タイトル: | 公開特許公報(A)_示差走査熱量測定における凝固点温度測定方法及び温度較正方法 |
出願番号: | 2006035265 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 25/20 |
中村 敏彦 JP 2007212396 公開特許公報(A) 20070823 2006035265 20060213 示差走査熱量測定における凝固点温度測定方法及び温度較正方法 エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 503460323 松下 義治 100079212 中村 敏彦 G01N 25/20 20060101AFI20070727BHJP JPG01N25/20 A 6 4 OL 11 2G040 2G040AB02 2G040AB12 2G040BA24 2G040DA03 2G040EB05 2G040EC09 2G040HA18 2G040ZA07 本発明は、過冷却を示す試料の凝固点を、示差走査熱量測定により正確に求めるDSC曲線の解析方法、凝固点が値付けされている試料を用いて示差走査熱量測定装置の冷却時の温度較正を行う方法に関する。 従来の示差走査熱量測定においては、過冷却を示す試料の凝固点は求められないか、または非特許文献2の図2、非特許文献3のように、結晶化温度を読みとっていた。 非特許文献4には、熱電対の温度較正方法として、値付けられた試料の凝固点をるつぼ法により測定する方法が示されている。試料の中へ直接に熱電対を挿入して計測するので、試料が凝固点で温度一定になっている時は、温度曲線が水平な平坦領域を示すので、この温度をそのまま読み取れば良いことが分かる。 非特許文献5には、鉛フリーはんだを同様に試料の中へ直接に熱電対を挿入して、るつぼ法で測定する例が示されている。平坦領域を確実に計測するために、試料量は500gと示差走査熱量測定に比較して桁違いに大量である。特許第3137605号(第1図)日本工業規格 JIS K 7121:1987 プラスチックの転移温度測定方法(第4−5項、図2 結晶化温度の求め方の例)ISO 11357−1:1997 Plastics−Differential scanning calorimetry(DSC)−Part1:Genaral principles Page3 3.10 characteristic temperatures, Page5 8.2 Temperature calibration日本工業規格 JIS C 1602:1995 熱電対(第44項、参考2図1)日本工業規格 JIS Z 3198−1:2003 鉛フリーはんだ試験方法−第1部:溶融温度範囲測定方法 従来の示差走査熱量測定における凝固点温度測定方法にあっては、非特許文献2の図2のように結晶化温度を読みとっていたが、この方法によると、過冷却を示す試料の場合については過冷却液体の凝固開始温度に相当する温度を読みとってしまい、凝固点とは異なった温度であった。 また、示差走査熱量測定以外の方法では熱電対を試料に直接挿入して温度を計測する方法があるが、示差走査熱量測定装置の構造から、試料に直接熱電対を挿入することはできず装置に設置できる試料の量も限定される。したがって、温度計測値に熱流による系統的誤差が発生し、また試料量が少ないため長時間にわたる安定した凝固過程を実現することは難しい。 本発明は、上記問題点を解決し、過冷却を示す試料であっても、示差走査熱量測定結果から正確な凝固点を求めるDSC曲線、出力温度曲線の解析方法、および示差走査熱量測定装置の冷却時の温度較正方法を提供することを課題とする。 上記の課題を解決するために、本発明のDSC曲線または出力温度範囲の解析に基づく凝固点測定方法においては、 まず第一に、 過冷却を示す試料を温度を下げて冷却して示差走査熱量測定し、前記測定で得られたDSC曲線または出力温度曲線において、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲を特定し、前記特定した時間範囲または出力温度範囲のDSC曲線または出力温度曲線を用いて試料の凝固点を求めることを特徴とする。 第二に、 前記DSC曲線において、試料の温度が一定速度で低下する冷却測定であって、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱ピーク部分のうち、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲にある部分の外挿接線と、過冷却状態を含む液体状態である範囲のベースラインまたはベースラインの外挿接線との交点の出力温度を読み取り、この交点の温度を試料の凝固点とすることを特徴とする。 