タイトル: | 公開特許公報(A)_硬組織脱灰標本の製造方法 |
出願番号: | 2005278774 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 1/36,G01N 1/28,G01N 33/48 |
沖花 裕行 向田 政博 JP 2006126176 公開特許公報(A) 20060518 2005278774 20050926 硬組織脱灰標本の製造方法 ペンタックス株式会社 000000527 高石 橘馬 100080012 沖花 裕行 向田 政博 JP 2004281642 20040928 G01N 1/36 20060101AFI20060414BHJP G01N 1/28 20060101ALI20060414BHJP G01N 33/48 20060101ALI20060414BHJP JPG01N1/28 RG01N1/28 JG01N33/48 R 9 11 OL 15 2G045 2G052 2G045BA14 2G045BB22 2G045CB01 2G045FA16 2G045FA19 2G052AA33 2G052AD14 2G052AD34 2G052BA16 2G052DA07 2G052EC03 2G052FA02 2G052GA31 2G052JA09 本発明は、硬組織脱灰標本の製造方法に関し、特に細胞が付着した生体硬組織代替材料、生体硬組織又はこれらの複合体を脱灰した標本を簡便かつ低廉に製造する方法に関する。 生体硬組織代替材料からなる足場材料に細胞を付着させた複合体、生体硬組織等の硬組織を顕微鏡観察するために、通常10μm以下の厚さの標本を作製する。従来は、まず硬組織を脱灰した後パラフィンで包埋し、薄切りし、染色することにより標本を作製していた。しかしこの方法では、特に生体成分が少ない場合、硬組織から灰分を溶解させると足場が弱くなりすぎるかなくなるので、細胞の本来の状態や、硬組織全体の本来の状態を観察するのが困難である。例えば細胞を付着させて培養しただけの人工骨では、コラーゲン等の付着量が少ないので、脱灰後の足場は不十分であり、付着した細胞の状態を十分に保持できない。 そのため硬組織を脱灰せずに硬組織用樹脂に包埋した後、薄切りし、染色する方法が検討されている。しかしこの方法では100μm程度の厚い切片しか作製できないため、切片を更に研磨する必要があり、標本の製造コストが高い。しかも同サイズの試料から採取できる標本の数が、脱灰する場合の1/100以下であるといった問題がある。 非脱灰硬組織の薄片標本を作製する方法として、特開2000-346770号(特許文献1)は、エチレン系不飽和単量体(例えばMMA)と、これを低温重合し得るアゾ系重合開始剤とを用いて、非脱灰硬組織を包埋した後、エチレン系不飽和単量体を重合し、薄切りする方法を提案している。エチレン系不飽和単量体は硬組織への浸透性に優れているので、これに包埋した試料は薄切り性に優れている。しかし特許文献1の方法では硬組織の包埋体を薄切りするので、硬組織の硬度が高いと、薄切りする際に組織の微細構造が破壊される恐れがある。その上、包埋までに3〜4週間を要する。 特開2002-31586号(特許文献2)は、組織の形態を良好に保持しながら薄片標本を作製する方法として、カルボキシメチルセルロース等の水溶液中に硬組織を浸漬した後、凍結することにより包埋した試料を、グリセリンを介して支持台に載置し、試料の表面に粘着剤を塗布した薄いプラスチックフィルムを貼り付け、凍結試料を水平に薄切りする方法を提案している。しかし特許文献2の方法は軟組織の標本には良好であるが、硬組織では薄切りの際に微細構造が破壊されるという問題がある。その上、凍結薄切装置が必要あり、コスト高であるという問題もある。特開2000-346770号公報特開2002-31586号公報 従って、本発明の目的は、硬組織の微細構造を保持しながら簡便かつ低廉に硬組織の脱灰標本を製造する方法を提供することである。 上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、硬組織を液体浸透性樹脂に包埋した後、脱灰することにより、硬組織の微細構造を保持しながら、簡便かつ低廉に、硬組織の脱灰標本を製造できることを見出し、本発明に想到した。 すなわち、本発明の硬組織脱灰標本の製造方法は、前記硬組織を液体浸透性樹脂に包埋した後、脱灰することを特徴とする。前記脱灰した包埋硬組織を、再び樹脂に包埋するのが好ましい。 