タイトル: | 公開特許公報(A)_組換えヒト血清アルブミン製剤 |
出願番号: | 2005326978 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61K 9/08 |
大屋 智資 應田 豊雄 桑江 忍 友光 賢治 小林 薫 大村 孝男 JP 2006070044 公開特許公報(A) 20060316 2005326978 20051111 組換えヒト血清アルブミン製剤 三菱ウェルファーマ株式会社 000006725 高島 一 100080791 大屋 智資 應田 豊雄 桑江 忍 友光 賢治 小林 薫 大村 孝男 A61K 38/00 20060101AFI20060217BHJP A61K 9/08 20060101ALI20060217BHJP JPA61K37/02A61K9/08 4 1993269168 19931027 OL 18 4C076 4C084 4C076AA11 4C076CC21 4C076CC50 4C076FF11 4C076FF70 4C084AA03 4C084BA44 4C084CA53 4C084DA37 4C084MA17 4C084NA20 4C084ZB01 4C084ZC21 この発明は、遺伝子操作により得られる組換えヒト血清アルブミン製剤中に夾雑する各種微生物の滅菌方法とその方法によって得られる組換えヒト血清アルブミン製剤に関する。 血漿由来のヒト血清アルブミン(以下、HSA)製剤は血液提供者がウィルスに感染している場合、その血液を原料として製造された製剤がウィルスに汚染される危険性は極めて高くなる。血漿由来の製剤中に混在しているウィルスを不活化する手段としては、β−プロピオラクトンのような化合物とUV照射とを併用する方法、有機溶媒と界面活性剤との混合溶液を使用する方法、加熱処理を実施する方法等が提案されてきた。 しかし、化合物とUV照射とを使用すれば製剤の正しい抗原性に変化を与える可能性があり、また、有機溶媒と界面活性剤を用いる方法は脂質をエンベロープとしているウィルスの不活化に限定されるという短所がある。 加熱処理は、製剤の品質を劣化させない低温での殺菌(パストリゼーション)が一般的であり、血漿由来のHSA製剤でもその製造の最終工程で行われている。HSA製剤に対しては、60℃、10時間の加熱処理(パストリゼーション)により肝炎ウィルスが不活化され、アセチルトリプトファンナトリウムや脂肪酸塩のような安定化剤を添加することによって、加熱処理に対するアルブミンの熱安定性が保証されること、さらに、血液中に存在しうる他のウィルスが血液製剤中に混入していた場合における、該条件下のパストリゼーションの不活化効果についても報告されている。また、生物学的製剤基準においては、血漿由来のHSAを製造する際に60.0±0.5℃で10時間以上のパストリゼーションを行うように規定されている。 他方、遺伝子操作により得られる組換えヒト血清アルブミン(以下、rHSA)製剤については、ウィルスが存在する可能性を持つ原材料を使用しないことから、ウィルスの混入の危険性は元来極めて低いと考えられる。また製剤化工程においても、その最終工程で除菌濾過した後に無菌分注、無菌充填されるため、雑菌に汚染されている可能性も極めて低いと考えられる。 しかし、更なる安全性を期す上で、rHSA製剤の無菌性をより積極的に確保するために、投与単位あたりに容器に充填したrHSAについて最終的に滅菌処理を施すことが有利であろうと考えた。そこで、本発明が解決しようとする課題は、投与単位あたりに容器に充填したrHSAという特別の条件下に置かれたrHSA製剤を滅菌し、安全性がさらに高められたrHSA製剤を提供にある。 本発明者らは、かかる実情下に鋭意研究を進めた結果、rHSA製剤の無菌充填後のパストリゼーションによる不活化を検討し、そこに夾雑する可能性の或る微生物を想定し、且つその滅菌条件を決定するため、rHSA製剤におけるパストリゼーションに関して、60℃付近における加熱時間と各種微生物に対する不活化効果を検討し、本発明を完成した。 本発明は、以下のとおり、投与単位あたり容器に充填したrHSA製剤を50〜70℃、30分間以上加熱処理することによって得られるrHSA製剤をその要旨とするものである。(1)投与単位あたり容器に無菌充填した遺伝子操作により得られる組換えヒト血清アルブミン製剤を50〜70℃、30分間以上2.5時間以内で加熱処理し、無菌充填後に夾雑する微生物を滅菌することによって得られる、組換えヒト血清アルブミン製剤。(2)加熱処理時間が30分間である(1)に記載の組換えヒト血清アルブミン製剤。