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タイトル:特許公報(B2)_薬剤耐性菌等の発生を減少させる方法
出願番号:2005321742
年次:2014
IPC分類:C12N 15/00


特許情報キャッシュ

河田 悦和 北本 大 井村 知弘 JP 5515131 特許公報(B2) 20140411 2005321742 20051107 薬剤耐性菌等の発生を減少させる方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 河田 悦和 北本 大 井村 知弘 JP 2004328380 20041112 20140611 C12N 15/00 20060101AFI20140522BHJP JPC12N15/00 Z C12N15/00 Pubmed JSTPlus/JST7580(JDreamII) 特開2004−24232(JP,A) 特開2004−166619(JP,A) 特開2000−81437(JP,A) 特開平5−302925(JP,A) Biosci. Biotechnol. Biochem.,2003年,vol.67 no.5,pp.1179−1181 AIST Today,2003年10月,p.15 NATURE REVIEWS MICROBIOLOGY,2004年 3月,vol.2,pp.241−249 日本油化学会誌,2000年,vol.49 no.10,pp.1131−1139 J.ControlledRelease,2004 2月,Vol.94,p.423−431 9 2006158387 20060622 15 20080327 2011010390 20110518 今村 玲英子 冨永 みどり 田中 晴絵 本発明は、様々な遺伝子の細菌等の菌体への取り込みを抑制し、薬剤耐性菌等の発生を減少させることに関する。 ゲノム情報の解析された生物種の数が増える一方で、環境中の微生物の95%以上が培養することさえ難しいとされている。これらの微生物の中には、有用な遺伝子情報をもつものも多いと推定されることから、土壌圏や水圏から直接DNAを抽出することが試みられた。その結果、環境中にはこれらの微生物等から由来するDNAが未消化のまま存在することが確認された。このような環境微生物の中には、有益あるいは有害な様々な遺伝子情報をもつものが存在することが予想され得る。 かつては、これらの有害遺伝子が異なる生物種間で水平伝播する可能性はほとんどないものと考えられてきた(ここで、遺伝子の「水平伝播(転移)」とは、まったく関係のない別の生物から遺伝子が伝えられることであり、遺伝子が親から子へと伝えられていく遺伝子の「垂直伝播(転移)」と相対する用語である)。プラスミド、トランスポゾン、バクテリオファージなどの非自律性遺伝因子によって、異なる生物種の間で遺伝子が伝達される場合があることは知られていたが、これらの遺伝子の水平転移というのは、あくまで例外的な現象であると考えられていた。しかし、微生物等のゲノム情報の解析により異なる生物種間における遺伝子水平転移が、頻繁かつダイナミックに起こっている実態がわかってきた。院内感染を引き起こすMRSAなどの多剤耐性菌の拡がりや、大腸菌O−157に代表される病原性の進化などにおいても、微生物の種の壁を越えた遺伝子の水平転移が大きく関与していることが明らかとなっている。これらの遺伝子の細胞内への取り込みの機構についてはまだ不明な部分も多いが、自然取り込みを行うバクテリアにおいては、グラム陰性、グラム陽性のバクテリア共通に特殊なタンパク質を発現していることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。 一方、真核細胞、特にその培養細胞への遺伝子導入としては、主に正に荷電しているリポソーム(カチオンリポソーム)とポリヌクレオチドとの複合体を形成させ、該カチオンリポソームを負に荷電している細胞表面に吸着させ、細胞膜と融合させることによって、細胞内にポリヌクレオチドを導入させるリポフェクション法が用いられている(例えば、非特許文献2参照)。この手法は、ペプチドグリカン層やセルロース層などの細胞壁を有する細胞の場合、リポソームと融合する細胞膜が露出していないため、適用対象が細胞壁を有さない細胞に限定されると考えられてきたが、細胞壁を有する大腸菌、古細菌及び酵母等の生物種に対してリポフェクション法及びその類似法が、遺伝子を導入する有効な手法であることが知られつつある。従来リポソーム法やリポフェクション法には、生体膜に由来する脂質が用いられてきたが、これにカチオニック脂質を加えたり、カチオニック脂質単独で用いることで遺伝子導入効率が向上した。カチオニック脂質は、化学合成のものが主に用いられてきたが、最近生物由来のバイオサーフェクタントにおいても遺伝子導入が高効率におこなわれることが発見され、利用されつつある。 