タイトル: | 公開特許公報(A)_アスタキサンチン含有量の高い緑藻およびその製造方法 |
出願番号: | 2006224249 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 1/12,C12P 7/26 |
張 凱 JP 2007097584 公開特許公報(A) 20070419 2006224249 20060821 アスタキサンチン含有量の高い緑藻およびその製造方法 ヤマハ発動機株式会社 000010076 南條 博道 100104673 張 凱 JP 2005258299 20050906 C12N 1/12 20060101AFI20070323BHJP C12P 7/26 20060101ALI20070323BHJP JPC12N1/12 AC12N1/12 CC12P7/26 23 OL 14 4B064 4B065 4B064AC38 4B064CA08 4B064CC03 4B064CC05 4B064CC30 4B064CD02 4B064DA01 4B064DA10 4B065AA83X 4B065AC14 4B065BB02 4B065BC07 4B065BC48 4B065CA09 4B065CA41 4B065CA44 本発明は、アスタキサンチンの効率的な生産に関する。さらに詳しくは、アスタキサンチン含有量が高い緑藻およびその製造方法に関する。 アスタキサンチンは、赤色のカロチノイドの一種であり、強力な抗酸化作用を有することが知られている。そのため、食材用色素、化粧品、健康食品、医薬品などとして使用されている。アスタキサンチンは、化学合成されるものの他、天然物由来のものがある。天然物由来のアスタキサンチンは、オキアミ、アマエビなどのエビ類、ファフィア酵母、藻類などから抽出されている。しかし、オキアミなどのエビ類あるいは酵母からは、アスタキサンチン含有量が低いため、効率よくアスタキサンチンを生成できない。 他方、藻類は、外部環境の変化の結果としてシスト化し、藻体内にアスタキサンチンを蓄積する。そのため、藻類によるアスタキサンチンの生産研究が行われている。非特許文献1には、ヘマトコッカスの栄養細胞を、1日に培養液の10〜40%を交換しながら培養を行い(すなわち、半回分培養)、さらに光を照射しながら15日間回分培養することによる、2段階培養方法が記載されている。特許文献1には、培養末期に培地成分の炭素と窒素との比率を変えてヘマトコッカスを培養することにより、アスタキサンチンを生産することが記載されている。また、特許文献2には、金属塩を添加した培地で藻類を培養し、アスタキサンチンを生産する方法が記載されている。しかし、これらの文献には、藻体中のアスタキサンチンの含有量についての記載はない。 特許文献3にはアスタキサンチンの藻体内含有量として、乾燥藻体あたり0.3〜10質量%の値が記載されているが、藻体を窒素制限下、40000ルクスの培養条件で培養した実施例においては、アスタキサンチン含量は2質量%程度であり、実際に10質量%あるいはこれを超えるアスタキサンチン濃度の藻体は得られていない。さらに、特許文献4には、屋外培養池で培養したヘマトコッカスは藻体当たり4.5質量%のアスタキサンチンを有していたことが記載されている。 藻体内のアスタキサンチン含量についても検討されており、例えば、特許文献5および非特許文献2には、培養温度を30℃とし、鉄イオンと酢酸との存在下で培養して、約600pg/細胞のアスタキサンチンが生産されたことが記載されている。さらに、特許文献6には、アスタキサンチンを約700pg/細胞以上の量まで上げることは可能であると記載されている。しかし、実際にはそのような高濃度でアスタキサンチンを含有する藻類は得られておらず、特許文献6に記載された実施例中の最高値でも、156pg/細胞にすぎない。 特許文献7には、キサントフィルを含有する微細藻類、例えば、シスト化した微細藻類を栄養培地に接種して栄養細胞として増殖させ、さらにシスト化させることにより、効率的にキサントフィルを製造する方法が開示されている。この特許文献7の実施例において、乾燥藻体中のキサントフィル(アスタキサンチン)の最高含量は、3.5質量%である。 