タイトル: | 公開特許公報(A)_双方向性プロモーター |
出願番号: | 2006211554 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10 |
藤森 一浩 波佐間 久美子 弓場 俊輔 JP 2008035736 公開特許公報(A) 20080221 2006211554 20060803 双方向性プロモーター 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 藤森 一浩 波佐間 久美子 弓場 俊輔 C12N 15/09 20060101AFI20080125BHJP C12N 1/15 20060101ALI20080125BHJP C12N 1/19 20060101ALI20080125BHJP C12N 1/21 20060101ALI20080125BHJP C12N 5/10 20060101ALI20080125BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 A 10 6 OL 34 4B024 4B065 4B024AA10 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA02 4B024CA05 4B024DA02 4B024EA02 4B065AA90X 4B065AA90Y 4B065AB01 4B065BA02 4B065CA24 4B065CA43 4B065CA44 本発明は動物/動物細胞において一つの発現ベクター内に有する一つの発現プロモーターを用いて双方向性に二種の異なる蛋白質を同時に発現させる能力を有するDNA断片(双方向性プロモーター)、該DNA断片を含む発現ベクター、該発現ベクターを含む形質転換体等に関する。1.遺伝子発現・蛋白質発現生物はその生命を維持するために必要な生理活性分子を、必要なときに、必要な量だけ、生命の基本設計図であるゲノムから転写というプロセスによってmessenger RNA (mRNA)として読み出し、翻訳というプロセスによって蛋白質を産生する。遺伝子発現あるいは蛋白質発現は生命の基本的な機能のひとつである。これまでの分子生物学的・細胞生物学的研究により、この蛋白質発現に係る基本的な分子メカニズムが解明されてきた。すでにヒト・マウス・ラットなど各種生物の個々の蛋白質をコードする遺伝子の大部分が(cDNAあるいはEST)がクローニングされ、実際にゲノムからどのような遺伝子が作られるかが解明されてきた。一方で、ゲノムDNAそのものを解明しようとする研究があり、ヒト・マウス・ショウジョウバエ・線虫・シロイナズナなどのゲノムはすでにドラフトシーケンスが公開され、さらに多数の生物種のゲノム解明が現在進行中である。転写はゲノム上で遺伝子の上流にある領域が重要な役割を果たす。それぞれの遺伝子の近傍、とくに5’上流領域にはその遺伝子がどのように発現するかを調節する核酸配列が1つないし複数存在する。しかし、蛋白質をコードする遺伝子とは異なり、転写調節領域は塩基配列を配列のどこが転写調節領域であるかを正確に予測することは困難であり、転写産物から予測されたゲノムの上流配列に転写促進活性があるかどうかは、細胞あるいは個体を用いて実際に発現させてみることによってのみ検証可能である。2.ウィルスの転写機構とプロモーター ウィルスは真核細胞に感染することで自己の遺伝子を感染によって伝達し、真核細胞を自己の複製工場として利用する。ウィルスは進化上、自己の生命維持に必要なすべての蛋白質を内部に保持することを選択しえなかった。その代わりに、感染によって細胞内に侵入すると、その細胞の持つ遺伝子発現システムを乗っ取り、効率よく必要な蛋白質を合成し、自己を増殖させた後、結果として宿主である細胞を殺して去ってゆくという戦略で生き残りつづけてきた。そのため、ウィルスは真核細胞において非常に強力に遺伝子発現を誘導する仕組みを自己の遺伝子上に持っている。ウィルスが持つ遺伝子発現調節を行う塩基配列であるプロモーターの動作様式が解明された結果、人工的に大腸菌・真核細胞、あるいは無細胞系において強力に蛋白質発現を行うことが可能になった。サイトメガロウィルス(CMV)やシミアンウィルス(SV40)の持つプロモーター/エンハンサーは非常に高効率でほとんどの種の高等脊椎動物において蛋白質を産生させうる能力を持つため、工業的に、また医学生物学研究において遺伝子発現、蛋白質発現あるいは遺伝子治療などのためにしばしば用いられている。 このように培養細胞であるいは個体で外来遺伝子産物としての蛋白質を発現させるためには、その蛋白質をコードしている遺伝子配列とその転写調節領域(プロモーター)が必要である。通常、この遺伝子本体をプロモーターの下流に接続し、これらを大腸菌内で選択的に増殖できるようなプラスミドベクターを作成する。遺伝子自体はこれまでクローニングされてきたが、その遺伝子を発現させるために、わざわざその遺伝子の転写調節領域を取得することはなされてこなかった。というのは、発現コンストラクトを物理化学的に細胞内に導入しさえすれば(たとえば、トランスフェクション試薬を用いたり、ガラスキャピラリを用いて細胞内に注入したり)、発現そのものは、上記のような強力なウィルスのプロモーターを用いて強制的に発現させてしまえばよいからである。3.ゲノム上の遺伝子の構造遺伝子はゲノム上で、複数の転写領域であるエクソンおよびその間にある非転写領域であるイントロン、そして、転写領域の5’上流域にある非翻訳領域(5’UTR)および3’下流にある非翻訳領域(3’UTR)から構成される。そして、5’UTRの上流に連続して転写調節領域(プロモーター)が存在する。また、上記の遺伝子および発現調節領域とは不連続に離れた領域に、エンハンサー/サイレンサーといった転写調節に関わる領域が存在する。それ以外にも、ゲノム上には機能がわかっていないが、上記の分類に当てはまらない塩基配列が挿入されている。最近、これらの機能のわかっていなかったジャンク(がらくた)と考えられていた配列には、miRNAと呼ばれる蛋白質をコードしない小さなRNA分子が多数存在し、それらが遺伝子発現を調節しているということが報告されている(非特許文献1)。真核生物における転写調節の分子メカニズムに関する現時点での基本的な理解は、5’非翻訳領域の上流に連続する塩基配列すなわち中核プロモーターと近位エンハンサー/サイレンサーによって制御されている。中核プロモーターにはmRNAを合成するRNAポリメラーゼIIを含むTFIID複合体が結合し転写を開始する。近位あるいは遠位のエンハンサー/サイレンサーには転写調節因子として知られる多数のDNA結合蛋白質が結合することで、中核プロモーターの転写活性を正あるいは負に調節することが知られている。参考のために、真核生物における転写の基本概念を図1に、また、近年まとめられた総説を非特許文献2に示す。4.真核生物のゲノム上で隣接する遺伝子の配置 原核細胞と異なり、真核細胞の個々の遺伝子はゲノム上に離れて存在する。すなわち、隣り合った2つの遺伝子は不連続である。ゲノムDNAは相補的な二本鎖で構成されるため、センス鎖(+鎖)、アンチセンス鎖(−鎖)のどちらに遺伝子がコードされるかによって2つの方向性が生まれる。そのため、2つの隣り合った遺伝子の配置は、基本的に(1)+鎖上に同じ方向に並んでいる、(2)−鎖上に同じ方向に並んでいる、(3)一つは+鎖にあり、下流の−鎖にもう一つがあり向かい合って並んでいる、(4)ひとつは+鎖にあり、上流の−鎖にもう一つがあり背中合わせに並んでいる、という4つの組み合わせが存在する(図2)。5.IRESを用いた1プロモーター2遺伝子発現 人工的に細胞あるいは個体内で外来の遺伝子を発現させるためには、ベクター内に一つの真核細胞で機能しうる1つのプロモーターと1つの蛋白質をコードする遺伝子配列を組み合わせたプラスミドベクターを構築するのが一般的であるが、これではひとつの発現ユニットで一つの遺伝子しか発現させることができない。これを解決する公知の方法として、内部リボソームエントリー部位Internal Rebosormal Entry Site (IRES)という塩基配列が挙げられる。IRESはmRNAのキャップ構造に依存せずリボソーム複合体が結合することにより翻訳が促進されるため、ベクター内の1つのプロモーターの下流にIRES配列を挟んだ2つの遺伝子配列を同方向に構成することにより、1つの長い融合mRNAから2つの蛋白質を同時に発現させることが可能になった。IRESの利点は、プロモーターの挙動に2つの遺伝子が連動する点にある。すなわち、組織・細胞種・時期に特異的なプロモーターを用いれば2つの遺伝子ともに同じ発現パターンを示す。IRESの欠点は、IRES配列の前に位置する遺伝子に比べて後ろに位置する遺伝子の発現量が少ないことが挙げられる。さらに、哺乳類細で機能するIRESが、魚類のような一部の生物種においては機能することが確認できていないという問題点がある。