タイトル: | 公開特許公報(A)_ビオチン高含有酵母及びその製造方法 |
出願番号: | 2006236886 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 1/16,A23L 1/28 |
野々部 昌継 増田 佳史 岡 治 JP 2008054606 公開特許公報(A) 20080313 2006236886 20060831 ビオチン高含有酵母及びその製造方法 オリエンタル酵母工業株式会社 000103840 野々部 昌継 増田 佳史 岡 治 C12N 1/16 20060101AFI20080215BHJP A23L 1/28 20060101ALN20080215BHJP JPC12N1/16 GC12N1/16 BC12N1/16 FA23L1/28 Z 6 OL 8 4B018 4B065 4B018LB01 4B018LB03 4B018LB09 4B018LB10 4B018MD23 4B018MD81 4B018ME02 4B018MF13 4B065AA72X 4B065BB13 4B065BB20 4B065BC02 4B065BC03 4B065CA41 本発明は、一般食品や栄養強化食品、健康食品、流動食のような医療食に広く用いることのできるビオチンを豊富に富む酵母及びその製造方法に関する。より詳細には、培養液にビオチンを添加し、最適条件下にて培養することによって優位にビオチンを酵母に取り込ませ、洗浄、乾燥化により、ビオチンを高含量に含む酵母及びその製造方法に関する。 ビオチンは、健常人では腸内細菌によって生合成・供給されることにより、ビオチン欠乏に陥ることはほとんどない。このことは、食餌で摂取するビオチン量よりも糞便中に排泄されるビオチン量が5〜6倍も高いことからも立証されている。しかし、白血病のような疾病の場合には、腸内細菌からの感染を防止するため抗生物質を投与し、腸内殺菌を除菌する。このため腸内細菌による生合成が行われなくなり、Propionic acidemiaのようなビオチン欠乏症におちいることが知られている。したがって、そのような場合、食餌により必要量のビオチンを投与することが重要といわれている。ただし、ビオチンをそのまま食品に使用することは、食薬区分の分類で「食」のリストにビオチンが変更になったとはいえ、食品添加物としての扱いであり、好ましく思わない患者も少なくない。 従来、微生物を用いるビオチンの製造方法として、ストレプトマイセス属やミクロモノスポラ属の微生物を用いる方法(特許文献1)、スポロボロマイセス属の微生物を用いる方法(特許文献2)、バシルス属、クロモバクテリウム属、シュードモナス属の微生物を用いる方法(特許文献3)、スフィンゴモナス属の微生物を用いる方法(特許文献4)などが知られている。あるいは、遺伝子工学的手法により、ビオチン生合成に関与する酵素活性を調節し、ビオチンの生産性を向上させる微生物の育種方法が知られている。(特許文献5から8)。 しかしながら、ビオチンを菌体内に高含有する酵母あるいはその製造方法についての技術は従来知られておらず、酵母に若干のビオチンを吸収させる技術としてThomas O. Rogersらの方法(非特許文献1)が知られているに過ぎない。また、彼らの方法は、酵母を増殖する培地にビオチンを添加し、酵母の増殖と共にビオチンを酵母に吸収させる方法であるため、ビオチンを酵母菌体内に高含有に取り込ませることが難しく、200ppm程度までのビオチン含有酵母しか製造できない。 また、酵母は通常ビオチンを生合成せず、培地中のビオチン成分を吸収し、利用している。ゆえに酵母に含まれるビオチン含量は低く、栄養強化食品や医療食に必要量のビオチンを加えるには多量の酵母が必要となり、そのため酵母臭が強くなり、栄養強化食品や医療食の用途に使用することは困難である。特公昭41-21756号公報特公昭42-3074号公報特開昭56-160998号公報特開平6-133790号公報特開昭61-149091号公報特開昭61-202686号公報特開平2-27980号公報特開平7-231789号公報J. Bacteriol, 100(2), p557-564, 1969 本発明が解決しようとする課題は、高濃度のビオチンが吸収され、かつ酵母臭の少ない酵母及びその製造方法を提供することである。 