生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_レバン分解酵素低活性納豆菌及びレバン高含有納豆
出願番号:2005180061
年次:2007
IPC分類:C12N 1/20,A23L 1/20


特許情報キャッシュ

牧野 祐生 小川 伸 JP 2007000007 公開特許公報(A) 20070111 2005180061 20050621 レバン分解酵素低活性納豆菌及びレバン高含有納豆 株式会社ミツカングループ本社 398065531 矢野 裕也 100086221 牧野 祐生 小川 伸 C12N 1/20 20060101AFI20061208BHJP A23L 1/20 20060101ALI20061208BHJP JPC12N1/20 AA23L1/20 109Z 5 OL 8 4B020 4B065 4B020LB13 4B020LC05 4B020LK18 4B020LY10 4B065AA19X 4B065AC20 4B065BA16 4B065BB27 4B065CA31 4B065CA42 本発明は、新規納豆菌及び該納豆菌を用いて製造された新規納豆に関し、さらに詳細には、親株のレバン分解酵素活性が、突然変異によって1/2以下に低減されてなる納豆菌変異株及び該納豆菌変異株を用いて製造されたレバン高含有納豆に関する。 レバンは、多くの微生物や植物から生産されている自然界に広く存在するフルクトースの重合体である。そのレバンは納豆粘物質の構成要素の一つでもあり、現在知られているその機能として以下の二つが挙げられる。 一つは、腸管内にてビフィズス菌の増殖促進作用があることが示されており、腸内菌叢の改善、腸内腐敗産物の抑制、便性改善などの優れた健康機能を有することが知られている(例えば、特許文献1参照)。もう一つは、微生物由来のレバンは、保湿力及び皮膚刺激緩和効能に優れ、かつ安定性及び安全性に問題ないことから、化粧品組成物としての利用法がある(例えば、特許文献2参照)。 レバンは、納豆の粘物質中に含まれているが、納豆の製造過程において発酵が進むにつれ、生成したレバンは分解制御を受ける。即ち、納豆菌による発酵開始から10時間後でレバン量は頂点に達し、その後、納豆菌の分解酵素により分解され減少することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。特開2003−235492号公報特開平5−123102号公報「日本食品工業学会誌、29巻、P.105〜110、1982年」 納豆発酵中及び発酵終了後の保存中における納豆菌による納豆中のレバンの分解は、主に納豆菌が生産するレバン分解酵素の作用に起因すると思われる。レバン分解酵素とは、レバンを基質としてレバンの2,6-β-D-フルクトフラノシド結合を任意の部位で加水分解もしくは転移させ、レバンの重合度を低下させる酵素である。 そこで、レバンの分解を抑制するために、納豆菌のレバン分解に関与する遺伝子を欠損させることで、目的の性質を持った菌株が取得できる。尚、納豆菌のレバナーゼ遺伝子に関与する遺伝子の詳細な情報は知られていない。 しかし、レバン分解に関与する可能性のある遺伝子としては、納豆菌の近縁種である枯草菌バシラス・サチラス(Bacillus subtilis)の総ゲノム情報(例えば、ネイチャー(Nature)、390巻、p.249−256、1997年)参照)から推定したsacC遺伝子(exolevanase)や、levB遺伝子(endolevanase)などが挙げられる。 標的遺伝子だけを特異的に欠損させることは、相同組換えを利用した遺伝子改良法によって行うこと可能であり、具体的な方法が開発されている。 ところが、現代社会では、遺伝子組換え法で取得した納豆菌株を納豆発酵に利用して製造された納豆を食することは、健康面において不安視され、一般消費者に受け入れられ難い傾向にある。 そこで、本発明は遺伝子組換え法によらない技術によって、レバン分解活性が低下した新規な納豆菌を提供すると共に、納豆発酵中及び発酵終了後の保存中において納豆粘物質中のレバン含量が減少しない納豆を提供することを目的とする。 上記課題に鑑み鋭意検討した結果、以下の方法を開発した。即ち、納豆菌が生産する納豆粘物質中のレバンは、その基質であるスクロースを多量に含む寒天培地上において、目視でレバン形成状態が確認できることが分かった。そこで、納豆菌を化学的処理又は物理的処理することにより突然変異を誘導させたライブラリを該培地で生育させることによって、レバン合成及び分解能が異なる様々な表現型を示すコロニーが得られ、親株と比較して粘性や見た目が明らかに異なる変異株を選抜(1次スクリーニング)した。 さらに、上記ライブラリの中から、レバン分解酵素活性が親株のそれと比較して低下した変異株を選抜(2次スクリーニング)した。 