タイトル: | 特許公報(B2)_不死化ヒトメサンギウム細胞 |
出願番号: | 2006064802 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 5/10,C12N 15/09,C12Q 1/02,G01N 33/15,G01N 33/50 |
水野 敬和 結城 宗浩 田井 仁 JP 5016241 特許公報(B2) 20120615 2006064802 20060309 不死化ヒトメサンギウム細胞 中外製薬株式会社 000003311 大野 聖二 230104019 森田 耕司 100106840 田中 玲子 100105991 水野 敬和 結城 宗浩 田井 仁 20120905 C12N 5/10 20060101AFI20120816BHJP C12N 15/09 20060101ALI20120816BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20120816BHJP G01N 33/15 20060101ALI20120816BHJP G01N 33/50 20060101ALI20120816BHJP JPC12N5/00 102C12N15/00 AC12Q1/02G01N33/15 ZG01N33/50 Z C12N 5/10 C12N 15/09 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq CiNii 国際公開第2003/038076(WO,A1) 国際公開第2005/045026(WO,A1) Biochimica et Biophysica Acta,1997年,Vol. 1355,p. 191-203 日本産科婦人科学会雑誌,2005年 2月 1日,第57巻第2号,p. 454(S-268), P1-113 医学と薬学,2005年 1月,第53巻1号,第78−81頁 Journal of Cellular Biochemistry,2002年,Vol. 87,pp. 58-64 Kidney International,1996年,Vol. 49,pp. 267-270 13 IPOD FERM BP-10478 2007236311 20070920 27 20090306 太田 雄三 本発明は、不死化ヒトメサンギウム細胞及び該細胞から分化誘導して得られる分化型ヒトメサンギウム細胞、ならびにこれらの細胞を用いた腎疾患治療剤のスクリーニング方法に関する。 メサンギウム細胞は、上皮細胞、内皮細胞と共に腎臓の糸球体を構成している細胞である。メサンギウム細胞の役割は、収縮運動により糸球体のろ過機能を調節しているだけでなく、各種生理活性物質を産生し、また糸球体腎炎発症時にみられる細胞外基質(マトリックス)産生亢進の原因となる。糸球体腎炎には、例えば、免疫学的機序により発症するIgA腎症、代謝性疾患である糖尿病性腎症、遺伝性疾患であるアルポート症候群などがある。これらの種々の発症原因の腎炎のいずれにおいても、糸球体メサンギウム細胞による細胞外基質(マトリックス)成分の異常マトリックスリモデリング現象が観察され、最終的には糸球体硬化と呼ばれる腎炎終末像に至る事が知られている。従って、メサンギウム細胞のマトリックス産生を低減すれば腎疾患の進展を抑制できると考えられる。 各種薬剤や天然物などから上記の各種の原因に起因する糸球体腎炎の治療剤をスクリーニングするために、メサンギウム細胞の形質変化、応答タンパク質もしくはマーカータンパク質の活性変化や発現量の変化、又は各種生理活性物質の産生量、分泌量、及び/又は分解量の変化を指標として用いることが期待されている。係るスクリーニング方法により見いだされた各種薬剤や天然物は、腎疾患の治療薬の候補物質である。このような腎疾患としては、糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症、アルポート症候群、ループス腎炎、巣状糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、急性進行性腎炎、ネフローゼ症候群、膜性腎症、半月体形成性腎炎、メサンギウム増殖性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎などが挙げられる。 しかしながら、一般的なヒトの各形質細胞と同様に、ヒトメサンギウム細胞は初代細胞から4〜8世代の継代により増殖能を失い、刺激応答性も低下することから、同じ由来の細胞を用いて同種の条件下で機能解析や各種薬剤のスクリーニングを実施することは不可能であった。したがって、ヒトメサンギウム細胞に固有の形質を維持しているか又は誘導することができる不死化ヒトメサンギウム細胞株の樹立が望まれていた。 こうした目的のために、一般的には初代細胞にras遺伝子やc-myc遺伝子などの発癌遺伝子、アデノウィルスのE1A遺伝子、シミアン・ウイルス40(SV40)T抗原遺伝子、ヒトパピローマウィルスのHPV16遺伝子等を導入して細胞を形質転換することにより、初代細胞の有する活発な増殖能を継続的に保持し、しかも細胞固有の特性を継代により喪失しない不死化細胞を樹立する試みがなされている。 マウスやラット由来の細胞ではSV40T抗原遺伝子の導入により本来の形質細胞の機能を維持する不死化細胞を樹立する技術が複数種の細胞株を用いて確立されてきた。例えばSV40 T抗原遺伝子を導入したマウスメサンギウム細胞株が樹立され(Brennan DC et al., kidney international, 38:1039-1046, 1990)、該細胞の機能解析がなされている。 また、SV40T抗原遺伝子を導入したトランスジェニックマウスが作出されその臓器、組織から不死化細胞を樹立する技術が確立されている。しかし、このトランスジェニックマウスより得られる不死化細胞株は、通常の初代細胞に比べてより増殖活性が高く、低分化型形質を示す。こうした欠点を補うべくSV40T抗原遺伝子に温度感受性変異(H-2K-tsA58)を導入したトランスジェニックマウスが作出されている。このようなトランスジェニックマウスから、33℃の許容温度ではSV40tsT抗原が発現することにより細胞増殖が維持される一方、非許容温度である37℃ではSV40tsT抗原の発現が抑制されることにより、条件的に分化型形質を誘導することができる不死化細胞株が樹立可能となった(Jat PS et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 88:5096-5100, 1991)。該マウスを用いて条件誘導型の不死化メサンギウム細胞が樹立されている(Barber RD et al., Biochim.Biophys.Acta 1355:191-203,1997)。 これに対して、ヒト由来のメサンギウム細胞の不死化は、SV40T抗原の導入のみでは困難であり、例えばヒトメサンギウム細胞の場合では約20継代により生育が停止し、それ以後同じ細胞株を使用しての試験は実施不可能であった。SV40T抗原遺伝子と癌遺伝子であるH-rasを同時に導入することによりこうした欠点を克服したヒトメサンギウム細胞が樹立され、90継代以上、36ヶ月以上の長期にわたる増殖が報告されている(Sraer JD et al., Kidney Int. 49:267-270, 1996)。しかし、該不死化ヒトメサンギウム細胞株は二倍増殖時間が62時間であり同一の手法により樹立された糸球体臓側上皮細胞のそれより遅く、またu-PAなどの細胞マーカーの発現が初代培養細胞とは異なるパターンを示しており、分化型形質細胞の形質を完全には保持していないことが示唆された。 また、温度感受性変異(H-2K-tsA58)を有するSV40tsT抗原遺伝子を導入したヒトメサンギウム細胞は、SV40tsT抗原の非許容温度条件下で分化型形質が誘導発現される一方で、許容温度条件下で約15〜18 継代により生育が停止することから、安定して長期継代させることができなかった。