本発明者による鋭意研究の結果、ビオチンを溶媒好ましくはアルカリ性の溶媒に溶解させ、それを炭素源を含まない酵母培養液に添加し、酵母培養液のpHを酸性側にし、酵母培養液を高温度にして培養することにより、ビオチン高含量酵母が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。課題を解決するための手段は以下のとおりである。(1)ビオチンを溶媒に溶解させ、それを炭素源を含まない酵母懸濁液に添加し、酵母懸濁液のpHを酸性側に維持した状態で培養することを特徴とする、ビオチン高含量酵母の製造方法。(2)ビオチンを溶解させる溶媒がアルカリ性であることを特徴とする、前記(1)の方法。(3)酵母懸濁液のpHが2.0〜5.0の範囲内であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の方法。(4)酵母懸濁液のpHが3.0〜4.0の範囲内であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の方法。(5)酵母が耐え得る高温度が、35〜40℃であることを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載の方法。(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載の方法により得られるビオチン高含有酵母。 本発明により、従来よりもビオチンを高含量に含む酵母またはその粉末が作製できるようになり、工業生産が可能となる。 本発明の実施の第一の態様は、ビオチン高含有酵母の製造方法である。本発明におけるビオチン高含有酵母とは、湿菌体当たり10〜1000ppm、より望ましくは湿菌体当たり400〜1000ppm含有する酵母を指す。 本発明におけるビオチン酵母の製造に使用可能な酵母は、一般的に食用酵母としてヒトの飲食、動物の飼料、魚類の餌料に多用される酵母であれば限定されず、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属等の酵母が使用可能である。 本発明に使用するビオチン原料は食品添加物として使用が許される品質のものであれば特に限定されない。なお、ビオチンの純度は高いものほど培養液への添加量が少量で済むが、本発明における使用では1.0質量%程度の純度があれば充分に使用可能であり、望ましくは2〜100質量%の範囲の純度である。 本発明のビオチン高含有酵母の製造方法は、ビオチンを溶媒に溶解させ、それを炭素源を含まない酵母懸濁液に添加し、酵母懸濁液のpHを酸性側にし、酵母懸濁液を高温度にして培養することを特徴とする。 本発明のビオチン高含有酵母の製造方法を実施する際、ビオチンを溶解させる溶媒は特に限定されず、水、培地、緩衝液等、酵母の培養条件に顕著な影響を与えるものでなければ使用可能である。ビオチンを溶解させる溶媒はアルカリ性側であるのが望ましく、pHは7〜13の範囲内、より望ましくは10〜13の範囲内である。なお、上記溶媒をアルカリ性側にする際、例えば苛性ソーダ等のアルカリ性物質を溶解させることが可能である。 本発明のビオチン高含有酵母の製造方法を実施する際の酵母懸濁液とは、具体的には酵母を溶媒に分散させたの状態の懸濁液のことを指す。なお、前記酵母懸濁液は、酵母がクリーム状に懸濁した状態、例えば溶媒100ml当たり1〜30g湿菌体(あるいは乾燥菌体)が懸濁したものが望ましい。なお、上記の範囲外では菌体へのビオチン取り込み量が少なくなる等の不具合が生じ、望ましくない。 本発明のビオチン高含有酵母の製造方法を実施する際の酵母懸濁液は、酸性側であるのが望ましく、pHは2.0〜5.0の範囲内、より望ましくはpHが3.0〜4.0の範囲内である。なお、pHが5.0以上になるか、あるいは、pHが2.0以下になると菌体へのビオチン取り込み量が少なくなる等の不具合が生じ、望ましくない。 本発明のビオチン高含有酵母の製造方法を実施する際の、酵母懸濁液の温度は、30℃以上が望ましく、より望ましくは35〜40℃である。なお、前記温度が30℃未満では菌体へのビオチン取り込み量が少なくなる等の不具合が生じ、逆に40℃以上になると微生物のコンタミネーション等の不具合が生じ、望ましくない。 本発明の実施の第二の態様は、前記の製造方法により得られたビオチン高含有酵母である。また、本発明により得られるビオチン高含有酵母には、破砕処理を行い、粉末状にしたものも含まれる。なお、本発明のビオチン高含有酵母の破砕処理の方法は特に限定されず、フレンチプレス、超音波細胞破砕装置、ビーズミル等の機器を使用して行うことが可能である。 