生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_標識剤及び標的物質の測定方法
出願番号:2006294168
年次:2008
IPC分類:G01N 33/58,G01N 33/543,G01N 33/53,G01N 33/483,G01N 27/416


特許情報キャッシュ

鈴木 孝治 丸山 健一 上野 由貴 須賀 千絵 上田 晃生 小林 康宏 山田 幸司 JP 2008111709 公開特許公報(A) 20080515 2006294168 20061030 標識剤及び標的物質の測定方法 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 谷川 英次郎 100088546 鈴木 孝治 丸山 健一 上野 由貴 須賀 千絵 上田 晃生 小林 康宏 山田 幸司 G01N 33/58 20060101AFI20080418BHJP G01N 33/543 20060101ALI20080418BHJP G01N 33/53 20060101ALI20080418BHJP G01N 33/483 20060101ALI20080418BHJP G01N 27/416 20060101ALI20080418BHJP JPG01N33/58 ZG01N33/543 541ZG01N33/53 MG01N33/53 DG01N33/483 FG01N27/46 336G 10 7 OL 30 特許法第30条第1項適用申請有り 2006年4月29日 社団法人 日本分析化学会発行の「第67回分析化学討論会講演要旨集」に発表 2G045 2G045DA12 2G045DA13 2G045DA14 2G045FB03 本発明は、化学的アッセイ、特に生化学的アッセイ、より特定的にはイムノアッセイのような特異的結合アッセイにおける生物化学的物質の標識剤、及び該標識剤によって標識化された生物化学的物質を用いた標的物質の測定方法に関する。 従前よりウェスタンブロッティング法などの抗原抗体反応を応用したアッセイ法で使用される抗体等の生化学的物質を標識する方法として放射性物質や蛍光物質による化学標識が広く用いられている。しかしながら、放射性標識剤を用いた場合には、実験者はそのアッセイ法により目的物質を検出・測定するために、該アッセイ実験方法を実施するための実験技術に加えて、放射性物質を取り扱う技術を要求されることなる。また、放射性物質を用いる実験方法は人体に有害であり、かつそのための特殊な実験施設と実験設備を要するので総合的に費用がかかるという問題がある。 また蛍光物質を用いた化学標識は、その蛍光強度を検出・測定することにより標的物質を間接的に検出することを可能とする。しかしながら、蛍光強度の検出・測定に用いる機材は現時点では一定の大きさと重量を有するものであり、実験施設内で比較的大きな実験スペースを占領する上に移動ができないために実験を行なう場所が限定されるという問題がある。また、一般的に蛍光強度の検出・測定装置は高価であり、全ての実験者が容易に使用できないという問題もある。さらには、現在の蛍光検出・測定装置では一定レベルよりも低い蛍光強度を検出できないために、低濃度の標的物質を検出・測定できないという問題もある。 近年、低濃度の標的物質を検出可能なルシフェラーゼ等の発光性物質を用いた標識剤も開発されているが(特許文献1参照)、発光反応過程に時間を要し、標的物質の経時的測定を困難なものにするという問題がある。また、反応溶液の成分等により酵素事態の安定性が左右されるという問題もある。 上記の如く、生化学的アッセイ法は使用する標識化剤により施設・設備を含む実験の費用、実験の環便さ、及び検出・測定方法の性質が大きく影響を受ける。現時点において低濃度の標的物質を検出できる高感度、低コスト、実験装置の小型化の全てを実現する標識剤、又は該標識剤を用いた生化学的アッセイ法は開発されていない。特表平10−504903号公報 かかる状況に鑑み、本発明の目的は高い感度を有し、安価で小型の測定装置を用いての特異的結合アッセイを可能とする新規な生物化学的物質標識剤、及び該標識剤を用いた標的物質の測定方法を提供することである。 本願発明者らは、鋭意研究の結果、試料化合物中の官能基と反応して共有結合する構造と、光照射に応答して開裂する構造と、同開裂により遊離されて電気化学的シグナルを発生する構造を1つの分子中に有する化合物を標識剤として試料化合物と共有結合させてラベル化し、光照射することにより生じる電気化学的シグナルを検出及び測定することにより、間接的に該試料化合物が特異的に相互作用する標的物質を検出及び測定できることを実験的に確認し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は下記一般式[I](ただし、式中、Xは、他の官能基に共有結合可能な構造、Yは、光照射により開裂可能な構造、Zは、電気化学的に測定可能な酸化還元活性を有する構造を示し、L1及びL2は存在していても、存在しなくてもよく、存在する場合には、L1は構造XとYを共有結合で連結する任意のスペーサー構造を示し、L2は構造YとZを共有結合で連結する任意のスペーサー構造を示す)で表される構造を有する標識剤を提供する。さらに、本発明は、本発明の標識剤で標識した特異結合性物質を、該特異結合性物質と特異的に結合する標的物質と反応させ、該特異結合性物質と標的物質の特異的結合により形成される複合体の分離精製後、標的物質と結合した標識特異結合性物質を光照射して前記一般式[I]中のYを開裂させ、それによって遊離した前記一般式[I]中の構造Zを電気化学的に測定することを含む、標的物質の測定方法を提供する。 本発明によれば、小型で安価な測定装置により、高感度に標的物質の検出及び濃度測定ができる標識剤を提供された。これにより、標的物質の検出及び濃度測定アッセイを、携帯可能な程度に小さな検出・測定装置を用いて実験場所を限定されずに行なうことができる。 上記の通り、本発明の標識剤は標識化すべき特異結合性物質に共有結合可能な構造X、光照射により開裂可能な構造Y、及び電気化学的に測定可能な酸化還元活性を有する構造Zから成る化学構造を有しており、X, Y及びZが直接又はスペーサー構造を介して共有結合し、それぞれの機能を発揮する。 上記一般式[I]中において、構造Xは、他の物質と結合しうる構造を示す。Xの好ましい一群の例として、特異結合性物質中の官能基と反応して共通結合しうる官能基を有する構造を挙げることができる。この場合、Xとしては、特異結合性物質中の官能基と反応できる官能基であれば、いかなる官能基であってもよい。特異結合性物質は、標的物質と特異的な結合性を有することから、タンパク質や核酸等の生体物質である場合が多いので、これらに含まれることが多い官能基、即ち、−NH2基、−SH基、−COOH基、−OH基、−CHO基、−PO3基等と反応して共有結合する官能基が好ましい。このような官能基の例として、下記実施例において採用したスクシンイミド基の他に、SCN-、ClO2S-、マレイミド基、すなわち、BrH2C−、ClOC−、−NH2、−NHNH2、−CH2I、−CH2ONH2(−HCl)(塩酸塩であってもなくても良い)、を挙げることができる。これらの官能基と反応する特異結合性物質の官能基(R')及び、該反応の結果形成される結合を下記表1に示す(なお、Xが−NH2の場合は、表1に示される、特異結合性物質中の官能基(R')が−NH2の場合のXと表1に記載のように結合できる)。 