タイトル: | 特許公報(B2)_腎臓上皮細胞に対するインビトロおよびインビボでの増殖促進タンパク質およびペプチド |
出願番号: | 2006055617 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61P 13/12,C07K 14/47 |
エフ. ゲイリー トバック マーガレット エム. ウォルシュ−レイツ JP 4686379 特許公報(B2) 20110218 2006055617 20060301 腎臓上皮細胞に対するインビトロおよびインビボでの増殖促進タンパク質およびペプチド アーチ ディベロップメント コーポレイション 594184953 山本 秀策 100078282 安村 高明 100062409 森下 夏樹 100113413 エフ. ゲイリー トバック マーガレット エム. ウォルシュ−レイツ US 08/974,775 19971120 20110525 A61K 38/00 20060101AFI20110427BHJP A61P 13/12 20060101ALI20110427BHJP C07K 14/47 20060101ALI20110427BHJP JPA61K37/02A61P13/12C07K14/47 C12N15/00 A01N1/02 A61K38/00 A61K39/395 A61P13/12 CA BIOSIS WPIDS MEDLINE 2 2000522130 19980522 2006176536 20060706 51 20060301 2008006060 20080310 鈴木 恵理子 引地 進 平田 和男 (発明の背景) 約22kDaおよび45kDaの分子量を有するタンパク質因子由来の新規の増殖ペプチドは、上皮のマイトジェン的な活性を刺激するが、線維芽細胞、特に培養中の腎臓上皮細胞は刺激しない。これらの増殖促進効果はまた、インビボで実証された。 急性の腎不全は、現在「現実の」処置が存在しない高い死亡率を伴う重篤な疾患である。急性の腎不全は、それまで正常であった腎機能の急激な崩壊として規定される。これは、循環不全(ショック)、血管遮断、糸球体腎炎および尿流量の閉塞を含む広範な種々のメカニズムにより起こる。さらに、これは、手術、外傷、敗血症後、または特定の薬品、特に抗生物質および抗癌剤で起こり得る。 1985年に、140,000人ものアメリカ人が急性腎不全で入院した(1990年のNational Institutes of Health Long Range Planを参照のこと)。これらの症例に関連する処置の平均コストは、9000ドルを超えた。過去数年間にわたる疾患の増加および正常な上昇に基づいて、現在、240,000人もの患者が、患者1名あたり10,000ドルを超えるコストで、毎年急性腎不全を発症していると推定された。それは、1年あたりほぼ25億ドルの米国保険制度への総コストの動揺へ転換した。 1990年のNational Institutes of Health Long Range Planから表1に見られ得るように、腎臓疾患は、米国において主な医療コストに寄与するため、回復の期間を短縮する因子は、社会にとって有益である。 同等に重要なのは、急性腎不全の症例数が1年あたり9%の割合で増加しており(National Institutes of Health,1995)、そしてこの増加の高い割合は持続すると予測されるという事実である。腎不全の発生数におけるこの上昇について与えられる理由は、腎不全の高い危険性を有する「より病気の(sicker)」患者がより長期生存しているということである。 1.高齢患者。急性腎不全の有意により高い発生数を有する高齢患者(例えば、65歳を越える患者は、45〜64歳の患者よりも急性腎不全のために5倍より多く入院しやすい)は、いまや、重篤な医療事象(例えば、心臓発作、脳卒中)ならびに複雑な手術から生存している。より洗練されたモニタリングシステムおよびライフサポートシステムを有する改良された病院の集中治療室はまた、「より病気の」患者の生命保持を助ける。さらに、癌および生命を脅かす感染の処置のための改良された治療剤は、しばしば腎毒性である。 2.新生児。腎不全の極度に高い危険性を有する新生児はまた、より短い期間、および有意により軽い誕生時体重でも生存している。このような幼児は、以前は重篤な肺および心臓の問題を克服することが困難であったが、これらの問題は、現在、改良された薬物および技術で、特に専門化された新生児集中治療室で、首尾よく処置され得る。 処置の様式におけるこのような進歩は、継続しそして加速さえすると予想されるため、急性腎不全の症例数が、おそらくより早い速度でさえ増加し継ける見込みがある。 現時点で、現実の「回復(cure)」は、急性腎不全については存在しない。処置の現在の方法は、代謝の不均衡を補正するために透析を実施することにより腎臓を「休息させる」こと、および腎機能が自発的に回復することを待つことである。 透析は、正常には腎臓を通じて排泄される血液からの不純物および毒素を、体外循環およびフィルターを通じて(血液透析)、または腹膜を通じて人工的に除去する技術である。このような不純物を除去することにより、腎不全から生じる生命を脅かす代謝の不均衡は、補正され得、患者は安定化され得る。 急性腎不全を発症している患者での死亡率は、極度に高い。患者の死亡率に対する急性腎不全の効果を分析した近年の試験(Levyら、1996)は、以前に公表された18の報告に基づいて、この割合を42%から88%の範囲であると記している。これらの割合は、1950年代初頭から本質的に変化していないままである。1996年の試験自体では、急性腎不全を発症した入院患者の死亡率は、腎不全のない同様の患者に比べて5倍高かった(34%対7%)。 この研究の重要な知見は、「急性腎不全は、死をもたらす重篤な腎以外の合併症を発症させる危険性を上昇させるようであり、そして重症疾病の処置可能な合併症としてみなされるべきではない」ということである。従って、急性腎不全の迅速な改善が、重篤、かつしばしば致死的な腎以外の合併症の発生を防ぐことにより、臨床的な過程をまたしばしば困難にした患者における致死の危険性を有意に減少させ得るようである。 腎臓が、傷害後にそれ自体を修復する能力を有するわずかなヒトの器官のうちの1つであるということは長く知られている。腎臓が不可逆的に傷害を受けた場合、そして腎臓細胞の大規模な壊死が存在する場合でさえ、ある程度、新しい細胞増殖が生じるという強力な証拠が存在する。 増殖因子が、傷害を受けた腎臓において再生過程を刺激または増強し、従って重篤度を軽減し、そして急性腎不全の経過を短縮する治療的なアプローチであることが提唱されている。急性腎不全の処置としての増殖因子の使用は、Toback(1984)により最初に提唱された。しかし、適切な増殖因子を見出すことは、困難と判明した。このストラテジーのための原理は、いくつかの特定の増殖因子タンパク質が同定された後になって発展された(MordanおよびToback,1984;Toback 1992;MendleyおよびToback,1989;Toback 1992aおよび1992b)。しかし、ヒトの処置において有用である因子はまだ確認されていない。 腎臓の傷害を受けていない尿細管細胞(tubular cell)の増殖および遊走の刺激に、そしておそらくさらに準致死的に傷害を受けた細胞の回復を促進するようにインビボで作用する増殖因子は、有益である。特定の増殖因子は、腎臓問題を有する患者の生存の上昇のために、十分な栄養、熱量および透析治療と組み合わせて用いられ得る。例えば、増殖因子の投与は、以下をなし得る:(1)急性腎不全が拒絶の増加と関連した状況での、死体の腎移植片を有する患者において肯定的な結果を増加させること、(2)急性腎不全の期間を短縮し、患者の生存を上昇させること、および(3)腎不全症候群の間の血液透析処置に必要な日数を短縮すること。 自己分泌増殖因子は、それらが作用する同じ細胞により局所的に産生される。それらは、細胞傷害のような刺激事象に応答して産生されるようである。さらに、それらは、極度にわずかな量で産生され、そしてほんの短い時間だけ、検出可能レベルで存在し得る。従って、それらを単離しそして同定することはかなり困難である。 2つの別の型の増殖因子−パラクリンおよびエンドクリン−その両方は、腎臓細胞の増殖刺激においていくぶん役割を有するようである。パラクリン因子は、(それを産生した細胞でよりも)近接した細胞で作用するが、エンドクリン因子は1つの細胞で産生され、そして別の離れた細胞で作用するように輸送(例えば、血流により)される。代表的にはより大量に産生され、そしていくつかの自己分泌因子よりも長い「半減期」を有するこれらの型の因子のうちのいくつかは、発見され、そしてそれらのcDNAが同定されている。 (動物試験および臨床試験) いくつかの増殖因子は、回復の速度を増す際のその効力を決定するために、急性腎不全ラットモデルにおいて試験されている。これらの試験の結果は、増殖因子が腎臓の修復の加速において主な役割を果たし得るという理論に対する支持の助長を与える。これらのうち最も重要な3つは以下である。 1.上皮増殖因子(EGF)は、急性腎不全を有するラットにおいて回復を加速すると報告されている(Coimbraら、1990)。しかし、EGFはまた、骨由来のカルシウムを動員し、これはヒトにおけるその使用を妨げるようである重篤な副作用であることが注目された。 2.インスリン様増殖因子−I(IGF−I)。ラットモデルにおけるいくつかの試験は、この因子が実際に有効であることを確認する。しかし、ヒトIGF−1の2つの臨床的試験においては、急性腎不全からの患者の回復の速度を増す際に実質的な効果を有するようではなかった。 3.骨形成タンパク質−1(OP−1)は、骨、軟骨および目の組織の修復におけるヒトでの使用のためにすでに認められた骨増殖因子である。OP−1は、ヒト腎臓の胚発生において重要な役割を果たし得るが、これが成人の腎臓細胞の修復を補助するためにどのように働くのかは明確ではない。OP−1および他の自己分泌性の腎臓増殖因子は一緒に、作用の相補的メカニズムを有し得ることは可能である。 (自己分泌性腎臓増殖因子) 以前に同定された増殖因子に関する動物試験の結果は、助長されているが、現在、これらの増殖因子で臨床的に用いられているものはない。特に注目されるのは、上記の3つの増殖因子(EGF、IGF−IおよびOP−1)のための腎臓のメッセンジャーRNAが、急性腎不全の間、腎臓において現実に減少することである。論理的に、増殖因子が、傷害の修復、および急性腎不全の後退において有効である場合、このレベルは、臨床事象の間に、上昇することが期待される。 上記で引用された因子のいくつかは、腎臓上皮細胞により放出され、そして自己分泌様式で細胞の増殖を刺激し得る。例えば、サル腎臓(BSC−1)細胞は、「低カリウム増殖因子」を放出することによるカリウム濃度の減少を伴って培養培地へ応答し、そして「低ナトリウム増殖因子」を放出することによりナトリウム濃度を減少させる応答をする(MordanおよびToback,1984;Walsh−Reitzら,1986;Tobackら,1992bおよび1995)。 「回復」のための新しい治療的アプローチ、または最低限、急性腎不全の後退を速めるための重要な必要性が存在する。本発明によって以下が提供される:(項目1) タンパク質であって、以下の特徴: a)HPLC精製したタンパク質をSDSポリアクリルアミド上で電気泳動することによって得られる、推定分子量45kDa; b)培養細胞と接触するときに、分裂促進活性を刺激する能力;を有し、そして、 c)引っかきによる損傷が生じることによって培養物中のBSC−1細胞により放出された、タンパク質。(項目2) NH2−アラニンーグルタミンープロリンートリプシン/システインープロリンーグルタミンーグリシンーアスパラギンーヒスチジンーグルタミン酸ーX−アラニン/セリンーチロシンーグリシンーCOOHのアミノ末端に部分アミノ酸配列を有する、項目1に記載のタンパク質。(項目3) タンパク質であって、以下の特徴: a)HPLC精製したタンパク質をSDSポリアクリルアミド上で電気泳動することのよって得られる、推定分子量22kDa; b)培養細胞と接触するときに、分裂促進活性を刺激する能力;を有し、そして、 c)引っかきによる損傷が生じることによって培養物中のBSC−1細胞により放出された、タンパク質。(項目4) NH2−アラニンーグルタミンープロリンーチロシン/システインープロリンーグルタミンーグリシンーアスパラギンーヒスチジンーグルタミン酸−アラニンートスレオニン−セリン−セリン−セリン−フェニルアラニン−COOHのアミノ末端に部分アミノ酸配列を有する、項目3に記載のタンパク質。(項目5) NH2−チロシンーシステインープロリンーグルタミンーグリシンーアスパラギンーヒスチジンーCOOHを含む、ペプチド。パク質。(項目6) 7〜16アミノ酸長を有する、項目5に記載のペプチド。(項目7) 以下の群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドまたはタンパク質: AQPY/CPQGNHEATSSSF; AQPY/CPQGNHEATSSS; AQPY/CPQGNHEA; AQPY/CPQGNHEAT; AQPY/CPQGNHEATS; AQPY/CPQGNHEATSS; AQPY/CPQGNHEAAYG; AQPY/CPQGNHEAAY; AQPY/CPQGNHEAAA; AQPY/CPQGNHEAA; AQPY/CPQGNHEA; AQPY/CPQGNHE; AQPY/CPQGNHEASYG; AQPY/CPQGNHEASY; AQPY/CPQGNHEAS; AQPY/CPQGNH; QPY/CPQGNHE; PY/CPQGNHEA; QPY/CPQGNH; PY/CPQGNHE; Y/CPQGNHEA; PY/CPQGNH; Y/CPQGNHE; Y/CPQGNHEATSSSF; Y/CPQGNHEATSSS; Y/CPQGNHEATSS; Y/CPQGNHEATS;および Y/CPQGNHEAT。(項目8) 項目1に記載のタンパク質を含む、組成物。(項目9) 項目1に記載のタンパク質を含む、組成物。(項目10) 項目7に記載のペプチドを含む、組成物。(項目11) ペプチドYPQGNHまたはCPQGNHを含む、タンパク質。(項目12) ペプチドAQPYPQGNHEASYGまたはAQPCPQGNHEASYGを含む、タンパク質。(項目13) 以下の特徴: i) SDSポリアクリルアミドゲル上でHPLC精製したポリペプチドを電気泳動することにより得られる、推定分子量約45kDa; ii) 培養細胞と接触するときにマイトジェン活性を刺激する能力;を有し、かつ iii) 引っかきによる損傷が生じることより培養中のBSC−1細胞により放出された、、タンパク質を作製するための方法であって、該方法は、以下: a) 培地中で腎臓上皮細胞を培養する工程、 b) 培養中の該細胞を引っかきによる損傷を生じさせる工程、および c) 馴化培地から該タンパク質を得る工程、を包含する、方法。(項目14) 得られた前記タンパク質が、前記馴化培地から単離され、そして精製される、項目11に記載の方法。(項目15) 培養中の前記腎臓上皮細胞が、BSC−1アフリカミドリザル腎臓上皮細胞株由来である、項目11に記載の方法。(項目16) 以下の性質: i) SDSポリアクリルアミドゲル上でHPLC精製されたポリペプチドを電気泳動することにより得られる、推定分子量約22kDa; ii) 培養細胞と接触する場合にマイトジェン活性を刺激する能力を有し、かつ iii) 引っかきによる損傷が生じることにより培養中のBSC−1細胞により放出された、タンパク質を作製するための方法であって、該方法は、以下: a) 腎臓上皮培養物を得る工程、 b) 培養中の該細胞を引っかきによる損傷を生じさせる工程、および c) 引っかきによる損傷が生じた細胞が培養される培地を馴化されるようにする工程、を包含する、方法。(項目17) 項目1に記載のタンパク質に対する抗体。(項目18) ペプチドAQPYPQGNHEASYGまたはAQPCPQGNHEASYGに対する、抗体。(項目19) 項目7に記載のペプチドに対する、抗体。