タイトル: | 公開特許公報(A)_ゲル形成性組成物及びこの組成物を含有するゲル |
出願番号: | 2006314063 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A23L 1/05,A23L 1/305,A23L 1/302,A61K 9/10,A61K 38/00,A61K 47/36 |
渡瀬 峰男 田中 義明 JP 2008125435 公開特許公報(A) 20080605 2006314063 20061121 ゲル形成性組成物及びこの組成物を含有するゲル 株式会社ウエルハーモニー 597043947 鍬田 充生 100090686 渡瀬 峰男 田中 義明 A23L 1/05 20060101AFI20080509BHJP A23L 1/305 20060101ALI20080509BHJP A23L 1/302 20060101ALI20080509BHJP A61K 9/10 20060101ALI20080509BHJP A61K 38/00 20060101ALI20080509BHJP A61K 47/36 20060101ALI20080509BHJP JPA23L1/04A23L1/305A23L1/302A61K9/10A61K37/02A61K47/36 21 OL 18 4B018 4B041 4C076 4C084 4B018MD20 4B018MD23 4B018ME14 4B041LC03 4B041LD01 4B041LH07 4B041LH16 4B041LK13 4B041LK14 4B041LK19 4B041LK50 4C076AA09 4C076DD67 4C076EE30 4C076FF68 4C076FF70 4C084AA03 4C084BA03 4C084MA05 4C084MA23 4C084MA52 4C084NA10 4C084NA20 4C084ZC21 本発明は、ゲルの形態を保持しつつ、応力の作用により大きく変形し、嚥下食に有用なゲルを形成するのに適したゲル形成性組成物及びこの組成物を含有するゲル、並びにそれらの製造方法に関する。 摂食においては、食物の咀嚼や、舌と口蓋で押しつぶすなどの処理がなされた後、食物の飲み込み(嚥下)の準備である食塊形成がなされる。食塊が口腔の後方(咽頭)に移送される際、嚥下反射により、食塊は0.5秒ほどで咽頭を通過する。咽頭は、嚥下の際にのみ食塊の通路となるが、この通路の切り替えに障害(嚥下障害)が生じると、誤って食塊が肺に流入する(誤嚥)などの危険性が高くなり、肺炎の原因となり得る。 さらに、嚥下障害が引き金となり、寝たきりになる場合がある。嚥下機能が低下すると、食事量が減少し、かつ偏った食事になり、糖質やたんぱく質、脂肪などの栄養成分の摂取量が激減し、特定栄養成分の欠乏症(例えば、骨粗鬆症、運動機能障害など)やたんぱく質・エネルギー低栄養状態(Protein Energy Malnutrition,PEM)などに至る傾向にある。PEMは慢性的なエネルギー不足やタンパク質の摂取不足に加え、疾患や損傷などの生理的ストレスが生じたときに起こりやすいと言われている。特に、高齢者がPEMなどに陥ると、体力が落ち、寝たきり状態になりやすい。さらに、疾患治療に多大な影響を受け、高齢者自身が危険な状態に晒されるだけでなく、医療の経済面(例えば、医療費の増大など)及び経営面(例えば、入院の長期化など)などにも問題が生じ得る。 そこで、特定栄養成分の欠乏症やPEMなどの嚥下障害が原因となる疾病の予防、早期治療に重要となるのが、不足栄養成分の補給を担う嚥下食である。 嚥下食の基材として、昨今、多糖類が使用される場合が多い。多糖類は、独特のレオロジー特性(粘弾性やテクスチャーなど)を有し、粘性、安定性などを与える。しかし、多糖類を単独で用いても、嚥下食として要求されるレオロジー特性を満足させることは難しく、現状として、多糖類どうしを組み合わせて、それぞれの多糖類が有するレオロジー特性などに相乗効果をもたらしている。 これまでに多糖類の組み合わせで構成されている嚥下食として、例えば、特開2005−341848号公報(特許文献1)に、キサンタンガムと、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、タマリンドガム又はカラギーナンの何れか1種とで構成される嚥下困難者用飲料粉末が提案されている。この嚥下困難者用飲料粉末は、水に溶解するとゾル状になるため、水分補給用として用いるのに適している。しかし、生理活性成分などの活性成分を添加すると、さらにゾル化が進み、栄養補給用としてこの嚥下困難者用飲料粉末を用いると、嚥下の際、喉への付着性が高くなる傾向がある。 さらに、特開2000−191553号公報(特許文献2)では、タラガム及び/又はローカストビーンガムと、キサンタンガムとで構成された易嚥下補助組成物が開示され、嚥下時の喉への付着性が軽減され、また、粘度の経時安定性に優れている。この文献には、ゲル中におけるゲル化剤の割合は、0.1〜10重量%(特に0.5〜2重量%)であると記載されている。また、ガム混合物の食品への配合割合によって、形成されるゲル状構造の硬さを自由に嚥下に適した硬さに決定することができることも記載されている。しかし、この文献で用いられているタラガムでは、キサンタンガムとの組み合わせのゲル形成能は小さく、ゲルを形成するためには、比較的多くのタラガムを必要とする。 嚥下食の基材として汎用される多糖類は、分子間及び/又は分子内水素結合により、分子同士が会合して絡み合った構造、らせん状、ボール状などの複雑な構造をしている。そのため、多糖類をゲル化して、高い粘性を有し、かつ均質なゲルを得るには、ゲル形成過程において、過酷な加熱処理を必要とする場合が多い。特開2004−350680号公報(特許文献3)には、たん白質、ビタミン類を含有する咀嚼・嚥下困難者用食品が、特開2004−147639号公報(特許文献4)には、タンパク質で構成される成分、ビタミン類を含有する咀嚼・嚥下訓練食が提案されている。しかし、いずれも、ゲル形成過程で、増粘多糖類を熱水に溶解するなどの処理により、これらの成分は凝集・沈殿し、得られる食品の食感が悪くなる傾向がある。 熱変性や熱分解性の活性成分(例えば、タンパク質、ビタミン類など)を含有し、嚥下に好適な嚥下食を調製するには、嚥下食の基材がゲル形成能を有し、かつ低温度(又は非加熱)で溶解することが必要とされる。ゲル形成能を有し、低温度で溶解する多糖類としてゼラチンも知られている。しかし、ゼラチンゲルは、常温でゾル化し、またゼラチン水溶液が均質にゲル化するのに長時間要することなどから、ゼラチンは嚥下食の基材としては実用的ではない。 そのため、低温条件下(又は非加熱条件下)であってもゲル形成能を有する多糖類で構成される嚥下食基材であって、ゲルの形態を保持しつつも、小さな応力で大きく変形する大変形性を有する嚥下に適したゲルを形成するための嚥下食基材が強く求められている。