タイトル: | 公開特許公報(A)_カルシウム可溶化剤 |
出願番号: | 2005243071 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C07K 7/04,A23L 1/304,A23L 1/305,C07K 7/06,C07K 5/103,A61K 47/42,A61K 9/08,A61K 33/06,A61P 19/10 |
玖村 朗人 JP 2007055938 公開特許公報(A) 20070308 2005243071 20050824 カルシウム可溶化剤 財団法人糧食研究会 000173968 玖村 朗人 C07K 7/04 20060101AFI20070209BHJP A23L 1/304 20060101ALI20070209BHJP A23L 1/305 20060101ALI20070209BHJP C07K 7/06 20060101ALI20070209BHJP C07K 5/103 20060101ALI20070209BHJP A61K 47/42 20060101ALI20070209BHJP A61K 9/08 20060101ALI20070209BHJP A61K 33/06 20060101ALI20070209BHJP A61P 19/10 20060101ALI20070209BHJP JPC07K7/04A23L1/304A23L1/305C07K7/06C07K5/103A61K47/42A61K9/08A61K33/06A61P19/10 9 OL 15 4B018 4C076 4C086 4H045 4B018MD04 4B018MD20 4B018MD71 4B018ME05 4C076AA12 4C076BB01 4C076CC09 4C076CC21 4C076CC40 4C076EE41E 4C076FF15 4C086AA01 4C086AA02 4C086HA04 4C086MA02 4C086MA05 4C086MA17 4C086MA52 4C086NA02 4C086ZA97 4H045AA10 4H045AA30 4H045BA13 4H045BA16 4H045CA43 4H045EA01 4H045EA20 4H045EA65 4H045FA16 本発明は、カルシウム沈殿形成阻害作用を有する乳素材に関する。さらに詳しくは、カルシウムの存在する環境に添加することで、カルシウム不溶性沈殿の生成を抑制し、カルシウムの溶解性を維持する事を可能とする乳素材に関するものである。 骨粗鬆症等カルシウム欠乏に関する疾患の予防あるいは治療の一環としてカルシウム摂取が推奨されているが、その有効な供給手段の一つとして挙げられているのが牛乳の飲用である。この理由としては、単に牛乳中のカルシウム濃度が高いためだけでなく、消化酵素の作用によってカゼインから生成されるカゼインホスホペプチド(以降、CPPともいう)や乳糖が腸内における効率的なカルシウム吸収に貢献するためであると説明されてきた(非特許文献1)。 食物として摂取したカルシウムが胃を通過する時点では、酸性条件下に曝露されるためにその多くがイオン化することになる。しかし、小腸下部に至るとpHが中性側にシフトするために、共存するリン酸とカルシウムがリン酸カルシウムの複合体を形成しやすい状況となる。in vitroではあるが、CPPを添加することによって中性pH下におけるリン酸カルシウムの形成を抑制してカルシウムの溶解性を高めることを示した実験がある(非特許文献1)。カルシウムの溶解性が高まれば、それだけカルシウム吸収率の向上が期待出来る。実際、カルシウムの殆どは小腸下部で受動輸送によって吸収されるので、小腸内におけるカルシウムの溶解性は吸収率を高めるためにも重要なファクターとなる。 しかし現代の日本においては、食生活の変化に伴って食品添加物、肉類、食肉加工品、インスタント食品、長期保存食品など種々の食品から過剰にリン酸を摂取する機会が増加しており、それに伴ってカルシウムが欠乏しやすい状況に陥っていると言える(非特許文献2)。 一方、フラクトオリゴ糖やラフィノース、ジフラクトース無水物(DFA-III)のような難消化性オリゴ糖もまた小腸におけるカルシウム吸収を促進するが(非特許文献3)、Mineoらによれば、その原因はこれらのオリゴ糖が小腸上皮細胞間のタイトジャンクションを緩め、カルシウムの透過性を上げるためであるという(非特許文献4)。つまりオリゴ糖とCPPでは別のメカニズムによってカルシウム吸収に関与していることが示唆される。 ところで、オステオポンチン(以降、OPNともいう)もまた乳中に含まれるリン酸化タンパク質であるが、もともとは骨組織からインテグリン結合性タンパク質として単離され、専ら細胞接着因子として知られている。その他にも骨代謝、免疫制御にも関わる多機能性タンパク質と捉えられている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。 OPNのポリペプチド鎖の分子量は約3万であるが、牛乳由来のOPNの場合、262残基のアミノ酸のうち、27箇所のセリンと1箇所のスレオニンがリン酸化されているだけでなく、3箇所のO-型結合糖鎖を有するため、SDS-PAGEに供すると分子量約6万の位置に泳動される(非特許文献8)。一方、母乳由来のOPNの場合、5箇所のO-型結合糖鎖と、36箇所のリン酸化されたアミノ酸が確認され、牛乳由来のOPN以上に著しい翻訳後修飾を受けている(非特許文献9)。 乳中のOPN含量はウシの場合、初乳で多くても150mg/l程度であり、常乳ではその10分の1レベルにまで低下する(非特許文献10)。一方、母乳では個人差が大きいものの常乳で1g/lを越えるものも少なくないと報告されている(非特許文献11)。乳中におけるOPNの生物学的存在意義が母体の乳腺側にあるのか、新生児側にあるのか未だ明らかではないが、より母乳に近い育児用調製粉乳の配合の為にもOPNの経口摂取がどのような意義を持っているのかを様々な視点から解明してゆく必要がある。