(3)滅菌対象の微生物がエシェリキア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、環境菌(常在菌)から選ばれる1種以上である、(1)又は(2)に記載の組換えヒト血清アルブミン製剤。(4)容器がガラス製容器、ポリエチレン製容器又は脱アルカリ処理した軟質ガラス製容器である(1)〜(3)のいずれか1に記載の組換えヒト血清アルブミン製剤。 本発明の滅菌方法により、投与単位あたり容器に充填したrHSA製剤中に夾雑する微生物は死滅し、極めて安全性の高いrHSA製剤が供給される。 I.遺伝子操作により得られるrHSA製剤の調製方法 (1)HSA産生宿主の調製、培養ならびにHSAの分離採取 本発明における遺伝子操作により得られるHSAは、遺伝子操作によって得られるものであれば、その由来に特に制限はない。従って、当該HSAを産生させるための宿主は、遺伝子操作を経て調製されたものであれば特に限定されず、公知文献記載のものの他、今後開発されるものであっても適宜利用することができる。当該宿主としては、具体的には遺伝子操作を経てHSA産生性とされた菌(例えば、大腸菌、酵母、枯草菌など)、動物細胞などが挙げられる。特に、本発明においては、宿主として、酵母、就中サッカロマイセス属〔例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、もしくはピキア属〔例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris )〕を使用されることが好ましい。また、栄養要求性株や抗生物質感受性株を使用して得られたHSAであってもよい。さらにまた、サッカロマイセス・セレビシエAH22株(a, his 4, leu2, can 1)、ピキア・パストリスGTS115株(his 4 )等が好適に使用される。 本発明において、HSA産生宿主の調製方法およびその培養によるHSAの生産方法、培養物からのHSAの分離採取方法はすべて公知ならびにそれに準じた手法を採用することによって実施される。 例えば、HSA産生宿主(またはHSA産生株)の調製方法としては、通常のHSA遺伝子を用いる方法(特開昭58−56684号、同58−90515号、同58−150517号の各公報)、新規なHSA遺伝子を用いる方法(特開昭62−29985号、特開平1−98486号の各公報)、合成シグナル配列を用いる方法(特開平1−240191号公報)、血清アルブミンシグナル配列を用いる方法(特開平2−167095号公報)、組換えプラスミドを染色体上に組込む方法(特開平3−72889号公報)、宿主同士を融合させる方法(特開平3−53877号公報)、メタノール含有培地中で変異を起こさせる方法、変異型AOX2 プロモーターを用いる方法(特願平3−63598号、同3−63599号の各公報)、枯草菌によるHSAの発現(特開昭62−25133号公報)、酵母によるHSAの発現(特開昭60−41487号、同63−39576号、同63−74493号の各公報)、ピキア酵母によるHSAの発現(特開平2−104290号公報)などが例示される。 また、HSA産生宿主の培養方法(すなわち、HSAの産生方法)としては、上記の各公報に記載された方法の他に、フェッドバッチ培養により、高濃度のグルコースあるいはメタノール等を適度に少量づつ供給し、産生菌体に対する高濃度基質阻害を避けて高濃度の菌体と産生物を得る方法(特開平3−83595号公報)、培地中に脂肪酸を添加してHSAの産生を増強する方法(特開平4−293495号公報)などが例示される。 さらにHSAの分離採取方法としては、上記の各公報に記載された方法の他に加熱処理によるプロテアーゼの不活化(特開平3−103188号公報)、陰イオン交換体、疎水性担体および活性炭からなる群より選ばれた少なくとも一つを用いてHSAと着色成分とを分離することによる着色抑制方法(特開平4−54198号公報)などが例示される。 (2)HSAの精製 HSAの精製工程としては、各種分画法、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過、密度勾配遠心分離法、透析などの公知の方法が採用される。 当該精製工程としては、例えば以下の(i)〜(vii)を含む工程が好適に挙げられる。(i)HSAの産生宿主の培養上清を分画分子量10万〜50万、および1000〜5万の限外濾過膜を用いて処理する。(ii)50〜70℃で30分〜5時間加熱処理する。(iii)pH3〜5で酸処理する。(iv)分画分子量10万〜50万の限外濾過膜を用いて処理する。(v)pH3〜5、塩濃度0.01〜0.2Mの条件下で陽イオン交換体に接触させた後に、pH8〜10、塩濃度0.2〜0.5Mの条件下で溶出する。(vi)pH6〜8、塩濃度0.01〜0.5Mの条件下で疎水性クロマト用担体に接触させて、非吸着画分を回収する。