参考のために、IRESの基本概念を図3および、IRESについてまとめた総説を非特許文献3に示す。6.細胞において2つの転写ユニットを用いて複数の遺伝子を同時に発現させる方法 また、複数の遺伝子を同時に発現させたい場合には、プロモーター+遺伝子という転写ユニットを複数個ベクター内に構成すればよいと考えるかもしれないが、プラスミドベクターのサイズの制限、また近傍に配置した複数のプロモーター間の干渉のため通常は用いられない。人工的双方向性プロモーターは機能し得る異なるあるいは同一のプロモーターを2つ配置したものである。 一つのプラスミドベクター内にそれぞれ単独で機能しうる2つの異なる、あるいは同じプロモーターを人工的に配置することによって、さらにその両端(下流)に背中合わせに異なる遺伝子を配置したハイブリッド型人工プロモーターは、上記の理由によりその動作が保証されないが、人為的にプロモーター活性を制御できる可能性がある。植物ではあるが、成功した例を非特許文献4に示す。7.真核・原核プロモーターとしてのdual promoter すでに実用化されている技術として、dual promoterと呼ばれているものがある。名称の問題に過ぎないのであるが、このdual promoterは本発明とはまったく異なるものである。一般にdual promoterとはプラスミドベクターの中に真核生物における発現プロモーターと遺伝子という組み合わせ以外に、大腸菌などの細菌内においても同じ遺伝子を発現することができるように細菌内で作用する(例えば、T7プロモーター、真核細胞では作用しない)プロモーターを構成したものである。したがって、1つの真核細胞用プロモーターと1つの原核細胞用プロモーターを持つのでdual promoterと呼ばれている。また、前項5.におけるIRESを用いた2遺伝子発現ベクターのことを、プロモーターは一つしかないのにDual promoterと表記することがあるので注意を要する。8.蛋白質をコードする遺伝子と異なり転写調節領域の核酸配列は種間で保存されていないため、転写活性を有するプロモーターの予測は困難である 現存する地球上の生物は長い時間をかけて独立した種を構成するに至った。異なる種は異なるゲノムを持ち、異なる遺伝子を発現することで、他種と区別される生物として存在すると考えられてきた。しかしながら、ゲノム研究が明らかにしたことは、ヒトとチンパンジーのような明白に異なる種であっても、ゲノム中のある蛋白質をコードする遺伝子配列についてはほとんど差がないということが明らかになった。さらに、下等な生物においても、相同な遺伝子が次々と見つかり、蛋白質のアミノ酸配列は非常に相同性が高いということが分かってきた。すなわち、異なる種間において、それぞれの相同遺伝子は遺伝子の塩基配列も相同性があり、蛋白質を構成するアミノ酸配列ではより相同性が高い。一方、これらの遺伝子・蛋白質を発現させるために個々の遺伝子配列の上流にある転写調節領域の塩基配列は、種間で大きく異なり、保存されていない。たとえば、哺乳類であるヒトとマウスでは蛋白質をコードしている遺伝子配列では80%以上相同であるのに対し、プロモーター領域の塩基配列は相同性のある部分で比較しても40%程度である。また、その配列の長さも一定ではなく、一般には近縁と思われる哺乳類内においても相同性は認められない。また、相同性が無いことから、ゲノムの塩基配列が正確に明らかになったとしても、遺伝子発現を調節する領域を予測することは困難である。9.TATA-box binding protein (TBP) TBP遺伝子は、TATA-box binding proteinと呼ばれている遺伝子であり、これまで遺伝子発現調節領域にあるTATA-boxと呼ばれる通常TATAAという塩基配列に結合するDNA結合蛋白質である。TBPはTFIID複合体の一部を形成する蛋白質であり、TFIID複合体中のTBPがTATA-boxに結合することで、転写が開始されることが知られている。参考までに、TBP遺伝子についての概要を非特許論文5に示す。10.Proteasome subunit C3 (PSMC3) PSMC3遺伝子はユビキチン化された蛋白質の分解に関わるプロテアソーム26Sサブユニットの中の19S調節サブユニットを形成する蛋白質の一つである。PSMC3遺伝子をknock outしたhomozygoteは個体発生ができないことから、PSMC3は細胞の生存に必須であることが示唆される。参考までに、PSMC3遺伝子についての概要を非特許論文6に示す。The functions of animal microRNA, V. Ambros, Naure 431:350-355 (2004)転写研究集中マスター半田宏他編、羊土社、2005年(ISBN 4-89706-939-4)Internal ribosome entry site biology and its use in expression vectors, E. Martinez-Salas, Current Opinion in Biotechnology 10:458-464 (1999)Bidirectionalization of polar promoters in plants, M. Xie, Y. He and S Gen, Nature Biotechnology 19:677-679 (2001)OMIM (NCBI, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) #600075OMIM (NCBI, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) #186852 本発明は双方向性プロモーター、特に双方向の遺伝子の発現レベルが比較的近く、しかも両者の発現レベルが十分に高い双方向性プロモーターを提供することを目的とする。 上記の課題を解決するために、本発明者らは培養細胞、個体において両方向性に遺伝子・蛋白質を発現させることのできる転写調節活性を持つ塩基配列をメダカゲノムより見出した。当該塩基配列は、邦産小型魚類メダカにおいてTBP(TATA-box Binding Protein)とPSMC3(ProteaSoMe subunit C3)遺伝子の間に存在する。すでに述べたようにTBPとPSMC3遺伝子はともに生存に必須なハウスキーピング遺伝子であることから進化上よく保存されており、線虫からヒトに至るまで存在する。また、ゲノム上のTBP遺伝子の近傍に位置する遺伝子群は関連のある位置関係(シンテニック遺伝子群と呼ばれる)にある。少なくとも、魚類においてTBPとPSMC3遺伝子のゲノム上の位置関係、および近傍にある遺伝子の配置も保存されている。また、両生類以上の生物種においては、PSMC3の代わりに同じプロテアソーム複合体を構成する別の遺伝子PSMB1が反転されて配置しており(図6)、進化の過程で、ゲノムのダイナミックな再編が起こったことが示唆される。 本発明者は、メダカ以外にもTBPの上流側にある隣接する遺伝子との間のゲノム領域は、動物の種類を問わず双方向性プロモーターとして機能し得ることを見出した。TBPとPSMC3/PSMB1遺伝子間領域以外にも、同様の遺伝子配置、すなわちhead-to-headの関係にあり(図2)、かつ該領域内の塩基対が所定の数よりも小さい2つの遺伝子間の領域はいずれも双方向性プロモーターとして機能し得ることを見出した。 本発明は、以下のDNA断片等に関する。1. 動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA断片。2. TBP遺伝子とPSMB1/PSMC3遺伝子に挟まれた領域又はその一部を有する項1に記載のDNA断片。3. 動物細胞ゲノム上で隣接する2つの遺伝子をhead-to-headで連結する領域又はその一部を有し、隣接する2つの遺伝子間の配列の長さが約1.5 kbp以下である、項1に記載のDNA断片。4. 以下の(a)または(b)のDNAを含む項1に記載のDNA断片:(a)配列番号1〜5の塩基配列からなるDNA又はその相補鎖;(b)(a)の塩基配列において1もしくは複数の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加された塩基配列からなり、かつ動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA。(c) (a)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNA。5. 項1〜4のいずれかに記載のDNA断片の両側に逆方向で二種の異なる遺伝子を連結した2遺伝子同時発現ベクター。6. 項5に記載のベクターを宿主に導入することにより形質転換された細胞。7. 項6に記載の形質転換細胞を培養することを特徴とする、1つの細胞内で二種の異なる遺伝子を同時に発現させる方法。