タイトル: | 公開特許公報(A)_電気乳化法 |
出願番号: | 2005234054 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | B01F 3/08,C12N 15/09 |
桂 進司 水野 彰 中野 道彦 JP 2007044664 公開特許公報(A) 20070222 2005234054 20050812 電気乳化法 国立大学法人豊橋技術科学大学 304027349 小林 洋平 100108280 桂 進司 水野 彰 中野 道彦 B01F 3/08 20060101AFI20070126BHJP C12N 15/09 20060101ALN20070126BHJP JPB01F3/08 AC12N15/00 A 5 1 OL 16 4B024 4G035 4B024AA20 4B024CA01 4B024HA08 4B024HA11 4B024HA20 4G035AB40 4G035AB54 4G035AE05 本発明は、油中水型(W/O)エマルジョンを作成する方法に関するものであり、特に、バッチ処理法によりエマルジョンを作成する技術に関する。 (乳化法) 油と水とを混合して、乳化状態を作る方法としては、機械エネルギーを利用する方法が代表的である。この方法は、油と水の界面に相当量のせん断応力を与えて、W/Oエマルジョンの場合には、微小な水滴を油中に分散させる。そのような機械としては、例えば、低速攪拌機、高速せん断攪拌機(高速ホモジナイザー)、コロイドミル、高圧ホモジナイザーなどがある。操作方法は、低速攪拌機や高速ホモジナイザーはバッチ処理で、コロイドミルや高圧ホモジナイザーは連続処理となる。 次に、バッチ処理を行う低速攪拌機と高速ホモジナイザーの特徴について説明する。低速攪拌機は、3000rpmよりも小さな比較的低速で溶液を回転翼などによって攪拌する。実験室レベルでは、マグネチックスターラーやボルテックスミキサーを用いることが多い。一方、高圧ホモジナイザーは、シャフトの先端に設けられた固定環と、その固定環の内部に沿って配置された回転翼を用いる。このシャフトを溶液内に置き、回転翼を高速回転すると、回転翼によるせん断応力に加え、回転翼と固定環との非常に狭い隙間でズリによるキャビテーションが生じる。こうして、高圧ホモジナイザーでは、せん断応力とキャビテーションの衝撃破壊力によって乳化を行う。高速ホモジナイザーは、高速なせん断応力を有するものの、高エネルギーが発生するために、通常は系の温度上昇を伴う。 また、攪拌によらない乳化方法として、電気毛管乳化法がある。これは、機械的攪拌を一切行わず、油あるいは水の界面に適当な電圧を印加することによりエマルジョンを調製する方法である。例えば、W/Oエマルジョンの場合、界面活性剤を含む油の中にリング状電極を置き、金属製の注射針のような毛細管をその上部に設置する。毛細管から水溶液を油中に導入し、その時に毛細管とリング状電極との間に電圧を印加する。この電圧印加によって、油と水との界面張力を低下させて、微小な水滴を油中に分散させる。毛細管からの水溶液の注入はシリンジのようなもので流量を制御しながら、一定の速度で押し出すことが必要である。 (W/Oエマルジョンの分子生物学的手法への利用) 近年、W/Oエマルジョンを分子生物学的手法へ応用する研究が盛んになってきている。これは、W/Oエマルジョン中に分散している微小な水滴のひとつひとつを小さな反応容器とみなして、その中で様々な生化学反応を行う方法である。この研究としては、例えば、非特許文献1(Tawfik,1998)または特許文献1が挙げられる。非特許文献1に開示された技術は、巨大な遺伝子ライブラリーの中から、ある作用を備えた蛋白質を発現する遺伝子を特定する方法である。具体的には、異なる配列を含む遺伝子ライブラリーを用意し、無細胞タンパク合成を行う反応溶液に入れる。この水溶液と界面活性剤を含む油と混合させてW/Oエマルジョンを作成する。エマルジョン中の各水滴には、平均的に1個の遺伝子(DNA)が含まれるように調製する。各水滴内でそれぞれの遺伝子に対応するタンパク質を合成して、その中から目的にあったタンパク質を含む水滴をスクリーニングする。最後に、その水滴に含まれる遺伝子の配列を決定する。 