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タイトル:公開特許公報(A)_嫌気性微生物用の培地および培養方法
出願番号:2005076986
年次:2006
IPC分類:C12N 1/20


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高橋 誠 塚越 範彦 鈴木 伸和 倉根 隆一郎 JP 2006254790 公開特許公報(A) 20060928 2005076986 20050317 嫌気性微生物用の培地および培養方法 株式会社クボタ 000001052 北村 修一郎 100107308 山▲崎▼ 徹也 100114959 太田 隆司 100126930 ▲崎▼山 尚子 100114096 高橋 誠 塚越 範彦 鈴木 伸和 倉根 隆一郎 C12N 1/20 20060101AFI20060901BHJP JPC12N1/20 A 9 OL 15 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「生分解・処理メカニズムの解析と制御技術の開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願) 4B065 4B065AA01X 4B065BB02 4B065BB08 4B065BC50 本発明は、嫌気性微生物の産業利用技術に関し、詳細には、嫌気性微生物の単一培養物の生産性を向上する技術に関する。 嫌気性微生物は、分子状酸素の非存在下で生育並びに増殖が可能な微生物である。例えば、硫酸塩類を最終電子受容体として有機物および水素を酸化してエネルギーを得る硫酸還元細菌は、偏性嫌気性の微生物である。そして、これら嫌気性微生物には環境汚染物質、例えば、塩素化芳香族化合物等の生分解に関与するものがあることが報告されており、環境修復等の産業利用のため嫌気性微生物の大量培養技術の構築が求められていた。一般に、微生物の均一な培養物を大量に取得するためには液体培地中で培養することが最も効率的であることが知られている。したがって、嫌気性微生物を大量に培養するためには液体培地を嫌気条件化することが必要となる。しかしながら、特に硫酸還元菌のような偏性嫌気性微生物の増殖に要求される厳密な嫌気性環境の形成は極めて困難であった。 従来、培地を嫌気条件化するための方法として、酸素を含まないガスにより培地をガス置換する方法、培地中に還元剤を添加する方法等が用いられてきた。詳細には、ガス置換する方法として、N2ガスや、N2ガスとCO2ガスとの混合ガスの注入により培地中の溶存酸素を除去する方法が報告されていた(例えば、非特許文献1を参照のこと。)。更に、硫酸還元菌が発生する硫化水素を除去するためにN2ガス等の不活性ガスを通気する方法が報告されていた(例えば、特許文献1を参照のこと。)。還元剤を用いる方法としては、N2ガスとCO2ガスとの混合ガスに加え硫化ナトリウムとL−システインを添加する方法(例えば、非特許文献2を参照のこと。)、アスコルビン酸を添加する方法(例えば、特許文献2を参照のこと。)等が報告されている。これらの方法は還元剤の還元作用により培地の溶存酸素を除去するものである。更に、還元剤の添加として、嫌気性微生物の培養を目的とするものではないが、亜硫酸ナトリウムの添加により溶存酸素を除去してビリルビンオキシダーゼ活性を安定維持する方法も報告されていた(例えば、特許文献3を参照のこと。)。 しかしながら、ガス置換する方法は、上述したN2ガスや混合ガス等はコストが高く、また、大量の培地をガス置換するためには長時間を要するのが現状であった。また、還元剤を用いる方法は、還元剤の多くは取り扱いが難しく、嫌気ボックス等の特殊な装置を必要とし操作が煩雑となるという問題点があった。例えば、硫化ナトリウムは取り扱いが非常に難しく、L−システイン、アスコルビン酸は還元力が弱いため所望の嫌気性環境の形成には至らず、いずれも硫酸還元菌等の嫌気性微生物の大量培養への適用には満足できるものではなかった。 