また、Xとしては、CH3CH(NH2)=CH−も好ましく採用することができる。この場合、2分子の標識剤がR−CHOで表される特異結合性物質と次のように反応する。 好ましいXとして、さらに一般式[II](ただし、Halはハロゲンを示す)、及び一般式[III](ただし、nは1〜5の整数を示す)で表される基を挙げることができる。一般式[II]中、ハロゲンとしては、好ましくは臭素である。 上記一般式[II]で表されるXは、特異結合性物質中のシトシンと反応して次のように結合する。(ただし、式中、Rは、例えばヌクレオチドや核酸の糖部分のような任意の基を示す) このXは、特異結合性物質中のシトシン部分と結合することができるので、シチジン一リン酸、シチジン二リン酸、シチジン三リン酸、デオキシシチジン一リン酸、デオキシシチジン二リン酸及びデオキシシチジン三リン酸並びにシトシンを含むDNA及びRNAのような核酸と結合できる。 Xが上記の場合は、特異結合性物質中のグアニンと反応して次のように結合する。(ただし、式中、Rは、例えばヌクレオチドや核酸の糖部分のような任意の基を示す) このXは、特異結合性物質中のグアニン部分と結合することができるので、グアノシン一リン酸、グアノシン二リン酸、グアノシン三リン酸、デオキシグアノシン一リン酸、デオキシグアノシン二リン酸及びデオキシグアノシン三リン酸並びにグアニンを含むDNA及びRNAのような核酸と結合できる。 Xが上記一般式[III]で示される基である場合は、特異結合性物質中のリン酸エステル部分と反応して次のように結合する(ただし、下記の例ではnが2の場合について示す)。 なお、この反応式では、特異結合性物質がデオキシアデノシン一リン酸(すなわち、ヌクレオチド中の塩基がアデニンで、糖がデオキシリボース)の場合を示しているが、Xは、リン酸エステル部分と結合するので、塩基は、シトシン、グアニン、チミン又はウラシルのようなアデニン以外の他の塩基であってもよいし、糖はデオキシリボースでもリボースでもよい。また、リン酸エステルの数は、上記反応式では1個であるが、Xは、末端のリン酸エステルと結合するので、縮合しているリン酸エステルの数は1個〜3個のいずれであってもよい。従って、上記一般式[III]で示されるXはあらゆる種類のヌクレオシド一リン酸、ヌクレオシド二リン酸及びヌクレオシド三リン酸と結合することが可能である。さらに、核酸の末端には遊離のリン酸エステルが存在するので、上記一般式[III]で示されるXはDNAやRNAのような核酸と結合することも可能である。 構造Yについては、上記構造Xと共有結合することができ、且つ光照射により開裂して構造Zを遊離する機能を持つ化学構造であれば、特に限定されず、公知の化学構造を利用することができる。好ましい例として、2-ニトロベンジル構造(下記実施例参照)を挙げることができる。 構造Zについては、光照射により構造Yから遊離することができ、その遊離した状態を電気化学的に測定可能な酸化還元活性を有する化学構造であれば、特に限定されず、公知の化学構造を利用することができる。好ましい例として、フェロセン(下記実施例参照)、オスミウム錯体・ルテニウム錯体などをあげることができる。 上記の構造Zの例であるフェロセンの場合、その構造は鉄イオン(II)とシクロペンタジエン2分子が配位結合したものであり、2分子の正五角形構造の炭素平面であるシクロペンタジエニル環が平行に該鉄イオン(II)を中心となるようにサンドイッチ構造を有しており、遊離状態で鉄イオンと錯体炭素骨格との間で共有電子対の共鳴による可逆的酸化還元反応を起こすことができる。かかる可逆的酸化還元反応は電子の供与を伴うために電圧を生じることから、該電圧を測定することにより本発明による標識剤で標識された特異的結合性物質と特異的に結合した標的物質を間接的に検出することができ、また予め既知の濃度を測定した時の電圧数値と比較することにより標的物質の濃度を間接的に測定することが可能となる。 一般式[I]中、L1及びL2は任意のスペーサー部である。本発明の標識化剤は、Xにより特異結合性物質と結合し、標的物質と結合した標識化特異結合性物質に光照射して前記一般式[I]中のYを開裂させ、それによって遊離した前記一般式[I]中の構造Zを電気化学的に測定する原理を利用するので、XとYの間に位置するL1、及びYとZの間に位置するL2は、存在していても存在しなくてもよいし、存在している場合であっても、任意の構造をとり得るものである。例としては、炭素数1ないし20程度のアルキレン基で構成されるが、骨格炭素が窒素、酸素等に置換されていてもよく、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、水酸基等を含んでいてもよい。好ましい例として、アルキレン基(好ましくは炭素数2〜10)、アルキレン基の一方又は両方の末端に、他の構造との結合のためのアミド結合やエステル結合を持つもの、またアミノ結合・ペプチド結合等を例示することができる。 本発明の標識剤である化合物の合成は、公知となっている化学構造X,Y及びZを、公知のスペーサーL1及びL2を介して、又は介さずして、共有結合させる方法であれば特に限定されず、当業者であれば、有機化学の常識に沿って合成可能である。下記実施例にて、具体的な合成方法を示すが、実施例に限定されるものではない。 本発明の標識剤を用いた特異結合性物質の標識化は、構造Xと特異的結合性物質の反応基を介して、有機合成化学の分野において周知の技術により行うことができる。構造X及び特異結合性物質の反応基、及び形成される結合構造は上記表1及び上記した通りである。 本発明の標識剤の有機化学合成の結果は、有機合成化学分野において周知である方法により検証することができる。有機合成の結果を検証できる方法であれば、特に限定されるものではないが、例として電子イオン化法、化学イオン化法、電解脱離法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法等の質量分析法が挙げられる。これらの方法によれば、有機合成反応の前後での、質量電化比に対する分析試料の検出強度を表したマススペクトルの変化を解析することにより合成反応の結果を把握することができる。 また、上記の通り本発明は、前記一般式[I]で表される標識剤で標識した特異結合性物質を、該特異結合性物質と特異的に結合する標的物質と反応させ、該特異結合性物質と標的物質の特異的結合により形成される複合体の分離後、標的物質と結合した標識特異結合性物質を光照射して前記一般式[I]中のYを開裂させ、それによって遊離した前記一般式[I]中の構造Zを電気化学的に測定することを含む、標的物質の測定方法をも提供する。該測定方法の各工程について以下に述べる。なお、本発明において、「測定」には定量と検出の両者が包含される。 本発明の標識剤で特異結合性物質を標識化する場合に、該特異結合性物質については、構造Xと共有結合できるものであり、かつ標的物質と特異的に結合することができる物質であれば、特に限定されず、例えば標的物質がタンパク質、糖鎖等である場合には抗体タンパク質や標的物質と特異的に相互作用して複合体を形成するタンパク質等の特異的結合性物質を挙げることができる。また標的物質が核酸等である場合には該標的物質の塩基配列を認識して特異的に結合して核酸−タンパク質複合体を形成するタンパク質や、又はオリゴヌクレオチド等の標的物質と相補性を有する特異的結合性物質を挙げることができる。