アスタキサンチンの効率的な製造のため、より高濃度でアスタキサンチンを含有する藻類が望まれている。特表平2−501189号公報特開平1−187082号公報特開平3−83577号公報特開2000−60532号公報特開平7−39389号公報特開2004−129504号公報国際公開第2005/116238号パンフレットFabregasら、J. Biotech., 89, p66, (2001)Tjahjonoら、BIOTECHNOLOGY LETTERS, vol.16, p133-138, (1994) 本発明は、細胞内のアスタキサンチン濃度が高い緑藻類を提供することを目的とする。 本発明は、シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程を含む、緑藻の製造方法を提供する。 本発明は、また、アスタキサンチンを700pg/細胞以上の量で含む緑藻を提供する。 本発明は、また、湿藻体あたりアスタキサンチンを1.2質量%以上の濃度で含む緑藻を提供する。 また、本発明は、シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程;および得られた緑藻を乾燥する工程を含む、緑藻乾燥物の製造方法を提供する。 さらに、本発明は、アスタキサンチンを5質量%以上の濃度で含む緑藻乾燥物を提供する。 本発明はさらに、シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程を含む、培養液1Lあたりアスタキサンチンを150mg以上の濃度で含む緑藻培養液の製造方法を提供する。 本発明は、また、培養液1Lあたり、アスタキサンチンを150mg以上の濃度で含む緑藻培養液を提供する。 本発明はさらに、シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程、得られた緑藻を乾燥させる工程、および得られた緑藻乾燥物からアスタキサンチンを抽出する工程を含む、アスタキサンチンの製造方法を提供する。 1つの実施態様では、上記の方法において、上記栄養培地は、独立栄養培地である。 1つの実施態様では、上記の方法において、上記光合成有効光量子束投入量は、750000μmol−photon/m3/s以下である。 1つの実施態様では、上記緑藻はヘマトコッカス属に属する単細胞藻類であり、好ましくはヘマトコッカス・プルビアリスである。 本発明によれば、細胞あたりのアスタキサンチン含有量が700pg(700pg/細胞)以上の緑藻が提供される。この緑藻は、細胞あたりのアスタキサンチン含有量が高いので、この緑藻を用いることによりアスタキサンチンの生産効率が従来よりも向上する。 本発明の緑藻は、アスタキサンチンを700pg/細胞以上の量で、好ましくは1000pg/細胞以上の量で含む。このような緑藻は、光照射培養条件下、シスト化を誘発して得られる。好ましくは、シスト化した緑藻を栄養培地に接種し、栄養培地中への通気下、強い光照射条件で培養することにより得られる。このような培養方法により、乾燥藻体あたり5質量%(50mg/g乾燥藻体)以上、好ましくは乾燥藻体の6質量%(60mg/g乾燥藻体)以上のアスタキサンチン含量の緑藻乾燥物が得られる。さらに、培養液の単位容量あたりのアスタキサンチン量も150mg/L以上、好ましくは200mg/L以上、より好ましくは250mg/Lに達する。 以下、アスタキサンチンを700pg/細胞以上の量で含む緑藻;アスタキサンチンを5質量%(50mg/g乾燥藻体)以上の濃度で含む緑藻乾燥物;および、アスタキサンチンを150mg/L培養液の濃度で含む緑藻培養液について説明する。 本発明の方法は、アスタキサンチンを含有する緑藻、好ましくはシスト化した緑藻を増殖培地に接種して増殖させ、さらに光照射下、シスト化させることを特徴とする。アスタキサンチンを含有する緑藻、好ましくはアスタキサンチンを多く蓄積しているシスト化した緑藻を、増殖培地に接種して増殖させた場合、シスト化した緑藻は、アスタキサンチンを含有する遊走子を放出する。この遊走子は、アスタキサンチンを維持したまま、栄養細胞となる。