(項目20) 前記抗体がモノクローナル抗体である、項目17に記載の抗体。(項目21) 前記抗体が、モノクローナル抗体である、項目19に記載の抗体。(項目22) 項目1に記載のタンパク質を作製するための方法であって、該方法は、以下: a) 該タンパク質またはペプチドをコードするヌクレオチド配列を得る工程;および b) 遺伝子発現系において、該タンパク質またはペプチドを作製するために、該ヌクレオチド配列を用いる工程、を包含する、方法。(項目23) 生物学的試料において、WGFタンパク質またはそからのマイトジェンペプチドの量を測定するための診断キットであって、該キットは、別々の容器に、以下: a) 該WGFまたはそれからのマイトジェンペプチドに対する抗体;および b) 該タンパク質またはマイトジェンペプチドと該抗体との間の特異的複合体を検出する手段、を含む、キット。(項目24) 項目23に記載の方法であって、前記マイトジェン活性ペプチドが、配列 チロシン/システイン/−プロリンーグルタミンーグリシンーアスパラギン ヒスチジンを有する、方法。(項目25) 急性腎不全を伴うヒトを処置するための方法であって a)薬理学的有効量のネイティブWGFタンパク質またはWGF誘導ペプチドを適切な希釈液中で調製する工程;および b)該調製物を該ヒトに投与する工程を包含する、方法。(項目26) 前記WGFが、腎臓ガンの処置のために細胞溶解性リガンドに連結される、項目25に記載の方法。(項目27) 前記細胞溶解性リガンドが、腎臓ガンの処置のために毒素を含む、項目25に記載の方法。(項目28) 適切な希釈液中の薬理学的有効量のネガティブWGFタンパク質またはWGF誘導ペプチドを、新しい宿主への移植を意図されるヒトの腎臓にエキソビボで灌流する方法。(項目29) 慢性腎疾患を伴うヒトを処置するための方法であって、a)適切な希釈液中に薬理学的有効量のネイティブWGFタンパク質またはWGF誘導ペプチドを調製する工程;およびb)有効量の該調製物を該ヒトに投与する工程を包含する、方法。(項目30) WGF誘導ペプチドの少なくとも1つの多量体を含む組成物であって、該ペプチドは、ヘキサペプチドNH2−Y/CPQGNH−COOH、22kDaおよび45kDaのWGFタンパク質の最初の10アミノ酸(AQPYPQGNHE)、14−Serペプチド(AQPYPQGNHEASYG)、および他のWGF配列、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、組成物。(項目31) 少なくとも1つのWGF誘導ペプチドを含む組成物であって、少なくとも1つのアミノ酸が、得られるペプチドがそのマイトジェン活性を保持するように、天然に存在するアミノ酸、アミノ酸誘導体、または非天然アミノ酸で置換される、組成物。(項目32) 少なくとも1つのWGF誘導ペプチドを含む組成物であって、該ペプチドは、マイトジェン活性を有するWGF誘導ペプチドとは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失または挿入により、異なっているアミノ酸を有する、組成物。(項目33) WGF誘導ペプチドまたはタンパク質の構造的なホモログでるペプチドまたはタンパク質を含む組成物であって、該ペプチドまたはタンパク質は、該WGF誘導ペプチドまたはタンパク質と少なくとも80%の相同性を有する、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有し、該組成物は、マイトジェン活性を示す、組成物。(項目34) WGF誘導ペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つ構造的に改変されたアイソフォームを含む組成物であって、該アイソフォームは、グリコシル化、硫酸化、またはミリスチル化のうちの1つの機構によって翻訳後改変され、かつ該組成物は、マイトジェン活性を有する、組成物。(項目35) ネイティブWGFタンパク質およびWGF誘導ペプチドが、マイトジェンシグナル伝達を開始するために結合する細胞表面レセプターを含む、組成物。(項目36) WGFタンパク質または少なくとも1つのWGF誘導ペプチドを、他の公知の増殖因子および/または栄養素との組み合わせて含む、組成物。(項目37) 急性腎不全または慢性腎疾患を伴うヒトを処置することに使用される、項目36に記載の組成物。(項目38) ネイティブWGFタンパク質およびWGF誘導ペプチドのマイトジェン効果をブロックする、ペンタペプチド。(項目39) YPQGNのアミノ酸配列を有する、項目38に記載のペンタペプチド。(項目40) PQGNHのアミノ酸配列を有する、項目38に記載のペンタペプチド。(発明の要旨) 本発明は、創傷増殖因子(Wound Growth Factor:WGF)と称される、新規なマイトジェン性タンパク質のアミノ酸配列を有するものを含むタンパク質およびペプチドのファミリー1、ならびに腎臓上皮細胞の増殖を刺激もするそのNH2末端ペプチドを含む。(1:一般に、「タンパク質」は、約50アミノ酸以上の分子について用いられる用語である。ペプチドはより小さい)。「生物学的に活性なWGF」は、本明細書において、培養された腎臓細胞におけるマイトジェン活性を刺激する因子として規定され、そして一般に、本明細書において「WGF」によって意味されるものである。「WGF」は、親分子がマイトジェン活性を有する限り、親分子に由来する種々の長さのペプチドを包含する。適切な「WGF由来ペプチド」は、アミノ酸置換、付加または欠失が生じたペプチドであるが、このペプチドはマイトジェン活性を刺激し、そしてその作用がペンタペプチドYPQGNまたは活性をブロックする任意の他のペプチドによりブロックされるペプチドである。少なくともペンタペプチドYPQGNが細胞のWGFレセプターへの接近をブロックすることが考えられる。好ましいヘキサマー(6マー)配列である、NH2−チロシン/システイン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−COOH(Y/CPQGNH)は、一般に、このペプチドに含まれる。(1か所でのアミノ酸間のスラッシュは、いずれか1つがそこに存在することを示す)。 本発明は、基礎的な「因子」の培養において産生の様式が存在するために、最初、創傷増殖因子(WGF)と名付けられたタンパク質を特徴付けるとして言及された、アミノ酸配列由来の生物学的増殖促進タンパク質およびペプチドに関する。さらなる分析は、最初は以下の2つの分子量の因子を示した: WGF由来の本発明の新規なペプチドの実施態様は、培養におけるサル腎臓上皮細胞のための強力なマイトジェン因子であり、このペプチドは、14のアミノ酸配列,AQPYPQGNHEASYGを含む。この14アミノ酸のペプチド(14マー)は、それが12位でセリン残基を有することを示すために「14−Ser」と呼ばれる。他の公知の腎臓増殖因子マイトジェン因子と比較して配列YPQGNHもしくはCPQGNHを含むこのペプチド、または天然の完全長WGFは、以下の他の公知の因子に付加的であるか、等価であるか、またはより強力であるかのいずれかであるマイトジェン効果を有する:例えば、上皮性増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、インスリン様増殖因子−I、バソプレシン、または仔ウシ血清。 天然に存在する因子(WGF)は、腎細胞単層がピペットチップによる機械的な引っかき傷を受けた場合、培養培地中に放出される。これは新しい知見であった。すなわち、増殖因子が引っかき傷をつけられた腎臓上皮細胞から放出され、そして同じ型の細胞の増殖を刺激し得る。従って、それは自己分泌性増殖である。因子を放出する細胞の供給源は、BSC−1細胞株(形質転換されていないアフリカミドリザル腎臓上皮細胞)(ATCC CCL 26/BS−C−1)である。これらのペプチドはまた、ペプチド合成および組換え遺伝子技術を含む当業者に周知の技術により合成され得る。 創傷後の増殖促進活性の出現は、WGFの不活性な前駆体のタンパク質分解活性化により媒介されるようである。これについての証拠は、以下の種々のプロテアーゼインヒビターのそれぞれによる10分間の細胞のプレインキュベーションが創傷後の増殖促進活性の出現を妨害したことである:アプロチニン、フェニルメチルスルホニルフルオリド(Sigma)(PMSF)、アンチパイン、L−1−クロロ−3−(4−トシルアミド)−7−アミノ−2−ヘプタノン−ヒドロクロリド(TLCK)またはα2−マクログロブリン。これらの薬剤のどれも、創傷を受けていない培養物の細胞に加えた場合、細胞の増殖を阻害しなかった。WGFマイトジェン活性の出現後に、培地に添加された場合、PMSFもアプロチニンも、細胞の増殖における増加を阻害しないようであった。HPLCで精製したWGFは、プロテアーゼであるようではない。なぜなら、Protease Substrate Gel tablets(BioRad)を用いてアッセイした場合、このWGFはタンパク質分解活性を示さなかったからである。 本明細書において議論されるように、WGFは、それがBSC−1細胞のような引っかき傷をつけられた腎臓上皮細胞の培養培地中に放出された後、増殖促進活性を示す。この増殖促進活性を担う成分の単離および精製は、成分が22および/または45キロダルトン(kDa)の相対的分子量(Mr)を有するように、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド電気泳動上でふるまうことを示した。さらなる分析は、WGFが3T3線維芽細胞についてのマイトジェン因子ではなく、サル腎臓BSC−1細胞についてのマイトジェン因子であるタンパク質であることを示した。WGFの放出はまた、元々、相対的に腎臓上皮細胞型特異的であるようである。なぜならWGFは、培養中でBSC−1細胞の創傷後に出現するが、培養中での線維芽細胞の創傷後には出現しないからである。 従って、本発明の1つの局面は、以下の特徴を有する「WGF」と名づけられたタンパク質である: a)約45kDaおよび/または22kDaの推定分子量(この推定は、SDS−ポリアクリルアミドゲルでのHPLC精製タンパク質の電気泳動により得られる); b)培養された細胞と接触させた場合、マイトジェン性活性を刺激し得ること;および c)引っかき傷つけにより培養物においてBSC−1細胞により放出されること。詳細には、天然状態から単離された45kDaタンパク質は、以下のようにそのアミノ末端で部分的なアミノ酸配列を有する:NH2−アラニン−グルタミン−プロリン−チロシン/システイン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−グルタミン酸−X−アラニン/セリン−チロシン−グリシン−COOH(X=未特定のアミノ酸)。 別のWGFタンパク質は、約22kDaの推定分子量を有し、この推定は、SDS−ポリアクリルアミドゲルでのHPLC精製タンパク質の電気泳動により得られ、そしてこれは以下のようにそのアミノ末端での部分的なアミノ酸配列を得る:NH2−アラニン−グルタミン−プロリン−チロシン/システイン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−グルタミン酸−アラニン−トレオニン−セリン−セリン−セリン−フェニルアラニン−COOH。 馴化細胞培養培地からWGFを精製するのに適切なプロトコールは、限界濾過、ヘパリン親和性クロマトグラフィーおよび逆相(RP)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用する。WGFタンパク質の収率は、通常、1リットルの馴化培地あたり約50ngのタンパク質の範囲で非常に低いが、6,400倍の精製が達成される。 生物活性のWGFのサイズは、標準タンパク質(すなわち、公知のサイズのタンパク質)と平行に、SDSゲルでHPLC精製WGFを電気泳動すること、ゲルを2mm幅のゲル画分にスライスすること、緩衝液中でそれぞれの画分を溶出すること、次いでBSC−1細胞の培養物を用いてマイトジェン活性について抽出物をアッセイすることにより規定された。この実験ストラテジーは、WGFタンパク質が22kDaおよび45kDaの推定Mrを有し、そしてマイトジェン性であることを示した。 RP−HPLCにより得られた214nmでの物質の吸収の単一の先鋭なピークは、線維芽細胞ではなく、腎臓上皮に対する増殖促進活性を示し、そして銀染色によりSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動上でいくつかのバンドを産生した。 先鋭なピークを形成した物質のアミノ酸組成分析は、WGFのタンパク質特徴を確認した。微量配列決定は、22kDaイソ型のアミノNH2末端の最初の16アミノ酸を示した:NH2−アラニン−グルタミン−プロリン−チロシン/システイン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−グルタミン酸−アラニン−トレオニン−セリン−セリン−セリン−フェニルアラニン−COOH。45kDaイソ型について、アミノ末端での14のアミノ酸が、同定された:NH2−アラニン−グルタミン−プロリン−チロシン/システイン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−グルタミン酸−X−アラニン/セリン−チロシン−グリシン−COOH。11位でのアミノ酸の同定は未確定(X)であり、4位でチロシン(Y)もしくはシステイン(C)であるか、または12位でアラニン(A)もしくはセリン(S)であるか否かを決定することは不可能である。National Center for Biotechnology Information(NCBI)により取り扱われるExperimental GENINFO(R)BLAST Network Service(Blaster)の7つのペプチド配列データベースの検索は、このアミノ末端配列が新規なタンパク質のアミノ末端配列であることを示した。 実質的に重要なことは、16のアミノ酸配列より短いペプチドもまた、強力なマイトジェンの比活性を有しているというさらなる知見であった。この知見は、非常に重大である。なぜならこれらの短いペプチドは:(1)抗原性にはほとんどなりそうにない(すなわち、それらは免疫系に拒絶されることなく、別の動物またはヒトに直接注入され得る)、そして(2)それらは、最初に、完全な22または45キロダルトンタンパク質をコードし、次いで組換えタンパク質を発現するするcDNAクローンを見出す必要なく、ペプチド合成機を用いて、容易に大量に調製され、そして改変され得る、からである。 培養された細胞を傷付けることにより因子を産生させることに加えて、マイトジェン活性を発現する合成ペプチドが産生された。特に興味深いのは、その配列が、22kDaタンパク質の最初の11のアミノ酸残基に基づき、そしてマイトジェン活性を示す合成ペプチドである。さらに、因子の短いペプチドドメインである他のポリペプチドもまた、本発明の範囲内である。ヘキサマーは、マイトジェン活性を維持したままである最小のペプチドであった(YPQGNHまたはCPQGNH)。 NH2−チロシン/システイン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−COOHのアミノ酸配列を含むペプチドは、本発明の実施に適している。一般的に、このペプチドは、7〜16アミノ酸長を有するが、マイトジェン性機能および/または抗原性機能が保存される場合には、他の長さもまた、適している。 トランスフォーミング増殖因子−β2、および配列YPQGNを有する合成5−アミノ酸ペプチドの両方は、AQPYPQGNHEASYGのマイトジェン効果をブロックする。グリコサミノグリカン、ヘパリンおよびケラタン硫酸の各々は、このペプチドのマイトジェン効果を増強する。 腎毒性および虚血性ラットモデルの両方において急性腎不全(ARF)の経過を変化させる能力について、配列AQPYPQGNHEASYG(14−Ser)および創傷増殖因子アイソフォームのNH2末端由来の他の関連ペプチドを有するペプチドを、評価した;この症候群は、一般に、ヒトを苦しめる。 