タイトル: | 特許公報(B2)_モノクローナル抗体製剤の奏効性を向上させる方法 |
出願番号: | 2005502742 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12Q 1/68,A61K 39/395,A61P 31/18,C07K 16/10,C12N 15/09 |
村上 利夫 樋口 浩文 牧角 啓一 前田 敏宏 溝上 寛 JP 4922613 特許公報(B2) 20120210 2005502742 20040218 モノクローナル抗体製剤の奏効性を向上させる方法 一般財団法人化学及血清療法研究所 000173555 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 山中 伸一郎 100156111 村上 利夫 樋口 浩文 牧角 啓一 前田 敏宏 溝上 寛 JP 2003042819 20030220 20120425 C12Q 1/68 20060101AFI20120405BHJP A61K 39/395 20060101ALN20120405BHJP A61P 31/18 20060101ALN20120405BHJP C07K 16/10 20060101ALN20120405BHJP C12N 15/09 20060101ALN20120405BHJP JPC12Q1/68 ZA61K39/395 SA61P31/18C07K16/10C12N15/00 A A61K 39/395 C12Q 1/68 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 国際公開第02/059154(WO,A1) 特開平10−182489(JP,A) 特開平06−217791(JP,A) 特開2001−192399(JP,A) 1 JP2004001822 20040218 WO2004074516 20040902 12 20070213 中尾 忍 本願発明は、医薬品に係る分野に属する。詳細には、モノクローナル抗体製剤の奏効性を向上させるための、当該抗体が認識する抗原を有する患者を選別するために実施される方法に関する。 近年、モノクローナル抗体の臨床応用として、モノクローナル抗体製剤投与による治療が展開されている。モノクローナル抗体製剤は、生体内の抗原と反応し有効性を示すため、当該抗原の発現量を予め検査し投与対象を選別すれば、モノクローナル抗体の奏効性を向上させ得る。また、モノクローナル抗体は極めて特異性が高いため、安全性と有効性に優れる一方で、抗原エピトープ部分のアミノ酸配列に多様性が存在する場合には抗体との反応性が低下し、有効性に影響を及ぼす可能性が危惧される。このため、モノクローナル抗体製剤を医薬品として用いる場合、患者体内での抗原の発現量のみならず、抗原の多様性を確認し投与対象者を選択することは、当該抗体製剤の奏効性を向上させるために有用な手段と考えられる。 モノクローナル抗体製剤の投与対象者を検査し選択する例として、現在市販されている、抗HER2モノクローナル抗体(Trastumab)に係る適用例が挙げられる。Trastumabは、乳がん患者の約20〜30%で過剰発現しているHER2タンパク質に対する抗体である。抗HER2モノクローナル抗体投与対象者選択のための臨床検査として、HER2/neu遺伝子のDNA増幅を目的としたサザンブロット法もしくはFuruorescentin situ hybridization(FISH)法、HER2mRNAの過剰発現を検索するためのノーザンブロット法、もしくはreverse transcription polymerase chain reaction(RT−PCR)法、またはHER2タンパク質の過剰発現を検索するためのウェスタンブロット法、ELISA法、もしくは免疫組織化学法などが試みられている。これらの検査により、TrastumabのHER2過剰発現症例の奏効率が向上しており、このことは、モノクローナル抗体製剤による治療において、対象者を予め選択することが奏効性を向上させるために有用であることを示している(例えば、日本臨床(Nippon Rinsho)60巻3号(2002))。 (発明が解決しようとする技術的課題) 一方、エピトープ部分のアミノ酸配列に多様性が存在して、このため抗原抗体反応の親和性に変化が生じる場合には、抗原の多様性に伴う抗体製剤の奏効性の低下が予測され、これを予知することは臨床的観点から意義は大きい。