生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_細胞固定液およびそれを含有する容器
出願番号:2005325714
年次:2007
IPC分類:G01N 33/48,C12Q 1/02


特許情報キャッシュ

屋根 伸一郎 JP 2007132776 公開特許公報(A) 20070531 2005325714 20051110 細胞固定液およびそれを含有する容器 株式会社キューリンパーセル 505417529 南條 博道 100104673 屋根 伸一郎 G01N 33/48 20060101AFI20070427BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20070427BHJP JPG01N33/48 QC12Q1/02 12 2 OL 12 2G045 4B063 2G045AA24 2G045BA14 2G045BB10 2G045BB23 2G045BB24 2G045BB40 2G045CA25 2G045FA16 2G045HA06 4B063QA01 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ03 4B063QQ08 4B063QR41 4B063QR46 4B063QR82 4B063QS10 4B063QS13 4B063QX01 本発明は、細胞固定液に関する。より詳細には、細胞診検査用の標本を作製するために細胞を固定するための細胞固定液、該細胞固定液を含む容器、および該細胞固定液を用いた細胞診検査用標本の作製方法に関する。 従来、細胞診検査は、主として、スメアー標本などのスライド直接塗抹法により行われていた。しかし、スメアー法では、採取器具に付着した採取物を直接スライドガラスに塗抹するため、採取物に含まれる細胞を、すべてスライドガラスに塗抹することが困難であった。したがって、採取した細胞の中で、重要な細胞を捨ててしまうこともあり、正確な診断ができず、誤診にもつながっていた。 さらに、採取物を直接スライドガラスに塗抹するため、例えば、血液が付着した採取物を用いた場合、この血液が誤って作業者の指などに付着することがあった。すなわち、作業者は、血液感染症のリスクなどに曝されていた。 そこで、近年、液状固定処理細胞診(LBC)が導入され始め、医療機関からのニーズが増大している。LBCでは、採取物が付着した器具などを細胞固定液に直接浸漬するため、採取物に含まれる細胞をすべて利用することができ、さらに、採取物を直接スライドガラスに塗抹しないので、作業者の感染症のリスクなども低減される。また、細胞変性を伴う生検体や穿刺吸引検体についても、従来は採取当日にスライドガラスに塗抹し、固定処理まで行わなければならなかったが、LBCにより、細胞の固定および保存が可能となり、一旦固定保存した後に標本を作製できるようになった(例えば、非特許文献1〜5参照)。 しかし、血液が混入した検体に対して現在市販されているLBC用細胞固定液を用いると、細胞と赤血球とが一緒に固定されて血液の塊が生じる。そのため、目的とする細胞の検鏡が困難となる。したがって、血液が混入した検体を用いる場合、細胞を固定させる前に、予め血液除去処理を行わなければならず、標本作製に長時間を要する。さらに、血液除去処理中に、重要な細胞が破壊されたり、血液と一緒に除去されたりするおそれもある。「婦人科細胞診検査」パンフレット,株式会社医学生物学研究所「マツナミポストサンプラー」,松浪硝子工業株式会社医療部門製品カタログ石井保吉ら,「YM式喀痰固定液を用いた都がん式畜痰処理法による肺がん陽性率」,1986年,武藤化学株式会社パンフレット中丸生行ら,「YM式喀痰固定液の使用効果とその安全性」,1985年,武藤化学株式会社パンフレット広岡保明,「胃癌の術中腹腔内洗浄細胞診」,[online],平成12年8月26〜27日,第40回細胞検査士教育セミナー,[平成17年11月8日検索],インターネット、<URL:http://home.hiroshima-u.ac.jp/hiroct/seminar/gastricca.html> 本発明の目的は、検体が血液を含む場合であっても、迅速かつ容易に細胞診検査用標本を作製するための細胞固定液、該細胞固定液を含む容器、および該細胞固定液を用いた細胞診検査用標本の作製方法を提供することにある。 