タイトル: | 公開特許公報(A)_環境ストレス耐性を付与する方法 |
出願番号: | 2005369610 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A01H 1/00,C12N 15/09 |
小川 健一 逸見 健司 近藤 聡 服部 悦子 光川 典宏 JP 2007166986 公開特許公報(A) 20070705 2005369610 20051222 環境ストレス耐性を付与する方法 トヨタ自動車株式会社 000003207 岡山県 591060980 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 小川 健一 逸見 健司 近藤 聡 服部 悦子 光川 典宏 A01H 1/00 20060101AFI20070608BHJP C12N 15/09 20060101ALI20070608BHJP JPA01H1/00 AC12N15/00 A 10 OL 11 2B030 4B024 2B030AA02 2B030AB03 2B030AD04 2B030CA14 2B030CA16 2B030CA17 2B030CB02 2B030CD10 4B024AA08 4B024BA08 4B024BA10 4B024CA04 4B024CA05 4B024CA06 4B024CA11 4B024DA01 4B024GA11 4B024GA17 4B024GA25 4B024HA08 4B024HA20 本発明は、例えばグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制することにより、植物に環境ストレス耐性を付与する方法に関する。 グルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下、「GST」という)は、薬物や内因性の種々の求核性化合物にグルタチオンを転移し、グルタチオン抱合を行う、グルタチオン転移酵素である。また、GSTはグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有し、グルタチオンペルオキシダーゼにも分類される。GSTは、除草剤等の生体異物や生体内の過酸化物を無毒化する能力及びグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有することに起因して活性酸素を消去する能力を有することが知られている。 これまでに、植物体にGST遺伝子やグルタチオンペルオキシダーゼを過剰発現させることにより、植物体に各種環境ストレス耐性を付与できることが知られている。例えば、特許文献1には、イネGST遺伝子をイネに導入し、当該GST遺伝子を過剰発現させることにより低温耐性をイネに付与することが開示されている。一方、特許文献2には、真核藻類由来のグルタチオンペルオキシダーゼ様タンパク質をコードする遺伝子を植物に導入し、当該遺伝子を発現させることで植物のストレス耐性を向上させることが開示されている。しかしながら、このようなGST遺伝子やグルタチオンペルオキシダーゼを過剰発現させることによって植物に付与できる環境ストレス耐性には限界がある。 一方、これまでに、GST遺伝子の発現を抑制することにより、植物に環境ストレス耐性を付与する方法は知られていなかった。特開2001-231574号公報特開2005-73505号公報 本発明は、上述した実情に鑑み、GST遺伝子の発現を抑制することにより、植物に環境ストレス耐性を付与する方法を提供することを目的とする。 上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定のGST遺伝子の発現を抑制することにより、植物に環境ストレス耐性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は以下を包含する。 (1)植物において1以上のグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、植物への環境ストレス耐性付与方法。 (2)上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が活性酸素処理により遺伝子発現量が増加するグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする、(1)記載の方法。 (3)上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子がPhi型及び/又はTau型であることを特徴とする、(2)記載の方法。 (4)上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が塩処理により遺伝子発現量が増加するグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする、(1)記載の方法。 (5)上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子がTau型であることを特徴とする、(4)記載の方法。 (6)上記Phi型グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする、(3)記載の方法。 (a) 配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質 (b) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質 (7)上記Tau型グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする、(3)又は(5)記載の方法。 (a) 配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質 (b) 配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質 (8)上記植物がアブラナ科に属する植物であることを特徴とする、(1)記載の方法。 (9)上記アブラナ科に属する植物がシロイヌナズナであることを特徴とする、(8)記載の方法。 (10)上記環境ストレス耐性が活性酸素耐性及び/又は塩耐性であることを特徴とする、(1)記載の方法。 本発明によれば、GST遺伝子の発現を抑制することにより、植物に環境ストレス耐性を付与することができる。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明に係る植物への環境ストレス耐性付与方法は、植物において1以上のGST遺伝子の発現を抑制し、植物を生育させることで、環境ストレス耐性を植物に付与する方法である。 ここで、GSTとは、グルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有する酵素を意味する。グルタチオンS-トランスフェラーゼ活性は、例えば薬物や内因性の種々の求核性化合物にグルタチオンを転移し、グルタチオン抱合を行う活性をいう。例えば、Method Enzymol. 77, 735-740, 1981記載の方法に準じ、1-chloro-2,4-dinitrobenzene(CDNB)を基質に用いて340nmの吸光度変化から算出することによって、GSTのグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を測定することができる。一方、グルタチオンペルオキシダーゼ活性とは、還元型グルタチオンを利用して、例えば過酸化水素や脂質ヒドロペルオキシドを還元し、水やヒドロキシ型脂質を生成する活性をいう。例えば、Biochem. Biophys. Res. Commun., 71, 952-958, 1976に記載の過酸化水素とクメンヒドロペルオキシドを基質に用いる方法によって、GSTのグルタチオンペルオキシダーゼ活性を測定することができる。 本発明において、発現抑制対象のGST遺伝子としては、ストレス処理により遺伝子発現量が増加する遺伝子が好ましく、特に、活性酸素処理により遺伝子発現量が増加するGST遺伝子、又は塩処理により遺伝子発現量が増加するGST遺伝子が好ましい。 活性酸素処理の方法として、例えば、過酸化水素処理を用いることができる。過酸化水素未処理の植物と比較して、過酸化水素処理した植物において、タンパク質レベル又はmRNAレベルで有意に(1.5倍〜100倍、好ましくは2倍〜100倍)遺伝子発現量が増加したGST遺伝子を、上述した活性酸素処理により遺伝子発現量が増加するGST遺伝子とみなすことができる。このような活性酸素処理により遺伝子発現量が増加するGST遺伝子の例としては、Phi型GST遺伝子、Tau型GST遺伝子などが挙げられる。 一方、塩処理としてNaCl処理を用いることができる。例えば、塩未処理の植物と比較して、塩処理した植物において、タンパク質レベル又はmRNAレベルで有意に(1.3倍〜10倍、好ましくは1.5倍〜10倍)遺伝子発現量が増加したGST遺伝子を、上述した塩処理により遺伝子発現量が増加するGST遺伝子とみなすことができる。このような塩処理により遺伝子発現量が増加するGST遺伝子の例としては、Tau型GST遺伝子などが挙げられる。 上述したPhi型GST遺伝子としては、例えばPlant Molecular Biology, 49, p.515-532, 2002に記載のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のAtGSTF8(GST6)遺伝子(GenBank登録番号:AF288176、cDNA:配列番号1、アミノ酸配列:配列番号2)及びAtGSTF6遺伝子(GenBank登録番号:D17672)、その他に、カラシナ(Brassica juncea)由来のglutathione S-transferase 1(GSTF1)遺伝子(GenBank登録番号:AY299476)、タバコ(Nicotiana tabacum)由来のGlutathione S-transferase APIC遺伝子(GenBank登録番号:D29680)、トウガラシ(Capsicum chinense)由来のglutathione S-transferase GST1遺伝子(GenBank登録番号:AJ879121)及びシラタマソウ(Silene vulgaris)由来のglutathione S-transferase(GenBank登録番号:M84968)等が挙げられる。 一方、上述したTau型GST遺伝子としては、例えばPlant Molecular Biology, 49, p.515-532, 2002、Plant Physiol., 135, 1679-1709, 2004やFEBS Letter, 5563, 427-432, (2003)に記載のシロイヌナズナ由来のAtGSTU5(AT103-1a、GST1)遺伝子(GenBank登録番号:AF144382、cDNA:配列番号3(ただしCDSは第47番目〜第721番目の塩基から成る)、アミノ酸配列:配列番号4)、イネ由来のOsGSTU3遺伝子(GenBank登録番号:AY271620)及びOsGSTU4遺伝子(GenBank登録番号:AY271619)、その他に、ダイズ(Glycine max)由来のglutathione S-transferase GST 13遺伝子(GenBank登録番号:AF243368)及びハギクソウ(Euphorbia esula)由来のGST遺伝子(GenBank登録番号:AF239928)等が挙げられる。 