そこで、ガス置換や還元剤を用いずに培地を嫌気条件化する方法として、好気性微生物と嫌気性微生物とを混合して培養を行う方法も報告されていた。つまり、かかる方法は、好気性微生物の増殖過程において溶存酸素を除去するものである(例えば、特許文献4、5を参照のこと。)。そして、好気性微生物の作用により培地が嫌気条件化した後に嫌気性微生物の増殖を促すものである(例えば、特許文献4を参照のこと。)。しかしながら、これらの方法は、操作は単純であるが、嫌気性微生物のみの単一培養物を得ることは不可能であった。そのため、産業利用、特には環境修復等の目的で微生物を用いる場合には、純粋な単一培養した菌体が必要となるが、上述した方法では、かかる産業利用の要請に応じることができないという問題点があった。特公平6−4020号公報特許第2666323号公報特開平10−42869号公報特開平7−274942号公報特開2003−225691号公報JAN GERRITSE他著、“Influence of Different Electron Donors and Acceptors on Dehalorespiration of Tetrachloroethene by Desulfitobacteriumfrappieri TCE1(Desulfitobacterium frappieri TCE1によるテトラクロロエチレンの脱ハロゲン呼吸における種々の電子供与体と受容体の影響)”APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY、1999年12月、第65巻、第12号、第5212〜5221頁ATCC Cultures, Bacteria Collection Catalog,[online]. ATCC :The Global Bioresource Center,[平成17年2月18日検索]、インターネット<URL: http://www.atcc.org/SearchCatalogs/longview.cfm?view=ba,9238975,700295&text=700295&max=20(URL:http://www.atcc.org/mediapdfs/2063.pdf)> そこで、本発明は、嫌気性微生物の均質な単一培養物を効率的に低コストかつ簡便に取得でき、それにより嫌気性微生物の産業利用のための大量培養技術の確立を可能にする嫌気性微生物用培地の製造方法の提供を目的とする。更に、かかる製造方法により製造された嫌気性微生物用培地、及び、それを用いた嫌気性微生物の培養方法の提供を目的とする。 上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意研究した結果、従来の一般的な嫌気性微生物用培地を改良し、亜硫酸塩、チオ硫酸塩濃度の最適化と、更に、加熱加圧処理との相乗効果により効率的に培地の嫌気条件化を達成でき、それにより、嫌気性微生物の生産性を向上できることを見出した。更に、加熱加圧処理後に炭酸塩を添加することにより培地の嫌気条件化を促進できることを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。 即ち、上記目的を達成するため、本発明において、嫌気性微生物用培地の製造方法であって、前記培地の全容量を基準として20〜200mMとなるように亜硫酸塩およびチオ硫酸塩の少なくとも1種を溶解させて、嫌気性微生物用培地を製造する培地の製造方法が提供される。そして、好ましくは、前記溶解後に、加熱加圧処理を施す。また、好ましくは、上記培地の製造方法は、更に、前記加熱加圧処理後に、炭酸塩を添加するものであり、前記炭酸塩が前記培地の全容量を基準として20mM以上となるように添加されることが好ましい。 更に、上記培地の製造方法は、前記亜硫酸塩が亜硫酸ナトリウムであることが好ましい。 そして、前記嫌気性微生物が、硫酸還元菌であることが好ましく、更に、前記硫酸還元菌が、Desulfitobacterium sp. KBC1株(日本国独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号FERM BP−08573)であることが特に好ましい。 