本発明は、溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールを有効成分とする、細胞固定液を提供する。 1つの実施態様では、上記細胞固定液中の上記グリセロールの量は、上記溶血剤による溶血作用が完了した後に上記細胞固定剤による固定作用が生じるように調節されている。 ある実施態様では、上記溶血剤は、ラウリル硫酸ナトリウムおよび塩化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1つであり、そして上記細胞固定剤は、エタノールおよび2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1つである。 さらなる実施態様では、上記細胞固定液は、上記グリセロール100mLに対して、上記溶血剤を0.5〜6gおよび上記固定剤を100〜800mLの割合で含有する。 本発明はまた、上記のいずれかの細胞固定液を含有する、細胞固定用容器を提供する。 本発明はさらに、上記のいずれかの細胞固定液および該細胞固定液を装填するための容器を備える、細胞固定用キットを提供する。 1つの実施態様では、上記細胞固定用キットにおいて、上記細胞固定液は上記容器中に装填されている。 本発明は、上記のいずれかの細胞固定液に、細胞を含む検体を投入する工程を含む、細胞の固定方法を提供する。 1つの実施態様では、本発明の細胞の固定方法は、 上記投入工程終了直後に上記検体を含む細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および 該沈渣に、上記のいずれかの細胞固定液を投入する工程;をさらに含む。 本発明はまた、細胞診検査用標本の作製方法を提供し、該方法は、 上記のいずれかの細胞固定液に、細胞を含む検体を投入し、少なくとも30分間放置する工程; 該放置した細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および 該沈渣を、スライドガラスに塗抹する工程;を包含する。 本発明はさらに、他の細胞診検査用標本の作製方法を提供し、該方法は、 上記のいずれかの細胞固定液に、細胞を含む検体を投入する工程; 該投入工程終了直後に該検体を含む細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程; 該沈渣に、上記のいずれかの細胞固定液を投入し、少なくとも30分間放置する工程; 該放置した細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および 該沈渣を、スライドガラスに塗抹する工程;を包含する。 本発明によれば、溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールを有効成分とする細胞固定液が提供される。この細胞固定液を用いると、血液を含む検体であっても、血液を除去する工程を必要とせず、しかもこの細胞固定液中で、赤血球が溶血され血液の塊を生じさせることなく、有核細胞のみが固定される。また、1つの細胞固定液を1つの容器内で用いることにより、迅速かつ容易に細胞固定が行われ得る。そのため、検鏡しやすい細胞診検査用標本を短時間で容易に作製することができる。 (I)細胞固定液 本発明の細胞固定液は、溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールを有効成分として含有する。本発明は、一定の溶血剤および細胞固定剤の濃度下において、両者の作用速度がグリセロールの溶解濃度に対してほぼ反比例するため、細胞固定液中のグリセロールの量により、溶血作用および細胞固定作用の速度をコントロールできることを見い出したことに基づく。 具体的には、溶血作用速度は一定の溶血剤の濃度下でグリセロール濃度を上げていくとその速度は低下し、同様に細胞の固定作用速度も一定の細胞固定剤の濃度下でグリセロール濃度を上げて行くとその速度は低下する。それぞれの作用速度は、グリセリン濃度と反比例しており、実際には、作用速度とは、各作用の開始時間の遅延ならびに開始から完了までの作用時間の延長を指す。