そのためには、Trastumabで実施されるような抗原タンパク質の発現量を調べるだけの検査では不十分であり、新たな検査法が必要である。その理由は、タンパク質として高発現している抗原であって量的には検出され得る場合であっても、当該モノクローナル抗体のエピトープを有する野生型の中にエピトープのアミノ酸配列が変異し反応性が低下した変異体が多数存在する場合には、不適合と判定される必要があるからである。従って、抗原のエピトープ部分に多様性が存在する場合には、アミノ酸配列の異なる個々のエピトープに対する抗体の反応性の程度を抗原抗体反応により直接確認することが要求される。しかしながら、生体内の微量な抗原の中からエピトープ部分のアミノ酸配列が異なる分子を分別し、当該抗体で捕捉し検出する方法は、高い感度を必要とし、また抗原の発現量と抗体の反応性とを区別して検出するのが困難などの問題点がある。 以上の観点から、モノクローナル抗体の認識するエピトープ部分のアミノ酸配列に多様性が認められるタンパク質を抗原とするモノクローナル抗体製剤では、製剤の投与対象者選別のため、高感度かつ迅速に検査する方法の開発が必要とされる。 (その解決方法) 本発明は、モノクローナル抗体製剤を患者に投与するに際し、患者の生体内に存在する標的分子の抗原タンパク質のアミノ酸配列を、当該モノクローナル抗体製剤投与前に予め解析することにより投与対象患者を選別することよりなる、当該モノクローナル抗体製剤の奏功性を向上させる方法に関する。 本発明はまた、上記方法において、▲1▼患者生体試料中の標的分子の遺伝子を分離・解析して得られた核酸配列を基に発現しているタンパク質のアミノ酸配列を予測し、▲2▼その配列を予め決定された当該モノクローナル抗体の認識し得るアミノ酸配列(以下、参照配列)と比較することによって患者の当該抗体製剤投与における適合性を判定し、ついで▲3▼当該判定結果に基づいて奏効性が期待される投与対象患者を選別する工程を含んでなる、モノクローナル抗体製剤の奏効性を向上させる方法に関する。 モノクローナル抗体製剤が認識する抗原エピトープのアミノ酸配列の多様性により、抗体の抗原に対する結合の親和性は変化する。エピトープ領域に遺伝子多型を示す抗原の場合、免疫化学的検出法などによって直接的にモノクローナル抗体の結合性を測定する方法に代わり、患者の体内で発現している抗原の多様性を塩基配列から解析し、その抗原と当該抗体の結合性を予測することが可能であると本願発明者らは考えた。そして、エピトープのアミノ酸配列と抗原抗体の反応性に相関が認められるモノクローナル抗体について、予めその相関性に関するデータを取得しておき、そのデータと患者由来の抗原エピトープ領域の塩基配列とを比較することによって投与対象者を効率的に選択し得る本願発明の方法を発明した。 これらの方法は、PCR法および塩基配列解析技術の進歩により、高感度かつ汎用的に実施可能であり、変異体が混在するDNAをクローニングせずに直接解析を行うことも可能である。従って、発現タンパク質抗原とモノクローナル抗体との結合親和性を実際に測定することなく、エピトープ領域をコードする塩基配列を調べるのみで、モノクローナル抗体製剤の奏効性を予測することが可能となった。 (従来技術より有効な効果) 本願発明により、モノクローナル抗体製剤の投与に際し、標的の発現タンパク質抗原と当該モノクローナル抗体との結合親和性を実際に抗原を単離調製して測定することなく、予め抗原のエピトープ領域をコードする塩基配列を調べ、予め決定された当該モノクローナル抗体の認識するアミノ酸配列(参照配列)と比較することによって、患者の当該抗体製剤投与における適合性を判定して投与対象患者を選別することにより、総合的に当該モノクローナル抗体製剤の奏効性を向上せしめる方法を提供することができる。 図1は、モノクローナル抗体の認識する部位を調べるため、KD−247により中和されることが確認されている実験室株HIV−1(MN株)のPND領域の合成ペプチドIHIGPGRAFYを基に、1残基ずつ削除した合成ペプチドに対するKD−247の結合性を示すグラフである。 図2は、モノクローナル抗体の認識するアミノ酸配列の幅広さを調べるため、KD−247により中和されることが確認されている実験室株HIV−1(MN株)のPND領域の合成ペプチドIHIGPGRAFYを基に、当該合成ペプチドのN末端側のIからC末端側のYまでを順に天然に存在する他の19種類のアミノ酸残基に1残基ずつ置換した場合(図2a〜図2jにそれぞれ示す)の合成ペプチドに対するKD−247の結合性を示すグラフである。図2a〜図2jにおいて斜線の棒グラフはアミノ酸残基を変化させない場合の値を示す。 