生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬
出願番号:2005169143
年次:2006
IPC分類:G01N 33/536,G01N 33/53


特許情報キャッシュ

亀井 明仁 JP 2006343214 公開特許公報(A) 20061221 2005169143 20050609 免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬 松下電器産業株式会社 000005821 岩橋 文雄 100097445 内藤 浩樹 100109667 永野 大介 100109151 亀井 明仁 G01N 33/536 20060101AFI20061124BHJP G01N 33/53 20060101ALI20061124BHJP JPG01N33/536 FG01N33/53 DG01N33/53 X 14 1 OL 13 本発明は、試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定することができる免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬に関するものである。 医療分野では、様々な疾患の診断及び病状の経過を調べるために、ヒトの体液中に存在する各疾患に特徴的な蛋白質の含有量を調べることが広く利用されている。 これらの蛋白質の含有量測定には、主として、特異性の高い抗原抗体反応を利用した免疫反応測定方法が広く用いられており、現在では、免疫反応測定方法にも様々な原理を利用したものが開発されている。 それらの中でも、比朧法、比濁法、スライド凝集法などの抗原と抗体の反応により生じる凝集複合体を検出する測定方法はよく知られたものである。これらは、溶液中に抗原及び抗体が一様に分散された状態で行うものであるため、均一系の免疫反応測定方法と総称される。 これらの反応では、凝集複合体の生成により、反応系は抗原及び抗体量に依存した濁りを生じる。比朧法、比濁法はこれを光学的に測定する方法であり、比朧法は反応系で散乱された光量をもとに、比濁法は反応系での散乱により減少した透過光量をもとに測定する方法である。一般的に両方法の測定対象としては、同一の反応系を用いることができ、いずれか一方で測定できる対象は残りの一方でも測定することができる。スライド凝集法は凝集複合体の生成により生じた濁りを、スライドグラス上などで目視などにより判定する方法であり、反応系は比朧法、比濁法と同一のものを用いることができる。 上記従来の均一系の免疫反応測定方法では、抗原抗体反応を促進させ、微量成分を高感度に測定するために様々な添加剤を用いることが試みられている。よく知られている例としては、反応系にポリエチレングリコール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニルなどの水溶性高分子を混在させ、抗原抗体反応による凝集複合体の形成を促進させ、反応時間及び測定感度を向上させる方法が挙げられる。これらの水溶性高分子の中でもポリエチレングリコールが比較的低濃度でも効果が高いことが知られており、平均分子量が6,000のポリエチレングリコールを2〜6重量%の濃度で使用する方法が広く用いられており、特に4重量%濃度が、非特異的な混濁が少なく、効果が高いとされている。 水溶性高分子の抗原抗体反応に対する促進効果は一般に分子量が大きく、高濃度であるほど大きい傾向がある。 上記従来の均一系の免疫反応測定方法では、抗原抗体反応の程度すなわち抗原の濃度に依存した信号強度は高い程、良好なS/N比を維持することができ、安定した測定を行うことができる。しかし、抗原抗体反応の更なる促進によって、上記効果を得ようとした場合、従来の水溶性高分子の添加では、より高濃度あるいは、高分子量の水溶性高分子を添加する必要があるが、水溶性高分子を溶解した溶液の粘性が増大するため、その分析操作上の取り扱いが困難になるという問題点があった。 また、均一系の免疫反応測定方法においては、地帯現象と呼ばれる現象が一般に知られている。地帯現象とは、抗原と抗体が最大の凝集複合体を形成する当量域よりも、いずれかが過剰に存在する場合に、凝集複合体が生じ難くなる現象のことである。この現象のため、抗原が高濃度の場合と低濃度の場合の測定結果と区別がつき難くなる。従って、抗原濃度に依存した正しい定量や判定が行えず、また、これを回避するためには、測定濃度範囲が制限されるという問題点があった。 そこで、酸性条件下でジカルボン酸やトリカルボン酸などの多価カルボン酸を用いて、抗原抗体反応を増強する方法も開示されている(例えば、特許文献1,2及び3参照)。