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タイトル:公開特許公報(A)_液体クロマトグラフ質量分析に用いる移動相、その移動相に対する添加剤のスクリーニング方法及び液体クロマトグラフ質量分析方法
出願番号:2006322238
年次:2008
IPC分類:G01N 30/26,G01N 30/72,G01N 27/62,G01N 30/88


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山本 栄一 JP 2008134206 公開特許公報(A) 20080612 2006322238 20061129 液体クロマトグラフ質量分析に用いる移動相、その移動相に対する添加剤のスクリーニング方法及び液体クロマトグラフ質量分析方法 株式会社島津製作所 000001993 エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 506137147 野口 繁雄 100085464 山本 栄一 G01N 30/26 20060101AFI20080516BHJP G01N 30/72 20060101ALI20080516BHJP G01N 27/62 20060101ALI20080516BHJP G01N 30/88 20060101ALI20080516BHJP JPG01N30/26 AG01N30/72 CG01N27/62 XG01N30/88 A 11 1 OL 11 2G041 2G041DA05 2G041EA04 2G041FA12 2G041HA01 液体クロマトグラフィー−マススペクトロメトリー(LC−MS)を用いた分離分析分野に関し、例えばペプチドやタンパク質を分析するプロテオーム解析や細胞内代謝物を分析するメタボローム解析など、LC−MSを使って分析する方法と、その分析方法で使用される移動相に関するものである。 従来、LC−MSで陽イオン性薬物やペプチドなどを分析する場合、試料成分の高分離と高感度検出が要求されるため、LCでの高分離効率とMSでの高イオン化効率を両立させる移動相に対する添加剤として、主にギ酸(Formic acid, FA)、酢酸(Acetic acid, AA)又はトリフルオロ酢酸(Trifluoro acetic acid, 以下TFA)が用いられてきた。 しかし、ギ酸や酢酸を用いる場合、MSの感度向上という点では効果があるものの、試料成分の分離が悪い場合が多く、分離性能の点で課題がある。 一方、TFAは試料成分の分離という点ではギ酸よりも効果があるものの、検出感度がギ酸に比べて低くなってしまうので、高感度化という点で課題がある。 そこで、LC−MSにおいてペプチドや塩基性薬物などを分析する場合、高感度と高分離性能の両立を実現できる移動相への添加剤が必要とされており、移動相添加剤としてジフルオロ酢酸(Difluoro acetic acid, 以下DFA)、トリフルオロプロピオン酸(Trifluoro propionic acid, 以下TriFPA)、又は3,3,3−トリフルオロメチル−2トリフルオロメチルプロピオン酸(3,3,3-trifluoromethyl- 2trifluoromethyl propionic acid, 以下TFTFPA)を用いる分析方法が報告されている(特許文献1参照。)。特開2004−077276号公報 ある移動相に対して高感度と高分離性能を実現できる添加剤を見つけるには、添加剤を実際にその移動相に添加して測定を行なってみるしかなかった。その方法は、それぞれの移動相について多数の添加剤を逐次試してみることを意味しており、現実には時間とコストがかかって困難である。 移動相に添加する添加剤として、どのような構造の酸を添加すれば分析の高感度化と高分離性能の両立を実現できるかを予測する方法は、未だ報告されていない。 本発明は、LC−MSにおいてペプチドや陽イオン性薬物などを分離・分析する場合、適当な添加剤を移動相に添加することで、分析の高感度化と高分離性能の両立を実現できる添加剤を見つける方法と、それを用いる液体クロマトグラフ質量分析方法を提供することを目的とする。 