また、上記目的を達成するため、本発明において、上記したいずれかの培地の製造方法により製造された嫌気性微生物用培地が提供される。 さらに、上記目的を達成するため、本発明において、上記した培地を用いて嫌気性微生物を培養する嫌気性微生物の培養方法が提供される。 本発明によれば、硫酸還元菌、特には、Desulfitobacterium sp. KBC1株等の嫌気性微生物の均質な単一菌体の大量培養物を効率的に低コストかつ簡便に得ることができる。したがって、嫌気性微生物を利用した土壌、水等の環境修復事業を実施する上で、大きなコストメリットを得ることができ、嫌気性微生物の産業利用に有用な技術である。 以下、具体的な本発明の一実施形態に係る嫌気性微生物用培地の製造方法、嫌気性微生物用培地および嫌気性微生物の培養方法について説明する。ただし、あくまでも本発明を例示するに留まり、本発明を限定するものではない。 本発明の実施形態に係る嫌気性微生物用培地の製造方法は、亜硫酸塩、チオ硫酸塩濃度の最適化と、更に、好ましくは加熱加圧処理との組合わせにより、硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物の生育及び増殖に好適な嫌気性環境を形成するものである。これにより、嫌気性微生物の生産性を向上することができる。 ここで、本発明が適用される嫌気性微生物は、分子状酸素非存在下で生育する微生物であり、特にその種類について制限はない。そして、嫌気性微生物は、酸素が存在すると生育が阻害されるか或いは死滅する偏性嫌気性微生物と、酸素の有無にかかわらず生育できる通性嫌気性微生物に大別される。本発明の適用においては、いずれでも良いが、偏性嫌気性微生物が特に好ましい。具体的には、硫酸還元菌、メタン生成細菌、紅色硫黄細菌および緑色硫黄細菌のような光合成細菌、および、Bacteroidesのような発酵性細菌等が例示されるが、特に好ましくは、硫酸還元菌である。 硫酸還元細菌は、硫酸塩類を最終電子受容体として有機物および水素を酸化してエネルギーを得られる偏性嫌気性の微生物であり、なかでも亜硫酸還元菌が好ましい。詳細には、Desulfitobacterium属、Desulfovibrio属、Desulfuromonas属、Desulfotomaculum属、Desulfococcus属、Desulfobacter属、等に属する微生物が例示される。好ましくは、Desulfitobacterium属に属する微生物、特に好ましくは、受託番号FERM BP−08573として日本国独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託されたDesulfitobacterium sp. KBC1株に適用される。 本発明で使用される亜硫酸塩およびチオ硫酸塩の種類は、培地中の溶存酸素を除去できる脱気作用を有する限り、特に制限はない。前記亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が使用できる。これらの中でも、亜硫酸ナトリウムの使用が好ましい。また、チオ硫酸塩としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウム、チオ硫酸アンモニウム等が使用できる。これらの1種又は必要に応じて2種以上を組合わせて培地中に溶解する。このとき、2種以上の組合わせとしては、亜硫酸塩、チオ硫酸塩の夫々の2種以上の組合わせの他、亜硫酸塩とチオ硫酸塩を組み合わせて使用することができる。 そして、亜硫酸塩、チオ硫酸塩濃度は、培地の全容量を基準として20〜200mMの範囲であり、好ましくは50〜200mMの範囲、特に好ましくは100mMである。上記範囲内の亜硫酸塩、チオ硫酸塩の存在により、その還元作用を充分に発揮できるようになる。それにより、培地中の溶存酸素が効率的に除去されて培地の脱気効果が高まる。