伸長反応を行った。 得られた遺伝子断片について、RFLP解析に十分量の遺伝子断片を確保する目的でさらに同一のプライマーを用いてPCRを実施した。表2に示す反応液を調製し、94℃4分間の加熱後、94℃1分間の熱変性、52℃1分間のアニーリング、72℃2分間の伸長反応を25サイクル実施し、さらに72℃10分間の伸長反応を行った。1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動によりPCR産物として、目的のDNA断片が得られているのを確認した。RFLP解析では、このDNA断片1μLに対し、TaqI1μL、10×Hバッファー2μL、滅菌蒸留水16μLで反応液を調製後、65℃60分間、SspI1μL、10×Iバッファー2μL、滅菌蒸留水16μLで反応液を調製後、37℃60分間、さらにMvaI1μL、10×Kバッファー2μL、滅菌蒸留水16μLで反応液を調製して37℃60分間、それぞれ反応させた後、PAGEL NPG-1020L(アトー株式会社)を用いた電気泳動により切断状況を確認した。 その結果、以下のA〜Gのパターンに分けることができた。 A:TaqIにより全く切断されなかったパターン B:TaqIにより約223bp及び約251bpに切断されたパターン C:TaqIにより約100bp及び約374bpに切断されたパターン D:SspIにより全く切断されなかったパターン E:SspIにより約201bp及び約273bpに切断されたパターン F:MvaIにより約52、59、70、139及び154bpに切断されたパターン G:MvaIにより約52bp及び約422bpに切断されたパターン 無処置SPF鶏の同居後1週目においてのみ当該農場で使用したIBD弱毒生ワクチンと同じ遺伝子型(遺伝子切断パターンI:A,D,F)を検出した他は、免疫SPF鶏及び無処置SPF鶏では同居後2及び3週目、ブロイラー鶏では同居後2〜4週目に、従来型の弱毒生ワクチン又は高度病原性株とは異なる遺伝子型(遺伝子切断パターンII:A,D,G)を検出した(図2〜4、表3及び4)。1):同居後週数1):同居させたSPF鶏の週齢*:IBD弱毒生ワクチン(K株;遺伝子切断パターンはI)を全群に投与《実施例2:IBDウイルスTY2株のSPF鶏に対する病原性》 実施例1において、同居後2週目の免疫SPF鶏由来10%F嚢乳剤を5週齢のSPF鶏へ経口投与しF嚢で2代継代した株をIBDウイルスTY2株とし、本株のSPF鶏に対する病原性を確認した。IBDウイルスTY2株(104.1EID50/mL)をPBSで10倍希釈したものを5週齢SPF鶏40羽に1.0mL経口投与して投与後3、4、5、7、10及び14日目に6羽ずつ剖検を行い、経時的にF嚢病変を観察した。未処置対照としてSPF鶏36羽を準備し、投与前及びTY2株投与群と同様のスケジュール(投与後4日目は除く)で6羽ずつ剖検した。F嚢については重量測定し対体重比を算出した。また、組織切片作製用に10%ホルマリン液で固定してHE染色標本を作製し、病理組織学的検索を実施した。 その結果、TY2株投与後の臨床症状観察において、異常は認められなかった。TY2株投与後の剖検による経時的肉眼病変観察において、投与後3日目よりF嚢の萎縮が認められ、投与後4日目以降ではF嚢対体重比が0.2%以下となり重度であった。また、投与後3〜5日目までは、F嚢の膠様化を認めた(表5)。F嚢以外の剖検所見では、投与後3〜10日目まで脾臓の腫大・白斑を認め、投与後4〜10日目には胸腺の萎縮を認めた。F嚢の病理組織学的検索では、投与後3日目からリンパ球の減少・消失が中等度に、またリンパ濾胞の小型化が重度にそれぞれ認められた。リンパ濾胞内では偽好酸球を中心とする炎症性細胞の浸潤が軽度にみられ、間質領域では水腫も認められた。投与後7日目では、リンパ球の壊死、濾胞内では大食細胞による貪食像、細網細胞による網眼が顕著にみられ、皮質領域ではリンパ球減少によるひ薄化、及び結合組織の増生が認められた。一方、投与後14日目では濾胞構造の再構築や活性化した濾胞が認められ、濾胞の回復像は認められるものの、完全に回復した濾胞はほとんど存在せず、完全な回復までには時間がかかるものと推察された。《実施例3:IBDウイルスTY2株の他のIBDウイルス株との交差反応性》 IBDウイルスTY2株の従来型IBDウイルスであるK株(弱毒生ワクチン株)に対する卵内交差中和試験を実施し、従来株に対する交差反応性を検討した。TY2株抗血清、K株抗血清、及びSPF鶏対照血清の各PBS5倍希釈液とIBDウイルスTY2株及びK株をPBSで10-1〜10-4倍まで各10倍階段希釈した液とをそれぞれ0.6mLずつ等量混合し、37℃で1時間反応させた(中和反応)。中和反応後の各混合液を0.2mLずつ5個の11日齢SPF発育鶏卵CAM上に接種し、接種後1週目に生死確認、さらに生存卵については開卵後胎児の肝臓所見によりウイルス増殖の有無を確認し、SPF鶏抗血清と各ウイルス株のタイターを元に、それぞれの中和指数を算出した(表6)。 その結果、TY2株とK株は交差反応性が低いことが示唆された。a):SPF対照血清と反応させて得られたウイルス含有量(Log2EID50/mL)b):中和指数(Log2EID50/mL)《実施例4:IBDウイルスTY2株の卵内接種における免疫原性及び高度病原性IBDウイルスに対する防御能》 IBDウイルスTY2株を4週齢SPF鶏のF嚢で1代継代し、さらに11日齢SPF発育鶏卵のCAM上接種により4代継代した株を移行抗体陽性鶏(レイヤー)由来の19日齢発育鶏卵に104.0EID50/0.05mL/卵で卵内接種した(試験群)。対照には非接種群を準備した。