好ましい例としては、抗原、抗体及びその抗原結合性断片(FabやF(ab')2等)、核酸、DNA結合性転写因子や、受容体及びそのリガンド、MutSタンパク質に代表されるDNA配列のミスマッチ検出機能を持ったタンパク質、ヒストン等に代表されるクロマチン構造タンパク質、RNA等を挙げることができる。 本発明の標識剤により上記特異結合性物質を標識化するための反応は、標識剤のXと、特異結合性物質中の、Xと結合させるべき官能基の種類に応じて、公知の技術に基づき適宜の条件で行うことができる。下記実施例にも、好ましい標識剤と特異結合性物質との結合反応の条件が具体的に記載されている。 X及び該Xと結合する特異結合性物質中の官能基(R’)の上記した(表1参照)具体的な組合せのそれぞれについて、具体的な結合反応条件の例を以下に記載する。もっとも、これらは単なる例示であり、他の反応条件でもこれらの官能基同士を結合させることは可能であるので、結合反応条件が下記のものに限定されるものではないことは当業者にとって明らかである。また、ここに記載されていないXについても、当業者が化学常識に従って容易に結合反応を行うことができる。なお、本発明の標識剤と特異結合性物質との結合条件の記述において、「試料」は特異結合性物質を意味する。XがSCN−、R'が−NH2の場合 2〜3 mgの試料に0.2 ml (エタノール : 水 :トリエチルアミン = 2 : 2 : 1 v/v)を加え減圧乾固した後、0.5 ml (エタノール : 水 :トリエチルアミン : プローブ = 7 : 7 : 1 : 1 v/v)を加え室温で20分間反応させる。溶媒を減圧留去した後、溶離液に溶解し試料溶液とする(B. A. Bidlingmeyer, et al, J. Chromatogr., 336, 93 (1984)参照)。XがClO2S−で、R’が−NH2の場合 2〜3 mgの試料に500μLの1M NaHCO3水溶液と200μLの1mg/mLプローブ/アセトン溶液を加え、60℃で30分間加熱する。アセトンを留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Meffin, P. J., et al, J. Pharm. Sci., 66, 583 (1977)参照)。Xがで、R’が−NH2の場合 1.5 mgの試料をTHF5.0mLに溶解し、50 mgのプローブを加え、60℃で30分間加熱する。THFを留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Jupill, T. H., Am. Lab., 8 (5), 85-92 (1976)参照)。Xがで、R’が−SHの場合 2〜3 mgの試料を500μLの水に溶解後、200μLの1mg/mLプローブ/アセトニトリル溶液を加え、60℃で30分間加熱する。溶媒を留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Nakashima K., et al, Talanta., 32, 167 (1985)参照)。XがBrH2C−又はIH2C−で、R’が−COOHの場合 2〜3 mgの試料をアセトン500 μLに溶解し、200 μLの1 mg / mLプローブ/アセトン溶液およびK2CO31 mgを加え、60℃で30分間加熱する。溶媒を留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Dunges, W., Anal. Chem., 49, 442 (1977)参照)。XがClOC−で、R’が−OHの場合 2〜3 mgの試料を0.5 mlのピリジンに溶解後、0.2 mLの1 mg / mLプローブ/ピリジン溶液を加え、40℃で1時間加熱する。溶媒を留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Suzuki, A., et al., J. Biochem., 82, 1185 (1977)参照)。Xがで、R’が−CHOの場合 2〜3 mgの試料をメタノール1.0 ml、酢酸0.1 ml、0.2 mLの1 mg / mLプローブ/メタノール溶液を加え、40℃で30分間加熱する。溶媒を留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする。Xがで、R’が−NH2の場合 試料のエタノール溶液(10-4 〜10-3 M) 0.1mLに、10 mg/mLのプローブ/エタノール溶液1.5 mLを加え、室温で5分間〜10分間撹拌する。溶媒を減圧留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Roth, M., Anal. Chem., 43, 880 (1971)参照)。Xが−CH2ONH2・HClでR’がの場合 1〜5 mgの試料、トリエチルアミン2滴、プローブ50 mgを50℃で30分間加熱する。溶媒を減圧留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Jupille, T. H., Am. Lab., 8 (5), 85-92 (1976)参照)。Xが−NHNH2、R’が−CHOの場合 1〜5 mgの試料を水0.5 mlに溶解後、30%HclO4水溶液に20mg/mLの割合でプローブを溶かした溶液を加え、室温で10分間撹拌した。溶媒を減圧留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする(Newberg, C., et al., Anal. Chim. Acta, 7, 238 (1952)参照)。Xがで、R’がの場合 0.1〜5.0μgの試料を、50μLのリン酸緩衝溶液(pH7.0)に溶解後、200μLの1mg/mLのプローブ/リン酸緩衝溶液(pH7.0)を加え、室温で5分間撹拌する。溶媒を減圧留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする。Xがで、R’がの場合 0.1〜5.0μgの試料を、50μLのリン酸緩衝溶液(pH7.0)に溶解後、200μLの1mg/mLのプローブ/リン酸緩衝溶液(pH7.0)を加え、室温で5分間撹拌する。溶媒を減圧留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする。Xが−CH2CH2NH2で、R’がの場合 0.1〜5.0μgの試料を、50μLのリン酸緩衝溶液(pH7.0)に溶解後、200μLの1mg/mLのプローブ/リン酸緩衝溶液(pH7.0)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを加え、室温で30分間撹拌する。溶媒を減圧留去後、溶離液に溶解し試料溶液とする。 上記に例を示した、本発明の標識剤で特異結合性物質を標識する有機合成反応の結果についても、有機合成化学分野において周知である方法により検証することができる。有機合成の結果を検証できる方法であれば、特に限定されるものではないが、例として電子イオン化法、化学イオン化法、電解脱離法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法等の質量分析法が挙げられる。