生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_医薬候補物質のスクリーニング方法
出願番号:2005021393
年次:2008
IPC分類:G01N 33/50,G01N 33/15,C12Q 1/00


特許情報キャッシュ

向谷 知世 吉里 勝利 西倉 康史 掘江 透 中澤 宏 金丸 博 上田 千晶 日根 智恵美 JP WO2006054755 20060526 JP2005021393 20051116 医薬候補物質のスクリーニング方法 財団法人 ひろしま産業振興機構 596063056 株式会社バイオインテグレンス 503190578 株式会社フェニックスバイオ 503449018 株式会社住化分析センター 390000686 西澤 利夫 100093230 向谷 知世 吉里 勝利 西倉 康史 掘江 透 中澤 宏 金丸 博 上田 千晶 日根 智恵美 JP 2004332376 20041116 G01N 33/50 20060101AFI20080509BHJP G01N 33/15 20060101ALI20080509BHJP C12Q 1/00 20060101ALI20080509BHJP JPG01N33/50 ZG01N33/15 ZC12Q1/00 C AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20080605 2006545199 18 2G045 4B063 2G045AA40 2G045BB10 2G045BB31 2G045BB50 2G045BB51 2G045CA26 2G045DA20 2G045FA40 2G045FB01 2G045GC30 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ02 4B063QQ03 4B063QQ08 4B063QR01 4B063QS17 4B063QX01 この出願の発明は、薬物代謝酵素CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19によって主として代謝される医薬候補物質をスクリーニングする方法に関するものである。また、医薬候補物質がCYP群薬物代謝酵素のいずれに対してその活性を誘導または阻害するかを判定する方法に関するものである。 医薬品開発において医薬候補物質を選択する段階は製薬会社においてもっとも関心が高い。医薬品開発については300億円以上の膨大な研究開発費と10年以上の歳月を要することは衆知の事実である。それゆえ、医薬候補物質が研究開発の途中で開発を中止するようなことが生じることは避けなければならない。また、最近、国内製薬企業は日米欧同時開発を進めており、有効性に人種差、民族差などが生じることは同時開発の妨げとなり、企業は人種差のでる医薬候補物質の開発を避けているのが現状である。一般に、薬物動態に人種差が生じる要因として、薬物代謝酵素の人種差が考えられており、特に薬物代謝酵素Cytochrome P450(CYP)2D6、CYP2C9、またはCYP2C19の遺伝多型が、これらの酵素で主として代謝される医薬候補物質の薬物動態に人種差を生じるものと考えられている。たとえば、CYP2D6は欧米人で約10%の欠損患者(PM:Poor Metabolizer)がおり、CYP2D6で主として代謝される化合物等は、医薬候補物質としては選択されないのが現状である。 また、医薬品の薬物相互作用に関しては、薬の組み合わせによっては重篤な症状を引き起こすなど、医療現場において重要な問題となっている。薬物相互作用の問題が生じた場合、製薬企業は市場から医薬品を回収する事態に発展することもある。したがって、薬物代謝酵素の誘導、阻害に基づく薬物相互作用は、医薬品の研究開発上の重要な意思決定要因となっているため、ヒトにおける薬物相互作用の予測は研究開発の重要な関心事になっている。 なお、この出願の発明者らは、ヒトの薬物代謝に係わるヒト肝細胞が、マウス肝臓内でマウス肝細胞を高い割合で置換したキメラマウスを作出することに成功し、特許出願している(特許文献1、2)。日本特許公開2002−45087号公報国際特許公開WO2003/080821号パンフレット しかしながら、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19で主として代謝される医薬候補物質かどうかの判定を放射性同位元素によるラベル化合物がない段階で判定するのは困難である。医薬候補物質のラベル化合物を用いてADME試験を実施すると、全体の代謝経路が判明しCYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19が関与する代謝過程がその医薬候補物質の代謝のどのくらいを占めているかがわかる。従って、探索段階においてラベル化合物がない状況では、医薬候補物質に対するCYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19代謝の関与を的確に見積もることはできない。 