タイトル: | 再公表特許(A1)_プロポフォール含有脂肪乳剤 |
出願番号: | 2006112276 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A61K 31/05,A61P 23/00,A61P 25/04,A61P 29/02,A61K 9/107,A61K 47/14,A61K 47/24,A61K 47/44 |
武田 光市 松田 憲治 寺尾 敏光 井上 忠昭 今川 昂 倍味 繁 JP WO2006112276 20061026 JP2006307450 20060407 プロポフォール含有脂肪乳剤 株式会社大塚製薬工場 000149435 三枝 英二 100065215 中野 睦子 100108084 林 雅仁 100115484 武田 光市 松田 憲治 寺尾 敏光 井上 忠昭 今川 昂 倍味 繁 JP 2005115487 20050413 A61K 31/05 20060101AFI20081114BHJP A61P 23/00 20060101ALI20081114BHJP A61P 25/04 20060101ALI20081114BHJP A61P 29/02 20060101ALI20081114BHJP A61K 9/107 20060101ALI20081114BHJP A61K 47/14 20060101ALI20081114BHJP A61K 47/24 20060101ALI20081114BHJP A61K 47/44 20060101ALI20081114BHJP JPA61K31/05A61P23/00A61P25/04A61P29/02A61K9/107A61K47/14A61K47/24A61K47/44 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20081211 2007521182 15 4C076 4C206 4C076AA17 4C076BB12 4C076CC01 4C076DD15F 4C076DD46E 4C076DD63F 4C076EE53E 4C076EE57F 4C076FF11 4C076FF15 4C076FF16 4C076FF36 4C076FF43 4C076FF56 4C076FF67 4C076GG45 4C076GG46 4C206AA01 4C206AA02 4C206CA17 4C206KA01 4C206MA03 4C206MA05 4C206MA42 4C206MA86 4C206NA02 4C206NA03 4C206NA08 4C206ZA04 4C206ZA08 本発明は、静脈内注射又は点滴による投与時の血管痛を顕著に軽減したプロポフォール含有脂肪乳剤に関する。 プロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール)は、催眠性を有する脂溶性物質である。該プロポフォールは、水に殆ど溶けないため、一般に、油性成分および乳化剤を利用して、静脈内注射乃至点滴により直接血液中に投与することができる水中油滴型脂肪乳剤の形態に調製されている。該脂肪乳剤は、全身麻酔薬、鎮静薬などとして汎用されている(例えば、米国特許第5,714,520号明細書参照)。その市販品としては、プロポフォール1g、大豆油10g及び卵黄レシチン1.2gを含む脂肪乳剤である、「1%ディプリバン注( 1% Diprivan injection)(商標名)」 (AstraZeneca)などが知られている。 しかるに、該製剤の静脈内注射乃至点滴による投与時には、副作用として高頻度で強い疼痛(血管痛)が発現することが報告されている(例えば、下記非特許文献1参照)。 この問題は、上記脂肪乳剤中に無痛化に有効な量のリドカインなどの局所麻酔剤を配合することによって解決できる。しかしながら、従来のプロポフォール含有脂肪乳剤は、これにリドカインなどの局所麻酔剤を配合すると、乳剤の安定性が急速に失われ、短時間内に、通常30分以内に、エマルジョン粒子が巨大化したり、エマルジョンが破壊されて水相と油相とに分離したりして、注射乃至点滴による投与ができなくなる欠点を有している(下記非特許文献2参照)。 リドカインなどの配合によって乳化安定性が急激に低下するという重大な欠点を緩和する手段として、例えば、プロポフォール含有脂肪乳剤を構成する水相中に、更に安定化剤としてポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などを存在させ且つpHを3.0-6.5に調節する技術が提案されている(下記特許文献1参照)。この提案された技術によれば、得られる脂肪乳剤におけるエマルジョンの破壊はある程度防止できるが、安定化剤として使用する界面活性剤の安全性が低く、得られる脂肪乳剤は、その安全性に問題が生じる。 