これらの方法によれば、有機合成反応の前後での、質量電化比に対する分析試料の検出強度を表したマススペクトルの変化を解析することにより合成反応の結果を把握することができる。 本発明の標識剤により標識化された特異結合性物質と、標的物質との間で、特異的結合を形成させる反応において、標的物質は、標識化された該特異結合性物質と特異的に結合することができる物質であれば、特に限定されない。例えば、特異結合性物質が抗体、又はFabやF(ab')2のような該抗体の抗原結合性断片である場合には、標的物質として該特異結合性物質と抗原抗体反応活性を持つ抗原を挙げることができる。反対に、特異結合性物質が抗原であり、標的物質が抗体、又はFabやF(ab')2のような該抗体の抗原結合性断片である場合も挙げることができる。また、特異結合性物質がタンパク質である場合には、標的物質が該特異結合性物質と特異的相互作用による結合性を持つタンパク質、又はそのペプチド断片、核酸等を挙げることができる。さらに、特異結合性物質が核酸である場合には、標的物質は該特異結合性物質と相補的な塩基配列を持つDNA又はRNA等の核酸分子、又は該特異結合性物質と特異的に結合するタンパク質やペプチド等を挙げることができる。 本発明の標識剤により標識化された特異結合性物質と特異的に結合する標的物質との反応は、該特異結合性物質が抗体、又はFabやF(ab')2のような該抗体の抗原結合性断片であり標的物質が抗原である場合や、その反対の場合には抗原抗体反応が挙げられ、この場合、周知の条件下で特異的に反応(すなわち、抗原抗体反応)させることができる。 本発明の標識剤により標識化された特異結合性物質と特異的に結合する標的物質との反応は、該特異結合性物質がタンパク質で、標的物質が該特異結合性物質と特異的相互作用による結合性を持つタンパク質、又はそのペプチド断片、核酸等である場合は、該特異結合性物質と標的物質との間に生じる特異的相互作用(例えば、レセプターとそのリガンドとの反応、転写因子タンパク質と、該タンパク質と特異的に結合する核酸部位との反応、MutSタンパク質と二本鎖核酸のミスマッチ部位との反応等)による結合が挙げられ、この場合も、周知の条件下で特異的に反応させることができる。 本発明の標識剤により標識化された特異結合性物質と特異的に結合する標的物質との反応は、該特異結合性物質が核酸で、標的物質が該特異結合性物質と相補的な塩基配列を持つDNA又はRNA等の核酸分子である場合には、ハイブリダイゼーションによる特異的結合が挙げられるが、この場合も、周知の条件下で特異的な反応を起こさせることができる。 また本発明の標識剤により標識化された特異結合性物質と、標的物質との特異的結合能に対する標識化による影響は、各種特異的結合能を定量的に測定する方法により測定することができる。これら各種特異的結合能を定量的に測定する方法は当業者の間で周知の技術ではあるが、例えば該特異結合性物質が抗体、又はFabやF(ab')2のような該抗体の抗原結合性断片であり、抗原である標的物質との間に抗原抗体反応により特異的結合を形成している場合、或いはその反対の組合せの場合や、該特異結合性物質がタンパク質又はペプチドで、タンパク質、ペプチド又は核酸分子である標的物質と特異的相互作用により複合体を形成している場合、或いはその反対の組合せの場合等には、ひとつの測定方法として表面プラズモン共鳴(SPR)法により該特異的結合の特異性、カイネティクス及びアフィニティーを測定することができる。また、SPR法の原理を用いた測定装置としてはBIACORE社製のBiacore2000等を挙げることができる。また、例えば、特異結合性物質が核酸であり、該特異結合性物質と相補的な塩基配列をもつ標的物質とハイブリダイゼーションによる特異的結合を形成している場合には、ハイブリダイゼーションする際にサイバーグリーンなどの蛍光物質をインターカレーションにより複合体に取り込ませ、該ハイブリダイズした2本の核酸が解離する温度をリアルタイムPCR測定器により変性曲線を測定する方法等により特異的結合能を測定することができる。また、他の周知の測定方法を利用することもできる。 次に、特異結合性物質と標的物質の特異的結合により形成される複合体を分離する(いわゆるB/F分離)。通常、標的物質は固相に固定化されているので、バッファーによる洗浄や遠心分離法(ビーズを固相に用いた場合等)、磁気分離法(磁気ビーズを固相に用いた場合等)等によりB/F分離を行なうことができる。標的物質が固相に固定化されていない場合でも、蛍光強度差による分離法、分子量による分離法(電気泳動やゲルろ過クロマトグラフィー等)の周知技術によりB/F分離を行なうことができる。 次に、標的物質と結合した標識特異結合性物質を光照射して前記一般式[I]中のYを開裂させる。標的物質と結合した標識特異結合性物質を光照射してYを開裂させる方法も、周知の方法により簡単に行なうことができる。用いる光としては、紫外線(好ましくは波長250nm〜400nm)、可視光線(400nm-480nm)等を挙げることができる。照射条件は、Yの種類に応じて適宜設定することができる。下記実施例で用いた2-ニトロベンジル基の場合には、波長300nm〜350nm程度、好ましくは約365nmの紫外線を、1mW/cm2〜10000mW/cm2、好ましくは約3500〜5000mW/cm2程度光照射することにより、容易にYを開裂させることができる。 Zの可逆的酸化還元反応により発生する電気化学シグナルの測定には特殊な装置を要することはなく、電気化学分野における周知の技術により簡単に測定することができる。好ましい例としては、参照極、作用極及び対極からなる電気化学測定装置により一定電圧に対する生じる電流変化量を測定可能な装置などで、具体的には、測定装置としては以下の例を挙げることができる。ポテンシオスタットなどである。 上記の方法により、本発明の標識剤で標識化された特異結合性物質を用いて、標的物質を検出及び標的物質の濃度を間接的に測定することができるが、以下において標的物質の検出及び標的物質の濃度測定の例を挙げる。 上記したように、本発明により標識された特異的結合性物質と、該特異結合性物質と特異的に結合する標的物質の反応には、本発明により標識された抗体タンパク質又は該抗体の抗原結合性断片を特異結合性物質とし、標的物質を抗原とする、抗原抗体反応が考えられる。抗原抗体反応を利用した生化学アッセイ法として、免疫沈降法、ウェスタンブロッティング法、プロテインチップ解析法、ELISA法、ELISPOT法等による標的物質の検出・測定が可能となる。この場合、既知の濃度で標的物質が含まれる試料を入手できるのであれば、標的物質濃度と該標識剤に光照射した時に生じる電圧の関係を表す検量線を作成することにより、分析試料中に含まれる標的物質の濃度を間接的に定量することができる。 また、例えば標的物質が細胞により刺激に応じて分泌される場合や、標的物質が分析対象となる反応系での酵素反応による生成物質である場合のように、標的物質濃度が経時的に変化するような場合は、該標識剤への光照射により瞬時に電圧変化が生じる特性を利用して経時的に標的物質濃度を定量することが可能である。 さらに、クロマチン免疫沈降法等のアッセイ法と同様の原理を用いてアッセイを行なうことにより、構造X,Y及びZからなる標識剤により標識化された抗体を用いて、さらに標的物質と特異的に結合する核酸分子等の非ペプチド分子を電気化学的に検出・測定することも可能である。 