タイトル: | 公開特許公報(A)_ストレス評価方法 |
出願番号: | 2005302589 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12Q 1/68,C07K 16/18,C07K 14/47,C12Q 1/66,G01N 33/53 |
山本 拓郎 相馬 温彦 内匠 透 中畑 泰和 JP 2007110912 公開特許公報(A) 20070510 2005302589 20051018 ストレス評価方法 ソニー株式会社 000002185 渡邊 薫 100112874 山本 拓郎 相馬 温彦 内匠 透 中畑 泰和 C12N 15/09 20060101AFI20070406BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20070406BHJP C07K 16/18 20060101ALI20070406BHJP C07K 14/47 20060101ALI20070406BHJP C12Q 1/66 20060101ALN20070406BHJP G01N 33/53 20060101ALN20070406BHJP JPC12N15/00 AC12Q1/68 AC07K16/18C07K14/47C12Q1/66G01N33/53 D 10 3A OL 22 4B024 4B063 4H045 4B024AA11 4B024BA08 4B024BA80 4B024CA02 4B024CA04 4B024CA07 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA10 4B024GA11 4B024HA12 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ08 4B063QQ22 4B063QQ79 4B063QR55 4B063QR60 4B063QR62 4B063QR66 4B063QR69 4B063QR77 4B063QR80 4B063QS24 4B063QS25 4B063QS34 4B063QS36 4B063QX02 4H045AA30 4H045BA41 4H045CA40 4H045DA75 4H045DA86 4H045EA50 4H045FA74 本発明は、末梢組織におけるPer1遺伝子の発現レベルの増加を検出するストレス評価方法、Per1遺伝子、Per1遺伝子がコードするタンパク質であるPER1、Per1遺伝子の転写産物又はPER1のストレス検出用マーカーとしての使用などに関する。 概日リズム(サーカディアンリズム)は、約24時間を周期とする生物リズムであり、単細胞生物からヒトに至るまで、多くの生物に普遍的に見られる生体内現象である。各生物は、概日リズムの制御に関わる遺伝子を有し、概日リズム制御遺伝子が、概日リズムの調整を行っている。 哺乳類では、概日リズム制御遺伝子の発現量が脳視床下部の視交叉上核(SCN)で特に高く、個体レベルでの概日リズム調整の中枢を担っている。一方、生体内のその他の組織(概日リズム末梢組織)においても、概日リズム制御遺伝子は発現しており、概日リズム中枢と同様に、概日リズム制御遺伝子による細胞・組織ごとの概日リズム調整が行われている。 哺乳類における概日リズム制御遺伝子としては、Per遺伝子(Per1、Per2、Per3)、Clock遺伝子、Bmal遺伝子(Bmal1、Bmal2、Bmal3)、Cry遺伝子、Dec遺伝子(Dec1、Dec2)、Dbp遺伝子、E4Bp4遺伝子、Rev−erb遺伝子(Rev−erbα、Rev−erbβ)などが知られている。 ここで、本発明に関連する先行文献として、例えば、特許文献1には、唾液中のコルチゾールを測定することによる慢性ストレス判定方法が記載されている。なお、非特許文献1は、後述の実施例において参照した文献である。特開2000−275248号公報Sokolove P.G. and Bushell W.N. (1978) J Theor Biol 72, 131-160 哺乳類などでは、ストレス応答性と概日リズム調節機構との間には関連性があると考えられているが、ストレスと時計遺伝子との間の分子的反応機構の詳細は、未解明な部分が多い。 そこで、本発明は、ストレスと時計遺伝子との間の分子的反応機構を解明することを主な目的とする。 本発明者らは、末梢組織において、ストレス時にPer1遺伝子の発現レベルが増加することを新規に見出した。