マイクロプレート上に作成されたウェル(反応容器)の数(例えば、96穴や384穴)に比べると、W/Oエマルジョン中の液滴の数は圧倒的に多いことから(例えば、非特許文献1によれば、1ミリリットルあたり1010個の水滴が存在する)、一度に多くの反応を行うことができる。 また、W/Oエマルジョン中の水滴を用いれば、容易に微小容量で反応を行うことができる。例えば、直径10μmで容量が0.5pl(ピコリットル)である。希薄な基質を用いて化学反応を行う場合、反応溶液をエマルジョンの水滴に分散させることで、等価的に高濃度とすることができる。こうすることで、通常の反応溶液中では効率よく起こらない反応を行うことができる。例えば、特許文献1及び非特許文献2では、この方法を使って1分子PCR(Polymerase Chain Reaction)を成功させている。特許公表2004-533833特許公開2003-153692Tawfik DS, Griffiths AD: Man-made cell-like compartments for molecular evolution. Nat Biotechnol 1998,16:652-656.Nakano M, Komatsu J, Matsuura Shun, Takashima K, Katsura S, Mizuno A: Single-molecule PCR using water-in-oil emulsion. J. Biotechnol 2003,102:117-124 W/Oエマルジョンを機械エネルギーで調製する場合には、攪拌子(ミキサー、回転翼など)やホモジナイザー(シャフト)を溶液内に設置しなければならない。通常、これらは使い捨てにされることなく、洗浄した後、再び異なる試料に対して繰り返し使用される。一方、特にDNAやタンパク質あるいは微生物、ウィルスを扱うような反応系に用いられる実験器具は、一度試料に接触したものを繰り返し使用することはない。これは、汚染物質を反応系に持ち込まないためである。加えて、洗浄作業によって環境中へ放出されることも懸念される。 また、攪拌子やホモジナイザーの小型化には限界があるため、効果的に乳化状態を作り出すためには、数ml以上(例えば3ml以上)の容量あるいは容器を必要とする。 攪拌装置ひとつにつき、一度に一種類の容器しか攪拌することができない。複数の容器を同時に攪拌する場合は、その容器の数にあっただけの攪拌装置が必要である。そのため、複数を同時に行う場合は、場所、コスト、電源の確保といった点で問題を生じることがある。 また、W/Oエマルジョンを調製するための電気毛管現象では、シリンジによる注入操作、及び連続相内に電極を設置する操作が必要である。このため、シリンジや毛細管を満たすための容量が必要となり、これがデッドボリュームとなってしまい、少量のW/Oエマルジョンを調製することが困難である。 電気的に乳化状態を作り出す電気毛管現象では、攪拌子やシャフトを用いる必要がない。しかし、この方法は、連続相に分散相を導入しながら乳化させていくために、微細なノズルやポンプ(シリンジなど)などの特殊器具が必要となる。 本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、攪拌子やシャフト、または特殊器具を用いることなく、少量かつコンタミネーションの虞の少ないW/Oエマルジョンを作成する方法を提供することである。 本発明者らは鋭意検討の結果、交流電界を用いることにより、上記課題を達成することに成功し、基本的には本発明を完成するに至った。 W/Oエマルジョンの作製方法について、これまで様々に検討されている。これらの方法は、大きくバッチ処理法と連続処理法とに分けられる。本発明は、このうちのバッチ処理法に属する技術である。 バッチ処理法の代表としては、低速攪拌機や高速ホモジナイザーがある。低速攪拌機では、攪拌子や回転翼を混合溶液内に設置し、高速ホモジナイザーでは、回転翼と固定環を先端に配置したシャフトを溶液内に設置する。いずれの場合においても、攪拌子やシャフトの小型化に限界があり、また、十分な攪拌性能を得るために、溶液の容量が数ml以上でなければならない。 溶液の混合に用いられる攪拌子やシャフトは、十分に洗浄した後で、繰り返し使用されることが多い。同一の試料を繰り返し攪拌する場合は、大きな問題になることは少ないが、様々な試料に対して使用する場合は、洗浄作業に厳密さが要求される。