そして、亜硫酸塩、チオ硫酸塩濃度が上記範囲より低くなると嫌気性微生物の生育に好適な嫌気性環境を形成できず、また、亜硫酸塩、チオ硫酸塩濃度が高すぎると、その毒性により嫌気性微生物の生育並びに増殖が阻害される。 本発明において使用される培地成分は、亜硫酸塩、チオ硫酸塩濃度以外は、嫌気性微生物用培地として公知の培地成分を利用することができ、天然培地若しくは合成培地のいずれでもよい。したがって、各種培地成分を適宜混合することにより製造してもよく、若しくは、市販されている培地を改変して利用することもできる。市販の培地を改変して使用する場合には、例えば、ATCC medium:2063(Desulfuromonas medium)等を利用できる。 詳細には、炭素源、窒素源、無機塩類、微量元素、あるいは成長因子等の硫酸還元菌の増殖に必要な増殖基質を含むように構成される。これらの増殖基質は本発明が適用される嫌気性微生物の種類に応じて適宜選択して使用される。 炭素源としては、乳酸、ピルビン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、エタノール、メタノール等、嫌気性微生物が資化し得る公知の有機化合物を使用できる。これらの炭素源を単独で若しくは2種以上の混合物の形態として使用できる。なかでも、乳酸を主炭素源とすることが嫌気性微生物、特には硫酸還元菌の良好な増殖の観点から好ましい。このとき、添加される乳酸は、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸アンモニウム等の乳酸塩の形態で添加してもよい。 また、窒素源としては、無機窒素化合物若しくは有機窒素化合物のいずれをも使用でき、例えば、尿素、アンモニア、塩化アンモニウム等のアンモニア塩、酵母エキス、ペプトン、麦芽エキス、肉エキス等を使用できる。これらの窒素源を単独で若しくは2種以上の混合物の形態として使用できる。 また、無機塩類としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウム等のリン酸塩、塩化物、酢酸塩等が例示される。また、成長因子としては、例えば、チアミン、葉酸、ピリドキシンおよびビオチン等のビタミン類を含むことができる。なお、塩類として炭酸塩を添加する場合には後述するように加熱加圧処理後に添加することが好ましい。 培地の形態は、液体培地若しくは固体培地のいずれでも良く使用目的に応じて適宜選択されるが、嫌気性微生物の均質な単一培養物の効率的な取得の観点から大量培養に適した液体培地とすることが好ましい。 亜硫酸塩、チオ硫酸塩の培地への溶解後、好ましくは加熱加圧処理を施す。このとき、加熱加圧処理は亜硫酸塩、チオ硫酸塩による脱気効果が保持されている期間内に行なわれ、好ましくは、亜硫酸塩、チオ硫酸塩の溶解直後〜30分以内に行われる。 加熱加圧処理は、公知のいずれの方法によっても行うことができるが、例えばオートクレーブを用いて行うことができる。オートクレーブは、所定の温度での飽和水蒸気圧の加圧状態に維持することにより微生物を殺滅処理する高圧蒸気滅菌装置である。 加熱加圧処理の条件は、特に制限されないが、好ましくは、微生物を殺滅するために必要な温度および圧力の水蒸気で一定時間加熱する。121℃の飽和水蒸気を得るためには、1kgf/cm2の加圧が必要となり、微生物の殺滅のためには少なくとも1kgf/cm2以上加圧する。したがって、121℃以上、1kgf/cm2以上の加圧下で所定時間加熱加圧処理することが好ましい。通例、滅菌処理は、加熱水蒸気の温度が121℃の場合には15分間、あるいは126℃の場合には10分間行なわれるが、培地のスケール等に応じて適当な条件を設定することができ、加熱加圧処理時間は10〜60分間の範囲に設定することが好ましい。 加熱加圧処理により培地中の微生物は殺滅されると同時に培地中の気体は脱気される。そして、培地中に溶解させた亜硫酸塩、チオ硫酸塩の脱気作用との相乗効果により、培地中の溶存酸素濃度は極めて低くなり、嫌気性微生物の培養に好適な嫌気性環境が形成される。それにより、嫌気性微生物の増殖量が増大し生産性を向上できる。