該変異株を用いて納豆を製造し、保存中において粘物質中のレバン量が親株のそれと比較して、多くなる納豆菌変異株を選抜(3次スクリーニング)した。 該変異株を用いて製造した納豆はレバンを安定して多量に含有し、しかも品質上全く問題ないものであることを見出し、本発明を完成させた。 即ち、請求項1記載の本発明は、親株のレバン分解酵素活性が、突然変異によって1/2以下に低減されてなる納豆菌変異株である。 請求項2記載の本発明は、レバン分解酵素活性が0.1U以下である請求項1記載の納豆菌変異株である。 請求項3記載の本発明は、親株のレバン分解酵素遺伝子が、突然変異によって欠損されてなる請求項1又は2記載の納豆菌変異株である。 請求項4記載の本発明は、納豆菌変異株が、バシラス・サチラスL102株(FERM ABP−10348)である請求項1〜3のいずれかに記載の納豆菌変異株である。 請求項5記載の本発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の納豆菌変異株を用いて製造されることを特徴とするレバン高含有納豆である。 本発明により、納豆菌変異株が提供され、この変異株を用いると納豆発酵中に納豆粘物質中のレバンをほとんど分解しない。そのため、この変異株はレバン高含有納豆の効率的な製造に用いることができる。 また、本発明のレバン高含有納豆は、腸内菌叢の改善、腸内腐敗物の抑制、便性改善など、レバンの有する優れた健康機能を発揮することから、高付加価値納豆として有用である。 さらには、本発明の納豆菌変異株は、遺伝子組換え技術を用いずに、突然変異を引き起こすことによって得られた菌株であるので、本菌株を用いて得られる納豆は、食用に供することが可能である。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明で育種改良に用いることができる納豆菌としては特に制限はないが、通常納豆工業で使用されている発酵能力に優れた納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、及びさらに改良を重ねて得られた優れた性質の納豆菌などを用いることが望ましい。 納豆菌は、その形態や遺伝子相同性から、枯草菌バシラス・サチラス(Bacillus subtilis)に分類されているが、粘質物(糸引物質)などの納豆としての特徴を作り出すことができ、納豆発酵での主体をなす細菌である。また、生育にビオチンを要求するとされるなどの特性を有していることなどから、バシラス・ナットウ(Bacillus natto)として分類されたり、枯草菌の変種としてBacillus subtilis var. natto或いはBacillus subtilis (natto)などと枯草菌と区別して分類する場合もある。 本発明に使用される納豆菌の具体例としては、例えばBacillus natto IFO3009株、Bacillus subtilis IFO3335株、同IFO3336株、同IFO3936株、同IFO13169株などがあるが、その他、各種の納豆菌も広く使用できる。 具体的には、市販納豆から分離したO-2株が挙げられ、また、市販の納豆種菌である高橋菌(T3株、東京農業大学菌株保存室)や宮城野菌(宮城野納豆製作所)など各種の納豆菌が適宜使用可能である。 上記したように、請求項1に係る本発明は、親株(元株)である納豆菌に人為的に突然変異を誘導させて得られる納豆菌変異株である。変異手段としては、薬剤処理、紫外線照射処理などの既知の方法を適用することができる。 変異を誘導する技術として、菌株を薬剤処理(例えば、アルキル化剤:ナイトロジェンマスタード、ジメチルサルフォネート、ジエチルサルフォネート、メチルメタンサルフォネート、エチルエタンサルフォネート、エチルメタンサルフォネート 塩基類似体:5-ブロモウラシル、5-ブロモデオキシウリジン、2-アミノプリン 塩基合成阻害剤:アザセリン、カフェイン、6-メルカプトプリン 色素類:プロフラビン、アクリジンオレンジ その他化合物:塩化マンガン、亜硝酸、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、4-ニトロキノリン-N-オキシド、ニトロソグアニジン等による処理)や、物理処理(例えば、放射線:X線、γ線、紫外線等による処理)や、酸処理、高熱処理などが挙げられるが、これにより突然変異を誘導し、スクリーニングを効率化することができる。 その中で、例えば、突然変異率が最も高い試薬の一つであるニトロソグアニジンでの変異誘導方法としては、菌体に終濃度200〜1600μg/mlのニトロソグアニジン溶液を添加し、約30℃で10〜60分間処理する方法があり、生存率が1〜10%となるように処理したものをスクリーニングに供することができる。