タイトル: | 公開特許公報(A)_タンパク質分解酵素及びこれを含む食肉改質剤 |
出願番号: | 2005200277 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 9/58,A23L 1/318 |
木曾 雄三 JP 2007014286 公開特許公報(A) 20070125 2005200277 20050708 タンパク質分解酵素及びこれを含む食肉改質剤 日本油脂株式会社 000004341 木曾 雄三 C12N 9/58 20060101AFI20061222BHJP A23L 1/318 20060101ALI20061222BHJP JPC12N9/58A23L1/318 5 OL 12 4B042 4B050 4B042AC05 4B042AK10 4B042AP27 4B050CC01 4B050CC07 4B050DD05 4B050DD14 4B050LL02 本発明は、担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出したタンパク質分解酵素に関し、さらに、これを含む食肉改質剤に関する。 食肉の中でも黒毛和種のような肉用種で、しかもグレインフェッド肥育された若齢家畜は肉質が柔らかくジューシー感に富む。しかし、老廃家畜、経産家畜、ホルスタイン種などの乳用種またはグラスフェッド肥育された肉用種の肉質はその筋肉構成タンパク質の違いから非常に硬いのが一般的である。豚、鶏等の他の食肉にも、硬くてそのままでは喫食しがたい低級部位の肉が存在する。 このような硬質食肉を改質するためには、機械的な破壊によるスジ切りや挽肉加工が一般的であり、最近ではタンパク質分解酵素を含む改質剤が使用されこともある。 タンパク質分解酵素としては、パパイヤ未熟果汁の乳液、パイナップルの根茎、キウイフルーツの果汁、豚の胃粘膜等に含まれる酵素のほか、糸状菌、酵母、細菌などの微生物に広く含まれていることが知られている。例えばパパイヤ乳液を精製して得られるパパインやパイナップルの茎から精製して得られるブロメラインは、非常に安定な酵素であり、中性溶液中では熱に強い性質を有するので使用に適する。 パパイヤ由来のパパイン、パイナップル由来のブロメラインなど植物由来のタンパク質分解酵素は、粉末製剤化されて、製菓・製パンへの利用等食品工業の分野をはじめとして医薬品業界、化粧品業界の分野で幅広く利用されおり、食肉加工分野においても、肉質の軟化を目的として、粉末状食肉軟化剤として使用されてきた(例えば、特許文献1、2)。 担子菌門ヒダシナタケ目多孔菌科のキノコに属するマイタケにもタンパク質分解酵素が知られている(特許文献3)。特開平5−7476号公報特開平5−252911号公報特開2002−78486号公報 しかしながら、従来から報告されているパパイン、あるいはブロメラインを含む粉末状食肉改質剤は、タンパク質分解酵素の基質特異性が低く、筋原線維タンパク質を過剰に分解するため、食肉本来の食感が失われ易い。また、植物性の渋味、酵素臭と呼ばれる刺激性の臭いも強いため、食肉加工品の風味を阻害し、異味を残してしまうという問題点があった。担子菌門ヒダシナタケ目多孔菌科のキノコに属するマイタケに含有するタンパク質分解酵素も、パパインと同様に低分子量のオリゴペプチドおよびアミノ酸まで分解し、さらに熱によって失活しにくいため取扱いに熟練を要する等の欠点を有する。さらにマイタケ由来酵素も、マイタケ特有の風味が非常に強いため、食肉の風味に影響を与えてしまう問題点がある。 本発明は、上記のような従来の問題点を解決するために食肉の組織を選択的に分解軟化させ、適度な軟らかでかつ食肉本来の食感が失われることのないタンパク質分解酵素、これを含有する食肉改質剤及びこれを使用する食肉処理方法を提供することを目的とする。 即ち本発明は、(1)担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出される下記(a)〜(d)の性質を有するタンパク質分解酵素。 (a)作用及び基質特異性:タンパク質及びペプチドに特異的に作用し、そのペプチド結合を切断するエンドタイプのプロテアーゼ活性を示す。 (b)安定pH:pH5.5〜7.0 (c)至適温度:40℃ (d)熱安定性:55℃以下で安定(2)担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコの搾汁液または水抽出液に賦形剤を添加して凍結乾燥して得られる前記(1)のタンパク質分解酵素を含む粉末。(3)担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出したタンパク質分解酵素を含む食肉改質剤。(4)担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコの搾汁液または水抽出液に賦形剤を添加して凍結乾燥して得られる前記(3)の食肉改質剤。 (5)前記(3)又は(4)の食肉改質剤を用いる食肉の改質方法、である。 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコ由来のタンパク質分解酵素は、パパインやブロメラインとは異なり、筋原線維タンパク質のアクチン、ミオシンの一部を選択的に分解するので、食肉を適度な軟化度で改質できる食肉改質剤を提供できる。またハラタケ目キシメジ科に属するキノコ由来のタンパク質分解酵素には、パパインやブロメラインのような植物性の渋味、酵素臭がなく、マイタケ由来のタンパク質分解酵素のように特有の強い風味を有していないため、食肉に作用させても異味を残さない食肉改質剤を提供できる。しかも酵素の失活温度が比較的低いため、パパイン、ブロメラインやマイタケ由来のタンパク質分解酵素に比べて、温度管理や失活コントロールがしやすく、家庭用だけでなく、業務用としても使用しやすい食肉改質剤を提供できる。 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコの搾汁液または水抽出液に賦形剤を添加して凍結乾燥して得られるタンパク質分解酵素含粉末は安定性がよく、肉質改良剤としての使用に適している。 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコであるホンシメジ、ブナシメジ及びエノキタケ等は、食用され、アレルギー物質もない安全な食材であるので、安全な食肉改質剤を提供できる。さらに、今日では、人工栽培により、季節を問わず大量に同品質のものを入手することが可能であり、パパイヤやパイナップルのような果実系の酵素からの抽出よりも生産効率が高いので、供給安定性の高い食肉改質剤を提供できる。 そして、上記の食肉改質剤を用いることにより、食肉の風味を害することなく硬質食肉を軟化して食感を改善することができる食肉の改質方法を提供できる。(タンパク質分解酵素の抽出) 本発明のタンパク質分解酵素の抽出に使用できるキノコは、担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属し、ホンシメジ、ブナシメジおよびエノキタケ等のいずれも使用することができ、これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。キノコのタンパク質分解酵素が含有されていれば、種、原産国、収穫時期等は限定されない。またこれらのキノコの子実体及び菌糸体いずれも使用することができる。 最近ではブナシメジ及びエノキタケの子実体は人工栽培されており、容易に入手できる。生産者としては、ホクト(株)、(株)雪国まいたけ、農協が挙げられる。キノコの子実体は取り扱いが便利なことから、食肉改質剤の原料としての使用に適している。キノコは採取したての生の形態、半乾燥品、乾燥品いずれも形態でも使用しうる。ただし、乾燥工程において、加熱処理されていないものが好ましい。子実体をそのまま用いてもよく、ペーストあるいはエキスなどの加工物も使用することができる。 生の形態で使用する場合、子実体をフードスライサー、カッターミル、フードプロセッサー等で粉砕したものを圧搾し、タンパク質分解酵素を含有する搾汁液を抽出する。 