また、プロポフォールに特定のシクロデキストリン化合物を配合した水溶液およびその凍結乾燥製剤が、血管痛を軽減したプロポフォール含有製剤として提案されている(下記特許文献2、特許文献3など参照)。 しかしながら、これらの提案された製剤は、脂肪乳剤ではなく、油性成分を含まない水溶液形態の製剤(またはその凍結乾燥品)である。これらの文献は、脂肪乳剤に見られる最大の欠点である血管痛の発生が、脂肪乳剤に代って水溶液形態の製剤に調製することによって防止乃至軽減できることを開示しているが、血管痛が防止乃至軽減された脂肪乳剤に関しては何も記載していない。しかも、提案された製剤は、脂溶性物質であって水に殆ど溶けないプロポフォールの可溶化のために、該プロポフォールに対して少なくとも等モル量(水溶液全体中では約3-80w/v%)という多量のシクロデキストリン化合物を配合している。このような多量のシクロデキストリン化合物を配合した製剤は、その投与時に、血管痛の発生は防止できたとしても、該化合物の投与、摂取による毒性、副作用などを無視できない。実際に、その投与によれば、浸透圧の上昇や溶血性が増大するなどの問題のあることが知られている(例えば前記特許文献2参照)。 このように、乳化安定性を保持した脂肪乳剤であって、リドカインなどの局所麻酔剤を配合することなく、その投与時における血管痛発生などを防止乃至軽減したプロポフォール脂肪乳剤は、いまだ開発されていない。特開2002-179562号公報欧州特許出願公開第02/074200号明細書(米国特許出願公開第2003-73665号明細書)欧州特許出願公開第03/063824号明細書W. Klemment, J. O. Arndt: British Journal of Anaesthesia, 1991; 67: 281-284E. E. M. Lilley, et al., Anaesthesia, 1996; 51: 815-818 本発明の主な目的は、リドカインなどの局所麻酔剤などを配合することなく投与時の血管痛を軽減することができ、しかも、乳化安定剤や可溶化剤を配合せずとも優れた乳化安定性を有する、改善されたプロポフォール含有脂肪乳剤を提供することにある。 本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、プロポフォール、油性成分および乳化剤を特定の割合で含有し、得られる乳化粒子の平均粒子径を所定の大きさ以下に調整したプロポフォール含有脂肪乳剤によれば、上記目的を悉く達成できるという新たな事実を発見した。本発明は、この知見を基礎として更に研究を重ねた結果、完成されたものである。 即ち、本発明は、下記の脂肪乳剤およびその製造方法を提供するものである。項1.静脈内投与または点滴投与時の血管痛が軽減されたプロポフォール含有脂肪乳剤であって、プロポフォール0.1-2w/v%、油性成分10-20w/v%および乳化剤2-5w/v%を含み、プロポフォールに対する油性成分の配合割合が約5〜200重量倍の範囲にあり、プロポフォールに対する乳化剤の配合割合が約0.9〜50重量倍の範囲にあり、乳化粒子の平均粒子径が180nm以下である脂肪乳剤。項2.油性成分が、天然のトリグリセリドおよび合成のトリグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、乳化剤が天然のリン脂質および合成のリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項1に記載の脂肪乳剤。項3.油性成分が大豆油であり、乳化剤が卵黄レシチンである上記項2に記載の脂肪乳剤。項4.プロポフォール0.5-2w/v%、油性成分10-20w/v%、及び乳化剤2-5w/v%を含む上記項1に記載の脂肪乳剤。項5.プロポフォール、油性成分および乳化剤を含む混合物を水中に乳化することを含む上記項1に記載の脂肪乳剤の製造方法。 本発明は、プロポフォール、油性成分および乳化剤を所定の割合で組み合わせて用いて、所定の平均粒子径の乳化粒子からなる脂肪乳剤を調製する時には、得られる乳剤は乳化安定性に優れ、しかも従来のこの種のプロポフォール含有脂肪乳剤が避けられなかった投与時に血管痛を伴うという重大な副作用を殆どもしくは全く認めないという事実の発見を基礎として完成されたものである。 本発明脂肪乳剤は、以下の如き利点を有している。(1) リドカインなどの局所麻酔剤を配合することなく、プロポフォールに対する乳化剤の配合割合を増加させることによって、投与時における血管痛などの副作用を顕著に軽減できる、(2) 該リドカインなどの配合に伴われる乳化安定性の低下を回避できる、(3) 乳化安定性の低下を改善するために、安全性の低いポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などの安定化剤を配合する必要はなく、従って安全性が高い。