タイトル: | 公開特許公報(A)_ケミカルピーリング剤の評価方法 |
出願番号: | 2005088837 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12Q 1/68,A61K 8/00,A61Q 19/00,A61K 45/00,A61P 17/16,C12Q 1/02,G01N 33/15,G01N 33/50,C12N 15/09 |
江浜 律子 岸本 治郎 日比野 利彦 傅田 光洋 針谷 毅 片桐 千華 松永 由紀子 仲西 城太郎 傅田 澄美子 矢内 基裕 天野 聡 JP 2006262841 公開特許公報(A) 20061005 2005088837 20050325 ケミカルピーリング剤の評価方法 株式会社資生堂 000001959 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 西山 雅也 100082898 江浜 律子 岸本 治郎 日比野 利彦 傅田 光洋 針谷 毅 片桐 千華 松永 由紀子 仲西 城太郎 傅田 澄美子 矢内 基裕 天野 聡 C12Q 1/68 20060101AFI20060908BHJP A61K 8/00 20060101ALI20060908BHJP A61Q 19/00 20060101ALI20060908BHJP A61K 45/00 20060101ALI20060908BHJP A61P 17/16 20060101ALI20060908BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20060908BHJP G01N 33/15 20060101ALI20060908BHJP G01N 33/50 20060101ALI20060908BHJP C12N 15/09 20060101ALN20060908BHJP JPC12Q1/68 AA61K7/00 WA61K7/48A61K45/00A61P17/16C12Q1/02G01N33/15 ZG01N33/50 ZC12N15/00 A 8 OL 17 2G045 4B024 4B063 4C083 4C084 2G045AA29 2G045AA40 2G045BA11 2G045CB01 2G045CB09 2G045CB17 2G045DA12 2G045DA13 2G045DA14 2G045FB02 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA09 4B024HA12 4B063QA05 4B063QA20 4B063QQ02 4B063QQ08 4B063QQ53 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR42 4B063QR55 4B063QR62 4B063QR72 4B063QR77 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX01 4C083AA011 4C083CC02 4C083EE11 4C084AA17 4C084NA14 4C084ZC012 本発明は表皮細胞における所定の遺伝子の発現の亢進を指標するケミカルピーリング剤の評価方法に関連する。本発明はまた、当該所定の遺伝子の発現を亢進させることによる皮膚、特に光老化皮膚の性状の改善方法に関連する。 ケミカルピーリングはざ瘡の治療をはじめ、皮膚の若返り(rejuvenation)治療や、さらにはシミ、クスミ、質感など皮膚の美容的改善を謳い、レーザー治療などとともに近年さかんになってきた美容皮膚科の分野で大きな関心を寄せられている。ケミカルピーリング剤の処置は表皮を変性、傷害し、さらに真皮乳頭をも傷害し(Klingman D. et. al., Dermatol Surg (1998) 24, pp.325-328; Baker T. J. et. al., Plast Teconstr Surg (1974) 53, pp.52-55)、そしてその修復過程において表皮の再生、真皮上皮の再生が起こると考えられている。 AHA(α−ヒドロキシ酸)ほか種々の薬剤を用いた治療法が臨床的な試行錯誤を経て確立され(E. J. Van Scott et al., Clin, Dermatol. 1996, 14, 217-226)、尋常性ざ瘡や色素沈着などでは他の治療法では得られない大きな治療効果が得られており(Briden ME., Cutis, 2004, 73 (2 Suppl.) : 18-24)、光老化皮膚の改善効果も示唆されているが(C.M. Ditre et al., J. Am. Acad. Dermatol., 1996, 34, 187-195 ; S. E. Moon et al., Dermatol. Surg., 1999, 25, 179-182 ; M. Isoda et al., J. Dermatol. Sci., 2001, 27, Suppl. 