この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、医薬候補物質がCYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19によって主として代謝される物質であった場合、その薬物動態に遺伝多型が生じるか否かを判定するスクリーニング方法を提供することを課題としている。 また、これまで、ヒトの薬物相互作用を検出するin vivoの系は存在しなかった。In vitroの系では、細胞に対する薬物暴露濃度が常に高い状態にあるため、ヒトの体の中での薬物相互作用を予測することが困難であった。したがって、この出願の発明は、in vivoにおけるヒトの薬物相互作用を検出するスクリーニング方法を提供することを課題としている。 この出願は、前記の課題を解決するための第1の発明として、薬物代謝酵素CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19で主として代謝される医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者で代謝されるか否かを判定する方法であって、 (1) 移植されたヒト肝細胞がマウス肝臓の70%以上を占めている高置換キメラマウスと、ヒト肝細胞がほとんど生着していない低置換キメラマウスのそれぞれに医薬候補物質を投与する工程; (2) 高置換キメラマウスと低置換キメラマウスのそれぞれから採取した血清中の医薬候補物質の濃度を経時的に測定する工程;を含み、低置換キメラマウスに比較して高置換キメラマウスで有意に早く代謝される医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者では代謝されない物質であると判定することを特徴とする方法を提供する。 またこの出願は、第2の発明として、医薬候補物質が、薬物代謝酵素の活性を促進または阻害するか否かを判定する方法であって、 (1) 高置換キメラマウスに医薬候補物質を投与する工程; (2) 高置換キメラマウスに、複数の薬物代謝酵素のそれぞれによって代謝される複数の指標化合物を投与する工程; (3) 高置換キメラマウスから採取した血清中の指標化合物の濃度を経時的に測定する工程; を含み、医薬候補物質を投与していない時の血清中の指標化合物の濃度と比較することにより、医薬候補物質がいずれの薬物代謝酵素に対してその活性を誘導または阻害するかを判定することを特徴とする方法を提供する。 図1は、5化合物を同時に投与したマウス血清サンプルをLC−MS/MSで解析し、検出されたピークの1例を示す図である。 図2は、カフェインをマウスに投与した時のマウス血清中に検出されたカフェイン濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(IVT079)を移植したキメラマウスを用いた。 図3は、トルブタミドをマウスに投与した時のマウス血清中に検出されたトルブタミド濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(IVT079)を移植したキメラマウスを用いた。 図4は、オメプラゾールをマウスに投与した時のマウス血清中に検出されたオメプラゾール濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(IVT079)を移植したキメラマウスを用いた。 図5は、デキストロメトルファンをマウスに投与した時のマウス血漿中に検出されたデキストロメトルファン濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(IVT079)を移植したキメラマウスを用いた。 図6は、エリスロマイシンをマウスに投与した時のマウス血漿中に検出されたエリスロマイシン濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(IVT079)を移植したキメラマウスを用いた。 図7は、カフェインまたはトルブタミドをマウスに投与した時のマウス血漿中に検出されたカフェインまたはトルブタミド濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(BD51)を移植したキメラマウスを用いた。 図8は、オメプラゾールまたはデキストロメトルファンをマウスに投与した時のマウス血漿中に検出されたオメプラゾールまたはデキストロメトルファン濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(BD51)を移植したキメラマウスを用いた。 図9は、エリスロマイシンをマウスに投与した時のマウス血漿中に検出されたエリスロマイシン濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(BD51)を移植したキメラマウスを用いた。 