8. 動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA断片の調製方法であって、動物細胞内で隣接する2つの遺伝子をhead-to-headで連結する領域であって、約1.5 kbp以下の領域を探索し、該領域の全部又は一部の塩基配列を有するDNA断片を調製することを特徴とする、方法。9. 前記領域が、TBP遺伝子の上流領域である、項8に記載の方法。10. 探索される前記領域が約1.5 kbp以下である、項8または9に記載の方法。 本発明の双方向性プロモーターは、1つのプロモーターで両側にある遺伝子を同等に近い比率で、かつ、ウィルス由来プロモーター/エンハンサーと匹敵する程度の高効率で発現することが可能である。この点で、前に位置する遺伝子に比べて後ろに位置する遺伝子の発現量が少ないIRESを使用するよりも優れている。 本発明で見出された双方向性プロモーターは、各生物種に存在しており、種々の双方向性プロモータを使用することで、発現効率や双方向の発現比率が異なるプロモーターを状況によって使い分けることが可能になる。 TBP遺伝子からTBPの上流側に位置する遺伝子(両生類以上ではPSMB1,魚類はPSMC3)までの距離は、現在ゲノムデータのある生物種において第一メチオニン間の距離(双方向性プロモーターとして2つの遺伝子間の最も長い配列)は約600bpから約1.5 kbpである。実際には5’非翻訳領域を含むのでプロモーター領域としてはもっと短くなる。これが意味するところは、TBP遺伝子の発現を調節するプロモーター領域はプラスミドベクターを容易に構築しうるコンパクトなサイズであるということである。また、TBP遺伝子の上流域に位置する遺伝子はTBPと背中合わせで逆向き(head-to-head)に配置されている。以上のことから、これらの生物種のゲノム上において隣接する2つの遺伝子TBPとPSMC3/PSMB1のように、head-to-headで、かつ近距離で配置されている場合、これらの遺伝子は共通のプロモーターでもってそれぞれの遺伝子発現が調節されている、すなわち双方向性プロモーターであると考えられる。このように、近距離でhead-to-headに配置された遺伝子の間にあり、両方向性に作用するプロモーターのことを本明細書では、“双方向性プロモーター”と呼ぶことにする。双方向性プロモーターはTBPとPSMC3/PSMB1間の領域に限定されるものではない。図2に示したように、ゲノム上の2つの隣り合う遺伝子の配置は4つのパターンがあるため、計算上4分の1は双方向性プロモーターの可能性があるが、通常2つのhead-to-headに隣接する遺伝子の距離は遠く離れていて、それぞれに独立したプロモーターが存在する。そこで、実際にヒトゲノムより双方向性プロモーターを抽出した。方法は以下のとおりである。ヒトゲノムデータベース(Homo Sapiens, Build36.1、NCBI)より全ゲノム配列を取得し、染色体上にマッピングされた各遺伝子の向き、遺伝子間距離を解析した。一般に、哺乳類などの真核生物でプロモーターとして十分強い転写活性を有するには、200-500bp程度の長さが必要であると考えられるが、その塩基配列長に関してはどれだけの長さがあれば十分かということは定かではない。塩基数が200未満であっても、表2で具体的に示しているように、実際に発現する遺伝子が配置している以上、その間にはプロモーターが存在しなければならない。ヒトゲノムデータベースにおける遺伝子の大きさは実際に存在する転写産物の最大値(転写調節領域としては最小値)で測っているが、複数のバリアントを含む遺伝子の場合、実際の開始点は下流(3’)になることが考えられるため、短い配列のものは除外しなかった。一方、head-to-head遺伝子間距離が長すぎると、2つのプロモーターが機能している可能性があるが、全体の平均値(127 kbp)からすると、極端に短い配列で隣り合う(平均357 bp)ことから、cut-offラインはTBPとPSMB1/PSMC3双方向性プロモーターのうち最も長いマウス(1589 bp)に準拠し1.5 kbpとした。これより長い配列でも双方向性プロモーターは存在する可能性は高いが、複数のプロモーターの可能性も考慮しヒトゲノムにおいては1.5 kbp以上のものは表2では除外した。また、上記の検索で得られたhead-to-headで配置する遺伝子セットのうち、遺伝子モデルとして登録されているもの、蛋白質をコードしない小さなRNA、あるいは偽遺伝子として登録されているものなど、実際に転写されない遺伝子が配置しているものに関してはすべて除外した。 以下、ヒトゲノムにおける双方向性プロモーターの集計結果を以下の表1に、得られた440個の各遺伝子セットおよび遺伝子間距離等の個別データを表2に示す。 表1中の説明を以下に示す。ヒトゲノムChr.=ヒト染色体番号および性染色体(X,Y), TGN=登録されている遺伝子総数、NHHGS=head-to-head配置遺伝子数、%HT=head-to-head配置遺伝子の遺伝子総数に対する割合、Dhhave=隣接するhead-to-head遺伝子間距離の平均値、NBGS=head-to-head配置遺伝子間距離が1.5kbp以下の遺伝子数、%ST=遺伝子間距離1.5kbp以内の遺伝子の全遺伝子に対する割合、%SH=遺伝子間距離1.5kbp以内の遺伝子のhead-to-head配置遺伝子のhead-to-head配置遺伝子に対する割合、Dsave=遺伝子間距離1.5kbp以下のhead-to-head遺伝子の遺伝子間距離の平均値。head-to-headに配置している遺伝子は全ゲノム上に6523個(21.7%)存在し、各遺伝子間の距離を計算したところ、約127 kbp離れていた。そのうち、1.5kbp以下のものは440個存在した。この440個の遺伝子の隣接する遺伝子間距離は平均約357 bpであった。双方向性プロモーターは全遺伝子数の1.4%、head-to-head遺伝子の6.3%であることから、上記440個の遺伝子は極端に近距離で配置された極めて特殊な構造を持っていることがわかる。 表2中の説明を、以下に示す。No.=双方向性プロモーターの番号、D=ゲノムの+鎖と−鎖のどちらにコードされているか、distance=隣接するhead-to-head遺伝子間の距離、Start/Stop=各染色体上における該遺伝子の塩基配列の開始・停止番号、symbol=各遺伝子の省略名、accession#=各遺伝子のアクセッション番号(GenBank)、location=ゲノム上の位置、description=各遺伝子の名称。 表2の440個の遺伝子間塩基配列において、双方向性プロモーターとして特に有用であるのは、以下の番号のものである:同じ機能を持つファミリー遺伝子が双方向にあるものでかつ必須なものとして26番、43番、128番〜136番(ヒストン)、発現量が多い蛋白質として66番、288番、433番(タイプIVコラーゲン)、熱ストレスに応答する蛋白質として58番、140番(シャペロニン)などを挙げることができる。 TBPとPSMC3/PSMB1転写調節領域のような双方向性プロモーターの両端に異なる2つの遺伝子をそれぞれ背中合わせに構成したプラスミドベクターを構築することで、動物の個体内であるいは培養細胞において、1つのプロモーターにより2つの異なる遺伝子産物を同一の細胞内で同時に発現させることが可能になる。人工的に2つの単独に作用するプロモーターを背中合わせに配置して作成した双方向性プロモーターと本発明による双方向性プロモーターが根本的に異なる点は、双方向性プロモーターは本来生物のゲノム上に実在し、実際に発現しているものであるため、2つの遺伝子の翻訳開始コドン(第一メチオニン)以下の塩基配列を任意の遺伝子に置換することによって、必ず双方向性に転写活性を有するということが保証されているという点にある。さらに、本発明でもたらされる2つの遺伝子発現は、シミアンウィルスのSV40プロモーターに比べてpTBP側で約68%、pPSMC3側で約108%という十分に強い転写活性を有する。しかも、細胞に導入された発現ユニットは単一のプラスミドベクターによって供与されるため、同じ細胞で発現することが保証されるという特徴を持つ。 本発明における双方向性プロモーターの双方向の転写活性の強さは、転写活性の強い方を100として弱い方は30以上、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは60以上、特に約63以上である。また、シミアンウィルスのSV40プロモーターの転写活性を100とした場合、双方向性プロモーターの転写活性はいずれの方向についても30以上が好ましく、より好ましくは50以上、特に65以上である。 