本発明のスクリーニング方法は、液体クロマトグラフ質量分析に用いる移動相に対する添加剤のスクリーニング方法であって、(a)幾つかのカルボン酸をそれぞれ上記移動相に添加したときの分析対象物質の保持時間及び電子スプレーイオン(ESI)信号強度を測定する工程と、(b)上記カルボン酸の物性値を説明変数とし、保持時間を目的変数とする第1演算式及びESI信号強度を目的変数とする第2演算式をそれぞれ多変量解析により構築する工程と、(c)スクリーニングの対象とするカルボン酸の物性値を求める工程と、(d)工程(c)で求められた物性値を上記両演算式に適用してスクリーニングの対象とするカルボン酸の保持時間及びESI信号強度を予測する工程と、(e)予測した保持時間を添加剤として酢酸を添加したときのものと比較し、かつ予測したESI信号強度を添加剤としてトリフルオロ酢酸を添加したときのものと比較することによりスクリーニングの対象とする上記カルボン酸を評価する工程と、を備えている。 本発明の移動相は液体クロマトグラフ質量分析に用いられ、添加剤を含んでいる。そして、上記添加剤はカルボン酸からなり、そのカルボン酸の物性値から以下の第1演算式に基づいて予測される保持時間が添加剤として酢酸を添加したものよりも大きく、以下の第2演算式に基づいて予測されるESI信号強度が添加剤としてトリフルオロ酢酸を添加したものよりも大きいものである。 ここで、第1演算式と第2演算式は、幾つかのカルボン酸の物性値を説明変数とし、それらのカルボン酸をそれぞれ添加剤を含まない上記移動相に添加したときのカチオン性分析対象物質の保持時間とESI信号強度をそれぞれ目的変数として多変量解析により求められたものである。 上記物性値の好ましい一例は2次元又は3次元構造に基づく分子記述子であり、水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、モル屈折率(E)、固有分子体積(V)、疎水性度(ClogP)、及び酸解離定数(pKa)のうちの2以上を含むことが好ましい。 分子記述子は2次元又は3次元構造に基づいて計算により導き出される数値であるが、水素結合酸性度とは水素結合におけるプロトンの供与性、水素結合塩基性度とは水素結合におけるプロトンの受容性、固有分子体積とは分子の立体構造から求められる体積、疎水性度とは水−オクタノール系における化合物のオクタノール相への分配比の対数を意味する。 上記保持時間として、添加剤を添加しなかった場合の保持時間に対する添加剤を添加した場合の保持時間の比率を対数値で表わした対数化保持比(logK)を用いるようにしてもよい。 上記第1演算式の好ましい一例は疎水性度(ClogP)及び酸解離定数(pKa)を少なくとも含んだ1次元関数でlogKを表わしたものであり、上記第2演算式の好ましい一例は水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、モル屈折率(E)、及び固有分子体積(V)を少なくとも含んだ1次元関数でESI信号強度を表わしたものである。 スクリーニングの対象とする上記カルボン酸として部分フッ素化カルボン酸を挙げることができる。 本発明の移動相添加剤の好ましい一例は部分フッ素化カルボン酸である。 本発明の液体クロマトグラフ質量分析方法は、本発明の移動相を用いて分析を行なうものである。 本発明のスクリーニング方法によると、LC−MSでの分析の高感度化と高分離性能の両立を実現することができる移動相に対する添加剤を、逐次測定により確かめることなく選択することができるようになる。そのようにして選択された添加剤は、塩基性化合物やペプチドに対し、これまでの酢酸やギ酸に比べて良好な保持比と高いESI信号強度を与えることができる。 物性値としてカルボン酸の分子記述子を用い、水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、モル屈折率(E)、固有分子体積(V)、疎水性度(ClogP)、及び酸解離定数(pKa)のうちの2以上を含むようにすれば、これらの物性値を市販のソフトウェアを用いて算出できるようになる。 