また、SV40tsT抗原とhTERT遺伝子を導入することにより上皮組織細胞の不死化を実現した報告(WO2001021790)がなされているが、本方法により結合組織細胞であるメサンギウム細胞の不死化が可能であるか否かは明らかでなかった。WO2001021790Brennan DC et al., kidney international, 38:1039-1046, 1990Jat PS et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 88:5096-5100, 1991Barber RD et al., Biochim.Biophys.Acta 1355:191-203,1997Sraer JD et al., Kidney Int. 49:267-270, 1996 本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は長期間にわたって継代培養が可能で、かつ分化型形質細胞の形質を保持しているか又は誘導することができるヒト由来の不死化メサンギウム細胞株樹立のための技術を確立することである。 本発明者らは、SV40T抗原遺伝子と構成的に発現するヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子とを導入することにより安定的に増殖を維持するヒト由来のメサンギウム細胞株の樹立に成功した。 すなわち、本発明は、構成的もしくは制御可能なように発現するSV40T抗原遺伝子及び構成的に発現するhTERT遺伝子を含有することを特徴とする不死化ヒトメサンギウム細胞を提供する。好ましくは、SV40T抗原遺伝子の発現は制御可能であり、より好ましくは、SV40T抗原遺伝子の発現は温度シフトにより制御可能である。さらに好ましい態様においては、SV40T抗原遺伝子は温度感受性変異型遺伝子SV40T tsA58である。本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞の特に好ましいものは、寄託番号FERM BP-10478として寄託されている不死化ヒトメサンギウム細胞である。 本発明はまた、ヒト初代メサンギウム細胞にSV40T抗原遺伝子とhTERT遺伝子とを導入することからなる、不死化ヒトメサンギウム細胞の製造方法を提供する。 別の観点においては、本発明は、上述の本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞をSV40抗原発現の非許容条件下で培養することにより得られる分化型ヒトメサンギウム細胞を提供する。好ましくは、分化型ヒトメサンギウム細胞は、αSMA又はCOL4を発現する。 本発明はまた、上述の本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞をSV40抗原発現の非許容条件下で培養することからなる、分化型ヒトメサンギウム細胞の製造方法を提供する。 さらに別の観点においては、本発明は、被検物質がヒトメサンギウム細胞の機能を調節する能力を検定する方法を提供する。この方法は、被検物質の存在下で上述の本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞株又は分化型ヒトメサンギウム細胞を培養し、そして該細胞におけるマーカータンパク質の活性及び/又は発現及び/又は分泌の程度を測定する工程を含む。本発明の方法においては、好ましくは、不死化ヒトメサンギウム細胞株又は分化型ヒトメサンギウム細胞をヒトメサンギウム細胞の刺激物質の存在下及び/又は非存在下で培養する。好ましくは、ヒトメサンギウム細胞の刺激物質は、TGF-β、BMPファミリータンパク質、AGEs、LDL及び酸化型LDL(oxidized-LDL)からなる群より選択される物質である。また好ましくは、マーカータンパク質は、COL4、FN、PAI-1、αSMA、Id1及びCbfa1からなる群より選択される物質である。 さらに別の観点においては、本発明は、上述の方法により得られる、ヒトメサンギウム細胞の機能調節物質を提供する。本発明はまた、この機能調節物質を有効成分として含有する、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、アルポート症候群、糸球体腎炎、ループス腎炎、巣状糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、急性進行性腎炎、ネフローゼ症候群、膜性腎症、半月体形成性腎炎、メサンギウム増殖性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎の治療剤を提供する。 本発明は、ヒト初代メサンギウム細胞にSV40T抗原遺伝子と構成的に発現するhTERTを共に導入することにより得られる、安定的に増殖を維持するヒト由来の不死化メサンギウム細胞株に関する。本発明において、安定的に増殖を維持するヒト由来の不死化メサンギウム細胞株とは、初代メサンギウム細胞が試験管内で増殖できる期間以上に長期間にわたり継代培養が可能であり、かつ安定的に形質を保持する不死化ヒトメサンギウム細胞のことを意味する。即ち、長期間とは通常では試験管内で4〜8継代の継続培養しか実施できない市販のヒト初代メサンギウム細胞の増殖可能期間を超えるものを意味するが、20継代、好ましくは30継代、より好ましくは40継代、更に好ましくは50継代、特に好ましくは60 継代以上にわたり増殖を維持することのできる細胞株のことを意味する。更にはその細胞固有の形態・機能を継代培養によっても喪失することのない細胞を意味する。 SV40T抗原遺伝子としては、野生型のSV40T抗原遺伝子(SV40 TAg; Genbank NC_001669)を用いることができる。SV40T抗原遺伝子は構成的に発現させてもよく、制御可能なように発現させてもよい。SV40T抗原遺伝子の発現が制御可能である場合、SV40T抗原遺伝子を発現させると不死化メサンギウム細胞は増殖し、発現を抑制すると増殖が抑制されて分化型形質を示す分化型細胞に形質転換を起こす。発現の制御は、温度などの培養条件の変化、発現誘導物質の添加、発現阻害物質の除去などにより行うことができる。当該技術分野においては、各種の誘導可能なプロモータや発現系が知られており、そのいずれも本発明において用いることができる。好ましくは発現の制御は培養温度を変化させることにより行う。本発明の1つの好ましい態様においては、SV40T抗原遺伝子として、温度変化によりその発現が変化する温度感受性の変異を有するSV40tsT抗原遺伝子を用いる。このような変異型SV40tsT抗原遺伝子を用いることにより、形質導入の結果得られた形質導入細胞株中で、該細胞株の培養温度を発現非許容温度である温度に変化させることにより、SV40T抗原遺伝子の発現を抑制することができる。SV40tsT抗原の発現の抑制により、形質導入細胞は増殖能力を失い、分化型形質を示す分化型細胞に形質転換を起こすことが可能となる。温度感受性の変異を有するSV40tsT抗原遺伝子としては、SV40T TsA58抗原遺伝子が特に好ましい。 ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)としては、全長ヒトテロメラーゼ逆転写酵素アイソフォーム1(hTERT; Genbank NM_003219)を用いることができる。ほ乳類の体細胞では染色体末端に存在するテロメアが細胞分裂ごとに短縮し、一定の分裂回数の後、増殖が停止する。テロメラーゼ逆転写酵素は、このテロメア長を維持する酵素であり、この遺伝子を導入することにより細胞分裂回数を延長して細胞を不死化できることが見いだされている(Counter et al., Proc Natl Acad Sci USA. 95, 14723-14728: 1998)。SV40tsT抗原遺伝子に加えて、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素をコードする遺伝子(hTERT)を構成的に発現するように導入することにより、より長期にわたり増殖を維持することのできる不死化メサンギウム細胞を樹立することができる。