タイトル: | 公開特許公報(A)_バセドウ病モデルマウス |
出願番号: | 2005022594 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | A01K 67/027,G01N 33/15,C12N 15/09 |
吉田 正 JP 2006204224 公開特許公報(A) 20060810 2005022594 20050131 バセドウ病モデルマウス 吉田 正 505037615 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 古館 久丹子 100129160 吉田 正 A01K 67/027 20060101AFI20060714BHJP G01N 33/15 20060101ALI20060714BHJP C12N 15/09 20060101ALI20060714BHJP JPA01K67/027G01N33/15 ZC12N15/00 A 6 OL 15 4B024 4B024AA11 4B024BA63 4B024CA03 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA14 4B024GA27 本発明は、バセドウ病モデルマウスとその作製方法、並びに該モデルマウスの利用発明に関するものである。さらに詳しくは、本出願は、新規のバセドウ病モデルマウスと、該モデルマウスの作製方法、並びに該モデルマウスを用いたバセドウ病治療薬のスクリーニング方法に関するものである。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症を主な特徴とする臓器特異的自己免疫疾患であり、甲状腺刺激ホルモン受容体(thyroid-stimulating hormone receptor、以下、TSHR)を刺激する自己抗体(TSAb)の産生により発症する。 ヒトの疾患の病因・病態を解明するに際して、その疾患に良く似た病態を示す実験動物(in vivoでの疾患モデル)を用いて、実験的に疾患を解析していく方法は、その疾患の治療法の確立、あるいはその疾患に対する薬剤の有効性の効果判定において有用なものである。 バセドウ病における自己抗体の産生機序を解析するために、これまでに複数の研究グループによりバセドウ病モデルマウスの作製が試みられてきた(非特許文献1)。しかしながら、現在までに自己抗体の産生機序の詳細は明らかになっておらず、in vivoにおけるバセドウ病の病態をできるだけ効率よく再現できる、より簡便な疾患モデル動物の確立が必要とされている。Gattadahalli S. Seetharamaiah, Autoimmunity (2003), vol.36, pp381-387GilmanAG, Cell (1984), 36, pp577-579Tate RL,Schwarz HI, Holmes JM, et al, J Biol Chem (1975) 250,pp6509-6515 本発明は、新規のバセドウ病モデルマウスと、該モデルマウスの作製方法を提供することを課題としている。また、本発明は、該モデルマウスを用いたバセドウ病治療薬のスクリーニング方法を提供することを課題としている。 生体内(in vivo)エレクトロポレーション法(以下、生体内(in vivo)EP法)とは、低電圧パルスを筋肉に与えることにより外来遺伝子の導入効率を飛躍的に上げる方法であり、高い外来タンパク質の発現が期待できる。本発明者はこの生体内(invivo)EP法に着目し、生体内(invivo)EP法により筋肉細胞にTSHR遺伝子を担持するベクターを導入する方法を用いて新規のバセドウ病モデルマウスの作製を達成し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、1.in vivo エレクトロポレーション法により、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)遺伝子を担持するベクターを筋肉細胞内に導入する工程を含むバセドウ病モデルマウスの作製方法、2.TSHR遺伝子がTSHRの全領域および細胞外領域をコードする遺伝子である、前項1に記載の方法、3.マウス血清におけるTSHRに対する刺激型抗体の活性(TSAb活性)をTSHR発現細胞株を用いて検出する工程を含む前項1または2に記載の方法、4.TSHR発現細胞株が以下の工程を含む方法により作製されたTSHR発現細胞株である前項3に記載の方法;1)TSHR遺伝子を担持するベクターを動物細胞に導入する工程、2)磁気細胞分離システムによりTSHR発現細胞株のクローニングを行う工程、5.