1つの好ましい実施形態において、本発明のDNA断片は、SV40プロモーターの転写活性に近い(SV40プロモーターを基準として30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に約63%以上)転写活性を双方向共に有し、かつ、双方向の転写活性の強さの比が1〜5、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2である。 双方向性プロモーターの例として、ヒト、マウス、フグ、ミドリフグ、メダカのTBP遺伝子とPSMC3(魚類)/PSMB1(哺乳類、鳥類、は虫類、両生類)遺伝子に挟まれる領域(双方向性プロモーター)の塩基配列を配列番号1〜5に示す。 本発明の1つの実施形態において、本発明の双方向性プロモーターは、配列番号1〜5記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1もしくは複数のDNAが欠失、置換、挿入もしくは付加された塩基配列からなり、かつ、動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNAである。本発明の双方向性プロモーターには、配列番号1〜5記載の塩基配列の3’または5’末端あるいは内部に、翻訳効率を上げる塩基配列などを一方向又は双方向に付加したものや、3’または5’末端をプロモーター活性が有る限り、欠失したものが含まれる。 本発明のもう1つの実施形態において、本発明の双方向性プロモーターは、配列番号1〜5記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし得る塩基配列からなり、かつ、動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNAである。 ここでいう「ストリンジェント条件」とは、特定の双方向性プロモーター(例えば配列番号1〜5のプロモーターや、表2に記載のプロモーター)とハイブリットを形成し、双方向性プロモーター活性を有しないDNAと非特異的ハイブリットを形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。 本発明の「ベクター」は、双方向性プロモーターとその両側に遺伝子を導入したものであり、ベクターとしては、例えば大腸菌由来のベクター、本発明の「ベクター」は、上記プロモーターをクローニングベクターあるいはプロモーターを欠損したレポーターベクターに導入したものであり、例えば大腸菌由来の一般的なクローニングベクターとしてpBluescriptII (Stratagene社), レポーターとしてルシフェラーゼを持つpGL3 Basic (Promega社)、レポーターとして蛍光蛋白質を持つpEGFPベクター(Clontech社)などが挙げられる。 ベクターはそれぞれの動物の宿主細胞に応じて選択する。本発明の双方向性プロモーターをベクターに導入する方法は、通常の遺伝子をベクターに導入する方法に従う。 ベクターを導入する宿主としては、動物細胞である限り特に限定されず、魚類(メダカ、ゼブラフィッシュなど)、両生類(アフリカツメガエルなど)、は虫類(ヘビ、トカゲなど)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ウズラなど)、哺乳類(ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、ヤギ、イヌ、ネコ、サル、マウス、ラットなど)の宿主が広く例示される。一つの動物由来の双方向性プロモーターは他種の動物でも機能する可能はあるが、同種の動物に由来する双方向性プロモーター配列を使用すると、発現効率がより高くなることが期待されるので好ましい。例えば、配列番号2で示されるヒト由来の双方向性プロモーターはヒト、マウス、ラット、ニワトリなど、ヒトと同じ遺伝子配置(TBPとPSMB1)である宿主で発現させるのが、双方向における発現効率をいずれも高く維持できるために好ましい。一方、魚類では、配列番号1で示されるメダカ由来の双方向性プロモーターはメダカ、フグ、ミドリフグなど、メダカと同じ遺伝子配置(TBPとPSMC3)を持つ宿主で発現させるのが好ましい。 本発明のベクターを宿主細胞に導入する形質転換法としては、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、リポソームを用いる方法あるいはパーティクルガン法などを挙げることができる。また、トランスジェニック動物の作成には、ガラス電極を用いた受精卵への注入法を挙げることができる。 本発明のプロモーターに必要なエレメントを決定し、必須のエレメント以外の部分を改変したプロモーターを作製することができる。 本発明の双方向性プロモーター上にあるエレメント部位を決定する方法としては、例えばJoseph Sambrook,David W. Russell Molecular Cloning 第3版のChapter13に書かれているデリーション法やPCRを用いて長さを調節したプロモーターを作製し、動物細胞に形質転換後、目的の条件でのプロモーター活性を二種のレポーター遺伝子を用いて各々調査する方法がある。さらに詳細にエレメント配列を決定する場合は、Joseph Sambrook,David W. Russell Molecular Cloning 第3版のChapter13に書かれているようにプロモーター上にDNA変異を導入して、またはPCR法を利用した変異の導入により、上記と同様に、動物細胞等に形質転換後、プロモーター活性を双方向共に調査し、もっとも重要なエレメント配列を決定する方法が挙げられる。 本発明の双方向性プロモーターの改変は、プロモーターのエレメントをタンデムに接続するなどの種々の方法により活性が変化したプロモーターを得ることができる。 本発明のプロモ−ターに接続することが好ましい遺伝子としては、レポーター遺伝子、例えば蛍光タンパク質(緑色蛍光蛋白質(GFP)、黄色蛍光蛋白質(YFP)、青色蛍光蛋白質(BFP)、赤色蛍光蛋白質(RFP)など)、エクオリン、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ 、β−グルクロニダーゼ、β−ラクタマーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ノパリンシンターゼ、オクタピンシンターゼなどが挙げられるが、肉眼的な観察が容易である点で蛍光蛋白質、ルシフェラーゼが好ましい。 本発明の双方向性プロモーターは異なる二種の遺伝子を比較的近い発現効率で発現することが可能であるので、関連する二種の遺伝子を双方性プロモーターに連結することにより同時に発現させることが可能である。このような二種の遺伝子の組み合わせを以下に例示する:たとえばレポーター遺伝子としてイメージングのための蛍光蛋白質と発現蛋白質の定量のためのルシエフェラーゼ遺伝子の組み合わせが挙げられる。また、たとえば、異なる2つの蛋白質にそれぞれ異なる励起特性を持つ蛍光蛋白質を融合させたものを発現させる場合には、双方向性プロモーターを用いて同程度の発現をさせることが望ましい。これによって、分子間蛍光共鳴エネルギー転移法FRETにより同一細胞内で共発現した蛋白質の相互作用を調べることが可能になる。また、たとえば特定の細胞を可視化した上で、その細胞を任意のタイミングでもって殺す目的において、任意の遺伝子とkillerRed蛍光蛋白質遺伝子(Evorogen社)の組み合わせなどを挙げることができる。KillerRedは単に発現している状態では細胞の生存に影響がないが、540-580nmの可視光照射により励起することで選択的にkillerRedを発現している細胞を殺すことができる。したがって、双方向性プロモーターにより、生理活性機能を有する蛋白質とkillerRedを共発現させておき、その後任意のタイミングでもって緑色光を照射することによって照射した細胞だけを選択的に殺すことが可能になる。 以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。1. TBP遺伝子の塩基配列・アミノ酸配列の取得および種間比較 メダカゲノム配列は、whole genome shotgunによって得られたドラフトデータベース(Assemble 2004/06, 遺伝学研究所:http://dolphin.lab.nig.ac.jp/medaka/)を用いた。その他の種に関しては、NCBI(米国)およびEnsembl(欧州)ゲノムデータベースおよび遺伝子配列データベースを用いた。まず、すでにcDNAが報告されているヒト・マウスの配列を上記データベースより取得した。これらを遺伝子解析ソフトウェアGENETYX(株式会社ゼネティックス、ver.8)を用いてマルチアライメントにより比較した。さらに、あるいはゲノム上で遺伝子をコードしていると予測される配列を塩基配列問い合わせに対してBLASTプログラム、アミノ酸配列問い合わせに対してTBLASTNプログラムを用いて上記メダカゲノムデータベースを検索した。