本発明に基づき樹立した細胞の増殖速度は、形質導入の宿主に用いた元の細胞とほぼ同等で、45〜55時間の二倍増殖時間を有しており、継代によりその増殖速度が減少することがない。また、本発明の不死化メサンギウム細胞は、後に示すメサンギウム細胞マーカー若しくは分化型メサンギウム細胞マーカーである細胞マーカーの発現能を保持していることを特徴とする。係る細胞の一例としては寄託番号がFERM BP-10478で示される不死化メサンギウム細胞を挙げることができるが、本発明は該寄託細胞に限定されるものではなく、上記記載の特徴を有する細胞であればいかなるものでもよい。 本発明の不死化メサンギウム細胞は、市販のヒト初代メサンギウム細胞にSV40T抗原遺伝子及びhTERT遺伝子を導入することにより製造することができる。これらの遺伝子の導入は、例えば、レンチウイルス(Invitrogen社ViraPowerレンチウイルス発現システム)、レトロウイルス(IMGENEX社RetroMaxレトロウイルス発現システム、タカラバイオ社Retrovirus Constructive System、Ambionm社pSilencer Retro System)、アデノウイルス(MicroBix社AdMaxシステム、Invitrogen社ViraPower アデノウイルス発現システム)などのウイルスシステムやHVJリポソームなどを用いて行うことができる。 本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞を所望の期間培養し、増殖せしめた後に、SV40抗原発現の非許容条件下で培養を継続することにより、分化型形質を示す細胞(本明細書において「分化型メサンギウム細胞」と称する)への形質転換を誘導することができる。例えば、下記の実施例においては、37℃で発現能を失うSV40tsT抗原を導入した不死化ヒトメサンギウム細胞を用いて、発現許容温度である32℃にて不死化ヒトメサンギウム細胞を増殖せしめた後に、培養温度を37℃に変更することにより、不死化細胞から分化型メサンギウム細胞に形質転換することを示している。 係る方法により得られる分化型メサンギウム細胞の形質は初代細胞の有する形質と本質的に同一であり、より具体的にいえばメサンギウム細胞マーカーとしてフィブロネクチン (FN)、IV型コラーゲン(COL4)等の発現を保持し、分化型細胞マーカーであるα平滑筋アクチン (αSMA)を発現する分化型形質を示す。更に、分化型メサンギウム細胞では、TGF-β等の刺激物質の作用により、PAI-1の分泌若しくは上記マーカータンパク質の発現が亢進される。 本発明の不死化メサンギウム細胞ならびに分化型メサンギウム細胞は、メサンギウム細胞の機能を調節する物質の能力の検定ならびにスクリーニングに有用である。すなわち本発明の別の観点においては、被検物質の存在下で上述の本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞株又は分化型ヒトメサンギウム細胞を培養し、そして該細胞におけるマーカータンパク質の活性及び/又は発現及び/又は分泌の程度を測定することにより、被検物質がヒトメサンギウム細胞の機能を調節する能力を検定する方法が提供される。得られた測定値を対照の測定値と比較することにより、被検物質がメサンギウム細胞の機能を調節する能力を評価することができる。本発明の方法は、多種多様な被検物質からメサンギウム細胞の機能調節物質をスクリーニングするのに有用である。 本発明の検定及びスクリーニング方法の1つの態様においては、不死化ヒトメサンギウム細胞株又は分化型ヒトメサンギウム細胞をヒトメサンギウム細胞の刺激物質の存在下で培養し、応答タンパク質又はマーカータンパク質の活性及び/又は発現及び/又は分泌の程度を測定する。刺激物質としてはTGF-β、BMP-2又はBMP-4等のBMPファミリータンパク質(Ghosh et al., J Biol Chem. 274(16): 10897-902, 1999)、AGEs (Advanced glycation end products)(Fukami et al., Kidney Int. 66(6): 2137-47, 2004)、LDL(Rovin et al., Kidney Int.43(1):218-25, 1993)、酸化型LDL(oxidized LDL)(Song et al., Kidney Int. 67(5): 1743-52, 2005)、結合組織成長因子 CTGF(Wahab et al., Exp Cell Res. 15;307(2): 305-14, 2005)、及びアンジオテンシンII(Wolf et al., Am J Pathol. 140(1): 95-107, 1992)等が挙げられる。刺激物質に応答してその発現やその性質が変化するか又はその細胞内動態が変化する応答タンパク質の活性や発現の程度の測定の一例としては、TGF-β I型受容体であるALK1又はALK5のリン酸化による活性化を介したSmad2、Smad3又はSmad1、Smad5を含むSmadファミリー転写因子のリン酸化(William et al., Am J Physiol Renal Physiol. 284: F243-F252, 2003、Wang and Hirschberg, Am J Physiol Renal Physiol. 284(5): F1006-13, 2003、Abe et al., J Biol Chem. 279(14):14201-6, 2004)や該Smadファミリータンパク質の核内移行等が挙げられる。刺激物質に応答してその発現やその性質が変化するマーカータンパク質の一例としてはCOL4(Poncelet et al., Kidney Int. 56(3):1354-1365, 1999、Abe et al., J Biol Chem. 279(14): 14201-6, 2004)、Id1(Simonson et al., Nucleic Acids Res. 21(24):5767-74, 1993)、FN(Laping et al., Mol Pharmacol. 62(1):58-64,2002)、PAI-1(Lacave et al., Kidney Int. 35(3):806-11, 1989、Datta et al., J Biol Chem.275(51): 40014-40019, 2000)、Cbfa1/OSF2/RUNX2(Lee et al., Mol Cell Biol. 20(23):8783-92, 2000)等が挙げられ、実際にCOL4、Id1、FN、PAI-1はメサンギウム細胞においてTGF-βあるいはBMPファミリータンパク質やAGE刺激により誘導されることが報告されている。TGF-βのメサンギウム細胞に対する作用はマウス由来のメサンギウム細胞を用いて調べられ、メサンギウム細胞における細胞外マトリックス遺伝子発現の調節物質として作用することが示唆されている。また、TGF-βによりFNの発現が時間依存的に2倍亢進すると共にFNのグリコシル化を促進することを通してFNの分解を阻害していることが示唆された。更にTGF-βは初期においてはメサンギウム細胞の代謝活性と生存を促進するものの、最終的には細胞死に至らせることが示された(Jiang Y et al., Mol Cell Biochem. 278(1-2), 165-75, 2005)。こうしたことから、TGF-βがメサンギウム細胞における細胞外マトリックスの発現、タンパク質のグリコシル化及び細胞死に対して重要な役割を果たしていることが示唆されている。上記記載から示唆されるメサンギウム細胞における調節分子の役割から類推して、TGF-β、BMPファミリータンパク質、AGEs、LDL又は酸化型LDLなどの調節因子の存在下、被検物質をメサンギウム細胞に作用させた上で、その受容体であるALK1のリン酸化などの分子動態を観察することによって、メサンギウム細胞の機能を調節する物質を検定し探索することが可能となると考えられる。