保持時間の比率を対数値で表わした対数化保持比(logK)と物性値を用いるようにすれば、1次相関関係にある演算式を構築することができるようになる。 第1演算式をClogPとpKa、第2演算式をAとClogP,V,B,Sで表わされる物性値で構築するようにすれば、より相関関係の良い演算式を構築することができる。 本発明の移動相を使用すれば、LCでの高分離性能を維持した状態で、MSでの高イオン化効率を保持した高感度検出が可能になり、例えば陽イオン性物質・ペプチドやタンパク質などの高感度精密分離が可能となる。 本発明の液体クロマトグラフ質量分析方法によれば、分析の高感度と高分離性能の両立を実現することができる添加剤を含んだ移動相を用いるので、より高精度の分離・分析を行なうことができるようになる。 本発明の一実施例を図1(A)〜(C)のフローチャートを参照しながら、本発明のスクリーニング方法を工程(a)〜(e)の順に詳細に説明する。(A)はLC−UVによる測定により第1演算式を構築する工程、(B)はESI−MS検出法により第2演算式を構築する工程、(C)はスクリーニングの対象となるカルボン酸を評価する工程である。 [分析](a)幾つかのカルボン酸を移動相に添加したときのカチオン性分析対象物質の保持時間及び電子スプレーイオン(ESI)信号強度を測定する工程。 (a−1;液体クロマトグラフ質量分析で用いる試料) LC−MSとして液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレー−マススペクトロメトリー(LC−ESI−MS)システムで分離・分析する試料成分として、プロプラノロール:C16H21NO2、ピンドロール:C14H20N2O2、ナドロール:C17H27NO4、アテノロール:C14H22N2O3、イミプラミン:C19H24N2、ピリドキシン:C8H11NO3、スルピリド:C15H23N3O4S、及びテトラハイドロゾリン:C13H16N2を用いる。それらの構造式を図2に示す。 (a−2;ESI−MS分析工程) ESI−MSとして、PE-Sciex社製API−3タンデムマススペクトロメーターを用いてポジティブイオンモードでインフュージョン分析を行なった。Harvard社製モデル22シリンジポンプによって試料溶液を5μL/分の流量で注入した。マススペクトロメーターのオリフィス電圧とイオンスプレイ電圧をそれぞれ100Vと5kVに設定した。1回の分析では、200−600amu(原子質量単位)の範囲を10ミリ秒/スキャンの速度で20回スキャンし、20回の分検出信号を積算した。各試料は繰り返し5回分析した。 試料溶液は、図2に示した試料成分(濃度500ng/mL)を10mmol/Lのカルボン酸が入った30%メタノールに溶かし、シリンジを用いて5μL/分の流量で送液してインフュージョン分析を行なった。カルボン酸は添加剤として評価しようとするものであり、TFAは標準カルボン酸として扱う。1試料を分析するごとにTFAが入った試料溶液を標準試料溶液として分析を行ない、TFAとの相対比較分析を行なった。 (a−3;LC−MS分析工程) 液体クロマトグラフィー−マススペクトロメトリーには株式会社島津製作所製のLC/MSシステム(送液ポンプ:LC−10ADvp×2,カラムオーブン: ,オートサンプラ:SIL−HT,マススペクトロメーター:2010A)を用いた。 LCでは、用いたカラムはシリカODS(オクタデシルシラン)カラムPackProC18(登録商標、YMC製)であり、LC−10ADvpにて200μL/分の流量で送液を行なった。試料溶液は、上記の試料成分を含む薬物混合試料溶液(40μg/mL)とペプチド溶液(アンジオテンシン3、10μg/mL)であり、それぞれ5μL注入した。薬物混合試料溶液の分析では10mmol/Lのカルボン酸を含む15%メタノール溶液を移動相としてアイソクラティックモードで送液した。アンジオテンシンの分析では2.5−50mmol/Lのカルボン酸を含む20%メタノール溶液を移動相としてアイソクラティックモードで送液を行なった。 ESI−MSは200−600amuの範囲を、10ミリ秒/スキャンの速度で分析した。 試料成分の保持係数はマスクロマトグラムにより決定した。 [結果] (a−4;ESI−MS分析結果) 一例として、10mmol/Lのカルボン酸が入った30%メタノール溶液に、上記の試料成分を溶解させた試料溶液の分析結果について、プロプラノロールの信号強度における酸の効果を観察した。評価するカルボン酸として、TFAを標準とし、AA、FA、DFA、TriFPA、テトラフルオロプロピオン酸(Tetrafluoro propionic acid, 以下TetraFPA)、TFTFPA、ペンタフルオロプロピオン酸(Pentafluoro propionic acid, 以下PFPA)、ヘプタフルオロブチル酸(Heptafluoro butylic acid, 以下HFBA)、ノナフルオロペンタン酸(Nonafluoro pentanoic acid, 以下NFPA)、及びペンタデカフルオロオクタン酸(Pentadeca fluoro octanoic acid, 以下PFOA)を選んだ。 図3は各カルボン酸を添加したときのプロプラノロールのESI信号強度を示す。図3に示すように、酢酸とギ酸はTFAよりも高いESI信号強度を示す。 そして、TFA、PFPA、HFBA、NFPA、PFOAなどのパーフルオロカルボン酸の中では、TFAとPFOAが他のカルボン酸よりも強い信号強度を示し、酸のカルボン鎖の長さとESI信号強度には明らかな関連性は見られなかった。 一方で、DFA、TriFPA、TetraFPA、TFTFPAなどの部分フッ素化カルボン酸の場合は、パーフルオロカルボン酸に比べると強いESI信号強度を示した。 ここでDFAやTriFPA、TFTFPAの信号強度と、酢酸やギ酸の信号強度とに注目して比較すると、部分フッ素化カルボン酸の「部分フッ素化」は、ESI信号強度に大きな影響を与えていない事がわかる。 部分フッ素化カルボン酸の影響をさらに検討するために他の試料成分である3種類のβブロッカー(ピンドール、ナドロール、アテノロール)とイミプラミンで同様の実験を行なったが、ESI信号強度に関してこれら薬物に関しても同様の結果が得られた。すなわち、部分フッ素化カルボン酸がESI信号強度に及ぼす影響は少ないと言える。 (a−5;LC−MS分析結果) 液体クロマトグラフィーへのカルボン酸による影響を見るために、10mmol/Lの様々なカルボン酸をそれぞれ移動相に添加して、試料成分である親水性陽イオン性薬物の保持比を対数化して調査した。 図4に薬物保持比に対する移動相添加剤の影響を対数表示で示す。図4より、すべての部分フッ素化カルボン酸は、陽イオン性薬物に対してTFAと同様に、酢酸及びギ酸と比べて強い保持比を示しており、イオンペア試薬として働いていることがわかる。 また、酢酸やプロピオン酸の系列においては、保持比が酢酸<DFA<TFA、TriFPA<TetraFPA<PFPA<TFTFPAの順に大きくなっており、フッ素に置換される数が多くなるのに伴って、試薬の保持比(保持時間)も長くなっている。 実際、スルピリドとアテノロールを分離しようとした場合、酢酸やギ酸、TriFPAを移動相に添加剤として添加したときはクロマトグラム上で充分な分離が得られなかったが、TFTFPAを添加剤として添加したときはクロマトグラム上で充分な分離が得られた。 移動相添加剤としての能力をPFPAとTFTFPAで比べた場合、図3及び図4に示すように、TFTFPAの方が強い保持比を示し、且つ充分なESI信号強度も有していることから、TFTFPAはPFPAよりも添加剤としての優れた特性を持つことがわかる。すなわち、TFTFPAは、試料が親水性陽イオン性薬物の場合には理想的な移動相添加剤であると言える。 図5はLC/ESI−MSクロマトグラムとMSスペクトルであり、(A)は移動相にギ酸を添加した場合、(B)はTFTFPAを添加した場合を示している。(A),(B)のそれぞれにおいて、横軸が時間となっているのがクロマトグラムであり、横軸が質量数(m/z)となっている枠で囲まれたのがMSスペクトルである。ギ酸を添加したクロマトグラムではすべての物質から充分なESI信号強度が得られているが、ピークが分離していないことがわかる。