また、このストレス応答において、末梢組織の概日リズムは変化しないこと、及び、Per1遺伝子はそのプロモーター領域に存在するグルココルチコイド応答配列依存的に発現レベルが増加することを新規に見出した。 これらの新知見は、次のようなストレス応答機構の存在を示唆する。個体にストレスが負荷されると、副腎皮質よりグルココルチコイドが分泌され、全身に運ばれる。それに対し、Per1遺伝子の発現レベルが、そのプロモーター領域に存在するグルココルチコイド応答配列依存的に増加する。即ち、ストレス負荷によるPer1遺伝子の発現レベルの上昇は、他の時計遺伝子の発現や概日リズムとは別の反応機構により行われる。 前記各知見は、ストレス評価方法に適用できる。例えば、末梢組織中におけるPer1遺伝子の転写産物(mRNA)の量の増加やPER1(Per1遺伝子がコードするタンパク質)の量の増加を検出・測定などすることにより、ストレスの有無や度合を評価することができる。 なお、Per1遺伝子の転写産物の検出は、例えば、末梢組織からtotalRNAなどを抽出・合成した後、Per1の塩基配列又はその一部を有するポリヌクレオチド(検出用プローブ)と抽出・合成した核酸とのハイブリダイゼーション反応により行うことができる。また、PER1(タンパク質)の検出は、例えば、PER1に特異的に結合する抗PER1抗体を用いた抗原抗体反応により行うことができる。 Per1遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)の遺伝子データベースなどで取得できる。例として、ヒトのPer1遺伝子のホモログの塩基配列を配列番号1に、マウスのPer1遺伝子の塩基配列を配列番号2に示す。なお、本発明におけるPer1遺伝子には、各動物種におけるPer1遺伝子ホモログの配列のほか、それらの配列の一部に置換、欠損、挿入、付加部分が含まれるものも包含される。 本発明により、より客観的かつ高精度にストレス状態を評価できる。 実施例1では、赤外線運動記録装置(Biotex社製)を用いてマウスの運動を記録し、ストレスを負荷した場合におけるマウスの運動の概日変化を調べた。 赤外線運動記録装置を備えたケージ内に、BALB/c系統のマウスを一匹ずつ入れ、2週間、12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返し(明条件は8時から20時とした。)概日リズムを同調させた後、24時間暗条件でフリーラン(自由継続)させ、アクトグラムを記録した。また、フリーランさせている途中で、2日間連続で、所定時刻に1時間のストレスをマウスに負荷した。ここで、アクトグラムとは、マウスの運動を連続的に記録したものである。記録したアクトグラムは、「chi−square periodgram」法による解析を行った(非特許文献1参照)。 図1Aは、ストレスを負荷した場合におけるマウスの運動の概日変化を示すアクトグラムである。図の一番上の段に示された数値は時刻を、そのすぐ下の黒色部分はフリーランさせる前において暗条件にした時刻を、灰色部分は同じく明条件にした時刻を、それぞれ表す。図中の以下の各段は2日ごとのアクトグラムであり、各点は運動の検出回数を表す。 図中、「CT2」は、概日時間(Circadian Time)の2時を、「CT5」は同じく5時を、「CT15」は同じく15時を、それぞれ表す。ここで、概日時間は、マウスが主観的な時刻を表す。即ち、マウスは夜行性であるため、12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返される条件の場合は、明条件の開始時刻を概日時間の0時に、24時間暗条件の場合は、日周リズムにより運動が減る時刻(睡眠状態になる時刻)を0時に、それぞれ設定する。 アクトグラム中の黒く塗りつぶされた部分は、ストレスを負荷した時間帯を表す。即ち、「CT2」のアクトグラムの場合、24時間暗条件にしてから20日目と21日目の概日時間1〜2時にストレスを負荷した。同様に、「CT5」のアクトグラムの場合、24時間暗条件にしてから20日目と21日目の概日時間4〜5時に、同様に、「CT15」のアクトグラムの場合、24時間暗条件にしてから20日目と21日目の概日時間14〜15時に、それぞれストレスを負荷した。 その結果、図1Aに示す通り、ストレスを負荷した場合も、概日リズムの変化は観察されなかった。 