図3は、モノクローナル抗体が認識するアミノ酸配列を発現タンパク質で調べるため、患者由来のHIV−1遺伝子よりV3領域を増幅し発現させたタンパク質のV3領域中央部分のアミノ酸配列に対するKD−247の結合性を、MN株由来の遺伝子を基に発現させたタンパク質との結合性を100%とした相対結合活性で示すグラフである。各配列での平均値を横棒で示した。図3中、1〜33は、V3領域中央部分に以下の配列を含む発現タンパク質である。1:IAPGRAF;2:IAPGRAL;3:IAPGSAF;4:IGLGRAF;5:IGPARAF;6:IGPGGAF;7:IGPGKAF;8:IGPGRAF;9:IGPGRAI;10:IGPGRAL;11:IGPGRAS;12:IGPGRAV;13:IGPGRAW;14:IGPGRAY;15:IGPGRPF;16:IGPGRRF;17:IGPGRSF;18:IGPGRSV;19:IGPGRTF;20:IGPGRTL;21:IGPGRTV;22:IGPGRVF;23:IGPGRVY;24:IGPGSAF;25:IGSGRAF;26:LGPGGAF;27:LGPGRAF;28:MGPGGAF;29:MGPGKAF;30:MGPGRAF;31:MGPGRVY;32:VGPGRAL;33:VGPGRAV。 本発明の方法において、モノクローナル抗体製剤投与の適合性を判定し、奏功性が期待される投与対象患者を選別するに際して、患者由来の標的分子のアミノ酸配列を、予め決定しておいた「参照配列」と比較することが必須である。本明細書において「参照配列」とは、投与しようとするモノクローナル抗体製剤の主成分であるモノクローナル抗体が認識し結合することのできる抗原のエピトープ領域のアミノ酸配列をいう。かかるエピトープ領域のアミノ酸配列を「参照配列」として決定した後、当該モノクローナル抗体の有効性(中和活性など)と「参照配列」との相関を調べることができる。また、エピトープ領域のアミノ酸配列に多様性が認められる場合(たとえば、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1))には、当該エピトープ領域の多様なアミノ酸配列に共通する普遍性ある配列を「参照配列」として決定する。 このようにモノクローナル抗体製剤の主成分であるモノクローナル抗体が認識・結合するエピトープ領域のアミノ酸配列を予め決定しておき、当該モノクローナル抗体が有効性を発揮できるアミノ酸配列を「参照配列」として決定しておくことにより、かかる「参照配列」との比較による当該モノクローナル抗体製剤投与適合性の判断が可能となる。 本発明を実施するため、▲1▼モノクローナル抗体が認識するエピトープ部分のアミノ酸配列(参照配列)の解析、▲2▼患者の生体試料中に存在する標的分子のエピトープ部分を含む領域の塩基配列の分析、▲3▼抗原タンパク質のアミノ酸配列の多様性とモノクローナル抗体の薬効との相関データの取得などを予め実施する必要がある。 すなわち具体的には以下の工程を経る。当該モノクローナル抗体が認識する典型的な抗原について、タンパク質を構成するペプチド断片に対する当該モノクローナル抗体の結合性を調べ、エピトープ部分を同定する。当該ペプチド断片の作製は、抗原タンパク質のタンパク質分解酵素による消化物、既知のアミノ酸配列情報に基づくペプチド断片の化学合成等により可能となる。また、当該ペプチド断片とモノクローナル抗体との反応性を解析する方法として、ELISA法やドットブロット法等による免疫化学的な方法、及び表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いた方法等が挙げられる。なお、生体内に存在する抗原としては、外来性のウイルス、細菌、毒素、内在性のがん特異的抗原や疾患関連分子等が考慮され得る。 患者生体内に存在する抗原タンパク質中の当該エピトープ領域の塩基配列を求めるため、エピトープ領域周辺に位置し且つアミノ酸配列に変異がほとんど認められない領域を選択し、当該領域の塩基配列を基に核酸増幅反応のためのプライマーを設計する。当該抗原のエピトープ領域の塩基配列を解析するため、血液、組織等を生体試料として、RNAより逆転写酵素を用いて得られるcDNAもしくはDNAを鋳型とし、当該プライマーを用いたPCR法によりエピトープ領域を増幅する。増幅されたDNAは、直接又はクローニング操作を経た後に、DNA解析装置等を用い塩基配列を解析する。 