さらに、これらの薬剤のそれぞれの異なった作用速度(溶血剤>>細胞固定剤)は、溶血剤と細胞固定剤との一定の濃度比の下でグリセロールの濃度を上げて行くと、それぞれの作用速度の低下の割合の差により、両者に作用の時間差が生じる(図1を参照のこと)。このため、本発明においては、溶血と細胞固定とを1つの細胞固定液で行うことが可能になった。以下、細胞固定液について詳細に説明する。 (1)溶血剤 本発明の細胞用固定液に含有される溶血剤は、赤血球を破壊し溶血させ得る物質であれば、特に限定されない。例えば、サポニン、塩化アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)などが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)と塩化アンモニウムとの組み合わせが用いられる。 (2)細胞固定剤 本発明の細胞用固定液に含有される細胞固定剤としては、通常LBCで用いられる固定剤が挙げられ、例えば、エタノール、メタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。例えば、エタノールと2−プロパノールとの組み合わせが用いられる。上記の溶血剤は、赤血球を溶血破壊させると同時に他の有核細胞も変性・破壊する。しかし、アルコールなどで完全に固定された細胞においては、溶血剤を過剰に(例えば、通常の数十倍量)加えても、赤血球を含む細胞の形態に変化は見られない。すなわち、アルコールなどの細胞固定剤による固定作用は、同時に溶血作用の停止剤としての作用も担うことができる。 (3)グリセロール 本発明の細胞固定液に含有されるグリセロールは、溶血速度および細胞の固定速度の調節、細胞の乾燥防止および形態保持、細胞のスライドガラス塗抹の貼り付きの増強、細胞固定液の比重を高めることによる細胞の沈殿速度の低下などの作用を有する。本発明の細胞固定液に用いられるグリセロールは、特に限定されず、市販品などを適宜用い得る。 (4)細胞固定液 本発明の細胞固定液は、グリセロールを含有するため、当該細胞固定液の粘度が高くなっている。そのため、溶血速度および細胞の固定速度がそれぞれ低下し、それによって溶血速度および細胞の固定速度が調節され得る。すなわち、一定の溶血剤および細胞固定剤の濃度下において、両者の作用速度がグリセロールの溶解濃度の上昇に伴って低下するので、細胞固定液中のグリセロールの量を調節することにより、溶血作用および細胞固定作用の速度をコントロールできる。 本発明においては、物質に影響を与えずそして高比重、高粘度、水溶性、かつ透明であるグリセロールを加えることにより、先に溶血作用を完了させ、次に固定作用が起こり、かつ有核細胞への溶血剤による変性の影響を最小限に抑えるようにそれぞれの量が調節される。したがって、溶血終了から細胞の固定開始までの間に時間差を設けることができ、細胞膜の弱い赤血球は、固定されずに破壊され、赤血球以外の有核細胞は、破壊されずに固定される。また、時間差を設けることにより、高比重の細胞固定液中で浮遊している破壊・溶血した赤血球のほとんどを、遠心分離などにより分離・除去することも可能である。 したがって、本発明の細胞固定液は、上記溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールの量が、溶血剤による溶血作用が完了した後に上記細胞固定剤による固定作用が生じるように調節される。これらの量は、溶血剤および細胞固定剤の種類に応じて適宜決定され得る。本発明の細胞固定液に含まれる溶血剤の量は、検体中に混入し得る赤血球を溶血させるに十分な量であり、そして細胞固定剤の量は、検体中に含まれる細胞を固定するに十分な量である。 例えば、溶血剤は、グリセロール100mLに対して、好ましくは0.5〜6g、より好ましくは1〜5g、さらに好ましくは1.5〜4gの割合で含有される。溶血剤がSDSと塩化アンモニウムとの組み合わせである場合、グリセロール100mLに対して、SDSおよび塩化アンモニウムの合計量は好ましくは2.5〜3.5gであり得る。この場合のSDSと塩化アンモニウムとの質量比は、好ましくは1:1〜1:30、より好ましくは1:1.5〜1:10、さらに好ましくは1:2〜1:6である。 