また、上記に列挙したGST遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列)において、1又は数個(例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も、本発明における発現抑制対象のGST遺伝子に含まれる。 さらに、上記に列挙したGST遺伝子(例えば、配列番号1又は3に記載の塩基配列)と相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明における発現抑制対象のGST遺伝子に含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えばリン32で標識したプローブDNAを用いる場合には、5 X SSC(0.75M NaCl、0.75Mクエン酸ナトリウム)、5 X デンハルト試薬(0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ウシ血清アルブミン)及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から成るハイブリダイゼーション溶液中で、温度が45℃〜68℃、好ましくは60℃〜68℃である。また洗浄ステップにおいては、2 X SSC及び0.1%SDSから成る洗浄溶液中で温度が45℃〜55℃、より好ましくは0.1 X SSC及び0.1%SDSから成る洗浄溶液中で温度が45℃〜55℃である。AlkPhos direct labeling module(アマシャムバイオテク)のキットを用いて酵素標識したプローブDNAを用いる場合には、該キットのマニュアルに記載されている組成のハイブリダイゼーション溶液(0.5M NaCl及び4%ブロッキング試薬を含む)中で温度が55℃〜75℃である。また洗浄ステップにおいては、該キットのマニュアルに記載されている一次洗浄液(2M 尿素を含む)中で55℃〜75℃、かつ二次洗浄液中で室温である。また、他の検出法であってもよく、その場合にはその検出法の標準的な条件であってよい。 本発明における対象植物は、上述したGST遺伝子を有するものであればいずれの植物であってよく、例えば、アブラナ科(シロイヌナズナ、ナタネなど)、イネ科(イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays)など)、ナス科(タバコ(Nicotiana tabacum)など)、マメ科(ダイズ(Glycine max)など)、アカザ科、バラ科、キク科、ユリ科、ナデシコ科、ウリ科、ヒルガオ科等に属する植物が挙げられる。特にアブラナ科(シロイヌナズナ、ナタネなど)に属する植物が好ましい。 環境ストレスは、生体内の活性酵素分子種(スーパーオキシドラジカル: O2-、過酸化水素:H2O2、ヒドロキシラジカル:・OH)の発生と密接に関係している。そこで、本発明において植物に付与することができる環境ストレス耐性としては、活性酸素耐性及び塩耐性に限らず、例えば低温耐性、乾燥耐性、大気汚染物質耐性、病害抵抗性、除草剤等の農薬耐性が挙げられる。特に活性酸素耐性及び/又は塩耐性を植物に付与することができる。 本発明においては、植物において上述した1以上のGST遺伝子の発現を抑制する。ここで、GST遺伝子発現抑制とは、GST遺伝子発現をmRNAレベル又はタンパク質レベルで抑制すること、あるいはGSTのグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を抑制することを意味する。mRNAレベルでのGST遺伝子発現抑制は、例えばGST遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT-PCR、定量的PCR、ノーザンハイブリダイゼーション等によってGST遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより評価することができる。タンパク質レベルでのGST遺伝子発現抑制は、例えばGSTに特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッテイング等の免疫学的方法により、GSTタンパク質量を測定することにより評価することができる。また、GSTのグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性の抑制は、上記に説明した方法に準じて、それぞれグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を測定し、評価することができる。 本発明では、mRNAレベル若しくはタンパク質レベル、又はグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/若しくはグルタチオンペルオキシダーゼ活性において、GST遺伝子発現抑制に供した植物が、陰性対照の植物と比較して、有意(例えば、1/5以下、好ましくは1/10以下)に対象GST遺伝子の発現を抑制するか、あるいは対象GST遺伝子の発現を欠失させる。 GST遺伝子発現を抑制する方法としては、例えばGST遺伝子を破壊する方法、GST遺伝子の発現を転写レベル又は翻訳レベルで低下させる方法、並びにGSTのグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を低下させる方法が挙げられる。 GST遺伝子を破壊する方法としては、例えば、T-DNAの挿入、トランスポゾンの挿入、速中性子線照射、イオンビーム照射、EMSなどの化学変異剤処理等により植物の発現抑制対象のGST遺伝子に変異又は欠失を導入し、ノックアウト変異体を作製する方法が挙げられる。なお、例えばNottingham Arabidopsis Stock Center (http://nasc.nott.ac.uk/)より入手可能なT-DNAが挿入されたシロイヌナズナGST遺伝子ノックアウト変異体など、入手可能なGST遺伝子ノックアウト変異体を使用しても良い。 