そして、(vii)pH6〜8、塩濃度0.01〜0.1Mの条件下で陰イオン交換体に接触させて、非吸着画分を回収する。 また、前記工程(vi)の代わりに、pH6〜8、塩濃度1〜3Mの条件下で疎水性クロマト用担体に接触させた後に、pH6〜8、塩濃度0.01〜0.5Mの条件下で溶出する工程、または前記工程(vii)の代わりに、pH6〜8、塩濃度0.001〜0.05Mの条件下で陰イオン交換体に接触させた後に、pH6〜8、塩濃度0.05〜1Mの条件下で溶出する工程、さらには前記工程(v)と(vi)の間、(vi)と(vii)の間、または(vii)の後に、pH3〜5、塩濃度0.5〜3Mの条件下で塩析処理し、沈殿画分を回収する工程をさらに含むものであってもよい。 (3)高度精製 さらに、HSAを高度精製するために以下のような処理を行うことができる。(i)HSAの脱色 HSAの脱色工程は、上記精製工程において、特に好ましくはその最後に組み込まれ、特定のリガンド部を有するキレート樹脂とHSAとを接触させることにより行われる。キレート樹脂の担体部分は疎水性を有する担体であることが好ましく、例えばスチレンとジビニルベンゼンの共重合体、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体などが挙げられる。 一方、リガンド部は、N−メチルグルカミン基などのポリオール基、イミノ基、アミノ基、エチレンイミノ基などを分子内に複数個有するポリアミン基(この中にはポリエチレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン基も含まれる)、およびチオ尿素基が挙げられる。上記担体部分とリガンド部を有するキレート樹脂の市販品としては、担体部分がいずれもスチレンとジビニルベンゼンの共重合体であるDIAION CRBO2(リガンド部;N−メチルグルカミン基、三菱化成製)、DIAION CR20 (リガンド部;−NH(CH2 CH2 NH) n H、三菱化成製)、LEWATIT TP214 (リガンド部;−NHCSNH2 、バイエル製)、アンバライトCG4000などが好適に使用される。 当該キレート樹脂による処理条件は、好適には次の通りである。pH条件:酸性または中性(pH3〜9、好ましくはpH4〜7)時間:1時間以上、好ましくは6時間以上イオン強度:50mmho以下、好ましくは1〜10mmho混合比:HSA250mgに対して樹脂0.1〜100g、好ましくは1〜10g(湿重量)(ii)疎水性クロマト処理 上記精製工程((i)〜(vii)およびキレート樹脂処理を含む)を経て得られたHSAにおいては、フェノール硫酸法で検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質が充分に除去されていない。 そこで、これらの処理終了後に得られるHSAを、pH2〜5(好ましくは、pH3〜4)、塩濃度0.4〜1M(好ましくは、0.4〜0.7M)の条件下で疎水性クロマト用担体に接触させた後に、pH6〜8(好ましくは、pH6.5〜7)、塩濃度0.01〜0.3M(好ましくは、0.05〜0.2M)の条件下で溶出する工程を組み合わせる。または、前記の工程(vi)の代わりに当該疎水性クロマト処理工程を組み合わせる。こうして、フェノール硫酸法で検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質が充分に除去されたHSAを回収することができる。 ここにフェノール硫酸法とは、一般的には糖質の比色定量法の一つであり、検体である糖水溶液にフェノール水溶液を添加し、次いで濃硫酸を添加して振盪することにより生ずる溶解熱を利用して糖から形成されるフルフラール誘導体とフェノールとの反応呈色物を比色測定する方法である。また、フェノール硫酸法で検出可能な非抗原性の夾雑物質としては、例えば中性糖(ペントース、ヘキソースなど)、単糖グリコシド(オリゴ糖、複合糖質、ウロン酸など)、メチル化糖などが例示され、産生宿主由来成分に対する抗体とは抗原抗体反応を起こさない夾雑物質を言う。 疎水性クロマト用担体としては、炭素数4〜18のアルキル基型(例:ブチル基型、オクチル基型、オクチルデシル基型など)、フェニル基型などが例示される。ブチル基型としては、ブチル−アガロース、ブチル−ポリビニル(商品名ブチル−トヨパール、東ソー社製)などが、オクチル基型としては、オクチル−アガロースなどが、オクチルデシル基型としては、オクチルデシル−アガロースなどが、フェニル基型としては、フェニル−セルロース(商品名フェニルセロファイン、生化学工業社製)などが例示される。