生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ピキア酵母を用いた組換えヒトヘモグロビンの製造
出願番号:2006192673
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,C12P 21/02,C12R 1/84


特許情報キャッシュ

中城 圭介 帆足 洋平 甲斐 俊哉 宇野 公之 小田切 優樹 JP 2008017774 公開特許公報(A) 20080131 2006192673 20060713 ピキア酵母を用いた組換えヒトヘモグロビンの製造 ニプロ株式会社 000135036 高島 一 100080791 中城 圭介 帆足 洋平 甲斐 俊哉 宇野 公之 小田切 優樹 C12N 15/09 20060101AFI20080104BHJP C12P 21/02 20060101ALI20080104BHJP C12R 1/84 20060101ALN20080104BHJP JPC12N15/00 AC12P21/02 CC12P21/02 CC12R1:84 9 OL 17 4B024 4B064 4B024AA01 4B024BA80 4B024CA04 4B024DA12 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA07 4B024GA11 4B064AG01 4B064CA06 4B064CA19 4B064DA01 本発明は、組換えヒトヘモグロビンの製造およびそのための発現ベクターに関する。より詳細には、本発明は、ピキア属酵母を用いたヒトヘモグロビンの製造方法、並びにヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAを含む発現カセットおよびヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAを含む発現カセットをタンデムに含む発現ベクターに関する。 ヘモグロビンは赤血球中に高濃度含まれる蛋白質で、酸素をはじめ様々なガス分子を運搬する機能を有している。構造的には、α鎖及びβ鎖それぞれ2つずつからなるヘテロテトラマーである。 ヘモグロビンを利用した製剤として赤血球代替物が開発されている。これまでにヘモグロビンの修飾体である分子内架橋型、重合型、高分子結合型や、ヘモグロビンをリポソームに封入したヘモグロビン小胞体が考案されてきた。特に、ヘモグロビン小胞体は、その形状、ヘモグロビン純度等の物性データ、安全性、体内滞留性、体内動態、酸素運搬能等の生物学的データより、単回投与での救命救急の酸素輸液として実用化の目途が立っている。 一方で、ヒト血液由来のヘモグロビンを使用した製剤は、未知ウイルスの混入などの恐れがあり、安全面で人体への使用については問題があった。しかし、遺伝子組換え技術を用いて、形質転換した微生物によって、安全なヘモグロビン製剤を提供できる可能性がある。 現在までに、遺伝子組換え型ヘモグロビンの製造については、宿主細胞として大腸菌を用いた系が主であった。しかしながら、この手法では、(1) メチオニンアミノペプチダーゼ等の酵素をヘモグロビンと共発現させるなどしなければ、N末端に余分なファーストメチオニンが付加され、天然型とは一次配列で異なる、(2) ヘム合成の目的で培養液中にアミノレブリン酸を添加しなければならない等の問題があった。 サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いた遺伝子組換え型ヘモグロビンの製造については、これまで2例が報告されている(非特許文献1及び2参照)。この系では、S.セレビシエ自身が有する酵素によりファーストメチオニンが切断されるので、天然型と一次配列が完全に一致し、また、ヘム合成のためにアミノレブリン酸の添加を必要としない。しかしながら、この方法も、収率の面の問題などから十分とはいえず、未だ組換えヒトヘモグロビンの工業的生産には至っていない。 サッカロミセス属以外の工業用酵母の1つとして、ピキア(Pichia)属酵母が知られている。この酵母はメタノールを唯一の炭素源として増殖することが可能であり、メタノール中で生育させると、メタノールおよびその代謝中間体の処理に必要な酵素が脱抑制されて発現する。このメタノール資化経路を利用した異種蛋白質の生産が研究され、既に血液製剤用のアルブミン製造に応用されている(例えば、特許文献1参照)。その発現量は非常に高く、1 Lの培地から10 gオーダーのアルブミンが製造できることが知られている。 しかしながら、目的とする異種蛋白質と宿主細胞との組み合わせ(相性)によって、異種蛋白質の発現効率が低いケースは往々にして存在する。特に、ヘモグロビンのようなヘテロオリゴマー蛋白質の場合は、各サブユニットの発現量のバランスやオリゴマー形成など多くの条件をクリアしなければならず、所望の高発現を得ることは容易ではない。実際、ピキア属酵母がヒト蛋白質の工業的生産に用いられている例はごく限られている。特開平6−22784号公報Wagenbach, M. et al., Bio/Technol., 9: 57-61 (1991)Coghlan, D. et al., Eur. J. Biochem., 207: 931-936 (1992) 本発明の目的は、天然型と同様の十分な機能・活性を有し、且つウイルスの混入などの恐れのない、安全なヒトヘモグロビンやアルブミン、グロブリン等の組換え蛋白質を、容易に大量生産する手段を提供することである。 