図10は、パロキセチン非投与または投与後にカフェイン、トルブタミド、オメプラゾール、デキストロメトルファン、エリスロマイシンをマウスに投与した時の高置換キメラマウス血漿中に検出されたそれぞれの投与物質の濃度の経時的変化を示す図である。ドナー細胞(BD51)を移植したキメラマウスを用いた。 第1発明の方法は、(1):高置換キメラマウスと、低置換キメラマウスのそれぞれに医薬候補物質を投与する工程;(2):高置換キメラマウスと低置換キメラマウスのそれぞれから採取した血清中の医薬候補物質の濃度を経時的に測定する工程;を含む。そして、低置換キメラマウスに比較して高置換キメラマウスで有意に早く代謝される医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者では代謝されない物質であると判定することを特徴とする方法である。 高置換キメラマウスは移植されたヒト肝細胞がマウス肝臓の70%以上を占めているマウスであり、特許文献1または2に記載された方法によって得ることができる。特に、特許文献2の方法(移植したヒト肝細胞の産生するヒト補体の攻撃から防御させた状態でマウスを飼育する方法)は、70%以上のヒト肝細胞置換率を達成する方法として好ましい。また、低置換キメラマウスは、ヒト肝細胞がほとんど定着していない(具体的には、ヒト肝細胞の置換率が1%未満)マウスである。 これらのキメラマウスは、例えば、ヒト肝細胞の移植から60日程度後に医薬候補物質の投与に使用する。また、キメラマウスのヒト肝細胞置換率は、マウス血中のヒトアルブミン濃度の測定等の方法により事前に確認することができる。さらに、試験後のキメラマウスの肝臓を特許文献2等に記載された方法で解剖検査することによって、より正確な置換率を確認することができる。 医薬候補物質は、医薬品開発の過程にある物質であり、ヒトにおける薬物相互作用の予測を必要とする物質である。このような物質は、医薬品の薬効に対する主成分物質であってもよく、あるいは主成分物質を含む組成物であってもよい。医薬候補物質の投与量は、その物質が対象とする疾患の種類や物質組成の種類、あるいは投与経路等によって異なるが、0.1mg/kg体重から2000mg/kg体重程度とすることができる。また投与経路は、医薬候補物質の種類やその適した剤型等に応じて、経口、皮下、静脈内または腹腔内投与等とすることができる。 キメラマウスの肝臓内における医薬候補物質の代謝の程度は、マウス血清における医薬候補物質の濃度を、当該技術分野における定法(例えば、実施例に記載したクロマトグラフ法など)によって行うことができる。また、測定は、候補物質の投与から30分から24時間程度まで、経時的(15分〜24時間間隔程度)で行うことができる。 そして、この血清中の医薬候補物質の濃度(肝臓において薬物代謝酵素によって代謝された物質の濃度)によって、医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者で代謝されやすい物質か代謝されにくい物質かを判定する。具体的には、低置換キメラマウスに比較して高置換キメラマウスで血清中の医薬候補物質が有意に早く代謝される場合、その医薬候補物質はCYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19で代謝されると考えられる。そのため、この医薬候補物質がCYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者では代謝されない物質であると判定する。 なお、「有意に早く代謝される」とは、マウス血中の医薬候補品の濃度より算出したAUC(Area under the curve:濃度曲線下面積)が2/3程度を示した場合であり、好ましくは低置換マウスに比較して1/2から1/3程度の平均AUC値を示すことを意味する。 第2発明の方法は、(1):高置換キメラマウスに医薬候補物質を投与する工程;(2):高置換キメラマウスに、複数の薬物代謝酵素のそれぞれによって代謝される複数の指標化合物を投与する工程;および(3):高置換キメラマウスから採取した血清中の指標化合物の濃度を経時的に測定する工程;を含む。そして、医薬候補物質を投与していない時の血清中の指標化合物の濃度と比較することにより、医薬候補物質がいずれの薬物代謝酵素に対してその活性を誘導または阻害するかを判定する方法である。 ヒトの薬物代謝酵素は、CYP群酵素に属するCYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C10、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A3、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP4F1、CYP4A2、CYP4A3等であり、それぞれの指標化合物は、例えば、CYP1A2で代謝される指標化合物はカフェイン、CYP2C9はトルブタミド、CYP2D6はデキストロメトルファン、CYP2C19はオメプラゾール、CYP3A4はエリスロマイシン等である。