タイトル: | 公開特許公報(A)_インフルエンザウイルス感染阻害方法 |
出願番号: | 2005344531 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61P 31/16,A61P 31/12,C07K 7/08 |
佐藤 智典 松原 輝彦 JP 2007145777 公開特許公報(A) 20070614 2005344531 20051129 インフルエンザウイルス感染阻害方法 株式会社グライコメディクス 504322471 一色国際特許業務法人 110000176 佐藤 智典 松原 輝彦 A61K 38/00 20060101AFI20070518BHJP A61P 31/16 20060101ALI20070518BHJP A61P 31/12 20060101ALI20070518BHJP C07K 7/08 20060101ALN20070518BHJP JPA61K37/02A61P31/16A61P31/12 171C07K7/08 24 OL 20 4C084 4H045 4C084AA02 4C084AA03 4C084BA01 4C084BA02 4C084BA18 4C084BA23 4C084CA01 4C084CA53 4C084DC50 4C084MA01 4C084MA13 4C084MA17 4C084MA22 4C084MA59 4C084MA63 4C084MA66 4C084NA05 4C084NA14 4C084ZB332 4C084ZC612 4H045AA10 4H045AA20 4H045AA30 4H045BA17 4H045EA20 4H045EA28 4H045FA74 本発明は、インフルエンザウイルス感染阻害剤及びそれを用いたインフルエンザウイルス感染阻害方法、並びにインフルエンザ予防・治療剤及びそれを用いたインフルエンザ予防・治療方法に関する。 インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)に属し、蛋白質とリン脂質からなる膜(エンベロープ)を有し、遺伝子としてRNAを有する、粒子径80〜120nmのウイルスである。インフルエンザウイルスは、その膜上に存在するヘマグルチニン(HA)を通じ、宿主細胞表面上にあるシアル酸含有糖鎖を受容体として特異的に結合し、エンドサイトーシスによって、細胞内に導かれる。また、インフルエンザウイルス膜上にある、もう一つの糖タンパク質であるシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)は、宿主細胞からウイルス粒子が出芽又は遊離する際に、自らのシアル酸残基又は宿主細胞受容体のシアル酸残基を切断する。このように、細胞表面にある糖は、宿主細胞へのウイルス感染や宿主細胞からのウイルス放出に重要な役割を果たしている。 現在、インフルエンザウイルス感染の予防薬としては、主にインフルエンザワクチンが用いられている。しかし、現行ワクチンの感染防御効果や発症阻止効果は完全ではなく、ワクチン接種を受けてもインフルエンザに罹患する場合がある。その上、HAは突然変異率が高く、既存ワクチンに抵抗性のあるウイルスが生じやすい。 また、インフルエンザウイルス感染治療薬としては、インフルエンザウイルスの膜タンパク質であるノイラミニダーゼ阻害剤が使用されている。ノイラミニダーゼ阻害剤は、インフルエンザウイルスが宿主細胞内で増殖した後に、細胞外へ放出するのを抑制する作用を有する。従って、ノイラミニダーゼ阻害剤は、予防薬としての効果はなく、その上、インフルエンザウイルスに感染してから1日〜2日以内に投与する必要があるため、その適用は限られていた。 そこで、本発明者らは、インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染する際に、インフルエンザウイルスの膜に存在するヘマグルチニンと宿主細胞に存在するヘマグルチニン受容体であるシアル酸含有糖鎖とが結合することを利用し、ヘマグルチニン結合ペプチドあるいはヘマグルチニン受容体結合性ペプチドを競合させて、インフルエンザウイルスが細胞内へ侵入するのを防ぐことにより、インフルエンザ感染を抑制する方法を開発した(例えば、特許文献1及び2参照。)。特開2002-284798号公報WO2005/084694 A1 本発明は、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を増強する方法、並びにそれを利用したインフルエンザウイルス感染阻害剤及びインフルエンザ予防・治療剤を提供することを目的とする。 上述の通り、インフルエンザウイルスはその膜上に存在するHAを通じ、宿主細胞表面上にあるシアル酸含有糖鎖を受容体として特異的に結合し、宿主細胞に感染する。本発明者らは、まず、インフルエンザウイルス受容体であるシアル酸含有糖鎖を構成するガングリオシドGM3(NeuAcα2→3Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)に結合する、アミノ酸残基数が15個のペプチドを、ランダムペプチドライブラリーを用いたファージディスプレイ法により同定した。そして、得られたガングリオシドGM3結合性ペプチドについて鋭意検討を行い、このペプチドがガングリオシド6’GM3(NeuAcα2→6Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)に結合できること、宿主細胞膜上のHAの受容体をブロックし、インフルエンザウイルスのHA受容体結合を阻害できること、このペプチドをアルキル化させて液体中で自己ペプチド集合体を形成させることにより、インフルエンザウイルスのHA受容体結合の阻害効果を非常に増強させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。 本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害剤は、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤であって、前記ペプチドが両親媒性を有するように修飾されて、自己ペプチド集合体を形成していることを特徴とする。ここで、前記修飾は、例えば、アルキル化であることが好ましい。 前記ペプチドは、例えば、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることが好ましい。 また、前記ペプチドは、例えば、以下の(a)又は(b)のペプチドであることが好ましい。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド。 (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド。 なお、前記自己ペプチド集合体は、例えば、直径100nm以上の大きさであることが好ましい。 