しかし、まだ充分に実用化されていないのが現状である。内藤 博、日本栄養・食糧学会誌、39、pp.433-439(1986)西沢良記、白木正孝、江澤郁子、広田孝子、「カルシウム その基礎・臨床・栄養」、社団法人 牛乳普及協会、pp.224-225、(1999)Suzuki, T., Hara, H., Kasai, T. and Tomita, F. Biosci. Biotechnol. Biochem., 62, pp.837-841(1998).Mineo, H., Amano, M., Chiji, H., Shigematsu, N., Tomita, F. and Hara H., Dig Dis Sci., 49, pp.122-132(2004).樋口安典、片岡昌志、久下浩、山本俊輔、現代化学 増刊、29、pp.218-224(1996)Butler, W. T, Ridall, A. L. and MCKee, M. D. Principles of bone biology. pp. 167-181 (Eds. JP Bilezikan, LG Raisz & GA Rodan). San Diego, CA.: Academic Press (1996)Sodek, J., Ganss, B. and MCKee, M. D. Crit. Rev. Oral Biol. Med. , 11, pp.279-303(2000)Sorensen, E. S., Hojrup, P. and Petersen, T. E., Protein Sci., 4, pp.2040-2049(1995)Christensen, B., Nielsen, M. S., Haselmann, K. F., Petersen, T. E and Sorensen, E. S.Biochem. J. (2005) Immediate Publication, doi:10.1042/BJ20050341Kumura, H., Miura, A., Sato, E., Tanaka, T. and Shimazaki, K. J., Dairy Res. ,71, pp.500-504(2004)Nagatomo, T., Ohga, S., Takada, H., Nomura, A., Hikino, S., Imura, M., Ohshima, K. and Hara, T. ,Clin. Exp. Immunol., 138, pp.47-53(2004) そこで、本発明の課題はカルシウムの可溶化状態を維持できる新たな素材を提供する点にある。 本発明者はカルシウムの存在する環境に牛乳由来OPN、または牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物、あるいは牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物から得られる新規なペプチドを添加することで、カルシウムの不溶性沈殿生成を抑制し、カルシウム可溶化状態の維持を可能とすることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、[1]牛乳由来オステオポンチンのプロテアーゼ分解物からなるカルシウム可溶化剤、[2]プロテアーゼがペプシン、トリプシン、キモシンのいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせである、前記[1]記載のカルシウム可溶化剤、[3]YGLKSRSKKFR(Tyr-Gly-Leu-Lys-Ser-Arg-Ser-Lys-Lys-Phe-Arg)の配列からなるペプチド、[4]LPVK(Leu-Pro-Val-Lys)の配列からなるペプチド、[5]WLKPDPSQKQTF(Trp-Leu-Lys-Pro-Asp-Pro-Ser-Gln-Lys-Gln-Thr-Phe)の配列をN末端に含有するペプチド、[6]前記[3]〜前記[5]のいずれか1つに記載のカルシウム可溶化剤、[7]前記[1]〜前記[6]のいずれか1つに記載のカルシウム可溶化剤またはペプチドを含有した飲食品、[8]前記[1]〜前記[6]のいずれか1つに記載のカルシウム可溶化剤またはペプチドを含有した医薬品、[9]前記[1]〜前記[9]のいずれか1つに記載のカルシウム可溶化剤またはペプチドの飲食品または医薬品における使用、を提供するものである。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドはカルシウムの可溶化状態を維持できるので、飲食品や医薬品中に添加してカルシウムの生体利用率を高める事ができ、さらに、共存するカルシウムの可溶状態が安定した飲食品や液体製剤等の提供も可能とする。また、少ない精製ステップで高純度の牛乳由来OPNを調製することが可能である。すなわち、安全性にすぐれたカルシウム可溶化剤を簡便に提供できる利点がある。 以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更できるものである。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、牛乳由来OPNあるいは牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物中に見い出すことができる。 本発明の牛乳由来OPNは各種乳由来製品、例えば、生乳、酸ホエイ、チーズホエイ、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)等から得る事ができる。本発明の実施において、これらの乳由来製品のまま用いても、公知の精製方法による精製物として用いてもよい。 乳由来製品からのOPNの精製は、pH5.0の条件で弱陰イオン交換クロマトグラフィーに供することで行われる。さらに、再度強陰イオン交換クロマトグラフィーに供してより精製度を高めるのがより望ましい。