前項1〜4のいずれか1項に記載の方法により作製されるバセドウ病モデルマウス、6.前項5に記載のバセドウ病モデルマウスを用いるバセドウ病治療薬のスクリーニング方法、からなる。 本発明により、バセドウ病の病態を効率よく再現する簡便なバセドウ病モデルマウスが提供される。該モデルマウスによって、バセドウ病の病態解析、例えば自己抗体の産生機序の詳細の解析がいっそう促進されるとともに、バセドウ病治療薬のスクリーニングが可能となる。 以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。以下の詳細な説明は例示であり、説明のためのものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。 本発明の一態様は、生体内(in vivo)EP法により、TSHR遺伝子を担持するベクターを筋肉細胞内に導入する工程を含むバセドウ病モデルマウスの作製方法である。生体内(in vivo)EP法とは、遺伝子を直接筋肉や腫瘍内などの作用部位に送り込む方法であり、作用部位に低電圧の方形波パルス放電を与えることにより細胞外の目的DNAが細胞内に取り込まれる。本発明においては、TSHR遺伝子を生体内(in vivo)EP法により哺乳動物の細胞に導入する。該遺伝子を導入する細胞は筋肉細胞が望ましい。本発明の遺伝子を導入する哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等が挙げられるが、その育成上、取り扱い上の容易性、経済性、効率等からマウスが好ましく用いられる。 生体内(in vivo)EP法の具体例の一つとしては、マウスの筋肉細胞内に挿入した電極間の筋肉に遺伝子を注入し、負荷(25〜50V、好ましくは50V)、負荷時間(50〜100msec、好ましくは50msec)の条件で、パルスを4〜6回、好ましくは6回与えることにより行う。導入する遺伝子量は投与するマウスの体重に対し、25〜100μg/個体とする。また、注入する遺伝子濃度は注入する部位に対し、25〜100μg/部位、好ましくは50μg/部位の濃度で注入する。遺伝子の導入は3〜6週間、好ましくは3〜4週間おきに3〜6回、好ましくは3〜4回にわたり行うのが好ましい。 本発明のマウス細胞内に導入するTSHR遺伝子(human TSHR: NM000369)は、必要な調節配列、プロモーター、エンハンサーを備えていることが必要で、遺伝子を転写し、その結果RNAが産生されるよう、適当なベクターにクローニングされているものを指す。THSR遺伝子をクローニングするためのベクターは公知のものを広く用いることができる。好ましいベクターとしては、pC1-IRES-Vecttor(Novagen社、製造中止)、pBac-Vector(Clontech社)、等が挙げられる。TSHR遺伝子は天然に存在するものであってよく、またTSHR遺伝子に、置換、欠失、付加又は挿入等の変異を導入したものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知の手段を利用できる。好ましい変異として、TSHRの細胞外領域(N末から1〜289番目のアミノ酸)以外の部分を欠失させる変異が挙げられる。 また、TSHRの発現を確認するために、TSHR遺伝子の下流にマーカーおよび/またはタグをコードするDNAを挿入した構造を有するベクターも好ましく用いられる。マーカーおよび/またはタグとしては特に制限はないが、例えば、β-ガラクトシダーゼ(β-gal)、CD4(リンパ球マーカー)、EGFP(蛍光色素)、His(-tag)等が挙げられる。遺伝子導入部位におけるTSHR遺伝子の発現の確認は、マーカーの活性、タグに対する抗体等を用いて行う。具体的には、マーカーとしてβ-galを用いた場合、X-galを基質としてβ-galの発現を確認することができ、ONPG(o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド)を基質としてβ-gal活性を評価することができる。 本発明のさらなる一態様は、マウス血清におけるTSHRに対する刺激型抗体の活性(TSAb活性)を検出する工程をさらに含む前記バセドウ病マウス作製方法である。 前記マウスに導入されたTSHR遺伝子によりTSHRの発現が誘導されると、マウス血清中におけるTSAbの産生が上昇する。