また、本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害方法は前記いずれかに記載のインフルエンザウイルス感染阻害剤をヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与することを含む。ここで、前記脊椎動物は、例えば、トリ又はブタであることを特徴とする。 さらに、本発明にかかるインフルエンザ予防・治療剤は、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有するインフルエンザ予防・治療剤であって、前記ペプチドが両親媒性を有するように修飾されて、自己ペプチド集合体を形成していることを特徴とする。ここで、前記修飾は、例えば、アルキル化であることが好ましい。 前記ペプチドは、例えば、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることが好ましい。 また、前記ペプチドは、例えば、以下の(a)又は(b)のペプチドであることが好ましい。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド。 (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド。 なお、前記自己ペプチド集合体は、例えば、直径100nm以上の大きさであることが好ましい。 また、本発明にかかるインフルエンザ予防・治療方法は、前記いずれかに記載のインフルエンザ予防・治療剤をヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与することを含む。ここで、前記脊椎動物は、例えば、トリ又はブタであることを特徴とする。 さらに、本発明にかかるインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を増強する方法は、両親媒性を有するように前記ペプチドを修飾する工程と、前記ペプチドを凝集させる工程を含むことを特徴とする。ここで、前記修飾は、例えば、アルキル化であることが好ましい。 前記ペプチドは、例えば、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることが好ましい。 また、前記ペプチドは、例えば、以下の(a)又は(b)のペプチドであることが好ましい。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド。 (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド。 なお、前記ペプチドは、直径100nm以上の大きさであることが好ましい。 また、本発明にかかる自己ペプチド集合体は、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有する自己ペプチド集合体であって、両親媒性を有するように前記ペプチドが修飾されていることを特徴とする。ここで、前記修飾は、例えば、アルキル化であることが好ましい。 前記ペプチドは、例えば、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることを特徴とする。 また、前記ペプチドは、例えば、以下の(a)又は(b)のペプチドであることが好ましい。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド。 (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド。 なお、前記自己ペプチド集合体は、直径100nm以上の大きさであることが好ましい。 なお、本明細書において、自己ペプチド集合体とは、溶液中にて自然に凝集する直径数百nm〜数μmのペプチド凝集体をいい、リポソーム(膜を構成するもの)やミセル(疎水基を内側に向け、親水基を外側に並べて球の形状を示すもの)は含まれない。 また、本明細書において、シアリルガラクトース基とは、シアル酸−ガラクトースの構造を有する基をいい、シアリルガラクトース基結合性ペプチドとは、このシアリルガラクトース基に結合するペプチドをいう。 本発明により、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を増強する方法、並びにそれを利用したインフルエンザウイルス感染阻害剤及びインフルエンザ予防・治療剤を提供することができる。 実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。 なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。==薬理作用== 本発明にかかるインフルエンザウイルス感染阻害剤及びインフルエンザ感染予防・治療剤は、自己ペプチド集合体を形成しているインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有する。ここで、このペプチドは、例えば、インフルエンザウイルス受容体を構成するガングリオシドGM3又は6’ガングリオシドGM3に結合するペプチドとすることができる。 インフルエンザウイルスが宿主細胞に感染する場合、宿主細胞表面に存在するシアリルガラクトース基を含むシアル酸含有糖鎖がインフルエンザウイルス受容体として機能することが知られている。従って、この受容体に対するインフルエンザウイルスの結合を競合阻害するようなペプチドを宿主細胞に投与すると、インフルエンザウイルスが宿主細胞に侵入することを阻害できる。特に、ガングリオシドGM3(NeuAcα2→3Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)は、インフルエンザウイルス受容体(NeuAcα2→3Galβ1→4Glcβ1→NAc)の主要部分を構成するため、ガングリオシドGM3に結合するペプチドは、インフルエンザウイルス受容体に対する、インフルエンザウイルスの結合を競合阻害することができる。従って、これらのペプチドを含む薬剤をヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与すると、インフルエンザウイルスの宿主細胞内への侵入を阻害することができる。 また、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドの修飾は、ヘマグルチニンとインフルエンザウイルス受容体との結合を立体的に障害するので、さらに効率よくインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を阻害することができると考えられる。 インフルエンザウイルスは、内部可溶性S抗原により、A型(ヒト、ブタ、ウマ、トリ、アザラシ、クジラ)、B型(ヒト)、C型(ヒト、ブタ)の3種類に分類される。さらにヘマグルチニン(HA)は、その抗原性により亜型に分類される。