また、嫌気ボックスのような煩雑な手順や、その他の取り扱いの難しい還元剤を使用することなく、効率的に簡便かつ低コストに嫌気性微生物の培養に好適な嫌気性環境を形成できる。 更に、好ましくは、本発明の培地は炭酸塩が添加される。このとき、炭酸塩は加熱加圧処理後に添加される。炭酸塩の加熱加圧処理前の添加は、培地中に炭酸イオンが溶存していると半開放系容器で加熱加圧処理を行った場合に炭酸イオンがガス化することによりpHが大きく変動し菌体の増殖に著しく影響を与えるため好ましくない。 ここで、添加する炭酸塩の種類は、嫌気性微生物の生育並びに増殖を阻害するものでない限り特に制限はない。前記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム 、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムおよび炭酸トリス等が使用できる。これらの1種又は必要に応じて2種以上を組合わせて添加する。これらの中でも、炭酸水素ナトリウムの添加が好ましい。そして、炭酸塩の添加濃度は20mM以上とすることが好ましく、特には40mM以上とすることが好ましい。更には、経済的見地から20〜160mM、更には40〜160mM程度とすることが特に好ましい。 炭酸塩を添加することにより、培地の嫌気条件化を更に促進でき、嫌気性微生物の生育並びに増殖のための、より好適な嫌気性環境の形成が可能となる。これにより、嫌気性微生物の培養において対数増殖期への移行が早くなり、所望の菌体増殖量に到達までに要する期間を短縮でき、硫酸還元菌生産の更なる効率化を図ることができる。 上記の如くに製造された嫌気性微生物用培地も本発明の一実施形態をなす。本発明の実施形態の嫌気性微生物用培地は嫌気性微生物の培養に好適な嫌気性環境を提供することできる。かかる培地で嫌気性微生物を培養することより、菌体の増殖量が増大することから、嫌気性微生物の生産性が向上し効率的な培養が可能となる。したがって、嫌気性微生物の均質な大量の単一培養物を効率的に取得することが可能となる。 したがって、上記の如くに製造された嫌気性微生物用培地を用いた嫌気性微生物の培養方法も本発明の一実施の形態をなす。なお、温度、pH等の培養条件は、培養に供される嫌気性微生物の種類に応じて適宜設定することができる。また、培養形態に関しても特に制限はなく、静置培養等が例示されるが嫌気性微生物の種類、培養目的及び培養スケール等に応じて適宜設定することができる。本発明の培養方法によれば、嫌気ボックスのような煩雑な手順や、その他の高価かつ取り扱いの難しい還元剤を使用する必要がない。そのため、効率的に簡便かつ低コストに嫌気性微生物の培養に好適な嫌気性環境を形成できる。更には、本発明の培養方法によれば、効率的に嫌気性微生物を培養することができ、嫌気性微生物の生産性を向上できる。 以下に実施例および比較例との対比により本発明を具体的に説明する。ただし、以下の実施例および比較例により本発明が限定的に解釈されるものではない。したがって、本実施例および比較例において、嫌気性微生物として硫酸還元菌を例示して説明するが、これに限定する意図はない。つまり、本発明により嫌気性微生物の生育並びに増殖に好適な培地の嫌気条件化が達成できることから、本発明は嫌気性微生物全般に適用されるものである。そして、特に制限がない限り硫酸還元菌として、亜硫酸還元菌Desulfitobacterium sp. KBC1株(以下、「KBC1株」と略する場合がある。)を使用した。本KBC1株は、日本国独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、受託番号FERM BP−08573として受託されたものである。(実施例1) 最適化濃度の亜硫酸塩を溶解後に加熱加圧処理により滅菌し、滅菌後に炭酸塩を添加することにより製造した培地について、嫌気性微生物である硫酸還元菌の増殖を検討した。このとき、培地に添加される炭素源として乳酸を使用した。以下、かかる培地を「乳酸+亜硫酸塩+炭酸塩培地」と称する。