タイトル: | 公開特許公報(A)_アルミ合金材のクリープ特性評価・定式化方法、アルミ合金のクリープ特性の予測方法及びアルミ合金鋳物の製造方法 |
出願番号: | 2006172705 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | G01N 3/00,C22C 21/02,C22C 21/00,C22C 21/06 |
石原 泰之 JP 2008002957 公開特許公報(A) 20080110 2006172705 20060622 アルミ合金材のクリープ特性評価・定式化方法、アルミ合金のクリープ特性の予測方法及びアルミ合金鋳物の製造方法 日本碍子株式会社 000004064 綿貫 達雄 100078101 山本 文夫 100085523 石原 泰之 G01N 3/00 20060101AFI20071207BHJP C22C 21/02 20060101ALI20071207BHJP C22C 21/00 20060101ALI20071207BHJP C22C 21/06 20060101ALI20071207BHJP JPG01N3/00 RC22C21/02C22C21/00 MC22C21/06 4 4 OL 23 2G061 2G061AA01 2G061AA02 2G061AB02 2G061AC03 2G061BA20 2G061CA03 2G061CB02 2G061CB03 2G061DA01 2G061DA11 2G061EA02 本発明は、アルミ合金材のクリープ特性評価・定式化方法、アルミ合金のクリープ特性の予測方法及びアルミ合金鋳物の製造方法に関するものである。このアルミ合金鋳物の製造方法は、鋳造性と鋳物の機械特性を向上させる為にアルミ合金に添加されるSi及びFeにより形成される晶出物の形状をPの添加により調整し、該当鋳物の機械特性、特にクリープ変形抵抗を増加させようとするものである。 現在様々な分野で利用されているアルミ合金は、鋳造により製作されたものをそのまま使用するか、鋳造で製作された鋳塊(インゴット,ビレット)を鍛造、圧延して使用される事が多い。アルミ合金に合金添加元素として添加される主な元素をまとめると、次の表1の様になる。 アルミ合金については、これらの添加元素による晶出物分散強化・固溶硬化・析出硬化や、鍛造・圧延による組織微細化、指向性強化を活用して様々な合金設計がなされている。これらの強化機構は、原子レベルの大きさで組織内に存在している『転位』の移動を妨げる事で発現されるものと言って良い。 実際の金属の組織は、金属原子レベルでの配置の整合性が取れた所謂単結晶組織に近い構造を持つ『α結晶粒』の集合体であるが、各α晶の境界は原子レベルでの整合性が取れていない『結晶粒界』となり、結晶粒界には、様々なα晶とは異なる元素から成る晶出物が存在している事が多い。(これらは光学顕微鏡観察で視認できる。) 更に、α晶一つずつの内部をより細かく見てゆくと、原子単位でα晶を構成する主元素とは異種の元素(固溶元素)がはまり込んでいたり、細かな時効析出物が存在したりしている。(これらは光学顕微鏡観察では視認できない。) アルミ合金を含む金属材料は、原子配列内の『転位』の存在で、より小さなせん断応力で塑性変形させる事が出来るのであるが、『固溶元素』や『時効析出物』などの異物がα晶を構成する主元素であるAl原子間に存在すると、先の転位の動きを原子レベルで阻害する事になり、これにより強化されると言える。よりマクロ的に見た場合、結晶粒界においてα晶同士の界面の場合でも原子レベルでの配列の不整合により、転位の動きが阻害される事になる。また、結晶粒界にFeやSi等の晶出物が存在する場合、原子配列の不整合性に加えて、原子間隔である格子間距離も異なってくる為、より強く転位の動きを阻害すると考えられる。 また、転位は外部からの応力で増殖する。転位の増殖は図1の様に行なわれる。転位源A-Bをフランクリード源と呼ぶ。転位源A-Bから転位が延びてゆく際、成長した転位がループとなり、次々に転位のループを発生させてゆく場合が存在する。(実際は、この様な転位の増殖は、当たり前の様に発生している。)金属材料に外部から応力が作用した場合、転位一個が動いただけでは、大きな変形につながらないのであるが、上記の様に複数の転位源から次々に転位が増殖をしてゆくことで、大きな変形につながっていると考える事が出来るのである。 転位が増殖してゆくと、増殖した転位同士が絡み合う場所が多数生じてくる事になる。