(4) シクロデキストリンなどの毒性、副作用のおそれがある可溶化剤を含有するものではなく、この点からも安全性が高い。(5) フィルター透過性に優れる。そのため、乳剤用のフィルターを使用でき、カンジダ等の真菌類の汚染を防ぐことができる。 本発明脂肪乳剤に認められるこれらの特有の効果は、後記実施例において詳述する。尚、本発明脂肪乳剤に認められる「投与時における血管痛などの発生を軽減する効果」は、実施例の項に示される血管痛評価試験において測定された「筋電図面積比率(%)」を減少させる効果によって確認できる。 通常、筋電図面積比率が60%以下の場合に、著明な血管痛発生防止効果があると判断され、筋電図面積比率が60%を超える場合は、血管痛発生防止効果は、実質的に認められないか或いは微弱であると判断される。 以下、本発明プロポフォール含有脂肪乳剤につき説明する。プロポフォールプロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール)は、例えば前記特許文献1にも記載されているとおり、医薬品分野で全身麻酔薬、鎮静薬などとして利用できることが知られている化合物である。プロポフォールは水に殆ど溶解せず、その有効投与量を含む水溶液を調製することは困難である。本発明脂肪乳剤では、プロポフォールの配合量は、全脂肪乳剤に対して約0.1-2w/v%、好ましくは約0.5-2w/v%の範囲の量(濃度)とする。 本明細書において、例えば本発明脂肪乳剤を構成する各成分の配合量(濃度)について用いられる「w/v%」は、「各成分重量(g)/全脂肪乳剤の容積100mL」を意味する。 油性成分本発明脂肪乳剤において、油性成分(脂肪)としては、例えば、植物油(天然のトリグリセライド)を使用できる。その具体例としては、例えば大豆油、綿実油、菜種油、胡麻油、サフラワー油、コーン油、落花生油、オリーブ油、ヤシ油、シソ油、ヒマシ油などを挙げることができる。これらの内では大豆油が好ましい。 また、該油性成分は、例えば2-リノレオイル-1,3-ジオクタノイルグリセロールなどの化学合成トリグリセリドであってもよく、中鎖トリグリセリド(MCT)、例えば炭素数8-10のトリグリセリドであってもよい。かかる中鎖トリグリセリド(MCT)を主成分とする市販品としては、商標名:「ココナード」(COCONARD, 花王社)、商標名:「ODO 」(日清製油社)、商標名:「ミグリオール」(Myglyol、SASOL社)、商標名:「パナセート」(Panasate、日本油脂社)などを例示できる。 更に、油性成分は上記植物油および中鎖トリグリセリドに限ることなく、例えば動物油、鉱油、合成油、精油などであってもよい。 これらはその1種を単独で利用することもでき、2種以上を併用することもできる。2種以上を併用する場合は、併用される各成分は、植物油、中鎖トリグリセリド、動物油、鉱油などの同一群から選択される必要はなく、異なる群から選択することが可能である。 油性成分の配合量は、本発明脂肪乳剤中に10-20w/v%の範囲とする。また、該油性成分の量は、本発明脂肪乳剤中のプロポフォールに対して約5〜200重量倍となる範囲とする。この配合量(プロポフォールに対する配合比率)が、上記範囲を下回る場合は、血管痛の原因とされる水相中プロポフォール濃度が増加し、所望の血管痛軽減効果は得られなくなる。逆に、上記範囲を上回る場合は、血管痛軽減効果は奏し得るものの、製剤自体がその投与によって高脂血症を惹起する危険性が生じるため、あまり好ましくない。 乳化剤乳化剤としては、代表的には、天然のリン脂質である卵黄レシチン、卵黄ホスファチジルコリン、大豆レシチン、大豆ホスファチジルコリン、それらを水素添加した水添卵黄レシチン、水添卵黄ホスファチジルコリン、水添大豆レシチン、水添大豆ホスファチジルコリンなどを挙げることができる。また、該乳化剤は、化学合成したリン脂質でもよい。化学合成したリン脂質には、ホスファチジルコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリンなど)、ホスファチジルグリセロール(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロールなど)、ホスファチジルエタノールアミン(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなど)などが含まれる。 これら乳化剤は1種を単独でまたは2種以上を混合して利用することができる。これらのうちで好ましい乳化剤としては、卵黄レシチン、卵黄ホスファチジルコリン、大豆レシチンおよび大豆ホスファチジルコリンを挙げることができる。特に、卵黄レシチンが好ましい。 