したがって、マウスの血清おける、TSAbの活性を検出することにより、バセドウ病モデルマウスを評価することができる。TSHRが刺激されるとcAMP活性が上昇する(非特許文献2および3)ことから、TSAb活性の評価はTSHR発現細胞株におけるcAMP上昇活性を指標として行う。具体的には、マウスから採取した血清によりTSHR発現細胞株を刺激した後、cAMP上昇活性の測定を行う。cAMPの上昇活性は市販のキットを用いて測定することができ、具体例としてキット「ヤマサ」(ヤマサ醤油)を用いることができる。 前記TSHR発現細胞株は抗TSHR抗体を高感度に検出することができる細胞株であることが望ましい。より詳しくは、以下の工程を含む方法により樹立されたTSHR発現細胞株であることが望ましい;1)TSHR遺伝子を担持するベクターを動物細胞に導入する工程、2)磁気細胞分離システムによりTSHR遺伝子発現細胞のクローニングを行う工程。以下、各工程について説明する。1)TSHR遺伝子を担持するベクターを動物細胞に導入する工程 工程1)はTSHR遺伝子を担持するベクターを動物細胞に導入する工程である。ここでは、工程2)において磁気細胞分離システムによりTSHR遺伝子発現細胞のクローニングを行うため、TSHR遺伝子を担持するベクターにCD4、EGFP、His(-tag)等のタグをコードするDNAを挿入しておくことが望ましい。 工程1)におけるTSHR遺伝子は、哺乳動物由来のものを用いることができるが、ヒト(human TSHR: NM000369)、ブタ(porcineTSHR:NM214297)、ウシ(bovine TSHR: NM174206)、イヌ(dog TSHR: NM001003285)由来のものが好ましく、ブタ由来のものがより好ましい。工程1)におけるTSHR遺伝子は天然に存在するものであってよく、またTSHR遺伝子に、置換、欠失、付加又は挿入等の変異を導入したものであってもよい。具体的には、TSHR全領域および細胞外領域部分(N末端から1〜289番目のアミノ酸)をコードする遺伝子が好ましい。変異を導入する手段は自体公知の手段を利用することができる。 遺伝子を導入する動物細胞は特に限定されないが、培養細胞として株化されているものが望ましく、CHO-K1細胞、COS細胞、HEK293細胞等が好適な例として挙げられる。 遺伝子を動物細胞に導入する手段は、望ましくはインテグレーションさせる方法、例えばリポソーム法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等によるのが好ましい。しかし一過性に発現させるリポソーム法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、ウイルスベクター法、アテロコラーゲン法等の方法であってもよい。用いるベクターは特に限定されず、公知のプラスミド、ファージ、コスミド、BAC、YAC、組換えウイルス、トランスポゾン等、通常の組み換え実験によって挿入DNA断片を導入することが可能な全ての組換えベクターに適用することができる。 ベクターは、当然に自体公知の組合せが好適であるプロモーター、エンハンサーと共に構築することができる。例えば、通常宿主に適したプロモーターが挿入されている市販のタンパク質発現ベクターを用いることができる。具体的には、pC1-IRES-Vector(Novagen社、一部改変)、pBac-Vector(Clontech社)等が挙げられる。2)磁気細胞分離システムによりTSHR発現細胞株のクローニングを行う工程 工程2)は工程1)においてTSHR遺伝子に付加したタグに対する抗体を用いた磁気細胞分離システムにより、THSR遺伝子発現細胞のクローニングを行う工程である。詳しくは、磁性マイクロビーズを結合させたタグに対する抗体を利用して、工程1)においてTHSR遺伝子を担持するベクターを導入した細胞を磁気標識する。その後、該細胞を磁石を設置した分離カラム内を通過させた後、分離カラムに保持される細胞を溶出することにより、TSHR非発現細胞が除去され、TSHR発現細胞が得られる。磁気細胞分離システムは市販のキットを広く用いることができ、具体例としてMACSシステム(第一化学薬品社)が挙げられる。 さらに、公知の細胞株のクローニング方法、例えば限界希釈法、pick up法等を用いて、溶出された細胞からTSHR発現細胞株をクローニングすることができる。限界希釈法とは、1細胞以下の濃度で培養容器(例えば96ウェルプレート)で増殖させる方法である。