タイトル: | 特許公報(B2)_高分子多孔質体の製造方法 |
出願番号: | 2006166113 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C08F 212/14,C08F 2/32,C08F 8/00,C07C 35/17,B01J 20/26 |
高田 仁 井上 洋 山口 将憲 伊藤 伸浩 JP 5101841 特許公報(B2) 20121005 2006166113 20060615 高分子多孔質体の製造方法 オルガノ株式会社 000004400 北興化学工業株式会社 000242002 赤塚 賢次 100098682 福田 保夫 100071663 阪田 泰之 100131255 高田 仁 井上 洋 山口 将憲 伊藤 伸浩 20121219 C08F 212/14 20060101AFI20121129BHJP C08F 2/32 20060101ALI20121129BHJP C08F 8/00 20060101ALI20121129BHJP C07C 35/17 20060101ALI20121129BHJP B01J 20/26 20060101ALI20121129BHJP JPC08F212/14C08F2/32C08F8/00C07C35/17B01J20/26 C C08F 212/14 B01J 20/26 C08F 2/32 C08F 8/00 C07C 35/17 特開2004−107287(JP,A) 国際公開第2005/035774(WO,A1) 5 2007332283 20071227 14 20081226 和田 勇生 本発明は、ホウ酸選択結合能を有する高分子多孔質体の製造法に関するものである。 シロ−イノシトールは次の立体構造式;で表される既知の化合物である。 シロ−イノシトールはミオ−イノシトールの立体異性体の一つで動物、植物中に広く見出される物質である。またシロ−イノシトールはホウ酸と結合する能力を有し(非特許文献1)、下記構造式に示すように、シロ−イノシトール1分子に対して最大ホウ酸2分子(例としてNa塩を示す)の複合体を形成することが知られている。 一方、ホウ素は天然にホウ酸として存在するが、高濃度のホウ素は生体に影響を及ぼすことが知られている。ホウ素は環境中への排出規準が厳しく定められており、農薬、めっき、ガラス、ホウロウの製造工程から排出されるホウ素含有廃液の処理が課題となっている。これまでホウ素の除去には共沈法が用いられてきているが、多量の化学薬品を使用すること、処理後には大量のスラッジが発生することなど種々の問題点があった。 これに対し、イオン交換樹脂のような粒子状物質では固液接触面積が小さく、また粒子内への物質拡散が遅いため、カラムなどに粒子を充填した場合に反応が遅くなる、吸着帯が長くなり装置が大型化してしまうなどの問題があった。 一方、特開2004 −66153号公報には、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内にメソポアを有する連続気泡構造を有する有機多孔質体にホウ素と錯体を形成するN−メチル−D−グルカミンを導入したモノリス状有機多孔質体が開示されている。また、特願2004−364203号には、ホウ酸結合能力を有するシロ−イノシトールが官能基として導入された高分子が記載されている。「Journal of Organic Chemistry」、米国23巻、329〜330頁(1958年)(全文:シロ−イノソースのNaBH4還元及びシロ−イノシトールホウ酸複合体の構造決定)特開2004 −66153号公報(請求項1)特願2004−364203号(請求項1、段落0022、0023) しかしながら、特開2004 −66153号公報に記載のモノリス状有機多孔質体は粒子状物質に比べ連続気泡構造を有するため被処理液との接触効率が極めて高く、除去効率が高いものの、官能基1分子に対して1分子のホウ酸しか結合せず、官能基の利用効率が低いという問題点があった。また、特願2004−364203号には、シロ−イノシトール固定化用の誘導体を用いて油中水滴型エマルジョンを作製することの詳細な記載はなく、実際に、シロ−イノシトール固定化用の誘導体を共重合用モノマーと共に、攪拌混合しても、安定した油中水滴型エマルジョンが得られないという問題がある。 従って、本発明の目的は、重合性シロ−イノシトールと共重合用モノマーと水を攪拌混合して、安定した油中水滴型エマルジョンを作製でき、且つ優れたホウ酸選択結合能を有し、除去効率も極めて高い高分子多孔質体を製造する方法を提供することにある。 かかる実状において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、保護基のない重合性シロ−イノシトールは水に対する親和性があるため、油中水滴型エマルジョンを作製し難いこと、保護基の付いた重合性シロ−イノシトール誘導体は粘凋物質であるため、同様に油中水滴型のエマルジョンを作製できないことがあること、従って、重合性シロ−イノシトール誘導体として、油溶性のものを用い、更に油中水滴型エマルジョンを調製する前に、該油部の粘度を所定値以下としておけば、油中水滴型エマルジョンを安定して作製でき、且つ得られた高分子多孔質体は、優れたホウ酸選択結合能を有し、除去効率も極めて高いことなどを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、油溶性重合性シロ−イノシトール誘導体(以下、単に「重合性シロ−イノシトール誘導体」とも言う。)