(iii) ホウ酸またはその塩による処理 HSAを、ホウ酸またはその塩で処理することによって、宿主由来の抗原性を有する夾雑物質、フェノール硫酸法により検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質を除去することができる。 使用されるホウ酸としては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが例示される。またその塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)などが例示される。好ましくは、四ホウ酸カルシウムを用いる。ホウ酸またはその塩の添加量は、終濃度で0.01〜1M程度、好ましくは0.05〜0.2M程度である。処理pHは8〜11程度、好ましくはpH9〜10程度が例示される。また処理時間は1〜10時間程度が例示される。処理時の電導度は低電導度であることが好ましい。具体的には1mS以下が例示される。さらに、HSA濃度は低濃度であることが好ましく、具体的には5%以下、好ましくは0.1〜3%程度が例示される。 ホウ酸またはその塩による処理終了後、例えば遠心分離、濾過などにより沈殿を除去し、上清を回収して濃縮脱塩する。(iv)限外濾過処理 上記精製工程を経て、回収されたHSAは限外濾過処理することが望ましく、分画分子量約10万の限外濾過膜が好適に使用される。限外濾過処理によりパイロジェン(発熱性物質)を除去することができる。(v) 精製されたHSA(rHSA)の性状 上記の各操作を経て、分離精製されたHSAは、分子量約6万7千、等電点4.6〜5.0の単一物質である。当該HSAは、単量体のみからなり、二量体、重合体または分解物を実質的に含まない。具体的には、二量体、重合体および分解物の全含有量は0.01%以下程度である。また、産生宿主に由来する夾雑成分(例えば、蛋白質、多糖成分など)を実質的に含まない。より詳細には(正確には)産生宿主由来の夾雑成分のうち、抗原性を有するものを実質的に含まない。具体的には、当該HSAとしては、HSA25%溶液の場合で、夾雑成分が1ng/ml以下、好ましくは0.1ng/ml以下のものが例示される。また、当該HSAとしては、多糖成分が1ng/ml以下、好ましくは0.1ng/ml以下のものが例示される。結果的にHSAの純度としては99.999999%以上、好ましくは99.9999999%以上のものが例示される。当該HSAの着色度としてはHSA25%溶液の場合でA350 /A280 が0.01〜0.05、A450 /A280 が0.001〜0.02、A500 /A280 が0.001〜0.005程度が例示される。また、HSAに結合している脂肪酸量がHSA1分子当たり1分子以下、好ましくは0.1分子以下のものが例示される。 特に当該HSAは、HSA250mg当たり、(a)宿主由来の抗原性を有する夾雑物質が0.1ng未満であり、(b)フェノール硫酸法により検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質が1μg以下であり、かつ(c)パイロジェンが0.1EU未満であることを特徴とする。 (4)製剤化 上記で得られたrHSA(含有組成物)は、公知の手法(限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等)により製剤化することができる。また、製剤化工程での安定性及び製剤化した後での保存安定性を確保するため、必要に応じて安定化剤としてアセチルトリプトファンまたはその塩(例えば、ナトリウム塩)およびカプリル酸ナトリウムが配合される。安定化剤の添加量としては、0.01〜0.2 M、好ましくは0.02〜0.05M程度が例示される。また、ナトリウム含量は3.7mg/ml以下が例示される。当該安定化剤の添加時期は、限外濾過、除菌濾過、分注、凍結乾燥等の処理前である。 かくの如き限外濾過、除菌濾過されたrHSA製剤は、投与単位あたりに容器に無菌充填される。ここで、投与単位あたりに容器に充填するとは、rHSA製剤の投与量、例えば、rHSAを25%含有し、pHは 6.4〜7.4 程度、浸透圧比は1程度の液状製剤を、20〜50ml(rHSAとして5〜12.5g)ごとに容器に充填することを意味する。あるいはrHSAを5%含有し、100 〜250ml ( rHSAとして5〜12.5g) ごとに容器に充填することを意味する。rHSA製剤を充填する容器としては、10〜250ml 容のガラス製容器、ポリエチレン製容器、脱アルカリ処理した軟質ガラス製容器(特開平4−210646号公報)等が挙げられる。 II. 加熱処理(パストリゼーション) 上記工程を経て得られたrHSA製剤は、各種微生物に汚染されている可能性は極めて低いと考えられるが、製剤の無菌性をより積極的に確保するための手段として、無菌充填後のrHSA製剤のパストリゼーションによる夾雑微生物の不活化を行う。 