本発明の担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出されるタンパク質分解酵素は、キノコに含まれる水溶性の成分であるので、水で抽出することができる。特に子実体を液体窒素あるいはドライアイスを用いて凍結粉砕したもの、半乾燥品、乾燥品を原料に使用する場合には、水または緩衝液による抽出を行うことが好ましい。処理温度としては20℃以下、好ましくは10℃以下にすることが好ましく、さらに抽出における溶液についてもpH5.0〜7.0にすることが好ましい。 水としては、イオン交換水、精製水、蒸留水、天然水の他、水道水も場合によっては、使用することができる。また、緩衝水溶液も水として使用することができる。緩衝水溶液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液を使用できるが、特に緩衝剤の濃度10〜300mMでpH5.0〜7.0の範囲に調整したものを用いることにより、酵素活性の高い抽出液が得られるので好ましい。 抽出方法は、以下のとおりである。 まず、キノコの子実体と水との均質化処理を行う。処理にはミキサーを使用するが、酵素の失活がおこらないような条件であれば、ミキサーの種類、攪拌・混合手法、時間等は特に限定されない。攪拌・混合の時間は、例えば家庭用のミキサーを用いた場合、一般的には、1〜10分間程度が適しており、20℃以下に保持するとよい。 攪拌・混合終了後の固液分離には、遠心分離、濾過等の公知の手段を採用することができる。遠心分離を行う場合の条件は、2000〜10000×gで3〜30分間が適当であり、この上清画分を濾過するのが好ましい。冷却高速遠心分離機を用いる場合、4000〜8000×gで5〜20分間遠心分離を行うのが好ましい。また遠心分離操作を行うことなく、混合した後そのまま濾過して抽出液を得ることもできる。 こうして得られる抽出液は、タンパク質分解酵素を含有するが、キノコに付着する細菌類、キノコの菌体を多量に含んでいる。このため、食品工業分野の製品の滅菌・清澄濾過に使用されている公知の除菌フィルターに通過させて、キノコに付着する細菌類、キノコの菌体を除去することが好ましい。除菌フィルターとしては、ビバシュアII(商品名、キュノ社製 30インチの円筒型カートリッジタイプ)などが挙げられる。 得られた抽出液は、場合により、凍結濃縮、減圧濃縮、限外濃縮などの適当な濃縮手段を用いて、該酵素の活性低下をきたさない温度、例えば20℃以下の温度で濃縮することもできる。 さらに得られた抽出液は、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、その他の各種クロマトグラフィーを単独もしくは併用して精製することができる。なお、塩析における塩類としては硫安、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が使用しうるし、溶媒添加による濃縮沈殿ではアセトン、低級アルコール等が使用しうる。(蛋白分解酵素の性質)抽出液には下記(a)〜(d)の性質のタンパク質分解酵素が含まれる。 (a)作用及び基質特異性:タンパク質及びペプチドに特異的に作用し、そのペプチド結合を切断するエンドタイプのプロテアーゼ活性を示す。 (b)安定pH5.5〜7.0 (c)至適温度40℃ (d)熱安定性:55℃以下で安定 上記の性質を有する担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコに含有するタンパク質分解酵素は、食肉の硬さに関与するタンパク質のうち、筋原線維タンパク質のミオシン、アクチンの一部を選択的に分解するので、パパインやブロメラインそしてマイタケに含有するタンパク質分解酵素とは異なり、適度な軟化度で反応が終結するので、食肉改質剤としての使用に適している。しかも酵素の失活温度が比較的に低いため、食肉加工品の殺菌及び調理工程における温度管理や失活コントロールがしやすく、家庭用だけでなく業務用としても使用しやすい。 本発明のタンパク分解酵素は、抽出液に賦形剤を添加して乾燥し粉末化して使用することができる。粉末化すると、長時間の保存に適している。