生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_摂食抑制作用を有するペプチドを含有する組成物
出願番号:2006132273
年次:2009
IPC分類:A61K 38/00,A61P 43/00,A61P 3/04,A61P 3/10,A61P 3/06,A61P 9/12,A23L 1/305,A23J 3/16,A23J 3/34,C12P 21/06,A23K 1/16


特許情報キャッシュ

比良 徹 廣塚 元彦 中森 俊宏 原 博 浅野 行蔵 千葉 仁志 冨田 房男 JP WO2006132273 20061214 JP2006311426 20060607 摂食抑制作用を有するペプチドを含有する組成物 有限会社A−HITBio 503215963 国立大学法人 北海道大学 504173471 不二製油株式会社 000236768 前 直美 100113402 比良 徹 廣塚 元彦 中森 俊宏 原 博 浅野 行蔵 千葉 仁志 冨田 房男 JP 2005167862 20050608 A61K 38/00 20060101AFI20081205BHJP A61P 43/00 20060101ALI20081205BHJP A61P 3/04 20060101ALI20081205BHJP A61P 3/10 20060101ALI20081205BHJP A61P 3/06 20060101ALI20081205BHJP A61P 9/12 20060101ALI20081205BHJP A23L 1/305 20060101ALI20081205BHJP A23J 3/16 20060101ALI20081205BHJP A23J 3/34 20060101ALI20081205BHJP C12P 21/06 20060101ALI20081205BHJP A23K 1/16 20060101ALI20081205BHJP JPA61K37/02A61K37/18A61P43/00 111A61P3/04A61P3/10A61P3/06A61P9/12A23L1/305A23J3/16A23J3/34C12P21/06A23K1/16 303F AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20090108 2007520140 19 2B150 4B018 4B064 4C084 2B150DC23 4B018MD20 4B018MD58 4B018ME01 4B018MF12 4B064AG01 4B064CA21 4B064CB06 4B064CD22 4B064DA01 4B064DA10 4C084AA02 4C084BA03 4C084BA43 4C084BA44 4C084DC01 4C084NA14 4C084ZA422 4C084ZA702 4C084ZC332 4C084ZC352 本発明は、経口摂取することにより、摂食を抑制し、空腹感を低減させるペプチドおよびそれを含有する各種組成物等に関する。 糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病予防は、現代の先進国社会における重要な課題であり、これらの大きな原因である肥満を予防または改善することが望まれている。規則正しい食事摂取および摂取カロリーの制限こそが肥満を予防、改善する最善策と考えられるが、食物がありふれた現代社会において、その実行は困難である場合が少なくない。 肥満治療のために食欲を抑制する薬剤として、アンフェタミン類のマジンドールが実用化されている。しかし、この薬剤に付随する中枢への直接作用や習慣性などの危険性から、高度肥満患者のみにその使用は限られており、より安全な手法が望まれている。 消化管の内分泌細胞より分泌される種々のホルモン(消化管ホルモン)が食欲を抑制する機能を有することが知られている(非特許文献1〜4)。これらのペプチドホルモンは、経口投与の場合、消化管管腔内において容易に分解されるので、経口投与によって吸収させてその効果を発揮させることは困難であり、血中投与せざるを得ない。その場合、ペプチド合成にかかる高いコストと投与法の煩雑さといった課題が存在する。 しかし、これらの消化管ホルモンは、食事摂取が強い分泌刺激となって分泌されることから、これらのホルモンの分泌を効果的に刺激できれば、食品成分の経口投与という安全な手法により食欲を抑制することが可能となる。 コレシストキニン(Cholecystokinin、以下「CCK」と略称することがある)は、他の消化管ホルモン(GLP−1、PYY)などに先駆けて食欲を抑制する作用を有することが見いだされた消化管ホルモンであり、食事中の脂質、タンパク質、アミノ酸などにより分泌が刺激される(非特許文献2)。しかし、摂取カロリーの制限を目指す上で、エネルギー効率の高い脂質を用いるのは不適である。 動物試験において、大豆β−コングリシニン由来のペプチド(ペプシン分解物および合成ペプチド)によりCCK放出を刺激することができることは報告されている(特許文献1、非特許文献5〜6)。