〔実験方法〕(1)培地の組成 ここで製造した培地は上記背景技術の項で説明した非特許文献2に記載のATCC medium:2063(Desulfuromonas medium)を改変したものである。培地の組成を以下の表1に示す。 ここで、使用したSL-10 Trace Elements Solution、および、Wolfes Vitamin Solutionの組成を以下の表2、3にそれぞれ示す。(2)培地の製造(a)乳酸培地の溶解 A培地を適量の蒸留水に溶解した。溶解後、蒸留水にて950mlに定容し、容量1lのねじ口瓶に注入した。(b)亜硫酸塩の添加 亜硫酸塩であるB培地を、上記工程(a)で950mlに定容した、ねじ口瓶中に添加し、約3分間スターラーで攪拌してB培地を溶解した。溶解後0〜30分以内にオートクレーブにて121℃で20分間加熱加圧滅菌し、冷却後、ねじ口瓶の蓋を閉めた。本実施例においては、亜硫酸塩として亜硫酸ナトリウム使用したが特に制限されるものではない。(c)炭酸塩の添加 予め、50mlの蒸留水に溶解した炭酸塩溶液であるC溶液を密栓した100mlバイアル瓶中でオートクレーブにて121℃で20分間滅菌した。続いて、滅菌後のC溶液を上記工程(b)で製造した加熱加圧滅菌後の培地に添加した。添加後、ねじ口瓶の蓋を閉めた。本実施例においては、炭酸塩として、炭酸水素ナトリウムを使用したが、特に制限されるものではない。(3)菌体の培養 KBC1株を培地に接種した。この時、菌体の接種量は培地に対して0.01〜5重量%とした。菌体の接種時期は、培地の製造後1週間程度の期間内であれば特に制限されるものではない。したがって、C溶液の添加の際に同時に接種してもよく、また、C溶液の接種後1週間程度の期間を空けて接種してもよい。菌体接種後、30℃で暗所にて静置培養した。4〜6日間培養後、菌体増殖の指標として、培養液の600nmにおける濁度(OD600nm)を経時的に測定し、菌体の増殖を確認した。(実施例2) 最適化濃度の亜硫酸塩を溶解後に加熱加圧処理により滅菌することにより製造した培地について、嫌気性微生物である硫酸還元菌の増殖を検討した。このとき、培地に添加される炭素源として乳酸を使用した。即ち、実施例2で製造した培地は実施例1で製造した培地と炭酸塩添加工程がない点で相違するのみである。以下、かかる培地を「乳酸+亜硫酸塩培地」と称する。〔実験方法〕(1)培地の組成 炭酸塩溶液であるC溶液を含まないことを除いては実施例1と同一組成とした。(2)培地の製造 炭酸塩添加工程である工程(c)を含まないことを除いては、実施例1と同様に製造した。(3)菌体の培養 実施例1と同様にKBC1株を培養して菌体の増殖を確認した。(比較例1) 比較例として、既知の嫌気性微生物用培地についての嫌気性微生物である硫酸還元菌の増殖を確認した。以下、かかる培地を「既知培地」と称する。(1)培地の組成 既知の嫌気性微生物用培地としては、上記背景技術の項で説明した非特許文献2に記載のATCC medium:2063(Desulfuromonas medium)を用いた。かかる培地は、実施例1、2の「乳酸+亜硫酸塩+炭酸塩培地」、及び、「乳酸+亜硫酸塩培地」の改変の基礎とした培地である。炭素源として乳酸の代わりフマル酸を、還元剤として亜硫酸塩の代わりにL−システイン並びに硫化ナトリウムを含有して構成された以外は、実施例1と同一組成により構成されている。培地の組成を以下の表4に示す。(2)培地の製造 培地成分を適量の蒸留水880mlに溶解した後、オートクレーブにて加圧滅菌した。滅菌後、80%N2ガスと20%のCO2ガスの雰囲気下で冷却した。続いて、予め所定量の蒸留水に溶解したA、B、CおよびD溶液をオートクレーブにて滅菌した。このとき、A溶液はCO2ガスの雰囲気下で、B〜D溶液はN2ガスの雰囲気下で滅菌処理に供した。滅菌後、A〜D溶液を上記で製造した培地に添加した。なお、その他の詳細な実験条件は、実施例1、2の培地の製造方法に準拠して行った。(3)菌体の培養 培地にKBC1株を接種後、N2ガスおよびCO2ガスの混合ガスの雰囲気下で菌体を培養した以外は、実施例1と同様に培養して菌体の増殖を確認した。