更に別の態様として、TGF-β、BMPファミリータンパク質、AGEs、LDL又は酸化型LDLなどの調節因子の存在下、被検物質をメサンギウム細胞に作用させた上で、該調節因子によりその発現が影響を受けるCOL4、FN、PAI-1、αSMA、Id1又はCbfa1などのマーカータンパク質を監視することによってメサンギウム細胞の機能を調節する物質を検定し探索することが可能となると考えられる。 こうした応答タンパク質、又はマーカータンパク質の活性及び/もしくは発現、又は各種生理活性物質生産性、分泌量、及び/もしくは分解量の程度は、RT-PCR法、ウエスタンブロット法、EIS (Enzyme Immune Assay)法、ELISA (Enzyme-linked immunesorbent assay)法、RIA (Radioimunoassay)法、時間分解蛍光法(TR-FRET法(LANCE法、PerkinElmer Japan))等、各種の測定技術を単独で、又は組み合わせて用いることにより測定することが可能である。 下記の実施例では、ウエスタンブロット法、ELISA法、時間分解蛍光法を用いて上記記載のスクリーニングを実施し、本発明に係る不死化ヒトメサンギウム細胞を用いた、メサンギウム細胞機能調節物質のスクリーニング方法が具体的に開示されるが、本発明はこうした具体的態様にとどまるものでなく、上記記載の所望の測定技術を単独で又は組み合わせて用いることができる。 メサンギウム細胞の機能調節物質には、メサンギウム細胞の表現型を変化せしめる能力を有する任意分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、核酸、又は低分子化合物を含む多様なクラスの化学物質が含まれる。イン・ビボで薬剤として機能する機能調節物質は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基、典型的な例ではアミン、カルボニル、ヒドロキシル、又はカルボキシル基を少なくとも1個含み、好ましくは少なくとも2個の官能化学基を含むことができる。候補薬剤は前記官能基のうちの1個又は複数で置換された環式炭素構造もしくは複素環式構造及び/ 又は芳香族構造もしくは多環芳香族構造を、しばしば含む。候補薬剤は、ペプチド、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造アナログ、又は組み合わせを含む生体分子の中にも見出される。 候補薬剤は、極めて多様な合成又は天然の化合物ライブラリーから得ることができる。例えば、ランダムオリゴヌクレオチド及びランダムオリゴペプチドの発現を含む、多様な有機化合物及び生体分子のランダムな合成/又は特異的合成を目的として様々な手法を用いることができる。更には、細菌、真菌、植物、及び動物の抽出物を含む天然化合物のライブラリーが容易に作成されると共に、商業的にも供給されうる。更には、合成的に作成された、又は天然のライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理学的、及び生化学的な手法により修飾され、コンビナトリアル・ライブラリーの作成に使用することができる。構造アナログを作製するため、既知の薬理学的薬剤に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の特異的又はランダムな化学修飾を施すことが可能である。 本発明はまた、上述の本発明のスクリーニングにより見いだされたヒトメサンギウム細胞の機能調節物質を提供する。メサンギウム細胞の機能としては、腎糸球体のろ過機能の調節、各種生理活性物質の産生、さらには糸球体腎炎発症時にみられる細胞外基質(マトリックス)産生亢進が挙げられる。IgA腎症、糖尿病性腎症、アルポート症候群などの腎疾患では糸球体メサンギウム細胞による異常マトリックスリモデリング現象が観察され、最終的には糸球体硬化に至る事が知られている。したがって、ヒトメサンギウム細胞の機能調節物質は、ヒトメサンギウム細胞が関与する腎疾患の治療剤として有用であると考えられる。例えば、メサンギウム細胞の機能調節物質の例としては、SB-505124 (Byfield et al., Mol. Pharmacol. 65: 744-752, 2004)、TGF-β RIキナーゼ阻害剤I及びII(Calbiochem社, San Diego, CA)、GSK-1(WO2004065392)、SD-208(Uhl et al., Cancer Res. 64: 7954-7961, 2004)等の低分子化合物が挙げられる。これらの化合物はTGF-β受容体キナーゼ活性を阻害して、メサンギウム細胞でのマトリックス産生を抑制することが知られている。また、losartanなどのアンジオテンシン受容体ブロッカーはメサンギウム細胞でのTGF-β産生を抑制することが知られている(Perlman et al., Ann Clin Lab Sci. 34(3): 277-86, 2004)。 すなわち、本発明のスクリーニング方法により見いだされたメサンギウム細胞の機能調節物質は、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、IgA腎症、アルポート症候群、糸球体腎炎、ループス腎炎、巣状糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、急性進行性腎炎、ネフローゼ症候群、膜性腎症、半月体形成性腎炎、メサンギウム増殖性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎等の腎疾患の治療剤として使用することができる。 以下の実施例をもって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。ヒトメサンギウム細胞の培養 初代ヒトメサンギウム細胞(MC)はCambrex社(Walkersville, MD)より入手した。該細胞は18歳の男性より調製されたもので、37℃にて95%空気と5%の二酸化炭素ガスの環境下、MsGM増殖培地(Cambrex)中で培養した。組換えレンチウイルスの調製 293FT細胞はInvitrogen社(Carlsbad, CA)より入手し、10%のウシ胎児血清(HyClone社, Logan, UT以下、FBS)、1%の非必須アミノ酸溶液及び1%のペニシリンとストレプトマイシン溶液(100 U/ml and 100 μg/mL)を加えたダルベッコの改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium、以下DMEM)にて培養した。細胞培養の全製品は特に記載がなければGibco-Invitrogen社(Grand Island, NY)より入手した。 組換えレンチウイルスはViraPower Lentiviral Expression System(Invitrogen社, Carlsbad, CA)を製造者の使用説明書に従って用いて調製した。全長のSV40T抗原(SV40 TAg; Genbank NC_001669, SEQ ID NO:1, 塩基番号の2691-5163番)を、293FT細胞のゲノムDNAから、センスプライマーとして5'-CACCATGGATAAAGTTTTAAACAGAGAGGAATC(SEQ ID NO:2)を、アンチセンスプライマーとして5'-TTATGTTTCAGGTTCAGGGGGAGGTGTG(SEQ ID NO:3)を用いてPCRにより増幅し、pLenti6/V5-D TOPOベクターへ挿入し、pLenti6-TAgを得た。コザックモチーフを使用説明書に従い設計した。次にtsA58点変異を、PCR突然変異法を用いて挿入した。