この方法の他に、例えば、イオン交換、ゲル濾過、キレート、順相、逆相、疎水等の各種クロマトグラフィーや、遠心分離、酸沈澱、硫安分画、電気泳動等の公知の各種分離精製技術のいずれか1つを用いても、あるいは2つ以上を組み合わせて用いてもよい。 後述する実施例1にしたがって得た牛乳由来OPNをSDS-PAGEに供した場合、少なくとも約60kDaと約40kDaにスポットを確認することができる。 また、後述する実施例4に示すように、この牛乳由来OPN、カルシウム(塩化カルシウムとして使用する)、カルシウムに対し過剰量のリン酸ナトリウムをpH7.4の緩衝液中で混合して沈澱形成阻害活性を測定したところ、カルシウム量に対し等質量の牛乳由来OPNを添加した場合は、約85%のカルシウムが反応0から3時間後まで可溶性を維持することがわかった。 次に、牛乳由来OPNをプロテアーゼで分解する。本発明の実施において、分解基質としては、牛乳由来OPNを含む上述の乳由来製品のままでも、精製した牛乳由来OPNであってもよい。使用するプロテアーゼは特に限定されないが、ペプシン、トリプシン、キモシンを用いる事が望ましい。ペプシン(EC 3.4.4.1)は、ペプシンAともいう。胃粘膜より不活性型のペプシノーゲンとして分泌され、強酸性環境やペプシンによって活性型のペプシンとなる。ペプシンの至適pHは2〜4であり、タンパクに作用して特異性は低いもののPhe残基、Leu残基、Tyr残基、Met残基等の疎水性残基やGlu残基などのペプチド結合をよく切断する性質を持つ。自己消化のためきわめて不均一であり、分子量は約35000である。トリプシン(EC 3.4.21.4)は哺乳類においては膵液中に不活性型のトリプシノーゲンとして分泌され、エンテロキナーゼまたはトリプシンの作用を受けて活性型のトリプシンとなる。トリプシンの至適pHは7.5〜8.5であり、タンパクやペプチド、アミノ酸エステルに作用してLys 残基またはArg残基のC末端側のペプチド結合を選択的に切断する作用を持つ。ウシβ−トリプシンは分子量約24000で、アミノ酸残基223個からなる。キモシン(EC 3.4.23.4)は、レンニンともいう。哺乳中の仔牛の第4胃に多く分泌され、チーズの凝乳酵素として広く知られている。活性発現はペプシンと同様で、不活性型のプロキモシンが自己消化によって分子量約30000の活性型のキモシンとなる。キモシンの至適pHは6.3、等電点は4.6であり、κ-カゼインに作用してPhe105-Met106間のペプチド結合を選択的に切断してパラカゼインとグリコマクロペプチドに分解する作用を持つ(今堀和友、山川民夫監修、「生化学辞典」、東京化学同人、pp.358, 371, 989, 1262(1998))。 プロテアーゼの由来は上記の記載に限定されず、動物、植物、微生物のいずれであってもよい。例えば、食品グレードプロテアーゼは、エンド型プロテアーゼ、エキソ型プロテアーゼ、エキソ型ペプチダーゼ/エンド型プロテアーゼ複合酵素を含む。エンド型プロテアーゼは、例えば、キモシン(EC 3.4.23.4、Maxiren、modified yeast Kluyveromyces lactis 由来;GIST-BROCADES N.V.)、AlcalaseR (Bacillus licheniformis 由来)、エスペラーゼ(B. lentus 由来)、NeutraseR (B. subtilis由来)、プロタメックス(バクテリア由来)、PTN6.0S(ブタ膵臓トリプシン)など、エキソ型ペプチダーゼ/エンド型プロテアーゼ複合酵素としては、例えばフレーバーザイム(Aspergillus oryzae 由来)などがあげられる(以上ノボ社)。他に、エンド型プロテアーゼとして、例えば、トリプシン(CAS No.9002-07-7、EC 3.4.21.4、ウシ膵臓由来、Product No.T8802;SIGMA)、ペプシン(CAS No.9001-75-6、EC 3.4.4.1、ブタ胃粘膜由来;SIGMA)、キモトリプシン(ノボ社、ベーリンガー社)、プロテアーゼN アマノ(Bacillus subtilis 由来;天野エンザイム)、ビオプラーゼ(Bacillus subtilis 由来;ナガセ産業)、パパインW−40 (天野エンザイム)、エキソ型プロテアーゼとして、膵カルボキシペプチダーゼ、小腸刷子縁のアミノペプチダーゼなどがあげられる。これらの酵素は商品名・由来・製造元など限定的なものを意味しない。本発明の実施において、プロテアーゼは1種もしくは2種以上の酵素を組み合わせてもよい。組み合わせる場合には、それぞれの酵素反応は、同時でもよく、別々に行ってもよい。 プロテアーゼ分解は、基質の1/100〜1/10質量のプロテアーゼを用い、各酵素の至適pH近傍にて30〜45℃、酵素反応時間0.5〜30時間で行う。あるいは、酵素分解に差し支えなければ任意の条件(酵素量、pH、温度、酵素反応時間等)を用いてもよい。酵素反応は、加熱、冷却、酸添加等による酵素失活、またはメンブレンフィルター等による酵素除去などによって停止することができる。 後述する実施例2にしたがって得た牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物をSDS-PAGEに供した場合、ペプシン分解物は約14kDa以下、トリプシン分解物は約22kDa以下にスポットを確認することができる。 また、後述する実施例4に示すように、この牛乳由来OPNプロテアーゼ(ペプシンおよび/またはトリプシン)分解物、カルシウム(塩化カルシウムとして使用する)、カルシウムに対し過剰量のリン酸ナトリウムをpH7.4の緩衝液中で混合して沈澱形成阻害活性を測定したところ、カルシウム量に対し等質量(プロテアーゼ分解前の牛乳由来OPNの質量として換算する)の牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物を添加した場合は、ペプシン分解物、トリプシン分解物、ペプシン・トリプシン二重分解物のいずれも、牛乳由来OPNと同様に反応0、3時間後において約85%のカルシウムが可溶性を維持することがわかった。