pick up法は希薄細胞由来のコロニーを円筒の筒(クローニングシリンダー)で隔離分離する方法である。 前記TSHR発現細胞株におけるTSHR遺伝子導入効率は前記タグに対する抗体、抗TSHR抗体を用いてフローサイトメーター等の公知の手段により評価することができる。また、前記TSHR発現細胞株を甲状腺刺激ホルモン(TSH)により刺激し、cAMP活性が上昇するか否かを観察することにより、該細胞株におけるTSHRの発現を確認することができる。 本発明の別の一態様は前記方法により作製されたバセドウ病モデルマウスである。本発明のバセドウ病モデルマウスはTSHRの発現効率が高いため、バセドウ病モデルマウスの病態解析、詳しくは自己抗体の産生機序の解析の他、バセドウ病治療薬のスクリーニングに用いることができる。本発明のバセドウ病モデルマウスにはその組織および/または細胞が含まれる。組織とは、バセドウ病の病態に関連した変化(TSAbの産生、組織重量の変化等)を有する組織であり、例えばマウスの臓器、器官、体液、さらにDNAやタンパク質等を意味する。例えば、臓器としては甲状腺であり、体液としては血液や尿である。また、細胞とはバセドウ病の病態に関連した変異を発現する細胞であり、例えば甲状腺細胞等である。 本発明のまた別の一態様はバセドウ病モデルマウスを用いるバセドウ病治療薬のスクリーニング方法である。具体的には、モデルマウスに候補物質を投与し、モデルマウスのバセドウ病症状(例えば、抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体の産生、甲状腺細胞内cAMPの増加、甲状腺ホルモン産生亢進、甲状腺重量の増加、甲状腺機能亢進症状の出現等)を改善する物質を選択する。候補物質としては、未知および既知の有機または無機化合物、タンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド等を含む。また、投与とは、候補物質を注射によりマウス体内に導入する方法や、食餌または飲料水に候補物質を混入させて摂取させるようにしてもよい。ポリヌクレオチドやオリゴヌクレオチド(DNA断片やRNA断片)の場合には、アデノウイルス等を利用した遺伝子治療の方法等を採用することもできる。以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。実施例1:バセドウ病モデルマウスの作製<材料と方法>1)TSHR発現ベクターの作製 TSHR発現ベクターとしてpC1-IRES-ΔCD4(図1)とpBacMam2(図2)を用いた。バセドウ病ではTSHRの第一細胞膜貫通ドメインまでの細胞外領域が初期の抗原認識、および抗TSHR抗体との結合に重要であるとされている。そのため、2種類のベクターそれぞれに全領域であるTSHR-wildtype(TSHR-WT)と細胞外領域であるTSHR-289His(N末から1〜289番目のアミノ酸)を組み込んだ発現ベクターを計4種類作製した。さらに、生体内(invivo) EP法の基礎検討を行うためにpBacMam2にLacZを組み込んだベクターを作製した。2)生体内(in vivo)EP法の基礎検討 エレクトロポレーターとしてネッパジーン社のCUY21 EDITを用い、生体内(in vivo)EP法の基礎検討を行った。ネンブタールをsalineで10倍希釈した後、50mg/kgの用量を5週齢の雌のICRマウスに腹腔内投与した。麻酔下、大腿部の皮膚を0.5cm程度切り開き、平行ニードル固定型電極を筋肉に挿入した。電極間の大腿部筋肉にpBacMam2-LacZを50μg/部位(final 0.9% NaCl)で注入した。発現ベクター注入後、50V、負荷時間50 m秒の条件で6回のパルスを与えた。この操作を左右の大腿で行い、施術後皮膚を縫合した。 DNAワクチネーションを行った群を生体内(in vivo) EP法の対照に用いた。DNAワクチネーションは、ワクチネーションを行う1週間前に10μMcardiotoxinを50 μlずつ予定した発現ベクター投与部位に注入後(cardiotoxin前処置)、リン酸緩衝生理食塩水溶解プラスミドベクターDNAを筋肉内に注射した。導入遺伝子発現の範囲を調べるために、導入3、7日後の筋肉組織を採取した。また、遺伝子発現の経時的変化を調べるために、導入1、3、5、7、10、14、21日後の筋肉組織を採取した。3)筋組織におけるβ-gal発現の確認 TSHR発現ベクター筋注部位の大腿部筋肉を摘出し、該筋肉組織におけるβ-gal発現の確認を行った。