メダカ以外の種のTBP遺伝子に関してはcDNAとして報告されていない物に関してはメダカ同様in silicoによる予測データをNCBI, Ensemblゲノムデータベースより、報告されている物に関しては遺伝子データベース(GenBank, EMBL)より取得した。これらの配列のうち、ゲノムデータの不完全性のため蛋白質をコードする領域であっても全長の予測が出来ない種に関しては予測できる範囲での部分配列を比較に用いた。得られた塩基配列より予測されたアミノ酸配列を遺伝子解析ソフトウェアGENETYX(株式会社ゼネティックス、ver.8)を用いてマルチアライメントにより比較した。その結果を図4(各々配列番号6〜14)に示す。Hs=ヒト、Rn=ラット、Mm=マウス、Gg=ニワトリ、Xl=アフリカツメガエル、Dr=ゼブラフィッシュ、Fr=フグ、Tn=ミドリフグ、Ol=メダカを示している。四角で囲われた部分はすべての種に共通のアミノ酸配列を示している。TBPは各種において遺伝子産物の長さは異なるが、それはポリグルタミン(Q)の挿入配列(ヒトでは64-127番目のアミノ酸に相当する部位)によるためである。この部位以外のアミノ酸配列は高度に保存されていることが分かる。また、メダカを含む各種においてゲノム中に該遺伝子より他に類似性の高い遺伝子が見つからないことから、該遺伝子はそれぞれの種におけるヒトTBP相同遺伝子であると考えられる。2. PSMC3遺伝子の塩基配列・アミノ酸配列の取得および種間比較 TBPと同様にproteasome subunit C3(PSMC3)遺伝子についてもin silicoクローニング法によって相同遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列を取得し、アミノ酸配列を種間で比較した。その結果を図5(各々配列番号15〜22)に示す。Hs=ヒト、Rn=ラット、Mm=マウス、Gg=ニワトリ、Dr=ゼブラフィッシュ、Fr=フグ、Tn=ミドリフグ、Ol=メダカをそれぞれ示しているが、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、フグはcDNAの情報の不完全性により、ゲノムから蛋白質をコードすると予測される部分のみを用いている。四角で囲われた部分はすべての種に共通のアミノ酸配列を示している。この結果から分かるように、脊椎動物でこれらの遺伝子はよく保存されており、メダカ該遺伝子はPSMC3相同遺伝子であると考えられる。なお、PSMC3はウィルス由来の蛋白質TATに結合するということで発見された経緯があり、一部の報告ではTAT-binding protein1 (TBP1)と呼ばれている。本発明においては、無用の混乱を避けるため、また、同じ名前のTBP遺伝子(=TATA-box binding protein)と区別するために、PSMC3と呼ぶことにする。3. メダカTBP遺伝子ならびにTBP遺伝子近傍の遺伝子群のゲノム上におけるマッピングおよび種間比較 上記1,2によって得られた塩基配列をもとにそれぞれの種のゲノム上における配置、および近傍遺伝子の配置を明らかにするために、ゲノム塩基配列に対して、TBP遺伝子のエクソン/イントロンマッピングを行い、さらに近傍に存在する遺伝子をin silicoでウォーキングすることによって検索し、解析を行った。その結果を図6に示す。Hs=ヒト、Rn=ラット、Mm=マウス、Gg=ニワトリ、Xt=アフリカツメガエル、Dr=ゼブラフィッシュ、Fr=フグ、Tn=ミドリフグ、Ol=メダカをそれぞれ示している。青矢印はTBP遺伝子、緑矢印はPSMC3遺伝子、赤矢印はPSMB1遺伝子、その他は黒矢印で示している。矢印の向きは遺伝子の向き(右方向はゲノムの+鎖、左方向は−鎖上にマッピングされている)ことを示している。2つの遺伝子(矢印)がボックスでつながっているものはそれらの遺伝子が背中合わせに配置している(head-to-head)であることを意味している。Chr.=染色体番号、染色体番号にリンクしていない種についてはScf.=ゲノムデータベースのスキャフォールド番号を示している。Box2(オレンジ色)は魚類においてTBP遺伝子と隣接する上流遺伝子PSMC3の位置関係がhead-to-head配置で保存されていることを示している。魚類ではTBPの下流も上流もより広範囲に渡ってシンテニーが認められた。ところが、両生類〜哺乳類では、魚類と異なり、PSMC3はTBPとは別の染色体上に離れて存在し、PSMB1というPSMC3と同じプロテアソームを構成する蛋白質をコードする遺伝子がやはりhead-to-head配置している(BOX2、緑色)。ただし、魚類でもゼブラフィッシュのゲノムは特殊で、TBPの上流には哺乳類〜鳥類で見られるようなPSMB1、PSMC3は存在しなかった。脊椎動物におけるPDCD2-TBP-PSMB1という遺伝子セットのシンテニーについてはすでに報告があるが、それはゲノムDNAの比較のみであり、実際に2つの遺伝子間の転写調節領域を用いた双方向性の同時遺伝子発現は行なっていない。なぜなら、Truchtulecらは、TBP遺伝子に対するPSMC3遺伝子の方向を間違えているため、本発明と機能的に相同である塩基配列を双方向性プロモーターであると認識していないからである(非特許文献7)。Comparative analysis of the PDCD2-TBP-PSMB1 region in vertebrates, Z. Trachtulec, C. Vlcek, O. Mihola and J. Forejt, Gene 335: 151-157 (2004)4. 魚類TBP/PSMC3遺伝子に挟まれたゲノム塩基配列の決定以上の解析から得られた、メダカ、ヒト、マウス、フグ、ミドリフグのTBP/PSMC3遺伝子間の塩基配列(配列番号1〜5)を図7に示す。該配列間は蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列が類似性を示すのに対して(図4、図5)、類似性はまったく認められない。図中で表示している配列は、3’方向にTBP遺伝子を転写する向きで統一し、(遺伝子名→)は矢印方向に転写される遺伝子を示している。該塩基配列は相補鎖の+鎖を表示している。そして、該塩基配列は、TBP遺伝子、PSMC3遺伝子それぞれの上流に位置するため、この中にどちらの方向に対してもプロモーターを含まなければならない必要かつ十分な配列である。5. TBP/PSMC3転写調節領域内の転写調節因子結合部位比較ゲノム解析によって、メダカ、フグ、ミドリフグではTBP/PSMC3遺伝子の関係にシンテニーが認められた。また、メダカでは719 bp、フグは708 bp、ミドリフグは628 bpの転写調節領域を持つことが分かった。そこで、該塩基配列に対して、転写調節因子結合配列予測プログラムGENOMATIX(Genomatix Software GmbH)を用いて予想される転写調節因子の解析を行った。メダカ、フグ、ミドリフグ3種に共通する主な転写調節因子の結合部位を比較した結果を図8に示す。すべてに共通するものはETS以外認められなかった。転写調節因子の結合部位は+鎖、−鎖があるので、それを一つの図にまとめると複雑で分かりにくくなるため、上段にはTBPに対する+鎖を、下段ではPSMC3に対する+鎖で比較した。点線はこれらの上段の配列と下段の配列は同一配列の表と裏に相当することを意味している。転写調節因子の結合は向きに依存しないといわれているため、それぞれを足し合わせたものが各種においてTBP/PSMC3遺伝子の転写に関わる転写調節因子の結合部位ということになる。フグ・ミドリフグではTBP側に基本転写要素のひとつTATAボックスが認められたが、メダカのTBP、およびすべての種のPSMC3側には明示的なTATAボックスは認められなかった。また、CAAG-boxもすべての種、および方向について明示的には存在しなかった。現在では、このようなプロモーター(TATA-lessプロモーターと呼ばれる)は多数存在すると考えられており、実際、シミアンウィルスSV40のプロモーターにはTATA boxは存在しないが、強い遺伝子発現誘導活性があることが知られている。 主な転写調節因子中で、ETSファミリーの結合部位がTBP遺伝子から最も離れた(PSMC3遺伝子に最も近い)場所にタンデムに3つ存在することは注目に値するものであった。というのは、ヒトのTBP遺伝子のプロモーター解析によって、ETS結合部位はプロモーター活性に必須であることがすでに指摘されているからである(非特許文献8)。Analysis of the human TATA binding protein promoter and identification of an ETS sitecritical for activity, Nucleic Acid Research 25:2485-2494 (1997) しかし、ヒトTBP遺伝子の上流には存在するETS結合配列はTBP遺伝子の近傍であるという点でメダカとは違いが認められた。