タイトル: | 公開特許公報(A)_ヘパリン溶液 |
出願番号: | 2005295747 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C08B 37/10,A61K 31/727,A61K 47/18,A61P 7/02,A61P 9/10,A61P 11/00 |
山縣 基生 奥脇 龍 島田 公一 JP 2007100055 公開特許公報(A) 20070419 2005295747 20051007 ヘパリン溶液 持田製薬株式会社 000181147 萼 経夫 100068618 中村 壽夫 100093193 宮崎 嘉夫 100104145 舘石 光雄 100080908 加藤 勉 100104385 小野塚 薫 100109690 山縣 基生 奥脇 龍 島田 公一 C08B 37/10 20060101AFI20070323BHJP A61K 31/727 20060101ALI20070323BHJP A61K 47/18 20060101ALI20070323BHJP A61P 7/02 20060101ALI20070323BHJP A61P 9/10 20060101ALI20070323BHJP A61P 11/00 20060101ALI20070323BHJP JPC08B37/10A61K31/727A61K47/18A61P7/02A61P9/10A61P11/00 11 OL 12 4C076 4C086 4C090 4C076AA11 4C076BB11 4C076CC14 4C076DD50Q 4C076DD60Q 4C076FF36 4C086AA04 4C086EA27 4C086MA02 4C086MA03 4C086MA05 4C086MA17 4C086MA66 4C086NA03 4C086ZA54 4C090AA05 4C090BA68 4C090BD18 4C090CA47 4C090DA23 本発明はヘパリン溶液、その安定化方法および着色抑制方法に関する。 ヘパリンは、D−グルコサミン、D−グルクロン酸およびL−イズロン酸から成る多糖のN−硫酸、N−アセチルおよびO−硫酸置換体であり、はじめイヌの肝から見いだされたが、小腸や肺に多く、皮膚や胸腺その他にも存在する。市販品は腸由来のものが多く、分子量は7000〜25000程度である。臨床的にはヘパリンの抗血液凝固活性と脂血清澄活性が利用されている。 ヘパリンの塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩などが知られており、医薬品として使用されている。ナトリウム塩は日本薬局方品である。ヘパリンナトリウム注射液は1000単位/mlのヘパリンナトリウムを含有するガラスバイアル注射剤で、無色〜淡黄色澄明の水性のものであり、pHは5.5〜8.0、生理食塩液に対する浸透圧比は約1等の性状を有する。ヘパリンロック用プレフィルドシリンジ製剤は10または100単位/mlのヘパリンナトリウムをあらかじめシリンジに充填した製剤で、無色〜淡黄色澄明の水性のものであり、pHは5.5〜8.0、浸透圧比は約1等の性状を有する。透析専用ヘパリン製剤は250または500単位/mlのヘパリンナトリウムを含有するガラスバイアルまたはプレフィルド製剤で、無色〜淡黄色澄明の水性のものであり、pHは5.5〜7.5、浸透圧比は0.9〜1.1等の性状を有する。ヘパリンカルシウム注射液は1000または25000単位/mlのヘパリンカルシウムを含有するガラスバイアルまたはプレフィルド注射剤で、無色〜淡黄色澄明の水性のものであり、pHは6.0〜8.0、浸透圧比は約1等の性状を有する。 ヘパリン水溶液は空気中の炭酸ガスの吸収等によりpHが6よりも低くなると、加水分解によりヘパリンの硫酸基が離脱して、これがさらにpHを低下させ加水分解を加速する。ヘパリンの硫酸基が離脱するとその生理活性も低下してしまう。特に、ヘパリンカルシウム注射液の様な高濃度のヘパリン溶液やポリプロピレン、ポリエチレン等のガス透過性のあるプラスチック容器や注射筒にあらかじめヘパリン水溶液を充填したいわゆるプレフィルドタイプの製剤ではpH低下および活性の低下が問題となる。 また、従来のヘパリン水溶液は加熱処理、例えば高圧蒸気滅菌により、pH低下、活性の低下あるいは着色をおこすため、上記製剤は間歇滅菌あるいはろ過滅菌および/または防腐・保存剤としてベンジルアルコール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル等の保存剤を添加しているものがある(例えば、ヘパリンナトリウム1000単位/mlのガラスバイアル製剤であるヘパリンナトリウム注−Wf(ニプロファーマ(株)製造、三菱ウェルファーマ(株)販売)、ヘパリンナトリウム注「味の素」(味の素ファルマ(株)製造販売))。