生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_チオレドキシン改変体
出願番号:2005504243
年次:2009
IPC分類:C07K 14/47,C07K 19/00,C12N 15/09,C12P 21/02,A61P 35/00,A61K 38/00


特許情報キャッシュ

石井 保之 淀井 淳司 中村 肇 近藤 則彦 JP 4273234 特許公報(B2) 20090313 2005504243 20040330 チオレドキシン改変体 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 石井 保之 淀井 淳司 中村 肇 近藤 則彦 JP 2003093342 20030331 JP 2003349109 20031008 20090603 C07K 14/47 20060101AFI20090514BHJP C07K 19/00 20060101ALI20090514BHJP C12N 15/09 20060101ALI20090514BHJP C12P 21/02 20060101ALI20090514BHJP A61P 35/00 20060101ALI20090514BHJP A61K 38/00 20060101ALI20090514BHJP JPC07K14/47C07K19/00C12N15/00 AC12P21/02 CA61P35/00A61K37/02 C07K 14/47 C12N 15/00-15/90 BIOSIS/WPI(DIALOG) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq SwissProt/PIR/GeneSeq JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 特開平10−191977(JP,A) J. Biol. Chem. (1994), Vol.269, No.16, p.11714-11720 J. Biol. Chem. (1993), Vol.268, No.30, p.22485-22489 Biochem. Pharmacol. (1998), Vol.55, No.7, p.987-994 Cancer Res. (1996), Vol.56, No.24, p.5765-5770 11 JP2004004523 20040330 WO2004087917 20041014 13 20050928 吉田 知美 本発明は、生体内において内因的および/または外因的要因よって引き起こされる細胞増殖異常および/または細胞機能を制御することができるチオレドキシン(以下、「TRX」という)改変体タンパク質および必須最小化ペプチド、該改変体タンパク質および必須最小化ペプチドをコードするDNA、該DNAを含む組換え発現ベクター、該DNAで形質転換された細胞、該TRX改変体タンパク質および必須最小化ペプチドの製造方法、並びに該TRX改変体タンパク質および/または必須最小化ペプチドを含む医薬品または医薬組成物に関する。 チオレドキシンはその活性部位配列の−Cys−Gly−Pro−Cys−内にレドックス活性なジスルフィド/ジチオールを有する小さい12kDaの多機能タンパク質である(“Redox regulation of cellular activation”Ann.Rev.Immunol.1997;15:351−369.)。チオレドキシンはリボヌクレオチドリダクターゼに対するハイドロゲン供与体,デオキシリボヌクレオチドの合成に重要な酵素として大腸菌から単離されて以来,多くの原核生物,真核生物から単離同定されてきた。成人T細胞白血病誘導因子(ADF)は,本発明者らがHTLV−Iに感染したTリンパ球によって産生されるIL−2受容体誘導因子として最初に同定したもので,ヒトチオレドキシンである。細胞内チオレドキシンはラジカル消去や,activator protein−1やnuclear factor−κBなどのレドックスに関する転写因子の制御に重要な役割を果たしている(“AP−1 transcriptional activity is regulated by a direct association between thioredoxin and Ref−1”1997;94:3633−3638.)。さらに,ヒトチオレドキシンはp38 mitogen activating protein kinase(MAPK)やapoptosis signal regulating kinase−1(ASK−1)のシグナル伝達を制御する。 一方、我々はチオレドキシンが細胞外に放出され、サイトカインまたはケモカイン作用を示すことを報告してきたが、その作用機序は不明であった。また細胞外TRXが細胞内へ移行することや、TRX活性部位を改変することにより野生型TRXをはるかに凌ぐ細胞内移行活性を示すことは報告されていない。 