しかし、ペプシンで分解した場合はその基質特異性によりペプチドが末端に芳香族アミノ酸を含むため、苦みが強いという問題がある。一方、合成ペプチドは高コストである。したがって、ヒトに適用できる、低コストで実用的な、苦みが少なく摂取しやすいペプチド組成物の開発が望まれている。特開2004−10569Woods SC,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,286(1):G7−13,2004Moran TH,et al,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,286(2):G183−8,2004Moran TH,et al,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,286(5):G693−7,2004Tso P,et al,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol,286(6):G885−90,2004Nishi T,et al,J Nutr,133(2):352−7,2003Nishi T,et al,J Nutr,133(8):2537−42,2003 本発明は、経口的に投与または摂取可能であり、ヒトにも適用できる、摂食抑制作用を有するペプチド、特に、低コストで実用的な、苦みが少なく安全で摂取しやすいペプチド、およびこれを含有する摂食抑制剤、食品、医薬組成物、飼料等を提供することを目的とする。 本発明者は、食品由来のタンパク質である大豆β−コングリシニンを種々の食品加工用酵素で分解してペプチド組成物を調製し、分子レベルから細胞レベル、個体レベルという順序でスクリーニングすることにより、CCK放出活性の高いペプチド組成物を選択し、さらに、ヒトにおいて、実際に経口摂取による空腹感の低減、満腹感の惹起を観察することにより、本発明を完成した。 本発明は、(1)β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解して得られるペプチドであって、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチドを含有する組成物;(2)β−コングリシニンを、ブロメラインまたはブロメラインと同等の酵素活性を有する酵素によって分解して得られるペプチドであって、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチドを含有する組成物;(3)前記酵素が、ブロメラインである、前記(1)または(2)記載の組成物;(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の組成物を含有する摂食抑制剤;(5)前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の組成物を含有するコレシストキニン分泌促進剤;(6)前記(4)または(5)記載の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する医薬組成物;(7)前記(4)または(5)記載の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する食品;および(8)前記(4)または(5)記載の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する飼料、(9)β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解する工程を含むことを特徴とする、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチド又はこのペプチドを含有する組成物の製造方法、(10)β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解する工程、および得られた分解物から陽イオン交換樹脂吸着画分を回収する工程、を含むことを特徴とする、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチド又はこのペプチドを含有する組成物の製造方法、を提供する。 本発明の組成物、摂食抑制剤、コレシストキニン分泌促進剤およびこれらを含有する医薬組成物、食品、飼料(以下、「(本発明の)組成物等」と総称することがある)は、食欲抑制作用を有するコレシストキニンの分泌を刺激する活性を有するため、経口摂取することにより、空腹感を低減させることができる。また、本発明の組成物等は、安全な食品素材を食品加工用の酵素で処理することにより得られるので、安全性が高く、低コストである。 本発明の組成物は、その高い溶解性により、カプセル等の固体形態による摂取のみならず、飲料等に溶解して摂取することも可能である。 