本発明により得られるビオチン高含有酵母の使用方法は特に限定されないが、少量の添加で必要量のビオチンを添加できるため一般食品や栄養強化食品、健康食品、流動食のような医療食を製造することを可能にする。なお、本発明により得られるビオチン高含有酵母及びその粉末は酵母臭を感じることがないため、それを一般食品や医療食に用いても風味を損なうことなくビオチンを摂取することが可能となる。 以下に本発明の実施例を記載するが、以下の記載に限定されるものではない。(酵母懸濁液の調製) 糖蜜培地等の栄養培地で増殖させた酵母を遠心分離機を使い、菌体分離及び溶媒洗浄を繰り返し行った後、溶媒を適宜加えることで湿菌体濃度を20〜60%になるように調整することにより得られる。 酵母懸濁液に苛性ソーダに溶解したビオチンを0〜15ppmになるように添加し、非特許文献1の方法に従い酵母懸濁液のpHが4.0になるよう調整し、30℃で20時間、無通気、100rpmにて攪拌培養し、ビオチンを酵母に吸収させた(図1)。その結果、ビオチンの添加濃度と酵母に吸収されるビオチン量との間に直線的な相関関係が見られた。 苛性ソーダ溶液1Lにビオチンを0.5g溶解したビオチン溶液を、酵母懸濁液に0.4L添加し、酵母懸濁液pHが4.0になるように調整し、20〜35℃で46時間培養し、ビオチンを酵母に吸収させた。その結果、図2のように吸収されるビオチンの量は培養温度に依存し、培養温度が高いほどよく吸収された(図2)。すなわち、培養温度30℃で設定された非特許文献1の方法と比較し、培養温度を35℃にすることにより、約30%もの高効率で酵母にビオチンが吸収されることが明らかとなった。 苛性ソーダ溶液1Lにビオチンを0.5g溶解したビオチン溶液を、酵母懸濁液に0.4L添加し、硫酸にて酵母懸濁液のpHを3.0〜6.0の範囲で各種調整し、30℃で40時間、200rpmにて攪拌培養し、ビオチンを酵母に吸収させた。反応後、酵母懸濁液を遠心分離し、酵母を集めた後、培養液の約2倍量の上水を酵母に加え洗浄し、酵母細胞内に吸収されたビオチン含量を測定した。その結果、図3のように酵母へのビオチンの吸収は酵母懸濁液のpHに依存して変化し、特に酸性側のpHにおいて酵母へのビオチン吸収が促進されることが明らかとなった。すなわち、培養液pHを4.0に設定した非特許文献1の方法と比較し、pHを3.0に調整すると約15%の効率が増加するという本実施例の結果より、酵母懸濁液のpHを3.0に設定し、製造することとした。 実施例3において定めた条件(培養pH3.0、培養温度35℃)にて、工業的スケールで酵母にビオチンを吸収させ、スプレードライでビオチン高含量粉末酵母を作製した。同様の試験を3回繰り返し、再現性を確認した。また、比較例として、ビオチンを添加せずに製造した粉末酵母も同様に調製し、ビオチン量を比較した(表1)。その結果、ビオチンを吸収させない無添加区に比べ、ビオチンを吸収させた試験区(試験1〜3)では200倍以上のビオチン含量の粉末酵母が製造された。 実施例4で製造したビオチン高含有粉末酵母と無添加粉末酵母を用い、200gあたりビオチンを45μg含む流動食を調整した(表2)。その結果、ビオチン高含有粉末酵母では微量の添加で作製でき、酵母臭を一切感じなかった。 ビオチン高含有粉末酵母を製パン時に添加し評価試験を行った。ビオチン高含有粉末酵母は、ビオチンを乾燥重量当たりmg/100gを含有する酵母を使用した。製パン時のビオチン高含有粉末酵母を1%添加した。以下に配合及び工程を示す。食パン(ストレート法)配合:400g小麦粉仕込み小麦粉(「ミリオン」:日清製粉株式会社製) 40%小麦粉(「ナンバーワン」:日清製粉株式会社製) 60%砂糖 5%油脂(ショートニング) 4%食塩 2%脱脂粉乳 3%全卵 10%イースト(MX:オリエンタル酵母工業株式会社製) 5%品質改良製剤(MXフード:オリエンタル酵母工業株式会社製) 0.5%ビオチン高含有粉末酵母 1% 前記配合は、小麦粉(100%)に対する他の成分の外割配合(%)を示す。以下の実施例の製パン配合の記載は、同様の意味を有する。 油脂(ラード)7%、小麦粉13%を加熱釜で約20分間かけて約120℃で加熱攪拌した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウに食塩9%、砂糖10%、油脂(ラード)33%、コーンスターチ10%、カレーパウダー8%、アミノ酸系調味料2%、水6%、ポークエキス0.25%及びビオチン高含有粉末酵母1.75%を加えて再び加熱攪拌し、約40分かけて約95℃まで加熱し、カレールウを製造した。