タイトル: | 特許公報(B2)_変異型セリンアセチルトランスフェラーゼ及びL−システインの製造法 |
出願番号: | 2005511865 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 9/10,C12N 15/09,C12P 13/12,C12N 1/21 |
柏木 立己 開 裕子 石川 弘紀 鈴木 榮一郎 高木 博史 ジヤディノフ ミハイル ハリソヴィッチ レティキナ エカチェリナ イゴレヴナ グシャチネル ミハイル マルコヴィッチ JP 4923573 特許公報(B2) 20120217 2005511865 20040716 変異型セリンアセチルトランスフェラーゼ及びL−システインの製造法 味の素株式会社 000000066 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 柏木 立己 開 裕子 石川 弘紀 鈴木 榮一郎 高木 博史 ジヤディノフ ミハイル ハリソヴィッチ レティキナ エカチェリナ イゴレヴナ グシャチネル ミハイル マルコヴィッチ RU 2003121601 20030716 RU 2003135291 20031205 20120425 C12N 9/10 20060101AFI20120405BHJP C12N 15/09 20060101ALI20120405BHJP C12P 13/12 20060101ALI20120405BHJP C12N 1/21 20060101ALI20120405BHJP JPC12N9/10C12N15/00 AC12P13/12 BC12N1/21 C12N 15/09 特開平11−299491(JP,A) 特開平11−155571(JP,A) 特表2000−504926(JP,A) J. Gen. Microbiol.,1987年,Vol.133 (Pt 3),p.515-25 FEBS Lett. ,1999年,Vol.452, No.3,p.323-7 Appl. Environ. Microbiol.,1998年,Vol.64, No.5,p.1607-11 Biosci. Biotechnol. Biochem.,1999年,Vol.63, No.1,p.168-79 5 JP2004010216 20040716 WO2005007841 20050127 18 20070626 松田 芳子 本発明は、微生物産業、詳しくはアミノ酸の製造法に関し、より詳しくは、本発明は、システイン生合成に関与する新規なフィードバック耐性酵素の使用に関する。より詳しくは、本発明は、新規なフィードバック耐性変異型セリンアセチルトランスフェラーゼ、その酵素を保持するエシェリヒア・コリ菌株、および同菌株株を用いた発酵によるL−システインの製造法に関する。 従来、L−アミノ酸は、自然界から得られた微生物株、またはL−アミノ酸生産能が向上するように改変されたそれらの変異株を利用する発酵法により、工業的に製造されてきた。 L−アミノ酸生産能を向上させる多くの技術(例えば、組換えDNAによる微生物の形質転換による)が開示されてきた(例えば、米国特許第4,278,765号を参照)。これらの技術は、アミノ酸生合成に関与する酵素の活性を増加させること、および/または、産生されたL−アミノ酸によるフィードバック阻害から標的酵素を脱感作させることによる(例えば、特開昭56−18596(1981)、WO95/16042、または米国特許第5,661,012号および第6,040,160号を参照)。 エシェリヒア・コリにおけるL−セリンからのL−システイン生合成は、cysE遺伝子によりコードされるセリンアセチルトランスフェラーゼ、ならびにcysKおよびcysM遺伝子によりコードされる、−Aおよび−Bで表されるO−アセチルセリン(チオール)−リアーゼアイソザイムにより行われる。セリンアセチルトランスフェラーゼ(「SAT」とも呼ばれる;EC2.3.1.30)は、アセチル−CoAとL−セリンからのO−アセチル−L−セリン形成を触媒し、L−システインによるフィードバック阻害を介してシステインの生合成において調節的役割を果たす(エシェリヒア・コリおよびサルモネラ(Escherichia coli and Salmonella)、第二版、編集長:F.C.Neidhardt,ASM Press,Washington D.C.,1996)。 L−システインに対してフィードバック感受性がないエシェリヒア・コリのSAT変異体、次いで野生型SATが、Denk D.およびBock A.により単離された(J.Gen.Microbiol.,1987,133(Pt3),515−25)。変異型cysE遺伝子は、767位での1塩基変化しており、それによってメチオニン256からイソロイシン置換していた。この変異体はL−システインを排出する。 cysE遺伝子によりコードされるエシェリヒア・コリSATにおける本来のMet−256を他の19個のアミノ酸残基で置換すること、又は終止コドンを導入して256〜273のC末端領域を切断することにより、ほとんどの場合、フィードバック耐性(fbr)表現型となる。しかし、変異型SATタンパク質は野生型SATの活性レベルを維持しない(Nakamori S.et al,Appl.Environ.Microbiol.,1998,64,5,1607−1611、WO97/15673)。これらの改変cysE遺伝子を有するプラスミドを保持する株は、200mg/Lに至るシステイン(シスチンを含む)を産生した。 エシェリヒア・コリからの多数のフィードバック非感受性変異型SATが、PCRランダム変異法により得られた。SATのアミノ酸配列にわたって突然変異が同定されたが、全ての変異型SATは、顕著に減少した比活性レベルを示した(Takagi,H.et al,FEBS Lett.,1999,452,323−327)。 L−システインによるフィードバック阻害におけるSATのC末端領域の基本的役割はまた、Mino K.et al(Biosci.Biotechnol.Biochem.1999,63,1,168−179)により示された。