さらに、本発明の組成物等は、摂取後約15分でその効果が発揮されることから、食事の15分ほど前に本発明のペプチド組成物を摂取して予め満腹感を惹起することにより、その後の過剰なカロリー摂取を予防することができる。また、食事開始と同時に摂取する場合には、実際の食事によって惹起される満腹感との相乗効果が期待できる。 [図1]は、各種β−コングリシニン分解物による消化管内分泌細胞株STC−1からのCCK放出量を示す図である。数値は60分間に培養上清中に放出されたCCKの濃度を示す。[図2]は、ラット胃内にβ−コングリシニン分解物溶液を投与して、30分後から90分後までの摂食量を示す図である。数値は12匹の平均値と標準誤差である。*は、水投与群に比べて有意差(P<0.05)があることを示す。[図3]は、雄雌ラットの胃内に過剰量(雄:10g/kg体重、雌:12g/kg体重)のβ−コングリシニンブロメライン分解物溶液を投与して2日間の積算摂食量を示す図である。数値は各群6匹のラットにおける、各時点までに摂取した食事量の積算値の平均値を示す。□:雄ラット、水投与 ■:雄ラット、β−コングリシニンブロメライン分解物投与 ○:雌ラット、水投与 ●:雌ラット、β−コングリシニンブロメライン分解物投与[図4]は、β−コングリシニンブロメライン分解物または市販の大豆ペプチド溶液摂取後の、空腹感の変化を示す図である。数値は、VAS法によりスコアリングした各被検者の試飲前の値からの変化の平均値(24〜30人)と標準誤差を表す。○:ハイニュート3g(25人)□:ハイニュート1.5g+β−コングリシニンブロメライン分解物1.5g(24人)●:β−コングリシニンブロメライン分解物3g(30人)*:摂取前に比べて有意な差があることを示す。(P<0.05)[図5]は、β−コングリシニンブロメライン分解物または大豆ペプチド溶液摂取後の、満腹感の変化を示す図である。数値は、VAS法によりスコアリングした各被検者の試飲前の値からの変化の平均値(24〜30人)と標準誤差を表す。○:ハイニュート3g(25人)□:ハイニュート1.5g+β−コングリシニンブロメライン分解物1.5g(24人)●:β−コングリシニンブロメライン分解物3g(30人)*:摂取前に比べて有意な差があることを示す。(P<0.05)異なるアルファベットの付いたプロットは、同じ時間において、互いに有意な差があることを示す。(P<0.05)[図6]は、β−コングリシニンブロメライン分解物または大豆ペプチド溶液摂取後の、許容食事摂取量の変化を示す図である。数値は、VAS法によりスコアリングした各被検者の試飲前の値からの変化の平均値(24〜30人)と標準誤差を表す。○:ハイニュート3g(25人)□:ハイニュート1.5g+β−コングリシニンブロメライン分解物1.5g(24人)●:β−コングリシニンブロメライン分解物3g(30人)*:摂取前に比べて有意な差があることを示す。(P<0.05)異なるアルファベットの付いたプロットは、同じ時間において、互いに有意な差があることを示す。(P<0.05)[図7]は、β−コングリシニン分解物中の活性ペプチド分画物のCCK放出活性を示す図である。異なるアルファベットの付いた群間には有意差があることを示す(P<0.05)。 本発明のペプチドは、β−コングリシニンを分解することによって得られる。β−コングリシニンは、大豆タンパクの主要な成分である。β−コングリシニンは、大豆アレルギー患者を除いては、通常、既に食経験があり、ヒトにおいて一日5グラムを3ヶ月間連続摂取させて安全性を確認した報告(日本農芸化学会2004年度大会、口演番号2A16p17、神原ら)があることから、安全性は充分確認されている。本発明において使用されるβ−コングリシニンは、大豆由来のものであってもよく、他の豆類のような天然原料由来のものであってもよく、また、遺伝子組換え法等によって製造されたものであってもよい。コスト等の観点から、大豆由来のβ−コングリシニンが好ましい。 β−コングリシニンの分解に使用される酵素としては、ブロメラインのような、ポリペプチド中のアルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素であれば、特に制限されない。このような酵素を用いることにより、ペプチド末端に芳香族アミノ酸が存在することによる苦味を、ほとんど、またはまったく有さないペプチド組成物を得ることができる。ポリペプチド中のアルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素としては、トロンビン、エンドプロテイナーゼArg−C、カテプシンB1などが挙げられる。安全性、入手の容易性およびコスト等の観点などから、好ましくはブロメラインである。 ブロメラインは、パイナップル科(Bromeliaceae)に属する植物由来のシステインプロテアーゼであり、主にパイナップルの根茎および果実に含有される。ステムブロメライン(EC.3.4.22.4、EC.3.4.22.32)およびフルートブロメライン(EC.3.4.22.5、EC.3.4.22.33)があり、本発明においてはいずれを用いてもよい。