最初にpLenti6-TAgから5'-AAGCGGGTTGATAGCCTACA(センスA;SEQ ID NO:4)と5'- ATTCAAGCAAAACAGCTGCTAATG(アンチセンスA;SEQ ID NO:5)とのプライマーの組み合わせにより、そして5'-CATTAGCAGCTGTTTTGCTTGAAT(センスB;SEQ ID NO:6)と5'-TTACAAATCTGGCCTGCAGT(アンチセンスB;SEQ ID NO:7)とのプライマーの組み合わせにより二つの断片を増幅した。次に該二断片をアニールし、センスAプライマーとアンチセンスBプライマーを用いて再増幅した。得られた点変異が導入された断片をHpaIとPstIにより消化し、pLenti6-TAgの同一サイトに再構成して、温度感受性のTAgプラスミド(pLenti6-tsTAg)を得た。 全長ヒトテロメラーゼ逆転写酵素アイソフォーム1(hTERT; Genbank NM_003219;SEQ ID NO:8)を、結腸癌細胞株の全RNAよりPCRにより増幅した。第一鎖DNAをhTERTの3'非コードプライマーである5'-TGACAGGGCTGCTGGTGTCTG(SEQ ID NO:9)とReverTra Ace逆転写システム(TOYOBO社, Osaka)を用いて合成した。hTERTのアミノ末端側の半分のcDNA(NM_003219の1-2304番目)を 5'-CACCATGCCGCGCGCTCCCCGCTGCCGA(センスプライマー;SEQ ID NO:10)と5'-GCCTTCTGGACCACGGCATACCGA(アンチセンスプライマー;SEQ ID NO:11)とを用いて、カルボキシル末端側の半分のcDNA(NM_003219の1977-3399番目)を 5'-CACCGGCACTGTTCAGCGTGCTCAACTACGAG(センスプライマー;SEQ ID NO:12) と5'-TCAGTCCAGGATGGTCTTGAAGTC (アンチセンスプライマー;SEQ ID NO:13)とを用いて、それぞれ増幅した。各cDNAをpLenti6/V5-D TOPOベクターにライゲートした。コザック配列を使用説明書に従い導入した。 次に、ベクター中のSpeIとアミノ末端側の半分由来のEcoRVサイト間の断片をカルボキシル末端側の半分由来の同じサイト中に再クローニングして全長hTERTプラスミドを得た(pLenti6-hTERT)。pLenti6-tsTAgとpLenti6-hTERTのDNA配列は全て確認をした。 次にpLenti6-tsTAg又は pLenti6-hTERTを、ほぼコンフレントな293FT細胞にヘルパープラスミド(pLP1、pLP2そしてpLP/VSVG)と共にトランスフェクトし、それぞれtsTAg(LtV-tsTAg)又はhTERT(LtV-hTERT)をコードするレンチウイルスを生成した。37℃において二日間のインキュベーションの後、レンチウイルスを生成する293FT細胞の馴化培地を回収し、4℃にて15分間3000rpmにて遠心分画した。上清を試験管に分画して使用するまで-80°Cにて保存した。各レンチウイルスの希釈試料をHT1080繊維芽細胞に感染させて、ブラストシジン(10 μg/mL)耐性コロニー数を計測することにより、各ウイルスの収量(TU:形質導入単位/mL)を決定した。LtV-tsTAg及び LtV-hTERTに対する収量は3 x 105 及び5 x 104 TUであった。組換えウイルスの作成までの手順を図1に記載する。ヒトメサンギウム細胞の不死化 不死化のために0.5-1.0 x 105個の初代ヒトメサンギウム細胞を6穴プレートにて終夜培養し、第2継代の段階で3 x 104 TUのLtV-tsTAgとなるよう調節した6 μg/mlのポリブレン(Sigma社, St Louis, MO) を含む1 mLウイルス上清に感染させた。培養液に32℃にて2 μg/mLのブラストシジンを添加することにより、安定的にトランスフェクトされた細胞を選択した。次に限界希釈クローン化を行い、単クローン細胞株を得た。最終的に167クローンを拾い、拡大培養した28クローンを9継代目にて保存した。全てのtsTAg感染細胞は19継代目以内に細胞危機(細胞死)を引き起こした。これらのクローンの内、#4, #130 及び #142を6穴プレート中、11から13継代時にLtV-hTERT(1 x 104 TU)を用いて更に感染させ、限界希釈クローニングを再び行った。その後、69クローンを拾い、拡大培養した30クローンを保存した。これらの細胞株は、5%のFBS、2 mMのグルタミン、1%のペニシリン、ストレプトマイシン及び2 μg/mLブラストシジンを添加したMCDB-131培地中、32℃、95%空気と5%二酸化炭素中で維持した。不死化ヒトメサンギウム細胞の選択 実施例3で得られたクローンから、(a) tsTAg発現の32℃から37℃への温度シフトにおける制御、(b) 32℃及び37℃におけるマーカータンパク質の発現、及び(c) TGF-βに応答して培養液中でのPAI-1又はCOL4の発現を指標として不死化ヒトメサンギウム細胞を選択した。以下に、その実験方法と結果を示す。(1)TGF-βに対する応答とマーカータンパク質のウエスタンブロッティングによる検出 不死化したメサンギウム細胞は32℃にて培養し、次に37℃にて6日間培養して、分化誘導した。刺激試験では、該細胞を0.5% FBSを含有する培地で血清飢餓下、24時間後に32℃又は37℃にて各実施例で示す量のTGF-β(R&D Systems社, Minneapolis, MN)を加え、培養した。メサンギウム細胞を1 mMのフェニルメタンスルフォニル・フルオライド(Cell Signaling社, Beverly, MA、以下PMSF)を含む1倍濃度の溶解バッファー(Cell Signaling社, Beverly, MA)にて氷上溶解し、全タンパク質を抽出した。培養皿より溶解物を剥離し、超音波破砕機を用いて(アウトプット1、TOMY社, Tokyo)5秒間超音波処理した。超音波処理物を4℃にて15000rpmで10分間遠心処理を施して、上清中のタンパク質含量をブラッドフォードタンパク質アッセイ(Bio-Rad社, Hercules, CA, USA)を用いて測定した。2-メルカプトエタノールを含有するLDSサンプルバッファー(Invitrogen, Carlsbad, CA)(以下、LDS-2ME)中でタンパク質還元処理後、標品は使用するまで-80°Cにて保存した。細胞培養培地も同バッファーを加え-80°Cにて保存した。 電気泳動前に標品を70℃にて10分間インキュベートした。次に、同量の全タンパク量を含む細胞溶解液又は同量の培養液を4-12% NuPAGE Bis-Trisゲル(Invitrogen社, Carlsbad, CA)にロードして、NuPAGE MOPS-SDS running buffer(Invitrogen社, Carlsbad, CA)を用いて電気泳動をした。電気泳動後、タンパク質をポリビニリデンジフルオライド(以下、PVDF)膜(Immobilon-P; Millipore社, Bedford, MA)に転写した後に、0.1%トゥイーン20を含有するトリス緩衝生理食塩水(以下、TBS-T)中、5%無脂肪ドライミルクにて冷室にて終夜ブロッキングした。次に該調製膜を抗PAI-1一次抗体(1:1000希釈、マウスモノクローナル、Santa Cruz社, Santa Cruz, CA)、抗COL4一次抗体(1:5000希釈、ウサギポリクローナル、abcam社, Cambridge, UK)、抗FN一次抗体(1:3000希釈、マウスモノクローナル、Sigma社, St. Louis, MO)、抗SV40 TAg 一次抗体(1:2000希釈、ウサギポリクローナル、Santa Cruz社, Santa Cruz, CA)、hTERT(1:1000希釈、ヤギポリクローナル、Santa Cruz社, Santa Cruz, CA)又は抗β−アクチン一次抗体(1:3000希釈、ヤギポリクローナル、Santa Cruz社, Santa Cruz, CA)と室温にて1時間、TBS-T中でインキュベートした。