及び架橋性モノマーを含有し、25℃における粘度が10Pa・s以下の油部と、水を攪拌混合して、油中水滴型エマルジョンを調製する工程と、油中水滴型エマルジョンを重合する工程とを有することを特徴とする高分子多孔質体の製造方法を提供するものである。 本発明の製造方法によれば、重合性シロ−イノシトール誘導体および架橋性モノマーを含有する油部と、水を攪拌混合すれば、重合性シロ−イノシトール誘導体の疎水性が高まり、且つ油部が、油中水滴型エマルジョンを安定して形成できる粘度となっているため、油中水滴型エマルジョンを確実に調製できる。また、重合して得られた高分子多孔質体は、優れたホウ酸選択結合能を有し、除去効率も極めて高い。 本発明の高分子多孔質体の製造方法において、重合性シロ−イノシトール誘導体は、架橋性モノマーと共重合するものであり、少なくとも5つの水酸基が保護基で保護され、且つシロ−イノシトールの炭素骨格に結合する少なくとも1つの水素原子がリンカー分子に置換されたものである。少なくとも5つの水酸基を保護基で保護することで、油溶性を高めることができ、より安定して油中水滴型エマルジョンを作製することができる。また、好適な重合性シロ−イノシトール誘導体としては、次式(1);(式中、nは0〜20、R1は炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基または下記一般式(2);(式中、R4〜R6は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を示し、R7は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基を示す。)で表されるフェニル基を示し、R2は保護基を示し、R3は水素原子又は保護基を示し、R2及びR3の保護基は同一又は異なっていてもよい。)で表される化合物が挙げられる。 nの好ましい範囲は、0〜5であり、R1の好ましい基は、炭素数2〜10のアルケニル基または一般式(2)で表されるフェニル基であり、R3の好ましい基は、保護基であり、特に好ましくはR2と同じ保護基である。 保護基としては、トリアルキルシリル基、アシル基、ベンゾイル基、アルキル基、トリフェニルメチル基、アセタール基、ケタール基等が挙げられる。これらの基の中、トリメチルシリル基が、保護基の脱離が比較的容易である点で好ましい。トリメチルシリル基は少量の酸とアルコールで脱離できる。 特に好ましい重合性シロ−イノシトール誘導体は、1−C−アリル−シロ−イノシトールトリメチルシリル、1−C−p−ビニルベンジル−シロ−イノシトールトリメチルシリル、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールトリメチルシリルである。 本発明において、重合性シロ−イノシトール誘導体の使用量は、全油溶性モノマー中、1〜75モル%、好ましくは10〜50モル%とすることが、重合して得られた高分子多孔質体に、優れたホウ酸選択結合能を付与でき、除去効率を高めることができる点で好ましい。 重合性シロ−イノシトール誘導体の製造方法として、例えばシロ−イノソースを原料にした方法を示す。シロ−イノソースの5つの水酸基を保護基であるトリアルキルシリル基で保護化して得られたシロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体を精製し、次いでグリニア反応で当該シロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体にリンカー分子をカップリングさせる方法が挙げられる。 原料のシロ−イノソースとしては、特開2003−102492号公報に記載されるようなミオ−イノシトールから微生物醗酵で製造したもの、ミオ−イノシトールを酸化白金で酸化したシローイノソースなどを使用することができる。水酸基の保護は、シローイノソースの5つの水酸基を保護するために5モル当量以上必要とされる。保護反応は、トリアルキルシリルクロライドを使用し、アルキル部分がメチル、エチル、プロピル、イソプロピルのものが好適である。反応溶媒は、3級アミン又はピリジンを5モル当量以上加えればよく、追加溶媒として酢酸エチルやTHFを添加することができる。反応温度は50〜80℃、好ましくは70℃であり、反応時間は1〜5時間、好ましくは2時間である。反応初期においては、シローイノソースを溶解させるため、攪拌するのがよい。精製は少量の水を加えて反応停止させ、その後、ヘキサンやトルエンなどの非極性溶媒を加えて、生成するピリジン塩酸塩を沈殿させ、これを濾過し、ろ液の有機溶媒を水又は炭酸水素ナトリウム水で洗浄し、塩やピリジンを除去すればよい。有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムなどで脱水させた後、溶媒を留去、濃縮し、水酸基が保護されたシロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体を単離できる。アルキル基がメチルのシロ−イノソースペンタトリメチルシリル体は、特開2004−107287号公報に記載の方法に準拠して製造することができる。 トリアルキルシリル基以外の保護基を形成させる方法としては、アシル化、ベンゾイル化、アルキル化、トリフェニルメチル化、金属とのイオン対形成反応、アセタール化、ケタール化など公知の方法が挙げられる。 