本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒトヘモグロビンのα鎖およびβ鎖をコードするDNAを含む発現ベクターのような、複数の蛋白質もしくはペプチド鎖をコードするDNAを含む発現ベクターで、ピキア属酵母の1つであるピキア・パストリス(Pichia pastoris)を形質転換し、得られた形質転換体を培地中で培養することにより、ヒトヘモグロビン等の各種蛋白質もしくはペプチド、特にヘテロオリゴマー蛋白質等を、高収量で回収することに成功し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は、(1)ピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にあるヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAを含む発現ベクター、およびピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にあるヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換されたピキア属酵母を培地中で培養し、得られる培養物からヒトヘモグロビンを回収することを含む、機能的な組換えヒトヘモグロビンの製造方法;(2)ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAが同一ベクター上にある、上記(1)記載の方法;(3)ヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAが転写方向の上流側にある、上記(2)記載の方法;(4)ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAが別個のプロモーターの制御下にある、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法;(5)ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAがアルコールオキシダーゼ1プロモーターの制御下にある、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法;(6)形質転換されたピキア属酵母をメタノールを単一の炭素源とする液体培地中で培養する、上記(5)記載の方法;(7)培養が流加培養である、上記(6)記載の方法;(8)ピキア属酵母がピキア・パストリスである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法;および(9)転写方向の上流側から、アルコールオキシダーゼ1プロモーター、ヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNA、ピキア属酵母で機能し得るターミネーター、アルコールオキシダーゼ1プロモーター、ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびピキア属酵母で機能し得るターミネーターの順で含む発現ベクター;を提供する。 本発明はまた、(10)ピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にある複数の蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターの製造方法であって、該複数の蛋白質の1つをコードするDNAとベクターとをライゲーションする際に、ベクターの脱リン酸化処理を行わずにライゲーション反応を行うことを特徴とする方法;(11)(i)ピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にある1以上の蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターであって、該プロモーターおよび該DNAの内部以外で該発現ベクターを1箇所切断し得る制限酵素で消化され、かつそれにより生じた両末端が脱リン酸化されていない発現ベクターを提供し、(ii)ピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にある他の蛋白質をコードするDNAであって、両末端が上記(i)の発現ベクターの末端と相補的であるDNAを提供し、(iii)上記(i)の発現ベクターと上記(ii)のDNAとのライゲーション反応を行うことを特徴とする、上記(10)記載の方法;(12)上記(10)または(11)記載の方法により得られる発現ベクターで形質転換されたピキア属酵母を培地中で培養し、得られる培養物から該複数の蛋白質を回収することを含む、組換え蛋白質の製造方法;(13)該複数の蛋白質が培養物中で重合して、機能的な蛋白質複合体を形成することを特徴とする、上記(12)記載の方法;等も提供する。 本発明の方法により提供されるヒトヘモグロビンは、ピキア属酵母を宿主として遺伝子組換え技術によって製造されたものであるため、血液由来製剤特有の問題である未知ウイルスの混入などの恐れがなく、人体等に安全に使用することができる。また、ピキア属酵母を用いることにより、ヒトヘモグロビンを大量生産することができ、かつ天然型と同様の機能、性質を有していることから、人体等へ投与しても副作用等の影響が少ない。 本発明で用いられるヒトヘモグロビンα鎖(以下、「Hbα」と略記する場合がある)をコードするDNAとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAが、また、ヒトヘモグロビンβ鎖(以下、「Hbβ」と略記する場合がある)をコードするDNAとしては、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAが、それぞれ挙げられる。 配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。 本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。 より好ましくは、配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。 配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質とは、前記の配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、且つ配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質を意味する。 