このような背景により、リポフェクション法と同様の機構によって細胞へのDNA等の遺伝子の取り込みが環境中で生じ、このような遺伝子導入が多剤耐性菌等の発生の少なくとも一部に関与していると疑われている。例えば、医療分野や農業、畜産分野など抗生物質等が多量に用いられている現場では、薬剤耐性菌が発生し、その菌体死等によりその薬剤耐性を担う遺伝子が、リポソームの構成要素となりうるリン脂質で構成されている生体膜とともに環境中に放出されている。これらの遺伝子が同種もしくは異種の菌体に取り込まれ薬剤耐性菌の発生を生じているものと推定され、このサイクルがいくつか繰り返され、また菌体内で遺伝子組み換えがおこり多剤耐性菌へと進化し、その後は多剤耐性を担う遺伝子が、同種、異種の多剤耐性菌の発生を促しているものと推定される。 例えば、医療分野で薬剤耐性菌が生じている現場においては、IMCJ院内感染防止委員会マニュアルに、医療分野における多剤耐性菌等による病院内院内感染として、以下の3要因: (1)感染源となる病原体が存在すること−これは外から院内に持ち込まれる場合と院内の常在菌の多剤耐性化が問題となる; (2)感染が成り立つ経路が存在すること; (3)感染が生じる宿主(新生児、老人を含む患者や病院職員等)が存在すること、が挙げられており、多剤耐性菌の院外からの持ち込み、院内での発生が懸念されている。 また、農業分野においては、同じ薬剤を長期に使うことにより各種の薬剤耐性を持った病原菌の発生が顕著な問題とっている。 しかし、いずれの分野においても、発生した薬剤耐性菌等に対して、耐性薬剤以外の薬剤を使用するなど対症的な対策がとられているが、環境中の遺伝子を対象とし、その菌への取り込みを抑制することによって、菌体外遺伝子が導入された菌体の発生そのものを抑制する視点からの対策はとられていなかった。Chen I.およびDubnau D.、Nature Review Microbiolgy.2004 Mar;2(3):241−9.、「DNA uptake during bacterial transformation.」Sambrook,J.及びD.W.Russell、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、(米国)、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年 本発明の主な目的は、様々な環境中の遺伝子を対象とし、その菌体への取り込みを抑制し、外部の遺伝子が導入され、その形質が変化した菌体の発生を抑制する方法を提供することにある。 本発明者は、上記の如き従来技術の問題点を解決するために、鋭意研究を重ねてきた。その結果、環境中の遺伝子、菌体及びリポソームを含む対象物を、そのリポソームの状態を改変するように処理することによって菌体への環境中の遺伝子の取り込みを抑制し、菌体外遺伝子が導入された菌体の発生を抑制することができることを見いだした。本発明は、これらの知見に基づくものである。 即ち、本発明は、以下の項に関する; 項1.菌体及び菌体外の遺伝子を含む対象物を、リポソーム状態を改変可能な分子種を用いて処理することを特徴とする、該遺伝子の該菌体への導入を抑制する方法; 項2.前記処理が、対象物への前記分子種の噴霧、塗布、及び混合、該分子種への対象物の浸漬、ならびに該分子種を用いる対象物の洗浄から選択される、項1に記載の方法; 項3.前記分子種に加えて核酸分解酵素を用いて前記対象物を処理する、項1または2に記載の方法; 項4.前記分子種が、脂質、タンパク質、溶剤、エステル類、カルボン酸類またはその塩、スルホン酸類またはその塩、界面活性剤、無機イオンまたはその塩からなる群より選択される、項1〜3のいずれか一項に記載の方法; 項5.前記分子種が、界面活性剤または無機塩である、項4に記載の方法; 項6.前記界面活性剤がマンノシルエリスリトールリピッド(Mannosylerythrytol lipid)(MEL)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びポリエチレングリコール モノ-p-イソ-オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記無機塩が、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である項5に記載の方法; 項7.リポソーム状態を改変可能な分子種を含む、菌体外遺伝子の菌体への導入を抑制するための組成物; 項8.前記分子種に加えて核酸分解酵素を含む、項7に記載の組成物; 項9.前記分子種が、脂質、タンパク質、溶剤、カルボン酸類またはその塩、スルホン酸類またはその塩、界面活性剤、無機イオンまたはその塩からなる群より選択される、項7または8に記載の組成物; 項10.