上記のカレールウを使用して、熱水およびジャガイモ、豚肉などの具材を煮込んで調理したカレーをあらかじめ炊いておいた白米の上にかけ、混ぜ合わせながら試食した。結果、風味、色調、粘度に影響を与えず、味をまろやかにして食べ易くなるという効果を示した。苺ジャム(配合)冷凍苺 800g上自糖 80g水あめ 140gビオチン高含有粉末酵母 1g果糖ぶどう糖液糖 960gペクチン 10gクエン酸 8g香料 2g 上述する配合で、薄を17mm目のチョッパーでチョッピングした。チョッピングした苺と上白糖の一部、水あめ、果糖ぶどう糖を加え、この混合物を徐々に加熱混合しながら濃縮した。糖度が50度に到達したら、ペクチン、上白糖とビオチン高含有粉末酵母を混合し、95℃の熱湯に分散溶解した溶液を加え、一度沸騰させてからクエン酸を少量の水に溶解した溶液を加えてさらによく混合し、糖度が60度になるように調整した。これを品温が45℃になるまで冷却し、ジャム用カップ容器に100gずつ充填し、食パンに塗布して試食した。自然にかつ無理なくビオチンを摂取することが可能であることがわかった。ピーナッツフラワーペースト(配合)ピーナッツペースト 400g上白糖 100g水あめ 300gビオチン高含有粉末酵母 2g果糖ぶどう糖液糖 1000gショートニング 120g小麦粉 20gグリセリン脂肪酸エステル 10g寒天 4g食塩 4g香料 2g 上述する配合で、ショートニングを弱火で加熱しながら溶解し、グリセリン脂肪酸エステルを混合溶解した。ピーナッツペーストを加え、ある程度溶解したら、上白糖、水あめ、果糖ぶどう糖液糖、ビオチン高含有粉末酵母、食塩を混合溶解した。次に、水に溶いた小麦粉を加え、撹絆しながら95℃以上に加熱して、糖度を59度に調整した。得られたフラワーペーストの水分活性は1.0となった。これを品温が45℃になるまで冷却し、ジャム用カップ容器に100gずつ充填し試食したピーナッツの風味を損なわないばかりか、自然にかつ無理なくビオチンを摂取可能であることがわかった。 本発明のビオチンを高含量含む酵母を使用することによって、少量の添加で必要量のビオチンを添加できるため酵母臭を感じることのない一般食品や栄養強化食品、健康食品、流動食のような医療食を製造することを可能にする。酵母のビオチン吸収における添加ビオチン濃度の影響を示したグラフである。グラフの横軸は酵母懸濁液中のビオチン濃度(ppm)を指し、縦軸は得られた酵母細胞中のビオチン含量(ppm)を指す。(実施例1)酵母のビオチン吸収における培養温度の影響を示したグラフである。グラフの横軸は酵母懸濁液の温度(℃)を指し、縦軸は得られた酵母細胞中のビオチン含量(ppm)を指す。(実施例2)酵母のビオチン吸収におけるpHの影響を示したグラフである。グラフの横軸は酵母懸濁液のpHを指し、縦軸は得られた酵母細胞中のビオチン含量(ppm)を指す。(実施例3)ビオチンを溶媒に溶解させ、それを炭素源を含まない酵母懸濁液に添加し、酵母懸濁液のpHを酸性側にし、酵母懸濁液を高温度にして培養することを特徴とする、ビオチン高含量酵母の製造方法。ビオチンを溶解させる溶媒がアルカリ性であることを特徴とする、請求項1の方法。酵母懸濁液のpHが2.0〜5.0の範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。酵母懸濁液のpHが3.0〜4.0の範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。酵母懸濁液の温度が、35〜40℃であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。請求項1から5のいずれかに記載の方法により得られるビオチン高含有酵母。 【課題】本発明が解決しようとする課題は、高濃度のビオチンが吸収され、かつ酵母臭の少ないビオチン高含有酵母及びその製造方法を提供すること。特に、酵母増殖を抑えつつ顕著にビオチンが吸収される培養条件を見出し、その条件下にて酵母を培養しビオチン高含有酵母を製造する方法を提供すること。【解決手段】ビオチンを溶媒好ましくはアルカリ性の溶媒に溶解させ、それを炭素源を含まない酵母培養液に添加し、酵母培養液のpHを酸性側にし、酵母培養液を高温度にして培養することを特徴とする、ビオチン高含量酵母の製造方法。【選択図】なし