実質的に同質の活性とは、ヒトヘモグロビンの生理活性、例えば、酸素などのガス分子を運搬する活性などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的に同じであることを意味する。したがって、酸素運搬能などの活性は同等(例えば、約0.5〜約2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。 酸素運搬能などの活性(例:自動酸化率定数、酸素親和性、協同性など)の測定は、自体公知の方法、例えば、特表2004-500871に記載の方法などに準じて行なうことができるが、それらに限定されない。 また、本発明で用いられるHbα(またはHbβ)には、例えば、(1)配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号2(または配列番号4)で表されるアミノ酸配列のうち1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、いっそう好ましくは1〜数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質なども含まれる。 上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、蛋白質の活性が保持される限り特に限定されない。 本発明におけるヒトヘモグロビンは、成人ヘモグロビン(HbA1)だけでなく、α鎖とδ鎖が結びついたHbA2やα鎖とγ鎖が結びついた胎児ヘモグロビン(HbF)等をも包含する意味で用いられる。従って、HbA2やHbFの製造においては、β鎖に代えてδ鎖やγ鎖をコードするDNAが用いられる。δ鎖のアミノ酸配列および塩基配列は、例えば、GenBank accession No. NP_000510およびNM_000519に登録されている。一方、γ鎖のアミノ酸配列および塩基配列は、例えば、GenBank accession No. NP_000550およびNM_000559に登録されている。 Hbα(またはHbβ)をコードするDNAとしては、ヒトゲノムDNA、成人のHbα(および/またはHbβ)産生細胞(例えば、赤血球など)由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。Hbα(またはHbβ)をコードするゲノムDNAおよびcDNAは、その産生細胞もしくは組織(例えば、血液など)より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、Hbα(またはHbβ)をコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。 Hbα(またはHbβ)をコードするDNAとしては、例えば、配列番号1(または配列番号3)で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号1(または配列番号3)で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記したHbα(またはHbβ)と実質的に同質の活性(例:酸素運搬能など)を有する蛋白質をコードするDNAなどが挙げられる。 配列番号1(または配列番号3)で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号1(または配列番号3)で表される塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。 本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。 ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。 ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。 Hbα(またはHbβ)をコードするDNAは、Hbα(またはHbβ)をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、Hbα(またはHbβ)の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。 Hbα(またはHbβ)をコードするDNAは、上記のようにヒトのゲノムDNAもしくはRNA(cDNA)より取得することができるが、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法を利用して接続することにより、Hbα(またはHbβ)の全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成もしくはPCR法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該遺伝子を導入する宿主に合わせて使用コドンを遺伝子全長にわたり設計できる点にある。同一のアミノ酸をコードする複数のコドンは均一に使用されるわけではなく、生物種によってその使用頻度が異なる。一般にある生物種において高発現する遺伝子に含まれるコドンは、その生物種において使用頻度の高いコドンを多く含んでおり、逆に発現量の低い遺伝子は使用頻度の低いコドンの存在がボトルネックとなって高発現を妨げている例が少なくない。異種遺伝子の発現に際し、その遺伝子配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに置換することで該異種タンパク質発現量が増大した例はこれまでに多数報告されており、このような使用コドンの改変は異種遺伝子発現量の増大に効果があると期待される。 上記の理由から、Hbα(またはHbβ)をコードするDNAは、それが導入されるピキア属酵母により適したコドン(即ち、該宿主において使用頻度の高いコドン)に改変することができる。各ピキア属酵母のコドン使用頻度は、該宿主のゲノム配列上に存在する全遺伝子における各コドンの使用される割合で定義され、たとえば1000コドンあたりの使用回数で表される。