1 : S60-7)、分子レベルでのケミカルピーリングの作用メカニズムについてはまだ不明な点が多い。従って、ケミカルピーリング処置による効果を分子レベルで解明できれば、そのような分子の発現の挙動を指標に皮膚改善に有効な試薬のスクリーニングが可能となり、皮膚科学的及び美容学的観点から極めて有利であるものと期待された。Dermatol. Surg. (1998) 24, pp.325-328Plast. Teconstr. Surg. (1974) 53, pp.52-55 本発明は、分子レベルに基づくケミカルピーリング剤のスクリーニング方法及び皮膚改善方法の提供を課題とする。 本発明者はケミカルピーリングの分子メカニズムを解明することにより皮膚の若返りなどに重要な役割を果たすと期待される分子を明らかにし、そのような分子を指標にケミカルピーリングに有効な試薬をスクリ−ニングすること及びそのような分子を調節することによる皮膚改善の方法を見出すことができると考えた。そこで、皮膚改善に有効であることが広く知られている代表的なケミカルピーリング剤であるグリコール酸(GA)を、紫外線照射光老化モデル及びヒト顔面皮膚に施術したときの遺伝子変動の解析を行った。その結果、本発明者は以下の遺伝子群の発現がケミカルピーリング処理により亢進されることを見出した。 1)コーニファイドエンベロープ(CE)構成タンパク質遺伝子・ヒトSPRR(small proline-rich protein) 2A遺伝子(NM 005988);及び 対応のマウスSPRR2A遺伝子(NM 011468)・ヒトSPRR 2D遺伝子(NM 011470);及び 対応のマウスSPRR2D遺伝子(NM 011470)・マウスSPRR2H遺伝子(NM 011474)・ヒトSPRR 2F遺伝子(AF 333956);及び 対応のマウスSPRR2F遺伝子(NM 011472)・ヒトSPRR 1A遺伝子(NM 005987);及び 対応のマウスSPRR1A遺伝子(NM 009264)・ヒトSPRR 1B遺伝子(NM 003125)(別名「コルフィニン」);及び 対応のマウスSPRR2F遺伝子(NM 009265)・ヒトレペチン遺伝子(AY 396742);及び 対応のマウスSPRR2F遺伝子(NM 009100)2)増殖関連因子など・ヒトS100(S100カルシウム結合性タンパク質)A8遺伝子(NM 002964)(別名MRP8, Migration inhibitory factor-related protein 8, カルグラニュリンA, Leukocyte L1 complex light chain, Calprotectin L1L subunit,等);及び 対応のマウスS100 A8遺伝子(NM 013650)・ヒトS100 A9遺伝子(NM 002965)(別名MRP14,「カルグラニュリンB(calgranulin B)」、Leukocyte L1 complex heavy chain, Calprotectin L1H subunit,等);及び 対応のマウスS100 A9遺伝子(NM 009114)・ヒトシスタチン A遺伝子(NM 006213)(別名「ステフィンA」);及び 対応のマウスシステインプロテイナーゼインヒビター(MS1)遺伝子(M 92417);及び 対応のマウスシステインプロテイナーゼインヒビター(MS2)遺伝子(M 92418)・ヒトCCL2(ケモカイン(CC−モチーフ)リガンド)2遺伝子(NM 002982);及び 対応のマウスScya2遺伝子(small inducible cytokine A2)(NM 011333)・ヒトCEBPD遺伝子(NM 005195)(CCAAT/エンハンサー結合性タンパク質);及び 対応のマウスCEBPD遺伝子(NM 007679) 従って、本願は以下の発明を提供する。(1)ケミカルピーリングに使用するのに有効なケミカルピーリング剤のスクリーニング方法であって、SPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1もしくは複数の遺伝子、又は当該遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーション可能なポリヌクレオチドの発現を亢進させる候補薬剤を有効なケミカルピーリング剤として選定することを特徴とする方法。(2)前記スクリーニング方法が、 動物の表皮又は動物細胞に候補ケミカルピーリング剤を作用させ;そして 当該表皮又は細胞におけるSPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1もしくは複数の遺伝子、又は当該遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーション可能なポリヌクレオチドの発現がコントロール細胞中の同遺伝子に比べ亢進している場合、有効なケミカルピーリング剤として選定する; ことを含んでなる、(1)の方法。