例えば、インフルエンザウイルスA型の場合、ヘマグルチニンの亜型は、H1,H2,H3,H5(宿主がヒトの場合)、H1,H3(宿主がブタの場合)、H3,H7(宿主がウマの場合)、H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8,H9,H10,H11,H12,H13,H14,H15(宿主がトリの場合)、H4,H7(宿主がアザラシの場合)に分類される。 一方、ヒトインフルエンザウイルスが感染するとされる気管上皮細胞では、その受容体は主にシアル酸α2-6ガラクトース(NeuAcα2→6Galβ1)を有し、アヒルでインフルエンザウイルスがよく増殖する腸管上皮細胞では、その受容体は主にシアル酸α2-3ガラクトース(NeuAcα2→3Galβ1)を有する。トリから分離されたウイルスはシアル酸α2-3ガラクトースに選択的に結合するのに対し、ヒトから分離されたウイルスはシアル酸α2-6ガラクトースに対して選択的に結合するため、これら受容体の違いが、宿主間での感染特異性を決める原因の一つであると考えられている。なお、ブタの呼吸器上皮にはシアル酸α2-3ガラクトース及びシアル酸α2-6ガラクトースがともに存在していることが知られている。 このように、インフルエンザウイルスには多数の亜型が存在するが、宿主特異性は、主に受容体側の構造に拠っている。以下の実施例に示す通り、本発明のインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドは、ガングリオシドGM3(NeuAcα2→3Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)及びガングリオシド6’GM3(NeuAcα2→6Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)の両方に結合できるため、インフルエンザの型やヘマグルチニンの亜型、宿主動物の種類を問わず、インフルエンザウイルスの宿主細胞内への感染を阻害できる。==インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドの作製== 本発明に用いられるインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドは、以下の実施例に記載するように、例えばファージディスプレイを用いたスクリーニングによって単離することができる。特に配列番号1〜7及び9のいずれかを有するようなGM3結合性ペプチド(表1及び2を参照のこと)は、ペプチドの配列が分かっているため、公知の液相法及び固相法ペプチド合成法により合成することができる。あるいは、細胞内でペプチドを発現させることにより製造してもよい。すなわち、これらのペプチドをコードするDNAを発現ベクターに組み込み、その組換えベクターを大腸菌に導入して、ペプチドを発現させ、その大腸菌を破砕することにより、ペプチドの粗抽出物が得られる。 このようにして得られたペプチドは、公知の精製方法(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等)を用いて精製できる。 なお、配列番号1〜7及び9に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加したアミノ酸配列からなるペプチドであって、インフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチドであれば、本発明に用いることができる。==インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドの自己ペプチド集合体== インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドは、インフルエンザウイルス感染阻害剤としてそのまま用いてもよいが、自己ペプチド集合体を形成させることによって、さらに効率よくインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を阻害することができる。 この際、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを修飾し、親水性と疎水性の性質を兼ね備える両親媒性の化合物を作製することにより、自己ペプチド集合体を形成しやすくすることができる。例えば、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドをアルキル化することにより、両親媒性の化合物を作製することができる。インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドをアルキル化するには、例えば、インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドのC末端カルボキシル基にアルキルアミンを結合させるか、又はアミド結合形成反応によりN末端アミノ基に脂肪酸を結合させればよい。C末端に結合させるアルキルアミンは、特に限定されないが、例えば、炭素数2から20からなるアルキルアミンが挙げられる。また、N末端アミノ基へ脂肪酸を結合させる場合、脂肪酸の種類は特に限定されないが、生体内に存在する脂肪酸が好ましく、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸など、炭素数が12〜20程度の脂肪酸が挙げられる。最も好ましい脂肪酸は、炭素数18のものであり、例えば、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、又はオレイン酸、エライジン酸、リノール酸もしくはリノレン酸等の不飽和脂肪酸等である。 インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチド、もしくは両親媒性に修飾されたインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドは、液体中において臨界濃度に達すると凝集して、自己ペプチド集合体を形成する。すなわち、所定の濃度以上のインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを溶液中で懸濁させることにより、自己ペプチド集合体を形成させることができる。その場合、例えば、以下の実施例に記載の通り、ガングリオシドGM3結合性ペプチドの濃度を1×10-7M以上にすることにより、自己ペプチド集合体の直径が100nm以上となり、ミセルより大きい直径のペプチド集合体とすることができる。従って、自己ペプチド集合体の直径が100nm以上となるようなインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチド濃度を設定することが好ましい。また、自己ペプチド集合体の直径を200nm以上にするようにインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドの濃度を設定する方がより好ましい。このようなインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドの自己ペプチド集合体の形成は、ヘマグルチニンと宿主細胞に存在するインフルエンザウイルス受容体との結合を立体的に障害するためにも効果的であると考えられる。なお、自己ペプチド集合体の直径は、例えば、光強度分布(intensity PSD)を用いて測定することができる。==製剤化== 自己ペプチド集合体を形成したインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドは、以下の実施例に記載するように、インフルエンザウイルス感染阻害活性を有するため、インフルエンザウイルス感染阻害剤の有効成分となり得る。この自己ペプチド集合体を形成したインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤に、添加剤として、防腐剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、吸収促進剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の各種の公知物質を適宜配合してもよい。添加剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン等)、チメロサール等の真菌及び細菌に有効な防腐剤、D−マンニトール、D−ソルビトール、D−キシリトール、グリセリン、ブドウ糖、マルトース、ショ糖、プロピレングリコール等の多価アルコール類や塩化ナトリウム等の等張化剤、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、システイン等の安定化剤が挙げられる。 本剤の剤型としては、経口剤として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、シロップ剤、腸溶剤、徐放性カプセル、徐放性錠・徐放性顆粒、カシュー剤、咀嚼錠剤、ドロップ剤、内用液剤、菓子錠剤等が、注射剤として、例えば、溶液性注射剤、乳濁性注射剤、又は固形注射剤等が、外用剤として、例えば、エアゾール、点鼻剤、吸入剤等が挙げられるが、注射剤や外用剤が好ましい。 また、本剤は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤等を含んでいてもよい。例えば液剤の場合、担体としては、精製水(滅菌水)又は生理学的緩衝液、等張液等が挙げられるが、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような有機エステル等を使用してもよい。==投与形態== 本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、医薬組成物として、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に対し、種々の形態で投与することができる。投与経路としては、経口投与又は非経口投与があり、具体的には、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、腹腔内投与、気管内投与、吸入投与、舌下投与等が挙げられるが、これらに限定されない。 例えば、ヒトインフルエンザウイルスは、口腔や鼻腔から侵入し、主に上気道の粘膜上皮細胞で増殖することが知られているので、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、医薬組成物として、ヒトインフルエンザウイルスが感染するヒト又はヒト以外の脊椎動物に対し、経口、気管内、鼻、口腔咽頭、吸入等の投与経路で使用されることが好ましい。具体的には、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤をスプレー、(噴霧式)エアゾール又は吸入剤として製剤化すれば、本剤を経口、気管内、鼻、口腔咽頭、吸入等の投与経路を通じて投与することができ、インフルエンザウイルスの気道上皮細胞への感染を直接阻害することができる。 なお、ヒト以外の脊椎動物の例としては、例えば、ヒト、トリ、ブタ、イヌ、ネコ、ウマ、アザラシ、クジラ、ヒョウ又はトラ等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの脊椎動物に経口投与する場合、水や飼料に本剤を混合して摂取させてもよい。 本剤の投与量は、年齢、体重、又は適応症によって異なるが、上記薬理作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。==インフルエンザ予防剤及び治療剤== 本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、インフルエンザウイルスの宿主細胞内への侵入を阻害することにより、インフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を阻害する。従って、インフルエンザウイルス感染前のヒト又はヒト以外の脊椎動物に、本剤を投与することにより、インフルエンザの予防をすることができ、本剤をインフルエンザ予防剤として使用することができる。また、既にインフルエンザに罹患している脊椎動物に投与すると、体内で増殖したインフルエンザウイルスが新たに細胞に感染するのを抑制し、更なるインフルエンザウイルスの増殖が抑制されるため、インフルエンザの症状を緩和することができる。従って、本剤をインフルエンザ治療剤としても使用することができる。 また、本剤は、インフルエンザワクチンが使用できない場合、例えば、インフルエンザワクチンの効果が現れるまでに罹患の可能性があるハイリスク患者や、免疫不全者等ワクチンの効果が十分に現れない患者や、ワクチン接種が禁忌である患者に対しても使用可能である。 以下、実施例を用いて、以上に説明した実施態様を具体的に説明するが、これは例示であって、本発明をこの実施例に限定するものではない。(1)ガングリオシドGM3の入手 ガングリオシドGM3(NeuAcα2→3Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)は、雪印乳業(株)(日本)から入手した。また、ガングリオシドGM3のアナログであるガングリオシド6’GM3(NeuAcα2→6Galβ1→4Glcβ1→1’Cer)は文献(橋詰峰雄,東京工業大学,平成10年度学位論文)に記載の方法を用いて調製した。具体的には、(a2→6)GM3(O-5-acetoamido-3,5-dideoxy-D-glycero-a-D-galacto-2-nonulopyranosylonic acid- (2→6)-O-b-D-galactopyranosyl-(1→4)-O-b-D-glucopyranosyl-(1→1)-(2S,3R,4E)- 2-octadecanamide-4-octadecene-1,3-diol)は、文献(A. Hasegawa, M. Ogawa, and M. Kiso, Biosci. Biotech. Biochem. 