この絡み合いが複雑なものとなると、転位同士でお互いの動きを拘束しあうようになってくる。この絡み合い構造を『セル構造』と呼ぶ。金属材料を塑性加工すると硬くなる現象である『加工硬化』は、主にこのメカニズムで発現すると言える。セル構造部は、エネルギー的に不安定状態にあるため、外部から熱エネルギー等を受けると自らの転位の絡み合いを開放したり、そこを『核』として新たな結晶粒(α晶)を形成したりする場合が存在する。これらをそれぞれ、『回復』及び『再結晶』と呼ぶ。 アルミ合金の場合、100〜200℃程度で回復現象が加速され、200〜300℃以上で再結晶を発現する。(転位の絡み合いをリセットして、初期状態に近い状態に戻ると言える。)自動車用の(ディーゼル)エンジン部品や、タイヤ金型のように、200〜300℃近傍での使用が求められるアルミ合金においては、これら転位が移動・増殖しやすくなる事に伴う『クリープ特性』が問題となる。クリープとは、『一定応力のもとにひずみが長時間の経過につれて増大する現象』、『一定応力のもとでしだいに変形が進む現象』であるが、通常の機械設計上は、『高温度では、ふつうの意味の弾性限度より低い応力が作用している場合でも、長い間にしだいに変形が進んでくる現象』として扱われる事が多い。ところがこのクリープ特性は、定量化方法と設計への活用方法が上手く確立されていないのが現状である。 例えば、非特許文献1である「マグロウヒルブック株式会社『材料強度学要論』 小寺沢良一 著P.146以下」では、次の様な方法が一般的なものとして解説されている。すなわち、図2に示すような試験片を所定の雰囲気温度Tで、(引張り)負荷Fを印加した状態で保持し、試験片の評点間距離の増加量を計測する事で、その材料の試験温度T、印加応力σでのクリープ曲線(図3)を得るという方法である。 こうして得られたクリープ曲線は数1として定式化される。 ところがこの方法には、鋼材等に比べて低い応力でクリープ変形するアルミ合金のクリープ特性評価に対しては、以下の様な弱点が存在していた。1) 比較的大型な試験片を必要とする。(通常、断面積Sで50〜100mm2程度以上)2) 試験機も大掛かりなものが必要。3) 得られるデータ(クリープ曲線式)も複雑で扱いにくい。 このため、アルミ合金のクリープ特性を簡便かつ適切に評価することは困難であった。 このクリープ特性にも、先に述べた転位の移動が重要な役割を果しているのであるが、どういった合金組成で、どの様な組織に合金設計すれば、アルミ合金でクリープ特性を最適化出来るかと言った定量的尺度は存在せず、また、この目的に合致した晶出物の分散形態に鋳物の組織を調整する良い手法が存在していない状況にあった。マグロウヒルブック株式会社『材料強度学要論』小寺沢良一著P.146以下 本発明はこの様な状況下でなされたものであり、その第一の目的は、アルミ合金材料のクリープ特性を簡易に求められる評価方法を提供する事にあり、第二の目的は、そのクリープ特性と合金成分、組織状態の相関性を定量化できる技術を提供する事にあり、第三の目的は、これより求められるクリープ特性を最適化できる組織状態を、鋳物にて発現させられる組織改良方法を提供することにある。 第1の目的を達成するためになされた請求項1の発明は、定盤上に、同一アルミ合金材から作成した直方体形状若しくは平滑な円筒形状の試験片3本を正三角形の頂点位置に3等配し、これら3本の試験片にほぼ均等な圧縮応力σを印加出来る分銅を載せ、所定の温度Tに加熱保持し、試験片の経時寸法変化を測定し、3本の試験片の寸法変化量の平均値ΔLと経過時間tの関係を、 ΔL=A・ln(t)+B・・・(1)(A,Bは合金材、印加圧縮応力σ、加熱保持温度T毎に決まる定数)の(1)式で近似することにより、該当合金材のクリープ特性を定式化することを特徴とするものである。 第2の目的を達成するためになされた請求項2の発明は、請求項1の発明に用いられる3本の試験片そのもの若しくは同一合金材から別途製作しておいた試験片の断面組織観察と、合金成分分析を行い、主要晶出物の寸法・形状数値(α1,α2,・・・)と添加元素量の実測値(β1,β2・・・)を得、目的変数にA及びBを用い、説明変数にσ,T,(α1,α2,・・・),(β1,β2,・・・)を取り多変量解析し、請求項1中のΔL=A・ln(t)+Bの(1)式中のA,Bの予測式を構築することにより、該当アルミ合金のクリープ特性と合金成分、組織状態の相関性を定量化することを特徴とするものである。 