すなわち、本発明のカルシウム可溶化剤は、経口投与または経管投与後に胃腸等の消化酵素で部分分解してもカルシウム可溶化活性を保持できるといえる。 本発明の牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物は、分解物をそのまま用いても、公知の方法によってカルシウム可溶化活性を有する画分を精製品として用いてもよい。 牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物の精製は、酸性条件で逆相クロマトグラフィーに供することで行われる。この方法の他に、例えば、イオン交換、ゲル濾過、キレート、順相、逆相、疎水等の各種クロマトグラフィーや、遠心分離、酸沈澱、硫安分画、電気泳動等の公知の各種分離精製技術のいずれか1つを用いても、あるいは2つ以上を組み合わせて用いてもよい。 後述する実施例5にしたがって牛乳由来OPNペプシン分解物を逆相クロマトグラフィーに供した場合、8つの精製画分(ピークI〜ピークVIII)が得られる。さらに、後述する実施例6に示すように、この精製画分、カルシウム(塩化カルシウムとして使用する)、カルシウムに対し過剰量のリン酸ナトリウムをpH7.4の緩衝液中で混合して沈澱形成阻害活性を測定したところ、カルシウム量に対し等質量(いずれも、ペプシン分解およびHPLC精製前の牛乳由来OPNの質量として換算する)の精製画分を添加した場合は、ピークIII(保持時間約15分)、ピークIV(保持時間約17分)、ピークV(保持時間約18分)に比較的高いリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性があるとわかった。 さらに、リン酸カルシウム沈殿形成阻害活性の認められたピークIII〜ピークVを対象に、MARDI-TOF MS(Matrix-Associated Laser Disorption-Ionization Time of Flight Mass Spectrum)による質量分析およびプロテインシーケンサーを用いたN-末端アミノ酸配列の解析を行った結果、ピークIIIはY142-R152(YGLKSRSKKFR(Tyr-Gly-Leu-Lys-Ser-Arg-Ser-Lys-Lys-Phe-Arg))の配列からなるペプチド、ピークIVはL1-K4(LPVK(Leu-Pro-Val-Lys))の配列からなるペプチドであることが明らかとなった。ピークVにはW27-F38(WLKPDPSQKQTF(Trp-Leu-Lys-Pro-Asp-Pro-Ser-Gln-Lys-Gln-Thr-Phe))の配列をN末端に含有するペプチドの存在が明らかになった。 本発明の実施において、YGLKSRSKKFR(Tyr-Gly-Leu-Lys-Ser-Arg-Ser-Lys-Lys-Phe-Arg)の配列からなるペプチド、LPVK(Leu-Pro-Val-Lys)の配列からなるペプチド、WLKPDPSQKQTF(Trp-Leu-Lys-Pro-Asp-Pro-Ser-Gln-Lys-Gln-Thr-Phe)の配列をN末端に含有するペプチドは、そのまま、またはNa, K,Ca, Mg, Fe, Zn, Al等金属との塩、アンモニウム、アミン等無機・有機塩基との塩、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、炭酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、カルバミン酸、乳酸、コハク酸、エチルコハク酸、フマル酸、メシル酸、メチル硫酸、ステアリン酸、ラクトビオン酸等無機・有機酸との塩として使用することができる。あるいは、一部がリン酸化されても、環状ペプチドを成していてもよい。ペプチドを構成するアミノ酸はD体、L体のいずれであってもよく、ラセミ体として用いてもかまわない。また、カルシウム可溶化作用があれば、アミノ酸配列の一部が他のアミノ酸に置換されていてもよく、N末端、C末端、アミノ酸残基の測鎖に1つまたは2つ以上のアミノ酸や他の化合物(糖、糖アルコール、脂肪族化合物、芳香族化合物、高分子化合物、ハロゲン、リン酸、アミン、ニトロ基、スルホニル基、など)が付加されていてもよい。本発明のペプチドを製造する方法としては、乳などの天然物から精製しても、有機合成あるいはin vitroの手法等を用いて合成してもかまわない。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは食事やカルシウム含有飲食品、カルシウム強化飲食品やカルシウム製剤に含まれるカルシウムの溶解性を高め、カルシウムの生体利用率を高める効果が期待できる。また、共存するカルシウムの溶解性を高めることから、カルシウム含有飲食品、カルシウム強化飲食品やカルシウム製剤に適用する事で、カルシウムの生体利用率を高めるだけでなく、飲食品や液体製剤等におけるカルシウムの可溶状態を長時間安定化する事もできる。他に、可溶性カルシウムを作製する際の助剤として、他の分野に応用してもかまわない。さらに、他のミネラルの可溶化剤として適用する事もできる。 カルシウムの成人1日当たりの必要量は、日本人で600mg、欧米人で800mと言われている。さらに、閉経後の女性においては1日当たり1500mgのカルシウム摂取が必要とされている。また、加齢に伴うカルシウム欠乏による副甲状腺ホルモンの上昇は1日当たり2400mgのカルシウム摂取によって正常化すると報告されている(西沢良記ら、「カルシウム その基礎・臨床・栄養」、社団法人 牛乳普及協会、pp.272、(1999))。 カルシウムの吸収は、腸管腔から小腸上皮細胞を介して血中に移行することで行われる。イオン型のカルシウムが腸管から吸収できる。経口的に摂取したカルシウムは一旦、胃の酸性域環境でイオン化するが、腸管は中性〜弱塩基性域環境である場合が多いため、イオン型を維持しにくくなる(西沢良記ら、「カルシウム その基礎・臨床・栄養」、社団法人 牛乳普及協会、pp.68-75、(1999))。