特に、遺伝子、タンパク質を用いる実験に供する場合には、試料のコンタミネーションが問題となる。加えて、洗浄作業工程が煩雑となり、廃棄物が多くなってしまうという問題がある。 本発明では、W/Oエマルジョンを作成する方法として交流電界を用いる。電界を用いた乳化方法としては、電気毛管現象を利用した方法があるが、これは連続処理法であり、バッチ処理として利用することはできない。 本発明では、W/Oエマルジョン化させる油と水溶液とを入れた容器の内部または外部に電極を配置し、その電極に交流電圧を印加することで容器内の溶液をW/Oエマルジョン化する。この方法は、機械的攪拌を伴わない乳化方法である。 ここで用いる電極は、基本的には金属線一本でよい。これは非常に安価であるので、使い捨てにすることができる。生物学的実験に乳化を取り入れた場合、攪拌子などの洗浄は特に厳密である必要があり、汚染物質が他の試料、あるいは、環境中に導入されることを防がなくてはならない。攪拌に用いる部分(ここでは電極)を使い捨てにすることで、溶液内に電極を配置した場合であっても、汚染を低コストで防ぐことができる。 一本の金属線を配置するだけでよいので、低速攪拌機や高速ホモジナイザーに比べて非常に構造が簡単である。そのため、機械のメンテナンスが容易であり、コストも低くすることができる。 本発明を用いることで、少量の試料を乳化させることができる。少量とは全量で3ml、好ましくは2ml、更に好ましくは1ml以下を示している。特に、全量を数百マイクロリットル以下とすれば、生化学実験用のマイクロチューブ(容量1.5ml)を容器として用いることができるので便利である。なお、後述する実施例では、3ml(5mlチューブ)、1ml(5mlチューブ)、500μl(1.5mlマイクロチューブ)、100μl(0.2mlマイクロチューブ)、及び10μl(0.2mlマイクロチューブ)でW/Oエマルジョンを作成した結果を示している。 また、本発明によれば、電極を配置した容器を電源に対して並列に配置することで、複数のW/Oエマルジョンを同時に作成することができる。 本発明においては、電極を容器の外部に配置することもできる。例えば、図5には、プラスチックのような誘電体で形成された容器を用い、容器の外部に電極を配置した様子を示した。容器内に油と水溶液を導入しておき、外部電極に交流電圧を印加することで、容器内部の溶液を乳化させる。 このようにすれば、溶液内に攪拌子などの混合に必要な機器を設置する必要がないので、溶液への機器からの汚染物質の混入が全くなくなる。従って、本発明による方法を用いれば、機器の洗浄が不要となる。 また、容器内部に電極を配置する場合と同じように、電源に対して並列に電極を配置することで、同時に複数の試料を処理することができる。本発明による方法は、少量(1ml以下)で乳化することができる。 電極や容器は様々な形状のものが利用できる。電極や容器の形状によって形成される電界が異なり、それによって作成されるW/Oエマルジョン中の水滴の大きさが変化することが考えられる。 本発明では、電界を用いてW/Oエマルジョンを作成する。ここで用いる電界は交流電界である。あらかじめ油と水溶液を導入した容器に交流電界を作用させることで、内部の溶液を乳化させる。 水溶液と油の2層に分かれているところに交流電界を印加すると、水溶液に対して静電配向力が働き、電界方向に引き伸ばされる。これは、水の誘電率がおよそ80であるのに対して、油の誘電率が2〜3であることに起因する。この電界が十分に大きい場合、引き伸ばされた水溶液はその先端から微小な液滴を噴出したり、引き伸ばされた水溶液が途切れて水滴化したりする。これらの水滴も交流電界中に置かれているため、同じ原理によりその水滴からも微小な液滴が噴出される。この作用によって、油と水溶液の2層の状態から細かな水滴が分散したW/Oエマルジョンへと乳化される。 容器の外部に電極を配置した場合、容器がプラスチックのような誘電体で形成されていれば、周波数効果により、容器内部に壁に沿ったような形の電場を形成することができる。このときの周波数は、容器材料の誘電率や厚みに依存するが、肉厚0.3〜0.5mmのポリプロピレンの場合は、100Hz以上であればよい。容器内部に導入した油と水溶液の2層になっている溶液に、内壁に沿って形成された電界を作用させることで、上述の原理と同じように水溶液が水滴化してW/Oエマルジョン化する。 