本発明の好ましい実施態様では、前記硬組織は、生体硬組織、生体硬組織代替材料からなる足場材料と細胞とからなる第一の複合体、前記足場材料と前記生体硬組織とからなる第二の複合体、又は前記足場材料と前記細胞と前記生体硬組織とからなる第三の複合体である。前記生体硬組織代替材料はカルシウム系化合物からなるのが好ましく、ハイドロキシアパタイトからなるのがより好ましい。前記細胞は運動器系細胞であるのが好ましく、骨芽細胞、骨芽細胞様細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、及びこれらの幹細胞、前駆細胞及び腫瘍細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのがより好ましい。 前記液体浸透性樹脂の単量体はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであるのが好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレートであるのがより好ましい。 本発明によれば、硬組織を液体浸透性樹脂に包埋した後、脱灰するので、硬組織の微細構造を保持しながら、簡便かつ低廉に、脱灰した硬組織の標本を製造できる。このような特徴を有する本発明の方法は、特に細胞等を付着させて培養した人工骨等の硬組織脱灰標本の製造に好適である。[1] 硬組織 標本にする硬組織に特に制限はなく、例えば生体硬組織、生体硬組織代替材料からなる足場材料と細胞とからなる第一の複合体、生体硬組織代替材料からなる足場材料と生体硬組織とからなる第二の複合体、生体硬組織代替材料からなる足場材料と細胞と生体硬組織とからなる第三の複合体等が挙げられる。硬組織はこれらのいずれであっても良い。(1) 生体硬組織 生体硬組織としては骨、歯、関節、結石等が挙げられる。ここで生体硬組織は繊維性組織、軟骨等の軟組織を含んでもよい。(2) 第一の複合体 第一の複合体は、生体硬組織代替材料からなる足場材料と細胞とからなり、欠損部の補填/修復材料として使用されるほか、細胞分化/増殖用材料としても使用されるものである。生体硬組織代替材料としては、一般的に人工骨、人工歯根、骨補填材等に使用される硬(質)性材料が挙げられ、例えばカルシウム系化合物が代表的である。カルシウム系化合物としては、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられる。 生体硬組織代替材料は軟(質)性材料を含んでもよい。軟(質)性材料としては、公知の高分子材料、例えばコラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ-ε-カプロラクトン等の合成高分子;デンプン、アルギン酸等の多糖等が挙げられる。硬(質)性材料及び軟(質)性材料の複合体からなる生体硬組織代替材料の例として、カルシウム系化合物及びコラーゲンの複合体が挙げられる。この複合体中のコラーゲンは架橋されていてもよい。 生体硬組織代替材料からなる足場材料に付着させる細胞としては、足場材料上で培養できるものである限り制限されない。細胞としては例えば、運動器系細胞、肝細胞、線維芽細胞、泌尿器系細胞(例えば腎細胞、膀胱細胞など)、呼吸器系細胞(例えば肺細胞、肺胞細胞など)、神経系細胞、消化器系細胞(例えば胃細胞、小腸細胞、大腸細胞など)、循環器系細胞(例えば心細胞、血管細胞など)、生殖系細胞などが挙げられる。またこれらの細胞の幹細胞、前駆細胞及び腫瘍細胞を使用することもできる。 これらの細胞中では、運動器系細胞(又はその幹細胞、前駆細胞及び腫瘍細胞)が好ましい。運動器系細胞としては、例えば骨芽細胞、骨芽細胞様細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞などが挙げられる。足場材料に付着させた細胞は所望の期間培養させても良い。これにより、生体に入れた生体硬組織代替材料中でどれだけ速く細胞が増殖するかを評価することができる。(3) 第二の複合体 第二の複合体は上記硬(質)性及び/又は軟(質)性の生体硬組織代替材料からなる足場材料と上記生体硬組織とからなる。(4) 第三の複合体 第三の複合体は上記硬(質)性及び/又は軟(質)性の生体硬組織代替材料からなる足場材料と上記細胞と上記生体硬組織とからなる。足場材料に付着した細胞を所望の期間培養しても良い。[2] 標本製造方法 本発明の標本製造方法を添付図面を参照して以下詳細に説明するが、勿論本発明は図示の方法に限定されるものではない。