国際公開第03/010541号パンフレット国際公開第03/056333号パンフレット国際公開第2004/053489号パンフレット 上記特許文献1,2または3に記載されている多価カルボン酸を用いる方法によると、抗原抗体反応が増強されるので、容易に測定値の向上が可能である。さらに、抗原過剰領域で生じる地帯現象を緩和することができる。 しかし、上記の多価カルボン酸を用いる方法では、多価カルボン酸はキレート作用を持っており、反応系に存在するCa2+やFe3+などの二価及び三価の金属イオンを効率的に奪う性質がある。このため、抗原が、その分子構造内に金属イオンを保持している場合、その金属イオンは奪われる。抗原が、分子構造内に金属イオンを保持し、前記金属イオンの脱離により前記分子構造に変化を生じる物質である場合、抗体の抗原への結合力を低下させる恐れがあるという問題点があった。 本発明は上記従来の問題点に鑑み、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ容易に測定値の向上が可能な免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬を提供することを目的とする。 上記の従来の問題点を解決するために、本発明の免疫反応測定方法は、試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定する方法であって、安息香酸または安息香酸の塩と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原と、前記試料とを混合する工程A、並びに前記工程Aにより構成された、前記試料、前記特異結合物質及び前記安息香酸または安息香酸の塩を含む反応系において、前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応により生じた抗原−抗体複合体を検出する工程Bを含み、かつ前記抗原抗体反応が生じるときの前記反応系のpHが酸性に設定されている。 また、本発明の免疫反応測定用試薬は、試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定するための試薬であって、安息香酸または安息香酸の塩、及び被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原を含み、前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応が生じるときのpHが酸性になるように調製されている。 本発明の免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬によれば、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ容易に測定値を向上させることができる。 本発明は、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ容易に測定値の向上が可能な免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬に関する。また、抗原過剰領域で生じる地帯現象を緩和することができる免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬に関する。 本発明者らは、抗原抗体反応時に、反応系に安息香酸または安息香酸の塩を付加し、反応系のpHを酸性に保つことにより、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ抗原抗体の結合による免疫反応の測定値を向上させ得ること、また、これにより抗原過剰領域で生じる地帯現象が緩和できることを見出した。 本発明の一実施の形態における免疫反応測定方法は、図1に示すように、試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定する方法であって、安息香酸または安息香酸の塩と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原と、前記試料とを混合する工程A、並びに前記工程Aにより構成された、前記試料、前記特異結合物質及び前記安息香酸または安息香酸の塩を含む反応系において、前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応により生じた抗原−抗体複合体を検出する工程Bを含み、かつ前記抗原抗体反応が生じるときの前記反応系のpHが酸性に設定されている。ここで、反応系に安息香酸または安息香酸の塩の両方を含んでいてもよい。 また、反応系に含まれる安息香酸または安息香酸の塩により緩衝能が与えられ、反応系のpHが酸性に設定されることが好ましい。