ベンジルアルコールは、ブチルゴム栓に吸着することからテフロン(登録商標)等で塗被されたゴム栓を使用する必要があり、光により分解されることから遮光下で製剤を保存する必要がある(非特許文献1)。 近年、肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)の予防ガイドライン(非特許文献2)において、深部静脈血栓症の予防に5000単位のヘパリンを8もしくは12時間ごとに皮下注射する方法が推奨されている。皮下投与の場合、一般的に1回の投与容量は少ない方が患者に対する苦痛や吸収性の面で良いと考えられていることから、上記予防法に使用するヘパリン製剤は高濃度少容量が望ましい。また、投与準備の手間を省く、誤投与や薬物の汚染を防ぐ目的で、1回使いきりのユニットドーズタイプのプレフィルドシリンジが好ましい。しかしながら、既存製剤がこれらの条件を満足させ、かつ十分な安定性を有するものであるか否かは不明である。 ヘパリンまたはその塩に、クエン酸、リン酸、炭酸あるいはトリスヒドロキシメチルアミノメタン(以下、トリスと略称し、特にことわらない限りその酸付加塩を包含するものとする)またはそれらの塩を配合することにより、上記防腐・保存剤を添加しないで長期保存安定化できる旨の開示があり、実施例として低濃度(100または1000単位/ml)のヘパリンナトリウムにクエン酸ナトリウム、リン酸緩衝液あるいは炭酸水素ナトリウムを1mMの濃度で配合した水溶性製剤が開示されている(特許文献1)。医薬品としては、低濃度(10〜1000単位/ml)のヘパリンナトリウムにクエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムあるいは炭酸水素ナトリウムを配合して上記防腐・保存剤を添加していない水溶性製剤が市販されている(例えば、ヘパリンNaロック100シリンジ(ニプロファーマ(株)製造、三菱ウェルファーマ(株)販売)、ヘパリンナトリウム注N「味の素」(味の素ファルマ(株)製造販売)、ペミロック(登録商標)100単位/mLシリンジ(大洋薬品工業(株)製造、味の素ファルマ(株)販売))。 しかしながら、高濃度(例えば5000単位/ml以上)のヘパリン溶液の安定化について具体的な開示はない。また、ヘパリンカルシウムの安定化水溶液およびヘパリンまたはその塩にトリスを添加した安定化水溶液について具体的な開示はない。ヘパリンカルシウムにクエン酸、リン酸あるいは炭酸を添加した場合はそれらのカルシウム塩が生成し、安定化効果が得られなかったり、不溶物として析出・沈殿する可能性があり、実際に使用できるか否か不明である。医薬品添加物ハンドブック、丸善株式会社、1988年、P316肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)の予防ガイドライン ダイジェスト版、メディカル フロント インターナショナル リミテッド、2004年、p7特開2002−104976号公報 本発明の課題は、ヘパリンまたはヘパリンの塩の種類にかかわらず、ヘパリンまたはその塩の濃度にかかわらず、また、ヘパリン溶液の容器の材質、形状にかかわらず加熱時や保存時にも安定性に優れ、または着色が抑制されたヘパリン溶液およびその安定化方法および着色抑制方法を提供することにある。 また、本発明の課題は、皮下投与にも使用可能な高濃度少容量の十分安定化および着色抑制されたヘパリン溶液製剤、特に1回使いきりのユニットドーズドタイプのプレフィルドシリンジ製剤を提供することにある。 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、クレアチニンおよび/またはトリスあるいは還元性を有する亜硫酸塩類を配合することにより、ヘパリンまたはヘパリンの塩の種類にかかわらず、ヘパリンまたはその塩の濃度にかかわらず、また、ヘパリン溶液の容器の材質、形状にかかわらず加熱時にも保存時にも安定性に優れ、または着色が抑制されたヘパリン溶液を調製できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、(1)少なくともヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスとを含有することを特徴とするヘパリン溶液である。 