タイトル: | 公開特許公報(A)_ガラクツロン酸を有効成分とする軟骨生成促進剤 |
出願番号: | 2006082018 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A61K 31/7012,A61P 43/00,A61P 19/00,A23L 1/30 |
南 三郎 岡本 芳晴 岡村 泰彦 高森 吉守 黒住 誠司 坂本 廣司 JP 2007254403 公開特許公報(A) 20071004 2006082018 20060324 ガラクツロン酸を有効成分とする軟骨生成促進剤 国立大学法人鳥取大学 504150461 甲陽ケミカル株式会社 391003130 佐伯 憲生 100102668 南 三郎 岡本 芳晴 岡村 泰彦 高森 吉守 黒住 誠司 坂本 廣司 A61K 31/7012 20060101AFI20070907BHJP A61P 43/00 20060101ALI20070907BHJP A61P 19/00 20060101ALI20070907BHJP A23L 1/30 20060101ALI20070907BHJP JPA61K31/7012A61P43/00 105A61P19/00A23L1/30 Z 6 OL 11 4B018 4C086 4B018MD09 4B018ME05 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA25 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA96 4C086ZB21本発明は、ガラクツロン酸を有効成分として含有する軟骨生成促進剤、軟骨損傷に由来する疾病の予防または治療剤及びグリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤に関するものである。 ガラクツロン酸は、ペクチン、各種植物粘質物、細菌の多糖などの構成成分であり、抗菌作用を有することが知られている。ガラクツロン酸を主成分としたペクチン分解産物が飲食品の保存料として使用されている他、ガラクツロン酸を主成分とした植物抽出物には抗炎症作用およびフリーラジカルスカベンジャーとしての効果があることが明らかにされている(非特許文献1)。 ガラクツロン酸の1,4-グリコシド結合による鎖状構造により構成されるペクチンは、植物の細胞壁を構成し、血清総コレステロール濃度の低下、活性酸素の抑制、大腸がん抑制などの効果を有するため、日常生活で食物繊維や食品添加物として使用・摂取されている。ペクチンについてはさらに、食細胞を活性化させることや、抗炎症効果や免疫反応への影響など、生体への有益な効果が確認されている。 しかしながら、ペクチンの構成成分であるガラクツロン酸の投与による生体への影響はほとんど報告されていない。Nergard et al., J. Ethnopharmacol. 96; 255-269, 2005 軟骨損傷による疾病としては、関節炎、リュウマチ等数多く知られており、多くの薬も開発され販売されている。しかしながら、効果及び副作用等において個人差等が有るため、充分に満足できるものではない。また、予防的に摂取できる飲食物又は薬剤等の組成物があるとより好ましい。本発明者らは、ガラクツロン酸の安全性に注目して、ガラクツロン酸の種々の用途開発を検討する中で、本発明を完成した。 ガラクツロン酸、特にα−D−ガラクツロン酸は、果物又は野菜等の多くの植物に中に存在するペクチンの構成成分としてして知られている。ペクチンは植物繊維として種々の生理活性作用を有し、食品添加物などとして多く使用され、安全性の高い物質であり、また、ガラクツロン酸についても抗菌作用が認められ、天然添加物の登録が為されていることから、安全性の高い化合物である。 ガラクツロン酸はグルクロン酸やイズロン酸などと同じウロン酸に分類される糖類である。グルクロン酸やイズロン酸は軟骨の構成物質であるグリコサミノグリカンを構成する主な物質として知られている。例えば、グルクロン酸はヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸を、イズロン酸はデルマタン硫酸などを構成し、軟骨基質を合成するのに欠かせない物質である。しかしながら、同じウロン酸に分類されているもののガラクツロン酸は植物中に存在するペクチンの構成成分であり、動物における骨との関連性は全く知られていない。