そして、このアスタキサンチンを含有する緑藻(栄養細胞)をさらにシスト化することにより、さらなるアスタキサンチンが緑藻内で生産され、蓄積される。したがって、本発明の方法でシスト化した緑藻中には、もともと緑藻内に存在するアスタキサンチンに加えて、新たに生産されたアスタキサンチンが含まれるので、アスタキサンチン含量が高くなる。 (緑藻) 本発明に用いられる緑藻は、アスタキサンチンを生産し得る能力がある緑藻であれば、特に制限はない。例えば、ヘマトコッカス(Haematococcus)属に属する単細胞藻類が好ましく用いられる。好ましい緑藻としては、ヘマトコッカス・プルビアリス(H. pluvialis)、ヘマトコッカス・ラクストリス(H. lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(H. capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H. droebakensi)、ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H. zimbabwiensis)などが挙げられる。 ヘマトコッカス・プルビアリス(H. pluvialis)としては、独立行政法人国立環境研究所に寄託されているNIES144株、米国テキサス大学藻類保存施設に寄託されているUTEX2505株、デンマークのコペンハーゲン大学のScandinavian Culture Center for Algae and Protozoa, Botanical Instituteに保存されているK0084株などが挙げられる。 ヘマトコッカス・ラクストリス(H. lacustris)としては、ATCCに寄託されているATCC30402株および同30453株、東京大学分子細胞生物学研究所に寄託されているIAM C−392株、同C−393株、同C−394株および同C−339株、あるいはUTEX 16株および同294株などが挙げられる。 ヘマトコッカス・カペンシス(H. capensis)としては、UTEX LB1023株などが挙げられる。 ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H. droebakensi)としては、UTEX 55株が挙げられる。 ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H. zimbabwiensis)としては、UTEX LB1758株などが挙げられる。 中でも、ヘマトコッカス・プルビアリスが好ましく用いられる。 (シスト化) 本発明においては、アスタキサンチンを含有する上記の緑藻が用いられる。緑藻は、例えば、栄養飢餓状態、酸化物の存在など、生育環境からのストレスを受けると、細胞内にアスタキサンチンを蓄積し、休眠胞子化する。この休眠状態に入ることをシスト化という。本明細書では、シスト化とは、休眠状態に入りアスタキサンチンを蓄積し始めた状態から完全にシスト化し休眠胞子となった状態までのいずれかの状態をいう。アスタキサンチン含量を高める観点からは、できるだけシスト化が進行し、アスタキサンチンを多く蓄積した緑藻を用いることが好ましい。なお、「シスト化した緑藻を培養する」というときには、緑藻がシスト化の状態に達した後に栄養培地で生育したアスタキサンチンを含有する緑藻を接種する過程も含むものとする。本明細書において、「緑藻」は、シスト化した緑藻を含むことも意図する。 (培地) 緑藻の培養に用いる培地としては、特に制限がない。一般に、増殖に必要な窒素、微量金属の無機塩(例えば、リン、カリウム、マグネシウム、鉄など)、ビタミン類(例えば、チアミンなど)などを含む培地が用いられる。例えば、VT培地、C培地、MC培地、MBM培地、MDM培地などの培地(これらは、藻類研究法 千原光雄・西澤一俊編、共立出版(1979)を参照のこと)、OHM培地(非特許文献1を参照のこと)、BG−11培地、およびこれらの改変培地などが用いられる。本発明においては、雑菌の混入を防止できる点で、有機炭素源を実質的に含まない独立栄養培地を用いることが好ましい。 