具体的に、(2)ヘパリンの塩がヘパリンカルシウムである上記(1)に記載のヘパリン溶液、(3)ヘパリンまたはその塩の濃度が5000ないし25000国際単位/mlである上記(1)または(2)に記載のヘパリン溶液、(4)pHが6〜8である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のヘパリン溶液、(5)さらに還元性を有する亜硫酸塩類を含有する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のヘパリン溶液、(6)保存剤を含有しない上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のヘパリン溶液、(7)医薬組成物である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のヘパリン溶液である。 また、本発明は、(8)ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスとを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の安定化方法、(9)安定化が加熱時および/または保存時のpH低下抑制、ヘパリン活性低下抑制または不溶物形成抑制の少なくとも1つである上記(8)に記載の安定化方法、(10)ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスとを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の着色抑制方法、(11)ヘパリンまたはその塩と還元性を有する亜硫酸塩類とを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の着色抑制方法である。 本発明によれば、ヘパリンまたはヘパリンの塩の種類にかかわらず、ヘパリンまたはその塩の濃度にかかわらず、また、ヘパリン溶液の容器の材質、形状にかかわらず加熱時や保存時に安定性に優れ、または着色が抑制されたヘパリン溶液を提供することができる。さらに詳細には、加熱、保存、光、振動等によるヘパリン溶液のpH低下、ヘパリン活性の低下、不溶物の形成あるいは着色の少なくとも1つ以上を抑制することができる。すなわち、加熱滅菌、例えば高圧蒸気滅菌が可能で、従来のヘパリン製剤のように保存剤・防腐剤を配合しなくても、また必ずしも遮光を必要としないで、室温で長期間保存安定な、または着色が抑制されたヘパリン製剤を提供することができる。 また、皮下投与にも使用可能な高濃度少容量の十分安定化および着色抑制されたヘパリン溶液製剤、更には1回使いきりのユニットドーズドタイプのプレフィルドシリンジ製剤を提供することができる。 以下に本発明を詳細に説明する。 本発明の第一の態様は、少なくともヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスとを含有することを特徴とするヘパリン溶液である。 本発明のヘパリンは公知のものを使用できる。ヘパリンの塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩などが例示される。ヘパリンナトリウムは例えば健康な食用獣の肝、肺、腸粘膜から得たもので、白色〜帯灰褐色の粉末または粒で、においはない、水にやや溶けやすく、エタノールまたはジエチルエーテルにはほとんど溶けない、吸湿性である、等の性状を有するものであればよい。ヘパリンカルシウムは例えば健康なブタの腸粘膜から得たもので、白色〜帯灰褐色の粉末で、においはない、水に溶けやすい、等の性状を有するものであればよい。ヘパリンの調製は公知の方法に準じて行われる。例えば、日本薬局方に開示された方法等が利用できる。ナトリウム塩は日本薬局方収載品として、カルシウム塩はイギリス薬局方収載品あるいは例えば、カーボマー社(CarboMer Inc.)製、煙台東誠生化有限公司(Yantai Dongcheng Biochemicals Co. Ltd.)製として入手可能である。 また、本発明のヘパリンとしては低分子ヘパリンも例示される。このものはウシまたはブタ腸粘膜由来のヘパリンを過酸化水素と硫酸第二銅等により分解して得られた解重合ヘパリンであり、例えば一般名パルナパリン(平均分子量4500〜6500)、ダルテパリン(平均分子量約5000)、ダナパロイド(平均分子量約5500)、レビパリン(平均分子量約4000)、エノキサパリン(平均分子量約4500)およびチンザパリン(平均分子量約5500〜7500)等である。 本発明のヘパリン単位は特にことわらない限り国際単位(IU)で表記している。なお、IUとアメリカのヘパリン単位であるUSP−Uとの関係は、1IU≒0.877USP−Uである。 本発明のヘパリン溶液におけるヘパリンまたはその塩の濃度としては10〜50000単位/ml程度、好ましくは1000〜50000単位/ml程度、さらに好ましくは5000〜25000単位/mlが例示される。 