このようにすると、反応系のpHを酸性に設定するために他の緩衝剤をさらに添加する必要がなく、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ上記免疫反応の測定値向上の効果を効率的に発揮させることができる。反応系に含まれる安息香酸または安息香酸の塩により緩衝能が与えられるようにするため、安息香酸または安息香酸の塩の濃度が0.01M以上であることが好ましい。 また、工程Aにおいてさらに緩衝剤を混合してもよい。 また、本発明の一実施の形態における免疫反応測定用試薬は、試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定するための試薬であって、安息香酸または安息香酸の塩、及び被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原を含み、前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応が生じるときのpHが酸性になるように調製されている。ここで、安息香酸または安息香酸の塩の両方を含んでいてもよい。また、安息香酸または安息香酸の塩により緩衝能が与えられ、被測定物質と特異結合物質との抗原抗体反応が生じるときのpHが酸性になるように調製されていることが好ましい。また、さらに緩衝剤を含んでいてもよい。 本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬で用いられる緩衝剤は、当該分野で公知のものを用いることができ、例えば、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどからなるリン酸系の緩衝剤、カコジル酸ナトリウム、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸などが挙げられる。この場合、含まれるべき緩衝剤の量は、用いる緩衝剤の種類、被測定対象物を含む試料(検体)の量、及び反応系に対する被測定物質である抗原または抗体に対する抗体または抗原の供給方法などに応じて、本発明の効果が得られるように調整すればよい。 また、本発明の免疫反応測定方法において、反応系のpHが4.5に設定されていることが好ましい。上記pHでは、安息香酸または安息香酸の塩による免疫反応の測定値向上効果が高くなり、また、これによる抗原過剰領域で生じる地帯現象の緩和効果が高くなる。 本発明の免疫反応用試薬において、上記理由により、抗原抗体反応が生じるときのpHが4.5に設定されるように調製されていることが好ましい。 本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応用試薬で用いられる安息香酸または安息香酸の塩としては、安息香酸、安息香酸無水物、安息香酸アンモニウム、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸リチウムなどが挙げられる。これらはいずれも市販されているものであり、これらを単独または組み合わせて使用することができる。 また、本発明の免疫反応測定方法の反応系及び免疫反応用試薬には、その用途などに応じて、本発明の効果が得られる範囲で、当該分野で公知である他の任意の成分が付加され得る。例えば、比朧法、比濁法、スライド凝集法などの均一系の免疫反応測定法に適用する場合には、本発明の免疫反応測定方法の反応系及び免疫反応用試薬にポリエチレングリコールを付加し得る。その含有量は、非特異的凝集が少なく、測定感度向上の効果が高いという観点から、本発明の免疫反応測定方法においては、反応系に対して2〜6重量%濃度であることが好ましく、4重量%濃度であることがさらに好ましい。同様に、本発明の免疫反応用試薬においては、抗原抗体反応が生じるときの濃度が2〜6重量%濃度であることが好ましく、4重量%濃度であることがさらに好ましい。 また、抗原または抗体の自己凝集による非特異的混濁を低減するために、本発明の免疫反応測定方法の反応系及び免疫反応用試薬にトゥイーン20、オクチルグルコシド、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、スクロースモノラウレート、CHAPSなどの界面活性剤を付加し得る。その含有量は、抗原抗体反応の阻害が少ないという観点から、本発明の免疫反応測定方法においては、反応系に対して0.3%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。同様に、本発明の免疫反応用試薬においては、その含有量は、抗原抗体反応が生じるときの濃度が0.3%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。 