第3の目的を達成するためになされた請求項3の発明は、Siを主要な成分元素として含有するアルミ合金鋳物を製作する際に、鋳造用の溶湯にPを添加することで、単位面積あたりに初晶および共晶晶出するSi晶一粒一粒の長手寸法の総和を減少させ、該当鋳物のクリープ変形抵抗を増加させることを特徴とするものであり、請求項4の発明は、Feを主要な成分元素として含有するアルミ合金鋳物を製作する際に、鋳造用の溶湯にPを添加する事で、単位面積あたりに初晶および共晶晶出するFe晶一粒一粒の長手寸法の総和を増加させ、該当鋳物のクリープ変形抵抗を増加させることを特徴とするものである。 請求項1の発明によれば、ごく小型の試験片を用い、アルミ合金材料のクリープ特性を簡易に求めることができる。また請求項2の発明によれば、従来定量的に把握しづらかった、アルミ合金のクリープ特性と組織状態、合金元素量との関係を、定量的に把握出来る様になる。さらに請求項3,4の発明によれば、請求項1,2によって求められるクリープ特性を最適化できる組織状態を、鋳物にて発現させることが可能となる。<請求項1> 請求項1の発明は、図4に示すように試験片1としてマッチ棒状の立方体を3本/1組みで準備し、この3本の試験片1をクリープ試験時に変形・損傷しない定盤2上に、概略正三角形の頂点近傍となる様配置し、3本の試験片1を同時に覆い被せる形で所定の重量の分銅3を載せ、試験片1に圧縮応力σを印加し、この状態で所定の温度Tに加熱保持し、試験片1の経時寸法変化を測定し、3本の試験片1の寸法変化量の平均値ΔLと経過時間tの関係を、ΔL=A・ln(t)+B (A,Bは合金材、印加圧縮応力σ、加熱保持温度T 毎に決まる定数)で近似する事で、該当合金材のクリープ特性を定式化するアルミ合金材のクリープ特性評価・定式化方法である。 具体的には、直方体形状若しくは平滑な円筒形状の試験片1を3本/1組で製作する図4では試験片1が円筒の場合は直径φD長さLとなる。これらをクリープ試験時に変形・損傷する事の無い定盤2上に、概略正三角形の頂点近傍となる様配置し、3本の試験片1を同時に覆い被せる形で所定の重量の分銅3を載せ、各試験片1に圧縮応力σを印加する。そしてこの定盤・試験片・分銅組み立て体を図5のように加熱炉4に投入し、温度Tで保持する。定盤2・分銅3を予め温度Tに予熱しておくと、試験片1の昇温タイムラグを極小化出来るため、より好ましい。このようにして得られたt−ΔLのデータを図6に示すように縦軸にΔL、横軸にtでプロットし、得られる曲線をΔL=A・ln(t)+Bなる近似式で近時する(係数A,Bを求める)。得られた近似式及びA,Bが該当材料の温度T,圧縮応力σ印加時のクリープ特性となる。 融点が低いアルミ合金等のいわゆる軽合金は、各種鉄鋼材料およびニッケル合金より、クリープ変形抵抗や強度特性が小さい(10〜50%ほどしか無い)。この傾向は温度が高くなる程顕著になり、アルミ合金のクリープ試験を行なう際に必要な印加荷重(分銅の重量)は、鋼材・ニッケル合金材のクリープ試験の時より遥かに小さなもので済む。本発明は、この特性を活用したものである。 例えば、請求項1の発明を用いると、試験片寸法をD=W=4mm(ここではL寸法は任意としておく)とすると、試験片に0.5kgf/mm2(4.9MPa)の圧縮負荷を印加したい場合に必要な分銅の重量は24kgとなる。この分銅を鋼材で製作する場合、凡そφ600mm、厚さ11mmの円盤1枚で済む。またアルミ合金の圧縮クリープ試験で必要とされる印加圧縮応力は、せいぜい20kgf/mm2(196MPa)で、先の分銅が40枚(960kg)有れば全ての試験に事足りるといえる。試験片の寸法を、より小さいものとすれば、必要となる分銅は更に軽量化できる。 試験片の長手寸法Lは、クリープ試験中のΔLの検出精度の観点からは、大きい程好ましいと言えるが、過剰に長くなり過ぎると、試験片が座屈してしまい、実験データが得られなくなる危険性が有る為、アルミ合金の場合D=Wの時、L≦(5〜10)Dである事が好ましい。従って、請求項1の発明を用いてアルミ合金各種のクリープ試験を行なう際の試験片1本の大きさは、D(=W)=2〜4mm,かつL=10〜20mm程度で済む事になる。これは、従来のクリープ試験片の寸法の1/10〜1/5の大きさと言え、極めてコンパクトなものであるといえる。従って、大きな試験片が入手困難なアルミ合金材料や、場合によっては製品実体品から試験片を切り出して、クリープ試験を行なう事も出来る。 