図1Bは、図1Aのアクトグラムにおけるマウスの概日周期を平均値化したグラフである。図中、縦軸の「period(hr)」は、マウスの概日周期(主観的な1日の長さ)を表す。「PrS」はストレス負荷前(pre stress)における概日周期であることを、「PoS」はストレス負荷後(post stress)における概日周期であることを、それぞれ表す。図中、「stress」の項目は、ストレス負荷の有無を表す。その他、「CT2」、「CT5」、「CT15」は前記と同様である。 その結果、図1Bに示す通り、ストレス負荷前とストレス負荷後とで、概日周期の変化はほとんど見られなかった。 図1Cは、ストレス負荷前と負荷後の運動率の変化を表すグラフである。図中、縦軸の「Activity ratio(%)」は、ストレス負荷後の3日間における運動値を、ストレス負荷前の10日間における運動値で除した値(%)である。図中、「stress」の項目は、前記と同様、ストレス負荷の有無を表す。その他、「CT2」、「CT5」、「CT15」は前記と同様である。 その結果、図1Cに示す通り、ストレスを負荷しなかった群(コントロール)とストレスを負荷した群との間で、運動率の変化はほとんど観察されなかった。 図1Dは、ストレスを負荷した場合における再同調までの日数を表すグラフである。この実験では、12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した(明条件は8時から20時とした。)後、ストレスを負荷した日から、明条件開始時刻を6時間早くした(明条件は2時から14時)場合、概日リズムが何日間で再同調するかを調べた。 図中、縦軸の「Number of days until Resynchronization」は、明条件開始時刻の変更後再同調するまでの日数を表す。図中、「ZT2」は、明暗周期(Zeitgeber time)1〜2時の間ストレスを負荷したことを、「ZT15」は同じく14〜15時の間ストレスを負荷したことを、「ctrl」はストレスを負荷しなかったこと(コントロール)を、それぞれ表す。ここで、明暗周期(Zeitgeber time)は、12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返す条件下において、明条件の開始時刻を0時にした場合の時刻を表す。 その結果、図1Dに示す通り、ZT2の場合では、ばらつきが見られたが、ZT15の場合では、概日リズムが再同調するまでの日数は、ストレスを負荷しなかった場合(コントロール)とほとんど同じだった。 以上、実施例1の結果は、個体の行動レベルにおいて、ストレス負荷によっては、概日リズムはほとんど変化しないことを示す。 実施例2では、ストレスを負荷した場合における各時計遺伝子の発現量の概日変化を調べた。 まず、所定時刻に1時間のストレスをマウスに負荷した後、そのマウスから肝臓、心臓、腎臓の各臓器を採取した。臓器の採取時刻は、ストレス負荷の12時間後から4時間ごとに設定した。次に、それらの臓器をホモジナイズ後、Promega total SV RNA Isolation Kit(Promega社製)を用いて、各臓器からtotal RNAを抽出し、定量的リアルタイムRT−PCRにより、mPer1、mPer2、Bmal1遺伝子の発現量を測定した。 次に、測定した発現量の経時的データについて、「数1」に示す数式を用いて、「Cosine fitting curve」法により、フィッティングを行った。 結果を図2A〜2Cに示す。 図2Aは肝臓における各時計遺伝子の発現量の概日変化を示すグラフ、図2Bは心臓における各時計遺伝子の発現量の概日変化を示すグラフ、図2Cは腎臓における各時計遺伝子の発現量の概日変化を示すグラフである。 各図中、「mPer1」はmPer1の発現量の概日変化を示すグラフであることを、「mPer2」はmPer2の発現量の概日変化を示すグラフであることを、「mBal1」はmBal1の発現量の概日変化を示すグラフであることを、それぞれ表す。なお、各遺伝子の名称に付された「m」は、マウス(Mus musculus)を表す。各図中、「ctrl」はストレスを負荷しなかったこと(コントロール)を、「ZT2」は、明暗周期(Zeitgeber time)1〜2時の間ストレスを負荷したことを、「ZT15」は同じく14〜15時の間ストレスを負荷したことを、それぞれ表す。各図中の数値は、臓器の採取時刻を表す。 