切詰めたSAT、すわなち、野生型SATをSer253とMet254との間で切断し、その結果C末端から20個のアミノ酸残基を欠失したものは、フィードバック阻害に対して野生型SATよりもさらに感受性が低下していた。 抑制されたL−システイン分解系、例えば、より低活性のシステインデスルフヒドラーゼ、および、L−システインによるフィードバック阻害が減少したSAT、例えば、野生型SATの256番目のメチオニン残基が他のアミノ酸残基で置換された変異型SATの保持、の両方により特徴付けられるエシェリヒア属細菌株が、L−システインを産生し得ることもまた報告されている(特開平11−155571)。 アミノ酸97〜100、164〜169、237、239〜240、245〜259、および267〜269の配列領域に変異を有するか、又は、アミノ酸237〜240、245〜259、および267〜269のC末端配列領域に欠失を有する組換えセリンアセチルトランスフェラーゼは、野生型酵素に比べてL−システインに対する感受性が減少し、これは米国特許第6,218,168号に開示されている。721位でのAからGへの置換(結果としてThrl67からAlal67に変化する)および988〜990位でのATGからTAGへの置換(結果としてMet256の代わりに終止コドンが形成する)の両方を有する、二重変異型cysEXIV対立遺伝子によりコードされるSATは、システインに対する良好な耐性を示し(Ki>1000μM)、比較的高い活性(0.453μM/分×mg)を有していた。cysEXIV対立遺伝子で形質転換されたJM15株は、48時間のフィードーバッチ発酵プロセスの後、2.3g/LのL−システインを産生した。しかし、L−システインの最高収率(3.9g/L)は、C末端領域で18個のアミノ酸が切り詰められたcysEDel_255変異型対立遺伝子を使用して得られた。 通常、酵素のfbr表現型は、タンパク質配列中、1又はそれ以上のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換した結果として生じ、そしてこれらの置換により酵素の活性低下が導かれる。 したがって、上記で記載される方法により得られる変異型酵素の不利な点は、変異型酵素が野生型酵素と比較して活性が減少することである。本技術分野において、fbr表現型で変異型酵素の活性を維持することが必要なことは明らかである。 本発明の目的は、野生型セリンアセチルトランスフェラーゼの89〜96位のアミノ酸配列中に1又は複数の変異を含み、L−システインによるフィードバック阻害が脱感作されている、変異型セリンアセチルトランスフェラーゼを提供することにある。 本発明のさらなる目的は、野生型セリンアセチルトランスフェラーゼの89〜96位に相当する前記アミノ酸配列が、配列番号4、5、6、7、8及び9から選ばれるアミノ酸配列で置換された、前記変異型セリンアセチルトランスフェラーゼを提供することである。 本発明のさらなる目的は、野生型セリンアセチルトランスフェラーゼはエシェリヒア・コリ由来である、前記変異型セリンアセチルトランスフェラーゼを提供することである。 本発明のさらなる目的は、51位でのAsnからLys、91位でのArgからHis、および233位でのHisからTyrの置換を有する三重変異を除き、89〜96位以外の位置の1又は複数の箇所で、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入、又は付加を含む、前記変異型セリンアセチルトランスフェラーゼを提供することである。 本発明のさらなる目的は、前記の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードするDNAを提供することである。 本発明のさらなる目的は、前記DNAで形質転換され、かつL−システイン生産能を有する、エシェリヒア属細菌を提供することである。 本発明のさらなる目的は、前記細菌を培地に培養し、同培地にL−システインを蓄積させ、同培地からL−システインを回収する、L−システインの製造法を提供することである。 上記したようなfbr突然変異のいずれかを有するSATは「変異型SAT」と、変異型SATをコードするDNAは「変異型cysE遺伝子」と、変異を有さないSATは「野生型SAT」とも称することがある。 配列番号18および19のプライマーの構築を示す。SATのオリゴマー構造を示す(写真)。Aは側面図。Bは上面図。SATサブユニットの三次元構造を示す(写真)。変異型cysE遺伝子プール構築のためのスキームを示す。変異型SATの触媒特性を示す。 本発明は、エシェリヒア・コリによるシステイン生合成において重要な役割を担う酵素であって、フィードバック耐性を有し、かつ高活性な酵素に関する。本発明はまた、cysE遺伝子フラグメントの全無作為化を使用して、変異型cysE遺伝子の巨大セットを合成する方法に関する。 酵素の三次元構造を正確に評価することにより、fbr突然変異が存在し得るタンパク質フラグメントにおける複数のアミノ酸残基の同時置換によって、天然型に近い活性レベルを持つ変異型タンパク質を構築することができる。 以下、本発明をより詳細に説明する。 <1>変異型SATおよび変異型cysE遺伝子 本発明により得られたSATの三次元構造のデータに従って、L−システインとの相互作用に必須であり、かつ、SATのL−システインに対する感受性に関与するSATの新規領域が明らかになった(実施例1参照)。 本発明の変異型SATおよび変異型cysE遺伝子は、無作為化フラグメントによる突然変異誘発(randomized fragment−directed mutagenesis)により得られた。cysE遺伝子の多数の変異は、cysE遺伝子の24−ヌクレオチドフラグメント、すなわちSATタンパク質における89位のアルギニンから96位のアスパラギンまでの領域をコードするフラグメントの無作為化により得られた。2個の隣り合うアミノ酸残基が同時に無作為化されたので、タンパク質の89〜96領域の全体は、連続する4回の実験で無作為化された。 