これらの培地は、増殖、シスト化などの目的に応じて選択することができる。例えば、緑藻の増殖を目的とする場合は、窒素源となる成分の多い培地(富栄養培地:窒素として、少なくとも0.15g/Lを含む培地)を用いる。シスト化を目的とする場合は、窒素源となる成分が少ない培地(シスト化培地:窒素として、0.02g/L未満)を用いる。あるいは、その中間の濃度の窒素源を含む培地(低栄養培地:窒素として、0.02g/L以上で、0.15g/L未満)を用いてもよい。 培地中の窒素源濃度、リン濃度などは、接種する緑藻の量に依存して決めればよい。例えば、105オーダーの数の緑藻が接種される場合、低栄養培地を用いると、ある程度まで緑藻は増殖するが、窒素源の量が少ないため、増殖はすぐに止まる。このような低栄養培地は、後述するように、一段階で(回分的に)増殖とシスト化を連続して行うに適した培地である。さらに、N/Pモル比を10〜30、好ましくは15〜25の値に調整することにより、シスト化へ導くこともできる。 接種する緑藻の数がさらに大きい場合、富栄養培地を用いて、上記培養を行うことができる。 このように、培地の組成は、種々の条件を考慮して決定することができる。なお、本発明で好適に用いられる培地、すなわち独立栄養培地には、酢酸、グルコースなどの有機炭素源がほとんど含まれないため、長期間にわたって培養を行っても、雑菌の混入はほとんどない。 (培養装置) 緑藻の培養装置は、二酸化炭素が供給でき、かつ培養液に光照射ができる装置であれば、特に制限はない。例えば、小スケールの場合は、扁平培養瓶が好ましく用いられる。大スケールの場合は、ガラス製、プラスチック製などの透明板で構成され、必要に応じて照明器および撹拌機を備えた培養槽が用いられる。このような培養槽としては、例えば、平板培養槽、チューブ型培養槽、エアドーム型培養槽、中空円筒型培養槽などが用いられる。また、いずれの場合も、密閉容器が好ましく用いられる。 (培養条件) 培養条件に特に制限はなく、一般に、緑藻の培養に用いられる温度、pHなどが用いられる。緑藻の培養は、例えば15〜35℃で行われ、好ましくは20〜25℃で行われる。培養中のpHは、6〜8に保たれることが好ましい。二酸化炭素は、1〜3v/v%濃度の二酸化炭素を含有するガスを、例えば、0.2〜2vvmとなるように吹き込むことで、供給される。平板培養槽を用いる場合、この二酸化炭素の供給により、培養液が撹拌され、緑藻に対して光照射が均一に行われる。 (光照射) 本発明においては、緑藻の培養には、光合成有効光量子束投入量を25000μmol−photon/m3/s(以下、この単位をμmol−p/m3/sと略す)程度となるように光を照射するが、アスタキサンチンの生成量を増加させる観点からは、30000μmol−p/m3/s以上であることが好ましく、40000μmol−p/m3/s以上であることがより好ましい。また、強光によって光合成が阻害されると細胞の増殖が停止するため、光合成有効光量子束投入量は、750000μmol−p/m3/s以下であることが好ましい。このような光合成有効光量子束投入量で、培養開始時からシスト化までの培養過程全般に亘って照射することにより、アスタキサンチンの生産量が非常に大きくなる。 なお、光合成有効光量子束投入量は、まず、光合成有効光量子束密度(PPFD)を測定することにより、求められる。PPFDは、培養装置の数箇所に平面光量子センサーLI−190(LICOR Inc., Lincoln, USA)を配置し、光を照射して各箇所のPPFDを測定し、測定値を平均することにより、求めることができる。光源が複数存在する場合のPPFDは、それぞれの光源から受けるPPFDの合計となる。ガラス、アクリル樹脂などの透明板で構成された装置の場合、透明板を通過してくるPPFDを測定し、所定のPPFDに必要な光源の強さ、あるいは光源の距離を決定し、光源を配置すればよい。透明な2枚の平板から構成される培養槽を用い、両側から光照射する場合、それぞれの側からのPPFDの値を合計した値となる。 光合成有効光量子束投入量は以下の式により求められる。 (培養方法) 培養は、上記培地、培養装置、培養条件などを適宜選択して組合せて、光照射下、行われる。