上記したように、本発明により標識された特異的結合性物質と、該特異結合性物質と特異的に結合する標的物質の反応には、本発明により標識されたタンパク質又はペプチドを特異結合性物質とし、そのタンパク質相互作用の相手を標的物質とする、特異的相互作用が考えられる。タンパク質による特異的相互作用を利用した生化学アッセイ法の例として、プルダウン・アッセイ法、ツーハイブリッド法等の試験管内、生体内(in vitro, in vivo)でのアッセイ法を挙げることができる。 さらに、本発明により標識された特異的結合性物質と、該特異結合性物質と特異的に結合する標的物質の反応には、例えば、本発明により標識されたDNA又はRNA断片のような核酸分子を特異結合性物質とし、該特異結合性物質と相補的塩基配列を有する核酸を標的物質とする、ハイブリダイゼーションによる特異的結合が考えられる。このようなハイブリダイゼーションによる特異的結合を利用した生化学アッセイ法として、サザンブロッティング法、ノーザンブロッティング法、DNAマイクロアレイ法等による標的物質の検出及び測定が可能となる。また、上記方法以外にもプローブとして分析試料中の標的物質とハイブリダイズさせることにより、標的物質の検出及び該標的物質濃度の測定が可能となる。この場合、既知の濃度で標的物質が含まれる試料を入手できるのであれば、標的物質濃度と該標識剤に光照射した時に生じる電圧の関係を表す検量線を作成することにより、分析試料中に含まれる標的物質の濃度を間接的に定量することができる。 また、例えば標的物質が細胞により刺激に応じて転写される核酸分子等の場合や、PCR増幅などのように標的物質が分析対象となる反応系での酵素反応による生成物質である場合、又はウィルス感染や遺伝子導入実験により細胞内への標的物質の核酸濃度の変化を分析する場合、又は導入した遺伝子の転写活性を解析する場合のように、標的物質の核酸濃度が経時的に変化するような場合は、該標識剤への光照射により瞬時に電圧変化が生じる特性を利用して経時的に標的物質濃度を定量することが可能である。 また、標的物質が核酸分子への結合能を示すペプチドである場合には本発明の標識剤により標識化された核酸を特異結合性物質として使用し、標的物質と特異的に結合させることによって標的物質の検出及び測定が可能となる。核酸分子への結合能を示すペプチドの例として、DNA結合性転写因子や、受容体及びそのリガンド、MutSタンパク質に代表されるDNA配列のミスマッチ検出機能を持ったタンパク質、ヒストン等に代表されるクロマチン構造タンパク質などを挙げることができる。 反対に、本発明の標識剤により核酸分子への結合能を示すペプチドを特異結合性物質として標識して、該特異結合性物質と特異的に結合する塩基配列を持つ核酸分子を標的物質として検出することも可能である。核酸分子への結合能を示すペプチドの例として、DNA結合性転写因子や、受容体及びそのリガンド、MutSタンパク質に代表されるDNA配列のミスマッチ検出機能を持ったタンパク質、ヒストン等に代表されるクロマチン構造タンパク質などを挙げることができる。 下記実施例で具体的に説明するように、本願発明者は本発明の標識剤により標識した抗前立腺特抗原抗体をイムノアッセイ法に応用し、詳細な研究開発の結果、抗原抗体反応を利用した前立腺特異抗原の検査方法の開発に成功している。本発明は、光照射により標識剤が発する電気化学シグナルを検出するという測定原理を採用しており、標的物質に対し高い感受性を有している。従って、本発明の標識剤を用いた、がんの早期警戒指標である前立腺特異抗原の検査方法は少量のサンプルからの標的物質の検出を可能とするものである。また、上記検査方法はシンプルな測定原理を利用しているため、プロテイン・マイクロチップ解析法の開発へ非常に高い応用性を有していると考えられ、本発明は、より網羅的なハイスループット解析法への技術的な根幹を提供するものといえる。 さらに、本願発明者らは、本発明の標識剤により標識されたMutSタンパク質を特異結合性物質として用いた場合に、該特異結合性物質と標的物質であるK-ras遺伝子配列上のミスマッチ部位が、特異的結合による複合体を形成することを原子間力顕微鏡によりナノレベルで確認した上で、光照射により本発明の標識剤を開裂させ、Zから発生する電気化学シグナルを検出することで標的物質の検出及び定量的測定をすることに成功している。また、その検出限界の理論値は、標的物質濃度がフェムトモルのオーダーであると算出された。すなわち、MutSタンパク質を本発明の標識剤で標識したものを二本鎖核酸と反応させることにより、MutSタンパク質を、二本鎖核酸中のミスマッチ部位に特異的に結合させ、未結合のMutSタンパク質を除去した後、光照射により構造Zを遊離させ、遊離した構造Zを、その酸化還元活性を利用して電気化学的測定により測定することにより、二本鎖核酸中のミスマッチを特異的に検出することができる。本発明の標識剤を用いたDNAミスマッチ部位の検出及び定量的測定方法は、特異的結合を利用した高い正確性と、電気化学的シグナルの検出を利用した非常に高い検出感度を兼ね備えたものである。 以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。標識剤の設計及び合成 構造XとしてN-ヒドロキシサクシイミド(NHS)基、構造Yとして2−ニトロベンジル基、構造Zとしてフェロセン基を有する下記一般式[VIII]で表される化合物を標識剤の1つの具体例として合成した。スペーサー構造にはL1に下記[A]で表す構造、L2に下記[B]で表す構造をそれぞれ用いた。下記化合物はレドックス活性を有する標識剤であり、以下において該化合物名を便宜的にKOXと称することとする。 KOX化合物は下記反応式[IX]−[XI]に示す合成スキームに従って合成された。具体的反応条件を以下に示す。まず、下記に示す1を50度で4時間クロロベンゼン中で反応させる。その後、塩酸中で反応させ3を得て、4−6の過程においては保護基をつけるためBocを反応させる。その後、電気化学活性基であるフェロセンを付加し8を得る。最終的に、NHS基を取り付けることで、最終生成物13を得る。 KOX化合物の構造Xの具体例であるN-ヒドロキシサクシイミドは、タンパク質のα-アミノ基とリジン側鎖のε-アミノ基とを特異的に結合する部位であり、KOXを特異結合性物質の具体例の一つであるタンパク質と結合させることができる。 上記化学式2で表されるKOX化合物の構造Yの具体例である2-ニトロベンジル基は紫外線照射することで光開裂を起こす部位である。ニトロベンジル基は、ケージド化合物の光脱保護基として頻繁に使用される化学構造である。ケージド化合物とは、光分解性の保護基で生理活性分子を保護し,一時的にその活性を失わせた分子をいい、光照射により,瞬時に元の生理活性分子を出現させる機能を有する。従って、シグナル分子が機能発現するタイミング及び部位を,光照射のタイミング及び部位で制御可能であり,照射光量により発現量を調節することも原理的には可能となるため,シグナル伝達に関与する分子の時空間動態を,リアルタイムで制御することを可能とする化学構造である。KOXのUV照射実験 構造Yの具体例である2-ニトロベンジル基に紫外線光照射すると、下記反応式のように光開裂を起こす。 従って、上記KOXに紫外線光を照射すると、KOXは下記反応式[XII]のように光開裂を起こす。 