(3)前記遺伝子の発現の亢進が、前記表皮又は細胞から抽出された当該遺伝子のmRNAの量を測定することにより決定される、(2)の方法。(4)前記mRNAの測定をポリメラーゼ連鎖反応法により行う、(3)の方法。(5)前記細胞がヒト表皮細胞である、(1)〜(4)のいずれかの方法。(6)前記細胞がマウス表皮細胞である、(1)〜(4)のいずれかの方法。(7)前記細胞が光老化マウス表皮細胞である、(6)の方法。(8)さらに、上記選定した薬剤をモデル動物に適用し、炎症を起こさないことの確認された候補薬剤を有効な薬剤として選定することを含んで成る、(1)〜(5)のいずれかの方法。(9)前記細胞が光老化マウスである、(8)の方法。(10)表皮細胞におけるSPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1又は複数の遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、皮膚の改善方法。(11)前記皮膚が光老化皮膚である、(10)の方法。 本発明により、効果的なケミカルピーリング剤の評価を簡便に行うことが可能となる。 本発明は、ケミカルピーリングに有効な薬剤のスクリーニング方法を提供する。この方法は、SPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1もしくは複数の遺伝子、又は当該遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーション可能なポリヌクレオチドの発現を亢進させる候補薬剤を有効なケミカルピーリング剤として選定することを特徴とする。 好適な態様において、上記スクリーニング方法は、動物の表皮又は動物の細胞に候補薬剤を作用させ;そして当該表皮又は細胞におけるSPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1もしくは複数の遺伝子、又は当該遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーション可能なポリヌクレオチドの発現がコントロール表皮又は細胞中の同遺伝子に比べ亢進している場合、その候補薬剤を有効なケミカルピーリング剤として選定する;ことを含んでなることを特徴とする。その評価基準として、例えば候補薬剤を作用させた表皮又は細胞中の上記遺伝子の発現がコントロール表皮又は細胞中のそれらと比べ10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は50%以上、又は70%以上、又は100%以上亢進していたなら「有効なケミカルピーリング剤」と判断する、としてよい。コントロール表皮又は細胞としては、候補薬剤の作用させていない動物の表皮又は細胞を使用するのが好ましい。 ハイブリダイゼーションは周知の方法又はそれに準じる方法、例えばJ.SambrookらMolecular Cloning 2nd, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989に記載の方法に従って行うことができ、そして高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、例えばナトリウム濃度が約10〜40mM、好ましくは約20mM、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃であることを含む条件をいう。 本発明のスクリーニング方法に使用する表皮又は細胞は特に限定されるものではないが、例えば顔、首、腕、肢など、皮膚の性状、例えばざ瘡、シワ、シミ、クスミ、質感などが重要視され、ケミカルピーリング処置が一般に所望される部分の表皮及びその細胞であってよい。 本発明に係るスクリーニング方法において、動物の表皮又は動物の細胞に候補薬剤を作用させる工程はin vivoでもin vitroでもよいが、動物保護的観点から、in vitroで行うのが好ましい。in vitroで行う場合、動物の表皮又は細胞は培養表皮又は細胞を使用するのが好ましい。表皮及び細胞はあらゆる哺乳動物に由来してよく、好ましくはヒトのほか、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどのげっ歯類などに由来し得る。特に好ましくは、紫外線照射を施すことで皮膚老化を促進させた光老化モデル動物、特に光老化マウスモデルが使用される。 