本発明は、TRXの細胞内制御活性および細胞内移行活性を解析し、該活性に基づくTRX改変体ならびにその製造方法を提供することを目的とする。 図1は、実施例2のフローサイトメトリー解析結果を示す。図2は、実施例2のフローサイトメトリー解析結果を示す。図3は、実施例2のウエスタンブロット解析結果を示す。図4は、実施例3のアポトーシス解析結果を示す。図5は、3H−チミジンの取り込み量をシンチレーションカウンターで測定した結果を示す。図6は、実施例4の抗癌剤作用の増強効果−1の結果を示す。図6において、CDDP(−)はシスプラチンの不存在を示し、CDDP(+)はシスプラチン3μg/mlの存在を示し、TRX−WTは野生型チオレドキシン、TRX−CSはC32S及びC35Sの2箇所を改変した改変体チオレドキシン、TRX−C35SはC35S改変体チオレドキシンを示す。CDDP(−)において、死細胞数は4%(TRX−WT)、3%(TRX−CS)と比較してTRX−C35Sは4倍程度増加する。また、CDDP(+)(3μg/ml)において、死細胞数は5%(TRX−WT)、13%(TRX−CS)と比較してTRX−C35S(26%)は5倍ないし2倍増加する。図7は、実施例4の抗癌剤作用の増強効果−2の結果を示す。図7において、CDDPはシスプラチンを示し、rec(−)は組換体チオレドキシン(C35S−TRX)の不存在を示し、rec(+)は組換体チオレドキシン(C35S−TRX)の存在を示す。右上の共陽性領域が細胞死の領域(抗ガン作用を有する領域)であり、例えばC35S−TRXで1時間処理した場合には、CDDP(3μg/ml)、においてC35S−TRXを10μg/ml存在させると、共陽性細胞数は10%→22%に2倍増加し、CDDP(6μg/ml)では、C35S−TRXを10μg/ml存在させると、共陽性細胞数は18%→76%に4倍増加する。また、C35S−TRXで1時間処理した場合には、CDDP(3μg/ml)、においてC35S−TRXを10μg/ml存在させると、共陽性細胞数は7%→33%に4.7倍増加し、CDDP(6μg/ml)では、チオレドキシン改変体を10μg/ml存在させると、共陽性細胞数は23%→70%に3倍増加する。 本発明者らは、TRXの細胞内制御活性および細胞内移行活性を詳細に解析した結果、細胞外ヒト組換えTRX野生型の細胞内移行活性を同定することに成功した。さらに該活性に基づき、TRX改変体を作製することに成功した。すなわち本発明の主題は以下のとおりである。1.以下のいずれかのポリペプチドからなるヒトチオレドキシン改変体:(a)配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸残基で置換されたポリペプチド;(b)配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が化学修飾されたポリペプチド;(c)配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸残基で置換され、さらに配列番号2のアミノ酸配列の32位と35位を除く部位、好ましくは32位〜35位を除く部位において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加され、かつ、アポトーシス誘導活性を有するポリペプチド。(d)配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸残基で置換されたヒトチオレドキシン改変体をコードするDNA又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAによりコードされるポリペプチド。 2.上記他のアミノ酸残基がセリンである、項1記載のヒトチオレドキシン改変体。 3.以下のいずれかのDNAからなるアポトーシス誘導活性を有するヒトチオレドキシン改変体をコードする遺伝子:(1)配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸残基で置換され、さらに配列番号2のアミノ酸配列の32位と35位を除く部位、好ましくは32位〜35位を除く部位において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加され、かつ、アポトーシス誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはその相補鎖。(2)配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸残基で置換されたヒトチオレドキシン改変体をコードするDNA又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得、かつ、アポトーシス誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA 4.項3に記載の遺伝子を発現可能に組み込んでなる組換え発現ベクター。 5.項4に記載の発現ベクターで形質転換された形質転換体。 6.