前記分子種が、界面活性剤または無機塩である、項9に記載の組成物; 項11.前記界面活性剤が、MEL、SDS及びTriton X-100からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記無機塩が、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項10に記載の組成物; 項12.リポソーム状態を改変可能な分子種、緩衝液、及び噴霧装置を含む、菌体外遺伝子の菌体への導入を抑制するためのキット; 項13.核酸分解酵素をさらに含む、項12に記載のキット; 項14.前記分子種が、脂質、タンパク質、溶剤、エステル類、カルボン酸類またはその塩、スルホン酸類またはその塩、界面活性剤、無機イオンまたはその塩からなる群より選択される、項12または13に記載のキット; 項15.前記分子種が、界面活性剤または無機塩である、項14に記載のキット; 項16.前記界面活性剤がMEL、SDS及びTriton X-100からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記無機塩が、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群より選択される少なくとも1種である項15に記載のキット; 項17.リポソーム状態を改変可能な分子種を含む被覆層を有する物品; 項18.前記被服層が核酸分解酵素を含む、項17に記載の物品。 本明細書において、遺伝子は、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAであって、それ自体が遺伝情報を担っているか、または遺伝情報、表現型に影響を与えることができるヌクレオチドを意味する。これらの遺伝子としては、薬剤耐性、病原性等を担う遺伝子、酵素等をコードする遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。 また、遺伝子は各種形態の遺伝子を含み、例えば、自己増殖するプラスミド、トランスポゾン、DNAの制限酵素断片、DNAの各種分解酵素断片、DNAの物理分解断片、PCR断片等も含むものとする。 本発明において遺伝子の導入が抑制される菌体としては、細菌、真菌等が挙げられる。 ここで、細菌は、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の両方、および古細菌を含む。グラム陽性菌としては、ブドウ球菌、連鎖球菌、放線菌、抗酸菌等が挙げられ、グラム陰性としては、緑膿菌、大腸菌、アグロバクテリウム、フザリウム等が挙げられる。 真菌としては、ツユカビ、ウドンコカビ、ボトリチス、酵母等が挙げられる。また、本明細書中において、酵母は、カンジダ等の不完全菌も含む。 本発明において遺伝子の導入が抑制される菌体は、既に病原性を有するものだけでなく、病原性を有さないものも含む。 本発明において、「菌体外の」遺伝子とは、菌体死により菌体細胞から生体膜等と共に放出された遺伝子だけでなく、生体膜等に含まれていない遺伝子、死細胞に残存する遺伝子も含む。 本発明の対象物としては、菌体が増殖している現場、例えば、病院の器具洗浄流し、病室、トイレ、洗面所等の壁、床等、医療用具等の医療現場、圃場、農場(設備を含む)、厩舎等の農畜産現場が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中において、用語、医療用具とは、カテーテル、チューブ、聴診器、ガーゼ、絆創膏等だけでなく、医師、看護士、患者の衣類等(白衣、帽子、手袋、マスク、おむつ等)、シーツ、毛布、布団、身体と触れるような装置(腎臓透析装置等)等も含む。また、病院、農場以外にも、住居、学校等の設備、家具等、様々なものが対象物となり得る。 本発明における、リポソーム状態を改変可能な分子種とは、リポソームの状態やサイズを変更する分子種であって菌体への遺伝子の導入を抑制できるものを示す。本発明におけるリポソーム状態を改変可能な分子種は、このような特徴を有しているものであれば、どのような分子種でもよく、例えば、脂質(単純脂質、複合脂質(糖脂質、リポ多糖、リン脂質等)、誘導脂質、ステロイド、カロテノイド、テルペノイド等)、タンパク質(酵素(プロテアーゼ、ペプチダーゼ、エステラーゼ等)等)、溶剤(アルコール類(エタノール等)、グリコール類、グリセリン等)、カルボン酸類(酢酸、乳酸、低級脂肪酸、中級脂肪酸、高級脂肪酸等)またはその塩、スルホン酸類(トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等)またはその塩、界面活性剤(ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、バイオサーファクタント等)、無機イオンまたはその塩(カルシウムイオン、リチウムイオン、塩化ナトリウム等)等が用いられ得る。