例えばピリドキシンはピーク1であるが、ピーク1のMSスペクトルには質量数が170のピリドキシン以外に、質量数267のアテノロール(ピーク2)と質量数が342のスルピリド(ピーク3)が分離されずに現れていることからも、分離がなされていないことがよくわかる。 一方で、TFTFPAを移動相に添加した場合のクロマトグラムにおいては、すべての物質が充分に分かれて形の良いピークが得られている。このことは、またピーク1のMSスペクトルにはピリドキシンの質量数が170のピークしか現れていないことからも確かめられる。加えて、ESI信号強度もギ酸の場合と比べて見劣りせず、さらにバックグラウンドレベルもギ酸の場合とほぼ同じで良好である。 すなわち、TFTFPAはESI信号強度を抑制しないという事がわかる。このことは、図5のそれぞれのESI−MSスペクトル(m/z170 ピーク1)において、ギ酸を添加した場合もTFTFPAを添加した場合も充分なS/N比を示していることからもわかる。 すなわち、部分フッ素化カルボン酸はイオンペアLC/ESI−MSにおいて高感度ESI−MS検出を可能にする事がわかる。 (b)カルボン酸の物性値として分子記述子を説明変数とし、保持時間を目的変数とする第1演算式及びESI信号強度を目的変数とする第2演算式をそれぞれ多変量解析により構築する工程。 カルボン酸の物性値としての分子記述子はPharma Algorithms社(トロント、カナダ)のADME box 2.0のAbsolvソフトウェア、Daylight Chemical Information Systems社(カリフォルニア、アメリカ合衆国)のDaylight ver. 4.72ソフトウェア、及びCompuDrug International社(カリフォルニア、アメリカ合衆国)のPallas 3.0ソフトウェアを用いて計算した。また、Absolvソフトウェアを用いてAbrahamタイプ方程式(M.H. Abraham. Chem. Soc. Rev. 22 (1993) 73.)より溶媒和特性を計算した。 Absolvで計算した分子記述子は、水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、(cm3/mol)/10で表わしたモル屈折率(E)及び(cm3/mol)/10で表わしたMcGowanの固有分子体積(V)である。 DaylightとPallasを使って計算した分子記述子は、疎水性度(ClogP)と酸解離定数(pKa)である。計算を行なったカルボン酸の分子記述子を図6に示す。 (分子記述子を使った多変量解析) カルボン酸のQuantitative structure- retention factor relationship (QSRR)とquantitative structure- ESI-MS intensity relationship(QSEIR)は、実験結果にカルボン酸の分子記述子を加え合わせることで検討を行なった。 QSRRとQSEIRの多変量解析はExcel 2000(登録商標、Microsoft社、アメリカ合衆国)上で動くTAHENRYOKAISEKI ver.4.0 program (Esumi、東京、日本)で行なった。 添加剤の対象となるカルボン酸におけるQSRRとQSEIRを調査して、多変量解析を用いてピリドキシンに対するカルボン酸の分子記述子(A,B,pKa,ClogP)と対数化保持比(logK)の関係を導く事を試みた。また、プロプラノロールに対しては、カルボン酸の分子記述子(A,B,S,V,ClogP,pKa)とESI信号強度の関係を導くことを試みた。 まず、QSRRを分析するために、図4におけるピリドキシンの対数化保持比(logK)を図6に示すカルボン酸の6つの分子記述子(A,B,S,V,ClogP,pKa)を用いて調査した。これら6つの分子記述子を用いた多変量解析によりピリドキシンの保持比を計算した。QSRRにおける多変量解析は演算式(1)で示される。 logK = 0.2054ClogP -0.08566pKa +0.22218 …演算式(1) 実験値と演算式(1)より計算された対数化保持比の関係は、図7(A)に示すようになり、相関係数0.905という良好な結果が得られた。 