乳化剤の本発明脂肪乳剤中への配合量は、2-5 w/v%の範囲とする。また、乳化剤の配合量は、プロポフォールに対して約0.9〜50重量倍となる割合から選択される。この配合量及び割合の範囲内において、優れた血管痛軽減効果を奏する脂肪乳剤が得られる。特に、上記下限を下回る場合には、本発明における所期の血管痛軽減効果の発現が困難となる不利がある。 その他の添加剤本発明プロポフォール含有脂肪乳剤には、特に必要ではないが所望により、この種の脂肪乳剤中に配合できることの知られている各種の添加剤の適当量を更に配合することができる。該添加剤としては、例えば、酸化防止剤、抗菌剤、pH調整剤、等張化剤などを挙げることができる。酸化防止剤の具体例としては、メタ重亜硫酸ナトリウム(抗菌剤としても作用する)、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。抗菌剤としては、例えばカプリル酸ナトリウム、安息香酸メチル、メタ重亜硫酸ナトリウム(酸化防止剤としても作用する)、エデト酸ナトリウムなどが挙げられる。pH調整剤としては、塩酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、水酸化ナトリウムなどを使用できる。等張化剤としてはグリセリン;ブドウ糖、果糖、マルトースなどの糖類;ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類などを使用できる。これらの内、油溶性材料は、脂肪乳剤を構成する油性成分などに予め混合して利用することができる。水溶性材料は、脂肪乳剤の調製に用いられる注射用水に予め混合するか、または得られる脂肪乳剤に添加してその水相中に溶解させることができる。これらの添加剤の配合量は、当業者にとり自明であり、従来知られているそれらの配合量と特に異ならない。 更に、本発明プロポフォール含有脂肪乳剤には、所望により、乳化安定性を改善するための安定化剤を添加することができる。該安定化剤には、通常の界面活性剤などが含まれる。この界面活性剤の中には、本発明者らがこの種の脂肪乳剤について安定化効果を新たに見出した以下の(a)〜(c)に記載の物質が含まれる(国際公開第2004/052354号パンフレット参照)。この文献(国際公開第2004/052354号パンフレット)の記載を引用して本明細書に組み込む。 (a) グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10-22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数が12-18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、 (b) ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10-22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数が14-18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、 (c) 炭素数10-22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数が10-20の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種。 本発明脂肪乳剤本発明脂肪乳剤は、前記プロポフォール、油性成分、乳化剤および必要に応じて添加される添加剤の所定量を水中に添加し、混合物を乳化することにより調製できる。 各成分の添加混合および乳化方法は、乳化液が得られる限り特に制限されず、一般的方法に従って実施することができる。例えば、プロポフォール、油性成分および乳化剤を水中に添加後、混合物を乳化する方法によって、本発明の脂肪乳剤を得ることができる。 乳化分散方法において採用される混合物の乳化手段としては、例えば、特殊機化工業社製T.K.ホモミキサーなどのホモミキサーを用いて、通常5000回転/分以上で5分間以上を要する粗乳化手段、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどを用いた精乳化手段等を挙げることができる。高圧ホモジナイザーを用いる精乳化は、一般には約200kg/cm2以上の圧力条件下に、2-50回程度、好ましくは5-20回程度通過させることにより実施できる。また、各乳化操作は、常温下に実施してもよく、若干の加温操作(通常55-80℃程度)を採用して実施してもよい。 本発明脂肪乳剤は、上記した乳化分散方法等の方法によって、乳化粒子の平均粒子径が180nm以下となるように調製される。