賦形剤として乳糖、マルトオリゴ糖、デキストリン等の糖質類が好ましい。粉末化する際は、賦形剤を添加した酵素液を凍結乾燥した後、粉砕用ブレンダーを使用して粉末化することが好ましい。凍結乾燥の温度は、−3℃〜−40℃、特に−20℃付近が好ましい。(食肉改質剤) 本発明では、担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコの搾汁液、抽出液をそのままで本発明の食肉改質剤として使用することができる。食肉改質剤中には、タンパク質分解酵素が0.1質量%〜50質量%含まれていることが好ましい。さらに賦形剤を添加して乾燥し粉末化して使用することができる。賦形剤として乳糖、マルトオリゴ糖、デキストリン等の糖質類が好ましい。結晶セルロースなどのセルロース類、その他天然もしくは合成高分子化合物等のような賦形剤も使用できる。これらの賦形剤は前記抽出液100質量部に対して、3〜80質量部添加するのが好ましい。添加量が3質量部未満の場合、後の凍結乾燥工程で容器や器具に付着し、最終的に粉末化することができない。 本発明の食肉改良剤を粉末化する際は、賦形剤を添加した酵素液を凍結乾燥した後、粉砕用ブレンダーを使用して粉末化することが好ましい。凍結乾燥の温度は、−3℃〜−40℃、特に−20℃付近が好ましい。 こうして得られる粉末状の食肉改質剤は、タンパク質分解酵素が0.15質量%〜75質量%含まれていることが好ましい。必要により他の成分を配合して用いてもよい。この場合、他の成分として本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、風味や後味を向上させるために、アミノ酸類やビーフエキスなどの調味料を適宜配合させることができる。 上記の食肉改質剤はそのまま用いても良く、または水に添加溶解したものを食肉の改質に使用できる。水に溶解する場合は、0.01質量%〜30質量%、好ましくは0.05質量%〜5質量%の濃度として使用する。 本発明の粉末状食肉改質剤により改質する食肉としては牛肉、豚肉、山羊肉、羊肉等の畜肉、鶏肉、七面鳥肉、ガチョウ肉等の家禽肉ならびに魚肉、イカ、エビ、貝類の水産物等の硬肉食肉を挙げることができる。 本発明の食肉改質剤で食肉を処理する方法としては、粉末または水に溶解した水溶液を食肉に添加する方法、水溶液を食肉に注入する方法、粉末または水溶液を食肉表面に塗布する方法、水溶液に食肉を浸漬する方法などが採用でき、食肉の形状、食肉の加工方法などにより適宜選択できる。例えば、食肉加工品が練り製品の場合、原材料の混合工程において食肉改質剤の粉末または水溶液を添加した後、フライ、スモークなの熱処理若しくは凍結を行うのが好ましい。食肉がブロック肉の場合、粉末状食肉改質剤を他の原料とともに溶解して公知の各種食肉加工用漬込み液(ピックル液)と併用し、このピックル液をブロック肉に注入した後、凍結を施しスライスする方法若しくはブロック肉を所望の厚さにスライスし、肉表面に食肉改質剤の粉末または水溶液を塗布するのが好ましい。 食肉を処理する粉末状食肉改質剤の割合は、食肉100質量部に対して粉末状食肉改質剤0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部である。また処理条件としては、0〜40℃で1〜48時間、好ましくは5〜15℃で1〜24時間である。 本発明の食肉改質剤またはその水溶液で食肉を処理することにより、食肉の主要筋原線維構成タンパク質であるミオシン、アクチンの一部を選択的に分解することで食肉を軟化することができ、これにより食肉の食感が改善される。また本発明の食肉改質剤は、不溶性食物繊維質を除去しているので、水に溶解しやすくピックル中に添加することが可能である。 本発明の担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出されるタンパク質分解酵素は、キノコの搾汁液、抽出液をそのままで、あるいは賦形剤を添加して乾燥し粉末化したものを、食肉改質剤以外の例えば、製パン、チーズの製造等の用途でも使用することができる。 