本発明のスクリーニング方法の好適な態様において、上記遺伝子発現亢進能力を有する候補薬剤をヒトあるいは適当な動物モデルの皮膚に適用し、炎症を起こさないことの確認された候補薬剤を有効な薬剤として選定する基準をさらに含んで成る。ケミカルピーリングにおいて薬剤が有効に働くためには、皮膚の炎症を起こさずに表皮細胞の増殖を増進させることが好都合であると考えられる。炎症の有無の評価は、例えば皮膚の経皮水分蒸散量(TEWL)を指標として皮膚バリア破壊を調べたり、または皮膚組織を直接観察することで行うことができる。TEWLの測定は、エバポリメーター、テヴァメーター、ミーコ水分測定機などの市販の機器によって従来公知の一般的な方法で行うことができる(例えば、特開2000-159666に記載)。動物としてはマウスの他にラット、ウサギなど様々な動物が利用できる。好適な態様においては、この薬剤の溶液、例えば水溶液を調製してから皮膚に対し塗布することでケミカルピーリング処置を施し、皮膚の炎症の発現の有無を判定することができる。 上述の通り、本発明は、皮膚改善に有効であることが広く知られている代表的なケミカルピーリング剤であるグリコール酸(GA)を用い、紫外線照射光老化モデルにおける遺伝子変動の解析を行った結果、ケミカルピーリング処理により性状の改善された皮膚中において所定の遺伝子群の発現が特異的に亢進されていることを見出したことに基づく。従って、表皮中の上記遺伝子の発現及び/もしくその遺伝子産物たるタンパク質の活性を亢進させることで、皮膚の性状の改善が期待できる。 従って、本発明は表皮におけるSPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1又は複数の遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、皮膚の改善方法、好ましくは美容方法を提供する。好ましくは、この方法は皮膚の光老化を改善する方法である。上記遺伝子の発現の亢進は、例えば当該遺伝子の発現を亢進するアクチベーターを含んで成る医薬又は皮膚外用組成物、例えばケミカルピーリングのために処方された製剤を皮膚に適用することで達成され得る。 本発明の医薬又は皮膚外用組成物は、例えば水溶液、油液、その他の溶液、乳液、クリーム、ゲル、懸濁液、マイクロカプセル、粉末、顆粒、カプセル、固形剤等の形態で適用される。従来から公知の方法でこれらの形態に調製したうえで、ローション製剤、乳液剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾール剤、水−油2層系、水−油−粉末3層系、坐剤等として、身体に塗布、貼付、噴霧、注射、飲用、挿入することができる。当該組成物は上記インヒビター又はアクチベーターをピーリング剤として、特に限定することなく、組成物全量に基づき例えば0.001mM〜1M、好ましくは0.01〜100mM、より好ましくは0.1〜10mM程度含有するであろう。 これらの剤型の中でも、ローション製剤、乳液剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾール剤等の皮膚外用剤が、本発明の目的に適する剤型である。なお、ここで記す皮膚外用剤には、医薬品、医薬部外品(軟膏剤等)、化粧料[洗顔料、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック・マスク等の基礎化粧品;ファンデーション、口紅等のメーキャップ化粧品;口腔化粧品、芳香化粧品、毛髪化粧品、ボディ化粧品等]が含まれる。 本発明の医薬又は皮膚外用組成物においては、所望する剤型に応じて従来公知の賦形剤や香料等をはじめ、油脂類、界面活性剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子、増粘剤、顔料等の粉末成分、紫外線防御剤、保湿剤、酸化防止剤、pH調整剤、洗浄剤、乾燥剤、乳化剤等が適宜配合される。さらにこの他の薬効成分を本発明の医薬又は皮膚外用組成物に配合することは、その配合により所期の効果を損なわない範囲内で可能である。光老化モデルマウス Skh-1ヘアレスマウスはチャールズリバー社より購入し、UVBを1回の照射量を54mJ / cm2から216mJ / cm2まで段階的に増加しながら、週3回、10週間照射し(照射量合計4.572 J / cm2)、光老化モデルマウスを作製した。薬剤塗布 グリコール酸(GA)は和光純薬より購入し30%水溶液を調製した(pH1.4)。ネンブタール麻酔下、光老化モデルマウスの各個体の左背部皮膚にグリコール酸溶液を20分塗布した。テープストリッピングモデルマウス Skh-1ヘアレスマウスはチャールズリバー社より購入し、各個体の左背部皮膚にテープストリッピングを行い、Vapomter(Delfin Technologies Ltd.)で23〜84(平均43±35.1)g/m2/hの中程度のバリア破壊を行った。