第三に、 前記出力温度曲線において、試料の温度が一定速度で低下する冷却測定であって、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱領域のうち、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲の外挿接線と、過冷却状態を含む液体状態である範囲の出力温度直線または出力温度直線の外挿接線との交点の出力温度を読み取り、この交点の温度を試料の凝固点とすることを特徴とする。 第四に、 前記DSC曲線において、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱ピーク部分のうち、前記試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲にある部分の、ある時点の温度およびDSC値とで作成された第一のデータ組と、異なる時点の温度およびDSC値とで作成された第二のデータ組とを作成し、前記データ組同士の相関関係を計算することにより前記試料の凝固点を求めることを特徴とする。 第五に、 前記DSC曲線および出力温度曲線において、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱ピーク部分のうち、前記試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲にある部分の、ある時点の温度およびDSC値を求め、またあらかじめ試料と出力温度計測点間の熱抵抗値を得ておき、前記DSC値と前記熱抵抗値を掛算して得た積を前記ある時点の温度に加算することにより前記試料の凝固点を求めることを特徴とする。 第六に、 凝固点が値付けされている試料を、上述の第1の凝固点測定方法を用いて試料の凝固点を求め、この求めた凝固点と前記試料の値付けされている凝固点との温度差を計算し、該温度差から補正値を求め、前記値付けられた凝固点を示すように示差走査熱量測定装置の熱電対の出力温度を較正することを特徴とする。なお、上述の第1の凝固点測定方法とは、過冷却を示す試料を温度を下げて冷却して示差走査熱量測定し、前記測定で得られたDSC曲線または出力温度曲線において、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲を特定し、前記特定した時間範囲または出力温度範囲のDSC曲線または出力温度曲線を用いて試料の凝固点を求める凝固点測定方法である。 本発明のDSC曲線の解析方法は、図4のインジウムの凝固のDSC曲線(1)に示すように、試料が凝固するときの発熱ピークにおいて、右上がりの一定の傾きを示す領域について、試料が潜熱により凝固温度で一定温度の状態を示す範囲であることを発見に基づくものである。この範囲のデータを用いることで、過冷却を示す試料においても凝固点を正確に求めることが可能である。例えば、DSC曲線、出力温度曲線からの外挿接線と、過冷却状態を含む液体状態である範囲のベースラインまたは延長線との交点の出力温度を読み取り、この交点の温度を試料の凝固点とするDSC曲線、出力温度曲線の解析方法を発見し採用した。 また、たとえばインジウムのように、値付けられた凝固点を持つ試料ならば、値付けられた凝固点と実際の測定により求めた凝固点との温度差を計算すれば、示差走査測定装置の熱電対などにより計測される出力温度が、どの程度ずれているかが分かるので、その温度差分を温度補正値として装置の温度較正を行うことができる。 本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。 上記のように構成されたDSC曲線の解析方法によれば、従来は正確に求めることができなかった、過冷却を示す試料の凝固点を正確に求めることが可能になる。また、凝固過程は冷却測定時に発生するから、従来は不可能であった一定速度で降温する冷却測定においての示差走査熱量測定装置の温度較正を行うことが可能になった。 本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。 図1は本発明に用いる示差走査熱量測定装置の一例で、センサー部の断面図を示す。図1の装置は特許文献1で開示されている例である。この装置は代表的な例であり、本発明は、試料の中へ直接に温度センサーが挿入されていない示差走査熱量測定装置一般に適用することができる。 試料容器1および参照物質容器2は、アルミニウム製で大きさは直径5mm程度で、試料容器1には過冷却を示す試料を入れ、参照物質容器2には、アルミニウムやアルミナ粉末等の参照物質を入れ、通常は同じくアルミニウム製の蓋を被せ、クリンプされる。試料および参照物質の量は、通常は数mgから数10mgである。