実施例1 市販されているブナシメジの子実体(ホクト(株))を24時間凍結乾燥させ、ブレンダーで2分間粉砕する。 粉末化したサンプル100gに対して100mlの50mMリン酸‐NaOH(pH6.0、10℃)を加えて1時間静置させ、ろ紙(ADVANTEC社:No.5C)で濾過したものを遠心分離機(株式会社コクサン:H−2000B)で遠心分離(8000×g、10分間)し、その上澄み液を抽出液とした。基質にウシ血清由来アルブミン(Albmin, from Bovine Serum ナカライテスク社)を使用し、タンパク質分解酵素としての性質を調べた。抽出液(0.25μg/μl)と基質(5μg/μl)を38℃で、各0h、1h、3h、5h、24h反応させた後、SDS−PAGE電気泳動にて、基質の分解状態を確認した。 SDS−PAGEの条件 電気泳動装置:AE−6500型(ATTO社製) ゲル :10%均一ゲル 12ウエル 泳動緩衝液 :25mMトリス、192mMグリシン、0.1%SDS 通電 :定電流 30mA 100分 染色 :CBB(クマジーブリリアントブルー)染色 SDS−PAGE後のゲルについては、CSアナライザー(アトー株式会社)を使用し、染色したゲルのバンドを濃度定量および位置を数値化して解析した。 結果を表1に示す。 比較例1 市販されているマイタケの子実体((株)雪国まいたけ)を用いて実施例1と同様の実験を行い、その結果を表1に示す。 ブナシメジ抽出液およびマイタケ抽出液ともに24時間後には、基質(BSA)を分解した。しかし、マイタケ抽出液は、BSAの分解により生じたMw64,300及び52,400の分解ペプチドについても、さらに分解される傾向にあるのに対して、ブナシメジ抽出液の方は、これらの分解ペプチドに対する低分子化が確認されなかった。したがって、ブナシメジ抽出液にはエンドタイプのプロテアーゼ活性を有するタンパク質分解酵素が含まれており、選択的に基質が分解されることが確認された。 実施例2 ブナシメジ(ホクト(株))の子実体1kgをフードプロセッサーで粉砕し、1000mlの50mMリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、攪拌しながら2時間抽出した。次に遠心分離機(株式会社コクサン:H−2000B)を用いて8000×gで10分間遠心分離し、上清液をプレフィルタレーションした後に、除菌フィルター(30インチ円筒型カートリッジタイプ、孔径0.45〜0.8μm、キュノ社製 、商品名:ビバシュアII)で処理したものを抽出液とした。この抽出液1kgに対してデキストリン(松谷化学工業(株)製、商品名:パインデックス♯2)を300g添加した後、−20℃にて凍結乾燥を2日間行い、本発明のタンパク質分解酵素を含む粉末を作製した。(活性測定法) 作製した粉末1gを精密に量り、2質量部塩化カリウム溶液50mlを加え攪拌溶解し、適宜希釈した液を試験溶液とした。 0.6質量部カゼイン溶液(pH6.0)5mlに試験溶液1mlを混合し、38℃で、60分間反応させた後、400mMトリクロロ酢酸溶液5mlを加え攪拌し、38℃で、30分間放置した。その後、この上清2mlを0.55M炭酸ナトリウム溶液5mlに加え、さらに2倍希釈したフェノール試薬を1ml添加し攪拌後、38℃で、30分間放置し、660nmの吸光度を測定した。上記の測定条件下で1秒間に1molのチロシンに相当する吸光度を増加させる酵素量を、酵素活性1単位(1unit)と定義した。(安定pH) 上記の活性測定法に基づき、本発明のタンパク質分解酵素に及ぼすpHの影響を調べた。なお試料は、上記で作製した粉末を用いた。pHを調整するための緩衝液として、50mMGlycine−HCl(pH2.0)、Citrate−NaOH(pH4.0、pH5.0)、Phosphate−NaOH(pH6.0)、Tris−HCl(pH7.0、pH8.0)、Glycine−NaOH(pH10.0)を使用した。粉末1gを50mlの各pHの緩衝液中に30℃で、3時間保持した後、その残存活性の最大値を100とした相対活性として示した。 結果を図1に示した。