本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、中性域環境でのカルシウムの溶解性を高めるため、腸管からのカルシウムの吸収を促進する効果が期待できる。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、中性域において、カルシウムにリン酸が結合してなる不溶性カルシウム化合物の形成を阻止または抑制することができる。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、共存するするカルシウム量(Ca換算)に対して0.1 w/w %〜10000 w/w%、好ましくは1 w/w%〜1000 w/w%、さらに好ましくは10 w/w %〜500 w/w%の比率で用いることができる。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、カルシウム欠乏に関する疾患、例えば、骨粗鬆症、自然骨折、痙攣、筋硬直、子癇、動脈硬化、高血圧、成長抑制、神経疾患、いらつき等の予防および/または治療を目的とした飲食品または医薬品に用いる事ができる。また、成長期、妊娠期、授乳期、閉経期、老年期等のヒトを含む動物を対象としたカルシウム強化あるいはカルシウム吸収促進を目的とした飲食品または医薬品に用いる事ができるが、特にこれらの用途や年齢層に限定されるものではない。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、ヒトまたはイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ニワトリ等の動物、あるいはトマト、メロン、パンジー等の植物において使用することができる。動物への投与経路としては経口投与、経管投与等を挙げる事ができるが、他の経路であってもかまわない。 本実施形態において、カルシウム欠乏に関する疾患の予防および/または治療作用あるいはカルシウム吸収促進作用を享受するための摂取量は、剤型、症状、体重などによって異なるため、特に限定されないが、あえて挙げるなら1日に体重1kg当たり0.01〜1000mgを摂取することができ、好ましくは1日に体重1kg当たり0.1〜500mg、より好ましくは1日に体重1kg当たり1〜100mgを摂取することができる。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、植物のカルシウム欠乏に関する疾患の予防および/または治療を目的としたカルシウム強化剤の助剤に用いる事ができる。従来はキレート剤等が使用されていたが、本発明品は安全性にすぐれるため、農作物へ散布等しても作物の安全性を損なわないカルシウム強化剤、カルシウム含有剤への応用の面で有用である。 本発明のカルシウム可溶化剤またはペプチドは、カルシウムの沈殿生成を抑制する効果があるため、カルシウムを含む液状の医薬品又は飲食品に使用して、澄明あるいは沈殿のより少ない製品を提供する目的で使用する事ができる。また、このカルシウムを含む液状の医薬品又は飲食品は、カルシウムの沈殿発生が抑えられ、さらに製品中のカルシウム分布が偏りにくいため、製造のしやすさや製造設備への負担軽減等の面でも有用である。 本発明のカルシウム可溶化剤、ペプチドは医薬品又は飲食品いずれの形態でも利用することができる。例えば、医薬品として直接投与することにより、又は特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより各種のカルシウム欠乏症の治療及び/又は予防することが期待される。また、各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品等)に添加し、これを摂取してもよい。 本発明のカルシウム可溶化剤、ペプチドを含有する食品には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これらの分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。カゼインホスホペプチド、アルギニン、リジン等のペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。食品の形態としては、固体でも液体でもかまわない。またゲル状などであってもよい。 本発明のカルシウム可溶化剤、ペプチドを医薬品として使用する場合には、種々の形態で投与することができる。その形態として、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、適当量のカルシウムを含んでいてもよい。さらに適当量のビタミン(ビタミンD等)、ミネラル(マグネシウム等)、有機酸(クエン酸、乳酸等)、糖類(乳糖等)、アミノ酸(アルギニン、リジン等)、ペプチド類(カゼインホスホペプチド等)などを添加してもよい。 以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。[実施例1](牛乳由来OPNの調製) 北海道大学フィールド科学センターの実験農場で得られた新鮮な混合生乳(ウシ由来)を原料とした。混合生乳から常法に基づき調製した酸ホエイをpH5.0に調整し、弱陰イオン交換作用のあるDEAE-Sepharose CL-6B(Amersham Biosciences)を添加してイオン交換クロマトグラフィーを行なった(前田 綾子、飴谷 美智子、東 徳洋、菅野 長右エ門、日本農芸化学会2002年度大会講演要旨集、講演番号3-3Ga01、pp.112(2002))。これにより得られたOPN画分を強陰イオン交換作用のあるMono-Qカラム(Amersham Biosciences)で再クロマトを行ない、OPNを調製した。なお、何れの場合においても溶出はNaClを含む0.1 M 酢酸緩衝液pH5.0を用いた。