本発明者らは、ガラクツロン酸の安全性に注目して、ガラクツロン酸の種々の用途開発を検討する中で、ガラクツロン酸を経口投与したときに損傷軟骨に及ぼす影響について研究した結果、驚くべきことに、ガラクツロン酸が、グリコサミノグリカン及びプロテオグリカンの生成を促進する作用を有することと共に、軟骨の生成をも促進する作用があることを見いだし、本発明を完成した。即ち本発明は(1)ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有する軟骨生成促進剤、(2)ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有する軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤、(3)ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有するグリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤、(4)ガラクツロン酸またはその塩を含むペクチンの酵素分解産物を含有する上記(1)に記載の軟骨生成促進剤または(2)に記載の軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤。(5)ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有する軟骨生成促進用又は軟骨損傷治療用若しくは予防用飲食品、(6)ガラクツロン酸またはその塩の軟骨生成促進用、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進用又は軟骨損傷に由来する疾病の予防若しくは傷治療用の用途、に関するものである。 本発明で使用するガラクツロン酸は毒性、副作用等もなく、また本来動物体内に存在しない物質であるにも関わらず優れたグリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンの生成促進作用及び優れた軟骨生成促進作用を有している。従ってガラクツロン酸は、軟骨損傷に由来する疾病、例えば関節炎、リュウマチなどの予防剤または治療剤等として、また、軟骨生成促進剤として、更には、軟骨のグリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンの生成が促進されることから、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤として有用である。さらに皮膚組織に含まれる保水成分であるプロテオグリカンの生成が促進されることから、美肌作用等をも期待できる。 本発明を以下により詳しく説明する。 本発明で使用されるガラクツロン酸はフリーの酸であっても、塩、特に薬理学的に許容される塩、又はそれらの水和物であってもよい。また、経口投与により、血中にガラクツロン酸として吸収されるオリゴガラクツロン酸(ガラクツロン酸が2〜6程度結合しているもの)も本発明におけるガラクツロン酸に含まれるものである。但し実施例において、ガラクツロン酸といった場合は単糖のガラクツロン酸を意味する。 通常はフリーの酸若しくはその水和物が使用される。ガラクツロン酸の塩としては薬理学的に許容される塩であれば特に制限はなく、無機塩基又は有機塩基との塩のいずれも使用できる。塩としては一般的にはナトリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。 本発明における軟骨生成促進剤、軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤はガラクツロン酸又はその塩(以下単にガラクツロン酸という)は単独でもよいが、通常はガラクツロン酸を坦体、賦形剤、助剤(嬌味剤、香料、甘味料、結合剤)等の医薬用又は食品用等に使用される添加剤と共に常法に従って、混合、製剤化された軟骨生成促進用組成物、軟骨損傷に由来する疾病の予防または治療用組成物、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進用組成物であってもよい。製剤としては液剤又は固形剤いずれでもよく、例えば錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、ゼリー剤等を挙げることができる。坦体又は賦形剤としては、水、糖類等を挙げることができる。これらにおけるガラクツロン酸の含量は、特に限定はなく、通常0.2%(質量%:以下同じ)以上、好ましくは1%以上で、最大100%までよい。 