例えば、細胞固定剤は、グリセロール100mLに対して、好ましくは100〜800mL、より好ましくは200〜700mL、さらに好ましくは300〜600mLの割合で含有される。細胞固定剤がエタノールおよび2−プロパノールである場合は、グリセロール100mLに対して、エタノールおよび2−プロパノールの合計量は好ましくは350〜500mLであり得る。この場合のエタノールと2−プロパノールとの質量比は、好ましくは1:0.2〜1:8、より好ましくは1:0.3〜1:3、さらに好ましくは1:0.4〜1:1である。 さらに、溶血剤と細胞固定剤との質量比は、好ましくは1:20〜1:800、より好ましくは1:50〜1:600、さらに好ましくは1:80〜1:400である。例えば、溶血剤がSDSおよび細胞固定剤がエタノールである場合は、好ましくは1:100〜1:200である。 本発明の細胞固定液は、一般的には、上記の成分以外に、当業者が通常用いる媒体および添加剤を含有し得る。媒体は、細胞固定液自体の粘度を調節するなどの目的で用いられる。このような媒体としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩液(pH7.4)などが挙げられる。添加剤は、グリセロールによる細胞の乾燥防止および保護、スライドガラスへの細胞の塗抹(貼り付き)の増強、細胞固定液の高比重化などの目的で用いられる。このような添加剤としては、例えば、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。 例えば、媒体は、グリセロール100mLに対して、好ましくは100〜800mL、より好ましくは200〜700mL、さらに好ましくは300〜600mLの割合で含有される。媒体が生理食塩水である場合、グリセロール100mLに対して、生理食塩水は好ましくは350〜500mLであり得る。 例えば、添加剤は、グリセロール100mLに対して、好ましくは0.01〜15g、より好ましくは0.03〜10g、さらに好ましくは0.05〜8gの割合で含有される。添加剤がポリエチレングリコールである場合、グリセロール100mLに対して、ポリエチレングリコールは好ましくは0.08〜4gであり得る。 細胞固定液の使用量は、検体の量に応じて適宜決定される。例えば、検体の量が0.1〜0.4mLの場合は、細胞固定液の量は5〜10mLであり、検体の量が0.4〜2.0mLの場合は、細胞固定液の量は10〜20mLであり、検体の量が0.5〜20mLの場合は、細胞固定液の量は20〜30mLである。 (II)細胞固定用容器 本発明の細胞固定用容器は、上記細胞固定液を含有する。後述のように、固定された細胞、溶血赤血球などを遠心分離によって分離することを考慮すると、本発明の細胞固定用容器は、遠心分離を行うことが可能な容器であることが好ましい。 本発明の細胞固定用容器の材質は、特に制限されない。例えば、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネイト(PC)などが挙げられる。より好ましくは、遠心分離を行うことが可能な材質であり、このような材質としては、ポリプロピレン(PP)およびポリスチレン(PS)が挙げられる。また、容器の形状およびサイズも特に制限されず、当該分野で通常用いられる遠心分離機に搭載可能な形状およびサイズであればよい。 本発明の細胞固定用容器に含まれる細胞固定液の量は、上記のように、検体の量に応じて適宜決定される。また、細胞固定用容器の大きさ(容量)は、細胞固定液の量に応じて適宜決定される。細胞固定液は、細胞固定用容器の容量に対して、好ましくは40〜80容積%、より好ましくは60〜75容積%の割合で含有される。 (III)細胞固定用キット 本発明の細胞固定用キットは、細胞固定液および該細胞固定液を装填するための容器を備える。好ましくは、該容器は遠心分離を行うことが可能であり得、上記(II)のように、細胞固定液が装填された細胞固定用容器を備える。必要に応じて、例えば、採取器具、追加用の細胞固定液、使用説明書などが含まれ得る。細胞固定用容器は、大きさの異なる細胞固定用容器を数個組み合わせてもよい。 (IV)細胞の固定方法 本発明の細胞の固定方法は、本発明の細胞固定液に、細胞を含む検体を投入する工程(以下、「投入工程」という場合がある)を含む。