パストリゼーションは、投与単位あたりに容器に充填された製剤が、上記のいずれの容器に充填されたものであっても、50〜70℃(好ましくは60℃)の、例えば湯浴中に30分間以上保持することにより十分に夾雑微生物が不活化される。加熱時間は、好ましくは30分間〜2時間である。 このようにして調製されたrHSA製剤は、注射剤として血漿由来HSA製剤と同様に臨床上用いることができる。例えば、主としてショック時の急速な血漿の増量、循環血液量の補充、低蛋白血症の改善、膠質浸透圧の維持等の目的に使用される。具体的な効能・効果としては、アルブミンの損失(熱傷、ネフローゼ症候群等)およびアルブミン合成低下(肝硬変等)による低アルブミン血症、出血性ショック等に有効である。用法・容量としては、通常成人1回、HSA25%溶液で20〜50ml、あるいは5%溶液で100〜250ml(HSAとして5〜12.5g)を緩徐に静脈内注射または点滴静脈内投与する。年齢、症状、体重により適宜増減する。 以下に実施例、参考例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 後記参考例で得られる精製rHSA(含有組成物)を、限外濾過、除菌濾過し、50ml容のガラス製の自動瓶に無菌的に充填した製剤を、以下の実施例に供した。尚、非無菌的に精製し、除菌濾過を行わず、非無菌的に充填した製剤も用意した。(1) 菌体懸濁液の調製 滅菌試験に用いた菌株を表1に示した。IFO No.の記された菌株は、財団法人醗酵研究所より譲渡されたものである。(i)菌体懸濁液の調製 Asp. nigerの胞子を有する菌体を除く表1の各菌株を、SCD培地(SCD培地「ダイゴ」、日本製薬製)5ml に1白金耳接種して、振盪培養器(BR-30 型、TAITEC社製) により24時間振盪培養して調製した。E.coli, Ps.aeruginosa, Staph.aureus, B.subtilis は37℃で、C.albicansは20〜25℃(室温)で、P.pastorisは30℃で培養した。培養後の培養液2ml を滅菌した遠心管に移し、3000rpmにて10分間遠心分離した。得られた菌体ペレットを2ml の生理食塩水にて懸濁した後、再び遠心分離することにより菌体を洗浄した。この洗浄操作を2回繰り返し、得られた菌体を2ml の生理食塩水に懸濁して、菌体懸濁液を調製した。 パストリゼーションを実施する際の各菌株の接種濃度を決定するため、各菌株についてその菌体懸濁液を数段階に希釈してOD610 を測定すると同時にSCD寒天培地(SCD寒天培地「ダイゴ」、日本製薬製)に塗布し、OD610 と生菌数との関係を求めた。(ii) Asp.niger の胞子懸濁液の調製 Asp.niger の胞子及び菌糸をSCD寒天培地に塗布し、20〜25℃(室温)にて7日間以上静置培養した。充分に胞子が形成されたプレートを数枚準備し、0.05% Tween 80 [Polyoxyethlene(20) Sorbitan Monooleate, ICI社製] 含有生理食塩水5 〜10mlをプレートに注ぎ、ピペットで胞子を懸濁し回収した。さらに、この胞子懸濁液を滅菌したガラスフィルターで吸引濾過することにより、胞子懸濁液中に混入している菌糸を除去した後、上記(i)と同様の方法によりOD610 と胞子数との関係を求めた。 上記方法により調製した各菌体懸濁液あるいは胞子懸濁液について、OD610と生菌数あるいは胞子数との関係を表2に示した。OD610 が0.3以下の領域では菌体濃度(あるいは胞子数)とOD610 との間に良好な直線関係が認められた。表2に基づいて、パストリゼーション試験時の各菌株の接種濃度を決定した。(2) 加熱処理試験(パストリゼーション) USP XX II (1990) Microbiological Test [U.S.Pharmacopeia National Formulary XX II <51>,1478(1990)]に準拠して実施した。(1) に示した方法で調製された菌体懸濁液あるいは胞子懸濁液0.25mlを、参考例で無菌的に製造した25%rHSA製剤50mlに10〜100 万cells/ml-rHSA 製剤となるように接種し充分に攪拌した後、クロスコンタミネーションを防ぐため、植菌した上部ゴム栓の穴とは別の所から初発生菌数を計測するために1ml サンプリングした。その後、60℃の湯浴に上部ゴム栓以下を水没させて加熱処理を行った。 生菌数の計測のためのサンプリングは、経時的に湯浴からrHSA製剤を取り出してよく攪拌し、1ml サンプリングした後湯浴内に速やかに戻した。