孵化後10週齢まで毎週各群8羽ずつ剖検して各群のIBDウイルスK株に対する中和抗体価を測定するとともに、高度病原性IBDウイルスに対する防御能を調べる目的で6週及び9週齢時に10羽ずつ高度病原性IBDウイルスK539株で攻撃し、攻撃後4日目までの生死及び生存鶏については剖検によるF嚢所見により防御の有無を確認した。 その結果、孵化直後は両群ともに高い移行抗体を保有しており、その抗体価は経時的に減少したが、TY2株を接種した試験群では孵化後5週齢以降に中和抗体価の上昇を認め、孵化後10週齢まで高値を維持した(図5)。また、6週及び9週齢時のIBDウイルスK539株による攻撃に対しても試験群では全例防御を示し、高度病原性IBDウイルスに対する優れた防御能が確認された(表7)。a):攻撃防御の有無(防御羽数/攻撃羽数)《実施例5:塩基配列の決定》 IBDウイルスTY2株の遺伝子のうち文節Aによってコードされる構造蛋白であるVP2の塩基配列は、日立計測器サービス株式会社(茨城県つくば市)又はタカラバイオ株式会社ドラゴンジェノミクスセンター(三重県四日市市)へ依頼し、決定された(配列番号2)。《実施例6:IBDウイルスTY2株の他のIBDワクチン株とのホモロジー検索》 ホモロジー解析にはIBDウイルスのVP2領域の一部である206〜350番目のアミノ酸配列(超可変領域)を用いた。既知のIBDワクチン株としてK株、228E株、2512株、Bursine2株、D78株及びV877株を用いた。それぞれの株の配列はGSDB、DDBJ、EMBL及びNCBIのシークエンスデータベース内のアクセッションナンバーより取得した(K株はタカラバイオ株式会社ドラゴンジェノミクスセンターへ依頼し決定した。228E株はAAM90792、2512株はAAG52760、Bursine2株はAAM21064、D78株はCAA75184及びV877株はCAE52969)。遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX-WIN(商品名;ソフトウェア開発株式会社製)及び核酸配列自動結合ソフトウェアGENETYX-WIN/ATSQ(商品名;ソフトウェア開発株式会社製)を用いてIBDウイルスTY2株の既知IBDワクチン株とのホモロジー解析を行った。 その結果、表8に示すように、従来のワクチン株にあってはTY2株と最も高い相同性を示した場合においてもその相同性は92.4%であった。また、IBDウイルスTY2株の他のIBDワクチン株とのアミノ酸配列の比較を図6に示した。なお、図6において、「*」印は比較した全配列にてアミノ酸が一致したことを示し、「.」印はいずれかの配列においてアミノ酸が異なるか、又は欠失していることを示す。※:V877のみ211〜350番目のアミノ酸での比較《実施例7:IBDウイルスTY2−CEF1株及びTY2−CEF2株の作出》 IBDウイルスTY2株をSPF鶏由来の11日齢発育鶏卵のCAM上に接種し、接種後3〜4日目の20%CAM及び/又は鶏胚乳剤を用いて同様に20代まで継代し、その20代目の継代株を8日齢SPF鶏卵の卵黄嚢内に接種し、接種後3日目の鶏胚を用いてCEFを培養した。その遠心上清をCEFに接種後5〜7日目に凍結融解を1回実施し、さらにその遠心上清を用いて同様に8代継代したところ、3代目より細胞変性効果が認められCEFに馴化された。このCEF3代継代株についてCEFを用いた限外希釈法により3代継代してクローニングを行った株をTY2−CEF1株とした。 また、IBDウイルスTY2株を約5週齢のSPF鶏へ経口投与しF嚢で1代継代した株をSPF鶏由来の11日齢発育鶏卵のCAM上に接種し、接種後3〜4日目の20%CAM及び/又は鶏胚乳剤を用いて同様に20代まで継代し、その20代目の継代株をCEFに接種し、接種後5〜7日目に凍結融解を1回実施し、さらにその遠心上清を用いて同様に10代継代したところ、9代目より細胞変性効果が認められCEFに馴化された。このCEF10代継代株についてCEFを用いた限外希釈法により3代継代してクローニングを行った株をTY2−CEF2株とした。 また、これら2株のVP2超可変領域のアミノ酸配列を解析したところ、両株ともに279番目のアミノ酸(配列番号4及び配列番号5中の74番目のアミノ酸に相当)はアスパラギンであり、284番目のアミノ酸(配列番号4及び配列番号5中の79番目のアミノ酸に相当)ではアラニンがスレオニンに変異しており、CEFへの馴化の指標の一つとしている山口らの報告(T. Yamaguchi., et al. Virology, 223, 219-223, 1996)と一致していた。《実施例8:IBDウイルスTY2−CEF1株及びTY2−CEF2株のSPF鶏に対する病原性》 実施例7において作出されたIBDウイルスTY2−CEF1株及びTY2−CEF2株を104TCID50/mLずつ約4週齢のSPF鶏に経口投与し、投与後4日目及び14日目に8羽ずつ(TY2−CEF1株の14日目のみ9羽)剖検を行い、F嚢病変を観察した。未処置対照としてSPF鶏18羽を準備し、投与前、投与後4日目及び14日目に6羽ずつ剖検した。F嚢については重量測定し対体重比を算出した。 その結果を表9に示す。IBDウイルスTY2−CEF1株及びTY2−CEF2株投与後の臨床観察において、異常は認められなかった。剖検によるF嚢の肉眼病変観察において、投与後4日目ではTY2−CEF1株投与群において8羽中1羽にごく軽微な萎縮を認めるのみであった。投与後14日目ではTY2−CEF1株投与群では9羽中1羽、TY2−CEF2株投与後では8羽中5羽に軽度〜中等度の萎縮を認めた。これらの所見は、実施例2におけるTY2株のF嚢に対する病原性と比較して明らかに軽減されていた。