高置換キメラマウスに医薬候補物質を投与した後、これらの指標化合物の混合物を投与し、経時的に各化合物の血清中濃度を測定することによって、医薬候補物質が各酵素の活性を促進する物質か、あるいは阻害する物質であるかを判定することができる。例えば、指標化合物の混合物のうち、カフェインの代謝が促進して血清中濃度が減少していれば、その医薬候補物質はCYP1A2の活性を特異的に促進する物質であると判定することができる。 以下、実施例を示してこの発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明は以下の例によって限定されるものではない。 キメラマウスを用いた薬物動態試験1 材料と方法1−1 被験物質 指標薬物を用いてヒト肝細胞キメラマウスにおける薬物動態を評価するために、cytochrome P450(CYP)の標準薬物であるカフェイン(CYP1A2)、トルブタミド(CYP2C9)、オメプラゾール(CYP2C19)、デキストロメトルファン(CYP2D6)、エリスロマイシン(CYP3A4)の5化合物を用いた。1−2 使用動物 キメラマウスは広島県産業科学技術研究所または(株)フェニックスバイオにおいて作製したものを用いた。すなわち、肝障害と免疫不全の性質を有するマウスであるuPA(+/+)/SCIDマウスの脾臓にヒト肝細胞(IVT079,In Vitro Tcchnology社より購入、またはBD51,BD Gentest社より購入)を移植し、ヒト肝細胞がマウス肝臓に生着し増殖したマウスを作製した。マウス肝臓がヒト肝細胞で70%以上置換されたマウス(高置換キメラマウス)及びヒト肝細胞を移植したが置換率がほぼ0%の低置換キメラマウス、または非移植マウス(ゼロ置換マウス)を各3匹ずつ用いた。また、コントロールとして、uPA(−/−)/SCIDマウスを3匹用いた。 各マウスは水(0.012%次亜塩素酸含有)及びビタミンC含有滅菌固形飼料(CRF−1、オリエンタル酵母)を自由に摂取させ、室温24±2℃条件下で飼育した。なお、高置換キメラマウスには、1日2回メシル酸ナファモスタット注射液(0.3mg/0.2ml/body)を腹腔内に投与した。1−3 投与薬物の調製 それぞれの薬物を投与濃度の5倍で調製し、投与直前に5化合物を混合して最終濃度がそれぞれの投与濃度となるようにした。CYP1A2の標準薬物であるカフェインの投与濃度は25mg/kg b.w.であり、12.5mg秤量しメノウ乳鉢中でCMC液1mlに懸濁させ投与濃度の5倍の12.5mg/ml懸濁液を調製した。CYP2C9の標準薬物であるトルブタミドの投与濃度は8.35mg/kg b.w.であり、4.175mgを秤量しメノウ乳鉢中でCMC液1mlに懸濁させ投与濃度の5倍の4.175mg/ml懸濁液を調製した。CYP2D6の標準薬物であるデキストロメトルファンの投与濃度は2.5mg/kg b.w.でありデキストロメトルファンハイドロマイドモノハイドレイト20mgを秤量しメノウ乳鉢中でCMC液16mlに懸濁させ投与濃度の5倍の1.25mg/ml懸濁液を調製した。CYP2C19の標準薬物であるオメプラゾールの投与濃度は8.35mg/kg b.w.であり、1バイアル20mgをミリQ水4.76mlに溶かし投与濃度5倍の4.2mg/mlの水溶液を調製した。CYP3A4の標準薬物であるエリスロマイシンの投与濃度は125mg/kg b.w.であり、エリスロマイシンラクトバイオネイト1バイアル500mgをミリQ水8mlに溶かし投与濃度の5倍の62.5mg/mlの水溶液を調製した。調製した各薬物1mlずつを混合し5mlにし、懸濁液を10μl/g b.wマウスに投与した。1−4 投与方法及び血清採取方法 高置換キメラマウス、低置換キメラマウス(またはゼロ置換マウス)、uPA(−/−)/SCIDマウス各3匹ずつに、5化合物同時に強制経口投与、または静脈投与を行った。採血は投与後0.25(静脈投与のみ)、0.5、1、2、4(経口投与のみ)、8時間後にマウス尾静脈からそれぞれ15μlずつ採血し、さらに3,500rpm、5分間遠心分離後に血清(上清)を採取し、−30℃の冷凍庫に保存した。1−5 血清中薬物の定量及び分析 血漿サンプルはドライアイス中にて(株)住化分析センターに輸送し、以下の方法でLC−MS/MSにより測定した。1−5−1 測定対象物質標準溶液およびI.S.標準溶液の調製 カフェイン、トルブタミド、オメプラゾール、デキストロメトルファンハイドロブロマイドモノハイドレイト、エリスロマイシンラクトバイオネイトをメタノールで希釈し、2000,1000,500,100,50,10,5,1,0.5,0.1ng/mlの標準溶液を調製した。フェニトインをメタノールに溶解し、10,1mg/mlの標準溶液を調製し、I.S.標準溶液とした。1−5−2 測定装置および測定条件(LC−MS/MS) 液体クロマトグラフは、SIL−HTCおよびLC−10Aシリーズ(島津製作所)を用い、カラムはSynergi 4μ Polar−RP 80A,150mm L.x 2.00mmI.D.,4μm(Phenomenex社)を、30℃で用いた。