本発明の脂肪乳剤では、乳化粒子の平均粒子径が180nm以下であることによって、該脂肪乳剤の投与時における血管痛の発生を顕著に軽減できるが、平均粒子径が180nmを上回ると血管痛の軽減効果が十分には発現されない。 かくして、本発明の目的とする血管痛が防止乃至軽減された安定なプロポフォール脂肪乳剤を得ることができる。得られる本発明脂肪乳剤は、必要に応じてそのpHを所望の値に調整した後、常法に従って、濾過、滅菌して製品とすることができる。本発明プロポフォール含有脂肪乳剤製品のpHは、通常5.0-9.0程度、好ましくは6.0-8.0程度に調整することができる。濾過は通常のメンブランフィルターを使用して実施することができる。滅菌は、例えば高圧蒸気滅菌、熱水浸漬滅菌、シャワー滅菌などにより行い得る。より好ましい滅菌操作としては、例えばオートクレーブを利用した高圧蒸気滅菌(例えば121℃、12分)操作を挙げることかできる。 本発明脂肪乳剤は、乳化安定性、特に温度変化に対する乳化安定性に優れている。即ち、本発明脂肪乳剤は、下記の優れた特徴を有している。(1)これに高圧蒸気滅菌などの加熱滅菌操作を施す場合にも、該操作によってその乳化安定性が損なわれることなく維持される。(2)本発明脂肪乳剤を構成する脂肪粒子の平均粒子径は、約180nm以下と微細であり、滅菌前後でこの粒子径が実質的に変化しない。(3)上記優れた乳化安定性は、長時間(例えば60℃下で1ヶ月)の保存によっても維持される。(4)本発明脂肪乳剤は、単に優れた乳化安定性を長期間維持するのみならず、加熱滅菌操作やその後の長期保存などによっても、有効成分とするプロポフォールの活性が殆ど低下しない。本発明者らはこのプロポフォールの活性が、例えば本発明脂肪乳剤を60℃下に1ヶ月保存しても実質的に低下しないことを確認している。 本発明脂肪乳剤は、プロポフォール、油性成分及び乳化剤のそれぞれ所定量を組合せて利用したことに基づいて、その投与時における血管痛の発生を顕著に軽減できる効果を奏する。しかも、乳化安定性及び安全性に優れたものであり、プロポフォールの薬効を期待される患者に、安全に適用することができる。 以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。 尚、実施例で得られた脂肪乳剤中の、乳化粒子(脂肪粒子)の平均粒子径は、動的光散乱法により測定したものである。本明細書における乳化粒子の平均粒子径とは、この方法による測定値である。 実施例1-3 後記表1に示す各成分からなる本発明脂肪乳剤(全量100mL)を、以下の通り調製した。表1中の各成分の数値は、得られる脂肪乳剤中の濃度(w/v%)である。 尚、各成分としては次のものを使用した。(1)プロポフォール(ALBEMARLE社)(2)大豆油(精製大豆油;日清製油社)(3)卵黄レシチン(精製卵黄レシチン;キューピー社)(4)MCT(炭素数8-10のトリグリセリド:商標名:「ミグリオール」(Myglyol、SASOL社)) まず、表1に記載の各成分中、プロポフォールおよび油性成分である大豆油とMCTを混合し、得られた混合物に卵黄レシチンを添加した後、更に、これに最終濃度が2.21w/v%となる量のグリセリンを注射用水に溶解した液を加えた。この混合物をポリトロン(POLYTRON)ホモジナイザー(商標名)(KINEMATICA社)を用いて窒素気流下において、加温下に、25000回転/分で10分間を要して粗乳化した。 次いで、高圧ホモジナイザー(APV社)を用いて、粗乳化液を平均粒子径が180nm以下となるまで、窒素気流下、乳化温度40-80℃、乳化圧550kg/cm2で精乳化した。 得られた乳化液に塩酸または水酸化ナトリウムを加えて、そのpHを所定の値(pH7〜8)に調整後、10mL容のガラスバイアルに10mLずつ充填し、密封した後、高圧蒸気滅菌を施して、脂肪乳剤試料を得た。 かくして得られた本発明脂肪乳剤試料は、pH7〜8の範囲において、高圧蒸気滅菌後にも粒子径変化の見られない乳化安定性の優れたものであり、乳化粒子の平均粒子径はいずれも180nm以下であり、微細均整であった。 比較例1 市販のプロポフォール含有脂肪乳剤である1%プロポフォール注「丸石」(商標名)(丸石製薬社)を比較脂肪乳剤試料とする。 比較例2 実施例1において、卵黄レシチンの配合量を1.2%となる量とする以外は同様にして、比較例2の脂肪乳剤試料を調製した。 比較例3 実施例2において、得られる乳化粒子の平均粒子径が所定の値となるように精乳化の回数を変更する以外は同様にして、比較例3の脂肪乳剤試料を調製した。 下記表1に上記各例で得られた各試料の組成、平均粒子径(nm)及び筋電図面積比率(%)を示す。 尚、表1の筋電図面積比率(%)は、各脂肪乳剤試料を人体に投与する際に発生するであろう血管痛を正確に評価することができるものであり、以下の動物試験により求められたものである。