経皮水分蒸散量(TEWL)の測定1 光老化モデルマウスについて薬剤塗布前、塗布後3時間、24時間、48時間後に塗布部位およびその反対側の無処置部位の経皮水分蒸散量(TEWL)をVapometer(Delfin Technologies Ltd.)で測定し、GA塗布による変化をn=3の平均値で表した。その結果を図1に示す。いずれの処置によっても各時点で無処置部位との有意差は認められず、テープストリッピングモデルマウスのバリア破壊処理と比較しても、明らかにバリア破壊作用は弱かった。経皮水分蒸散量(TEWL)の測定2 Skh-1ヘアレスマウスの背部皮膚の片側に40%(pH1.3、pH2.4、pH2.8)GA水溶液50μLを5分間閉塞塗布した。その1、3、6、24、48時間後の経皮水分蒸散量をelectric moisture analyzer (Meeco社製、Warrington, Pennsylvania, USA)により4箇所ずつ測定し、その平均値を同一個体の反対側の値と比較した(図2)。その結果、pH1.3のみ3〜24時間後で無処置に比較してTEWLの上昇が認められたが、その程度はテープストリッピングなどによるTEWL上昇に比べると極めて低く、バリア破壊能は極めて低いことが分かった。ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色組織像観察及び基底細胞増殖活性観察 光老化モデルマウスについて塗布後3時間、24時間、48時間後に塗布部位及び同一個体の無処置部位の皮膚を採取した。また細胞増殖活性を測定するため採取1時間前にブロモデオキシンウリジン(BrdU)を腹腔内投与しておいた。採取した組織は定法に従いHE染色による組織像観察、またBrdU抗体による免疫染色によりBrdUの取込の高い陽性細胞を識別し、一定範囲内におけるBrdU陽性細胞の数をn=3の平均値で表した。HE染色による組織像観察の結果を図3に示し、BrdUによる基底細胞増殖活性観察を図4に示す。GA処理により、48時間後には無処置部分と比較して有意にBrdU取込細胞の増加、すなわち増殖活性の上昇が認められた。一方、HE像観察により無処置部位と比較して、炎症細胞の浸潤など特に変化は認められなかった。 テープストリッピング、アセトン脱脂などによるバリア破壊によっても表皮肥厚・基底細胞の増殖が観察されるが、その際、炎症性細胞の浸潤、浮腫の形成などの炎症を伴うことが報告されている(M. Dendaほか、Arch.Dermatol.Res., vol.288,p230-, 1996)。ケミカルピーリングモデルでは経皮水分蒸散量(TEWL)の変動がほとんどないことからバリア破壊は起こっていないことが示唆され、また組織染色像の観察から明らかなように、炎症性細胞の浸潤・浮腫の形成などの炎症像が認められなかった。また、以降の遺伝子変動実験から明らかなとおり、炎症反応に関連すると考えられるTNF receptor-associated factor3 (TRAF3)(Arch, R. H., C. B. Thompson, Mol. Cell. Biol., 01 1998, 558-565,Vol 18, No. 1)、integrin, beta 6 (ITGB6)(JS Mungerほか、Cell, vol.96,p319-328, 1999、XZ Huang, J Cell Biol, vol.133, p921-928, 1996)などの遺伝子発現は、テープストリッピングでは明らかに亢進しているのに対し、ケミカルピーリングモデルでは不変であった。このことから、GAによるケミカルピーリング処置がともに、炎症を引き起こすことなく、表皮細胞・基底細胞の増殖を増進させ、表皮の再生、真皮上皮の再生に有効であることがわかる。変動遺伝子の解析1ケミカルピーリング処置した光老化モデルマウスの表皮RNAのマイクロアレイ解析 光老化モデルマウスに対し薬剤塗布3時間後または3日後、炭酸ガス吸入により屠殺し、直ちに薬剤塗布部および無処置部の背部皮膚5×10mmを採取し、液体窒素で凍結した。クリオプレスにより破砕後、ISOGEN(ニッポンジーン)1mlを加え、マニュアルに従い40〜60μgのトータルRNAを抽出した。RNeasyMini(キアゲン)のRNA cleanupの方法に従い、得られたトータルRNAを精製し、OD260/280比が1.9〜2.0であること、およびバイオアナライザー(アジレント)によりリボゾーマルRNAのピークが認められることを確認した。得られた薬剤塗布または無処置コントロール由来精製トータルRNA 500ngからLow RNA Imput Fluorescent Linear Amplification(アジレント)、Cy5-CTPまたはCy3-CTP(ともにパーキン・エルマー)を用いてマニュアルに従い蛍光色素ラベル化cRNAを調製した(薬剤処置RNAはCy5ラベル、無処置コントロールRNAはCy3ラベル)。