項5に記載の形質転換体を培養することを特徴とするアポトーシス誘導活性を有するポリペプチドの製造方法。 7.−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列を含む生理活性物質の細胞内導入用ポリペプチド。 8.−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドの生理活性物質を細胞内に導入するための使用。 9.−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドに生理活性物質を結合させることを特徴とする細胞内に導入可能な生理活性物質複合体の製造方法。 10.−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドに生理活性物質を結合してなる細胞内に導入可能な生理活性物質複合体。 11.−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸で置換されたポリペプチドである項10に記載の複合体。 12.上記生理活性物質がタンパク質またはポリペプチドである項10又は11に記載の複合体。 13.−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドと生理活性ポリペプチドを結合した複合体をコードするポリヌクレオチドを有する組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養することを特徴とする細胞内に導入可能なポリペプチド複合体の製造方法。 14.項1又は2に記載のチオレドキシン改変体からなる抗癌剤。 15.項1又は2に記載のチオレドキシン改変体からなる抗癌増強剤。 16.項1又は2に記載のチオレドキシン改変体と他の抗ガン剤を含む抗癌剤組成物。 17.項1又は2に記載のチオレドキシン改変体を必要に応じて他の抗癌剤と組み合わせて癌患者に投与することを包含する癌の治療方法。 18.請求項10〜12のいずれかに記載の複合体と必要に応じて薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む医薬又は医薬組成物。 以下、本発明をより詳細に説明する。 本明細書において、ヒトチオレドキシン(hTRX)とは、配列番号2に示される105個のアミノ酸からなるポリペプチドを意味する。 本発明のhTRXは、ヒトチオレドキシン以外に「チオレドキシンスーパーファミリーに属するものであってもよく、その活性中心に−Cys−Gly−Pro−Cys−、−Cys−Pro−Tyr−Cys−、−Cys−Pro−His−Cys−、−Cys−Pro−Pro−Cys−を有するポリペプチド類を有するものが例示される。これらの中でも、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−を有するポリペプチド類が好ましい。 本発明の第1の実施形態においては、TRXの35位のシステインを他のアミノ酸に変換してTRX改変体とすることにより、細胞死(アポトーシス)誘導活性及び細胞増殖抑制活性を発現し、抗ガン剤として有用であることが見出された。 また、本発明の第2の実施形態は、TRXの35位のシステイン残基を他のアミノ酸に変換して改変体とするか、該システイン残基(特にチオール残基)を化学修飾するかのいずれかの方法によりTRX改変体とすることにより、細胞内へのTRX改変体の取り込みが劇的に上昇するとの知見に基づくものであり、その細胞内取り込み促進作用の本体が−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸又はシステインの化学修飾体を示す)で表されるアミノ酸配列にあることは本発明者により初めて明らかにされた。 上記のTRX活性中心のC末端側の35位Cysは、任意の19種のアミノ酸(Gly,Ala,Met,Ser,The,Lys,Arg,His,Val,Leu,Ile,Phe,Tyr,Trp,Pro,Gly,Asp,Gln,Asn)のいずれで置換されてもよく、好ましくはSerで置換される。 35位システインの化学修飾体としては、システインのチオール(SH)基が、SRで表される基(Rは任意の有機基、例えば炭素数1〜18の直鎖又は分枝を有するアルキル基、炭素数2〜18の直鎖又は分枝を有するアルケニル基、炭素数2〜18の直鎖又は分枝を有するアルキニル基、炭素数2〜18の直鎖又は分枝を有するアルコキシアルキル基、炭素数1〜18の直鎖又は分枝を有するヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のアシル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜18のアラルキル基などが挙げられ、これらの基は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、メトキシ基、カルボキシル基、エステル基などの置換基で置換されていてもよい。)