図1により、本酵素は上記処理条件下においてpH5.5〜7.0までのpH領域で安定であることが分かる。(至適温度) 上記で作製した粉末1gを50mlの50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に添加し、その試験溶液1mlを0.6質量%カゼイン溶液(pH6.0)5mlに混合し、20〜70℃の範囲に設定した各恒温槽において60分間反応させ、本発明のタンパク質分解酵素の至適温度を調べた。図2に最大活性を100とした場合の各温度における相対活性を示した。図2から、本酵素の至適温度は、40℃であることが分かる。(安定温度) 上記で作製した粉末1gを50mlの50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に添加し、10〜100℃の範囲の各条件下で30分間保持した後、上記の活性測定法に準じて、本発明のタンパク質分解酵素に及ぼす温度の影響を調べた。各温度における残存活性を測定し、その結果を図3に示した。図3により本酵素は、50℃まで安定であり60℃以上で活性を失った。 実施例3 上記で作製した本発明のタンパク質分解酵素を含む粉末について、20℃の保存条件において3カ月後の安定性について調べた。 その結果を図4に示す。3ヶ月経過後も酵素力価が低下せず、本発明のタンパク質分解酵素含有粉末は安定性の高いことが分かる。 実施例4 実施例2で作製した粉末0.5gを水100mlに溶解し、この水溶液を6×4×2cmの厚さに切った市販の牛モモ肉(日本産ホルスタイン種経産牛)100gに10ml塗布した。20℃で3時間保持後、200℃の鉄板上で両面を焼成してステーキ肉を作った。それをレオメーター((株)山電製、RHEONER:商標)により、せん断力価を測定した。処理前の肉の硬さを100として、処理前後の硬さを比較した。せん断力価が100より大きい場合は処理前より硬くなり、100より小さい場合は処理前より軟らかくなることを示す。10名のパネラーを対象に官能試験を行い、食感と風味を評価した。食感は、未処理区に比べて軟らかくなっているか否かについて質問し、「軟らかすぎる」を3点、「軟らかい」を2点、「いくらか軟らかい」を1点、「変わらない」を0点と点数化して、パネラー10名の平均点を算出した。風味については、パネラー10名中、異味を感じた人の数で表した。その結果を表2に示す。 比較例2 市販のマイタケ((株)雪国まいたけ)の可食部1kgをフードプロセッサーで粉砕し、1000mlの50mMリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、攪拌しながら、2時間抽出した。次に遠心分離機(株式会社コクサン:H−2000B)を用いて5000×gで10分間遠心分離し、上清液をマイタケの水溶性成分とした。この水溶性成分をデキストリン(松谷化学工業(株)製、パインデックス♯2:商標)を50質量部添加した後、−20℃にて凍結乾燥を2日間行った。乾燥後、粉砕用ブレンダーを用いて粉砕し、マイタケ粉末品を得た。 このマイタケ粉末品0.5gを水100mlに溶解し、この溶液を6×4×2cmの厚さに切った市販の牛モモ肉(日本産ホルスタイン種経産牛)100gに10ml塗布した。冷蔵庫(5℃)で1日間保持後、200℃の鉄板上で両面を焼成し、レオメーター((株)山電製、RHEONER:商標)により、せん断力価を測定した。実施例4と同様にせん断力価の測定および官能検査を実施した。その結果を表2に示す。 比較例3 未処理の食肉について、実施例1と同様にせん断力価の測定および官能試験を行った。その結果を表2に示す。 実施例5 実施例2で作製した粉末5gを水1000mlに溶解し、本発明の肉質改良剤の水溶液を作製した。作製した水溶液に鶏もも肉(から揚げ用)300gを10℃で6時間あるいは12時間、浸漬させた。そしてこれらについて醤油等の味付けを施したあと、市販のから揚げ粉(日清製粉)を使用して170℃で、3分間揚げた。(官能評価) から揚げ肉の軟らかさ及び食感において、男5名女性5名、計10名のパネラーにより評価法にて官能評価した。