好ましくは、パイナップル茎由来のブロメライン(EC.3.4.22.4)である。ブロメラインは、タンパク質分解において広い基質認識性を持つが、アルギニンを含む合成基質に対し高い分解能を持つ酵素であり、食品加工用としては肉の軟化に用いられ、医療用として炎症の改善にも用いられており、入手が容易であるうえ、安全性が高いなど、多くの利点を有する。 β−コングリシニンの分解は、例えば以下のようにして行うことができる。 β−コングリシニンを重量濃度10%にてイオン交換水に懸濁し、水酸化ナトリウム水溶液にてpHを6.0に調整する。対基質濃度0.1%のブロメラインを添加して、50℃にて1時間保温し、100℃に上昇させて酵素反応を停止する。遠心分離、ろ過により、不溶性画分を除去し、得られたペプチド溶液を凍結乾燥して、β−コングリシニンブロメライン分解物とする。β−コングリシニンの溶解濃度は、懸濁できる範囲(最大10%)であれば、どの濃度を用いてもよい。一般的には、対基質濃度0.01%〜10%であり、0.05〜5%が好ましく、0.05〜1%が特に好ましい。至適反応温度は45℃〜60℃であり、50℃が最適である。反応時間は、酵素の濃度・反応温度等にもよるが、一般に15分〜20時間程度が適当であり、30分〜5時間が好ましい。pHについては、4.0〜7.0が好ましく、4.0〜6.5が特に好ましく、in vivo、in vitroの試験により、6.0が最適と判断された。 β−コングリシニンの分解物を、適当な条件下で陽イオン交換樹脂によって処理することにより、活性ペプチドを濃縮することができる。使用する陽イオン交換樹脂としては、アクリル酸系又はメタクリル酸系等の、弱酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。具体的には、例えば三菱化学(株)の「ダイヤイオン」(登録商標)のWKシリーズのもの、又はそれらと同等の市販品を使用することができる。 活性ペプチドは、陽イオン交換樹脂に吸着する画分に回収されるため、アルギニンのような塩基性アミノ酸を多く含むと考えられる。陽イオン交換樹脂からの溶出は、0.7〜0.9M、好ましくは0.8Mアンモニアを用いて行なう。 本発明に関して、「ペプチド」は、2以上のアミノ酸残基からなり、もとのタンパク質またはポリペプチドよりも小さいものであれば、すべて包含する用語として使用される。ここでいうペプチドは、好ましくは分子量200〜20,000(2〜200アミノ酸残基)程度の加水分解物である。また、本発明の「組成物」は、1種のペプチドのほかに、少なくとも1つの成分(別のペプチドであってもよい)を含むものであることを意味する。 コレシストキニン分泌促進活性の有無または程度は、以下のようにして調べることができる(CCK分泌試験)。 CCK産生細胞のモデルとして広く用いられるマウス十二指腸由来の細胞株STC−1を用いる。24−wellプレートに培養したSTC−1細胞を、β−コングリシニン加水分解物溶液(1mg/ml)中で60分間反応させ、上清中に放出されたCCK量をEnzyme Immuno Assay(EIA)にて測定する。対照としては、β−コングリシニン加水分解物またはそのペプチドを添加していないバッファー(10mM Hepes、pH7.4)を用いる。 本発明に関して、「コレシストキニン分泌促進活性を有する」とは、上記の試験方法によって調べた場合に、対照と比較して有意にコレシストキニンの分泌を促進することを意味する。 摂食抑制活性の有無または程度は、以下のようにして調べることができる。 8週齢のSprague−Dawley系雄ラットを、精製飼料にて予備飼育後、一夜絶食させ、フィーディングチューブによりβ−コングリシニン加水分解物溶液(50mg/ml、1ml)を胃内投与する。対照群には、水1mlを投与する。投与30分後に精製飼料を再給餌し、60分間の摂食量を測定する。 本発明に関して、「摂食抑制活性を有する」とは、上記の試験方法によって調べた場合に、対照と比較して有意に摂食を抑制することを意味する。 本発明の組成物等は、経口的に投与したり、摂取させることができる。一般的には、投与または摂取量としては、上記のようなβ−コングリシニン分解物にして2g〜5gであることができ、好ましくは3g〜5gに相当する量である。このような摂取量は、充分安全である。 本発明のペプチド含有組成物は、これを含有する摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤として使用することができる。 さらに、本発明の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤は、医薬的に許容されうる一般的な担体または賦形剤などの成分と一緒にして医薬組成物とすることができる。なお、本発明に関して、「医薬」という用語は、人に適用するものだけでなく、動物に適用するもの(獣医薬)をも包含する概念として使用される。 