膜をTBS-Tにて3回洗浄し、更にワサビペルオキシダーゼ(以下、HRP-)をコンジュゲートした、抗マウス二次抗体、抗ウサギ二次抗体(1:10000希釈、Amersham Bioscience社, Little Chalfont Buckinghamshire, UK)又は抗ヤギ二次抗体(1:10000希釈、Jackson Immunoresearch社, West Grove, PA)の何れかとともにTBS-T中で室温にて1時間インキュベートした。次に膜を洗浄して、高感度化学発光ECLプラスシステム(Amersham Bioscience社, Little Chalfont Buckinghamshire, UK)とLumiImager(Roche Diagnostics社, Penzberg, Germany)を用いて可視化した。 図2は、野生型株(wt)、SV40tsT単形質導入株(#130)、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT及び#4hT)の4クローンについて、温度シフトがtsT抗原及びhTERTの発現に及ぼす影響を示す。図中、#130で示すtsTのみを導入した細胞株においては、32℃から37℃に温度シフトを行うことによって、tsTの発現量が抑制された。このことから、温度感受性変異型tsTを用いて培養液の温度を非許容温度である37℃にシフトさせることにより、ヒトメサンギウム細胞においてT抗原の発現を調節することが可能であることが確認された。また、#130hT株においては#130株では観察されなかったhTERTの発現が認められ、hTERTの発現は同様に二段階の形質導入により取得された#4hT株でも認められた。 図3は、4種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株について、培養温度シフトがtsT抗原及びメサンギウム細胞マーカー(COL4、FN及びPAI-1)の発現に及ぼす影響を示す。37℃に温度シフトさせることにより、tsT抗原の発現が抑制されるのに対し、メサンギウム細胞マーカーであるCOL4、FN、PAI-1などが誘導発現されることが示された。すなわち、非許容温度に温度シフトしてT抗原の発現を抑制することにより、tsT抗原及びhTERTの二重形質導入株を、より分化型の形質を示すメサンギウム細胞に形質転換させることが可能であった。(2)マーカータンパク質の免疫染色 上述のウエスタンブロッティングの結果を、更に別の試験法である免疫染色により確認した。メサンギウム細胞株、HuVEC細胞及びHepG2細胞を96穴又は24穴細胞培養プレートで培養して、免疫蛍光染色により調べた。不死化メサンギウム細胞株は32℃にて培養し、37℃で6日間培養することにより分化誘導した。HepG2細胞とHuVECはAmerican Type Culture Collection (ATCC)から得て、それぞれ、10%のFBSと1%のペニシリン・ストレプトマイシンを添加したDMEM培地、及び, 10%のFBS、50 μg/mLのヘパリン(Sigma社, St Louis, MO)と30 μg/mLの内皮細胞成長添加物(endothelial cells growth supplement)(BD Bioscience社, Bedford MA、以下ECGS)を添加したRPMI 1640培地にて培養した。HepG2細胞とHuVECは37°C にて、95%空気5%二酸化炭素中で培養した。培養後、細胞を-20°Cにて10分間、メタノールアセトン(4:1)で固定した。リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBS)にて洗浄後、細胞を4℃にて10%FBSを含有するPBSでブロッキングした。固定させた細胞をウサギ抗COL4抗体(1:500希釈、abcam社, Cambridge, MA)、マウス抗FN抗体(1:500希釈, Sigma社, St. Louis, MO)、マウス抗α平滑筋アクチン(以下、αSMA)抗体(1:500希釈, Dako社, Glostrup, Denmark)、ウサギ抗フォンビルブラント因子抗体(1:500希釈, Dako社, Glostrup, Denmark)、マウス抗サイトケラチン18抗体(1:200希釈, Chemicon社, Temecula, CA)あるいはマウス抗サイトケラチン19抗体(1:200希釈, Chemicon社, Temecula, CA)のいずれかを含有する、10%FBSを含むPBSにてインキュベートした。PBSで洗浄後、細胞をAlexa 488ラベルした抗ウサギ二次抗体(1:500希釈, Molecular Probes社, Eugene, OR)又はCy3ラベルした抗マウス二次抗体(1:500希釈, Jackson Immunoresearch社, West Grove, PA)とともにインキュベートした。細胞を洗浄し、蛍光顕微鏡BZ-8000(Keyence社, Osaka)を使用して各マーカーの発現を調べた。 図4で示すとおり、tsTAgとhTERTを二重形質導入することにより得られた不死化ヒトメサンギウム細胞株である#130hT-3株と#142hT-18株においては、培養温度を32℃から37℃へ温度シフトさせた結果、メサンギウム細胞マーカーであるαSMAが発現していることが観察された。同時にメサンギウム細胞マーカーCOL4及びPAI-1をウエスタンブロッティングにより検出したところ、図3の結果と同様に、COL4及びPAI-1が発現していることが示された。 また、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)とコントロール細胞株であるHepG2及びHuVECを用いて、各種のメサンギウム細胞マーカー(COL4、FN、αSMA)及びメサンギウム細胞に対するネガティブマーカー(フォンビルブラント因子(第VIII因子)、サイトケラチン18及びサイトケラチン19)の発現を蛍光顕微鏡で検出した。結果を図5及び6に示す。本試験においても、tsTAgの非許容温度である37℃にシフトすることにより、分化型マーカーであるCOL4、FN及びαSMAの発現が誘導されていることが示された。これに対し、HepG2及びHuVECではこれらメサンギウム細胞マーカーの発現は弱いか若しくは認められなかった(図5)。一方、ネガティブマーカーであるフォンビルブラント因子及びサイトケラチン18及び19については、HuVEC及びHepG2でそれぞれ発現が認められるが、増殖型及び分化型のメサンギウム細胞では発現が観察されなかった(図6)。 これらの検討結果に基づき、メサンギウム細胞の形質を保持したクローンが得られたことが示された。更なる検討に用いるためにクローン#130hT-1及び#130hT-9を選抜した。これらのクローンは、初代メサンギウム細胞株と同等の生育速度を示し、かつ60継代以上にわたって連続して培養することが可能であった。分化型メサンギウム細胞を用いた細胞ベースのスクリーニング方法の条件検討 SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)を用いて、分化型形質の発現条件を検討した。具体的には、TGF-βの濃度の変化および血清飢餓の有無がCOL4発現に及ぼす影響を、実施例4で示した免疫蛍光顕微鏡下での観察により調べた。図7に示された結果より、血清飢餓の有無のいずれの場合にも、TGF-β刺激による濃度依存的なCOL4の発現亢進が観察された。尚、発現亢進の程度は血清飢餓条件の方が強いことが示された。ALK5阻害剤による影響の検討 実施例5と同様の試験をTGF-βの濃度を1.0 ng/mLに固定した上で、更に血清飢餓の有無とALK5阻害剤であるSB-505124の有無によるCOL4発現に対する影響を観察した。SB-505124 (Byfield et al., Mol. Pharmacol. 65: 744-752, 2004)は化学合成法により合成した。細胞株は#130hT-9株を使用した。血清飢餓の有無、TGF-βによる刺激の有無に関らず、ALK-5阻害剤であるSB-505124によりCOL4発現が強く抑制された(図8)。抑制の程度は血清欠乏条件下のほうが強いことが示唆された。 