その結果、図2A〜2Cにに示す通り、各時計遺伝子の発現量にはばらつきがみられたが、ストレスを負荷した場合(「ZT2」、「ZT15」のグラフ参照)と、ストレスを負荷しなかった場合(コントロール)との間で、概日リズムの位相の移動は、ほとんどなかった。 従って、実施例2の結果は、時計遺伝子の発現レベルにおいて、ストレス負荷によっては、概日リズムの位相はほとんど変化しないことを示す。 実施例3では、ストレスを負荷した場合において、各臓器における時計遺伝子の発現量が変化するかどうか調べた。 まず、所定時刻に1時間のストレスをマウスに負荷した後、そのマウスから肝臓、心臓、肺、腎臓の各臓器を採取した。臓器の採取時刻は、ストレス負荷の12時間後から4時間ごとに設定した。次に、それらの臓器をホモジナイズ後、Promega total SV RNA Isolation Kit(Promega社製)を用いて、各臓器からtotal RNAを抽出し、定量的リアルタイムRT−PCRにより、各時計遺伝子の発現量を測定した。 結果を図3A〜3Dに示す。 図3Aは肝臓における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ、図3Bは心臓における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ、図3Cは肺における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ、図3Dは腎臓における各時計遺伝子の発現量を示すグラフである。 各図中、「Per1」、「Per2」、「Per3」、「Bmal1」、「Npas2」、「Cry1」、「Cry2」、「Dec1」、「Dec2」、「Dbp」、「E4bp4」は各時計遺伝子の発現量を示すグラフであることを表す。各グラフ中、黒色のバーは、ストレスを負荷しなかった場合(control)における各時計遺伝子の発現量を、白色のバーはストレスを負荷した場合における各時計遺伝子の発現量を、それぞれ表す。各グラフ中、横軸の数値は臓器の採取時刻を、縦軸の数値は発現量(相対値)を、それぞれ表す。 図3A〜3Dに示す通り、各臓器において、ストレス負荷により、Per1遺伝子の発現量は増大したのに対し、その他の各時計遺伝子は、ストレスを負荷しても、発現量は増大しなかった。 以上、実施例1〜実施例3を総合すると、本実験結果は、ストレスを負荷した場合、個体レベルでの行動リズムや時計遺伝子の発現レベルでは、概日リズムが安定しているのに対し、ストレスを負荷した直後の末梢組織では、Per1遺伝子の発現レベルが上昇することを示唆する。 従って、例えば、末梢組織におけるPer1遺伝子の発現レベルを指標とすることにより、ストレスを客観的に評価できる可能性がある。 また、それらの実験結果は、ストレス負荷によるPer1の発現レベルの上昇が、既知のプロモーター(E−box、CREなど)を介した経路、例えば、Bmal/Clock−E−box経路、CRE−CREB経路などとは異なる新規の転写制御機構によるものである可能性を示唆する。 実施例4では、ストレス応答に関わるPer1遺伝子のプロモーターについて、検討した。 はじめに、ゲノム情報に基づき、Per1遺伝子のプロモーター領域の配列について、in silicoの解析を行った。その結果、プロモーター領域の配列中に、ヒト、ラット、マウスに共通して、4つのE−boxと2つのDBPE(Dbp−binding elements)を見つけた。また、GRE(glucocorticoid responsive elements)に近似する配列を2つ見つけた(以下、「GRE近似配列」とする)。 なお、E−boxは、Per1遺伝子の他、Per2遺伝子、Dbp遺伝子のプロモーター領域などにも存在する。また、DBPEは、Per3遺伝子のプロモーター領域にも存在する。 図4AはGRE近似配列及びその近傍の配列を示す図、図4Bは各プロモーターの配列上の位置を示す模式図である。 図中、「Distal GRE」は、2つのGRE近似配列のうち上流側の配列であることを、「Proximal GRE」は、同じくGRE近似配列のうち下流側の配列であることを、それぞれ表す。図中、それぞれ、「H」はヒトの、「R」はラットの、「M」はマウスの配列であることを示す。図中、下線のある配列がGREに近似する配列である。図中、「Ex1」はエクソン1を、「Ex2」はエクソン2を表す。 