タイトル: | 公開特許公報(A)_軟骨細胞の培養方法 |
出願番号: | 2006324788 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 5/06 |
竹内 良平 JP 2008136396 公開特許公報(A) 20080619 2006324788 20061130 軟骨細胞の培養方法 公立大学法人横浜市立大学 505155528 谷川 英次郎 100088546 竹内 良平 C12N 5/06 20060101AFI20080523BHJP JPC12N5/00 E 5 1 OL 9 特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月30日 インターネットアドレス「http://www3.interscience.wiley.com/cgi−bin/abstract/112638156/ABSTRACT」に発表 4B065 4B065AA90X 4B065BB14 4B065BC42 4B065BC46 従来、軟骨培養は、単層培養法や、コラーゲンゲル又はアガロースゲルに軟骨細胞を包埋させて培養する方法が行なわれている。単層培養で得られた軟骨細胞は軟骨移植には適さないが、コラーゲンゲル培養法では軟骨細胞の形質を損なうことなく比較的長期間に渡って培養可能であり、越智(広島大学)らは実際に臨床で膝関節軟骨の損傷に対してコラーゲンゲル包埋培養法を応用している(非特許文献1)。また、コラーゲンスポンジを培養の3次元足場として利用する試みもされており、水野(ハーバードメディカルスクール)らはコラーゲンスポンジに対し培養液を潅流させることにより軟骨細胞を導入して培養する方法を行っている(非特許文献2)。 しかしながら、コラーゲンゲルやアガロースゲルに包埋させる培養方法は3次元培養ではあるが、それにより得られる軟骨組織は実際の軟骨組織には程遠い形態である。コラーゲンスポンジを足場とする培養方法でも、従来法では実際の関節軟骨組織等の軟骨組織に満足できるほど近い形態のものは必ずしも得られていない。Connective Tissue, 36(2) : 86, 2004J Biomed Mater Res. 2001 Sep 5;56(3):368-75 従って、本発明の目的は、従来法よりも実際の軟骨組織に近い培養軟骨組織を作製することができる軟骨細胞の培養方法を提供することである。 本願発明者は、鋭意研究の結果、コラーゲンスポンジ等の多孔性の基体の表面及び/又は内部に、コラーゲンゲル包埋した軟骨細胞を吸着させた状態で、該軟骨細胞の培養を行なうことにより、従来法よりも実際の軟骨組織に近い形態を有する培養軟骨組織を作製することができることを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、コラーゲンゲル内部に包埋させた軟骨細胞を、多孔性の基体の表面及び/又は内部において、前記軟骨細胞の培養を行なう、軟骨細胞の培養方法を提供する。 本発明によれば、従来法で得られる培養軟骨組織よりも実際の関節軟骨組織に近い形態を有する培養軟骨組織を作製することができるため、軟骨移植や軟骨組織を用いた研究等に有用である。 本発明の方法では、多孔性の基体を軟骨細胞培養の3次元足場として用いる。多孔性基体としては、移植用途の観点から生体適合性を有する材料でできたものであれば特に限定されない。そのような材料の例としては、コラーゲン、ハイドロキシアパタイト、リン酸3カルシウム、β−TCPなどが挙げられる。コラーゲンには多くのタイプが存在するが、いずれのタイプを用いてもよく、1種類又は2種類以上の混合物であってもよい。多孔性基体の例としては、上記材料でできた顆粒状又は成型体の人工骨、コラーゲンスポンジなどが挙げられる。いずれもこの分野において公知であり、種々の市販品が存在するので、それらの市販品を用いることができる。特に、コラーゲンスポンジを多孔性基体として用いた場合には、基体に付着形成させた軟骨組織を基体ごと軟骨組織欠損部へ移植することができるため好ましい。コラーゲンスポンジは、下記実施例に記載される通り、高研等から市販されており、それらの市販品を用いることができる。 本発明の方法では、まず、軟骨細胞をコラーゲンゲルに包埋させる。軟骨細胞は、特に限定されないが、例えば、下記実施例に記載する方法で軟骨組織から得ることができる。