ちなみに、ヒトTBP遺伝子のプロモーターの研究はいくつかあるが、TBPプロモーターが双方向性に作用することは知られていない。6. TBP/PSMC3転写調節領域をプロモーターとして用いた発現ベクターの構築 TBP/PSMC3転写調節領域が本当にプロモーターとして転写活性を有するか、また、同時に双方向性に2つの遺伝子を発現させることが可能であるか、またその発現強度を明らかにするために、まず緑色および赤色蛍光蛋白質をコードする遺伝子をレポーターとして用いた発現ベクターを構築し、以下の実験を行った。 まず、TBP/PSMC3転写調節領域719bpの配列(以下、pTBP/pPSMC3と呼ぶ)の両端に制限酵素部位kpnI, NcoIを作成するために、次のプライマーセットを用いてPCR(GeneAmp9700, Applied Biosystems社)を行った。 Primer #pTBP1U(配列番号23): 5’-GAGCTCCTTTGCTCTGTCTGACTGCG-3’ Primer #pTBP2U(配列番号24): 5’-GAGCTCAAGGAGCCAAGCATTTTCTTCC-3’ Primer #pTBP3U(配列番号25): 5’-GAGCTCAGGCCACACAATGAGGTTCA-3’ Primer #pTBP4U(配列番号26): 5’-GAGCTCTGTTTCTTTTATGTTCGCGCT-3’ Primer #pTBP5U(配列番号27): 5’-GAGCTCCGTTCTGGACTCAGCATTGT-3’ Primer #pTBP6U(配列番号28): 5’-GAGCTCCACCTGCTGCGAAAGTGGAT-3’ Primer #pTBPL(配列番号29): 5’-AAGCTTGTTTGTGCTTCTCCCGTTC-3’ Primer #pPSMC3U(配列番号30): 5’-GAGCTCGTTTTGTGCTTCTCCCGTTC-3’ Primer #pPSMC3L(配列番号31): 5’-CCATGGCTTTGCTCTGTCTGATCGCG-3’欠損プロモーターも含めてTBP側において6種類の上流プライマー(pTBP1U〜pTBP6U)には後に述べるようにサブクローニングするためにSacI部位を付加した。さらに、下流のプライマー(pTBPL)にはHindIII部位を付加した。PSMC3側では、上流プライマー(pPSMC3U)にはSacIを、下流プライマー(pPSMC3L)にはNcoIを付加した。上記配列中で、付加した制限酵素部位を下線で示している。 メダカゲノムDNA はHd-rR近交系統(メダカゲノムプロジェクトでゲノムデータベースを作成するために用いられたものと同一の系統)より精製した(DNeasy tissue kit, QIAGEN社)を鋳型として用いて、以下のPCR反応を行なった。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離し、エチジウムブロマイドによって核酸染色を行い、UVトランスイルミネーター下でバンドを確認したのち、当該バンドを切り抜いた。ゲル中よりDNA断片を精製し(Mini Elute kit、QIAGEN社)、TE(10 mM Tris/1 mM EDTA, pH8.0)溶液中に10 μlに抽出した。次に、DNA ligase(Ligation High, 東洋紡)を用いて精製したPCR産物をT-vector (pGEM-T-easy, Promega社)にクローニングした。構築されたプラスミドDNAをDH5αコンピテント細胞に熱ショック法を用いて形質転換を行い、LB/アンピシリンプレート上に撒種し、組換えを起したプラスミドベクターを持つコロニーを得た。colony-PCR法により目的の配列を含むことを確認した。LB/ampicilin溶液で37℃、16時間培養し、得られた菌体液から目的のプラスミドベクターを精製した(QIAprep mini kit, QIAGEN社)。T-vectorに挿入されたインサートが目的のものであることを確認するために、T-vectorのマルチクローニングサイト内の配列をプライマーとしてDNAシーケンシング(3130, Applied Biosystems社)を行った。 このインサートの両端には制限酵素SacI/HindIII部位を付加してあるため、1 μgのプラスミドベクターを制限酵素によってそれぞれ切断し、上記と同じく、Mini-eluteキットを用いて粘着末端を持つDNA断片を精製し、TEに抽出した。同様に、pGL3 Basic vector(Promega社)をマルチクローニングサイト内のSacI/HindIIIで切断し、約3kbpの粘着末端を持つvector backboneを同様にアガロースゲル電気泳動を用いて分離・精製し、抽出した。このDNA断片をDNA ligase(Ligation High, 東洋紡)を用いて直鎖化したpGL3 basic vectorに一方向性にサブクローニングした。以下、作成したルシフェラーゼ発現ベクターをpTBP1:Lucと呼ぶ。さらにpGL3 Basic vectorのホタルルシフェラーゼ遺伝子を緑色蛍光蛋白質EGFP遺伝子(in vitrogen社)にNcoI/XbaIサイトを用いて置換したベクターを作成した。以下、これをpEGFP Basic vector(プロモーターを含まない)と呼ぶ。そして、TBP1プロモーターをpEGFP Basic vectorのMCS内のSacI/HindIII部位にサブクローニングした。以下、作成した発現ベクターをpTBP1:GFPと呼ぶ。さらに、ルシフェラーゼをレポーターとして発現するベクターを作成するために、上記プロモーター配列をpGL3 Basic, pEGFP Basic vectorsにサブクローニングした。以下、この発現ベクターをpTBP1:Lucと呼ぶ。 同様にして、pTBP/pPSMC3の5’上流領域を欠損させたプロモーターを上記プライマーを用いてPCRを行い、DNA断片を取得した(それぞれpTBP2〜pTBP6と呼ぶ、図参照のこと)。さらにPSMC3プロモーター、すなわちpTBP1の−鎖の配列を上記プライマー(pPSMC3U/pPSMC3L)を用いてPCR法によって取得し、上記と同様にして、ルシフェラーゼをレポーターとして発現するベクターを作成するために、上記プロモーター配列をpGL3 Basic, pEGFP Basic vectorsにサブクローニングした。 以上により構築されたメダカ細胞・個体用発現ベクター群をpTBP2:Luc, pTBP2:GFP(pTBP3以下同じ)、pPSMC3:Luc, pPSMC3:GFPと表記する。構築したpTBP1〜pTBP6、pPSMC3プロモーターの下流でルシフェラーゼあるいはEGFPタンパク質を発現する発現プラスミドベクターの構成をまとめたものを図9に示す。pTBP1はTBP側を下流に見たときの+鎖の配列で、719bpから成る。同様にpTBP2は5‘上流を削った615bp、pTBP3は270bp、pTBP4は217bp、pTBP5は129bp、pTBP6は21bpから成る。また、PSMC3を下流に見たときの配列すなわち、pTBP1の−鎖である719bpをpPSMC3とする。またpTBP1あるいはpPSMC3の両端にそれぞれ遺伝子を配置した場合、配列そのものはpTBP1あるいはpPSMC3と同一であるが区別するためにpTBP/pPSMC3とする。矢印は転写方向を意味し下流にレポーター遺伝子が配置されていることを示している。5’UTR=5‘非翻訳領域、+1=転写開始点、ATG=翻訳開始点(第一メチオニン)。7. EGFPレポーターアッセイ pTBP1〜pTBP6, pPSMC3の遺伝子発現誘導活性を調べるために、pTBP1:GFP〜pTBP6:GFP, pPSMC3:GFPをメダカ尾鰭由来線維芽細胞株OL32細胞(東京大学、三谷教授より分与)にトランスフェクションし、蛍光蛋白質の発現を倒立落射蛍光顕微鏡(IX, オリンパス社)、水銀励起光源、NIBA蛍光フィルター、対物レンズ(10X, UPLANAPOリンパス社)を用いて観察し、顕微鏡像をデジタルCCDカメラ(DP70, オリンパス社)を用いて記録した。具体的には、まず、OL32細胞をL15培地(Gibco社, フェノールレッド無)に10% FBS (Gibco社)、室温(25℃)にて25cm2あるいは80cm2培養フラスコ(住友ベークライト、Nunc社)にて培養を行った。増殖したOL32細胞はトリプシン処理によって剥離し、単細胞にしたものを6 well あるいは12 well培養プレート(住友ベークライト社)にそれぞれ2X105細胞、5X104細胞ずつ培養し、翌日上記の発現プラスミドベクターを0.5 μgずつ、Fugene6トランスフェクション試薬(ロッシュ社)を用いて細胞に導入した。