また得られるクリープ曲線の近似式ΔL=A・ln(t)+Bも、従来の近似式に比べて簡素なものとなっており、データの解析面でも、実用面でも扱い易いものとなっている。(A,Bが共に小さい方が、より高いクリープ変形抵抗を持っていると言える。)各種アルミ合金の圧縮クリープ曲線が上記近似式で近似出来る事は、後述の実施例1でその事例を示す。 以下に、この近似式についての材料強度学的考察を加えておく。 クリープ変形挙動が、結晶内の転位の動きに支配される事は先に説明した通りであるが、『材料強度学第二版 岩波全書 横堀武夫 著 P.85』では、単結晶内で転位間で相互に干渉を受けない場合の転位速度vと負荷せん断応力τの関係は、 v=v1・τ^(1/n*kT)exp{−Q/kT} n*:材料による数値,v1,Q,k:定数,T:温度(K)なる式で表される事を示している。 この式からは、温度T,せん断応力τ(本試験では圧縮応力で一義的に定義される数値)が一定であれば、転位速度vも一定となり、先頁の近似式の『経過時間t−L方向変形量ΔL』は『直線』とならならければならない筈であるが、実際の実験結果は『対数関数』となっている。 この差は、実際の材料(一般の材料)が、 A) α晶内の固溶硬化,析出硬化(原子レベルでの転位移動の妨害効果) B) 多結晶構造(結晶粒界での転位移動の妨害効果) C) 結晶粒界での異種金属(晶出物)散在(マクロレベルでの転位移動の妨害効果)の3つの強化機構を持ったものである為に生じたものと考えられる。 先の圧縮クリープ変形挙動近似式、ΔL=A・ln(t )+ Bから転位速度vを求めるには、上記式を経過時間tに関して微分してやれば良く、これから、 dL/dt=d{A・ln(t )}/dt+d(B)/dt v = A/tなる式が得られる。 即ち、本試験結果は、一定(せん断)応力,一定温度雰囲気下で、単結晶では理論上一定となる転位速度vが、実際の材料(多結晶強化材料)では時間とともに減速してゆく(係数Aの反比例をする)事を示している。この理由が上述のA)〜C)にあると言う事である。 これらと転位の移動・増殖機構の説明とを合わせて解説すると以下の様になる。 先の近似式は、一定温度T下で一定圧縮応力σを時間t1だけ受けた時点での該当金属材料内の転位速度VT1は、VT1=A/t1である事を示している。これに対して、単結晶内の転位一つの動きの理論式では、その転位速度は時間によらず一定で、V=αである事を示している。図7に示されるこの両者の差が、金属組織の差による転位移動に対する障害の有無、及び転位の増殖挙動によりもたらされるものであると考えられる。実際のアルミ合金での結果(固溶元素,時効析出物および晶出物を含む多結晶材料の圧縮クリープ試験結果)は、クリープ試験開始直後の転位速度が最大で、以降時間がたつにつれて、それが減少してゆく事を示している。 実際のアルミ合金の圧縮クリープで、時間がたつにつれて転位速度が減少してゆく理由は、現象的に早く起こる順番に記述すると、 1) 固溶元素によって、転位の動きが干渉される。 2) 時効析出物により転位の動きが干渉される。 3) 上記1),2)の影響で転位の増殖も遅れる。 4) 晶出物の存在で、よりマクロ的な転位の動きが干渉される。 5) 1)〜4)の作用で、転位の増殖が起こりづらくなってくる(転位の絡み合いである『セル構造』が急速に増え、このセル構造が転位の動きを阻害する様になってくる)。 6) 経過時間が長くなる程、転位速度が遅くなる。と言う様なものであると考えられるのである。 なお定数Bが持つ意味は、試験片と分銅との接触面(荷重印加面)のクリープ試験初期の塑性変形等の誤差関数的なものと判断出来る。(試験片の加工面精度が悪いと、Bが大きくなると言った具合。)<請求項2> <請求項2の説明> 請求項1で得られた近似式のA,Bを、該当材料の加熱保持温度T,圧縮応力σ印加時のクリープ特性の代表値として扱い、これらA,Bそれぞれを目的変数とし、該当材料の断面観察から得られる主要晶出物の寸法・形状特性値(α1,α2,・・・)及び、該当材料の成分分析結果から得られる各種合金元素量の特性値(β1,β2,・・・)、これと併せて、加熱保持温度T,印加圧縮応力σを説明変数として、多変量解析する事で、目的変数A,Bを説明変数(α1,α2,・・・),(β1,β2,・・・),T,σ,にて定式化する事で、アルミ合金のクリープ特性と、各説明変数の関係を定量化し、より良好なクリープ特性を持ったアルミ合金の成分設計、組織設計に定量的に役立てられる様にする技術が請求項2の要旨である。 