に化学修飾されたものが挙げられる。このような化学修飾体は公知の方法により、容易に合成可能である。 本発明の好ましいチオレドキシン改変体及び該改変体をコードする遺伝子は、配列番号11に示される。 本発明のチオレドキシン改変体は、細胞死(アポトーシス)誘導活性及び細胞増殖抑制活性を発現し、抗ガン剤として有用であることが見出された。 さらに、本発明のチオレドキシン改変体は、抗ガン剤と併用することにより、抗ガン作用を増強することができる。特に、抗ガン有効量未満の濃度の抗ガン剤と併用することにより、抗ガン作用を発現することができ、抗ガン剤の作用を増強し、副作用を軽減できる。 併用により効果を増強される抗ガン剤としては、アドリアマイシン、メトトレキセート、タキソール、5−フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、マイトマイシン、シスプラチン、ダウノマイシン、エトポシド、タキソテールなどが挙げられる。 本発明のチオレドキシン改変体と抗ガン剤は、同時に投与しても良く、別々に投与してもよい。 本発明の好ましい実施形態の1つは、チオレドキシン改変体と抗ガン剤を投与する癌の治療方法に関する。 治療され得るガンとしては特に限定されず、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚癌等が挙げられる。 本発明のチオレドキシン改変体からなる抗癌剤の治療的有効量は、成人癌患者1日当たり0.01〜100mg程度であり、抗癌増強剤として使用する場合の治療的有効量は0.001〜10mg程度である。 本発明の1つの好まし実施形態において、本発明のチオレドキシン改変体は、配列番号2のヒトチオレドキシンをもとにして公知の遺伝子工学的手法により改変体を製造することができる。該改変体は、配列番号2の32位と35位以外、好ましくは32位〜35位以外のアミノ酸の1又は複数個、好ましくは1又は数個が置換、欠失、付加、挿入され、且つ、アポトーシス誘導活性を有するものである。このような変異(置換、欠失、付加、挿入)の導入は,自然界において生じる(例えば対立遺伝子)他に,人為的な変異も含む。人為的変異を生じさせる手段としては,部位特異的変異誘導法(Nucleic Acids Res.10,6487−6500,1982)などを挙げることができるが,これに限定されるわけではない。変異したアミノ酸の数は,アポトーシス誘導活性が失われない限り,その個数は制限されないが,好ましくは20アミノ酸以内であり,より好ましくは15アミノ酸以内であり,更に好ましくは10アミノ酸以内であり,最も好ましくは5アミノ酸以内である。 本発明の他の好ましい実施形態において、配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基が他のアミノ酸残基で置換されたヒトチオレドキシン改変体をコードするDNA又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得、かつ、アポトーシス誘導活性を有するポリペプチドをコードするDNA(例えば配列番号11に記載のDNA)が挙げられ、該DNAがコードするタンパクは,アポトーシス誘導活性を有する。 本明細書において「ストリンジェントな条件」とは,特異的なハイブリダイゼーションのみが起き,非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は,通常,「1xSSC,0.1%SDS,37℃」程度であり,好ましくは「0.5xSSC,0.1%SDS,42℃」程度であり,更に好ましくは「0.2xSSC,0.1%SDS,65℃」程度である。本発明のDNAは35位が変異された本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば配列番号11に記載のDNA)と通常高い相同性を有する。高い相同性とは,75%以上の相同性,好ましくは90%以上の相同性,更に好ましくは95%以上の相同性、特に99%以上の相同性を指す。 本発明のタンパクは,後述する本発明の遺伝子を発現ベクターに組み込み,適当な宿主細胞内で発現させることにより得ることができる。ベクターとしては、適宜公知のものを選定して用いることができ、例えば、pTrc−HisAなどを用いることができる。宿主細胞としては哺乳動物細胞、酵母などの真核生物細胞、大腸菌、枯草菌、藻類、真菌類などの原核生物細胞が挙げられ、そのいずれを用いてもよい。 理論により限定されることを意図するものではないが、35位のCysをSerなどの他のアミノ酸で置換すると、TRXのアンタゴニストとして機能するようになるため、TRX改変体はアポトーシスの誘導活性ないし細胞増殖抑制活性を発現するものと考えられる。 さらに、35位をSerなどの他のアミノ酸で置換したTRX改変体は、32位のCysで細胞表面に結合し、35位にCysがないことから35位における細胞表面での結合が行われず、結果としてTRX改変体は細胞内に急速に取り込まれることになると考えている。