56, 535-536 (1992), 長谷川 明, 木曽 真, 有機合成化学協会誌 50, 429-440 (1992))に従って合成した。なお、生成物の構造は1H-NMRとFAB-MASSにより確認した(1H-NMR (CDCl3 / CD3OD = 1 / 1): d0.9(t, 6H, 2MeCH2), 1.3(s, 50H, 25CH2), 2.0(s, 3H, AcN), 2.8(b, 1H, NeuAc H-3eq), 5.45(b, 1H, Sphingosine H-4), 5.7(b, 1H, Sphingosine H-5)、FAB-MASS:分子式 M=C59H108N2O21、理論値 MH+=1181.75228 (53.3%), 1182.75564(35.3%), 1183.75899 (11.5%)、測定値 MH+ =1181.75099)。(2)ガングリオシドGM3結合性ペプチドの単離 (i)ファージディスプレイライブラリーの調製 西、佐谷らの報告(Nishi T., Budde R. J., et al., FEBS Lett, 399, 237-240 (1996))に従って、ファージディスプレイライブラリー(2.5×108クローン)を作製した。具体的には、このファージディスプレイライブラリーは、NNK(Nはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)のいずれかの核酸を示し、Kはグアニン(G)、又はチミン(T)を示す。)が15回繰り返された塩基配列を含むDNAが遺伝子工学的に挿入され、さらに、外殻タンパク質pIII遺伝子のN末端部分に15残基のランダムなアミノ酸配列からなるペプチドをコードするDNAが挿入されることにより、ファージ外殻表面にランダムな15残基のアミノ酸配列を有するペプチドが発現できるように構築された繊維状のファージfdからなる。 (ii)ガングリオシド結合性ペプチドの選択 まず、ファージディスプレイ法に用いるガングリオシドGM3単分子膜を作製した。テフロン(登録商標)コートを施したトラフ(ラングミュアー型トラフFSD−110、USI社(日本))に、下層水としてトリス緩衝塩溶液(TBS)(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、pH 7.5)を入れ、次にマイクロシリンジを用いて0.5mg/mLのガングリオシドGM3を含む脂質溶液(クロロホルム/メタノール=2:1、v/v)をこの水面上に展開した。なお、この下層水の温度は、水循環式恒温槽CCM−2(池田理化社)で20℃に制御した。次に、10分以上乾燥させた後、10cm2/minのバリアー速度でガングリオシドGM3単分子膜を圧縮した。なお、ガングリオシドGM3は、表面圧が30mN/mに保持されるように、Wilhelmyプレート法によってモニターした。 次に、ガングリオシドGM3単分子膜に対するパニングを行った。上記の方法を用いて、ガングリオシドGM3単分子膜上にマイクロバランスとして知られている水晶発振子(9MHz、AT-cut、直径4.5mm、面積15.9mm2、昭和クリスタル社製)の金電極表面を付着させて、1ml TBS中で発振させ、安定したところで、(i)の方法によって作製したファージライブラリー溶液10μl(5.5×1010TU(2.5×108クローン))を加えた。15分後、ファージのガングリオシドGM3への結合が飽和に達したことを確認して、水晶発振子を引き上げた。なお、ファージのガングリオシドGM3単分子膜への結合過程は、水晶発振子の金電極表面の重量変化を周波数変化としてSC−7201UNIVERSAL COUNTER(岩崎通信機社)で計測し、この値をコンピューターに取り込んでモニターした。水晶発振子の金電極表面をTBSで3回洗浄し、この単分子膜に結合したファージを0.1NのGly-HClバッファー(pH 2.2)で15分間室温に放置して溶出させた。この溶出液を遠心濃縮用チューブに移し、1MのTris-HClバッファー(pH 9.1)を加えて中和し、その後、TBSを加えて総容量を2mlにメスアップした。このチューブを遠心(5000rpm、20分間)し、さらに約2mlのTBSを加え、再度遠心(5000rpm、20分間)することにより、バッファー交換とファージ溶液の濃縮を同時に行った。 得られたファージに大腸菌K91kan溶液100μlを加え、15分間室温で感染させた。15分後、あらかじめ37℃で保温しておいた0.2μg/mlテトラサイクリン(シグマ社)を含むNZY培地20mlにこの感染溶液を加えて、37℃で大腸菌を培養した。40分後、この溶液にテトラサイクリンのストック溶液(20mg/ml)20μlを加え(終濃度20μg/ml)、37℃で一晩振盪培養した。得られた培養液から、PEG/NaCl法によりファージを回収し、得られたファージ溶液の半分を用いて、再度パニングを行うことにより、ガングリオシドGM3に特異的に結合するファージを濃縮した。 このパニングを4回繰り返し、最終的にガングリオシドGM3に特異的に結合するファージクローンを27個獲得した。 (iii)ガングリオシドGM3結合性ペプチドのアミノ酸配列の決定 ガングリオシドGM3単分子膜に特異的に結合する27個のファージクローンのDNAをQIAprep Spin M13キット(QIAGEN社)を用いて精製した。次に、アマシャム社のTHERMO配列キット(Amersham Life Science, Code; US80765)、ABI社製のDNAシーケンサー(ABI PRISMTM310 Genetic Analyzer)を用いて、これらのDNAの配列を決定した。このように決定したDNA配列から、アミノ酸配列を決定した(表1)。得られたペプチドは、表1に示す通り、15個のアミノ酸を有していた(配列番号1〜7)。[表1] (3)ELISA法によるアフィニティーの測定 ガングリオシドGM3単分子膜に特異的に結合するファージクローンのアフィニティーを、ELISA法によって測定した。 まず、ポリスチレン製マルチウェルプレートに1%のBSA/TBSを1ml入れてブロッキングし、TBSで3回洗浄した。次に、(2)(ii)に記載した方法を用いて作製したガングリオシドGM3単分子膜をプラスチックプレート(直径13.5mm、住友ベークライト社)に水平に移し、このプラスチックプレートを24穴マルチプレートへ移した。次に、別の24穴マルチプレートへファージクローンを入れ(200μlのTBS中に0.01〜10nM)、4℃で30分間インキュベートした。その後、プラスチックプレートの裏側に対する非特異的な一次抗体及び二次抗体の結合を抑制するため、0.3mlの0.5%のBSA/TBSでブロッキングし、その後、0.5%のBSA/TBS(0.5ml)で2回洗浄した。