サンプルは直ちに10〜15℃の水浴で冷却した。生菌数を計測するため適当な倍率まで生理食塩水で希釈し 100μl をSCD寒天平板培地に塗布し、(1) に示した各菌株の培養温度で数日間静置培養した後コロニー数の計測を行い、その結果を表3に示した。対照として、菌体を接種後加熱しない場合についても経時的にサンプリングし、上記と同様の方法にて生菌数の変化を測定し、その結果を表4に示した。表中の湯浴中での保持時間は、rHSA製剤の中心部の温度が60℃に達するまでの時間( 約12分)を含んでの保持時間である。 表4の結果から、いずれの菌株に対しても、rHSA製剤自身には殺菌作用がないことが確認された。また、表3の結果から、各種菌株を植菌したrHSA製剤を60℃の湯浴中に30分間保持することにより、いずれの菌株も完全に死滅することが明らかになった。 本実施例は60℃にて30分間あるいは1時間の加熱処理による各菌株の不活化をより精度よく確認するため、100ml 以下の製剤に対して適用される無菌試験法(直接法、生物学的製剤基準)に基づき実施し、その結果を表5に示した。 表5中で、非無菌的な条件下で精製したrHSA製剤とは、参考例に示したrHSAの調製において、使用器具から手法に至るまで無菌性を意識せずに精製し、その後の除菌濾過工程も経ずに製剤化した製剤である。これは、現在の環境下に存在する常在菌に汚染されたrHSA製剤を得ることを意図したものである。 一方、表5中でrHSA製剤とは、参考例に示したrHSAの調製において、使用器具から手法に至るまで無菌的に精製したものであり、通常通り除菌濾過後、無菌充填を実施した製剤である。これまで検討した6種類の菌株(E.coli, Ps.aeruginosa, Staph.aureus, C.albicans, P.pastoris, Asp.niger)全てを混合して接種したものと、菌の接種の無いものについて試験した。各菌株の接種量は各々12万cells/ml- rHSA製剤とした。尚、ここでの加熱処理時間もrHSA製剤の加熱を開始してからの時間であり、rHSA製剤の中心部の温度が60℃に達するまでの時間(約12分)を考慮していない。 本実施例の結果、精製現場で混入したと思われる環境菌および使用した6種類の菌株については60℃、30分間の加熱処理により完全に死滅させることが可能であり、この結果は先に行った加熱処理試験の結果とよく一致した。また、菌の接種の無いものについては、加熱処理したものには生菌の発生をみなかった。 参考例 精製rHSA(含有組成物)の調製[I] HSA産生宿主の培養ならびにHSAの産生(1) 使用菌株:Pichia pastoris GCP101株 特開平2−104290号公報に記載の方法により、ピキアパストリス(Pichia pastoris)GTS115(his4)のAOX1 遺伝子領域に、AOX1 プロモーター支配下にHSAが発現する転写ユニットを持つプラスミドpPGP1のNot1で切断した断片を置換して、PC4130が得られる。この株はAOX1 遺伝子が存在しないためにメタノールを炭素源とする培地での増殖能が低くなっている(Mut−株)。 PC4130をYPD培地(1%イーストエキストラクト、2%バクトペプトン、2%グルコース)3mlに植菌し、24時間後に初期OD540 =0.1となるようにYPD培地50mlに植菌した。3日間30℃で培養後に初期OD540 =0.1となるようにYPD培地50mlに植菌した。さらに3日毎に同様の継代を繰り返した。継代毎に菌体を107 cells/plate になるように滅菌水で希釈して2%MeOH(メタノール)−YNBw/oa.a.プレート(0.7%イーストナイトロジエンベースウイズアウトアミノアシッド、2%メタノール、1.5%寒天末)に塗布し、30℃5日間培養してコロニーの有無を判断した。その結果、12日間継代後に塗布した2%MeOH−YNBw/oa.a.プレートから20個のコロニーが生じた。このプレートではMut−株はほとんど生育できず、Mut+株は生育できる。すなわち、このプレートではコロニーが生じるということはメタノールの資化性が上昇し、Mut+に変換した株が得られたことを示している。生じたコロニーの内の1つを適当に滅菌水で希釈して2%MeOH−YNBw/oa.a.プレートに拡げ、シングルコロニーに単離した。その1つをGCP101と名付けた。(2) 菌株の培養(前々培養) グリセロール凍結ストック菌株1mlを200mlのYPD培地(表6)を含むバッフル付1,000ml容三角フラスコに植菌、30℃にて24時間振盪培養した。(前培養) YPD培地5Lを含む10L容ジャーファーメンターに前々培養液を植菌し、24時間通気攪拌培養した。培養温度は30℃、通気量は5L/分とした。