本発明における好ましいリポソーム状態を改変可能な分子種としては、例えば、実施例に示す、MEL、Triton X-100、SDSならびに塩化マグネシウム、塩化ナトリウム及び塩化カリウムが挙げられる。 本明細書中において、核酸分解酵素は、DNA分解酵素及びRNA分解酵素を含む。 菌体外遺伝子が導入された菌体としては、例えば、MRSAなどの多剤耐性菌、大腸菌O−157等の病原性又はヒトを含む哺乳動物に対して有害な細菌が挙げられるが、これらに限定されない。環境中の種々の場所で遺伝子導入により発生する生態系を乱し得るあらゆる菌体の発生を、本発明によって排除することができる。また、菌体への菌体外遺伝子の導入は、自然界の環境、病院、農場等の他、微生物を培養する食品、化学等の分野の工場設備、多数の微生物が存在する下水処理設備等、様々な場所で発生し得る。 本発明の方法の実施によって、薬剤耐性菌や有害な微生物あるいはそれ自身ではヒトなどの動物または植物に有害ではないが、環境に何らかの影響を与える菌体の発生を抑制できる。 本発明の1つの実施形態において、薬剤耐性菌等の発生を減少させる方法は、遺伝子の菌体内への導入を阻害することを特徴とする。 1つの実施形態において、本発明は、対象物を、糖脂質系バイオサーファクタント等のリポソーム状態を改変可能な分子種を用いて処理することを特徴とする、菌体外遺伝子の菌体への導入の発生を抑制する方法を提供する。 ここで、対象物の処理としては、対象物への前記分子種の噴霧、塗布、及び混合、前記分子種への対象物の浸漬、ならびに前記分子種を用いる対象物の洗浄が挙げられるが、これらに限定されない。 例えば、溶液中に添加して用いる場合、最終濃度で、通常、約10ng/μl以上、好ましくは、約20ng/μl以上、より好ましくは、約50ng/μl以上のリポソーム状態を改変分子種となるように添加することによって、遺伝子導入された菌体の伝播発生を抑制することができる。当業者は、処理の態様、使用される対象物の種類、状態等を考慮して、リポソーム状態を改変可能な分子種の必要量を決定し得る。この方法によって、環境中にリポソームとリポソームに含まれていない遺伝子とが存在する場合にも、環境中に遺伝子を含むリポソームが存在する場合にも、自然界でのリポフェクションと同様の機構による菌体への遺伝子の取り込みを抑制することができる。その際、環境中のリポソーム及び菌体を含む対象物にリポソーム状態を改変可能な分子種(例えばMEL)を作用させることで、リポソーム中への遺伝子の取り込みやリポソームに取り込まれた遺伝子の菌体への導入を阻止することができる(図1〜図3を参照のこと)。 さらに、対象物を、リポソーム状態を改変可能な分子種で構成されたリポソームに遺伝子分解酵素等の核酸分解酵素を取り込んだものを用いて処理することによって、環境中のリポソームへの遺伝子の取り込み抑制に加えて遺伝子核酸の分解も生じ、薬剤耐性菌等の、菌体外遺伝子が導入された菌体の発生をより抑制することができる。 また、菌体外遺伝子の菌体への導入によって有害な菌体が発生し得る可能性が高い対象物を集中的に処理することが有効である。例えば、抗生物質を投与している患者の衣服、病室の壁に、リポソーム状態を改変可能な分子種を集中的に噴霧することで、効率的に、多剤耐性菌の発生を抑制することができる。 尚、本発明の方法により処理した後、対象物を乾燥することによって、薬剤耐性菌等の、菌体外遺伝子が導入された菌体の発生をより抑制することができる。 別の実施形態において、本発明はまた、糖脂質系バイオサーファクタント等のリポソーム状態を改変可能な分子種、緩衝液、及び噴霧装置を含む、菌体外遺伝子の菌体への導入を抑制するためのキットを提供する。ここで、緩衝液としては、Good’s緩衝液、リン酸系緩衝液、酢酸系緩衝液等が挙げられるが、これらに限定されない。噴霧装置としては、携帯用霧吹き等の形態のものが挙げられるが、これに限定されない。この場合も、さらに遺伝子分解酵素を含むキットを用いることによって、菌体外遺伝子の菌体への導入をより抑制することができる。 さらに別の実施形態において、本発明は、リポソーム状態を改変可能な分子種を含む被覆層を有する医療用具等の物品を提供する。 なお、本発明の方法において、当業者は、対象物、対象とする菌の種類、費用等、を考慮して、MEL等のリポソーム状態を改変可能な分子種の使用形態として、対象物への塗布、対象物の浸漬、対象物の洗浄、対象物との混合等のうち、最適なものを選択し得る。 本発明の方法によれば、外来遺伝子の取り込みによる薬剤耐性菌等の伝播発生を未然に防ぐことができる。 例えば、多量に薬剤が使用されている医療分野や農業分野において、薬剤耐性遺伝子の水平転移を抑え、薬剤耐性菌等の、菌体外遺伝子が導入された菌体の発生を抑制することができる。 