溶媒としては水が好ましいが、ヘパリン活性を阻害しない程度の他の溶媒、例えばアルコール等の有機溶媒を添加することもできる。 本発明のヘパリン溶液のpHとして好ましくは6〜8程度が例示される。pH6以上の緩衝能を持たせることにより、本発明のヘパリン溶液の安定性を確保・改善することができる。具体的には、本発明のヘパリン溶液のpHを6以上に調整でき、当該pHで緩衝能を有し、かつ、難水溶性のカルシウム塩を形成しない公知の緩衝剤を適当量配合することができる。ヘパリンまたはその塩の濃度が10〜50000単位/ml程度の場合、クレアチニンの添加濃度としては10〜500mM程度、好ましくは50〜300mM、さらに好ましくは100〜250mM程度が例示される。トリスは、例えばトリス塩酸塩が好ましく、ヘパリンまたはその塩の濃度が10〜50000単位/ml程度の場合、その添加濃度としては25〜200mM程度、好ましくは50〜100mM程度が例示される。 本発明の第二の態様は、ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスとを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の安定化方法である。ヘパリン溶液の安定化とは、加熱、保存、光、振動等によるヘパリン溶液のpH低下、ヘパリン活性の低下あるいは不溶物の形成の少なくとも1つ以上を抑制することである。 本発明の第三の態様は、ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスとを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の着色抑制方法である。ヘパリン溶液の着色抑制とは、無色〜淡黄色澄明であれば良く、さらに波長400nmにおける1cm長の吸光度(以下、OD400nmと略記する)が0.3以下であることが好ましい。 本発明の第二の態様および第三の態様のヘパリン溶液におけるヘパリンまたはその塩の種類・濃度、溶媒、pH、クレアチニンおよび/またはトリスの添加濃度等の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。 本発明の第四の態様は、ヘパリンまたはその塩と還元性を有する亜硫酸塩類とを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の着色抑制方法である。 還元性を有する亜硫酸塩類とは、例えば亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、チオ硫酸塩等であり、亜硫酸水素塩またはまたはチオ硫酸塩が好ましい。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等が例示され、ナトリウム塩またはカリウム塩が好ましい。ヘパリンまたはその塩の濃度が10〜50000単位/ml程度の場合、還元性を有する亜硫酸塩類の添加濃度としては、0.5〜20mM程度、好ましくは1〜5mM程度が例示される。 本発明の第四の態様のヘパリン溶液におけるヘパリンまたはその塩の種類・濃度、溶媒、pH等の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。また、ヘパリン溶液の着色抑制の態様は上記の第三の態様と同様である。 クレアチニンおよび/またはトリスあるいは還元性を有する亜硫酸塩類はヘパリン粉末と同時に溶解してもよいし、ヘパリン粉末を溶解する前か後かのいずれかに添加してもよい。ヘパリン粉末溶解後にクレアチニンおよび/またはトリスあるいは還元性を有する亜硫酸塩類を添加する場合は、少なくとも加熱滅菌する前でヘパリン溶解後数時間以内、好ましくは1時間以内が例示される。 ヘパリン粉末溶解前あるいは後に溶液のpHを水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等のpH調整剤で10以上に調整した後クレアチニンおよび/またはトリスあるいは還元性を有する亜硫酸塩類を添加し、塩酸等のpH調整剤でpHを6〜8程度に調整することもできる。また、調製時には調製液を窒素にてバブリングすることもできる。 本発明のヘパリン溶液およびその安定化方法では、クレアチニンおよび/またはトリスを配合することにより、ヘパリン溶液の安定性を確保・改善することができる。 また、本発明のヘパリン溶液およびその着色抑制方法では、クレアチニンおよび/またはトリスあるいは還元性を有する亜硫酸塩類を配合することにより、ヘパリン溶液の着色を抑制することができる。 