KOXの紫外線照射実験は具体的には、以下の手法で行なった。暗箱中にて、紫外線レーザー(波長、350nm)を、バイアルに5mMKOXに調整した溶液に照射し、照射実験を行った。 上記手法に従ってKOXへの紫外線照射を行なったところ、次のような結果を得た。その結果、MALDI−MSスペクトルの解析結果によって、フェロセン基とNHS基を含む基に分離されていることが、確認された。 上記KOX化合物の構造Zの具体例であるフェロセン基はレドックス活性を有する部位である。フェロセンは鉄イオン(II)とシクロペンタジエン二分子が配位結合した化合物であり、可逆性酸化還元反応を起こす代表的な有機化合物である。従って、可逆性酸化還元反応が電荷の移動を伴うことにより生じる電圧を電気化学的に測定することができる。フェロセン基の可逆的酸化還元反応及び共有電子対の共鳴状態を下記反応式[XIII]に記す。ウサギ由来抗マウスIgGタンパク質の標識化 下記実施例において、ウサギ由来抗マウスIgGタンパク質を特異結合性物質の具体例として、KOXを用いて標識した。また、KOX標識化の確認実験をMALDI法質量分析実験にて行った。 標識化に使用した実験試薬及び機器は下記の通り。 <試薬> 1M Tris-HCl pH 7.5 (和光純薬) ADP(和光純薬) DTT(MP Biomedicals) Glycerol(和光純薬) HEPES(同仁堂) KCl(和光純薬) MgCl2(和光純薬) NaOH(和光純薬) PMSF(和光純薬) Surfactant P-20(BIACORE) ウサギ由来抗マウスIgG(CHEMICON)<溶媒> DMSO(和光純薬)<精製分離(遠心濃縮法)>Amicon-Ultra 4(MILLIPORE) ウサギ由来抗マウスIgGタンパク質の標識化は次のプロトコルに従った。第一に、抗マウスIgGを200μgとり、Amicon-Ultra 4を用いて4℃、4000rpmで抗マウスIgGが溶解しているPBS pH 7.6から10mM HEPES pH 7.9 (50mM KCl, 5mM MgCl2, 0.2mM PMSF, 1mM DTT, 10% Glycerol)へバッファー交換した。第二に、抗マウスIgG 200μg/200μLに、DMSO 4μLに溶解させたKOX 100μg溶液を加えて、同時に抗マウスIgG 200μg/200μLにDMSO 4μLを入れたものもブランクとして準備した。第三に、室温下で2時間または4時間という二通りの条件でインキュベートして、Amicon-Ultra 4を用いて、4℃、4000rpmで濃縮及び洗浄を3回行った。第四に、過剰なKOXを除去し反応を停止した。最後に、20mM Tris-HCl pH 7.6 (150mM KCl, 5mM MgCl2, 1mM DTT, 1mM ADP, 0.005% Surfactant P-20)を用い洗浄を行い、抗マウスIgG -KOX複合体を得た。 標識化確認の質量分析実験に使用した実験試薬及び機器は下記の通り。 <試薬> SA(TCI) TFA(和光純薬)<溶媒> MeCN(和光純薬)<測定機器>質量分析計 (MALDI-TOF MS) KOX標識化確認の質量分析実験は次のプロトコルに従い、質量分析計のイオン化法はMALDI法、質量分析部はTOF BURKER DALTONICS社のultraflexを用いた。上記、ウサギ由来抗マウスIgGタンパク質の標識化において、室温下で2時間または4時間という二通りの条件でインキュベートさせたものに対してMALDI-TOF MSを用いて抗マウスIgGタンパク質1分子に対するKOXラベル化分子数の確認を行った。マトリックスはMeCN:水=1:1, 0.1% TFA混合溶液に溶かしたSAの飽和溶液を用いた。各条件により得られたマススペクトルを図1に示す。 図1より、レドックスタグプローブ:KOXの抗体へのラベル化前後で、スペクトルが右へシフトしていることから、抗マウスIgGへもKOXがラベル化されることが確認された。 図2は図1におけるスペクトルのピーク近傍を拡大したものであり、図2から得られるピークシフトより、KOXの分子量が633であることをふまえ、抗マウスIgG 1分子あたりに結合したKOX分子数を求めることができる。各条件におけるラベル化数の結果を下記の表2に示す。 表2より1抗体あたり、ラベル化条件が室温 ( r.t. )で、2時間、4時間ではそれぞれKOXが1〜2、6〜8分子ラベル化されていることが確認できた。またラベル化時間が長くなるほど、ラベル化数が多くなることが確認された。以下にラベル化の反応機構を下記の化学式7示す。抗前立腺特異的抗原(anti-Prostate Specific Antigen: PSA)抗体(Detection-PSA)のKOX標識化 IgG抗体にKOXがラベル化されることが確認できたので、次に実際に標的物質との特異結合性を有する物質として選んだPSA抗体の標識化を行った。また、KOX標識化の確認実験をMALDI法質量分析実験にて行った。 標識化に使用した実験試薬及び機器は下記の通り。 <試薬> 1M Tris-HCl pH 7.5 (和光純薬) ADP(和光純薬) DTT(MP Biomedicals) Glycerol(和光純薬) HEPES(同人堂) KCl(和光純薬) MgCl2(和光純薬) NaOH(和光純薬) PMSF(和光純薬) Surfactant P-20(BIACORE) 抗PSAモノクローナル抗体(Detection-PSA) (BIODEESIGN, catalog: M86506M)<溶媒> DMSO(和光純薬)<精製分離(遠心濃縮法)>Amicon-Ultra 4(MILLIPORE) Detection-PSAの標識化は次のプロトコルに従った。第一に、Detection-PSAを200μgとり、Amicon-Ultra 4を用いて4℃、4000rpmでDetection-PSAが溶解しているPBS pH 7.4から10mM HEPES pH 7.9 (50mM KCl, 5mM MgCl2, 0.2mM PMSF, 1mM DTT, 10% Glycerol)へバッファー交換した。第二に、Detection-PSA 200μg/200μLに、DMSO 4μLに溶解させたKOX 100μg溶液を加えて、同時にDetection-PSA 200μg/200μLにDMSO 4μLを入れたものもブランクとして準備した。第三に、室温下で2時間と4時間という二通りの条件でインキュベートして、Amicon-Ultra 4を用いて、4℃、4000rpmで濃縮・洗浄を3回行った。第四に、過剰なKOXを除去し反応を停止した。最後に、20mM Tris-HCl pH 7.6 (150mM KCl, 5mM MgCl2, 1mM DTT, 1mM ADP, 0.005% Surfactant P-20) を用い洗浄を行い、Detection-PSA -KOX複合体を得た。 標識化確認の質量分析実験に使用した実験試薬及び機器は下記の通り。 <試薬> SA; sinapinic acid (TCI) TFA; trifluor acetic acid (和光純薬) Protein calibration standard II(BURKER DALTONICS)<溶媒>MeCN(和光純薬) EtOH(和光純薬)<測定機器>質量分析計 (MALDI-TOF MS) KOX標識化確認の質量分析実験は次のプロトコルに従い、質量分析計のイオン化法はMALDI法、質量分析部はTOF BURKER DALTONICS社のultraflexを用いた。