医療分野においては多剤耐性化した黄色ブドウ球菌や腸球菌などの発生が問題となっているが、これらの多剤耐性菌の多元的な発生を抑制するとともに、消臭等の機能をあわせもったスプレー剤や、高機能化洗浄剤として使用できる。 また、農業分野においては、特にその植物に病気を生じさせている主体が大腸菌と同じグラム陰性の菌体であるため、より効果的に薬剤耐性菌等の、菌体外遺伝子が導入された菌体の発生を抑制することができ、殺虫・殺菌剤等を散布する際の機能性展着剤(アジュバント)として使用すれば、相当の期間にわたって耐性菌発生抑制効果も期待される。また、例えば、以下の実施例において用いられるカチオンリポソームであるMELは、生物由来のバイオサーフェクタントであり、それ自身制菌活性と界面活性能を併せ持ち、生分解性されて無害化するため、特に有効と推定される。 以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明瞭にする。 実施例1:リポソームの形成阻害 大腸菌DH5α DOTAP 薬剤耐性等の遺伝子を含んだリポソームの形成を阻害する 1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 DOTAP Liposomal Transfection Reagent(Roche社、モノカチオニックタイプ、DOTAP)100ng/μlとMEL100ng/μlとを混合し、MELの濃度を、0%、1%、2%、5%、10%、20%、50%、100%、総量を10μl(重量比でpUC19の1000倍)となるように調整したものを加え、混合後室温にて5分放置しポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を得た。 大腸菌エレクトロコンピテントセルDH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて5倍に希釈した前記の複合体にそれぞれ50μlずつ加え、氷上に5分置いた。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。 MELを加える割合が増加するにつれ、出現するアンピシリン耐性の形質転換株の数が減少し、MEL100%では全く形質転換株が得られなかった。 実施例2:リポソームの形成阻害 大腸菌DH5α DOSPER 薬剤耐性等の遺伝子を含んだリポソームの形成を阻害する 1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 トランスフェクション試薬 DOSFER Liposomal Transfection Reagent(Roche社、ダイカチオニックタイプ、(1,3−ジ−オレオキシオルオキシ−2−(6−カルボキシ−スペルミル)−プロピルアミド)(1,3−Di−Oleoxyloxy−2−(6−Carboxy−spermyl)−propylamid))100ng/μlとMEL 100ng/μlを混合し、MELの濃度を、0%、1%、2%、5%、10%、20%、50%、100%、総量を10μl(重量比でpUC19の1000倍)となるように調整したものを加え、混合後室温にて5分放置しポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を得た。 大腸菌エレクトロコンピテントセルDH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて5倍に希釈した前記の複合体にそれぞれ50μlずつ加え、氷上に5分置いた。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。 MELを加える割合が増加するにつれ、出現するアンピシリン耐性の形質転換株の数が減少し、MEL100%では全く形質転換株が得られなかった。 実施例3:リポソーム形成後の菌体への取り込み阻害 大腸菌DH5α DOTAP 薬剤耐性等の遺伝子を含んで形成されたリポソームに作用して、リポソームの状態を変化させ、菌体への遺伝子の取り込みを阻害する 1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 DOTAP Liposomal Transfection Reagent(Roche社、モノカチオニックタイプ、DOTAP)100ng/μlを5μl(重量比でpUC19の500倍)となるように調整して加え、混合後室温にて5分放置し、ポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を得た。それぞれに糖脂質系バイオサーファクタントであるMEL 100ng/μlを混合し、DOTAPに対するMELの濃度を、0%, 2%, 5%, 10%, 20%, 50%, 100%、200%となるように調整し加え、混合後室温にてさらに5分放置した。 