本発明のヘパリン溶液には、さらに抗酸化剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、吸着防止剤、防腐剤、保存剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることもでき、疼痛抑制剤、局所麻酔剤、組織障害抑制剤の1種以上を含有させてもよい。抗酸化剤の添加は、クレアチニンおよび/またはトリスのヘパリン溶液の着色抑制効果を増強するため好ましい。抗酸化材として、還元性を有する亜硫酸塩類、例えば亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩、チオ硫酸塩のナトリウム塩、カリウム塩が例示される。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム等の塩類やブドウ糖等の糖類を添加してもよい。浸透圧比は生理学的に許容される程度であればよく、好ましくは約0.9〜1.1程度が例示される。クレアチニンは250mM程度配合することにより、塩化ナトリウムを添加しないで浸透圧比を約1とすることができるため、高血圧症や腎機能不全患者等のナトリウム摂取制限のある患者にとって好ましい。pH調節剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、塩酸等を添加してもよい。 こうして調製された本発明のヘパリン溶液は、加熱時(例えば高圧蒸気滅菌)、長期保存(例えば室温で3年間保存)時、光被爆(例えば非遮光で3年間)時、振動(例えば数時間〜数ヶ月の輸送)時等の安定性、または難着色性に優れている。 本発明のヘパリン溶液では加熱滅菌処理を施すことが可能となり、無菌性の保証された安全な製剤を提供することができ、保存剤・防腐剤を配合しないで室温長期保存が可能となる。加熱滅菌処理の具体的な方法としては、高圧蒸気滅菌などが挙げられる。高圧蒸気滅菌時の安定性または難着色性については、上記の安定化剤または着色抑制剤の配合により確保されている。高圧蒸気滅菌の好適条件としては、温度105〜130℃、時間1〜60分間程度が例示される。 従来のヘパリン製剤で配合されている保存剤・防腐剤、例えばベンジルアルコール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル等の添加量を減じるあるいは非添加で医薬品として使用することができる。 また、本発明のヘパリン溶液は室温での長期保存安定性および光被爆に対する安定性または難着色性があるため、遮光せずに室温で少なくとも3年間安定に、または着色せずに保存することができる。 本発明のヘパリン溶液の医薬品の効能効果としては、汎発性血管内血液凝固症候群の治療、血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時の血液凝固の防止、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血及び血液検査の際の血液凝固の防止、血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、四肢動脈血栓塞栓症、手術中・術後の血栓塞栓症等)の治療及び予防、血液体外循環時における灌流血液の凝固防止(人工腎臓及び人工心肺等)、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血及び血液検査の際の血液凝固の防止、静脈内留置ルート内の血液凝固の防止、静脈血栓症の予防治療等が挙げられる。 本発明のヘパリン溶液の医薬品の使用方法は、すでに市販されているヘパリンナトリウムあるいはヘパリンカルシウム製剤の添付文書あるいはガイドライン(非特許文献2)に記載された用法・用量に準じて行うことができ、適用、症例、症状、年齢、性別等により適宜変更することもできる。例えば用時、そのままあるいはブドウ糖注射液、生理食塩液、リンゲル液等で10〜30単位/mL程度に希釈して、静脈内、皮下、筋肉内に注射する。深部静脈血栓の予防には、5000単位を8もしくは12時間ごとに皮下投与する。また、手術後または心筋梗塞などに続発する静脈血栓症の予防には、5000単位を12時間ごとに7〜10日間皮下投与する。皮下投与および筋肉内投与する場合の1回の投与容量は5ml以下、好ましくは0.1〜1ml、さらに好ましくは0.2mlが例示される。 製剤の剤形としては、既存のガラスバイアル、ガラスあるいはプラスチック製のシリンジ、あるいはユニジェクト(登録商標)(日本ベクトン・ディッキンソン(株))等のプラスチック製簡易型注射用キットに充填した注射剤とすることができる。