特開2005−341848号公報(特許請求の範囲)特開2000−191553号公報(段落番号[0008]、実施例)特開2004−350680号公報(段落番号[0031])特開2004−147639号公報(段落番号[0015]) 従って、本発明の目的は、小さな応力で大変形するものの、ゲルの形態を保持し、嚥下に適したゲルを調製するのに適したゲル形成性組成物、その組成物を含有するゲル及びその製造方法を提供することにある。 本発明の他の目的は、構成成分である増粘多糖類が低濃度であっても、嚥下に適したゲルを形成可能なゲル形成性組成物、その組成物を含有するゲル及びその製造方法を提供することにある。 本発明のさらに他の目的は、活性成分、特にタンパク質、ペプチド及びビタミンなどの熱で変性又は分解し得る成分を均一に含み、嚥下食の基材として有用なゲル形成性組成物、その組成物を含有するゲル及びその製造方法を提供することにある。 本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、キサンタンガムとタラガムとの組み合わせにおいて、タラガムの分子量がゲル形成能に大きく影響すること、キサンタンガムと、高分子量のタラガムとを組み合わせると、増粘多糖類の濃度が低くても水性溶媒とでゲルを形成することができ、形成されるゲルは、ゲルの形態を保持しつつ、小さな応力に対して大きく変形する性質を有することを見いだし、本発明を完成した。 すなわち、本発明のゲル形成性組成物は、少なくともキサンタンガムと高分子量のタラガムとで構成される組成物であって、タラガムの数平均分子量(Mn)は30万以上(例えば、40万以上)である。また、本発明のゲル形成性組成物は、動的粘弾性測定において、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率が20〜50%の範囲に有し、かつ前記変曲点における力学的正接損失(tanδ)が0.1〜1であるゲルを形成する。特に、本発明では、高分子量で、かつ分子量の分散度が小さいタラガムを用いることで、増粘多糖類が少量であっても前記変形率及び力学的正接損失tanδを示すゲルを形成することができる。さらに本発明では、高分子量で、かつ分子量の分散度が小さいタラガムを用いることで、均質な三次元網目構造を有するゲルをも形成することができ、タラガムの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)10以下(例えば、Mw/Mnが8以下)であってもよい。キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)は、前者/後者=10/90〜90/10程度、例えば、20/80〜85/15程度であってもよい。さらに、本発明のゲル形成性組成物は、保水剤(例えば、デキストリンなどの糖類)を含んでいてもよい。 さらに、本発明には、少なくとも前記ゲル形成性組成物及び水性溶媒で構成されるゲルも含まれる。このゲルは、動的粘弾性測定において、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率20〜50%の範囲に有し、かつ変曲点における(tanδ)が0.1〜1であってもよい。前記増粘多糖類の割合は、0.1〜1重量%(例えば、0.2〜0.7重量%)であってもよい。また、前記ゲルは、増粘多糖類1重量部に対して0.1〜30重量部の割合で保水剤を含んでいてもよい。また、ゲル形成性組成物の割合が、0.5〜5重量%であってもよい。 前記ゲルは、活性成分(特に、タンパク質、ペプチド、ビタミンなど)を含む嚥下食として有用である。嚥下食としては、キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)が、前者/後者=25/75〜80/20であり、かつ増粘多糖類の割合が、0.3〜0.6重量%程度であってもよく、活性成分を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して、0.001〜20重量部の割合で含んでいてもよい。なお、活性成分が生理活性成分である場合には、生理活性成分を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して、1〜20重量部の割合で含有していてもよい。また、活性成分が薬理活性成分である場合には、薬理活性成分を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して、0.001〜0.1重量部の割合で含有していてもよい。 本発明には、前記ゲル形成性組成物と水性溶媒とを混合して前記ゲルを製造する方法及び前記ゲル形成性組成物と水性溶媒とを非加熱下で混合して前記ゲルを製造する方法も含まれる。さらに、保水剤及び活性成分から選択された少なくとも一種を混合して前記ゲルを製造する方法も含まれる。 本発明には、キサンタンガムと、数平均分子量(Mn)が30万以上であるタラガムとを組み合わせた増粘多糖類で構成されるゲル形成性組成物を用いた水性ゲルにおいて、動的粘弾性測定において、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率20〜50%、かつ前記変曲点における力学的正接損失(tanδ)を0.1〜1に調整する方法であって、増粘多糖類全体に対するキサンタンガムの割合が増加するにつれて、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体に対する増粘多糖類の割合を増加させ、前記ゲルの前記変形率及び力学的正接損失(tanδ)を調整する方法も含まれる。 なお、「変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点」とは、「ゲル構造の変化点」として表すことができ、「変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率20〜50%の範囲に有し、かつ変曲点におけるtanδが0.1〜1であるゲル」とは、「ゲル構造の変化点における変形率が20〜50%であり、かつ前記変化点における力学的正接損失(tanδ)が0.1〜1であるゲル」を意味する。 本発明では、ゲル形成性組成物が、少なくともキサンタンガムと高分子量のタラガムとで構成されているため、嚥下に好適な大変形性を有するフローゼリー状態のゲルを形成することができる。さらに、前記ゲル形成性組成物は、増粘多糖類が低濃度であっても、しかも非加熱条件下または低温下であってもゲル形成能を有するため、形成されるゲルは、特に、熱で変性又は分解し得る成分(タンパク質、ペプチド及びビタミンなど)を均質に含むことができ、嚥下食の基材に有用である。 [ゲル形成性組成物] 本発明のゲル形成性組成物は、少なくともキサンタンガムと特定のガラクトマンナンとで構成された増粘多糖類を含む。 キサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)が菌体外に生産する多糖類であり、β−D−グルコースが(1→4)結合した主鎖と、この主鎖に、二個のD−マンノースとグルクロン酸とからなる側鎖が結合した高度に枝分かれした構造をしており、水溶液中では、二重らせん構造が会合して形成された高次構造をとる。