〔結果〕 実施例1の「乳酸+亜硫酸塩+炭酸塩培地」、実施例2の「乳酸+亜硫酸塩培地」、比較例1の「既知培地」の各培地におけるKBC1株の増殖を経時的に確認した増殖曲線を図1に示す。「乳酸+亜硫酸塩+炭酸塩培地」および「乳酸+亜硫酸塩培地」の菌体の増殖量は約1×109細胞数/mlに達し、「既知培地」が約6.7×108細胞数/mlであったのに対し、約1.5倍の硫酸還元菌の増殖量を達成できることが確認された。また、「乳酸+亜硫酸塩+炭酸塩培地」は、「乳酸+亜硫酸塩培地」と比較して、菌体増殖の対数増殖期に至るまでの期間を短縮でき、効率的に硫酸還元菌を培養できることも確認された。 したがって、亜硫酸塩濃度の最適化と加熱加圧滅菌を組合せることにより、硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物の培養に非常に適した培地の嫌気性環境が得られ嫌気性微生物の生産性が向上することが判明した。また、加熱加圧滅菌後の炭酸塩の添加により、培地の嫌気条件化が促進され、更に嫌気性微生物の生産の効率化を図れることも判明した。以上の結果より、嫌気ボックスのような煩雑な手順や、その他の高価かつ取り扱いの難しい硫化ナトリウム等の強力な還元剤を使用することなく、効率的に硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物の生産性を向上できることが判明した。また、亜硫酸塩と同等の脱気効果を有することが知られているチオ硫酸塩の使用によっても同様の効果が得られることが導かれる。(実施例3) 嫌気性微生物の培養に用いる培地の嫌気性環境を形成するために、亜硫酸塩濃度が嫌気性微生物である硫酸還元菌の増殖に与える影響を検討した。 亜硫酸塩として亜硫酸ナトリウムを10、20、50、100、200、400mMとなるようにそれぞれ添加した以外は、培地の組成、製造並びに培養方法は、実施例1と同様に行った。8日間培養して実施例1と同様にKBC1株の増殖を確認した。結果を図2に示す。 亜硫酸ナトリウムを20〜200mM添加することで、KBC1株はいずれの場合も良く生育並びに増殖し、菌体数が増加することが確認された。50〜200mM、特には、100mMの添加により、菌体の対数増殖期への移行が早くなり培養期間を短縮できることが確認できた。一方、400mMの亜硫酸ナトリウムの添加により菌体の増殖が抑制されることも判明した。 以上の結果により、亜硫酸塩を20〜200mM添加することにより硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物の増殖が促進されて菌体の生産性を向上できることが判明した。また同時に、50〜200mM、特には、100mMの添加により硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物生産の更なる効率化が図れることも判明した。(実施例4) 嫌気性微生物の培養に用いる培地の嫌気性環境を形成するために、炭酸塩濃度が嫌気性微生物である硫酸還元菌の増殖に与える影響を検討した。 炭酸塩として炭酸水素ナトリウムを10、20、40、80、120、160mMとなるようにそれぞれ添加した以外は、培地の組成、製造並びに培養方法は、実施例1と同様に行った。更に、コントロールとして炭酸塩を添加しない培地を製造して菌体を培養した。6日間培養して実施例1と同様にKBC1株の増殖を確認した。結果を図3に示す。 いずれの場合においても、KBC1株は良く増殖したが、炭酸水素ナトリウム濃度を20mM以上とすると、対数増殖期への移行が早くなり培養期間を短縮できることが確認できた。特に、40mM以上となると、対数増殖期への移行が更に早くなることが確認できた。 以上の結果により、炭酸塩を20mM以上添加することにより硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物生産の効率化が図れることが判明した。また、炭酸塩を40mM以上とすることで更なる生産性の効率化が図れることが判明した。