各容器は、熱抵抗が目的通りの値になるように設計されたコンスタンタン製伝熱板3の定められた位置に置かれる。コンスタンタン製伝熱板3は、この例の場合は円板状であり、銀製上側保持板4と銀製下側保持板5により挟まれ、各保持板とは良好な熱接触を保つように保持される。熱緩衝板6を挟んで銀製ヒートシンク7に固定される。銀製ヒートシンク7は断面がH字型の円筒で直径40mm高さ30mm程度の大きさであり、各試料容器とコンスタンタン製伝熱板3を包み込んでいる。銀製蓋8が被せられ、試料容器1、参照物質容器2、コンスタンタン製伝熱板3からの輻射や空気の対流により外界へ熱が輸送されることを防止し、外界から空気が流入して発生する温度むらによるノイズを防止する。銀製ヒートシンク7の周囲には、加熱するためのヒーター9が巻かれており、また図示しない冷却器により周囲から冷却され、所望の速度で温度が変化し、一定速度や様々なパターンで昇温、冷却、等温保持が可能な構成になっている。 コンスタンタン製伝熱板3の裏側には、各容器の反対側にそれぞれ試料側クロメル板10と参照側クロメル板11が溶接され、クロメルおよびコンスタンタンから構成される熱電対の接点になっている。各クロメル板には、クロメル線およびアルメル線が図のように溶接され熱電対を構成し、クロメル線12とアルメル線13による試料温度およびクロメル線14,15による試料と参照物質の温度差ΔTの起電力信号を図示しない検出器により計測する。試料温度および温度差ΔTの計測は、銀製ヒートシンク7から各容器へ流入または流出する熱流経路の中途で計測している。 また、銀製ヒートシンク7には、クロメル線17とアルメル線18による1組の熱電対が固定され図示しない検出器により計測し、銀製ヒートシンク7の温度をヒーター9および図示しない冷却器により一定速度や様々なパターンで昇温、冷却、等温保持などの制御を、図示しない電力調整器により制御される。 熱流検出を正確に行うためには、図1のように温度差ΔT信号の検出点を試料の外に設けなければならず、これが示差走査熱量測定装置の特徴になっている。そのため、試料の温度を直接計測しているのではなく、容器、伝熱板などを隔てた位置の温度を計測していることになり、凝固点計測を難しくしている要因になっている。今回の示差走査熱量測定装置では、熱流応答時間を短くしたセンサーを製作し測定に用いたので、従来は判別不能であった凝固温度以下で昇温しながら凝固する過程と凝固温度で温度一定で凝固する過程を明確に分離できるようになった。このことにより、2種類の凝固開始温度、つまり、補外凝固開始温度と過冷却液体の補外凝固開始温度をそれぞれDSC曲線や出力温度曲線に補助線を引くこと、またはDSC値と出力温度値から解析的に求めることが可能になった。凝固点は、2種類の凝固開始温度の内、補外凝固開始温度である。 図2は、20.07mgのインジウムをアルミニウム製容器に詰め、同じくアルミニウム製蓋を被せてクリンプし、図1の装置により加熱時に昇温速度+10℃毎分、冷却時に降温速度−10℃毎分にて測定したときのDSC曲線、温度曲線のグラフである。156℃付近で融解による吸熱ピークおよび凝固による発熱ピークが見られる。インジウムは凝固点が値付けられており、最も多くの測定が行われる温度域に凝固点があり、軟らかくサンプリングしやすく、入手、保管が容易であるなどの特徴があり、最も一般的に示差走査熱量測定装置の温度較正に用いられる金属である。 図3は、図2の融解ピーク部分を拡大したグラフである。融解ピークによる凝固点の温度を読みとる場合は、図のように、融解前の固体状態のベースラインまたはその延長線と、融解過程で試料の温度が一定になっていてDSC曲線が一定の傾きを示す領域から引いた接線の交点の出力温度を求める。図3の場合は、156.57℃であった。融解過程で試料の温度が一定になっている状態は、凝固点で一定温度になっており液体と固体が共存している状態である。前記のような交点を求める操作は、凝固点で一定温度でかつ潜熱による熱流がゼロであるときの出力温度を読みとることになる。この方法によれば、試料の潜熱による影響を受けず、転移温度に最も近く、且つ再現性の良い読み取りが可能である。 なお、この出力温度は、2種類の誤差を含んでいる。1つは熱電対と検出系の誤差、もう1つは容器と試料へ流入する熱流と試料−熱電対接点間の熱抵抗により、ニュートンの冷却則に従って発生する温度差である。凝固点が値付けられたインジウムなどの試料を図3のように計測すれば、ある昇温速度の条件での誤差の大きさが分かるので、この大きさがゼロになるように補正を行えば、ある昇温速度の条件で温度較正を行うことができる。 2種類の誤差のうち後者の誤差は、次のように昇降温速度の一次式で表される関係になる。