キサンタンガムは、長い側鎖のために、冷水にも容易に溶解するが、単独ではゲル形成能を有さず、他の多糖類(例えば、ガラクトマンナンなど)と組み合わせるのが好ましい。本発明で用いるキサンタンガムは、特に制限されず、市販のキサンタンガムであってもよい。 ガラクトマンナンは、β−D−マンノースが(1→4)結合した主鎖に、側鎖としてα−D−ガラクトースが(1→6)結合した構造を有している。ガラクトマンナンは、分子鎖中のマンノースとガラクトースとの比率に応じて分類されている。例えば、タラガムは、マンノース単位/ガラクトース単位(モル比)が3/1である。言い換えれば、タラガムは、マンノース3分子に、ガラクトース1分子が分岐した構造をしている。なお、他のガラクトマンナンには、例えばローカストビーンガムやグアーガムなどがあり、ローカストビーンガムでは、マンノース単位/ガラクトース単位(モル比)=4/1、グアーガムでは、マンノース単位/ガラクトース単位(モル比)=2/1である。 本発明では、タラガムを用いる。タラガムは、タラ(Cesalpinia spinosa)の種子の胚乳部から単離される多糖類である。タラガムは、水に可溶であるが、単独ではゲル形成能を有さないため、キサンタンガムと組み合わせてゲルを形成させるのが好ましい。より詳細には、タラガムなどのガラクトマンナンは、キサンタンガムと主鎖の構造が類似していることから、両者は分子鎖間で凝集、架橋し、主に水素結合を介して三次元網目構造を形成し、三次元網目構造の単位体積あたりの架橋数に応じ、ゲル化が可能となる。側鎖の少ないローカストビーンガムでは、キサンタンガムと会合して強固な網目構造を作り、弾力のあるゲルを形成する。一方、側鎖の多いタラガムでは、立体障害により、キサンタンガムとの間に架橋点が形成されにくいためか、キサンタンガムとタラガムとの組み合わせによるゲル形成能は決して大きいとは言えない。本発明者らは、低分子量成分をカットし、高分子量のタラガムとし、かつキサンタンガムと組み合わせることによりゲルが形成されることを見いだした。すなわち、キサンタンガムとタラガムとの組み合わせによるゲル形成能を向上させるために、高分子量のタラガムを用いることが有用であり、特に、高分子量でかつ分子量の分散度が小さいタラガムを用いることが有用である。ここで、高分子量のタラガムを用いると、キサンタンガムとで形成されるゲルの架橋領域が増加し、また、分子量の分散度の小さいタラガムを用いると、ゲルの三次元網目構造の均質性が増加する。本発明において、高分子量でかつ分子量の分散度の小さいタラガムを用いると、形成されるゲルの架橋領域を増加させることができ、かつゲルの三次元網目構造の均質性を増加させることができる。 市販のタラガムの平均分子量は約25万であるが、本発明では、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した数平均分子量(Mn)30万以上(例えば、35万〜200万)、好ましくは40万以上(例えば、45万〜150万)、さらに好ましくは45万以上(例えば、50万〜120万)、特に60万〜100万のタラガムを用いるのが有利である。 また、キサンタンガムとタラガムとの組み合わせによるゲル形成能及びゲルの均質性を向上させるために、タラガムは、分子量の分散度が小さいことが好ましい。分子量の分散度の指標として、分子量に関して数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が知られている。一般的に、Mw/Mn≧1であり、この比の値が大きいほど、分子量分布が広いことを意味する。市販のタラガムは、Mw/Mnの値は100以上に達するため、市販のタラガムとキサンタンガムとの組み合わせによるゲル形成能は非常に低く、また形成されるゲルの均質性は不十分であると言える。一方、低分子量成分を分別する操作を複数回繰り返すと、Mw/Mn=1.2程度となることが知られている。本発明で用いるタラガムは、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したMw/Mn=10以下(例えば、1〜9)、好ましくは8以下(例えば、1.1〜7)、さらに好ましくは7以下(例えば、1.2〜6.5)、特に6以下(例えば、1.5〜6)である。また、本発明で用いるタラガムは、例えば、数平均分子量(Mn)30万以上で、かつ数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)10以下、好ましくはMn40万以上、かつMw/Mn8以下、さらに好ましくはMn50万以上、かつMw/Mn6以下であってもよい。本発明では、前記の高分子量でかつ分子量の分散度の小さいタラガムを用いるため、均質な三次元網目構造を有するゲルを形成することができる。 前記タラガムの分画方法又は精製方法は、慣用の方法であってもよい。例えば、前記タラガムは、タラ(Cesalpinia spinosa)の種子から粉砕機又は化学処理により殻を除去した後、分離した胚乳を粉砕し、分画、精製してもよい。胚乳は非常に硬く粉砕しにくいため、市販のタラガムでは、胚乳の粉砕時に、胚乳を高温度下で粉砕又は酵素処理する場合が多い。しかし、高温度下で粉砕又は酵素処理などの過酷な処理を行うと、得られるタラガムの分子量の分散度が大きくなる傾向がある。そのため、本発明では、例えば、高温度下で粉砕せず、穏やかな条件下で粉砕することにより、高分子量でかつ分子量の分散度が小さいタラガムを分画、精製することができる。 キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)は、形成されるゲルが、ゲルの形態を保持しつつ、応力の作用により大変形可能である限り、特に限定されず、通常、キサンタンガム/タラガム(重量比)=10/90〜90/10の範囲から選択することができ、好ましくは20/80〜85/15、さらに好ましくは25/75〜80/20であってもよく、特に25/75〜60/40(例えば、30/70〜50/50)程度であってもよい。例えば、キサンタンガム/タラガム(重量比)=30/70〜80/20であってもよい。 また、本発明のゲル形成性組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、前記増粘多糖類に加え、さらに他の多糖類を含んでいてもよい。他の多糖類は、特に制限されず、例えば、植物由来多糖類(例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンド種子ガム、ペクチン、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ガッティガム、ラーチガムなど)、海藻由来多糖類(例えば、カラギーナン、ファーセルラン、寒天、アルギン酸類など)、微生物産生多糖類(例えば、ジェランガム、カードラン、プルランなど)、その他の多糖類(例えば、グルコマンナン、キチン・キトサンなど)などであってもよい。