本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬が適用される測定系は特に限定されないが、特に、抗原過剰領域で生じる地帯現象を有する比朧法、比濁法、スライド凝集法などの均一系の測定系に対して、より高い効果が期待できるため好ましい。特に自動測定機器による測定が普及している比朧法、比濁法に適用した場合、抗原過剰領域で生じる地帯現象の判定に要する工程を削減あるいは簡略化できるため特に好ましい。 本発明の免疫反応測定方法において、抗原−抗体複合体が凝集複合体であることが好ましい。また、工程Bにおいて、凝集複合体に起因する光学的パラメータを測定することにより、前記凝集複合体を検出することが好ましく、光学的パラメータが、散乱光強度または透過光強度であることがさらに好ましい。 本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬において、被測定物質が、その内部に金属イオンを保持する構造を有する抗原であることが好ましい。分子構造内に金属イオンを保持する抗原は、その金属イオンが脱離したときに分子構造が変化するおそれがある。安息香酸は1価のカルボン酸であり、多価カルボン酸に比べてキレート作用が弱く、抗原からの金属イオンの脱離を緩和し、抗原の構造変化を緩和することができるため、結果として、抗体の抗原への結合力の低下を緩和することができる。これにより、被測定物質が、その内部に金属イオンを保持する構造を有する抗原であっても、反応増強効果を効率的に発揮させることができる。 特にC反応性蛋白質(以下、CRPと略称する)は分子内でのCa2+の保持の有無によって構造変化を生じるタンパク質であり、感染症のマーカーとして測定頻度が高いため、被測定物質がCRPであることが好ましい。 本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬の被測定物質である抗原または抗体は特に限定されず、一般に抗原抗体反応を利用して測定できる物質であればいずれでもよく、例えば、蛋白質、核酸、脂質、細菌、ウィルス、ハプテンなどが挙げられる。この中で、蛋白質は抗原抗体反応を用いた臨床検査上の主たる測定対象であるため好ましい。蛋白質として例えば、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、hCG(絨毛性性腺刺激ホルモン)などのホルモンや、各種免疫グロブリンクラスやサブクラス、補体成分、各種感染症のマーカー、CRP、アルブミン、リウマチ因子、血液型抗原などが挙げられる。この中で、被測定物質がヒトアルブミン、CRPであることが好ましい。 本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬に用いられる抗体は特に限定されず、抗原と特異結合するものであれば、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDのいずれのクラスの抗体であってもよい。この中で、IgG抗体が非特異的な反応が少なく、また、比較的市販されているものも多く、入手も容易であるため好ましい。また、抗体の由来動物種に関しても、特に限定されないが、ウサギ、ヤギ、マウス由来の抗体が比較的入手も容易であり、使用例も多いため好ましい。 本発明の免疫反応測定方法は、代表的には、以下のようにして行うことができる。安息香酸または安息香酸の塩を、反応系のpHを酸性に、好ましくは、pHが4.5に保たれるように緩衝剤が含まれた緩衝液に付加する。安息香酸または安息香酸の塩が緩衝剤を兼ねていてもよい。緩衝液と被測定物質である抗原または抗体と、被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原とを混合することにより反応系を構成し、その反応系において生じた免疫反応を測定する。 安息香酸または安息香酸の塩を付加する方法、反応系のpHを酸性に保つために緩衝剤を付加する方法、及び反応系のpHを調整する方法は上記に限定されず、例えば、被測定物質である抗原または抗体に対する抗体または抗原を含有する溶液中に、あらかじめ上記要件を満たすように、安息香酸または安息香酸の塩及び緩衝剤を存在させておいてもよい。 本発明の免疫反応用試薬は、代表的には、以下のようにして作製し得る。 被測定物質である抗原または抗体に対する抗体または抗原と、安息香酸または安息香酸の塩とをそれぞれ別に調製する場合は、次のようになる。被測定物質である抗原または抗体に対する抗体または抗原を含有する溶液は、安息香酸または安息香酸の塩の効果が得られる限り任意の組成であってよい。安息香酸または安息香酸の塩を含む溶液は、抗原抗体反応時のpHを酸性に保つために必要な緩衝能を持たせられるように、好ましくはpHが4.5に保たれるように、緩衝剤及び安息香酸または安息香酸の塩を調整し、これらを純水に溶解することにより作製する。