図4B中、「E−box」は、Per1遺伝子のプロモーター領域のうち、E−boxの存在する位置を、「GRE」は、同じくGRE近似配列の存在する位置を、「CRE」は、同じくCREの存在する位置を、それぞれ表す。 続いて、Per1のプロモーター領域のうち、どの部分がストレス応答に関与しているか、ルシフェラーゼアッセイにより調べた。 ルシフェラーゼは、生物発光を触媒する酵素タンパク質である。例えば、所定の遺伝子のプロモーター領域とルシフェラーゼをコードする遺伝子とを連結させた組換え遺伝子を作製し、その組換え遺伝子を培養細胞に組み込んだ場合、その遺伝子の発現が誘導されると、ルシフェラーゼが発現する。従って、ルシフェラーゼによる生物発光を測定し、ルシフェラーゼの発現レベルを取得することにより、その遺伝子の発現誘導レベルを推定することができる。 そこで、本実験では、Per1のプロモーター領域の長さの異なるDNAを調製し、デキサメサゾン存在下でPer1の発現レベルを取得することにより、Per1遺伝子のプロモーター領域のどの部分がストレス応答に関与しているか、調べた。ここで、デキサメサゾンは、合成グルココルチコイドである。グルココルチコイドは、生体がストレス状態になると血中量が増加することが知られている。 実験手順の概要を以下に示す。 (1)まず、Per1遺伝子のプロモーター領域のうち全長を有するDNA(P1F)、及び、上流側を切断・除去したDNA(P1K、P1S)を調製した。なお、切断部位は、図4Bに示す通り、「P1F」ではPer1遺伝子の転写開始領域から6301塩基上流、「P1K」では同じく3806塩基上流、「P1S」では同じく2369塩基上流である。(2)次に、ルシフェラーゼ発光ベクターpGL3 basic(Promega社製)に、それらのDNAを組み込んで、組換えベクターを作製した。この組換えベクターは、所定長のプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子をコードする領域を有する。(3)次に、(2)で作製した組換えベクターを、培養細胞NIH3T3にトランスフェクションし、0.1μMのデキサメサゾンを添加した。次に、トランスフェクションした培養細胞を、単離・継代し、ルシフェラーゼを発現させた。そして、トランスフェクションの36時間後に、継代した細胞を集め、溶解させた。(4)次に、Dual Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、溶解させた細胞溶液を調製した後、発光強度を測定し、デキサメサゾンによるPer1遺伝子の発現誘導レベルを取得した。 結果を図4Cに示す。 図4Cは、ルシフェラーゼアッセイの結果を示すグラフである。グラフの横軸の「relative luc activity」は、発光強度を表す。この値は、Per1遺伝子のプロモーター領域の全長を培養細胞に組み込んだ場合の発光強度を「100」とした場合の相対値(%)である。 「P1F」はPer1遺伝子のプロモーター領域の全長を培養細胞に組み込んだ場合の発光強度であることを、「P1K」はPer1遺伝子の転写開始領域から3806塩基上流までを培養細胞に組み込んだ場合の発光強度であることを、「P1S」はPer1遺伝子の転写開始領域から2369塩基上流までを培養細胞に組み込んだ場合の発光強度であることを、「vector」は空ベクターを培養細胞に組み込んだ場合(コントロール)の発光強度であることを、それぞれ表す。また、図4C中の右側の模式図は組み込んだDNAを模式的に表したものである。「DEX」はデキサメサゾンを添加した場合の発光強度であることを、「EtOH」はエタノールを添加した場合(コントロール)の発光強度であることを、それぞれ表す。 その結果、図4Cに示す通り、デキサメサゾンを添加した場合、「P1K」の群では高い発光強度を取得し、また、「P1S」の群でも一定量の発光強度を取得した。 「P1K」の群で用いたプロモーター配列の場合、GRE近似配列を2つとも有する。一方、「P1S」の群で用いたプロモーター配列の場合、GRE近似配列を1つ有する。従って、本実験結果は、in silicoの解析で見つけたGRE近似配列が、Per1遺伝子のストレス応答に関与する可能性を示唆する。 続いて、in silicoの解析で見つけた2つのGRE近似配列のいずれか又は両方の配列を変異させた場合に、図4Cと同様の発現誘導が起きるかどうか調べた。 