これらの他の多糖類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの他の多糖類のうち、カラギーナン、グアーガム及び寒天から選択される少なくとも一種であるのが好ましい。他の多糖類は、キサンタンガム及びタラガムの合計100重量部に対して、0〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは2〜20重量部(例えば、3〜15重量部程度)であってもよい。 本発明のゲル形成性組成物は、必要に応じて、保水剤を含んでいてもよい。保水剤としては、例えば、澱粉類(コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、化工澱粉などの水可溶性澱粉、デキストリン、シクロデキストリンなど)、結晶セルロース類(結晶セルロースなど)、単糖又はオリゴ糖類(乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖など)、糖アルコール類(ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトールなど)、アルドン酸、ウロン酸(例えば、D−グルクロン酸、D−ガラクツロン酸など)、糖酸、環状イノシット類(例えば、D−イノシットなど)、デオキシ糖(例えば、L−フコースなど)、アンヒドロ糖、アミノ糖(例えば、D−グルコサミン、D−ガラクトサミンなど)又は酸性ムコ多糖(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸又はこれらの塩など)などの糖類が用いられることが多く、多価アルコール(例えば、グリセリン、エチレングリコールなど)、アミノ酸(例えば、プロリン、ヒドロキシプロリン又はこれらの塩など)などを用いてもよい。これらの保水剤のうち、保水力、粘凋性が優れる上に、低価格で、消化・吸収が速やかに行われることなどから、デキストリン(シクロデキストリンを含む)などの澱粉類などが汎用される。これらの保水剤は、本発明で得られる特性に悪影響を与えない範囲で、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。 デキストリンは、特に制限されず、慣用の方法で製造されたものでよく、デンプンを酵素処理(例えば、アミラーゼ消化)又は化学処理(例えば、熱や弱酸による加水分解処理)して得られたものであってもよい。例えば、シクロデキストリン、可溶性デンプン、薄手ノリデンプン、アミロデキストリン、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、エリトロデキストリン、アクロデキストリン、マルトデキストリンなどが使用できるが、特に、シクロデキストリン、マルトデキストリンが好ましい。 保水剤は、固形分換算で、増粘多糖類1重量部に対して0.1〜30重量部(例えば、1〜25重量部)、好ましくは、0.5〜25重量部(例えば、1〜20重量部)、さらに好ましくは1.5〜20重量部(例えば、3〜15重量部)、通常、2〜13重量部程度である。 [ゲル及び嚥下食] 本発明のゲルは、少なくとも前記ゲル形成性組成物及び水性溶媒とで構成される。水性溶媒は、水単独であってもよく、適宜、少量の低級アルコール(例えば、エチルアルコール、グリセリンなど)を含んでいてもよいが、通常、水である。 本発明では、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体に対する増粘多糖類の割合を、他の構成成分やその割合に応じ、ゲルの形態を保持しつつ、小さな応力で大変形するゲルを形成可能な範囲で選択できる。本発明では、特定のタラガムを用いて、キサンタンガムとタラガムとの組み合わせによるゲル形成能を向上させているため、前記増粘多糖類の割合が少なくても均質な三次元網目構造を有するゲルが形成される。 増粘多糖類に対するキサンタンガムの割合が大きくなるにつれ、キサンタンガムとタラガムの単位体積あたりの架橋点の数(架橋密度)が減少し、キサンタンガムとタラガムとの組み合わせによるゲル形成能が低下するようである。そのため、増粘多糖類に対するキサンタンガムの割合が大きくなるにつれ、前記増粘多糖類の割合(重量基準)を大きくするのが好ましい。例えば、ゲルの形態を保持しつつ、小さな応力で大変形するゲルを形成可能である場合の前記増粘多糖類の最小濃度(重量基準)を100とすると、増粘多糖類に対するキサンタンガムの割合が大きくなるにつれ、増粘多糖類の濃度(重量基準)を、100〜650、好ましくは100〜550、さらに好ましくは100〜400、特に100〜350(例えば、100〜250)の範囲で大きくしてもよい。 具体的には、前記増粘多糖類の割合は、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して0.1〜1重量部(即ち、0.1〜1重量%を意味する)、好ましくは0.15〜0.9重量部、さらに好ましくは0.2〜0.7重量部、特に0.3〜0.7重量部(例えば、0.3〜0.6重量部)程度であってもよい。例えば、キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)が30/70〜50/50の範囲では、前記増粘多糖類の割合は、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して0.3〜0.6重量部程度であってもよく、また、キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)が60/40〜80/20の範囲では、前記増粘多糖類の割合は、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して0.4〜0.7重量部程度であってもよい。 前記ゲルは、ゲル形成性組成物を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して0.5〜5重量部(即ち、0.5〜5重量%を意味する)、好ましくは1〜4重量部、さらに好ましくは1.5〜3重量部の割合で含んでいてもよい。 また、本発明のゲル形成性組成物又はゲルは、食品、医薬品などの活性成分、例えば、生理活性成分、薬理活性成分を含有していてもよい。 活性成分は、本発明の使用には特に制限されないが、通常、粉末状又は液体状の生理活性成分であり、特に粉末状の生理活性成分が好ましい。また、これらの活性成分は、予め水性溶媒に溶解又は懸濁されていてもよい。 