皮下(s.c.)で与えられた塩化第二水銀を使用し、ラットでARFを誘導し、そしてその後の7日間に血清クレアチニン濃度を測定することによって評価される、腎機能の生存を増強し、そして回復を加速する能力について、各々のペプチド溶液を評価した。 塩化第二水銀の投与1時間後の配列AQPYPQGNHEASYGを有するペプチド(100μg)のS.C.投与は、2日後の腎機能の回復を有意に改善し、そして3日後の生存を改善した。腎機能の生存および回復におけるこのペプチドの有利な効果はまた、腎毒性ARF症候群の誘導の16.5時間後または24時間前にそれを投与した場合に観察された。 ラットにおいて45分間の両側腎茎の締付けによって誘導される虚血性ARFでは、クランプを除去した一時間後のAQPYPQGNHEASYGペプチド(100μg)の投与はまた、腎機能の生存を改善し、そして回復を増強した。 再生している腎臓においてDNAを標識するためにブロモデオキシウリジンを使用することによって、このペプチドが、塩化第二水銀誘導性腎損傷の部位に近接する細胞でのDNA合成を刺激することにより腎機能の生存および回復を改善するという証拠を得た。このペプチドは、腎損傷の24時間前に与えられた場合、生存を促進する点では、このモデル系での既知の効力の物質である上皮増殖因子よりも強力であり、そして腎損傷の直後に与えられた場合、等価であった。このペプチドを用いる処置に応答する腎機能の改善した生存およびより迅速な回復は、腎毒性ならびに虚血性ARFを有するヒトにおいて期待される。 本発明の実施のための適切なペプチドは、以下に示される配列:AQPY/CPQGNHEATSSSF;AQPY/CPQGNHEATSSS;AQPY/CPQGNHEA;AQPY/CPQGNHEAT;AQPY/CPQGNHEATS;AQPY/CPQGNHEATSS;AQPY/CPQGNHEAAYG;AQPY/CPQGNHEAAY;AQPY/CPQGNHEAA;AQPY/CPQGNHE;AQPY/CPQGNHEASYG;AQPY/CPQGNHEASY;AQPY/CPQGNHEAS; QPY/CPQGNHEA;AQPY/CPQGNH; QPY/CPQGNHE; PY/CPQGNHEA; QPY/CPQGNH; PY/CPQGNHE; Y/CPQGNHEA; PY/CPQGNH; Y/CPQGNHE; Y/CPQGNHEATSSSF; Y/CPQGNHEATSSS; Y/CPQGNHEATSS; Y/CPQGNHEATS;および Y/CPQGNHEATを含む。 ペプチドYPQGNHまたはCPQGNH(Y/CPQGNH)は各々、タンパク質のマイトジェン性フラグメントである。 種々のWGF由来NH2末端ペプチドまたは全長WGFタンパク質の改変体(アイソフォーム)は、それらのアミノ酸配列において、または翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)のような配列の改変を含まない方法において、あるいはその両方において異なり得る。アミノ酸配列の改変体は、NH2末端ペプチドまたはWGFタンパク質の1つ以上のアミノ酸が、異なる天然に生じるアミノ酸、アミノ酸誘導体、または非天然アミノ酸で置換された場合に、生成される。特に好ましい改変体は、代表的には、天然WGFタンパク質アイソフォーム、天然に生じるWGFタンパク質の生物学的に活性なペプチド、ならびにタンパク質またはペプチドの二次構造および疎水性の性質に最小限の影響を有する1つ以上の保存的アミノ酸置換によって野生型配列とは配列が異なる合成ペプチドを含む。改変体はまた、WGFペプチドまたは全長タンパク質の生物学的活性、すなわち、マイトジェン活性を破壊しない1つ以上の非保存的アミノ酸の置換、欠失または挿入により異なる配列を有し得る。 機能的に等価なペプチドは、等価なアミノ酸を置換することによって、そして作製された分子が機能的に不活性なコントロールペプチドと比較してBSC−11細胞の増殖を15〜35%刺激することを実証するマイトジェンアッセイを使用することによって、構築され得る。これらの「等価な」または「保存的な」置換を用いて構築されるペプチドは、腎上皮細胞増殖を刺激し得るか、阻害し得るか、または影響し得ない。「保存的置換」についてのガイドは、表2で示される。置換を有するペプチドの合成は、当業者によって容易に実行され、そしてこのマイトジェンアッセイは、容易に実行される。従って、本発明の範囲内のペプチドは、容易に決定される。 代表的には、保存的変化は、類似の性質を有する別のアミノ酸についての1つのアミノ酸の置換を含む。このような置換は、以下:バリン、グリシン、;グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシンの対または群の範囲内である。非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンを含む。この極性中性アミノ酸は、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンを含む。正荷電(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む。負荷電(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。 表2は、さらなる保存的置換を要約する;他は、Atlas of Protein Sequence and Structure中のDayhoffにより記載されている。 本明細書中で記載されるように、微量配列決定後のクロマトグラムの分析は、WGFアイソフォームのNH2末端における特定のアミノ酸残基の正体が不明瞭であることを示した。妥当と思われるアミノ酸の各々を使用して特定の合成ペプチドを調製することは、異なるマイトジェン能力を有するWGF由来の分子の同定を可能にした(表3)。 本明細書中に記載されるタンパク質またはペプチドを含む組成物は、本発明の範囲内である。 本発明のタンパク質またはペプチドを産生するための方法は、以下の工程:a)培地において腎上皮細胞を培養する工程、b)培養中の細胞を掻き取り創傷する(scrape−wounding)工程、およびc)馴化培地からタンパク質を得る工程を含む。得られたタンパク質は馴化培地から単離され、そして精製される。培養中の腎上皮細胞の供給源は、BSC−1アフリカミドリザル腎上皮細胞株である。 本発明のタンパク質またはペプチドを作製する組換えDNA方法は、以下の工程:a)タンパク質またはペプチドをコードするヌクレオチド配列を得る工程;およびb)遺伝子発現系において、ヌクレオチド配列を使用し、タンパク質またはペプチドを作製する工程を含む。本発明のペプチドはまた、細胞または分子生物学的技術によらずに、ペプチド合成機で直接的に調製され得る。 WGFおよび派生するペプチドに対する抗体は、本発明の局面である。各抗体の利用可能性は、尿、血液および組織における、この因子およびその派生するマイトジェン性ペプチドの量を測定する診断的な道具を提供する。新規な診断的洞察は、感染または悪性疾患の処置の間に腎毒性能力を有する薬物を受けている患者において、および腎損傷または新形成を有する個体において容易にされる。このような抗体はまた、慢性的な腹膜透析および/または血液透析をうけている患者の残りの腎臓において、腎臓癌を検出するために使用され得る。この抗体は、例えば、一般的にY/CPQGNHを含む、タンパク質またはこの活性部位を含むペプチドを指向する。 診断的なキットを使用して、WGFタンパク質またはそれ由来のマイトジェン性ペプチドの量を測定し、生物学的サンプルにおいては急性腎損傷または腎臓疾患の早期発症を検出し、腎細胞癌の処置をモニターし、または慢性的な透析患者における良性腎嚢胞の癌腫または嚢胞腺癌への転換を認識する。このキットは、別個の容器において以下:a)WGFに対するかまたはそれ由来のマイトジェン性ペプチドに対する抗体;ならびにb)WGFタンパク質またはマイトジェン性ペプチドと、この抗体との間の特異的複合体を検出するための手段を含む。コントロールおよび緩衝液もまた、含まれ得る。 本発明は、腎疾患の医学的処置のための組成物を調製する際のペプチドの使用を含み、前記調製する工程が、ペプチドを入手する工程、そしてそれらを適切なキャリアに加える工程を包含する。このようなキャリアは、当該分野において周知である。 本発明の新規な腎増殖因子タンパク質およびペプチド、ならびにそれらに対する抗体は、臨床医学において多様な用途を有する。このWGFペプチドは、腎細胞増殖を刺激するために有用であり、急性腎不全の処置に対して有用な特徴である。急性腎不全の患者、特に増殖能力が低下した死体の腎移植を受けている急性腎不全の患者において、回復を加速することが特に好ましい。患者へのタンパク質またはペプチドの注入は、急性腎不全エピソードの持続時間を短縮すること(これは、患者の生存を増加させる)、そして腎不全症候群の間の血液透析処置のために必要とされる日数を減少させることに関する。このペプチドはまた、他の候補増殖因子についてインビトロでの比較標準を提供する。1つまたは多数のペプチドが、使用され得る。 WGFは、確立した腎疾患(例えば、慢性糸球体腎炎または間質性腎炎)の進行を遅くする治療剤としての役割を有することが期待される。WGFおよびそのレセプターは、腎上皮細胞の表面上に存在するようである。WGFが、ネフロンに沿った特定の腎上皮細胞型の表面上のレセプターに対するリガンドであることが見出される場合、それは、癌化学療法において考慮されるべきである。それが癌細胞型特異的であることが見出される場合、この増殖因子は、細胞毒素、放射性同位元素、または細胞傷害性抗体と結合体化され、強力な新規の化学療法剤を生じ得る。 急性腎不全を有するヒトを処置する方法は、以下の工程:a)適切な希釈剤において薬理学的に有効量の天然WGFタンパク質またはWGF由来ペプチドを調製する工程;およびb)このヒトにこの調製物を投与する工程を含む。このWGFは、細胞溶解性リガンド(例えば、毒素)に連結され得る。 本発明はまた、本明細書中に記載されるタンパク質またはペプチドを使用して、急性腎不全を有するヒトを処置する際に有用な組成物を得ることに関する。 マルチマーはさらに、例えば、本明細書中に開示される40マーとして、細胞マイトジェン活性を増加させる際に、より有効であり得る。マルチマーは、同種のペプチド、例えば、ヘキサペプチドY/CPQGNHのマルチマーから形成され得るか、またはWGFからのペプチドの組み合わせであり得る。組成物は、ヘキサペプチドNH2−Y/CPQGNH−COOH、または22−kDおよび45−kDのWGFタンパク質の最初の10アミノ酸(AQPYPQGNHE)、またはこの14−Serペプチド(AQPYPQGNHEASYG)、または他のWGF配列のマルチマー、あるいは本明細書中に開示される任意のペプチドの組み合わせからなる群の1つから作製されるWGF由来ペプチドの少なくとも1つのマルチマーを含み得る。 この組成物は少なくとも1つのWGF由来ペプチドを含み得、ここで、1つ以上のアミノ酸は、生じる改変体がそのマイトジェン活性を保持する限り、天然に生じるアミノ酸、アミノ酸誘導体、または非天然アミノ酸で置換され得る。適切なWGF由来ペプチドは、マイトジェン活性を有する別のWGF由来ペプチドとは少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、または挿入によって異なるアミノ酸配列を有し得る。 ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が少なくとも80%の相同性を有し、そしてマイトジェン活性を示すWGFタンパク質の構造的ホモログを含む組成物はまた、本発明の範囲内である。 以下:グリコシル化、硫酸化、またはミリスチル化の1つによって翻訳後に修飾され、マイトジェン活性を保持するWGFタンパク質の少なくとも1つの構造的に変化したアイソフォームを含む組成物もまた、本発明の範囲内である。 本発明の組成物はまた、天然WGFタンパク質およびWGF由来ペプチドが結合し、マイトジェンシグナル伝達を開始する、細胞表面レセプターを含み得る。 組成物は、他の既知の増殖因子および/または栄養素との組み合わせでWGFタンパク質またはWGF由来ペプチドを含み得る。 本発明の組成物は、a)適切な希釈剤において、必要に応じて、他の増殖因子および/または栄養素とともに、薬理学的に有効量の天然WGFタンパク質またはWGF由来ペプチドを調製する工程;ならびにb)有効量の調製物を腎臓に問題を抱えるヒトに投与する工程によって、腎不全または腎機能不全の処置方法のために有用である。 (発明の詳細な説明) (腎細胞培養物からの創傷増殖因子の産生) コンフルエント単層培養物を、200μLのピペットチップ(Continental Laboratory Products、San Diego、CA)を使用して機械的に掻き取った。顕微鏡下で観察した場合、この掻き取る工程は、この細胞を傷付けず、これらの細胞を互いに分離し、そして収縮を引き起こし、培養ディッシュにおいて肉眼で見られ得る狭い小道を残すのみのようであった。細胞を掻き取るこのプロセスは、「創傷」と呼ばれており、長年、モデル系として眼の角膜剥離の修復を研究するために使用されている(Joyceら、1990)。実質的に、細胞間接着を破壊するのに十分な圧力を細胞に適用する。腎上皮細胞が、創傷後にオートクライン因子を培地に放出したか否かを決定するために、BSC−1細胞の単層を掻き取り創傷(scrape−wounding)した後に、培養ディシュから馴化した培養培地を取り出した。非創傷性「検出器」培養物(55mmディッシュ当たり1.2×106細胞)において、任意の増殖促進活性についてアリコートをアッセイした。 (因子の増殖促進活性) 4日後に検出器培養物中の細胞数を計数することによって、および非創傷培養物からの培地のアリコートが添加されていたコントロール培養物中の細胞数とその数を比較することによって、馴化培地のアリコートにおける増殖促進活性をアッセイした。このストラテジーは、BSC−1株の創傷性腎上皮細胞が最初に「創傷増殖因子」と名付けられた増殖促進活性を放出することを示した。3T3繊維芽細胞は、同様の効果を生じなかった。 このアッセイについて、トリプシンの溶液を用いてディッシュから細胞を剥がし、そして血球計数板においてアリコートを計数した。このアッセイについては、WGFに曝露された細胞が2.6×106細胞/培養物の細胞数を有するようにコンフルエントな培養物を使用したが、非創傷培養物からの培地のアリコートで処理された細胞は、この添加の4日後に2.0×106の細胞数を有した。従って、WGFは、このアッセイにおいて細胞増殖を30%刺激した。高密度な静止状態の培養(3×106細胞/55mmディッシュ)を使用し、DNAへの[3H]チミジン取り込みを測定することによってマイトジェン活性をアッセイした場合、WGFは、DNAの合成を約60%増強した。WGFを調製するために、細胞は1日おきに掻き取り創傷され得るが、最大活性は、馴化培地に放出される。WGFは、BSC−1細胞の低密度培養物およびコンフルエント培養物の両方についてマイトジェン性であり、そして4℃〜−40℃での何週間もの貯蔵で安定である。 (創傷増殖因子マイトジェン活性の特徴付け) BSC−1細胞の切屑創傷培養物の馴化培地における増殖促進活性の検出後、マイトジェン因子のサイズおよび組成を決定する努力が行われた。最初に、異なる分子量カットオフを有するフィルターを利用して、増殖促進活性が、100kDaのカットオフを有するAmicon YM膜を通過するが、30kDaのカットオフを有するメンブレンにより保持されることを示した。このことは、マイトジェン因子のサイズが、30kDaよりも大きいが、100kDa未満であることを示唆する。これらのメンブレンは、マイトジェン因子のサイズについての非常に粗い評価しか提供しない。 さらなる分析は、この活性が、タンパク質であることを強力に示唆した。なぜなら、この活性は、トリプシン(100μg/mlで3時間)、ジチオトレイトール(65mMで1時間)、酢酸(1Mで5時間)、または熱(70℃で20分間)に対する曝露により破壊され得たからである。 