すなわち、例えば、新鮮な軟骨組織を細分してリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)などの適当な緩衝液で洗浄後、0.25%程度の濃度のトリプシン−EDTAで20分間消化し、次いで、PBSで洗浄してトリプシンを除去し、0.1%タイプIIコラゲナーゼ、10%加熱不活化ウシ胎児血清及び抗生物質を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で8時間までインキュベートすることにより、軟骨細胞を分離回収することができる。本発明の方法により作製した培養軟骨組織を移植に用いる場合には、軟骨細胞としては、移植を受ける患者本人から採取したものを用いることが好ましい。コラーゲンゲルへの包埋は、特に限定されないが、例えば下記実施例に記載するとおり、分離回収した軟骨細胞を、培地に溶解した0.2%アテロコラーゲンゲル溶液と混合することにより行うことができる。なお、包埋に用いるコラーゲンゲルは、いずれのタイプのコラーゲンを用いたものであってもよく、1種類又は2種類以上のコラーゲンの混合物であってもよい。 次いで、コラーゲンゲルに包埋させた軟骨細胞を、多孔性の基体の表面及び/又は内部に吸着させる。例えば、コラーゲンゲル包埋軟骨細胞を含む溶液に多孔性基体を浸漬すること等により、基体の表面及び/又は孔内部に軟骨細胞を吸着させることができる。この際、基体側に陰圧をかけると、基体内部により多くの軟骨細胞を浸透させることができ、最終的に得られる培養軟骨組織が実際の軟骨組織により近い形態となるため好ましい。例えば、適当な容器中に、多孔性基体と、コラーゲンゲルに包埋させた軟骨細胞と、適当な液体培地とを加え、これを密閉容器中に安置し、吸引ポンプにて脱気することにより陰圧をかけることができる。陰圧の強さと処理時間は、特に限定されないが、およそ−0.8〜−1気圧、好ましくはおよそ−1気圧を、2秒〜1分間程度、好ましくは2秒〜10秒間程度かけることにより、基体内部への軟骨細胞の吸着浸透を達成することができる。 上記の通り多孔性基体の表面及び/又は孔内部に吸着させた軟骨細胞を、基体に吸着させた状態で培養する。培養は、軟骨細胞の培養に通常適用されるこの分野で公知の培養条件にて行うことができる。例えば、軟骨細胞を支持した多孔性基体に完全DMEMを加え、5%CO2/95%空気中、37℃で数週間インキュベートすることにより行うことができる。3〜4日程度ごとに培地を新鮮なものと交換してもよい。例えば下記実施例では、3.5日ごとに新しいL−アスコルビン酸含有(50μg/ml)DMEMとの交換を行なっているが、これに限定されない。 好ましくは、基体上での軟骨細胞の培養は、振動を付与した条件下で行われる。振動は、例えば図1に示す構造を有する機械式振動器を用いて付与することができる。付与する振動の周波数及び振幅は、用いる多孔性基体の材質やその大きさ等に応じて適宜変わりうるが、周波数は50Hz〜150Hz程度、振幅は0.25nm〜0.75nm程度とすれば、概ね好ましい振動条件となる。下記実施例では、市販のタイプIハニカムコラーゲンスポンジ(直径15mm、厚さ2mm;高研)を培養の3次元足場材として用い、24ウェルプレートのウェル中で培養を行なっているが、この場合には、例えば周波数100Hz、振幅0.5nmで好ましい振動条件となった。ただし、これに限定されず、予備試験により適宜最適な振動条件を設定することができる。振動を付与する期間は、下記実施例にある通り、1週間付与すれば非振動下での培養群よりも有意に軟骨組織層が発達し細胞活性の増大も認められるが、2週間以上ないし基体上での軟骨細胞培養の全期間に渡って付与すれば、さらに望ましい培養軟骨組織を得ることができる。図1に例示する機械式振動器は、下記実施例において用いられたものであり、関数発生器1により増幅器3を経て方形波が作り出され、これにより圧電性セラミックプレート4が作動する構造となっている。振動を付与すべき試料を含む培養器8(下記実施例では24ウェルプレート)は、圧電性セラミックプレート4に取り付けられる。該振動器の試料室部6を構成する板5は、付与すべき振動の周波数帯域で生じ得る共鳴を防止できる硬さのものであればよく、例えばアクリル樹脂で構成される。 また、好ましくは、基体上での軟骨細胞の培養は、ヒアルロン酸(HA)を添加した培地を用いて行われる。