また、本発明の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を食品に添加することにより、摂食抑制作用またはコレシストキニン分泌促進作用を有する各種の食品(飲料であってもよい)とすることができる。 本発明のペプチド含有組成物、および摂食抑制剤およびコレシストキニン分泌促進剤の効果は、動物に対しても有効であるので、公知の一般的な栄養成分と組み合わせて、またはさらに他の有効成分と組み合わせて、本発明の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する飼料(ペットフード、家畜用飼料など)とすることもできる。 次いで、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 例1 大豆β−コングリシニンをイオン交換水に懸濁し、水酸化ナトリウム溶液にてpHを4.0〜9.0に調整し、これを分解スタートpHとした。脱塩処理を不要とするために、緩衝液は用いていない。対基質濃度0.1%〜0.5%の表1に示す各種食品加工用プロテアーゼ(「酵素」)を添加して、60分間加水分解した。酵素名、分解pHの異なる分解物に、A−1〜I−4まで略称(ラベル)を設けた。 得られた分解物を用いて、特開2004−10569(特許文献1)に記載された方法にしたがって、ラット小腸粘膜との結合活性を調べた。 具体的には、8〜10週齢のSprague−Dawley系雄ラットの上部小腸刷子縁膜可溶化成分(Hira T,et al.,Biosci Biotechnol Biochem,65(5):1007−15,2001参照)を、生体分子間相互作用解析装置BIACORE3000のセンサーチップCM5に固定化した。各種β−コングリシニン分解物(500μg/ml)をアナライトとして添加し、センサーチップ上の小腸刷子縁膜成分への結合量(Resonance Unit:RU)を測定した。 結果を表1(「結合量」)に示す。数値は3回の測定の平均値を示す。 表1に示すように、各酵素において、pH6にて分解した産物に高い結合活性(表1中、下線を付して表す)が見られた。この結果は、これらの加水分解物と小腸刷子縁膜との間に強い相互作用があることを示しており、これらの加水分解物中に消化管内分泌細胞からの消化管ホルモンの分泌を強く刺激できるものが存在することを示唆している。 例2 消化管内分泌細胞からの消化管ホルモンコレシストキニン(CCK)の放出活性によるin vitroでのスクリーニングを行った。 具体的には、CCK産生細胞のモデルとして広く用いられるマウス十二指腸由来の細胞株STC−1を用いて、例1の結合試験結果に基づいて選抜した各種加水分解物(例1と同様に調製した大豆β−コングリシニン分解物のうち、表1中、下線を付したもの)の消化管内分泌細胞からのCCK放出活性を測定した。24−wellプレートに培養したSTC−1細胞を上記加水分解物溶液(1mg/ml)中で60分間反応させ、上清中に放出されたCCK量をEnzyme Immuno Assay(EIA)キット(Cholecystokinin Octapeptide EIA kit,Phenix Pharmaceuticals,EK−069−04)にて測定した。 結果を図1に示す。縦軸は、サンプル添加60分間後のSTC−1細胞上清中のCCK濃度を示す。検討した10種類(表1中、下線を付したもの8種ならびに陽性および陰性対照)の加水分解物のうち、プロテアーゼS分解物(図1中「E−1」)を除く9種の加水分解物が、加水分解物無添加の陰性対照(図2中「Blk」)よりも高いCCK放出活性を示した。 これらの結果より、陽性対照として用いたペプシン分解物(図2中「Peptone」)と同程度で、この陽性対照に比べて3〜4倍の最も強いCCK放出活性を示したサーモライシン分解物(図2中「C−1」)およびブロメライン分解物(図1中「G−1」)の摂食抑制効果をラット摂食試験により検討することとした。 例3 8週齢のSprague−Dawley系雄ラットを、精製飼料にて予備飼育後、一夜絶食させた。これらのラットに、フィーディングチューブにより上記2種のいずれかの加水分解物溶液(50mg/ml、1ml)を胃内投与した(1群12匹)。対照群には、水1mlを投与した。投与30分後に精製飼料を再給餌し、その後60分間の摂食量を測定した。 結果を図2に示す。数値は12匹の平均値および標準誤差であり、「*」は水投与群に比べて有意差(P<0.05)があることを示す。ブロメライン分解物投与により、有意な摂食量の低下が観察された(図2)。サーモライシン分解物では、摂食量の増大傾向が見られたが、統計的に有意な変化ではなかった。同濃度のペプチド投与により作用に差があるということから、ブロメライン分解物による摂食量の低下は、摂取カロリーに依存するものではなく、ブロメライン分解物特異的作用と考えられる。 例4 上記のβ−コングリシニンブロメライン分解物をヒト試験に用いるにあたり、急性の毒性試験として、雄雌両ラット(Sprague−Dawley系、15週齢、体重:雄400g、雌250g)に、過剰量(雄:10g/kg体重、雌:12g/kg体重)のβ−コングリシニンブロメライン分解物を胃内投与し、その後の2日間の摂食量を測定した。