異なる電荷を有するDEAEおよびCMセルロースマトリックス(Pharmacia)を用いて、WGFに対する正味の電荷の特徴付けが求められた。結果は、WGFがカチオン性であることを示した。続いての実験は、WGFがヘパリンカートリッジ(Pharmacia Hi Trap Heparin)に堅固に結合し、ヘパリンカートリッジからWGFは、0.4〜1.0M塩化ナトリウムを用いて溶出され得ることを示した。 酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子のようなヘパリン結合増殖因子の活性をブロックすることが公知であるペントサンポリ硫酸(Sigma Chemical,St.Louis)はまた、WGFの活性をブロックし、WGFがカチオン性分子であることを示唆した。C4逆相HPLCカラム(Vydac)における研究は、WGF増殖促進活性をこのカラムから溶出するために55%アセトニトリル(J.T.Baker,HPLCグレード)の濃度が必要とされたので、このタンパク質が著しく疎水性であることを示した。WGF活性はまた、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)(J.T.Baker,HPLCグレード)およびイソプロパノール中で安定であった。 C4逆相HPLCカラムから溶出した、マイトジェンとして活性なWGFの特定の画分はまた、コンカナバリンA−Sepharose 4B(Pharmacia LKB)に結合し、そしてα−メチルマンノシドにより溶出し、この因子が炭水化物を含有することを示唆する。最大の増殖促進活性を示したHPLCカラムからの4つの画分(WGFと称された、55%アセトニトリルで溶出した画分を含む)は、各々、コンカナバリンA−Sepharoseに曝露され、続いてα−メチルマンノシドに曝露された。次いで、この溶出物は、その増殖促進活性についてアッセイされた。コンカナバリンA−Sepharoseに結合した、55%および49%アセトニトリルでHPLCカラムから溶出した画分は、α−メチルマンノシドにより溶出され、そして充分に活性であった。対照的に、46%もしくは57%アセトニトリルで溶出した画分、またはコントロールのマイトジェンとして用いた、糖タンパク質ではない、純粋な上皮増殖因子は、コンカナバリンAに結合しなかった。これらの結果は、ネイティブなWGFが糖タンパク質であることを示唆した。 (WGF、ヘパリン、および他の増殖因子) 種々の型の細胞、内皮細胞の切屑創傷は、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)を放出するが、腎臓細胞WGFの特徴付けは、WGFがaFGFとは異なることを示した。この証拠は以下の通りである:(1)各成分がBSC−1細胞に添加された場合に、ヘパリン(Sigma)は、WGFのマイトジェン活性を増強するが、aFGFを阻害する、(2)ケラタン硫酸(細胞外マトリックスのグリコサミノグリカン成分)は、WGFのマイトジェン活性を刺激するが、aFGFの活性に対しては効果を有さない、(3)WGFおよびaFGFの最大濃度のマイトジェン効果は相加的である、および(4)WGFのサイズは約45kDaであるがaFGFのサイズは約16kDaである。 WGFはまた、塩基性FGF(bFGF)とは以下の点で異なる:(1)bFGF(Gibco/BRL)はヘパリンアフィニティーカラムから1.5〜1.6M NaClで溶出するが、WGFは0.4〜1.0M NaClで溶出する、および(2)bFGFのマイトジェン活性は55%アセトニトリル/0.1%(TFA)により90%阻害されるが、これはWGFの活性に対しては効果を有さない。さらに、aFGFおよびbFGFのmRNAは、BSC−1細胞のノーザンブロッティングにより検出されず、このことは、これらの増殖因子をコードする遺伝子がこの細胞によって発現されないことを示した。 部分精製されたWGFおよび上皮増殖因子(EGF,Promega)の最大濃度のマイトジェン効果もまた相加的であり、このことは、これらがおそらくそれらのマイトジェン効果を異なるレセプターおよびシグナル伝達経路によって発揮することを示す。 BSC−1細胞のコンフルエントな単層の、酵素ヘパリナーゼI(Sigma)による処理は、培養培地中に細胞からWGFマイトジェン活性を放出させたが、ヘパリナーゼIII(Sigma)による処理では放出しなかった。しかし、これは、少なくとも一時的にWGFを枯渇したことによるようである。細胞を最初にヘパリナーゼIで処理し、リンスし、培地を吸引し、次いで単層を切屑創傷した場合、増殖促進活性は馴化培地において検出されない。これらの観察は、WGFの原形質膜(創傷またはヘパリナーゼIでの処理の際に原形質膜からWGFが放出される)への会合を媒介するヘパリン様分子(例えば、グリコサミノグリカン)の役割を示唆する。 細胞表面上にWGFが存在するならば、おそらく、そのタンパク質骨格に連結している炭水化物残基によって、および/または原形質膜に接着したグリコサミノグリカン(グリコカリックス)との会合によって、トリプシンによる分解から保護されているようである。この形成に好都合である証拠は、以下の実験から誘導される。細胞単層を、タンパク質分解性酵素であるトリプシン(1または10μg/ml)に10分間曝露した。この酵素は以前、WGF活性を破壊する能力を有することが示された。次いで、ダイズトリプシンインヒビター(10μg/ml)を添加してこの酵素を中和した。続いて細胞単層が傷付けられた場合、充分に生物学的に活性なWGFが、培養培地中に放出され、このことから、外因性トリプシンが、この細胞に会合した増殖因子を破壊しなかったことが示された。 WGFは、細胞外マトリックス(ECM)中の細胞によって貯蔵されないようである。この結論は、以下の実験に基づく。BSC−1細胞のコンフルエントな単層を、EGTA(J.T.Baker)の培地への添加によりECMから脱離し、ECMのコーティングを培養皿の表面上に残した。新鮮な培地をこの皿に添加し、次いでそのECMコーティングを切屑創傷に供した。マイトジェン活性は、馴化培地中で検出されず、このことは、この活性が、細胞上または細胞内に存在し、そしてECM中には存在しないことを示唆した。 部分精製したWGFのマイトジェン効力は、本明細書中に開示したアッセイを用いて、約5%仔ウシ血清、または20pg/ml aFGF、または20pg/ml塩基性FGF、または15ng/ml EGFのマイトジェン効力に等しい。 (WGF由来ペプチドに対する公知の増殖因子の比較;相加的効果) セリン残基を12位に有する14アミノ酸ペプチドAQPYPQGNHEASYG(14−Ser)のマイトジェン効力を、BSC−1株のサル腎臓上皮細胞について、増殖因子および他のマイトジェンシグナルに対して比較した。各増殖促進シグナルの以前に同定された最大のマイトジェン濃度を用い、そして0〜0.5μg/mlの濃度でWGF由来ペプチドと比較した。 以下のペプチドおよびイオン性マイトジェンシグナルを研究した:EGF、50ng/ml;IGF−I、50ng/ml;酸性線維芽細胞増殖因子(FGF−1)、100pg/ml;塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、1,000pg/ml;バソプレシン、75pg/ml;仔ウシ血清(0〜1%);高カリウム培地(5mM添加KCl、最終濃度10.4mM、高ナトリウム培地(25mM添加NaCl、最終濃度180mM)。 BSC−1株の非形質転換サル腎臓上皮細胞を、38℃にてCO2インキュベーターにおいて55mm培養皿中の1%仔ウシ血清および1.6μMビオチンを含有するダルベッコ改変イーグル培地中でコンフルエントになるまで増殖させた。細胞が1皿あたり約106個の密度に達した場合、使用済み培地を除去し、そして0.5%仔ウシ血清および14アミノ酸ペプチド(0.5μg/ml)を含有する新鮮な培地で置き換えた。最大濃度での各マイトジェンシグナルの培養培地への添加がなされた。4日後、各培養物中の細胞数を、血球計算板中で計数した。得られた値は、3つの別の培養物の平均であった。仔ウシ血清濃度が0.5%から1.0%へと倍化することによって、BSC−1細胞の増殖は有意に変化しなかった。14−Serペプチド(0.5μg/ml)の添加は、これらの血清濃度の各々で増殖を25〜30%刺激した。 (1.EGF、IGF−I、酸性FGF、塩基性FGF、バソプレシンとの比較) 「14−Serペプチド」であるAQPYPQGNHEASYGは、4日目で、コントロールと比較して、細胞数を25〜30%増加させた。EGF(50ng/ml)単独では、「14−Serペプチド」の非存在下で増殖を31%刺激し、そしてその存在下では61%刺激し、このことは、2つのマイトジェンが相加的であることを示した。 IGF−I(50ng/ml)は、増殖を20%刺激し;これは14−Serペプチドより効力が低かった。両方を添加した場合、38%の刺激が観察された。完全に相加的である場合の期待値45%よりも低いとはいえ、IGF−Iのマイトジェン効果は、14−Serペプチドのマイトジェン効果に対して相加的であるようであった。 酸性FGF(100pg/ml)、塩基性FGF(1,000pg/ml)、およびバソプレシン(75pg/ml)は、細胞数を25%増加させた14−Serペプチドと比較して、増殖を、それぞれ、17%、18%、および14%刺激した。これらの公知のペプチド性増殖因子の各々は、14−Serペプチドと相加的であり;酸性FGFでは44%、塩基性FGFでは41%;およびバソプレシンでは36%であった。 要約すると、14−Ser WGF由来ペプチドは、強力なマイトジェンである。なぜなら、これは、腎臓上皮細胞に対して、5個の公知のペプチド増殖因子の各々と等価であるかまたは各々よりも強力であるからである。さらに、14−Serペプチドの増殖促進効果は、5個の増殖因子の各々と相加的であり、このことは、14−Serペプチドが、5個の増殖因子が作用するのとは異なるレセプターおよび/またはシグナル伝達経路により作用することを示唆した。最終的に、この相加的なマイトジェン効果は、1以上の公知の増殖因子と組み合わせた14−Serペプチドが、急性腎不全の間に損傷した腎臓の修復および再生を加速するようにインビボで作用し得ることを示唆する。 (2.高カリウム培地、高ナトリウム培地) 適切な塩溶液の添加により、カリウム濃度を5.4mMのコントロール値から10.4mMへと上昇させること、またはナトリウム濃度を155mM(コントロール)から180mMへと上昇させることは、腎臓上皮細胞についてのマイトジェンシグナルとして役立つ。 培養培地のカリウム濃度が塩化カリウム溶液の添加により5.4mMから10.4mMへと上昇した場合、細胞数は18%増加した。14−Serペプチドの添加は、増殖を43%増強することが期待され;35%の増加が観察された。 培地のナトリウム濃度を塩化ナトリウム溶液の添加により155mMから180mMへと上昇させることは、増殖を25%増加させた。14−Serペプチドを添加した場合、41%の増殖の増分が観察され、これは期待値50%よりも少なかった。 要約すると、2つのイオン性マイトジェンシグナルの各々は、14−Serペプチドマイトジェンと相加的であった。 (3.14−Serペプチドの増殖促進効果について必要とされる時間) 14−Ser WGF由来ペプチドの細胞表面に対するアフィニティーについてのさらなる見識を得るために、実験を行って、このリガンドが腎臓細胞と接触して、腎臓細胞を不可逆的に加速した増殖へと移行させるために必要とされる最少量の時間を決定した。 BSC−1細胞のコンフルエントな単層は、本明細書に記載の通りに調製され、そして14−Serペプチド(0.5μg/ml)に種々の時間量で(0〜30分間)曝露される。規定した曝露期間が終了したら、マイトジェンを含有する培養培地を吸引し、そして単層をリンスして非接着性ペプチドを除去し、そして新鮮な培地を添加した。4日後、培養物中の細胞数を計数した。 14−Serペプチドへの細胞の2分間の曝露は、細胞を最大の増殖刺激(29%)に移行させるのに充分であった;最大の半分の刺激は、1分間であった。40アミノ酸ペプチド(表3を参照のこと)は、同様に挙動した。対照的に、EGFについての勾留時間(commitment time)は4分間であり、そしてバソプレシンについては2分間であった。従って、14−Serペプチドは、表面レセプターに不可逆的に結合し、そして細胞を加速した増殖へと移行させるために、著しく短い時間(2分間)を明らかに必要とする。必要とされる時間は、他の公知の腎臓細胞マイトジェンと等価であるかまたはそれらよりも短い(EGF、4分間;バソプレシン、2分間;低ナトリウム増殖因子、5分間;高カルシウム培地、6分間;アデノシン一リン酸、14時間)。 (WGFの精製) 1リットルのWGF馴化培地を調製するためのプロトコルは、本明細書中に記載される。WGFタンパク質の通常の収量は、SDSポリアクリルアミド電気泳動およびアミノ酸組成分析により評価した場合、1リットルあたり約50ngである。 馴化培地調製:BSC−1細胞の100個の培養物を、10cmの直径を有するプラスチック組織培養皿(Nunc)において、2%仔ウシ血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地中でコンフルエント(6〜8×106細胞)になるまで増殖させる。培地を吸引し、そして培養物をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(Sigma)溶液でリンスして、培地および血清を除去する。次いで、10mlのPBSを、創傷に備えて各皿に添加する。細胞単層に対して計5回の創傷を、200μLプラスチックピペットチップで縁から縁まで皿の表面を横切って引っ掻くことにより、迅速に作製する。約10分後(9.5分が好ましい)、馴化緩衝液をプラスチックNalgeneビーカーにデカントする。 WGFの単離および精製:馴化後、プールした馴化緩衝液を滅菌濾過(CoStar、0.2μm孔サイズ)して全ての砕片または脱離細胞をシラン処理した(Aquasil,Pierce)ガラスビン(Wheaton)へと除去した。滅菌馴化緩衝液をダイアフィルトレーションし、脱塩し、そしてYM−30ディスクメンブレン(Amicon)を4℃にて用いて濃縮した。次いで、濃縮した物質を、室温にて濾過滅菌(Millex HA、0.45Fm)し、凍結乾燥してさらに容量を減少させ、1mlヘパリンアフィニティーカートリッジにロードし、そして1M NaClの溶液で溶出する。このカートリッジを最初に10mM リン酸ナトリウム(pH7.4)中で0.4M NaClに曝露して非マイトジェン物質を溶出させ;次いで1M NaClを含有する同じ緩衝液を用いてカートリッジからマイトジェン活性を溶出させる。溶出物を脱塩し、そしてこの容量を、Centricon 3フィルター(Amicon)を用いて遠心分離(7500gで4℃にて2時間)することにより減少させる。濃縮物(300〜400μl)をC4逆相HPLCカラム(250mm×4.6mm、粒子サイズ5μm)(Vydac)にロードし、そしてBeckman Gold Chromatographic Systemを用いて、50分間のトリフルオロ酢酸(0.1%)(TFA)中のアセトニトリル勾配(1〜80%)を用いて溶出する。マイトジェン活性を示す少なくとも5個の異なるタンパク質ピーク(214nmの吸光度によりモニタリングされる)が容易に同定され得る。しかし、約55%アセトニトリルで溶出するピークは、慣用的に、大部分のマイトジェン活性および異なる単離株における再現性を示す。この溶出物を、シラン処理したEppendorfチューブに手動で回収し、C8カラム(Vydac)にロードし、そして上記と同じアセトニトリル/TFA勾配を用いて再度クロマトグラフィーにかける。再度、マイトジェン活性は、約55%アセトニトリルに溶出する。増殖促進活性および総タンパク質含量を、精製プロセスの間に各工程でモニタリングする。処理した馴化緩衝液のリットル数に依存して、2回目にC8カラムにかけて目的のピークの分離を最適化することが必要であり得る。