本発明によれば、撹拌子やシャフト、または特殊器具を用いることなく、かつ少量でW/Oエマルジョンを作成することができる。このため、試料のコンタミネーションのおそれが減少する。更に、容器を並列に配置することにより、複数のW/Oエマルジョンを同時に作成することができる。 次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。 本実施形態においては、機械的攪拌を伴わないバッチ式の乳化方法を用いる。図1には、電圧電極7を容器6の内部に挿入するときの構成を示した。容器6としては、生化学実験用のマイクロチューブを用いることができる。また、チューブラック8として、導電性のもの(例えば、アルミ製のもの)を用いることができる。図1(B)に示すように、容器6の上面に細孔を設け、ここから電圧電極7を容器6の内部に挿入した後、容器6をチューブラック8の装着孔9に挿入する。ここで、電圧電極7を交流電源10に接続し、チューブラック8を接地11する。 油と水とを乳化する際には、反応に必要なだけの容量を容器6に入れる。なお、電圧電極7は、容器6の外方に設置することもできる。 容器6には、例えば、プラスチックのような誘電体で形成されているものを用いることができる(例えば、1.5mlマイクロチューブや0.2mlマイクロチューブ)。容器6内に油相(例えば、有機溶媒、油など)と水溶液とを入れ(図中の番号5)、容器6内または容器6外に設置した電圧電極7に交流電圧を印加することで、容器6内部の油と水溶液を混合させて、乳化状態を作り出す。 容器6に入れる油と水の容量は、3ml〜10μlの少量とすることができる。従来の機械操作を用いたW/Oエマルジョン作成方法では、少量(例えば、3ml以下)の場合には、対応することが困難であった。 電圧電極7に印加する交流電圧の周波数としては、特に限定されないが、例えば容器6としてマイクロチューブ(肉厚0.3〜0.5mmのポリプロピレン)を用いる場合には、100Hz以上であればよい。 このようにして調製されたW/Oエマルジョンについては、水滴中において、化学反応(例えば、PCR反応、或いはコンビナトリアル反応など)を行うことができる。 次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。 <実施例1> (容器内部に電極を置いた場合:タングステン電極) 図1に示した装置を用い、W/Oエマルジョンを作成した。電圧電極7としてタングステン線(直径0.3mm)を用い、容器6として1.5mlマイクロチューブを用いた。1.5mlマイクロチューブ内に油と水溶液を入れた。油には、界面活性剤Tween20を2%含む菜種油を用い、水溶液には純水を用いた。500μlの菜種油と20μlの純水を容器6内に導入した。その容器6の蓋部に穴を開け、電圧電極7をその穴より容器6内に設置した。このとき電圧電極は容器6の中心付近に配置されるようにした。また、接地電極として、アルミ製チューブラック8を用いた。 このとき得られた液滴の粒子径分布を図2に示した。光学顕微鏡を用いて液滴の画像を取得し、その画像から液滴の粒子径を計算した。液滴の平均粒子径は4.78μmで標準偏差は2.34μm、変動係数が48.91%であった。 <実施例2> (容器内部に電極を置いた場合:ガラスキャピラリー電極) 電圧電極として、裸のタングステン線ではなく、タングステン線をガラスキャピラリー(内径0.5mm、外形1mm)内部に入れ、キャピラリーの先端をシリコーン接着剤で封印したものを用いた。これは、交流電圧を印加することで、絶縁体(誘電体)を介しても電界を形成することができるためである。こうすることで、金属電極と溶液とが接することがなくなり、電極表面における電気化学反応を抑えることができる。また、誘電体を介することで、より均一な電界を形成することができる。 実施例1と同様に、図1に示す実験装置でW/Oエマルジョンを作成した。ただし、電圧電極として、タングステン線をガラスキャピラリー内に導入したものを用いた。1.5mlマイクロチューブに菜種油500μlと水溶液20μlを入れた。菜種油には界面活性剤であるTween 80(Sigma)を1%(v/v)加えたものと、加えていないものとを用意した。水溶液としては純水と10mM KCl溶液を用いた。 