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タイトル:公開特許公報(A)_酢酸イソアミル高生産株及びその育種方法、並びに酢酸イソアミル高生産株を用いる酒類及びその製造方法
出願番号:2005282417
年次:2007
IPC分類:C12N 1/16,C12G 3/02


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井上 豊久 佐藤 要 JP 2007089455 公開特許公報(A) 20070412 2005282417 20050928 酢酸イソアミル高生産株及びその育種方法、並びに酢酸イソアミル高生産株を用いる酒類及びその製造方法 日本盛株式会社 391029727 角田 嘉宏 100065868 古川 安航 100106242 井上 豊久 佐藤 要 C12N 1/16 20060101AFI20070316BHJP C12G 3/02 20060101ALI20070316BHJP JPC12N1/16 GC12G3/02 119A 5 OL 6 4B015 4B065 4B015CG17 4B015LG03 4B015LH12 4B015MA03 4B065AA80X 4B065AC14 4B065BA16 4B065BA23 4B065CA06 4B065CA12 4B065CA42 本発明は、ハイグロマイシンB耐性を示す酢酸イソアミルを多く生成する酵母、及び該酵母を用いた香り豊かな酒類の製造方法に関する。 低精白米を用い、吟醸造りほど低温下で発酵させない普通酒仕込みにおいては、香気豊かな清酒を製造することは困難である。また他の酒類においても、香り豊かな酒を安定的に製造することは困難である。 酢酸イソアミルは、イソアミルアルコールとアセチルCoAからアルコールアセチルトランスフェラーゼによって生成される。酢酸イソアミルは、バナナ様の華やかな香りを有した香気成分であり、特に清酒においては吟醸香の主要成分の一つである。従来、清酒中の酢酸イソアミルを多くするには、高精白米を用い、低温下で発酵させる吟醸造りを行う必要があった。しかし、この方法ではコスト、時間及び手間が大きくかかるという欠点があった。 一方、様々な方法により取得された酢酸イソアミル高生産性の醸造用酵母を使用することにより、酒類中の酢酸イソアミル濃度を増加させることも検討されてきた。例えば、ロイシンアナログ耐性株を使用する方法(特許文献1)、酢酸イソアミル低分解株を使用する方法(特許文献2)、アンホテリシンB耐性株を使用する方法(特許文献3)、アンチマイシンA耐性株を使用する方法(特許文献4)が知られている。また、遺伝子工学的手法により酢酸イソアミル合成酵素遺伝子を高発現させる方法(特許文献5)も知られている。特開昭62−6669号公報特開平10−276767号公報特開平7−184639号公報特開2003−250523号公報特開平6−062849号公報 しかしながら、酢酸イソアミル高生産性の醸造用酵母を使用し、酒類中の酢酸イソアミル濃度を増加させても、イソアミルアルコール濃度も増加し、酢酸イソアミル/イソアミルアルコールの濃度比率(百分率、E/A比)が増加しないという問題点や、イソアミルアルコール濃度が増えない場合には、酢酸イソアミル濃度の増加量がそれほど大きくならないという問題点があった。 E/A比は、値が大きいほうが良いとされ、酒類の吟醸香の良し悪しを評価する一つの指標とされる。例えば、特許文献3には、E/A比が7.4である醸造用酵母が開示されているが、E/A比が8以上となる醸造用酵母は、今まで存在しなかった。従って、イソアミルアルコール濃度は増加せず、酢酸イソアミル濃度が大きく増加するような醸造用酵母、及びそのような醸造用酵母を使用する酒類の製造方法が待たれていた。 本発明は、酢酸イソアミルを高生産し、E/A比が高い酒類を製造できる醸造用酵母、及び該醸造用を使用した香り豊かな酒類の製造方法の提供を目的とする。 本発明者らは、鋭意検討した結果、醸造用酵母のハイグロマイシンB耐性変異株が、高頻度の確率で酢酸イソアミル高生産株であり、しかもE/A比も高い株であることを見出した。これらは本発明者らによる新規知見であり、更に該酵母を用い、一般的な方法に従って醸造することにより、香気豊かなアルコール飲料が簡便に得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。 