(1) 固定処理工程 脱灰前の硬組織を安定化させるために、組織の外形、内部構造等をそのまま固定する処理(以下単に「固定処理」という)を行うのが好ましい。組織の外形等の固定は、脱灰前の硬組織を固定処理液に浸漬することにより行う。 固定処理液としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等が挙げられる。これらのいずれかと、酸化オスミウム、酢酸、リン酸、飽和ピクリン酸、アルコール等との混合液も使用できる。そのような混合液として、例えばグルタルアルデヒド及び四酸化オスミウムを混合したカルノフスキー固定液、ホルムアルデヒドと飽和ピクリン酸と氷酢酸とを混合したブアン固定液、パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(中性)等を挙げることができる。 固定処理液に、所定の形状に切り出した硬組織片を浸漬する。浸漬時間及び温度は、硬組織片、固定処理液等に応じて適宜選択する。試料に進入した固定処理液に濃度勾配が生じないように、固定処理液を攪拌するのが好ましい。硬組織の外形、内部構造等を固定した後、試料を洗浄して固定処理液を除去する。洗浄方法としては、試料を流水で洗浄するのが好ましい。(2) 脱水工程 固定処理した試料を脱水する。脱水により、液体浸透性樹脂の硬組織片中への浸透性が向上する。脱水は、エタノール、アセトン等の親水性有機溶媒を攪拌しながら、その中に試料を浸漬することにより行う。浸漬時間及び温度は、硬組織片の種類や大きさに応じて適宜選択する。脱水工程中、有機溶媒を数回交換するのが好ましい。この場合、濃度の異なる複数の有機溶媒水溶液を使用し、低濃度のものから高濃度のもの(例えば100%有機溶媒)に順に交換するのが好ましい。(3) 予備浸漬工程 脱水した硬組織片1aを液体浸透性樹脂に包埋するために、まず図1に示すように液体浸透性樹脂の単量体及び有機溶媒からなる混合液(予備浸漬液)2aに硬組織片1aを浸漬し、硬組織片1aに予備浸漬液2aを浸透させるのが好ましい。ここで用語「液体浸透性樹脂」は、例えば図4に示すように硬組織1bを包埋した後、液体(脱灰液、脱水液、包埋材用単量体液等)が硬組織片1b内部に浸透するのを妨害しない樹脂を意味する。 予備浸漬工程で使用する単量体は、液体浸透性樹脂を形成できるものである限り、本浸漬工程及び包埋工程で使用するものと同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。液体浸透性樹脂単量体の詳細は後述する。有機溶媒としてはエタノール、アセトン等が挙げられる。予備浸漬液2aの単量体濃度に特に制限はないが、30〜70質量%であるのが好ましい。予備浸漬時間は硬組織片1aの大きさ等により適宜選択すればよい。また予備浸漬温度は室温でよい。予備浸漬は真空下で行っても良い。(4) 本浸漬工程 予備浸漬した後、単量体と重合開始剤とからなる本浸漬液(有機溶媒を含有しない)2bに硬組織片1bを浸漬するのが好ましい。本浸漬時間は一般に24時間以内でよいが、16〜22時間であるのが好ましい。本浸漬温度は室温でよい。なお、本浸漬における単量体は予備浸漬における単量体と同じであるのが好ましい。 液体浸透性樹脂単量体は短時間で硬化するのが好ましく、また光透過性が高く長期に亘って変質しない液体浸透性樹脂を形成するものが好ましい。このような液体浸透性樹脂単量体としては、(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましく、中でも(メタ)アクリル酸エステル又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、特にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が特に好ましい。また(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。単量体は必要に応じて可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては例えばヒドロキシエーテルが挙げられる。液体浸透性樹脂単量体の市販品として、テクノビット7100、同8100(ドイツのヘレウス・クルツァー社製)、ヒストレジンプラス(ドイツのライカマイクロシステムズ社製)、JB-4(アメリカのポリサイエンス社製)等が挙げられる。 重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル(BPO、LUCIDOL)等が挙げられる。