続いて、発現ベクター中にクローニングされた変異型cysE遺伝子を保持する組換えクローンの選択およびスクリーニングによって、抑制されていない野生型(wt)SATの生物活性レベル及びそれに至る種々の活性レベルを持つ変異型SATのfbr変異体を選択することができる。野生型SATには、エシェリヒア・コリのSAT(EC番号2.3.1.30)が含まれる(配列番号2)。 fbr表現型を持つ変異型SATのアミノ酸配列は、本発明に含まれる。変異型SATは、通常の方法によって野生型cysE遺伝子に変異を導入することにより取得し得る。野生型cysE遺伝子は、例えば、同遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて調製されたプライマーを利用するPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション、White,T.J.et al.,Trends Genet.,5,185(1989)を参照)により取得することができる。野生型cysE遺伝子には、エシェリヒア・コリのcysE遺伝子が含まれる(GenBankアクセション番号NC_000913.1;gi:16127994の配列中ヌクレオチド番号3779368〜3780189)。他の微生物のSATをコードする遺伝子も同様にして取得し得る。野生型cysE遺伝子への変異の導入は、例えば、部位特異的変異法によって行うことができる。 本発明の変異型SAT中の89〜96位のアミノ酸配列は、1又は複数の突然変異を含む。好ましくは、本発明の変異型SAT中の89〜96位のアミノ酸配列は、配列番号4〜9の配列のいずれか1つである。本発明の変異型SAT(Val−95およびAsp−96がArg−95およびPro−96、Gly−95およびGly−96、又はLeu−95およびPro−96で置換されるか、Ala−94がThr−94で置換されるか、Arg−89がPro−89で置換されるか、Arg−89およびThr−90がSer−89およびLeu−9Oで置換されている)、およびエシェリヒア・コリの野生型SATの対応するアミノ酸配列を表1に示す。また、これらのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の例も表1に示す。 変異型SATは、SAT活性が損われない限り、89番目〜96番目以外の位置の1箇所又は複数箇所で1又は複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入、又は付加を含んでもよい。用語「SAT活性」は、アセチル基をアセチル−CoAからL−セリンに転移させる反応を触媒する活性を意味する。SAT活性は、例えば、Kredich,N.M.and Tomkins,G.M.(J.Biol.Chem.1966,241,21,4955−4965)に記載される方法により測定され得る。51位でのAsnからLys、91位でのArgからHisおよび233位でのHisからTyrへの置換を有する三重変異は、先にTakagi,H.et al(FEBS Lett.,1999,452,323−327)により記載されており、本発明から除かれる。 「複数」のアミノ酸の数はタンパク質の三次元構造中のアミノ酸残基の位置又はアミノ酸残基の種類によって異なる。これは以下の理由による。すなわち、複数のアミノ酸は互いに高い相同性を有し、そのようなアミノ酸における差異はタンパク質の三次元構造に大きくは影響しないからである。したがって、本発明の変異型SATは、SATを構成する全アミノ酸残基に対して30〜50%以上、好ましくは50〜70%以上、より好ましくは70〜90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有し、かつfbr SAT活性を有するものであり得る。あるいは、ここでいう「複数」のアミノ酸の数は、具体的には2〜20、好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜15である。 本発明において、「89〜96位の配列に相当するアミノ酸配列」は、エシェリヒア・コリ野生型SATのアミノ酸配列中の89〜96位のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を意味する。アミノ酸残基の位置は変わり得る。例えば、1個のアミノ酸残基がN末端部分に挿入される場合、本来的に89位に位置するアミノ酸残基は90位になる。本発明においては、そのような場合、90位のアミノ酸残基は、本来の89位に相当するアミノ酸残基として表される。 上記のようなSATの改変は、SAT活性が維持されるような保存的変異である。置換は、アミノ酸配列中の少なくとも1残基が除去され、そこに他の残基が挿入される変化である。SATタンパク質の元々のアミノ酸を置換し、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸としては、Alaからser又はthrへの置換、argからgln、his又はlysへの置換、asnからglu、gln、lys、his又はaspへの置換、aspからasn、glu又はglnへの置換、cysからser又はalaへの置換、glnからasn、glu、lys、his、asp又はargへの置換、gluからasn、gln、lys又はaspへの置換、glyからproへの置換、hisからasn、lys、gln、arg又はtyrへの置換、ileからleu、met、val又はpheへの置換、leuからile、met、val又はpheへの置換、lysからasn、glu、gln、his又はargへの置換、metからile、leu、val又はpheへの置換、pheからtrp、tyr、met、ile又はleuへの置換、serからthr又はalaへの置換、thrからser又はalaへの置換、trpからphe又はtyrへの置換、tyrからhis、phe又はtrpへの置換、及び、valからmet、ile又はleuへの置換が挙げられる。 上記に記載されるように変異型SATと実質的に同じタンパク質をコードするDNAは、例えば、1又は複数のアミノ酸残基が特定部位で欠失、置換、挿入、又は付加されるように、例えば部位特異的変異法を用いてヌクレオチド配列を修飾することにより、得ることができる。