それぞれの蛍光色素ラベルcRNA各1μgをハイブリダイゼーションキットPlus(アジレント)を用いて、マニュアルに従い、マウスオリゴ(アジレント G4121A)マイクロアレイスライド上で、60℃で17時間競合的ハイブリダイゼーションに供した。洗浄・乾燥後、直ちにマイクロアレイスキャナー(アジレント G2565AA)によりマイクロアレイの画像化を行った。得られた画像はFeature Extractionソフトウェアによりスポットの数値化を行った。 GA処理3時間後及び3日後で亢進した遺伝子とその発現量を表1に示す。 GA処理では発現が亢進されなかったが、テープストリッピングで発現の亢進された遺伝子とその発現量を表2に示す。変動遺伝子の解析2ヒト検体 下眼瞼周囲の形成手術にあたり除去される健常余剰皮膚に、署名による本人の同意を得て手術の3時間前に片側の下眼瞼に20%GA含有ゼリーを4分間塗布した。術後直ちに、塗布部及び反対側の無処置皮膚は液体窒素中で凍結した。ケミカルピーリング処置したヒト表皮RNAのマイクロアレイ解析 「変動遺伝子の解析1」に記載の方法に準じて、トータルRNAを調製し、Human 1オリゴアレイを用いてマイクロアレイ解析を行った。 GA処理後に亢進した遺伝子とその発現量を表3に示す。 GA処理では発現が亢進されなかったが、テープストリッピングで発現の亢進された遺伝子とその発現量を表4に示す。 このように、皮膚の改善に有効な処置であるGAによるケミカルピーリング処置により特異的に発現の亢進される遺伝子の存在が明らかにされた。一方、炎症反応に関連すると考えられるTRAF3、ITGB6などの遺伝子発現は、テープストリッピングでは明らかに亢進しているのに対し、ケミカルピーリングでは不変であった。したがって、ケミカルピーリング処置により特異的に発現が亢進され、炎症反応では亢進されない遺伝子が存在することが明らかとなり、このような遺伝子の発現の亢進を指標とすることで、皮膚の改善に有効なケミカルピーリング剤のスクリーニングが可能であることが示唆された。定量PCR実験 上記の方法により調製したトータルRNAは、さらにDNase処理(DNA-free RNA KitTM, Zymo Reseach)によりゲノミックDNAを除去し、ランダムプライマー(ファルマシア)を用いてSuperScriptII(Invitrogen)によりcDNAを合成した。このcDNAを鋳型にLightCyclerでLightCycler-FastStart DNAマスターSYBR Green Iキット(ともにRoche)を用いてマニュアルに従いCyberGreenを用いたリアルタイムPCRによる定量を行った(Mg2+終濃度は3mM、その他反応条件は下記の通り)。GAPDH(PCR産物の大きさ:201 bp)終濃度 0.25μMForward: 5’- GAGTCAACGGATTTGGTCGT -3’ (NM002046:95-104)Reverse: 5’- TGGGATTTCCATTGATGACA -3’ (NM002046:295-276) 変性:95℃ 15 秒、アニーリング:55℃ 10秒、伸長10秒を40サイクルhS100a8(PCR産物の大きさ:313bp, Marionnet et al., 2003改変)終濃度 0.25μMForward: 5’- GGGCAAGTCCGTGGGCATCAtGTTG -3’ (NM_002964: 37-61)Reverse: 5’- CCAGTAACTCAGCTACTCTTTGGGCTTTCT -3’ (NM_002964: 349-319) 変性:95℃ 15 秒、アニーリング:55℃ 5秒、伸長:72℃ 10秒を40サイクルhS100a9(PCR産物の大きさ:240bp, Marionnet et al., 2003改変)終濃度 0.25μMForward: 5’- GCTCCTCGGCTTTGGGACAGAGTGCAAG -3’ (NM_002965: 15-42)Reverse: 5’- GCATTTGTGTCCAGGTCCTCCATGATGTGT -3’ (NM_002965: 254-225) 変性:95℃ 15 秒、アニーリング:55℃ 5秒、伸長:72℃ 10秒を40サイクルhSprr2A(PCR産物の大きさ:318 bp, Cabral et al., 2001, JBC)終濃度 0.5μMForward: 5’- TGGTACCTGAGCACTGATCTGCC -3’ (NM_005988: 8-30)Reverse: 5’- CCAAATATCCTTATCCTTTCTTGG -3’ (NM_005988: 325-302) 変性:95℃ 15 秒、アニーリング:55℃ 10秒、伸長:72℃ 15秒を40サイクルGAPDHで補正したターゲット遺伝子量の換算: PCRサイクルの伸長反応時に測定したサイバーグリーンの蛍光光度値をサイクル数に対して片対数プロットし、閾値レベルを設定して各サンプルの対数直線増幅領域との交点をシグナルの立ち上がったサイクル数(クロッシングポイント)と定義するFitPoint法による定量法を用いた。 