具体的に、本発明は、醸造用酵母を、ハイグロマイシンBを添加した培地中で培養し、醸造用酵母の母集団からハイグロマイシンBに対して耐性を示す変異株を選択することを特徴とする、酢酸イソアミル高生産性酵母の育種方法に関する(請求項1)。 また、本発明は、請求項1に記載の方法によって育種された、酢酸イソアミル高生産性のハイグロマイシンB耐性酵母変異株に関する(請求項2)。 ハイグロマイシンB耐性酵母変異株としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許生物寄託センターに寄託されている、受託番号 NITE P−134の変異株が好ましい(請求項3)。このハイグロマイシンB耐性酵母変異株を用いて酒類を製造すると、酒類のE/A比を10以上とすることが可能である。 また、本発明は、請求項2又は3に記載のハイグロマイシンB耐性酵母変異株を用いることを特徴とする酒類の製造方法に関する(請求項4)。 また、本発明は、請求項4に記載の製造方法によって製造され、酢酸イソアミルのイソアミルアルコールに対する濃度比率(百分率、E/A比)が8以上であることを特徴とする酒類に関する(請求項5)。 本発明の酢酸イソアミル高生産性酵母の育種方法は、醸造用酵母からハイグロマイシンB耐性変異株を選抜することにより、高頻度に酢酸イソアミル高生産変異株を得ることができる。また、この変異株を用いる本発明の酒類の製造方法は、従来の酵母変異株を使用する酒類の製造方法と比較して、E/A比が高く、香り豊かな酒類を安定的に製造することができる。しかも、吟醸仕込みのようなコストや手間もかからない。 以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、これらに限定されるものではない。 本発明の酢酸イソアミル高生産性酵母の育種方法では、醸造用酵母を、アミノグリコシド系抗生物質であるハイグロマイシンBを含有した選択培地で培養し、生育してきたハイグロマイシンB耐性変異株から、酢酸イソアミル高生産変異株をスクリーニングすることを特徴とする。 ハイグロマイシンB耐性変異株を選択するための対象としては、醸造用実用株、薬剤又は紫外線による変異処理株、遺伝子破壊株、又は天然の醸造用酵母からの分離株等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 選択培地中に添加するハイグロマイシンB濃度は、通常0.01〜10 mg/mLとするが、好ましくは0.1〜2 mg/mL、さらに好ましくは0.5〜1.5 mg/mLとする。このようなハイグロマイシンB濃度で生育できる株を選択することにより、ハイグロマイシンB耐性変異株を高頻度で得ることができる。 選択培地の基本培地は、完全培地、最少培地等、特に問わないが、炭素源にグリセロールを使用することにより、より明確な選択を行うことができる。〔実施例1〕<ハイグロマイシンB耐性変異株の分離> 本発明の実施例1として、酢酸イソアミル高生産株であるハイグロマイシンB耐性変異株の分離方法の一例を説明する。なお、特に断りのない限り、本明細書において、アルコール濃度は%(v/v)で、その他の物質の濃度は%(w/v)で表す。(変異処理) 清酒用泡なし酵母(Saccharomyces cerevisiae)である日本醸造協会701号(以下、K-701と略述する)を親株とし、以下の工程で変異処理を行った。 まず、K-701を10 mLのYPD液体培地(酵母エキス1%、ポリペプトン2%、グルコース2%)中、30℃で一晩振盪培養した。次に、集菌した菌体を、10 mLの滅菌水で洗浄後、9.7 mLの0.1Mリン酸バッファー(pH 7.0)に懸濁させた。次に、0.3 mLのエチルメタンスルホネート(EMS)を加え、30℃で50分間穏やかに振盪した。次に、集菌した菌体を、10 mLの5%チオ硫酸ナトリウムで洗浄し、さらに菌体を10 mLの滅菌水で2回洗浄した。(選択) 上記変異処理を行い、滅菌水で洗浄した後の菌体を、4 mLのYPD液体培地に懸濁させ、30℃で4.5時間振盪した。この懸濁液のうち200μLを、0.5 mg/mLの濃度でハイグロマイシンB を含むYPG培地プレート(酵母エキス1%、ポリペプトン2%、グリセロール2%、寒天2%)1枚に塗布後、30℃、3日間培養した。そして、この選択培地で生育した株をハイグロマイシンB耐性変異株とした。 この選択により、全部で24株のハイグロマイシンB耐性変異株を得た。さらに1.5 mg/mLのハイグロマイシンBを含むYPD液体培地に植菌し、30℃で1週間静置培養した。