次ぎに、シロ−イノソースペンタトリアルキルシリル体を、脱水したTHFに溶解して溶液を得、攪拌下で、当該溶液にリンカー分子のグリニア試薬を、1モル当量以上滴下する。当該グリニア試薬としては、アルケニルマグネシウムクロライド、アルキニルマグネシウムクロライド、炭素数2〜10のアルケニル基又は炭素数2〜10のアルキニル基で置換されたフェニルマグネシウムクロライド、アルケニルマグネシウムブロマイド、アルキニルマグネシウムブロマイド、炭素数2〜10のアルケニル基又は炭素数2〜10のアルキニル基で置換されたフェニルマグネシウムブロマイドが挙げられる。これら試薬の具体例としては、ビニルマグネシウムクロライド、ビニルマグネシウムブロマイド、アリルマグネシウムクロライド、アリルマグネシウムブロマイド、p−ビニルベンジルマグネシウムクロライド、p−ビニルベンジルマグネシウムブロマイド、p−ビニルフェニルマグネシウムクロライド、p−ビニルフェニルマグネシウムブロマイドが挙げられる。反応温度は−5〜40℃、好ましくは20℃、反応時間は30分〜5時間、好ましくは1時間である。 グリニア反応後、リンカー分子が結合した炭素原子には、水酸基が残るため、必要に応じて、当該水酸基を保護することができる。当該水酸基を保護するために、例えばトリアルキルシリルクロライドの1モル当量以上が必要とされる。保護反応条件は、前記のシローイノソースの5つの水酸基を保護する反応条件と同様にすればよい。これにより、重合性シロ−イノシトール誘導体の油溶性が一層向上し、安定な油中水滴型エマルジョンを得ることができる。 精製は少量の水を加えて反応停止させ、その後、ヘキサンやトルエンなどの非極性溶媒を加えて、生成するハロゲン化マグネシウム塩を沈殿させ、これを濾過し、ろ液の有機溶媒を水で洗浄し、残存する塩を除去すればよい。 架橋性モノマーとしては、重合可能なビニル基等を少なくとも2つ以上含むものであり、例えばジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニル、ジビニルフェナントレン、ビス(ビニルフェニル)スルホン、エチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。一般的に市販の架橋性モノマーは純度が低く、特にジビニルベンゼンは、50%前後の純度で、残部は例えばエチルビニルベンゼンやジエチルベンゼンを含むものである。従って、ジビニルベンゼンの使用量が多いときは、油溶性希釈剤を用いることなく、油部の粘度を上記の粘度範囲以下とすることができる。これらの架橋性モノマーは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、本発明において、架橋性モノマーの使用量は、全油溶性モノマー中、5〜95モル%、好ましくは10〜70モル%とすることが、重合体に必要な機械的強度を付与することができる点で好ましい。 重合性シロ−イノシトール誘導体及び架橋性モノマーを必須の構成成分として含有する油部は、25℃における粘度が10Pa・s以下、好ましくは3Pa・s以下、特に好ましくは0.4Pa・s以下である。粘度が10Pa・sを超えると、油中水滴型エマルジョンを安定して得ることができなくなる。粘度の下限値は特に制限されないが、水の粘度1mPa・s程度であればよい。粘度の調整方法としては、油溶性希釈剤を添加する方法が挙げられる。なお、架橋性モノマーの種類及び使用量によっては油溶性希釈剤を添加することなく、無調整で上記の粘度範囲のものを得ることができる。なお、油部には重合性シロ−イノシトール誘導体及び架橋性モノマーの他、任意成分である油溶性希釈剤や油溶性重合開始剤が含まれる。 油溶性希釈剤は、高い粘凋性を有する重合性シロ−イノシトール誘導体の希釈剤として使用するものであり、水に対する溶解性が低い油溶性分子が使用できる。油溶性希釈剤としては、重合活性を有する油溶性希釈剤又は重合不活性な油溶性希釈剤を用いることができる。重合活性を有する油溶性希釈剤の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、ビニルベンジルクロライド、エチルビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられ、このうち、スチレン、ビニルベンジルクロライドが、強度が高く、且つ割れに強い高分子体が得られる点で好ましい。これら重合活性な油溶性希釈剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これら重合活性な油溶性希釈剤は、油部の粘度を低下させると共に、高分子多孔質体の機械的強度を高めることができる。 重合不活性な油溶性希釈剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族炭化水素化合物、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル系化合物、ドデカノールなどの高級アルコールが挙げられる。これら重合不活性な油溶性希釈剤は1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでもトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物が好ましい。 本発明において、油溶性希釈剤として重合不活性な油溶性希釈剤を使用した場合、あるいは重合活性な油溶性希釈剤の配合量が少ない場合、前記架橋性モノマー以外の油溶性モノマーを配合することが、高い機械的強度の高分子体を得ることができる点で好ましい。