次にプロプラノロールにおけるQSEIRの結果を示す。図3で挙げた種々のカルボン酸のESI信号強度より演算式(2)を構築した。 ESI信号強度 = -5.347A -0.418ClogP +2.625V -11.319B +3.925S +6.380 …演算式(2) 図7(B)に実験値と計算された信号強度の関係を示す。相関係数は0.936であり良好な結果となった。演算式(2)中、水素結合酸性度(A)が最も大きく影響するパラメータである事がわかる。 演算式(1)と(2)のパラメータは独立しており、それぞれの式の中で最も影響するパラメータも異なる。従って、イオン化、イオンペア形状、ESI信号強度には関連性は見られない。しかし、演算式(1)と(2)から、イオンペアLCにおいて充分な分離が得られ、且つ強いESI信号強度が得られるカルボン酸の化学的構造を予見することが出来る。その一例として、長いカルボキシル鎖をもつ部分フッ素化カルボン酸は理想的な移動相添加剤であり、イオンペアLC/ESI−MSにおいて有用である事がわかる。 (c)スクリーニングの対象とするカルボン酸の分子記述子を求める工程。 例えば、構造式(1) CF3−(CF2)n−CH2−COOH (nは0以上の整数。)において、変数nに種々の整数を代入し、それによって定められた種々の構造から分子記述子を求める。 (d)工程(c)で求められた物性値を両演算式(1),(2)に適用してスクリーニングの対象とするカルボン酸の保持時間及びESI信号強度を予測する工程。 例えば、工程(c)により求められた分子記述子を演算式(1)及び(2)に代入する。 (e)スクリーニングの対象とするカルボン酸を評価する工程。 予測した保持時間が添加剤として酢酸を添加したときのものより大きく、かつ予測したESI信号強度が添加剤としてトリフルオロ酢酸を添加したときのものより大きければ、そのカルボン酸は移動相への添加剤として使用できるものと評価できる。 ペプチドやタンパク質を分析するプロテオーム解析や細胞内代謝物を分析するメタボローム解析など、LC−MSを使って分析する方法と、その分析方法で使用される移動相に利用することができる。本発明のスクリーニング方法のフローチャートを示しており、(A)はLC−UVによる測定により第1演算式を構築する工程、(B)はESI−MS検出法により第2演算式を構築する工程、(C)はスクリーニングの対象となるカルボン酸を評価する工程である。液体クロマトグラフ質量分析で用いる種々の試薬の構造式である。各カルボン酸を添加したときのプロプラノロールのESI信号強度を示す。薬物保持比に対する移動相添加剤の影響を対数表示で示したグラフである。LC/ESI−MSクロマトグラムとMSスペクトルであり、(A)は移動相にギ酸を添加した場合、(B)はTFTFPAを添加した場合を示している。種々のカルボン酸の分子記述子を示した図である。構築された演算式の相関関係を示すグラフであり、(A)は対数化保持比、(B)はESI信号強度を示している。 液体クロマトグラフ質量分析に用いる移動相に対する添加剤のスクリーニング方法であって、 (a)幾つかのカルボン酸をそれぞれ前記移動相に添加したときの分析対象物質の保持時間及び電子スプレーイオン(ESI)信号強度を測定する工程と、 (b)前記カルボン酸の物性値を説明変数とし、保持時間を目的変数とする第1演算式及びESI信号強度を目的変数とする第2演算式をそれぞれ多変量解析により構築する工程と、 (c)スクリーニングの対象とするカルボン酸の物性値を求める工程と、 (d)工程(c)で求められた物性値を前記両演算式に適用してスクリーニングの対象とするカルボン酸の保持時間及びESI信号強度を予測する工程と、 (e)予測した保持時間を添加剤として酢酸を添加したときのものと比較し、かつ予測したESI信号強度を添加剤としてトリフルオロ酢酸を添加したときのものと比較することによりスクリーニングの対象とする前記カルボン酸を評価する工程と、を備えたスクリーニングする方法。 前記物性値は2次元又は3次元構造に基づく分子記述子であり、水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、モル屈折率(E)、固有分子体積(V)、疎水性度(ClogP)、及び酸解離定数(pKa)のうちの2以上を含む請求項1に記載のスクリーニング方法。 