検体に血液が多く混入している場合には、該投入工程終了直後に該検体を含む細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および該沈渣に、本発明の細胞固定液を投入する工程をさらに含む。 本発明において、細胞を含む検体とは、一般的なLBC細胞診検査用の検体をいう。このような検体としては、婦人科検体(例えば、綿棒・ブラシなどによる膣頸部採取物、特殊器具による子宮内膜掻把物)、分泌液(乳汁・鼻汁など)、滲出液、擦過物(気管支・皮膚など)、穿刺物(肺・乳腺・甲状腺・耳下腺・皮下腫瘤など)、洗浄液沈渣(気管支・腹腔内・膀胱内など)、消化液、喀痰(3日間蓄痰など)、尿沈渣などが挙げられる。 投入工程では、上記の検体を本発明の細胞固定液に投入する。使用される細胞固定液の量は、上述のように、検体の量に応じて適宜決定され得る。例えば、綿棒、ブラシなどの採取器具による採取物の場合は、採取物が付着した部分を、任意の量の細胞固定液に浸漬すればよい。分泌液、滲出液、穿刺物などの場合は、これらを任意の量の細胞固定液に直接投入すればよい。投入後、検体と細胞固定液とを十分に攪拌し、細胞が固定されるまで静置する。この場合、細胞固定液中では、まず溶血が生じ、次いで細胞固定が始まる。細胞の固定は、通常、約30分で完了する。本発明においては、検体中に少量(例えば、50μL程度まで)の血液が混入している場合であっても、上記の操作によって十分に検鏡可能に細胞が固定され得る。 一方、検体に血液が多く混入している場合、予め赤血球を除去することが好ましい。検体を細胞固定液に投入すると、直ちに赤血球は溶血破壊される。その後、細胞固定が開始されるまでの時間に遠心分離を行うと、溶血赤血球と検査対象の細胞とが分離され、高比重の細胞固定液中で溶血破壊した赤血球は上清に浮遊する。したがって、上清を除去することにより、溶血赤血球が除去され得る。本発明においては、遠心分離は、検体の投入後直ちに、好ましくは少なくとも120秒以内に行われる。遠心分離は、例えば、1600Gにて20〜50秒間行われる。上清の除去後、検査対象の細胞を含む沈渣に、本発明の細胞固定液を投入し、よく攪拌した後、細胞が固定されるまで(例えば、少なくとも30分間)静置する。ここで追加投入される細胞固定液の量は、沈渣の量に応じて適宜決定され、通常は最初に用いた細胞固定液と同量であり得る。 細胞の固定が終了した後、遠心分離などによって、固定された細胞と細胞固定液とに分離され得る。得られた沈渣は、細胞診検査用標本の作製に用いられ得る。あるいは、固定された細胞は、細胞固定液とともに、例えば室温で約2〜4週間、冷暗所保存で約2〜6カ月間保存可能である。 (V)細胞診検査用標本の作製方法 本発明の細胞診検査用標本の作製方法は、上記の細胞の固定方法の後、該方法によって得られた沈渣(固定された細胞)を、スライドガラスに塗抹する工程を包含する。例えば、次のような方法で標本が作製され得る。 固定された細胞は、通常ペースト状であり、これを、例えば、ピペットなどを用いて採取して1枚のスライドガラス上に載せる。さらにもう1枚のスライドガラスを重ね、2枚のスライドガラスを擦り合わせる。次いで、2枚のスライドガラスを剥がすことによって、均一な厚さで細胞が塗抹された2枚のスライドガラスを得る。このスライドガラス上の塗抹細胞の余分な水分、アルコール分などを、例えば送風などによって揮発乾燥させ、スライドガラス上への細胞の貼り付きを強固にすることによって、細胞診検査用標本が得られる。得られた細胞診検査用標本を、当業者が通常用いる手段によって染色する。LBCにおいては、パパニコロウ染色が一般的である。なお、細胞固定剤としてアルコールを用いた場合は、ギムザ染色には不適である。 標本作製に用いられるスライドガラスとしては、一般的に用いられるスライドガラスでよいが、スライドガラス表面の粘着性が高められた蛋白コーティングスライドガラスを用いることが好ましい。さらに、スプレー固定剤(スライドガラスに載せた細胞に直接噴霧して細胞を固定させるLBC用の細胞固定液)を併用してもよい。蛋白コーティングスライドガラスおよびスプレー固定剤を併用することによって、よりスライドガラスへの細胞の貼り付けをより強固にし得る。 以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、この範囲に限定されるものではない。 (実施例1:細胞固定液1の調製) 溶血剤としてラウリル硫酸ナトリウム(1級:和光純薬工業株式会社製)1.33g、細胞固定剤としてエタノール(1級99.5%:和光純薬工業株式会社製)416.67mL、グリセロール(1級:SAJ株式会社製)100mL、添加剤としてポリエチレングリコール4000(1級:和光純薬工業株式会社製;平均分子量3,000)0.83g、および生理食塩水416.67mLを混合し、細胞固定液1を調製した。 (実施例2:細胞固定液2の調製) 溶血剤として塩化アンモニウム(1級:和光純薬工業株式会社製)6.67g、細胞固定剤として2−プロパノール(1級99.5%以上:SAJ株式会社製)458.33mL、グリセロール(1級:SAJ株式会社製)100mL、添加剤としてポリエチレングリコール4000(1級:和光純薬工業株式会社製;平均分子量3,000)2.5g、および生理食塩水375mLを混合し、細胞固定液2を調製した。 (実施例3:細胞固定液3の調製) まず、生理食塩水50mL、溶血剤としてラウリル硫酸ナトリウム(1級:和光純薬工業株式会社製)0.16g、および細胞固定剤としてエタノール(1級99.5%:和光純薬工業株式会社製)50mLを混合し、A液を調製した。これとは別に、生理食塩水45mL、溶血剤として塩化アンモニウム(1級:和光純薬工業株式会社製)0.8g、および細胞固定剤として2−プロパノール(1級99.5%以上:SAJ株式会社製)55mLを混合し、B液を調製した。次いで、A液とB液とを7:3の割合で混合し、その100mLに、グリセロール(1級:SAJ株式会社製)12mLおよびポリエチレングリコール4000(1級:和光純薬工業株式会社製;平均分子量3,000)0.3gを加えて攪拌し、細胞固定液3を調製した。 (実施例4:細胞固定用容器の製造) 材質がPP(ポリプロピレン)で、遠心分離を行うことが可能な容器(容量10mL)に、上記細胞固定液1を6mL入れて、細胞固定用容器1を製造した。 この細胞固定用容器1は、採取物の体積が0.4mL以内の場合に用いられる。 (実施例5:細胞固定用容器の製造) 材質がPP(ポリプロピレン)で、遠心分離を行うことが可能な容器(容量20mL)に、上記細胞固定液1を15mL入れて、細胞固定用容器2を製造した。 この細胞固定用容器2は、採取物の体積が1.0mL以内の場合に用いられる。 (実施例6:細胞固定用容器の製造) 材質がPP(ポリプロピレン)で、遠心分離を行うことが可能な容器(容量30mL)に、上記細胞固定液1を20mL入れて、細胞固定用容器3を製造した。 この細胞固定用容器3は、採取物の体積が0.8〜1.8mLの場合に用いられる。 (実施例7:標本の作製1) 上記細胞固定用容器2を用いて、下記の手順で細胞診検査用標本を作製した。 まず、子宮体部内膜掻把で微量の血液を含む採取物0.6mLを得た。得られた採取物を、上記細胞用固定容器2に投入して、静置した。投入直後、容器内の細胞固定液は、濁淡赤色であった。採取物を投入して1〜3秒後には、容器内の細胞固定液は透明赤褐色になり、溶血が観察された。さらに、採取物を投入した約2〜3分後より、細胞固定液は固定作用の開始サインである混濁茶褐色へ変化し始め、タンパク質の凝固が認められた。次いで、採取物を投入して30分後に、細胞固定容器ごと遠心分離(1000G、5分間)して、上清を除去した。得られた沈渣の小豆大の量を、ピペットを用いてスライドガラスに載せ、もう1枚のスライドガラスで覆い、2枚のスライドガラスを擦り合わせて均一に塗抹した。次いで、2枚のスライドガラスを剥離して、約15分間送風することにより、余分な水およびアルコール分を揮発乾燥させ、染色用標本を得た。 (実施例8:標本の作製2) 上記細胞固定用容器3を用いて、下記の手順で細胞診検査用標本を作製した。 まず、皮下腫瘤から穿刺吸引採取物1mLを得た。得られた採取物は、血液の混入が多かったので、上記細胞用固定容器3に投入して混和し、5秒後には遠心分離(1600G、40秒間)を行った。次いで、上清(浮遊している溶血赤血球を含む)を除去し、上記実施例1で得た細胞固定液1(20mL)を追加投入して混和した。追加投入して30分後に、細胞固定容器ごと遠心分離(1000G、5分間)し、上清を除去した。得られた沈渣の小豆大の量を、ピペットを用いてスライドガラスに載せて、もう1枚のスライドガラスで覆い、2枚のスライドガラスを擦り合わせて均一に塗抹した。