《実施例9:IBDウイルスTY2−CEF1株及びTY2−CEF2株のSPF鶏に対する抗体産生性》 従来型のIBDウイルスに対する抗体産生性を確認するため、実施例8で用いた投与後14日目の鶏血清を用いて、IBDウイルスK株に対する中和抗体価を測定した。 96穴プレートに維持用培地を0.05mLずつ分注し、1穴目に56℃30分間で非働化した被験血清を0.05mL添加し、12穴まで2倍階段希釈した。IBDウイルスK株(中和用ウイルス)を維持用培地で200TCID50/0.05mLになるように希釈し、この中和用ウイルスを0.05mLずつ添加して37℃で1時間反応させた(中和反応)。100万cells/mLに調製したCE細胞を0.05mLずつ添加し、1週間培養した。培養終了時に細胞変性効果の出現の有無を確認し、細胞変性効果が出現しなかった最高希釈倍数をその被験血清の中和抗体価とした(表10)。 その結果、表10に示すように、株ごとの中和抗体価の幾何平均値は、IBDウイルスTY2−CEF1株では299倍、TY2−CEF2株では235倍であり、両株ともにIBDウイルスK株に対する抗体産生性が確認され、交差性の低いと考えられる従来型のIBDウイルスに対しても免疫原性を有していることが明らかになった。 伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株。 当該ウイルスの主要な宿主防御抗原部位であるVP2内の超可変領域をコードする遺伝子より配列番号12及び13からなるプライマーを用いたPCR法によって増幅した断片が、TaqI及びSspIにより切断されず、MvaIにより約52bp及び約422bpに切断されることを特徴とする請求項1に記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株。 当該超可変領域が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する請求項1又は2に記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株。 当該VP2が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する請求項1から3のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株。 請求項1から4のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株由来の継代株であって、当該継代株のVP2のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列の284番目のアラニンに対応するアミノ酸がスレオニンであり、VP2内の超可変領域が、配列番号4又は配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する 継代株。 当該継代株が鶏胚線維芽細胞(CEF)馴化株である請求項5 に記載の継代株。 当該継代株がTY2−CEF1株又はTY2−CEF2株である請求項5又は6に記載の継代株。 請求項1から4のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株又は請求項5から7のいずれかに記載の継代株を有効成分とする伝染性ファブリキウス嚢病ワクチン。 請求項1から4のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株又は請求項5から7のいずれかに記載の継代株を有効成分とし、薬理学的に許容される担体を含む伝染性ファブリキウス嚢病ワクチン組成物。 配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、請求項1から4のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株に由来する遺伝子。 配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株のVP2内の超可変領域ペプチド。 配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、請求項1から4のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株に由来する遺伝子。 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株のVP2ペプチド。 配列番号4に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、請求項5から7のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株由来継代株に由来する遺伝子。 配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株由来継代株のVP2内の超可変領域ペプチド。 配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、請求項5から7のいずれかに記載の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株由来継代株に由来する遺伝子。 配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスTY2株由来継代株のVP2内の超可変領域ペプチド。配列表