これらの製剤化された組成物若しくはガラクツロン酸は軟骨生成促進、軟骨損傷に由来する疾病の予防または治療、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進のために、そのまま服用若しくは健康食品等として経口摂取することができる。従って、本発明においては、これらの目的で使用される限り、ガラクツロン酸単独、賦形剤などを混合して製剤化したもの、また飲食品にガラクツロン酸を添加して、ガラクツロン酸含有飲食品などとしたもの、何れをも含むものである。また、他の薬剤と併用してもよく、併用する場合はガラクツロン酸と他の薬理活性物質を、更に必要に応じて賦形剤などと共に混合製剤化しても、また、それぞれ単独に製剤化したものを併用してもよい。 併用する好ましい薬理活性物質の一つとして、本発明のガラクツロン酸と同様な作用を有する他の薬理活性物質、例えばグルコサミンを挙げることができる。両者を併用することにより、両者の相加的若しくは相乗的効果が期待できる。 投与方法は特に限定されず、経口、注射、経腸、その他経皮等いずれの方法でも可能であるが、経口投与が好ましい。 本発明における軟骨生成促進剤、軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤が飲食品の場合は、ガラクツロン酸を適当に飲食物と混合してガラクツロン酸含有飲食品すれば良い。ガラクツロン酸を混合しうる飲食品は特に限定されず、牛乳、乳酸飲料などの乳飲料、その他のドリンク剤等の飲料やハム、ソーセージ、菓子類、その他の加工食品等の食品などを挙げることができる。 これらの飲食品中におけるガラクツロン酸の含量は特に限定されないが通常食品全体に対して0.1%(質量:以下特に断りの無い限り同じ)以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上であり、上限は特に無いが味覚等の点から通常10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは4%以下である。 本発明の用途でのガラクツロン酸の投与量は通常成人当たり1日0.3g以上、より好ましくは0.5g以上 更に好ましくは1g以上で、上限は毒性もほとんどないので特に制限はないが、通常20g以下、好ましくは10g以下、更に好ましくは5g以下程度である。 本発明において使用するガラクツロン酸は、粗製のものであっても、また純度95%以上に精製されたものであってもよい。例えばペクチンをペクチナーゼ等の酵素で、酵素分解して得られるガラクツロン酸を含む粗製若しくはある程度精製されたペクチン分解産物は、本発明の用途に使用する健康食品などの場合には、安全性や製造コスト等の点からも好ましいものの一つである。このときペクチン分解産物に含まれるガラクツロン酸の含量は、本発明の効果を達成しうる範囲内であれば特に制限はなく、乾燥物換算で1%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上あればよい。製剤などに使用する原体としては、その含量は30%以上、より好ましくは40%以上であり、最も実用的には、50〜90%程度である。 本発明において、ガラクツロン酸を軟骨生成促進剤、軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤として使用するとき、関節炎治療剤などとして知られているグルコサミン(塩)と併用するのは好ましい。併用するときのグルコサミン(塩)の製剤中の配合量、投与量は上記ガラクツロン酸の場合と略同じである。併用するグルコサミン塩としては薬理学的に許容されるものであれば特に制限はなく、無機酸塩、有機酸塩いずれも使用できる。一般的には硫酸塩もしくは塩酸塩等の無機塩、酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩等の有機酸塩が使用され、本発明においては塩酸塩、クエン酸塩等が好ましい。 また、本発明のグリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤は、それらの生成により生体に対して好ましい効果を期待できる種々の用途に使用することができる。例えばプロテオグリカンは皮膚組織に対して、保水等の効果により美肌等の好ましい作用を有することが知られており、本発明の該生成促進剤を、経口、又は経皮等により投与することにより、美肌等の用途(医療用薬剤、化粧品又は飲食品等)へも利用できる。