このメカニズムはTRXのSer32改変体(35位はCys;配列番号14)、Ser32Ser35改変体(配列番号13)と野生型(32位と35位がCys;配列番号2)は、いずれも細胞内にほとんど取り込まれないことからも支持される。 即ち、−Cys−Gly−Pro−A、−Cys−Pro−Tyr−A−、−Cys−Pro−His−A−または−Cys−Pro−Pro−A−(AはCys以外の任意のアミノ酸を示す)で表されるアミノ酸配列、特に−Cys−Gly−Pro−A(Aは前記に同じ)は細胞内に生理活性物質を取り込ませるための先導ペプチドの役割を果たすことが明らかであり、該テトラペプチドを生理活性物質に結合させることにより、細胞内への取り込みが困難であった生理活性物質を細胞内に導入することが可能である。 本明細書において、「改変体」は変異体と修飾体を両方とも包含する言葉として使用する。 生理活性物質としては、細胞内に取り込まれて機能する医薬化合物、オリゴペプチド、ポリペプチド、単糖、二糖ないし多糖類、脂質、などが挙げられ、好ましくは医薬化合物、オリゴペプチド、ポリペプチド(糖蛋白を含む)が例示される。また、前記テトラペプチドを含む先導ペプチドのN末端及びC末端に適切な配列を結合させることにより標的となる細胞への選択性を高めることも可能である。 生理活性物質としての医薬化合物には、抗ガン剤、抗ウイルス剤などが例示され、生理活性ポリペプチドとしては、酵素、抗体、ホルモンなどが例示される。 本発明の先導ペプチドは、必要に応じてスペーサーペプチドを介して生理活性物質、を結合することができる。例えば、生理活性物質がポリペプチドの場合には、前記先導ペプチドと必要に応じてスペーサーペプチドを介して生理活性ポリペプチドを結合させて複合体とし、該複合体をコードするDNAを適当な組換えベクターに導入し、大腸菌などの細菌、CHOなどの動物細胞、酵母等の宿主を形質転換し、該形質転換体を培養することにより、複合体を製造することが可能である。 前記スペーサーとして、細胞内で切断可能な短鎖ペプチド配列を導入することにより、細胞内で生理活性物質、特に生理活性オリゴペプチドまたはポリペプチドに導くことも可能である。このような切断可能なペプチドとしては、Caspase−1によって特異的に切断されるhuman pro−interleukin−1β(pro−IL−1β)の切断部位の配列である−AYVHDAPVK−、及びCaspase−3,−7などによって切断されるhuman poly−ADP−ribose polymerase(PARP)の切断部位の配列である−GDEVDGVK−が例示される。 以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。 組換えTRX野生型および改変体の作製1.大腸菌発現系の構築TRXポリペプチドに存在する32位および/または35位のシステイン残基について、配列番号1のTRX遺伝子の当該部位のヌクレオチドに変異を入れてセリン残基に置換した。TRX 32位システイン残基のセリン残基への変異体(TRX−C32S;配列番号14)遺伝子の作製には、テンプレートDNAとしてベクターpcDNA3.1にヒトTRX cDNA(配列番号1)を挿入したプラスミドDNAを用い、プライマーに5’−GGA TCC GTG AAG CAG ATC GAG AGC AAG−3’(配列番号3)と5’−CTT GAT CAT TTT GCA AGG CCC AGA CCA−3’(配列番号5)および5’−GTC GAC TTA GAC TAA TTC ATT AAT GGT GGC−3’(配列番号4)と5’−TGG TCT GGG CCT TGC AAA ATG ATC AAG−3’(配列番号6)をそれぞれ用いたPCRを実行した。次に増幅した2つのDNA断片を等量で混合し、さらに5’−GGA TCC GTG AAG CAG ATC GAG AGC AAG−3’(配列番号3)と5’−GTC GAC TTA GAC TAA TTC ATT AAT GGT GGC−3’(配列番号4)プライマーを添加した後、PCRでTRX−C32S全長を増幅した。各PCRサイクルにおける条件は、95℃、1分間、アニーリングは56℃、1分間、伸長は72℃、2分間の条件で行った。同様にTRX35位システイン残基のセリン残基への変異体(TRX−C35S;配列番号12)遺伝子またはTRX32位と35位両方のシステイン残基のセリン残基への変異体(TRX−C32S/C35S;配列番号13)遺伝子の作製には、TRX−C32S遺伝子作製時に使用したプライマー(配列番号5と6)の代わりに、5’−CTT GAT CAT TTT GGA AGG CCC ACA CCA−3’(配列番号7)と5’−TGG TGT GGG CCT TCC AAA ATG ATC AAG−3’(配列番号8)または5’−TGG TCT GGG CCT TCC AAA ATG ATC AAG−3’(配列番号9)と5’−CTT GAT CAT TTT GGA AGG CCC AGA CCA−3’(配列番号10)をそれぞれ用いたPCRを行った。