遺伝子導入後、12時間ごとに発現する蛍光蛋白質の蛍光シグナルを上記顕微鏡下で観察し、同じ条件下で記録した。ポジティブコントロールとしてpCMV:EGFP(in vitrogen社)、ネガティブコントロールとして、プロモーター配列を挿入されていないpEGFP Basic vectorを用いた。その結果を図10に示す。トランスフェクション後72時間において、pPSMC3およびpTBP1は同程度の発現を示したが、TBP遺伝子から最も離れた場所にあるETS配列を欠失させると発現する蛍光蛋白質は減少した。さらに短くするにつれて発現量は下がっていったが、全く無くなることはなかった。pGL3 Basicはプロモーター配列を挿入していないネガティブコントロールベクターであるので、蛍光蛋白質の発現は認められない。この結果から、pTBPの3’末端側に中核プロモーターが近接して存在することが示唆される。8.ルシフェラーゼレポーターアッセイ 蛍光蛋白質の発現を指標にしたレポーターアッセイでは、pTBP1〜pTBP6, pPSMC3がプロモーター活性を有するかどうかを検証することは可能であるが、それぞれの活性強度を定量することは困難であった。そこで、ホタルルシフェラーゼを用いて転写活性を定量化するレポーターアッセイを行った。具体的には、上記7.と同様にして、24ウェル培養プレートにOL32細胞を培養した。一つの発現ベクターに対して、3ウェルずつ同じ条件で、各2回ずつ実験を行った。培養したOL32細胞に、構築した各プラスミドベクターを0.2 μgずつ、Fugene6を用いてトランスフェクションした。このとき、ウェル間でのトランスフェクション効率の差を校正するために、ウミシイタケ(レニラ)由来ルシフェラーゼ発現ベクターphrRL3(Promega社)を0.05 μgずつ同時にトランスフェクションした(2種類のルシフェラーゼ発現ベクターの合計0.25 μg/ウェル)。トランスフェクション後6時間以内に一度培地を交換した。72時間後において、L15培地を交換して培養細胞を洗浄したのち、100μlのライセートバッファで細胞を溶解した(Dual Luciferase Reporter Assay kit, Promega社)。この培養液をエッペンドルフチューブに回収し、15000rpm, 4℃, 10min の遠心によって不溶成分を沈殿させ、上清を再度新しいチューブに回収した。これらのチューブはルシフェラーゼ活性を測定するまで、-80℃にて保存した。ホタルルシフェラーゼ、レニラルシフェラーゼともにDual Luciferase Reporter Assay kit (Promega社)を用いて、それぞれ20秒間の積算としてルミノメーター(東洋ビーネット)でフォトンカウントを行い、ホタルルシフェラーゼの値をレニラルシフェラーゼの値で割った値を、それぞれのプロモーターを持つプラスミドベクターごとに平均を取った(N=3)。ポジティブコントロールとして、pSV40:Luc (Promega社)、ネガティブコントロールとしてpGL3 Basic(プロモーターを含まない)を用いた。その結果を図11に示す。EGFPレポーターアッセイと同様、TBP側のプロモーターとして最大活性を有するのはもっとも長いPSMC3側に近い配列を含むpTBP1であり、pTBP1, pPSMC3ともに、真核生物において強い活性を有するプロモーターとして知られているシミアンウィルスSV40プロモーターとほぼ同程度の活性を有することが分かった。また、TBP側の転写活性を最大にするためには、TBP遺伝子とはもっとも離れた(PSMC3側にある)ETS転写調節因子結合部位が必要であることが分かった。すなわち、この719bpの配列は2つの独立したプロモーターに区別することはできないことを示唆している。9.培養細胞における双方向性プロモータpTBP/pPSMC3を用いた1プロモーター2遺伝子同時発現 pTBP1とpPSMC3は同一の配列の+鎖と−鎖である。上記で示したように、それぞれの配列がそれぞれの方向に対してプロモータ−活性を有することは分かった。次に、pTBP1/pPSMC3の両端に2つの異なる色の蛍光蛋白質EGFP(緑)とDsRedExpress(赤)を配置した発現プラスミドベクターを構築し、培養細胞OL32細胞に発現させることで、同一の細胞内でpTBP1/pPSMC3プロモーターが同時に2つの遺伝子産物を発現できるかどうかを検証した。 具体的には、pDsRedExpress1 vector (BD biosciences社)のマルチクローニング部位をBamHI, KpnIで制限酵素切断し、直鎖化したvector backboneをアガロースゲル電気泳動により分離・精製し、TEに抽出した。すでに作成済みのpPSMC3:EGFP発現ベクターのプロモーターの上流にあるKpnI部位、およびPolyA付加シグナル(pGL3Basic vectorに由来する)の下流にあるBglII部位において制限酵素切断し、(KpnI)-pPSMC3-EGFP-polyA-(BglII)というDNA断片を精製した。これらをDNA Ligase (Ligation High, 東洋紡)を用いて結合した。BamHIとBglIIは異なる制限酵素であるが、同じ粘着末端を形成するためLigationすることが可能である。得られた発現プラスミドベクターの結合部位はDNAシーケンシングによって正しく構築されていることを確認した。この発現ベクターは以下のように配置されており、pTBP1/pPSMC3プロモーターが双方向に機能すればDsRedExpress←pTBP1/pPSMC3→EGFPはpPSMC3の下流にEGFPを配置しているため、pPSMC3が機能すると緑色の蛍光蛋白質を発現し、pPSMC3の上流には−鎖にDsRedExpress遺伝子を配置しているため、pPSMC3の−鎖すなわちpTBP1が機能すると、赤色の蛍光蛋白質を発現する。また、ネガティブコントロールとして、メダカ細胞あるいは個体で動作することを確認しているアフリカツメガエルEF1α遺伝子のプロモーター/エンハンサー(xEF1α)の下流にEGFP、上流の−鎖にDsRedExpress遺伝子を配置した発現ベクター(DsRedExpress|-pEF1α→EGFP)を同様に構築し、それぞれプラスミドDNAを調製した。これらの発現ベクターを0.5 μgずつOL32細胞に上記と同様にトランスフェクションし、倒立落射蛍光顕微鏡(オリンパス社)下で観察・記録した。2つの波長を区別するために、EGFPの緑色蛍光にはNIBフィルターを、DsRedExpressの赤色蛍光をWIGフィルターを用いた。トランスフェクション後48時間における発現結果を図12に示す。pTBP/pPSMC3プロモーターはpTBPの作用によって赤色蛍光蛋白質を、pPSMC3の作用によって緑色蛍光蛋白質を、同一の細胞で同時に発現した(パネル1,2)。一方、pEF1αは下流の緑色蛍光蛋白質のみを発現し、赤色蛍光蛋白質は発現しなかった(パネル3,4)。pxEF1αは正方向、すなわちEGFPに対しては強いプロモーター活性を有するが、逆方向に対してはまったくプロモーター活性を持たない。一方、pTBP1/pPSMC3は一つの双方向性プロモーターによって、同時に、同程度の強度で遺伝子産物の発現を誘導するプロモーター活性を有することがわかった。一つの細胞に導入された発現ベクターは一種類であるため、同一の細胞でのみEGFPとDsRedExpressのシグナルが検出された。10. 個体における双方向性プロモーターの動作 pTBP1/pPSMC3が双方向性プロモーターとして、培養細胞内で同時に、双方向に転写活性を有することは上記により検証されたが、果たしてin vivoすなわち個体内の細胞においても同様に一つのプロモーターで2つの遺伝子を同時に発現することが可能であろうか?これを検証するために、上記で用いた2つの発現ベクターDsRedExpress←pTBP1/pPSMC3→EGFPおよびDsRedExpress|-pEF1α→EGFPを透明メダカST2系統受精卵に微量注入し、発生する胚において蛍光蛋白質を発現するかどうかを検証した。メダカST2系統は本来メダカの持つ色素(黒色、白色、虹色)を欠損する透明メダカの系統で、個体内の細胞で発現する蛍光蛋白質のシグナルを容易に観察することができる実験用メダカである(名古屋大学・若松教授より分与)。具体的には以下のとおりである。親メダカは循環型水槽(IWAKI pomp社)において27℃、14時間の明期、10時間の暗期によるライトサイクル下で飼育した。性成熟した親メダカST2をペアリングし、産卵したメダカ受精卵を採卵し、氷冷したハンクスBalanced solutionに入れ、発生の進行を一時的に止めた。卵塊を形成する付着糸を実体顕微鏡下でピンセットを用いて丁寧に取り除き、一個一個ばらばらにした。未受精および未成熟卵はこの時点で取り除いた。