また、紫外線照射による方法としては、生存率が1〜10%となるように紫外線照射処理したものをスクリーニングに供することができる。 次に、上記のようにして得た納豆菌変異株を用いて納豆を製造する方法について説明する。本発明は、納豆の製造にあたり、レバン分解酵素活性が低下した納豆菌変異株を用いることに特色があり、その他の事項については従来から実施されている方法を採用すれば良く、何ら制限がない。 例えば、納豆は丸大豆を原料として製造された、いわゆる丸大豆納豆が一般的であるが、一部には予め挽割った大豆を原料とする挽割り納豆もある。 丸大豆納豆の製造方法は、一般に原料である丸大豆を冷水に十数時間浸漬した後、蒸煮釜で加圧蒸気を用いて加圧蒸煮(1.5〜2.0 Kg/cm2・128〜133℃)して得られた蒸煮大豆に対して、高温状態(70〜100℃)で納豆菌を接種し、混合した後、所定の容器に充填してから発酵室に搬入して比較的高温度(40〜55℃程度)で所定時間(12〜48時間程度)発酵させた後、5℃前後で冷蔵熟成(12〜72時間程度)して完成させるのが一般的である。 また、挽割り納豆の場合は、予め挽割った大豆を水に浸漬する以外は、通常の丸大豆納豆の場合と同様の方法で製造される。 このような従来の納豆の製造方法において、本発明では発酵工程で用いる通常の納豆菌に代えて、前記方法によって育種改良したレバン分解酵素低活性の納豆菌変異株を使用することを特徴としている。 このようにして得られたレバン分解酵素低活性の納豆菌変異株を用いて製造された納豆を、従来から利用されている通常の納豆菌を用いて製造された納豆と比較すると、本発明のレバン分解酵素低活性の納豆菌変異株を使用して製造した納豆は、レバンを高い濃度で含有していることから、ビフィズス菌の増殖促進作用などの健康機能が期待でき、優れた納豆である。 本発明のレバン分解酵素低活性の納豆菌変異株が有する能力と相乗効果を期待して、納豆の製造にあたり、原料大豆中にスクロース及び/又はレバンを添加することにより、生産された納豆のレバン量をさらに増強させる方法も有効である。また、レバン分解酵素低活性の納豆菌変異株を用いて低温にて発酵させる方法も、レバン量をさらに増強させる効果があるので、有効である。 以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。(実施例1)レバン分解酵素低活性の納豆菌変異株の作製(1)基本条件 親株として、納豆菌バシラス・サチラスOUV23481株(Bacillus subtilis OUV23481株)(特許文献 特開2000-287676号公報)を用いた。また、納豆菌の基本的な培養は、以下の表1に示す成分を含むLB培地を用いて行った。 親株の突然変異を誘導するために、薬剤処理法の試薬の一つであるニトロソグアニジンを使用した。即ち、バシラス・サチラスOUV23481株を5mlのLB培地に植菌して37℃で一晩培養し、得られた培養液の2%を100mlのLB培地に植菌し、3時間培養した。続いて、培養物から集菌し、これを50mM Tris-HCl buffer(pH7.0)で2回洗浄した。 その後、この親株を50mM Tris-HCl buffer(pH7.0)4mlに懸濁し、終濃度200μg/mlのニトロソグアニジン溶液を添加し、30℃で1時間処理した。次いで、集菌した親株を、50mM Tris-HCl buffer(pH7.0)5ml及びLB培地5mlでそれぞれ2回ずつ洗浄し、最後にLB培地5mlを添加し、37℃で3時間培養して、適量の培養物をLBS培地(組成は表2参照)に植菌して一晩37℃で培養した。 培養終了後、親株のバシラス・サチラスOUV23481株の突然変異誘導株を一次スクリーニングすることにより、LBS培地上で粘性の高いコロニー(バシラス・サチラスL102株)が取得できた。(2)レバン分解酵素活性 上記(1)で得られた変異株、バシラス・サチラスL102株のレバン分解酵素活性を親株のバシラス・サチラスOUV23481株のそれと比較した。 レバン分解酵素活性の測定は、以下の条件及び手順によった。即ち、バシラス・サチラスOUV23481株とバシラス・サチラスL102株を5mlLB培地にて37℃で6時間培養し、遠心分離により培養上清を得た。培養上清500μlと2%レバン溶液500μlを混合し、37℃で90分間反応させた。続いて、反応溶液中に含まれるフルクトース量をF-キット(Roche製)にて測定した。1分間あたり1nmolのフルクトースを遊離させる酵素単位を1Uとして算出した結果を表3に表した。 表3から明らかなように、変異株のバシラス・サチラスL102株は、親株であるバシラス・サチラスOUV23481株と比べ、レバン分解酵素活性が大幅に低いことが確認された。 変異株のバシラス・サチラスL102株は、2005年6月7日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM ABP−10348である。