また、前培養においてはpHの制御は実施しなかった。(本培養) バッチ培養用培地(表7)250Lに前培養液を植菌し、1,200L容ファーメンターを用いて通気攪拌培養した。槽内圧を0.5kg/cm2 、最大通気量を800N−L/min として溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の50%〜30%程度を保持するように、攪拌速度を制御しながら回分培養を開始した。回分培養において培地中のグリセロールが消費された時点よりフィード培地(表8)の添加を開始した。このフィード培地の添加にはコンピュータを使用し、培地中にメタノールが蓄積しないように制御しながら高密度培養を実施した。pHは28%アンモニア水を添加することにより、pH5.85に定値制御した。消泡は消泡剤(Adecanol、旭電化工業製) を回分培養開始時に0.30ml/L添加しておき、その後は必要に応じて少量添加することで実施した。 また、上記のGCP101株から単離したAOX2プロモーター [変異型、天然型AOX2プロモーター(TEAST, 5, 167-177 (1988)またはMol. Cell, Biol., 9, 1316-1323 (1989))中、開始コドン上流の255番目の塩基がTからCに変異したもの] を用いてHSA発現用プラスミドpMM042を構築し、ピキアパストリス(Pichia pastoris) GTS115株に導入し、形質転換体UHG42−3株を得た(特開平4−299984号公報)。上記に準じてこのUHG42−3株を培養し、HSAを産生させた。[II] HSAの(高度)精製(1) 培養上清の分離〜膜分画(II) 上記で得られた培養液約800Lを圧搾することにより培養上清を分離した。培養上清を分画分子量が30万の限外濾過膜で処理した。次いで、分画分子量が3万の限外濾過膜を用いて液量を約80Lに濃縮した〔膜分画(I)〕。続いて、60℃、3時間の加熱処理を行った。加熱処理は5mMカプリル酸ナトリウム、10mMシステイン、100mMアミノグアニジンの共存下にpH7.5で行った。加熱処理液を急速に約15℃に冷却し、pH4.5に調整した後に、再度分画分子量が30万の限外濾過膜を用いて処理した〔膜分画(II)〕。次いで、分画分子量が3万の限外濾過膜を用いてHSA溶液中の緩衝液を50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液,pH4.5に交換した。(2) 陽イオン交換体処理 50mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液,pH4.5で平衡化したS−セファロース充填カラムにHSAを吸着させ、同緩衝液で十分洗浄したのち、0.3M塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液、pH9でHSAの溶出を行った。(3) 疎水性クロマト処理 S−セファロース充填カラムから溶出されたHSA溶液を0.15M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液,pH6.8で平衡化したフェニルセルロファインを充填したカラムに添加した。この条件ではHSAはフェニルセルロファインに吸着することなく、カラムを通過した。カラムを通過したHSAは、分画分子量3万の限外濾過膜を用いて液量を約50Lに濃縮するとともに、HSA溶液中の緩衝液を50mMリン酸緩衝液、pH6.8に交換した。(4) 陰イオン交換体処理 疎水性クロマト処理後、濃縮及び緩衝液交換を行ったHSA溶液を50mMリン酸緩衝液,pH6.8で平衡化したDEAE−セファロースを充填したカラムに添加した。この条件ではHSAはDEAE−セファロースに吸着することなく、カラムを通過した。(5) 脱色処理 25%濃度の精製HSA1mlにDIAION CRB02(担体部分はスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、リガンド部分はN−メチルグルカミン基からなるキレート樹脂,三菱化成製)1gを加え、pH6.8、イオン強度5mmhoの条件下、室温で24時間攪拌した。樹脂を蒸留水で洗浄し、非吸着画分をHSAとして回収した。(6) 疎水性クロマト処理 HSA含有水溶液に塩化ナトリウムを最終濃度0.5Mとなるように添加し、pHを3.5に調整してフェニルセルロファイン充填カラムにアプライした。0.5M塩化ナトリウム溶液(pH3.5)で洗浄後に0.15M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH6.8)で溶出した。