次に、1:1000(v/v)希釈の抗fdバクテリオファージ抗体(Sigma、製品番号:B-7786)を加えて4℃で1時間インキュベートし、その後、1:1000(v/v)希釈のペルオキダーゼ結合抗ウサギIgG抗体(Sigma、製品番号:A-8275)を加えて4℃で1時間インキュベートした。最後に、o-フェニレンジアミンで発色させ、492nmの吸光度を測定した。なお、各実験は3回行い、コントロールには、野生型ファージ(以下、コントロールファージという)を用いた。 相対的アフィニティーは、492nmにおける吸光度の値を用いて、ファージクローンの最大吸光度(ΔAmax)/コントロールファージの最大吸光度(ΔAmax)として算出した(表1)。 表1に示す通り、単離した7つのファージクローンは、c01>c03>c15>c30>c07>c21=c11の順でガングリオシドGM3単分子膜に結合することが分かった。相対的アフィニティーは、1.1〜2.1であった。 さらに、ガングリオシドGM3単分子膜に結合能が強かった2つのファージクローン(クローンNo.c01(配列番号1に示されるペプチド)及びクローンNo.c03(配列番号2に示されるペプチド))を用いて、ガングリオシドGM3及びガングリオシド6’GM3に対する結合をELISA法で調べた。ELISA法は上記に示す通りであるが、使用する単分子膜にはガングリオシドGM3単分子膜(NeuAcα2→3Gal)、ガングリオシド6’GM3単分子膜(NeuAcα2→6Gal)を用いた。ガングリオシド6’GM3単分子膜の作製方法は(2)(ii)に記載の通りである。 その結果、図1に示す通り、クローンNo.c01は、ガングリオシドGM3単分子膜(NeuAcα2→3Gal)とガングリオシド6’GM3単分子膜(NeuAcα2→6Gal)に対して強いアフィニティーを有することがわかった。一方、クローンNo.c03は、ガングリオシドGM3単分子膜(NeuAcα2→3Gal)に対して強いアフィニティーを有しているが、ガングリオシド6’GM3単分子膜(NeuAcα2→6Gal)に対しては弱いアフィニティーしか示さなかった。 (4)各ペプチドのガングリオシドGM3単分子膜及びガングリオシド6’GM3単分子膜への結合量の測定 各ペプチドのガングリオシドGM3単分子膜及びガングリオシド6’GM3単分子膜への結合量は、(2)(ii)に記載の方法を用いて、水晶発振子の金電極表面の重量変化を周波数変化としてSC−7201UNIVERSAL COUNTER(岩崎通信機社)で計測した。なお、ポジティブコントロールには、GM3に結合することが知られているp1ペプチド(配列番号9:DFRRLPGAFQLRQP)を、ネガティブコントロールには、ファージの外殻タンパク質pVIII(配列番号10:AEGDDPAKAAFDSLQ)を用いた。表2には、各サンプル濃度10μMにおけるcm2あたりの結合量を記載した。 このアッセイ方法によると、上記ELISA法とは異なり、クローンNo.c01及びクローンNo.c03共に、ガングリオシドGM3単分子膜及びガングリオシド6’GM3単分子膜の両方に対する結合が検出された。[表2] (5)フローサイトメトリーによるアフィニティー測定 さらに、ガングリオシドGM3単分子膜に特異的に結合するファージクローンのアフィニティーを、フローサイトメトリーによって測定した。 マウスB16メラノーマ細胞は、主にガングリオシドGM3を発現し、他のガングリオシドは発現していない(Iwabuchi, K., Zhang, Y., Handa, K., Withers, D. A., Sinay, P., and Hakomori, S. (2000) J. Biol. Chem. 275, 15174-17181, Iwabuchi, K., Yamamura, S., Prinetti, A., Handa, K., and Hakomori, S. (1998) J. Biol. Chem. 273, 9130-9138, Moretti, S., Montorfano, G., Rapelli, S., and Berra, B. (1997) ITAL. J. Bioc. 46, 187-195, Schroeder, F., and Gardiner, J. M. (1984) Cancer Res. 44, 3262-326)。そのため、ガングリオシドGM3単分子膜に特異的に結合するファージクローンのアフィニティー測定には、マウスB16メラノーマ細胞(理化学研究所セルバンクより入手)を用いた。 マウスB16メラノーマ細胞は、10%ウシ胎児血清(Life Technologies, Inc.)、100U/mlペニシリンG、100U/mlストレプトマイシン含有Dulbecco’s modified Eagle’s培地(ICN Biomedicals)を用いて、37℃、5%CO2のインキュベーターで培養した。培養皿から細胞を回収し、1%BSA含有PBSで3回洗浄した。次に、1%BSA含有PBSで各ファージクローン(クローンNo.c01、クローンNo.c03、コントロールファージ)の希釈系列(各ファージ濃度を0.1〜10nMに希釈)を作製し、各々の濃度のファージ200μlをマウスB16メラノーマ細胞(2×105個/ml)と氷上で1時間反応させた。1時間後、1%BSA含有PBSで3回洗浄し、400倍希釈のウサギ抗fdバクテリオファージ抗体(Sigma、製品番号:B-7786)200μlと氷上で反応させた。30分後、1%BSA含有PBSで2回洗浄し、400倍希釈のFITC結合抗ウサギIgG抗体(Sigma、製品番号:F-9887)200μlと氷上で反応させた。30分後、1%BSA含有PBSで2回洗浄し、この細胞をフローサイトメトリーに用いた。フローサイトメトリーにはコールターのEPICS XLを用い、この機械に付属している専用のソフトで解析を行った。 その結果、図2に示す通り、クローンNo.c01は、1〜10nMのファージ濃度でマウスB16メラノーマ細胞と結合したが、クローンNo.c03及びコントロールファージは、有意な結合が認められなかった。 (6)ガングリオシドGM3結合性ペプチドのアルキル化 ガングリオシドGM3単分子膜に強く結合する配列番号1(クローンNo.c01)及び配列番号2(クローンNo.c03)に示されるペプチドを、Fmoc法を用いて、自動ペプチドシンセサイザーACT357(Advanced Chemtech)で合成した。次に、ここで、ペプチドのN末端にはステアリン酸(C17H35COOH)を他のアミノ酸と同じように縮合させ、C18ペプチドアミド(C18-c01ペプチド:C18-GWWYKGRARPVSAVA, C18-c03ペプチド:C18-RAVWRHSVATPSHSV)を作製し、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製した。純度はHPLCで、構造はMALDI-TOF/MSで確認した。 (7)自己ペプチド集合体の形成 アルキル化ペプチドは、溶液中において臨界濃度に達すると凝集して自己ペプチド集合体を形成する。