PCR産物量(すなわち蛍光光度)をY、初期鋳型量をA、PCRの効率に関わる因子をB(但し、0.5<B≦1)、サイクル数をXとすると Y=A×(B×2) X右項の対数をとって Y= log10[A(B×2) X]= log10A+ log10(B×2)X= X×log10(B×2)+ log10Aと表される。 PCRが理論的に進む領域、すなわち対数プロットが直線になる領域ではB=1となり異なるサンプルを鋳型としたPCRでも傾きは一定で、蛍光値の閾値(ノイズバンド)を設定して(Y=Cとする)この直線との交点(クロッシングポイント)を求めると、立ち上がりのサイクル数)が得られる。 クロッシングポイント(X)=(C-log10A)/log102 これは初期鋳型量を反映している。従って、PCR効率が同じであれば異なるサンプルの鋳型量はどれか一つのサンプルの鋳型量A0を基準として相対値A/A0はそれぞれの立ち上がりのサイクル数(X,X0)から求められる。 このようにして求めたFGF-7遺伝子の初期鋳型量(A/A0)をそれぞれのサンプルのGAPDHの初期鋳型量(AG/AG0)で標準化した値 を比較した。その結果を図5に示す。ヒト100A8,100A9,SPRR2A遺伝子の発現全てについて、ケミカルピーリング処置により顕著に上昇することが明らかとなった。経皮水分蒸散量(TEWL)を指標とした、ケミカルピーリング処置及びテープストリッピング処置の皮膚バリア機能に対する影響の検討。TEWLを指標とした、各種pHのGAケミカルピーリング剤処置の皮膚バリア機能に対する影響の検討。HE染色像組織観察によるGAケミカルピーリング剤処置の皮膚に対する影響の検討。基底層におけるGA及びSAケミカルピーリング剤処置の表皮細胞増殖活性の検討。ヒト100A8,100A9,SPRR2A遺伝子の発現のケミカルピーリング処置による上昇を示す定量PCR結果。CPはケミカルピーリング処置、NTは未処置を表わす。 ケミカルピーリングに使用するのに有効なケミカルピーリング剤のスクリーニング方法であって、SPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1もしくは複数の遺伝子、又は当該遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーション可能なポリヌクレオチドの発現を亢進させる候補薬剤を有効なケミカルピーリング剤として選定することを特徴とする方法。 前記スクリーニング方法が、 動物の表皮又は動物細胞に候補薬剤を作用させ;そして 当該表皮又は細胞におけるSPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1もしくは複数の遺伝子、又は当該遺伝子に対し高ストリンジェント条件下でハイブリダイゼーション可能なポリヌクレオチドの発現がコントロール表皮又は細胞中の同遺伝子に比べ亢進している場合、有効なケミカルピーリング剤として選定する; ことを含んでなる、請求項1記載の方法。 前記遺伝子の発現の亢進が、前記表皮又は細胞から抽出された当該遺伝子のmRNAの量を測定することにより決定される、請求項2記載の方法。 前記mRNAの測定をポリメラーゼ連鎖反応法により行う、請求項3記載の方法。 前記細胞が光老化マウス表皮細胞である、請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。 さらに、上記選定した薬剤をモデル動物に適用し、炎症を起こさないことの確認された候補薬剤を有効な薬剤として選定することを含んで成る、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。 表皮細胞におけるSPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子の発現を亢進させることを特徴とする、皮膚の改善方法。 前記皮膚が光老化皮膚である、請求項6記載の方法。 【課題】 ケミカルピーリング剤のスクリーニング方法及び皮膚改善方法の提供。【解決手段】 本発明は、ケミカルピーリングに使用するのに有効なケミカルピーリング剤のスクリーニング方法であって、SPRR 2A遺伝子、SPRR 2D遺伝子、SPRR 2H遺伝子、SPRR 2F遺伝子、SPRR 1A遺伝子、SPRR 1B遺伝子、レペチン遺伝子、S100 A8遺伝子、S100 A9遺伝子、シスタチン A遺伝子、CCL2遺伝子及びCEBPD遺伝子から成る群から選ばれる1又は複数の遺伝子の発現を亢進させる候補薬剤を有効なケミカルピーリング剤として選定することを特徴とする方法。【選択図】 なし配列表