なお、油溶性モノマーとしては、前記重合活性な油溶性希釈剤と同じものが挙げられる。 本発明において、油溶性希釈剤の使用量は、油部が前記所定の粘度範囲になるように適宜配合されるが、具体的には重合性シロ−イノシトール、架橋性モノマー、油溶性希釈剤及び必要に応じて使用される油溶性重合開始剤の合計量中、85重量%以下、好ましくは20〜85重量%である。油溶性希釈剤の含有量が85重量%を越えると、重合性シロ−イノシトールや架橋性モノマーの配合量が少なくなり過ぎて、所望の機械的強度やホウ素除去効果が得られなくなる。 本発明において、上記油部と水を攪拌混合して、油中水滴型エマルジョンを調製する工程を行う。該油部と水を攪拌混合する際、界面活性剤や重合開始剤を使用すれば安定な油中水滴型エマルジョンを得ることができる。 界面活性剤は、油部と水とを混合した際に油中水滴型エマルジョンを形成できるものであれば特に制限は無く、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の非イオン性界面活性剤;オレイン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム等の陰イオン界面活性剤;ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤;ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤は、1種単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量は、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。 重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生しうる化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。ただし場合によっては重合開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では重合開始剤の添加は不要である。 エマルジョンを形成させるための混合装置としては、被処理物を混合容器に入れ、該混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることで、被処理物を攪拌混合する、所謂遊星式攪拌装置と称されるものや、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径や粒径分布を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件は、目的のエマルジョン粒径や分布を得ることができる撹拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。なお、上記油部と水の混合比は、重量比で油部/水=2/98〜50/50、好ましくは5/95〜30/70の範囲で任意に設定することができる。 重合性シロ−イノシトール、架橋モノマー、水、油溶性希釈剤、界面活性剤、水及び重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限は無く、各成分を一括して一度に混合する方法、油部と水と界面活性剤を混合する方法、それぞれの成分を順次混合する方法等が挙げられ、この中、予め調製した油部と、水と界面活性剤を混合する方法が、油部の粘度調整が容易となる点で好ましい。各成分を一括して一度に混合する方法においては、予め、油部のみ調整して粘度を直接測定しておくか、又は油部の粘度を計算により求めておく。なお、重合性イノシトール誘導体の粘凋性が著しく高く、分取が困難である場合は、冷却などによりこれを固化させた後に粉砕したものを油溶性希釈剤中で均一に溶解させて用いることもできる。また、必ずしも必須ではないが、高分子多孔質体の気泡形状やサイズを制御したり、ミクロポアを形成するため、メタノール、ステアリルアルコール等のアルコール; ステアリン酸等のカルボン酸; オクタン、ドデカン等の炭化水素化合物を系内に共存させることもできる。 次に、油中水滴型エマルジョンを重合する工程を行う。重合条件は、モノマーの種類、重合開始剤により様々な条件を選択することができる。例えば、重合開示剤としてアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密閉容器内において、30〜100℃で1〜48時間、加熱重合させればよく、重合開始剤として過酸化水素−塩化第1鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウムなどを用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、0〜30℃で1〜48時間重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノール等の溶剤でソックスレー抽出し、未反応モノマーと残留界面活性剤を除去して高分子多孔質体を得る。 本発明において、油中水滴型エマルジョンを重合する工程後、共重合されたシロ−イノシトール誘導体の保護基を外す工程を行う。