また、GST遺伝子の発現を転写レベル又は翻訳レベルで低下させる方法としては、例えば、アンチセンスRNAを用いる方法、RNAi(RNA interference)、速中性子線照射、イオンビーム照射、EMSなどの化学変異剤処理等が挙げられる。 さらにGSTのグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を低下させる方法としては、例えばGSTに対する抗体を用いてグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を低下させる方法等が挙げられる。 次いで、GST遺伝子発現抑制に供した植物を生育させることで、環境ストレス耐性植物を得ることができる。環境ストレス耐性の評価方法として、例えば活性酸素耐性に関しては、パラコート処理方法を用いることができる。パラコートは、光化学系で活性酸素を連続的に発生させ、全ての植物を枯死させる非選択性で、且つ強力な除草剤である。例えば、パラコート含有培地において、GST遺伝子発現抑制に供していない植物と比較して、GST遺伝子発現抑制に供した植物が、有意に生育した場合には、活性酸素耐性を植物に付与できたと判断することができる。あるいは、例えば、塩耐性については、NaCl等の塩を添加した培地において、GST遺伝子発現抑制に供していない植物と比較して、GST遺伝子発現抑制に供した植物が、例えば主根長の生育において有意に生育した場合には、塩耐性を植物に付与できたと判断することができる。 以上に説明したように、本発明によれば、環境ストレス耐性を植物に付与することができる。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕 シロイヌナズナGSTノックアウト変異体に対するパラコート耐性評価(1) グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)遺伝子の選択 活性酸素処理により発現量が増加するGST遺伝子(Plant Molecular Biology, 49, p.515-532, 2002)の内、植物に特異的なPhi型のGST遺伝子から、シロイヌナズナ由来のAtGSTF8(GST6)遺伝子(AGIコード:At2g47730)(cDNA配列:配列番号1、アミノ酸配列:配列番号2)を選択した。 また、塩処理により発現量が増加するGST遺伝子(Plant Physiol., 135, 1679-1709, 2004)として、植物に特異的なTau型のGST遺伝子から、シロイヌナズナ由来のAtGSTU5遺伝子(AGIコード:At2g29450)(cDNA配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)を選択した。(2) シロイヌナズナのT-DNAタグライン 選択したシロイヌナズナAtGSTF8(GST6)遺伝子(AGIコード:At2g47730)又はAtGSTU5遺伝子(AGIコード:At2g29450)にT-DNAが挿入された各シロイヌナズナGST遺伝子ノックアウト変異体は、各々Nottingham Arabidopsis Stock Center (http://nasc.nott.ac.uk/)より入手したSALK_039887、SALK_107148を用いた。(3) シロイヌナズナGSTノックアウト変異体に対するパラコート耐性評価 2μMのパラコート(METHYL VIOLOGEN:SIGMA社製)を含む1/2MS培地(和光純薬工業社製 ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類(Murashige and Skoog Plant Salt Mixture)を半量、チアミン塩酸塩1.5mg/l、ニコチン酸2.5mg/l、ピリドキシン塩酸塩0.25mg/l、ショ糖濃度1.5%、寒天1%)とパラコート非含有1/2MS培地とに、上記(2)で説明したGSTノックアウト変異体(以下、「GST-KO」という)又は野生種(Arabidopsis thaliana ecotype Columbia (Col-0))の種を無菌播種し、22℃、60μmol/m2/s照明下(16時間明期/8時間暗期のサイクル)で2週間培養した。培養後、発芽した個体の成育を評価した。発芽した個体の写真を図1A及びBに示す。 図1Aは、パラコート非含有1/2MS培地で生育した個体の写真である。一方、図1Bは、パラコートを含む1/2MS培地で生育した個体の写真である。図1A及びBにおいて、上段の点線で囲んだ箇所の個体が野生種であり、中段の点線で囲んだ箇所の個体がAtGSTF8(GST6)遺伝子をノックアウトしたGST-KO(以下では、「GST-KO(AtGSTF8)」という)であり、下段の点線で囲んだ箇所の個体がAtGSTU5遺伝子をノックアウトしたGST-KO(以下では、「GST-KO(AtGSTU5)」という)である。 図1Bから判るように、パラコートを含む1/2MS培地では、野生種の成長が著しく阻害され、白化した。それに対して、GST-KOの芽生えは生育することが可能であった。また、GST-KO(AtGSTF8)よりも、GST-KO(AtGSTU5)の耐性が強いことが観察された。以上の結果より、GST-KOは、野生種よりもパラコートに対する耐性を有することが確認できた。 一方、図1Aに示すように、パラコート非含有1/2MS培地では、GST-KOは野性種と同様の成長を示した。〔実施例2〕シロイヌナズナGSTノックアウト変異体に対する塩耐性評価 本実施例では、GST-KOの塩耐性を評価するために、塩を含む培地上で種子を発芽させ、発芽状態の観察と主根長の測定を行った。 