昇温速度をプラスに、降温速度をマイナスに取ったとき、容器と試料へ流入する熱流の大きさは熱容量に昇降温速度を掛けた値となるので昇降温速度に比例し、さらにニュートンの冷却則に従って発生する温度差は、容器と試料へ流入する熱流に試料−熱電対接点間の熱抵抗を掛けた値になるので、昇降温速度に比例することになる。後者の誤差は昇降温速度の一次式で表される関係になる。 図4は、図2の凝固ピーク部分を拡大したグラフである。凝固開始時に一時的に試料の温度が上昇することが観測され、過冷却状態を示すことが分かる。凝固ピークによる凝固点の温度を読みとる場合は、図のように、凝固前の液体または過冷却液体状態のベースラインまたはその延長線と、凝固過程で試料の温度が一定になっていてDSC曲線が一定の傾きを示す領域から引いた接線の交点の出力温度を求める。図4の場合は、156.47℃であった。凝固過程で試料の温度が一定になっている状態は、凝固点で一定温度になっており液体と固体が共存している状態である。前記のような交点を求める操作は、補外凝固開始温度を求める操作であり、凝固点で一定温度でかつ潜熱による熱流がゼロであるときの出力温度を読みとることになる。 この方法によれば、試料の潜熱による影響を受けず、転移温度に最も近く、且つ再現性の良い読み取りが可能である。 ここで、図3の融解ピークで、それぞれ上下反転したDSC曲線と出力温度曲線に、ピークの開始部分を過冷却状態にしたピーク形状を考えると、図4のグラフの形状のようになるから、156.47℃と読み取った温度は凝固点になることが理解しやすくなる。 図4では、もう1点155.57℃と温度を読みとっている点がある。これは、液体または過冷却液体状態のベースラインまたはその延長線と、凝固温度以下で試料が昇温しながら凝固する過程の領域から引いた接線の交点を読みとった温度である。この温度は、過冷却液体の補外凝固開始温度に相当する。凝固ピーク全体の中で傾きが最大の点より接線を引いた場合は、この点を読み取ることになる。 図5は、図4に縦の一点破線を引き、試料の状態を時間領域毎に区切って説明するための図である。領域101は、補外凝固開始温度である凝固点111よりも温度が高く試料は液体状態である。領域102は、凝固点111よりも温度が低く試料は過冷却液体状態である。領域103は、過冷却液体が凝固温度以下で潜熱を放出し昇温しながら凝固する過程を示している。時間は2秒弱しかない僅かな領域である。領域102と103の境界は読み取り点112であり、過冷却液体の補外凝固開始温度に相当し、前記のように155.57℃であった。領域104は、凝固過程で試料が潜熱を放出し試料の温度が一定になっていて液体と固体が共存しDSC曲線が一定の傾きを示す領域である。領域105は、凝固過程が終了し試料は全て固体となっており、凝固点で一定温度の状態から一定速度で降温する状態への遷移過程である。 なお、出力温度曲線においても、凝固前の液体または過冷却液体状態の出力温度曲線またはその延長線と、凝固過程で試料の温度が一定になっていて出力温度曲線が一定の傾きを示す領域から引いた接線の交点が領域101と102の境界になることが分かり、出力温度曲線でも同様に凝固点を求めることが可能であることが分かる。 DSC曲線においても出力温度曲線においても、過冷却の程度が図4の過冷却より非常に小さい場合は、領域103の幅が狭く且つベースラインからの高さが低いままで領域104へ移行するはずである。このような場合は、凝固前の液体または過冷却液体状態のDSC曲線のベースライン上や出力温度曲線上に交点を求めることが出来なくなるので、延長線を引き、その延長線上で交点を結ぶようにして凝固点を読み取ることができる。凝固前の液体または過冷却液体状態のDSC曲線のベースラインや出力温度曲線は、試料の温度が一定速度で低下する場合は長い直線状になっているので、延長線と外挿接線とは同一になる。 図6は、図4のデータを、横軸を温度軸にして表示し直したデータである。この場合でも、図4と同様に、凝固前の液体または過冷却液体状態のベースラインまたはその延長線と、凝固過程で試料の温度が一定になっていてDSC曲線が一定の傾きを示す領域から引いた接線の交点の出力温度を求める。図6の場合は、156.45℃であり、図4で読みとった補外凝固開始温度とほぼ同じであった。 図4,5,6に示した方法は、冷却時の降温速度が一定で測定したデータを用いる方法であり、また、作図により求める慣用的な方法である。 図7は、図4のDSC曲線上に出力温度TiとDSC値hiのデータ組を示した図である。iとjは、1,2,3であり、(Ti,hi)と(Tj,hj)は、凝固過程で試料の温度が一定になっている領域の任意の点である。T0は凝固点であり、h0は温度T0であったときのDSC値である。Δhiは、ピーク前後のベースラインからhiまでの高さを示す。これらのデータは、図中に示した3個の計算式に従った値を取る。kは試料−試料温度計測点間の熱抵抗値である。