下記実施例にある通り、ヒアルロン酸を添加することにより、非添加群よりも有意に軟骨組織層が発達し細胞活性の増大も認められる。培地に添加するヒアルロン酸の量は、特に限定されないが、通常0.05〜0.2%程度である。HAとしては市販のいずれのものを用いてもよい。例えば下記実施例では、粘度法分子量が6×105ないし1.2×106 Daの、鶏冠由来のヒアルロン酸(生化学工業)を用いているが、これに限定されない。培養中に培地交換を行う場合には、毎回ヒアルロン酸を添加した培地を用いることが好ましい。 本発明の方法により軟骨細胞を培養すれば、従来法により得られる培養軟骨組織よりも実際の軟骨組織に近い培養軟骨組織が得られる。例えば、下記実施例に記載される通り、本発明の方法により得られる培養軟骨組織は、コラーゲンスポンジ上に層構造を呈した軟骨組織として形成されており、天然の関節軟骨組織に近い形態のものを得ることが可能となる。基体への軟骨細胞の吸着の際に、基体側に陰圧をかけて基体内部に軟骨細胞を吸着浸透させる工程を採用すれば、より望ましい培養軟骨細胞を得ることができる。さらに、基体上での軟骨細胞の培養において、上記した通り、振動の付与又は培地へのヒアルロン酸添加のいずれかを行うことにより、より望ましい培養軟骨細胞を得ることができる。さらに、振動とヒアルロン酸添加とを組み合わせることにより、さらに望ましい培養軟骨細胞を得ることができる。 以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。I 実験方法1.軟骨細胞の調製 屠殺直後の6月齢ブタの中足指節関節から関節軟骨組織を得た。関節軟骨細胞薄片を細かく切って軟骨検体とし、これをリン酸緩衝生理食塩水(PBS; pH7.4)中で十分に洗浄後、0.25%トリプシン−EDTA(Gibco, 米国ニューヨーク州Grand Island)にて20分間消化した。得られた軟骨細胞は、PBSで洗浄してトリプシンを除去し、0.1%タイプIIコラゲナーゼ(Worthington Biochemical, 米国オハイオ州Lakewood)、10%加熱不活化ウシ胎児血清(Equitech-Bio、米国テキサス州Kerrville)及び抗生物質を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM; Gibco)中で8時間までインキュベートした後に分離した。 分離した軟骨細胞を培地で洗浄後、遠心(37℃で2000rpm、5分間)して回収し、培地を含む0.2%アテロコラーゲンゲル(ウシの腱由来のタイプIコラーゲン)(Kokencellgen; 高研、日本国東京)と混合して、軟骨細胞をコラーゲンゲルに包埋した。2.細胞培養 細胞培養は、24ウェルプレートの各ウェル底にタイプIハニカムコラーゲンスポンジ(直径15mm、厚さ2mm;高研)を敷いたものを3次元担体として用いて行なった。この足場は蜂の巣形状であり、孔の直径は100〜1000μmであった。見掛けの体積は、乾燥時52〜62 ml/gm、湿潤時111〜143 ml/gmであった。 コラーゲンゲル溶液中に包埋した軟骨細胞を、プレートの各ウェルに加え、コラーゲンスポンジの表面及び/又は内部に該軟骨細胞を吸着させた。当該吸着工程は、コラーゲンスポンジに陰圧をかける工程を採用して又は採用しないで行った。陰圧をかける工程は、前記プレートを密閉容器中に置き、約−1気圧の陰圧を数秒間かけることにより行った。次いで、陰圧をかけたプレート及び陰圧をかけなかったプレートを37℃で1時間インキュベートした。最終細胞密度は2×106個/ml/ウェルとした。コラーゲンスポンジと細胞コラーゲンゲル組成物が硬くなった後、2mlの完全DMEMを加え、5%CO2/95%空気中、37℃でインキュベートした。培地は3.5日ごとに新しいL−アスコルビン酸含有(50μg/ml)DMEMと交換した。培地としては、0.1%ヒアルロン酸(HA)を含むもの又は含まないものいずれかを用いた。HAとしては、粘度法分子量が6×105ないし1.2×106 Daの間で鶏冠由来である、生化学工業(日本国東京)製のものを用いた。アテロコラーゲンゲル、コラーゲンスポンジ及び軟骨細胞を含むプレートを、図1に示す機械式振動器にしっかり取り付けた。ウェルプレートに与える振動の周波数及び振幅は、予備試験に基づき、それぞれ100Hz及び0.5nmに設定した。