評価法は、被評価のから揚げ肉に対しての個々のパネラーによる評価点の合計を、全パネラーの人数で除した平均評価点で決定するものである。 個々のパネラーの評価点は被評価のから揚げ肉を試食したとき、その食感評価については、5段階に分け、「軟らかすぎる」を□、「軟らかい」を◎、「やや軟らかい」を○、「やや硬い」を△、「硬い」を×で評価し、その結果を表3に示す。また風味評価については、4段階に分け、「好ましい」を◎、「どちらかといえば好ましい」を○、「どちらかといえば好ましくない」を△、「好ましくない」を×で評価し、その結果を表3に示す。 比較例4 比較例2で作製したマイタケ粉末品5gを水1000mlに溶解し、マイタケ抽出液を作製した。作製した水溶液に鶏もも肉(から揚げ用)300gを10℃で6時間あるいは12時間、浸漬せた結果を表3に示す。 比較例5 未処理の鶏もも肉の結果を表3に示す。 比較例6 鶏もも肉300gを水1000mlに10℃で6時間あるいは12時間、浸漬させた結果を表3に示す。 比較例7 パパイン製剤(天野エンザイム製 パパインW−40)を0.05g水1000mlに溶解し、パパイン水溶液を作製した。作製した水溶液に鶏もも肉(から揚げ用)300gを10℃で6時間あるいは12時間、浸漬せた結果を表3に示す。 表2の結果より、本発明の担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコ由来のタンパク質分解酵素を含有する食肉改質剤を使用したステーキは、適度な硬さを維持でき、食感、風味に優れていることがわかる。本発明の食肉改質剤は、マイタケ由来のタンパク質分解酵素の場合(比較例2)に比べて、食肉を適度な軟化度で改質でき、異味を残さない。 表3の結果より、本発明の食肉改質剤を使用したから揚げは、マイタケ由来のタンパク質分解酵素(比較例6)、パパイン由来のタンパク質分解酵素(比較例7)の場合に比べて、浸漬時間にかかわらず、食感が良好であることがわかる。ブナシメジから抽出された酵素のpH安定性を示す図ブナシメジから抽出された酵素の至適温度を示す図ブナシメジから抽出された酵素の安定温度を示す図タンパク質分解酵素含有粉末の酵素力価の安定性を示す図 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出される下記(a)〜(d)の性質を有するタンパク質分解酵素。 (a)作用及び基質特異性:タンパク質及びペプチドに特異的に作用し、そのペプチド結合を切断するエンドタイプのプロテアーゼ活性を示す。 (b)安定pH:pH5.5〜7.0 (c)至適温度:40℃ (d)熱安定性:55℃以下で安定 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコの搾汁液または水抽出液に賦形剤を添加して凍結乾燥して得られる請求項1記載のタンパク質分解酵素を含む粉末。 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出したタンパク質分解酵素を含む食肉改質剤。 担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコの搾汁液または水抽出液に賦形剤を添加して凍結乾燥して得られる請求項3記載の食肉改質剤。 請求項3又4に記載の食肉改質剤を用いる食肉の改質方法。 【課題】食肉の組織を選択的に分解軟化させ、適度な軟らかでかつ食肉本来の食感が失われることのないタンパク質分解酵素、これを含有する食肉改質剤及びこれを使用する食肉処理方法を提供する。【手段】担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出される下記(a)〜(d)の性質を有するタンパク質分解酵素。 (a)作用及び基質特異性:タンパク質及びペプチドに特異的に作用し、そのペプチド結合を切断するエンドタイプのプロテアーゼ活性を示す。 (b)安定pH:pH5.5〜7.0 (c)至適温度:40℃ (d)熱安定性:55℃以下で安定 及び、担子菌門ハラタケ目キシメジ科に属するキノコより抽出したタンパク質分解酵素を含む食肉改質剤。【選択図】 なし