次いで、この生物活性物質は、減圧濃縮機(Savant)を用いて容量が減少され、続いて12.5% SDSゲルに電気泳動分離のためにロードされる。 WGFのMrは、その電気泳動での移動の、既知の分子サイズの標準タンパク質の移動との比較により評価される。ゲルにおける種々のタンパク質は、銀(BioRad)で染色することにより、またはPVDFメンブレン(Millipore)にブロッティングした後にクーマシーブルー色素(Gibco/BRL)でこのブロットを染色することにより、可視化される。通常、1より多くのバンドが現れる。どのバンドが、マイトジェン形態のWGFを示すかを決定するために、非染色非還元ゲルを電気泳動後に2mm幅のフラグメントに切断し、そして各々をアセトニトリル(3%)およびウシ血清アルブミン(0.1%)を含有するPBS中で攪拌しながら室温にて18時間溶出した。各フラグメントの溶出物を、BSC−1細胞の培養物に添加して、細胞増殖を刺激するその能力を決定した。この実験ストラテジーは、活性なWGFタンパク質は、22および45kDaのMrを有することを示した。 WGFは、創傷後に細胞から放出されるようである;WGFは、非創傷培養物の培養培地においては出現しない。この結論を支持する証拠が、以下の実験により得られた。切屑創傷培養物からの馴化緩衝液(1550ml)を上記の通りに得、そして55%アセトニトリルで溶出し、かつ増殖促進活性を示すC8−HPLCピークとなり、一方、非創傷培養物に曝露し、同じ精製プロトコルに供した同じ容量(1550ml)の緩衝液は、このタンパク質ピークもマイトジェン活性も示さなかった。 (創傷増殖因子のNH2末端配列) WGFのNH2末端のアミノ酸配列を得るために、2.5μgのC8精製タンパク質を得て、そして12.5% SDSポリアクリルアミドゲルでの電気泳動に供した。精製タンパク質の相対電気泳動移動度を、既知の分子サイズの標準タンパク質の相対電気泳動移動度に対して比較した。PVDFメンブレン(Millipore)にブロッティングし、そしてクーマシーブルー染料で染色した後、45kDaおよび22kDaのサイズに対応する2本のバンドが見られた。続いてこれらをブロットから切り出し、次いでABI微量配列決定機にロードした。微量配列決定の結果を、従来の略号を用いて表し、そしてアミノ酸の記号を以下に列挙する: WGFのアミノ末端配列の計4回の決定が、異なるバッチの馴化培地について行われた。45kDaタンパク質の、アミノ末端からカルボキシ末端への方向(NH2→COOH)の最初の14個のアミノ酸を以下に示し、ここで、数字は、最初のアミノ酸を番号1として用いた位置をいう: 22kDaタンパク質の3つの異なる単離物の配列の決定は、以下の通りである:最も長いのは16アミノ酸である。 重要なことには、最初の10アミノ酸は、4回の配列決定の各々において同一であり、このことは、22kDaタンパク質が45kDaタンパク質のフラグメントまたは分解産物であり得ることを示唆する。しかし、22kDaタンパク質と45kDaタンパク質におけるアミノ酸12〜14の異なる配列は、これらが2つのWGFイソ型を表し得ることを示唆する。 (WGFのNH2末端ドメインは、腎臓上皮細胞に対してマイトジェン性である) 22kDaタンパク質の11個のNH2末端アミノ酸AQPYPQGNHEAの配列(11マー)を用いて、分枝状リジンコアに連結した合成ペプチドを調製した。この複数抗原性ペプチド系(MAPS)を用いて動物を免疫して、WGFを認識するポリクローナル抗体を調製した。MAPSタンパク質は、一方の末端が樹脂に結合し、そして他方は4つの分枝を有するポリリジン骨格を有する;各分枝は、11マーペプチドの1つの分子に連結される。驚くべきことに、増殖促進活性について試験した場合、MAPSペプチドは、BSC−1株のサル腎臓上皮細胞のDNA合成および増殖を刺激した。その最大増殖促進効果は、ネイティブなWGFの最大増殖促進効果に類似していた。異なる11アミノ酸配列から調製したMAPSタンパク質、および関連の無い16アミノ酸配列を用いて調製したMAPSタンパク質と比較した場合、WGFタンパク質に基づく配列のみがマイトジェン活性を示した。続いての実験では、11アミノ酸ペプチドが、分枝状リジンコアの非存在下で、精製WGFタンパク質が刺激したのと同じ程度にこれらの腎臓細胞の増殖を刺激したことが示された。試験した2つの細胞型に基づいて、11マーWGFペプチドは、腎臓上皮細胞のマイトジェン活性を刺激したが、マウス3T3線維芽細胞の増殖を刺激しなかった。 さらに、11マーのペプチドおよび創傷馴化緩衝液の増殖促進効果は、相加的でなく、その11マーのペプチドは、インタクトなWGFと同じレセプターおよびシグナル伝達経路により細胞増殖を刺激することを示唆している。これらの予期されなかった結果は、他の増殖促進ドメインが、天然の45kDaタンパク質(その推定される長さは約400アミノ酸)に含まれ得るにもかかわらず、そのNH2末端の11アミノ酸が、WGFのマイトジェンドメインを表すことを示唆する。 図1は、天然の(22kDa)アミノ末端WGFを表す合成11マーペプチドAQPYPQGNHEAの等価的なマイトジェン用量の応答、および本発明の最も活性なヘキサペプチド合成物YPEGNH(グルタミン(Q)(電荷=0)残基のグルタミン酸(E)(電荷=−1)での置換により天然WGFと異なる)を示す。しかし、天然の配列が、好ましい(表3を参照のこと)。「天然」の配列は、培養細胞から得られるような22または44kDaのWGFにおいて見出されるものである。そのペプチドは、0.1%トリフルオロ酢酸中のアセトニトリル勾配(1−80%)を使用したC18カラムでの逆相HPLCにより精製し、凍結乾燥し、次いで組織培養培地に溶解した。 BSC−1株の非形質転換のサル腎臓上皮細胞を、1%のウシ血清および1.6μMのビオチンを含むDulbecco’s改変Eagle’s培地で、CO2インキュベーターにおいて38℃でコンフルエントに増殖した。細胞が、1シャーレにつき約106の密度に達したとき、使用済の培地を除去し、そして0.5%のウシ血清および異なる量のその2つのペプチドを含む新鮮な培地で置換した。4日後、各培養物中の細胞数をカウントした。各値は、3つの異なる培養物の平均値である。 (WGF由来ペプチドのマイトジェン性) 腎細胞の増殖を刺激し得た最も小さいペプチドの配列を描写するために、異なる長さの合成ペプチドを調製し(下記参照のこと)、そしてC18カラムでの逆相HPLCにより精製した。マイトジェン活性を、BSC−1細胞の培養物中において、4日間、特定の濃度(0.5〜20μg/ml)のペプチドに曝露した後の細胞数をカウントすることにより評価し、そして添加したペプチドの非存在下での増殖についての結果と比較した。 11マーのように、各5つのより短いペプチド(6〜9アミノ酸長)は、最大で天然WGFと同程度(25〜30%)まで、腎細胞増殖を刺激した。 以下のペプチド(4〜6アミノ酸長)は、ライン1の活性な11マーと比較して、細胞増殖を刺激しないNH2末端WGFのドメインを表す。 その配列がWGFと異なる、以下の6マーおよび7マーのペプチドもまた、細胞増殖を刺激しなかった。 上記の結果は、その天然配列に基づくペプチドの最大のマイトジェン活性は、配列がYPQGNHである6マーまたはその等価物内に存在することを示す。なぜなら; (1)この配列を含む、7、8、9、または11アミノ酸長であるペプチドは、同程度まで増殖を刺激する、 (2)その6マーのNH2−または−COOH末端の一方から、1つのアミノ酸を欠失する各々2つの5マーは、同程度までマイトジェン性でない、 (3)YPQGNHと、単一のアミノ酸でのみ異なる6マー(YPRGNH)は、同程度までマイトジェン性でない、 (4)YPQGNHと、2つのアミノ酸で別の6マー(QPYPQG)は、マイトジェン性でない、および (5)WGFにその配列が見出される4マー(GNHE)または無関係の配列を有する7マー(LKYSGQD)のいずれも、マイトジェン性でない。 従って、天然WGFのNH2−末端は、ヘキサペプチド配列(NH2−チロシン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−COOH)を含み、その配列は、BSC−1株により例示されたように、腎上皮細胞に対してマイトジェン性である。 種々の長さのペプチドはまた、そのマイトジェン性六量体配列またはその等価物が含まれる限り、本発明の範囲内である。種々の長さのペプチドはまた、個々に使用され得、または特定の目的のために種々の方法で結合される得る。これらの可能性は、以下を含む(NH2末端−−−−−>COOH末端): これらのペプチドは、いずれかの末端または両端(NH2−および−COOH)で、他のアミノ酸配列に結合され得る。アミノ末端のYは、システインにより置換され得る。 (天然および改変WGF由来アミノ末端ペプチドの特徴付け) 天然WGFのアミノ末端におけるアミノ酸の置換が同定され、それはペプチドのマイトジェン活性を変化し得た。この試みの目的は、その症候群の動物モデルにおける急性腎不全の処置での、そのペプチドの効力の研究における使用のための、そのペプチドの増殖促進活性を最大化することであった。そのストラテジーは、構造的に関係するアミノ酸を、天然WGF配列に見出されるアミノ酸に対して置換することにより、異なるペプチドを設計し、次いで化学合成することであった。次いで目的のそのペプチドを、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)中の1−80%のアセトニトリル勾配を使用した本明細書に記載の逆相C18カラムHPLCで精製した。次いで、その精製ペプチドを、凍結乾燥してアセトニトリルおよびTFAを除去し、そして凍結乾燥粉末を秤量し、緩衝液中に溶解し、そして培養培地に添加して、本明細書に記載のサル腎臓上皮細胞の増殖に対するその効果を測定した。異なるペプチドの相対効力を比較するために、4日後、培養物中で25〜30%まで最大に増殖を刺激したそれらの分子のみをさらに、それらの濃度依存性を定義することにより分析した。K1/2と称する値を使用した。この用語は、本明細書において、その増殖刺激効果が、最大増殖が観察される濃度における2分の1である、ペプチド濃度(マイクロモル(μM))として定義される。値が低いほど、そのペプチドのマイトジェン効力がより高い。 太字はアミノ酸置換を指すのに対し、大文字で示されるアミノ酸は、天然WGFにおいて存在するものである。 表3に要約される結果は、一般に、最も強力なものは、配列YPQGNHを含む、より長いペプチド(40マー>28マー>14マー>11マー>6マー)であることを示す。試験された最も長い、非反復の、最も強力なペプチドは、14マーのAQPYPQGNHEASYGである(すなわち、それは最も小さいK1/2である0.126μMを有する)。そのペプチドの添加に先立った、グルコサミノグリカン、硫酸ケラタン(2μg/ml)への、その細胞の5分間の曝露は、その効力を増強し(K1/2=0.067μM)、そしてヘパリン(1μg/ml)は、さらにより効果的である(0.040μM)ことに注目べきである。ラットの研究において、その14マーはまた、ARFが塩化水銀により誘導されたラットの生存を、増強することにおいて効果的である。12位にセリンを有するその14マーは、6位にグルタミン酸を有する11マーより効果的である。 14マーAQPYPQGNHEAAYGの長さは、そのペプチドの三次元構造に対する関心を誘発する。円偏光二色性法を実行し、βプリーツシート高次構造と一貫するスペクトルが明らかにされた。 11マーペプチドAQPYPQGNHEA(天然WGF配列)の効力が、単一の置換(天然グルタミン(Q)のグルタミン酸(E)での置換)を有する合成ヘキサペプチドYPEGNH(K1/2〜0.3μM)と類似することは興味深いことである。従って、いくつかの置換は、少なくとも効果的なマイトジェン活性を有するペプチド産生する。しかし、6マーの配列の特定の保存的改変は、効力の大幅な減少を生じる(チロシン(Y)残基のフェニルアラニン(F)での置換、アスパラギン(N)のアスパラギン酸(D)もしくはリジン(K)での置換、またはカルボキシ末端のアミド化)。 WGFおよびそのペプチドが、細胞表面レセプター機構を経て、それらのマイトジェン効果を及ぼすという仮説を支持する証拠を、ヘキサペプチドYPQGNHのいずれかの末端において、1つのアミノ酸を欠失した五量体ペプチドが、インタクトな六量体の増殖効果をブロックすることを示すことにより得た。これらの研究において、五量体PQGNHまたはYPQGNを合成し、HPLCにより精製し、次いで、増殖促進活性についてアッセイした。いずれもマイトジェン的でなかった。いずれかの五量体を、細胞培養培地に添加した場合、それは、同時にまたは後で添加された六量体YPQGNHの細胞増殖を刺激する能力をブロックした。これらの観察は、その五量体およびヘキサペプチドは、同じ原形質膜上の結合部位/レセプターに対して競合していることを示唆する。その五量体はマイトジェン性でないため、それらがその部位に結合する場合、増殖は観察されない。五量体がその部位に結合した後に、それらは、ヘキサペプチドが膜に対するアクセスを獲得することを妨げるようである。 ヘキサペプチドYPQGNHまたはYPEGNHが、腎上皮細胞に対する高い効力を有することのさらなる証拠を、加速された増殖への不可逆的関連のための、ペプチドと細胞との間の相互作用のために必要とされる時間を定義することにより得た。これら実験において、目的のペプチドを含む溶液を、細胞単膜に添加し、次いでその後、培養培地を特定の時間で吸引した。次いで、そのペプチドを含まない新鮮な培地を添加し、そして4日後に細胞数をカウントした。そのペプチドは、早い時間(0.5、1、または1.5分)で、増殖を刺激することなく細胞を完全に洗い落とし得たのに対して、その細胞の、ペプチドYPQGNHでの2分間の接触は、最大の増殖促進活性を生じた。その細胞を、ペプチドを添加する前に、硫酸ケラタン(2μg/ml)に5分間曝露した場合、最大のマイトジェン効果が観察されるために、ただ1分の曝露だけが必要である。同様の結果は、ペプチドYPEGNHを試験した場合に得られた;3分の曝露が、最大の増殖応答を得るために十分であるが、細胞を硫酸ケラタンで前処理した場合は、わずか1.5分である。従って、硫酸ケラタンは、天然WGFタンパク質のみならずWGF由来のペプチドのマイトジェン能力も同様に増強する。 NCBIにより操作される、7つのタンパク質配列のデータベース(Blaster)の検索により、WGFのNH2末端配列が新規であり、そして下記に示すように、最初の位置としてNH2末端の最初のアミノ酸を用いると、2つの公知のマイトジェン性タンパク質、ガストリン放出ペプチド(GRP)およびボンベシンと、限られた相同性を有することが明らかになった。太字のアミノ酸の記号は、異なるタンパク質間の同一性を示す。 WGFのNH2末端の14アミノ酸とボンベシン分子との間のアライメントは、継続的なGN残基(WGFの14アミノ酸活性ペプチドにおけるアミノ酸#7、8;ボンベシンにおける#5、6)、およびA残基(WGFにおけるアミノ酸#11;ボンベシンにおける#9)に限定される。以前の報告(Broccardoら、1975;およびHeimbrookら、1988)では、ボンベシンおよびGRPの7つのCOOH末端アミノ酸は、同一であり(WAVGHLM−アミド)、そしてまたこれら2つのタンパク質におけるマイトジェン活性の座位であることが示されている。アミノ酸のこの配列を含む合成ペプチドは、BSC−1細胞に対してマイトジェン性であるが、そのK1/2は、〜10μMである。重要なことに、これらの7つのCOOH末端アミノ酸のマイトジェン配列は、WGFのNH2末端のマイトジェン性の16アミノ酸において見出されない。 WGFと他の公知の配列との間の機能的差異は、GRP由来のヘキサペプチドYPRGNHが、腎上皮細胞に対して、せいぜい境界上のマイトジェン性(10%の刺激)であり、そして線維芽細胞のマイトジェンの刺激に必要であると報告されていないのに対して、ヘキサペプチドYPQGNHが、腎上皮細胞に対してマイトジェン性であることを含む。 