次いで、2枚のスライドガラスを剥離して、約15分間送風することにより、余分な水およびアルコール分を揮発乾燥させ、染色用標本を得た。 (実施例9:標本の作製3) 口腔粘膜少量および血液40μLの混合物を検体材料として用いたこと以外は、上記実施例7と同様に操作して、標本を作製した。容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の細胞像(顕微鏡写真)を図2に示す。 容器内の細胞固定液は透明赤褐色になり、溶血が観察された。また、細胞像からわかるように、上皮細胞(有核細胞)の形態観察の妨げになる多くの赤血球は溶血破壊され、背景に小さく変性して散在していた。そのため、標本は、判定および診断しやすい状態となっていた。 (比較例1:標本の作製4) 口腔粘膜少量および血液40μLの混合物を検体材料として用いた。この検体材料を、従来用いられている細胞固定液(50%エタノール+2%ポリエチレングリコール)を含む容器に投入してよく攪拌・混和した。遠心分離(1000G、5分間)後、有核細胞層の沈渣上層部(バフィーコート部)の小豆大の量を、ピペットを用いてスライドガラスに載せて、もう1枚のスライドガラスで覆い、2枚のスライドガラスを擦り合わせて均一に塗抹した。次いで、2枚のスライドガラスを剥離して、約15分間送風することにより、余分な水およびアルコール分を揮発乾燥させ、染色用標本を得た。容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の細胞像(顕微鏡写真)を図3に示す。 容器内の細胞固定液には、小型の凝血塊が観察された。また、細胞像からわかるように、多量の赤血球が大小の凝血塊になって上皮細胞に絡みつき、上皮細胞(有核細胞)の形態観察が困難であった。 (実施例10:標本の作製5) 口腔粘膜少量および血液300μLの混合物を検体材料として用いたこと以外は、上記実施例8と同様に操作して、標本を作製した。容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の細胞像(顕微鏡写真)を図4に示す。 容器内の細胞固定液は、検体材料投入直後には混濁赤色であったが、すぐに透明赤褐色になり、溶血が観察された。遠心分離により赤血球を除去した後には、細胞固定液は半透明淡黄色になった。細胞固定液1の追加投入後に遠心分離して得られた沈渣物の細胞像では、赤血球はほとんど除去されており、上皮細胞(有核細胞)は正確に形態を観察できることがわかる。このように、標本は、非常に判定および診断しやすい状態となっていた。 (比較例2:標本の作製6) 口腔粘膜少量および血液300μLの混合物を検体材料として用いたこと以外は、上記比較例1と同様に操作して、染色用標本を得た。容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の細胞像(顕微鏡写真)を図5に示す。 容器内の細胞固定液には、大型の凝血塊が観察された。また、細胞像からわかるように、多量の赤血球が大小の凝血塊になって上皮細胞に絡みつき、上皮細胞(有核細胞)の形態観察が非常に困難であった。 本発明によれば、溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールを組み合わせることにより、血液を含む検体を用いても、血液を除去する工程を必要とせず、1つの細胞固定液を1つの容器内で用いることにより、迅速かつ容易に細胞固定が行われ得る。したがって、検鏡しやすい細胞診検査用標本を容易に作製することができ、非常に有用である。また、検体の移し替え操作の必要がないため、作業者への感染の危険性も非常に減少する。グリセロールを含む細胞固定液における、溶血作用と細胞固定作用との関係の概念を示すグラフである。口腔粘膜少量および血液40μLを本発明の細胞固定液で処理した場合の、容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の顕微鏡写真である。口腔粘膜少量および血液40μLを従来の細胞固定液で処理した場合の、容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の顕微鏡写真である。