上記要件が満たされていれば、緩衝剤、安息香酸または安息香酸の塩は、それぞれ別々の溶液中に存在していてもよい。また、安息香酸または安息香酸の塩が緩衝剤を兼ねていてもよい。 また、被測定物質である抗原または抗体に対する抗体または抗原を含有する溶液中に、安息香酸または安息香酸の塩を存在させておいてもよく、その場合は、上記で示した要件を満たすように、調製した安息香酸または安息香酸の塩を含む溶液で、被測定物質である抗原または抗体に対する抗体または抗原を含有する溶液を、透析あるいはゲルろ過して低分子成分を置換することにより、安息香酸または安息香酸の塩を含ませるようにすればよい。 以上説明したように、本発明の免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬によれば、免疫反応の反応系に安息香酸または安息香酸の塩を存在させ、反応系のpHを酸性に設定したことにより、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ抗原抗体の結合による免疫反応の測定値を向上させることができる。また、これにより抗原過剰領域で生じる地帯現象を緩和することができる。従来の水溶性高分子を添加する方法では、抗原抗体反応の測定において、測定値を向上させ良好なS/N比を維持し安定した測定を行うために、より高濃度あるいは高分子量の水溶性高分子を添加する必要があり、溶液の粘性を増大させ、その分析操作上の取り扱いが困難になるという課題があったが、本発明において用いる安息香酸または安息香酸の塩は低分子物質であるため、溶液の粘性を増大させず、その分析操作上の取り扱いも容易となる。 また、抗原過剰領域で生じる地帯現象を緩和し、被測定物質の高濃度での測定値の落ち幅を軽減したことにより、測定値が高く陽性と判定される領域を広げることが可能となり、測定濃度範囲を広げることができる。 また、キレート作用により、抗原が構造変化を生じる場合、安息香酸は1価のカルボン酸であり、多価カルボン酸に比べてキレート作用が弱く、抗原からの金属イオンの脱離を緩和し、抗原の構造変化を緩和することができるため、抗体の抗原への結合力の低下を緩和することができる。これにより、反応増強効果を効率的に発揮させることができる。 以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。 (実施例1) 以下で、ヒトアルブミンを被測定物質とした場合の試薬の構成方法を示す。本実施例では、スライド凝集法、比濁法及び比朧法による測定に使用することが可能な、抗体溶液及び安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液からなる試薬の調製方法について述べる。 以下に示した緩衝液などの調製には、Milli−Q SP TOC(Millipore製)でろ過した純水を使用した。また、以下で特に記載の無い塩、緩衝剤などの試薬は、いずれも和光純薬工業製のものを入手し、ポリエチレングリコール6,000は1級試薬を、それ以外のものは特級試薬を使用した。 まず、抗体溶液の調製を行った。ウサギ抗ヒトアルブミンポリクローナル抗体は、ヒトアルブミン(和光純薬工業製)を免疫したウサギより採取した抗血清より、プロテインAカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。カラムに充填したプロテインA固定化ゲルは、アマシャム・ファルマシア製のものを使用した。精製に用いた平衡化緩衝液には、1.5Mグリシン、3.0M NaCl、pH8.9の組成のものを使用し、溶出緩衝液には、0.1Mクエン酸、pH4.0の組成のものを使用した。精製は次のようにして行った。カラムに充填したゲル容量の5倍の平衡化緩衝液を流してカラムを平衡化した後、カラム全結合容量の10〜20%の抗体を含む抗血清を平衡化緩衝液で容量を2倍に希釈してカラムに流し、血清中の抗体をプロテインAに結合させた。続いて、平衡化緩衝液をプロテインAに吸着しない血清成分がカラムより出てこなくなるまで流し、カラムを洗浄した。続いて、カラムに溶出緩衝液を流し、プロテインAに結合した抗体を溶出した。溶出した抗体分画を分画分子量1万の透析チューブに入れ、約100倍容量の0.04重量%のNaN3を含むPBS緩衝液(8g/l NaCl、0.2g/l KCl、1.15g/l Na2HPO4・12H2O、0.2g/l KH2PO4、pH7.4)で数回透析して、緩衝液成分を置換した。続いて、抗体濃度を280nmの吸光度測定により推定し、透析で用いたものと同じ緩衝液で調整して抗体濃度を2.4mg/mlとし、これを抗体溶液とした。抗体濃度は、特にこれに限定されるものではない。作製した抗体溶液は室温でも保存することができるが、抗体の変性防止の点からは、より低温保存が好ましく、4℃で保存することがより好ましい。 