WGFのNH2末端に由来するマイトジェン性ヘキサペプチド、YPQGNH(WGF配列におけるアミノ酸#4〜9)が、ヒトおよびブタGRP,YPRGNH(アミノ酸#15〜20)のヘキサペプチド配列(マイトジェン性であることが公知でないドメイン)から、ただ単一のアミノ酸(Q−−>R)において異なることは興味深いことである(Heimbrookら、1988)。この位置でのアミノ酸置換を作製することの以前の教示もしくは示唆、WGF内の特定の置換を作製することの示唆、または置換がWGFでのマイトジェン性刺激活性を与えるというような任意の示唆は存在しない。 これらの結果は、WGF由来のヘキサペプチドYPQGNHが、腎上皮細胞に対して新規なマイトジェン因子であることを示す。 (WGF由来のヘキサペプチドにおけるチロシンのシステインでの置換はマイトジェン活性を保存する) マイトジェン活性を有する最も短いペプチドは、配列NH2−チロシン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−COOH(YPQGNH)を有することが初期に見出された。このヘキサペプチドは、WGFのアミノ末端の位置#4〜#9におけるアミノ酸を表す。ミクロシークエンシングによる、各2つのWGFイソ型の位置#4において同定されたアミノ酸は、システイン(C)またはチロシン(Y)残基であり得た。 YPQGNHペプチドが、その増殖刺激効果を及ぼす最大半減濃度(K1/2)は、0.35μMである(表3)。別の合成六量体(YPEGNH)(グルタミン酸(E)が、天然WGFに見出されるグルタミン(Q)に対して置換された)は、わずかにより強力であり、そのK1/2は、0.30μMである。システインが、マイトジェン性のペプチドにおいてチロシンを置換し得たか否かを決定するために、ヘキサペプチドCPEGNHを合成した。このシステイン含有ペプチドは、実際にマイトジェン性であり、そしてその効力(K1/2)は、チロシン含有ペプチドのそれと同等であった。この位置のアミノ酸が、最大増殖促進活性のためにチロシンまたはシステインのいずれかであり得るという主張に対する支持を、2つのさらなる実験の結果を分析することにより得た。最初の1つにおいて、ホスホチロシン(Pi−Y)残基を含む六量体ペプチドを、配列Pi−YPQGNHを用いて合成した。第二の実験において、チロシン残基をフェニルアラニン(F)に置換したペプチドを合成し、FPEGNHを調製した。重要なことに、フェニルアラニンでのチロシンの置換はそのペプチドのマイトジェン効力を約9分の1に減少した(FPEGNHに対するK1/2=2.75μM;YPEGNHに対するK1/2=0.30μM)のに対して、Pi−YPQGNHに対するK1/2は、YPQGNHに対するそれ(0.35μM)と同様であった。従って、ペプチドのマイトジェン活性は、チロシンの水酸基をリン酸化した場合には有意に影響されないが、水酸機が存在しない場合(チロシンに対するフェニルアラニンの置換)には劇的に減少する。 これらの観察は、アミノ酸残基内のチロシンのベンゼン環よりむしろメルカプト基または水酸基が、このヘキサペプチドにマイトジェン性を与えることを示唆する。この分析は、水酸基含有の、天然に存在するアミノ酸であるセリンまたはトレオニンでの、チロシンまたはシステインの置換がまた、増殖促進ヘキサペプチドを産生し得ることを予想する。 要するに、本明細書に記載される異なる長さ(例えば、6〜40残基)のWGF由来の合成ペプチドの、その六量体カセット(Y/CPQGNH)におけるチロシンまたはシステイン残基は、腎臓上皮細胞におけるマイトジェン機能を十分に支持し得る。これら2つのアミノ酸または他(表2)のいずれかを含む、等価的な位置での有糸分裂活性を増加する合成ペプチドは、急性腎不全後の生存を改善し、そして機能回復を促進するために産生され、そして使用され得る。 (創傷増殖因子のNH2末端に由来するマイトジェン性ペプチドのさらなる特徴付け) 前節で議論されたように、切屑創傷されたサル腎臓上皮細胞(BSC−1株)の馴化培地からの創傷増殖因子(WGF)の精製により、2つのマイトジェン性タンパク質(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)上の22kDaおよび45kDa)が明らかになった。これらのタンパク質のNH2末端のミクロシーケンスは、各々の最初の10アミノ酸が同一であったことから、それらはイソ型であり得ることを示唆した。全部で16のアミノ酸が、22kDaイソ型のNH2末端で同定され、そして45kDaイソ型に対しては、14のアミノ酸が同定された。しかし、45kDaイソ型については、11位でのアミノ酸は同定されず、そして12位においては、アラニンまたはセリンが同等に指定される。4位においては、チロシンまたはシステインが、同等に指定される。 種々の長さのペプチドは、マイトジェン性六量体配列NH2−チロシン−プロリン−グルタミン−グリシン−アスパラギン−ヒスチジン−COOH(YPQGNH)が含まれる限り、本発明の範囲内である。 アミノ酸置換は、天然WGFのアミノ末端において同定され、そのWGFは、この症候群のラットモデルでの急性腎不全の処置における、その効力の研究においての使用のためのペプチドの増殖促進活性を最大化し得た。そのストラテジーは、構造的に関連するアミノ酸で、天然WGF配列に見出されるアミノ酸を置換することにより、様々なペプチドを設計し、さらに化学合成することであった。 次いで、目的のペプチドを、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)中の1−80%のアセトニトリル勾配を使用した逆相C18HPLCカラムで精製した。次いで、その精製ペプチドを、凍結乾燥して、アセトニトリルおよびTFAを除去し、そしてその凍結乾燥粉末を秤量し、緩衝液中に溶解し、そして組織培養培地に添加して、サル腎臓上皮細胞の増殖に対するその効果を測定した。 異なるペプチドの相対効力を比較するために、4日後、培養物中で25〜30%まで最大に増殖を刺激した分子のみをさらに、それらの濃度依存性を決定することにより分析した。K1/2と称する値を使用した。この用語は、本明細書において、その増殖刺激効果が、最大増殖が観察される濃度における2分の1である、ペプチド濃度(マイクロモル(μM))として定義される。値が低いほど、そのペプチドのマイトジェン効力がより高い。 表3は、12位にセリン残基を有する14アミノ酸ペプチドAQPYPQGNHEASYG(14−Ser)(K1/2=0.126μM)が、その位置にアラニン残基を有するAQPYPQGNHEAAYG(K1/2=0.199μM)より、強力なマイトジェン因子であることを示す。グルコサミノグリカン硫酸ケラタンを、10μg/mlの濃度で添加した場合、14−Serのマイトジェン効力は増強された。なぜなら、そのK1/2は0.067μMに低下したからである。さらに、1μg/mlの濃度で添加された、グルコサミノグリカンヘパリンは、さらにより効果的であり、そのK1/2を0.040μMまで減少させる。これらの実験において使用される最適なモル濃度、1ペプチド分子:1グルコサミノグリカン(GAG)分子の分子比で、硫酸ケラタンまたはヘパリンのいずれかについての細胞へ添加した。グルコサミノグリカンの刺激効果は、イオン結合を経たペプチド−GAG複合体の形成(ペプチドの陽イオン性ヒスチジンから一方のGAGの陰イオン性硫酸塩)または、水素結合(ペプチドのセリン/チロシンの水酸基からGAG炭水化物の酸素残基)により媒介される。様々な型の細胞において観察された、ヘパリンによる酸性線維芽細胞増殖因子(FGF−1)のマイトジェン効果の増強を説明するために提唱されたように、ペプチド−GAG複合体は、ペプチドの、細胞表面上のそのレセプターへの結合を安定化し/容易にさせ得る。6位におけるグルタミン(Q)残基のグルタミン酸残基(E)での置換は、この置換ストラテジーが、6アミノ酸ペプチドYPQGNHについてのK1/2を減少し(K1/2=0.352μMからK1/2=0.301μM)、そして11アミノ酸ペプチドAQPYPQGNHEAついてのK1/2(K1/2=0.260μMからK1/2=0.206μM)を減少するにもかかわらず、14−Serペプチドのマイトジェン効力を変化しなかった(K1/2=0.128μM)。 11アミノ酸長のAQPYPQGNHEA(K1/2=0.26μM)、および6アミノ酸YPQGNH(K1/2=0.35μM)のようなより短いペプチドは、各々が14アミノ酸ペプチドAQPYPQGNHEASYG(K1/2=0.126μM)のSYG末端アミノ酸を欠き、そしてマイトジェン因子としてさほど強力ではない。このSYG配列を含む11アミノ酸ペプチドが最大限の有糸分裂誘発に必要とされるかどうかを決定するために、配列YPQGNHEASYGを有する11マーペプチドを合成、精製し、次いで活性についてアッセイした。興味深いことに、このペプチドのK1/2は、ヘパリンの非存在下または存在下で0.166μMであった。このことは、14アミノ酸完全長は、最大限のマイトジェン因子効果に必要とされることを示している。 14−セリンペプチドを伸長することがマイトジェン的な効力を増加するかどうかを決定するために、配列AQPYPQGNHEASYGAQPYPQGNHEASYG(28マー)を有するこのペプチドの二量体を合成、精製し、そして増殖促進活性についてアッセイした。28マーのK1/2は、0.067μMであった。このことは、このペプチドは、K1/2が0.126μMの14マーの2倍の効力を有することを示している(表3)。グリコサミノグリカンケラタン硫酸塩の存在下での14セリンのK1/2(0.067μM)(表3)が、28マーのK1/2と同一であるため、ペプチドの長さの増加は、マイトジェン的な効力を増加する機構のみではない。 最も長い公知のWGF配列を使用して合成したペプチド(22kDaの16アミノ酸のアイソフォーム、AQPYPQGNHEATSSSF)はまた、そのマイトジェン的な活性について試験された(K1/2=0.218μM)。このペプチドは、45kDaのアイソフォームのNH2末端に由来する14アミノ酸ペプチドAQPYPQGNHEASYGほど強力ではなかった(表3)。 最終的に、40アミノ酸ペプチドを合成した。このペプチドは、WGFの22kDaおよび45kDaアイソフォームにおいて同一な、第1の10アミノ酸の四量体である。これはまだ同定されていない、最も強力なWGFペプチドで、K1/2=0.012μMを有する。増強されたマイトジェン的な強度はおそらく、その相対的に長い長さが、イオン性または疎水性の相互作用、および/または水素結合による細胞表面レセプター部位でのリガンド結合を安定化し得ることに関連する。究極的に、このペプチドは、その強力な効力ゆえに、臨床的条件下で最も効果的なWGF由来のペプチドを立証し得る。ヘパリンの添加は、40マーのK1/2を0.0051μMに減少させ、このことはまだ同定されていない最も効果的なWGF由来のペプチドを作製することに注目のこと。 14アミノ酸ペプチド(14−セリン)は、高いマイトジェン的な効力および相対的に短い長さであるため、このペプチドを、塩化第二水銀に誘導された急性腎不全を有するラットの処置に使用するために選択した。 (WGFに由来するペプチドに対する抗体) WGFのNH2末端の11アミノ酸を使用して、2つの異なる抱合されたペプチド抗原を調製した。1つは上述した、11マーペプチドが分枝したポリリジンバックボーンに連結されたMAPSタンパク質で、そして他方は、11マーがキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に化学的に結合された抱合体であった。MAPSタンパク質およびKLH−抱合体を使用して、ウサギ、ニワトリ、およびヒツジを免疫した。これらのストラテジーに起因するこの抗体は、急性または慢性腎疾患、および腎細胞ガンを有する患者の尿、血清、および組織においてネイティブなWGFタンパク質を検出するために役立つ。この抗体はまた、λgt11における腎臓上皮細胞cDNAライブラリーをイムノスクリーニングすることによって、WGFをコードするcDNAクローンを得るために使用され得る。 ペプチドの免疫原性の欠損は、急性腎不全のような腎疾患の処置においてその臨床的な有用性を支持する。 (組換え遺伝学的方法によるWGFの産生) 完全長のクローンをコードするヌクレオチド配列のWGFを発現するのに適したベクターは、タンパク質のグリコシル化が、個々のその生物学的効果に必要とされるかどうかに部分的に依存する。WGFがグリコシル化されない場合、細菌の発現系は適していると証明し得るが、炭水化物が決定的に検出され、そして完全な活性に必要とされることが示された場合、そのときはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のような哺乳動物の発現系がより適している。 合成14マーペプチド、実際はアミノ末端の六量体さえがマイトジェン的であるため、タンパク質のグリコシル化はマイトジェン的な活性を必要としないと思われる。しかし、グリコシル化は、インビボでタンパク質の代謝回転(半減期)の調節において重要な決定要因であることを提供し得る。これは例えば、エリトロポイエチンの場合である。 本発明の少なくともマイトジェン的六量体をコードするヌクレオチド配列を、調製し、適切な調節エレメントに連結し、そして発現ベクターに組み入れる。宿主細胞をベクターを使用して形質転換し、そして宿主を発現に適した状態に配置する。組換え宿主におけるWGF遺伝子または部分的なヌクレオチド配列の発現の後、組換えタンパク質を、WGFに対する抗体を適切な支持体に結合させることによって調製した抗体−アフィニティーカラムを使用して、培養培地から単離した。この調製的なストラデジーは、大量の組換えタンパク質を産生すべきである。 あるいは、より簡単には、NH2末端の14−セリン、11アミノ酸ペプチド、ヘキサペプチドY/CPQGNH、または等価なマイトジェン的な効力を発現する他のペプチドの十分な量を、通常のペプチド合成によって調製し得る。組換えまたは化学合成的ストラデジーによって調製されたペプチドのマイトジェン的な効力は、BSC−1細胞の増殖を刺激するための生成物のアリコートの能力を測定することによって評価され得る。予想される反応は、4日後のコンフルエントの培養物中の細胞数とコントロールの培養物中で観察される細胞数とを比較すると20〜35%増加する。 組換え系によってWGFを産生するための詳細な技術は、当業者に公知である。 (インビトロおよびインビボのモデル) 急性腎不全のインビトロおよびインビボのモデルは、創傷修復の2つの主要な生物学的特徴、細胞移動および細胞増殖を研究するために有用である。これらのモデルは、WGFおよび本発明のペプチドの効果を分析するのに適している。 i.インビトロのモデル:損傷を受けた腎臓細尿管上皮を刺激するための腎臓上皮細胞の単層培養物のスクレイプ創傷(scrape−wounding)。 このモデルでは、高密度、静止状態のサル腎臓上皮単層培養物(BBC−1株)を、細尿管ネクローシス後の細胞損失の効果を刺激するための単層領域に限定される、機械的にこすり取ることによって傷つける。剥皮された領域に移動する細胞の数を測定した(KarthaおよびToback、1992)。細胞移動は、細胞増殖と無関係であることを見出したが、両方の過程はこの実験的調製において研究され得た。 このモデルは、腎臓上皮細胞移動の動態学の研究、ならびにその発現が創傷後に誘導または抑制される遺伝子の同定に有用である。WGFの生物学的特徴および効力は、この系を使用する研究に適している。 ii.インビボのモデル:ラットにおける急性腎不全(ARF)の塩化第二水銀(腎毒素の)および腎臓茎状クランプ(renal pedicle clamping)(虚血性の)モデル。 これらのモデルの系を使用する以前の研究は、ARF症候群の臨床的、組織学的、生化学的、および機能的な相関関係を特徴付けてきた。必須アミノ酸および非必須アミノ酸の混合物の注入は、ラット腎臓組織の再生においてホスファチジルコリンおよびタンパク質の合成を刺激し、そして塩化第二水銀の静脈内投与後の腎機能障害レベルを減少させることを実証した(Toback、1980)。これらの研究は、損傷した腎臓の生化学的および機能的な修復は、未処置の動物において適切ではなく、そしてグルコースを有する外因性アミノ酸の供給は回復を早め得ることを示した。