培養方法には、2つの方法がある。一つは、シスト化した緑藻を、連続して同一の培地で増殖させ、シスト化させる、1段階培養法である。他の一つは、培地をシスト化した緑藻を増殖させるための培地とシスト化させるための培地とが互いに異なっており、増殖とシスト化とを別々に行う2段階培養法である。 (1段階培養法) 1段階培養法は、シスト化した緑藻を栄養培地に接種してから培養終了までの間、培地を交換することなく連続的に培養する方法である。すなわち、所定の培地で、同一培養槽内で、緑藻の増殖およびシスト化を行う。この1段階培養法では、緑藻はいったん増殖し、培地中の栄養成分の消費による栄養飢餓ストレス、光照射によるストレスなどを受けて、シスト化状態にスムーズに移行する。この1段階培養法で得られたシスト化した緑藻は、さらに、次の1段階培養、あるいは後述の2段階培養の前培養培地に接種するために用いてもよい。 アスタキサンチンを含有する緑藻(好ましくはシスト化した緑藻)が栄養培地に接種されると、アスタキサンチンを含む遊走子が2n個(n=1〜4)放出される。この遊走子がアスタキサンチンを含んだまま栄養細胞となるので、アスタキサンチンを含む栄養細胞の数が増加する(言い換えれば、緑藻が増殖する)。このアスタキサンチンを含有する栄養細胞をシスト化することにより、もともと有していたアスタキサンチンに加えて、新たにアスタキサンチンが蓄積されることから、細胞内のアスタキサンチン含量が一層高められる。 ところで、栄養細胞が増殖を続けると、結果として栄養細胞内のアスタキサンチン濃度が低下すると考えられるので、増殖は、いくらかのアスタキサンチンが細胞内に残っている時点で停止させることが好ましい。 ある程度栄養細胞が増殖した時点で、緑藻の増殖を停止させるためには、培地を栄養飢餓になるように設計することが好ましい。そのため、1段階培養法では、培地として、窒素源濃度が比較的低い培地、例えば、上記低栄養培地が好ましく用いられる。多量のシスト化細胞を接種する場合は、窒素源濃度が高い培地、例えば、上記富栄養培地を用いてもよい。 なお、低栄養培地で緑藻の生育が不十分である場合、富栄養培地あるいは低栄養培地を追加して、所望の濃度まで緑藻を増殖させてもよい。 また、低栄養培地を用いる場合、N/Pモル比を10〜30、好ましくは15〜25の値に調整しておくと、増殖後スムーズにシスト化させることができる。 1段階培養法では、工程の管理が簡便であること、別の培養槽に移し替える必要がないため、雑菌の混入が防止できること、用いる培養槽が一つのみでよいことなどだけでなく、高濃度でアスタキサンチンを含有する緑藻を簡便に得ることができるという利点もある。 (2段階培養法) 2段階培養法は、シスト化した緑藻を栄養培地で増殖させ、ついで、栄養培地をシスト化培地に代えて、シスト化を行う培養方法である。すなわち、2段階培養法では、まず、シスト化した緑藻を栄養培地に、好ましくは富栄養培地に接種して緑藻を増殖させる第1工程と、この緑藻を回収して、窒素源をほとんど含まないシスト化培地に移して、シスト化する第2工程を含んでいる。 第1工程における緑藻の増殖は、アスタキサンチンが栄養細胞に残存している間に終了させる必要があるため、栄養培地での培養は短時間で行われる。培養の開始時に富栄養培地を用いて培養すると、栄養細胞の増殖速度が、低栄養培地で培養した場合の増殖速度よりも速いので、富栄養培地を用いることが好ましい。増殖終了後、緑藻は回収され、シスト化培地に移し替えられ、第2工程のシスト化が行われる。 この第1工程と第2工程とは、それぞれ、別の培養槽で回分的に行ってもよい。第1工程終了後、増殖した緑藻を洗浄、回収し、同一培養槽に戻して、第2工程を行ってもよい。 この2段階培養法でも、アスタキサンチン含量が高い緑藻が得られる。この2段階培養法は、1段階培養法に比べて、増殖工程が短時間ですむという利点があるが、途中で増殖した緑藻を移し替える操作が必要となる。 得られたシスト化緑藻の一部はアスタキサンチンの回収に、残りの一部は、再度、栄養培地への接種のために用いてもよい。 (アスタキサンチン量の測定) 上記の培養により、培養液1Lあたり、アスタキサンチン(フリー体として)を150mg以上の濃度で、好ましくは、150〜250mg/Lで、より好ましくは、200〜250mg/Lの濃度で含む緑藻培養液が得られる。