移動相としてメタノール/10mmol/l酢酸アンモニウム溶液/酢酸(700:300:2,v/v/v)を用い、流速0.2ml/minとした。注入量は2μl、測定時間10minでオートサンプラーの設定温度は4℃とした。質量分析計は、Tandem Mass Spectrometer API4000(Applied Biosystems/MDS SCIEX社)を用いた。API interface はTurbo V(ESIプローブ)とし、Ionization modeはPositive ion detection modeを用いた。Detection MRMのprecursor product ionは、カフェイン:m/z195.1→m/z138.2(170msec/l scan)、トルブタミド:m/z271.1→m/z74.3(170msec/l scan)、オメプラゾール:m/z346.1→m/z198.2(150msec/l scan)、デキストロメトルファン:m/z272.2→m/z215.3(150msec/l scan)、エリスロマイシン:m/z734.4→m/z158.4(150msec/l scan)、フェニトイン:m/z253.1→m/z182.3(150msec/l scan)とした。1−5−3 添加検量線試料の調製 エッペンドルフチューブに、コントロールマウス血清を5μlずつ計り取り、測定対象物質標準溶液(5化合物混合)100μlを添加し、最終濃度0.1,0.5,1,5,10,50,100,500,1000ng/mlを調製した。次に1μg/mlのI.S.標準溶液を10μl添加し、超音波処理およびボルテックスミキサーにより十分混和した。これを遠心分離(15,000rpm,5min,室温)した後、上清をろ過フィルターにて遠心濾過(10,000rpm,2min,室温)して、LC−MS/MS注入試料とした。1−5−4 測定試料の調製 測定試料(血漿)5μlの入ったエッペンドルフチューブにメタノールを100μl添加し、1μg/mlのI.S.標準溶液を10μl添加した後、超音波処理およびボルテックスミキサーにより十分混和した。これを遠心分離(15,000rpm,5min,室温)した後、上清をろ過フィルターにて遠心濾過(10,000rpm,2min,室温)して、LC−MS/MS注入試料とした。2 試験結果 血漿中薬物濃度の定量値は添加検量線試料のLS−MS/MS測定で得られたピーク面積比より求めた。図1にLS−MS/MS測定により得られたピークの例を示す。定量値から採血時間と血中の投与薬物の濃度の関係をグラフにした(図2−9)。グラフより最高血漿中濃度(Cmax)、半減期(t1/2)、血中濃度曲線下面積(Area under the curve:AUC)、生体利用率及び、クリアランスの解析を行い、ヒトの薬物動態の予測を行った。結果は表1、2、および3に示した。 ほとんどすべてのCYPが関与するAUCは、高置換キメラマウスの方が低置換キメラマウスに比べて低かった。ドナー肝細胞にIVT079を用いたキメラマウスでは、トルブタミド(CYP2C9)、およびデキストロメトルファン(CYP2D6)を投与した時のAUCが、低置換率キメラマウスよりも高置換率キメラマウスの方が著しく低かった。また、生体利用率においても同様の結果が得られた。ドナー肝細胞にBD51を用いたキメラマウスでは、カフェイン(CYP1A2)およびトルブタミド(CYP2C9)を投与した時のAUCが、低置換率キメラマウスよりも高置換率キメラマウスの方が著しく低かった。 以上の結果から、高置換キメラマウスと低置換キメラマウスにおける各種指標薬物のファーマコキネティクスを比較すると、2C19と3A4の指標薬物を投与した場合には顕著な差は認められなかったが、移植に用いたドナー肝細胞によっては、CYP1A2,CYP2C9,およびCYP2D6の指標薬物を投与した場合、高置換キメラマウスに比べて、低置換キメラマウスで代謝速度が遅いことが判明した。すなわち、CYP1A2,CYP2C9,またはCYP2D6に関して、低置換キメラマウスはヒトでのPM(Poor Metabolizer)、高置換キメラマウスは代謝速度が速いEM(Extensive Metabolizer)に相当することが明らかになった。これにより、医薬品開発において、CYP2C9、またはCYP2D6で主として代謝される医薬候補物質の遺伝多型における薬物動態の違いを判定できる。また、移植に用いるドナー肝細胞を選択することにより、CYP2C19で主として代謝される医薬候補物質の遺伝多型における薬物動態の違いも判定できると考えられた。 CYP2C9、CYP2C19、またはCYP2D6で主として代謝される医薬候補物質の高置換および低置換キメラマウスにおけるファーマコキネティックスを調べることにより、医薬候補物質の開発継続かあるいは中止かの意思決定をすることが可能となる。 