具体的には、生理活性成分としては、例えば、植物体(米、米胚芽、玄米、麦、麦胚芽、粟などの穀類、大豆、小豆、胡麻、南京豆、黒豆、枝豆、空豆などの豆類など)、野菜類(トマト、玉葱、ジャガイモ、サツマイモ、人参、トウモロコシ、ニンニク、ほうれん草、カボチャ、大根など)、各種果汁又は果肉類(ミカン、リンゴ、イチゴ、オレンジ、メロンなど)、獣鳥類(牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵など)、魚介類(サンマ、カツオ、サバ、アジ、イワシなどの魚肉、タラコ、イクラなどの魚卵、ハマグリ、ホタテ、アサリなどの貝類、昆布、ワカメ、ヒジキなどの海藻など)、種実類(クルミ、ピーナッツなど)、粘質類(サトイモ、とろろなど)、乳製品(粉ミルク、粉チーズ、豆乳、ヨーグルトなど)、調味料(食塩、砂糖、味噌、醤油など)などの粉末成分又はその成分エキス、糖質(ショ糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、麦芽糖、水飴、還元麦芽糖、キシリトール、ソルビトールなど)、各種油脂類(動物油脂、植物油脂など)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなどの脂溶性ビタミン、又はビタミンB1、ビタミンB2、ビオチン、葉酸、ビタミンC、リポ酸などの水溶性ビタミンなど)、ミネラル類(カルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウム、マンガンなどを含む塩類)、食物繊維(セルロース、ヘミセルロース、グアーガムなど)、醸造飲料(清酒、洋酒、梅酒、果実酒など)、嗜好飲料粉末(緑茶粉末、コーヒー粉末、ココア粉末など)、ポリフェノール類(茶カテキンや大豆イソフラボンなど)、セラミド類(小麦、米、大豆セラミドなど)、酵素(リパーゼ、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、アミラーゼ、リゾチームなど)、微生物(ビール酵母などの酵母又は酵母抽出物、乳酸菌など)、アミノ酸(グリシン、L−リジン、L−バリン、L−アラニン、L−アルギニン、L−シスチン、L−メチオニン、L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸、タウリン又はこれらの金属塩など)、タンパク質又はペプチド類(L−アルギニン、L−グルタミン酸、L−リジングルタメート、豚、牛、鶏など由来のコラーゲン及びそのコラーゲンペプチドなどのペプチド類、コエンザイムQ10、L−カルニチン又は有機酸塩、シルクプロテイン、シルクペプチドなど)、酸成分(酢酸、黒酢、リンゴ酢などの酢、L−アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、フマル酸、γ−アミノ酪酸などの有機酸又はこれらの金属塩など)、グルコサミン類(キチン、キトサンなど)、ホルモン類などの成分が例示できる。 薬理活性成分としては、例えば、抗アレルギー薬(クロモグリク酸ナトリウムなど)、抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、ピリラミンなど)、抗炎症薬(イブプロフェン、インドメタシンなど)、睡眠薬(ニトラゼパム、バルビタールなど)、抗精神病薬、鎮痛薬、抗高血圧薬、健胃薬、消化薬、抗菌薬又は抗生物質などの成分、又は生薬成分(カッコン、アロエ、アマチャヅル、ウコンなど)などが挙げられる。 上記活性成分と併せて、各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、甘味料(前記糖質類、サッカリンナトリウム、カンゾウエキスなど)、香辛料(ブラックペパー、バジル、シナモンなど)、着色料、保存料、糊料、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、乳化剤、pH調整剤、結合剤、懸濁化剤、光沢化剤、湿潤剤、消泡剤、清涼化剤、等張化剤、粘着剤、粘凋剤、離型剤、香料又は天然物の加水分解物類(グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムなど)などの成分が例示できる。 これらの活性成分のうち、通常、穀類、豆類、野菜類、果汁又は果肉類、食肉、鶏卵、魚介類、調味料、糖質、ビタミン類、ミネラル類、嗜好飲料粉末などの成分が用いられる。これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。 活性成分は、後述の通り、熱で変性又は分解し得る成分であってもよく、例えば、タンパク質、ペプチド及びビタミンから選択される少なくとも一種の成分であってもよい。活性成分は、特に制限されないが、高分子量でかつ高粘度の活性成分を用いると、ゲル形成を損なう場合があるため、分子量(又は数平均分子量Mn)15000以下(例えば、100〜8000)、好ましくは10000以下(例えば、150〜7000)、さらに好ましくは、200〜5000程度でかつ粘性が高くない成分を用いることが好ましい。 本発明のゲル形成性組成物又はゲルに活性成分を含有させる場合、ゲルの三次元網目構造の架橋点は、添加する活性成分によって形成阻害又は破壊される傾向があるため、前記活性成分の割合を、目的のゲル特性に応じて調整することが好ましい。 例えば、活性成分の割合は、活性成分が生理活性成分の場合、固形分換算で、ゲル形成性組成物中の増粘多糖類1重量部に対して1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部、さらに好ましくは10〜35重量部(例えば、15〜30重量部)程度であってもよい。また、活性成分の割合は、活性成分が生理活性成分である場合、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対しては1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、さらに好ましくは2.5〜15重量部(例えば、5〜10重量部)程度であってもよい。活性成分が薬理活性成分の場合、固形分換算で、ゲル形成性組成物中の増粘多糖類1重量部に対して0.001〜0.5重量部、好ましくは0.005〜0.1重量部、さらに好ましくは0.01〜0.05重量部程度であってもよい。また、活性成分の割合は、活性成分が薬理活性成分である場合、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して0.001〜0.1重量部、好ましくは0.002〜0.05重量部、さらに好ましくは0.003〜0.01重量部であってもよい。前記の通り、本発明では、増粘多糖類の割合が小さくても、活性成分を比較的多く添加できるため、嚥下食の摂取量が少量であっても、十分な栄養補給が可能となる。 なお、活性成分を含有したゲルは、前記増粘多糖類を0.05〜0.9重量%、好ましくは0.1〜0.85重量%、さらに好ましくは0.15〜0.8重量%、特に0.2〜0.7重量%(例えば、0.25〜0.6重量%)の割合で有していてもよい。また、活性成分を含有したゲルは、ゲル形成性組成物を0.05〜4重量%、好ましくは0.5〜3.5重量%、さらに好ましくは1〜2.5重量%の割合で有していてもよい。 本発明のゲルは、ゲルの三次元網目構造が十分に進行していないため、形を保持しつつ流動し、小さな応力に対して大きく変形する性質を有する。この性質は一般的なゲルとは異なる特性であるため、本発明のゲルを一般的なゲルと区別して、「流れるゼリー」又は「フローゼリー」と称する場合がある。