培養液あたりのアスタキサンチン量は、所定量の培養液を採取し、その中に含まれるアスタキサンチン量を測定することにより求められる。 試料中のアスタキサンチン量(フリー体として)は、例えば、以下の方法で測定される。まず、試料を一定量採取し、洗浄し、ビーズビーター専用のミクロチューブに採る。同チューブにジルコニアビーズを加えた後、アセトンを加え、ビーズビーターで破砕する。破砕後、試料を、遠心分離により上清と沈殿とに分け、上清(すなわち、アセトン画分)を回収する。沈殿には再びアセトンを加え上記と同様の操作を、沈殿の色がほぼ完全に白くなるまで繰り返す。回収したアセトン画分を合わせて、ジメチルスルホキシド(DMSO)で100倍に希釈し、492nmにおける吸光度(A492)および750nmにおける吸光度(A750)を測定する。回収アセトン画分(試料)中のアスタキサンチン濃度は、以下の式を用いて算出され、この測定値から、培養液中のアスタキサンチン量が求められる。 試料中のアスタキサンチン濃度(μg/mL)=4.5×100×(A492−A750) (アスタキサンチンを含む湿藻体) 上記条件で培養を行うことにより、700pg/細胞以上、好ましくは800pg/細胞以上、より好ましくは900pg/細胞以上、さらに好ましくは1000pg/細胞以上の量のアスタキサンチン(フリー体として)を含む緑藻が得られる。本発明の方法では、アスタキサンチンを1100pg/細胞の量、あるいはそれ以上の量(例えば、1200pg/細胞)で含む緑藻が得られる。 ここで、「湿藻体」とは、藻体から水分が除去されておらず、藻体内が液体で満たされている藻体をいう。例えば、培養液中に存在している状態の緑藻である。 なお、細胞あたりのアスタキサンチン量は、所定量の緑藻を回収し、その細胞数および細胞より抽出されたアスタキサンチン量を測定することにより求められる。細胞数は、例えば、粒子径分布測定装置(SYSMEX FPI−3000)で測定できる。 (アスタキサンチンを含む緑藻の乾燥物) 上記のアスタキサンチンを含む湿藻体を、当業者が通常用いる乾燥手段(ドラム乾燥、熱風式乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥など)によって乾燥させることにより、緑藻の乾燥物を得ることができる。 得られた緑藻の乾燥物は、アスタキサンチン(フリー体として)を5質量%以上の濃度で含む。好ましくは、5〜8質量%の濃度で含み、さらに好ましくは6〜7質量%の濃度で含む。なお、ここでいう乾燥物に含まれる水分量は7質量%以下、好ましくは5質量%、より好ましくは2質量%程度である。 (アスタキサンチンの製造方法) 得られた緑藻の乾燥物から、アスタキサンチンを抽出し、回収することによってアスタキサンチンを製造することができる。アスタキサンチンの抽出・回収方法に特に制限はなく、当業者が通常用いる方法が用いられる。例えば、緑藻の乾燥物を機械的に破壊した後に、アスタキサンチンが抽出される。抽出方法としては、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、メタノール、エタノールなどの有機溶媒や食用油脂を用いて抽出する化学的抽出方法、あるいは緑藻の乾燥物の圧搾などによる物理的抽出方法が挙げられる。あるいは、超臨界抽出法を用いて抽出・回収してもよい。抽出後、濃縮・晶析、合成樹脂(例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体など)による分画などの方法で、アスタキサンチンを精製することができる。 以下に、ヘマトコッカス・プルビアリスK0084株を用いた実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に制限されない。 なお、本実施例において、アスタキサンチン量および細胞数は、上記の方法で測定した。 緑藻の乾燥質量の測定方法は、以下の通りである。