安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液の調製は次のようにして行った。安息香酸または安息香酸の塩には、安息香酸ナトリウムを使用し、各物質による緩衝液をそれぞれ構成した。 安息香酸ナトリウムを用いた緩衝液の構成方法は次のようにした。最終濃度で、安息香酸ナトリウムを0.05M、ポリエチレングリコール6,000を4重量%になるように計量し、調製目的体積の約90%の純水で溶解した。これにHCl水溶液を添加してpHを4.5に調整し、純水で目的体積に調整した。作製した緩衝液は室温保存した。 以上のように構成した安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液の少なくとも一方を抗体溶液と組み合わせることにより、免疫反応用試薬を構成することができる。 本実施例で構成した試薬の使用方法は、反応系を形成させるために、抗体溶液と、安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液とを含む試薬と、抗原を含む試料(検体)とを混合して使用する。混合方法は任意の方法によればよい。混合する比率は、必要とする抗原濃度の測定範囲に応じて決定することができる。混合により形成された反応系で生じた抗原と抗体の結合による免疫反応を測定することにより、検体中の抗原濃度を知ることができる。 なお、本実施例では示さなかったが、抗体をラテックス、金コロイド、磁気微粒子などの微粒子担体に固定化させるか、あるいは、抗体に酵素、色素、蛍光物質、発光物質などを標識してもよい。 抗体溶液の緩衝剤成分及びpHは、上記組成及びpHに限定されず、例えば、一液系の試薬を構成する場合は、抗体溶液に安息香酸または安息香酸の塩を含ませるため、及び反応系のpHを酸性に維持するために、安息香酸または安息香酸の塩を含む酸性緩衝液で透析を行えばよい。 また、本実施例では、安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液の調製に安息香酸ナトリウムを使用したが、他の安息香酸または安息香酸の塩であってもよく、例えば、安息香酸、安息香酸無水物、安息香酸アンモニウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウムなどのいずれかを用いてもよい。また、これらを組み合わせて使用することもでき、その場合のpH調整は、純水に溶解時のpHが調整目的とするpHよりアルカリ側の場合はHClなどを、酸性側の場合は上記で示した水酸化物などを利用して行えばよく、また、上記で例示した安息香酸または安息香酸の塩の混合比を調整して行ってもよい。 また、本実施例では、安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液の主たる緩衝能を安息香酸または安息香酸の塩によって付与した場合の作製方法を示したが、試薬に添加されるべき濃度は特に限定されるものではない。また、他の緩衝剤を利用して試薬に主たる緩衝能を付与するか、あるいは安息香酸または安息香酸の塩と他の緩衝剤を協調させて緩衝能を付与してもよい。 (実施例2) 本実施例では、安息香酸または安息香酸の塩を含む酸性反応系の抗原抗体反応に対する効果を、免疫反応測定方法で一般的に使用されている中性反応系と対比した内容について示す。対比は、ヒトアルブミンを免疫比朧法により測定して行った。安息香酸または安息香酸の塩を含む酸性反応系を構成するための試薬は、実施例1で構成したものを用いた。 また、比較例1として、中性反応系を構成するための緩衝液の構成には3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(Dojin製、以下モプスと略称する)を使用し、0.05Mモプス、4重量%ポリエチレングリコール6,000、pH7.4の組成のものを用意した。 抗原に用いたヒトアルブミン(和光純薬工業製)は、0.04重量%のNaN3を含むPBS緩衝液に、濃度が0、5、10、20、30、50、100、300mg/dlになるように溶解した。抗体及び試料である抗原溶液は使用時まで4℃で保存し、各緩衝液は室温で保存した。 測定には、自作の測定装置を使用した。自作測定装置の構成は次のようにした。光源は270Hzで変調した波長680nmの出射出力15mW半導体レーザーポインタ(キコー技研製、型番MLXS−D−12−680−35)とし、検出器は、可視赤外精密測光用シリコンフォトダイオード(浜松フォトニクス製、型番S2387−66R)とした。セルは厚さ0.1cmの光学ガラス板を張り合わせ、容量約200μlの立方体状に構成した。