大腸菌エレクトロコンピテントセルDH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて5倍に希釈したものを前記の複合体にそれぞれ50μlずつ加え、氷上に5分置いた。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。 MELを加える割合が増加するにつれ、出現するアンピシリン耐性の形質転換株の数が減少した。 実施例4:遺伝子を含むリポソームの菌体との結合阻害 大腸菌DH5α DOTAP 菌体と薬剤耐性等の遺伝子を含むリポソームとの結合、ひいては薬剤耐性遺伝子が菌体へ導入されるのを、薬剤耐性等の遺伝子を含まないリポソーム等により阻害する 1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 DOTAP Liposomal Transfection Reagent(Roche社、モノカチオニックタイプ、DOTAP)100ng/μlを5.0μl(重量比でpUC19の500倍)となるように調整して加え、混合後室温にて5分放置しポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を得た。 大腸菌エレクトロコンピテントセルDH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて10倍に希釈し、50μlずつマイクロチューブに分注した。それぞれに糖脂質系バイオサーファクタントであるMEL 100ng/μlをDOTAPに対するMELの濃度を、0%、50%、100%、200%、500%となるように調整したものを加え、混合後氷上にて3分放置した。これらに、既に調整したポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を加え、氷上にてさらに5分放置した。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。 MELを加える割合が増加するにつれ、出現するアンピシリン耐性の形質転換株の数が減少した。 実施例5:薬剤耐性遺伝子等の酵素を含むリポソームによる分解 大腸菌DH5α DOTAP、MEL リポソームを形成後の薬剤耐性等の遺伝子を、遺伝子分解酵素等を含むリポソーム等により分解等を行い、薬剤耐性遺伝子の菌体への取り込みを阻害する 1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 DOTAP Liposomal Transfection Reagent(Roche社、モノカチオニックタイプ、DOTAP)100ng/μlを5.0μl(重量比でpUC19の500倍)となるように調整して加え、混合後室温にて5分放置しポリヌクレオチド及びトランスフェクション試薬の複合体を得た。 それぞれにDeoxyribonuclease I(DNase I)(TAKARA、0.7 unit/μlミリQ水にて希釈)1μlおよび、50mMのMgSO4 1μlを、双方とも加えないもの、DNase Iのみ加えたもの、双方とも加えたものを作成し、それぞれに、ミリQ水、またはDOTAP 100ng/μl、またはMEL 100ng/μlをそれぞれ10μl加え、室温にて3分放置した。これらに、既に調整したポリヌクレオチド及びトランスフェクション試薬の複合体を加え、室温にて1分放置した。大腸菌エレクトロコンピテントセル(DH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて10倍に希釈し、50μlずつマイクロチューブに分注したもの)に加え、氷上にてさらに5分放置した。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。 MELを用いなかった対照区のサンプルに比べて、MELを用いた試験区において、形質転換株数は、有意に減少した。 実施例6:リポソーム形成後の菌体への取り込み阻害 大腸菌DH5α DOTAP 薬剤耐性等の遺伝子を含んで形成されたリポソームもしくは菌体に作用して、菌体への遺伝子の取り込みを阻害する1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 DOTAP Liposomal Transfection Reagent(Roche社、モノカチオニックタイプ、DOTAP)100ng/μlを5μl(重量比でpUC19の500倍)となるように調整して加え、混合後室温にて5分放置し、ポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を得た。