またコドン使用頻度は、その全ゲノム配列の解明されていない生物にあっては代表的な複数遺伝子の配列から近似的に算出することも可能である。組換えようとするピキア属酵母におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(財)かずさDNA研究所のホームページに公開されている遺伝暗号使用頻度データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/index.html)を用いることができ、または各ピキア属酵母におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよく、あるいは使用するピキア属酵母のコドン使用頻度データを自ら決定してもよい。入手したデータと導入しようとする遺伝子配列を参照し、遺伝子配列に用いられているコドンの中で宿主酵母において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに置換すればよい。 化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法を利用して接続することにより、Hbα(またはHbβ)の全長をコードするDNAを構築することの他の利点として、その後の発現ベクターの構築を容易にする点が挙げられる。例えば、後述の実施例においては、制限酵素BamH IおよびBgl II消化により生ずる粘着末端の相補性を利用してHbβの発現カセットとHbαの発現カセットとをタンデムに連結している(図1参照。尚、このような粘着末端の相補性を利用すれば、多コピーの発現カセットを繰り返しタンデムにベクター中に組み込むことができる)。そのため、HbαをコードするDNAおよびHbβをコードするDNAはBamH I認識部位を含まないことが望ましいが、例えば、NCBIデータベースにGenBank accession No. NM_000518として登録されているHbβ cDNAは、347〜352位においてBamH I認識部位(GGATCC)を有する。一方、配列番号3に示される塩基配列では、対応する部分(塩基番号297〜302)の塩基配列はTGACCCであり、BamH I認識部位を含まないように変異が導入されている。また、後述の実施例では、HbαをコードするDNAおよびHbβをコードするDNAを、ピキア属酵母で機能し得るプロモーターとターミネーターとの間に挿入して発現カセットを構築するために、EcoR I認識配列をHbαをコードするDNAおよびHbβをコードするDNAの両端に付加している(図2参照)。そのため、HbαをコードするDNAおよびHbβをコードするDNAはEcoR I認識部位を含まないことが望ましいが、例えば、NCBIデータベースにGenBank accession No. NM_000518として登録されているHbβ cDNAは、414〜419位においてEcoR I認識部位(GAATTC)を有する。一方、配列番号3に示される塩基配列では、対応する部分(塩基番号370〜375)の塩基配列はGAGTTTであり、EcoR I認識部位を含まないように変異が導入されている。このように蛋白質コード配列内の制限酵素認識部位を改変する場合、コドンの縮重を利用してHbα(またはHbβ)のアミノ酸配列を変化させないように塩基を置換することが望ましい。 上記のようにしてクローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。 Hbα(またはHbβ)をコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、上記のようにしてクローン化したHbα(またはHbβ)をコードするDNA断片を、制限酵素およびDNAリガーゼを用いて、適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。 用いられるベクターは、ピキア属酵母の菌体内で自律的に複製されるか酵母ゲノム内に組み込まれることにより遺伝的に安定に維持されるものであれば特に制限はない。自律複製可能なベクターとして、例えばYEpベクター、YRpベクター、YCpベクター等が挙げられる。また、酵母ゲノム内に組み込まれ得るベクターとしては、例えばYIpベクター、YRpベクターが挙げられる。 ピキア属酵母で機能し得るプロモーターとしては、酵母由来のプロモーター、例えば、S.セレビシエ由来のPHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、P.パストリス由来のアルコールオキシダーゼ(AOX)1プロモーター、AOX2プロモーター、ジヒドロキシアセトンシンターゼプロモーター、P40プロモーター、ADHプロモーター、葉酸デヒドロゲナーゼプロモーター等が挙げられる。また、上記酵母由来プロモーターが、遺伝子発現効率がさらに向上するように修飾された変異型プロモーター、例えば、変異型AOX2(mAOX2)プロモーター[Ohi et al., Mol. Gen.Genet., 243, 489-499 (1994); 特開平4-299984号公報] 等であってもよい。好ましくは、該プロモーターは、ピキア属酵母のメタノール代謝系を利用すべく、メタノールもしくはその代謝中間体の処理に必要な酵素遺伝子のプロモーター、例えば、AOX1プロモーターおよびmAOX2プロモーター等、より好ましくはAOX1プロモーターである。 本発明のHbα(またはHbβ)をコードするDNAを含む発現ベクターは、さらにピキア属酵母で機能し得る転写終結配列(ターミネーター)(例えば、AOX1ターミネーター等)、エンハンサー配列、酵母の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(栄養要求性遺伝子、例えば、P.パストリスもしくはS.セレビシエ由来のHIS4、LEU2、ARG4、URA3遺伝子等、または抗生物質耐性遺伝子、例えば、シクロヘキシミド、G−418、クロラムフェニコール、ブレオマイシン、ハイグロマイシン等に対する耐性遺伝子等)などを含んでいることが好ましく、また、所望により酵母で機能し得る複製可能単位を含んでいてもよい。