各配置は、光源より0.5cmのところに、その一面が光源と垂直になるようにセルを配置し、検出器は、光源と90°の角度を成す方向で、セルより5.5cm離れた場所に配置し、検出器に迷光が入射しないように、検出器とセルとの間には遮光筒を設けた。検出器により検知された光量に依存した電流信号は、電流電圧変換回路(106V/A)およびオペアンプによる増幅回路を経て100倍の電圧信号に増幅した後、ロックインアンプ(エヌエフ回路設計ブロック製、型番5610B)を通して位相敏感検波し、GPIB制御によりコンピュータに取り込めるようにした。 各濃度のヒトアルブミン溶液の測定は次のようにした。反応系の混合比は、緩衝液が178μl、ヒトアルブミン溶液が9μl、抗体溶液が9μlとした。 セル内に緩衝液とヒトアルブミン溶液、抗体溶液を上記容量で加えて攪拌混合し、抗原抗体反応を生じさせた。散乱光の測定は、抗体溶液を加える10秒前から開始し、0.5秒間隔で300秒間継続した。測定値は電圧値として得られた。300秒後の測定値を各濃度のヒトアルブミン溶液における測定値とした。測定は室温で行った。 図2は、各緩衝液について、各濃度のヒトアルブミン溶液を測定した結果を示すグラフである。図2より、比較例1であるモプスを含む緩衝液を用いて抗原抗体反応を測定した場合より、本実施例である安息香酸ナトリウムを含む緩衝液を用いて測定した場合の方が明らかに高い測定値を示した。また、安息香酸ナトリウムを含む緩衝液を用いた場合は、モプスを含む緩衝液を用いた場合に比べて、抗原過剰領域で生じる地帯現象による測定値の減少が抑えられていた。 以上の結果より、本発明の免疫反応測定方法により、抗原抗体反応の測定値を向上させ得ることが確認できた。また、これにより抗原過剰領域で生じる地帯現象を緩和させ得ることが確認できた。 また、本発明の免疫反応用試薬により、抗原抗体反応の測定値を向上させ得ることが確認できた。また、これにより抗原過剰領域で生じる地帯現象を緩和させ得ることが確認できた。 (実施例3) 本実施例では、安息香酸または安息香酸の塩を含む酸性反応系の抗原抗体反応に対する効果を、多価カルボン酸または多価カルボン酸の塩を用いた酸性反応系と対比した内容について示す。対比は、ヒトCRPを免疫比朧法により測定して行った。ヒトCRPは、同一の構造を持つ5個のサブユニットからなる構造を持つため、1種類の抗体に対して複数の結合部位を持つ物質である。このため、モノクローナル抗体を用いて免疫比濁、比朧測定が可能である。 測定には、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター)受託番号FERM BP−6621号のハイブリドーマ細胞より産生される抗ヒトCRPモノクローナル抗体を用いた。この抗体はヒトCRPの分子内でのCa2+の保持の有無によって生じる構造変化に感受性を持ち、分子内にCa2+が存在する場合は結合し、分子内にCa2+が存在しない場合は結合しない性質を持つ。抗体溶液の調製は、マウス腹水より、実施例1と同様の手順により行った。 また、安息香酸または安息香酸の塩を含む緩衝液は、実施例1で構成したものを用いた。 また、比較例2として、多価カルボン酸としてフタル酸を用い、これを含む緩衝液の調製を次のようにして行った。最終濃度で、フタル酸水素カリウムを0.05M、ポリエチレングリコール6,000を4重量%になるように計量し、調製目的体積の約90%の純水で溶解した。これにNaOH水溶液を添加してpHを4.5に調整し、純水で目的体積に調整した。作製した緩衝液は室温保存した。 測定に用いた各濃度のCRP溶液の調製は、精製ヒトCRP(Chemicon International製)を、0.04重量%のNaN3を含むPBS緩衝液で希釈して調製した。ヒトCRP溶液の濃度は0、5、10、20、30、50、100mg/dlのものを用意した。抗体及び試料である抗原溶液は使用時まで4℃で保存し、各緩衝液は室温で保存した。 測定には、実施例2の測定装置を使用した。各濃度のCRP溶液の測定は次のようにした。反応系の混合比は、緩衝液を178μl、ヒトCRP溶液を9μl、抗体溶液を9μlとした。 セル内に緩衝液、抗体溶液、ヒトCRP溶液を上記容量で加えて攪拌混合し、抗原抗体反応を生じさせた。散乱光の測定は、抗体溶液を加える10秒前から開始し、0.5秒間隔で300秒間継続した。測定値は電圧値として得られた。300秒後の測定値を各濃度のヒトCRP溶液における測定値とした。測定は室温で行った。結果を図3に示す。 図3より、比較例2であるフタル酸を含む緩衝液を用いた場合に比べて、本実施例である安息香酸を含む緩衝液を用いて測定した場合の方が明らかに高い測定値を示した。これは、フタル酸を含む緩衝液を用いた場合は、フタル酸のキレート作用によりヒトCRP分子内のCa2+が離脱し、ヒトCRPに構造変化が生じて抗ヒトCRPモノクローナル抗体のヒトCRPに対する結合力が低下するのに対して、安息香酸を含む緩衝液を用いた場合は、フタル酸に比べて安息香酸の方がキレート作用が低く、ヒトCRP分子内のCa2+が離脱するために生じる構造変化を抑え、抗体の結合力が低下するのを低減できるためである。 