なおテクノビット等の市販の単量体には、適合する重合開始剤が添付されている。重合開始剤の使用量は、単量体との組合せにより適宜変更し得るが、HEMAとBPOの組合せの場合、質量%でHEMA/BPOが100/0.5〜100/1.5であるのが好ましく、例えば100/1である。本浸漬液は補触媒を含んでもよく、補触媒として例えば塩化物イオンを発生できるもの等が挙げられる。なおテクノビット等の市販の単量体には、適合する補触媒が添付されている。(5) 包埋工程 図3に示すように、本浸漬した硬組織片1cをモールド[例えばヒストフォーム(ヘレウス・クルツァー社製)]4の凹部4aに載置するとともに、本浸漬液(液体浸透性樹脂単量体+重合開始剤)に硬化促進剤を添加した包埋液2cを凹部4aに入れ、蓋板5で凹部4aをシールする。この際、包埋液2cの固化を阻害する恐れがある空気の混入を防ぐため、モールド4のキャビティ上面4bに載置した蓋板5と包埋液2cとの間に隙間が形成されないようにする。硬化促進剤としては、バルビツール酸誘導体、芳香族アミン、N,N-ジメチルアニリンのスチレン溶液等が挙げられる。なおテクノビット等の市販の単量体には、適合する硬化促進剤が添付されている。硬化促進剤を用いることにより、比較的低温で重合できる。中でも重合開始剤としてBPOを使用し、硬化促進剤としてバルビツール酸誘導体を使用し、かつ塩化物イオンを発生できる補触媒を使用した系では、室温で約1時間放置した後、35〜45℃で約1時間処理すれば、単量体を十分に重合させることができる。従って、図3に示す状態で加温すると、単量体が重合し、図4に示すように硬組織片1cが内部まで液体浸透性樹脂2dに包埋された試料10aが得られる。(6) 脱灰工程 液体浸透性樹脂2dに包埋した硬組織片1dを脱灰するには、図5に示すように、硬組織片1dと樹脂2dとからなる試料10aを、有機酸、無機酸及び/又はキレート剤を含む脱灰液6に浸漬するのが好ましい。脱灰液6の具体例としては、約5〜10質量%の濃度の蟻酸水溶液、約5〜8質量%の濃度の硝酸水溶液、テトラ酢酸・エチレンジアミン(EDTA)の約10質量%水溶液等が挙げられる。有機酸を含む脱灰液6は、ホルマリンやアルコールを含んでもよい。蟻酸を含む脱灰液6には塩酸又はクエン酸を添加してもよい。 液体浸透性樹脂2dに包埋した硬組織片1dからなる試料10aは、硬組織片1dの大きさ等にもよるが、脱灰液6に3〜30日間浸漬するのが好ましい。脱灰液6は包埋した硬組織片1dの内部に浸透し、灰分を溶解させる。脱灰液6は包埋した硬組織片1dの10容積倍以上を使用するのが好ましい。必要に応じて脱灰液6を攪拌又は振とうしたり、脱灰液6に通電したりしてもよく、これらの操作により脱灰時間を短縮できる。得られた脱灰硬組織片1eを有する試料10b(図6に示す)は、水、アルコール、水−アルコール混合液等で洗浄するのが好ましい。(7) 樹脂による再包埋工程 脱灰した硬組織片1e(図6に示す)では、灰分が溶解した部分が空孔となるため、脱灰硬組織片1eの空孔に再び樹脂2dを充填するのが好ましいが、必須ではない。脱灰硬組織片1eの空孔に進入できるものであれば、再包埋用樹脂の単量体は特に制限されないが、上記液体浸透性樹脂の単量体と同じであるのが好ましい。液体浸透性樹脂による再包埋処理には、上記と同様に、脱灰硬組織片1eを含有する試料10bを洗浄、脱水、予備浸漬及び本浸漬した後、図7に示すようにモールド4の凹部4aに載置し、凹部4a内に包埋液を投入し、工程(5) と同じ条件で加温し、単量体を重合するのが好ましい。(8) 支持台への固定工程 再包埋した脱灰硬組織片1fを有する試料10c(図8に示す)は、ミクロトーム等によりスライスするために、支持台に固定するのが好ましい。そのために、例えば図9に示すように、再包埋試料10cを上記と同じモールド4の凹部4aに入れ、支持面7bに連通する孔7aを有する中空の支持台[例えばヒストブロック(ヘレウス・クルツァー社製)]7を、再包埋試料10cを載置したキャビティ4aの上面4bに配置し、接着剤8[例えばテクノビット3040(ヘレウス・クルツァー社製、主成分:メチルメタクリレート)]を支持台7に流し込むのが好ましい。接着剤8はキャビティ4aの上面4bと支持台7の支持面7bとの隙間を埋め、再包埋試料10cを支持面7bに密着させる接着層8aを形成する。このようにして図10に示すように、再包埋試料10cは支持台7にしっかり固定される。(9) 切片の作製 支持台7に固定された再包埋試料10cの再包埋脱灰硬組織片1fをミクロトーム等によりスライスし、顕微鏡観察用標本(切片)を得る。