キメラマウスを用いたCYP2D6阻害における薬物動態試験1 材料と方法1−1 被験物質 (CYP2D6酵素阻害剤)によりCYP2D6酵素を阻害した状態で、指標薬物を用いてヒト肝細胞キメラマウスにおける薬物動態を評価するために、cytochrome P450(CYP)の指標薬物であるカフェイン(CYP1A2)、トルブタミド(CYP2C9)、オメプラゾール(CYP2C19)、デキストロメトルファン(CYP2D6)、エリスロマイシン(CYP3A4)の5化合物を用いた。1−2 使用動物 キメラマウスは(株)フェニックスバイオにおいて作製したものを用いた。すなわち、肝障害と免疫不全の性質を有するマウスであるuPA(+/+)/SCIDマウスの脾臓にヒト肝細胞(BD51,BD Gentist社より購入)を移植し、ヒト肝細胞がマウス肝臓に生着し増殖したマウスを3匹作製した。各マウスは実施例1と同様に水及び飼料を摂取および飼育した。なお、高置換キメラマウスには、実施例1と同様に1日2回メシル酸ナファモスタット注射液(0.3mg/0.2ml/body)を腹腔内に投与した。1−3 阻害薬物の調製 パロキセチンをミリQ水に溶解(バス型超音波を使用)し、6mg/mlとなるように調製した。調製した薬物は5μl/g b.w.(30mg/kg b.w./day)でマウス腹腔内に投与した。1−4 指標薬物の調製 実施例1と同様に行った。1−5 投与方法及び血漿採取方法 高置換キメラマウスに、パロキセチンを3日間腹腔内投与した。その後実施例1と同様に5化合物同時に強制経口投与し、経時的に採血後、血漿を保存した。1−6 血漿中薬物の定量及び分析 実施例1と同様に行った。1−6−1 測定対象物質標準溶液およびI.S.標準溶液の調整 実施例1と同様に行った。1−6−2 測定装置および測定条件(LC−MS/MS) 実施例1と同様に行った。1−6−3 添加検量線試料の調整 実施例1と同様に行った。1−6−4 測定試料の調整 実施例1と同様に行った。2 試験結果 血漿中薬物濃度の定量値は添加検量線試料のLS−MS/MS測定で得られたピーク面積比より求めた。定量値から採血時間と血中の投与薬物の濃度の関係をグラフにした(図10)。グラフよりCmax、t1/2、AUCの解析を行った。 結果は表4に示した。パロキセチン投与により、CYP1A2,2C19,2D6,3A4の代謝活性の阻害が認められた。パロキセチンが特異的に阻害すると言われているCYP2D6の代謝活性は特に阻害された。 以上の結果から、高置換キメラマウスに被検物質を投与し各指標物質のAUCの変化を調べることにより、被検物質の誘導または阻害活性を調べることが可能である。したがって、キメラマウスを用いることにより、ヒトにおける薬物相互作用を予測することが可能である。 薬物代謝酵素CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19で主として代謝される医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者で代謝されるか否かを判定する方法であって、 (1) 移植されたヒト肝細胞がマウス肝臓の70%以上を占めている高置換キメラマウスと、ヒト肝細胞がほとんど生着していない低置換キメラマウスのそれぞれに医薬候補物質を投与する工程; (2) 高置換キメラマウスと低置換キメラマウスのそれぞれから採取した血清中の医薬候補物質の濃度を経時的に測定する工程;を含み、低置換キメラマウスに比較して高置換キメラマウスで有意に早く代謝される医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者では代謝されない物質であると判定することを特徴とする方法。 医薬候補物質が、薬物代謝酵素の活性を促進または阻害するか否かを判定する方法であって、 (1) 高置換キメラマウスに医薬候補物質を投与する工程; (2) 高置換キメラマウスに、複数の薬物代謝酵素のそれぞれによって代謝される複数の指標化合物を投与する工程; (3) 高置換キメラマウスから採取した血清中の指標化合物の濃度を経時的に測定する工程;を含み、医薬候補物質を投与していない時の血清中の指標化合物の濃度と比較することにより、医薬候補物質がいずれの薬物代謝酵素に対してその活性を誘導または阻害するかを判定することを特徴とする方法。 ヒト肝細胞を移植したキメラマウスを用いて、薬物代謝酵素CYP2D6,CYP2C9,CYP2C19によって主として代謝される医薬候補品をスクリーニングする方法であって、医薬候補物質が、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2C19欠損者で代謝されるか否かを判定する方法を提供する。また、ヒト肝臓移植キメラマウスを用いて、医薬候補物質が薬物代謝酵素CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6またはCYP3A4のいずれか対してその活性を誘導または阻害するかを判定する方法を提供する。


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