上記のようにして改変されるDNAは、通常知られている突然変異処理により得ることができる。そのような突然変異処理には、変異型cysE遺伝子を含むDNAを、インビトロで、例えばヒドロキシルアミンで処理すること、および微生物、例えば、変異型cysE遺伝子を保持するエシェリヒア属細菌を、UV照射により、又はそのような処理に通常使用される、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸のような突然変異剤で処理する方法が含まれる。 上記のような、ヌクレオチドの置換、欠失、挿入、又は付加には、天然に生じる変異(ミュータントあるいはバリアント)、例えば、ランダム変異、SATを保持する細菌の個体差又は種もしくは属での差異が含まれる。 変異型SATと実質的に同じタンパク質をコードするDNAは、ストリンジェントな条件下で、プローブとしての既知のcysE遺伝子配列(配列番号1)又はその一部とハイブリダイズし、かつSAT活性を有するタンパク質をコードするDNAを、変異型SATを保持する細胞から単離することにより、得ることができる。 用語「ストリンジェントな条件」には、いわゆる特異的ハイブリッドが形成され、かつ非特異的ハイブリッドが形成されないような条件が含まれる。この条件を数値を用いて表現することは困難であるが、例えば、ストリンジェントな条件には、高い相同性を有するDNA、例えば互いに50%以上の相同性を有するDNAはハイブリダイズし、かつ互いに上記より低い相同性を有するDNAはハイブリダイズしない条件が含まれる。あるいは、ストリンジェントな条件は、サザンンハイブリダイゼーションでの通常の洗浄の条件、すなわち、60℃で、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でDNA同士が互いにハイブリダイズする条件が含まれる。 上記のような条件下でハイブリダイズする遺伝子には、遺伝子のコード領域内に生じた終止コドンを有する遺伝子、および活性中心の突然変異により活性を有さないものが含まれる。しかしながら、そのような不都合は、遺伝子を市販の発現ベクターと連結し、発現したタンパク質のSAT活性を調べることにより、容易に除くことができる。 <2>本発明のエシェリヒア属細菌。 本発明の細菌は、上記のような変異型cysE遺伝子が導入された、エシェリヒア属に属する細菌である。用語「エシェリヒア属細菌」は、微生物学の当業者に既知の分類に従ってエシェリヒア属として分類される細菌を意味する。エシェリヒア属に属する細菌の例として、エシェリヒア・コリ(E.coli)が挙げられる。 「L−システイン生産能を有する細菌」は、本発明の細菌を培地で培養したときに、培地中にL−システインを蓄積する能力を有する細菌を意味する。L−システイン生産能は、育種により付与又は増強されてもよい。本明細書中で使用される用語「L−システイン生産能を有する細菌」はまた、野生株又は親株よりも大量に培地中にL−システインを生成および蓄積し得る細菌を意味する。野生型エシェリヒア・コリ菌株の例には、エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC47076,ATCC700926、VKPM B−6195)、K−12株などが例示され得る。MG1655株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection、住所 10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110,United States of America)から入手することができる。 変異型cysE遺伝子は、例えば、エシェリヒア属細菌を、エシェリヒア属細菌で機能するベクターおよび変異型cysE遺伝子を含む組換えDNAで形質転換することにより、導入され得る。変異型cysE遺伝子は、染色体上でcysE遺伝子を変異型cysE遺伝子で置換することによっても、導入することができる。 変異型cysE遺伝子の導入に使用するベクターには、pBR322、pMW118、pUC19のようなプラスミドベクター、l1059、lBF101、M13mp9のようなファージベクター、およびMu、Tn10、Tn5のようなトランスポゾンなどが含まれる。 エシェリヒア属細菌へのDNAの導入は、例えば、D.A.Morrisonの方法(Methods in Enzymology,68,326(1979))又はDNAの透過性を増加させるためにレシピエント細菌細胞を塩化カルシウムで処理する方法(Mandel,M.,and Higa,A.,J.Mol.Biol.,53,159,(1970))などにより行われ得る。 上記のように、変異型cysE遺伝子をエシェリヒア属に属するL−システイン生産菌に導入することにより、L−システインの生産量を増加することができる。また、L−システイン生産能は、変異型cysE遺伝子が既に導入されている細菌に付与してもよい。 L−システイン生産能を有するエシェリヒア属細菌には、フィードバック耐性セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする異なるcysE対立遺伝子で形質転換されたエシェリヒア・コリJM15株(米国特許第6,218,168号)、細胞にとって毒性の物質を排出するのに好適なタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するエシェリヒア・コリW3110株(米国特許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下したエシェリヒア・コリ菌株(特開平11−155571A2)、及び、cysB遺伝子によりコードされるシステインレギュロンに対するポジティブな転写調節因子の活性が上昇したエシェリヒア・コリW3110株(WO0127307A1)などが含まれる。 <3>本発明の方法 本発明の方法は、本発明の細菌を培地に培養してL−システインを生成させ、培地に蓄積したL−システインを培地から回収する、L−システインの製造法を含む。 