[血管痛評価試験] ラット大腿動脈に脂肪乳剤試料を投与し、投与血管近傍の筋電図を測定することにより、血管痛の程度を評価した。この方法に従う筋電図の測定によって血管痛が正確に評価できることは、例えば以下の文献に記載される通りである。文献名:R. Ando, A. Yonezawa, C. Watanabe and S. Kawamura. "An assessment of vascular pain using the flexor reflex in anesthetized rats." Methods Find Exp Clin Pharmacol., 2004 Mar; 26(2): 109-15 試験は次の通り実施した。 まず、7-9週齢SD系雄性ラットをウレタン麻酔し、右後肢術野ならびに電極刺入部を剃毛した後、背位に固定した。脂肪乳剤試料投与用として右浅後腹壁動脈内にポリエチレンカテーテルを留置した後、ボールマンケージに伏臥位に保定した。筋電図測定用の同心型針電極および不関電極を右後肢に設置し、生体アンプ(AB-621G、日本光電社)に誘導した。 筋電図測定は脂肪乳剤試料投与前より実施した。手術後1時間以上経過して筋電図波形が安定した後に、留置したポリエチレンカテーテルより、1%ディプリバン注(商標名)の0.05mLを投与し、投与後に筋電図測定を行って筋電図のピーク下面積を算出した(この値を基準値とする)。 次いで、1%ディプリバン注の投与1時間後に、各群ラットのそれぞれに実施例1-3で調製した本発明脂肪乳剤試料(pH8に調整したもの)及び比較例1-3で調製した比較脂肪乳剤試料(pH8に調整したもの)のそれぞれ0.05mLを投与し、投与後に、同様にして筋電図波のピーク下面積を算出した。 各群ラットのそれぞれについて得られた値を、同じラットについて得られた前記基準値と対比して、その百分率(「筋電図面積比率」という、%)を求め、これを血管痛の指標とした。 この試験により得られる上記指標は、痛みの感受性の個体差を除くことができるものである。この指標が100%以下の場合、1%ディプリバン注に比べて血管痛が軽減されていることを意味する。また、その値(筋電図面積比率)が小さいほど、血管痛軽減効果が大きいことを意味する。 表1に示される結果は、各脂肪乳剤試料投与群の各ラット(n=3〜12)について求められた筋電図面積比率(%)の値の平均値を表示したものである。 表1に示される結果より、本発明脂肪乳剤試料(実施例1-3で調製したもの)の投与によれば、1%ディプリバン注の投与後に比して、筋電図ピーク下面積が顕著に低下していることが判る。このことから、本発明脂肪乳剤によれば、その投与時における血管痛が非常に軽減されることが明らかである。 これに対して、比較脂肪乳剤は、いずれも筋電図ピーク下面積の平均値が60%を超えるものであり、その血管痛の軽減効果は微弱であると判断される。 本発明プロポフォール脂肪乳剤は、乳化安定性を損なうことなく、その安全性に優れており、しかも投与時における疼痛発生を防止乃至軽減したものであり、全身麻酔薬、鎮静薬などの医薬品として有用である。静脈内投与または点滴投与時の血管痛が軽減されたプロポフォール含有脂肪乳剤であって、プロポフォール0.1-2w/v%、油性成分10-20w/v%および乳化剤2-5w/v%を含み、プロポフォールに対する油性成分の配合割合が約5〜200重量倍の範囲にあり、プロポフォールに対する乳化剤の配合割合が約0.9〜50重量倍の範囲にあり、乳化粒子の平均粒子径が180nm以下である脂肪乳剤。油性成分が、天然のトリグリセリドおよび合成のトリグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、乳化剤が天然のリン脂質および合成のリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。油性成分が大豆油であり、乳化剤が卵黄レシチンである請求項2に記載の脂肪乳剤。プロポフォール0.5-2w/v%、油性成分10-20w/v%、乳化剤2-5w/v%を含む請求項1に記載の脂肪乳剤。プロポフォール、油性成分および乳化剤を含む混合物を水中に乳化することを含む請求項1に記載の脂肪乳剤の製造方法。 本発明は、プロポフォール0.1-2 w/v%、油性成分10-20 w/v%および乳化剤2-5 w/v%を含み、プロポフォールに対する油性成分の配合割合が約5〜200重量倍の範囲にあり、プロポフォールに対する乳化剤の配合割合が約0.9〜50重量倍の範囲にあり、乳化粒子の平均粒子径が180nm以下であるプロポフォール含有脂肪乳剤、及びその製造方法を提供する。本発明のプロポフォール含有脂肪乳剤は、リドカインなどの局所麻酔剤を配合することなく投与時の血管痛を軽減させたものである。