タイトル: | 公開特許公報(A)_不飽和大環状ラクトンの新規製造法 |
出願番号: | 2005290478 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07D 313/00,C07B 61/00 |
椎名 勇 JP 2007063247 公開特許公報(A) 20070315 2005290478 20050901 不飽和大環状ラクトンの新規製造法 東京化成工業株式会社 591105993 椎名 勇 C07D 313/00 20060101AFI20070216BHJP C07B 61/00 20060101ALN20070216BHJP JPC07D313/00C07B61/00 300 2 書面 7 4C062 4H039 4C062JJ70 4H039CA42 4H039CH20 本発明は不飽和大環状ラクトンの製造法に関するもので,化粧品,香粧品,食品等の属する分野および他の分野において要求されている香料の製造に供するものである。 香料は化粧品,香粧品,食品等に添加され,香気を付与し,化粧品,香粧品,食品等の付加価値を高めるために頻繁に使用されている。中でも,天然香料の一つとして知られているムスクは古くから珍重されており,現在でも高い需要がある。しかしながら,ムスクの供給源である雄のジャコウジカなどの動物は乱獲により絶滅の危機に瀕しており,今日では天然ムスクは入手困難となっている。ムスクの香気成分は大環状ケトンのムスコンやシベトンなどで,その類縁体もムスク様の香気を有する。また,トロロアオイモドキの種子やアンゲリカの種子から得られる大環状ラクトンである(7Z)−アンブレットリド,およびシクロペンタデカノリドはそれぞれムスク様の香気を有し,ムスクの良い代替品となる。しかしながら,植物からの供給量は天候などに影響されやすく,年度あるいは季節ごとに大きく変動する。そこで,これら大環状ラクトンを人工的に生産し,安定供給を実現する手法が盛んに研究されている。例えば,15−ヒドロキシペンタデカン酸を加熱,重合させることにより,ポリエステルを生成させ,次いで触媒の存在下,このポリエステルを減圧下,過熱することにより解重合させ,シクロペンタデカノリドを得ることができる(特許文献1参照)。15−ヒドロキシペンタデカン酸とグリセリンのエステルを触媒とともに減圧下で加熱することにより,シクロペンタデカノリドを得る方法も報告されている(特許文献2参照)。 一方,(7Z)−アンブレットリドの異性体である(9E)−イソアンブレットリドは天然には存在しないものの,ムスク様の香気を有する。そのため,人工香料としての用途が広く検討されており,その合成法も数多く報告されている。例えば,Mookherjeeらは1,9−シクロヘキサデカジエンから酸化を経て誘導したヒドロキシシクロヘキサデカノンに対し,BF3・Et2Oの存在下,過酸で処理することにより大環状ラクトン骨格を構築し,最後にパラ−トルエンスルホン酸で処理することにより,(9E)−イソアンブレットリドを得ている(特許文献3参照)。また,Bhattacharyyaらはトレオ−アリューリット酸の水酸基を臭素に変換した後,エステル化,脱臭素化によるオレフィン形成,末端臭素のアセトキシル化,加水分解を経て得られる16−ヒドロキシ−9−ヘキサデセン酸をトルエン中,加熱還流し,ポリマー化した後に解重合する方法を報告している(非特許文献4参照)。Tsengらはトレオ−アリューリット酸にオルトぎ酸トリメチルを反応させ,9,10−位の水酸基を保護した後,無水酢酸と加熱することにより16−アセトキシ−9−ヘキサデセン酸を合成し,次いで水酸化カリウムとグリセリンを混合,加熱することにより(9E)−イソアンブレットリドを得る方法を報告している(特許文献5参照)。この他にVilleminらにより,トレオ−アリューリット酸とジメチルホルムアミドジネオペンチルアセタールのトルエン溶液を不活性雰囲気下,加熱還流した後,トルエンを減圧蒸留で除き,次いで無水酢酸を加えた後,加熱還流することで(9E)−イソアンブレットリドを得る方法が報告されている(非特許文献6参照)。 W.H.Carothers,J.W.Hill,US2020298(Du Pont de Nemours&Co.)C.Collaud,US2417151(Givaudan−Delawanna Inc.)B.D.Mookherjee,US3681395(International Flavers&FragrancesInc.)H.H.Mathur,S.C.Bhattacharyya,J.Chem.Soc.,1963,3505C.Y.Tseng,US4014902(International Flavers&Fragrances Inc.)D.Villemin,Synthesis,1987,154 Mookherjeeらの方法は1,9−シクロへキサデカジエンから(9E)−イソアンブレットリドを合成できるが,5工程と工程数が多く,また,二重結合部位の酸化工程における位置選択性が低いことや環拡大工程においても複数の位置異性体が生成し,それらの分離が困難であるなどの問題点が指摘されている。Bhattacharyya,Tseng,Villeminらの方法はいずれも短工程で(9E)−イソアンブレットリドが得られるが,環化反応を行う際に酸触媒による加熱脱水や減圧下での加熱縮合など過酷な条件が必要である。