さらに、該ベクターの大量調製のために、大腸菌で機能し得る複製可能単位および大腸菌の選択に利用できる選択マーカー遺伝子(例えば、アンピシリンやテトラサイクリンに対する耐性遺伝子等)を含んでいることがより好ましい。 発現ベクターが酵母ゲノム内に組み込まれるタイプのベクターである場合、該ベクターは、相同組換えに必要な酵母ゲノムと相同な配列をさらに含むことが望ましい。そのような相同配列としては、上述の栄養要求性遺伝子の配列が挙げられる。したがって、好ましい一実施態様において、本発明の発現ベクターは、栄養要求性遺伝子内に上記Hbα(またはHbβ)の発現カセット(本明細書において「発現カセット」とは遺伝子発現を可能にする単位を意味し、プロモーターの制御下に蛋白質コード配列が配置されたものを最小単位とするが、好ましくはプロモーター−蛋白質コード領域−ターミネーターからなる単位である)が挿入されたものである(図3参照)。 Hbαの発現カセットとHbβの発現カセットとは、別個のベクター上に担持されてもよいし、同一ベクター上に担持されてもよい。前者の場合、2つのベクターは異なる選択マーカー遺伝子を含むことが望ましい。しかしながら、本発明の好ましい実施態様においては、Hbαの発現カセットとHbβの発現カセットとは同一ベクター上に配置される。この場合、Hbαの発現カセットとHbβの発現カセットはどのような順序で配置されてもよい。例えば、逆鎖上にhead-to-headもしくはtail-to-tailに配置されてもよいが、好ましくは同一の転写方向に配置され、より好ましくは転写方向の上流側から、Hbβの発現カセット、Hbαの発現カセットの順で配置される。HbαをコードするDNAとHbβをコードするDNAが同一方向に転写される場合、該転写は同一プロモーターからモノシストロニックに行われてもよいし、別個のプロモーターからジシストロニックに行われてもよい。モノシストロニックに転写される場合、発現ベクターは上流側のコード配列の3’側にターミネーターを含まない。また、下流側のコード配列の5’側に内部リボソーム進入部位(IRES)を含むことが望ましい。しかしながら、本発明の好ましい実施態様においては、HbαをコードするDNAとHbβをコードするDNAの転写は、別個のプロモーターからジシストロニックに行われる。 本発明の特に好ましい態様においては、転写方向の上流側から、AOX1プロモーター、HbβをコードするDNA、ピキア属酵母で機能し得るターミネーター(好ましくはAOX1ターミネーター)、AOX1プロモーター、HbαをコードするDNAおよびピキア属酵母で機能し得るターミネーター(好ましくはAOX1ターミネーター)の順で含む発現ベクターが用いられる。 上記のHbβの発現カセットとHbαの発現カセットとがタンデムに連結された発現ベクターを構築する際、通常、一方の発現カセットを含む発現ベクターのプロモーターのすぐ上流側(Hbαの発現カセットを含む場合)もしくはターミネーターのすぐ下流側(Hbβの発現カセットを含む場合)を適当な制限酵素を用いて一ヶ所切断して線状化し(例えば、図2においてはHbβ-pAO815をBamH Iを用いて切断する)、同じ粘着末端(もしくは平滑末端)を生じる制限酵素で処理して切り出した他方の発現カセット(例えば、図2では、Hbα-pAO815からBamH IおよびBgl II二重消化によりHbαの発現カセットを切り出す)とDNAリガーゼを用いてライゲーションする。このとき、通常であれば、ベクター側のセルフライゲーションを防ぐ目的で、末端の脱リン酸化処理(例えば、仔牛小腸アルカリホスファターゼ(CIAP)処理)を行うが、全体のライゲーション効率を高めるために、脱リン酸化処理を行わない方がむしろ好ましい場合がある。 上記のようにして得られた発現ベクターは、例えば、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、ポリエチレングリコール法、リチウム法、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法、パーティクル・ガン法等、公知の形質転換技術を用いて、標的ピキア属酵母菌体内に導入することができる。 本発明で用いられるピキア属酵母は特に限定されないが、例えば、P.パストリス、ピキア・アカシエ(Pichia acaciae)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・カプスルラータ(Pichia capsulata)、ピキア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピキア・エチェルシイ(Pichia etchellsii)、ピキア・ファビアニイ(Pichia fabianii)、ピキア・ファリノーサ(Pichia farinosa)、ピキア・グイリエルモンディ(Pichia guilliermondii)、ピキア・イノシトヴォラ(Pichia inositovora)、ピキア・ジャディニイ(Pichia jadinii)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ノルヴェゲンシス(Pichia norvegensis)、ピキア・オフナエンシス(Pichia ofunaensis)、ピキア・ピヌス(Pichia pinus)等が挙げられる。好ましくは、P.パストリス、就中、栄養要求性変異P.パストリス株(例えば、P.パストリスGTS115株(HIS4- )[NNRL Y−15851]、P.パストリスGS190株(ARG4- )[NNRLY−18014)、P.パストリスPPF1(HIS4- ,URA4- )[NNRL Y−18017]など)である。 形質転換されたピキア属酵母は、当該技術分野で通常使用される方法で培養することにより、機能的なヒトヘモグロビンを産生することができる。用いられる培地には、宿主細胞の生育に必要な炭素源および無機または有機窒素源が少なくとも含まれる必要がある。炭素源としては、メタノール、グリセロール、グルコース、ショ糖、デキストラン、可溶性デンプン等が例示される。