このフローゼリー状態にあるゲルは嚥下食に好適である。 本発明のフローゼリー状態のゲル及び嚥下食は小さな応力で大変形する。このような特性は、前記変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点における変形率及び前記変曲点における力学的正接損失(tanδ)とで評価でき、本発明のゲルは、前記変曲点における変形率が20〜50%、好ましくは25〜45%、さらに好ましくは30〜40%、特に33〜36%(例えば、34%)程度である。また、前記変曲点における力学的正接損失(tanδ)が0.1〜1、好ましくは0.1〜0.95、さらに好ましくは0.15〜0.9、特に、0.15〜0.8である。変形率、貯蔵弾性率(G’)及び力学的正接損失(tanδ)などの特性は、ゲル特性及び嚥下のし易さの指標となる。 力学的正接損失(tanδ)は、貯蔵弾性率(G’)に対する損失弾性率(G”)の比(G”/G’)である。ここで、貯蔵弾性率(G’)は、ゲルにひずみを与えても壊れない強い結合の数、すなわち、単位体積あたりの強い結合の数に比例し、ゲルの硬さを表す弾性成分である。損失弾性率(G”)は、ゲルにひずみを与えると壊れて、熱エネルギーとなる弱い結合の数、すなわち、単位体積あたりの弱い結合の数に比例し、ゲルの軟らかさを表す粘性成分である。さらに、粘弾性を有するゲルに応力を加えると、徐々に変形が起こる。応力が小さい間は、応力とひずみの間で線形性が成り立つが、応力が大きくなると、線形性が保持できなくなり、ゲル構造が急激に変化する点が出現する。変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点は、変形率と前記力学的正接損失tanδとの関係において、変形率の変化に伴い、一定の比例関係で変化していたtanδが、急激にその比例関係を変化させる点として示され、ゲル構造の変化点とも表すことができる。上記変形率、貯蔵弾性率(G’)及び力学的正接損失(tanδ)などの特性は、動的粘弾性測定で求めることができる。 硬いゲル状態のゲルは、ゲルの三次元網目構造が十分に進行しており、容器を傾けると、ゲルは形態を保持するものの、応力に対してさほど変形せず、前記力学的正接損失(tanδ)の変曲点における変形率はほぼ11%である。このような性質のゲルは、パサつき感、弾力性があり、嚥下食にすると、咽頭から気管に入る誤嚥のおそれがある。 ゾル状態(トロミ状態)の溶液は、容器を傾けると、形態を自在に変化させながら流動する。これらの溶液の変曲点における変形率はほぼ69%である。このような性質の溶液は、付着性が大きく、嚥下食にすると、水分の少ない嚥下障害者の咽頭の粘膜に付着し易くなる。 本発明のゲル及び嚥下食は、硬いゲル状態とトロミ状態との中間の性質を示し、ゲルの形態を保持しつつ大変形性を有するため、咽頭を通過する際にも大変形できる。この性質は、食塊が、複雑な構造をした咽頭内を一瞬で通過し、嚥下がスムーズに行われるために重要である。 本発明のゲル及び嚥下食は、前記活性成分を前記割合で含有させてもフローゼリー状態を保持する。さらに、本発明のゲル及び嚥下食は、非加熱条件下又は低温下(例えば、0〜35℃、特に10〜25℃)でも調製できる。そのため、本発明のゲル及び嚥下食は、熱で変性又は分解し得る成分(例えば、タンパク質、ペプチド又はビタミンなど)と組み合わせても、成分の凝集・沈殿が低減され、かつ嚥下に好適なゲル特性(例えば、大変形性、粘性など)を保持する。 また、本発明のゲル及び嚥下食において、ゲルの融解温度は、増粘多糖類の割合に影響される。例えば、前記増粘多糖類の割合が、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して0.4重量部以上である場合、ゲルは融解温度45℃以上を示すため、夏場でもゲルは融解せず、さらに、嚥下中に咽頭内で融解することなく、日常において安定性に優れ、ゼラチンの欠点を克服することが可能である。さらに、本発明のゲル及び嚥下食は、多数の水酸基や極性基を有する高度な分岐構造のキサンタンガム及びタラガムで構成されているため、ゲル表面が水和された状態である。そのため、本発明のゲル及び嚥下食は、保水力が高く、水分量が減少した咽頭内を滑らかに通過することができる。また、凍結・融解を反復してもほとんど離水しない凍結耐性(耐凍結安定性)をも併せもつ。 一般的にゲルは多量の液体を含むが、自重では流動せずに形を保っている状態であると定義でき、液体と固体との中間状態で「第4の物質」とも称される。例えば、プリンやデザートゼリーなどがゲルに分類されるが、重力が作用してもその形状は通常変化しない。一方、フローゼリー状態のゲルは離水することなく、形を保持したまま自在に流動する。両者から嚥下食を調理・加工した場合、嚥下食の味、香り、舌ざわり、のど越し及び摂取量に差異が生じる。このような差異は、フローゼリーの三次元網目構造に起因しており、嚥下食をフローゼリー状態に調整すると、食品のもつ微妙な味や香りを表現することができる。 なお、本発明のゲル及び嚥下食は、フローゼリー状態を有しているが、増粘多糖類に対するキサンタンガムの割合を大きく、又はゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体に対する増粘多糖類の割合を小さくすると、ゲル中の三次元網目構造の架橋密度が減少し、より流動性の高いゾル状態の方向に移動する。フローゼリー状態の中でも、ゾル状態に近いフローゼリーに調整すると、摂食一回あたりのフローゼリーの摂取量を増やすことができる。即ち、同じフローゼリー状態であっても、ゲルの三次元網目構造の架橋密度に応じて、摂食一回あたりの摂取量を調節できることは、工業生産において非常に興味深く、かつ本発明のゲル及び嚥下食の利用可能性を広げる。 [製造方法] 本発明のゲル形成性組成物は、少なくともキサンタンガムとタラガムと、必要により保水剤とを、前記割合で混合して製造することができる。また、本発明のゲル形成性組成物は、増粘多糖類に、他の多糖類(例えば、カラギーナン、グアーガム、寒天など)をも前記割合で混合して製造してもよい。各成分は、粉末状の形態や液体状の形態で混合してもよい。 本発明のゲル形成性組成物を、水性溶媒と前記割合で混合し、溶解して得られたゲル溶液を冷却すると、さらにゲル化が進行する。本発明のゲル形成性組成物は、水性溶媒と、非加熱条件下又は低温下で混合し、攪拌しながら徐々に溶解して得られたゲル溶液を、そのまま放置冷却するとさらにゲル化が進み、ゲルを形成する。なお、ゲル形成に要する時間を短縮し、かつ均質性及び粘性に優れるゲルを得るために、前記ゲル溶液を、融解温度未満の温度(例えば、25〜70℃、好ましくは28〜65℃、さらに好ましくは30〜60℃、特に、35〜55℃程度)で加熱した後、冷却すればよい。本発明では、ゲル形成過程で活性成分を前記割合で含有させ、上記方法でゲルを調製し、得られたゲルを嚥下食としてもよい。 本発明のゲル形成性組成物は、小さな応力で大変形可能なゲルを形成できるため、スムーズに、かつ安全に嚥下できることが求められている摂食・嚥下障害者や高齢者などの嚥下食に有用である。