また,ポリマー化した後に再度脱ポリマー化を行うなど反応効率が低いなどの問題点を有しており,(9E)−イソアンブレットリドを効率よく得る方法とは言い難い。(9E)−イソアンブレットリドを含む不飽和大環状ラクトンをより温和な条件下で収率良く得るための方法が強く求められている。 そこで,発明者らは鋭意研究を重ね,本発明を完成するに至った。すなわち本発明は活性化剤および下記構造式(ただし,R1,R2,R3,R4,R5はそれぞれ,水素,アルキル基,アルコキシ基,脂環,芳香環,ニトロ基,トリフルオロメチル基,シアノ基,ハロゲンから選ばれ,同一であっても異なっていても良い)で示される安息香酸無水物の存在下,下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示されるトリヒドロキシカルボン酸を反応せしめ,下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示されるジヒドロキシラクトンとし,次いで1,1’−チオカルボニルジイミダゾールあるいはチオホスゲンを反応せしめ,下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示されるチオカルボニルジオキシラクトン誘導体を経由する下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示される大環状ラクトンの新規製造法に関するものである。 本発明の代表的な例として,2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物を用いた(9E)−イソアンブレットリドの合成法を例示する。 第一工程はトレオ−アリューリット酸をラクトン化する工程である。活性化剤としてはピリジン,トリエチルアミン,N−メチルピペリジンのごとき有機塩基,及び4−ジメチルアミノピリジン(DMAP),4−ピロリジノピリジン(PPY),4−ジメチルアミノピリジンN−オキシド(DMAPO),4−ピロリジノピリジンN−オキシド(PPYO),塩基に不活性化されないルイス酸,遷移金属触媒などを単独,もしくは組み合わせて用いる。この反応で使用し得る溶媒はジクロロメタン,エチルエーテル,THF,アセトニトリル,ニトロメタン,トルエンなどが挙げられる。反応温度は0℃から溶媒の還流温度で適宜選択されるが,好ましくは25℃である。反応時間は使用する活性化剤,溶媒により異なるが,6時間から24時間で適宜選択される。 第二工程は得られたラクトンの水酸基に保護基を導入する工程である。保護剤としては1,1’−チオカルボニルジイミダゾールあるいはチオホスゲンを用いる。触媒としてはDMAP,PPY,DMAPO,PPYOなどを用いる。この反応で使用し得る溶媒はジクロロメタン,エチルエーテル,THF,アセトニトリル,ニトロメタン,トルエンなどが挙げられる。反応温度は−78℃から溶媒の還流温度で適宜選択される。反応時間は使用する活性化剤,溶媒により異なるが,1時間から12時間で適宜選択される。 第三工程は脱酸素官能基化反応により二重結合を形成し,(9E)−イソアンブレットリドを得る工程である。脱酸素官能基化は亜りん酸エステル類中で行われる。反応温度は10℃から200℃の間で選択される。反応時間は12時間から48時間で適宜選択される。 発明の効果 以上のように本発明に係るラクトン製造法を用いることにより,効率的に不飽和大環状ラクトンを得ることができる。特にラクトン化の工程は縮合剤として安息香酸無水物を用いることにより,トリヒドロキシカルボン酸の中間位の水酸基を保護することなく,温和な条件下,直接ジヒドロキシラクトンを高収率で得るこをができる。従って,本発明は不飽和大環状ラクトンを得るための極めて有用な手段といえる。 以下に本発明の好ましい実施例を記載するが,これは例示の目的であり,本発明を制限するものではない。本発明の範囲内では変形が可能なことは当業者には明らかであろう。 トレオ−9,10−ジヒドロキシヘプタデカン−16−オリドの合成 2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物165mg(0.479mmol),DMAPO11.1mg(0.080mmol),トリエチルアミン89.1mg(0.881mmol)をジクロロメタン169mlに溶解し,それに室温下,トレオ−アリューリット酸118mg(0.388mmol)をTHF40mlに溶解したものをシリンジで12時間かけて徐々に加えた。室温下,1時間攪拌した後,0℃で飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。混合物にジクロロメタンを加え有機層を抽出した後,水及び食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過した後,エバポレーターで溶媒を除去した。粗生物を薄層クロマトグラフィーで精製し,トレオ−9,10−ジヒドロキシヘプタデカン−16−オリドの白色固体を92.0mg(収率83%)得た。以下に主な物性を示す。