対照群には、等量の水(雄:20ml/kg体重、雌:24ml/kg体重)を胃内投与した。 結果を図3に示す。雌雄ラットともに、投与後に嘔吐や下痢などの症状はなく、水、β−コングリシニン分解物投与群ともに体重も正常に増加した。摂食量に関しては(図3)、雌雄ラットともにβ−コングリシニン分解物投与群が、水投与群に比べて投与後6〜9時間後は低値を示した。その後両群とも同様の摂食量を示し、初期の摂食量の差が投与後2日目まで維持された。 例5 上記のin vitro、in vivoの試験結果より、β−コングリシニンのブロメライン分解物が、消化管からのCCK放出を活性化して、飽食感をもたらすこと、およびラットでの安全性が確認されたことより、この物質を用いたヒト試験を実施した。ヒト試験実施に際し、北海道大学医学研究科・医学部において医の倫理委員会臨床研究審査専門委員会の承認を得た。 試験物質として、大豆β−コングリシニンブロメライン分解物1.5gまたは3gを市販の低カロリースポーツ飲料100ml(「ポカリスエットステビア」、大塚製薬(株)、11kcal/100ml)に溶解したものを使用した。対照物質としては、市販の大豆ペプチド(「ハイニュート」、不二製油(株))を同濃度にて調製したものを使用した。下記3つの試験試料(それぞれ100ml)を調製し、二重盲検法により試験を実施した。摂取カロリーは、いずれも23kcal(タンパク質12kcal、飲料11kcal)である。 ・H群:ハイニュート3.0g ・HB群:ハイニュート1.5g+β−コングリシニンブロメライン分解物1.5g ・B群:β−コングリシニンブロメライン分解物3.0g 被験者は、21〜35歳の健康な男女(男性19名、女性16名)であった。これらの被験者を昼食摂取後3時間絶食とし、上記のいずれかの試験試料100mlを飲んでもらい、試験試料の摂取直前(0分とした)および摂取後15分おき(15、30、45分後)に、食欲に関する指標(空腹感、満腹感、許容摂取量)を視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale:VAS)により記録してもらった。VAS法とは、100mmの横線の左端を0(全く無い)、右端を100(とてもある)とし、それぞれの項目についての度合いを、任意の位置にマーキングしてもらう方法である。 結果を図4〜6に示す。空腹感(図4)、満腹感(図5)、許容摂取量(図6)のいずれの指標においても、試験試料間ならびに、各時間において2元配置分散分析による統計的有意差(P<0.05)が検出された。β−コングリシニンブロメライン分解物摂取(B群)により摂取15分後において、統計的に有意な空腹感の低下と、摂取15分、30分後の満腹感の有意な増加が見られた。空腹感、許容食事量においては、β−コングリシニンブロメライン分解物摂取群(B群は、他の2試料の群よりも常に低値を示し、満腹感においては逆にβ−コングリシニンブロメライン分解物摂取群(B群)は他の2試料の群よりも常に高値を示した。市販大豆ペプチドとβ−コングリシニンブロメライン分解物の混合物の群(HB群)は他の2試料の中間値を示す傾向にあったが、有意な変化は見られなかった。 空腹感、許容摂取量は、β−コングリシニンブロメライン分解物摂取群(B群)においては、45分間は初期値よりも低い値を維持したが、他の2試料の群では投与前よりもそれらの度合いは増加した。満腹感については、β−コングリシニンブロメライン分解物摂取群(B群)においては、45分間は初期値よりも高値を維持し、他の2試料の群では、投与前よりもその度合いが低下した。 以上の結果より、大豆由来のタンパク質β−コングリシニンを食品加工用酵素ブロメラインで分解したペプチドを含む組成物を3g摂取することで、ヒトにおいて空腹感ならびに許容食事摂取量を低減させること、満腹感を与えること、その効果が少なくとも45分間持続すること、が明らかとなった。 この効果は、どの投与物質も等カロリーであることから、摂取したカロリーに依存するものではなく、β−コングリシニンをブロメラインで分解することで生じるものであり、これにはペプチド中の特異構造が上述のCCK放出刺激として、消化管で認識されることによるものと考えられる。 例6 β−コングリシニンのブロメライン分解物中の活性ペプチドを、陽イオン交換樹脂を用いたバッチ法による分画によって濃縮した。 例1で作製したβ−コングリシニンのブロメライン分解物を、1N塩酸の通塔によってH+型にコンディショニングした後、脱塩水にて洗浄した弱陽イオン交換樹脂(三菱化学ダイヤイオンWK100)にペプチド溶液を添加し、4℃にて攪拌した。その後、脱塩水にて非吸着画分を回収し、吸着画分を0.8Mおよび1.0Mアンモニアにて溶出して回収した。アンモニア溶出画分については、ロータリーエバポレーターによりアンモニアを除去後、凍結乾燥粉末を得た。非吸着画分については、濃縮せずに凍結乾燥した。 回収された画分は、非吸着画分に乾物重量比として59%、吸着画分に41%(0.8Mアンモニア:16%、1.0Mアンモニア:25%)の割合であった。 