まず、Per1遺伝子のプロモーター領域のうち全長を有するDNA(P1F)、P1Fのうち上流側のGRE近似配列を変異させたDNA(P1FdM)、同じく下流側のGRE近似配列を変異させたDNA(P1FpM)、両方のGRE近似配列を変異させたDNA(P1Fd/pM)の4種類を調製した。次に、上述の手順と同様に、ルシフェラーゼ発光ベクターにそれらのDNAを組み込み、培養細胞NIH3T3にトランスフェクションした後、0.1μMのデキサメサゾンを添加し、トランスフェクションの36時間後に、継代した細胞を集め、溶解させた。そして、Dual Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、溶解させた細胞溶液を調製した後、発光強度を測定し、デキサメサゾンによるPer1遺伝子の発現誘導レベルを取得した。 結果を図4Dに示す。 図中、それぞれ、「P1F」はPer1遺伝子のプロモーター領域の全長を培養細胞に組み込んだ場合の、「P1FdM」はP1Fのうち上流側のGRE近似配列を変異させたものを培養細胞に組み込んだ場合の、「P1FpM」はP1Fのうち下流側のGRE近似配列を変異させたものを培養細胞に組み込んだ場合の、「P1Fd/pM」は両方のGRE近似配列を変異させたものを培養細胞に組み込んだ場合の発光強度であることを表す。その他は、図4Cと同様である。 その結果、図4Dに示す通り、デキサメサゾンを添加した場合、「P1FpM」の群では高い発光強度を取得したのに対し、「P1FdM」の群では、発光強度があまり高くなかった。この実験結果は、Per1のプロモーター領域に存在するGRE近似配列のうち、特に、下流側の配列が、ストレス応答に強く関与していることを示唆する。 実施例5では、NIH3T細胞を用いて、Per1遺伝子配列のGRE近似配列とグルココルチコイド受容体(以下、「GR」とする)とが結合するかどうかを、ChIP(Chromatin immunoprecipitation)法により調べた。 まず、NIH3T3細胞をデキサメサゾン処理し、mPer1遺伝子を発現誘導した。次に、その細胞へホルムアルデヒドを加え、タンパク質とクロマチンDNAとの結合を固定した。次に、クロマチンDNAをソニケーションにより断片化した後、抗GR抗体を用いて免疫沈降を行い、免疫沈降物(抗GR抗体、GR、GRと結合したクロマチンDNA、以上3者の複合体)を回収した。次に、その免疫沈降物を加熱してDNA−タンパク質間のクロスリンクを解除させた後、PCRを行って目的の配列を増幅し、電気泳動により、PCR産物を確認した。 図5Aは、Per1遺伝子の配列を模式的に示した図である。 図中、「dGRE」及び「pGRE」の上に付された三角は、PCRに用いたプライマーに対応する配列部位を示す。即ち、プライマーは、2つのGRE近似配列の近傍の部位をそれぞれ特異的に増幅させるように設計した。 図5Bは、ChIP法により免疫沈降物を得た後、半定量的RT−PCRにより目的の配列を検出した場合における電気泳動写真である。 図中、「IP:α−GR」は、抗GR抗体を用いて免疫沈降物を得た後、半定量的RT−PCRにより目的の配列を検出した場合の結果であることを、「IP:α−normal rabbit IgG」は、ウサギのIgGを用いて免疫沈降物を得た場合の結果(コントロール)であることを、「input」は、免疫沈降を行わずに半定量的RT−PCRにより目的の配列を検出した場合(コントロール)の結果であることを、それぞれ表す。図中、「ChIP primer」の段は、半定量的RT−PCRに用いたプライマー、即ち、増幅した目的の配列を表す。ここで、「dGRE」は、Per1遺伝子のプロモーター領域に存在する2つのGRE近似配列のうち、上流側の配列を増幅させたことを、「pGRE」は、同じく下流側の配列を増幅させたことを、「mPer2」は、mPer2遺伝子を増幅させた(コントロール)ことを、それぞれ表す。図中、「0hr」は、デキサメサゾン処理を行わずに、すぐにホルムアルデヒドを加えた場合の結果であることを、「1hr(Dex)」は、デキサメサゾン処理の1時間後にホルムアルデヒドを加えた場合の結果であることを、「1hr(EtOH)」は、コントロールとしてエタノール処理の1時間後にホルムアルデヒドを加えた場合の結果であることを、それぞれ表す。 図5Cは、ChIP法により免疫沈降物を得た後、定量的リアルタイムRT−PCRにより目的の配列を検出した場合における結果を示すグラフである。 グラフの縦軸「%input」は、増幅した目的のDNAの、PCR産物中における量を示す。