口腔粘膜少量および血液300μLを本発明の細胞固定液で処理した場合の、容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の顕微鏡写真である。口腔粘膜少量および血液40μLを従来の細胞固定液で処理した場合の、容器中の細胞固定液の状態の写真および標本の顕微鏡写真である。 溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールを有効成分とする、細胞固定液。 前記グリセロールの量が、前記溶血剤による溶血作用が完了した後に前記細胞固定剤による固定作用が生じるように調節されている、請求項1に記載の細胞固定液。 前記溶血剤が、ラウリル硫酸ナトリウムおよび塩化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の細胞固定液。 前記細胞固定剤が、エタノールおよび2−プロパノールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1から3のいずれかの項に記載の細胞固定液。 前記グリセロール100mLに対して、前記溶血剤を0.5〜6gおよび前記固定剤を100〜800mLの割合で含有する、請求項1から4のいずれかの項に記載の細胞固定液。 請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液を含有する、細胞固定用容器。 請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液および該細胞固定液を装填するための容器を備える、細胞固定用キット。 前記細胞固定液が前記容器中に装填されている、請求項7に記載の細胞固定用キット。 請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液に、細胞を含む検体を投入する工程、を含む、細胞の固定方法。 前記投入工程終了直後に前記検体を含む細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および 該沈渣に、請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液を投入する工程;をさらに含む、請求項9に記載の方法。 細胞診検査用標本の作製方法であって、 請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液に、細胞を含む検体を投入し、少なくとも30分間放置する工程; 該放置した細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および 該沈渣を、スライドガラスに塗抹する工程;を包含する、方法。 細胞診検査用標本の作製方法であって、 請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液に、細胞を含む検体を投入する工程; 該投入工程終了直後に該検体を含む細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程; 該沈渣に、請求項1から5のいずれかの項に記載の細胞固定液を投入し、少なくとも30分間放置する工程; 該放置した細胞固定液を遠心分離して沈渣を得る工程;および 該沈渣を、スライドガラスに塗抹する工程;を包含する、方法。 【課題】検体が血液を含む場合であっても、迅速かつ容易に細胞診検査用標本を作製するための細胞固定液、該細胞固定液を含む容器、および該細胞固定液を用いた細胞診検査用標本の作製方法を提供すること。【解決手段】本発明の細胞固定液は、溶血剤、細胞固定剤、およびグリセロールを有効成分として含有する。この細胞固定液中のグリセロールの量は、当該溶血剤による溶血作用が完了した後に当該固定剤による固定作用が生じるように調節されている。本発明によれば、当該細胞固定液を含む容器も提供され、1つの細胞固定液を1つの容器内で用いることにより、迅速かつ容易に細胞固定が行われ得る。また、移し替え操作の必要がないため、作業者への感染の危険性も非常に減少する。【選択図】図2


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