用時調製時の手間を軽減するため、また調整時の希釈ミスや薬剤取り違えのミス、分割使用・保存による細菌汚染や活性の低下等を防ぐために、使用濃度・量であらかじめ充填されたいわゆるプレフィルド・ユニットドーズタイプの製剤が好ましい。容器の容量、材質および形状は、ヘパリン溶液の充填量と使い易さの観点で適宜選択できる。充填時に空隙の気体を少なくする、あるいは窒素置換するとさらに安定性または難着色性が改善されるため好ましい。 血栓塞栓症の治療および予防用には、ヘパリンナトリウムまたはヘパリンカルシウムを5000単位/0.2ml、10000単位/0.4mlまたは15000単位/0.6ml充填したプレフィルドシリンジが好ましい。特に、手術後または心筋梗塞などに続発する静脈血栓の予防には、ヘパリンカルシウムを5000単位/0.2mlを充填したプレフィルドシリンジが好ましい。 本発明をさらに詳細に説明するための実施例および実験例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。実施例1 ヘパリンカルシウム粉末250万単位を約80mlの水に溶解し、これにpHが10以上になるまで1Mの水酸化ナトリウム水溶液を加えた。次に、クレアチニン(和光純薬工業(株)製)またはクレアチニンと亜硫酸水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を所定量加えた後、pHが7.5付近になるまで1Mの塩酸水溶液を滴下した。pH調整した溶液に水を加え100mlとし、表1に示す組成のクレアチニン添加ヘパリンカルシウム溶液を調製した。なお、溶液調製時には調製液を窒素にてバブリングした。実施例2 クレアチニンに代えてトリスまたはクエン酸・1水和物を用い、実施例1の製法に準じて表2に示す組成のヘパリンカルシウム溶液を調製した。実施例3 水酸化カルシウム60mgを約80mlの水に溶解しpHを10以上とし、これにヘパリンカルシウム粉末250万単位を溶解した。次に、pHが7.5付近になるまで1Mの塩酸水溶液を滴下した。pH調整した溶液に水を加え100mlとし、ヘパリンカルシウム溶液とした。なお、溶液調製時には調製液を窒素にてバブリングした。比較例3 ヘパリンカルシウム粉末250万単位を約80mlの水に溶解した。次にこれに、pHが7.5付近になるまで1Mの塩酸水溶液もしくは1Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。pH調整した溶液に水を加え100mlとし、ヘパリンカルシウム溶液とした。なお、溶液調製時には調製液を窒素にてバブリングした。実験例1 実施例1および2で作製したヘパリンカルシウム溶液を0.22μmの無菌フィルター(ミリポア社製)にてろ過して5mlのポリプロピレン製シリンジに1ml充填したもの、および同シリンジに1ml充填した後115℃×30分高圧蒸気滅菌したものをそれぞれ調製した。ただし、実施例2−4は0.2mlをユニジェクト(登録商標)に、実施例2−5は1mlをガラスバイアルに充填した。これらのプレフィルドシリンジを表3に示す条件で保存した。保存前後でのヘパリンカルシウム溶液のpHを測定した。結果を表3に示す。 ろ過滅菌試料では、保存前のpHはいずれも7以上であった。対照(試料番号1)、トリス10mM以下添加(試料番号6、7)およびクエン酸添加(試料番号11、12)では保存後のpHが6未満に低下した。クレアチニン添加(試料番号2〜5)およびトリス25mM以上添加(試料番号8〜10)では保存後のpHは6以上であった。 高圧蒸気滅菌試料では、対照(試料番号13)、トリス1mM添加(試料番号18)およびクエン酸添加(試料番号22、23)では保存前のpHが6未満であり、保存後はさらにpHが低下した。すなわち、高圧蒸気滅菌によりpHが6未満に低下し、保存によりさらにpHが低下したことになる。クレアチニン添加(試料番号14〜17)およびトリス50mM添加(試料番号20、21)では保存前および保存後いずれもpHは6以上であった。トリス10mM添加(試料番号19)では保存前はpH6以上であったが、保存後は6未満に低下した。 以上より、クレアチニン添加により、ヘパリンカルシウム溶液の高圧蒸気滅菌および保存によるpHの低下が抑制された。また、トリス10または50mM添加により、ヘパリンカルシウム溶液の高圧蒸気滅菌によるpHの低下が抑制され、さらにトリス25mM以上添加により、ヘパリンカルシウム溶液の保存によるpHの低下が抑制された。 本発明製剤は、70℃で6日間あるいは50℃で4週間安定であり、上記結果から少なくとも室温で3年間は安定であると予測することができる。実験例2 実験例1に準じて、表4および5に示したヘパリンカルシウム溶液を充填したプレフィルドシリンジを作製した。