本発明において、培養、培地からのL−システインの回収および精製等は、従来の微生物を用いたアミノ酸の発酵生産法によって行ってもよい。 本発明においては、培養、培地からのL−システインの回収および精製は、微生物を用いてアミノ酸を製造する従来の発酵法と同様にして行うことができる。 本発明に使用される培地は、培地が、炭素源および窒素源およびミネラル類、及び必要に応じて微生物が生育に必要とする適当量の栄養を含む限り、合成培地であっても天然培地であってもよい。 炭素源には、グルコースおよびスクロースのような種々の炭水化物、および種々の有機酸が含まれる。使用する微生物の同化の様式によっては、エタノールおよびグリセロール等のアルコールを使用してもよい。 窒素源としては、アンモニアおよび硫酸アンモニウムのような種々のアンモニウム塩、アミンのような他の窒素化合物、ペプトン、大豆加水分解物、および発酵微生物の消化物のような天然の窒素源が使用され得る。硫黄源としては、硫酸塩およびチオ硫酸塩が使用され得る。 ミネラル類としては、リン酸2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、第一鉄塩、マンガン塩などが使用され得る。 必要に応じて、さらなる栄養が培地に添加され得る。例えば、微生物が生育にメチオニンを必要とする場合(メチオニン栄養要求性)、培養のため十分量のメチオニンが培地に添加され得る。 培養は、好ましくは、振盪培養、通気を伴う撹拌培養のような好気的条件下、20℃〜42℃、好ましくは37℃〜40℃の温度で行われる。培養のpHは、通常5〜9の間であり、好ましくは6.5〜7.2の間である。培養のpHは、アンモニア、炭酸カルシウム、種々の酸、種々の塩基、および緩衝液で調節され得る。通常、1日〜5日間の培養で、培地に目的のL−アミノ酸が蓄積する。 培養後、細胞のような固体は、遠心分離または膜濾過により培養液から除去することができ、次いで目的のL−アミノ酸がイオン交換、濃縮、および結晶法により回収および精製され得る。 本発明を、以下の非限定的な実施例を参照して具体的に説明する。 〔実施例1〕SATの三次元構造 SATの三次元構造を、以下のようにして決定した。 <1>セレノメチオニルSATの製造および精製 エシェリヒア・コリで組換えSATを製造するために、ベクターpQE*(Qiagen)を使用して、SATをコードするcysE遺伝子の発現プラスミドを構築した。前記ベクターは、エシェリヒア・コリ発現ベクターpQE30を改変することにより作製された。 鋳型としてpQE30を用い、オリゴヌクレオチドプライマー(配列番号17および18)を用いてPCRを行った。これらのプライマーは、ベクターpQE30のヌクレオチド配列(www.qiagen.com)に基づいて構築した。プライマー配列番号18は、Sphl認識部位および図1に示すミスマッチを含む。150bpの単一の増幅バンドを制限酵素XholおよびSphlで消化して80bpのフラグメントを回収した。このフラグメントは、予め同じ制限酵素で消化したpQE30の大フラグメントに連結した。得られるプラスミドpQE*は、6個の連続Hisアミノ酸残基をコードする配列の代わりに開始コドンの位置にSphl切断部位と、BamHI部位を含む。 cysE遺伝子のDNAフラグメントを、エシェリヒア・コリDH5αのゲノムDNA、およびcysE遺伝子のヌクレオチド配列(GenBank アクセション番号M15745)に基づいて構築したオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号19および20)を用いたPCRにより調製した。プライマー配列番号19は、SphI認識部位および図1に示すミスマッチを含む。プライマー配列番号20は、5’−末端にHindIII認識部位を含む。840bpの単一の増幅バンドを制限酵素SphIおよびHindIIIで消化し、次いで予め同じ制限酵素で消化したpQE*の大フラグメントに連結して、プラスミドpQE−SATを構築した。結果として、組換えSAT中の2位でTCGトリプレットによりコードされる本来のセリン残基は、CCGトリプレットによりコードされるプロリンで置換された。 SAT発現プラスミドpQE−SATを保持するエシェリヒア・コリB834/DE3細胞(Novagen Co.,USA)を、アンピシリン(5μg/ml)を加えたLB培地[20g/Lのバクトトリプトン、10g/Lのバクトイーストエキストラクト、20g/LのNaCl]で、37℃で一晩培養した。続いて、この種培養を、セレノメチオニン(40μg/ml)およびアンピシリン(50μg/ml)を加えたM9培地[15.1g/LのNa2HPO4・12H2O、3g/LのKH2PO4、0.5g/LのNaCl、1g/LのNH4Cl、4g/Lのグルコース、2mlの1MのMgSO4、1mlの1MのCaCl2、1mlのFeCl3(3.5mg/ml)、2.4mlのチアミン(1mg/ml)]に移した。37℃で培養を続けた。560nmでの光学密度が0.6に到達したところで、セレノメチオニルSAT発現の誘導のために、1mMのイソプロピル−1−β−D−ガラクト−ピラノシドを加えた。培養した細胞を、遠心分離で集めた。 細胞ペレットを、50mMのTris−HCl(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩)、2mMの(±)−ジチオトレイトール、5mMのEDTA−Na2(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物)の溶液に懸濁させ、超音波処理して破砕した。上清を60℃で10分間インキュベートした後、氷上で10分間冷却した。沈殿物を遠心分離で除去した。可溶性セレノメチオニルSAT溶液を硫酸アンモニウム沈殿で精製し、50mMのTris−HCl(pH7.5)、2mMの(±)−ジチオトレイトール、および5mMのEDTA−Na2の溶液で透析した。