投与量等は先に記載したと同様である。 次に、本発明を実施例により、具体的に説明する。 実施例では試験物質として、ガラクツロン酸及びペクチン分解産物を用いた。ガラクツロン酸としてはD(+)-ガラクツロン酸一水和物(和光純薬工業株式会社)を用いた。ペクチン分解産物としては甲陽ケミカル株式会社より提供された下記組成比を有するものを用いた。ペクチン分解産物組成比(質量):ガラクツロン酸65.0%、グルコース14.3%、ガラクトース5.7%、アラビノース5.0%、Na3.2%、水分5.0%、その他1.8%。実施例1 ガラクツロン酸の腸管からの吸収確認試験 供試ウサギとして、白色ウサギ(体重約2.0〜3.0kg)の雌3羽を用い、入手後1週間環境に慣らせた後、ガラクツロン酸3g/headを経口投与し、経時的に採血した。採血は投与前(pre)、投与後10分、30分、60分、180分、360分、720分、1440分後にそれぞれ行った。 血漿中に含まれるガラクツロン酸、グルクロン酸および酢酸の濃度を、カルボン酸分析用のカラム(Shim-pack SCR-102 X 3連結)を用いて、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。結果を図1及び図2に示す。 図1より、ガラクツロン酸濃度は経口投与後すぐに上昇し、60分で最大となった。その後急激に減少し、720分で投与前の値に戻った。一方グルクロン酸は全く検出されなかった。また、ガラクツロン酸投与後、血漿中酢酸濃度が漸次増加する傾向が見られた。すなわち、ガラクツロン酸の腸管からの吸収実験より、本物質は体内に速やかに吸収され、ガラクツロン酸のカルボキシル基に対して何らかの代謝が行われ、酢酸が合成されたと考えられる。実施例2 損傷軟骨の治癒試験 (1)白色ウサギ(体重約2.0〜3.0kg)の雌9羽(各群3羽)を用い、入手後1週間環境に慣らせた後、コントロール群(以下、C群)、ガラクツロン酸群(以下、GalU群)、ペクチン分解産物群(以下、P群)に3羽ずつ分けた。全身麻酔は、キシラジン10mg/kg(バイエル株式会社)の筋肉内投与後、塩酸ケタミン25mg/kg(三共エール薬品株式会社)の筋肉内投与によって行った。 このような麻酔下の供試ウサギの左側膝関節部を剪毛し、グルコン酸クロルヘキシジン(大日本住友製薬株式会社)と50%イソプロピルアルコール液(日本新薬株式会社)で消毒後、膝関節外側からアプローチし、皮膚を大腿骨中心部から頸骨粗面に向かって縦切開した。さらに関節包内側を切開し、膝蓋骨を外側に脱臼させることによって膝蓋大腿関節部を完全に露出した。そして、Tamai et al.の実験(Carbohydro-Polym. 48, 369-378, 2002)を参考に大腿骨の遠位部の内側滑車陵、大腿滑車溝の上・下の計3ヶ所に直径2mm、深さ4mmの孔をマイクロエンジンによるドリルにより作製した。その後、手術創を生理食塩水でよく洗浄し、関節包、皮下組織、皮膚を合成吸収糸3−0PDS(polydioxanone、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)を用いて縫合、閉鎖した。術後3日間は、感染予防を目的として塩酸オキシテトラサイクリン(ファイザー株式会社)10mg/kgを一日2回皮下に投与した。 試験物質および水はすべてウサギ用給水瓶を用いて投与した。GalU群のウサギにはガラツクロン酸3g/head/dayを、P群のウサギにはペクチン分解産物3g/head/dayを投与した。GalU群、P群に関しては、それぞれの1日量の試験物質を溶解した水溶液を準備してそれぞれの群のウサギに与え、その日の1日量が完全に飲水されたことを確認した後は水道水を自由に飲水させた。C群は水道水を自由に飲水させた。 投与期間はそれぞれ2週間とし、投与期間中の食欲、皮毛の状態、体重の様子、下痢の有無なども同時に観察した。 投与期間終了後に、ペントバルビタールNa(大日本住友製薬株式会社)の過剰投与(80mg/kg i.v.)によって安楽死を行い、手術時と剖検時での体重の変化を測定した。また、左右の外側広筋及び大腿二頭筋を分離採材後、その湿重量を測定し、非手術側の筋肉重量に対する手術側の筋肉重量の重量比(%)を求め、処置後の廃用萎縮の程度について間接的に評価を行った。 大腿骨遠位部に作成した損傷孔の修復度については、手術部を露出させ、肉眼による治癒程度の観察と、損傷孔の深さの測定による手術時に対する修復率の測定を行った。 