なお、本実験で用いた機械式振動器の試料室部はアクリル樹脂板でできており、本実験における周波数帯域での共鳴を十分に回避し得る硬さのものであった。 培養条件は以下の4通りとした。なお、特に明示しない限り、以下の名称で示される群は、陰圧をかける工程を行わなかった例を表すものとする。(1) HA−Vib−対照群:軟骨細胞を、HAを含まない培地中でアテロコラーゲンゲル及びコラーゲンスポンジとともに培養、培養中に振動を付与せず(2) HA−Vib+群:軟骨細胞を、HAを含まない培地中でアテロコラーゲンゲル及びコラーゲンスポンジとともに培養、培養中に2週間振動を付与(3) HA+Vib−群:軟骨細胞を、0.1%HAを含む培地中でアテロコラーゲンゲル及びコラーゲンスポンジとともに培養、培養中に振動を付与せず(4) HA+Vib+群:軟骨細胞を、0.1%HAを含む培地中でアテロコラーゲンゲル及びコラーゲンスポンジとともに培養、培養中に2週間振動を付与3.コンドロイチン硫酸の分析 培養軟骨細胞により培養液上清中に合成される、コンドロイチン硫酸の異性体であるコンドロイチン−6−硫酸(C6S)及びコンドロイチン−4−硫酸(C4S)の量を測定した。測定は、蛍光光度分析と組み合わせた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、培養3、7、10及び14日後に行なった。 グリコサミノグリカンの分析は、Shinmeiらが記載した方法(Shinmei et al., Arthritis Rheum 1992; 35; 1304-8)に変更を加えた方法により行なった。100μLの馴化培地又は組織試料のアクチナーゼ処理上清に、250mUのコンドロイチン分解酵素ABC(生化学工業)及び25mUのコンドロイチン分解酵素AC−II(生化学工業)を加え、次いで80μLの100mMトリス塩酸緩衝液(pH8)及び170μLの蒸留水を加え、得られた混合物を37℃で2時間インキュベートした。該試料をUltrafree C3GC system(日本ミリポア、日本国東京)を用いて限外ろ過し、不飽和二糖類C4S及びC6Sを含むろ液をHPLCにより分析した。 本研究に用いたHPLCシステムは2つのポンプ(PU-2080型;日本分光、日本国東京)、グラジエントユニット(LG-2080-02型;日本分光)、オートサンプリングインジェクター(AS-2059型;日本分光)、ポリアミン結合シリカ(YMCゲルPA-120;YMC、日本国京都)を充填したステンレススチールカラム、乾燥反応槽(dry reaction bath)(DB-5; Shimamura Instrument、日本国東京)、及び蛍光検出器(FP-2025型;日本分光)で構成されるものであった。データはBorwin-HSS2000ソフトウェア(日本分光)にて解析した。各試料中の二糖類C4S及びC6Sは、0〜100mM硫酸ナトリウム勾配により55分間、流速0.5ml/分で溶出した。カラムからの溶離液に、1% 2−シアノアセトアミドを含む100mM四ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)を流速0.5ml/分で加えた。得られた混合物を、145℃恒温の乾燥反応槽中に設置したポリエーテルエーテルケトン管(内径0.5mm、長さ10メートル)中に通し、流出液を蛍光検出器(励起346nm、発光410nm)でモニターした。C4S及びC6Sに対応する各ピーク面積は、Borwin-HSS2000ソフトウェアで計算し、標準C4S及びC6Sの面積との関係から対応する不飽和二糖類の量に変換した。4.組織学的解析 培養1週間後及び2週間後に検体の組織学的解析を行なった。検体を4%パラホルムアルデヒドPBS溶液中で一晩固定し、パラフィン包埋し、5μm厚に切断し、アルシアンブルーで染色した。切片の解析と写真撮影はシステム生物顕微鏡BX-50(オリンパス、日本国東京)を用いて行った。5.免疫組織化学的解析 培養2週間後に得た検体を、上記4.に記載した方法でパラフィン包埋して5μm厚の切片を作製し、抗タイプIIコラーゲン抗体(富士製薬工業、日本国富山)を用いて検体の免疫組織化学的評価を行ない、軟骨細胞の表現型の発現及びタイプIIコラーゲンの産生を検出した。切片の解析と写真撮影はシステム生物顕微鏡BX-50を用いて行った。 