また野生型TRX(TRX−WT)はテンプレートDNAとしてベクターpcDNA3.1にヒトTRX cDNA(配列番号1)を挿入したプラスミドDNAを用い、プライマーに5’−GGA TCC GTG AAG CAG ATC GAG AGC AAG−3’(配列番号3)と5’−GTC GAC TTA GAC TAA TTC ATT AAT GGT GGC−3’(配列番号4)を用いて、PCRでTRX−WT全長を増幅した。PCRで増幅したTRX−WT、TRX−C32S,TRX−C35SまたはTRX−C32S/C35SのDNA断片をTOPOクローニングベクター(インビトロジェン社製)にライゲートした後、大腸菌宿主細胞に導入した。形質転換クローンよりプラスミドDNAを回収した後、インサートDNAの配列をDNAシークエンス法で確認した。引き続きプラスミドDNAを制限酵素BamHIとSalIで切断し、得られたフラグメントをヒスチジンタグ付加組換えタンパク質発現ベクターpQE80L(キアゲン社製)にライゲートした後、XL−1 Blueに大腸菌宿主細胞を形質転換した。2.組換えTRX野生型および改変体を生産する大腸菌の培養TRX野生型または改変体遺伝子を挿入したpQE80LプラスミドDNAで形質転換した大腸菌株を前培養後、3リットルのterrific broth(BRL)(100ug/ml Ampicillin入り)にシードし、4時間培養した。その後、最終濃度が1mMになるようにIPTGを加え、さらに2−4時間培養した。3.組換えTRX野生型および改変体の精製 回収した細胞は、lysozyme(2mM)入りのlysis buffer(protease inhibitor,0.8mM Imidazol,2−mercapt ethanol)を加え懸濁した後、超音波破砕機にて細胞を破砕した。15000rpm30分の遠心後、上清を回収し、PBSで平衡化したNiアガロースカラム(キアゲン社製)にアプライした(NiカラムはあらかじめPBSで置換しておく)。サンプルをアプライ後、20mM Imidazol含有PBSを用いてカラムを洗浄し、80mM Imidazol含有PBSで溶出した。溶出されたサンプルはPD−10カラムを用いてPBS溶液に置換した。 組換えTRX野生型および改変体の培養細胞内への移行1.細胞結合能 5x105個のHTLV−I感染ヒトT細胞株ATL2に最終濃度が1ug/mlになるように蛍光標識したTRX−WT、TRX−C35SまたはTRX−C32SC35Sを添加し、4℃で30分インキュベート後フローサイトメトリー用バッファー(0.1%アジ化ナトリウム含有燐酸緩衝液)で洗浄した。続いて、フローサイトメトリー解析を行った(図1)。その結果、TRX−C35Sのみが細胞に結合できることが確認された。この結合は大過剰のTRX−WTを共存させることによって阻害されることも確認された(図2)2.細胞内移行 組換え体ヒスチジンタグ化タンパク質TRX−WT、TRX−C35SまたはTRX−C32SC35Sを最終濃度10ug/mlでATL2細胞に添加し、4℃または37℃で1時間インキュベートした。つぎに細胞を回収し燐酸緩衝液で洗浄後、1x107個の細胞を1mlのバッファー(hypotonic buffer)に懸濁し、窒素ガス細胞破砕装置(パール社製)で細胞を破砕した。1000gで遠心後、上清を回収し続いて10,000gの遠心分離で上清の細胞質画分を回収した。細胞質画分をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動と抗TRXモノクローナル抗体を用いるウエスタンブロット解析を行った(図3)。その結果、TRX−C35Sのみが細胞質画分に検出されることが確認された。 TRX野生型および改変体の生物学的活性1.細胞死誘導活性 TRX−WT、TRX−C35SまたはTRX−C32S/C35S遺伝子を導入したヒトT細胞株Jurkatを無血清RPMI培地で72時間培養することにより誘導されるアポトーシスを解析した(図4)。その結果、TRX−C35Sを細胞内に高発現したJurkat細胞は、TRX−WTまたはTRX−C35Sを導入したJurkat細胞よりもアポトーシスが亢進された。2.細胞増殖抑制活性 5x105個のヒト末梢血単核球を1mlの10%牛胎児血清含有RPMI培地にけん濁後、PHAを最終濃度28ng/mlと10ug/mlのTRX−WT,またはTRXC32S/C35S,またはTRX−C35Sをそれぞれ添加し培養した。96時間後に3H−チミジンを添加しその取り込み量をシンチレーションカウンターで測定した(図5)。その結果、組換え体TRX−WTタンパク質添加群が無添加群に比べて細胞増殖能が上昇しているのに対して、組換え体TRX−C35Sタンパク質添加群は細胞増殖が抑制されていることが確認された。 1. 抗癌剤作用の増強効果−1 ヒトT細胞株Jurkatに野生型(WT)TRX、C32S/C35S誘導体(CS)TRXまたはC35S誘導体−TRX遺伝子を導入し樹立した高発現細胞に、最終濃度3μg/mlのシスプラチン(CDDP;cis−PLATINUM(II)−DIAMMINE DICHLORIDE,Sigma)を添加した。