次いで、これを、50mMのTris−HCl(pH7.5)、2mMの(±)−ジチオトレイトール、および5mMのEDTA−Na2で平衡化した陰イオン交換カラム(ResourceQ 6ml,Amersham Pharmacia Biotech、東京、日本)に供した。1カラム体積の同じ緩衝液でカラムを洗浄した後、6ml/分の流速で、10カラム体積以上の0〜1Mの塩化ナトリウム直線勾配を用いて、セレノメチオニルSATを溶出させた。溶出した画分を集めた。この溶液を、硫酸アンモニウムを加えた後、0.75Mの硫酸アンモニウム、50mMのTris−HCl(pH7.5)、2mMの(±)−ジチオトレイトール、および5mMのEDTA−Na2で平衡化した疎水性相互作用クロマトグラフィーカラム(HiPrep 16/10 Butyl、Amersham Pharmacia Biotech、東京、日本)に供した。1カラム体積の同じ緩衝液でカラムを洗浄した後、5ml/分の流速で、10カラム体積以上の0.75〜0Mの硫酸アンモニウム直線勾配を用いて、セレノメチオニルSATを溶出させた。緩衝液交換のため、プールした画分を、50mMのTris−HCl(pH7.5)、2mMの(±)−ジチオトレイトール、5mMのEDTA−Na2の溶液を用いて透析した。 <2>結晶化 セレノメチオニルSATの結晶化を行った。約5日間のうちにX線回折に十分な大きさ(0.2×0.2×0.2mm)に成長した立方晶系結晶が得られた。 <3>データ収集および処理 高エネルギー物理学研究所(筑波、日本)の放射光実験施設でビームライン6Bに設置された、Quantam4RCCD検出器(ADSC)を使用して、セレノメチオニルSAT結晶の多波長異常分散(MAD)データを収集した。X線回折データの収集前に、X線蛍光スペクトルを記録して、MADデータ収集に最適な波長を選択するのに使用した。X線蛍光スペクトル測定およびデータ収集の間、セレノメチオニルSAT結晶を、35v/v%の2−メチル−2,4−ペンタンジオール、0.1Mの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸−NaOH(pH6.2)、および1mMのL−システインを含む低温溶媒(cryo−solvent)に対する平衡化後、95Kでフラッシュ冷却した。データを、0.9791Å(蛍光スペクトルの変曲点、f’最小)、0.9789Å(f’最大)、0.9500Å(遠隔高エネルギー波長)、および1.0500Å(遠隔低エネルギー波長)で収集した。4つのデータセット全てを、220mmの結晶対検出器距離で、かつ1画像あたり1.0°の振幅を用いて、同一結晶から収集した。DPS/MOSFLMプログラム(Rossman,M.G.,and van Beek,C.G.(1999)Acta Crystallogr.Sect.D55,1631−1640)を使用して、回折データを処理した。セレノメチオニルSATの結晶は、2.7Åまでの分解能で回折した。これは空間群R3に属し、単位胞ベクトル(unit cell dimensions)a=101.2Å、c=223.2Åを持つ。結晶は、35.3%の溶媒含有量で、非対称単位あたり4個のセレノメチオニルSAT分子(分子A,B,C、およびD)を含む。 <4>MAD位相付け(MAD phasing)および位相改善 MADデータを、CCP4(Beiley,S.(1994)Acta Crystallogr.Sect.D50,760−763)プログラムSCALEITとともにスケーリングした。SOLVEプログラム(Terwilliger,T.C.,and Berendzen,J.(1996)Acta Crystallogr.Sect.D52,743−748)を使用して、非対称単位中で予想される36個のうち19個のSe部位を決定した。CCP4中のMLPHAREプログラムで初期MAD位相を計算した。最終的な性能指数値(figure of merit value)は0.541となった(40.0−2.7Å分解能)。 CCP4中のDMプログラムを使用してMAD位相を改善した。はじめに、40.0−2.7Å分解能データを使用して、30%の溶媒含量条件で溶媒領域平滑化(solvent flattening)手順を繰り返した。電子密度マップは、比較的明瞭なタンパク質−溶媒境界を示したものの、その質は劣っており、解釈するのが困難であった。電子密度マップの解釈およびモデル構築を、Octane graphicsワークステーション(Silicon Graphics Inc.)上でQUANTAプログラム(Accelrys Inc.)を使用して行った。 次の工程で、分子平均化手順により位相をさらに改善した。Se原子の位置を重ね合わせることにより、最初に非結晶学的対称(NCS)パラメーターを決定した。分子AとBおよび分子CとDは、それぞれ、非結晶学的2倍軸で相関していた。分子AとCおよび分子BとDは、それぞれ、c−軸にそって1/2平行移動の関係にあった。40.0−2.7Å分解能で行われた分子平均化手順の間にNCSパラメーターを細密化した。分子平均化手順は成功裡に終了し、組み合わせた位相の平均の熱伝導率と熱膨張係数の比(0.644)および相関係数(0.617、0.868)の値の改善を得た。マップが改善されて、多くの二次構造が示された。セレノメチオニルSATの三次元構造がこのマップ上に構築された。 <5>SATの三次元構造 図2は、SATのオリゴマー構造を示す。図1に示されるとおり、SATは32点対称の六量体構造を形成する。3つの非結晶学的2倍軸で相関する二量体が結晶学的3倍軸で相関している。 図3は、SATサブユニットの三次元構造を示す。SATサブユニットは、2つのドメインで形成される。N末端ドメインは、多くのα−ヘリックスを含む。SAT六量体中のN末端ドメインヘリックスは、互いに密接に相互作用して、六量体の安定化に重要な役割を果たしている。C末端ドメインの構造は、左巻き平行βヘリックスドメイン(LβH)である。LβH構造は、巨大なコイル状角柱にフォールディングしており、あたかも角柱の表面まわりに左巻き螺旋で巻き付けられているようである。LβH構造の面は、3つの平らで平行なβシートで形成されている。SAT六量体の構造中、隣り合うLβH構造ドメインの間に巨大な割れ目(cleft)があり、これは結晶学的3倍軸で相関している。