この結果から、本発明の免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬によれば、キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ容易に測定値を向上できることが確認できた。 本発明に係る免疫反応測定方法及び免疫反応測定用試薬は、試料中における抗原の測定、特にヒトの体液等の生体試料中における抗原の測定等において有用である。本発明の一実施形態の免疫反応測定方法の各工程を表すフローチャート本発明の一実施例における免疫反応測定用試薬を用いた免疫反応測定方法と一比較例について、免疫比朧法によるヒトアルブミン測定を行った結果を示すグラフ本発明の他の実施例における免疫反応測定用試薬を用いた免疫反応測定方法と他の比較例について、免疫比朧法によるヒトCRP測定を行った結果を示すグラフ試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定する方法であって、 安息香酸または安息香酸の塩と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原と、前記試料とを混合する工程A、 並びに前記工程Aにより構成された、前記試料、前記特異結合物質及び前記安息香酸または安息香酸の塩を含む反応系において、前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応により生じた抗原−抗体複合体を検出する工程Bを含み、 かつ前記抗原抗体反応が生じるときの前記反応系のpHが酸性に設定されている免疫反応測定方法。工程Aにおいてさらに緩衝剤を混合する、請求項1記載の免疫反応測定方法。反応系のpHが4.5に設定されている、請求項1または2記載の免疫反応測定方法。反応系がポリエチレングリコールを2〜6重量%含む、請求項1〜3のいずれかに記載の免疫反応測定方法。抗原−抗体複合体が凝集複合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の免疫反応測定方法。工程Bにおいて、凝集複合体に起因する光学的パラメータを測定することにより、前記凝集複合体を検出する、請求項5記載の免疫反応測定方法。被測定物質が、その内部に金属イオンを保持する構造を有する抗原である、請求項1〜6のいずれかに記載の免疫反応測定方法。被測定物質がヒトC反応性蛋白質である、請求項1〜7のいずれかに記載の免疫反応測定方法。試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定するための試薬であって、 安息香酸または安息香酸の塩、 及び前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原を含み、 前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応が生じるときのpHが酸性になるように調製された免疫反応測定用試薬。さらに緩衝剤を含む、請求項9記載の免疫反応測定用試薬。抗原抗体反応が生じるときのpHが4.5に設定されるように調製された、請求項9または10記載の免疫反応測定用試薬。さらにポリエチレングリコールを含み、抗原抗体反応が生じるときの前記ポリエチレングリコールの濃度が2〜6重量%である、請求項9〜11のいずれかに記載の免疫反応測定用試薬。被測定物質が、その内部に金属イオンを保持する構造を有する抗原である、請求項9〜12のいずれかに記載の免疫反応測定用試薬。被測定物質がヒトC反応性蛋白質である、請求項9〜13のいずれかに記載の免疫反応測定用試薬。 【課題】キレート作用による抗体の抗原への結合力の低下を低減し、かつ容易に測定値を向上できる免疫反応測定方法及びそれに用いる免疫反応測定用試薬を提供する。【解決手段】試料中に含まれる被測定物質である抗原または抗体を測定する方法であって、安息香酸または安息香酸の塩と、前記被測定物質に対して特異的に結合する特異結合物質である抗体または抗原と、前記試料とを混合する工程A、並びに前記工程Aにより構成された、前記試料、前記特異結合物質及び前記安息香酸または安息香酸の塩を含む反応系において、前記被測定物質と前記特異結合物質との抗原抗体反応により生じた抗原−抗体複合体を検出する工程Bを含み、かつ前記抗原抗体反応が生じるときの前記反応系のpHが酸性に設定されている免疫反応測定方法。【選択図】図1


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