細切した筋肉組織片とクリオスタット(LEICA社、Jung Frigocutt 2800E)により10 μmに薄切した凍結切片を10% ホルマリン液で固定した後、X-galを含む基質溶液を滴下して青色の発色を観察した。4)筋組織におけるβ-gal活性の測定 TSHR発現ベクター筋注部位におけるβ-gal活性の測定を行った。発現ベクター筋注部位の大腿部筋肉を摘出し、湿重量の3倍量のバッファーA(15mMTris-HCl (pH8.0)、60 mM KCl、15 mM EDTA、500 mM DTT、0.4 mM p-ABSF)を加え、氷上でホモジナイズした。氷上で15サイクルの超音波粉砕[Duty50、Output 2]を行い、14000 rpm、4 ℃、10分間で遠心分離した上清を採取した。基質としてONPGを加え、37 ℃で3時間インキュベートして生成したo-ニトロフェノールの吸光度を415nmの波長で測定した。さらにタンパク定量を行った後、活性値(unit)/mgタンパク質に換算した。5)バセドウ病モデルマウスの作製 5週齢の雌のBALB/cマウスを用いて2と同様の操作を行った。1回目の発症実験には、pC1-IRES-ΔCD4を発現ベクターとして用いた。コントロールとしてpC1-IRES-ΔCD4、さらにTSHR-WT、TSHR-289Hisを組み込んだ3種類の発現ベクターを50μg/部位でinvivo EP法を用いて筋肉内に導入した。この操作を3週間おきに全4回行った。 また、TSAb活性を測定する為に2、3、4回目のEP後、7日目の血清をそれぞれ採取した。例数は、pC1-IRES-ΔCD4-TSHR-WT、TSHR-289Hisを各25匹、コントロール15匹、sham9匹とした。 2回目の発症実験では、発現ベクターとしてpBacMam2を用い、手技、投与スケジュール、例数などの条件は1回目の発症実験と同様とした。<結果> 図3左に示すように、pBacMam-LacZを生体内(in vivo)EP法により導入した群において、筋線維に沿ったβ-galの発現が認められた。また、図3右に示すように筋線維の横断面から観察したところ生体内(invivo)EP処置を施した一部の領域に集中してβ-galの活性が認められた。 図4に示すように、生体内(in vivo)EP処置群においてβ-galの酵素活性は7日目に最大値を示し、14日でほぼ消失した。DNAワクチネーション処置群においては、1日後に最大値を示し、3日目でコントロール群とほぼ同程度の値まで減少した。cardiotoxin前処置後にDNAワクチネーションを行った群と比較して、生体内(invivo)EP処置群において7日後で最大60倍のβ-gal活性が示された。実施例2:TSHR発現細胞株の樹立<材料と方法>1)TSHR発現ベクターの作製 TSHR発現ベクターとしてpC1-IRES-ΔCD4を使用した。このベクターにヒトTSHR全長遺伝子(human TSHR: AY429111)をEcoRIサイトで組み込み、pC1-TSHR-IRES-ΔCD4を作製した。インサートの接合部の塩基配列はDNAシークエンスにより確認した。図5に示すように、pC1-TSHR-IRES-ΔCD4を用いることにより、理論上CD4を発現する全ての細胞に、同時にTSHRを発現させることが可能である。2)細胞培養 チャイニーズハムスター卵巣細胞由来CHO-K1細胞は10% FBSを含むF-12(HAM)培地を用いて5% CO2の存在下、37℃において培養した。3)遺伝子導入法 0.3〜0.5μgのpC1-TSHR-IRES-ΔCD4を細胞数6×105個/9.6cm2ディッシュのCHO-K1細胞に、リポフェクション試薬であるFuGENE6 3μL/ウェル(Roche-Diagnostic社)を用いて導入した。4)ΔCD4発現細胞の濃縮 図6に示すように、磁気細胞分離システム(MACS)および、磁性マイクロビーズを結合させた抗CD4抗体を利用し、細胞の濃縮を行った。遺伝子導入の24時間後、このCD4に対する抗体と遺伝子導入細胞を反応させる事により、ΔCD4陽性細胞を磁気標識した。これらの細胞を磁石に設置した分離カラムを通過させた後、分離カラムに保持されたΔCD4陽性細胞を溶出した。MACS処理の間隔は1週間程度とし、その間はG418を1mg/mlの濃度で培地に加え、TSHR非発現細胞を除いた。G418とは、遺伝子工学実験における選択試薬である。アミノグリコシド系抗生物質であり、トランスポゾンTn5のneo遺伝子にコードされるアミノグリコシド3'-ホスホトランスエステラーゼにより不活性化される。