フィードバック阻害の脱感作の原因である多数の残基(Takagi,H.et al.(1999)FEBS Lett.452,323−327)は、この割れ目に広く分布している。したがって、この割れ目は、フィードバック阻害の重要な領域であり得る。残基89〜96を含む領域もこの割れ目に存在するので、この領域を変異誘発に選択した。 〔実施例2〕無作為化された、残基89〜96を含む領域を有する変異型SATの取得<1>無作為化フラグメントによる変異誘発 はじめに、2つのプラスミド、pMW−PompCおよびpMW−PnlpDを得た。 ompC遺伝子のプロモーター領域を含む0.3kbのDNAフラグメントをプラスミドpMW118のPaeI−SalI部位中にクローニングすることにより、プラスミドpMW−PompCを得た。プライマーP4(配列番号21)およびP6(配列番号22)ならびにエシェリヒア・コリMG1655株の染色体DNAを鋳型として使用して、PCRによりompCプロモーターを含むDNAフラグメントを得た。ompCプロモーター領域は、プライマー4がハイブリダイズするための標的として使用した。ompCプロモーターは任意の配列に置換えることができる。但し、その配列にハイブリダイズするようにプライマーP4を設計する。 nlpD遺伝子のプロモーター領域を含む0.3kbのDNAフラグメントをプラスミドpMW118のPaeI−SalI部位中にクローニングすることにより、プラスミドpMW−PnlpDを得た。プライマーP5(配列番号23)およびP7(配列番号24)ならびにエシェリヒア・コリMG1655株の染色体DNAを鋳型として使用して、PCRによりnlpDプロモーターを含むDNAフラグメントを得た。nlpDプロモーター領域は、前記プライマーにハイブリダイズしない。nlpDプロモーターは、プライマーP4がハイブリダイズしない限り、任意の配列に置換えることができる。 次いで、プライマーP1(配列番号25)およびP2(配列番号26)ならびにエシェリヒア・コリMG1655株の染色体DNAを鋳型として使用して、PCRによりwt(野生型)cysE遺伝子全長を得た。得られたDNAフラグメント(0.83kb)をプラスミドpMW−PompCおよびpMW−PnlpDのSalI−Xbal部位中にクローニングして、それぞれプラスミドpMW−PompC−cysEおよびpMW−PnlpD−cysEを得た。 PCR増幅に使用したPyrobest(商標)DNAポリメラーゼは、宝酒造株式会社(日本)から入手した。供給者の推奨する条件下で使用した。 285位〜291位が無作為化された変異型cysE遺伝子のプールを構築するために、まず最初に、SATの1番目〜102番目のアミノ酸残基の配列をコードするcysE遺伝子のフラグメントをPCRで増幅した。鋳型としてプラスミドpMW−PompC−cysE、および無作為化された6個のヌクレオチドを含むプライマーP3(配列番号27)、およびompC遺伝子のプロモーター領域の配列と相同なプライマーP4(配列番号21)を使用して、PCRを行った(図1参照)。プライマーP3の、固定された19−ヌクレオチド3’末端配列はcysE遺伝子下流Asp−96コドンの配列と相同であり、固定された20−ヌクレオチド5’−末端はcysE遺伝子上流Val−95の配列と相同である。同じくプライマーP3は、配列番号27において「n」の文字で表される6個の無作為ヌクレオチドを含む。鋳型として20ngのプラスミドpMW−PompC−cysEを、2種のプライマーそれぞれ(10pmol)を含むPCR溶液(50μl)に加えた。25回のPCRサイクル(96℃で0.4分、60℃で0.4分、72℃で1分)を、モデル2400DNAサーマルサイクラー(Perkin−Elmer Co.,Foster City,California,USA)を用いて行った。25サイクルのPCRの間に、0.3kbのDNAフラグメントを得た。 第二工程では、先の工程で得られた0.3kbpのDNAフラグメントをアガロースゲル電気泳動で精製し、プライマーイクステンション法のための「プライマー」として使用し、10サイクルの増幅(96℃で1分、40℃で1分、72℃で0.5分)により、cysE遺伝子の全配列を得た。鋳型としてプラスミドpMW−PnlpD−cysEを使用して、PCRの第三工程で野生型cysE遺伝子が増幅されるのを防いだ。 第三工程では、10μl分取した反応混合物を、50pmolのompC遺伝子のプロモーター領域の配列と相同なプライマーP4(配列番号21)(図4参照)およびプライマーP2(配列番号26)を含む新鮮な反応混合物(40μl)に加え、さらに15サイクル(94℃で0.5分、57℃で0.5分、72℃で2分)を行った。 変異型cysE遺伝子のプールをコードする0.83kbpのDNAフラグメントを、アガロースゲル電気泳動で精製し、SalIおよびXbaIで消化し、次いで同じ制限酵素で消化されたpMW−PompCベクターに連結した。 得られた約100ngのプラスミドpMW−PompC−cysE(random)を、エシェリヒア・コリレシピエント細胞の形質転換に使用した。 <2>新規変異型cysE遺伝子の単離 さらなる実験のために、エシェリヒア・コリLE392cysE::KmR株をレシピエント株として使用した。この株は、エシェリヒア・コリLE392株(J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,1989)のcysE遺伝子を破壊することにより得られた。カナマイシン耐性遺伝子の導入によるcysE遺伝子の破壊は、Kushner,S.R.,H.Nagaishi,and A.J.Clark.(Proc.Natl Acad.Sci.USA,1972,69:1366−1370)により記載の方法により、JC7623株を使用して行った。 エシェリヒア・コリレシピエントLE392cysE::KmR株を、プールプラスミドpMW−PompC−cysE(random)で形質転換した。