また左大腿骨については脱灰した後、修復部位、正常関節軟骨及び成長帯の組織標本を取り、ヘマトキシリン・エオジン重染色(H.E染色)、サフラニンO染色及びアルシアンブルー染色を実施して、顕微鏡観察と画像解析を実施した。 以上により求めた数値は統計処理(スチューデントt検定)を実施し、5%以下であれば有意な変化が生じたものと判定した。 以下にこれら測定並びに解析の方法および結果を記載する。(1)体重測定結果 各群の体重測定結果を表1に示す。手術後、C群において体重の増加が見られた。サンプル投与群では体重増加が見られたものと若干ではあるが減少するものが見られたが、有意な差は認められなかった。また、すべての群において一般状態に異常な変化は観察されず、ガラクツロン酸を構成成分とするペクチンが食品添加物として使用されていることからも、今回の投与量は安全であることが確認された。(2)後肢筋肉の重量比較 手術を実施した肢の外側広筋及び大腿二頭筋それぞれの筋肉重量を測定し、非手術側の筋肉重量に対する重量割合を求めた。その結果を表2に示す。有意差検定の結果、外側広筋について全てのサンプル群でC群に対して有意な増加が認められた。大腿二頭筋については全てのサンプル群で有意な変化は認められなかった。 C群では術後の廃用萎縮が顕著であったことから、疼痛が持続していたことを示唆している。ウサギは通常後肢は屈曲した状態になっており、疼痛により運動量が減少すると後肢を伸展させなくなるので、主に伸筋である外側広筋に萎縮が起こったと考えられる。また、屈筋と伸筋は協調して機能を果たすため、外側広筋の不使用に付随して屈筋である大腿二頭筋にも萎縮がみられた。GalU群及びP群では早期に疼痛が消失もしくは軽減されたことから、痛みが少なく運動量が多くなり、伸筋である外側広筋の萎縮が少なくなったと考えられる。(3)肉眼による治癒程度の観察 採材した左側大腿骨の手術部を肉眼でよく観察した。2週間後の治癒程度を見ると、C群の欠損孔は作製時と同様の外観を呈し、周囲組織ではまだ炎症が持続していた。他の2群においては、C群と同様に周囲組織での炎症が認められたが、ある程度は欠損孔が修復されていた。しかしその痕跡はいずれも明瞭であった。 欠損孔の修復程度の判定基準を以下のように分類し、それぞれを統計処理のために点数化した。治癒率50%未満 0点治癒率50〜60%未満 1点治癒率60〜80%未満 2点治癒率80〜100% 3点 肉眼的な修復度を点数化したものを表3に示した。GalU群はC群に対して有意に点数が高かった。P群では、C群と比較して点数はほぼ変わらず、有意差はみられなかった。(4)組織学的観察 左側大腿骨を採材し、10%中性緩衝ホルマリン水溶液(和光純薬工業株式会社)で固定した。固定後、5%ギ酸(和光純薬工業株式会社)によって脱灰した。脱灰の完了した組織片を修復部位が縦断面になるように切り出しを行った。その後定法通りパラフィン包埋を実施し、ミクロトームによって5μm厚に薄切した。 染色はヘマトキシリン・エオジン重染色(H.E染色)を実施した。また、プロテオグリカン(PG)の染色を目的としてPGを赤色に染めるサフラニンO染色を、グリコサミノグリカン(GAG)の染色を目的としてカルボキシル基と硫酸基にイオン結合し、酸性のGAGが青色に染色されるアルシアンブルー染色(pH2.5)を実施した。 H.E染色、サフラニンO染色並びにアルシアンブルー染色により組織学的に観察した結果、C群では、損傷部に好中球、リンパ球、マクロファージの浸潤が観察され、炎症像がみられた。また、欠損孔には、毛細血管の増生および線維芽細胞が増殖し、線維性結合組織で充填されていた。サフラニンOおよびアルシアンブルー染色では、損傷部で濃染される部位はほとんど確認できなかった。 GalU群では、損傷部に毛細血管の増生や炎症性細胞があることがC群同様に確認された。しかし、欠損孔の中央部では線維性結合組織で充填されているものの、欠損孔深部および辺縁には、軟骨細胞の増生が確認された。P群においてもGalU群と同様に軟骨細胞の増生が観察された。GalU群、P群ともに、サフラニンOおよびアルシアンブルー染色において、損傷部の深部および辺縁に濃染する部位が観察されたことから、PGおよびGAGの合成が促進されていることがわかる。(5)修復率測定 顕微鏡観察下でマイクロメーターを用いて損傷孔の深さを測定し、当初の4mmの深さに対する2週間後の修復度を百分率(%)で求めた。その結果を表4に示す。GalU群、P群ともに、C群に対して修復度の有意な増加を示した。GalU群とP群との間に有意差は認められなかった。