室温下で2時間と4時間という二通りの条件でインキュベートさせたものに対してMALDI-TOF MSを用いてラベル化数の確認を行った。マトリックスは抗マウスIgGの検出に用いていたMeCN:水=1:1, 0.1% TFA混合溶液に溶かしたシナピン酸( SA )の飽和溶液では、2価体ピークに対する1価体ピークの強度比が小さかったため、マトリックスを検討し、 SA1: SAのEtOH飽和 SA2: SAのTA飽和 (TA 2:1=0.1% TFA水:MeCN)というSAを2種類の溶媒で飽和させたものを用いた。具体的な混晶作成の手順としては、まずSA1を1μLピペットでとり、ターゲットプレートにのせてSAの薄膜を作り、その後測定したいサンプルとSA2 0.5μLずつを等量混合させたものを薄膜上にのせて乾燥させ、測定を行った。測定の際に、キャリブレーションとしてProtein calibration standard IIを外部標準として用いて行った。 上記キャリブレーションの結果、得られた分子量既知のキャリブレーションのスペクトルピーク値を外部標準として補正し、実際の測定を行った。実際の測定結果として得られたスペクトルを図3、4に示す。 図5は図3、4におけるスペクトル近傍を拡大したものであり、これによりラベル化前後でピークのシフトが確認された。また得られたスペクトルのピークより、各ラベル化条件での結果を表3に示す。 表3より、ラベル化時間が2時間ではPSA 1抗体に対して、KOX 2.4分子、ラベル化時間4時間ではPSA 1抗体に対して、KOX 3.3分子がラベル化されたことが確認できた。また、ラベル化時間が長いほど、KOXラベル化数が多い結果となった。KOXラベル化数が多くなればなるほど、PSA 1抗体あたりに付いたフェロセン量が多くなるため、微量のPSA抗原でも高感度にPSAを検出することが可能である。SPR法によるDetection-PSA抗体の抗原結合力の確認実験 KOXをラベル化したDetection-PSAが、Detection-PSA−KOX複合体の状態でも、抗原抗体反応を起こす能力を保持しているかどうかを確認するために、SPR法を用いてPSA抗原への、KOXラベル化Detection-PSA抗体の結合量を測定した。 SPR法によるDetection-PSA抗体の抗原結合力の確認実験に使用した試薬及び機器は下記の通り。<試薬> 1M Tris-HCl pH 7.5 (和光純薬) ADP (和光純薬) DTT (和光純薬) KCl (和光純薬) MgCl2 (和光純薬) Surfactant P-20 (BIACORE) Sensor Chip SA (BIACORE)<ランニングバッファー>20mM Tris-HCl pH7.6 (150mM KCl, 5mM MgCl2, 1mM DTT, 1mM ADP, 0.005% Surfactant P-20 を含む)<測定機器>Biacore 2000 (BIACORE) 実験は次のプロトコルに従い、測定には[0058]で示したプロトコルに基づいてラベル化したDetection-PSA抗体を用いた。第一に、ストレプトアビジン修飾SAセンサーチップにビオチン化Capture-PSA抗体をフローし、固定化した。第二に、PSA抗原をフローし、抗原抗体反応を起こさせた。最後に、ラベル化条件を変えたKOXラベル化Detection-PSA抗体をフローし、さらに抗原抗体反応を起こさせ、Detection-PSA抗体の結合量を算出した。 図6は上記SPR法による実験から得られたセンサグラムを示すが、該センサグラムから、PSA抗原に結合したKOXラベル化Detection-PSA抗体量を算出した結果を表4に示す。RU値は1000秒の時の値をとった。この時、抗体結合量は、1000RUがセンサーチップ表面でのタンパク質1ng/ mm2の質量変化に相当することから求めた。 図6及び表4に示されるとおり、ラベル化Detection-PSA抗体とラベル化していないDetection-PSA抗体とを比較すると、ラベル化していないDetection-PSA抗体の方がPSA抗原とよく結合していることが分かる。ラベル化していないDetection-PSA抗体に比べ、4hラベル化抗体は、44.6%の活性維持率となっている。RU値568.0という値からは、KOXラベル化Detection-PSA抗体が、抗体としての能力を十分保持しており、標的物質の検出及び濃度測定に支障はないと考えられる。従って、KOXによるラベル化を受けても、Detection-PSA抗体は抗体としての活性を維持していることが確認された。KOXラベル化Detection-PSA抗体を用いたPSA抗原の電気化学検出 KOXラベル化Detection-PSA抗体に紫外線を照射することにより、実際に標的物質であるPSA抗原を検出することの確認実験を行なった。 PSA抗原の検出確認実験に使用した試薬と機器は下記の通り。<試薬> 1 M Tris-HCl pH 7.5 (和光純薬) ADP (和光純薬)BSA (和光純薬)EDTA (同人堂) MagnaBindTM Streptavidin Beads (PIERCE) MgCl2 (和光純薬)NaCl (和光純薬)PBS (NIPPON GENE) Triton-X100 (和光純薬)Biotin labeling Kit (同人堂)<紫外線光源>LIGHTNINGCURE L8868 (浜松ホトニクス)<電極>参照極:Ag|AgCl電極 作用極:グラッシ−カーボン電極 直径1.0 mm 対極 :白金電極 (BAS社製) Capture-PSAをビオチン化し、188μg/Tris-HCl pH 7.8 200μL濃度のCapture-PSAを得た。また紫外線光源のランプは水銀キセノンランプ、紫外線照射強度は365 nmにおいて平均3500 mW/cm2である。光量(Intensity)は50%で実験を行った。PSA抗原検出実験は次のプロトコルに従って行った。第一に、ストレプトアビジン磁性ビーズ50μL(1mg)を1.5mLチューブに入れ、磁気スタンドで1分間静置後、上清を除去した。第二に、ビーズを20mM Tris-HCl pH 7.8 (1.0M NaCl, 1mM EDTA, 0.02% Triton-X100)で3回洗浄した後に、ビオチン化Capture-PSA 5μg/100μLを加え、室温で30分間インキュベートさせ、磁気スタンドに1分間静置後、上清を除去し、10mM Tris-HCl pH 8.0 (1mM EDTA, 1M NaCl, 0.1% Triton X-100)で2回洗浄した。第三に、Capture-PSAを固定化したビーズ表面への非特異吸着を防ぐために、2% BSA/PBSバッファーで4℃、overnightでブロッキングした。第四に、PSA抗原200μL入れて、37℃で2h放置後、上清を除去した後に、10mM Tris-HCl pH 8.0 (1mM EDTA, 1M NaCl, 0.1% Triton X-100)で2回洗浄した。第五に、Detection-PSA-KOX複合体200μg/100μLを作用させ、37℃で1.5hインキュベートさせた。第六に、1時間後、磁気スタンドで過剰なKOXを除去した。