一般的に、このことを利用して、neo遺伝子を用いトランスフェクションした目的の遺伝子が恒常的に発現している細胞を単離する操作で、その形質転換細胞のみを選択するために、培地中に添加して使用される。5)TSHR安定発現細胞株のクローニング 限界希釈法によってTSHR安定発現細胞株を単離した。実施例2の4で得られた細胞を0.3個/穴の濃度で96穴プレートに播き込むことによりクローニングを行った。6)TSHR遺伝子導入効率の確認 FACSキャリバー(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、TSHR導入細胞におけるTSHR遺伝子導入効率の確認を行った。TSHR導入細胞は、PE(phycoerythrin)ラベル化抗CD4抗体および、モノクローナル抗TSHR抗体(2C11)とFITC(Fluoresceinisothiocyanate)ラベル化抗マウスIgs抗体を用いて解析した。2C11はTSHRの細胞外領域である354-359番目のアミノ酸配列をエピトープとする抗体である。7)cAMPの測定 1 mM EDTA(pH8.0)、0.3% BSAを含むPBSでTSHR発現細胞を回収した後、Tyrode-Hepes buffer(14.mM NaCl、2.7mMKCl、1.8mMCaCl2、12mM NaHCO3、5.6mM D-Glucose、0.49mM MgCl2、0.37mM NaH2PO4、25mMHepes、pH7.4)に2×104個/100 μl/チューブで懸濁し、0.5 mMIBMX(isobutylmethylxanthine)存在下に各種濃度のTSHを加え37℃で30分インキュベートした。最終濃度0.1 Mの塩酸を加え、煮沸後の細胞抽出液中のcAMP量をサイクリックAMPキット「ヤマサ」(ヤマサ醤油)を使用し測定した。<結果> CHO-K1細胞にpC1-IRES-ΔCD4-TSHRベクターを遺伝子導入し、24時間後、フローサイトメーターにより遺伝子導入効率を調べたところ、6.0%であった。そこで、MACSシステムを使用し遺伝子導入細胞の濃縮を試みた。その結果、図7に示すように、MACS処理後の、ΔCD4陽性細胞の率は一回目で27.8%、二回目で30.7%、三回目で42.8%であった。そして、四回目で最終的にΔCD4陽性細胞を67.3%まで濃縮することができた。 その後、これらの細胞からクローニングを行い、最終的に34個のクローンを得た。フローサイトメーターによる解析の結果、CD4陽性の細胞は32個、陰性の細胞は2個であった。これらのクローンはΔCD4の発現パターン、すなわちフローサイトメーターのヒストグラムから6種類のグループに分類された。代表する6クローンを2C11を用いて解析した結果、TSHR陽性のクローンは2種類のみであった。この2つのクローンのうちTSHRの発現が高いクローン12を選択し、CHO-TSHR-AHK12と名付け(以下、AHK12)、cAMPの測定に用いた。 図8に示すようにAHK12におけるcAMPの産生は、TSH濃度依存的に増加し、無刺激群に対して10 mU/ml添加群では80倍以上の上昇を示した。TSHのEC50は約0.1mU/mlであった。このAHK12をG418を1 mg/ml加え、さらに2ヶ月間培養を続けた後、再びフローサイトメーターで解析したところ、図9に示すようにAHK12におけるTSHRの発現低下は認められなかった。また、AHK12をリクローニングしたクローンはすべて親株のAHK12と同様のTSHR発現パターンを示したことから、AHK12は完全に安定なTSHR発現細胞株であると考えられた。実施例3:TSHR発現細胞株を用いたバセドウ病モデルマウス血清におけるTSAbの測定<材料と方法> 実施例2で樹立したTSHR発現細胞株を用いて、実施例1で作製したバセドウ病モデルマウス血清におけるTSAbを測定した。実施例1で作製したマウスから採取した血液を12000rpm、4℃で10分間遠心分離し血清を採取した。TSAb活性は実施例2において樹立したヒトTSHR発現株CHO-K1-TSHR-AHK12を用いて評価した。5%マウス血清でCHO-K1-TSHR-AHK12を刺激した後、TSAbのcAMP上昇活性をcAMPキット「ヤマサ」を用いて実施例2の7)と同様に測定した。さらにマウスより甲状腺を摘出し、甲状腺の形態変化を観察するとともに、甲状腺組織をHE染色により観察した。<結果> cAMP上昇活性においてコントロール群の平均値+2SDの値を基準とし、これを上回った検体をTSAb陽性と判定した。