また、培養2週間後に得た検体を、4%パラホルムアルデヒド0.1M PBS溶液(pH7.4)中で固定し、クリオスタットで16μm厚に切断した。調製した検体切片は、1次抗体として以下の6種類の抗体を用い、2次抗体としてAlexa Fluor 488結合抗マウスIgG又はウサギIgG(Molecular Probes、米国オレゴン州Eugene)を用いた免疫染色を行ない、各種マーカー物質の局在を観察した。免疫染色に用いた1次抗体は以下のとおりである。(1) 抗活性型MAPK(1:800希釈;Promega、米国ウィスコンシン州Madison)(2) 抗パキシリン(1:500希釈;BD Bioscience、米国カリフォルニア州San Diego)(3) 抗焦点接着キナーゼ(抗FAK)(1:100希釈、BD Bioscience)(4) 抗β−カテニン(1:50希釈、Santa Cruz Biotechnology、米国カリフォルニア州Santa Cruz)(5) 抗β1−インテグリン(1:100希釈、BD Bioscience)(6) 抗α1−インテグリン(1:100希釈、Novo Castra、英国Newcastle) 切片は一次抗体で4℃にて一晩インキュベートし、PBSで洗浄後、上記いずれかの二次抗体で室温にて1時間インキュベートし、次いでTOTO-3ヨウ化物で対比染色した。また、フルオレセインイソチオシアネート結合ファロイジン(1:200希釈、Sigma、米国ミズーリ州St. Louis)を用いてアクチンフィラメントの染色を行なった。共焦点レーザー顕微鏡(Radiance 2000; Bio-Rad、英国Hertfordshire)にて切片を観察した。6.電子顕微鏡用試料の調製 培養2週間後に得た検体を、2.5%グルタルアルデヒド及び2%パラホルムアルデヒドの0.1Mリン酸緩衝液溶液(pH7.4)中で固定し、リン酸緩衝1%四酸化オスミウム(pH7.4)中で後固定し、次いで上昇エタノール系列中で脱水した後、酸化プロピレンに浸漬した。試料塊を電子顕微鏡用包埋樹脂(Epon 812(商品名、TAAB Laboratories Equipment社、英国Berks))に包埋した。簿切片をウラニル塩及び鉛塩の溶液中で染色した。7.統計解析 データは平均値±SDで表した。平均値の統計比較は、繰り返しのある二元配置多変量分散分析(ANOVA)及び一元配置ANOVAを用いて行なった。0.05以下のP値を有意とした。II 結果1.コンドロイチン硫酸の合成量 軟骨細胞培養上清中のコンドロイチン硫酸量の測定結果を下記表1に示す。表中の値は平均値±SD(各群n=16)である。HA=ヒアルロン酸、Vib=振動**;HA+Vib+に対しP<0.01*;HA+Vib−及びHA−Vib+それぞれに対しP<0.01 上清中の総C4S合成量は培養7日目まで急速に増加し、その後も増加し続けた(表1)。培養7日後では、HA+Vib+群における総C4S合成量はHA−Vib−群よりも有意に多かった。培養14日後では、HA+Vib+群におけるC4S合成は他の群よりも有意に高かった。一元配置ANOVAによれば、10日目及び14日目において、4群間でC4S合成量に有意差が認められた(P<0.01)。HA+Vib−群とHA−Vib+群との間ではC4S合成に有意差は認められなかった。 同様に、上清中の総C6S合成量の経時的増加について示した(表1)。10日目及び14日目において、HA+Vib+群のC6S合成は他の群よりも有意に高かった。HA+Vib−群とHA−Vib+群との間ではC6S合成に有意差は認められなかった。HA+Vib−群及びHA−Vib+群におけるC6S合成量はほぼ等しかった。 以上の結果より、振動付与及び/又はヒアルロン酸添加により、培養軟骨細胞のコンドロイチン硫酸の合成が促進されることが示され、培養軟骨細胞の活性が向上していることが示された。2.アルシアンブルー染色による組織観察結果 アルシアンブルー染色により、軟骨細胞層及び酸性ムコ多糖類が染色される。培養1週間後では、4群全てにおいて、コラーゲンスポンジ上に層構造を呈した軟骨組織の形成が認められ、細胞周辺に酸性ムコ多糖類の産生が確認された。また、コラーゲンスポンジの孔内部にまで細胞が侵入していることが確認された。軟骨細胞層はHA+Vib+群で最も厚く、HA+Vib−群及びHA−Vib+群ではHA−Vib−群よりも厚かった。