ここで用いる多変量解析(重回帰分析)については、例えば財団法人日本規格協会『新編 統計的方法 改訂版』編者 森口繁一 発行者 西家正起のP.215〜P.227などに記載されている。具体的な解析事例とその結果の活用方法については、後述の実施例2にて詳細に説明する。<請求項3,4> 上記した請求項1,2の方法で、アルミ合金により高いクリープ変形抵抗を付与したい場合に必要な、合金元素量と主要晶出物の寸法・形状特性値が定量化できる様になった。合金元素量は、合金調合時に調整する事が可能で、比較的制御しやすいものであるが、主要晶出物の寸法・形状特性値は、(クリープ変形抵抗を高める目的で)制御するのは極めて難しい。請求項3,4は、この問題点を克服する為に創出されたものである。 後述の実施例2に示されるように、請求項2の発明により、各種晶出物の寸法・形状等の組織パラメータ系の説明変数による多変量解析結果から、 1) 1mm2当たりのα晶の長手寸法総和が短い、結晶粒形状となるα晶状態にする。 2) 1mm2当たりのFe晶の長手寸法総和が長い、Fe系晶出物状態にする。 3) 1mm2当たりのSi晶の長手寸法総和が短い、Si系晶出物状態にする。程、アルミ合金の圧縮クリープ変形抵抗が大きくなる事が判る。 しかし従来は、特に鋳造形態(鋳物)のまま使用されるアルミ合金部材においては、上記1)〜3)を満足させられる良い組織改良方法は存在していなかった。 本発明者は、鋳造に用いるSiを主要な成分元素として含有するアルミ合金溶湯あるいはFeを主要な成分元素として含有するアルミ合金溶湯にPを(10ppm程度以上)添加する事で、単位面積あたりに初晶および共晶晶出するSi晶あるいはFe晶一粒一粒の長手寸法の総和を減少あるいは増加させ、該当鋳物のクリープ変形抵抗を増加させることによって、幅広い凝固冷却速度の鋳物に対して、上記2),3)を満たす組織改良が可能である事を発見した。アルミ合金溶湯にPを添加する事で、上記2),3)の組織改良がなされる事を確認した実験結果を後述の実施例3に示す。 なお、アルミ合金鋳物の組織改良に関しては、様々な参考文献が存在している。例えば、 A 『アルミニウムハンドブック』 社団法人軽金属協会編 朝倉孝鑛造 発行 P.399 B 『非鉄金属および合金』 内田老鶴圃 発行 濱住松二郎著 P.120 C 『鋳造工学』 社団法人 日本鋳造工学会 2002January Vol.74 P.45〜P.49など<要約> ☆ Na添加による共晶Siの微細化(改良処理):A,Bに記載 ・ 亜共晶Si合金にのみ効果有り。 ・ 石膏鋳造のような溶湯凝固の極めて遅い鋳物に対しては改良効果薄い。 ・ Fe晶に対する改良効果無し。 ☆ P添加による初晶Siの微細化:A,Cに記載 ・ 過共晶Si合金の初晶Siについてのみの組織改良効果が記載されている。 ・ Fe晶に対する改良効果は記載されていない。(本発明の改良効果は発見されていない。) このように、亜共晶Si合金へのP添加による、共晶Si組織の改良効果や、Feを主要元素として含むアルミ合金へのP添加による、Fe晶組織の改良効果は、今回、本発明者が初めて発見した内容と言える。 ここで参考のために、『亜共晶Si合金,過共晶Si合金』、『初晶,共晶』について図8を用いて説明する。 亜共晶Si合金;溶湯が凝固して行く際、まず最初にアルミニウム(α相)が固体として現われ、固−液共存領域温度範囲内ではSiの固体を一切発生させず、『共晶線』を下回った瞬間にSiの固体(共晶Si)を発生させるタイプのアルミ合金。 過共晶Si合金;溶湯が凝固して行く際、まず最初にSiが固体(初晶Si)として現われ固−液共存領域温度範囲内ではアルミニウムの固体を一切発生させず、『共晶線』を下回った瞬間に、Siの固体(共晶Si)とアルミニウムの固体(α相)を発生させるタイプのアルミ合金。 初晶Siは『多角形粒状』。共晶Siは、『微細粒状』,もしくは『針状』,『薄い平板状』の形態である。 以下に各発明の実施例を示す。 同一アルミ合金材からワイヤ放電加工により4×4×12mmの試験片を3本作成し、これらを『3点ジャッキ』として、1枚約24kgの分銅を1〜10枚載せ、分銅1枚当たりで試験片に0.5kgf/mm2の圧縮応力を作用させられる様な試験治具の構成とした。(分銅を載せる枚数で試験片に印加する圧縮応力を調整。)試験治具ごと加熱炉(熱風循環炉)に投入し、試験片のL寸法(12mm)の経時変化を断続的に計測した。