まず、所定量の培養液を採取し、GC50ガラス繊維ろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)上で吸引濾過し、無機塩類を溶解するため、pH4の塩酸水溶液5mLで2回洗浄した。次いで、緑藻の付いたろ紙を、105℃の恒温乾燥機で3時間乾燥させ、真空デシケーター中で室温まで1時間冷却し、乾燥質量を測定した。なお、GC50ガラス繊維ろ紙は、予め、上記恒温乾燥機で、105℃、1時間乾燥させて、その質量を測定しておいた。緑藻を吸着させた乾燥ろ紙の質量から、予め測定したろ紙の乾燥質量を差し引いて緑藻の乾燥質量を求めた。また、この所定量の培養液中のアスタキサンチン量の測定値より、乾燥質量あたりのアスタキサンチン量を求めた。 (実施例1) (シスト化した緑藻の調製) ヘマトコッカス・プルビアリスK0084株を、以下の表1に記載の成分を含有する培地(低栄養培地)に接種した。 具体的には、1.5Lの扁平培養瓶に1Lの低栄養培地を入れ、シスト化したK0084株を接種した。培養は、白色蛍光灯を用いて25000μmol−p/m3/sの光合成有効光量子束投入量で光照射を行い、3容積%のCO2を含む空気を0.5L/分の速度で吹き込みながら(すなわち、通気速度0.5vvmで)、25℃にて7日間行った。7日後、シスト化したK0084株を集め、低栄養培地で1.5×106個/mlの濃度となるように調整した。 (本培養) アクリル透明板を培養槽の内壁が3cmの間隔となるように対向させて配置した扁平培養槽に、低栄養培地を9L入れ、1Lの上記シスト化したK0084株を1.5×105個/mlの濃度で植菌し、培養を開始した。培養は、扁平培養槽の両側に各6本の白色蛍光灯を設置し、25000μmol−p/m3/sの光合成有効光量子束投入量で照射を行い、3容積%のCO2を含む空気を5L/分の速度で吹き込みながら(すなわち、通気速度0.5vvmで)、25℃にて21日間行った。培養液中のアスタキサンチン含有量、細胞数、および培養液から採取した藻体の乾燥質量を、定期的に上述の方法で測定した。結果を図1〜6に示す。 生細胞数は、3日目には6.5×105個/mlと約4倍になったが、以降、徐々に低下した(図示せず)。生細胞あたりのアスタキサンチン含有量は、図1に示すように、14日目には600pg/細胞に達し、18日目には800pg/細胞以上となり、19日目には900pg/細胞以上となり、さらには21日目には1000pg/細胞に達した。また、図2に示すように、細胞あたりのアスタキサンチンの生成速度は、培養7日目付近が最も高く、細胞あたり、1日約54pgであった。その後は、細胞あたり、1日約45pgを生産した。 図3に示すように、乾燥藻体あたりのアスタキサンチン含有量は、細胞が栄養増殖した3日目までは減少したが、シスト化開始後急激に増加し、7日目には6質量%(60mg/g乾燥藻体)に達した。さらに培養を続けると、藻体あたりのアスタキサンチン量は徐々に増加し続け、21日目には、6.8質量%(68mg/g乾燥藻体)に達した。 図4は、培養液中のアスタキサンチン濃度の経時変化を示す。培養7日目には培養液1Lあたり、150mgという高い濃度を示し、10日を過ぎると200mg/Lの濃度となり、21日目には、250mg/Lの濃度となった。また、図5に示すように、培養液1mlあたりの1日のアスタキサンチンの生成速度は、培養7日目付近が最も高く、培養液あたり、1日約19mgであった。その後は、アスタキサンチン生成速度はやや減少した。 図6に示すように、培養液中の固形分の質量は培養に伴って増加し、13日目でピークに達し、以降、ほとんど変化はなかった。生細胞数が徐々に減少したことを考慮すると、固形分の質量増加は、シスト化による細胞の質量の増加に起因すると思われる。 (比較例1) 12000μmol−p/m3/sの光合成有効光量子束投入量で光照射を行ったこと以外は、実施例1と同様に培養し、21日目の湿藻体あたりのアスタキサンチン濃度、乾燥藻体中のアスタキサンチン濃度、および培養液1Lあたりのアスタキサンチン量を測定した。結果を表2に示す。 (比較例2) 非特許文献2に記載された、一般的なヘマトコッカスの培養に用いられる光合成有効光量子束投入量である8000μmol−p/m3/sの光合成有効光量子束投入量となるように光照射を行ったこと以外は、実施例1と同様に培養した。