融点:53.5−54.0℃IR(KBr)3440,3310,1730cm−1;1H NMR(CDCl3):δ4.18−4.05(m,2H,16−H),3.50−3.41(br m,2H,9−H,10−H),2.40(brs,2H,9−OH,10−OH),2.31(t,J=6.8Hz,2H,2−H),1.70−1.22(m,22H,3,4,5,6,7,8,11,12,13,14,15−H);13C NMR(CDCl3):δ174.0(1),74.1(9or10),73.4(10or9),64.2(16),34.6(2),32.5,31.4,28.6,28.2,28.1,27.7,27.6,25.4,25.0,23.9,23.1(3,4,5,6,7,8,11,12,13,14,15);HR MS:calcd.for C16H31O4(M+H+)287.2222,found287.2223 トレオ−9,10−チオカルボニルジオキシヘプタデカン−16−オリドの合成 トレオ−9,10−ジヒドロキシヘプタデカン−16−オリド80.2mg(0.280mmol)をトルエン14mlに溶解し,それに1,1’−チオカルボニルジイミダゾール499mg(2.80mmol)とDMAP3.4mg(0.028mmol)を加えた。130℃で4時間攪拌した後,室温まで冷却した。エバポレーターで濃縮した後,薄層クロマトグラフィーで精製し,トレオ−9,10−チオカルボニルジオキシヘプタデカン−16−オリドの白色固体を83.8mg(収率91%)得た。以下に主な物性を示す。融点:73−4°CIR(KBr)1720,1280,1180cm−1;1H NMR(CDCl3):δ4.55−4.43(m,2H,9−H,10−H),4.21−4.08(m,2H,16−H),2.42−2.25(m,2H,2−H),2.10−1.21(m,22H,3,4,5,6,7,8,11,12,13,14,15−H);13C NMR(CDCl3):δ191.4(CS),173.7(1),86.1(9),86.1(10),63.9(16),34.4(2),32.4,32.1,28.7,28.3,27.9,27.1,25.6,25.0,23.6,23.2(3,4,5,6,7,8,11,12,13,14,15);HR MS:calcd.for C17H29O4S(M+H+)329.1786,found329.1791 (9E)−イソアンブレットリドの合成 トレオ−9,10−チオカルボニルジオキシヘプタデカン−16−オリド20.4mg(0.062mmol)を室温下,亜りん酸トリメチル3mlに溶解し,140℃で25時間攪拌した後,室温まで冷却した。エバポレーターで濃縮した後,薄層クロマトグラフィーで精製し,(9E)−イソアンブレットリドの無色透明油状液体を13.7mg(収率87%)得た。以下に主な物性を示す。IR(neat)1730cm−1;1H NMR(C6D6):δ5.42(dddd,J=154.9.5,3.5,1.6Hz,1H,9−Hor10−H),5.32(dddd,J=15.4,9.5,3.8,1.6Hz,1H,10−Hor9−H),4.08(t,J=5.4Hz,2H,16−H),2.19(t,J=7.0Hz,2H,2−H),2.12−1.97(m,4H,8−H,11−H),1.62−1.50(m,2H,3−H),1.48−1.34(m,2H,15−H),1.42−1.13(m,14H,4,5,6,7,12,13,14−H);13C NMR(C6D6):δ172.9(1),131.4(9or10),130.8(10or9),64.0(16),34.9(2),32.2(8or11),31.8(11or8),29.2(15),29.9,28.8,28.3,28.2,28.1,27.2,27.1(4,5,6,7,12,13,14),25.3(3);HR MS:calcd.for C16H29O2(M+H+)253.2167,found253.2165 活性化剤および下記構造式(ただし,R1,R2,R3,R4,R5はそれぞれ,水素,アルキル基,アルコキシ基,脂環,芳香環,ニトロ基,トリフルオロメチル基,シアノ基,ハロゲンから選ばれ,同一であっても異なっていても良い)で示される安息香酸無水物の存在下,下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示されるトリヒドロキシカルボン酸を反応せしめ,下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示されるジヒドロキシラクトンとし,次いで1,1’−チオカルボニルジイミダゾールあるいはチオホスゲンを反応せしめ,下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示されるチオカルボニルジオキシラクトンを経由する下記構造式(ただし,mおよびnはm+nが10から15までの値をとる整数である)で示される不飽和大環状ラクトンの新規製造法。 R1がメチル基,R2,R3,R4が水素,R5がニトロ基であり,mが7,nが6である請求項1記載の方法。 【課題】 本発明の課題は温和な条件下,不飽和大環状ラクトンを収率良く得るための方法を提供することにある。【解決手段】 活性化剤の存在下,縮合剤として安息香酸無水物を用いることにより,上記課題を解決することができた。【選択図】 なし。