試験片の治具への脱着時の時間短縮(治具の温度降下防止の意図もある)、および試験片への偏荷重発生を防止する為に、メートル台形ネジ3本を治具に設置し、これをジャッキアップ脱着装置として活用する方式とした。試験片は表2の7種類のアルミ合金鋳物から採取した。なお、上記試験片は、クリープ試験前に全て300℃×12hrの加熱後空冷と言う『過時効熱処理』を施したものを使用した。 L方向変形量の経時的変化を図9〜図12に示す。また各図のデータと近似式を表3〜表6に示す。 これらのクリープ試験結果で、圧縮クリープによる変形量ΔLと、経過時間tの間には、ΔL = A・ln(t) + Bなる関係が成り立っている事が見て取れる。 先の試験片の断面の組織写真を撮影し、この写真データを画像解析する形で組織解析も実施した。この組織解析では、α晶、Fe系晶出物、Si系晶出物の3つの区分分けをし、それぞれについて、一つの結晶粒を長方形とみなした場合の寸法特性とアスペクト比(縦横比)を、結晶粒一つ一つについて算出し、これらの最大値、最小値、平均値、標準偏差を求めるという方法で行なった。 このような組織解析結果より、以下の3つを組織パラメータとして説明変数にとる事とした。 1)1mm2当たりのα晶長手寸法の総和 (α晶長手寸法平均値×1mm2当たりのα晶粒数で算出) 2)1mm2当たりのFe系晶出物長手寸法の総和 (Fe晶長手寸法平均値×1mm2当たりのFe晶粒数で算出) 3)1mm2当たりのSi系晶出物長手寸法の総和 (Si晶長手寸法平均値×1mm2当たりのSi晶粒数で算出) また合金元素パラメータとして、表2の成分分析結果のうち、Si,Mg,Cu,Feの4元素の含有量も説明変数にとる事にした。そして、目的変数には請求項1の近似式のA,Bを取り、多変量解析する事で、A,Bを上記説明変数と印加圧縮応力で回帰した(本試験結果は加熱保持温度200℃一定の為、加熱保持温度は説明変数から除外)。 組織パラメーター系説明変数のみを使用した場合の多変量解析結果を表7に、合金元素量系説明変数のみを使用した場合の多変量解析結果を表8に示す。 先に説明したとおり、目的変数のうちAの方が、該当材料の真のクリープ特性を代表している変数であると考えられるので、目的変数Aに関する解析結果のみについてまとめると以下の様になる。組織パラメータ系の説明変数の解析結果からは、 ☆ 1mm2当たりのα晶の長手寸法総和が短いα晶状態にする。 ☆ 1mm2当たりのFe晶の長手寸法総和が長いFe系晶出物状態にする。 ☆ 1mm2当たりのSi晶の長手寸法総和が短いSi系晶出物状態にする。程、圧縮クリープ変形抵抗が大きくなる事が判る。 合金元素系の説明変数による解析結果からは、 ☆ Si,Mg,Cu,Fe全てにつき、添加量を増加した方が、クリープ抵抗を増大させられる。 ☆ このクリープ抵抗増大効果の高い順番は、1:Cu,2:Mg,3:Fe,4:Siで、 ☆ Siの添加効果を100とした場合の、その他の添加元素のクリープ抵抗増大効果は、 Cu:413, Mg:339, Fe:136 となり、固溶元素及び時効析出物形成元素の方が、晶出物形成元素のクリープ抵抗増大効果より3〜4倍ほど大きいと言う事が判る。 以上の様に請求項2を用いると、従来定量的に把握しづらかった、アルミ合金のクリープ特性と組織状態、合金元素量との関係を、定量的に把握出来る様になるのである。 ここで注意しておかなければならないのは、先の多変量解析結果だけを見れば、 ☆ 固溶元素、時効析出物、晶出物の数を増加 ☆ 添加元素量を増加させるほど、良い合金と言う勘違いをする危険性があるが、決してそうでは無い。 金属材料としての適度な靭性(伸び)を維持する為には、時効析出物や晶出物の数には上限値が存在し、添加元素についても添加元素間の結合等の影響で、本解析結果の様なクリープ特性改善が得られない場合も当然存在する。(今回実験で用いた合金種は、添加元素間の結合による『特性改善効果の減退』が起こりづらい成分配合のものである。)この事を十分理解した上で、この解析結果を利用する事が必須となる。(試験内容) 1) 試験鋳造合金 下記の2水準 AC4F (但しFe0.7%添加品) AC7A改(Mg3.5%,Si0.3%,Fe0.7%狙い品) 2) P添加量 下記の7水準 0ppm,20ppm, 40ppm,80ppm,160ppm,320ppm,1000ppm これらの水準で、図13に示す石膏鋳型と船型金型(30×45×200程度のインゴットケース)に鋳込む事で、図14に示す徐冷鋳物試験片と急冷鋳物試験片を製作し、この断面組織観察を行う事で、P添加による組織の改良効果を確認した。