それぞれに無機塩である塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムの水溶液44μlおよび大腸菌エレクトロコンピテントセルDH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて5倍に希釈したものを前記の複合体にそれぞれ50μlずつ加え、氷上に5分置いた。無機塩の最終濃度は、1mM、5mM、10mM、50mM,100mMとなるように調整した。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。無機塩を加えるにつれて、出現するアンピシリン耐性の形質転換株の数が減少した。なお、大腸菌の液体培養で100mMのこれらの無機塩を加えても増殖に影響はなかった。 実施例7:リポソーム形成後の菌体への取り込み阻害 大腸菌DH5α DOTAP 薬剤耐性等の遺伝子を含んで形成されたリポソームもしくは菌体に作用して、菌体への遺伝子の取り込みを阻害する1ng/μlのプラスミドpUC19をマイクロチューブに1.0μlずつ分注する。これにカチオンリポソーム試薬 DOTAP Liposomal Transfection Reagent(Roche社、モノカチオニックタイプ、DOTAP)100ng/μlを5μl(重量比でpUC19の500倍)となるように調整して加え、混合後室温にて5分放置し、ポリヌクレオチド及びカチオンリポソーム試薬の複合体を得た。それぞれに界面活性剤であるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Triton X-100(ポリエチレングリコール モノ-p-イソ-オクチルフェニルエーテル)の水溶液44μlおよび大腸菌エレクトロコンピテントセルDH5α(TAKARA、1×1010個cells/ml)を氷上で、ミリQ水を用いて5倍に希釈したものを前記の複合体にそれぞれ50μlずつ加え、氷上に5分置いた。界面活性剤の最終濃度は、1%、0.5%、0.1%、0.05%、0.01%となるように調整した。そこに37℃に温めておいたSOC培地1mlを加え、37℃で1時間振盪培養し、アンピシリンを含むLB培地プレートに塗布し、37℃で一晩インキュベートした。界面活性剤を加えるにつれて、出現するアンピシリン耐性の形質転換株の数が減少し、界面活性剤の濃度が、0.05%以上では完全に形質転換を阻害した。なお、大腸菌の液体培養でSDSは0.01%まで増殖に影響せず、0.05%以上では、生育の阻害がみられた。TritonX-100は、1%まで増殖に影響しなかった。図1は、環境中のリポソームへの遺伝子の導入(上側)、及び糖脂質系バイオサーファクタントによる環境中のリポソームへの遺伝子の導入の阻害(下側)の概略図を示す。図2は、遺伝子を含んだリポソームからの遺伝子の遊離の概略図を示す。図3は、菌体細胞への糖脂質系バイオサーファクタントの付着(上)、比較としてのリポソームを介する菌体細胞への遺伝子の導入、及び糖脂質系バイオサーファクタントの付着による菌体細胞への遺伝子の導入阻害の概略図を示す。菌体及び菌体外の遺伝子を含む対象物を、リポソーム状態を改変可能な分子種を用いて処理することを特徴とする、該遺伝子の該菌体への導入を抑制する方法であって、前記リポソーム状態を改変可能な分子種がマンノシルエリスリトールリピッド(Mannosylerythrytol lipid)(MEL)である方法。前記処理が、対象物への前記分子種の噴霧、塗布、及び混合、該分子種への対象物の浸漬、ならびに該分子種を用いる対象物の洗浄から選択される、請求項1に記載の方法。前記分子種に加えて核酸分解酵素を用いて前記対象物を処理する、請求項1または2に記載の方法。リポソーム状態を改変可能な分子種を含む、菌体外遺伝子の菌体への導入を抑制するための組成物であって、前記リポソーム状態を改変可能な分子種がマンノシルエリスリトールリピッド(Mannosylerythrytol lipid)(MEL)である組成物。前記分子種に加えて核酸分解酵素を含む、請求項4に記載の組成物。リポソーム状態を改変可能な分子種、緩衝液、及び噴霧装置を含む、菌体外遺伝子の菌体への導入を抑制するためのキットであって、前記リポソーム状態を改変可能な分子種がマンノシルエリスリトールリピッド(Mannosylerythrytol lipid)(MEL)であるキット。核酸分解酵素をさらに含む、請求項6に記載のキット。リポソーム状態を改変可能な分子種を含む被覆層を有する医療用具であって、前記リポソーム状態を改変可能な分子種がマンノシルエリスリトールリピッド(Mannosylerythrytol lipid)(MEL)である医療用具。前記被覆層が核酸分解酵素を含む、請求項8に記載の医療用具。


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