ここでは、以下の方法を用いて、c18-c01ペプチド及びc18-c03ペプチドを含む自己ペプチド集合体を作製した。 まず、c18-c01ペプチド及びc18-c03ペプチドをそれぞれ0.6〜1.4mg秤量し、PBSを入れて攪拌し、1mMの懸濁液を調製した。次に、この懸濁液の希釈系列(2×10-4、1×10-4、1×10-5、1×10-6、1×10-7、1×10-8、1×10-9(mol/L))を各々0.9mLずつ作製し、25℃に維持した。溶液中に存在する自己ペプチド集合体の粒子径は、high performance particle sizer(HPP5001) (MALVERN Instruments, Ltd., UK)を用いて計測した。[表3] その結果、1×10-8mol/L及び1×10-9mol/Lの濃度において、自己ペプチド集合体の形成は認められなかったが、1×10-7mol/L以上の濃度において、粒子径約200nm以上の自己ペプチド集合体が観察された。c18-c01ペプチド溶液では、濃度の増加と共に自己ペプチド集合体の粒子径が大きくなっており、c18-c03ペプチド溶液では、自己ペプチド集合体の粒子径が2000nm以上へと非連続的に大きくなっていた。 (8)ガングリオシドGM3結合性ペプチドを含むリポソームの調製 クロロホルム/メタノール(2:1, v/v)に溶解した卵黄ホスファチジルコリン(和光純薬,169-21183)(PC)及びコレステロール(和光純薬,034-03002)(2:1, モル比)の混合脂質を、円形底フラスコへ加えて、蒸発させて、薄い脂質膜を作製した。次に、この脂質膜を真空中で一晩中乾燥させた。この脂質膜をPBS(pH7.4)に浸潤させ、2〜3分間ボルテックス攪拌の後、超音波処理(100W,30分)を施した。次に、PC含有コレステロールリポソームを上記の方法によって作製したC18-c01又はC18-c03と混合した。なお、PC:コレステロール:ペプチドの最終濃度はモル比にて20:10:3であった。 (9)プラークアッセイを用いたインフルエンザウイルス感染阻害活性の評価 まず、6ウェルマイクロプレートに10%ウシ胎児血清、0.1%NaHCO3、10μg/mlグルタミン、100ユニット/mlのペニシリンG及び100ユニット/mlのストレプトマイシンを添加したMEM(minimum essential medium eagle)(GIBCO BRL)を用い、MDCK(Mardin-Darby canine kidney)細胞を、37℃、5%CO2のインキュベーターでコンフルエントになるまで単層培養した。なお、MDCK細胞及び以下の実験で使用するインフルエンザA/プエルトリコ/8/34ウイルス株(H1N1)、インフルエンザA/愛知/2/68ウイルス株(H3N2)は、K.Nagata(筑波大学(日本))から入手した。MDCK細胞は、インフルエンザウイルスA型、B型、C型全てに対して高い感受性を示し、さらに、細胞増殖時に、ヘマグルチニンの変異株が出現しないことから、インフルエンザウイルスの感染実験において広く用いられている。 次に、H1N1インフルエンザウイルス溶液(A型インフルエンザウイルス/PR/8/34を100個前後のプラークを形成する濃度に希釈した溶液)及びH3N2インフルエンザウイルス溶液(A型インフルエンザウイルス/Aichi/2/68を100個前後のプラークを形成する濃度に希釈した溶液)310μLと、c01ペプチド溶液、c03ペプチド溶液、c18-c01ペプチド溶液、c18-c03ペプチド溶液、c18-c01ペプチド含有リポソーム溶液又はc18-c03ペプチド含有リポソーム溶液をそれぞれ310μLずつ混合し、合計620μLの検体を作製した。ここでは、(7)(8)に記載のように自己ペプチド集合体及びリポソーム形成ペプチドを準備し、これらのペプチド溶液をPBS(-)で希釈し、0, 10-7M, 10-6M, 10-5M, 10-4M, 10-3Mの希釈系列を作製した。 次に、6ウェルマイクロプレート中の培地を除去し、PBS(-)を1〜2mL/ウェル入れて細胞表面を洗浄した。PBS(-)を除去後、上記の方法によって作製した検体620μLを、200μL/ウェルずつ入れ、37℃、5% CO2のインキュベーターで30分間インキュベートした。 30分後、検体溶液を除去し、PBS(-)を1〜2mL/ウェル入れて細胞を洗浄した。次に、予め50℃に加温しておいた2%の寒天0.625ml/ウェル(Oxoid, LTD.、製品番号:L28)と1.475ml/ウェルの重層培地(6ウェル分では、2×MEM+BAを6.25ml、精製水を2.25ml、1%DEAEデキストランを0.125ml、7.5% NaHCO3を0.167ml、アセチルトリプシン(1mg/ml(PBS))を0.125ml)(2×MEM+BAとは、9.4g MEMを474mL MiliQ水に加え、高圧滅菌し、濾過滅菌した10mLのL-グルタミン溶液(×100、30mg/mL)及び10mLの1M Hepes(2.4g/10mL)、6mL 35% bovine albumin (A-7409,Sigma)を加えた。)を混合し、これを2mL/ウェルずつ分注入した。室温で30分間静置し、寒天が固まったら反転して、37℃、5% CO2のインキュベーターで2日間インキュベートした。 インフルエンザウイルスを感染させてから2日後、重層培地をはずし、プレートを乾燥させた。次に、クリスタルバイオレット染色液(50mg Crystal Violet/50mL 20%エタノール)を500μL/ウェル入れて、5分程度染色を行った後、5回精製水で洗い、風乾させた。最後に、プラークの数をカウントし、コントロール(インフルエンザウイルスのみをインキュベートしたもの)と比較し、各ペプチドに対するインフルエンザウイルス感染阻害率を計算した。なお、ネガティブコントロールには、検体をアルキル化していないペプチドを用いた。 ペプチド濃度が10-5M及び10-3Mにおいて、各ペプチドを用いたH1N1インフルエンザウイルス又はH3N2インフルエンザウイルス感染率を示した結果を表4に示す。 H1N1インフルエンザウイルスに対する感染阻害は、アルキル化していないペプチドでは、0.5×10-3Mの濃度においては全く認められなかった。また、リポソームを形成させたペプチド溶液では、10-3Mの濃度においても、H1N1インフルエンザウイルスに対し、50%以上の阻害が認められなかった(c01ペプチド含有リポソーム溶液:IC50=3.6×10-4M、c03ペプチド含有リポソーム溶液:IC50=3.7×10-4M、なお、IC50とは、ペプチドを入れない場合の感染率を100%とし、その感染を50%まで阻害するのに必要なペプチド濃度をいう)。一方、表4に示したように、自己ペプチド集合体を形成させたペプチド溶液では、10-5Mの濃度において、50%(自己ペプチド集合体を形成させたc18-c03ペプチド溶液)ないし60%(自己ペプチド集合体を形成させたc18-c01ペプチド溶液)の感染阻害を示し、10-3Mの濃度でほぼ100%の感染阻害を示した。