(6)特殊染色標本を用いた画像解析 サフラニンO染色、アルシアンブルー染色(pH2.5)を実施した修復部位において、その200倍像をPhotograb ab-300 version 1.0(アドビシステムズ株式会社)を用いて画像を取り込み、Adobe Photoshop 5.0(アドビシステムズ株式会社)を用いてデジタル化し、画素数として120,000ピクセル(20,000ピクセルを無作為に6ヶ所)に対して、目的とする色調の占めるピクセル数を画像処理により測定した。 軟骨損傷部位における画像解析結果を表5に示す。画像解析の結果から、アルシアンブルー染色ではC群に対し、GalU群、P群ともにPGが有意に増量していることが確認できた。サフラニンO染色では、GalU群はC群に対してGAGが有意に増量していることが確認でき、P群ではC群に対してGAGが増量している傾向が見て取れた。 すなわちこれは、GAGの合成に必要であるグルクロン酸やグルコサミンを投与したときと同様の結果を示すものであり、このことから、ガラクツロン酸がGAGの合成に何らかの形で作用しているものと考えられる。 以上の(1)体重測定結果、(2)後肢筋肉の重量比較結果、(3)肉眼による治癒程度観察結果、(4)組織学的観察、(5)修復率測定、(6)特殊染色標本を用いた画像解析によって、ガラクツロン酸およびペクチン分解産物の経口投与により、ガラクツロン酸は本来動物体内に存在しない物質であるにも関わらず、良好な軟骨修復効果が得られることが明らかになった。 また、ガラクツロン酸の投与によるグルクロン酸の血中濃度の上昇は確認できなかったが、ガラクツロン酸投与後に酢酸の上昇が確認されたことから、何らかの代謝を受けて軟骨細胞および軟骨基質の形成に寄与する何らかの物質を生成すると考えられる。 GalU群、P群ともに修復促進効果は認められたが、P群の方が有意差はないものの若干修復率が劣っていた。今回用いたペクチン分解産物は、ガラクツロン酸含有量が65%であり、P群はGalU群に比べガラクツロン酸の摂取量が少なかったことが原因であると考えられる。 以上から明らかなようにガラクツロン酸は毒性、副作用が認められず、軟骨の構成成分であるグリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進作用を有し、損傷軟骨の生成を促進することから、軟骨損傷に由来する疾病の予防治療剤として有用なものである。ガラクツロン酸の経口投与による血漿中のガラクツロン酸濃度の経時変化及びグルクロン酸濃度の経時変化を示す。ガラクツロン酸の経口投与による血漿中の酢酸濃度の経時変化を示す。符号の説明図1における◆はガラクツロン酸濃度、■はグルクロン酸濃度を示す。また、縦軸はそれぞれの濃度を示し、横軸は経過時間(単位分)を示す図2における◆は酢酸濃度を示す。また、縦軸はそれぞれの濃度を示し、横軸は経過時間(単位分)を示すガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有する軟骨生成促進剤。ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有する軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤。ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有するグリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤。ガラクツロン酸またはその塩を含むペクチンの酵素分解産物を含有する上記請求項第1項に記載の軟骨生成促進剤または第2項に記載の軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤。ガラクツロン酸またはその塩を有効成分として含有する軟骨生成促進用又は軟骨損傷治療用若しくは予防用飲食品。ガラクツロン酸またはその塩の軟骨生成促進用、グリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進用又は軟骨損傷に由来する疾病の予防若しくは損傷治療用の用途。 【課題】軟骨損傷に由来する疾病、例えば関節炎、リュウマチなどの予防剤または治療剤等として有用な、毒性、副作用等の少ない軟骨生成促進剤を見いだすこと。【解決手段】本発明はガラクツロン酸またはその塩を有効成分とする軟骨生成促進剤、軟骨損傷に由来する疾病の予防剤または治療剤およびグリコサミノグリカンおよび/またはプロテオグリカンの生成促進剤に関するものである。