また、温度シフトによる分化誘導をしていない#130hT-9株を使用して、ALK-5阻害剤がTGF-βに応答したPAI-1発現に及ぼす影響を、実施例4で示したウエスタンブロッティング法により調べたところ、SB-505124の存在によりTGF-βに応答したPAI-1発現が強く抑制されることが示された(図9)。このことから、温度シフトによる分化型形質への誘導を行わない不死化ヒトメサンギウム細胞を用いても、細胞機能アッセイを実施できることが示唆された。TGF-β刺激によるPAI-1及びCOL4の発現亢進のELISA法によるアッセイ 実施例5及び実施例6で示された細胞機能アッセイを定量的に実施するために、ELISA法を検討した。具体的には、細胞培養液中のPAI-1及びCOL4の量をELISA法により解析した。(1)PAI-1分泌のELISA法によるアッセイ PAI-1アッセイについては、0.5%のFBS含有培地にて血清飢餓後、不死化メサンギウム細胞を32℃にてALK-5阻害剤の存在又は非存在下、1.0 ng/mLの用量のTGF-βとインキュベートした。実施例4で取得した#130hTクローンの内の4株を試験に供した。細胞培養液試料は48時間経過時点で回収し使用するまでは-80°Cにて保存した。PAI-1 ELISAについては、96穴のイムノプレートに抗PAI-1モノクローナル抗体(1 μg/mL, American diagnostica, Stamford, CT)を100 mM NaHCO3中で固相化した。ブロッキングバッファー(0.2% I-block (Tropix社, Bedford, MA)を含有する 0.05%のトゥイーン20を含むPBS(以下、PBS-T)中)にてブロッキング後、試料(1:5希釈)又は標準PAI-1(Chemicon社, Temecula, CA)を種々の濃度でウエル当たり50μLにて加えて、室温にて1時間から2時間の間インキュベートした。ウエルをPBS-Tにて3回洗浄し、続けてブロッキングバッファー中のヤギ抗PAI-1モノクローナル抗体(0.5 μg/mL, R&D Systems社, Minneapolis, MN)とともに1時間インキュベートした。PBS-T洗浄後、ウエルをブロッキングバッファー中のアルカリフォスファターゼ(以下、AP)をコンジュゲートした抗ヤギ抗体(1:6000希釈, Zymed社, South San Francisco, CA)とともに1時間インキュベートした。ウエルをPBS-Tにて4回洗浄し、ウエル当たり100 μLのSIGMA FAST p-ニトロフェニルリン酸溶液(Sigma社, St.Louis, MO)を各ウエルに加えた。AP活性を405nmの吸収増加により分光光度法により測定した。試料中のPAI-1量を同じアッセイにおける既知濃度の標準PAI-1により作成された対照曲線から、GraphPad Prismソフトウエア(GraphPad社, San Diego, CA)を使用して計算した。図10Aは標準PAI-1により作成された標準曲線を示し、図10Bは試料中のPAI-1の定量値を示す。図10Bから、4種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株における、TGF-βに応答したPAI-1の発現亢進をELISA法により定量的に検出しうることが示された。(2)COL4のELISA法によるアッセイ COL4アッセイについては、不死化ヒトメサンギウム細胞を、通常の培地の条件で、コラーゲンタイプIを被覆した培養プレート(Nippon Beckton Dickinson社、Tokyo)上で32℃又は37℃にて、ALK-5阻害剤の存在又は非存在下で、6日間インキュベートした。実施例4で選抜した#130hT-9の32継代目の細胞と55継代目の細胞を試験に供した。COL4 ELISAの手順はPAI-1と基本的に同じ手順であったが、ただし、以下の実験材料を使用した:ウサギ抗COL4ポリクローナル抗体(2 μg/mL, Rockland社, Gilbertsville, PA)、マウス抗COL4モノクローナル抗体(1:1000希釈, Chemicon社, Temecula, CA)、APコンジュゲートした抗マウスIg抗体(1:1000希釈, Zymed社, South San Francisco, CA)及びヒトCOL4標準(Collagen Research Center社, Tokyo)。 図11は、継代数の異なるSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)から誘導した分化型メサンギウム細胞を用いて、TGF-β刺激によるCOL4発現量を比較した結果を示す。継代数の違いに基づくCOL4発現量に大きな相違は観察されず、TGF-βの濃度の上昇(0.03、0.10、0.33、1.0、3.3、10.0 ng/mL)に依存してCOL4発現量が増大した。また、継代数が大きい#130hT-9クローンを用いた場合でも、継代数が小さいクローンと同様に、COL4発現量を指標にTGF-βに対する応答性を評価できることが示された。このことは、本発明にしたがって作製した不死化ヒトメサンギウム細胞が、継代数によらず、安定的に分化型マーカーを発現する能力を保持していることを示す。 次に、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)から誘導した分化型メサンギウム細胞を用いて、TGF-β刺激によるCOL4の発現亢進に及ぼす3種類のALK-5阻害剤の阻害効果を調べた。ここではSB-505124と共に、TGF-β RIキナーゼ阻害剤I及びIIをCalbiochem社(San Diego, CA)より得て使用した。継代数32の#130hT-9を血清非飢餓条件で1 ng/mLのTGF-βの存在下で、37℃にて6日間培養した。結果を図12に示す。阻害剤の濃度上昇に依存してCOL4発現阻害の程度が増大する相関関係が示された。この結果から、本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞を用いることにより、ヒトメサンギウム細胞の形質を調節する物質が分化型メサンギウム細胞形質を示す細胞マーカーの発現に及ぼす影響をELISA法により評価できることが示された。TGF-β又はBMP2によるSmadリン酸化の検出 不死化ヒトメサンギウム細胞を24時間0.5%のFBSを含む培地で血清飢餓させて、続けて1 μMのALK-5阻害剤の存在又は非存在下、TGF-β(1 ng/mL)又はBMP2(300 ng/mL, R&D Systems社, Minneapolis, MN)を用いて32℃にて30分間刺激した。コンプリートミニ(Complete mini)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Diagnostics社, Penzberg, Germany)、フォスファターゼ阻害剤カクテル1及び2(Sigma社, St. Louis, MO)及び1 mMのPMSFを含む細胞溶解バッファーを用いて細胞を溶解した。各30 μgの標品を実施例4のウエスタンブロット法で示した方法でイムノブロットした。即ち、NuPAGE 4-12%ゲル上で電気泳動しPVDF膜に転写した後に、ウサギ抗Smad1(Upstate社, Lake Placid, NY)、ウサギ抗リン酸化Smad1(Ser463/465)(1:1000希釈, Chemicon社, Temecula, CA)、ウサギ抗Smad2/3(1:1000希釈, Upstate社, Lake Placid, NY)、ウサギ抗リン酸化Smad2(Ser465/467)(1:1000希釈, Chemicon社, Temecula, CA)、マウス抗Stat3(Cell Signaling社, Beverly, MA)又はウサギ抗リン酸化Stat3(Tyr705)抗体((1:1000希釈, Cell Signaling社, Beverly, MA)を用いて、タンパク質をイムノブロットした後、HRPをコンジュゲートした二次抗体により検出した。