kが未知の場合は少なくとも2個以上のデータ組が必要である。実際に3個の(Ti,hi)から最小二乗法により凝固点T0を計算してみると、156.47℃となり、図4で求めた数値と一致した。このようにして、上記データ組の相関関係から凝固点を求めることも出来る。kは融解ピークの解析から別に求めることもできるので、複数ではなく1つのデータ組から凝固点T0を計算することもできる。 あらかじめ適切なkの値を入力し、DSC値から補正すべき温度値を計算で求めながら出力温度を補正し記録していく仕組も可能である。容器と試料へ流入する熱流と、試料−熱電対接点間の熱抵抗により、ニュートンの冷却則に従って発生する温度差を補正する方法は、出力温度に、DSC値あるいはhi値に熱抵抗値kを掛けた値を加えることにより補正するという方法になる。hi値を用いる場合は、あらかじめ、凝固する物質の代わりに参照物質をDSC測定し参照物質のベースラインを記録しておいて、凝固ピークのDSC曲線から差し引くことで求めることができる。このような方法であれば、後から作図を行わなくても、融解および凝固過程で試料の温度が一定になっている領域では、既に出力温度も水平に一定になっている。領域の特定は容易であり、その領域のなかで1点を読み取れば凝固点を簡単に求めることができる。 また、図7のような解析的方法では、冷却時の降温速度が一定でなく凝固過程で降温速度が変化したとしても適用できる利点がある。冷却機を用いない自然冷却のように、温度が低下するに従い降温速度も次第に小さくなっていく場合は、過冷却液体状態から凝固が開始すると、DSC曲線に、凝固温度以下で試料が昇温しながら凝固する過程の領域が現れ、続いて凝固過程で試料の温度が一定になっていてDSC曲線が一定の傾きを示す領域が現れる。ここで降温速度が次第に小さくなっていくと、降温速度が一定の場合に比較して試料の発熱量が小さくなり発熱凝固ピークの高さは小さくなる。DSC曲線は一定の傾きではなく、次第に傾きが小さくなっていく形状になる。凝固の総発熱量は変化しないので、試料の温度が一定の領域は時間が延びて高さが低くなり、グラフのピーク面積は変化しない形になる。もし、降温速度が変化するときにベースラインも変化するのであれば、あらかじめ同一の温度変化を、凝固する物質の代わりに参照物質に与えてベースラインを記録しておき、DSC曲線から差し引いておけばよい。このように、降温速度が一定ではなく変化があって凝固ピークの形状が変化する場合でも、図7のような解析的方法では各(Ti,hi)は同じ計算式に従うので、凝固点を正確に求めることが可能である。 もちろん、逆に降温速度が次第に大きくなっていく場合や周期的な変化が有っても同様に同じ計算式に従い、凝固点を正確に求めることが可能である。 図8は、昇降温速度が、+20、+10、+5、−5、−10、−20(+は昇温を、−は降温を示す。)[℃/min]の時の各補外凝固開始温度読み取り結果T[℃]をグラフに表示したものである。昇降温速度に対して補外凝固開始温度は、ほぼ直線の関係にあることが分かる。最小自乗法により、傾きは1℃/minあたり0.00557℃、切片は156.52℃と計算できた。 インジウムの値付けられた凝固点が156.60℃であるとすれば、前記の出力温度の誤差2種類の大きさを見積もることができる。前者は熱電対と検出系の誤差であるから、昇降温速度をゼロに内挿して後者の誤差をゼロにした時の温度つまり切片と、値付けられた凝固点との差であるから、156.52−156.60=−0.08℃と見積もることができる。また、後者は容器と試料へ流入する熱流と試料−熱電対接点間の熱抵抗により発生する温度差であるから、熱流が昇降温速度に比例することから、発生する温度差も昇降温速度に比例するので、先に求めた傾きとなり1℃/minあたり0.00557℃と見積もることができた。これらの結果から、各昇降温速度における温度較正を行うことができる。 以上、インジウムの測定結果を例に説明を行ない、過冷却液体から凝固する過程の発熱ピークより凝固点を求める方法が可能であることを示し、また値付けられた凝固点を持つ試料を測定すれば、その結果から温度較正が可能であることが分かった。 インジウム以外でも、鉛において同様に凝固点を求めることが可能であった。鉛の凝固点は327.6℃なので、インジウムと鉛で2点による温度較正も可能である。凝固点232.0℃のスズは、過冷却の大きさが50℃程度と大きいので、領域103の途中で完全に凝固が終了してしまったので、領域104は現れず、凝固点を求めることは不可能であった。ただし、過冷却の大きさを低減する方法があれば、本発明の方法を適用することは可能である。その他の過冷却を示す試料でも、本発明の方法を適用し凝固点を求めることができる。 