24時間培養後の細胞にAnnexin V−FITC,propidium iodide(Medical & Biological Laboratories CO.,LTD)を結合させ、フローサイトメーターで細胞死の状態を示す共陽性細胞数を解析した。その結果、C35S−TRXを高発現する細胞株では、WT−TRXやCS−TRX発現細胞株に比べてAnnexin V−FITCとpropidium iodideの共陽性の死細胞数が4倍近く増加していることが確認された。2. 抗癌剤作用の増強効果−2 ヒトT細胞株Jurkatの培養液中に、10μg/mlの濃度で組換えC35S−TRXタンパク質を添加し、1時間または3時間インキュベートした後、最終濃度3μg/mlまたは6μg/mlのシスプラチンを添加した。24時間培養後の細胞にAnnexin V−=FITCとpropidium iodideを結合させ、フローサイトメーターで細胞死の状態を示す共陽性細胞数を解析した。その結果、組換えC35S−TRXタンパク質を予め添加した群では、添加していない群に比べてAnnexin V−=FITCとpropidium iodideの共陽性細胞数が多く、3μg/mlのシスプラチンを添加した群では約2倍、6μg/mlのシスプラチンを添加した群では約4倍増加していた。またその効果はC35S−TRXタンパク質の前処理時間が1時間の群よりも3時間の群の方が高かった。 以上、本発明の好ましい態様について記載したが本発明の精神を逸脱することなく種々の変更および改良が可能であることが当業者には明らかであることが理解されよう。従って、本発明の範囲は、以下の請求の範囲によってのみ決定されるべきであろう。 本発明により、高い細胞増殖抑制活性を有するTRX改変体タンパク質の安定かつ大量生産及び、迅速な細胞内移行を可能にするTRX改変体由来ペプチド配列を利用したベクター開発が可能になる。TRX改変体タンパク質及びTRX改変体由来ペプチドを融合させた生理活性物質(タンパク質、脂質、核酸、有機化合物、無機化合物)は、多様な疾患領域の治療および/または予防に利用することができる。 -Cys-Gly-Pro-Ser-、-Cys-Pro-Tyr-Ser-、-Cys-Pro-His-Ser-または-Cys-Pro-Pro-Ser-で表されるアミノ酸配列を含むチオレドキシンの改変体ポリペプチドからなる、生理活性物質の細胞内導入剤。 -Cys-Gly-Pro-Ser-、-Cys-Pro-Tyr-Ser-、-Cys-Pro-His-Ser-または-Cys-Pro-Pro-Ser-で表されるアミノ酸配列を含むチオレドキシンの改変体ポリペプチドの生理活性物質を細胞内に導入するための使用(ただし、ヒトin vivoでの細胞内への導入を除く)。 -Cys-Gly-Pro-Ser-、-Cys-Pro-Tyr-Ser-、-Cys-Pro-His-Ser-または-Cys-Pro-Pro-Ser-で表されるアミノ酸配列を含むチオレドキシンの改変体ポリペプチドに生理活性物質を結合させることを特徴とする、細胞内に導入可能な生理活性物質複合体の製造方法。 -Cys-Gly-Pro-Ser-、-Cys-Pro-Tyr-Ser-、-Cys-Pro-His-Ser-または-Cys-Pro-Pro-Ser-で表されるアミノ酸配列を含むチオレドキシンの改変体ポリペプチドに生理活性物質を結合してなる、細胞内に導入可能な生理活性物質複合体。 -Cys-Gly-Pro-Ser-、-Cys-Pro-Tyr-Ser-、-Cys-Pro-His-Ser-または-Cys-Pro-Pro-Ser-で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列の35位のシステイン残基がSerで置換されたポリペプチドである請求項4に記載の複合体。 前記生理活性物質がタンパク質またはポリペプチドである請求項4又は5に記載の複合体。 -Cys-Gly-Pro-Ser-、-Cys-Pro-Tyr-Ser-、-Cys-Pro-His-Ser-または-Cys-Pro-Pro-Ser-で表されるアミノ酸配列を含むチオレドキシンの改変体ポリペプチドと、生理活性ポリペプチドを結合した複合体をコードするポリヌクレオチドを有する組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養することを特徴とする、細胞内に導入可能なポリペプチド複合体の製造方法。 請求項4〜6のいずれかに記載の複合体からなる抗癌剤。 請求項4〜6のいずれかに記載の複合体からなる抗癌増強剤。 請求項4〜6のいずれかに記載の複合体と他の抗ガン剤を含む抗癌剤組成物。 請求項4〜6のいずれかに記載の複合体と、薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む医薬又は医薬組成物。配列表


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