膜をLumiImager中でECL plusを用いて可視化した。 図13に、2種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-1及び#130hT-9)を用いて、TGF-β、BMP2及びALK-5阻害剤であるSB-505124がSmad1及びSmad2/3のリン酸化に及ぼす影響をウエスタンブロッティング法により検証した結果を示す。ヒトメサンギウム細胞において、TGF-βに応答したPAI-1発現が、ALK-5からのPAI-1に対する転写因子であるSmad2/3のリン酸化カスケードを介して作用していることが示された。即ち、ALK-5阻害剤であるSB-505124の作用によりSmad2/3のリン酸化が阻害され、その結果PAI-1発現が抑制されることが示された。BMP2によるSmad1のリン酸化は、刺激後30分の時点では、SB-505124で抑制されなかった。この結果から、本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞を用いて細胞内カスケードの分子動態を観察することにより、ヒトメサンギウム細胞の形質を調節する物質の作用メカニズムを解明できることが示された。 本発明の不死化ヒトメサンギウム細胞及び分化型ヒトメサンギウム細胞は、ヒトメサンギウム細胞の機能を調節する物質のスクリーニングに有用である。このスクリーニング方法により見いだされた薬剤は、糖尿病性腎症、IgA腎症、アルポート症候群、糸球体腎炎、ループス腎炎、巣状糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、急性進行性腎炎、ネフローゼ症候群、膜性腎症、半月体形成性腎炎、メサンギウム増殖性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎等に対する治療剤として用いることができる。図1は、不死化メサンギウム細胞の樹立に供したベクターと方法を示す図である。図2は、培養温度のシフトによるtsT抗原とhTERTの発現に対する影響を、野生型株(wt)、SV40tsT単形質導入株(#130)、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT及び#4hT)の4クローンに対してウエスタンブロッティング法により検出したことを示す図である。図3は、4種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株において、培養温度シフトによるメサンギウム細胞マーカー(COL4、FN及びPAI-1)の誘導発現をウエスタンブロッティング法により検出したことを示す図である。図4は、2種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株において、培養温度シフトによるメサンギウム細胞マーカー(αSMA)の誘導発現を蛍光顕微鏡で検出したことを示す図である。図5は、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)とコントロール細胞株であるHepG2及びHuVECを用いて、COL4、FN及びαSMAの発現を蛍光顕微鏡で検出したことを示す図である。図6は、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)とコントロール細胞株であるHepG2及びHuVECを用いて、フォンビルブラント因子(第VIII因子)、サイトケラチン18及びサイトケラチン19の発現を蛍光顕微鏡で検出したことを示す図である。図7は、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)から誘導した分化型メサンギウム細胞のTGF-βに対するCOL4の発現応答を蛍光顕微鏡により検出したことを示す図である。図8は、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)から誘導した分化型メサンギウム細胞におけるTGF-βに対するCOL4の発現応答が、ALK-5阻害剤であるSB-505124により阻害されることを、蛍光顕微鏡により検出したことを示す図である。図9は、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)において、TGF-βに対するPAI-1の発現応答が、ALK-5阻害剤であるSB-505124により阻害されることを、ウエスタンブロッティングにより検出したことを示す図である。図10は、PAI-1のELISA解析における標準PAI-1を用いた標準曲線、及び4種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株における、TGF-βに対するPAI-1の発現応答をELISA法により検出したことを示す図である。図11は、継代数の異なるSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)から誘導した分化型メサンギウム細胞を用いて、COL4の発現応答のTGF-βに対する濃度依存性を、ELISA法を用いて検証した結果を示す図である。図12は、SV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-9)から誘導した分化型メサンギウム細胞を用いて、TGF-βによるCOL4の発現応答に対する3種類のALK-5阻害剤の阻害効果を、ELISA法を用いて検証した結果を示す図である。図13は、2種類のSV40tsT及びhTERTの二重形質導入株(#130hT-1及び#130hT-9)を用いて、TGF-β、BMP2及びALK-5阻害剤であるSB-505124によるSmad1及びSmad2/3のリン酸化に対する影響をウエスタンブロッティング法により検証した結果を示す図である。構成的もしくは制御可能なように発現するSV40T抗原遺伝子及び構成的に発現するhTERT遺伝子を含有する不死化ヒトメサンギウム細胞。SV40T抗原遺伝子の発現が制御可能である、請求項1記載の不死化ヒトメサンギウム細胞。SV40T抗原遺伝子の発現が温度シフトにより制御可能である、請求項2記載の不死化ヒトメサンギウム細胞。SV40T抗原遺伝子が温度感受性変異型遺伝子SV40T tsA58である、請求項3記載の不死化ヒトメサンギウム細胞。寄託番号FERM BP-10478として寄託されている、請求項4記載の不死化ヒトメサンギウム細胞。ヒト初代メサンギウム細胞にSV40T抗原遺伝子とhTERT遺伝子とを導入することを含む、不死化ヒトメサンギウム細胞の製造方法。請求項2−5のいずれかに記載の不死化ヒトメサンギウム細胞をSV40T抗原発現の非許容条件下で培養することにより得られる分化型ヒトメサンギウム細胞。分化型ヒトメサンギウム細胞がαSMA又はCOL4を発現する、請求項7記載の分化型ヒトメサンギウム細胞。請求項2−5のいずれかに記載の不死化ヒトメサンギウム細胞をSV40T抗原発現の非許容条件下で培養することを含む、分化型ヒトメサンギウム細胞の製造方法。被検物質がヒトメサンギウム細胞の機能を調節する能力を検定する方法であって、被検物質の存在下で請求項1−5のいずれかに記載の不死化ヒトメサンギウム細胞株又は請求項7又は8に記載の分化型ヒトメサンギウム細胞を培養し、そして該細胞におけるマーカータンパク質の活性及び/又は発現及び/又は分泌の程度を測定する工程を含む方法。不死化ヒトメサンギウム細胞株又は分化型ヒトメサンギウム細胞をヒトメサンギウム細胞の刺激物質の存在下及び/又は非存在下で培養することを含む、請求項10記載の方法。ヒトメサンギウム細胞の刺激物質が、TGF-β、BMPファミリータンパク質、AGEs、LDL及び酸化型LDLからなる群より選択される物質である、請求項11記載の方法。マーカータンパク質がCOL4、FN、PAI-1、αSMA、Id1及びCbfa1からなる群より選択される物質である、請求項10−12のいずれかに記載の方法。配列表