とりわけ、本発明のゲル形成性組成物は、熱で変性又は分解し得る成分(例えば、タンパク質、ペプチド又はビタミンなど)を含有する嚥下食に好適であり、たんぱく質・エネルギー低栄養状態(Protein Energy Malnutrition,PEM)やビタミン欠乏症などの特定栄養素欠乏症の予防又は早期治療、さらに、特定栄養素欠乏症に起因する寝たきり状態、摂食・嚥下障害、生活習慣病、認知症又はうつ病などの障害・疾病を予防・改善することができる。また、本発明のゲル及び嚥下食は、安価で、調理・加工がし易い上に、凍結耐性(耐凍結安定性)を有していることから、嚥下食の冷凍保存及び広汎な利用が可能であり、例えば、病院食、高齢者のための施設での食事への利用に適している。さらに、嚥下機能が未発達な乳児用の離乳食又は幼児用の食品への利用にも適している。 以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の例において貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”、力学的正接損失tanδ、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点における変形率は、以下のようにして測定した。 得られた嚥下食の動的粘弾性を以下の条件で測定した。 測定機種:(株)ユービーエム製、商品名「Rheosol−G3000」 測定法:動的粘弾性測定 測定モード:変形率、温度依存性 チャック:パラレルプレート 波形:正弦波 パラレル半径:40mm 厚み:1mm ギャップ:3mm 条件:25℃1deg トルクFs:2.04 ロードセル:10.2kg。 実施例1 キサンタンガムとタラガムとを、キサンタンガム/タラガム(重量比)=40/60の割合で組み合わせた増粘多糖類0.4重量部、デキストリン1.6重量部、低ゲル化性ホエイタンパク質2重量部、コラーゲンペプチド4重量部及び砂糖2.5重量部を水89.5重量部に添加し、数分間膨潤させた。得られた水性ゲルを50℃まで徐々に加熱し、50℃で約20分攪拌して溶解した。その後、室温まで放冷し、冷蔵庫で1時間以上放置すると、フローゼリー状態の嚥下食が得られた。得られた嚥下食の力学的正接損失tanδ、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図1に示す。 ここで、用いた低ゲル化性ホエイタンパク質の成分表示は以下の通りである。なお、下記成分は低ゲル化性ホエイタンパク質100gあたりの成分を表す。 (低ゲル化性ホエイタンパク質) タンパク質:83.6重量% 脂肪:6.2重量% 水:3.9重量% 乳糖:6.7重量% 灰分:2.8重量% ナトリウム:248mg カリウム:580mg 塩素:43mg カルシウム:361mg リン:280mg。 実施例2 キサンタンガム/タラガム(重量比)=80/20の割合で組み合わせた増粘多糖類を0.4重量部用いる以外は実施例1と同様にして嚥下食を調製した。得られた嚥下食の力学的正接損失tanδ、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図1に示す。 実施例3 キサンタンガム/タラガム(重量比)=30/70の割合で組み合わせた増粘多糖類を0.4重量部用いる以外は実施例1と同様にして嚥下食を調製した。得られた嚥下食の力学的正接損失tanδ、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図1に示す。 実施例4 キサンタンガム/タラガム(重量比)=40/60の割合で組み合わせた増粘多糖類を0,5重量部用いる以外は実施例1と同様にして嚥下食を調製した。得られた嚥下食の力学的正接損失tanδ、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図1に示す。 実施例5 キサンタンガム/タラガム(重量比)=40/60の割合で組み合わせた増粘多糖類を0.6重量部用いる以外は実施例1と同様にして嚥下食を調製した。得られた嚥下食の力学的正接損失tanδ、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図1に示す。 実施例6 キサンタンガム/タラガム(重量比)=80/20の割合で組み合わせた増粘多糖類を0.7重量部用いる以外は実施例1と同様にして嚥下食を調製した。得られた嚥下食の力学的正接損失tanδ、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図1に示す。 なお、図1の矢印は、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点(ゲル構造の変化点)を示す。変形率と力学的正接損失tanδとの関係は、キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)や、増粘多糖類の割合(重量基準)を変えても、34%付近(図中の矢印)までは、ほぼ線型性が成立するが、その後、変形率の増加とともに力学的正接損失tanδの値は増加する。この挙動は、ひずみを加えたときに壊れ、熱エネルギーになる弱い結合量を示す損失弾性率(G”)と、ひずみを与えても壊れない強い結合量を示す貯蔵弾性率(G’)では、ひずみの増加で受ける影響が、変形率30〜40%(特に、34%程度)で、損失弾性率(G”)>貯蔵弾性率(G’)となることに起因していると推定される。この挙動を示すゲルは、弾力性と付着性のバランスに優れ、流動性を有するフローゼリー状態であるため、小さな応力で大変形する。また、力学的正接損失tanδの値は、食塊が嚥下に好適な状態である範囲(0.1〜1)にある。キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)、増粘多糖類の割合(重量基準)を変えても、tanδの値がほとんど変わらないのは、両ガム分子鎖間の架橋密度が変化するに伴い、貯蔵弾性率G’の値は変化するが、三次元網目構造の架橋点(主として水素結合)の質的性質が変わらないためとみられる。 実施例7〜10 実施例1〜4で調製したそれぞれの嚥下食の貯蔵弾性率G’、変形率を25℃で測定し、両者の関係を図2に示す。 図2において、貯蔵弾性率G’は、変形率30〜40%で急激に減少する。この挙動は、ひずみの増加に伴って、壊れにくい強い結合までが壊れ始めるためと推定される。減少する程度は、キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)及び増粘多糖類の割合(重量基準)に影響を受ける。また、貯蔵弾性率G’は、キサンタンガム/タラガム(重量比)が80/20、30/70、40/60の順に大きく減少するが、このような挙動は、ゲルの三次元網目構造の架橋密度の大きさに対応し、架橋密度が大きいほど、貯蔵弾性率G’が大きくなり、また、貯蔵弾性率G’も大きく減少するようである。 