[実施例2](各種プロテアーゼによる牛乳由来OPNの分解) 実施例1で得られた牛乳由来OPNを各種プロテアーゼで分解した。分解する際の基質、酵素濃度や反応温度や反応時間、緩衝液は以下に述べるように行った。(1)ペプシン分解 OPN(最終濃度2.0または1.6mg/ml)を、基質に対して1/50質量のペプシン(CAS No.9001-75-6、EC 3.4.4.1、ブタ胃粘膜由来;SIGMA)によって0.02Mグリシン-塩酸緩衝液(pH2.5)中37℃で1、3、6、24時間酵素反応させた。その後、80℃15分間加熱して酵素を失活させた。(2)トリプシン分解 OPN(最終濃度2.0または1.6mg/ml)を、基質に対して1/50質量のトリプシン(CAS No.9002-07-7、EC3.4.21.4、ウシ膵臓由来、Product No.T8802;SIGMA)によって0.2M HEPES-NaOH緩衝液または0.02M Tris-塩酸緩衝液(共にpH7.5)中37℃で1、3、6、24時間酵素反応させた。その後、80℃15分間加熱して酵素を失活させた。(3)ペプシン・トリプシンによる二重分解 OPN水溶液(3.2 mg/ml)に、基質に対して1/50質量のトリプシン(CAS No.9002-07-7、EC3.4.21.4、ウシ膵臓由来、Product No.T8802;SIGMA)を含む0.03M Tris-塩酸緩衝液(pH7.5)をOPN水溶液の半分の容量として加え、37℃3時間反応させた。続いて、トリプシンと同質量のペプシン(CAS No.9001-75-6、EC 3.4.4.1、ブタ胃粘膜由来;SIGMA)を含む0.04 Mグリシン-塩酸緩衝液(pH2.5)をOPN水溶液の半分の容量として加え、37℃で3時間酵素反応させた。その後、80℃15分間加熱して酵素を失活させた。(4)キモシン分解 OPN(最終濃度0.5mg/ml)を、組み替えキモシン0.1U(CAS No.9001-98-3、EC 3.4.23.4、Maxiren、modified yeast Kluyveromyces lactis 由来;GIST-BROCADES N.V.)によって0.1M クエン酸緩衝液(pH3.0〜6.2)中37℃で3時間酵素反応させた。[実施例3](牛乳由来OPNおよびそのプロテアーゼ分解物のSDS-PAGE) 実施例1および実施例2で得られた牛乳由来OPNおよびそのプロテアーゼ分解物をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以降、SDS-PAGEともいう)に供した。SDS-PAGEは常法に基づき、染色はCoomassie Brilliant BlueまたはStains All(Eastman)で行った(Christensen, B.et al. S.Biochem. J. (2005) Immediate Publication, doi:10.1042/BJ20050341)。 結果を図1に示す。牛乳由来OPNをSDS-PAGEに供すると、分子量約60kDaと約40kDaの位置に泳動される(レーン9)。Christensenらの報告によれば、分子量約60kDaと約40kDaの位置に泳動されたスポットについてOPNのC-末端をエピトーブに持つポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングを行うと、約60kDaのOPNのみ反応を示すことや、また、約40kDaのOPNについてN-末端アミノ酸配列解析を行うと、OPNの成熟タンパク質のN-末端配列のみが検出されることから、約40kDaのOPNは約60kDaのOPNのC-末端部分が欠落したものであることが示唆されている(Christensen, B.et al. S.Biochem. J. (2005) Immediate Publication, doi:10.1042/BJ20050341)。 牛乳由来OPNにペプシンやトリプシンを作用させると1時間の反応で、前者で分子量約14kDa以下、後者で分子量約22kDa以下にまで分解されることが分かる(レーン1およびレーン5)。ペプシン消化(レーン1からレーン4)の場合では酵素反応時間の延長に伴う低分子化が明らかであるが、トリプシン消化(レーン5からレーン8)の場合、反応時間を24時間にまで延長しても、さらなる分解は認められなかった。即ち、牛乳由来OPNを経口摂取した場合、その分解はトリプシンよりもペプシンの作用に依るところが大きいものと予想される。[実施例4](牛乳由来OPN、牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物のリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性測定) この実験は、pH7.4の緩衝液中にリン酸ナトリウムと塩化カルシウムを混合してリン酸カルシウムの沈澱を形成させる際に、予め牛乳由来OPN、牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物が添加されていることによって、どの程度中性域におけるリン酸カルシウムの沈澱形成を阻止し、カルシウムの溶解性を維持するかを観察するものである。 実験方法は内藤の方法(内藤 博、日本栄養・食糧学会誌、39、pp.433-439(1986))に基づいた。実施例1、実施例2で得られた牛乳由来OPN、牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物(酵素反応時間3時間)の所定量をCaCl2と混合しておき、そこに最終濃度がCaCl2(4mM、Ca濃度として16mg/100ml)、リン酸ナトリウム(16mM)となるようにリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)を添加して室温で所定の時間静置状態で反応させた。この後、室温で10,000 rpm、1分間遠心分離し、不溶化したリン酸カルシウムを沈殿させて上清を回収した。