電源には、ネオンインバータトランスを用いて、一次側のスライダックで出力を調節した。水道水中に電圧電極を接地したマイクロチューブを浮かべ、その状態で電圧印加によって乳化する様子を確認した。この際、アルミ製チューブラックの代わりに、マイクロチューブを浮かしている水道水を接地することで、電界を形成できるようにした。 図3には、電圧印加によって、油と水とが乳化している様子を示した。菜種油(500μl)と純水(20μl)をマイクロチューブ中に導入し、静置しておいた状態で、交流高電圧(約17kHz)を印加した。電圧印加と同時に純水が油中に分散し始め、最終的にはW/Oエマルションになった。図3は、7kVpを印加したときの様子を示し、電圧印加後直ちに乳化し始め(図3(B))、10秒後にはほぼ全体が白濁した(図3(C))。 表1には、印加電圧の大きさを変化させたときの液滴径を示した。このとき、電圧印加時間は5分とし、1%Tween 80(界面活性剤)を含む菜種油(500μl)と純水(20μl)を用いた。10kVpを印加したときに、最も変動係数が小さくなった。 表2には、印加電圧値を7kVpに固定したときに、印加時間、界面活性剤、水溶液の導電率を変化させて乳化したときの結果を示した。界面活性剤を含む菜種油と、水相に純水と10mM KCl溶液を用いて、電圧を印加している時間を1、3、5、10分と変化させた。また、界面活性剤を含まない菜種油についても同様の乳化実験を行った。 <実施例3> (容器内部に電極を置いた場合:0.2mlマイクロチューブを用いたとき) 実験装置として、図1に示したものを用い、W/Oエマルジョンを作成するための容器6として、0.2mlマイクロチューブを使用した。電圧電極7にはガラスキャピラリーにタングステン線を通したものを使用した。油には界面活性剤Tween80を1%含む菜種油を、水溶液には純水を用いた。電源には、ネオンインバータトランスを用い、一次側のスライダックで出力値を調節した。 100μlの菜種油と5μlの純水を0.2mlマイクロチューブ内に入れた。マイクロチューブの蓋に穴を開けて、電圧電極を設置した。 印加電圧を5kVpとし、印加時間は30秒とした。 図4には、このときの液滴の粒子径分布を示した。粒子径は、作成したW/Oエマルジョンを光学顕微鏡で観察し、そこから得られた画像より計算した。平均粒子径が4.62μmで、標準偏差が2.66μm、変動係数が57.58%であった。 <実施例4> (外部に電極を置いた場合) 電界によりW/Oエマルジョンを作成するときの電極は、必ずしも容器内部に設置する必要はなく、容器外部に置くこともできる。 図5には、電極3を容器外部に接地する例を示した。予め容器6の内部に油2と水溶液1を入れておく。容器6として、プラスチックのような誘電体で作られたものを用いる。水溶液1は容器6の下部に沈むので、その水溶液を覆うように電圧電極3をアルミテープなどで作成し、油2の上部付近に接地電極4をアルミテープなどで作成した。 本実施例では、容器6として、ポリプロピレン製の0.2mlマイクロチューブを用い、電極3、4は、アルミテープで作成した。電源にはネオンインバータトランスを用い、出力は一次側に接続したスライダックで調節した。 油には界面活性剤Tween80を1%加えた菜種油を用い、水溶液には、純水を用いた。100μlの油と5μlの純水を0.2mlマイクロチューブに入れて乳化を行った。 印加電圧は5.5kVpとし、印加時間は30秒とした。 図6に、このときの液滴の粒子径分布を示した。液滴の粒子径は、作成したW/Oエマルジョンを光学顕微鏡で観察し、そこから得られた画像より計算した。平均粒子径が4.44μmで、標準偏差が2.58μm、変動係数が56.98%であった。 <実施例5> (容量を10μlとした場合) 上記実施例2および3と同様にして、実験装置として、図1に示したものを用い、W/Oエマルジョンを作成するための容器6として、0.2mlマイクロチューブを使用した。電圧電極7にはガラスキャピラリーにタングステン線を通したものを使用した。 (1)油には界面活性剤Tween80を1%含む菜種油を、水溶液には純水を用い、10μlの油と1μlの純水をチューブに入れて乳化を行った。電源には、ネオンインバータトランスを用い、一次側のスライダックで出力値を調節した。