切片の厚さは0.5〜10μmとするのが好ましい。得られた切片は水に浮かべて伸展処理し、スライドガラス等の上に載せ、乾燥させる。次いで染色した後、カバーガラス等を用いて封入することにより脱灰組織標本とする。 本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例1 新生児ラットの頭蓋骨より採取した初代骨芽細胞を付着させ、培養したハイドロキシアパタイト(直径:5mm、厚さ:2mm、細胞付着前の気孔率:50%)を、室温に保持した4質量%ホルムアルデヒド/リン酸緩衝液に1週間浸漬し、細胞組織を固定した。固定処理した試料を、流水中で洗浄した後、70容量%及び96容量%のエタノール水溶液に室温で各々2時間浸漬し、無水エタノールに室温で1時間浸漬することにより脱水した。 テクノビット7100の主剤(HEMAを主成分とし、塩化物イオンを発生できる補触媒を含む)と、無水エタノールとを等容積比で混合した予備浸漬液2aに、脱水した試料を室温で2時間浸漬した。予備浸漬をした硬組織片1bを、次いでテクノビット7100の主剤及び重合開始剤[テクノビット7100の硬化剤I(含水率20質量%のBPO)、含有量:質量%で主剤/硬化剤Iが100/1。]からなる本浸漬液2bに室温で20時間浸漬し、無水エタノールを除去した。 本浸漬液2bを浸透させた硬組織片1cを、図3に示すように、包埋用モールド(ヘレウス・クルツァー社製の「ヒストフォーム」)4の凹部4aに入れ、さらにテクノビット7100の主剤、上記重合開始剤、及び硬化促進剤[テクノビット7100の硬化剤II(バルビツール酸誘導体を含む)]からなる包埋液2c[本浸漬液/硬化剤II=15/1(容積比)]を入れて硬組織片1cを浸漬し、室温で1時間放置した後、37℃に1時間加温することにより、テクノビット7100の主剤を重合した。 テクノビット7100からなる樹脂2dに包埋した硬組織片1dからなる試料10aを、モールド4から取り外し、図5に示すように、5質量%の蟻酸に室温で5日間浸漬することにより、硬組織片1dを脱灰した。脱灰した硬組織片1eを有する試料10bを、流水で洗浄し、順次70容量%エタノール水溶液、96容量%エタノール水溶液及び無水エタノールを用いて脱水した後、上記の予備浸漬液、本浸漬液及び包埋液を用い、上記と同様にしてテクノビット7100からなる樹脂により再包埋した。 再包埋した試料10cを、図9に示すように、支持台(ヘレウス・クルツァー社製の「ヒストブロック」)7に、接着剤(ヘレウス・クルツァー社製の「テクノビット3040」)8により取り付けた。支持台7に固定した再包埋試料10c(図10参照)を、ミクロトームで4μmの厚さに薄切りし、得られた切片を蒸留水に浮かべて伸展処理し、スライドガラスに載せ、60℃で15分間乾燥した。次いでヘマトキシリン−エオジン(hematoxilin-eosin:HE)で染色し、カバーガラスで封入した。得られた含細胞脱灰ハイドロキシアパタイトの薄切標本を光学顕微鏡により観察した。図11〜14は標本組織の顕微鏡写真である。図11は標本組織全体(4倍)を示し、図12〜14は図11の組織の各部の拡大写真(20倍)である。図11〜14から、本発明の方法により作製された標本では微細構造が明確に観察でき、硬組織全体の微細構造が保持されていることが分かる。実施例2 市販の株化骨芽細胞[HOS(human osteosarcoma)細胞]を付着させ、培養した超気孔率ヒドロキシアパタイト(HAp-S、直径:5mm、厚さ:2mm、細胞付着前の気孔率:85%)を使用した以外実施例1と同様にして、含細胞脱灰ハイドロキシアパタイトの薄切標本を作製した。得られた標本の光学顕微鏡写真を図15〜17に示す。実施例3 染色方法としてトルイジンブルー染色を用いた以外実施例2と同様にして、含細胞脱灰ハイドロキシアパタイトの薄切標本を作製した。得られた標本の光学顕微鏡写真を図18及び19に示す。 図15〜19に示すように、超気孔率のヒドロキシアパタイトを用いた場合でも、通常気孔率のヒドロキシアパタイトの場合(実施例1)と同じく、微細構造を明確に観察できた。脱水した硬組織片を予備浸漬液に浸漬する様子を示す断面図である。予備浸漬した硬組織片を本浸漬液に浸漬する様子を示す断面図である。本浸漬した硬組織片を液体浸透性樹脂で包埋する様子を示す断面図である。包埋した硬組織片を有する試料を示す断面図である。包埋試料を脱灰液に浸漬する様子を示す断面図である脱灰試料を示す断面図である。脱灰試料を再包埋する様子を示す断面図である。再包埋試料を示す断面図である。