21日目の湿藻体あたりのアスタキサンチン濃度、乾燥藻体中のアスタキサンチン濃度、および培養液1Lあたりのアスタキサンチン量を測定した。結果を表2に示す。 本発明の藻類は、従来公知の藻類に比べてアスタキサンチンを高濃度で含むので、抗酸化剤、食品、医薬品、化粧料などの分野で使用されているアスタキサンチンの生産効率を大きく向上させることができる。したがって、本発明の藻類は、アスタキサンチンの効率的な製造方法において、非常に有用である。細胞あたりのアスタキサンチン含有量の経時変化を示すグラフである。細胞あたりのアスタキサンチンの生成速度の経時変化を示すグラフである。乾燥藻体あたりのアスタキサンチン含有量の経時変化を示すグラフである。培養液中のアスタキサンチン濃度の経時変化を示すグラフである。培養液中のアスタキサンチンの生成速度の経時変化を示すグラフである。培養液の単位容量あたりの固形分の乾燥質量の経時変化を示すグラフである。 シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程を含む、緑藻の製造方法。 前記栄養培地が、独立栄養培地である、請求項1に記載の方法。 前記光合成有効光量子束投入量が、750000μmol−photon/m3/s以下である、請求項1に記載の方法。 前記緑藻がアスタキサンチンを700pg/細胞以上の量で含む、請求項1に記載の方法。 前記緑藻が、湿藻体あたりアスタキサンチンを1.2質量%以上の濃度で含む、請求項1に記載の方法。 アスタキサンチンを700pg/細胞以上の量で含む、緑藻。 湿藻体あたりアスタキサンチンを1.2質量%以上の濃度で含む、緑藻。 前記緑藻がヘマトコッカス属に属する単細胞藻類である、請求項6に記載の緑藻。 前記緑藻がヘマトコッカス・プルビアリスである、請求項8に記載の緑藻。 シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程;および得られた緑藻を乾燥する工程を含む、緑藻乾燥物の製造方法。 前記栄養培地が、独立栄養培地である、請求項10に記載の方法。 前記光合成有効光量子束投入量が、750000μmol−photon/m3/s以下である、請求項10に記載の方法。 前記乾燥物がアスタキサンチンを5質量%以上の濃度で含む、請求項10に記載の方法。 アスタキサンチンを5質量%以上の濃度で含む、緑藻乾燥物。 前記緑藻がヘマトコッカス属に属する単細胞藻類である、請求項14に記載の緑藻乾燥物。 前記緑藻がヘマトコッカス・プルビアリスである、請求項15に記載の緑藻乾燥物。 シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程を含む、培養液1Lあたりアスタキサンチンを150mg以上の濃度で含む緑藻培養液の製造方法。 前記栄養培地が、独立栄養培地である、請求項17に記載の方法。 前記光合成有効光量子束投入量が、750000μmol−photon/m3/s以下である、請求項17に記載の方法。 培養液1Lあたり、アスタキサンチンを150mg以上の濃度で含む、緑藻培養液。 前記緑藻がヘマトコッカス属に属する単細胞藻類である、請求項20に記載の緑藻培養液。 前記緑藻がヘマトコッカス・プルビアリスである、請求項21に記載の緑藻培養液。 シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養する工程、得られた緑藻を乾燥させる工程、および得られた緑藻乾燥物からアスタキサンチンを抽出する工程を含む、アスタキサンチンの製造方法。 【課題】アスタキサンチンを高濃度で含む藻類を提供すること。【解決手段】シスト化した緑藻を、栄養培地にて、二酸化炭素の供給下、25000μmol−photon/m3/s以上の光合成有効光量子束投入量で光照射しながら培養することにより、アスタキサンチンを700pg/細胞以上の濃度で含む緑藻、アスタキサンチンを5質量%以上の濃度で含む緑藻乾燥物、およびアスタキサンチンを150mg/L培養液の濃度で含む緑藻培養液が得られる。好ましい緑藻は、ヘマトコッカス属に属する緑藻である。【選択図】なし