酸性ムコ多糖類は、HA+Vib+群において最も広範囲にわたって認められた。培養2週間後では、4群全てにおいて軟骨細胞層が肥厚しており、細胞周辺の酸性ムコ多糖類も全ての群で培養1週間後より増加していた。軟骨細胞層はやはりHA+Vib+群で最も厚く、該群では最も多量の酸性ムコ多糖類が認められ、多数の細胞が細胞分裂過程にあることが観察された。3.タイプIIコラーゲン抗体による組織染色結果 培養2週間後のコラーゲンスポンジ切片をタイプIIコラーゲン抗体により免疫染色した結果、全ての群においてスポンジ表面上及び孔の間にタイプIIコラーゲンが形成していることが確認された。スポンジ表面ではコラーゲン線維はスポンジ表面に平行に形成され、また、孔内部では孔に沿いスポンジ表面に対し垂直方向に形成されていた。タイプIIコラーゲンの産生量はHA+Vib+群が最も多かった。4.各種マーカー物質の免疫染色結果 培養2週間後のコラーゲンスポンジ切片を、上記した各種マーカー物質に対する1次抗体を用いて免疫染色することにより、α1インテグリン、β1インテグリン、パキシリン、アクチンファイバー(ファロイジンにより染色)、焦点接着キナーゼ(FAK)、MAPK、βカテニンの軟骨細胞細胞質中の局在が確認された。この分野で知られるとおり、インテグリンは細胞接着に関与する因子であり、パキシリンは細胞-マトリックス接着に関連する骨格タンパク質であり、FAKはインテグリンを介する接着刺激により活性が増大するキナーゼであり、MAPKは種々の細胞外刺激を細胞内応答に変換するキナーゼであり、アクチンファイバーは細胞-マトリックス接着に関連する因子であり、βカテニンは細胞接着や細胞骨格制御に関与する因子であって軟骨細胞の分化の指標として用いられるものである。すなわち、これらのマーカー物質を指標として、軟骨細胞の活性を評価することができる。いずれのマーカーについても、HA−Vib+群及びHA+Vib−群の方がHA−Vib−群よりも免疫染色の強度が高く、HA+Vib+群で最も免疫染色強度が高かった。すなわち、軟骨細胞の活性は、HA−Vib−群よりもHA−Vib+群及びHA+Vib−群が高く、HA+Vib+群が最も高いことが示された。5.電子顕微鏡による観察結果 培養軟骨細胞の表面を観察すると、HA+Vib+群では、一部の軟骨細胞の表面に多くの細長い突起物が認められ、細胞周辺に細胞外物質が存在していた。その他の群では、培養軟骨細胞の表面は、大半は突起物がなく平滑であった。6.陰圧をかける工程の有無の比較 軟骨細胞をコラーゲンスポンジに吸着させる際に、陰圧をかける工程を行った培養群と、行なわなかった培養群との間で、コラーゲンスポンジ上に形成される軟骨細胞層と軟骨組織の形態比較を行った。陰圧工程を行った培養群では、陰圧工程を行なわなかった培養群よりも、軟骨細胞及び軟骨層の層状構造がより発達しており、実際の関節軟骨組織により近い形態となっていた。実施例で用いられた機械式振動器の構造を示す図である。符号の説明 1 関数発生器 2 増幅器 3 オシロスコープ 4 圧電性セラミックプレート 5 板 6 試料室部 7 ステンレス鋼 8 振動を付与すべき試料を含む培養器 9 CO2インキュベーター コラーゲンゲル内部に包埋させた軟骨細胞を、多孔性の基体の表面及び/又は内部において、前記軟骨細胞の培養を行なう、軟骨細胞の培養方法。 前記多孔性の基体に陰圧をかけることにより、前記軟骨細胞を基体内部に吸着浸透させた状態で培養を行なう、請求項1記載の方法。 前記多孔性の基体が、コラーゲンスポンジである請求項1又は2記載の方法。 前記培養を振動下に行なう請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 前記培養を、ヒアルロン酸の存在下で行なう請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 【課題】従来法よりも実際の軟骨組織に近い培養軟骨組織を作製することができる軟骨細胞の培養方法を提供すること。【解決手段】軟骨細胞の培養方法は、コラーゲンゲル内部に包埋させた軟骨細胞を、多孔性の基体の表面及び/又は内部において、前記軟骨細胞の培養を行なう。【効果】従来法で得られる培養軟骨組織よりも実際の関節軟骨組織に近い形態を有する培養軟骨組織を作製することができるため、軟骨移植や軟骨組織を用いた研究等に有用である。【選択図】図1