実施例2−5は1mlをガラスバイアルに充填し、窒素置換して封じた後115℃×30分高圧蒸気滅菌した。これらの試料を50℃、2週間保存した。保存前後でヘパリンカルシウム溶液の着色度の指標としてOD400nmを測定した。各試料の保存前後のOD400nmの差を算出して保存による着色度とした。対照(試料番号21および25)の保存による着色度に対する各試料の抑制率を、[(対照の保存前後のOD400nmの差)−(各試料の保存前後のOD400nmの差)]/(対照の保存前後のOD400nmの差)X100%の式で算出した。また、ろ過滅菌および高圧蒸気滅菌後のOD400nmを測定した。各々の結果を表4および表5に示す。 ろ過滅菌試料では、対照(試料番号24)のOD400nmは保存前の0.025から保存後に0.090へと0.065上昇した。クレアチニン添加試料(試料番号25〜27)のOD400nmの保存前後の差は対照より小さく、着色の抑制率はクレアチニン添加濃度に依存して9.2〜26.2%と増加した。高圧蒸気滅菌試料では、(試料番号28)のOD400nmは保存前の0.137から保存後に0.213へと0.076上昇した。クレアチニン添加試料(試料番号29〜31)のOD400nmの保存前後の差は対照より小さく、着色の抑制率はクレアチニン添加濃度に依存して26.3〜100.0%と増加した。トリス添加試料(試料番号32〜34)のOD400nmの保存前後の差は対照より小さかった。 以上より、高圧蒸気滅菌の対照試料(試料番号28)では保存により着色度が増加し、室温3年間保存した場合のOD400nmは0.3を超えることが推定され、医薬品として好ましくない。これに対しクレアチニンまたはトリス添加により、ヘパリンカルシウム溶液の保存による着色は抑制された。 対照(試料番号24)のろ過滅菌後のOD400nmは0.025であるのに対し、高圧蒸気滅菌後(試料番号28)には0.137に増加した。亜硫酸水素ナトリウム2.1mMまたは4.8mMを添加した試料(試料番号36、35)では高圧蒸気滅菌後のOD400nmは0.047または0.043であった。 以上より、加熱によりヘパリンカルシウム溶液の着色度は増加したが、亜硫酸水素ナトリウム添加によりこの着色は抑制された。 上記結果より、還元性を有する亜硫酸塩類を添加することによりヘパリン溶液の着色を抑制できることが予測される。実験例3 実施例3および比較例3で製造したヘパリンカルシウム溶液1mlを2mlのガラスバイアルに充填して封じ、このバイアルを50℃、2週間保存した。保存前後のヘパリンカルシウム溶液のpHを測定した。結果を表6に示す。 実施例3および比較例3いずれも保存前のpHは7以上であったが、保存後のpHは実施例3では6以上であったが、比較例3では6未満に低下した。 ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンまたはその酸付加塩とを含有することを特徴とするヘパリン溶液。 ヘパリンの塩がヘパリンカルシウムである請求項1記載のヘパリン溶液。 ヘパリンまたはその塩の濃度が5000ないし25000国際単位/mlである請求項1または2のいずれかに記載のヘパリン溶液。 pHが6〜8である請求項1ないし3のいずれかに記載のヘパリン溶液。 さらに還元性を有する亜硫酸塩類を含有する請求項1ないし4のいずれかに記載のヘパリン溶液。 保存剤を含有しない請求項1ないし5のいずれかに記載のヘパリン溶液。 医薬組成物である請求項1ないし6のいずれかに記載のヘパリン溶液。 ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンまたはその酸付加塩とを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の安定化方法。 安定化が加熱時および/または保存時のpH低下抑制、ヘパリン活性低下抑制または不溶物形成抑制の少なくとも1つである請求項8に記載の安定化方法。 ヘパリンまたはその塩とクレアチニンとを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の着色抑制方法。 ヘパリンまたはその塩と還元性を有する亜硫酸塩類とを併存させることを特徴とするヘパリン溶液の着色抑制方法。 【課題】加熱時や保存時の安定性に優れ、着色が抑制されたヘパリン溶液の提供。【解決手段】ヘパリンまたはその塩とクレアチニンおよび/またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンまたはその酸付加塩とを含有することを特徴とするヘパリン溶液、その安定化方法および着色抑制方法。【選択図】 なし