また、無機または有機窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープリカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、酵母エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が例示される。さらに、所望により他の栄養素、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム等の無機塩、ビオチン等のビタミン類、抗生物質などを含んでいてもよい。 用いられる培地としては、例えば、通常の天然培地(例えば、YPD培地、YPM培地、YPG培地等)または合成培地が挙げられる。培地のpHおよび培養温度は、酵母の増殖およびヒトヘモグロビンの産生に適したpHおよび温度が適宜採用されるが、例えば、pH約5〜約8、培養温度約20〜約30℃が好ましく例示される。また、必要に応じて通気や攪拌を行うこともできる。培養は、通常約48〜約120時間行われる。 例えば、ピキア属酵母菌体内で機能し得るプロモーターとしてAOX1プロモーター、mAOX2プロモーターなどのメタノールにより発現誘導されるプロモーターを使用する場合、菌体の増殖のための炭素源としてグリセロールを含み、HbαおよびHbβの発現誘導因子としてメタノールを含む、pH約6.0に制御された天然培地を用いて液体通気攪拌培養を行う方法が最も好ましく例示される。HbαおよびHbβの発現が菌体の生育にとって好ましくない場合には、まずメタノール以外の炭素源で菌体量を増加させた後でメタノールを添加してHbαおよびHbβの発現を誘導する培養方法がより好ましい。また、ジャーファーメンターでの培養においては、高密度培養法がヒトヘモグロビンの産生に好適な方法として例示される。培養は、回分培養、流加培養、連続培養のいずれの方式により行ってもよいが、好ましくは流加培養法が挙げられる。すなわち、一定期間、宿主菌体をその増殖に適した炭素エネルギー源(例えば、グルコース等)および/または栄養源を含有する培地(初期培地)中で培養し、状況に応じてある時点から、HbαおよびHbβの発現を支配する基質(即ち、メタノール)を該培地に追加供給しながら、ヒトヘモグロビンを培養終了時まで系外に抜き出さない方法が用いられる(例えば、特開平3−83595号公報を参照)。 培養物中に産生されたヒトヘモグロビンは、培養終了後の培養物を遠心分離および/または濾過して酵母菌体を回収し、次いで、該菌体から自体公知の方法に従って単離・精製することができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。 単離・精製されたヒトヘモグロビンの確認方法としては、公知のウエスタンブロッティング法や活性測定法等が挙げられる。また、精製されたヘモグロビンは、アミノ酸分析、N末端アミノ酸シーケンス、一次構造解析などによりその構造を明らかにすることができる。このようにして取得されたヒトヘモグロビンは、天然型と同じ一次構造(即ち、ファーストメチオニンの切断除去)および高次構造を有し、且つ天然型と同質の生理活性を発揮する。 本発明で製造された組換えヒトヘモグロビンは、例えば赤血球代替物として生体に投与することができる。赤血球代替物として投与する際には、ヘモグロビンをリポソーム内に封入して投与したり、エマルジョンに分散して投与することができる。このような製剤化の手法およびヒトへの投与方法については、例えば、特開2004-307404、特開2006-104069、特開2002-161047、特開2001-348341、特開平08-003063、特開平08-003062、特開平07-017874、特開平06-321802、特開平06-072892等に記載されている。 以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら制限するものではない。(1)ヘモグロビン遺伝子の増幅 プラスミドpBEXにヒトヘモグロビンの遺伝子が導入されたプラスミド(以下、「pBEX-Hb」という。本願共同発明者である宇野公之(大阪大学大学院薬学研究科)より入手可能)を鋳型とし、それぞれヘモグロビンα鎖のDNA配列に対して配列番号5のHbα-センスプライマーと配列番号6のHbα-アンチセンスプライマー、並びにヘモグロビンβ鎖のDNA配列に対して配列番号7のHbβ-センスプライマーと配列番号8のHbβ-アンチセンスプライマーを合成プライマーとして、以後の操作で障害になるEcoR I制限酵素部位の変異(QuikChange XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Stratagene)を行った。変異の反応条件としては、DNAを95℃で30秒間処理した後、変性(95℃、30秒)、アニーリング(55℃、1分)及びエクステンション(68℃、10分)の反応を12サイクル行った。反応後、Dpn Iにより鋳型のプラスミドを消化し、得られたpBEX-Hb(αΔ)及びpBEX-Hb(βΔ)をそれぞれXL-10-Gold ultracompetent cellに導入して形質転換を行った。目的とするプラスミドpBEX-Hb(αΔ)及びpBEX-Hb(βΔ)が導入された形質転換体は、アンピシリン添加培地中でスクリーニングし、得られた形質転換体より、プラスミドを精製した(QIAprep Spin Miniprep Kit、QIAGEN製)。そのプラスミドをEcoR I(宝酒造製)で消化し、変異が起きていることを確認した。 得られたpBEX-Hb(αΔ)及びpBEX-Hb(βΔ)を鋳型とし、それぞれヘモグロビンα鎖のDNA配列に対して配列番号9のHbα-センスプライマーと配列番号10のHbα-アンチセンスプライマー、並びにヘモグロビンβ鎖のDNA配列に対して配列番号11のHbβ-センスプライマーと配列番号12のHbβ-アンチセンスプライマーを合成プライマーとして、ポリメラーゼ(KOD-plus-、東洋紡製)を用いたPCRを行った。