また、試験片鋳造時に、組織観察部位近傍での、溶湯の凝固冷却曲線を全数採取した。溶湯へのP添加は、KBAlloys,Inc.製のALCUP剤を使用した。(鋳造15分前に溶湯に添加) 各試験片の成分分析結果は表9に示すとおりであり、各試験片の溶湯凝固・冷却時間実測結果は表10に示す通りである。なお、表10中の経過時間は、図15に示すとおりである。 各試験片の断面観察写真を画像データ化し、画像解析にて晶出物等の組織パラメータを定量化した。なお、ここでは認識しづらいα晶形状の定義は避け、晶出物をA.群落(Si晶+Fe晶の絡み合ったもの),B.Si晶(一粒単位),C.Fe晶(一粒単位)の3水準に分けて手作業で形状認識し解析した。 A.の群落認識に用いた組織写真画像データは、以下の様なものとした。 ☆金型鋳造品は1280ピクセル×1000ピクセル(0.8500mm×0.6641mm視野)のものを各一枚。 ☆石膏鋳造品は1280ピクセル×1000ピクセル(3.3980mm×2.6547mm視野)のものを各一枚。 B. C.のSi晶,Fe晶一粒単位の認識に用いた画像データは、 ☆金型鋳造品は1280ピクセル×1000ピクセル(0.4250mm×0.3320mm視野)のものを各一枚。 ☆石膏鋳造品は1280ピクセル×1000ピクセル(0.8450mm×0.6602mm視野)のものを各一枚。 各組織写真画像データはカラー写真であり、特許図面としてはなじまないので省略する。 この画像解析から、P添加による組織改良の定性的傾向として、1) 金型鋳造品、石膏鋳造品 及びAC4F合金、AC7A合金品ともに、Pの添加により、晶出物の分布状態(群落形成状態)が均一となる事が組織写真から見て取れる。2) 特にAl−Si系合金であるAC4FのP添加による組織変化は明瞭である。 この組織変化で特徴的なのは、Pが存在しない場合は共晶Siの群落が、無数の細かなSi晶で構成されているのに対し、Pを添加する事で、その群落が少数の比較的大きなSi晶で構成される形態に変化する事である。 その様子を図16に示す。また組織解析結果の定性的解釈を図17に示す。 定性的には、P添加により、合金中のSi含有量が(Fe含有量に比べて)多い場合には、Si晶の晶出数を減じ、その一粒ずつの面積を増加させ、晶出物の群落形成を均一にする効果が有り、その逆の場合には、Fe晶の晶出数を増加させ、Fe晶を均一に分散させる効果が有ると推定される。(Si晶,Fe晶の分布状態、大きさを間接的に決定づける『α晶』の晶出状態を均一にする効果もPには有るものと推定される。) 次に、P添加による組織改良の定量的解析を行った。 AC4F合金(Si量>Fe量),AC7A改合金(Si量<Fe量)で区分分けし、<目的変数>・ 1mm2あたりのSi晶の長手寸法の総和(mm)・ 1mm2あたりのFe晶の長手寸法の総和(mm)<説明変数>・ 鋳型材区分(金型:0,石膏:1)・ P添加量(ppm)・ 溶湯凝固,冷却時間T1〜TEの総和(sec.)・ Ca含有量(ppm) AC4F合金の解析時のみ説明変数に導入(※AC7A改合金は、Ca含有量の変動が少なく、説明変数に導入すると、多変量解析時に解が発散してしまう為、Ca含有量を説明変数から除外する。)で多変量解析(重回帰分析)し、各合金材へのP添加による組織改良特性の定量化を試みた。<解析結果> 表11に示す。 上記の定量的解析により、AC7A改合金の1mm2あたりのSi晶の長手寸法の総和(mm)を目的変数とした重回帰分析結果以外は、P添加によりクリープ特性が良好になる傾向を示している事が判る。 AC7A改合金の1mm2あたりのSi晶の長手寸法の総和(mm)を目的変数とした重回帰分析結果は、(全体のSi含有量が少ない事も起因して)重回帰係数が低く、P添加の有無に関わらずSi晶の長手寸法の総和特性は、ほぼ一定であると見なすことも出来る事から、AC7A改合金にPを添加する事で該当合金のクリープ特性が劣化する傾向を示すとは言えない事から、請求項3,4に矛盾しないものと言える。 この様に、アルミ合金溶湯へのP添加により、クリープ変形抵抗を高められるSi晶、Fe晶の形態へと鋳物組織を改良する事が可能となる。 また、この改良効果は、石膏鋳造の様な徐冷鋳物に対しても有効である事も本発明独自のものである。 