印加電圧は5kVpとし、印加時間は2分とした。 (容量を1ml、及び3mlとした場合) 上記実施例2および3と同様にして、実験装置として、図1に示したものを用い、W/Oエマルジョンを作成するための容器6として、5mlチューブ(クライオジェニック)を用い、電圧電極7にはガラスキャピラリーにタングステン線を通したものを使用した。但し、その際の接地電極はチューブ底部にアルミテープを巻きつけることによって作製した。 (2)容器6として、ポリプロピレン製の5mlチューブ(クライオジェニック)を用い、電極3は、アルミテープで作成した。電源にはネオンインバータトランスを用い、出力は一次側に接続したスライダックで調節した。油には界面活性剤Tween80を1%加えた菜種油を用い、水溶液には、純水を用いた。1mlの油と50μlの純水をチューブに入れて乳化を行った。印加電圧は7kVpとし、印加時間は5分とした。 (3)容器6として、ポリプロピレン製の5mlチューブ(クライオジェニック)を用い、電極3は、アルミテープで作成した。電源にはネオンインバータトランスを用い、出力は一次側に接続したスライダックで調節した。油には界面活性剤Tween80を1%加えた菜種油を用い、水溶液には、純水を用いた。3mlの油と150μlの純水をチューブに入れて乳化を行った。印加電圧は7kVpとし、印加時間は5分とした。 上記(1)〜(3)のいずれの条件においても、良好にエマルジョンが作成されていることを確認した。 <実施例6> (PCR) 次に、本実施例により得られたW/Oエマルジョンを分子生物学的実験に応用した例を示す。 容器6には0.2mlマイクロチューブを用いた。電圧電極を内部に設置する場合と外部に設置する場合の両方を試みた。容器内部に電圧電極を設置する場合は、ガラスキャピラリーにタングステン線を通したものを使用し、外部に設置する場合は、アルミテープを使用した。電源にはネオンインバータトランスを用い、出力は一次側に接続したスライダックで調節した。容器内部に電圧電極を設置する場合は、図1に示すようにアルミ製チューブラックを接地電極とした。 油には、界面活性Tween80を1%加えた菜種油を用い、水溶液には、PCR溶液を用いた。100μlの油と5μlのPCR溶液を0.2mlマイクロチューブに入れてW/Oエマルジョンを作成した。 PCR溶液の組成は、1xPCRバッファー(20mM Tris-HCl (pH 8.8)、2mM MgSO4、10mM KCl、10mM (NH4)2SO4、0.1% TritonX-100、0.1mg/ml nuclease-free BSA)、0.2mM dNTPs、10mM DTT、0.2μM Primer-1(5’-CTTGAGTCCAACCCGGTAAG-3':配列番号1)、0.2μM Primer-2(5’-GGGGAGTCAGGCAACTATGG-3':配列番号2)、pUC19 DNA(5ng)、2.5U PfuTurbo DNA Polymeraseとした。この反応によって、pUC19 DNA をテンプレートとして、Primer-1及びPrimer-2で挟み込んだ領域である522bpの増幅産物を得ることができる。 PCRは、95℃、3分の初期熱変性の後に、「95℃、30秒の熱変性、60℃、30秒のアニーリング、72℃、1分の増幅反応」を1サイクルとし、これを12サイクル行った。その後、4℃、16000gで1分間の遠心操作を行い、エマルションを破壊した。2層に分離した後、さらにPCRを20サイクル行った。PCR産物は0.8%アガロースゲルで電気泳動して確認した。 図7には、電極を容器の外部に設置したときの容器内部の油と水との乳化状態の進行の様子を示した。電圧印加後直ちに水溶液の分裂が始まり、容器内部でW/Oエマルジョン化している様子が確認された。 100μlの菜種油と5μlのPCR溶液を0.2mlマイクロチューブに入れて、様々な印加電圧、印加時間で乳化させたときの液滴径を表3に示した。 図8には、PCR溶液を乳化した後に、PCR反応を行ったときの溶液を電気泳動したときの結果を示した。左右両端のレーンMは、分子量マーカーのλ/HindIIIである。レーン1は乳化させずにPCRを行った結果である。また、レーン2〜レーン8の番号は、表3に示す方法でW/Oエマルジョン化させてPCRを行った結果である。