PCRの反応条件としては、DNAを94℃で2分間処理した後、変性(94℃、15秒)、アニーリング(65℃、30秒)及びエクステンション(68℃、1分)の反応を30サイクル行った。このPCRによって、それぞれヘモグロビンα鎖及びβ鎖をコードするDNA配列の5’末端及び3’末端にEcoR I制限酵素認識部位が付加されたDNA断片を得た。PCRによって増幅されたDNA断片は、フェノール抽出、エタノール沈殿による精製の後、制限酵素EcoR I(宝酒造製)で消化した。制限酵素処理後のDNA断片は、2%アガロース電気泳動し、それぞれのDNA断片に相当するバンド(ヘモグロビンα鎖をコードするDNA断片;Hbα、配列番号13及びヘモグロビンβ鎖をコードするDNA断片;Hbβ、配列番号14)を切り出し、ゲル抽出を行った(QIAquick Gel Extraction Kit、QIAGEN製)。(2)ヘモグロビン遺伝子の連結 大腸菌と酵母のシャトルベクターであるpAO815(Invitrogen製)をE. coli JM109(宝酒造製)に導入して形質転換を行った。pAO815が導入された形質転換体は、アンピシリン添加培地中でスクリーニングし、得られた形質転換体より、プラスミドを精製した(QIAprep Spin Miniprep Kit、QIAGEN製)。そのプラスミドをEcoR I(宝酒造製)による消化、EcoR I及びSal I(宝酒造製)による二重消化、ならびにBamH I及びBgl II(宝酒造製)による二重消化を行い、制限酵素地図を作成し、目的のプラスミドベクターであることを確認した。 pAO815が導入されたことが確認された大腸菌をさらに培養し、増殖した菌体からプラスミドを精製した(QIAGEN plasmid Maxi Kit、QIAGEN製)。精製したpAO815をEcoR I(宝酒造製)で消化し、フェノール抽出、エタノール沈殿による精製の後、脱リン酸化処理を行った(Alkaline Phosphatase E. coli C75、宝酒造製)。 Hbα及びHbβをそれぞれ脱リン酸化処理したpAO815へ、ライゲーションを行い(DNA Ligation kit Ver. 1、宝酒造製)、それぞれHbα-pAO815、Hbβ-pAO815を得た。得られたHbα-pAO815及びHbβ-pAO815をそれぞれE. coli JM109(宝酒造製)に導入して形質転換を行った。目的とするプラスミドHbα-pAO815及びHbβ-pAO815が導入された形質転換体は、アンピシリン添加培地中でスクリーニングし、得られた形質転換体より、プラスミドを精製した(QIAprep Spin Miniprep Kit、QIAGEN製)。そのプラスミドをEcoR I(宝酒造製)による消化、ならびにBamH I及びBgl II(宝酒造製)による二重消化を行い、制限酵素地図を作成し、Hbα-pAO815及びHbβ-pAO815であることを確認した。 さらに、ヘモグロビンα鎖及びβ鎖遺伝子の全配列を、α鎖については配列番号15の5’AOX1 sequencing primer(Invitrogen製)、配列番号16のHbα-シーケンスプライマー1、配列番号17のHbα-シーケンスプライマー2、並びにβ鎖については配列番号15の5’AOX1 sequencing primer(Invitrogen製)、配列番号18のHbβ-シーケンスプライマー1、配列番号19のHbβ-シーケンスプライマー2を用いて、ABI Prism 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)により確認した。 Hbα-pAO815及びHbβ-pAO815が導入されたことが確認された大腸菌をさらに培養し、増殖した菌体からプラスミドを精製した(QIAGEN plasmid Maxi Kit、QIAGEN製)。精製したHbα-pAO815はBamH I及びBgl II(宝酒造製)で消化後、Hbα発現カセットに相当するバンドを切り出し、ゲル抽出を行った(QIAquick Gel Extraction Kit、QIAGEN製)。 一方、精製したHbβ-pAO815は脱リン酸化処理を行うことなくBamH I(宝酒造製)で消化し、フェノール抽出、エタノール沈殿を行い精製した。 Hbα発現カセットを、BamH Iで酵素消化したHbβ-pAO815へライゲーションを行い(DNA Ligation kit Ver. 1、宝酒造製)、Hbβ-Hbα-pAO815を得た。得られたHbβ-Hbα-pAO815をE. coli DH5α(東洋紡製)に導入して形質転換を行った。目的とするプラスミドHbβ-Hbα-pAO815が導入された形質転換体は、アンピシリン添加培地中でスクリーニングし、得られた形質転換体より、プラスミドを精製した(QIAprep Spin Miniprep Kit、QIAGEN製)。そのプラスミドをEcoR I(宝酒造製)による消化、ならびにBamH I及びBgl II(宝酒造製)による二重消化を行い、制限酵素地図を作成し、Hbβ-Hbα-pAO815であることを確認した。図2にHbβ-Hbα-pAO815の構築までの手順を示す。(3)ヘモグロビンの発現 Hbβ-Hbα-pAO815は、制限酵素Sal Iで消化し、フェノール抽出、エタノール沈殿による精製の後、エレクトロポレーション装置(Gene Pulser II Electroporation System、BIO-RAD製)を用いて、ピキア酵母(GS115株)のHIS4遺伝子座へ相同組換えにより形質転換を行った(図3参照)。得られた形質転換体をBMMY液体培地中で培養し、ヘモグロビンの発現を確認した後、グリセロールストックした。(4)ヘモグロビンの精製 形質転換したピキア酵母は、BMGY液体培地中で48時間培養し、その後、BMMY培地中で12時間毎に1%メタノールを添加しながら96時間培養した。遠心分離(6、000g x 10分間)により酵母を沈殿させ、破砕緩衝液に再懸濁後、ガラスビーズ(425-600μm)を加え激しく撹拌し、酵母を破砕した。 破砕した菌体を10、000gで30分間遠心分離して上清を回収した。