エピトープ領域に種々のアミノ酸配列を有する抗原に対する当該モノクローナル抗体の反応性は、上述の方法により得られたエピトープ領域を含むDNAをクローニングし、大腸菌などを用いて発現させたタンパク質に対する当該モノクローナル抗体の結合性を測定することにより可能である。さらに、当該エピトープ領域のアミノ酸配列と当該モノクローナル抗体の有効性の相関は、抗原結合活性のみならず、抗ウイルス活性、抗腫瘍効果などを指標として、in vitro、ex vivo、又はin vivo試験により確認される。例えば、患者由来のウイルスをクローン化し、当該エピトープ領域の塩基配列よりアミノ酸配列を求めるとともに、ウイルス中和活性を測定し、エピトープ領域のアミノ酸配列と有効性の相関を示すデータが取得可能である。 抗原に多様性が存在する代表的な例として、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)が例示される。HIV−1の主要中和決定基(PND)は、外被糖蛋白質gp120の第3可変領域(V3領域)の中央部分に位置している。本願発明者らは、PNDに対するヒト化モノクローナル抗体を作製し、臨床応用を目的にこれを製剤化した。当該モノクローナル抗体は、当該抗体のエピトープ部分が位置するPND領域のアミノ酸配列の変異により、HIV−1に対する中和活性、すなわち抗原との結合性に影響を受けた。従って、当該抗体の臨床応用では、エピトープ部分のアミノ酸配列を解析し、投与対象者を選択することが奏効性の向上につながると予測された。 そこで、まず当該抗体と結合可能な抗原の存在を確認するために、以下のような手順により、エピトープ部分のアミノ酸配列と当該抗体との結合性の相関性を調べ、当該モノクローナル抗体が認識し有効性が期待されるアミノ酸配列を参照配列として決定した。▲1▼PND領域の配列から成る合成ペプチド断片を用い当該モノクローナル抗体が認識するエピトープ配列を確認した。▲2▼患者由来のウイルスより、V3領域の遺伝子を増幅後クローニングし、β−ガラクトシダーゼとの融合タンパク質として発現させた。このV3領域の発現タンパク質に対する当該モノクローナル抗体の結合性を調べ、エピトープ部分のアミノ酸配列と抗体の結合性との相関を調べた。▲3▼上述の結果から、当該抗体の参照配列の候補を選択した。▲4▼当該モノクローナル抗体のHIV−1に対する中和活性を調べ、上述の参照配列と中和活性に相関性のあることを確認した。▲5▼患者血漿または末梢血単核細胞よりHIV−1 V3領域の遺伝子を増幅し、塩基配列を解析した。その結果から推定されたアミノ酸配列を上述の参照配列と比較し、対象患者に対する当該抗体の適合性を予測した。 かかる知見に基づき、患者の体内で発現している抗原の多様性を塩基配列から解析し、その抗原と当該抗体の結合性を予測することが可能であることが明らかになった。臨床での使用に当たり、例えば標的分子がHIV−1の場合、以下のような手順により、患者血漿を検体として当該モノクローナル抗体製剤の投与対象者を選択する方法が提供される。 血漿中のHIV−1 RNAを、逆転写酵素を用いてDNAに変換し、V3領域の核酸増幅反応を行なう。増幅したDNA断片を、直接またはクローニングを実施した後に塩基配列を解析する。この塩基配列から予想されるアミノ酸配列を求め、予め選定されたモノクローナル抗体製剤中の当該モノクローナル抗体が認識し得るアミノ酸配列の参照配列と比較する。参照配列の決定は、前述のような、ペプチドまたは発現タンパク質への結合性やHIV−1中和活性の測定結果より決定される。また、臨床試験により患者由来のHIV−1におけるPND領域のアミノ酸配列と当該モノクローナル抗体製剤の有効性の関係を解析することにより、より詳細な参照配列のデータが得られる。 以下に、実施例に従って本願発明を詳説するが、本願発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。 合成ペプチドを用いた抗HIVモノクローナル抗体が認識するアミノ酸配列の解析 PND領域に対するヒト化モノクローナル抗体であるKD−247が認識するアミノ酸配列を、HIV−1 gp120のV3領域の中央部分に由来する合成ペプチドを用いて調べた。ペプチドを、Pepscan法(Geysen,H.M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,3998−4002,(1984))により合成し、それらのペプチドに対するKD−247の結合活性を酵素抗体測定法により確かめた。