モールド内に載置した再包埋試料に支持台を接着する様子を示す断面図である。支持台に固定した再包埋試料を示す断面図である。実施例1の含細胞脱灰ハイドロキシアパタイト標本の顕微鏡写真(倍率:4倍)である。実施例1の標本の一部を示す顕微鏡写真(倍率:20倍)である。実施例1の標本の別の部分を示す顕微鏡写真(倍率:20倍)である。実施例1の標本のさらに別の部分を示す顕微鏡写真(倍率:20倍)である。実施例2の標本の顕微鏡写真(倍率:20倍)である。実施例2の標本の別の部分を示す顕微鏡写真(倍率:20倍)である。実施例2の標本のさらに別の部分を示す顕微鏡写真(倍率:20倍)である。実施例3の標本の顕微鏡写真(倍率:10倍)である。実施例3の標本の一部を示す顕微鏡写真(倍率:20倍)である。符号の説明 1a・・・脱水した硬組織片 1b・・・予備浸漬した硬組織片 1c・・・本浸漬した硬組織片 1d・・・包埋した硬組織片 1e・・・脱灰した硬組織片 1f・・・再包埋した硬組織片 2a・・・予備浸漬液 2b・・・本浸漬液 2c・・・包埋液 2d・・・液体浸透性樹脂 4・・・包埋用モールド 4a・・・凹部 5・・・蓋板 6・・・脱灰液 7・・・支持台 7a ・・連通孔 7b ・・支持面 8・・・接着剤 8a ・・接着層 10a・・包埋試料 10b・・脱灰試料 10c・・再包埋試料硬組織の脱灰標本を製造する方法であって、前記硬組織を液体浸透性樹脂に包埋した後、脱灰することを特徴とする方法。請求項1に記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記脱灰した包埋硬組織を再び樹脂に包埋することを特徴とする方法。請求項1又は2に記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記硬組織は、生体硬組織、生体硬組織代替材料からなる足場材料と細胞とからなる第一の複合体、前記足場材料と前記生体硬組織とからなる第二の複合体、又は前記足場材料と前記細胞と前記生体硬組織とからなる第三の複合体であることを特徴とする方法。請求項3に記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記生体硬組織代替材料はカルシウム系化合物からなることを特徴とする方法。請求項4に記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記カルシウム系化合物はハイドロキシアパタイトであることを特徴とする方法。請求項3〜5のいずれかに記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記細胞は運動器系細胞であることを特徴とする方法。請求項6に記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記運動器系細胞は骨芽細胞、骨芽細胞様細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、及びこれらの幹細胞、前駆細胞及び腫瘍細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする方法。請求項1〜7のいずれかに記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記液体浸透性樹脂はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの重合体であることを特徴とする方法。請求項8に記載の硬組織脱灰標本の製造方法において、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルメタクリレートであることを特徴とする方法。 【課題】硬組織全体の微細構造を保持しながら、簡便かつ低廉に硬組織の脱灰標本を製造する方法を提供する。【解決手段】標本の製造方法は硬組織を組織の外形、内部構造等をそのままにホルムアルデヒドなどの固定処理液へ浸漬して固定化し、その後エタノール、アセトンなどで脱水処理、液体浸透性樹脂のヒドロキシルメタアクリレート単量体などで包埋前の予備浸漬を行い、次に重合開始材と液体浸透性樹脂のヒドロキシルメタアクリレート単量体などで本浸漬を行い、組織を包埋する。その後、約5〜10質量%濃度蟻酸水溶液、約5〜8質量%濃度硝酸水溶液、約10質量%濃度EDTA水溶液などの脱灰溶液を用いて3〜30日間浸漬して脱灰処理を行う。脱灰処理後の標本は再包埋してミクロトームで薄片化して顕微鏡試料に供する。 【選択図】 図11