共重合されたシロ−イノシトール誘導体の保護基を外す方法としては、水又はメタノールやエタノールのような低級アルコール中で、少量の酸触媒で洗浄する方法が挙げられる。 本発明の製造方法で得られたホウ素選択的結合能を有する高分子多孔質体の基本構造は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に孔径が0.02〜200μm、好ましくは0.2〜200μm、特に好ましくは5〜120μmのメソポアを有する連続気泡構造である。すなわち、連続気泡構造は、通常、孔径0.4〜1000μmのマクロポアとマクロポアが重なり合い、この重なる部分が共通の開口となるメソポアを有するもので、その部分がオープンポア構造のものである。オープンポア構造は、液体を流せば該マクロポアと該メソポアで形成される気泡構造内が流路となる。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個である。メソポアの孔径が0.02μm未満であると、液体透過時の圧力損失が非常に大きくなってしまうため好ましくない。一方、メソポアの孔径が200μmを越えると、液体と高分子多孔質体との接触が不十分となり、その結果、ホウ素選択的結合特性が低下してしまうため好ましくない。高分子多孔質体の構造が上記のような連続気泡構造をとることにより、マクロポア群やメソポア群を均一に形成できると共に、F.Svec,Science,273,205〜211(1996)等に記載されているような粒子凝集型多孔質イオン交換体に比べて、細孔容積を格段に大きくすることができる。 また、該ホウ素選択的結合能を有する高分子多孔質体は、1〜50ml/gの全細孔容積を有するものである。全細孔容積が1ml/g未満であると、単位断面積当りの透過液体が少なくなってしまい、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が50ml/gを超えると、該高分子多孔質体の強度が著しく低下してしまうため好ましくない。全細孔容積は、従来の多孔質状合成吸着剤やイオン交換樹脂では、せいぜい0.1〜0.9ml/gであるから、それを超える従来にはない1〜50ml/g、好ましくは3〜50ml/gの高細孔容積のものが使用できる。 本発明の製造方法により得られたホウ素選択的結合能を有する高分子多孔質体を用いることにより、ホウ酸含有水のホウ酸除去処理又はホウ酸の回収を行うことができる。共重合体に導入されたシロ−イノシトール基は、通常状態では例えば6つの水酸基は全て、エカトリアル方向に配位している。ここに、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどで、pH5.5以上、好ましくはpH8〜10に調整されたホウ酸を含有する溶液を作用させると、6つの水酸基はアキシャル方向に配位し、2分子のホウ酸と結合する。結合後のシロ−イノシトール基は、ホウ酸に由来する2価の陰イオンになり、酸性度は強くなり、陽イオンを結合することができる。また、当該反応は吸熱反応であり、ホウ酸結合時の温度は20〜120℃、好ましくは50〜70℃のように高い方がよい。更に、Na+などのカウンター陽イオンを含むことにより、より結合し易くなる。また、結合されたホウ酸を遊離するには、溶液のpHを酸で酸性にすることにより、速やかにホウ酸が放出される。使用する酸としては、塩酸、硫酸などの鉱酸が好ましい。この時、2分子のホウ酸と結合していた6つの水酸基(アキシャル方向に配位)は、エカトリアル方向に配位する。 ホウ素選択的結合能を有する高分子多孔質体は、被処理液中のホウ素を除去しようとする全ての用途で適用することができ、その用途は特に限定されないが、特に、純水、超純水、産業排水、地下水、河川水および飲料水中の微量ホウ素除去に好適に用いることができる。なお、ホウ素含有水は、pH5.5以上、好ましくは8〜10に調整して使用する。ホウ素含有水から、上記ホウ素選択的結合能を有する高分子多孔質体を用いて、ホウ酸を結合、遊離させる方法としては、バッチ式またはカラム式が挙げられる。 次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。実施例1 予め1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールトリメチルシリル体0.5gと架橋性モノマーであるジビニルベンゼン0.5gを混合し、均一に溶解させ、25℃の粘度が0.03Pa・s(粘度B)の混合物を得、次いで、該混合物、油溶性希釈剤であるトルエン0.5gおよび重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.03gを混合し、均一に溶解させ、25℃の粘度が0.003Pa・s(粘度A)の油部を得た。油部中、油溶性希釈剤の濃度は約33重量%であった。次に当該油部と界面活性剤であるソルビタンモノオレエート0.2gを混合し、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールトリメチルシリル体/ジビニルベンゼン/ソルビタンモノオレエート/アソビスイソブチロニトリル混合物の全量を10gの純水に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、公転回転数1800回転/分、自転回転数600回転/分で2分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレエートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。