その結果、pC1-IRES-ΔCD4-TSHR-WTをinvivo EP法により導入した群では2回目EP後TSAb陽性個体は0/25匹、、3回目EP後TSAb陽性個体は2/25匹、4回目EP後TSAb陽性個体は0/25匹であった。TSHR-289Hisでは、図10に示すように2回目のEP後TSAb陽性個体は10/24匹、3回目のEP後TSAb陽性は18/23匹、4回目のEP後TSAb陽性は11/23匹であった。同様に、図10に示すように、pBacMam2ベクターにおいては3回目のEP後TSHR-WTは11/25匹であり、TSHR-289Hisでは19/25匹であった。また、pBacMam2 -TSHR-289Hisの2回EP後のTSAb活性は、最大でコントロールの平均値の15倍の値を示した。さらに図11および12に示すように、TSAb陽性個体においては組織学的にも甲状腺の肥大が見られた。 TSHR-289His導入群においてTSAb陽性率が高い理由としては、TSHR-289Hisでは膜貫通領域を欠いているため細胞外に分泌され、発現部位とは異なるリンパ組織で抗原認識されると考えられること、そして細胞外領域を認識する刺激型抗体が優先的に産生されること等が考えられた。以上の結果から、本発明においてTSAb陽性であった個体では抗TSHR抗体が産生され、バセドウ病が発症したものと考えられた。 本発明により、バセドウ病の発症機構の解明や、バセドウ病の治療薬等のスクリーニングに有用であるバセドウ病モデルマウスを提供することができる。また、かかるバセドウ病モデルマウスを用いて、バセドウ病の治療薬、治療方法等を開発することができる。TSHR発現ベクターであるpC1-IRES-ΔCD4の構造を示す。(実施例1)TSHR発現ベクターであるpBacMam2の構造を示す。(実施例1)pBacMam2を生体内(in vivo)EP法により導入した群における、筋繊維に沿ったβ-galの発現(左)、および筋繊維の横断面におけるβ-galの活性(右)を示す。(実施例1)生体内(in vivo)EP処置によるβ-galの酵素活性の変化を示す。(実施例1)pC1-TSHR-IRES-ΔCD4を用いることにより、理論上CD4を発現する全ての細胞に、同時にTSHRを発現させることが可能である。(実施例2)磁気細胞分離システム(MACS)および、磁性マイクロビーズを結合させた抗CD4抗体を利用し、細胞の濃縮を行った。(実施例2)MACSによりΔCD4陽性細胞の濃縮を行った結果を示す。(実施例2)CHO-TSHR-AHK-12におけるTSHの用量反応曲線を示す。(実施例2)CHO-TSHR-AHK-12における安定的発現を示す。(実施例2)pC1ベクターおよびpBacMam2ベクターにおけるTSAbの誘導を示す。(実施例3)TSAb陽性個体の甲状腺の形態変化を示す。(実施例3)甲状腺組織像(HE染色)を示す。(実施例3)生体内(in vivo)エレクトロポレーション法により、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)遺伝子を担持するベクターを筋肉細胞内に導入する工程を含むバセドウ病モデルマウスの作製方法。TSHR遺伝子がTSHRの全領域および細胞外領域をコードする遺伝子である、請求項1に記載の方法。マウス血清におけるTSHRに対する刺激型抗体の活性(TSAb活性)をTSHR発現細胞株を用いて検出する工程を含む請求項1または2に記載の方法。TSHR発現細胞株が以下の工程を含む方法により作製されたTSHR発現細胞株である請求項3に記載の方法;1)TSHR遺伝子を担持するベクターを動物細胞に導入する工程、2)磁気細胞分離システムによりTSHR発現細胞株のクローニングを行う工程。請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により作製されるバセドウ病モデルマウス。請求項5に記載のバセドウ病モデルマウスを用いるバセドウ病治療薬のスクリーニング方法。 【課題】本発明は、新規のバセドウ病モデルマウスと、該モデルマウスの作製方法、該モデルマウスの評価方法を提供することを課題としている。また、本発明は、該モデルマウスを用いるバセドウ病治療薬のスクリーニング方法を提供することを課題としている。【解決手段】、本発明は、生体内(in vivo)EP法により筋肉細胞に甲状腺刺激ホルモン受容体遺伝子を担持するベクターを導入する方法を用いて、新規のバセドウ病モデルマウスの作製を達成し、本発明を完成した。