この条件で生育した株を選択することで、よりハイグロマイシンBに耐性を示した変異株を10株取得した。〔実施例2〕<清酒の製造>(酢酸イソアミル生産性試験) 上記10株のうち、増殖能がK-701と同程度な変異株3株(変異株1〜変異株3)を選択した。そして、これら変異株3株と、対照株として親株であるK-701を用い、表1に示す仕込配合で清酒の小仕込試験を行った。 掛米は、精米歩合77%のα米(セブンライス工業株式会社)を使用し、麹米は、精米歩合75%の白米を使用した。発酵温度は、13℃一定で行い、留後13日目に遠心分離により上槽した。(清酒成分の分析) 次に、この上清について香気成分の定量を行った。香気成分は、n-アミルアルコールを内部標準として、ヘッドスペース法によりガスクロマトグラフィー(FID検出器、島津製作所GC-14A型)を用いて測定した。香気成分の定量結果を、表2に示す。 表2の各香気成分の濃度単位はppmであり、E/A比は酢酸イソアミル濃度(ppm)÷イソアミルアルコール濃度(ppm)×100である。使用したハイグロマイシンB耐性変異株3株は、親株であるK-701の1.8〜2.6倍の酢酸イソアミルを生成した。特に、変異株2は、約30ppmと非常に高い酢酸イソアミル値を示した。 さらに、これら3株のE/A比は、K-701の1.6〜2.7倍であり、E/A比が8以上であった。このように、ハイグロマイシンB耐性変異株から、高頻度で酢酸イソアミル高生産性、かつ、E/A比の高い変異株を取得することができた。 酢酸エチルについても、変異株1〜変異株3は、親株であるK-701の1.2〜1.8倍であったが、アセトアルデヒドとカプロン酸エチルについては、K-701との差異は認められなかった。このように、変異株1〜変異株3は、香気成分のうち、酢酸イソアミルを、高いE/A比で特異的に高産生する能力を有していることが確認された。 次に、上記上清について一般分析及び有機酸の定量を行った。一般分析は、国税庁所定分析法に基づいて測定した。また、有機酸は、島津HPLC有機酸分析システム(カラムSCR-102H)を用いて測定した。その結果を、表3に示す。 表3の有機酸の濃度単位は、すべてppmである。一般分析及び有機酸定量の結果、変異株1〜変異株3は、対照株と同等の醸造特性を有していることがわかった。(菌学的性質) 変異株1〜変異株3の中から、最も酢酸イソアミル高生産性であり、かつ、E/A比の高かった変異株2を選択し、その菌学的性質を調べた。その結果を、表4に示す。なお、この変異株3は、サッカロマイセス・セレビシエ (Saccharomyces cerevisiae) HMR-18と表示し、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号 NITE P−134号として寄託されている。 βアラニン培地での生育やTTC(塩化トリフェニルテトラゾリウム)染色性から、変異株3(HMR-18)は、親株であるK-701由来であることが示されている。 本発明の酢酸イソアミル高生産性酵母は、香り豊かな酒類の醸造用酵母として、酒類製造業において有用である。 醸造用酵母を、ハイグロマイシンBを添加した培地中で培養し、醸造用酵母の母集団からハイグロマイシンBに対して耐性を示す変異株を選択することを特徴とする、酢酸イソアミル高生産性酵母の育種方法。 請求項1に記載の方法によって育種された、酢酸イソアミル高生産性のハイグロマイシンB耐性酵母変異株。 受託番号 NITE P−134である請求項2に記載のハイグロマイシンB耐性酵母変異株。 請求項2又は3に記載のハイグロマイシンB耐性酵母変異株を用いることを特徴とする酒類の製造方法。 請求項4に記載の製造方法によって製造され、酢酸イソアミルのイソアミルアルコールに対する濃度比率(百分率)が8以上であることを特徴とする酒類。 【課題】 酢酸イソアミルを高生産し、E/A比が高い酒類を製造できる醸造用酵母、及び該醸造用を使用した香り豊かな酒類の製造方法の提供を目的とする。【解決手段】 ハイグロマイシンBに対して耐性を示す変異株を選択することにより、高頻度で酢酸イソアミルを高生産する酵母を取得する。さらに、該変異株を使用することにより、酢酸イソアミルを高濃度に含むことを特徴とする香り豊かな酒類を、コスト、時間及び手間をかけることなく、安定して製造することができる。


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