AFR後の再生を増強するWGFの能力は、ヒトARFの腎毒素および虚血性のモデルの両方において研究がなされている。 異常な腎臓の機能および構造の発症、その過程、および引き続く回復を明確にすることは重要である。ヒトにおいて、ラットにおいてと同様に、ARFの間の腎機能は、血清クレアチニンおよび血液尿素窒素(BUN)の濃度を毎日測定することによってモニターされる。これらの測定は、腎臓の主要な機能の1つである糸球体濾過の推定値を提供する。クレアチニンは、クレアチンリン酸の代謝回転の結果として絶えず放出される筋肉から血清に入るのに対し、BUNは全身体のタンパク質代謝回転の最終産物である。両方の分子は血液への進路を作製し、そしてそれらは微小なサイズであるため尿中に排出される。従って、ARFにおいてそれらは血液中に蓄積し、そして排出されない程度は、腎臓障害の評価の指針を提供する。腎臓機能の有意な回復は、血清クレアチン濃度の減少によって示される。 (慢性腎臓疾患の処置) 糖尿病性腎症、間質性腎炎、および慢性糸球体腎炎における腎臓疾患の進行を媒介する機構は、知られていない。腎臓機能の苛烈な欠損は、この過程を遅延または逆転するための治療的なストラデジーが現時点存在しないため、米国においては、毎年何十億ドルもの費用のかかる長期的な透析処置の必要性を生じている。腎臓疾患過程の初期患者は、増殖因子治療の候補として適している。なぜなら、現在、この状態を処置するのに有用な他の代替方法が存在しないからである。本発明のWGF組成物の投与目的は、ネフロンに沿った損傷腎臓上皮細胞の回復を早めることにあり、その結果、疾患過程によって媒介される損傷の修復は腎臓機能を維持し、そして透析の必要性を未然に防ぐ。 (腎臓細胞ガンの処置) 腎臓細胞ガンはしばしば緩やかな増殖状態であり、これは身体内の離れた部位への広範な転移を招き、治療の成功を困難なものにする。放射活性WGFを使用する研究は、腎細胞のWGFレセプターを同定し、そして単離することを可能にする;次いで、レセプターに対して指向される抗体を調製する。これらの抗体は、ネフロンに沿う特定の型の腎細胞のレセプターを局在化させることに役立つ。WGFレセプターの細胞型特異性に関するこの情報で武装した、目的の腎細胞型のガンを処置するためのストラデジーは、レセプターへの結合を示すWGFまたは特定のWGFペプチドを含み、その結果、目的の増殖細胞に抗ガン薬剤を送達するために使用され得る。このような抗ガン薬剤は、WGF、または特定のWGFペプチド、または毒素に結合されたペプチド、細胞溶解性の抗体、またはラジオアイソトープを含む。主要な腎腫瘍の処置は、器官の外科的な摘出によって実行されることが最良であろうが、ガンの転移の処置、特に小型のガンは、WGF構造および機能の知識の使用を定式化するこれらの新規の化学療法的な薬剤の重要な標的で有り得る。 (患者へのWGFの送達) 患者への送達は一般的に、ガンの化学療法送達、あるいは小型の哺乳動物の実験的処置に類似した静脈内注入による。別の経路は、腎不全においてエリトロポイエチン(EPO)を用いた貧血の治療に使用される経路であり、この経路では、EPOを皮下注射によって数日ごとに送達する。 例えば、ARFを有する70kgの患者に対する14−セリンペプチドの代表的な容量は、約35mg(200gの体重あたり100μg)で、緩やかな静脈内注入により投与される。 (WGFに対する抗体の使用による腎細胞損傷の診断) ネイティブなWGFに対する抗体を本明細書で開示されるようにして調製し、そして尿および血液における増殖因子の濃度を決定するために使用する。ネフロンに沿う異なる型の腎細胞におけるWGFの分布を決定する。血液または尿のいずれか、あるいは両方における増殖因子濃度は、腎臓損傷の結果として増加し得る。増殖因子が上皮増殖因子として尿中に排出された場合、腎臓損傷が新しい因子の尿排出の増加を導くことを決定することが可能であり得る。もしそうならば、WGFを検出するための酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キットは、50%以上の腎機能が失われるまで通常の臨床試験で検出されない糸球体濾過速度の低下より前に、早期腎損傷を迅速に診断するために使用される。これは特に、重篤な感染または悪性腫瘍の処置の間、腎毒性の可能性のある薬剤を受けている患者に役立つ。WGFに対する抗体は、腎損傷および新形成を有する患者の血液および尿における増殖因子の出現を検出するために設計された、診断的ELISAキットに組み入れられる。 (長期血液透析患者における腎臓ガンの検出) 長期血液透析を受けている患者のレムナント腎臓(remnant kidney)において発生する腎腺腫、嚢胞腺腫、または癌腫が、増殖因子を過剰発現し、そして尿中に排出することが見出される場合、ELISAキットは、これらの障害について新しい早期検出システムを提供し得る。このような診断キットはまた、無症候性であるが危険性は高い個体において使用され得る。腎臓ガンは、腫瘍が有意な大きさに増殖するかまたは広範に転移するまで無症候性である傾向があるため、現在、早期に検出することが困難である。 (増殖因子の構造および機能の操作) 増殖因子のアナログは、腎上皮細胞レセプターへの特異的な結合を最適化することによって、WGFの増殖促進効果を最大化するために開発される。細胞表面のレセプターに結合することによって、各因子の生物学的機能を阻害するインヒビターはまた、有用である。このようなインヒビターは,YPQGNおよびPQGNHのようなペンタペプチドを含む。分解に対して耐性である合成産物または組換え産物の開発は、インビボでの薬理学的活性を持続する。 (実施例) 以下の実施例は例示するために提供され、限定のためではない。 (実施例1:14−セリンペプチドは、腎毒素の急性腎不全の処置に効果的である) ラットにおいて実験的に誘導される腎毒素および虚血性の急性腎臓損傷(ARF)は、ヒトにおけるこの症候群のモデルとして長期間使用されてきた。14−セリン(WGF由来NH2末端ペプチド)のマイトジェン的な効果が、ARFを有する動物において治療的な薬剤として効果的であると判明するかどうか決定するために、急性細尿管ネクローシスを、塩化第二水銀(通常の生理食塩水において)の溶液を、体重1kgあたり2.25mgの用量をラットの皮下に注入することによって誘導した。雄のラットの体重は実験開始時に200〜225gであった。この用量は、予備的な実験で7日後の動物の生存率が、25〜50%という結果を示したため使用された。血液を尾静脈から各々の日に得、そして血清中のクレアチニン濃度を定量し、そして腎機能の指標として使用した。損傷を受けた腎臓は内因性のクレアチニンを尿中に排出できず、血液中にクレアチニンを蓄積するため、血清中のクレアチン濃度の増加は腎機能の低下の信号である。 合成ペプチドAQPYPQGNHEASYG(14−セリン)(滅菌した0.01%ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝化生理食塩水中に溶解される)を、生存、腎機能の回復、およびDNA合成の刺激に対するこのペプチドの効果を決定するためにラットに皮下注入した。14−セリン、AQPYPEGNHEASYG(14−マー)、AQPYPQGNHEATSSSF(16−マー)、AQPYPQGNHEA(11−マー)、およびAQPYPEQGNHEA(11−マー)を含む多数の異なるペプチドを調査した。異なる濃度および異なる投与時間について試験し、そして比較した。この結果は、14−セリンが、最も効果的なWGF由来のペプチドであることを示し;塩化第二水銀誘導ARF後の生存、および腎機能の回復を改善した。 急性細尿管ネクローシスを、塩化第二水銀の皮下(s.c.)注射によって44匹のラットに誘導し、そして14−セリンの単一用量を1時間後に皮下注射によって投与した。異なる量のペプチドを、結果に影響するペプチドの能力を評価するために、投与した。7日後の生存率は、0〜75μgペプチド(29%)を投与したラットよりも、100〜150μgペプチド(63%)を投与したラットの方が約2倍高かった(χ二乗、p=0.015)。 生存および腎機能の回復に対するこのペプチドの効果を決定するために、急性細尿管ネクローシスを59匹のラットに誘導し;塩化第二水銀の投与1時間後、29匹に14−セリン(100μg/ラット)を皮下投与し、そして30匹に同量の媒体を皮下投与した。塩化第二水銀に誘導された急性細尿管ネクローシスの後にWGF由来ペプチドを投与されたラットの、増加した生存(図2A)および腎機能の回復(図2B)を示す。59匹の各ラットに塩化第二水銀を皮下注射し、そして1時間後に、100μgのWGFペプチド(14−セリン)(n=29ラット)あるいは媒体(n=30ラット)を投与した。生存率は、塩化第二水銀の投与3日後という早い時期で、媒体を投与したラットよりもペプチドを投与したラットのほうがより高かった。血液を尾静脈から示された日に得て、そして血清クレアチニン濃度を測定した。クレアチニン濃度における同様の増加が、1日目に両方のグループのラットで観察された。このことは、ラットは同程度の腎機能損傷を受けていることを意味する。2、3、および4日目のペプチド処理されたラットのより低いクレアチニン濃度は、腎機能の回復が促進されたことを示している。 図2Aは、ARF症候群の発病の後3日目にペプチドを与えられたラットの生存がビヒクルを与えられたラットの生存より有意に大きく(χ二乗検定、P=0.035)、この違いは次の4日間続いたことを示す。7日目までに、ビヒクルを受容したラットは、たった20%しか生き残らなかったが、一方ペプチドを与えられたラットは48%生存した(χ二乗検定、P=0.012)。 ARF症候群の発病中の腎臓機能の評価は、クレアチニン濃度が基底量0.5mg/dLから2.3mg/dLに増加した場合、1日目で機能の低下が現れた。これは、このペプチドのみで処置された動物(n=29ラット)またはビヒクルのみ(n=30)で処置された動物においても同様であった(図2B)。このことは、腎傷害の程度は、ペプチド処置された動物および非処置の動物両方において等しかったことを示唆する。2日目、ビヒクルを与えられた動物(n=30)における血清クレアチニン濃度よりもペプチド処置されたラット(n=29)における血清クレアチニン濃度の方が有意に低かった(P=0.034、スチューデントt検定)。このことは、腎臓機能における減退が、塩化第二水銀続いてペプチドを与えられたラットにおいて、あまり重篤ではなかったことを示す。腎臓機能の有意により迅速な回復の証拠はまた、ARFの発病後3日目および4日目に現れた。血液尿素窒素の濃度が腎臓機能の指標として測定される場合、ペプチド投与の同様の有益な効果が、観察された。これらの結果は、培養における腎臓上皮細胞に対するマイトジェンであるWGFペプチドが、腎臓機能の回復を促進し得、そして腎毒素ARFを有するラットの生存を高め得ることを示す。 (実施例2:腎毒素ARFの誘導16.5時間後におけるインビボでの14−Serペプチドの投与) 医師は患者に急性腎不全が起こる時を正確に予測することは不可能であるため、血清クレアチニン濃度が、腎臓機能が危険かどうかを決定するために測定される。腎臓機能不全が検出された後、症状を逆転させるための処置が非常に所望される。従って、ヒトARFにおいて投与される14−Serペプチドの有用性は、減退した腎臓機能が検出されている場合、有利に作用することを要求する。このペプチドは、ヒトにおけるこの症候群を擬態する条件下で腎毒素ARFの発病後ラットへ投与した場合、腎臓機能の回復の速度が増加した。腎傷害を誘導するために、各16匹のラットに塩化第二水銀を与えた。この投与量は、血清クレアチニンの濃度を0時間での0.5mg/dLから16.5時間後には2.0mg/dLまで4倍に上昇した。次いで、半数の動物にペプチドを皮下に与え(n=8)、そして残りの半数にビヒクルを皮下に与えた(n=8)。このビヒクルは、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.40)中の滅菌0.01%ウシ血清アルブミンである。この症候群の発病2日目にこのクレアチニン濃度は、ビヒクルを受容しているラット(3.9mg/dL)においてよりも、ペプチド処置したラット(3.0mg/dL)においての方が、上昇しなかった(P=0.0499)。重要なことに、3日目においてクレアチニン濃度は、ペプチドを与えられた動物において2.6mg/dLと衰えたが、ビヒクルのみを与えられたラットでは4.2mg/dLまで上昇し続けた(P=0.020)。7日目に、生存はビヒクルで処置した動物(63%)よりペプチドで処置した動物(88%)の方が多く現れた。 従って、14−Serペプチドは、腎毒素腎傷害が臨床上検出可能になった後に投与される場合、腎臓機能の回復を促進する。 実験の別個のセットにおいて、14−Ser(n=7)またはビヒクル(n=9)を、塩化第二水銀誘導性傷害の24時間前、16匹のラットに与えた。3日目に、血清クレアチニン濃度を使用して評価した腎臓機能は、ペプチドを与えられたラットにおいて有意に良くなった(P=0.039)。4日目での生存は、ペプチドで処置されたラットにおいて71%であったが、ビヒクルを与えられたラットにおいては、たった22%であった(χ二乗検定、P=0.049)。塩化第二水銀誘導性傷害の24時間前の14−Serペプチドでの処置は、1時間後に与えられた場合より、生存において有益な効果を有するようであった。しかし、この違いは、統計的有意には全く達しなかった。 生存および腎臓機能に対する14−Serペプチドの有益な効果がペプチドのマイトジェン作用の結果であるかどうかを決定するために、DNA合成を塩化第二水銀が与えられたラットの腎臓において測定した。DNAへ組み込まれるチミジンの非放射性アナログである、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を、核を標識化するために使用した。BrdUに対するモノクローナル抗体およびジアミドベジデン(diamidobenzidene)染色を、腎組織の組織切片において、DNA合成下の核を検出するために使用した。BrdUを20%エタノールに溶解し、そして塩化第二水銀の投与23時間後に腹腔内に注射した。1時間後、腎臓を、大動脈カテーテルを介してリン酸緩衝化生理食塩水の温かい溶液ですばやく灌流して、器官から赤血球を除去し、そして尿細管の開通性を維持した。被膜を腎臓から取り除き、次いで長手方向に二分し、そしてホルマリン中で4時間固定し、次いで70%エタノール中で固定した。組織切片は調整され、そしてBrdU標識化核は、上記のように検出された。 塩化第二水銀を与えられていないラットの肝臓のBrdU染色は、被膜下皮質および無糸球体(内部)皮質において高出力範囲(X400)あたり約3つの標識化された核を示した。塩化第二水銀を与えられたラットの腎臓では、この良く特徴付けられたモデル系において期待されるように、近位ネフロンの末端部分(S3)の尿細管細胞で広範囲の壊死が観察された。壊死の程度は、ラットからラットでいくらか変化していたが、主に無糸球体皮質に限られた。塩化第二水銀を24時間早く与えられたラットの無糸球体皮質において、非処置のコントロールラットの細胞においてより、多くの標識化細胞が見られた。また塩化第二水銀の投与の24時間前に14−Ser(100μg)を与えられたラットの腎組織を調査した。この動物において、1時間のBrdU標識化は、本明細書に記載のように塩化第二水銀投与24時間後において実行された。顕微鏡試験により、多くのより標識化された核が尿細管細胞壊死帯に隣接して存在したことが示された。この発見は重要である。なぜならば、それは、再生細胞が有糸分裂を行い、次いで壊死帯のネフロンへ移動するよう期待される皮質のこの境界範囲において、腎毒素の傷害により不可逆的に傷ついた細胞を置換するためである。従って、この14−Serペプチドは、塩化第二水銀が誘導した尿細管壊死後ネフロン再生細胞においてDNA合成を刺激するようであり、そしてこの機構によって、腎臓機能の回復が促進され、そしてARF後の生存が改善し得た。 (実施例3:虚血性急性腎不全の処置における14−Serペプチドの有効性) 虚血性急性腎不全はしばしば、激しい出血、流体損失(下痢、嘔吐、利尿)、感染(敗血症)、および心不全(心筋性疾患、不整脈)の状態における低血圧により生じる。これはまた、新しい宿主への移植後、ドナーの腎臓における機能の減退を引き起こし得る。14−Serペプチドが虚血性ARFを有する動物に治療的薬剤として適するかどうかを決定するために、本実験の開始時に体重200〜225グラムの雄のラットを使用した。動物は初め、感覚脱失を誘導するためにペントバルビタール(12.5mg/ラット100グラム)を皮下に与えられた。次いで皮膚は剃られ、そして右側腹部、次いで左側腹部が小さく切開され、腎臓が曝された。シュヴァルツ外科手術用鉗子を各腎茎(尿管、動脈、静脈)に配置して腎臓の血流を欠乏させ、急性虚血症腎不全を誘導した。約45分後、この鉗子を取り除き、傷害の腎臓へ血液が再び流れるようにし、そして金属皮膚クリップを使用して、皮膚の切開を閉じた。これは、本明細書中に記載されるように、確立された実験的ARFのモデルである。1時間後、この2つの鉗子を取り除き、各ラットはビヒクル(リン酸緩衝化生理食塩水中0.01%ウシ血清アルブミン)中の14−Serペプチド(AQPYPQGNHEASYG)(100μg)またはビヒクルのみ(これらは首のうなじに皮下注射した)のいずれかを受容した。 生存および腎臓機能の回復に対するこのペプチドの影響を確認するために、両側の腎動脈クランピングを使用して、29ラットにおける虚血性ARFを誘導し得た。WGF誘導ペプチド(14−Ser、100μg)を、14動物のそれぞれに、45分間虚血症傷害が終わった1時間後、皮下に投与した。;15ラットは、等量のビヒクルを受容した。生存は、虚血症ARFの誘導後6日目に、ビヒクルを受容する動物(67%)よりも、このペプチドを与えられたラットにおいて(93%)大きいことを示した(χ二乗検定、P=0.082)(図3A)。血液は、図に示された日数で尾静脈から得、そして血清クレアチニン濃度を測定した。ペプチド処置したラットの腎臓機能の加速的回復は、ARF症候群の1、2、3および4日目により低い血清クレアチニン濃度によって明らかにされた。1日目までに、クレアチニン濃度は、ビヒクルが与えられたラット(n=15ラット)においてその基底量0.5mg/dLから3.8mg/dLまで上昇したが、ペプチド処置した動物(n=14)では、3.4mg/dLという有意により低い値に達した(P=0.032、スチューデントt検定)(図3B)。クレアチニン濃度は、2日目(P=0.015)および3日目(P=0.014)に、ビヒクルを受容したラットよりペプチド処置をした動物の方が、より低かった。4日目までに、クレアチニン濃度は、ペプチド処置したラットにおいて段々と2.2mg/dLの値に落ちたが、一方、ビヒクルを与えられた動物において、クレアチニン濃度は、2倍高い値の4.4mg/dLまで増加した(P=0.011)。従って、ARF症候群の最初の4日間に、腎臓機能はビヒクルを与えられた動物においては、いくらか減少したままであったが、ペプチド処置されたラットは迅速に回復した。 要約すると、虚血性または腎毒性による腎臓傷害のいずれかを有するラットへ投与した14−Ser WGF由来ペプチドは、生存を高め、そして急性の腎不全症候群からの回復を促進する。 (実施例4:腎毒性急性腎不全症候群の11マーWGF由来ペプチド処理により達成される生存の向上) 実験的なARFは、塩化第二水銀の皮下への注射によりラットで誘導された。AQPYPEGNHEA合成ペプチド(滅菌した0.01%ウシ血清アルブミンおよびPBSに溶解)は、ARF症候群からの生存に対する有利な効果を実証するために、塩化第二水銀を与えてから2時間後にラットに皮下注射された。ある実験において、全てで17匹のラットに塩化第二水銀の用量を注射し、これらは、上述のようなARFの誘導を示した。次いで、異なる量のペプチド(培養下において腎臓細胞の成長を刺激することが公知である)を、結果を向上させる能力を評価するために、1時間後に動物に注射した。3日後、生理食塩水のみを与えた5匹中5匹の動物、および50μgのペプチドを与えた3匹中3匹のラットが、死亡した。逆に、100μgのペプチドを与えた3匹中2匹のラットは生き残り、同様に200μgのペプチドを与えた6匹中5匹も生き残った。要約すると、100〜200μgのペプチドを与えた9匹中7匹のラット(78%)は、生き残ったが、50μgまでのペプチドを与えた、8匹全てのラット(0%)が生き残らなかった(カイ2乗、P=0.032)。従って、11マーWGFペプチドは、腎毒性ARFにおける生存を向上させた。 (実施例5:腎臓修復における特定のWGF由来ペプチドの効果) さらに、特定のWGF由来ペプチドの投与は、腎臓構造の修復を促進する。腎臓の成長生理学および病理学の標準的なアッセイを、WGFペプチドの成長促進(マイトジェン的な)効果が、組織培養において示されたように、細胞分裂のための調製において、DNAの合成を行うために増加した腎臓細胞数を刺激することを実証するために用いる。 最初に、塩化第二水銀誘導ARFを有するラットから得た腎臓組織の切片を調製し、そしてWGFペプチドを与えられた動物および生理食塩水ビヒクルのみを与えられた動物における、腎傷害および修復の程度を比較するために光学顕微鏡下において、観察した。WGFの修復に対する効果の別の測定は、腎臓組織の詳細な顕微鏡観察にもとづいた組織病理学的な評価である。ARFの特有の特徴および修復を等級づける得点付けシステムを、WGF処理を行なった、または行なっていないラットからの腎臓組織の評価および比較に用いる(Millerら、1994)。 方法論的に考慮すべき事項に依存して、放射活性チミジンを、ARF後の腎臓DNA合成を刺激するWGFペプチドの能力を測定するために用い得る。これらの実験において放射活性チミジンを、死亡1時間前に腹腔内に注入し、そしてその腎臓DNAへの組込みを、引き続き組織からのDNA抽出により決定し、次いで化学的なアッセイによりDNAの量を測定し、そしてシンチレーションによるその放射活性をカウントする。オートラジオグラムもまた調製され得、そして腎臓組織内の細胞に、放射活性チミジンが組込まれたDNAを有することを決定するために用いられ得る。参照した全ての技術は、当業者に公知である(Coimbraら、1990)。 (実施例6:TGF−β2およびYPQGNペプチドによるWGF由来ペプチドマイトジェンの阻害) 腎臓細胞成長制御での14−Serペプチドの役割をよりよく理解するために、マイトジェン効果を阻害し得る薬剤について研究を行った。 トランスホーミング増殖因子(TGF)−β2は、培養液中で増殖を制限する、BSC-1細胞によって分泌される自己分泌増殖インヒビターである。外因性TGF−β2を、14−Serの成長促進効果を阻害するその能力を決定するために培養培地に加えた。1ng/mlの濃度のTGF−β2は、14−Serにより誘導される成長への25%の刺激を無効にするのに十分であった。2ng/mlの濃度のTGF−β2で、成長が、14−Serの存在または不在においても30%阻害され、10ng/mlでは、60%が阻害された。6ng/mlの濃度のAGF−β2において、5μg/mlまでの外因性の14−Serは、成長阻害を逆転させない。 TGF−β2は、種々のマイトジェンにより誘導される増殖を阻害するため、より特異的なインヒビターが求められてきた。以前に、5アミノ酸のWGF由来ペプチドYPQGNおよびPQGNHの研究が、6アミノ酸ペプチドYPQGNHのマイトジェン効果を阻害することを示した。これらのペンタペプチドは、細胞に加えた場合、成長に変化を起こさなかった。細胞を、ペンタペプチドYPQGNと共に、30分間プレインキュベ−トした。次いで、培養培地を吸引し、単層をリンスし、新鮮な培養培地を加え、そして4日後に、細胞数を数えた。細胞とYPQGNのプレインキュベーションは、6アミノ酸ペプチドのマイトジェン効果を阻害した。さらに、YPQGNとの10分または30分のプレインキュベーションは、以下のそれぞれのペプチドの増殖促進効果を完全にブロックする:CPQGNH、14−Ser、28マー(14−Ser 二量体)、および40マー(表3)。重要なことには、部分的に精製されたWound Growth Facter(ヘパリンアフィニティーカートリッジは通過させたが、HPLCカラムはまだ通過させていない)のマイトジェン効果もまた、完全に阻害された。 これらの観察は、天然のWGF(部分精製)および本明細書に記載された、Y/CPQGNH配列を含む6〜40アミノ酸長のWGF由来ペプチドは、ペンタペプチドYPQGNに対して高い親和性もまた有する、同じ細胞表面レセプターに結合することを示唆する。 さらなる実験を、天然のWGFまたは、14−Serペプチドの増殖促進効果をブロックするためのYPQGNの能力が、特異的であるか否かを決定するために、実行した。BSC−1の培養細胞を、YPQGNで30分間プレインキュベートし、次いでその培地を吸引し、そして単層を新鮮な培地で2回リンスした。以下のそれぞれの腎細胞マイトジェンを、このセット条件下において最大となることが公知の濃度において、個々に評価した:EGF(50ng/ml)、インシュリン様成長因子I(50ng/ml)、バソプレシン(75pg/ml)、酸性腺維芽細胞成長因子(100pg/ml)、および塩基性腺維芽細胞成長因子(1,000pg/ml)。この結果は、それぞれの5つのタンパク質が、細胞のYPQGNへのプレ曝露にもかかわらず、十分にマイトジェン的であったことを示した。YPQGNによる前処理はまた、TGF−β2(6mg/ml)の成長阻害効果を、ブロックしなかった。これらの観察が、YPQGNによる、天然のWGFのマイトジェン阻害が特異的であることを示し、そしてWGFレセプター部位およびシグナル伝達経路が、5つの試験した成長因子のものと異なっていることを示した。 (WGFタンパク質およびWGF由来ペプチドに対する細胞表面レセプターのクローニング) 上記で要約した情報が、天然のWGFおよびWGF由来ペプチドが結合する細胞表面レセプターを単離およびクローニングするための実験的な戦術を示唆する。BSC−1株のサル腎臓上皮細胞の表面上のWGFレセプターを検出するために、40マーWGFペプチドの高い親和性を利用し、これはヘパリンの存在で、K1/2=0.0051μM(5.1nM)で細胞と結合する。さらに、細胞への結合の特異性、またはプラズマメンブレン画分への結合の特異性は、細胞表面とのペプチドの接着をブロックする、ペンタペプチドYPQGNを用いることによりモニターした。放射性ヨウ化40マーを調製し、次いで、BSC−1細胞の培養物に、ヘパリンと共に加えた。レセプターを、ジスクシンイミジルコスベリン酸塩の作用により、[125I]40マーと架橋することにより、アフィニティー標識化する(Segariniら、1987)。細胞タンパク質は、可溶性であり、そしてSDS−PAGEにより分離する。オートラジオグラフィーは、レセプターの可視化、およびその大きさの規定を可能にする。十分な量のレセプタータンパク質を、このゲル精製法により単離した後、アミノ末端およびその内部のアミノ酸配列情報を得、オリゴヌクレオチドプライマーを調製し、そしてポリメラーゼ連鎖反応を、レセプタータンパク質をコードしたcDNAクローンを得るために用いる。 (実施例7:急性腎不全後の生存に対する14−Ser WGF由来ペプチドおよびEGFとの間のインビボでの比較) 塩化第二水銀誘導ARFにおける新規な治療的な薬剤として14−Serペプチドの有効性を、この動物モデル系において効果的であることが示されている、第1のペプチド成長因子であるEGFと比較した(Coimbraら、1990)。 それぞれ3つのグループの8匹のラット(n=24)に、それぞれ塩化第二水銀(2.25mg/kg s.c.)1時間後に14−Ser(100μg、s.c.)を与えるか、毒素2時間後にEGF(20μg、s.c.)を与えるかまたはビヒクルを与え(s.c.)、そして生存しているものをモニターした。4日後、ビヒクルを処理した動物の25%と比較して、14−Serペプチドを与えたラットのうち63%が、生きていた(カイ2乗、P=0.0499);EGFを処理したラットのうち50%が、生存していた(カイ2乗、P=N.S.)。5日目では、ビヒクルを与えた動物の12.5%と比較して、EGFを与えたラットのうち50%が生存していた(カイ2乗、P=0.0436)。6日後では、生存しているラットは、ビヒクルを処置した動物の12%と比較して、14−SerペプチドまたはEGFを与えたラットで同じであった(37.5%)。これらの観察により、腎傷害後に与えられた14−SerペプチドおよびEGFは、ARF症候群からの生存を向上させるそれらの能力が類似していたことを示す。 別の実験において、塩化第二水銀を投与する24時間前にEGF(20μg、s.c.)をラットに与え、この成長因子の効果を14−Serペプチドと比較した。驚くべきことに、EGF処置が、これらの条件下において14−Serペプチドは、高い保護であるのに対して、ビヒクルとは異なっていなかった。従って、4日目にEGFを与えたラットの生き残りは、25%であり、ビヒクルを与えたものは、31%、そして14−Ser WGF由来ペプチドを与えたものでは、73%であった。 これらの研究は、予防的に(すなわち、腎傷害が発生する前に)投与した場合、14−Serペプチドは、EGFよりもより効果的に生存を促進することを示す。WGF由来ペプチドの投与は、以下について特に効果的であることを証明し得る:(1)ARFを発症する高い危険性を有する患者(例えば,高齢者、新生児)への外科的な手順の前、(2)敗血症の処置のための抗生物質または抗悪性腫瘍薬剤のような潜在的腎毒性薬剤を投与した患者において、および(3)新しい宿主への移殖に先だつ、ドナーの腎臓の灌流について。 水溶液に溶解させた14−Serまたは天然のWGFのような、WGF由来ペプチドは、灌流および保護に用いられ得、そしてヒト受容者への再移殖に続く血液での再灌流に際して起こり得る傷害から、虚血性の「ドナー」腎臓を単離(「エキソビボ」で)し得る。従って、WGFは、屍体からの腎臓または生存しているドナーから取り出され、そして移殖を行なう予定である腎臓を保存するために用いられる溶液に加えた場合、効果的な保護剤として働き得る。図1は、BSC−1細胞の増殖に対する、創傷増殖因子由来ペプチドの増殖促進活性を図示する。図2Aは、塩化第二水銀誘導性の急性尿細管壊死の後に、WGF由来ペプチド(14−Ser)を与えられたラットの増強された生存を図示す。(A:値は、平均±標準誤差である。*は、スチューデントt検定でP<0.034。)(B:生存%は、生存数および死亡数の計によって除算されたラット生存数として計算される;*は、カイ2乗、P<0.050。)図2Bは、塩化第二水銀誘導性の急性尿細管壊死の後に、WGF由来ペプチド(14−Ser)を与えられたラットの腎機能回復を示す。(A:値は、平均±標準誤差である。*は、スチューデントt検定でP<0.034。)(B:生存%は、生存数および死亡数の計によって除算されたラット生存数として計算される;*は、カイ2乗、P<0.050。)図3Aは、両側腎茎の締付けにより誘導された虚血性急性腎不全の後に、WGF由来ペプチド(14−Ser)を与えられたラットの増強された生存を図示す。(生存%は、生存数および死亡数の計によって除算されたラット生存数である。)値は、平均±標準誤差である。*は、スチューデントt検定でP<0.032。)図3Bは、両側腎茎の締付けにより誘導された虚血性急性腎不全の後に、WGF由来ペプチド(14−Ser)を与えられたラットの腎機能回復を示す。(生存%は、生存数および死亡数の計によって除算されたラット生存数である。)値は、平均±標準誤差である。*は、スチューデントt検定でP<0.032。)急性腎不全を伴う患者を処置するための組成物であって、該組成物は、マイトジェン活性を有するペプチドを含み、ここで、該ペプチドは、アミノ酸配列AQPYPQGNHEASYGからなり、そして該組成物は適切な希釈剤中に存在する、組成物。請求項1に記載の組成物であって、該組成物は、WGF由来ペプチドの少なくとも1つの多量体を含み、該多量体は、以下: 配列AQPYPQGNHEASYGからなる14−Serペプチドからなる、組成物。配列表