前記保持時間として、液体クロマトグラフィーにおいて、カラムに保持されない成分の溶出時間に対する添加剤を添加した場合の保持時間の比率を対数値で表わした対数化保持比(logK)を用いる請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。 前記第1演算式は疎水性度(ClogP)及び酸解離定数(pKa)を少なくとも含んだ1次元関数でlogKを表わしたものであり、 前記第2演算式は水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、及び固有分子体積(V)を少なくとも含んだ1次元関数でESI信号強度を表わしたものである請求項3に記載のスクリーニング方法。 スクリーニングの対象とする前記カルボン酸は、部分フッ素化カルボン酸である請求項1から4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。 液体クロマトグラフ質量分析に用いられ、添加剤を含んだ移動相において、 前記添加剤はカルボン酸からなり、そのカルボン酸の物性値から以下の第1演算式に基づいて予測される保持時間が添加剤として酢酸を添加したものよりも大きく、以下の第2演算式に基づいて予測されるESI信号強度が添加剤としてトリフルオロ酢酸を添加したものよりも大きいことを特徴とする移動相。 ここで、第1演算式と第2演算式は、幾つかのカルボン酸の物性値を説明変数とし、それらのカルボン酸をそれぞれ添加剤を含まない前記移動相に添加したときのカチオン性分析対象物質の保持時間とESI信号強度をそれぞれ目的変数として多変量解析により求められたものである。 前記物性値は2次元又は3次元構造に基づく分子記述子であり、水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、モル屈折率(E)、固有分子体積(V)、疎水性度(ClogP)、及び酸解離定数(pKa)のうちの2以上を含む請求項6に記載の移動相。 前記保持時間として液体クロマトグラフィーにおいて、カラムに保持されない成分の溶出時間に対する添加剤を添加した場合の保持時間の比率を対数値で表わした対数化保持比(logK)を用いる請求項6又は7に記載の移動相。 前記第1演算式は疎水性度(ClogP)及び酸解離定数(pKa)を少なくとも含んだ1次元関数でlogKを表わしたものであり、 前記第2演算式は水素結合酸性度(A)、水素結合塩基性度(B)、双極子/分極率(S)、及び固有分子体積(V)を少なくとも含んだ1次元関数でESI信号強度を表わしたものである請求項8に記載の移動相。 前記添加剤のカルボン酸は、部分フッ素化カルボン酸である請求項6から9のいずれか一項に記載の移動相。 請求項6から10のいずれか一項に記載の移動相を用いて分析を行なうことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析方法。 【課題】適当な添加剤を移動相に添加することで分析の感度と分離性能の両立を実現できるようなカルボン酸をスクリーニングする。【解決手段】(a)幾つかのカルボン酸をそれぞれ移動相に添加したときのカチオン性分析対象物質の保持時間及び電子スプレーイオン(ESI)信号強度を測定する工程と、(b)カルボン酸の物性値を説明変数とし、保持時間を目的変数とする第1演算式及びESI信号強度を目的変数とする第2演算式をそれぞれ多変量解析により構築する工程と、(c)スクリーニングの対象とするカルボン酸の物性値を求める工程と、(d)工程(c)で求められた物性値を両演算式に適用してスクリーニングの対象とするカルボン酸の保持時間及びESI信号強度を予測する工程と、(e)予測した保持時間を添加剤として酢酸を添加したときのものと比較し、かつ予測したESI信号強度を添加剤としてトリフルオロ酢酸を添加したときのものと比較する。【選択図】図1


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