培地は、角型シャーレ(メーカー:栄研、型番:AW2000)に、0 mM、100 mM、150 mMのNaClを含む50mlの寒天培地(1/2MS、和光純薬工業社製 ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類(Murashige and Skoog Plant Salt Mixture)、pH 5.7、ショ糖濃度1.0%、寒天1%)を入れ、準備した。 GST-KOとしては、実施例1と同様にGST-KO(AtGSTF8)及びGST-KO(AtGSTU5)を用い、野生種(Col-wt)はArabidopsis thaliana ecotype Columbia (Col-0)であった。 GST-KO(AtGSTF8)、GST-KO(AtGSTU5)及び野生種(Col-wt)の種子を、滅菌後に各系統につき8粒を横一列に播種し、パラフィルムによりシャーレの蓋をシールした。次いで、シャーレを垂直に立てかけて22℃、60μmol/m2/s照明下(16時間明期/8時間暗期のサイクル)で栽培した。栽培6日後に、ノギスで主根長を測定し、塩耐性を評価した。 栽培後の各個体の写真を図2に示す。また、各個体の主根長の測定結果を図3に示す。図2において、それぞれ上段が0 mM NaCl、中段が100mM NaCl、下段が150 mM NaClを含む培地で生育した個体である。また、左欄がGST-KO(AtGSTF8)であり、中欄が野生種であり、右欄がGST-KO(AtGSTU5)である。図3では、生育に使用した培地中の塩濃度に対する各個体(野生種、GST-KO(AtGSTU5)及びGST-KO(AtGSTF8))の主根長(mm)の測定結果を示す。図3におけるエラーバーは、標準偏差を示す。 図2から判るように、NaClを含まない培地(0 mM NaCl)では、2種のGST-KO系統(GST-KO(AtGSTU5)及びGST-KO(AtGSTF8))と野生種の生育状態に差は観察されないが、100 mM又は150 mMのNaClを含む培地では、GST-KOよりも野生種において子葉の展開、主根の伸長が強く阻害されていた。 また図3から判るように、発芽種子の主根長の測定結果からは、100 mM NaCl含有培地で栽培した場合に特に大きな差が見られ、野生種の主根長は5.17±3.12 mmだったのに対し、GST-KO(AtGSTU5)では15.42±5.08 mm、GST-KO(AtGSTF8)では13.89±3.58 mmであった。このように、塩を含む培地での主根の伸長は野生種よりもGST-KOのほうが良好であった。 これらの結果より、GST-KOは、野生種より塩に対する耐性が明らかに高いという評価結果が得られた。図1Aは、実施例1においてパラコート非含有1/2MS培地で生育した個体の写真を示す。図1Bは、実施例1においてパラコートを含む1/2MS培地で生育した個体の写真を示す。図2は、実施例2において塩を含む培地上で種子を発芽させた個体の写真を示す。図3は、実施例2において塩を含む培地上で種子を発芽させた各個体の主根長の測定結果を示す。 植物において1以上のグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、植物への環境ストレス耐性付与方法。 上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が活性酸素処理により遺伝子発現量が増加するグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする、請求項1記載の方法。 上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子がPhi型及び/又はTau型であることを特徴とする、請求項2記載の方法。 上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が塩処理により遺伝子発現量が増加するグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子であることを特徴とする、請求項1記載の方法。 上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子がTau型であることを特徴とする、請求項4記載の方法。 上記Phi型グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項3記載の方法。 (a) 配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質 (b) 配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質 上記Tau型グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子が以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項3又は5記載の方法。 (a) 配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質 (b) 配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性及び/又はグルタチオンペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質 上記植物がアブラナ科に属する植物であることを特徴とする、請求項1記載の方法。 上記アブラナ科に属する植物がシロイヌナズナであることを特徴とする、請求項8記載の方法。 上記環境ストレス耐性が活性酸素耐性及び/又は塩耐性であることを特徴とする、請求項1記載の方法。 【課題】植物に環境ストレス耐性を付与する方法を提供する。【解決手段】植物において1以上のグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子の発現を抑制する。【選択図】なし配列表