(7) ホウ酸塩処理 HSA含有水溶液をHSA濃度2.5%に調製し、溶液の電導度を1mS以下とした。四ホウ酸カルシウムを終濃度が100mMになるように添加し、pHを9.5に維持した。10時間程度放置した後に沈殿を除去し、上清を回収して濃縮脱塩した。(8) 限外濾過 回収されたHSA含有水溶液を、分画分子量約10万の限外濾過膜を用いて処理した。[III] 精製rHSA(含有組成物)の性状(1) 精製工程のHPLC分析 HSAをHPLCゲル濾過により分析した。ゲル濾過分析は下記の条件で行った。(i)カラム:TSK gel G3000SW(東ソー社製)(ii)展開液:0.1M KH 2 PO4 /0.3M NaCl 緩衝液(iii)検出:波長280nmでの吸光度精製HSA含有組成物はHSAモノマーのシングルピークとなった。(2) 酵母由来成分分析 HSA非産生酵母の培養上清を本法と同様の方法で粗精製したものをウサギに免疫し、得られた抗血清を用いて精製HSA含有組成物中に存在する酵母由来成分の検出を行った。測定は酵素免疫測定法(EIA法)で行った。各サンプルについての酵母由来成分の検出結果を示す。サンプルはHSA濃度として250 mg/mlに調整したものを用いて測定した。(3) 分子量 分子量測定は前述のHPLCゲル濾過法によった。本発明の精製HSA含有組成物中のHSAの分子量は約67000であり、血漿由来のHSAと同程度であった。(4) 等電点 等電点は薄層ポリアクリルアミドゲルを用い、Allen らの方法 [J. Chromatog., 146, 1 (1978)] に準じて測定した。本発明の精製HSA含有組成物中のHSAの等電点は約4.9であり、血漿由来のHSAと同程度であった。(5) 着色度 着色度は280nm、350nm、450nm、500nmでの吸光度を測定し、A350 /A 280、A 450/A 280、A 500/A 280を算出した。本発明の精製HSA含有組成物の着色度はA350 /A 280は約0.02、A 450/A 280は約0.01、A 500/A 280は約0.002であり、血漿由来のHSAと同程度であった。(6) 結合脂肪酸量 測定には、NFEA−テストワコー(和光純薬社製)を用いた。その結果、キレート樹脂処理前は1.6モル(HSA1モル当たり)であったが、処理後は0.037モル(HSA1モル当たり)と大幅に減少した。(7) フェノール硫酸法による遊離の夾雑物質量の測定 各検体のHSA中の遊離の夾雑物質量を、公知の手法に従ってフェノール硫酸法で測定した。まず、各HSAを直接フェノール硫酸法で測定して、夾雑物質の総量(すなわち、遊離状態のものおよび非遊離状態のものの合計量)を算出した。一方、同じく各HSAをConA−セファロース(ファルマシア社製)で処理して、パス画分であるHSAをフェノール硫酸法で測定し、夾雑物質量(非遊離状態のもの)を算出した。両者の測定量の差が、遊離状態の夾雑物質量を意味する。標準曲線はマンナンを標準品として用いて作成した。以上の結果を表9に示す。(8) パイロジェンの測定 生化学工業のエンドスペシーを用いて測定した。 かくして得られた精製rHSA(含有組成物)は、培地中の或種の夾雑物質、微生物(産生宿主)が含有または分泌する物質などのHSA含有画分中に存在する夾雑物質、特に宿主由来の抗原性を有する夾雑物質、フェノール硫酸法により検出可能な非抗原性の遊離の夾雑物質、およびパイロジェン(発熱性物質)を充分に除去できた極めて高純度なものである。 投与単位あたり容器に無菌充填した遺伝子操作により得られる組換えヒト血清アルブミン製剤を50〜70℃、30分間以上2.5時間以内で加熱処理し、無菌充填後に夾雑する微生物を滅菌することによって得られる、組換えヒト血清アルブミン製剤。 加熱処理時間が30分間である請求項1に記載の組換えヒト血清アルブミン製剤。 滅菌対象の微生物がエシェリキア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、環境菌(常在菌)から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の組換えヒト血清アルブミン製剤。 容器がガラス製容器、ポリエチレン製容器又は脱アルカリ処理した軟質ガラス製容器である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えヒト血清アルブミン製剤。 【課題】無菌性が極度に高く、安全性に優れるrHSA製剤を提供する。【解決手段】投与単位あたり容器に無菌充填した遺伝子操作により得られる組換えヒト血清アルブミン製剤を50〜70℃、30分間以上2.5時間以内で加熱処理し、無菌充填後に夾雑する微生物を滅菌することによって得られる、組換えヒト血清アルブミン製剤。【選択図】なし