KD−247が認識する最短のアミノ酸配列を調べるため、KD−247により中和可能な実験室株HIV−1(MN株)のV3領域中央部分のアミノ酸配列である、IHIGPGRAFYを有する10アミノ酸残基のペプチド、及びそのアミノ酸残基を、4アミノ酸残基まで1残基ずつ削除した以下のペプチドを合成した:IHIGPGRAF、HIGPGRAFY、IHIGPGRA、HIGPGRAF、IGPGRAFY、IHIGPGR、HIGPGRA、IGPGRAF、GPGRAFY、IHIGPG、HIGPGR、IGPGRA、GPGRAF、PGRAFY、IHIGP、HIGPG、IGPGR、GPGRA、PGRAF、GRAFY、IHIG、HIGP、IGPG、GPGR、PGRA、GRAF、RAFY。 合成ペプチドが結合しているポリエチレン製のロッドを、2%ウシ血清アルブミン及び0.1%Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水中でプレコーティングを実施した後、2μg/mlのKD−247と反応させた。ペプチドに結合したKD−247を、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトκ抗体及び基質を用いて測定した。図1に示す通り、KD−247が反応する最短のアミノ酸配列は、IGPGRであった。 KD−247が認識するペプチドを構成するアミノ酸残基を置換した場合の反応性の変化を調べるため、HIV−1(MN株)株由来のIHIGPGRAFY配列の各アミノ酸残基を、天然に存在する他の19種類のアミノ酸残基に置換したペプチドを合成し、上述の方法を用いてKD−247との反応性を測定した。図2のように、中央部分のPGR配列に関し置換可能な他のアミノ酸残基は少なく、特にアルギニン(R)残基は必須のアミノ酸であることが確認された。その他のアミノ酸残基では、多くの他のアミノ酸残基との置換が可能であった。 以上の結果より、KD−247はIGPGR配列を基本的に認識し、この配列内及び又はその前後のアミノ酸配列に置換が生じた場合にも認識することが可能であることが判明した。 発現タンパク質を用いた抗HIVモノクローナル抗体が認識するアミノ酸配列の解析 実施例1で明らかになったKD−247の認識部位は、短いペプチドと抗体との反応を観測したものであった。抗体の抗原タンパク質との結合性は、結合部分のアミノ酸配列に加えて、立体構造に伴う影響も考慮する必要がある。そのため、V3領域を含む領域を発現させたタンパク質に対するKD−247の結合性を調べた。 先ず、HIV−1のV3領域を含む遺伝子を、HIV−1感染者由来の血漿より得られたHIV−1 RNA遺伝子を基に逆転写酵素を用いて得たcDNA、または末梢血単核細胞のHIV−1プロウイルスDNAを鋳型として、nested PCR法により増幅した。第1PCRに用いたプライマーは、5’−ACACATGGAATTAGGCCAGT−3’(OA−4)(配列番号1)及び5’−AAATTCCCCTCCACAATTAA−3’(OD−4)(配列番号2)であり、第2PCRに用いたプライマーは、5’−GCCGGATCCTCAACTCAACTGCTGTTAAAT−3’(EB−2)(配列番号3)及び5’−GCTCTGCAGTCAAATTTCTGGGTCCCCTCCTGAGG−3’(EC−2)(配列番号4)であった。この増幅DNA断片を精製後、制限酵素BamH I及びPst Iで切断し、ベータガラクトシダーゼ(β−Gal)遺伝子を有するベクタープラスミド(pUEX I)に挿入した。このベクターをコンピテント細胞に導入し、クローニングを行なった。クローン化DNAを鋳型にEB−2及びEC−2プライマーを用いてPCRを実施し、増幅DNA断片を鋳型として、塩基配列解析装置を用いてV3領域の核酸配列を解析し、その核酸配列に基づいてV3領域のアミノ酸配列を決定した。 一方、遺伝子配列を解析した各クローン化大腸菌を培養し、次のようにして、V3領域とベータガラクトシダーゼの融合タンパク質(V3/β−Gal)を得た。先ず、培養した大腸菌を細胞破砕装置で破砕後、遠心分離し、その沈殿を0.5%Triton X−100含有トリス緩衝液(pH7.5)で溶解後さらに遠心分離し、封入体を含む沈殿を、8M尿素を含むトリス緩衝液(pH7.5)で溶解しV3/β−Galを精製した。得られたV3/β−Galは、SDS−PAGEにより発現に異常がないことを確認し、次にV3/β−Gal濃度を合わせるため、ELISAを行なった。抗β−Gal抗体を固相化したプレートを用い、発現させたV3/β−Galまたは標準品としてのβ−Gal市販品を添加した。検出抗体としてペルオキシダーゼ標識抗β−Gal抗体を用いた。