上清中のCa濃度をカルシウムテストワコーによって測定し、可溶性カルシウム濃度(mg/100ml)とした。同一実験を3回繰り返し、1つの設定区に対して3本ずつ実験を行った。(1)牛乳由来OPN 牛乳由来OPNについて、最終濃度を3.2mg/100ml、16mg/ml、反応時間を0、0.5、1、3時間として、リン酸カルシウム沈殿形成阻害活性を測定した。牛乳由来OPNを添加しないものをコントロールとした。 結果を図2の(A)に示す。未分解の牛乳由来OPNを3.2mg/100ml添加した場合、反応開始1時間以降ではコントロールと同じではあったが、反応開始30分迄はコントロールと比べて明らかな沈澱形成抑制が認められた。また、未分解の牛乳由来OPNを16mg/100ml添加した場合、反応開始から3時間まで、添加したカルシウムの約85%以上について沈澱形成を阻止していた。この16mg/100mlという濃度はウシ初乳中のOPN濃度に相当し、母乳でいえば著しい個人差がある中でも母乳中のOPN含量が最も低い被験者でさえ、このレベルには達している濃度である(Kumura, H.et al. J. Dairy Res. 71, 500-504 (2004) 、Nagatomo, T.et al. Exp. Immunol. 138, 47-53 (2004))。(2)牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物 牛乳由来OPN、牛乳由来OPNのペプシン分解物(OPN-P)、トリプシン分解物(OPN-T)、ペプシン・トリプシン二重分解物(OPN-PT)について、最終濃度(いずれも、プロテアーゼ分解前の牛乳由来OPN濃度として換算する)を16mg/100ml、反応時間を0、3時間として、リン酸カルシウム沈殿形成阻害活性を測定した。牛乳由来OPN、牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物のいずれも添加しないものをコントロールとした。 結果を図2の(B)に示す。OPNはペプシン、トリプシン単独での分解のみならず両者による二重分解をしても、当該活性を維持していることが明らかとなり、リン酸カルシウム形成阻害活性がOPNの立体構造ではなく、局部的なペプチドに依存している可能性が示唆された。[実施例5](逆相HPLCによる牛乳由来OPNペプシン分解物の分画) 実施例2に従い、酵素反応時間24時間として調製した、牛乳由来OPNのペプシン分解物(分解前の牛乳由来OPN濃度に換算して16mg/100ml)0.20mlを、予め0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液で平衡化させたCapcell pak C8カラム(直径4.6mm×長さ150mm:資生堂)に注入した。流速:1ml/min、検出:215nmにおける吸光度、移動相:TFAを0.1%含むアセトニトリル−水混合溶液(精製開始より5分〜35分にかけてアセトニトリル0〜40%の直線的な濃度勾配をかける)の条件で溶出を行った。 HPLCの結果を図3に示す。8つのピークが現れた。これらを以後、保持時間(retention time)の短いものからピークI〜ピークVIIIとする。各ピークの溶出試料を回収し、後述のリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性測定およびN-末端アミノ酸配列の解析に供した。[実施例6](牛乳由来OPNペプシン分解物のHPLC精製画分のリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性測定) 実施例1で得られた牛乳由来OPN、実施例5で精製に供した牛乳由来OPNのペプシン分解物、実施例5にて調製したHPLC精製画分(ピークI〜ピークVIII)について、最終濃度を16mg/100ml(いずれも、ペプシン分解およびHPLC精製前の牛乳由来OPN濃度として換算する)、反応時間を0、3時間として、リン酸カルシウム沈殿形成阻害活性を測定した。牛乳由来OPN、牛乳由来OPNのペプシン分解物、実施例5にて調製したHPLC精製画分のいずれも添加しないものをコントロールとした。 HPLCによって分画したピークは一旦減圧遠心濃縮機によって溶媒を除去し、0.20mlの水で再溶解した。さらに、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)を添加して充分混合した。HPLC画分にはトリフルオロ酢酸が残留しているので、最少量のNaOHでpHを7.0〜7.4に再調整した。ここにCaCl2を加え、最終濃度がCaCl2(4mM)、リン酸ナトリウム(16mM)となるようにした。 牛乳由来OPN、牛乳由来OPNのペプシン分解物は実施例4と同様に、CaCl2と混合しておき、そこに最終濃度がCaCl2(4mM)、リン酸ナトリウム(16mM)となるようにリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)を添加した。 これらの混合液を室温で0、3時間保持した。この後、室温で10,000rpm、1分間遠心分離し、不溶化したリン酸カルシウムを沈殿させた。回収した上清中のCa濃度をカルシウムテストワコーによって測定した。同一実験を4回繰り返し、1つの設定区に対して4本ずつ実験を行った。 結果を図4に示す。反応0時間後は、8つの精製画分のいずれも約50%以上のカルシウムを溶解させた。反応3時間後は、そのうちピークIII〜Vに比較的強いリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性が認められた。[実施例7]( 牛乳由来OPNペプシン分解物のHPLC精製画分の質量分析およびN-末端アミノ酸配列の解析) 実施例6においてリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性の認められたピークIII〜ピークVの画分を対象に、質量分析およびN-末端アミノ酸配列の解析を行った。 