活性なSATをコードする変異型cysE遺伝子を、0.5%のグルコースおよび50mg/lのメチオニンを補充したM9寒天平板上で、エシェリヒア・コリLE392cysE::KmR株の染色体cysE変異の相補性により選択した。 得られた全てのクローンを、システイン栄養要求株に栄養を供給する能力について検査し、約15の変異体を選択した。これらのクローンからプラスミドを精製し、cysE遺伝子の構造部分のDNA配列を、ダイデオキシ・チェイン・ターミネーション法で決定した。SAT活性を決定するため、システイン栄養要求株であるLE392cysE::KmR株を、これらのプラスミドで再形質転換した。 767位に1つの塩基変化を有するとともに、メチオニン256がイソロイシンになった変異型cysE遺伝子(cysE256)(Denk D.and Bock A.,J.Gen Microbiol.,1987,133(Pt3),515−25)を、標準的な部位特異的変異法により得た。 〔実施例3〕SATの触媒性におけるアミノ酸置換の効果 変異型SATの触媒性を、Kredich,N.M.and Tomkins,G.M.(J.Biol.Chem.,1966,241,21,4955−965)により記載される方法を若干変更して、決定した。使用したアセチルコエンザイムAおよび他の試薬は、Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO,USA)製を用いた。 変異型SATの活性を決定するため、組換えプラスミドを保持するエシェリヒア・コリLE392cysE::KmRの細胞を、5mlのM9培地中で、後期指数増殖期まで増殖させ、0.14MのNaCl溶液で洗浄し、50mMのリン酸カリウムおよび100mMのKClの緩衝液(pH7.5)2mlに再懸濁させた。細胞を超音波処理し、ペレットを13000rpmでの遠心分離により分離した。得られた上清中のSATを含むタンパク質フラクションを、5倍体積の飽和(NH4)2SO4で沈殿させ、ペレットを50mMのリン酸カリウムおよび100mMのKClの緩衝液(pH7.5)2mlに溶解させた。得られた溶液を、0.1mlの反応混合物(500mMのTris−HCl(pH8.5)、5mMのL−セリン、0.1mMのアセチルコエンザイムA)に加え、37℃で10分間インキュベートした。0.3mlのエタノールを加えて反応を停止させ、続いて13000rpmで遠心分離した。上清に、0.95mlの0.24mM DTNB(5,5−ジチオ−ビス−2−ニトロ安息香酸)溶液を加え、この混合液を15分間インキュベートした。412nmでの吸収を測定してSAT活性をアッセイした。得られたデータを表2および図5に示す。 表2および図5に示されるデータからわかるように、得られたcysE遺伝子変異体、特にcysE5、cysE12、cysE15、およびcysE1は、L−システインによるフィードバック阻害に対する感受性を示さない変異型SATをコードしていた。これらのような、L−システインによるフィードバック阻害に対して完全に耐性な変異型SATは、L−システイン生産菌を使用するL−システインの製造に有用である。 〔実施例4〕L−システイン製造における変異型cysE遺伝子の発現向上の効果 L−システイン製造における変異型cysE遺伝子の発現向上の効果の評価のため、エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC47076,ATCC700926)を親株として使用した。 プラスミドpMW−PompC−cysEX(米国特許第6,218,168号に記載される、スレオニン167がアラニンで置換された変異型SATをコードする変異型cysEX遺伝子を含む)およびpMW−PompC−cysE5を、エシェリヒア・コリMG1655中株に導入した。得られたMG1655/pMW−PompC−cysEX株およびMG1655/pMW−PompC−cysE5株を、100mg/Lのアンピシリンを添加した2mlの栄養ブロス中、34℃で振盪しながら一晩培養した。得られた0.2mlの培養物を、20×200mmの試験管中、アンピシリン(100mg/L)を含む2mlの発酵培地に接種し、250rpmでロータリーシェーカーを用いて、34℃で42時間培養した。発酵培地の組成は以下のとおりであった。15.0g/Lの(NH4)2SO4、1.5g/LのKH2P04、1.0g/LのMgSO4、20.0g/LのCaCO3、0.1mg/Lのチアミン、1%のLB、4%のグルコース、300mg/LのL−メチオニン、および0.5g/LのNa2S2O3。 培養後、培地に蓄積したL−システインの量を、Gaitonde,M.K.(Biochem.J.,104:2,627−33(1967))に記載の方法で決定した。得られたデータを表3に示す。 表3からわかるように、エシェリヒア・コリMG1655株で過剰発現された、得られた変異型cysE5遺伝子は、同株によるシステイン生産能を改善した。 本発明により、L−システインによるフィードバック阻害が解除されたセリンアセチルトランスフェラーゼが提供される。また、本発明により、エシェリヒア属細菌のL−システイン生産能を向上させることができる。 配列番号2の89〜96位に相当するアミノ酸配列が、配列番号4、5、6及び7から選ばれるアミノ酸配列で置換され、かつ、L−システインによるフィードバック阻害が脱感作されている、変異型セリンアセチルトランスフェラーゼ。 51位でのAsnからLysへの置換、91位でのArgからHisへの置換、および233位でのHisからTyrへの置換を有する三重変異を除き、配列番号2の89〜96位以外の位置の1〜10の箇所で、1〜10のアミノ酸の欠失、置換、挿入、又は付加を含む、請求項1に記載の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼ。 請求項1または2に記載の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードするDNA。 請求項3に記載のDNAで形質転換され、かつL−システイン生産能を有する、エシェリヒア属細菌。 請求項4に記載の細菌を培地に培養し、同培地からL−システインを回収する、L−システインの製造法。配列表