グラフ中の他の記載は、図5Bと同様である。 その結果、図5Bに示す通り、デキサメサゾン処理し、抗αGR抗体を用いて免疫沈降物を得た後、PCRにより、「dGRE」及び「pGRE」で示す配列を増幅させた場合、目的のバンドが検出された(図5B中の上段の電気泳動写真を参照)。 また、図5Cに示す通り、デキサメサゾン処理し、抗αGR抗体を用いて免疫沈降物を得た後、PCRにより、「dGRE」及び「pGRE」で示す配列を増幅させた場合、それらの配列を含むDNAが大幅に増幅した。 従って、これらの結果は、Per1遺伝子のプロモーター領域のうち、2つのGRE近似配列に、グルココルチコイド受容体(GR)が結合することを示唆する。 実施例6では、実際にストレスを負荷したマウスから採取した肝臓を用いて、実施例5と同様、Per1遺伝子配列のGRE近似配列とグルココルチコイド受容体(GR)とが結合するかどうかを、ChIP(Chromatin immunoprecipitation)法により調べた。 まず、1時間のストレスをマウスに負荷した1時間後に、そのマウスから肝臓を採取した。そして、実施例5と同様の方法により、目的の遺伝子配列を有するPCR産物を得た。 図6Aは、ChIP法により免疫沈降物を得た後、半定量的RT−PCRにより目的の配列を検出した場合における電気泳動写真である。図中の各項目は、図5Bと同様である。 図6Bは、ChIP法により免疫沈降物を得た後、定量的リアルタイムRT−PCRにより目的の配列を検出した場合における結果を示すグラフである。図中の各項目は、図5Cと同様である。 図6A及び図6Bの結果は、個体レベルで実際にストレスが負荷された場合においても、Per1遺伝子のプロモーター領域のうち、2つのGRE近似配列に、グルココルチコイド受容体(GR)が結合することを示す。 なお、図6A及び図6Bの結果では、Per1遺伝子のプロモーター領域に存在する2つのGRE近似配列のうち、上流側の配列のほうが、GRの結合量が多かった。 実施例7では、マウスにコルチコステロンを投与した場合におけるPer1の発現量を調べた。 まず、マウスにコルチコステロンを所定量投与し、その1時間後に肝臓を採取した。次に、採取した肝臓をホモジナイズ後、実施例2などと同様の方法により、定量的リアルタイムRT−PCRを行い、各時計遺伝子の発現量を測定した。 図7Aは、コルチコステロンの投与量とPer1遺伝子の発現量との相関性を示すグラフである。 グラフの横軸は、マウスの体重1kg当たりに換算したコルチコステロンの投与量(mg/kg)を表す。「PBS」はコルチコステロンの代わりにリン酸緩衝液を投与した場合(コントロール)であることを表す。グラフの縦軸「fold induction」は、Per1遺伝子の発現量を表す。なお、この値は、PBSを投与した場合の発現量を1とした場合の相対値である。 図7Aの結果は、コルチコステロンの投与量を増加させると、Per1遺伝子の発現量も増加することを示す。 図7Bは、コルチコステロンを10mg/kg投与した場合における各時計遺伝子の発現量を示すグラフである。 グラフの横軸は各時計遺伝子を表す。グラフの縦軸「fold induction」は、各時計遺伝子の発現量を表す。なお、この値は、PBSを投与した場合におけるPer1遺伝子の発現量を1とした場合の相対値である。 図7Bの結果は、コルチコステロンを投与した場合、時計遺伝子のうち、Per1遺伝子の発現量だけが増加することを示す。即ち、本実験結果は、ストレス負荷によるPer1遺伝子の発現誘導が、概日リズムの調節とは全く別の機構により行われていることを示唆する。 以上、実施例1〜実施例7の実験結果は、図8に示すストレス応答機構の存在を示唆する。 図8に示す通り、Per1遺伝子のプロモーター領域には、E−box、CREなどのほか、GRE近似配列が存在する。 まず、個体にストレスが負荷されると、副腎皮質よりグルココルチコイドが分泌され、全身に運ばれる。次に、末梢組織に存在するGRとグルココルチコイドが結合する。次に、Per1遺伝子のプロモーター領域に存在するGRE近似配列とその結合体とが結合し、Per1遺伝子の発現が誘導される。 なお、E−box、CREなどの配列は、このストレス応答機構には関与しない。従って、それらの配列を有する他の時計遺伝子の発現誘導も起こらない。そのため、ストレスが負荷された場合でも、概日リズム(体内時計)はほとんど変化しない。 本発明に係るストレス評価方法は、既知のストレス応答機構とは全く異なる新規な機構を用いて、ストレスを検出できる点で有用である。