次いで、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールトリメチルシリル体/ジビニルベンゼン共重合体を、濃塩酸/メタノール溶液中室温で一昼夜攪拌することにより、トリメチルシリル基を脱離させ、1−C−p−ビニルフェニル−シロイノシトール/ジビニルベンゼン共重合体を得た。油中水滴型エマルジョンの成否、油部(界面活性剤以外の原料の合計量)の25℃における粘度(粘度A)及び油溶性希釈剤の使用量(重量%)を表2に示した。なお、参考までにシロ−イノシトールトリメチルシリル体とジビニルベンゼンとの混合物の25℃における粘度を粘度Bとして併記した。表2中、油中水滴型エマルジョンの成否欄の「○」は油中水滴型エマルジョンが作製できたことを示し、「×」は油中水滴型エマルジョンが作製できなかったことを示す。表2の表示項目は以下の実施例及び比較例においても同様である。また、得られた高分子多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果を図1に示す。実施例2〜7 各原料及びその使用量を、表1に示すものとして、実施例1と同様の方法で1−C−p−ビニルフェニル−シロイノシトール/ジビニルベンゼン共重合体(実施例2及び5〜7)、又は1−C−p−ビニルフェニル−シロイノシトール/スチレン/ジビニルベンゼン共重合体(実施例3及び4)を作製した。比較例1 各原料及びその使用量を、表1に示すものとして、実施例1と同様の方法でシロイノシトール/ジビニルベンゼン共重合体を作製した。なお、比較例は油溶性希釈剤を使用せず、25℃における粘度が10Pa・sを越える油部とした例である。なお、比較例1のエマルジョンは相分離した不均一な状態となり、重合に適した油中水滴型エマルジョンは作製できなかった。比較例2 1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールトリメチルシリル体に代えて、1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトールを用いた以外は、実施例1と同様の方法で行った。すなわち、比較例2は保護基のない重合性シロ−イノシトールを使用したものである。なお、比較例2のエマルジョンは相分離した不均一な状態となり、重合に適した油中水滴型エマルジョンは作製できなかった。(ホウ酸除去実験) 実施例1で得られた1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトール/ジビニルベンゼン共重合体0.5gを、pH9に調整した78mM濃度のホウ素含有溶液100mlに24時間浸漬してホウ素除去率を求めた。その結果、24時間後のホウ素含有溶液(処理水)のホウ素濃度は23.4mMであり、ホウ素除去率70.0%であった。この結果から、効率的にホウ酸が除去されていることがわかった。また、吸着量からイノシトール1分子あたり1分子以上のホウ酸が吸着されていると推定された。 本発明の製造方法で得られた高分子多孔質体は、被処理液との接触効率が極めて高く、官能基1分子あたりのホウ酸吸着容量が高い、すなわち該高分子多孔質体中の官能基の利用効率が高い。これを用いたホウ酸除去モジュールは極めて高い有用性を有する。また本発明で用いたシロ−イノシトール誘導体に限らず、粘凋なモノマーを用いて多孔質体を製造する場合に、油溶性希釈剤を用いる方法は極めて有効である。実施例1の1−C−p−ビニルフェニル−シロ−イノシトール/ジビニルベンゼン共重合体の微細構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。 次式(1);(式中、nは0〜20、R1は炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基または下記一般式(2);(式中、R4〜R6は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を示し、R7は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基を示す。)で表されるフェニル基を示し、R2は保護基を示し、R3は水素原子又は保護基を示し、R2及びR3の保護基は同一又は異なっていてもよい。)で表される油溶性重合性シロ−イノシトール誘導体及び架橋性モノマーを含有し、25℃における粘度が10Pa・s以下の油部と、水を攪拌混合して、油中水滴型エマルジョンを調製する工程と、油中水滴型エマルジョンを重合する工程とを有することを特徴とする高分子多孔質体の製造方法。 該保護基は、トリアルキルシリル基、アシル基、ベンゾイル基、アルキル基、トリフェニルメチル基、アセタール基またはケタール基であって、該油中水滴型エマルジョンを重合する工程後、共重合されたシロ−イノシトール誘導体の該保護基を外す工程を行うことを特徴とする請求項1記載の高分子多孔質体の製造方法。 該油部に、油溶性希釈剤を更に含有させることを特徴とする請求項1又は2記載の高分子多孔質体の製造方法。 該油溶性希釈剤の配合量は、該油中、85%重量以下であることを特徴とする請求項3記載の高分子多孔質体の製造方法。 該高分子多孔質体は、ホウ酸結合能を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高分子多孔質体の製造方法。