この様に本発明を用いれば、これまで困難であったアルミ合金のクリープ特性評価・定式化を簡便に行うことができ、また、様々なアルミ合金で定式化されたクリープ特性式(近似式)の時間係数項を目的変数とし、合金元素量、組織パラメータなどを説明変数として多変量解析すれば、アルミ合金のクリープ特性を高められる最適な合金元素量、組織パラメータを定量化出来る。更に、上記目的のための具体的な組織パラメータ改良方法についても、溶湯へのP添加という手法で簡易に提供する事が出来る。この様に高温使用用途のアルミ合金に対して、本発明が持つ意義は極めて大きいと言える。 最後に、具体的な改良合金組成を表12と表13に示す。これらはJIS規格の鋳造向けアルミ合金各種を本発明により改良した事例であり、表12は鋳物用アルミニウム合金各種の改良事例であり、表13はダイキャスト用アルミニウム合金各種の改良事例である。P添加量を10〜100ppmとしてあるのは、10ppm未満では組織改良が少なく、100ppmを越えると、添加時に焼失消耗が激しく添加効率が悪い為である。転位の増殖の模式図である。クリープ試験片の形状説明図である。クリープ曲線を示す模式図である。請求項1の発明の実施形態の説明図である。請求項1の発明の実施形態の説明図である。クリープ特性を示すグラフである。クリープ特性を示すグラフである。Al-Si2元合金の平衡状態図である。クリープ試験結果のグラフである。クリープ試験結果のグラフである。クリープ試験結果のグラフである。クリープ試験結果のグラフである。実施例3に用いた鋳型の断面図である。実施例3に用いた鋳造品の断面図である。表10中の経過時間の説明図である。P添加による組織改良の定性的傾向を示す組織図である。組織解析結果の定性的解釈の説明図である。符号の説明 1 試験片 2 定盤 3 分銅 4 加熱炉 定盤上に、同一アルミ合金材から作成した直方体形状若しくは平滑な円筒形状の試験片3本を正三角形の頂点位置に3等配し、これら3本の試験片にほぼ均等な圧縮応力σを印加出来る分銅を載せ、所定の温度Tに加熱保持し、試験片の経時寸法変化を測定し、3本の試験片の寸法変化量の平均値ΔLと経過時間tの関係を、 ΔL=A・ln(t)+B・・・(1)(A,Bは合金材、印加圧縮応力σ、加熱保持温度T毎に決まる定数)の(1)式で近似することにより、該当合金材のクリープ特性を定式化することを特徴とするアルミ合金材のクリープ特性評価・定式化方法。 請求項1の発明に用いられる3本の試験片そのもの若しくは同一合金材から別途製作しておいた試験片の断面組織観察と、合金成分分析を行い、主要晶出物の寸法・形状数値(α1,α2,・・・)と添加元素量の実測値(β1,β2・・・)を得、目的変数にA及びBを用い、説明変数にσ,T,(α1,α2,・・・),(β1,β2,・・・)を取り多変量解析し、請求項1中のΔL=A・ln(t)+Bの(1)式中のA,Bの予測式を構築することにより、該当アルミ合金のクリープ特性と合金成分、組織状態の相関性を定量化することを特徴とするアルミ合金のクリープ特性の予測方法。 Siを主要な成分元素として含有するアルミ合金鋳物を製作する際に、鋳造用の溶湯にPを添加することで、単位面積あたりに初晶および共晶晶出するSi晶一粒一粒の長手寸法の総和を減少させ、該当鋳物のクリープ変形抵抗を増加させることを特徴とするアルミ合金鋳物の製造方法。 Feを主要な成分元素として含有するアルミ合金鋳物を製作する際に、鋳造用の溶湯にPを添加する事で、単位面積あたりに初晶および共晶晶出するFe晶一粒一粒の長手寸法の総和を増加させ、該当鋳物のクリープ変形抵抗を増加させることを特徴とするアルミ合金鋳物の製造方法。 【課題】アルミ合金材料のクリープ特性を簡易に求められる評価方法と、そのクリープ特性と合金成分、組織状態の相関性を定量化できる技術を提供する。【解決手段】アルミ合金材から作成した3本の試験片1を定盤2上の正三角形の頂点位置に配置し、これら3本の試験片にほぼ均等な圧縮応力σを印加出来る分銅3を載せ、所定の温度Tに加熱保持し、試験片の経時寸法変化を測定し、3本の試験片の寸法変化量の平均値ΔLと経過時間tの関係を、ΔL=A・ln(t)+Bの式で近似することにより、合金材のクリープ特性を定式化する。請求項2では、試験片の断面組織観察と、合金成分分析を行い、主要晶出物の寸法・形状数値(α1,α2,・・・)と添加元素量の実測値(β1,β2・・・)を得、多変量解析により式中のA,Bの予測式を構築することにより、該当アルミ合金のクリープ特性と合金成分、組織状態の相関性を定量化する。【選択図】図4