また、本発明に係る遺伝子の転写産物及びタンパク質は、ストレス検出用マーカーとしての使用できる点で有用である。その他、本発明に係るポリヌクレオチド及び抗体は、DNAチップ、プロテインチップ、ストレス評価用キットなどに適用できる。実施例1において、ストレスを負荷した場合におけるマウスの運動の概日変化を示すアクトグラム。実施例1において、図1Aのアクトグラムにおけるマウスの概日周期を平均値化したグラフ。実施例1において、ストレス負荷前と負荷後の運動率の変化を表すグラフ。実施例1において、ストレスを負荷した場合における再同調までの日数を表すグラフ。実施例2において、肝臓における各時計遺伝子の発現量の概日変化を示すグラフ。実施例2において、心臓における各時計遺伝子の発現量の概日変化を示すグラフ。実施例2において、腎臓における各時計遺伝子の発現量の概日変化を示すグラフ。実施例3において、肝臓における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ。実施例3において、心臓における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ。実施例3において、肺における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ。実施例3において、腎臓における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ。実施例4において、GRE近似配列及びその近傍の配列を示す図。実施例4において、各プロモーターの配列上の位置を示す模式図。実施例4において、ルシフェラーゼアッセイの結果を示すグラフ。実施例4において、GRE近似配列を変異させた場合におけるルシフェラーゼアッセイの結果を示すグラフ。実施例5において、Per1遺伝子の配列を模式的に示した図。実施例5において、ChIP法により免疫沈降物を得た後、半定量的RT−PCRにより目的の配列を検出した場合における電気泳動写真。実施例5において、ChIP法により免疫沈降物を得た後、定量的リアルタイムRT−PCRにより目的の配列を検出した場合における結果を示すグラフ。実施例6において、ChIP法により免疫沈降物を得た後、半定量的RT−PCRにより目的の配列を検出した場合における電気泳動写真。実施例6において、ChIP法により免疫沈降物を得た後、定量的リアルタイムRT−PCRにより目的の配列を検出した場合における結果を示すグラフ。実施例7において、コルチコステロンの投与量とPer1遺伝子の発現量との相関性を示すグラフ。実施例7において、コルチコステロンを10mg/kg投与した場合における各時計遺伝子の発現量を示すグラフ。本発明に係るストレス応答機構を示す模式図。 Per1遺伝子の発現レベルの増加を検出するストレス評価方法。 末梢組織におけるPer1遺伝子の発現レベルの増加を検出することを特徴とする請求項1記載のストレス評価方法。 ストレス時に発現レベルが増加するPer1遺伝子。 末梢組織で発現レベルが増加することを特徴とする請求項3記載のPer1遺伝子。 グルココルチコイド応答配列依存的に発現レベルが増加することを特徴とする請求項3記載のPer1遺伝子。 請求項3記載のPer1遺伝子の塩基配列又はその一部を有するポリヌクレオチド。 請求項3記載のPer1遺伝子の転写産物の、ストレス検出用マーカーとしての使用。 請求項3記載のPer1遺伝子がコードするタンパク質であるPER1。 請求項8記載のPER1に特異的に結合する抗PER1抗体。 請求項8記載のPER1の、ストレス検出用マーカーとしての使用。 【課題】ストレスと時計遺伝子との間の分子的反応機構を解明すること。 【解決手段】本発明者らは、末梢組織において、ストレス時にPer1遺伝子の発現レベルが増加することを新規に見出した。また、このストレス応答において、末梢組織の概日リズムは変化しないこと、及び、Per1遺伝子はそのプロモーター領域に存在するグルココルチコイド応答配列依存的に発現レベルが増加することを新規に見出した。これらの知見は、ストレス評価方法に適用できる。例えば、末梢組織中におけるPer1遺伝子の転写産物(mRNA)の量の増加やPER1(Per1遺伝子がコードするタンパク質)の量の増加を検出・測定などすることにより、ストレスの有無や度合を評価することができる。 【選択図】図3A配列表