乳化させていない試料(レーン1)と比較すると、いずれの条件においても明らかなPCRの阻害は確認されなかった。 しかし、マイクロチューブ内部に電極を配置する場合において、印加電圧を7kVpに上昇させると産物を得ることができなかった。このとき、反応終了時の水溶液のpHが酸性(pH指示薬の色からおよそpH3以下)になっていることが確認された。また、図8の結果はPCR溶液中に10mM DTT(dithiothreitol)を含んでいるが、これを添加せずに、5kVpの電圧を印加したときにも増幅産物を得ることができなかった。 これらのことから、生化学反応に応用する際は、溶液のpHを変化させないような適当な電圧(6kVp以下、好ましくは5kVp以下)を選び、電界による酸化を防止する対策が必要であることがわかった。 このように本実施形態によれば、攪拌子やシャフト、または特殊器具を用いることなく、交流電源を用いることにより、少ない容量で、かつコンタミネーションの虞の少ないW/Oエマルジョンを作成することができた。乳化のための電極配置の例を示す図である。(A)は、容器内に電極を配置する前の様子を示し、(B)は、容器内に電極を配置し、容器をチューブラックに設置した後の様子を示している。1.5mlマイクロチューブとタングステン線を用いて、容量520μlでW/Oエマルジョンを作成したときの液滴径の分布を示すグラフである。電界によりW/Oエマルジョン化する様子を示す写真図である。(A)は、電極の配置の様子を、(B)は、電圧印加3秒後の様子を、(C)は、電圧印加10秒後の様子をそれぞれ示している。0.2mlマイクロチューブとガラスキャピラリーに通したタングステン線を電極して、105μlでW/Oエマルジョンを作成したときの液滴径の分布を示すグラフである。外部に電極を設置するときの電極配置の例を示す図である。(A)は、電極を設置する前の様子を示し、(B)は、電極を設置した後の様子を示している。外部に電極を設置したときの液滴径の分布(0.2mlマイクロチューブを使用)を示すグラフである。外部に電極を設置したときの乳化の様子を示す写真図である。(A)は、電極の配置の様子を、(B)は、電圧印加3秒後の様子を、(C)は、電圧印加10秒後の様子をそれぞれ示している。PCR後の溶液を電気泳動したときのゲル写真図である。左右両端のMは分子量マーカーDNAを、レーン1は乳化させずにPCRを行った溶液を、レーン2〜レーン8は、表3中に記載の溶液を電気泳動した結果である。符号の説明1…水溶液、2…油、3…電圧電極、4…接地電極、5…油と水溶液、6…容器(例えば、1.5mlマイクロチューブ)、7…電圧電極(例えば、タングステン線)、8…接地電極(例えば、アルミ製チューブラック)交流電界を用いることを特徴とするW/Oエマルジョンの作成方法。3ml〜10μlの容量でW/Oエマルジョンを作成することを特徴とする請求項1に記載のW/Oエマルジョンの作成方法。乳化させる油と水が入った溶液の内部に電極を配置し、その電極に交流電圧を印加することで、油と水の乳化を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のW/Oエマルジョンの作成方法。乳化させる油と水が入った容器の外部に電極を配置し、その電極に交流電圧を印加することで、油と水の乳化を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のW/Oエマルジョンの作成方法。水相中において化学反応を行わせるためのW/Oエマルジョンを提供するための方法であって、請求項1〜4のいずれか一つに記載のW/Oエマルジョンの作成方法。 【課題】 攪拌子やシャフト、または特殊器具を用いることなく、少量(特に1ml以下)かつコンタミネーションの虞の少ないW/Oエマルジョンを作成する方法を提供すること。【解決手段】 乳化に必要な容量(1ml以下)の油と水溶液を容器6に入れ、電圧電極3を容器6内部に設置し、容器6の外側に接地電極8を置く。容器6には誘電体で形成されているものを用い、交流電圧10を印加することで、容器6内部の油と水溶液を混合させる。なお、電圧電極3は、容器6の外側に配置することもできる。この方法は、小型化することが容易で、攪拌部分が単純な構造であるので、安価で使い捨てにすることができ、電界を利用することから、並列処理にも適している。【選択図】 図1配列表