実施例11〜14 実施例1、3、2及び4で調製した嚥下食の貯蔵弾性率G’と温度との関係(貯蔵弾性率G’の温度依存性)を図3に示す。なお、貯蔵弾性率G’と温度との関係は、周波数を1Hzに固定し、測定温度25℃から1分間2℃の割合で昇温して貯蔵弾性率G’を測定した。 実施例15 実施例14で調製した嚥下食の貯蔵弾性率G’と温度との関係を測定した後、昇温された嚥下食を放冷し、さらに一昼夜、冷凍庫で放置した。凍結した嚥下食を解凍した後、再度、貯蔵弾性率G’と温度との関係を測定した。結果を図3に示す。 なお、図3の記号a〜dは、貯蔵弾性率G’が急激に変化する点を示し、記号aは実施例11の嚥下食、記号bは実施例12の嚥下食、記号cは実施例13の嚥下食、記号dは実施例14の嚥下食を示す。図3において、増粘多糖類が0.4重量部(実施例11〜13)のとき、貯蔵弾性率G’が大きく変化する温度は、キサンタンガム/タラガム(重量比)が40/60の場合で、ほぼ38℃であり、以下、30/70、80/20の順に低くなる。増粘多糖類が0.5重量部(実施例14)のとき、貯蔵弾性率G’が大きく変化する温度は、ほぼ43℃である。以上の結果から、貯蔵弾性率G’が大きく変化する温度は、ゲルの三次元網目構造の架橋密度の大きさに影響を受け、架橋密度が大きいほど貯蔵弾性率G’が大きく変化する温度が高くなるようである。貯蔵弾性率G’が急激に変化した温度より高温領域で、貯蔵弾性率G’の温度依存性の挙動が大きく違うのは、ゲルの融解過程におけるキサンタンガムとタラガムとの量的比率に差異があるためであり、この差異が、キサンタンガムとタラガムの両者の粘弾性挙動に影響を与えるようである。また、実施例15において、得られた嚥下食を凍結融解した後、再度、貯蔵弾性率G’と温度との関係を測定したところ、凍結融解の前後での挙動の差異はほとんど見られず、本発明の嚥下食は、凍結融解を行っても、離水してパサつき感が出ない、即ち、凍結耐性(耐凍結安定性)を有すると言える。図1は、実施例1〜6で得られた嚥下食の25℃における力学的正接損失tanδと変形率との関係を示すグラフである。図2は、実施例7〜10で得られた嚥下食の25℃における貯蔵弾性率G’と変形率との関係を示すグラフである。図3は、実施例11〜15で得られた嚥下食の貯蔵弾性率G’と温度との関係を示すグラフである。 キサンタンガムとタラガムとで構成された増粘多糖類を含み、タラガムの数平均分子量(Mn)が30万以上であるゲル形成性組成物。 動的粘弾性測定において、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率20〜50%の範囲に有し、かつ変曲点におけるtanδが0.1〜1の範囲にあるゲルを形成可能な請求項1記載のゲル形成性組成物。 タラガムの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が10以下であり、均質な三次元網目構造を有するゲルを形成可能な請求項1記載のゲル形成性組成物。 キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)が、前者/後者=10/90〜90/10である請求項1記載のゲル形成性組成物。 さらに、保水剤を含む請求項1記載のゲル形成性組成物。 保水剤が糖類で構成されている請求項5記載のゲル形成性組成物。 請求項1記載のゲル形成性組成物及び水性溶媒で構成されたゲル。 動的粘弾性測定において、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率20〜50%の範囲に有し、かつ変曲点におけるtanδが0.1〜1である請求項7記載のゲル。 増粘多糖類が、キサンタンガムと、Mnが40万以上かつMw/Mnが8以下であるタラガムとで構成され、前記キサンタンガムと前記タラガムとの割合(重量比)が、前者/後者=20/80〜85/15である請求項7記載のゲル。 増粘多糖類の割合が、0.1〜1重量%である請求項7記載のゲル。 増粘多糖類の割合が、0.2〜0.7重量%である請求項7記載のゲル。 さらに、増粘多糖類1重量部に対して0.1〜30重量部の割合で保水剤を含み、ゲル形成性組成物の割合が、0.5〜5重量%である請求項7記載のゲル。 さらに、活性成分を含む嚥下食である請求項7記載のゲル。 活性成分を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して、0.001〜20重量部の割合で含有し、キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)が、前者/後者=25/75〜80/20であり、かつ増粘多糖類の割合が、0.3〜0.6重量%である請求項13記載のゲル。 活性成分が生理活性成分であり、生理活性成分を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して、1〜20重量部の割合で含有する請求項14記載のゲル。 活性成分が薬理活性成分であり、薬理活性成分を、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体100重量部に対して、0.001〜0.1重量部の割合で含有する請求項14記載のゲル。 活性成分が、タンパク質、ペプチド及びビタミンから選択された少なくとも一種の成分である請求項13記載のゲル。 請求項1記載のゲル形成性組成物と水性溶媒とを混合して請求項7記載のゲルを製造する方法。 非加熱下で混合する請求項18記載の方法。 さらに保水剤及び活性成分から選択された少なくとも一種を混合する請求項18記載の方法。 キサンタンガムと、数平均分子量(Mn)が30万以上であるタラガムとを組み合わせた増粘多糖類で構成されるゲル形成性組成物を用いた水性ゲルにおいて、動的粘弾性測定において、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点を、変形率20〜50%、かつ前記変曲点における力学的正接損失(tanδ)を0.1〜1に調整する方法であって、増粘多糖類全体に対するキサンタンガムの割合が増加するにつれて、ゲル形成性組成物及び水性溶媒の全体に対する増粘多糖類の割合を増加させ、前記ゲルの前記変形率及び力学的正接損失(tanδ)を調整する方法。 【課題】嚥下に好適な大変形性を有するゲルを調製するためのゲル形成性組成物及びこの組成物を用いたゲルを提供する。【解決手段】高分子量で、分子量の分散度が小さいタラガムとキサンタンガムとで構成されたゲル形成性組成物であって、さらに、水性溶媒と必要に応じて各種活性成分とで、変形率に対する力学的正接損失(tanδ)の変曲点における変形率が20〜50%であり、かつ前記変曲点における力学的正接損失tanδが0.1〜1であるゲルを形成可能なゲル形成性組成物を得る。キサンタンガムとタラガムとの割合(重量比)は、前者/後者=10/90〜90/10であり、増粘多糖類の割合は、0.1〜1重量%である。このゲルは、大変形性を有し、嚥下食に好適である。とりわけ、タンパク質、ペプチド及びビタミンなどの成分を含む嚥下食に好適である。【選択図】なし