例7 上記の各画分のCCK放出活性を、マウス小腸由来のCCK産生細胞株STC−1を用いて測定した。 48−wellプレートに培養したSTC−1細胞を上記ペプチド画分を含む緩衝液中で60分間反応させ、上清中に放出されたCCK量を市販のエンザイム・イムノアッセイ・キット(Phoenix pharmaceutical)を用いて測定した。 結果を図7に示す。 イオン交換樹脂によって分画する前のβ−コングリシニンのブロメライン分解物は、濃度5mg/ml(乾重量/ml緩衝液)で有意なCCK分泌を示した。 陽イオン交換樹脂に吸着させ、分画したペプチド画分の活性を測定するため、それぞれの画分の乾物5mgを1ml緩衝液に溶解して反応に供したところ、0.8Mアンモニア溶出画分が最も強くCCK分泌を促進した。0.8Mアンモニア溶出画分は、乾物0.8mg/ml緩衝液という低濃度で、イオン交換樹脂処理に供する前の5mg/mlのβ−コングリシニン分解物と同程度のCCK分泌を引き起こした。即ち、乾重量あたり6.25倍(5/0.8倍)に活性が濃縮されたことになる。 各画分の乾物あたりの濃度を5mg/mlにそろえた場合も0.8Mアンモニア溶出画分が最も強く、分画前の3倍以上のCCK分泌を引き起こした。 この結果より、β−コングリシニンペプチドの陽イオン交換樹脂吸着画分に強力なCCK分泌活性があることが明らかとなり、陽イオン交換樹脂を用いた本手法により、CCK放出活性ペプチドを濃縮することが可能となった。 例8 例7で作製したβ−コングリシニンのブロメライン分解物をイオン交換樹脂にて分画した0.8Mアンモニア溶出画分を脱塩水に溶解し、残存アンモニア濃度を測定キット(アンモニアテストワコー、和光純薬工業)を用いて測定した。 0.8Mアンモニア溶出画分で6.06μg/mg、1.0Mアンモニア溶出画分で3.94μg/mgであった。納豆のアンモニア濃度は約8μg/ml(道南平塚食品)であることから、このペプチド画分のアンモニア毒性は無いといえる。 この出願は、平成17年6月8日出願の日本特許出願、特願2005−167862に基づくものであり、特願2005−167862の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。 β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解して得られるペプチドであって、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチドを含有する組成物。 β−コングリシニンを、ブロメラインまたはブロメラインと同等の酵素活性を有する酵素によって分解して得られるペプチドであって、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチドを含有する組成物。 前記酵素が、ブロメラインである、請求の範囲1または2記載の組成物。 請求の範囲1〜3のいずれか1項記載の組成物を含有する摂食抑制剤。 請求の範囲1〜3のいずれか1項記載の組成物を含有するコレシストキニン分泌促進剤。 請求の範囲4または5記載の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する医薬組成物。 請求の範囲4または5記載の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する食品。 請求の範囲4または5記載の摂食抑制剤またはコレシストキニン分泌促進剤を含有する飼料。 β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解する工程を含むことを特徴とする、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチド又はこのペプチドを含有する組成物の製造方法。 β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解する工程、および得られた分解物から陽イオン交換樹脂吸着画分を回収する工程、を含むことを特徴とする、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチド又はこのペプチドを含有する組成物の製造方法。 経口的に投与または摂取可能であり、ヒトにも適用できる、摂食抑制作用を有するペプチド、特に、低コストで実用的な、苦みが少なく安全で摂取しやすいペプチド、およびこれを含有する摂食抑制剤、食品、医薬組成物、飼料等を提供する。 本発明の一態様は、β−コングリシニンを、アルギニン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を優先的に切断する酵素によって分解して得られるペプチドであって、コレシストキニン分泌促進活性または摂食抑制活性を有するペプチドを含有する組成物である。


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