20mM Tris-HCl pH 7.6 (150mM KCl, 5mM MgCl2, 1mM DTT, 1mM ADP, 0.005% Surfactant P-20)を用いて5回洗浄した。最後に、紫外線を180秒照射後、光開裂を起こし、遊離したフェロセン部位をCVで測定した。 図7はUV照射前後で上清150μLを微小セルにとり、CVで測定した結果を示すものであるが、光開裂前後でフェロセンのピークが現れたことから、電気化学的にPSA抗原が検出できたといえる。また、PSA抗原濃度 590nM(17.7μg/ml)で約0.8μAの応答が得られた。CVではpAまで測ることができることから、理論的には59fM(1.77pg/ml)まで検出可能であるといえる。標的物質濃度と電気化学シグナル強度の相関関係の検証 上記したプロトコルに従い、標的物質のPSA抗原濃度を0, 88.5, 885 ng/mLと異なるレベルに定めて、それぞれ電気化学検出を行った。この結果を図8に示す。 図8から明らかなように、PSA抗原濃度の増加に伴い、フェロセンの酸化電位; 596mV vs. Ag|AgClにおいて明瞭なピーク電流の増加が観察された。このことより、PSA抗原を間接的にレドックス活性標識剤を用いて電気化学検出できたと言える。また、PSA抗原濃度の増加とピーク電流の増加に明瞭な相関関係が認められるので、本発明のレドックス活性標識剤を用いて検量線との併用等の周知の手法により電気化学的に標的物質濃度を間接的に定量できることができるといえる。MutSタンパク質のKOX標識化及びKOX標識化MutSタンパク質の質量分析 以下の手法でMutSタンパク質のKOX標識化を行なった。MutSタンパク質のKOX標識化は、PBS緩衝溶液中にてMutSタンパク質とKOXをバイアル中に共存させ、室温にて反応させることで標識化を行った。 次に以下の手法によりKOX標識化MutSタンパク質の質量分析を行い、Mutsタンパク質へのKOX結合を確認した。MALDI−MSスペクトルにて、KOX分の約2分子分の質量スペクトルシフトを確認することで行った。MutS-KOX複合体の酵素活性の検証 以下の手法により、KOX標識化によるMutSタンパク質の酵素活性への影響を検証した。酵素活性の測定はSPR(表面プラズモンレゾナンス法)を用いて検証をおこなった。基板上に、DNAのミスマッチハイブリダイゼイションを起こした状態で固定し、フローにてMutS−KOXを、基板にフローした。その結果、SPRシグナルの上昇応答を取得することができ、相互作用を確認することができた。MutS-KOX複合体とDNAの相互作用 以下に述べる具体的手法で、MutS-KOX複合体と標的DNAとの相互作用の検証を行なった。相互作用の測定はSPR(表面プラズモンレゾナンス法)を用いて検証をおこなった。基板上に、DNAのミスマッチハイブリダイゼイションを起こした状態で固定し、フローにてMutS−KOXを、基板にフローした。その結果、SPRシグナルの上昇応答を取得することができ、相互作用を確認することができた。MutS-KOX複合体を用いたミスマッチDNA検出実験 以下の手法を用いて、MutS-KOX複合体によるミスマッチDNAの検出実験を行なった。バイアル中に相互作用させたMutS-KOX複合体を含む溶液に、UVを照射し、標的DNAに相互作用した分だけを開列させることで、選択的に標的DNAの反応量だけを分離した。その後、反応溶液上澄み液を、電気化学電極を挿入したバイアルに移し、電位印加することで、フェロセンの酸化電位にてその電流応答を確認することで、ミスマッチDNA検出を行った。マウスIgGタンパク質とKOX標識剤の結合を確認するための質量分析結果を示す図である。図1のマススペクトルのピーク近傍を拡大した図である。室温、2時間のインキュベーション条件下での、Detection-PSAとKOX標識剤の結合を確認するための質量分析結果を示す図である。室温、4時間のインキュベーション条件下での、Detection-PSAとKOX標識剤の結合を確認するための質量分析結果を示す図である。図3及び図4のマススペクトルのピーク近傍を拡大した図である。KOX標識化Detection-PSAとPSA特異的抗原間結合のSPR法解析センサグラムを示す。KOX標識化Detection-PSAとPSA特異的抗原の反応により生じた電流の電気化学的検出を示すグラフを示す。PSA特異的抗原濃度の増加とKOX標識化Detection-PSAの反応により生じた電流の増加についての相関関係を示すグラフである。 下記一般式[I](ただし、式中、Xは、他の官能基に共有結合可能な構造、Yは、光照射により開裂可能な構造、Zは、電気化学的に測定可能な酸化還元活性を有する構造を示し、L1及びL2は存在していても、存在しなくてもよく、存在する場合には、L1は構造XとYを共有結合で連結する任意のスペーサー構造を示し、L2は構造YとZを共有結合で連結する任意のスペーサー構造を示す)で表される構造を有する標識剤。 前記一般式[I]中、Zがフェロセン、オスミウム錯体及びルテニウム錯体から成る群より選ばれる請求項1記載の標識剤。 前記一般式[I]中、Zがフェロセンである請求項2記載の標識剤。 前記一般式[I]中、Yが2−ニトロベンジル構造から成る群より選ばれる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の標識剤。 前記一般式[I]中、Yが2−ニトロベンジル構造である請求項4記載の標識剤。 前記一般式[I]中、Xがスクシンイミド構造及びマレイミド構造から成る群より選ばれる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の標識剤。 前記一般式[I]中、Xがスクシンイミド構造である請求項6記載の標識剤。 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の標識剤で標識した特異結合性物質を、該特異結合性物質と特異的に結合する標的物質と反応させ、該特異結合性物質と標的物質の特異的結合により形成される複合体の分離後、標的物質と結合した標識特異結合性物質を光照射して前記一般式[I]中のYを開裂させ、それによって遊離した前記一般式[I]中の構造Zを電気化学的に測定することを含む、標的物質の測定方法。 前記特異結合性物質が、抗原、抗体及びその抗原結合性断片、MutSタンパク質、レセプター及びそのリガンド、核酸及びRNAから成る群より選ばれる請求項8記載の方法。 前記特異結合性物質が、抗原、抗体及びその抗原結合性断片並びにMutSタンパク質から成る群より選ばれる請求項9記載の方法。 【課題】高い感度を有し、安価で小型の測定装置を用いての特異的結合アッセイを可能とする新規な生物化学的物質標識剤、及び該標識剤を用いた標的物質の測定方法を提供すること。【解決手段】試料化合物中の官能基と反応して共有結合する構造と、光照射に応答して開裂する構造と、同開裂により遊離されて電気化学的シグナルを発生する構造を1つの分子中に有する化合物を標識剤として試料化合物と共有結合させてラベル化し、光照射することにより生じる電気化学的シグナルを検出及び測定することにより、間接的に該試料化合物が特異的に相互作用する標的物質を検出及び測定する。【選択図】図7


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る