MARDI-TOF MSを用いた質量分析は、成書(谷口寿章、最新プロテオミクス実験プロトコール、秀潤社、pp.41-54(2003))に従ってα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸をアセトニトリルとトリフルオロ酢酸に溶解したマトリックスを調製し、Voyager DE STR(Applied Biosystem)を使用して行った。 N-末端アミノ酸配列の解析はApplied Biosystemの492型プロテインシーケンサーを用い、Edman分解の手法にて行った。 その結果、ピークIIIは牛乳由来OPNのY142-R152(YGLKSRSKKFR(Tyr-Gly-Leu-Lys-Ser-Arg-Ser-Lys-Lys-Phe-Arg))[配列番号1]の配列からなるペプチド、ピークIVは牛乳由来OPNのL1-K4(LPVK(Leu-Pro-Val-Lys))[配列番号2]の配列からなるペプチドであることが明らかとなった。一方、ピークVには複数のペプチドが混在しており、それらの全てを同定するには至らなかったが、牛乳由来OPNのW27-F38(WLKPDPSQKQTF(Trp-Leu-Lys-Pro-Asp-Pro-Ser-Gln-Lys-Gln-Thr-Phe))[配列番号3]の配列をN末端に含有するペプチドの存在が明らかになった。 カルシウムの可溶化状態を維持できる乳素材なので、飲食品や医薬品中に添加してカルシウムの生体利用率を高める事ができる。カルシウム強化飲食品や骨粗鬆症剤等として適用が可能である。また、澄明あるいは沈澱の少ないカルシウム含有液状食品や液状製剤の製造にも応用できる。実施例3で行った、牛乳由来オステオポンチン(OPN)のペプシンまたはトリプシン分解物をSDS-PAGEに供した結果を示す図である。図中縦軸側の数字は分子量(kDa)、横軸の数字はレーン番号を示す。レーン1:ペプシン1時間処理、レーン2:ペプシン3時間処理、レーン3:ペプシン6時間処理、レーン4:ペプシン24時間処理、レーン5:トリプシン1時間処理、レーン6: トリプシン3時間処理、レーン7: トリプシン6時間処理、レーン8: トリプシン24時間処理、レーン9:未分解の牛乳由来OPN。牛乳由来OPN、牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物のリン酸カルシウム沈澱形成阻害実験の結果を示す図である。(A)牛乳由来OPN コントロール(×)、牛乳由来OPN3.2mg/100ml(○)、牛乳由来OPN16mg/100ml(●)の反応0、0.5、1、3時間後の可溶性カルシウム濃度(上清中のCa濃度)。各群の平均値(N=3)を示す。(B)牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物 牛乳由来OPNのペプシン分解物(OPN-P)、トリプシン分解物(OPN-T)、ペプシン・トリプシン二重分解物(OPN-PT)、コントロールの反応0時間後(□)、3時間後(■)の可溶性カルシウム濃度(上清中のCa濃度)。各群の平均値±標準偏差(N=3)を示す。逆相HPLCによる牛乳由来OPNペプシン分解物の分画を示す図である。横軸はretention time(min.)、縦軸は215nmにおける吸光度を出力電位 (mV)として示したものである。図中I〜VIIIは、回収したピークの番号を表す。牛乳由来OPNペプシン分解物のHPLC精製画分が示すリン酸カルシウム沈殿形成阻害活性を表す図である。I:ピークI、II:ピークII、III:ピークIII、IV:ピークIV、V:ピークV、VI:ピークVI、VII:ピークVII、VIII:ピークVIII、IX:HPLC精製前の牛乳由来OPNペプシン分解物、X:牛乳由来OPN、XI:コントロールの反応0時間後(□)、3時間後(■)の可溶性カルシウム濃度(上清中のCa濃度)。各群の平均値±標準誤差 (N=4)を示す。 牛乳由来オステオポンチンのプロテアーゼ分解物からなるカルシウム可溶化剤。 プロテアーゼがペプシン、トリプシン、キモシンのいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせである、請求項1記載のカルシウム可溶化剤。 YGLKSRSKKFR(Tyr-Gly-Leu-Lys-Ser-Arg-Ser-Lys-Lys-Phe-Arg)の配列からなるペプチド。 LPVK(Leu-Pro-Val-Lys)の配列からなるペプチド。 WLKPDPSQKQTF(Trp-Leu-Lys-Pro-Asp-Pro-Ser-Gln-Lys-Gln-Thr-Phe)の配列をN末端に含有するペプチド。 請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のカルシウム可溶化剤。 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のカルシウム可溶化剤またはペプチドを含有した飲食品。 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のカルシウム可溶化剤またはペプチドを含有した医薬品。 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のカルシウム可溶化剤またはペプチドの飲食品または医薬品における使用。 【課題】本発明の課題はカルシウムの可溶化状態を維持できる新たな素材を提供する点にある。【解決手段】 カルシウムの存在する環境に牛乳由来OPN、または牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物、あるいは牛乳由来OPNプロテアーゼ分解物から得られる新規なペプチドを添加することで、カルシウムの不溶性沈殿の生成を抑制し、カルシウム可溶化状態の維持を可能とする。【選択図】なし配列表