これは、加圧加熱滅菌後の炭酸塩の添加により培地の嫌気条件化が促進され、嫌気性微生物が培地にスムーズに適応しているものと推定される。(比較例2) 嫌気性微生物の培養に適した培地の嫌気性環境を形成することが可能か否か、還元剤を添加した場合について検討した。 まず、特許第2666323号公報に記載の方法において嫌気性環境の形成のための還元剤として用いられているアスコルビン酸について検討した。上記特許第2666323号公報に記載の方法に従い、アスコルビン酸を還元剤として添加した溶液を製造した。まず、18℃の蒸留水100mlを100ml容量のメジューム瓶に注入し、アスコルビン酸を1g/100ml、5g/100mlとなるように添加した。続いて、これらの溶液をスターラーで攪拌してアスコルビン酸を完全に溶解させた。溶解後、ORP計を用いて各溶液の酸化還元電位を測定した。さらに、コントロールとして、アスコルビン酸を添加しない溶液を製造して同様に酸化還元電位を測定した。結果を表5に示す アスコルビン酸を添加することで溶液中の酸化還元電位が低下することが確認されたが、嫌気性微生物である硫酸還元菌を培養するために好適な酸化還元電位0〜−200mVには至らなかった。なお、アスコルビン酸の添加量は最大で5重量%となっており、その還元力を発揮するための充分量が添加されているものと推定される。したがって、特許第2666323号に記載のアスコルビン酸では、硫酸還元菌をはじめとする嫌気性微生物の培養に必要な嫌気性環境が確保できないことが判明した。 したがって、アスコルビン酸等のような亜硫酸塩およびチオ硫酸塩以外の還元剤では、上記実施例で示したような嫌気性微生物の生産性の増大に関して良好な結果を得られないことが判明した。実施例1、実施例2および比較例1の、亜硫酸塩濃度の最適化と加熱加圧滅菌、および、加熱加圧滅菌後の炭酸塩の添加が嫌気性微生物の増殖に対する効果を示す図。実施例3の亜硫酸塩濃度が嫌気性微生物の増殖に及ぼす影響を示す図実施例4の炭酸塩濃度が嫌気性微生物の増殖に及ぼす影響を示す図 嫌気性微生物用培地の製造方法であって、 前記培地の全容量を基準として20〜200mMとなるように亜硫酸塩およびチオ硫酸塩の少なくとも1種を溶解させて、嫌気性微生物用培地を製造する培地の製造方法。 前記溶解後に、加熱加圧処理を施す請求項1に記載の培地の製造方法。 更に、前記加熱加圧処理後に、炭酸塩を添加する請求項1又は2に記載の培地の製造方法。 前記炭酸塩を、前記培地の全容量を基準として20mM以上となるように添加する請求項3に記載の培地の製造方法。 前記亜硫酸塩が、亜硫酸ナトリウムである請求項1〜4のいずれか一項に記載の培地の製造方法。 前記嫌気性微生物が、硫酸還元菌である請求項1〜5のいずれか一項に記載の培地の製造方法。 前記硫酸還元菌が、Desulfitobacterium sp. KBC1株(日本国独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、受託番号FERM BP−08573)である請求項6に記載の培地の製造方法。 請求項1〜7のいずれか一項に記載の培地の製造方法により製造された嫌気性微生物用培地。 請求項8に記載の培地を用いて嫌気性微生物を培養する嫌気性微生物の培養方法。 【課題】 嫌気性微生物の均質な単一培養物を低コストかつ簡便に取得でき、それにより嫌気性微生物の産業利用のための大量培養技術の確立を可能にする嫌気性微生物の製造方法を提供する。更に、かかる製造方法により製造された嫌気性微生物用培地、及び、それを用いた嫌気性微生物の培養方法を提供する。【解決手段】 嫌気性微生物用培地の製造方法であって、前記培地の全容量を基準として20〜200mMとなるように亜硫酸塩およびチオ硫酸塩の少なくとも1種を溶解させて、嫌気性微生物用培地を製造する培地の製造方法、および、かかる製造方法により製造される嫌気性微生物用培地およびそれを利用する嫌気性微生物の培養方法。【選択図】なし


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