標準品の結果を基に検量線を作成し、発現V3/β−Gal濃度をβ−Gal濃度換算で求めた。 次に、V3/β−GalとKD−247の反応性を評価するため、別のELISAを実施した。抗β−Gal抗体をプレートに固相化し、200ng/mlのV3/β−Galと反応させた。捕捉されたV3/β−Galに対し、1μg/mlのKD−247を反応させ、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体を用いて検出した。各々のV3/β−Galに対するKD−247の結合性は、プレートごとに設定された陽性対照であるHIV−1MN株由来のV3/β−Galの吸光度を100%とした相対値で示した。 約120種類の患者由来HIV−1クローンを用いて解析されたV3/β−GalのV3中央部分のアミノ酸配列とKD−247との相対結合活性を図3に示した。結合性の相対値の平均が100%を超えたクローンのV3領域中央部分のアミノ酸配列は、IGPARAF(配列番号5)、IGPGRSF(配列番号6)、IGPGRAL(配列番号7)、IGPGRTF(配列番号8)、IGPGRAI(配列番号9)、VGPGRAL(配列番号10)、IGPGRAF(配列番号11)であった。これらの配列は、KD−247適合性を判定する参照配列の一例として挙げられる。 HIV−1のV3領域のアミノ酸配列とウイルス中和活性の解析 V3領域のアミノ酸配列と中和活性の関連を、実験室株及び臨床分離株HIV−1を用いて調べた。 HIV−1のV3領域の核酸配列を、実施例2と同様の方法により求めた。さらに、これらのウイルスと、濃度を変化させたKD−247とを37℃で1時間反応後、フィトヘマグルチニンで活性化した健常人の末梢血単核細胞に接種した。7日間培養後細胞を洗浄し、IL−2存在下でさらに7日間培養を継続した。培養上清中のHIV−1 p24抗原量をELISA法により測定し、抗体非存在下で培養した値を100%とし、添加した抗体濃度によりp24抗原量を50%(IC50)または90%(IC90)低下させるKD−247濃度を中和活性として表わした。 表1に示す通り、KD−247の中和活性は、V3領域中央部分のアミノ酸配列に依存した。すなわち、実施例1及び実施例2でKD−247との結合性が確認されたIGPGRAF配列をV3領域中央部分に有するHIV−1は、すべてKD−247によって中和された。これは、V3領域中央部分のアミノ酸配列が、そのウイルスに対するKD−247の結合活性及び中和活性と相関する事を示している。 臨床検体のV3領域アミノ酸配列の解析とKD−247の患者適合性検査 実施例2の方法を用い、患者の血漿または末梢血単核細胞より、HIV−1遺伝子を解析した。これを基に、HIV−1のV3領域のアミノ酸配列を推定し、実施例2で得られたKD−247と強く反応するアミノ酸配列を参照配列として比較し、各患者におけるKD−247の適合性を検査した。 患者血漿または末梢血単核細胞中のHIV−1遺伝子より推定されるアミノ酸配列および各患者におけるKD−247の患者適合性を表2に示した。点線で囲んだアミノ酸配列を、実施例2で求められた参照配列(配列番号5〜11)と比較し、一致した場合を適合、不一致の場合を不適合として判定した。 エピトープ部分にアミノ酸残基の多様性を有する標的抗原分子に対する当該標的抗原分子を認識するモノクローナル抗体の結合性を予測する試験法であって、当該モノクローナル抗体は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)の外被糖タンパク質gp120のV3領域に対する抗体であり、(i)生体試料中の標的抗原分子の抗原タンパク質をコードする遺伝子を分離・解析して得られた核酸配列を基に発現しているタンパク質のアミノ酸配列を予測し、ついで(ii)当該アミノ酸配列と、予め決定された当該標的抗原分子に対するモノクローナル抗体の認識し得るアミノ酸配列であって、共通する普遍性ある配列(以下、参照配列)との配列の同一性を比較し、当該アミノ酸配列が参照配列と一致する場合に当該モノクローナル抗体の結合性ありと判定し、不一致の場合に結合性なしと判定する工程を含んでなり、参照配列が、IGPARAF(配列番号5)、IGPGRSF(配列番号6)、IGPGRAL(配列番号7)、IGPGRTF(配列番号8)、IGPGRAI(配列番号9)、VGPGRAL(配列番号10)及びIGPGRAF(配列番号11)からなる群より選択される1以上のアミノ酸配列であることを特徴とする、試験法。配列表