自己ペプチド集合体を形成させたペプチド溶液を用いたときのH3N2インフルエンザウイルスに対する感染阻害も、ほぼ同様の傾向を示し、H3N2インフルエンザウイルスに対しても、自己ペプチド集合体による感染阻害の促進が観察された。 以上の結果から、自己ペプチド集合体を形成させたc18-c01ペプチド溶液及びc18-c03ペプチド溶液では、ペプチドやリポソームを形成させたペプチドに比べ、亜型の異なるインフルエンザウイルスのMDCK細胞への感染を、はるかに強く阻害することが明らかになった。 [表4] このように、インフルエンザウイルス受容体に結合して、インフルエンザウイルスの結合を競合阻害するペプチドであれば、自己ペプチド集合体を形成させることにより、インフルエンザウイルスの宿主細胞への感染をさらに効率よく阻害することができる。本発明の一実施例において、ファージクローンのガングリオシドGM3及びガングリオシド6’GM3への結合を測定した結果を示す図である。本発明の一実施例において、フローサイトメトリーによるマウスB16メラノーマ細胞へのファージクローンの結合を測定した結果を示す図である。図中の黒丸はクローンNo.c01のファージを、白丸はクローンNo.c03のファージを、黒三角は野生型ファージ(コントロール)を表わす。 インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤であって、 前記ペプチドが両親媒性を有するように修飾されて、自己ペプチド集合体を形成していること、 を特徴とするインフルエンザウイルス感染阻害剤。 前記修飾がアルキル化であることを特徴とする請求項1に記載のインフルエンザウイルス感染阻害剤。 前記ペプチドが、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインフルエンザウイルス感染阻害剤。 前記ペプチドが、以下の(a)又は(b)のペプチドであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインフルエンザウイルス感染阻害剤。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド 前記自己ペプチド集合体は、直径100nm以上の大きさであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインフルエンザウイルス感染阻害剤。 請求項1〜5のいずれかに記載のインフルエンザウイルス感染阻害剤をヒト以外の脊椎動物に投与することを含む、インフルエンザウイルス感染阻害方法。 前記脊椎動物が、トリ又はブタであることを特徴とする、請求項6に記載のインフルエンザウイルス感染阻害方法。 インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有するインフルエンザ予防・治療剤であって、 前記ペプチドが両親媒性を有するように修飾されて、自己ペプチド集合体を形成していること、 を特徴とするインフルエンザ予防・治療剤。 前記修飾がアルキル化であることを特徴とする請求項8に記載のインフルエンザ予防・治療剤。 前記ペプチドが、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることを特徴とする請求項8又は9に記載のインフルエンザ予防・治療剤。 前記ペプチドが、以下の(a)又は(b)のペプチドであることを特徴とする請求項8又は9に記載のインフルエンザ予防・治療剤。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド 前記自己ペプチド集合体は、直径100nm以上の大きさであることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載のインフルエンザ予防・治療剤。 請求項8〜12のいずれかに記載のインフルエンザ予防・治療剤をヒト以外の脊椎動物に投与することを含む、インフルエンザ予防・治療方法。 前記脊椎動物が、トリ又はブタであることを特徴とする、請求項13に記載のインフルエンザ予防・治療方法。 インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を増強する方法であって、 両親媒性を有するように前記ペプチドを修飾する工程と、 前記ペプチドを凝集させる工程を含むこと、 を特徴とする方法。 前記修飾がアルキル化であることを特徴とする請求項15に記載の方法。 前記ペプチドが、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることを特徴とする請求項15又は16に記載の方法。 前記ペプチドが、以下の(a)又は(b)のペプチドであることを特徴とする請求項15又は16に記載の方法。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド 前記ペプチドが、直径100nm以上の大きさであることを特徴とする請求項15〜18のいずれかに記載の方法。 インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを有効成分として含有する自己ペプチド集合体であって、 両親媒性を有するように前記ペプチドが修飾されていること、 を特徴とする自己ペプチド集合体。 前記修飾がアルキル化であることを特徴とする請求項20に記載の自己ペプチド集合体。 前記ペプチドが、ガングリオシドGM3結合性ペプチド又は6’ガングリオシドGM3結合性ペプチドであることを特徴とする請求項20又は21に記載の自己ペプチド集合体。 前記ペプチドが、以下の(a)又は(b)のペプチドであることを特徴とする請求項20又は21に記載の自己ペプチド集合体。 (a)配列番号1又は2のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド (b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつインフルエンザウイルス感染阻害活性を有するペプチド 直径100nm以上の大きさであることを特徴とする請求項20〜23のいずれかに記載の自己ペプチド集合体。 【課題】インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を増強する方法、並びにそれを利用したインフルエンザウイルス感染阻害剤及びインフルエンザ予防・治療剤を提供すること。【解決手段】インフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドに対し、両親媒性を有するように前記ペプチドを修飾し、自己ペプチド集合体を形成させることにより、このペプチドのインフルエンザウイルス感染阻害活性を増強することができる。また、自己ペプチド集合体を形成したインフルエンザウイルス受容体結合性ペプチドを製剤化することにより、インフルエンザウイルス感染阻害剤及びインフルエンザ予防・治療剤を作製することができる。【選択図】なし配列表