このように、示差走査熱量測定での凝固点の測定は、直接に試料に熱電対を挿入できないため熱流による計測誤差が発生し、また試料量が少ないため安定した凝固過程を実現し計測することは難しいと思われていたため、従来は発見されず、実施されていなかったと考えられる。示差走査熱量測定装置例のセンサー部断面図インジウムの融解、凝固のDSC曲線インジウムの融解のDSC曲線インジウムの凝固のDSC曲線(1)インジウムの凝固のDSC曲線(2)インジウムの凝固のDSC曲線(3)インジウムの凝固のDSC曲線(4)インジウムの凝固点測定結果と昇降温速度の関係符号の説明 1 試料容器 2 参照物質容器 3 コンスタンタン製伝熱板 4 銀製上側保持板 5 銀製下側保持板 6 熱緩衝板 7 銀製ヒートシンク 8 銀製蓋 9 ヒーター 10 試料側クロメル板 11 参照側クロメル板 12、14、15、17 クロメル線 13、18 アルメル線 16 二芯絶縁管 101 液体状態の領域 102 過冷却液体状態の領域 103 凝固温度以下で試料が昇温しながら凝固する過程 104 凝固温度で温度一定で凝固する過程 105 固体状態の領域 111 補外凝固開始温度 112 過冷却液体の補外凝固開始温度 過冷却を示す試料を温度を下げて冷却して示差走査熱量測定し、 前記測定で得られたDSC曲線または出力温度曲線において、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲を特定し、前記特定した時間範囲または出力温度範囲のDSC曲線または出力温度曲線を用いて試料の凝固点を求める凝固点測定方法。 前記DSC曲線において、試料の温度が一定速度で低下する冷却測定であって、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱ピーク部分のうち、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲にある部分の外挿接線と、過冷却状態を含む液体状態である範囲のベースラインまたはベースラインの外挿接線との交点の出力温度を読み取り、この交点の温度を試料の凝固点とする、請求項1記載の凝固点測定方法。 前記出力温度曲線において、試料の温度が一定速度で低下する冷却測定であって、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱領域のうち、試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲の外挿接線と、過冷却状態を含む液体状態である範囲の出力温度直線または出力温度直線の外挿接線との交点の出力温度を読み取り、この交点の温度を試料の凝固点とする、請求項1記載の凝固点測定方法。 前記DSC曲線において、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱ピーク部分のうち、前記試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲にある部分の、ある時点の温度およびDSC値とで作成された第一のデータ組と、異なる時点の温度およびDSC値とで作成された第二のデータ組とを作成し、前記データ組同士の相関関係を計算することにより前記試料の凝固点を求める請求項1記載の凝固点測定方法。 前記DSC曲線および出力温度曲線において、試料が過冷却液体から凝固する過程の発熱ピーク部分のうち、前記試料が凝固温度で一定温度の状態を示す時間範囲または出力温度範囲にある部分の、ある時点の温度およびDSC値を求め、またあらかじめ試料と出力温度計測点間の熱抵抗値を得ておき、前記DSC値と前記熱抵抗値を掛算して得た積を前記ある時点の温度に加算することにより前記試料の凝固点を求める請求項1記載の凝固点測定方法。 凝固点が値付けされている試料を、請求項1記載の凝固点測定方法を用いて試料の凝固点を求め、この求めた凝固点と前記試料の値付けされている凝固点との温度差を計算し、該温度差から補正値を求め、前記値付けられた凝固点を示すように示差走査熱量測定装置の熱電対の出力温度を較正する温度較正方法。 【課題】 過冷却を示す試料であっても、示差走査熱量測定結果から正確な凝固点を求めるDSC曲線、出力温度曲線の解析方法、および示差走査熱量測定装置の冷却時の温度較正方法を提供することを課題とする。【解決手段】 冷却過程の示差走査熱量測定結果から試料が潜熱により凝固温度で一定温度の状態を示す範囲を特定することが可能であることを発見し、この範囲のデータから試料の凝固点を求める方法を示した。たとえば、DSC曲線、出力温度曲線からの外挿接線と、過冷却状態を含む液体状態である範囲のベースラインまたは延長線との交点の出力温度を読み取り、この交点の温度を試料の凝固点とするDSC曲線、出力温度曲線の解析方法を発見し採用した。【選択図】 図4