発現ベクターを30 ng/mlの濃度にK2HPO4(pH8.0)で希釈・調製したものに、マーカーとして0.05%フェノールレッド(Sigma社、cell culture grade)を添加し注入DNA溶液とした。これをガラス電極(Harverd社)にバックフィルし、気泡を取り除いた後、マイクロインジェクター(フェムトジェット、エッペンドルフ社)に接続し、実体顕微鏡下(オリンパス社)で1−2細胞期のメダカ受精卵内の細胞に0-2pl〜0.5 pl注入した。DNA注入の終わった受精卵はembryonic solution (0.03% Red Sea Salt溶液)に移し、28℃でインキュベーションした。発生の進んだ胚において注入した発現プラスミドベクターに由来する蛍光蛋白質のシグナルを蛍光実体顕微鏡下(MZ-FLIII、ライカ社)で観察し、ディジタルCCDカメラ(DP70, オリンパス社)で記録した。2つの波長を区別するために、EGFPの緑色蛍光にはGFP2フィルター(ライカ社)を、DsRedExpressの赤色蛍光をDsRedフィルター(ライカ社)を用いた。その結果を図13に示す。発現ベクター注入後36時間のメダカ個体においても、培養細胞とまったく同様にpTBPの作用によって赤色蛍光蛋白質が、pPSMC3の作用によって緑色蛍光蛋白質の発現が認められた(パネル1,2)。ネガティブコントロールとして用いたpEF1aは下流の緑色蛍光蛋白質しか発現しなかった(パネル3,4)。白矢印はそれぞれ卵黄膜の上で体軸形成期のメダカ胚を示している。この結果から、pTBP/pPSMC3は培養細胞のみならず個体においても、1つのプロモーターで2つのhead-to-headに配置した遺伝子(蛍光蛋白質)を、同時に、同程度の強度で発現することが示された。 以上の実施例に基づき、本発明は各種生物ゲノム上でhead-to-headで配置された隣接する遺伝子間の塩基配列をプロモーターとして用いることにより、一つのプラスミドベクター内に配置された該プロモーターによって、その両端に逆向きに配置された遺伝子産物を、プラスミドベクターが導入された細胞および個体において高効率に発現させることができる新しい方法を提供する。通常プロモーターは本来のゲノム構造に依存した方向(3’方向)においてのみ転写活性を有するが、メダカTBP/PSMC3の間に存在する転写調節領域pTBP1/pPSMC3は、培養細胞のみならずメダカ個体においても双方向性に転写活性を有する双方向性プロモーターであることがはじめて証明された。さらに、本発明は、実施例で示したメダカTBP/PSMC3遺伝子だけが特殊なのではなく、多種生物のゲノム上にも存在する。実際、メダカにおけるTBP/PSMC3遺伝子と同様の遺伝子配置を持った領域はヒトゲノム上に440個存在し、この中にTBP/PSMB1も含まれる。したがって、これらのゲノム領域は哺乳類においてもメダカと同様に双方向性プロモーターとして機能しうると考えられる。真核生物における蛋白質発現の基本的な分子メカニズム真核生物の場合、原核生物と異なり遺伝子はゲノムDNA中に離れて存在する。そしてそれぞれの遺伝子の上流には5‘非翻訳領域(5’UTR)、下流には3’非翻訳領域(3‘UTR)が存在する。転写開始点から翻訳される第一メチオニンまでが5‘非翻訳領域に相当する。3’非翻訳領域はストップコドンから付加されたpolyAまでに相当する。遺伝子のうち、蛋白質をコードする領域をエキソン、その間のゲノムDNA配列はイントロンと呼ばれる。5‘非翻訳領域の直ぐ上流には中核プロモーターと呼ばれる転写に必須なゲノムDNA配列が存在する。そして、その近傍には転写活性を正あるいは負に調節する領域として近位のエンハンサー・サイレンサー(あるいはデハンサーとも呼ばれる)が存在する。中核プロモーターと離れた場所にも遺伝子発現を調節する領域があることが知られている。最近では、5’UTRの上流のみならず、第一イントロンや3’UTRの下流にも存在することが知られている。これらを遠位のエンハンサー・サイレンサーと呼ぶ。中核プロモーターには一般的にはTFIIDと呼ばれる蛋白質複合体が結合することでRNAポリメラーゼIIが転写を開始する。TFIID複合体の中にはTATAボックスと呼ばれる一般にTATAAという塩基配列に結合するDNA結合蛋白質TBPが含まれる。しかし、TBPの結合サイトであるTATAボックスを持たない中核プロモーターが知られるようになり、このようなプロモーターのことをTATA-lessプロモーターと呼ぶ。遺伝子発現すなわち転写の制御は近位・遠位のエンハンサー・サイレンサーによって行なわれるが、その制御は転写調節因子と呼ばれる種々のDNA結合蛋白質、およびそれらの複合体が関与していることが知られている。多細胞生物では異なる臓器・組織に異なる種類の細胞が存在し、それらは同一のゲノムから異なる遺伝子発現をもたらすことができる。すなわち遺伝子発現の違いは細胞の機能を決定するということができる。転写産物であるmessenger RNAは細胞質に輸送され、リボソーム複合体によって翻訳され、蛋白質が発現する。ゲノム上で隣接する2遺伝子の配置ゲノム中には多数の遺伝子が各染色体上にマッピングされているが、隣り合う遺伝子の配置は、+鎖・−鎖のどの向きに配置されているかによって、4つのパターンが存在する。すなわち、(1)+鎖、あるいは(2)−鎖に同方向に(head-to-tail)に並んでいる場合、(3)向かい合って(tail-to-tail)並んでいる場合、(4)背中合わせ(head-to-head)に並んでいる場合、である。IRESはDi-cistronicに一つのプロモーター下で2つの蛋白質を発現できる内部リボソームエントリー部位IRESは種々の生物種から発見されている高次構造を持つRNAを形成する塩基配列で、通常成熟したmRNAの頭部に結合したキャップに依存せず、塩基配列の途中にリボソームが結合することによりその下流を翻訳する。そのため、2つの遺伝子(Gene1とGene2)の間にIRES配列を挿入することにより、長いmRNAが転写され、2つの蛋白質が翻訳される。TBP遺伝子産物(アミノ酸配列)の相同性PSMC3遺伝子産物(アミノ酸配列)の相同性各種脊椎動物ゲノムにおけるTBPを中心とした周辺遺伝子のマッピングと比較TBP/PSMC3遺伝子間のゲノムDNA配列メダカ・フグ・ミドリフグのTBP/PSMC3プロモーター配列内における転写調節因子結合部位の解析メダカTBP/PSMC3間領域およびその欠失プロモーターを用いた発現ベクターの構築EGFPレポーターアッセイルシフェラーゼレポーターアッセイpTBP/pPSMC3は培養細胞において双方向性プロモーターとして作用するpTBP/pPSMC3はメダカ個体において双方向性プロモーターとして作用する動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA断片。TBP遺伝子とPSMB1/PSMC3遺伝子に挟まれた領域又はその一部を有する請求項1に記載のDNA断片。動物細胞ゲノム上で隣接する2つの遺伝子をHead-to-headで連結する領域又はその一部を有し、隣接する2遺伝子間の配列の長さが約1.5 kbp以下である、請求項1に記載のDNA断片。以下の(a)または(b)のDNAを含む請求項1に記載のDNA断片:(a)配列番号1〜5の塩基配列からなるDNA又はその相補鎖;(b)(a)の塩基配列において1もしくは複数の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加された塩基配列からなり、かつ動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA。(c) (a)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNA。請求項1〜4のいずれかに記載のDNA断片の両側に逆方向で二種の異なる遺伝子を連結した2遺伝子同時発現ベクター。請求項5に記載のベクターを宿主に導入することにより形質転換された細胞。請求項6に記載の形質転換細胞を培養することを特徴とする、1つの細胞内で二種の異なる遺伝子を同時に発現させる方法。動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA断片の調製方法であって、動物細胞内で隣接する2つの遺伝子をhead-to-headで連結する領域であって、約1.5 kbp以下の領域を探索し、該領域の全部又は一部の塩基配列を有するDNA断片を調製することを特徴とする、方法。前記領域が、TBP遺伝子の上流領域である、請求項8に記載の方法。探索される前記領域が約1.5kbp以下である、請求項8または9に記載の方法。 【課題】双方向性プロモーター、特に双方向の遺伝子の発現レベルが比較的近く、しかも両者の発現レベルが十分に高い双方向性プロモーターを提供する。【解決手段】動物細胞内で双方向性プロモーターとして作用する能力を有するDNA断片。【選択図】図6配列表