(実施例2)納豆試作と品質評価 常法に従い、バシラス・サチラスOUV23481株及びバシラス・サチラスL102株の胞子液を調製した。即ち、バシラス・サチラスOUV23481株又はバシラス・サチラスL102株を表1に示した組成のLB培地に1白菌耳植菌し、37℃で1晩培養後、その培養液を表4に示した胞子形成培地に1%植菌し、37℃にて24時間培養して胞子液を調製した。 以下、それぞれの胞子液を種菌として使用し、常法に従い納豆を試作した。即ち、極小大豆を水道水で4℃にて1晩浸漬し、圧力蒸煮釜で蒸気圧1.8KPaで18分間蒸煮した。このようにして調製した蒸煮大豆に対して、上記のバシラス・サチラスOUV23481株又はバシラス・サチラスL102株の胞子液を滅菌水で100倍に希釈し、蒸煮大豆100gあたり0.8mlを種菌として接種し、39℃で18時間発酵させた。発酵終了後、4℃で24時間保存して、納豆を調製した。 その結果、バシラス・サチラスL102株を用いて発酵を行った場合、バシラス・サチラスOUV23481株を用いて発酵を行った場合と比べて、発酵時間の遅延、発酵中の納豆品温の低下等は見られず、レバン分解酵素の活性を低下させた納豆菌変異株であっても、その生育に影響を及ぼさないことが分かった。 続いて、上記試作により得られた納豆について専門化パネルによる官能検査に供した。 その結果、親株(OUV23481株)と変異株(L102株)との間で、納豆の品質上に違いが見られず、バシラス・サチラスL102株を種菌に用いて作製した納豆が、納豆として必要な品質を具備していることが確認できた。 尚、納豆中のレバンの分析は以下の方法に従った。即ち、10gの納豆に20mlの2.5%トリクロロ酢酸を加え50℃で10分保温する。次に、上清を50mlのメスフラスコに移す。残った納豆に更に20mlの2.5%トリクロロ酢酸を加え50℃で10分保温する。その後、ナイロンメッシュでろ過し納豆を除く。 得られたろ液を1回目の抽出時の上清と合わせた後、50mlまでメスアップする。メスアップした抽出液を12,000rpm、20分、30℃で遠心する。上清を20ml採取し、NaOHでpH7.0 - 7.2に調節する。4倍量のエタノールを加え氷上に10分間置く。次いで、12,000rpm、10分遠心し、沈殿を回収し、自然乾燥させる。沈殿を20mlの20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、粗抽出液とした。 粗抽出液0.6mlにレゾルシン−チオ尿素試薬(レゾルシン0.1g、チオ尿素0.25g、酢酸100ml)0.3ml、30%塩酸0.21mlを加え、80℃で10分加熱した。急冷した後、分光光度計を用いて波長500nmにおける吸光度を測定した。フルクトース溶液を用いて作成した検量線にレバンの加水分解による増加分を考慮し、0.9を乗じてレバン濃度を計算した。 以上の方法により、納豆中のレバンを分析した結果を表5に示したが、バシラス・サチラスL102株を用いた場合は、バシラス・サチラスOUV23481株に比べ、レバン量が増加しており、レバン分解酵素の低下の効果が確認できた。 また、上記納豆を10℃で12日間保存後、同様にレバン量を測定した結果を表6に示した。結果、親株のレバン量が減少するのに対して、バシラス・サチラスL102株を使用して発酵させた納豆は保存中においてもレバンが安定に存在することが確認できた。 本発明により、レバン分解酵素活性の低下した納豆菌変異株が提供される。この変異株を用いて納豆を製造することにより、腸内菌叢の改善、腸内腐敗物の抑制、便性改善などのレバンの有する優れた健康機能を有するレバン高含有の高付加価値納豆が得られる。 親株のレバン分解酵素活性が、突然変異によって1/2以下に低減されてなる納豆菌変異株。 レバン分解酵素活性が0.1U以下である請求項1記載の納豆菌変異株。 親株のレバン分解酵素遺伝子が、突然変異によって欠損されてなる請求項1又は2記載の納豆菌変異株。 納豆菌変異株が、バシラス・サチラスL102株(FERM ABP−10348)である請求項1〜3のいずれかに記載の納豆菌変異株。 請求項1〜4のいずれかに記載の納豆菌変異株を用いて製造されることを特徴とするレバン高含有納豆。 【課題】 レバン分解活性を低下させた納豆菌を開発し、該納豆菌を用いて納豆を作成させることにより、健康機能に優れたレバン高含有納豆を提供すること。【解決手段】 親株のレバン分解酵素活性が、突然変異によって1/2以下に低減されてなる納豆菌変異株とレバン分解酵素活性が0.1U以下である納豆菌変異株、並びに該変異株を用いて得られるレバン高含有納豆を提供する。【選択図】 なし


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