これを10 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5)で透析し、Q-SepharoseTM Fast Flowカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)を通過させ、さらにpHを8.5にしてQ-SepharoseTMFast Flowカラムに結合させ、0→300 mM NaClの濃度勾配によりヘモグロビンを溶出させた。これを200 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に交換し、Blue Sepharose CL-6Bカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)に結合させ、0→3 M NaClの濃度勾配によりヘモグロビンを溶出させた。その後、この溶出液を0.5 M硫酸アンモニウム/100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)で透析した後、HiTrap Butyl FFカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)に結合させ、70%エタノールでヘモグロビンを溶出させた。最後にCOを吹き込み4℃で保存した。(5)ヘモグロビンの確認 最終試料をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、予想される分子量約15,000の単一バンドを検出した。またN末端アミノ酸分析を行ったところ、ヒト血液由来ヘモグロビンのアミノ酸配列と完全に一致した。さらにMALDI TOF-MSによりα鎖、β鎖の分子量はそれぞれ15,122と15,866と算出され、計算値と一致した。 本発明の製造方法は、ウイルス等の汚染の危険性がないため、医療用として生体に安全に投与することができるヒトヘモグロビンを、簡便に大量供給することができる点できわめて有用である。ヘモグロビンα鎖の発現カセットとβ鎖の発現カセットを接続する原理を示す説明図である。実施例のヘモグロビンの作製における概略手順を示す説明図である。実施例におけるヘモグロビンのピキア染色体への組換え方法を示す説明図である。配列番号5 プライマー。配列番号6 プライマー。配列番号7 プライマー。配列番号8 プライマー。配列番号9 プライマー。配列番号10 プライマー。配列番号11 プライマー。配列番号12 プライマー。配列番号13 5’および3’端にEcoR Iサイトを持つHbα cDNA。配列番号14 5’および3’端にEcoR Iサイトを持つHbβ cDNA。配列番号15 プライマー。配列番号16 プライマー。配列番号17 プライマー。配列番号18 プライマー。配列番号19 プライマー。 ピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にあるヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAを含む発現ベクター、およびピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にあるヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換されたピキア属酵母を培地中で培養し、得られる培養物からヒトヘモグロビンを回収することを含む、機能的な組換えヒトヘモグロビンの製造方法。 ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAが同一ベクター上にある、請求項1記載の方法。 ヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAが転写方向の上流側にある、請求項2記載の方法。 ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAが別個のプロモーターの制御下にある、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNAがアルコールオキシダーゼ1プロモーターの制御下にある、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 形質転換されたピキア属酵母をメタノールを単一の炭素源とする液体培地中で培養する、請求項5記載の方法。 培養が流加培養である、請求項6記載の方法。 ピキア属酵母がピキア・パストリスである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。 転写方向の上流側から、アルコールオキシダーゼ1プロモーター、ヒトヘモグロビンβ鎖をコードするDNA、ピキア属酵母で機能し得るターミネーター、アルコールオキシダーゼ1プロモーター、ヒトヘモグロビンα鎖をコードするDNAおよびピキア属酵母で機能し得るターミネーターの順で含む発現ベクター。 【課題】ヒト血液由来ヘモグロビンと同様の機能、性質を有し、かつウイルスの混入などの恐れのない安全な遺伝子組換え型ヘモグロビンを提供すること。【解決手段】 ピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にあるヒトヘモグロビンα鎖(Hbα)をコードするDNAを含む発現ベクター、およびピキア属酵母で機能し得るプロモーターの制御下にあるヒトヘモグロビンβ鎖(Hbβ)をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換されたピキア属酵母を培地中で培養し、得られる培養物からヒトヘモグロビンを回収することを含む、機能的な組換えヒトヘモグロビンの製造方法。転写方向の上流側から、AOX1プロモーター、HbβをコードするDNA、ピキア属酵母で機能し得るターミネーター、AOX1プロモーター、HbαをコードするDNAおよびピキア属酵母で機能し得るターミネーターの順で含む発現ベクター。【選択図】なし配列表


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